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健康リテラシー評価尺度構成のための予備的検討
日心第70回大会(2006) 健康リテラシー評価尺度構成のための予備的検討 宮本友弘・小浜明(非会員) (びわこ成蹊スポーツ大学スポーツ学部) Key words: 健康リテラシー 評価尺度 探索的因子分析 目 的 健康リテラシー(health literacy)とは、近年、学校健康教 育の中で強調される概念で、WHO(世界保健機関)は「健康 を保持増進するように、情報を得て、理解し、利用するため の個人の動機づけと能力を決定する認知的・社会的スキル」 と定義している。 しかしながら、健康リテラシーの下位概念や具体的な内容 についてはさまざまな考え方があり、測定・評価のための尺 度は確立されていない。これまで日本では、渡邉(2000)が、 健康リテラシーの評価尺度の開発を試みているが、質問項目 の内容妥当性、因子的妥当性に問題を残した。 そこで、宮本他(2005)は、項目開発のための基礎資料と して、保健体育科教員 60 名、養護教諭 29 名から健康リテラ シーに関する自由記述を収集した。その後、健康リテラシー を教育目標に掲げる米国カリフォルニア州のガイドライン “Health Framework for California Public Schools” (2003)(以下、 Health Framework )を参考にそれらを分類・整理した。Health Framework では、健康リテラシーの下位領域として「生涯に わたる自分の健康に対して、責任をもつ」 、「他者の健康を尊 重し、他者へのヘルスプロモーションを実践する」 、「発育発 達の過程を理解する」 、「健康に関連した情報、製品、サービ スを適切に利用する」の 4 つを設定している。 本研究では、項目開発のさらなる指針を得るために、渡邉 (2000)及び宮本他(2005)の結果から、健康リテラシーの評 価項目を暫定的に作成し、質問紙調査を通して、因子構造を 探索する。 方 法 調査対象者 大学生 370 名(男性 247 名、女性 123 名) 、平 均年齢 19.0 歳。 材料 渡邉(2000)及び宮本他(2005)を参考に、30 項目 からなる質問紙を作成した。評定は「1.まったくあてはまら ない」から「6.非常にあてはまる」の 6 段階とした。 手続き 調査は計 2 コマの授業時間中に、質問紙を配布し、 集団で実施した。回答は対象者ペースで行われた。 結 果 分布に偏りが見られた 2 項目を除外し、 残りの 28 項目につ いて、 主因子法を用いて探索的因子分析を行った。 因子数は、 スクリープロットにより 3 因子と判断した。プロマックス回 転後の因子パターンを TABLE 1 に示す。因子間相関は、因子 Ⅰと因子Ⅱで.612、因子Ⅰと因子Ⅲで.582、因子Ⅱと因子Ⅲ で.533 であった。 負荷量.35 以上の項目から各因子を解釈してみると、 因子Ⅰ は、さまざまな健康情報を調べたり、確認したりする行動を 多く含んでおり、 「健康情報の探究」 と解釈できる。 因子Ⅱは、 他者や社会全体の健康に関わる内容を含み、 「他者の健康の尊 重」と解釈できる。因子Ⅲは、自己の健康保持のために知識 や技能を実践的に活用する内容で「自己の健康保持の実践」 と解釈できる。 以上の 3 因子と Health Framework との関係をみると、因子 Ⅰは「発育発達の過程を理解する」、 「健康に関連した情報、 製品、サービスを適切に利用する」 、因子Ⅱは「他者の健康を 尊重し、他者へのヘルスプロモーションを実践する」 、因子Ⅲ は「生涯にわたる自分の健康に対して、責任をもつ」を示唆 するような内容となっている。 考 察 以上、仮説的段階であるが、今後の項目開発を進めるにあ たっての一つの目安が得られた。しかし、各因子ともに、知 識や技能などの認知的な側面と態度や傾向性などの情意的な 側面が混在している。 今後は、両者の区分をどのように考え、 項目を開発するかが課題である。 また、今回のように健康リテラシーを包括的に捉えるだけ でなく、特定の健康問題や特定の認知的・社会的スキル(例 えば批判的思考など)に焦点を当て、アプローチすることも 検討すべきであろう。 引用文献 宮本友弘・糸岡夕里・小浜明 2005 児童生徒のための健康 リテラシー評価尺度開発の試み(1)-項目開発のための予 備的検討- 第 52 回日本学校保健学会講演集,242-243. 渡邉正樹 2000 大学生のヘルス・リテラシーの評価 日本 健康心理学会第 13 回大会発表論文集,188-189. TABLE 1 因子パターン 項目 日頃から自分の健康状態を知るための情報を積極的に集めている 健康に関連した授業で得た知識についてさらに深く調べるように している 食品を購入するときは、成分表示をみてどのような成分が入って いるかを調べるようにしている テレビや雑誌の健康情報をうのみにせず、後から本などで確認す るようにしている 手に入れた健康に関する情報が古くなっていないかどうか注意し ている 保健室等の掲示物で興味があれば自分で調べる 将来の自分の健康について考えながら生活している 自分の体や病気、怪我に関する疑問があれば、本などで調べるよ うにしている 友人の体や心の不調を噂で聞いたときは、それがどのくらい根拠 があるのかを確認している 健康とは何かについて考えるようにしている 家族や友人が怪我や病気のときは、それについて調べるようにし ている 健康的な環境を作るための社会的活動に参加したいと思っている 自分の健康を考えた食事メニューをつくることができる 性についてテレビや雑誌にふりまわされず、正しい情報を選択す ることができる 他の人の健康のために、援助したり協力することができる 身近な人の健康状態を把握するようにしている 薬を服用するときは、成分や効果、副作用を調べるようにしてい る 他の人の怪我や病気の状態を、自分の知識や経験だけで判断しな いようにしている タバコ、酒、薬物乱用の害を正しく説明することができる 環境が、住民の健康へどのように影響するかを説明することがで きる テレビの健康番組をみて、安易にマネしないようにしている 心と体が相互に影響する例を挙げることができる 怪我や病気の症状に応じて、適切な医療機関を利用することがで きる 怪我をしたとき、自分で応急手当ができる 自分の生活リズムをよくしようと心がけている 自分の健康状態を他人に明確に伝えることができる 自分の体に不調を感じた時、生活習慣を振り返り、原因を分析す ることができる サプリメントなどの健康食品を正しく利用することできる Ⅰ .72 .71 Ⅱ -.13 .00 Ⅲ .11 .05 .70 -.12 -.02 .69 .12 -.15 .65 .12 -.14 .58 .52 .50 .14 -.05 .06 -.04 .21 .20 .43 .19 -.11 .42 .39 -.10 .21 .35 .08 .33 .29 -.17 .14 .08 .64 .06 .24 .14 -.04 .40 .21 .50 .46 .42 .15 -.17 -.10 .09 .39 -.04 -.01 .28 .39 .34 .23 .00 .02 .03 -.12 .29 .27 -.04 -.08 .12 .61 -.07 .31 -.01 -.03 .10 -.26 .21 .35 .55 .47 .47 .43 .09 .03 .41 付記 本研究は平成 18 年度科学研究費補助金萌芽研究(課題番 号:17653081)によった。 (MIYAMOTO Tomohiro, KOHAMA Akira)