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木酢液および木タールの製品開発

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木酢液および木タールの製品開発
木酢液および木タールの製品開発
斎藤 直人
キーワード:木酢液 , 木タール , 除草剤 , 抗菌剤 , 土壌被覆材
林産試験場では木材繊維を300℃程度で熱処理するこ
とにより,疎水性を持つ高性能の油吸着材が得られる
ことを見出しました。現在,この技術を使った木質系
油吸着材の生産を北海道森林組合連合会が行っていま
す。
木質系油吸着材の製造コスト削減に向けては,炭化
に伴って副生する熱分解液の有効利用も併せて図る必
要があります。ここでは,木タールの土壌被覆材とし
ての実用化試験を行うとともに,木酢液の除草効果,抗
菌効果を調べました。
土壌被覆材としての利用
土壌被覆材とは,雑草の防除,地温の安定,病害虫
発生の抑制などを目的として植物の周辺に敷設する資
材のことです。現在使用されている土壌被覆材には,ワ
ラ,刈草,落葉,木粉,チップなどがありますが,雨
水などにより流失しやすく,耐久性に乏しいものです。
土壌被覆材は風や水などにより容易に飛散しないこと,
緑化事業では美観を損ねないことが重要です。さらに,
河川や植物に対する影響が少ないこと,急速にもろく
なったり,窒素飢餓を起こさないことが求められます。
熱分解液は,木酢液と木タールに分けられます。木
酢液には酢酸を始めとする有機酸が含まれ,果樹や樹
木などに対する雑草防除,成長活性効果が知られてい
ます。一方,木タールにはクレゾールやグアイアコー
ルなどの芳香族炭化水素が含まれ,防腐効果,粘結効
果を持つことが知られています。ここでは,油吸着材
水の量を等量から5倍量に変化させたところ,木ター
の製造により副生した熱分解液とトドマツチップとを
ルの量は大きな差はありませんでした。この際,60℃
混合した土壌被覆材を試作するとともに,その実用化
以上の温水で分別すると,木タールの粘度が低下する
試験を行いました(写真1,2)。
ので,効率的に分離されることが認められました。
【木タールの分離】
美観的には暗褐色に着色することが,植物や土壌と
かくはん
熱分解液に水を加えて撹拌し,放置して水不溶性物
のコントラストから望まれます。
木タールは褐色で,こ
質(木タール)を沈降させました。熱分解液に加える
の配合比が多いほど暗褐色と映ります。
したがって,水
−4−
不溶性物質とチップの配合比は重量比10:1∼10:20で
混合することが適当と思われました。なお,木タール
の配合量を低下させると,粘結性に低下が見られまし
た。
【土壌被覆材の調製】
土壌被覆材の製造フローを示します。
チップ (105℃・10 分間保温)
↓ ← 木タール(水洗3回)
混 合 温 水(70℃以上)
↓ 難燃剤
放置・乾燥
↓
土壌被覆材
混合では,温水の温度を 70℃以上にしないと均一な
かくはん
撹拌が難しく,チップもあらかじめ加熱保温が望まれ
ました。混合撹拌機による撹拌は2,3分程度の短時
間で良好でした。
【土壌被覆材の敷設】
敷設の際には,下地材の敷設,整地などが必要でし
た(写真3,4)。対象植物の成育は非常に順調で,木
タールに含まれる木酢液の成長活性効果が認められま
した。なお,花や株に直接土壌被覆材を載せると,対
象植物の成長に影響が見られました。
敷設面積が大きい場合,木タール臭が強く,特に民
家などが隣接する場合は,十分に散水しないと臭気が
問題となる可能性が示唆されました。なお,木タール
の混合比を低下させると,臭気は改善されるものの,製
木酢液,木タールの用途拡大の一環として,植物病
品として色むらが起こり,また軽いために飛散する結
原菌に対する抗菌剤としての可能性について検討しま
果となりました。
した。すなわち,芝生の病原菌に対する成長抑制効果
美観的にはやはり暗褐色が良好でした。そのために
を調べました。なお,このような用途では,散布など
は,木タールの配合比を高めた方が好ましいと思われ
の作業性が重視され,例えば粘性の高いものは散布方
ました。これにより,粘結性が良くなるものの,前述
法が限定されることから,
その実用性が低くなります。
の臭気問題が認められました。
そこで,高粘度の熱分解液および木タールは除外し,低
その他,長期の敷設により,土壌被覆材の退色が見
粘度の熱分解液と,その単蒸留木酢液を用いて,成長
られました。さらに,雑草の侵入も見られ,敷設の際
抑制効果を調べました。さらに,熱分解液は分画操作
の根の除去,施行後の手入れ,敷設量(10cm 程度以上)
を行い,各画分の芝生病原菌に対する抑制効果を検討
が重要と思われました。
しました。
以上のような課題が見られたものの,チップなど植
【実験方法】
物繊維材料と木タールとを混合することで,暗褐色で
熱分解液および木酢液における植物病原菌に対する
適度な粘結性を持つ土壌被覆材が得られ,良好な性能
抗菌剤としての基礎的性能を評価するため,3種の芝
を持つことが明らかとなりました。
生の病原菌に対する成長抑制効果を調べました。評価
方法としては,ペーパーディスク法および培地希釈法
木酢液,木タールの抗菌剤としての利用
を用いました。
−5−
【結果と考察】
【実験方法】
ペーパーディスク法による試験結果から,熱分解液
林産試験場内の暴露試験地において,平成 11年7月
および木酢液は供試菌の菌糸に対する接触抵抗性が低
7日に散布し,以降7月8日,7月 22 日,8月 22 日に
く,成長抑制効果も低いものと思われました。
各区画内(1.8 ×1m= 1.8 m 2)の雑草の種類,本数
一方,培地希釈法の結果から,熱分解液および木酢
を調べました。散布液は,熱分解液に等量の水を加え
液を高濃度で使用した場合,菌糸の成長を完全に阻止
て分別した木酢液の上澄み,2倍希釈と,さらに5倍
することが分かりました。また,希釈して用いた場合,
希釈を調製し,濃度による影響,散布量 (1m 2 あたり
成長を完全に阻止することはできないものの,いくら
0.4および1l)による影響を求めました。すなわち,5
かの成長抑制効果を示すことが明らかとなりました。
区画(無散布の対照区,2倍・0.4l,2倍・1 l,5倍・
熱分解液を酸性成分,フェノール性成分,中性成分
0.4l,5倍・1 l)で散布後の雑草の成育状況を調べま
に分画し,培地希釈法による成長抑制試験を行いまし
した。なお,散布回数は1回のみとして,所定量を霧
た。フェノール性成分および酸性成分は,培地に対す
吹きで散布しました。
る濃度が0.1%以上のとき菌糸の成長を完全に阻止しま
【結果と考察】
したが,中性成分は,フェノール性成分と比較すると,
木酢液は枯草効果が強く,翌日には一部に枯葉が見
その成長抑制効果が低いものでした。すなわち,熱分
られました。15日後には2倍希釈の2倍・0.4l,2倍・
解液の植物病原菌に対する成長抑制効果は,主に酸性
1 l,および5倍・1 l で枯葉が認められました。散布
成分およびフェノール性成分によるものと思われます。
量が十分あれば木酢液の濃度が薄くとも枯草効果は発
まんえん
以上の結果から,熱分解液は植物病原菌の蔓延を防
揮され,木酢液の固形分量で約 15 g / m 2,散布水量は
止する用途として,その成長抑制作用を持つことが明
1 l/ m 2 以上が必要と思われました。
らかでした。すなわち,木質系油吸着材の製造過程で
除草剤として使用する場合は,散布時期,雨や気温
得られた熱分解液および木酢液は,作業性の良好な環
などの影響も考慮する必要があります。今回は夏期の
境に優しい抗菌剤と成りうることが示唆されました。
実験でした。一般的に春期の雑草防除は,夏期の処理
よりも雑草枯死に時間がかかります。しかし,極めて
木酢液の除草効果
瞬時に効果が発現される木酢液では,低温期の冬生雑
近年の農業における労働力不足と新規農薬の開発に
草の防除にも効果が期待されます。
伴って,除草剤を利用した清耕栽培が広がっています。
一方,散布後も枯殺されずに残ったものは,むしろ
除草剤による防草を効率的に行うためには,発生する
その成育を助長する結果が見られました。
1か月後は,
雑草の特徴を把握するとともに,使用する除草剤の特
5倍希釈の区画で雑草の再生が起こり,再生した植物
性を知ることが不可欠です。除草剤は土壌処理型と茎
の葉つやが逆に活性化されました。
葉処理型に大別されますが,農作物に対する安全性の
以上,木酢液による除草効果は速効性があるものの,
面から,茎葉処理型除草剤が多く使用されています。
持続性,残効性は期待できませんでした。また,除草
ここでは,防草効果に着目し,木酢液の除草剤とし
剤の効果は,処理時期,天候および雑草の草種によっ
ての適用性について検討しました。
て大きく異なります。そのため,さらに木酢液による
防草方法の整理が不可欠と思われます。
(林産試験場 成分利用科)
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