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ス スイス イ ス Swiss Confederation ①人口:778 万人(2009 年末) ②面積:4 万 1,284k ㎡ ③1 人当たり GDP:6 万 7,560 米ドル (2009 年) ④実質 GDP 成長率(%) ⑤貿易収支(スイス・フラン,財のみ) ⑥経常収支(スイス・フラン) ⑦外貨準備高(米ドル) ⑧為替レート(1 米ドルにつき, スイス・フラン,期中平均) 〔出所〕①②:スイス連邦統計局,③⑦⑧:IMF,④~⑥:スイス国立銀行 2007 年 3.6 139 億 5,492 万 468 億 3,400 万 444 億 7,420 万 1.2004 2008 年 1.8 194 億 4,677 万 110 億 8,500 万 450 億 6,090 万 1.0831 2009 年 △1.5 202 億 6,360 万 446 億 6,400 万 981 億 9,940 万 1.0881 2009 年のスイス経済は,世界的な景気後退のあおりを受けて,実質 GDP 成長率がマイナス 1.5%と落ち込んだ。貿易額は,輸出 入ともに 10%以上の減少となったが,貿易収支の黒字幅は過去最大だった前年を上回った。対内対外ともに直接投資は活発さ を欠き,不況の影響による資金調達難などから引き揚げ事例も多くみられた。対日貿易は,輸出が増加した一方,輸入が減少し たため,貿易黒字額が拡大した。2009 年 9 月に,日本スイス自由貿易経済連携協定(FTEPA)が発効し,両国間の貿易と投資の 促進が今後期待される。 ■輸出と設備投資の不振から景気後退 229 ■輸出入とも大幅減少したが,貿易黒字は拡大 2009 年の貿易(通関ベース)は,輸出が前年比 12.5% 減の 1,805 億 5,100 万スイス・フラン(以下 CHF),輸入は 同 14.2%減の 1,603 億 3,200 万 CHF となり,ともに前年 を大きく下回った。貿易収支については,202 億 1,900 万 CHF の黒字となり,過去最高となった 2008 年の 194 億 4,600 万 CHF を上回った。 輸出を商品別にみると,最大輸出品目の医薬品が全体 の 32.2%を占め,前年比 5.3%増と唯一好調だった。もと もと医薬品は景気の影響を受けにくい品目であるのに加 え,新型インフルエンザの流行により予防治療薬が活発 に輸出された。医薬品以外については,ほとんどの品目 で大幅な減少となったが,中でも金属・同製品(5.8%)は 31.3%減と減少幅が最も大きい。これは,世界的な自動 車産業不振の影響と年初の価格低迷によりアルミニウム が 33%減と不調だったことによる。また,輸出商品全体の 18.7%を占める機械および電気・電子機器が 22.9%減, 精密機械・時計・装身具(18.0%)が 14.7%減など,ほとん どの分野で受注減少の打撃を受けた。スイス時計協会 (FH)によれば,時計(7.3%)の輸出は 2008 年上半期ま では輸出の増加が続き好調だったが 11 月から輸出額が 減少に転じ,2009 年は前年比 22.3%減という結果となっ た。しかし,2010 年に入り,再び輸出が増加し始めており, 第 1 四半期の輸出額は前年同期比 16.6%増となった。 国・地域別では,全体の 60.4%を占める EU 向け輸出が 前年比 14.5%減となった。特に,最大の輸出相手国ドイ ツ(構成比 19.5%)が 15.6%減と不振だったのをはじめ, イタリア(8.6%),フランス(8.4%),英国(4.7%)が順に 欧 州 2009 年のスイス経済は,世界的な金融危機および景気 後退の影響を受け,実質 GDP 成長率はマイナス 1.5%と なり,1975 年以来最大の下落幅となった。2009 年の GDP 成長率を需要項目別にみると,これまで経済成長を牽引 していた輸出が前年比 9.3%減と大きく後退,加えて景気 の先行きが不確実なために設備投資も 7.5%減となった。 これらの背景には,金融・保険分野の業績不振などがあ る。他方,個人消費が 1.2%増,公共消費が 2.5%増,さら に建設投資が 1.3%増と堅調な内需が景気を下支えした。 また,不況のあおりを大きく受けた自動車が製造業の主 要産業ではないこともあって,スイスの景気の後退幅はユ ーロ圏や米国,日本などの先進国に比べ,小幅に留まっ た。2009 年後半からは,輸出や設備投資などが回復し, 徐々に景気回復の兆しを見せた。2010 年に入ってもこの 回復基調が継続していることから, 2010 年の実質 GDP 成長率について,連邦経済省経済事務局(SECO)は, 2009 年末の予測(0.7%)を上方修正し,1.8%(2010 年 6 月予測)と見込む。 2009 年に入って減少を続けた雇用数は,第 4 四半期に は増加に転じた。 失業率(2009 年通年で 3.7%)も 2010 年の 1 月の 4.5%をピークに下がり始めた。しかしそのペ ースは緩慢で,2009 年 10 月から 2010 年 4 月までスイス としては高い 4%台の失業率が続いた。輸出が欧米諸国 の景気回復頼みであることに加え,ユーロ圏の債務危機 に伴うユーロに対するスイス・フラン高,それに伴うデフレ 懸念など,2010 年の経済に不安要因は少なくない。 消費者物価上昇率(年平均)は,石油価格の下落と,経 済の全般的な停滞によって,2009 年は前年比 0.5%減だ った。スイス中央銀行は景気刺激を目的として金融危機 直前には 2.25%~3.25%だった 3 ヵ月物ロンドン銀行間 取引金利(LIBOR,政策金利)の目標範囲を 5 回にわたり 引き下げ 2009 年 3 月以降 0~0.75%に据え置いている。 表 1 スイスの主要品目別輸出入<通関ベース> 輸出(FOB) 2008 年 2009 年 2008 年 金額 金額 構成比 伸び率 金額 農・林業製品 8,455 4.6 △ 2.3 14,199 8,262 燃料・エネルギー 6,513 5,296 2.9 △ 18.7 17,467 繊維・衣料・靴 4,468 3,688 2.0 △ 17.5 10,040 紙・紙製品 3,600 2,938 1.6 △ 18.4 5,646 皮革・ゴム・プラスチック 5,199 4,171 2.3 △ 19.8 6,616 化学品 71,918 71,744 39.7 △ 0.2 38,272 医薬品 55,274 58,180 32.2 5.3 23,749 金属・同製品 15,276 10,489 5.8 △ 31.3 18,089 機械および電気・電子機器 43,806 33,764 18.7 △ 22.9 35,611 産業用機械 27,201 19,726 10.9 △ 27.5 14,945 電気・電子機器 13,515 11,327 6.3 △ 16.2 11,530 輸送用機器 6,094 5,357 3.0 △ 12.1 16,750 道路輸送用機器 2,341 1,847 1.0 △ 21.1 13,431 精密機械・時計・装身具 37,988 32,415 18.0 △ 14.7 15,139 精密機器 14,909 13,843 7.7 △ 7.2 7,101 時計 17,034 13,230 7.3 △ 22.3 2,764 家具・玩具 1,956 1,560 0.9 △ 20.2 5,862 合計(その他を含む) 206,330 180,551 100.0 △ 12.5 186,884 〔注〕 表 2,10 とも,財のみ。貴金属・宝石,美術・骨董品を除く。 〔出所〕 表 2,10 とも,スイス連邦関税局。(2009 年は暫定数値) 表 2 スイスの主要国・地域別輸出入<通関ベース> EU27 ユーロ圏 ドイツ イタリア フランス 非ユーロ圏 英国 ポーランド チェコ ハンガリー 米国 日本 中国 インド ロシア 韓国 トルコ 合計(その他を含む) 輸出(FOB) 2008 年 2009 年 金額 金額 構成比 127,693 109,133 60.4 107,541 92,311 51.1 41,806 35,286 19.5 18,233 15,455 8.6 17,728 15,224 8.4 20,152 16,822 9.3 9,695 8,526 4.7 2,444 1,815 1.0 1,852 1,476 0.8 1,169 999 0.6 19,467 17,660 9.8 6,288 6,821 3.8 5,529 5,403 3.0 2,337 2,144 1.2 3,156 2,115 1.2 1,889 1,883 1.0 2,468 1,801 1.0 206,330 180,551 100.0 2008 年 伸び率 金額 △ 14.5 151,779 △ 14.2 138,325 △ 15.6 64,775 △ 15.2 21,351 △ 14.1 18,044 △ 16.5 13,454 △ 12.1 5,991 △ 25.7 1,278 △ 20.3 1,803 △ 14.5 1,158 △ 9.3 9,446 8.5 2,971 △ 2.3 4,980 △ 8.3 897 △ 33.0 479 △ 0.3 646 △ 27.0 809 △ 12.5 186,884 15.2%減,14.1%減,12.1%減といずれも大幅減となった。 スイス・フランは 2009 年を通じて,ユーロおよび欧州通貨 に対して高く推移しており,対ユーロで 5%程度,英国ポ ンドや中・東欧諸国通貨に対しては 15%~20%高くなっ た。このため,2004 年の EU 加盟以来輸出が増加傾向で あったポーランド向け(1.0%)が 25.7%減,チェコ向け (0.8%)が 20.3%減,ハンガリー向け(0.6%)が 14.5%減 などいずれも激減した。スイスにとっては欧州の新興市場 230 であるロシア向け(1.2%)の 33.0%減,トルコ向け(1.0%) の 27.0%減などの減少ぶりも 著しい。EU に次ぐ輸出先で ある米国向け(9.8%)も 9.3% 減と不振だった。アジア諸国 で は 中 国 向 け ( 3.0 % ) が 2.3%減,韓国向け(1.0%)が 0.3%減で,欧州諸国と比較 して減少幅は小さかった。ス イスの主要貿易パートナーの 中で,輸出が増加したのは医 薬品が好調だった日本向け (3.8%)の 8.5%増だけだっ た。 輸入を品目別にみると,ほ ぼ全品目で減少した。輸入全 体の 21.8%を占め最大品目 の化学品は,医薬品(14.6%) の減少幅が 1.3%減にとどま ったものの,化学産業の原料 となる基礎化学品が 26.5%減 (単位:100 万 CHF,%) と大幅減となったため,化学 輸入(CIF) 2009 年 品全体では 8.7%減となった。 金額 構成比 伸び率 これに次ぐ機械および電気・ 80.3 △ 15.2 128,743 電子機器(構成比 18.3%)も 72.8 △ 15.7 116,672 53,823 33.6 △ 16.9 17.5%減と不振だった。輸出 17,922 11.2 △ 16.1 同様,金属・同製品(7.7%)も 15,360 9.6 △ 14.9 31.9%減と大幅減となるなど, 12,071 7.5 △ 10.3 ほとんど全ての分野で減少と 5,587 3.5 △ 6.7 1,115 0.7 △ 12.8 なった。前年大幅増だった燃 1,707 1.1 △ 5.3 料・エネルギー(7.5%)も石油 920 0.6 △ 20.6 価格下落により,31.0%減と 8,120 5.1 △ 14.0 2,753 1.7 △ 7.3 減少した。道路輸送用機器 5,139 3.2 3.2 (7.2%)も 13.8%減だった。 744 0.5 △ 17.1 乗用車の輸入台数は 11.7% 523 0.3 9.2 415 0.3 △ 35.8 減とスイス国内の景気低迷を 689 0.4 △ 14.8 反映して減少している。また, 160,332 100.0 △ 14.2 精密機械・時計・装身具 (9.6%)が唯一 1.5%増という 伸びを見せたが,これは金の価格が上昇したことと,ベト ナム政府が外貨繰り改善を目的に制限付きで金輸出を 解禁したことから同国からの金地金(加工用)の輸入量が 増えたことによる。 国・地域別では,EU が全体の 80.3%を占めて最大だが 15.2%減少した。国別ではドイツが最大で 33.6%を占め, イタリア(構成比 11.2%),フランス(9.6%)と上位 3 ヵ国だ けで 54.4%に達するが,いずれも順に 16.9%減,16.1% (単位:100 万 CHF,%) 輸入(CIF) 2009 年 金額 構成比 伸び率 8.3 △ 6.3 13,306 12,060 7.5 △ 31.0 9,040 5.6 △ 10.0 4,949 3.1 △ 12.3 5,810 3.6 △ 12.2 34,925 21.8 △ 8.7 23,434 14.6 △ 1.3 12,323 7.7 △ 31.9 29,366 18.3 △ 17.5 12,026 7.5 △ 19.5 9,210 5.7 △ 20.1 15,043 9.4 △ 10.2 11,578 7.2 △ 13.8 15,372 9.6 1.5 6,491 4.0 △ 8.6 2,226 1.4 △ 19.5 5,237 3.3 △ 10.7 160,332 100.0 △ 14.2 ス 表 3 スイスの対内・対外直接投資の推移 <国際収支ベース,ネット,フロー,残高> (単位:100 万 CHF) 2009年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 末残高 対内直接投資額 △1,184 39,132 62,037 5,508 10,550 477,945 対外直接投資額 63,651 95,071 67,931 55,393 16,867 829,325 〔注〕 表 4~5,7~8 とも 2007 年,2008 年は暫定値,2009 年は速報値。 〔出所〕 表 4~5,7~8 とも,スイス国立銀行。 イ ス 年に大きく減少したロシアからの輸入は回復し 9.2%増と なった。リビアは近年,スイスの石油輸入先として輸入量 が急増しており,2008 年には前年より倍増したものの,同 年秋にスイスとリビアの外交関係が悪化,2009 年には同 国からの石油輸入は 80%減となった。代わってアゼルバ イジャンからの輸入額が 3 倍に拡大した。 ■対内・対外ともに投資は全般に低調 表 4 スイスの業種別対内直接投資<国際収支ベース> (単位:100 万 CHF,%) ネット,フロー 残高 2007 年 2008 年 2009 年 2008 年末 構成比 製造業 4,555 72,308 15.5 28,198 209 化学 17,188 △ 541 n.a. 39,440 8.4 金属・機械 6,375 1,014 n.a. 9,659 2.1 電気・光学・時計等 3,655 △ 988 n.a. 14,780 3.2 サービス 33,839 5,299 5,994 394,813 84.5 商業 2,431 △ 6,057 n.a. 41,810 9.0 資金運用 18,393 6,470 5,030 269,980 57.8 銀行 3,420 2,603 n.a. 38,380 8.2 保険 1,615 1,304 n.a. 11,026 2.4 運輸・情報 6,618 314 n.a. 12,747 2.7 合計(その他を含む) 62,037 5,508 10,550 467,122 100.0 減,14.9%減と大幅減となった。スイス側の景気の低迷も 一因ではあるが,スイス・フラン高により,数量ベース以上 に金額ベースの減少幅が大きい。米国(5.1%)からの輸 入も 14.0%減少した。中国(3.2%)からの輸入は年々増 加しており,2009 年も 3.2%増と堅調な伸びを示した。前 231 欧 州 表 5 スイスの国・地域別対内直接投資<国際収支ベース> (単位:100 万 CHF,%) ネット,フロー 残高 2007 年 2008 年 2008 年末 構成比 欧州 71.2 57,069 △ 5,390 332,653 EU27 58,181 △ 4,433 329,370 70.5 オランダ 21,632 △ 14,690 93,645 20.0 オーストリア 13,031 4,139 61,143 13.1 ルクセンブルク 833 11,095 58,404 12.5 ドイツ 16,113 △ 689 38,126 8.2 フランス 1,919 △ 2,883 34,578 7.4 英国 △ 460 △ 4,409 9,627 2.1 イタリア 778 1,187 5,844 1.3 ベルギー 931 △ 1,973 4,365 0.9 スペイン △ 263 15 4,151 0.9 スウェーデン 1,394 467 3,295 0.7 北米 4,825 12,628 88,079 18.9 米国 3,770 13,290 86,471 18.5 中南米 184 △ 1,513 42,634 9.1 アジア・大洋州・アフリカ △ 42 △ 218 3,756 0.8 日本 △ 44 △ 491 628 0.1 62,037 5,508 467,122 100.0 合計(その他を含む) 〔注〕 表 8 とも 2009 年の国別統計は未発表。 スイス国立銀行によれば,2008 年の対内直接投資額 (国際収支ベース,ネット,フロー,対外も同じ)は,55 億 800 万 CHF となり,過去最高を記録した 2007 年の 620 億 3,700 万 CHF を大きく下回った。2007 年には,外国企 業によるスイス企業の大型買収や再投資が盛んに行われ たが,2008 年には買収・再投資とも減少し,投資引き揚げ のケースも多々みられた。製造業関係では,フランスの LVMH モエヘネシー・ルイヴィトン(飲料・衣類等ブランド 品)によるウブロ(時計)の買収(5 億 CHF),オランダのハ イネケン(ビール)によるアイヒホフ飲料部門(同)の買収 (2 億 9,000 万 CHF),ドイツのボッシュ(自動車機器,電 動工具)によるジア・アブラシブス(研磨機システム)の買 収(1 億 5,400 万 CHF)など,比較的小規模な取引に留ま った。サービスでは,金融分野で利潤の再投資が減少し, 商業分野で投資引き揚げが行われた。国・地域別にみる と,対内投資の大半が欧州および米国からで占められて いることがわかる。しかし 2008 年は,EU からの投資引き 揚げが多く行われた。 2009 年の対内直接投資額は,105 億 5,000 万 CHF(ス イス国立銀行速報値)となり,前年に比べ増加したものの, 金融危機による資金調達難も影響し,投資活動は低調だ った。詳細な業種別統計は 2010 年 6 月現在発表されて いないが,製造業部門は 45 億 5,500 万 CHF で前年の 2 億 900 万 CHF から拡大した。また,サービス部門は 59 億 9,400 万 CHF でほぼ前年並となっており,そのうち 50 億 3,000 万 CHF は資金運用部門によるものだ。主要投資案 件をみると,最大は 8 月にアフリカ西部で油田開発を行っ ているアダックス・ペトロリアムを中国石油化学集団公司 (シノペック)が 75 億 6,500 万ドルで買収した案件だ。これ に次ぐのが,前年着手したドイツの BASF(化学)によるチ バ・スペシャリティ・ケミカルズの買収(61 億 CHF)である。 化学部門ではこのほか,三菱樹脂がオランダ子会社アク アミットを通じてプラスチック加工大手クオドラントを買収し た案件のほか,7 月にはフランスのサノフィ・アベンティス (医薬品)によるヘルべファルマ(後発医薬品)の買収,9 月のスペインのナトラ(チョコレート)によるバリー・カレボー (チョコレート)の家庭用チョコレート部門の買収,ドイツの SAP(IT サービス)による SAF(同)の買収などがあげられ る。 表 6 2009 年のスイスの主要対内直接投資案件 買収・投資企業(業種) 買収・投資企業の国籍 中国石油化工集団公司 中国(カナダ法人経由) (石油) BASF(化学) バークシャー・ハサウェイ (損害保険) パートナー再保険 エリクソン・モバイル・プラッ トフォームズ(通信機器) アーバル・インベストメンツ (投資会社) アクアミット(三菱樹脂のオ ランダ子会社) カッサ・デポジティ・プレス ティティ(金融) ゼリア新薬工業(医薬品) ドイツ 米国 バミューダ スウェーデン スイス企業(業種) アダックス・ペトロリアム(石油開発) チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(化学,出資 比率:95.94%) スイス・リー(再保険,出資比率を 23.19%に 引き上げ) パリ再保険 ST-NXP ワイヤレス SA(電子部品)合弁会 社設立(出資比率 50:50) 金額 時期 75 億 6,500 万ドル 8月 61 億 CHF 4月 30 億 CHF 3月 14 億ドル 7,10,12 月 11 億ドル 2月 アラブ首長国連邦 AIGプライベート銀行 4 億 7,000 万 CHF 4月 日本 クオドラント(プラスチック加工,出資比率 95.36%) 1 億 4,850 万 CHF 8月 イタリア ST マイクロエレクトロニクス(半導体) n.a. 12 月 1 億 3,600 万 CHF 9月 5,300 万 CHF 10 月 日本 SAP (ソフトウェア) ドイツ 〔出所〕 表 9 とも各社発表,各種報道に基づきジェトロ作成 ティロッツ・ファーマ(医薬品,出資比率: 13.77%) SAF (ソフトウェア,出資比率:61.64%) 金融・保険部門では,3 月に米国のバークシャー・ハサ ウェー(ホールディング)がスイス・リー(再保険)への出資 比率を拡大したほか,バミューダのパートナー再保険が パリ再保険を買収した。 スイスの有利な税制や立地条件の良さに加え,優秀な 人材の豊富さ,多国籍企業が多く存在し国際的に開放的 であることなどを理由に,スイスに本社を移転したり欧州 支社を開設したりする例は引き続き多い。2009 年には, 米国のロード・コーポレーション(航空産業技術),プラット &ホイットニー(航空機用エンジン),マクドナルド(ファース トフード),ノルウェーのセンソナー・テクノロジーズ(セン サー開発),英国のザ・エコノミスト・グループ(出版),仏・ 伊・スウェーデンの ST エリクソン(携帯電話技術),米国の ステメディカ(バイオテクノロジー)などが,それぞれ国際 本社や欧州統括拠点をスイス国内に設立している。なお, スイスでは,2010 年 1 月より付加価値税(VAT)法が改正 され,EU では VAT 課税事業者とはみなされていない「純 粋持株会社」でもスイス国内で登記し VAT 登録をしてい 表 7 スイスの業種別対外直接投資<国際収支ベース> (単位:100 万 CHF,%) ネット,フロー 残高 2007 年 2008 年 2009 年 2008 年末 構成比 製造業 3,605 325,013 40.2 24,847 37,055 化学 7,308 14,785 n.a. 139,028 17.2 金属・機械 5,079 4,307 n.a. 50,228 6.2 電気・光学・時計等 827 8,874 n.a. 36,004 4.5 サービス 43,084 18,337 13,262 483,554 59.8 商業 △ 381 3,886 n.a. 27,501 3.4 資金運用 21,780 8,454 5,256 243,574 30.1 銀行 12,187 13,589 n.a. 92,706 11.5 保険 △ 3,444 △ 7,994 n.a. 96,870 12.0 運輸・情報 7,556 592 n.a. 11,788 1.5 合計(その他を含む) 67,931 55,393 16,867 808,566 100.0 232 れば,一部 VAT の税控除を受けることが可能になった。 2008 年の対外直接投資額は,553 億 9,300 万 CHF で, 前年を下回ったが,投資活動は引き続き活発だった。ノ バルティス(医薬品)によるネスレが所有する米国のアル コン(眼科医療機器)株の買収(113 億 CHF),ロシュ(医 薬品)による米国のベンタナ(同)買収(38 億 8,400 万 CHF)など医薬品や医療機器が例年同様,活発だったほ か,エクストラータ(鉱山開発)によるオーストラリアのジュ ビリーマインズ(同)買収(32 億 CHF)など資源関連の案 件もみられた。スイスの対外投資残高を国・地域別にみる と,欧米だけで 7 割弱を占め,アジアは全体の 1 割に満た 表 8 スイスの国・地域別対外直接投資<国際収支ベース> (単位:100 万 CHF,%) ネット,フロー 残高 2007 年 2008 年 2008 年末 構成比 欧州 46.3 42,360 35,520 374,504 EU27 34,605 12,554 302,179 37.4 ドイツ 4,314 5,625 56,043 6.9 英国 7,490 △ 11,645 50,718 6.3 フランス 6,185 3,253 35,169 4.3 オランダ △ 618 4,811 34,891 4.3 ルクセンブルク 11,283 12,169 25,467 3.1 イタリア 8,490 952 21,894 2.7 スペイン △ 2,288 △ 94 15,398 1.9 ベルギー 1,269 258 12,493 1.5 オーストリア 671 △ 2,716 7,936 1.0 スウェーデン 104 1,926 4,124 0.5 北米 1,539 24,524 181,674 22.5 米国 △ 959 2,520 149,402 18.5 中南米 17,489 △ 9,664 157,325 19.5 アジア・大洋州・アフリカ 6,543 5,011 95,064 11.8 シンガポール △ 1,528 △ 16,606 8,159 1.0 日本 2,420 1,339 14,840 1.8 中国 776 1,420 6,781 0.8 インド 630 1,202 2,360 0.3 合計(その他を含む) 67,931 55,393 808,566 100.0 ス イ ス 表 9 2009 年のスイスの主要対外直接投資案件 スイス企業(業種) ロシュ(医薬品) グローバル・インフラストラクチャー・パー トナーズ(投資会社) エクストラータ(鉱山開発) チューリッヒ・ファイナンシャル・サービス (生命保険) ホルシム(セメント) ノバルティス(医薬品) グローバル・インフラストラクチャー (投資会社) ウェザーフォード・インターナショナル (石油開発) ソノバ・ホールディング(医療機器) ロギテック(コンピューター用機器) 被買収・投資先企業(業種) ジェネンテック(医薬品) 国籍 米国 買収・投資額 501 億 5,000 万 CHF 時期 3月 ロンドン・ガトウィック空港 英国 15 億ポンド 12 月 コロンビア 20 億ドル 3月 米国 19 億ドル 7月 メキシコ オーストリア 17 億 7,000 万 CHF 14 億 CHF 10 月 9月 米国 5 億 8,800 万ドル 9月 ロシア n.a. 7月 米国 4 憶 8,900 万ドル 11 月 米国 4 億 500 万ドル 12 月 プロデコ炭鉱(石炭) 21stセンチュリー・インシュアランス・グル ープ(AIGの米国個人向け自動車保険事 業部門) セメックス(セメント)の豪州事業 エーベーヴェー・ファーマ(医薬品) チェサピーク・エネジー(石油ガス開発)と JV設立 TBK-BP(石油開発) アドバンスド・バイオニクス(医療機器) ライフサイズコミュニケーションズ(TV会議 システム) 233 UBS はバンク・オブ・チャイナの所有株を売却し,さらに米 国に所有する UBS ウェルス・マネジメントの 55 支店をステ ィフェル・ファイナンシャル(投資銀行)に売却(5,180 万 CHF)した。 ■貿易,投資とも低調な中,日スイス経済連携 協定発効 2009 年の対日貿易は,輸出が前年比 8.5%増の 68 億 2,100 万 CHF,輸入が 7.3%減の 27 億 5,300 万 CHF と なった。ほとんどの主要貿易相手国への輸出が減少する 中,対日輸出は増加し,スイス側の貿易収支の黒字幅は 40 億 6,800 万 CHF に拡大した。 対日輸出品目をみると,最大の輸出品目は医薬品で全 体の 56.4%を占めている。2009 年は新型インフルエンザ の流行と,原料価格の値上がりにより 45.8%の増加であ った。これに次ぐのが時計(構成比 10.5%)だが,高価格 帯を中心とするスイスの時計は日本の不況により販売が 低迷し,34.9%減と大幅減となった。09 年に大幅な伸び を示した品目として,タバコ(2.8%)の輸出増加(4.3 倍) があげられる。フィリップ・モリスのスイス工場で生産された タバコについて,「これまで第 3 国を経由して日本に輸出 していた分を 2009 年から統計に入れることにした」(連邦 関税局)ことが背景にある。 対日輸入では,最大の輸入品目である乗用車(構成比 33.8%)が 7.8%増の伸びを示した。2009 年には円高が 進み,円はスイス・フランに対して 10%程度高くなった。 日本の乗用車輸出は欧州各国の景気低迷と円高により 苦戦したが,スイス向けは数量ベースでも 1.7%増で,ス イス全体の乗用車輸入が不振の中で健闘した。医薬品 (14.5%)も 12.7%増と好調だったが,建設機械(6.0%) が 14.6%減,化学原材料(5.2%)が 31.1%減,光学機器 (4.9%)が 15.5%減などにみられるようにそのほかの主要 欧 州 ない。今後は欧米以外,特にアジアなど新興市場向けの 投資拡大が期待されているが,2009 年も対外投資の殆ど が欧米に集中した。 2009 年の対外直接投資額は,168 億 6,700 万 CHF(ス イス国立銀行速報値)と,前年を大きく下回る結果となっ た。特に製造業では前年の 370 億 5,500 万 CHF から 36 億 500 万 CHF へと激減した。景気の先行き不透明感と資 金調達難によるもので,主要投資案件をみると,不況の 影響を免れ,大企業が多く自己資本の充実した医薬品業 界による活動の活発さが目を引く。2009 年の最大の投資 案件は前年に発表され 3 月に買収手続きが完了したロシ ュ(医薬品)による米国ジェネンテック(同)買収(501 億 5,000 万 CHF)である。また,9 月のノバルティス(同)によ るオーストリアのエーベーヴェー・ファーマ(後発医薬品) 買収(13 億 9,970 万 CHF)も大型案件だ。同社はワクチン の新興国での製造にも積極的に乗り出しており,11 月に は中国のワクチンメーカー浙江天元生物薬業の株式 85%を 1 億 2,820 万 CHF で取得した。サービス部門の直 接投資額は 132 億 6,200 万 CHF で前年の 183 億 3,700 万 CHF からは縮小した。金融・保険部門で大型案件とし てチューリヒ・ファイナンシャル・サービスによる米国の AIG (保険)の自動車保険部門の買収(19 億ドル)があった一 方で,金融危機による資金繰りのため,海外に所有する 資産を手放したり,部門を売却したりしたケースが多くみ られた。例えば,UBS は 7 月にブラジルに所有するバンコ UBS パクチュアル(金融サービス)を BTG インベストメンツ (投資)に売却(28 億 CHF)した。コフラ・ホールディング (プライベート・エクィティ)もブラジルに所有するバンコ IBI (銀行)をバンコ・ブラデスコ(銀行)に売却(7 億 7,140 万 CHF)した。クレディ・スイス(銀行)が米国のグレート・アメ リカン・グループ(アセット・マネジメント)の所有株をグレー ト・アメリカに売却(3 億 3,682 万 CHF)した。このほか, 表 10 スイスの対日主要品目別輸出入上位 10 品目<通関ベース> 品目 医薬品 時計 医療機器 化学品 タバコ 装身具,装飾品 電気・電子部品 計測機器 衣類 機能付繊維 合計(その他を含む) 対日輸出 (FOB) 2008 年 金額 金額 2,637 3,845 1,095 713 291 328 166 212 45 194 275 194 145 123 134 116 106 87 35 55 6,288 6,821 2009 年 構成比 56.4 10.5 4.8 3.1 2.8 2.8 1.8 1.7 1.3 0.8 100.0 品目 伸び率 45.8 △ 34.9 12.7 27.7 331.1 △ 29.5 △ 15.2 △ 13.4 △ 17.9 57.1 8.5 品目は大幅な減少となった。 2008 年の日本からスイスへの直接投資は前年に引き続 いて引き揚げ超過(4 億 9,100 万 CHF)となった。スイスか ら日本へは 13 億 3,900 万 CHF で前年の 24 億 2,000 万 CHF から大幅に減った。 2009 年に入って日本からスイスへの投資は活発化して おり,8 月に三菱樹脂がクオドラント(プラスチック加工)を 買収(1 億 4,850 万 CHF)したほか,9 月にゼリア新薬工業 (医薬品)がティロッツ・ファーマ(同)を買収(1 億 3,600 万 CHF)した。また,11 月に豊田自動織機はウスター(紡績 糸)の株式 22.46%を取得(4,387 万 CHF)した。2010 年 1 月には,資生堂が販売代理店の株式を 100%取得して完 全子会社化し,資生堂スイスとして営業を開始したほか, 並木精密宝石(マイクロモーター)がローザンヌ連邦工科 大学(EPFL)敷地内にあるサイエンスパークに支社を設 立したことなどが挙げられる。一方,引き揚げ事例として は,2009 年 4 月に王子製紙がイルフォード・イメージング (インクジェット紙)を英国のパラダイム・グローバル・パート ナーズに売却することを発表した。 一方,2009 年のスイスから日本への投資事例としては, ネスレ(食品)が東京大学との提携で同大学内に日本初 の研究ユニットを開設した。3 年間で 100 万 CHF を投資し て,同大学と共同で健康と栄養の基礎研究を行ってい る。 2009 年 9 月 1 日,日本とスイスの自由貿易・経済連携協 定(FTEPA)が発効した。日本が欧州と締結した初めての EPA で,関税削減(10 年以内に両国の貿易額の 99%以 上の関税が撤廃),市場アクセス改善,投資保護やサー ビス貿易の自由化促進,原産地証明で初の自己証明制 度の導入などが盛り込まれている。そのほか,日本企業 がスイスに現地法人を設立する際の便宜(滞在許可証の 数量制限の緩和,現地法人の取締役に対する国籍要件 の撤廃)など,日本企業がスイスに進出する際,妨げとな ってきたいくつかの問題が協定の交渉を通じて解決され 234 乗用車 医薬品 装身具・装飾品 建設機械 化学原材料 光学機器 電気・電子部品 時計 時計部品 商用車 合計(その他を含む) (単位:100 万 CHF,%) 対日輸入 (CIF) 2008 年 2009 年 金額 金額 構成比 伸び率 863 33.8 7.8 930 354 399 14.5 12.7 338 267 9.7 △ 21.0 192 164 6.0 △ 14.6 209 144 5.2 △ 31.1 161 136 4.9 △ 15.5 117 108 3.9 △ 7.7 58 70 2.5 20.7 65 32 1.2 △ 50.8 39 32 1.2 △ 17.9 2,971 2,753 100.0 △ 7.3 た。 スイス政府は 2009 年 12 月,最近の失業率の上昇を理 由として,欧州経済領域(EEA)域外からの労働者に対す る労働許可証発給数を 2009 年に比べて半減する決定を 行い,米国系企業を中心に本国の人材を活用できない 企業からが不満の声が高まったが,日系企業については, FTEPA の施行以降,日本からの一定の役職以上の転勤 者,スキルを有する者に対する労働許可は数量制限の枠 外となり,当該規制の影響を受けることなく事業の円滑化 を図れるようになった。本協定の効果については未だ数 字の上で評価するのは困難であるが,こうしたビジネス環 境の改善は,徐々に両国経済の緊密化をもたらすと期待 されている。 また,2010 年 5 月 21 日,日本とスイス租税条約改正の ための協約が署名された。両国は,新条約の 2011 年中 の発効と 2012 年 1 月 1 日からの適用を目指し,両国国会 での批准作業を進めている。新条約には,送金課税の免 税枠拡大や課税率の引き下げが盛り込まれ,双方の貿 易・投資の一層の促進に寄与するとみられている。