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サプライチェーンのパフォーマンスとリスクを バランス

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サプライチェーンのパフォーマンスとリスクを バランス
シリーズ ● ネクスト・イノベーション 持続的成長への戦略
6
サプライ
チェーン・
ガバナンス
サプライチェーンのパフォーマンスとリスクを
バランス統制する
収益性と効率性に着目するサプライチェーン・マネジメント
(SCM)だけでは、
長期継続的な企業価値向上は達成できない。
サプライチェーンにおける「パフォーマンスとリスク」という
二律背反の管理対象を統括的にコントロールし、
トレードオフバランスを追求する「サプライチェーン・ガバナンス」が必要である。
02
2008 07 ネクスト・イノベーション
1
2
3
4
5
6
7
8
9
株式会社三菱総合研究所
株式会社三菱総合研究所
株式会社三菱総合研究所
ビジネスソリューション本部
ビジネスソリューション本部
ビジネスソリューション本部
主任研究員
主任研究員
主任研究員
竹本佳弘
下村雅彦
小林 修
サプライチェーンを取り巻く環境の変化と
サプライチェーン・ガバナンス
P.04
サプライチェーン・ガバナンスの評価の視点
P.05
サプライチェーン・ガバナンスの実践
P.06
サプライチェーン・ガバナンスの手法
P.07
サプライチェーン・マネジメントにおける
リスク対策事例
P.08
サプライチェーン・ガバナンスが
企業価値に与える影響
P.11
リスク発生による企業価値(株価)の低下
P.12
サプライチェーン全体での取り組み
P.12
サプライチェーン・ガバナンス体制
P.13
ネクスト・イノベーション
2008 07 03
の重要性を再認識させた例として、ある
1
化学品原料メーカーで起きた工場災害が
サプライチェーンを
取り巻く環境の変化と
サプライチェーン・
ガバナンス
サプライチェーン・
ガバナンス
ある。原料の供給が停止したために、サ
プライチェーンが分断したのである。上
流での被害は、企業単体でリスク管理し
ていた部品メーカー、最終製品メーカー
最近のサプライチェーンにおいては、
にまで、瞬時にして広がった。
企業が単独で対処できない環境の変化が
企業のサプライチェーン改革ではこれ
起きている(図表 1)。例えば、地震・火
まで、リードタイムの短縮をはじめ顧客
災に対するサプライチェーン代替ネット
サービスの維持・向上を図る一方、供給
ワークの確保、地球環境保護に向けたサ
業者や在庫を絞ってコストを圧縮するな
プライチェーン全体での CO 2 削減、製
ど、パフォーマンスの追求に力点が置か
造業者と卸売業者の垂直統合による組織・
れてきた。
拠点のリソース再配置、業務委託先での
しかし、化学品原料メーカーの事例が
情報漏えい防止など、サプライチェーン
示唆するとおり、サプライチェーンの途
を構成する企業(素材メーカー、部品メー
絶は企業の存続に致命傷をもたらす可能
カー、最終製品メーカー、卸・小売等)
性があり、供給業者の絞り込みによるコ
は、パフォーマンスの追求に加えて、リ
スト削減と代替ルート確保など、トレー
スク対策が求められている。
ドオフバランスの必要性を喚起させた。
図表 2 は、サプライチェーン・ガバナ
サプライチェーンにおけるリスク対策
図表1 サプライチェーンを取り巻く環境の変化
● M&A対応
・企業統合によるリソース
(組織、拠点等)再配置
● グローバルSCMの
● 3PL※1協業体の台頭
● 販売チャネルの
対応
・サプライチェーン全体の
物流を担う3PL業者への
アウトソーシング
・WEB市場拡大による
新たな販売経路の対応
・中国以外にも生産拠点を
拡充し国際リスクを分散
多様化
サプライチェーン・マネジメント
● 実需予測・調達計画・生産計画・販売計画の情報を同期化して各企業のバリュー
例
バリュー
チェーン
製品
開発
マーケ
ティング
生産
計画
チェーンを効率化。
調達
生産
物流
● 市況のリアルタイム把握による在庫・品切れ・廃棄の削減、
資産効率向上等を通
販売
じて、企業価値に反映するキャッシュフローを増大。
サプライヤー
(原材料供給業者)
メーカー
(製造業者)
中間流通業者
(卸売業者)
調達物流
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
販売物流
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
● 地震・火災対策
● 地球環境配慮
・災害時のコンティンジェ
ンシープランの策定
(BCP)
・改正省エネ法対応
・各種リサイクル法対応
・有害化学物質規制対応
:サプライチェーンにおける外部環境の変化
資料:三菱総合研究所
04
2008 07 ネクスト・イノベーション
流通業者
(小売業者)
販売物流
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
● 情報漏えい防止
・企業・個人情報管理の
ITおよび運用上の施策
● 内部統制
(J-SOX)
対応
・企業、
グループ間取引
の透明性の説明責任
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
XXX
●トレーサビリティ
・
システム構築
・消費者の「安全・安心
の追求」のための各工
程の履歴管理
図表2 サプライチェーン・ガバナンスのコンセプト
※ 1:サード・パーティ・ロジ
スティクスの略。企業のロジ
企業価値
向上
アップ・スパイラル
スティクス業務を第 3 者(物
収益性と
効率の改善
流業者等)が受託、運営する
こと。
揮
発
ト
メン
ジ
ネ
・マ
ーン
ェ
チ
ライ
サプ
※ 2 COSO:米国のトレッド
株キ %
価ャ
ッ
シ
ュ
フ
ロ
ー
有効な
SCMの
実践
時間軸
現在地
パフォーマンスと
リスク対策の
バランス
リスク
発生
サプ
ライ
チェ
ーン
・リ
スク
対
ウェイ委員会組織委員会。
機
会
損
失
キ
ャ
ッ
シ
ュ
フ
ロ
ー
1980 年代、米国の企業によ
サ
プ
ラ
イ
チ
ェ
ー
ン
・
ガ
バ
ナ
ン
ス
る粉飾決算や金融機関の経営
破綻に端を発して、内部統制
に関する概念と定義を統一し、
共通のフレームワークを明確
化する目的で設立された作業
部会。
※ 3:COSO が 2004 年に公表
したリスクマネジメントの枠
組み。経営全体をカバーする
仕組みのガイドラインとして、
策
不
足
戦略目標の設定等を盛り込ん
企業価値
低下
ダウン・スパイラル
損失の
回避
だ組織全体的なトータル・リ
スク・マネジメントの枠組み。
資料:三菱総合研究所
ンスのコンセプトを示したものである。
を社内外に理解してもらうことが重要で
サプライチェーン・ガバナンスとは、サ
ある。そのためには、信頼性と継続性の
プライチェーンにおける「パフォーマン
ある体系的・客観的なガバナンス評価が
スとリスク」という二律背反の管理対象
必要だ。
を統括的にコントロールし、トレードオ
サプライチェーン上のリスクマネジメ
フバランスを追求するものである。バラ
ントの巧拙を評価する枠組みとしては、
ンスのとれた SCM は、長期継続的な企
COSO (the Committee of Sponsoring
業価値の向上をもたらす。その一方、リ
Organization of the Treadway Co-
スク対策不足などバランスを欠く SCM
mmission) ※ 2 の ERM(Enterprise
の場合、キャッシュ喪失や株価低下をも
Management)フレームワーク ※ 3 が活
たらすおそれもある。
用できる。
Risk
<サプライチェーン・ガバナンスの視点>
2
サプライチェーン・
ガバナンスの
評価の視点
【内部環境】
サプライチェーンにおける自社のポショ
ニングの認識
【目的設定】
パフォーマンスとリスクに対する姿勢・
方向性の設定
企業価値の向上を目的とするサプライ
【事象識別】
チェーン・ガバナンスの活用については、
パフォーマンスとリスクに影響を与え
サプライチェーン・ガバナンスの有用性
る事象の識別
ネクスト・イノベーション
2008 07 05
【パフォーマンスとリスク評価】
サプライチェーン・
ガバナンス
製品を調達している企業は、次のような
サプライチェーン・パフォーマンスと
リスクを設定して調達先を分散し、リス
リスクの総合評価
ク回避とパフォーマンス向上を実践し
【パフォーマンス対応】
ている。
パフォーマンスに対するアクションプ
ランの策定
【リスク対応】
リスクに対するアクションプランの策定
【統制活動】
アクションプランの実行管理
【情報と伝達】
ステークホルダーへの説明責任
【モニタリング】
自社および第三者からの継続的評価
<リスク認識>
【調達および生産リードタイムのリスク】
世界的な原油価格高騰による原材料価
格の高騰、BRICs など新興国の経済発展
により激化する原材料の獲得競争などを
背景に、中国の委託工場は、生産オーダー
に対し十分な原材料が調達できない。ま
た中国国内の消費拡大等に伴い、日本向
けの生産ラインが確保できない状況にあ
り、さらに進展するリスクがある。
自社が置かれているサプライチェーン
にサプライチェーン ・ ガバナンスの視点
【コスト(人件費)リスク】
を取り入れることで、企業は複数のリス
2008 年 1 月より中国では、労働契約
クの定義と、今取り組むべきリスク対策
が改正され、10 年以上の勤務あるいは期
の優先項目を選択する。その上で、パ
限付き労働契約を 2 期連続で更新した労
フォーマンスの追求とリスク対策につい
働者は、終身雇用に切り替えなければな
て、投資のバランスを考慮したリソース
らない。こうした法律改正により、契約
(人・モノ・資金等)配分ができる。
期間によっては経営側がレイオフできな
い場合もあり、中国の競争力の強みであっ
た低い人件費が上昇するリスクがある。
3
サプライチェーン・
ガバナンスの実践
【貿易リスク】
中国での輸出入については、通関に必
要な書類申請のルールが以前と異なるケー
スが見受けられる。例えば、輸出入品に
関する説明書(商品成分表等)の添付で
本章では、ある日用雑貨メーカーの中
ある。ルール変更の公示から実施までの
国を基点とするグローバル・サプライ
期間が短く、輸出入業者としては変更ルー
チェーンを紹介する。サプライチェーン・
ルへの対応が間に合わない場合がある。
ガバナンスの実践を、さらに理解してい
輸出入申告ができず、輸出入港で製品が
ただけると思う。
滞留するという事態は、今後も発生する
中国は現在、さまざまな商品・サービ
と見られている。
スの調達先として、最有力国の一つと
なっている。調達商品の一つに日常生活
で用いるプラスティック製品があるが、
06
2008 07 ネクスト・イノベーション
サプライチェーン・ガバナンスの有効
性を認識している企業では、リスクをこ
のように設定し、タイやベトナムなど他
にはどのような対策があり、リスク対策
国からの分散調達を行っている。その一
の一方で、パフォーマンス追求の範囲設
方、他国からの調達経路を確保するため、
定と施策立案はどう進めればよいのか。
物流業者と包括的な物流アウトソーシン
ここでは、サプライチェーン・ガバナン
グ契約を締結し、物流コストとリードタ
スの手法を取り上げる。
イムの適正水準を維持している。
サプライチェーン・ガバンスを構築す
またパフォーマンス向上のために、サ
るにあたっては、弊社が提唱する「サプ
プライチェーン上の在庫、貨物ステータ
ライチェーン・ガバナンス診断」の活用
スの把握、さらに最終消費ポイントによ
で、体系的かつ客観的なガバナンス評価
り近い地点における需要予測を活用した
を得ることができる。さらに診断結果を
需給調整を実施し、欠品ロスや過剰在庫
もとに立案したソリューションとモニタ
の削減を実現している。なお、これらを
リングにより、サプライチェーン・ガバ
実現するためには、企業間の IT 基盤を整
ナンスが実行できる。
備して情報連携をとり、同じ情報を同じ
診断にあたっては、サプライチェーン
タイミングでサプライチェーンの企業全
のパフォーマンス追求とリスク対策にお
体で活用できることが必要である。
ける企業の現状を把握するため、チェッ
また、国内外のサプライチェーンにお
いて発生するコスト(国際・国内物流費、
クシートを活用した事前チェックから開
始する(図表 3)
。
事務処理費等)を、サプライチェーン・
次に、事前チェックの結果から、事業
コストとして定義する。これを製品調達
戦略と SCM 実行計画との整合性に着目
に伴い発生するコストとして管理し、費
する「パフォーマンス診断」と、事業戦
用対効果を評価する。
略に必要なリスク対策ための「リスク診
経営者に対しては、現段階で顕在化し
断」を実施する。
ていない、もしくは顕在化しているが最
最後に、パフォーマンスとリスクの診
優先課題になっていない複数のリスクを
断結果からソリューション・ツールを選
定義し、それらのリスクに対しどの程度
択し、サプライチェーン・ガバナンスの
対応するか、その一方でいかにパフォー
施策を立案する。
マンスを追求するかといった判断が求め
られている。
診断とソリューションには、次のよう
な具体例がある(図表 4)
。
①サプライチェーン・コスト & サービス
メニュー診断を通じた SCM グランド
4
サプライチェーン・
ガバナンスの手法
デザインの立案と実行支援
②生産・販売・在庫の計画プロセス診断
を通じた組織・業務改革の立案と実行
支援
③ CSR(企業の社会的責任)向上に向け
では、サプライチェーンを取り巻く数
た省エネ・CO2 削減対策、省資源・リサ
多くのリスクを、どう体系付けて把握す
イクルに対するグリーン・ロジスティ
るのだろうか。また、それぞれのリスク
クス戦略の立案と実行支援
ネクスト・イノベーション
2008 07 07
図表3 サプライチェーン・ガバナンスの事前チェックシート
評価対象サプライチェーン
概要とその範囲
今回の
診断範囲
サプライチェーンの
パフォーマンスとリスク
診断範囲の
概要
サプライチェーン・
ガバナンス
評価基準
20点満点
20∼15点:十分統制している ⇒ 評価A
14∼10点:最低限統制している ⇒ 評価B
9∼6点:統制が不十分 ⇒ 評価C
5点以下:ほとんど機能していない ⇒ 評価D
各プレーヤーごとの計画範囲において、実現している場合は“1”を、実現されていない場合は“0”を記入し、合計点数から
評価を下す。確信が持てない場合は“0”と見なす。
プレーヤー
評価
合計
されている
1 事業戦略、中期経営計画の中にSCM計画が立案(実行)
2 サプライチェーン全体のサービスレベルの基準を持ち、基準に応じた評価・運用を行っている
3 サプライチェーン全体の管理コストの基準を持ち、基準に応じた評価・運用を行っている
パフォーマンス
リードタイム、
ボトルネックポイントを把握している
4 サプライチェーン全体のプレーヤー、
5 サプライチェーン全体の在庫戦略を把握している
6 サプライチェーン全体の資産効率(拠点、設備、車両等)が把握されている
7 最終顧客市場の需要予測情報を把握している
8 サプライチェーン全体計画を立案する上で要件と制約が明確でその情報をオンラインで参照できる
9 サプライチェーン全体の中のプロダクト優先度がルール化されている
10 サプライチェーン全体の中の外注化する領域、内製化する領域の基準が明確である
ロジスティクス分野に関する方針・目標を策定している
11 企業の環境方針の中に、
12 他企業と積み合わせ輸送を実施する等、環境に配慮した取り組みを実施している
している
13 ロジスティクス分野において、法令遵守(各種リサイクル法、過積載輸送の防止など)
リスク
される
14 受入処理において、全てが発注に基づいて正確に照合(品物、数量は間違いないか)
15 納期遅れの生産・販売への影響・損害は最小化されている
16 売上計上、売上控除等は明確な基準と処理方法で実施されていることを監視する仕組みがある
17 売上計上から請求、経理処理までのプロセスは一気通貫で流れている
18
顧客(貴社の製品、部品等の主要納入先)
と事故・震災時を想定した協議がされており、具体的な連携方
針・方策等が定められている
19
サプライヤー(貴社への部品、材料等の提供者)
と事故・震災時を想定した協議がされており、具体的な
連携方針・方策(対応手順と復旧目標等)が定められている
サプライチェーンが途切れた場合の事前の対応策を用意している
20 天災・産業事故等によって、
資料:三菱総合研究所
サプライチェーンを構成する企業全体
リスク項目と、その対策事例を紹介する。
として、このように実効性のあるソリュー
事例となるメーカーは、一般消費者が
ションを活用すれば、パフォーマンスと
日常的に購入する商品を製造し、各種の
リスクに対する統制力を強化できる。
小売チャネルを使って販売している。そ
の主力商品事業は、おおよそ以下のよう
な環境にある。
5
サプライチェーン・
マネジメントにおける
リスク対策事例
●
国内市場全体が飽和状態
●
売上の過半を当年内に発売する新商品
に依存
● 発売から数週間で販売のピークを迎え、
競合製品の動向により販売の落ち込み
本章では、サプライチェーン・マネジ
メントにおけるリスク対策事例として、
も大きい
●
スーパー、コンビニエンスストア、ド
需給ミスマッチリスク、システム導入リ
ラッグストアなど、各種の小売業態で
スクの例を紹介する。
商品が取り扱われている。低価格品を
扱う業態の物流ウエイトが特に大きい
■事例1:日用品メーカーのサプライ
●
チェーン・リスク
ジングでの商品投入により、管理する
ここでは、消費財メーカーの商品供給
プロセスを対象に、「欠品ロス等の販売
機会損失回避・適正在庫維持」における
08
2008 07 ネクスト・イノベーション
小売業態に合わせた価格帯、パッケー
商品アイテム数が増大
●
無在庫、ローコスト・オペレーション
を標榜する小売対応のため、メーカー
図表4 サプライチェーン・ガバナンスのソリューション・メニュー
(一例)
ゴ
ー
ル
「事業戦略とSCM戦略との整合性」実現
サプライチェーン・マネジメントの適正化
サプライチェーン・コスト&サービスメニュー診断を通じたSCMグランドデザインの立案
ソ
リ
ュ
ー
シ
ョ
ン
・
メ
ニ
ュ
ー
サプライチェーン・プロセス適正化
生・販・在の計画プロセス診断を通じた組織および業務改革の立案と実行支援
M&A実施後のロジスティクス・ネットワーク適正化
現有リソース診断により、
ロジスティクス・ネットワーク戦略の立案
トータル・ロジスティクス・コスト最小化
トータル・ロジスティクス・コスト
(在庫維持・輸配送・ウェアハウジング)最小化に基づく
ネットワークおよび業務の再構築支援
ライトソース適正化
調達・製造・販売・物流等の主要機能におけるアウトソーシング戦略の立案
資料:三菱総合研究所
ならびに中間流通による多頻度納入と、
それに伴う在庫負担の増大
●
【リスクの背景要因】
●
取引チャネルの増大や量の変化に対す
低価格ライン商品用を中心に、部材の
る情報獲得や、計画立案手順が追いつ
海外調達が進展
いてない。
●
マーケティング、製品開発、営業、物
このメーカーにおける事業収益上の最
流、生産、調達など、各部門の管理指
大のリスクは、新商品の投入時や需要が
標がバラバラで、顧客とサプライヤー
変化する局面での供給コントロールの失
間の情報共有以前に、社内部門間のルー
敗、それに伴う「過剰在庫」または「欠
ルが整然としていない。
品ロス」の発生である。
こうした背景には、見込み生産による
供給対応がある。具体的なリスク発生の
【解決策】
①生産・在庫・販売計画作成における情
中身を分析し、その要因をサプライチェー
ンのプロセスで探ると、主に「需給計画・
報ならびに意思決定の整流化
②需要予測モデル構築、関連組織間での
調整プロセス」、「調達・生産実行プロセ
情報運用ルールの作成
ス」において、多くのリスクが存在して
いることが判明した。
解決策を踏まえた上で、マーケティン
ここでは、需給計画・調整プロセスに
グ、販売、開発、生産、調達、物流管理
おいて存在するリスクと、その解決策に
など、各部門間で共有するファクト情報
ついて示す。
に基づき、意思を確認し合いながら、生
需給計画・調整プロセスでは、調達や
生産実行のタイミングとその量を決定(計
産・在庫・販売計画を策定する業務プロ
セスを確立した。
また、生販在の実績、計画、背景情報
画)するが、最大のリスクは、計画誤差
や予測誤差というリスクである。
を一元管理した需要計画のマネジメント
ネクスト・イノベーション
2008 07 09
ツール(情報システム)を、部門間のファ
【リスクの背景要因】
クト情報の共有と計画調整の道具として
サプライチェーン・
ガバナンス
●
提供した。
パッケージツール上の要因
サプライチェーン・システムに限っ
三菱総合研究所では、これらを「需給
たことではないが、パッケージツール
ナレッジソリューション」として体系化
はさまざまな業態企業に導入できるよ
し、需給調整問題における標準的な解決
う、汎用的な仕様になっている。この
手段として位置付けている。
ため、導入企業にとっては、システム
機能不足や操作性の低さなどの問題が
■事例2:サプライチェーン・システム
ある。
の導入リスク
●
導入先の運用管理レベル上の要因
続いて、サプライチェーンの計画・実
大きく分けて2つの要因がある。1
行管理レベルを向上させるために、サプ
つは、リードタイムなど基準情報精度
ライチェーン・システム(需要予測シス
上の要因、もう1つは、実績把握と
テム、生産スケジューリング・システム)
フィードバック精度上の要因である。
生産スケジューリング・システムな
導入に関わるリスクと、その対策事例を
どの意思決定支援システムは、求めら
紹介する。
導入失敗リスク(結果としての過剰
れるインプット情報の精度とともに、
在庫および品切れ、無駄な投資など)
その適切な取得タイミングが担保され
の背景要因としては、以下の事項が挙
ていなければ、システムの処理ロジッ
げられる。
クがどんなに優れていても、実質上全
く役に立たない。
図表5 サプライチェーン・システム導入におけるリスクの背景要因
:確定期間
:計画期間
実行可能なスケジュールが立案できない
インプット情報
● 在庫実績
● LT、
ロット等の基準情報
● 購買・外注納期変更情報 等
導入体制・
推進方法の
問題
生販在計画
拠点在庫・輸配送計画へ
W-1
マ
ー
ケ
予測・販売計画作成
生販在計画作成
サプライチェーン・システム
(スケジューラ機能)
管生
理産
W(当週)
W+2
W+3
W+4
W+5 W+6 W+7 W+8 W+9
詳細生産計画作成
納期回答
工
場
指図登録
指図変更・発行
外
注
加工発注
納期変更管理
購
買
MRP
購買発注
納期変更管理
★
★
生産計画
リードタイムなど、
基準情報精度の
問題
★
★
★
★
実績把握と
フィードバック
精度の問題
資料:三菱総合研究所
10
W+1
土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金 土 日 月 火 水 木 金
2008 07 ネクスト・イノベーション
★
★
★
外注LT
★
★
購買LT
★
★
★
●
関連部門と、外部の運用管理・改
導入体制・推進方法上の要因
善レベルの正確な把握が求められる。
導入先の運用管理レベル上の要因と
関連して、システムを有効に稼動させ
●
システム導入における各テーマの
るためのインプット情報の発生源は、
検討チームは、部門横断的である
複数の部署にまたがることが多い。シ
ことが望ましい。検討の前提事項
ステム稼動に求められるインプット情
や処理運用の方法に関し、チームが
報の精度を担保するためには、業務運
互いに摺り合わせを行う仕組みと、
用と運用を理解して設計する部署が横
そうした場の提供が必要となる。
断チームを編成し、推進していくこと
●
システム稼動の前提となる業務改
革ならびに改善テーマの徹底した
が不可欠である。
洗い出し、その推進が必要である。
<例>
【解決策】
①システム要件定義の策定
●
●
計画・監視系にはノウハウが集中
わせ型からの脱却
する。その手法の変更頻度も高く、
●
生産系:稼働率重視、月度帳尻合
●
物流系:オーダー締め切り以降の
要件定義が難しい。およそ6割程
緊急オーダーの削減と廃止(シス
度のシステム化で、優秀な現場担
テム導入後は、締め切り以降の
当者が工夫できる余地を作る。た
オーダーの廃止を延期できない。
だし、重要なデータはシステム連
現時点で運用変更できない案件は、
携とし、人の操作に依存しない。
システム導入後も変更不可と見る
現場に運用負荷をかけず、ノウハ
べきである)
ウが蓄積される仕組みを用意する。
●
<例>システムのパラメータ修正履
システム導入のプロジェクト・マ
ネージャーの役割と権限の明確化
歴の保持機能(需要予測システ
<例>検討事項をチームへ丸投げせ
ムにおいて、いつどのような状
ず、プロジェクト・マネージャー
況で、どういった判断に基づき、
が率先して行う。プロジェクト
需要予測のパラメータを変更し
の進捗管理だけではなく、検討
たか等)
チームへのサポートや参画なども、
● 問題が発生時の要因追跡が、スピー
プロジェクト・マネージャーの
ディに実施できる仕組みを用意する。
役割である。
<例>週次等のローリング運用にお
いて、各タイミングでの判断決
定履歴がスピーディに把握でき
6
る仕組み
サプライチェーン・
ガバナンスが
企業価値に与える影響
②システム導入における推進体制の確立
●
目指すべき到達点と、そのための
運用精度、現在の到達レベルの見
極めが重要となる。特に、システ
前章の事例では、販売機会の損失や過
ムへのインプット情報を提供する
剰在庫発生など、業務上のリスクを主要
ネクスト・イノベーション
2008 07 11
子製品:− 8.40%、
な管理対象と捉え、その解決施策として
サプライチェーン・
ガバナンス
の需給調整機能の強化や、システム導入
●
自動車、航空機、輸送:− 4.45%
時のリスク対策を紹介した。これらのサ
●
物流、調達:− 8.69%
プライチェーン改革は、サプライチェー
●
卸売、小売:− 9.02%
ンリスクの「見える化」や、キャッシュ
●
金融、保険、不動産:− 2.53%
サイクル(キャッシュの回収期間)の短
●
サービス、金融サービス:− 11.97%
縮などに貢献した。
しかしながら、継続的な企業価値向上
サプライチェーンを構成する企業にお
を図るためには、こうした企業内での施
いて発生したリスクは、リスク対策が不
策だけでは不十分である。なぜなら、サ
十分な他企業へと波及し、結果としてサ
プライチェーンを構成する企業に単独で
プライチェーン全体に影響を与える。サ
発生したリスクが、サプライチェーンの
プライチェーンを構成する企業全体を視
企業全体へと波及し、株価下落等の企業
野においたリスク対策を講じない限り、
価値低下というリスクがあるからである。
抜本的な解決にはならない。
次章以降では、サプライチェーン・ガ
バナンスと企業価値との関連性を示す一
方、サプライチェーン・ガバナンスの取
り組み方を示す。
8
サプライチェーン
全体での取り組み
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リスク発生による
企業価値(株価)の低下
サプライチェーン・ガバナンスにおけ
るリスク対策は、どう取り組むべきなのか。
私どもは、サプライチェーン全体で取り
組むことを提唱している。それは、CPFR
米国で発表された「Supply Chain
(=Collaborative Planning, Forecasting,
Management Review/2002」に記載さ
and Replenishment)のように、パフォー
れている Vinod R.Singhal and Kevin B.
マンス追求に向けてサプライチェーンを
Hendricks の調査に、リスク発生に伴う
構成する企業が共同で行う SCM 改革と
株式市場の反応として、産業界別の株価
同様の考え方である。
下落率をまとめたものがある。
順序としては、直接連携している企業
間から着手していく。まず潜在的リスク
<リスク発生による産業界別株価下落率>
●
農業、天然資源:− 3.60%
定されるリスク―戦略リスク、業務リ
●
食品、たばこ、テキスタイル、木材、
スク、ハザードリスク、市場リスク、カ
紙、化学品:− 6.66%
ントリーリスク、信用リスク等を整理す
ゴム、皮、鉄鉱石、金属、機械、機械
る。その上で定性的・定量的な管理手法
装置:− 6.54%
を検討する。把握が困難な潜在的なリス
コンピューター、通信機器、電気・電
クであっても、何らかの手法で管理・判
●
●
12
を含め、取り組み企業各社において想
2008 07 ネクスト・イノベーション
図表6 サプライチェーン・ガバナンスの進め方
断することが、各企業の経営層に求めら
れている。
2
第2段階の展開範囲(第1段階の診断基準を展開)
なお、リスクの整理と管理にあたって
は、前述のサプライチェーン・ガバナン
スのクイック診断および診断メニューが
他社
他社
自社
他社
他社
有効なツールとなる。
このような不確実性の高い潜在的な
1
リスクを含めた管理リスクを、企業間で
第1段階の展開範囲
検討するのが次のステップだ。管理リス
クとパフォーマンスの項目を企業間で取
資料:三菱総合研究所
り決め、各企業に展開することが必要と
なる。
求の効果と指標を提示する。最終的な取
りまとめは、経営管理部門が行い、サプ
ライチェーンにおけるリスク選定、対策
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サプライチェーン・
ガバナンス体制
コストの算定、それらを踏まえた上での
パフォーマンスの維持・向上の目標値を
設定する。
最も重要な点は、不確実性を含む情報
があっても、経営層がパフォーマンスと
サプライチェーン・ガバナンスを運営
リスクに対する投資判断を行い、その意
する第一段階として、構成各企業の組織
思決定内容を、サプライチェーンの連携
体制について提言しよう。
先企業にまで展開させていくことである。
各企業内においては、需給調整やロジ
この展開にあたっては、サプライチェー
スティクス機能などを担うこれまでのS
ン・ガバナンスの評価基準等を活用する。
CM組織に加えて、リスク管理を行う組
サプライチェーンを構成する全企業が、
織、ならびにその管理手法を構築するこ
今取り組むべきパフォーマンスとリスク
とが必要だ。ただし、それは事業部門と
を共有し、各企業の経営層が迅速な意思
してではなく、経営層直轄の管理組織で
決定を行う必要がある。
なければならない。
サプライチェーンの観点からいうと、
まず、サプライチェーン・ガバナンス
企業価値の向上は、企業が単体で成し得
委員会などのタスクフォースを発足させ、
ないものだ。戦略や施策をサプライチェー
運営要領をまとめる必要がある。委員会
ン全体で共有・展開し、初めて実現する
の構成組織については、業務監査部門(内
のである。サプライチェーン・ガバナン
部統制等の業務リスク)、財務部門(カ
スに対する経営層の積極的な関与が、長
ントリーリスク、市場リスク等)、法務
期継続的な企業価値向上をもたらすとい
部門(法務リスク)などが、各々に管理
える。
するリスクを持ち寄り、全社的リスクを
委員会として共有する。その一方、SC
M部門は、これまでのパフォーマンス追
ネクスト・イノベーション
2008 07 13
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