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2つの美術館事故 - 新潟市美術館を考える会
2つの美術館事故 9 月 17 日付 西日本新聞朝刊によれば、熊本市現代美術館が高知県香南市の「絵金蔵(え きんぐら)」から借り受けた屏風絵5点が、害虫駆除に用いた薬剤の影響で変色を起こした という。経緯は、北九州市内の委託業者が、梱包(こんぽう)されたままの絵を密閉空間 に入れ、薬剤ガスで殺虫する燻蒸作業をしたところ、薬剤が絵の緑色の顔料に含まれてい た銅と反応して酸化、黒く変色したもので、調査の結果で燻蒸が原因と分かった。 さて本会は、新潟市美術館の所蔵品燻蒸について、本サイト記事「カビから1年目−く んじょう。」(7 月 6 日)で「銅、銀、鉛などがデリケートな使われ方をしている作品への 処置について専門機関と十分な相談がなされたのか」と注意を促した。しかし、作業計画 や手順については何ら公にはされなかった。収蔵庫で一括燻蒸されたと報じられたが、仮 に変色や色あせ等があったとしても、自館の所蔵品の点検を外部にお願いしなければなら ないような学芸員及び館員たちが、その変化を見つけられるだろうか?アートプラットホ ームなどと言って現を抜かすのもいいが、これが、新潟市が進めようという学芸員の「プ ール化」がもたらす結果を暗示しているともいえそうだ。 美術館の専門家というのは、現場では、大げさに言えば市長や、あるいは市民に代わっ て財産を扱う。市長や部長、副館長が責任を取らなくとも己の責任はわきまえるのが、真 の学芸員だ。それは、作品のみならず公の施設の管理についても同様である。新潟市は、 教職にあるべきものは教職に、行政職にあるものはその場に戻すという「教育的な異動」 を施してあげたほうがいい。プロにはプロの仕事をさせるべきだ。 ところで 8 月には、 「新潟市美術館の評価及び改革に関する委員会」の委員である泰井良 氏が勤務する静岡県立美術館でも海外作品の事故があった。同月 24 日の朝日新聞夕刊東京 版によれば、6 月から開催していた「トリノ・エジプト展 ―― イタリアが愛した美の遺産」 (主催:静岡県立美術館、朝日新聞社、東映、テレビ静岡、フジテレビジョン)の撤収作 業中に、石像「オシリス神をかたどった王の巨像頭部」 (イタリアのトリノ・エジプト博物 館所蔵)を載せた昇降装置がバランスを崩して転倒し、像が床にぶつかって破損したとい うものだ。 事故の対外的な対応は第一に主催館の館長であるが、主催新聞社の報道であるからか、 朝日新聞社と東映がコメントをしている。これに対し相手側は当然館長が答える。トリノ のエレーニ・バシリカ館長は「全国5会場の巡回を通じての、日本の主催者による作品の 取り扱いは、きわめて質の高いものでした。今回の事故によって、トリノ・エジプト博物 館と日本の主催者の関係に変化が生じることはありません。イタリアが誇る一流の修復技 術者の手に委ね、丹念に時間をかけて復元したいと思います」との声明を出している。 海外における美術館長とは、およそこのような位置づけで、外国に向っては国を代表し、 外交官の役割も果たす。文書が館長名で、役所のルールからすると間違っているなどとい う論議は、日本の外では通用しない。 一方、この事故の責任がどのように処理されたのか不明だが、少なくとも現場の学芸員 にその一端はある。トリノ展であれば、重量の把握、バランスへの注意など、作業の安全 を指示指導するのが重要な仕事だからだ。専門家である学芸員には、そうした役割を果た すことも求められる。 日本では、館員の限られた地方の公立美術館では、こうした業務を間違いなく行い、更 に「開かれた美術館」という当然のことを行うのが学芸員の実情であろう。どこの美術館 でも若い学芸員は、こうしたことを先輩学芸員の姿を見て学んだものだ。マニュアルなど に書かれていない事態に対応できる瞬発力を学ぶのだ。 さて、新潟市美術館ではどうなのだろう。静岡県立美術館をはじめ“先進館”が羨まし くて仕方がないようだが、「隣の宝」を数えながら、「わが家の宝」を捨てていることに、 気づいていない。覆水盆に返らず。教える者もおらず、学ぶ事も知らない館員では、美術 館は絶えるしかない。 (新潟市美術館を考える会)