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新発想の中綿をスノボー向けに供給 - nonwovens
特集 / 市場ニーズに対応する高機能不織布 日本バイリーン 新発想の中綿をスノボー向けに供給 提案型商品で新しい市場を創造 日本バイリーンは二次電池セパレータなど高機能不 メーカーにとっては懸念材料になっている。 織布分野に優れた技術を有する。本稿では同社が30年に わたり業界をリードしてきたスキーウェアの中綿(中入 れ綿)分野を取り上げる。これまでの発想と製法を異に ●防風性から保温材を捉える 保温材として初めて防風性能を唱った日本バイリー する新製品“Air Jack(エアージャック)”の開発過程と, ンの新製品“Air Jack(エアージャック)”は,これまで 商品を取り巻く市場動向を紹介したい。 の中綿に対するイメージを大きく変えた。 スキーウェアは従来,静止状態(風のない状態)で保 ●ダウンとの競合で発展 本題に入る前に,まずスキーウェアの防寒材の歴史を 簡単に振り返っておきたい。 温効果の実験を行った。しかしスキーを実際に行ってい る最中は常に風にさらされ体温が奪われる。上級者にな ると時速40km以上で滑降し,風による熱損失は想像以上 スキーウェアに使用される防寒材として中綿は,今も に大きい。こうしたことを考慮し防風性という新たな視 昔ももっとも多く使われている素材で,水鳥の羽毛「ダ 点から保温材を捉え直した結果,Air Jack に辿り着いた ウン」との競合を通じて機能を発展させてきた。 のである。 ダウンは高価,デザインの展開が限られる,加工が難 しい,縫製工場が限られる,洗濯に注意を要す など のデメリットがある反面,軽く,保温性に優れた天然素 材として寝具などにも使われ人気が高い。 スキーウェアの保温材にダウンが多く使われるよう になった「第一次ダウンブーム」は 77 年から 80 年にかけ て起こり,ダウン使いのスキーウェアがタウン着として ももてはやされた。これに対して中綿メーカーは,特殊 綿と呼ばれる薄綿を開発して巻き返しを図った。日本バ イリーンの“バイオウォーム”をはじめ合繊メーカーの 特殊綿は,保温性と経済的に優れ消費者に広く受け容れ られた。メーカーも競って市場を拡大し,ダウンはこの 分野の市場シェアを 1 % にも満たないところにまで落と す結果となった。 しかしダウンを使用したスキーウェアは,量は多くな いもののその後も生き残り,昨今のアウトドアブームを Airjackは例えば時速40kmで滑ったとき,高い防風性能に より従来の中綿に比べ,衣服内の熱損失量を約1 / 2 に抑え, 背景に,エコロジーの視点から再び脚光を浴び「第二次 ダウンブーム」が到来している。今冬(95-96 年)は,中 暖かな空気を逃さない。グラフ中の使用素材は風速4 0 k m 時 点でもっとも熱損失量の少ないのがAir Jack。残りは上から 国などから輸入される安価なカジュアルウェアの多くに ダウンが使われた。この傾向は今後も続きそうだが,そ うなるとスキーウェアとの差別化がしにくくなり,中綿 24 KNT-25,KS-811S。 風速による熱損質量(同社比) NONWOVENS REVIEW して防寒対策がなされている。しかしスノーボードウェ アはファッション性から保温材を使用せず,表生地だけ のタイプがほとんどで重ね着により寒さを防いでいる。 このようにファッション性を損なわず,かつ保温性を維 持することが求められるスノーボードウェアの中綿とし て Air Jack は最適といえよう。 さらに最近ではスキーとスノーボードの両方を楽し む人が増えているため,両方のファッション性を追及し たウェアも登場している。両者にまたがる中間部分を業 界ではクロスボードと呼んでおり,この領域の拡大に伴 い Air Jack に新たなビジネスチャンスが生まれている。 ちなみにスキーとスノーボードのウェアが異なるの は,それぞれの滑降に適したウェアの機能性からきてい るというよりは,ファッション性に依るところが大き い。スノーボード独自のファッションスタイルを追及し たのが始まりのようだ。 日本バイリーンオリジナルのスノーボードウェア ●提案型の商品展開 スキーウェアの保温効果は10年ほど前までは,アメリ 日本バイリーンはスキーウェアの中綿を年間約 2 , 5 0 0 カの工業規格 ASTM の CLO(クロー)値を指標にしてい 万 m 生産,市場シェアは約 7 割に達し衣料芯地と並んで たが,いまでは全体の性能が向上し CLO 値を競う意味が 確固たる地位を築いている。その種類は目付け 35 ∼ 60g/ やや薄れている。 ㎡の 20 タイプで,品番は 65 にものぼる。一方,カジュア 従来の中綿はポリエステル 100% で,嵩高(5 ∼ 15mm) ルウェアは輸入品が多いため把握しにくいが,同社の中 にするためレジンボンド(スプレー方式)により柔らか 綿のシェアは半分は越していると推測される。競合メー く仕上げ,空気層により保温した。これに対し Air Jack カーはスキーウェアでは住友3M,カジュアルウェアでは は従来の 10 分の 1 の繊維径のポリエステルをスパンレー これにさらにデュポンが加わる。 スによりつくる。細い繊維を水流により緻密に絡めるこ 同社のアパレル開発センターでは提案型の商品開発 とで防風性に優れ,薄く(0.5mm 厚)ても保温性に優れ をしている。Air Jack を使用したスノーボードウェアも, た中綿ができる。 同センターでデザインから生地選択,縫製まですべて行 Air Jack は表生地を問わないため,思い切ったデザイ い,実際に商品に仕立ててスポーツウェアメーカーに提 ンができるのも特長。着心地の良さや軽さを,暖かさと 案した。それが受け容れられ国内のスキーウェアメー 両立させることができ,強度や耐洗濯性にも優れる。従 カーのデザインにも影響を与えている。 来の中綿の価格は 120cm 幅で 1m あたり 130 ∼ 700 円した が,Air Jack は同 260 円である。 Air Jackは日本バイリーンの30年に及ぶ中綿製造技術 とノウハウが活かされている。昨 95 年 11 月に発表,今年 の冬(96-97 年)から供給され,年間 50 万 m の販売を計 ●スノーボード向けの商品開発 Air Jack はアウトドアで着る動きやすいウェアに有効 だが,同社がとくに期待しているのがスノーボードウェ 画している。さらに同社では 2 年後の 98 年に長野で開催 される,冬季オリンピックに向けて新しい中綿素材を開 発中である。 アの保温材である。スノーボードはウィンタースポーツ 同社衣料資材営業本部スポーツ資材営業グループの としてここ2∼3年急成長している。スキーからの転向組 津下雅和グループ長は, 「Air Jack を業界に提案して受け に加え,スノーボードに直接入ったり,サーフィンやス 容れられた。これを機に通年着用する衣類にも採用され ケートボード経験者が始めるケースも多く,愛好者数は るようにもっていきたい。新たな市場を開拓できる機能 年々確実に増加している。 をもった中綿を常に提案していく」と意欲を示してい スキーウェアは保温材に厚手の中綿やダウンを使用 Vol. 7 No.3 る。 25