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講義ノート 4回目

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講義ノート 4回目
高温炉構造設計
2‘.構造設計(高温構造設計)
次の項目について説明する。
(1) 高温構造について考慮すべき破損様式
(2) 高温構造設計基準
(2.1) 高温構造における応力分類
(2.2) 高温構造に対する1次応力の制限
(2.3) ひずみの制限
(2.4) クリープ疲労損傷の制限
(2.5) クリープ座屈の防止
付録 弾性追従系の時間応答
1
(1) 高温構造について考慮すべき破損様式
高速炉規格
軽水炉規格
一次応力の制限
延性破断
クリープ破断
過大な塑性変形
過大なクリープ変形
座屈
クリープ座屈
一次応力の制限
延性破断
一次+二次応力の制限
過大な非弾性変形を防止(クリープを含む)
累積非弾性ひずみの制限
熱応力ラチェット制限
クリープラチェット制限
応力緩和を考慮したシェイクダウン制限
一次+二次応力の制限
過大な非弾性変形を防止
クリープ疲労制限
Df+Dc<D
疲労制限
Df<1
過大な塑性変形
座屈
熱応力ラチェット制限
シェイクダウン制限
2
(1) 高温構造について考慮すべき破損様式(1)
クリープ特性に由来する破損
軽水炉の構造設計は,対象とする機器がクリープを問題としない領域で使用される
場合に採用される。一方,原子炉機器が高温で,使用されるようになると,材料のク
リープ特性を考慮した構造設計(高温構造設計とよばれる)が必要となる。
軽水炉と高速増殖炉の諸元を再び比べてみる。軽水炉(PWR)の原子炉容器出口の冷却
材温度が約325℃であり,最高使用温度が約343℃であるのに対し,高速増殖炉ではそ
れぞれ約529℃,約550℃となっている。このように高温構造になると,材料の挙動とし
てクリープが無視できなくなるので,構造設計においても,クリープ特性に由来する破
損を防止すべきであるという課題が付け加わる。
3
(1) 高温構造について考慮すべき破損様式(2)
具体的内容
(1)引張強さより低い応力でクリープ破断する恐れがある(クリープ破断)。
(2)低温領域で塑性ラチェットを生じない応力(定常1次応力と繰返し2次応力)の組合
せであっても,クリープの影響により一定の進行性変形が生じる(クリープラチェッ
ト)。
(3)繰返し荷重を受けるとき,ひずみサイクル中にクリープやリラクセーションを含む
と,疲労寿命はそれらを含まない場合に比べて低下する(クリープ疲労)。
(4)荷重が弾性座屈,塑性座屈の限界値より低い場合でも,ある時間を経過すると大き
なクリープ変形を生じ構造的に不安定になることがある(クリープ座屈)。
軽水炉では、(1)延性破断,塑性崩壊,(2)過大な塑性変形,(3)疲労破損,(4)弾性座
屈,塑性座屈であるが、高速炉ではこれら以外に上記の4項目を考慮する必要がある。
4
(2) 高温構造設計基準
(2.1)
高温構造における応力分類
高温構造においても応力分類の基本的考え方に変りはないが,2次応力の取扱いについて
吟味が必要。
荷重制御型応力と変位制御型応力のクリープ応答
5
(2.1)
高温構造における応力分類(2)
荷重制御型応力と変位制御型応力のクリープ応答の違い
クリープによる伸び
クリープによる応力緩和
荷重制御型応力の時間変化は,断面積の変化を無視すると,応力が一定のままク
リープによって時間tがゼロからt1,t2と進むにつれてひずみが増大するので,応
力ーひずみ線図上では,左図(a)のように水平線となる。 一方,変位制御型応力の
時間変化は,全ひずみがー定のもとで,応力が時間tとともに緩和していくので,応
力ーひずみ線図上では,図(b)のように垂直下降線となる。
6
(2.1)
高温構造における応力分類(3)
2本棒直列構造物のクリープ応答
2本の棒が直列に結合された構造
の高温における時間変化を検討しよ
う。ここで,2本の棒を棒A,Bとし,
それぞれの断面積をSA,SB(SA>SB),
また長さをlA,lBとする。なお,2
本の棒の材料および温度は同一とす
る。
いまt=Oにおいて,図①に示すよ
うに棒Bの自由端に強制変位δを与
えて固定する。
断面積の異なる2本俸直列構造の高温にお
ける時間変化
7
(2.1)
高温構造における応力分類(4)
2本棒直列構造物のクリープ応答(2)
(1)
このとき2本の棒に作用する荷重と変
形は,図上で,初期状態である原点(A
①,B①)から,それぞれの棒の剛性に
応じて棒Aは点A②,棒Bは点B②まで
直線上の移動として表される。もちろ
ん,A②とB②の変形の和は,弾性変
位δに等しい。
(2)
②の状態から,強制変位δを与えたま
ま,高温に保持しておくと,時間とと
もにクリープが進行し,応力が緩和し
ていく。棒Bでは,棒Aに比べて高応
力であるため,クリープの進行が著し
い。棒Aでは,簡単のために,クリー
プひずみが無視できるほどの低応力。
(3)
棒Aおよび棒Bの高温保持状態の時間変化の様子
棒A:クリープが無視でき弾性的に応答すること
から,弾性線に沿ってA②→A③と弾性的に回復
する。
棒B:強制変位δが保持されることから,B②→
B③へとクリープによって変形を増大させながら,
応力が低減していく。
8
(2.1)
高温構造における応力分類(5)
2本棒直列構造物のクリープ応答(3)
弾性追従系
ある時間後の状態③では,棒Aおよび
棒Bにそれぞれ変形δA‘およびδB’が残り,
δA‘<δA,δB’>δBの関係がある。とく
に,棒Bには,δEF=δB‘-δBの変形が新
たに加わったことになる。
すなわち,2本の棒のバランスから考
えると、“弱い”部材の棒Bは,隣接す
る“強い”部材Aにあたかも引きずられ,
追従した挙動となっており,その結果,
棒Aの弾性変形の一部を肩代りして非弾
性ひずみが累積することになる。このよ
うな現象を弾性追従(elastic follow-up)
という。
9
(2.1)
高温構造における応力分類(6)
2次応力の扱い
荷重制御型
弾性追従系
変位制御型
高温保持中のひずみ
増加する
やや増加する
増加しない
高温保侍中の応力
緩和しない
緩和速度が遅い
速やかに緩和
高温構造設計では,変位制御型応力を単純に2次応力と分類せずに,クリープによ
る弾性追従の程度により再度その分類を吟味するべきである。この吟味に当たっては,
(1)多量の弾性追従を伴う2次応力は,基本的には変位制御型応力ではあるが,荷重
制御型応力に近い挙動を示す。弾性解析による評価の際,これを1次応力と同等の取
扱いをすれば安全側である。
(2)円筒容器の板厚方向温度分布により生じる熱応力のように,弾性追従をまったく
伴わない2次応力もある。
(3)(1)と(2)の中間に位置するような,弾性追従をある程度伴う2次応力については,
1次応力と同等に取扱うと過度に保守的となり設計の硬直化を招く恐れがあるので,
非弾性ひずみの蓄積量などについて弾性追従の影響を見極めることが重要である。
10
(2.2) 高温構造に対する1次応力の制限
クリープが関係する破損についても防止する必要があるので,1次応力の
制限では,許容応力として
Smt=(Sm,St)のうちの最小値
ただし,Stは次の①~③の最小値。
① 温度T,時間tでクリープ破断する
応力の最小値の2/3
② 温度T,時間tで3次クリープを開
始する応力の最小値の80%
③ 温度T,時間tで全ひずみとして1%
を生じる応力の最小値
を用いている。なお,Smtについては,
図にその例を示すが,高温になるほど,
また長時間になるほど,Stによって値が
定まるようになっており,Sm単独の場合
よりも厳しい制限になることがわかる。
SUS316(Type316SS)のSmt
出典:ASME Code Case N-47
105 hr =11.42 year
3x105 hr = 34.26 year
11
(2.2) 高温構造に対する1次応力の制限(2)
1次一般膜応力Pm制限:運転状態IおよびIIでは以下のとおり。
Pm≦Smt
1次曲げ応力Pb制限:
Pb≦KtSt
容器の腹部における純曲げ状態を示
す。弾性計算によると,分布は直線的
であり,縁で応力が最大値Pbとなる。
この状態で高温に保持することを考え
る。
Pbが,材料の降伏点を越えないとき,
図(a)の線形分布は,t=Oでの実際の
応力分布を表している。高温保侍中に
クリープが生じると,応力分布は時間
とともに変化する。縁近傍では高応力
のためクリープが著しいので,断面内
の応力は,図(b)のように,縁近傍で
低下し,一方内部で増大してクリープ
に対してなじんだ分布となる。
この応力分布状態の断面内応力最大値Pb‘は,
弾性計算による応力最大値Pbから減少してい
るので,Pb’/Pbの比をKtとすれば,1次曲げ
応力に対する制限は,
Pb≦KtSt
12
(2.2) 高温構造に対する1次応力の制限(3)
クリープに関する形状係数 Kt
ノルトン則
ε c  Bσ n の係数の関数となる
矩形断面はり:
K t  3n/ 2n  1
円形断面はり:
2n 136n 2  42n  3
Kt 
π2n  14n  16n  1
薄肉管:
Kt 

22n  1/2n
π3n  1/2n

(Γ:ガンマ関数)
13
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)
定常的に作用している1次応力に,
熱応力(2次曲げ応力)が繰返し加わ
る場合の変形の進行の様子をBree線
図でS1領域にある場合について図に
示す。クリープの影響が無視できる
温度(ここでは,低温とよぶ)の場
合①では,第1回目の熱応力の作用
時に塑性ひずみが生じるが,以降の
サイクルでは変形は進行しない,
これに対し,クリープの影響が無視
できない高温領域の場合②では第1
サイクル以降においても進行性の変
形がみられる(クリープラチェット)。
このクリープラチェットの発生理由
については二つのメカニズムが考え
られている。
定常的1次応力と繰返し2次応力の組合せ
におけるひずみの変化の概念図(S1領域)
14
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)(2)
温度サイクルと肉厚内応力分布の時間変化図
(S1領域の場合)
15
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)(3)
S1領域の温度サイクルと対応する円筒殼の肉厚内応力分布
温度サイクルは,定格運転(高温状態)→熱的過渡変化による冷却→定格運転への復帰と
いう一連のサイクルを考えて,図において(1) →(2)→(3)→(4) →(5) →(2)とする。こ
こでは図の場合と同じく、定常的1次応力と繰返し性の2次曲げ応力の組合せが,Bree線図
でS1領域にある場合を考える。
この温度サイクルに対応する円筒殼の肉厚内応力分布は,図において
(a)→(b)→(c)→(d)→(b)となる。応力分布が低温の場合と異なる点は,断面内の弾性領
域で,1次応力レベルσpよりも応力が増加した部分(弾性核とよばれている)で,高温保
持中に応力緩和が起こり応力分布が平担化することである。
弾性核:
肉厚の中
央部分にあって,温度サイクル中つねに弾性応力状態にある。弾性核は非ラチェット領域
のS1,S2およびP領域には認められるが,ラチェット領域のR1およびR2では肉厚内のすべ
てが一度は降伏するので弾性核は存在しない。
16
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)(4)
クリープラチェットのメカニズム1
図(c)にみられるように,高温保持の開始時に
肉厚内に定常的な1次応力レベルらよりも高応力の部分が存在するので,定常的な1次応
力が単独に作用している場合よりもクリープによる平均ひずみの増加が促進される(図(e)
参照)。この現象を促進クリープとよぶ。
クリープラチェットのメカニズム2
低温の場合は,長時間保持しても図(c)の応力
分布の形は変わらないので,熱荷重を負荷しても図(b)の応力分布に弾性変化するだけで
ある。したがって,図(c)に示す応力分布は,シェイクダウンに適合する残留応力場と
なっており,塑性ラチェットの防止の上からは有益な効果を有している。ところが,高温
領域では,図(d)にみられるように,高温保侍中にクリープにより応力分布は平担化する
ので,この有益な効果が失なわれてしまうのである。たとえば,高温保侍中に著しくク
リープが進み,肉厚内の応力分布が図(a)に示すように一定値σpにまで完全に平担化する
と,温度サイクルごとに図に示した低温の場合の第1サイクル目と同量の塑性ひずみが生
じることになる。
17
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)(5)
クリープラチェットによって累積されるひずみ量⊿εCR
以上に説明したメカニズムにより,図に示すように,低温では最初の温度サイクル(t=t1)
以降はひずみが一定である場合に対しても,高温領域では,高温保持中(t1~t2,t2~
t3,‥・)には促進クリープひずみが生じ(メカニズム1),また熱荷重の負荷時(t=t2,t3,‥・)
には塑性ひずみが発生して(メカニズム2),平均ひずみが一方向に進行していく。
以下ではこのようなクリープラチェットに対する設計基準についてASME
を例にとり説明する。
Code Case N-47
ASME Code Case N-47 では,クリープラチェットによって累積されるひずみ量⊿εCRに対
して,0'DonnellとPorowskiによって開発された簡易的な上界評価法を与えている。
弾性核に着目すると,メカニズム1によるひずみ増大は初期応力がσ1,末期応力がσ2で
あるクリープひずみ⊿εC (σ1→σ2)の発生,弾性核応力の低下による弾性ひずみの減少
((σ1→σ2)/Eだけ減少)を伴うが,後者の減少分は,次サイクルの熱荷重負荷時にメカニズ
ム2による塑性ひずみ増分として発生するので,結局メカニズム1とメカニズム2の両者に
よるひずみ増大⊿εCRは⊿εC (σ1→σ2)に等しい。
18
6.2.3
ひずみの制限 (クリープラチェット)(6)
クリープラチェットによって累積されるひずみ量⊿εCR(2)
⊿εC (σ1→σ2)を正確に算出するには保特待間中の応力履歴に基づいて詳細に数値
計算する必要があるが,⊿εC(σ1→σ2)は初期応力σ1が保持時間中維持されるとした
ときのクリープひずみ⊿εC (σ1→σ1)より小さいことは明らかである。⊿εC
(σ1→σ1)は容易に計算することができる。したがって,クリープラチェットによる
累積ひずみ量は,弾性核の応力が保持時間中維持されるとした簡易評価によって上界
を算出することができる。ここで,弾性核の応力σ1を無次元化したパラメータz(=
σ1/σy)は,Bree線図の各領域に対して次のように求められる。
S1領域:
z  1  y  2 1  x y
S2,P領域:z=xy
ここに,
x  σ p /σ y
y  σ T /σ y
σT 
EααΔ
21  ν 
ASME Code Case N-47 では,上述したO'DonnellとPorowskiの方法を取り入れて,
クリープラチェットによる累積ひずみ量を
1  1.25  z  S y
ここで,Syは設計降伏点,1.25は安全係数
で定義される応力が評価期間中維持される場合に生じるクリープひずみによって評
価している。
19
(2.3)
ひずみの制限 (クリープラチェット)(7)
クリープラチェットに対する設計基準
設計基準では,クリープラチェット,弾性追従に
よって蓄積される非弾性ひずみを,構造健全性の確保
という観点からある一定限度内に制限している。たと
えば,膜ひずみ(壁厚平均ひずみ)についてみると,制
限値は1%とされている。この値は,1次応力の制限値
Stの策定法③の1%に対応していると考えられる。なお,
非弾性ひずみの制限は,三つの主ひずみのうちの最大
正値に対して適用される。また,溶接金属に対しては,
制限値を1/2にして適用される。
なお,クリープラチェットに対する評価法について
は,上述したASME Code Case N-47のような理論的なア
プローチの他に,フランスの高温設計基準では,多数
のラチェット試験より導かれた実験式を基礎にして評
価を行うアプローチをとっている。
母材の制限値
膜ひずみ
曲げひずみ
0.01
0.02
20
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限
クリープ疲労損傷に対する設計基準
高温領域では,ひずみ保持を伴う繰返し荷重を負
荷すると,破損までの寿命は,ひずみ速度が大きく,
ひずみ保持を伴わない連続的なひずみ繰返しの場合
よりも低下することが知られている(クリープ疲労)。
そこで,設計上,クリープ疲労に対処するためには,
ひずみ保侍中に材料が受ける損傷を適切に評価の中
に取り入れる必要がある。
クリープ疲労寿命の評価式としては,種々の学説
があるが,思想が簡明であること,実設計へ適用が
容易であることなどの理由から,現状では,線形累
積損傷則(linear damage summation rule)とよばれ
る概念が設計基準に採用されている。すなわち,ク
リープ疲労に関して,累積疲労損傷係数DFおよび累
積クリープ損傷係数Dcを用いて
累積クリープ疲労損傷
係数の制限値D
DF  DC  D
21
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限(2)
累積疲労損傷係数DF
累積疲労損傷係数DFは,マイ
ナー則により
DF 

i
ni
N di
ni:ひずみ範囲がεtiである
ひずみサイクルの繰返し数,
Ndi:ひずみ範囲がεtiに対す
る許容繰返し数
SUS316(Type 316SS)の設計疲労線図εt(繰返し
ひずみ速度が10-3 in/in/sec 以上の場合)
出典:ASME Code Case N-47
22
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限(3)
累積クリープ損傷係数Dc
累積クリープ損傷係数Dcは,時間分数
和により

ti
Tdi
i
ti:応力レベルがσiに保持している間
の継続時間,
DC 
Tdi:応力レベルがσiの場合に対する
許容時間(クリープ破断時間に安全裕度
を含めたもの)
クリープ損傷が主として発生している
と考えられるひずみ保持中(時間t1~
t2)で,応力はクリープにより刻々緩和
しているので,累積クリープ損傷係数
は,次の積分形で表される。
DC 

t2
t1
SUS316(Type 316SS)のクリープ破断応力
(最小値)
出典:ASME Code Case N-47
dt
Td σ 
23
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限(4)
応力ーひずみの挙動
ひずみ保持を伴うひずみ制御負荷サイクル中の応力ーひずみの挙動
24
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限(5)
評価の留意点
(1)残留応力の評価
図(a)において,ひずみ振幅(ひずみ範囲の
1/2)が,降伏ひずみを上回るような負荷サイクル
を考えると,図(c)に複式的に示すように,ひず
み=0に復帰した点Dにおいて,残留応力が残るこ
とになる。残留応力の大きさは,ひずみサイク
ルにおけるひずみ振幅の大きさ,平均ひずみの
大きさ,保持時間中の応力緩和の程度などに
よって異なる。
D点以後高温状態が続く場合は,ひずみはゼロであるにもかかわらず,累積クリープ
損傷係数は残留応力から緩和応力レベルに応じた値として算出される。実際の構造機器
においても,過渡的熱ひずみが降伏ひずみを越えるような大きい熱的過渡変化を受けた
場合には,過渡変化が終った後でも残留応力が残り,引き続く高温サイクル中にクリー
プ損傷に寄与することが考えられる。したがって,実設計では,累積クリープ損傷係数
を適切に評価するために残留応力の大きさを正確に推定することが重要となる。
25
(2.4)
クリープ疲労損傷の制限(6)
評価の留意点(2)
(2)弾性追従の影響
一般に高温設計では弾性追従を伴う2次応力の取扱いが重要となるが,クリープ疲
労損傷評価においても同様でその取扱いには注意を要する。
① 図にみられるように,弾性追従を伴う構造系では,変位制御型の応力が生じた
としても,構造系の中の弱い部分にひずみが集中し,弾性的に計算されるひずみに比
べて,大きな値になる。したがって,弾性追従を伴う構造系では,累積疲労損傷係数
の評価において、弾性追従によるひずみ範囲の拡大効果を考慮する必要がある。
② 弾性追従を伴う構造系では,応力緩和の速度が低下する。すなわち,弾性追従
を伴う構造系では,ひずみ保侍中の2次応力のレベルは,弾性追従を伴わない純粋な
ひずみ制御型の場合に比べて高くなっている。応力が高いと図に示すように許容時間
Tdは短くなるので累積クリープ損傷係数はそれだけ増加することになる。このように,
累積クリープ損傷係数の評価においては,弾性追従による2次応力の緩和速度の低下
を考慮することが重要である。
26
(2.5)
クリープ座屈の防止
(1)時間に依存する座屈と時間に依存しない座屈
クリープ領域にある高温構造では,弾性座屈,弾塑性座屈(これらは時間に依存
しない座屈(time independent buckling)ともよばれる)の座屈値以下の荷重を載荷
した場合でも,ある一定時間を経過すると,非常に大きな変形をもたらし不安定現
象を生じることがある。この現象を,一般に,クリープ座屈(creep buckling),ま
たは,時間に依存する座屈(time dependent buckling)とよんでいる。クリープ座屈
に対する解釈として実際の構造物に潜在する初期不整が時間の経過とともにクリー
プにより増大し,ある有限な時間で変位速度が無限大になるという考え方がある。
(2)荷重制御型座屈とひずみ制御型座屈
荷重制御型座屈とは,外荷重が座屈後においても引き続き作用するもので,たとえ
ば,外圧を受ける球殼や円筒殼の座屈があげられる。一方,ひずみ制御型座屈は,座
屈の開始とともに,ひずみにより引き起こされる荷重が直ちに減少し,また結果とし
て生じる変形が自己制限的な性質を有するものである。たとえば,面内の熱膨張を拘
束された平板や殼の座屈がある。
27
(2.5)
クリープ座屈の防止(2)
(3)適用する安全係数の考え方
以上の検討より,クリープ領域における座屈様式は,図のように分類される。設計
者は,対象機器に載荷される荷重が,これらの様式の座屈に対して適切な安全余裕を
有していることを確認しなければならない。ここで,確保すべき安全裕度は,座屈様式
の特徴を配慮して設定する必要がある。すなわち,時間に依存しない座屈では,荷重
制御型座屈は,座屈後も荷重が減少することなく,急激な破損に至る可能性があるの
で,十分な安全係数が必要であるのに対し,ひずみ制御型座屈は,座屈が生じたとして
も,その後も平衡状態を保ち破損に至らないことが期待できるので,荷重制御型座屈に
対するよりも安全係数は低くてよいと考えられる。
以上の考察に基づいて,座屈様式の特徴に応じてそれぞれ確保すべき安全係数が設
定される。たとえば,運転状態(I)の場合の安全係数は以下のとおりである。
安全係数(運転状態Ⅰ)
 荷重制御型座屈 3
時間に依存しない座屈 
ひ ずみ制御型座屈 1.67
 荷重制御型座屈 1.5
時間に依存す る座屈 
ひ ずみ制御型座屈 1.0
28
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