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CP 対称性の破れ

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CP 対称性の破れ
平成28年8月2日
T2K 実験 国際 共同 研 究 グル ープ
高エネルギー加速器研究機構
東京大学宇宙線研究所
J-PARC セ ン タ ー
T2K 実験、ニ ュー トリノの 「 CP 対称性 の破れ」 の解明 に第 一歩を踏 み出 す
本 研 究 成 果のポ イン ト
○ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ頻度では起き
な い 可 能 性 が 高 く 、 CP 対 称 性 の 破 れ が あ る こ と を 示 唆 す る 結 果 を 得 た 。
○ 今 後 デ ー タ 量 を 増 や し て の 検 証 を 要 す る が 、ニ ュ ー ト リ ノ と 反 ニ ュ ー ト リ ノ が 違
う性質を持つ可能性を示唆する興味深い結果である。
【概 要】
T2K 実 験 ※ 1( 東 海 -神 岡 間 長 基 線 ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 実 験 、図 1)国 際 共 同 研 究 グ ル ー プ( 以
下 、 T2K コ ラ ボ レ ー シ ョ ン ) は 、 反 ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ か ら 反 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ へ の
ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 に つ い て 、2014 年 の 実 験 開 始 か ら 取 得 し た 観 測 実 験 デ ー タ を ま と め 、同
研 究 グ ル ー プ が 2010 年 か ら 2013 年 ま で の 実 験 で 明 ら か に し た ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ か ら
電子型ニュートリノへのニュートリノ振動の結果と比較し、ニュートリノと反ニュートリ
ノ で 、 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ へ の 出 現 が 同 じ 頻 度 で は 起 き な い 、 す な わ ち 、「 CP 対 称 性 の 破
れ※2」があることを示唆する結果を得ました。
「ニュートリノと反ニュートリノのニュートリノ振動の確率が違う」ということが事実
で あ れ ば 、万 物 を 構 成 す る 素 粒 子 の 仲 間 で あ る ク ォ ー ク で は 破 れ て い る「 CP 対 称 性 」が ニ
ュートリノでも破れていることを意味するともに「
、宇宙の始まりであるビッグバンで物質
と反物質が同数生成されたのに、現在の宇宙には反物質はほとんど存在していない」とい
う宇宙の根源的な謎を解明するうえで大きなヒントとなります。
当 初 目 標 の 約 20%の デ ー タ 量 を 取 得 し た 今 回 の T2K 実 験 の 結 果 は 、
「ニュートリノと反ニ
ュ ー ト リ ノ の 違 い 」 が あ り 得 る こ と を 90% の 確 率 で 示 す も の で す 。 T2K コ ラ ボ レ ー シ ョ ン
は今後、ニュートリノビームを作る陽子ビームの強度をさらに大きくし、目標のデータ量
を 当 初 目 標 の 2.5 倍 ( 現 在 の 約 13 倍 ) に 引 き 上 げ る こ と で 、 ニ ュ ー ト リ ノ に お け る 「 CP
対 称 性 の 破 れ 」 を 3σ ( =有 意 水 準 99.7% )の 信 頼 度 で 検 証 す る こ と を 目 指 し ま す 。
【背
景】
宇宙の始まりであるビッグバンでは物質と反物質が同じ数だけ生成されたはずである
と考えられています。物質と反物質が合わさると消滅してしまうのに、現在の宇宙には反
物質はほとんど存在せず、自然界にはほぼ物質だけが存在している」というパラドックス
は、自然界の成り立ちを知る上で未解明の大きな謎の一つです。素粒子物理学では、その
理由は物質と反物質になんらかの性質の違いがあるためと考えられており、その性質の違
い は「 CP 対 称 性 の 破 れ 」と よ ば れ 、ど の 素 粒 子 が 宇 宙 の 成 り 立 ち に か か わ る「 CP 対 称 性 の
破れ」を持っているのかを解明するのが、最重要な研究課題のひとつとなっています。物
質 を 構 成 す る 素 粒 子 12 種 類 の う ち「 ク ォ ー ク 」と い う 素 粒 子 に つ い て は 、
「 CP 対 称 性 の 破
れ」が見つかっており、そのメカニズムは小林誠・益川敏英両博士によって理論的に解明
さ れ 、そ の 正 し さ が 日 本 に お け る 高 エ ネ ル ギ ー 加 速 器 研 究 機 構( KEK)で の Belle 実 験 と 米
国 で の BaBar 実 験 に よ り 証 明 さ れ ま し た 。 た だ 、「 ク ォ ー ク で の CP 対 称 性 の 破 れ 」 だ け で
は現在の宇宙の成り立ちを説明するのは難しいとされています。
一 方 、残 り の 6 種 類 の 素 粒 子 で あ る「 レ プ ト ン ※ 3 」 に つ い て は 、「 CP 対 称 性 の 破 れ 」が
あ る か ど う か は 未 解 明 で 、そ の う ち の 3 種 類 の 素 粒 子 の ニ ュ ー ト リ ノ に つ い て は「 CP 対 称
性の破れ」が存在する可能性が指摘されています。そのため、日本における大強度陽子加
速 器 施 設 J-PARC と 東 京 大 学 宇 宙 線 研 究 所 の ス ー パ ー カ ミ オ カ ン デ 検 出 器 に よ る T2K 実 験 と
米 国 の 国 立 フ ェ ル ミ 加 速 器 研 究 所 で の NOvA 実 験 で 、加 速 器 で 作 り 出 し た ニ ュ ー ト リ ノ を 用
いてニュートリノ振動を詳細に調べる実験が進行中です。
ニュートリノは、電荷をもたない中性の非常に軽い素粒子で、他の素粒子との反応の仕
方 の 違 い か ら 、電 子 型 、ミ ュ ー 型 、タ ウ 型 と い う 3 種 類 が 存 在 す る こ と が わ か っ て い ま す 。
ニュートリノは、
「 ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 」と い う 現 象 を お こ し て 、長 距 離 を 飛 行 す る 間 に 別 の
種 類 の ニ ュ ー ト リ ノ に 変 化 す る こ と が 明 ら か に な っ て い ま す 。 T2K コ ラ ボ レ ー シ ョ ン は 、
2013 年 ま で に 、J-PARC を 用 い て 、陽 子 ビ ー ム か ら 大 量 に ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ を 生 成 し( 図
2)、295km 離 れ た ス ー パ ー カ ミ オ カ ン デ 検 出 器( 図 3)で 観 測 す る 方 法 に よ っ て 、ミ ュ ー 型
ニ ュ ー ト リ ノ が 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ に 変 化 す る ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 (電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ 出
現 ※ 4 )を 世 界 で 初 め て 直 接 検 出 す る こ と に 成 功 し ま し た ( 図 4)。
3 世 代 の ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 を 説 明 す る 標 準 的 な 理 論 に よ る と 、 ニ ュ ー ト リ ノ の 「 CP 対 称
性の破れ」があるとすれば、この電子型ニュートリノ出現にもその効果が現れると考えら
れ て い ま す 。具 体 的 に は 、ニ ュ ー ト リ ノ と 、そ の 反 物 質 で あ る 反 ニ ュ ー ト リ ノ で は 、
「電子
型 ニ ュ ー ト リ ノ 出 現 が 起 き る 確 率 」 に 違 い が 出 る と 考 え ら れ ま す 。 T2K 実 験 は 、 ミ ュ ー 型
ニュートリノを生成して電子型ニュートリノへの変化を測定するだけではなく、反ミュー
型ニュートリノを生成して反電子型ニュートリノへの変化を測定することもできます(図
5)。 こ の 理 論 に よ る と 、 も し ニ ュ ー ト リ ノ の 「 CP 対 称 性 の 破 れ 」 が 存 在 し な け れ ば 、 T2K
実 験 で の「 ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ が 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ に 変 化 す る 確 率 」と 、
「反ミュー型
ニ ュ ー ト リ ノ が 反 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ に 変 化 す る 確 率 」 は 同 じ に な り ま す が 、 も し 、「 CP
対称性の破れ」が存在すれば両者に差が生じます。
ま た 、「 CP 対 称 性 の 破 れ 」 が な い 場 合 に そ れ ぞ れ の 変 化 が 起 き る 確 率 は 、 中 国 、 韓 国 、
フランスで行われている原子炉から発生するニュートリノを観測する実験の結果からも予
想 す る こ と が で き ま す が 、「 CP 対 称 性 の 破 れ 」 が あ る 場 合 に T2K 実 験 で 観 測 さ れ る 実 測 値
は 、 そ れ と は 違 う 値 に な る と 予 想 さ れ ま す ( 図 6)。
T2K実 験 で は 、 2014年 よ り 反 ニ ュ ー ト リ ノ を 生 成 す る 実 験 を 開 始 し 、 2016年 5月 ま で に 、
ニュートリノデータとほぼ同量の反ニュートリノデータを得ることができ、これまでの全
デ ー タ の 解 析 の 最 新 結 果 を 、 8月 7日 ( 日 本 時 間 ) に 米 国 シ カ ゴ で 開 催 さ れ る 高 エ ネ ル ギ ー
物 理 学 に 関 す る 国 際 会 議 ( ICHEP) に て 公 表 す る に 至 り ま し た 。
【研 究 内 容と成 果 】
ま ず 、 T2K 実 験 が 2010 年 か ら 2016 年 5 月 ま で の ニ ュ ー ト リ ノ ビ ー ム を 生 成 し た 期 間 の
デ ー タ か ら 、「 CP 対 称 性 の 破 れ が な い 」 と 仮 定 し た 場 合 の 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ の 予 想 出 現
回 数 を 求 め た と こ ろ 、約 24 個 と 推 定 さ れ ま し た 。そ れ に 対 し て 、ス ー パ ー カ ミ オ カ ン デ 検
出 器 で 実 際 に 観 測 さ れ た 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ は 32 個 と 、予 測 値 と 異 な っ て い ま し た( 図 7)。
ま た 、 T2K 実 験 が 2014 年 か ら 2016 年 5 月 ま で の 反 ニ ュ ー ト リ ノ ビ ー ム を 生 成 し た 期 間
に 、「 CP 対 称 性 の 破 れ が な い 」 と 仮 定 し た 場 合 の 反 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ の 予 想 出 現 数 は 、
約 7 個でした。それに対して、スーパーカミオカンデ検出器での実際の観測では、4 個の
反 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ し か 観 測 さ れ ま せ ん で し た ( 図 7、 8)。
これらの観測数と予想値の違いに加えて、ニュートリノ振動を起こさなかったミュー型
ニ ュ ー ト リ ノ・反 ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ の 観 測 数 や 、観 測 さ れ た そ れ ぞ れ の ニ ュ ー ト リ ノ・
反ニュートリノのもつエネルギーなどの測定値も考慮し、総合的な解析を行いました。ま
た 、 原 子 炉 ニ ュ ー ト リ ノ 実 験 の 結 果 も 用 い て 推 定 し た 「 CP対 称 性 の 破 れ が な い 」 と 仮 定 し
た 場 合 の 予 想 と 比 較 し 、 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ 出 現 現 象 に 現 れ た 「 CP対 称 性 の 破 れ 」 の 大 き
さ を 測 定 し ま し た 。そ の 結 果 、
「ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現
が 同 じ 頻 度 で 起 き る 」と い う 仮 説 は 90% の 確 率 で 棄 却 さ れ ま し た 。す な わ ち 、
「ニュートリ
ノ と 反 ニ ュ ー ト リ ノ で 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ 出 現 が 同 じ 頻 度 で は 起 き な い 可 能 性 が 高 く 、 CP
対 称 性 の 破 れ が あ る 」 と い う こ と が 示 唆 さ れ ま し た ( 図 9)。
【今 後 の 期待と 展望 】
た だ し 、 90% と い う 信 頼 度 は 、 実 験 の 最 終 結 果 と し て 結 論 づ け る に は 統 計 的 に 十 分 な 有
意水準とは言えません。今後データ量を増やしての検証を要しますが、ニュートリノと反
ニュートリノが違う性質を持つ可能性を示唆する興味深い結果です。
現 時 点 で の デ ー タ 収 集 量 は 、 T2Kコ ラ ボ レ ー シ ョ ン の 当 初 の 実 験 提 案 の 約 2割 に 到 達 し た
所 で す 。今 後 、J- PARCの 加 速 器 や ニ ュ ー ト リ ノ ビ ー ム ラ イ ン の 性 能 向 上 に よ る ニ ュ ー ト リ
ノ ビ ー ム の 強 度 増 強 を は か り 、 よ り 高 い 有 意 水 準 で の 「 CP対 称 性 の 破 れ 」 の 検 証 を 行 な う
予 定 で す 。ま た 、T2Kコ ラ ボ レ ー シ ョ ン は 、J-PARCの さ ら な る 性 能 向 上 の 可 能 性 を 考 慮 し て
当 初 の 実 験 提 案 の 2.5倍 の デ ー タ( こ れ ま で 取 得 し た デ ー タ の 約 13倍 )を 収 集 し 、さ ら に デ
ー タ 解 析 の 改 良 を す る こ と で 、 ニ ュ ー ト リ ノ に お け る 「 CP対 称 性 の 破 れ 」 を 3σ ( =有 意 水
準 99.7% ) の 信 頼 度 で 検 証 す る こ と を 目 指 し て い ま す 。 さ ら に 、 米 国 NOvA実 験 と の 相 互 検
証も可能であり、今後、数年程度のタイムスケールでニュートリノ振動の新たな知見が得
られると期待できます。
図 1 : T2K 実 験 の 概 要
図 2: J-PARC ニ ュ ー ト リ ノ 実 験 施 設
J-PARC メ イ ン リ ン グ か ら キ ッ カ ー と よ ば れ る 電 磁 石 に よ り 加 速 器 の 内 向 き に 蹴 り だ し
た陽子を一次ビームラインで岐阜県神岡のスーパーカミオカンデ検出器の方向に向ける。
陽子は①チタン合金容器に格納されたグラファイト標的に衝突して多数のパイ中間子を生
成する。パイ中間子を電磁ホーンという特殊な電磁石によって前方に収束させ、②ディケ
イ ボ リ ュ ー ム と 呼 ば れ る 長 さ 100m の ト ン ネ ル に 入 射 し 、ミ ュ ー 型 ニ ュ ー ト リ ノ と ミ ュ ー 粒
子の対に崩壊させる。ニュートリノビームは③前置検出器を用いて測定されており、スー
パーカミオカンデの測定結果と比較すると、ニュートリノが飛行中に別の種類に変わるニ
ュ ー ト リ ノ 振 動 の 研 究 が 可 能 と な る 。 電 磁 ホ ー ン の 極 性 (電 流 を 流 す 向 き )を 切 り 替 え る こ
と で 、 正 の 電 荷 を も っ た パ イ 中 間 子 ( π +) と 負 の 電 荷 を も っ た パ イ 中 間 子 ( π −) を 選 択
できる。正の電荷のパイ中間子を収束するとミュー型ニュートリノを主成分とするニュー
トリノビームが生成され、逆に負の電荷のパイ中間子を収束すると反ミュー型ニュートリ
ノを主成分とする反ニュートリノビームが生成される。
図 3: ス ー パ ー カ ミ オ カ ン デ 検 出 器
岐 阜 県 飛 騨 市 の 神 岡 鉱 山 跡 の 地 下 1,000m に 建 設 さ れ た 、 東 京 大 学 宇 宙 線 研 究 所 神 岡 宇
宙 素 粒 子 研 究 施 設 の 検 出 器 で 、 T2K 実 験 に 加 え て 、 宇 宙 か ら 到 来 す る ニ ュ ー ト リ ノ の 観 測
や、陽子が崩壊する現象を探索する実験を行っている。5 万トンの超純水で満たした水槽
( 直 径 39.3m 高 さ 41.4m )の 内 壁 に 、微 弱 な チ ェ レ ン コ フ 光 を 捉 え る 光 検 出 器 で あ る 光 電
子 増 倍 管 約 11,000 本 が 並 べ ら れ て い る 。
図 4 : 2013 年 に T2K 実 験 が 直 接 検 出 し た ミ ュ ー 型 か ら 電 子 型 へ の ニ ュ ー ト リ ノ 振 動
「電子型ニュートリノ出現」の模式図
図 5 : ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 、 反 ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 の 両 方 を 測 定 で き る T2K 実 験
図 6 : T2K 実 験 で 予 想 さ れ る 「 CP 対 称 性 の 破 れ の 効 果 」
図 7 : T2K 実 験 で の 観 測 数 と 予 想 値 の 比 較
図 8: ス ー パ ー カ ミ オ カ ン デ で 検 出 し た
J-PARC か ら の 反 ニ ュ ー ト リ ノ ビ ー ム に 由 来 す る 反 電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ 反 応 の 事 象
図 9: T2K 実 験 か ら 評 価 し た CP 対 称 性 の 破 れ の 大 き さ
横軸は、
「 CP 対 称 性 の 破 れ 」の 大 き さ の 指 標 と な る 位 相 (角 度 )δ CP を 表 す 。角 度 δ CP が 0°
ま た は 180°は 、「 CP 対 称 性 の 破 れ が な い 」 場 合 に 相 当 し 、 そ れ 以 外 の 場 合 は 「 CP 対 称 性
の 破 れ が あ る 」 場 合 に 相 当 し 、 90°ま た は -90°に 近 い ほ ど CP 対 称 性 の 破 れ が 大 き い こ と
を示す。
実 線 が 解 析 に よ っ て 得 ら れ た 結 果 で 、「 CP 対 称 性 の 破 れ 」 を 表 す 位 相 の そ れ ぞ れ の 値 に
対 し て 、 T2K 実 験 の 観 測 デ ー タ と の 整 合 性 を 示 す 対 数 尤 度 ( ゆ う ど )( -2lnL) で あ る 。 対
数 尤 度 ( -2lnL) は 大 き い ほ ど 、 そ の 「 CP 対 称 性 の 破 れ 」 の 位 相 の 値 と 実 験 デ ー タ が 合 致
しないことを表す。
「 CP 対 称 性 の 破 れ 」の 位 相 の 値 は 、対 応 す る 対 数 尤 度( -2lnL)が 点 線
で 表 さ れ て い る 有 意 水 準 90% に 対 応 す る 値 を 上 回 る と 、観 測 デ ー タ は 90% の 確 率 で 棄 却 さ
れる。
T2K 実 験 の 解 析 結 果 は 、
「 CP 対 称 性 の 破 れ 」を 表 す 位 相 の -180°〜 -179°( 図 中 ① の 部 分 )
お よ び -22°~180°の 領 域( 図 中 ② の 部 分 )を 有 意 水 準( 確 率 90%)で 棄 却 し て い る 。と く
に 、「 CP 対 称 性 が 破 れ 」 が な い 点 (0°,180°)も こ の 領 域 に 含 ま れ る 。 つ ま り 、 T2K 実 験 は
「 CP 対 称 性 の 破 れ が な い 」 こ と を 有 意 水 準 ( 確 率 90%) で 棄 却 し 、「 CP 対 称 性 の 破 れ が あ
る」可能性を示唆している。
【本件の担当研究者】
京都大学大学院理学研究科 教授
T2K実 験 国 際 共 同 研 究 グ ル ー プ 代 表
中家 剛
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所副所長
J-PARCセ ン タ ー 素 粒 子 原 子 核 デ ィ ビ ジ ョ ン 長
小林 隆
【お問い合せ先】
高エネルギー加速器研究機構
広報室長 岡田 小枝子
Tel: 029-879-6046
Fax: 029-879-6049
E-mail: [email protected]
東京大学宇宙線研究所
広報室 福田 大展
Tel: 04-7136-5148
E-mail: [email protected]
J-PARCセ ン タ ー
広報セクション
Tel: 029-284-4578
E-mail: [email protected]
【用 語 解 説】
※1
T2K 実 験
高 エ ネ ル ギ ー 加 速 器 研 究 機 構( KEK)と 日 本 原 子 力 研 究 開 発 機 構 が 共 同 で 運 営 す る 大 強 度
陽 子 加 速 器 施 設 J-PARC で 作 り 出 し た ニ ュ ー ト リ ノ ビ ー ム を 、295km 離 れ た 岐 阜 県 飛 騨 市 神
岡町にある東京大学宇宙線研究所のニュートリノ検出器「スーパーカミオカンデ」で検出
す る 、 長 基 線 ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 実 験 。 J-PARC が あ る 茨 城 県 東 海 村 と 神 岡 町 ( Tokai to
Kamioka) の 頭 文 字 を 取 っ て 「 T2K 実 験 」 と 名 付 け ら れ た 。 T2K 実 験 は ニ ュ ー ト リ ノ の 研 究
に お い て 世 界 を リ ー ド す る 感 度 を も ち 、ア メ リ カ・イ ギ リ ス・イ タ リ ア・カ ナ ダ・ス イ ス ・
ス ペ イ ン ・ ド イ ツ ・ 日 本 ・ フ ラ ン ス ・ ポ ー ラ ン ド ・ ロ シ ア の 11 ヶ 国 、 61 の 研 究 機 関 か ら
約 500 人 の 研 究 者 が 参 加 す る 国 際 共 同 実 験 と な っ て い る 。日 本 か ら は 大 阪 市 立 大 学・岡 山
大学・京都大学・高エネルギー加速器研究機構・神戸大学・首都大学東京・東京大学・東
京 大 学 宇 宙 線 研 究 所・東 京 大 学 カ ブ リ 数 物 連 携 宇 宙 研 究 機 構( Kavli IPMU)・宮 城 教 育 大 学
の 総 勢 102 名 の 研 究 者 と 学 生 が 実 験 の 中 心 メ ン バ ー と し て 参 加 し て い る 。
※2
CP 対 称 性 の 破 れ
物質と反物質の間で素粒子反応の性質が異なること。宇宙が反物質ではなく物質で構成
さ れ る( 物 質 優 勢 宇 宙 )た め の 必 要 条 件 の 一 つ で あ り 、レ プ ト ン の CP 対 称 性 の 破 れ は 非 常
に重要な鍵を握っている可能性がある。
※3
レプトン
電子や電子の仲間の粒子と、対応する中性のニュートリノからなる一群の粒子の名
称。クォ ーク と 同じ よ うに 6種 類 あり 、e(電子)-ν e (電 子型 ニ ュー トリ ノ)・μ(ミ ュ
ー粒 子)-ν μ (ミュ ー 型ニ ュー ト リノ)・τ(タウ 粒子)-ν τ (タ ウ 型ニ ュー ト リノ)と呼 ば
れる 。クォ ー クの u(アッ プ)-d(ダ ウ ン)・c(チ ャー ム)-s(スト レン ジ)・t(トッ プ)b (ボ ト ム )に そ れ ぞ れ 1 対 1 に 対 応 し て い る と み ら れ て い る が 、 ク ォ ー ク と レ プ ト ン
の間に何故このような対称性が存在するのかよく分かっていない。クォークの場合と
同様 に、 レ プト ン にも 反粒 子が 存 在し 、 特に 電子 の反 粒 子を 陽 電子 とい う。
※4
電子型ニュートリノ出現現象
ニュートリノの世代間に質量差があると、飛行中に世代が相互に移りかわって観測され
る と い う ニ ュ ー ト リ ノ 振 動 現 象 が 、牧・中 川・坂 田 ら に よ っ て 1962 年 に 予 言 さ れ た 。ニ ュ
ートリノには電子型・ミュー型・タウ型の 3 世代があるので、それぞれの世代間で起こる
3 つのパターンの振動現象が起こりうる。ミュー型から電子型へと変化したところをとら
え る 出 現 現 象 を 検 出 で き れ ば 、T2K 実 験 開 始 時 点 に は 未 発 見 で あ っ た 第 1~ 3 世 代 間 の 振 動
の確率が得られるため、その発見や頻度の測定に向けた研究が世界中で進められてきた。
電 子 型 ニ ュ ー ト リ ノ 出 現 現 象 は 振 動 の 前 後 で ニ ュ ー ト リ ノ の 世 代 が 同 定 さ れ る の で 、CP 対
称性の破れにも感度がある。
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