Comments
Description
Transcript
空気感染する病気
2012年5月25日 海匝圏域障害者部会 「福祉施設・事業所における感染症について」 空気感染する病気 旭中央病院 中村朗 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 学習内容 1.空気感染について 2.麻しんと水痘・帯状疱疹 3.感染予防策の実際 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 1.空気感染について -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 感染症成立の因子 感受性宿主 感染源 ・感染症患者 ・汚染された医療器具 ・患者環境 ・特定の病原体に免疫を もたない患者 ・重症、低栄養、基礎疾患、 体内にチューブ類 感染経路 ・空気感染、飛沫感染、接触感染 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 感染経路別予防策 標準予防策 + 空気予防策 飛沫予防策 接触予防策 麻しん インフルエンザ 消化管感染症 水痘 風邪などの呼 吸器感染症 流行性角結膜炎 結核 疥癬 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 飛沫感染と空気感染の違い <飛沫感染> <空気感染> 微生物を含 む飛沫核 水分 水分は蒸発 5 μm 1~2mですぐに落下 長時間空気中を浮遊 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 約2m -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 空気感染とは・・・ 何が? ・空気中を浮遊する飛沫核 (5μm以下の小さな粒子 肺胞まで達する) ・微生物を含む微粒子 どのように? ・空気中で気流にのり長時間浮遊する飛沫核 誰が? ・感染した患者が咳やくしゃみをする時に放出 ・感受性のあるヒトが飛沫核や微粒子を吸込む -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 空気予防策 何を? ・標準予防策に空気予防策を加える なぜ? ・飛沫核や微粒子によってばら撒かれる病原体が 伝播するリスクを減らすため いつ? ・空気感染を起こす感染症や病原体が認められたり、 疑われた時から -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 空気感染を起こす感染症・病原体 結核(肺,喉頭) 排菌が確認されているか,疑いがある場合 麻疹(ウイルス) 水痘(ウイルス) 帯状疱疹(免疫不全や播種性の場合) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 施設内感染における麻しん・水痘の問題 感染力が強い⇒ 多くの人(患者,医療従事者、など)に感染 免疫不全者に感染⇒ 典型的な症状を呈さない 重症化したり、死亡に至る -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん・水痘における合併症 健常者 麻しん 水痘 免疫不全患者* ・肺炎 ・皮疹なし ・脳炎 ・重症肺炎・呼吸不全 ・肺炎 ・巨大水疱,皮疹なし ・脳炎 ・出血性水痘(DIC) ・その他の臓器不全 *新生児,妊婦,ステロイド内服,抗がん剤治療,HIV患者,など -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 小児科病棟に入院した麻しん・水痘患者 16 水痘 麻しん 14 12 10 8 6 4 2 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 当院での麻しん・水痘患者数(推計) 推定患者数 麻しん ・ほとんどなし ・海外渡航歴あり⇒要注意! ・ワクチン接種歴のない小児⇒要注意! 水痘 ・小児のみで1000~2000人/年? ・多くは救急外来を受診 (ほとんどは隔離されていない) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん ヒトのみに感染する急性熱性発疹性疾患 感染経路:接触+飛沫+空気 基本再生産数=12~18(感染力強い) 健常な人でも重症化しやすい 治療法なし ワクチン接種有効 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん :臨床経過 病日 潜伏期 9~12日 1 2 3 4 カタル期 3~4日 5 6 7 8 9 10 回復期 ~7日 発疹期 4~5日 発熱 鼻汁・咳・眼脂 感染 コプリック斑 発疹 色素沈着 発症2日前~解熱後3日間は感染性あり -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん :カタル期(発熱1~4日目) 眼脂・結膜充血 鼻汁 発疹 咳 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん :コプリック斑(発熱2~4日目) コプリック斑 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん :発疹期(発熱4~7日目) 眠れない ほどの咳 発疹(癒合しなが ら全身に拡大) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 国内の麻しん発生状況(1999-2007年) 小児科定点報告数(国内3000ヶ所) 40000 35000 30000 25000 10代、20代に多発 社会問題 20000 15000 10000 5000 0 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 国内の麻しん発生状況(2008年~) 2008年 ・5類(全数報告)に指定 ・MRワクチンを2回の定期接種に変更 12000 11012 10000 8000 -96% 6000 4000 2000 732 457 434 2009 2010 2011 0 2008 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 2011年国内麻しん報告数(n=434) 2010年5月以降、日本の常在 ウイルスは検出されていない 輸入麻しん増加 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん患者の年齢構成 (n=434) 48%が成人 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 年齢別・接種歴別麻しん患者 (n=434) 1回接種 接種なし 2回接種 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん・風しん(MR)ワクチン ●4週後の抗体陽転率:95~98% ●10%は約10年で発症阻止レベルを下回る⇒追加接種が必要 ●ワンポイントの抗体陽性≠“一生罹らない” -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しんワクチン 2回目=ブースター(免疫賦活)効果 1回目 感染阻止レベル抗体価* Primary Vaccine Failure (2~5%) Secondary Vaccine Failure (約10%) 8~10年 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん免疫の根拠(米国) 1.1957年以前の出生(=55歳以上) 2.医師に診断された麻しんの既往 3.血液検査による抗体確認 4.適切なワクチン接種の記録 *1~4のいずれかが文書で確認でき た場合のみ免疫を持っていると判断 (自己申告は不可) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん:まとめ 1.2012年を目標に排除(elimination) 2.国内での自然発生は稀 ⇒輸入麻しんは増加傾向 成人麻しんの割合も増加 3.免疫をもっているか? ⇒抗体検査 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘・帯状疱疹 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘 (chickenpox) 水痘帯状疱疹ウイルスの初感染 感染経路:接触+飛沫+空気 基本再生産数=10(感染力強い) 多くは軽症,免疫不全者は重症化 抗ウイルス薬,ワクチン接種有効 全国で毎年100万人以上の発生 再活性化⇒帯状疱疹 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘 :臨床経過 病日 潜伏期 10~21日 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 発熱 丘疹(赤いブツブツ) 水疱 痂皮(かさぶた) 感染 わずかに鼻汁・咳 発症2日前~痂皮化まで感染性あり -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘疹の分布 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘:1~2病日 •頭頸部,躯幹から出現 •頭皮にあればほぼ確実 •痒みを伴うことが多い •ワクチン接種歴なし •接触歴(流行歴)あり -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘:3~7病日 3病日 5~7病日 発疹の数:100~1500(平均300~400) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘:個疹の経時的変化 1日目 2日目 4日目 6日目 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘ワクチンの有用性:集団防衛 日本では任意接種,接種率約30% -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 帯状疱疹(水痘ウイルス再活性化) •脊髄に潜伏したウイルス が再活性化 •通常,生涯に1回 •通常,空気感染しない •免疫不全患者 ⇒空気感染あり (ウイルス量が多い) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 健常者に発症した帯状疱疹 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 白血病患者に発症した播種性帯状疱疹 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- リンパ腫患者に発症した帯状疱疹 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 帯状疱疹の感染性 1.病変がカバーされていない(顔面など) 2.播種性帯状疱疹 3.免疫不全患者に発症した場合 以上3つの場合は空気感染があり得る -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘免疫の根拠(米国) 1.医師に診断された水痘または帯状疱疹の既往 2.血液検査による抗体確認 3.2回のワクチン接種(日本では任意接種) *1~3のいずれかが文書で確認できた場合の み免疫を持っていると判断(自己申告は不可) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘・帯状疱疹:まとめ 1.水痘はありふれた感染症(年間100万人) (外来では診察まで診断されない例が多い) 2.入院患者の頭頸部,躯幹に複数の丘疹 ⇒水痘を疑う 3.帯状疱疹の一部は空気感染 4.すべての病変が痂皮化するまで感染性あり -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 3.感染予防策の実際 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 感染予防の基本的考え方 発症者に対する対策 ①隔離(陰圧室) ②治療(水痘・帯状疱疹⇒抗ウイルス薬) 感受性者に対する対策 ①接触者調査,感受性者確認 ②緊急ワクチン接種・γグロブリン投与 ③水痘・帯状疱疹⇒抗ウイルス薬予防投与 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 麻しん・水痘・帯状疱疹への感染予防策 麻しん ⇒接触+飛沫+空気感染予防 水痘 ⇒接触+飛沫+空気感染予防 帯状疱疹 ①病変が覆われている ⇒接触感染予防 ②病変が覆われていない⇒空気感染予防 播種性病変 ⇒空気感染予防 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 水痘・帯状疱疹に対する抗ウイルス薬 外来患者⇒バルトレックスⓇ(5日間内服) 入院患者⇒アシロベックⓇ(点滴静注) *早期(~48時間)に開始すれば軽症化 *患者からのウイルス量も減少? -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 接触者調査・感受性者確認(入院例) いつから? ・発症1~2日前から 誰を? ・入院患者(同室,近くの病室) ・病室,病棟の医療従事者 ・面会人(特に若年者) どうやって? ・問診(罹患歴,ワクチン接種歴) -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 感受性者の暴露後予防 麻しん 水痘・帯状疱疹 健常者 ・ワクチン接種 (1歳以上) (3日以内) ・ワクチン接種 (3~5日以内) 乳児 妊婦 免疫不全 ・静注用γグロブリン** (6日以内,400mg/kg) + ・暴露後8日目~14日間 ゾビラックスⓇ内服*** ・筋注用γグロブリン* (6日以内,50mg/kg) ・静注用γグロブリン (6日以内,400mg/kg) *保健適応あり **海外では水痘帯状疱疹高力価筋注用γグロブリン製剤あり * * *エビデンスはないが国内小児科領域では推奨 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- まとめ 麻しん,水痘・帯状疱疹 ⇒空気感染,強い感染性 免疫不全者への感染⇒重症化、時には死をもたらす 発症者 ⇒早期発見(Ns),早期診断(Dr) 早期隔離 感受性者 ⇒抗体獲得の確認(職員) ⇒緊急ワクチン接種,γグロブリン投与,抗ウイルス薬 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 質問 ・清潔を守れない場合はどうするか ・啓発の仕方 ・通所の禁止 ・事業所の閉鎖 ケアのために必要な物品 福祉施設への通所・入所の際、感染症 が疑われる場合(痒い、ボツボツがあ る等)、検査を受ける必要があるのか。 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 感染経路別予防策 標準予防策 + 空気予防策 予防に勝るもの なし! ワクチン接種を! 飛沫予防策 接触予防策 麻しん インフルエンザ 消化管感染症 水痘 呼吸器感染症 流行性角結膜炎 結核 疥癬 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- ノロウイルス感染対策事項 • • • • • • • • • • • • 調理・配給職員は胃腸炎症状時は勤務してはいけない。 用便後、おむつ交換後, おむつ処理時, 調理, 配膳, 食事前には手洗い厳守。 固形石鹸は使用せず液体石鹸を使用する。 患者に接する場合や処置時には“使い捨て手袋”を着用, 終了後は必ず手洗い。 入室時にはガウンを着用し, 部屋を離れるときには必ず脱ぐ。 同じタオルを用いることでの交差感染を防ぐため, ペーパータオルを使用。 汚染された下着・リネンは0.01%以上の次亜塩素酸ナトリウムに60分間以上 浸漬後に洗濯し, おむつの処理などは小ビニールに入れ処理。 腸管出血性大腸菌は4級アンモニウム塩で30分浸漬でもよい。 リネンの消毒は80℃、10分の熱水洗濯でもよい。 便座・ドアノブなど患者がふれる部位は0.02%次亜塩素酸ナトリウム(腸管出血 性大腸菌はアルコールでよい)で清掃 汚物などの処理時など, 口への飛散が想定される場合にはマスクを使用。 他への感染拡大を防ぐためにも, 患者の外出禁止や制限, および見舞い, 付添い人の制限。場合によっては患者を隔離するなど対処。 職員が発症することも予想されるため休憩室での食事・食器の共用等避ける。 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 次亜塩素酸の作り方 0.1% 次亜塩素酸 ナトリウム 0.02% 次亜塩素酸 ナトリウム 原液濃度 希釈 方法 使用部位 1% 10倍 原液10ml +水100ml 5% 50倍 原液10ml +水500ml 吐物・便が 直接ついた場 所や衣類 6% 60倍 原液10ml +水600ml 1% 50倍 原液10ml +水500ml 5% 250倍 原液10ml +水2.5l 6% 300倍 原液10ml +水3l 調理器具・ 床・ドアノブ ・便座など 参考:濃度1%:ミルトン、5%:ハイター、リーチ 6%:ピューラックス 注意:希釈したものは作り置きできません。時間がたつと効果が薄れます。 -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- ペットボトルでの簡単な作り方 0.02%=環境用 キャップ1杯5ml ミルトンなら キャップ2杯(10ml) を500mlの水を入れたペットボト ルに入れる -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- 作成:平成23年2月1日 P1 嘔吐処理セット 院内感染対策委員会 収納物品 収納物品 モップヘッド ・ちり紙 ・ハイゼガーゼ ・計量紙コップ ・ゴミ袋2重 ・木ベラ ・ゲロポン 2人分 ・手袋2重 ・フェイスシールド付きマスク ・そで付きエプロン ・シューズカバー -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- P2 準備 ① ② 0.1%ピューラックス液 紙コップで5杯(500ml) モップヘッドに 浸み込ませておく 作り方 0.1%ピューラックス=原液50ml+水3L -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital- P13 方法 ④ ③ ふりかける まぜる 固まる 1)嘔吐物に固形化材をふりかける 2)木ベラで混ぜる 3)木ベラを両手でかきあつめる 4)嘔吐物跡にちり紙をのせる 5)0.1%ピューラックスを振り掛ける 6)10分浸漬 7)ハイゼガーゼでかき集める 8)広範囲にモップがけ -Dept of Pediatrics, Asahi General Hospital-