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3.適応と進化

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3.適応と進化
3.適応と進化 (「ケイン生物学」第 19 22 章,「生態学入門」第 2・3・7 章など)
【1】2つの進化理論:総合説と中立説
・総合説:突然変異と自然選択を柱とした進化論.遺伝変異(遺伝する個体間の変異)は
突然変異によって生じ,その変異によって繁殖力や生存率に差異があれば,適応進化は
自立的に進むとする考え.突然変異と自然選択だけでなく,小集団に作用する遺伝的浮
動・個体群間の移住による遺伝的流動・減数分裂における分裂比の歪みなど多くの理論
を取り込んでいるので 総合説という名称がある.
・中立説:1968 年に木村資生によって提唱された進化理論.突然変異と遺伝的浮動,安定
化選択に基づく.分子レベルでの遺伝子の進化は,自然淘汰によって引き起こされるだ
けでなく,生物の生存にとって有利でも不利でもない中立的な突然変異が偶然に集団中
に広まり固定化することによっても起きるとする.分子時計は中立説を根拠とするもの
で,種分化の起きた時期の判定や系統関係などの解析に用いられる.
・ 生物進化の 2 つのカテゴリー(形態進化と分子進化)のうち,中立説は分子進化を対象
としている.分子進化は中立だが,形態には淘汰が働くという一見矛盾した問題(形態
進化と分子進化の相互作用)については,未解決な部分が多い.
・分子時計:生物間の分子的な違いを比較し,進化過程で分岐した年代を推定する手法.
例えば,ヘモグロビンのα鎖におけるアミノ酸配列の違いは,ヒトとゴリラでは 1 個だ
が,ヒトとイヌでは 24 個である.分子進化の速度一定性(アミノ酸置換数が時間に比例)
によれば,イヌとの分岐年代はゴリラよりも 24 倍古いと推定される.
・ さまざまな機能のタンパク質でその遺伝子の塩基置換速度を比べると,機能的に重要な
ものほど塩基置換速度は遅い.例えば,目の水晶体をつくっているクリスタリンという
タンパク質は,視覚に頼っている動物では保存性が高いアミノ酸配列となっているが,
洞穴性で視覚を失った動物では多数のアミノ酸置換が生じている.このように機能を持
たない(中立的な)突然変異は,淘汰されることなく集団中に保存される.
【2】大進化と小進化
・ 自然選択は,次の 3 つの条件さえあれば,必ず生じ,自立的に進む.
1) ある形質において,個体間に変異がある.
2) その変異が原因となって,繁殖や生存に個体差が生じる.
3) その変異が遺伝する.
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・ 種分化以上の大きな時間スケールで生じる進化を大進化,種分化に至る前の小さな時間
スケールで生じる集団中の遺伝子構成の変化を小進化という.小進化は,突然変異によ
る遺伝子そのものの変化だけでなく,遺伝子頻度の変化も含んだものである.
・ 小進化は比較的短時間で起きる.オオシモフリエダシャクの工業暗化は,イギリスの工
業化に伴い,工業の盛んな都市部で暗色型の頻度が増加した現象であるが,1840 年代ま
ではほぼ全個体が明色型であったものが,1940 年代には暗色型は 96%まで増加した.た
だし,最近は大気浄化に関する法律の施行により,再び明色型が増加しているという(リ
バプール近郊では 1995 年には暗色型が 20%未満に減少).なお,暗色遺伝子(C)は明
色遺伝子(c)に対し,優性であることが明らかになっている.
・ 頻度依存選択:集団における遺伝子型の頻度に応じて,選択の強さや方向が変わる自然
選択を頻度依存選択という(それぞれの遺伝子型の頻度によって適応度が変化する).多
数派が有利な場合を正の頻度依存選択といい,逆を負の頻度依存選択という.
・ 正の頻度依存選択としては,カタツムリの左右巻型が知られる.例えば,セトウチマイ
マイでは大部分が右巻きのため,左巻きの個体が突然変異で生じても子孫を残せない.
これは,交尾器が首の横にあるため,同じ型同士でないと交尾がうまくできないためで
ある.
・ 負の頻度依存選択としては,タンガニーカ湖のカワスズメ科の鱗食魚が有名である.こ
の鱗食魚の口は遺伝的に右向きか左向きかに決まっており,右向きの鱗食魚は相手の左
から,左向きの鱗食魚は相手の右から襲って鱗をはがす.襲われる側はより多く襲われ
る側に注意を集中するので,頻度の高い方が襲撃に失敗しやすくなり,適応度が低下す
る.
・ 適応度 fitness:簡単な定義としては,「ある個体が生涯で生んだ子の数」であるが,子
孫が繁栄するには子の生存や繁殖も重要であるので,
「より多くの子孫を残すことのでき
る性質」と表現することもできる.
・ その他の小進化の例:
ガラパゴスフィンチのくちばしは,降水量の多かった 1983 年の後(1984-85 年)細くな
った.これは例年の乾燥した気候だと,乾期には堅いハマビシの種子しか残っていず,こ
れを食べることのできる太いくちばしをもった大型の個体のみが生き残ったが,1984-85
年は乾期でもクロトンなどの柔らかい種子が豊富であったため,くちばしが細く,より小
形のフィンチがより選択されたためである(大型のフィンチは余分に種子を食べなければ
いけないので不利であった).これは,1977 年の干ばつでは柔らかい種子が激減し,フィ
ンチのくちばしは太くなった現象(ケイン生物学 p.292 参照)と好対照である(詳細はジ
ョナサン・ワイナー著「フィンチの嘴」(ハヤカワ文庫)を参照のこと).
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【3】共進化と軍拡競争
・ 共進化:異なる生物が相互に関係し合って,ともに進化する現象.虫媒花の花の構造と
受粉昆虫の口器の形態の共進化が有名だが,捕食者̶被食者,寄生者−宿主,共生関係な
ど,共進化は地球上に普遍的に見られる現象である.ちなみに,細胞内共生(ミトコン
ドリア・葉緑体)は,共進化の究極の姿であるといえる.
・ 軍拡競争:それぞれの生物が互いに対抗戦略を進化させ続けること.例えば,病原菌や
ウイルスに感染すれば,その宿主である動物は,病気にならないような性質を進化させ,
逆に病原菌やウイルスは,宿主の防衛戦略に対抗して,新たな感染性質を進化させる.
抗生物質が効かない細菌が出現するように,医学によって細菌やウイルスの感染や増殖
を防ぐ手段が開発されても,すぐそれに対抗できる新たな病原体が進化する.これは,
共進化における軍拡競争である.
・ イチジクとイチジクコバチ:宿主の植物とそれに共生する昆虫には,明瞭な共進化が見
られる場合が多い.イチジクコバチの雌は他の花嚢から花粉をつけて飛来し,花嚢のす
きまから内部に進入して花粉をつけると同時に,卵を産み付ける.孵化した幼虫は,受
粉後の熟した胚珠を餌として成長し,花嚢内で交尾する.その後,雌が再び別の花嚢を
訪問して産卵する.雌は,自分が羽化したイチジクと同じ種類のイチジクの花嚢に入ら
ないと受粉が成立せず,子孫を残すことができないので,イチジクとイチジクコバチに
は,明確な 1:1 の共生関係(相利共生)が生じており,両者の種分化は並行して起きる
必要がある.そのため,両者の系統樹には強い一致が見られる.このように,利用し利
用される関係の中で憧憬の系統樹になるように系統分岐が進むことを,共進化による系
統樹マッチングという.
参考となるHP
・ イヌビワとイヌビワコバチ
http://www.geocities.jp/sakky_jp/inubiwa/inubiwa2.html
・生物のサバイバル戦略 − 共進化
http://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000108_all.html
・はじめての進化論(河田雅圭)
http://meme.biology.tohoku.ac.jp/INTROEVOL/Page16.html
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