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国際社会による平和構築への取り組みについて

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国際社会による平和構築への取り組みについて
日加シンポジウム
「国際社会による平和構築への取り組みについて」
カナダ外務国際貿易省地球・人間問題局
平和構築・人間安全保障課長
マイケル・スモール
Ⅰ
導入
1.「国際社会による平和構築への取り組みについて」をテーマに本シンポジウムでの
発言の機会をいただいたことは大変光栄です。このテーマは、日本の同朋の皆様にとっ
ても、非常に興味深いものであると理解しております。先日、毎日新聞(1999年1月16日
付)で、カノ・タダオ氏が書かれた社説を拝見しましたが、そこでは、ハリケーン・
ミッチによって壊滅的な被害を受けたホンジュラスにおいて、日本の自衛隊(SDF)
が医療・保健面で素晴らしい貢献をしたことが述べられていました。さらにその社説
では、ホンジュラスにおける日本の活動の成功は、(私は、これに、これまでの多くの
国際的ミッションを付け加えるべきだと思いますが)日本が「非軍事的な国際貢献の青
写真を描く」作業に関する日本国内の議論に、大きく貢献することになるだろうとなる
と述べています。
2.1988年の「国家公務員の国際組織への派遣に関する法律」および1992年の「国際連
合平和維持活動等に対する協力に関する法律」の成立以来、日本は、国連平和活動や国
際的人道問題への貢献において確固たる評価を確立してきました。この点では、今年日
本が東ティモールに派遣した文民警察官が特に重要なものだと言えます。日本はまた、
外交政策における「人間の安全保障」路線の強力な支持者として、近隣のアジア諸国を
リードしています。日本は、また国家の安全保障を補完し、新しいパートナーシップの
あり方を求めるカナダの人間中心のビジョンをも共有しています。日本がこうした問題
で主導的な役割を果たしている最も分かりやすい事例として、国連を支援するために最
近設立された「人道支援基金」があります。世界の紛争地帯に平和をもたらすための国
際努力が活発化する中で、こうした実績の一つ一つを見れば、日本がいかにこの分野で
貢献しているかが明確に理解できます。
3.本セッションでは、以下の点について手短にお話しさせていただきたいと思いま
す。(i)概念および実践の両面での最近の平和構築活動の進展(ii)平和構築活動に関
わる多国間組織の活動範囲(iii)さらなる展開のための課題と機会。ここでは、特に、
多国間平和構築の分野における国際レベルの構造について、私の考えを述べていただき
たいと思います。
Ⅱ平和構築の変遷
4.冷戦終結後の10年間で、平和構築の概念は新たな重要性を帯び始めました。
それは、この10年間にナミビア、イラク、アフガニスタン、ソマリア、ボスニア、ルワ
ンダ、ザイール、リベリア、シェラレオネ、スーダン、アンゴラ、コロンビア、エルサ
ルバドル、モザンビーク、インドネシア、東ティモール、スリランカなどで発生した政
治的、人道的危機を通じて明らかになった、この活動の複雑さと難しさの結果と言えま
す。「平和強制」活動によって、政治危機を持続可能な紛争管理術で乗り切ろうとする
楽観論は、ソマリア、ボスニア、ルワンダなどにおける国際社会の苦い経験とともに、
急速に消滅しました。こうした経験を踏まえて、国際社会の成員となっている国々は、
紛争が絶えない地域、あるいは戦争で疲弊した地域に持続可能な平和を構築するための
1
機会や課題、そして限界を評価、再評価するようになりました。NATOと国連による
最近のコソボにおける活動には、我々がこの10年間に学んできたことを実践する試金石
的な側面がありました。
5.過去10年間に、国際ミッションは、国連が最初の40年間続けてきた比較的単純な軍
事的平和維持活動から大きく変貌し、軍隊と文民の共同作業という形態を取るようにな
りました。こうした新しい形の活動においては、人道支援、人権、地雷処理、調停など
の分野で、文民主導の「平和構築」が大きな割合を占めるようになっています。狭い領
域に限られていた「古典的」軍事平和維持活動から、国連ミッションがより複合的なも
のに発展してきたことにともない、これらの新しい活動を表現するための用語も変化し
てきています。最も新しい国際的ミッションの中核を成す広範な文民、軍事活動を説明
する用語として、カナダ及び、他の関係者は「平和支援活動(PSO)」という言葉を
使用しています。
6.平和構築という概念は、最初、ブトロス・ブトロス・ガリ国連事務総長が1992年に
「平和のための課題」というレポートの中で「紛争後」という狭い意味で定義しました
が、カナダは、この概念をさらに拡大しました。平和構築の概念には多くの定義が存在
しますが、カナダでは、武力紛争の前後、最中を問わず、国家内の平和の可能性を高
め、武力紛争の可能性を低くする努力として定義しています。そのようなものとして、
平和構築の最終目標は、ある社会が、自らの力により、武力によらずに紛争を処理する
能力を獲得することにあります。このことを念頭におくことは非常に重要です。紛争に
おいて、地域的、または外部の利権が果たす重要な役割を考慮すると、一般的に、紛争
地域の「平和」は、外部の組織が持ちこんだり、押しつけたりすることはできないとい
う事実が明らかになります。恒久的な平和を築くための広範な国際努力は、結局は支援
に留まるもので、当事者が暴力に訴えることなく、協力という枠組みの中で、自らの紛
争を解決する能力を高めることを手伝うだけなのです。
7.紛争は、それ自体、自然で健全な現象です。適切に管理すれば、紛争は変化と成長
にとって前向きで建設的な役割を果たします。しかしながら、「建設的な紛争管理」が
失敗し、紛争が暴力行為を容認する状況になると、紛争は最も親密な社会的絆を断ち切
り、文明の基礎となっている社会構造を破壊する力に変わります。平和構築の目的は、
究極的には、「人間の安全保障」を最大限に高めることです。人間の安全保障という概
念は、外交政策における新しい人間中心のアプローチであり、国家の安全を補完し、革
新的なパートナーシップを必要とする概念です。この概念には、民主的なガバナンス、
人権、法治、持続可能な開発、資源への公正なアクセスなどの諸問題の促進が含まれま
す。
8.内戦で疲弊した国で人の安全の追求は、平和的な変化を支援する数多くの国際組織
にとって、特殊で複雑な課題を提示します。平和構築に対する外部からの支援は、持続
可能な平和を達成しようとする当事者の努力を補足すべきものであり、当事者に代わっ
て中心的役割を果たすべきものではありません。したがって、平和構築に対する効果的
な支援には、国連、国連の専門機関、国際金融機関、非政府組織(NGO)、平和維持
部隊、マスコミ、市民団体、民間の専門家などさまざまな関係者間の活動の調整が不可
欠です。国際平和構築ネットワークを発展させるための努力の一環として、カナダは他
国政府、多国間組織、地域的組織、国際研究機関・財団、NGOなどとのパートナー
シップの確立に積極的に取り組んできました。
2
Ⅲ
主要組織の概要
9.ここで、国際社会の平和構築活動において重要な役割を担っている3つの多国間組織
について意見を述べたいと思います。(i)国連(ii)地域的組織(iii)国際金融機関
(IFI)
10.国連:唯一のグローバルな集合的安全保障組織として、国連は、いくつかの内部
組織内で責任を分割する方法で、多国間レベルでの平和構築の中心的組織として機能し
ています。平和構築問題に直接的に関わる部局は以下の3つです。国連事務総長
(UNSG)、国連事務局政治局(UNDPA)国連安全保障理事会(UNSC)。
11.国連事務総長は明確に規定された権限の範囲内で、平和構築に関して決定的な
リーダーシップを発揮し得る立場にあります。特に事務総長の政治局には政治危機が発
生した場合に早期行動(特使の指名など)を行う権限があります。しかし、国連が抱え
る問題の一つは、政治局に付与されている公式の「早期警告」機能が、必ずしもうまく
機能するとは限らないことです。すなわち、必要とされる重要な分析をタイムリーに特
定し、伝達することが出来ないことです。仮にできたとしても、きわめて多忙な国連事
務総長の行政事務局が、すでにその日に起きている危機の中から、個々の警告に相応し
い対応と注意を払うための時間と方途を見つけることは困難です。
12.1990年代初頭に、紛争を予防し、より良い平和を築くための試みとして、ニュー
ヨークの国連事務局は組織改変を実行し、3つの新しい部局を設立しました。この3つの
部局は、政治局(DPA)、最近、人道問題事務局(OCHA)に再編成された人道問
題局(DHA)、そして平和維持活動局(DPKO)です。ここでは、DPAについて
いくつかのコメントをするに留めておきます。DPAの使命は、国連憲章の平和と安全
の維持・修復に関する条項にもとづいて地球規模の責任を負う国連事務総長に対して、
すべての政治問題に関する助言と支援を提供することです。こうして、DPAは1997年
に平和構築に関する国連の中心部局となりました。DPAは、さらに、早期警告の権限、及
び過渡的な選挙の管理を援助するために設立された選挙支援局を併せ持っています。し
かし、DPAは潜在 的な有効性は持っているものの、現地に常駐していないこと、又、
本部だけに配置されている職員の旅費が不充分なため、その活動範囲が限られていま
す。また、同局は深刻な職員削減と、平和構築プログラムと活動の管理経験を持った人
材の不足にも悩まされています。この状況は、最近、国連加盟国から無償で人材を受け
入れることを禁止されたDPKOの状況と似通っています。こうした経緯と、以前から
の国連機関間の協力とコミュニケーション不足が重なり、DPAは危機の前後、最中の
状況を把握する能力が大幅に制限され、その結果、国連事務総長の平和構築活動への取
り組みに対して助言を与え支援するという機能が大幅に制限されています。
13.国連安全保障理事会は歴史的に、国際平和と安全への脅威を狭義にとり、そのた
め、国連の「平和維持」活動は基本的に軍事機能(緩衝部隊、国境警備、監視、国内和
平)に集中してきました。今日のオブザーバーの多くが、こうしたミッションを「第一
世代」平和維持活動と呼んでいます。近年、安保理が取り扱う任務の形態は変化を遂
げ、より広義の「平和支援」活動、または一部で「第二世代」平和維持活動と呼ばれる
より幅広い平和維持活動に取り組むようになっています。1989年のナミビアを皮切り
に、西サハラ(MINURSO)、リベリア(UNOMIL)、クロアチア
(UNTAES)、シェラレオネ(UNOMSIL)、中央アフリカ共和国(MINU
RCA)、東ティモール(UNMET)、コソボ(UNMIK)他で、安保理は、以下
の分野における文民主導の平和構築活動を徐々に拡大してきました。
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選挙、住民投票
民主化
武装解除、動員解除、再統合(DDR)
住民の再定着、本国への帰還
文民警察
人権
和解
児童保護(少年兵)
信頼醸成措置
経済復興
最近の調査では、国連安保理主導のミッションに従事する文民の数は、伝統的な平和維
持活動では6‐9%だったものが、今日の活動では約20%に増加していることが明らかに
なっています。(文民平和維持隊―将来の課題:アコード・オケージョナル・
ペーパー・ナンバー1/98、クリスチャン・ハールマン)
14.上記の分野で最も重要性が高く、しかも要請が多いのは、文民警察の配備です。
文民警察は、軍から文民への統治の移行期の治安維持において中心的な役割を果たしま
す。実際、コソボのUNMIKミッションは、平和構築にあたって文民と軍隊の任務が
組み合 わされ、融合された現代型の事例として挙げることができます。コソボはユニー
クな事例ではありませんが、二国間援助国、国連機関、ヨーロッパ連合、NATO、
OSCE、欧州会議、そして数百にも上るNGOが、過剰気味の地元関係者と協力しな
がら、協働しようと務めた、一つの多国間組織間の協力の事例として、我々に興味深い
教訓を提供してくれます。
15.ご存知の通り、国連憲章24章の下で、安保理は国際平和と安全の維持において主
要な責任を負っています。憲章の規定に沿って安保理が十分な機能を果たそうとする際
の、最大の障害となっているのは、理事国、とりわけ拒否権を持つ常任理事国5カ国の地
政学的な利害関係です。このため、紛争当事者は自国の主権、その他の国家的利権を理
事会の介入に委ねることに消極的になっています。さらに、これらの政治的利害は、最
近のコソボ危機で見られたように、安保理が関与できる危機の数を大幅に制限する結
果を生んでいます。また、安保理が実際に関心を寄せている紛争に関しても、紛争が武
力衝突の段階に達してから関与するため、安保理の有効性が大幅に制限される結果と
なっています。安保理が危機に積極的に関与するようになっても、一般に安保理が展開
する活動は、紛争終結後の平和構築活動にとっては不適切な場合が多いという問題があ
ります。さらに、安保理が使用する直接的手段(制裁や介入など)は紛争の早期平和的
解決には適していないことから、紛争前、紛争中にも同様の問題が発生します。
16.国連全体にも言えることですが、念頭におくべきことは、安保理の有効性は、そ
れを運営する理事国の姿勢にかかっているという事実です。アメリカなどの主要加盟国
が年間分担金を一部しか払おうとしないことで、国連は慢性的財政難に見舞われてお
り、このため国連は、紛争後の平和構築のプロセスを開始するために必要な包括的な平
和支援活動をタイムリーにスタートすることができなくなっています。現在進行中の
ミッションや新しい活動は、時間のかかる緊縮財政管理と厳しい予算評価の犠牲とな
り、意味のある活動が展開できない状況となっています。カナダは1999年から2000年ま
でを任期とする理事国として、他の理事国とともに、現在、世界が直面している新しい
タイプの紛争に対処するために、安保理をより適切で効率の高い組織に改革するよう努
力しています。
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17.カナダは紛争時の「民間人の保護」の問題に積極的に取り組んでいます。民間人
の保護は今年2月の国連安全保障理事会のテーマでした。我々は同じ考え方の同朋とと
もに、最近提出されたこの問題に関する国連事務総長の報告書に沿って作業を進めてい
ます。特に、カナダは「民間人の保護」が直面している3つの主要課題に対する国際理解
の促進を強く望んでいます。(1)国際人を遵守させる上での非国家的組織の役割
(2)民間人保護のための適切な武力の使用。特にその方法とタイミング(3)国際的
な国家主権の尊重と、国内、特に内紛状態にある国の民間人の保護との適切なバラン
ス。 こうしたカナダの努力は、マレーシアやナミビアのような同様の関心を共有する国
の活動を補足するものです。7月に会長国を務めたマレーシアは、武装解除、動員解
除、再統合(DDR)に焦点を当て、8月の会長国であるナミビアは、子供の問題に焦
点を当てました。
18.地域的組織(RO):平和構築に対する地域的枠組みは過去20~30年の間に着実
に発展してきました。これらの地域枠組みは、主に民主的価値と組織の能力増強を中心
に発展してきており、その例はヨーロッパ連合(EU)、欧州安保協力機構
(OSCE)、北大西洋条約機構(NATO)、米州機構(OAS)、東南アジア諸国
連合(ASEAN)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、アフリカ統一機構
(OAU)などに見ることができます。これらの地域的組織は、それぞれが独自のレベ
ルの枠組みと、平和構築プロセスを補強するための各種の支援構造とメカニズムを提供
しています。地域的組織は、また、地域的相乗効果を促進し、加盟国が共通の問題を討
議し、解決策を検討し、集合的に行動するためのフォーラムを提供します。こうした地
域的組織の多くは、本部に公式の紛争予防機関を設けており、加盟国に政策、プログラ
ムに関する助言と技術的援助を提供しています。一部の組織では、リベリア、シェラレ
オネでの西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の活動に見られるように、紛争処
理と平和維持の分野での支援要請に応えて、組織の当初の使命と権限を拡大したところ
もあります。EUの例に見られるように、一部の地域的組織は、加盟国となる条件とし
て、民主的な改革とガバナンスに関する一定の基準を憲章に盛り込んでいます。こうし
た措置は、紛争を抱える国家が、これらの地域的組織に加盟し、その組織の経済的、政
治的恩恵に浴そうとする強い動機付けになっています。
19.先進8カ国(G8)についても多少コメントを加える必要があるでしょう。G8諸
国は、コソボ危機で重要な役割を果たし、今後も政治危機において同様の役割を演じる
と予測されます。1999年12月、ベルリンで、G8外相による「紛争予防」を主題とした
会合が開催される予定です。コソボでの最近の経験を踏まえ、この会合、そしてG8諸国
がここ数年に渡って発表してきた声明と各種の決定を分析すると、G8諸国の指導者の間
に平和構築と危機管理のための国際的メカニズム構築に関するコンセンサスが生まれつ
つあることが窺がえます。一方で、G8諸国が、現行の国連安保理のフォーラムを使用す
ることに躊躇している事実を認識するとともに、G8諸国の最近の動きの意味合いを理解
することは重要です。G8の中で、特にG7は、IMFと世界銀行の投票シェアの過半
数を占めており、両機関の平和構築政策に影響を与えることができるため、とりわけ重
要な多国間フォーラムであると言えます。これらG7諸国は、またOECD-DACの加
盟国として、開発における平和と安全の問題について強い意見を述べ、また軍事費を削
減し、社会投資を増強することの必要性を強調しています。(The DAC Orientations on
Participatory Development and Good Governance, 1993 and Conflict, Peace and
Development Cooperation on the Threshold of the 21st Century, 1998)
20.国際金融機関(IFI)、地域開発銀行(RDB):国際金融機関は、地域開発
銀行も含め、一義的には「開発」組織です。これらの組織は、伝統的に平和構築活動や
多国間開発援助基金のからんだプロジェクトの支援には消極的でした。国によっては、
善かれ悪しかれ、開発プログラムが露骨に政治的な色合いをもっている場合もあります
が、この消極性は、一部の資金援助国の二国間プログラムにも反映されています。多国
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間組織においては、こうした躊躇が、はっきりと政治的考慮を除外するという公式な政
策を生み出す結果となっています。ある意味で、こうした政策は、政府間の合意が可能
で、意思決定を麻痺させるような問題の存在しない地域に組織の活動を集中させる状
況を生み出したために、これらの組織にとってはプレスに作用しました。平和と安
全は、開発と同義ではありませんが、平和と安全の問題は開発に重大な影響を与え、こ
の二つが開発活動のもっとも決定的な要素になる場合も数多く存在します。
21.冷戦の終結と大規模なイデオロギーの対立が減少したことを受け、いくつかの主
要課題については、より高レベルのコンセンサスが得られるようになりました。この結
果、多国間組織は、これまで以上に平和構築や民主主義、グッド・ガバナンスなどを実
現するためのプロジェクトについても、より優れた合意を達成することができるように
なりました。その結果、平和構築の側面を持ったプログラムに対しても、多国間組織内
のサポートが増大しつつあります。こうした動きは、歓迎し奨励すべきものですが、同
時に、これらの組織が、慎重に行動し、国際経済機関が過度に政治化されることを避
け、その活動内容が本来の開発目的から外れないよう注意することが重要です。
我々は、引き続き、西洋的な条件制限を実施することの困難さと、この政策が、開発受
け入れ国に与える影響を明確に認識する必要があります。
22.開発に関わる組織は、非政府、二国間援助機関、各種の国際的政府間組織など多
岐にわたっており、それぞれが開発の異なる側面を担当し、それぞれ独自の意思決定メ
カニズムを持っています。我々は、組織同士の協力と対話の促進、およびを世界銀行の
包括的な開発の枠組に沿った業務の継続を歓迎、奨励しますが、同時に、すべての関係
組織の政策、プログラムを完全に一致させるといったことは、必要でもなければ、そう
すべきでもないことをはっきりと認識する必要があります。例えば、会員構成、意思決
定構造、そして、これらの組織の優先業務に対して我々が付与する価値を考慮すると、
多くの金融機関は、現時点では平和構築プロジェクトへの参加には不適格である場合も
ありえます。しかし、こうした重要な金融機関が、より大きな視点から見た平和構築政
策と戦略を支援、または、最低限、それを阻害しないような政策と能力を構築するこ
とは、重要です。平和構築活動が、平和と安全と開発に対して提供できる重要な貢献を
誘導し支援するために、国際社会は、どの機関を活用すべきかに関して、慎重に検討す
ることが大切です。
23.IFI、RBDと平和構築に関する議論のほとんどは、マクロ経済的改革を通し
て持続可能な平和と安全の確立のために、どうのように公平に経済的機会を提供するか
に集中しています。残念ながら、歴史的に金融機関は、政治と経済を分離し、「経済効
果と経済政策の有効性と効率性を高めるための」ものとして「政治」を狭義に定義し
て、対象とな っている政権の政治的な性格や、より大きな平和と安全に対する影響と
いったものは考慮に入れないというアプローチを取ってきました。この傾向は、世界中
でも最も紛争の絶えない地域、すなわち同時に最も貧しい地域において最も顕著に見ら
れます。残念なことに、EBRDを除いたほとんどのIFIやRDBは、法的、または
組織的制約によって、紛争予防や紛争解決によってガバナンスや民主主義を支援すると
いった「政治的な」活動に参加することができないのが現状です。近年、融資の「制約
条件」に対する見方が大きく変化してきていますが、金融機関がどこまで政治的な分野
に踏み込むべきかについては、依然、不安定な妥協の域を出ない状態です。
24.平和構築に関わるもう一つの主要な課題は、エルサルバドルなどの例に見られる
ように、IFIが平和プロセスの実行の際に、他の関係者と密接に協力をする能力を備
えていないという点です。1997年7月の世界銀行(WB)がポスト紛争ユニットを
結成したことと、同年に発表された政策文書「紛争後再構築活動への世界銀行の参加の
ためのフレームワーク」はIFIによるこの問題への最初の取り組みを示す好例です。
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この政策文書には、WBのこの分野での二つの大きな目標が盛り込まれています。
「…再構築援助の統合パッケージを通して…持続可能な平和への移行を容易にし…経済
的社会的開発を支援する…」。
25.すでにこのプロセスは開始されているものの、ブレトン・ウッズ協会と国連は、
プログラム、政策、目的の補完性を高めるための作業を今後も継続する必要がありま
す。我々が求めているのは、国あるいは地方のグッド・ガバナンス・プログラムのため
に財政援助の準備金を有効に活用し、同時に、適切な分野別の開発政策を通したより統
合された平和構築へのアプローチです。IFIと国連のパートナーシップに関する議
論は、さまざまなフォーラムで継続的に行われています。ジェームズ・ウォルフェン
ソン世界銀行頭取とルイーズ・フレチェット国連副事務総長は、世界銀行の包括的な開
発のフレームワーク(CDF)と国連開発支援のフレームワーク(UNDAF)は両立
可能で、競合しないメカニズムであり、パートナーシップを向上させる基礎となるもの
だと公言しています。
26.昨年提唱された重要な事案の一つに、緒方貞子国連難民高等弁務官と
ジェームズ・ウォルフェンソン世界銀行頭取が音頭を取った「ブルッキングス・プロセ
ス」があります。二国間援助国、国連機関、途上国の役人、NGOの代表などの多国間
協力者による一連のハイレベル会議の目的は、紛争後の過渡期および紛争後の平和構築
への国際的な対応という観点から見た、救済と開発の間に存在する「ギャップ」の見直
しでした。この結果、さらに討議を要する課題として、組織間の調整と融資のメカニズ
ムの2つが確認されました。会議に参加した当事者の全体的な評価は、近年、数多くの
方途(国連の戦略的フレームワーク、国連の共通国家評価、世銀の包括的開発フレーム
ワークなど)が開発されてきたものの、これらのメカニズムは現場において、安定し
た、より効果的な協力メカニズムにはなり切っていないというものでした。最近の話し
合いでは、融資のメカニズムに議論が集中し、大規模な「戦略的紛争後復興システム」
よりも比較的小規模な「紛争後復興共同プロジェクト」をさらに検証するという方向に
傾いているようです。より複雑な融資と金融機関の問題はまだ片付いてはいませんが、
融資の目的は、紛争後の再統合活動を「ジャンプスタート」することです。国連機構間
調整委員会(IASC)が協力問題全般の責任を負っている一方で、OECD開発援助
委員会(DAC)が将来の財政問題の議論を主導することが求められています。
27.OECD-DAC紛争、平和、開発協力に関するタスクフォース:OECD-
DAC紛争、平和、開発協力に関するタスクフォースが1995年10月に以下の目的
で設立されました。(i)紛争、平和、開発協力の相互関係における経験的教訓を描出す
る。(ii)この分野における加盟国の試みの効率性、有効性、一貫性を向上させる方
法を模索する。(iii)プログラムを策定・実行する立場にある人々に対して、実務的な
政策ガイドラインを設定する。 タスクフォースは1998年に優れた最初の政策ガイド
ラインを発表、2000年には、これを更に改訂、精緻化しようしています。タスク
フォースの試みの基本原理は以下のようなものです。
「紛争が絶えない、あるいは戦争で疲弊した国における業務は、常に開発協力活動の一
部であった。地域社会が武力によらずに、緊張・対立を克服する能力を高めることを支
援することは開発業務の重要な側面である。この「平和構築」の目的を明確に表現し分
析することは時には困難な作業であるが、平和構築はすべての開発協力の戦略とプログ
ラムの基礎となるべきものである」。
28.タスクフォースの重要性の一例は、最近のプロジェクトに見ることができます。
このプロジェクトは、平和と紛争に対する賞罰として援助を使用した、アフガニス
タン、ボスニア=ヘルツェゴビナ、ルワンダ、スリランカの4つの例から得た教訓を検
証したものです。具体的には、武力紛争の最中あるいは後で、支援国が政府開発援助
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(ODA)を武力紛争の抑止と継続的な平和構築のための賞罰として利用しているか、
あるいはどのように利用しているかを調査するものです。最終報告書は年末まで入手で
きませんが、ここでは、この問題に関するいくつかの要点をご紹介したいと思います。
29.この事例研究から明らかになったことは、すべての政府援助は本質的に政治的で
あり、常に平和と戦争に対する賞罰として利用されているということです。そのため、
支援国が紛争に関わる場合には、援助の政治的な性質と結果を理解、考慮することが支
援国ならびにその実行機関の義務となります。孤立した活動では、紛争に関わる国際
的、地域的、国内的、局地的な政治関係者から発せられる圧力と利益に対抗することに
重点が置かれ、援助に期待される武力紛争の動きを左右する力は、極度に制限されてし
まいます。近年、ODAが、司法、安全保障改革、動員解除、調停、人権、グッド・ガ
バナンスなどの分野でのプロジェクトを支援するために活用されるようになりました。
これらは、これまでは、外部からの介入の正式な領域としては受け入れられていなかっ
た分野です。最後に、我々が平和と援助の関係を論ずる時にまず思い浮かべる援助条
件は、非常に限定された状況 のもとで適用されるべきであり、より広範な統合的、包括
的で一貫性のある戦略の一部として、他の手段と共に利用されるべきものです。幸い、
国際社会は、受入国の武力と平和のダイナミズムに影響を与える手段を他にもたくさん
持ち合わせています(外交、軍事、貿易、開発協力など)。
Ⅳ結論:将来の課題
30.平和構築は人間の安全保障に関する広範囲におよぶ複雑なプロセスであるという
結論で締めくくりたいと思います。カナダは過去数年間に、いくつかの重要な教訓を学
びました。
31.第一に、平和構築は長期的なプロセスであり、その成功は、地元住民の参加意志
と能力にかかっているということです。平和構築には紛争の前後、最中における長期的
な予防措置とより即効性のある措置との両方が求められ、平和構築は当該地域内の人間
の安全保障を確保するために、忍耐と和解の原則に基づいて実行されなければなりま
せん。該当する国・地域の固有な状況が、平和構築の長期的な成否に関わる決定的な要
因となります。外部関係者は一貫性のある包括的、統合的な政策・戦略を実行するため
に協力しなければならず、これらの政策・戦略は特定の紛争に適用され、地域レベルで
の適切な組織的能力向上を実現するよう作用します。地元関係者を支援するための国際
的戦略が、現地の当事者の社会政治的な現実を反映するように、国内紛争の経済的な側
面をよりよく理解する必要があります。
32.第二に、国際平和構築の専門家を配備する場合、その人材、努力が最大限の効
果を発揮するように、一貫性のある合理的なメカニズムを通して配備を行うことが重要
です。極度に複雑で危険な紛争においては、国際平和構築を実現するための能力と政治
的支援を背景とした多国間組織を通して、適確な活動を展開することが重要です。国連
機関、特に国連安保理、および多くの地域的組織、国際金融機関などの国際組織は、
21世紀初頭に我々が直面する国際的な平和と安全に対する脅威の質の変化をより適確
に反映するよう組織を変革する必要があります。このことは、人間の安全保障を重視す
る外交政策アプローチにとっては特に重要なポイントです。より透明性が高く、責任所
在が明確な包括的な集合的行動の新しいモデルを発見、創造することが急務です。
33.最後に、我々は早期警告や予防外交といった修辞的な発言の枠を超えた、実質的
な紛争予防の努力を強化していかねばなりません。そのためには、紛争の根本的原因に
現実的に立ち向かい、建設的に、組織的に現存する紛争の原因を管理していくような平
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和構築の努力が必要とされます。国際社会にとっての最大の課題は、新しい理解とコ
ミットメントを、国際・国内両レベルで、具体的な政策と行動に転換していくことで
す。
34.私は日本とカナダ両国は、こうした目標に向かってさまざまな努力を傾注してき
たと確信しています。平和を築き、困難を解消し、武力紛争を終結させるための国際的
コンセンサスを作り上げるために、他の同朋国家とともに、言葉を行動に移してゆく
のは、今や我々の使命です。この作業に真剣に取り組み、国際平和構築の戦略とプログ
ラムを前進、発展させるための合意を達成することは決して簡単な作業ではありま
せん。この達成には、現実的に、確実に基本的な手順を踏んでゆくことが要求されま
す。まず、第一に、我々の活動を有効にするために、すべての関係者に我々の行動の動
機を明確に理解してもらうことが重要です。第二には、我々が達成しようとする変化を
明確に定義し、その方法に関する戦略について合意を取りつけることが必要となりま
す。第三に、より適切な政策手段を講じて、それらを有効な方法でコーディネートさせ
ることが重要です。最後に、これらの活動の最終的な成否は、平和構築活動の真のパー
トナーとして、どのような形で地域の指導者を迎え入れられるかどうにかかってい
ます。
この後、皆様のご意見を拝聴し、この野心的な議題を皆様とともに更に検討してゆきた
いと思います。
ご清聴ありがとうございました。
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