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◎「公益通報者保護制度に関する意見聴取(ヒアリング)」第5回議事要旨 日時: 平成 26 年 10 月7日(火)13:00~15:00 場所: 消費者庁6階会議室 議事次第 1.開 会 2.意見聴取 ・井手 裕彦 氏(読売新聞大阪本社編集局編集委員、羽衣国際大学客員教授) ・奥山 俊宏 氏(朝日新聞社報道局編集委員) 3.閉 会 1 <意見聴取1> ○井手裕彦氏 意見聴取要旨 読売新聞の井手と申します。今日はよろしくお願いします。 まず初めに、2点、お断りさせていただきたいのですけれども、資料の1枚目に経歴 を載せておりますように、私は、記者生活36年半の大半を新聞社の中で不正の告発に 対処する調査報道という部門で仕事をやってきております。さらに、今、大学でジャー ナリズム論を教えている中でも、隠された不正を明らかにする調査報道こそジャーナ リズムの原点であるということを教えております。そういう観点から、私の意見とい うのは、内部告発、公益通報者をもっと保護して、さらに公益に資する運用をしていか なければいけないという意見なのですけれども、新聞社の中でもさまざまな部門があ り、これは、別に統一的な新聞社としての見解でなく、私の個人的な経験に基づくもの だというのが1点です。 それから、もう1点は、報道機関に属する者として、情報源の秘匿という極めて重い 倫理的責務がございます。内部告発の話は、できれば具体論でお話しすれば説得力が あるのはもちろんわかっているのですけれども、大抵の話は、私が墓場まで持ち込ま なければいけない情報がほとんどでございまして、一般論に終始するということを最 初に申し上げておきたいと思います。 それでは、資料に基づいて始めさせていただきます。総論と各論に一応、分けてお り、総論の方から説明させていただきます。まず、今のこの法について私がどう評価し ているのかという点です。法制定は非常に大きな意義はあったと思うのですけれども、 まだまだ国民の生命、身体、財産、その他の利益を脅かすものに対する正義の告発、別 に通報を奨励するというわけではないのですけれども、そういうものを呼び起こして、 国民の安心・安全につなげていくという部分から言うと、そうはなっていないのでは ないかと感じております。 例えば、法の制定前の方が、大手自動車会社のリコール隠し事件、あるいは電力会社 のトラブルデータ隠し事件とか、要は国民の生命、安全に直結する内部告発があった と思うのですね。 それから、国際的に見ますと、議論はあるでしょうけれども、この間、米国の国家安 全保障局の個人情報収集という問題を告発した元CIA職員みたいな国際社会に大き な影響を与える内部告発があるわけですね。それに比べますと、今の日本国内の内部 告発というのは、どうしても被害者的な、日本社会と同じで内向きになっているので はなかろうかと、そういう印象を抱いております。 ただ、それは内部告発をする人たちが悪いのではなくて、その原因になっているの は、内部告発したくとも、情報が勤務先に漏れて不利益な取り扱いを受ける、そういう 例が後を絶たないことではないか、むしろ法制定によって犯人探しとか報復が激化し ているのではなかろうかと、そういうものが背景にあるのではないかと思っておりま す。 通報者への不利益な扱いを防ぐため、消費者庁が今年6月24日付で国の行政機関の 2 通報処理ガイドラインを改正されて、通報者の個人情報の漏えいの禁止を明示されて、 その上で個人情報を漏えいした職員に対して懲戒処分その他の適切な処理をとるよう で改正されました。これは一歩前進ではあると思うのですけれども、これだけでは、ど うしても弥縫策ではないのかなと思います。本格的に、抜本的にこういう漏えいの問 題をどうしていくのかということを検討しなければいけないのではなかろうかと考え ます。 さらに言えば、行政機関に対してはそういうガイドラインが改正されているのです が、民間事業者に対しては、まだそれはやっておられない。したがって、この改正自体 によって行政機関がどう変わったのか、どう動いたのか、あるいは実際に情報漏えい の懲戒処分をやったのか、それはどういう規定に基づいてやったかということを検証 して、さらなる改善につなげていく必要があるのではないかと思っております。 それから、もう一点、私の立場で指摘したいのは、この法は、制定以来、どうしても、 通報窓口を何%つくった、どこがどうしたのか、という、そういうことばかりに力が向 けられたのではないのかなという点です。窓口ができたら、すぐに公益通報制度が前 進するわけではないのですね。むしろ窓口ができたことによって、企業によっては、そ れでコンプライアンスが整っていますよ、みたいなことを表向き掲げている反面で、 消費者庁の調査報告にもあったのですけれども、反分子のあぶり出しみたいなことに 使われているところもございます。そういう面では、一体、通報をどういうふうに調査 していって、あるいは是正措置をどういうふうにやっていくのかという運用面の論議、 そして、それに基づいた実践はほとんど進んでいないのではなかろうかと痛感し、こ ちらに目を向けてほしいという思いがあります。 それから、公益通報者保護法の制度の議論をするときに、どうしても通報には、誹謗 中傷であるとか、人事上の恨みとか、妬みの通報が含まれるという点がクローズアッ プされます。それで、そうした通報によって、企業は余計なデメリットを受けていると いうことで、通報者の保護要件をこれ以上、拡大してはいけないという意見がござい ます。でも、私が、新聞社で長年、通報を受けてきた経験から言いますと、通報者につ いて、こちらは正義感一色ですよと、いや、こっちは人事上の恨みですよと、そんな簡 単に区別することはできないわけですね。普通は1人の方の中にいろいろな感情が相 まって、正義感から、これはどうしても見逃せないという感情もあれば、あるいは、や はり上司が嫌いだとか、今の自分の処遇が不満だというものも相まざっているわけで すね。 考えていただきたいのですけれども、キャリアがものすごく順調にいって、出世コ ースに乗って、組織の真ん中にいる人が、そんな危険を冒してまで告発をするわけは ないわけですね。何がしかの不満がある人が告発するというのが一般的だと思うので す。完全無欠の正義の訴えを求めること自体、私は非現実的で、さらに日常から不満が 少しだけあって、あるいはそれが大部分であったとしても、その人を責められるのか なと思っているのです。 逆に言えば、通報窓口の担当者が、通報に含まれる諸々の要素をより分けて、そうい 3 う恨みの部分ではなくて、正義の部分を引っこ抜いて、そして物事を解決していくの がいいのではないかと思うのです。私自身が実際に通報者に当たるときに、恨みの部 分は置いておき、、やはり正義のほうでいきましょうと働きかけることを心がけてきた し、実践してきました。そうでなければ、公平・公正な報道は成り立ちません。だから、 そういう意味で、通報者の通報の動機より、むしろ通報を受ける側の、先ほど申し上げ ました運用とか、態度とか、あり方とか、姿勢とか、そういうものにもう少し目を向け たらいいのではないかと思っております。 また、私が属する報道機関、あるいは関係行政機関や、監督官庁に通報する外部通報 保護の要件として、通報者にかなりの責任を負わせているのではないかと思っている のです。現実は、私が今まで受けてきた通報者の中で、法が示す外部通報保護要件の通 りに、最初から証拠がそろっていて、まさに同時進行の不正を着実に捉えていて、そう やって持ってきてくれた人というのは、共犯者の方以外はございません。共犯者で、自 分もやっているという人以外ではあり得ないと言っても過言ではないと思います。共 犯者の人ですら、共犯という言い方が悪いのかもしれませんけれども、かかわりがい ろいろありますので、最終的に我々が事実確認をしようと思ったら、知り得ている証 拠がなかなか不十分な場合がございます。 私が、報道の仕事をする上で、通報者がばれるというのは絶対にまずい、これは絶対 に避けなければいけないと自分に戒めております。先ほど、申し上げました情報源の 秘匿という報道機関の責務もございます。だから、通報者が持ってきた証拠が不十分 な場合、その先の裏づけをとるのは自分たちの仕事だと思っていました。そして、後で 各論でもお話をいたしますけれども、立証のため、挙証のための様々な努力と工夫を しているのですね。逆に言えば、後で例も出しますけれども、官庁や企業の通報者の窓 口の方々が、そうした努力とか工夫というのをされているのだろうかと、甚だ疑問に 思っています。例え証拠がそろっていなくても、通報が指摘する事項に国民の生命、身 体、財産、その他国民の利益を大きく損ねるおそれがある、しかも緊急に対処しなけれ ばいけないということがあった場合は、保護要件とかは関係なくて、速やかな調査を して、国民の利益、安全・安心を守るのが当然ではないかと思っております。 一方では通報の真偽を十分見極める必要があります。、取材や調査に入ること自体で、 企業とか行政機関、あるいは行政機関の個人の方とか、そういう方々が名誉棄損とか 風評被害におそれにさらされる事態になるのは、絶対避けなければいけないことです。 通報者の方々には、悪意はなくても、うその通報ではなくても、思い込みとか、こうな ったらいいという願望がございます。実際に調べてみると、事実とは違っていたとい う場合もございます。それから、事実関係は間違いないけれども、これは公益からはほ ど遠いのではないかという通報もあります。我々で言えばニュースの報道価値に照ら し合わせて、、これは報道に値しないのではないかという場合もございます。要は、通 報を受け付けた窓口の方の聞き取り能力、判断能力、これが一番大事ではないかと思 います。 私は、この法律ができたときに論説委員だったのですけれども、中身を初めて見た 4 とき、正直、告発を受けるという実務を全く知らない人たちが法案をつくったのだろ うなと直感しました。そのころの法制定をめぐる論議というのは、企業と労働者があ って、対決式の中で落としどころを探るみたいな論議だったことを覚えております。 法の附則で見直しを図られるという時期から、もう3年以上すぎていますけれども、 実務の現場での意見とか視点に則して、ぜひ法改正に乗り出していただきたいと考え ております。法改正をやるには、やはり、世論を喚起すること、内部通報によって、国 民の生命、身体、財産がこんなふうに守られましたよという事例を示すことが一番い いと思うのです。 そのときに、例えば、ある大手企業が社内の野球部の野球賭博の内部通報があって、 通報後スピーディーに対処したという事例高く評価する意見を聞いています。内部通 報によって、企業が将来の損失をカバーできるのだという視点で、企業とか産業界を 説得するには、いい事例かもしれません。ただ、これを一般的な議論を加速する事例と するのはちょっと、物足りなさを感じます。この法律の本来の趣旨から言うと、どうか なと考えます。やはり、国民の逼迫した安心・安全につながる情報を内部告発によっ て、きちっと表に出して対処されたという事例が必要なのではないかと思っています。 私が自分で取材して記事に取り上げた事例を1つ紹介します。障害者就労支援施設 の経営者の長男である施設長が日常的に知的障害を持っている通所者の方に、いじめ や虐待を繰り返していたことを、そこにおられた女性職員2人の方が勇気を持って法 務局に内部告発されたという話です。施設長は、ダーツの的を知的障害者の方に持た せて、そこに千枚通しを投げつけるようなことまでやっていました。千枚通しは、この 女性職員の方の机の中から勝手に取られたもので、自分の千枚通しで人の命にかかわ ってはいけないと思った女性職員は、お父さんの経営者に相談したのですけれども、 無視されてしまいました。そういうことで一刻を争うと思って通報したのですけれど も、実際に法務局への通報後、県警が施設を捜索し、県が監査に入り、施設長の逮捕に つながりました。しかし、2人しか知り得ない事実を、県が調査をする段階で経営者に 言ってしまったことから、2人の通報が経営者にわかってしまい、解雇されるわけで す。一応、労働審判で調停が成立したのですけれども、解決金というのは、本来、もら えたはずの賃金に届かない微々たるものでした。再就職をしようと思うと、どうして も施設での経歴を書かなければいけないので、あの施設かということになり、うまく いきません。1人はようやく経歴を隠して再就職できたけれども、あとの1人は果た せませんでした。私が2人の方々にインタビューしたときに、もうちょっと法律を、自 分たちのような通報者を守るようにしてほしいということを訴えておられました。 通報で各界各層が納得できる、公益が守られている事例は本当に今、正直言って、私 も探すのに苦労しています。しかし、だからといって、法の附則にある見直しをこれ以 上待っていいとは思いません。いい事例を、何とか消費者庁に見つけていただいて、そ ういう事例を周知していただいて、もう少し法の見直しの議論を進めていただきたい なと思っています。 各論に移ります。第1は、通報者に理解しづらい保護制度の現状です。通報を受ける 5 側、企業側は、はっきり言って、訴訟で負けるまで、不利益処分をしてもマイナスはあ りません。その後、ずっとマイナスがない状態です。一方、通報者です。通報した途端 にマイナスがあるおそれがあります。それをようやくリカバリーして、もとに戻して あげるよという法律の構造なのですね。例え裁判に勝っても、それまでにかかったマ イナスはすごく大きいのですね。通報をしたことによりレッテルが張られ、それがも とに戻る保証はないのです。アンバランス過ぎるのではないかと思います 同じ通報制度でも、カルテル入札談合に関して、減免制度が設けられています。要 は、通報を先にした企業ごとに課徴金が減額されるという仕組みです。これは、公正取 引委員会が、談合という密室行為をあぶり出すにはどうしたらいいのかということで 設けられたのですけれども、この制度導入の日から通報があったと聞いています。し かも、ちょっとでも公取が内偵しているといった情報があると、他社よりも通報を早 くしようと思って、真夜中でもファックスが届くらしいですね。公益通報も、通報する 側にもメリットがあるような制度にならないものかと思っております。 それから、第2は、通報者に対する処罰の減免です。特に共犯者の通報に対して、で す。国民の生命、身体、国民の安心・安全につながるもの、事案の重大性が増せば増す ほど、共犯者の協力がないと、なかなか解決できません。 2つ、例を出します。1つは、大手食品会社の輸入肉、国産肉の箱の詰めかえ事件の ときの倉庫会社の話です。倉庫会社の方の告発によって、不正が発覚したのにもかか わらず、国土交通省は、倉庫の在庫証明がおかしいではないか、法に違反しているので はないかということで、倉庫会社は営業停止処分にされました。この社長は一生懸命、 処分の撤回を訴えられたのですけれども、撤回されず、結局、倒産しました。私も、社 長の無念の思いを聞きました。これは公益通報者保護制度の前の話なのですけれども、 今、同じことが起きても、制度の改正がないので同じ結論になると思います。 それから、ある自治体の河川事務所の職員の例です。河川の清掃作業中にいろいろ 荷物を引き上げる際、その中から財布やかばんを常態的に同僚の職員たちが着服して いたことを、その職員は告発しました。着服の場面をビデオで隠し撮りして、最初はそ の自治体に、拉致があかないので、次はテレビ局に告発をしました。事実が発覚したあ と、清掃自体を民間委託するようになって、そういう不祥事はなくなったのですけれ ども、告発した職員も一緒に懲戒免職になったのですね。その人は、同僚に怪しまれな いよう、一緒に着服もしていたんですが、それを同様にとがめられたうえ、この自治体 は、その人が同僚へ暴言をはいたとか、備品を破損したとか、着服と関係ないことまで 処分の理由に付け加えて、懲戒免職にしました。 こういうことがまかり通るのなら、誰がこんなばかばかしい立場に追い込まれてま で告発をするのだろうかなと私は思います。こうした事態を解消するためにも、減免、 リニエンシー制度をどういうふうにか工夫して取り入れられるよう、検討していただ きたいと思います。先ごろ、法制審議会が司法取引を答申しております。こういう法制 度の変革の流れも見据えていただきたいと考えます。後でも話しますけれども、内部 告発の窓口なども、ほかの法律で、いっぱい整備されるようになりました。公益通報者 6 保護法が制定された8年前とは、随分、まわりの法環境が変わっていると思います、こ こでひとり、公益通報者保護法だけが古い殻に閉じこもっているというのはいかがか と思います。ぜひ、ほかの法環境とのかかわりも視点に加え、研究していただきたいと 考えます。 私自体も、共犯者の立場にあった通報者を、事態の解明のために結局、捜査機関に連 れていかなければいけなかった経験を有しています。その方には、 「あなた、有罪にな り、刑罰になるおそれもあるかもしれませんが」と、正直に申し上げたうえで、納得い ただいて、その方に協力していただきました。結局、起訴猶予処分になって、ほっとは したのですけれども、通報者保護の必要性を痛感しました。 それから、3番目、通報を受けた企業、行政機関について、です。通報者に不利益を もたらしことに対する罰、や通報放置罪というのは、ないのですね。そうした企業や行 政機関に、法の代わりに誰が社会的制裁を与える役目をやっているのかというと、今 のところ、報道機関が担っています。通報の放置についても報道機関が追跡して検証 しています。それで、一応、報道の記事とか、番組の力で、企業、行政機関の姿勢が変 わるように促してはいます。しかし、そうしたケースに対しては、消費者庁が、例え ば、勧告をしたり、企業名を公表したり、そういう制度が実現すれば、当然のことなが ら、報道機関は実名を挙げて実態を報道しますので、なおさら社会的制裁の効果は大 きいのではないかと思われます。 それから、もう一つは、この法律というのは、どう考えても労働者のための法律、労 働者保護法の体裁をしています。ところが、実際に所管官庁は消費者庁、出先機関は消 費者センターということなのですね。では、企業に踏み込んでいって、あるいは行政機 関に踏み込んでいって、伝家の宝刀を振るえるのかと感じることがあります。私は、労 働関係の法を所管する労働局はすごい権限と力を持っていますし、立ち入り調査や勧 告を行える人材もそろっていますので、消費者庁と労働局が連携して、当たるような ことができないかなと思っております。 それから、もう一つ、公益通報者保護法を浸透させる手だてです。これはやはり判例 の積み重ねが必要かなと思います。こういう行為は公益通報者保護法に違反するとい う判決を裁判所が出して、世に示すことが一番いいと思っているのですけれども、実 際は、私が知る限り、そうした判決が下されたという実例を聞いたことがありません。 実際の裁判で何が争われているのかというと、先ほどの河川事務所の職員の処分取り 消しの裁判でもそうなのですけれども、懲戒処分の妥当性を争うのがほとんどです。 要は、懲戒に理由があったのかとか、ちゃんと理由を通告したのか、手続はどうだった のかという点が争点になっています。そちらのほうが争いやすく、勝訴判決を勝ち取 りやすいのかもしれませんけれども、ぜひ、今回の意見聴取で意見を述べられた法学 関係の方々もいらっしゃいますし、消費者庁でも、法廷でどういうふうに展開すべき かも、検討の視野に入れてほしいと思います。典型的な、ティピカルな判例を出しても らい、公益通報は、こういうときに守られるのだということが法的にはっきり、わかる ということが重要ではないかなと思っております。 7 続いて私が重要な論点に挙げています運用面の話をします。公立高校のバスケット ボール部の体罰がきっかけで部員が自殺した話を例にとります。公益通報の運用とい う側面から問題になったのは、公益通報処理ガイドラインの規定に反した通報の処理 でした。利益相反者、もし事実が明らかになったら処分になるおそれがある人を調査 に入れてはだめだと規定があるのにもかかわらず、当該の自治体の公益通報受付窓口 に体罰を告げてきた通報に対して、実際は、体罰をしている顧問の先生がいらっしゃ る校長がたった1日、調査に当たって、体罰はなかったと断定していました。これで は、真実を明らかにできるわけがありません。 では、当事者に調査を任せる、担当課につなぐという、そんな調査のやり方は、その 自治体だけなのでしょうかと言いたいのです。ほとんどの自治体、あるいは行政機関、 あるいは企業でも、通報窓口に人手がなければ、あるいはやる気がなければ、結局は、 公立高校の体罰の通報の時と同じように、当事者のところに行っている例が少なくな いと思われます。こんな調査であれば、真実を突き止めることができないばかりか、当 然、当事者であり、通報者はその近くにいるわけですから、誰が通報したのだというこ ともばれてしまうおそれが高まることも問題です。 消費者庁は年1回、運用面の実態調査を行っていらっしゃるのですけれども、受付 窓口がどれぐらい、パーセントがふえたとか、中小企業はまだだとか、市町村の窓口の 設置は進んだのか、という点を主に調査されていますけれども、運用面もぜひ調査し てほしいのです。自治体や企業に、通報に対する調査は当事者に任せていないのか、窓 口の職員、社員たちが直接調査しているのか、そういった点について、です。体罰があ った、この市の場合は、重要案件は、窓口の職員たちが直接、現場に出向くように改革 したのですけれども、これが当然であろうと思います。 もう一つ、体罰の通報で問題だったのは、第三者委員会です。通報を実際にどういう ふうに処理して、どういう結論を出したかというチェックは、ほとんどの自治体や行 政機関、あるいは企業でも同じだと思うのですけれども、弁護士とか公認会計士がメ ンバーの第三者委員会が設置されて、1件ごとに協議されています。しかも、今、世間 では、第三者委員会ができれば、公平な、公正な結論が出るという神話が信じ込まれて いますが、私は決してそうは思いません。第三者委員会がしっかり議論するという条 件つきで、これが、実は結構難しいのです。 体罰の通報に対する校長丸投げ調査のときでも、実際は窓口の方が疑問を感じて、 自分たちが行こうか、直接調べたいということを担当の教育委員会に言ったわけです。 ところが、教育委員会のほうが、学校にそんな調査の職員が来られたら、教育上困りま すということで拒否されました。代案として、通報のあった体罰はバスケット部だっ たのですけれども、同じ高校のバレー部で1カ月か2カ月前に体罰があって、それを 職員集会とか生徒集会で話し合って、そのとき、新たな体罰を指摘する声がなかった というのを報告書にちょこっと加えて、職員や生徒全体にも調査をしたようなことに して、それを第三者委員会にかけたのです。誰が考えたって、職員集会とか生徒集会の 場で、はい、私は、ほかのクラブでも体罰があっているのを知っていますとか、バスケ 8 ット部でやっていますなんか、言えるわけないですよね。だれが考えてもわかり切っ たことです。生徒にアンケートすれば別ですが。生徒へのアンケートを、反面調査とし てすべきであり、そうすれば、バスケットボール部の体罰が明るみになった可能性は 強いのに、このとき、第三者委員会は誰からも疑問が出ずに素通りしているのです。 だから、弁護士とか、公認会計士だったら、誰でも適切に判断できるわけではないと 思います。やはり外部通報窓口とか、そういうものの経験がある、それから、こういう ことをやることが世のためになるという情熱を持っている人でないと無理だと思いま す。 体罰の通報について審議した、この市の第三者委員会の場合、体罰を受けた部員の 自殺後、通報処理についても、この委員会で検証されましたが、どの委員からも反省の 含め、何の声も出ないままだったと聞いています。委員の人選がどうだったのかな、と いう疑問もわきます。大体、自治体が地元の弁護士会などに、どなたか出してください と頼むのが通例らしいのですけれども、公益通報保護制度を熟知しない人が来ている パターンが多いようです。しっかりとした識見を有した、専門の識者を選ぶというこ とは、市長とか、社長とか、トップの責任であり、それが通報の処理に大きく影響する と言いたいです。 それから、通報に対する報道機関の対処について、お話します。実際に、どんなふう に私が通報を処理するかなのですけれども、電話とか、手紙とか、メールが届いたと き、真偽とか、それだけではなくて、その情報が一体どれだけの公益にかかわるのか、 という点を十分に聞き取ります。もちろん、その情報が、誹謗中傷、やっかみから出発 していないか、虚偽ではないのか、通報者から話をつぶさに聞いて、その疑問点を質問 する中で、この人が通報する背景には一体何があったのか、そういうことも感じ取る ようにしています。 虚偽ではないかという場合、質問をしているうちに、だんだんわかってくるのです けれども、通報者に疑問を告げます。この情報には、こういうところを私は疑問に思い ます、とはっきり、告げて、調査しないということを理解してもらう場合もあります。 私どもでは、調査、取材はできませんということをはっきり言います。 一方で、緊急に、これはすぐにやらなければいけないという場合は即日に動く場合 もしばしば、あります。 一番難しいのは、通報者の存在を絶対にばれないよう、配慮することです。調査に行 って、相手方がすぐに実態を認めるなどということはまずありません。では、どうした らいいのかというと、具体的な証拠が幾つも要ります。どういう証拠があるのか、一番 いいのは、文書とか、記録とか、写真とか、映像とか、客観的な証拠なのですけれども、 果たして通報者が持っているのか、持っていないなら、どこに行けば入手できるのか、 通報者から聞き取ったり、自ら下調べしたりします。あわせて、その間に、もちろん、 他の関係者の反面調査をします。それから、登記書類とか、財務諸表とか、客観的な書 類、データの下調べもします。そういう下調べを十分に尽くして、初めて当事者に当た ります。なぜかというと、軽々に当事者のところに行くと、証拠隠滅される、つじつま 9 合わせの打ち合わせをされます。せっかく通報者が正義のために勇気を出して、通報 していただいた行為が、裏づけがとれなかったということで無駄になってしまうのは、 避けなければと思っているから、万全を尽くします。 それから、不正の事実を知っているのは、通報者を含めてどの範囲の人なのか、証拠 を持っている人たちはどの人たちなのか、そういうことにも注意を払います。なぜ、注 意を払うのかというと、反面調査でもそうなのですけれども、当たりに行くと、その関 係者が通報者を疑ってしまう場合もあるからです。ということで、反面調査をやるに も非常に慎重な手続を踏まなければいけません。 もちろん、告発の内容がどの法規に、どういう条項に違反しているのか、そういう点 は押さえています。ただし、法に違反していなくても、これは社会通念上おかしいので はないかという通報でも調べます。なぜそういう通報でも調べるのかというと、法す れすれの脱法行為とか、法の抜け穴をついている不正のようなケースも実際あるので すね。実は、私は違法ではないけれど、社会通念上は許し難い不正を明らかにして、大 きな記事にしたことが幾度かあり、それが後に法改正につながったこともあります。 だから、言いたいのですけれども、違法行為だけを公益通報の範囲にすれば、そういう 可能性も閉ざしてしまうことになるのではないかと思います。 通報者なのですけれども、この方々は精神的にいつも追い詰められています。果た して通報して本当によかったのかどうなのか、いつも迷っておられます。細かく中間 報告をして安心してもらう必要もございます。 相手に認めさせるのに、一番いいのは現地調査なのですね。公立高校バスケットボ ール部員の体罰の話なのですけれども、前日、大会が行われて、試合のときに殴ってい るのですね、先生は。それでショックを受けて、帰って自殺したのであろうという推論 がありますけれども、誰かが試合会場に、観客席にビデオを持っていけばよかったの です。実際にアメリカで例があるのですけれども、大学のバスケットボール部で体罰 があったときに、行為者の監督は否定していたのだけれども、その場面を撮られたビ デオがあって、ぐうの音も言えなかったという例があるのですね。だから、最初に通報 を聞いた窓口の方が、いつ、どこで体罰が行われているのですかと聞いてくれれば、よ かったのです。学校のクラブで行われていたら、学校の中ですから密室行為になりま すけれども、堂々と公の場でやられていたわけですから、それさえ聞いてくれていれ ば、大会の会場で簡単に現認できたと思います。だけど、本当に真剣に窓口の人たちが 日頃から通報に向きあっていないと、こういうことは思いつきません。 どんな調査方法が効果的なのか、というのは、別に一定の法則があるわけではあり ません。これが難しいのは、本当にケース・バイ・ケースなのです。さらに、通報者と 情報との関係もありますし、通報者の思いの強さもあります。通報者によって、事実が 表に出るために、自分の存在がある程度明らかになってもいいのだという人から、私 のところに少しでも疑いが来られたら困りますよという人までいて、そうした要素に 神経を張りつめければいけないわけですね。本当に新聞社の中でもこれは難しい仕事 で、新聞記者だったら誰でもできるという仕事ではございません。 10 実際、私は社会部の遊軍の平の時代に通報を受けた話がありまして、それは、国民の 公益にかかわる大変な話で、何とか説得を試みたのですけれども、私が調査に入れば、 自分の存在がばれるということで、なかなか、説得できませんでした。結局、その方が 御決心されて捜査機関に持ち込んで汚職事件になったのですけれども、事件の摘発に 至るまでに、最初、その方からの通報を受けてから、10年近く要したという例もござい ます。 それから、ある自治体の裏金を突きとめたときなのですけれども、通報者は、要する に、裏金を操作している経理をやっている真ん中にいないわけですね。そういう状況 で、証拠を出してくださいといったら、裏金に関する経理書類のコピーをこっそり、と ってきてもらう以外、ないですけれども、それは、通報者の立場を考えれば、やっては ならない手だてです。実際は、その自治体が出資していたホテルの、ホテルに自治体が 出資していた時代で、そこの架空領収書を利用していた裏金だったのですけれども、 では、どうしようかといったら、私は、通報者と違う部局の情報公開請求をしました。 そのホテルで行った会合の領収書をとったのです。その領収書はホテルなのに機械打 ちではなくて、文房具店で売っているような領収書だったのですね。1990年代後 半だったのですけれど、ホテルが、今時、手書きをするのだろうかと、まず、疑問を持 ちました。そして、ずっと、見ていると、領収書の右上の通し番号が連続しているんで すね。例えば、1563から1564という具合に。要するに、自治体のその部局の会合をやっ ているのは、別に毎日やっているわけではないので、本来であれば、会合と会合の間に は、自治体ではない利用者の会合が何十件もあるはずですね。ところが、情報公開請求 で入手したホテルの領収書の番号は連続しているのですね。明らかに、ホテルから白 紙の領収書を入手して、裏金をつくるために、連続して、書き入れたとしか、思えませ ん。これは証拠になると思って、それを実際に知事にぶつけて、自治体全体を調査する 必要があるのでは、と申し入れをしつつ、さらに、自分で、ほかの部局の領収書、全部 を情報公開して、いもづる式に裏金を突き止めていったという例もあります。要は、調 査の工夫と努力次第なのです。 通報者との関係は、報道が終われば、はい、さようなら、とは、ならないですね。ず っとおつき合いしています。年賀状のやりとりとか、あるいは、本当に困り事ができ て、相談になられるようなことがあります。そういう相談にも、できるだけ、丁寧に応 じています。自分が告発を受けて、これだけ大きな記事を書いて、隠された不正を世の 中にこうやって出すことができたのは、やはり通報者の方のおかげだと思っています ので、それが私の務めだと思ってやっています。 それから、運用を高める手だてです。だんだん時間がなくなってきましたので、この 辺は、提出しました資料をみていただければ、と思います。報道機関には、情報源の秘 匿、行政機関や企業には個人情報の取り扱いという問題がありますので、なかなか難 しい面がありますが、運用の成功例の情報を共有していく必要があると思います。消 費者庁が、サイトでも、あるいは研修会でもいいので、どういう手だてをとって、事実 を解明したのか、通報者の存在を隠すためにこういうふうに乗り越えていったのか、 11 など。窓口に最初に立つ人のための情報を増やしていただきたいと思います。実は、失 敗例も参考になりますので、そういう実例の紹介も含め、やってほしいと思います。 それから、内部告発が今、新聞社では、どうなっているのだということをお話しま す。法律が施行されて、内部告発が新聞社に来なくなったかというと、そうではありま せん。本当だったら、この法律があれば、内部告発は企業の中にとどまりますね。そう いう法律だと思うのです。というのは、外部通報するには、報道機関も外部通報先なの ですけれども、非常にハードルが高い。ところが、法施行前と余り変わっていないと思 います。というのはどうしてかというと、やはり新聞社に対して、プロとして極限まで 公平・公正な報道の立場で調査してくれるのではないかという期待を通報者の方々が 持っていらっしゃるのではないかということが背景にあると思っています。 報道機関としての対応なのですけれども、私は、通報を受けたときに、外部通報の保 護要件に該当しているかというような細かいことは説明しません。説明される新聞社 やテレビもあるかもしれませんけれども、なぜ説明しないかというと、これが実際、非 常にわかりにくいというのが1つと、私は、この法制度によって、通報者は保護されま すと安易に担保することができないからです。思うのですけれども、この法律は、まる で内部通報に通報者を誘導するような形になっているのではないか、と。別にそんな 意図はないでしょうけれども、そういうふうになっているのではないかなと感じます。 でも、実際、報道機関への通報が減らないというのは、目の前にある不正を何とかしな ければならないという通報者の正義感と、報道機関への信頼にほかならないと思って います。 そういう意味で、保護要件のあり方なのですけれども、もう少し広く、柔軟にしてほ しいと思っています。通報者は、実際、法に詳しくない方がほとんどです。どれが違法 行為になるかどうかもわからないのですね。報道機関は逆に、違法行為になろうが、な るまいが、先ほどのお話のように、どんな情報でも受け付けています。だから、国民の 重大な公益にかかわる通報であれば、違法行為と立証できないものまですくい上げる ような保護要件があってもいいのではないかと思っています。 それから、公益通報者保護法で、もう一つ、いつも問題になる通報者の範囲のことで す。労働者とか、派遣の方に限定されていますけれども、実際、会社役員とか、取引先 の事業者とか、捜査機関の幹部の方とか、この間の例で言えば、五輪競技の日本代表監 督の暴力指導を告発した女子選手の方とか、そういう労働者の契約にない人たちがい っぱい、いらっしゃるのですね。だから、労働者保護というのは重要な視点であると思 いますけれども、では、現行のこの法律が、内部告発、公益通報の全部をカバーしてい るのかというと、そうではないのではないかと考えます。被害者的な立場の方、例え ば、病院職員が患者を虐待していた場合の患者だとか、そういうことも含めて、一体ど ういうふうにそれをカバーしていくのか。やはり広げないとしようがないのではない か。そういうときにも、不利益な扱いを行った当事者へのペナルティーも科せるよう にお願いしたいと思います。 そういう意味では、労働組合など労働分野に携わる団体も、もう少し、法の見直し、 12 保護制度の改革の議論に巻き込んではどうか、という思いがあります。それから、消費 者庁が担当官庁にもかかわらず、消費者にとって、利益がある法律なのにもかかわら ず、消費者団体がもう一つ盛り上がっていない、関心を持っていらっしゃらない感を 抱いています。例えば、先ほど、挙げました実態調査の対象に労働組合とか消費者団体 を入れるなり、内部告発、公益通報をどういうふうに思って、自分たちはどうしていき たいのかということも含めて、ぜひ、巻き込むような、そういう仕掛けが必要なのでは ないかと思います。 最後なのですけれども、とりあえず、とにかく法制定の見直しがなかなか進まない のは、論点が整理されていないからだということを指摘したいと思います。結局、法制 定前とほとんど論点が同じ議論が進んでいるのではないかという印象を強く持ちます。 一方で、例えば、先ほども挙げましたように、柔道の体罰をきっかけに日本スポーツ振 興センター法が改正されて、スポーツセンターの中に国が相談窓口を、トップアスリ ートだけですけれども、置いたり、いじめ防止対策推進法が制定されて、児童・生徒も 含めた相談窓口の整備が図られたり、窓口だらけになっています。では、こうした、新 たな窓口が、公益通報保護法の窓口と一体対応がどう変わるのか、通報者をどうやっ て守って、告発を被害の未然防止などに生かしていくのか。やはり法的な整理が必要 ではないかと思います。 この法律自体、立てつけが非常にわかりにくく、基本法なのか、特別法なのか、性格 がはっきりしません。それをぜひ整理していただきたいと思います。そういう点から 言えば、他の関連した法との関係も見据えた法の見直しが必要でしょうし、先ほど申 し上げたように、実態調査の角度を変えるなり、運用効果を上げる手だてを検討する なり、あるいは法の趣旨をどうやって改めて浸透させていくなり、過去の検討にとど まらない、様々な論点があると思います。各界各層の有識者の意見を踏まえることが 急務で、審議会のような場が早急に必要ではないかなと思います。 その際、実際に通報者と接し、通報を処理していく実務を経験し、その中で問題点や 課題を認識している人間をぜひメンバーに入れてほしいと思います。報道機関でも実 務に精通している人間を加え、本日、申し上げました運用面の課題についても議論を 進めていただきたいと考えております。本日は、たくさんの事柄について意見述べま したが、報道機関の一員として私が経験したことが公益通報保護制度の前進にお役に 立てればという思いで紹介させていただきました。 以上です。 <質疑応答> ○拝師参与 今日はどうもありがとうございました。 今の制度は、通報先が内部と行政と外部と分かれているのですけれども。 ○井手氏 ○拝師参与 第3番目の通報先として我々があると認識しています。 一方、外部の中にも、報道機関であったり、弁護士会の相談窓口であった り、相談を受け付ける企業も出てきたりして、結構、性格がいろいろなのではないか 13 という気もしているのですね。そもそも外部の受付窓口が今の状況のままでいいの かという疑問がありまして、この辺をもう少し工夫するようなことはあり得るので すかね。例えば、報道機関の場合は、企業の自浄努力を促すというよりは、基本的に は外部に報道することが目的で活動されていますね。それに対して、例えば、弁護士 会が窓口をつくって受け付けるときは、必ずしも社会的にオープンにするために活 動しているとは限らないわけで、性格の違いかなという気もするのですけれども、 その辺、いかがでしょうか。 ○井手氏 報道機関に通報者が来られるのは、何を期待されているのかというと、報 道なのです。当たり前のことなのですけれども。報道を通じて、事実を公にして、社 会的制裁にもなるようにすることが、我々の責務だと思っているのですけれども、 ここが、他の通報窓口とは、全く違う部分だと思うのです。この法律の目的から言っ て、一番いいのは、内部にきちっとした受付窓口の体制があって、きちっと調査をさ れて、自浄作用を発揮されて、実際に国民の公益に関するものを防ぐということで しょうけれども、そうした自浄作用が果たされていないのかなと思うのです。 例えば、アメリカの元CIA職員の内部告発のような国際的な例を見ると、告発 する相手が大きければ大きいほど、外部機関の通報先の重要性というのがあるので はないか、だから、やはり並列的に内部通報先と外部通報先があるのはしようがな いかなと考えます。頑張ってほしいのは、第2の通報先、要するに、関係行政機関や 監督官庁ですね。先ほどの意見聴取で、最初に2つ出した例というのは、内部告発を 受けたのが、国土交通省や通産省だったと思うのですけれども、大手自動車会社や 大手電力会社に対して相当な調査や措置をされ、最終的に刑事事件になったものも あります。この第2の通報先の部分が、正直言って、今、非常に弱いのではないかと 思います。第1の部分、つまり、企業や行政機関内部に置かれた通報先は、日本社会 ではそんなに変わらないかもしれないけれども、第2の通報先となる監督官庁とい うのは非常に責任が重いと思うのですね。なぜ通報をほったらかしにするのか、さ らに、最近の厚生労働省や防衛省とかのように、通報者自体が不利益になるような ことが起きていることをみると、第2の通報先の部分は、もう少しきちっとしても らいたいと思います。それから、その部分に対して、もう少し消費者庁が指導権限を 働かせてもらいたい。例えば、総務省の行政監察局が他の官庁に指摘しているよう な法に照らし合わせて、これはおかしいのではないかと指摘するのはありではない かと思っています。 ○拝師参与 今、おっしゃったのは、行政の通報先が基本は監督官庁だと。その中で、 監督官庁そのものが実はその案件と深くかかわってしまっていて、不利益を出した くないという力学が働くというケースもあるのかなと思うのですけれども、そうい う意味では、もう少し第三者的なところが行政としても見ていく必要があるのかな という気もするのですけれども、今は、そういう第2の窓口の中に消費者庁そのも のもかかわったほうがいいという御趣旨なのでしょうか。 ○井手氏 消費者庁は、第2の通報先のもう少し上というか、斜め上みたいなところ 14 にいる存在になっていただきたいと思います。そして、通報先の監督官庁が通報を 放置してしまったり、通報者に不利益な扱いをしたりする事例について、単にガイ ドラインでこれを改正しなさい、当該の職員を懲戒処分しなさいというように一般 的なルールを定めるだけではなくて、それは由々しきことなのだと具体的に指摘で きるような制度をつくっていただいて、さらに、そうした具体的な消費者庁の指摘 行為を我々報道機関が、例えば、解説記事をつけるとか、それによって生じた国民の 不利益はどうであったかというのを追及していくとか、報道してもう少し第2の通 報先の部分をしっかり強化する必要はあるのではないか、というより、第2の部分 がポイントだと思います。 ○島田氏 どうも今日はありがとうございました。今の点、大変興味深く伺ったので すが、報道されていたお立場から見て、監督官庁に向けた告発というのが十分に機 能していない、その辺のメカニズムというか、なぜなのかというあたりで何か御意 見あればお聞かせ下さい。 ○井手氏 1つは、こうした内部通報の調査、取り扱いそのものに慣れていらっしゃ らないと思うのですね。もう一つは、そういうものをやることの価値を、組織とし て、その官庁の中でどれほどに思っていらっしゃるかですね。例えば、私たち新聞社 で言えば、調査報道部門というのは、花形ということかどうかはわかりませんが、そ れなりに重きは置かれています。さらに、報道に結びつければ、一応、スクープとい うことになって、社内ではそれなりの評価を受けるわけですね。ところが、監督官庁 の中で内部通報をそれなりに積み上げ、一定の結果をもたらした担当者、また、そう いう部門を指導されるようなポジションにいらっしゃる方が果たして、仕事に見合 った評価をされるのかですね。それはやはり、内閣全体とか、安倍政権全体とか、少 なくとも消費者庁がそれをサポートとか、バックアップするようなことでないと、 内部告発の通報について、余計なことが来たなという感じでは前に進まないのでは ないかと思います。 所属する企業や行政機関でだけなく、監督官庁でもそういう状態になっているこ とがあって、実際、報道機関に通報が来たときは、本当にぐちゃぐちゃになって来る ときがあります。要は、第1の内部では自浄作用が働かない、それから、第2の監督 官庁も何もしてくれない、ではと言って報道機関に来ることが非常に多いのですね。 これは非常にやりにくいのです。なぜやりにくいかというと、通報者は、すでにばれ ているのですね。それをどうしていくのか。それから、証拠も隠されているのです ね。第2の段階のときだったら、そんなことはないと思うのですね。それでも、当然、 我々の責務ですから、ぐちゃぐちゃになろうと何であろうと、やらなくてはいけな い、国民の安全・安心にかかわることはやらなければならないのですけれども、正直 言って、最初から我々、報道機関のところに来ていただく方が調査するうえでは、い いのですね、はっきり言って。それの方が実際にやりやすいのは事実です。 さっきの意見聴取では申し上げませんでしたけれども、大体、通報者の方々とい うのは、一回ぐらいは先に、自分の所属する機関の内部通報窓口に、言ってあるとい 15 う場合が多いのですよ。内部の通報窓口にこんなことがあると届けたり、上司の方 に申し出たりとかですね。だから、私が取材に入る時は、まず、それをまず黙っても らうのですね。とにかく1か月ぐらい置かないと、通報者の存在は、完全にばれてし まいますので、その期間が必要なのですね。そういう意味では、ストレートに新聞社 に来ていただく方が、取材の方法論など、いろいろできるのです。日本社会の発展と か、国民生活への利益という部分で言えば、やはり内部告発を最初に受けたところ がちゃんと対応しなければいけないし、第2の段階、監督官庁がもう少し頑張って もらいたいと思います。ひとつの監督官庁が頑張ることというのは、内部告発を受 けたら、ちゃんとやらなければいけないよねということを促すことになるのです。 我々が頑張るのは、なぜ頑張るのかというと、内部告発に対しては、ちゃんと対応 し、それが国民の安全、安心につながるということに示すことになるからなのです。 我々が、内部告発を受けた真実をちゃんと報道に結びつければ、日本企業の意識も、 行政期間の意識も変わるだろうというのが大きいのですね。だから、本当に行政機 関が頑張っていただきたいし、そのために、それこそ通報をちゃんと処理した人た ちを、グッドプラクティスとして、まさに顕彰し、その人たちこそ、役所として、正 当に人事評価していただきたいなという気がします。 ○服部審議官 この制度に関連深いものとして、やはり日本の雇用システムがあると 思うのです。日本の雇用システム、例えば、終身雇用とか、そういうものが崩れてき ているという見方もある中で、公益通報者保護制度や内部通報制度、こういうもの が利用しやすくなってきているのか、それとも余り関係ないのか、こういった観点 で何かお気づきのところがあれば教えていただきたい。 それから、企業の中でCSRというものが動いており、企業の取り組みの中で、こ ういったものをもっと評価してもいいのではないかという動き、前向きに取組んで いる企業が収益を上げていくという動きも、方向としてはありうるのかなと思うの ですけれども、そのあたりで何かお気づきの点があれば。 ○井手氏 第2点は重要な御質問だと思いますね。今、企業の社会的貢献という視点 で、企業の価値をどうするのかという問題で言えば、企業がいろいろなところに寄 附をしたりとか、地域活動をやったりとか、災害などはその大きな例ですけれども、 それがだんだん当たり前になりつつあるわけですね。ところが、この公益通報窓口 を整備した、あるいは公益通報窓口を運用して誠実に対応したことがあった場合、 これが表に出るのは、要は、自分のところの不祥事を明らかにするときだけなので すね。これを何とか、我々メディアの役割も大きいと思うのですけれども、通報をス ピーディーに処理して、未然に手を打ったということを評価すべきだと思います。 先ほど申し上げましたように、サイトみたいなものに、消費者庁が設けられ、こうい う成功例がありますということを挙げられたら。それから、この内部通報を巡る議 論は、もう少し、明るく話したいのですね。日本では、こういうことがあったら、す ごく暗いではないですか。裏切りとか、チクりとか、そういう世界で、ですね。せっ かく通報してもらって、うちはこんなことをやったのだみたいな、もっとこれをが 16 やがや、がやがやと明るく話せるみたいな、そんなふうにしたいなという気はしま す。 ○服部審議官 公益通報を社会の利益だと考えるという立場が増えるかどうかといっ たときに、普通の人が考えるのは、この制度がどんどん進めば、いつ会社がつぶれる かわからない、いつ家族が路頭に迷うかわからない、そのときのセーフティネット というのは非常に不安だと。それは1社で最後までお勤めするという社会になって いるからだと、そういった状況が1つ大きな壁になっているという見方もあり得る のかなと思うのですけれども。 ○井手氏 理想は、能力のある方が、しかもインテグリティーを持っている方が通報 してほしいのですね。能力があり、誠実で高潔な方が会社の中で、これはどうしても この会社の進むべき方向としておかしいではないかと、グローバルな社会の中で企 業展開していく上で、どうしてもこの方向はおかしいではないかと、こんな違法行 為を隠れてやっていて、ばれなければいいということは通らないではないかという ことで声を上げるということをやっていただきたいと思います。 日本の雇用形態も変わっていくでしょうし、世界の企業が日本市場に乗り出して きて、あすには外資系に転換する可能性があるかもしれませんね。いきなり、全然、 世界観が変わるわけですよ。そうしたら、何を企業人として求められているのかと いうのが、それは法を遵守するというのは当たり前ですね。グローバル人材の育成 が、アベノミクスの成長戦略にも挙げられていると思うのですけれども、グローバ ル社会に通じる人材というのは、ちゃんとしたときに声を挙げられる人ですよ。終 身雇用、年功序列の社会というのは、内部告発のようなものの妨げにはなるのかも しれません。一番いいのは、内部告発の声を上げる方は、会社を愛しているからこ そ、人口減のこういう厳しい時代に、こういうふうにて生きていかなければいけな いということで、手を挙げて、声を上げてということになってほしい。そうはなかな かならないと思いますけれども、それが理想的なのだと思っています。 <意見聴取2> ○奥山俊宏氏 ヒアリング要旨 きょうはお招きいただきまして、どうもありがとうございました。 私は、1989年(平成元年)に大学を卒業して、新聞記者になりました。当時はバブル が絶頂のころでした。翌年(1990年)からバブルは崩壊を始め、1991年にはそれに伴う 景気の後退があらわになっていきました。以降、「失われた10年」とか、「失われた20 年」とか、その後、呼ばれるような時代になるわけですけれども、その間、私は記者と して、いろいろな事件――主に経済事件――の取材をしてまいりました。最初の5年 間は地方に――水戸支局に3年、福島支局に2年――おり、その後、社会部に来て、検 察や証券取引等監視委員会、金融監督庁などを担当し、ここ10年余は主に調査報道を 担当しております。 17 バブルが崩壊したということは、 「第二の敗戦」と呼ばれるぐらい大きなインパクト を日本の政治、経済、社会に与えたと思います。私も実際に取材している中で、そうし た影響の様々な場面に遭遇しました。 例えば、銀行が破綻して国有化されます。そうすると、旧経営陣の責任を明確化しな ければならないというミッションが新しい経営陣には与えられます。 「破綻した」とい っても、倒産したり破産したりするわけではなくて、金融システムをきちんと守らな ければいけないという大きな公益があるものですから、一般の納税者や預金保険の負 担で銀行の機能はそのまま維持されて、社員は破綻前と同じように勤め続ける。そこ の社員にとって、例えば、私ども新聞記者に対応する広報部の社員にとっては、破綻の 日までは自分たちの頭取とか副頭取とかを守らなくてはいけない。破綻前の銀行の広 報部の社員たちは、 「自分たちの銀行はきちんと正しい融資を行っていて、決算も正し い決算を発表してきました」と、そういうことを弁護する立場といいますか、説明する 立場にあるわけなのですけれども、それが一転、破綻して国有化された後は、旧経営陣 の責任を明確化して、場合によっては銀行として前の頭取や副頭取を相手取って刑事 告発とか告訴とかしたり、あるいは訴訟を起こして損害賠償を請求したりすることに なる。そして広報部の社員たちは、かつての上司である旧経営陣がいかにあくどいこ とをやったか、その結果として銀行がこういうこと(破綻)に追い込まれたということ を、逆に私どもに説明しなければいけない立場になる。先ほど井手さんの話にありま したけれども、世界観が変わるといいますか、企業人として何を求められているのか という問いがまさに突きつけられるといいますか、広報部の社員たちにとっては、突 き詰めて考えなければいけない局面に置かれる。そういうことを間近に見ることが何 度もありました。 そういうときに、 「その銀行のため」というのはどういうことなのだろうということ を考える。そのときに、内部告発とか公益通報とか、そういう言葉が浮かぶ。何が正し いのかとか、何を行うことが本当にサラリーマンとしての正しい処世術なのかとか、 そういうことを考える。それはまさに内部告発者の置かれる立場と非常によく似てい る。ほぼ同じといってもいいと思います。 現に、私どもの取材に対して企業の中枢にある方、銀行の中枢におられる方が協力 してくれて、 「うちの銀行ではこういうことをやっていました」ということを言ってく れる。あるいは「自分たちの銀行はなぜこうなってしまったのかということを知りた いのだ」と、 「一緒に調べましょう」ということを言ってくれ、取材の協力者になって くれる。それはいわば内部告発といってもいいのではないかと思います。 これは一例ですが、そういうことを私は仕事の中で見聞きしてきました。 内部告発、公益通報と一口に言っても、いろいろなパターンがあると思います。こち らから働きかけて何とか取材に協力してもらうという形で内部告発者的な立場になっ ていただくというパターンもあります。そういう人にとっては、おそらく、 「自分は会 社のために、会社をよりよくするためにここでうみを出し切らなくてはいけない」と 18 か、 「企業人として旧経営陣にはきちんと責任を取ってもらわなければ、この会社は生 まれ変わらない」とか、そういういろいろな思いがあって協力してくれるのだと思う のです。そういうところには私利私欲とか何とかということはあまりなくて、企業人 として自分の生きる道というか、生きるべき道を考えてそうなっていくのだろうと思 います。銀行の事例を申し上げましたけれども、そういう事例はわりと多々あるとい いますか、たくさんあると思います。 私は、振り出しが水戸支局で、そこでは当時、建設業界のことを取材しておりまし た。こちらから取材を申し込んだのか、それとも向こうから来たのか、今となっては思 い出せないのですけれども、ある中堅の建設会社――売上高が数億円か 10 億円ぐらい の建設会社――の社長さんにお話をうかがう機会を何度もいただいた。その社長さん が言うには、 「結局いくら技術者をそろえて施工能力を高め、いい仕事をしても、元請 けで受注するのは政治力のある会社」。その社長さんによれば、政治力のある会社が元 請けとして受注し、工事代金をピンはねして安く買いたたいた値段で下請けに出す、 本当の施工能力のある会社に下請けでやらせている。そういうことが当時、茨城県の 一部の地域でシステマティックに行われる状況になっていた。そういう中で、一生懸 命技術力を蓄えているけれども、安く買いたたかれて非常に苦しい思いしている会社 がある。倒産する会社も見てきている。その社長さんはそうおっしゃっていました。 その話を聞いて、私なりに、いろいろと取材をしました。そういう一括下請けという のは、建設業法に違反します。建設業法には触れるのですけれども、刑事罰はないので す。刑事罰はないけれども違法である。建設業法に触れる一括下請けがあるというこ とを記事に書いたりしました。元請けの政治力のある会社が建設業法に違反したとい うことは記事に書きました。けれども、何で政治力があるのか、ということまではきち んと記事に書けなかった。 突き詰めれば首長に選挙などで何らかの利益を提供していたのだろうと思った。最 終的には知事、当時は■■■■さんという人が知事だったのですが、知事がピラミッ ドの頂点にいて、そこに利益が集まる構造になっているに違いない。みんなとは言わ ないけれども、それが業界では常識のような話になっていた。ただ、そこまでは記事に はできなかった。きっとそうなのだろうと話を聞いて思っても、裏づけがとれない話 で、記事には書けなかった。 その後何年かして■■■■知事はゼネコン各社から軒並み 1,000 万円単位の賄賂を 受け取ったということで、東京地検特捜部に逮捕された。贈賄側は有罪が確定しまし た。御本人は被告人のまま判決前に亡くなりました。そういうことがあったので、やは りそうだったのかと思った。私が水戸にいた当時は、そこまでは記事に書くことがで きなかった。裾野の部分、 「建設業法違反の一括下請け」は記事にしたけれども、核心 に当たる部分は記事に書けなかった。 その結果、その建設会社の人は非常に苦しい思いをされたと思うのです。私の取材 に協力し、業界の構造的な腐敗を内部告発したにもかかわらず、それが中途半端な形 19 でしか世に出ず、さほどの改善につながらなかった。一応記事は出したのですけれど も、本当の核心に触れることができなかった。その結果申しわけないことをしたとい う思いが残っています。例えばこれが1つ事例です。 あと、今でも思い出す事例として、やはり水戸支局にいたときに原子炉メーカーの 技術者だったという男性からたしか会社に電話か何かで連絡があって、どこかのファ ミリーレストランで一度お会いして、長い時間、お話を聞きました。原子力発電所の現 場で被曝線量のごまかしや非破壊検査の写真のすり替え、鉄筋コンクリートのいい加 減な施工などの不正が行われているというのが話の中身でした。話は非常に具体的で、 きっとそうなのだろうと話を聞いて私は思ったのですけれども、これもどのように裏 づけをとって記事にしたらいいのかということが、当時の私ではいま一つ――私は記 者になって2、3年目だったと思うのですけれども――よくわからなくて、その場で 聞いただけということに結局なってしまいました。 2003 年ごろだったか、社会部の調査報道班にいたときにも、知り合いの知り合いの 知り合いの紹介という形で、全く別の原子炉メーカーの技術者の人と会うことがあっ て、そのときも非常に具体的な話を聞きました。原子力発電所の現場でどういう不正 をやっているか。そのときは若干の取材はしたのですけれども、取材源を秘匿しなけ ればいけないという制約もあったので、具体的にここの現場のこれのこれという感じ で特定した形の取材ではなかったということもあり、結果的には裏づけがとれなくて 記事にしていません。 2011 年3月に福島第一原発の事故が起こった。それを見て改めて反省しました。自 分が原子力発電所の現場の生々しい話として不正の疑惑を耳にしていたにもかかわら ず、それを記事にしていない。自分のノートには記録にとどめて、自分の頭の中には残 っているのですけれども、それだけに終わってしまった。本当に申しわけなかった。水 戸で会った人も、東京で会った人も、相当な覚悟をもって私に話をしてくれただろう にもかかわらず、私のほうで、それを生かせなかったということは本当に申しわけな かったと反省しました。 もう一つ事例を申し上げます。福島支局にいたとき、92 年7月だったと思うのです けれども、参議院選挙の公示日当日に突然私どもの支局に男の人が「話を聞いてくれ」 ということで来られました。 私が会議室でその人の話を聞きました。その人は、自分は郵便局の関係者であると いうことで、名前を名乗られた。特定郵便局長という制度がかつてありましたが、その 特定郵便局長会の組織的な不正がその人が言いたい内容でした。 その人の話によれば、特定郵便局長は地域の名士といわれるような人たちが多く、 人望も厚くて人脈もある。それを生かしてその人たちが違法な選挙運動をやっている。 違法な政治資金集めをやっている。これを全国でやっている。当時の郵政省が組織ぐ るみでやっている。郵便、貯金、保険が郵政の3つの事業なのですけれども、 「第4の 20 事業」として選挙運動をやっている。そうやって政治力をたくわえ、その影響力を行使 して組織の利益を図っている。それがその人の話の中身でした。 これをどのようにして取材していけばいいのかと私は考えました。その人の話を聞 いた上で、私は「紹介してください」と、その人に頼みました。 「あなた1人の話では 記事にはできません。実際の局長さんを紹介してください」と頼みました。その人は相 当渋っていたのですけれども、何人か現職の特定郵便局長さんを紹介してもらって、 実際に会いました。取材をしていくとわかるのですけれども、その人は、業界といいま すか、特定郵便局長さんたちの間で、非常に人望を集めているというか、立派な人とし て尊敬をされている人だった。その人に頼まれれば応じざるを得ないという局長さん が何人もいて、私の取材に対してその人の話を裏づける話をしてくれました。 ただ、裏づける話をしてくれたといっても、その局長さんたちは自分たちは決して 告発者になりたくない。 「自分たちはこの組織で生きていて、全然組織を裏切ろうと思 っていないのだ」と。 「思っていないけれども、紹介してくれたその人への義理もある のであなたの取材に答えたのです」ということで、話をしてくれました。 いろいろな話も聞けたので、その人の告発の内容は事実に間違いないとは思ったの ですが、そうはいっても、その人の紹介があって、その紹介につながる人の話で裏付け られたにすぎないので、これで「完全に裏をとれた」と言えるのだろうかと私は思っ た。その段階では記事化は見送りました。 その後、1年ほどがたったころに、その人とは全く別の関係者から投書があって、そ の人の話を聞くことができた。その人は当初来た男の人と全くつながりがない人だっ たけれども、符合する話を聞くことができた。これは全く無関係の第三者から裏づけ られたといえる。それで「これはいけるのではないか」と思いましたので、いくつか取 材対象になるような人――現職、元職も含め――の連絡先をリストアップして、日曜 日の夜に一斉に片っ端から十数人だったかに電話した。そのうちの何人かはほぼ認め た。ちょっと驚きだったのですけれども、電話に対して大まかな事実関係を認めたの で、「これでいける」という判断をして記事にしました。 その記事が出たのが 94 年4月だったので、当初のその人の告発から1年半ぐらい取 材に時間がかかったことになります。ただし、記事にしたとはいっても、それは「福島 県内の特定郵便局長会が国家公務員法違反の疑いある行為を組織的に行っている」と いう記事が朝日新聞の福島版に載ったということであって、郵政省にはそれなりのイ ンパクトがあったとは思うのですけれども、あくまでもローカルな組織のローカルな スキャンダルとして地方版に記事が載ったということでした。全国的に行われていた であろう違法な選挙運動とか政治活動をやめさせるということにはならなかった。な ので、結局、告発者の人の思いを十分に達せしめることはできなかった。 その後、それから 10 年近く後になって、大阪府警と京都府警が近畿地方の郵便局長 らを次々と公職選挙法違反で逮捕した。とうとう、郵政省の大幹部である近畿郵政局 の局長も逮捕した。局長以下、近畿管内の特定郵便局長が組織的に選挙運動をやって いたということで、その後、有罪判決が言い渡された。その人の言っていた通り、福島 21 県内だけでなく、全国的に違法な選挙運動が郵政局長という郵政省の職制の関与の下 で大々的に行われていたことが犯罪捜査でも裏付けられた。その人の言っていたこと はやはり正しかったと思いました。 と同時に、福島県内での不正については記事に書いたけれども、近畿については、全 国については、郵政省の関与については、結局、警察、検察が刑事事件にするまで摘発 することができなかった。それは私の力不足が原因だった。そういう申しわけなさを 感じました。 その後、その人の家に久しぶりに電話したことがあります。電話をすると、おそらく 奥さんだと思うのですけれども、女の人が電話口に出られて、「もう亡くなりました」 とおっしゃった。私、そのとき「お悔やみ申し上げます」とは申し上げたのですけれど も、その人とどういう関係でどうお世話になったということは、そこでは申し上げる ことはできなかった。その人は自分の家族にも私との関係を秘密にしていたと思いま すので、お葬式にも行けず、お墓参りもできない。そのこと自体も、なおさら申しわけ ないと思いました。 内部告発を受けてうまく記事になったという例ももちろん多々あります。ですけれ ども、そうではなくて、うまくいかなかった例も多々ある。報道の側の非力さといいま すか、裏をとれなくて記事にならなかったということのほうが実は圧倒的に多い。そ のことはぜひ知ってほしい。まずそれを申し上げておきたいと思います。 きょう、レジュメをお配りしています。ここからはレジュメに沿って申し上げてい きたいと思います。 特に調査報道はそうなのですけれども、報道には公共的な意義があり、役割がある。 井手さんもそうだと思うのですが、多くの記者にとって、それが仕事のやりがいにな っている。センセーショナルな記事を書いて、それで原稿料を稼ごうとか、新聞をたく さん売ろうとかいうことは露ほども考えていない。社会の問題点を広く世の中に伝え ることによってそれが是正され、社会に良い結果がもたらされる。指摘されない問題 が是正されることはまれですから、問題があれば、指摘されるべきで、そのことはジャ ーナリズムの大切な役割の一つです。多くの記者はそういう社会的な善のために仕事 をやっています。だから、これをやろうというファイトが出てくる。それは自信をもっ て言えます。 そんな仕事をやるにあたって、内部告発者、協力してくれる取材源の人たちはとて も大切です。そうした内部告発や取材協力の結果、いろいろな調査報道によって記事 が世の中に出てきている。レジュメにいくつか具体的な事件を挙げていますけれども、 こういうことが明るみに出ることによって是正されるものが多々ある。こういうもの が明るみに出なくて、ずっと不正が温存されたままだと、結局、社会とか制度とかシス テムはだんだんと機能不全を起こして腐敗していってしまう。それを抑止するといい ますか、一部にとどまっているかもしれませんが、明るみに出すことによってそれを 22 くじく、直させる。そういう役割を調査報道、あるいは内部告発は果たしてきていま す。 これは私個人の意見であるというわけではなくて、一般に言われていることです。 アメリカでの言葉をレジュメに引きました。ジャーナリズム、特に調査報道は「マック レーカー」 「ウォッチドッグ」、あるいは「フォース・エステート」という言葉で表され る役割を社会の中で果たしている。 「新聞のない政府か、政府のない新聞か、いずれか を選べと言われれば、私は、後者、すなわち、政府のない新聞を選ぶことに一瞬の躊躇 もすべきではないだろう」と、アメリカの建国の父が語っている。それは、そういうジ ャーナリズム、調査報道、ひいては、それらを助けている内部告発者の人たちの社会的 な機能を認めている言葉なのだろうと思うのです。 これはアメリカだけに当てはまることではなくて、むしろ日本においてもっと当て はまる。日本においては、社会のチェック・アンド・バランスのシステムがアメリカほ どには整備されているとは言いがたいので、そのぶん、ジャーナリズムが担わなけれ ばいけない部分はもっと大きいのではないか、あるいは、内部告発者の人たちによっ て明るみに出されなければいけないことはもっと多いのではないかと、私などは日々 感じています。 ジャーナリズムや内部告発が果たしている社会的な役割の大きさは、多くの人に見 えていて多くの人が感じているよりもはるかに大きい。その点を強調しておきたいと 思います。 内部告発を実際に受けたときに記者はどうするか。現実には、先ほどの私の個人的 な体験から申し上げましたように、なかなか生かしきれいことが多いです。 一つはニュース性があるといえるかどうかという問題があります。報道としてやる わけなので、社会的な意義があまりないケースは取り上げられない。その人にとって は大きいことなのかもしれないけれども、小さな会社の小さな職場の 30 万円の横領行 為、裏金をつくっているという話があったとしても、それはなかなかニュース性が高 いとは言いづらい。そんな話の内部告発を受けても、それについて莫大な労力を投入 して取材をするというのは難しい。この取材をしていった場合にどんな記事になるの だろうか、ならないのだろうか、ということを考えざるを得ないということはありま す。 もう一つは、裏づけのとりやすさ、とりにくさ。取材するのが大変だろうというとき にどうするか。夜討ち朝駆けという言葉があるのですけれども、それをやるかどうか。 そこにどれだけの労力を投入するか。記者個人にとってみれば、自分の人生をどこま でそこに投入するかということになる。これは自分の人生を投入してもやるに値する 大切な問題だと思えば徹底的にやりますけれども、そこまでは思えないケースなどは、 どうしたらいいのだろうと考えます。 もう一つ、告発者の側でどれだけリスクをとれるかというところもかかわってきま す。 23 きょう傍聴にいらしている■■さんのように、■■県警の巡査部長、現職の警察官 として記者会見を開いて内部告発をした。そういう場合、■■さんが自分のリスクで 告発をされているので、取材する側としては書きやすい。それは調査報道ではないで す。■■さんとその支援をしている弁護士さんらの発表をそのまま記事にする。こう いうことをこの人は発表しましたということを書くにすぎない。なので、報道する側 が負うリスクというものは小さい。なので、記事は書きやすい。 他方、そうではなくて匿名でなくてはいけない人がいる。あるいは、そもそもこの情 報が告発者からもたらされたということそのものを秘匿しなくてはいけないケースが ある。 「告発者がいたということになると自分が疑われるから、そういうことが絶対に 起こらないように取材してくれ」という告発者がいる。そんなことできるのかといわ れれば、できないこともない。例えば、取材の過程で告発者ではなくて、別のソースか ら情報を得たかのようにふるまう。あまり言うと語弊があるかもしれないのですけれ ども、情報源として想像される先をまったく別に散らし、告発者のことは完全に秘匿 して取材する。全く別の調査をあえて混ぜるということを内部通報に対する企業の調 査でもやられると聞くのですけれども、それに近いような方法であるとか、いくつか 方法はある。報道する側の取材の労力だとか手間暇というものも大きくなるわけです けれども、そういうやり方をとることもできないことはない。実際、告発者がいるとい うことを完全に秘匿した形での報道というのはけっこう多いと思います。とはいえ、 それは簡単にできることではない。ハードルがとても高い。 以上、要するに、ニュース性、裏づけのとりやすさ、とりにくさ、あと、告発者側の 事情、告発者においてリスクをどれだけとれるかということ、そういったことの相関 で実際に記事になるかどうかということが決まってくるということが、現実の事情と してあります。 私どもジャーナリズムの世界では、これは日本だけでなくてアメリカでもヨーロッ パでも、取材源の秘匿がジャーナリストの基本的な倫理であると考えられています。 自分のニュースソースを漏らしてはいけないということです。秘匿することによって、 ニュースソースを守る。ひいては維持していく。継続的に取材できるようにする。そし てそのニュースソースを将来の報道にも生かす。そのことがその記者や報道機関に対 する別のニュースソースの信頼につながり、新たな報道の端緒になる。そういうこと が取材源秘匿の意義というか目的なのですけれども、これには、内部告発者が誰かと いうことを秘匿するということも当然そこに含まれる。ということで、取材源秘匿に よって内部告発者を守っていくということが伝統的な考え方であると思います。 ただ、それにはいろいろ問題点といいますか隘路があります。 そうはいっても読者はこの記事の情報源は誰なのだろうということを知りたい。ど ういう背景があってこの記事は書かれたのだろうということを知りたいという読者も 特に最近ふえてきている。それに応えていかなくてはいけないとも思う。ですので、で きれば取材源、情報源を出したい。内部告発によって端緒が得られて書かれた記事な 24 のならば、 「これは内部告発があって記事になったのです」ということもできれば書き たい。私などは、内部告発が社会にとってどう生かされているか、役に立っているかと いうことを多くの人に知ってもらいたいと思っていますので、 「この記事は内部告発が あったから書けたのだ」ということをきちんと書きたい、内部告発者の了解が得られ て、かつ、状況が許せばきちんと表に出したい、と思います。 あと、内部告発者を完全に秘匿するとなると、どうしても奥歯に物が挟まったよう な取材や報道にならざるをえない。取材にあたってもいろいろしゃべれないことが出 てくる。そうすると、取材を受ける側にこちらの意図を正確に伝えられない。ある程度 は共通の基盤がないと、きちんとした取材ができないということがある。そういう問 題があります。 あと、報道する側が、報道された側から訴えられたり誹謗中傷されたりすることが ままあるのですけれども、その際に情報源を出せないということになると、記事の立 証に支障を来します。情報源になった人を説得して公の場で証人に立ってもらえると いうことならそれでいいのですけれども、それが無理な場合は、そこについてはあえ て立証しない。誹謗中傷されても黙って耐える。場合によっては報道機関や記者が訴 訟で負けるかもしれないけれども、そこは甘受する。そういうことにならざるを得な いケースがあります。 報道機関として読者にきちんとお知らせする、事実を報道するということが最優先 であるので、敗訴するおそれがあるということを理由に――いわば報道機関側の経営 上の要請を理由に――報道を控えるということはあってはいけない。報じることを優 先すべきだということが一応建前としてはあります。さはさりながら、実際問題、難し い面がある。 今、記者も内部告発者も、スマホを持っていたりメールでやりとりしたり携帯で電 話したりしています。ということは、みんな電子記録に残っている。それを、犯罪捜査 の権限がある機関が本気になってやれば、トレースできる。先ほど申し上げた昔の郵 政省でしたら監察局があって犯罪捜査の権限を――逮捕する権限も――持っていたの で、本気でやれば電話のやりとりの記録だとか、あるいはいろいろなところにある監 視カメラの記録であるとかを押収できる。そういう権限をフルに使って、携帯電話の 位置情報であるとか、そういうものを徹底的に集めれば、記者が誰と会っているかと いうことをあぶり出すことが、昔に比べれば容易になってきています。記者と内部告 発者の関係を暴かれてしまうリスクは以前に比べてふえてきているという現実の問題 点があります。 取材源を秘匿することによって内部告発者を保護するということが大前提としてあ るのですけれども、ここまで申し上げてきましたように、それで全てうまくいくかと いうとそういうわけではないということは認識しておかなくてはいけないと思ってい ます。だから公益通報者保護法にも少しは期待してみたい。 レジュメの内容をちょっと飛ばして、最後に、公益通報者保護制度に関する私の意 25 見を申し述べたいと思います。 公益通報者保護法に定められた報道機関への通報の要件、すなわち、法によって保 護されるかどうか、それから、その保護の強さというのは、最初のほうで申し上げまし た「取材を受けるにあたって告発者がどれだけのリスクをとれるか」ということと関 わってきます。公益通報者保護法による保護がきちんとあるのだったら、告発者側で リスクをよりたくさんとれるようになって、内部告発が報道に生かされやすくなると いうことが理屈の上で言えると思いますし、現実にもそういう効果があるのではない かと思います。 調査報道とか内部告発とかが社会にとって役に立っている、社会的な善である、と いうことを前提に置けば、報道機関あるいは調査報道をする記者に対する内部告発へ の法的な保護を少しでもより手厚くしてほしい。あるいは、そうした内部告発のうち 法的保護の対象範囲をより広げてほしい。ということがあります。 いろいろ保護の仕方というものはあると思うのですけれども、今ある公益通報者保 護法の外部通報へのハードル、要件は非常に狭くて厳しくて、しかも使いづらい。予見 可能性が低く、わかりづらい。公益通報者保護法をつくるときにお手本にしたイギリ スの公益開示法よりもハードルが高くて範囲が狭い。非常にバランスが悪いというか、 制定するときにもいろいろ議論がありましたけれども、今、振り返って現実の運用状 況を見てもそれは感じます。なので、そこは直されたほうがいいのではないかという ことを申し上げておきたいです。 それに関連する意見として、 「風評被害があるから外部通報のハードルは低くするこ とができないのだ」という議論を随分聞くのですけれども、実際そうなのだろうかと 思います。内部告発を受けて取材しても結果的に記事にしていない事例が、先に申し 上げましたように、こんなに山のようにある。報道機関に通報したことイコール世の 中に公開され、オープン・トゥ・ザ・パブリックになるということでは全くない。現実 には、報道機関に通報したけれども、それが結果的に埋もれてしまっている事例とい うものが多い。 報道機関に通報してモノにならなければ、告発者の人は別のところに告発を持って いくかというと、それはあまりない。朝日新聞でだめなら読売新聞に持っていく、ある いは読売新聞でだめなら毎日新聞に持っていくというパターンはままあると思うので すけれども、新聞社がだめだからネットにぶちまけるかというと、あまりそういうこ とはない。そこでもうだめなのだということであきらめている人が多いという現実が あると思います。だからこそなおさら責任を感じているというか、きちんと生かさな くてはいけないという責任を感じているのです。 ちゃんとした記者やちゃんとした報道機関への内部告発の結果として、根拠のない 風評がばらまかれて不当な被害が生じる、ということは極めてまれだと思います。無 実の人に有罪判決を言い渡した前例が多々あるのと同様に、人間がやることですから 全く誤りがないとは申しません。誤報がゼロだとは申しませんが、通常、ちゃんとした 26 調査報道記者への通報ならば、行政機関への通報に比べて、風評被害のリスクがとり わけ大きい、ということはありません。むしろ、総合的に見て、リスクは小さいと思い ます。内部告発を生かして記事を仕上げるのがいかに大変かという話を冒頭で申し上 げましたが、それも、このリスクの小ささの説明になっていると思います。 告発を生かすためにはいろいろなハードルがあります。そのハードルの一例として、 告発者側でどれだけリスクをとれるかという問題があるのは先に申し上げましたとお りです。そこに公益通報者保護法の要件はかかわってくる。なので、そこは少しでもよ り良く変えてほしい。そう思います。 あと、これは内部告発を受けてその内容を取材する記者としての意見ではなくて、 この公益通報者保護制度について、以前から取材している者としての意見なのですけ れども、指摘しておきたいことがあります。 そもそも公益通報者保護法をつくる当時、その立案を担当した内閣府国民生活局の 人たち、2003~2004 年当時に私は彼らを取材しておりましたが、当時の永谷局長らは 公益通報者保護制度について「小さく産んで大きく育てたい」 「とりあえずは小さくス タートしたい」という趣旨のお話をしていました。その「将来は大きく育てる」という ことには、保護対象の範囲を広げるとか、報道機関など外部への通報の要件をもっと 低くして充実させるとか、もっと広げるとか、内部通報しやすくする、ということが含 まれていたと思います。そのように「大きく育てる」ということは、この法律ができた 当初から予定されていたことであり、もう織り込み済みとなっていることなので、そ れはそのとおりに予定されていたとおりにやるべきなのではないかと思います。 公益通報者保護法が制定されたことによって、企業にとってすごく不利益なことが あるとか、世の中とんでもないぎすぎすした社会になるとか、そういうことがあった かというと、そういうことはなかったわけです。ならば、当初の予定どおりに公益通報 者保護法をより充実させ、より範囲を広げるという方向で改正していくのは当然のこ とだろうと思います。 報道機関への告発を主にするのではなくて、内部通報を受け付けて企業の内部で自 浄する、みずから律するということが企業のコンプライアンス、あるいはガバナンス を機能させる上で必要であり、それを促すような法律、制度であるべきだということ は、私もそう思います。思いますけれども、そのためには、外圧といいますか、企業の 中できちんとやらなければ報道機関に告発されてしまって、企業にとって結局不利益 になると思えるようにすることが必要です。そういう外圧がなければ内部通報制度を 機能させようということにはあまりならないと思います。内部通報制度を骨抜きにし ようという不純な思惑がまかり通りかねない。それを抑止するような制度設計が必要 です。 粉飾決算をやっていた■■■■■などがその例で、内部通報制度をあえて骨抜きに しようとしたと評価されて仕方のないような企業が現にあったわけです。そうではな くて、みんなできちんと内部通報制度を機能させるようにしようというインセンティ 27 ブを働かせるためには、外部に通報されるということが抑止力として強く働かなくて はいけない。そのためには、外部通報の要件をもっと低くしなければいけない。 今のままの外部通報の要件だと、どうせ、内部通報にきちんと対応しなかったとし ても、報道機関に外部通報されるリスクは少ない。あんな法律に従って報道機関に外 部通報するという人はまずいない。したがって外部通報のリスクはほとんどない。だ から、内部通報もいいかげんに処理していい。そういう方向でのインセンティブが働 きかねない制度設計になっている。そこはもうちょっとバランスのいいものにしたほ うがいいということを私の意見として申し上げたいと思います。 以上、話を終わります。 <質疑応答> ○拝師参与 奥山さんはずっと取材されてきて、この記者経験をされている中で公益 通報者保護法というものができてきたわけですね。この法律ができる前と後で具体 的な内部告発等の状況に何か大きな変化があったとお感じでしょうか。 ○奥山氏 定量的に申し上げるのは難しいのですけれども、変化があったのではない かと、私としてはそうとらえたいというか、そのように感じています。公益通報者保 護法は、いろいろ批判はありますけれども、国として国会として政府として、一定の 要件に当てはまる内部告発は公益のためになる正しい行いなのだということを宣言 しているのだと思います。そういうことがきちんと宣言されているということは、 良心から内部告発をしようと思っている人にとっては大きな精神的なバックアップ になるのだろう、現になっているのだろうと思います。公益通報者保護法でこのよ うに謳ってくれているから、自分は内部告発すべきだと、内部告発したい、そう思っ ている人が現実にいるので、そういう力になっているのではないかと思います。 ○島田氏 どうもありがとうございました。最後の御意見の中で外部通報のハードル がとても高いという御意見を伺ったのですけれども、内部通報との関係でいうと、 具体的にはどの辺りを想定されているのか、御意見がおありでしたらお聞かせ下さ い。 ○奥山氏 外部通報してもいい場合というものが現行の公益通報者保護法には制限的 に列挙されていますが、そこに当てはまるということを判断するのが難しい。制限 的に列挙するのでなくて、例示的に列挙するといいますか、包括的な条項を加えた らいいのではいかと私としては思っています。 ちょっとテクニカルな話で申し上げますと、内部通報はしたけれども、何の対処 もない場合は外部通報していい、ということが今の公益通報者保護法には定められ ています。ですが、行政機関に通報してもきちんとした対応がない場合にその他の 外部に通報していい、という部分は抜け落ちています。制定過程の途中の段階まで はその部分があったのですけれども、あるときにそこを落としているのです。イギ リスの法律(公益開示法)にはその部分があります。それを含めるのが自然だし、そ れを含めるべきだと思います。そのうえで、その他の外部に通報していい場合を制 28 限的ではなくて、例示的に列挙した上で、包括的な規定も入れたらいいのではない でしょうか。 ○拝師参与 外部通報のハードルをもっと下げて、抑止力をもっときちんと持たせる べきだということなのですけれども、抑止力の中身なのですが、報道の場合は社会 的な制裁という側面があると思うのですが、それ以外に抑止力の要因として持たせ たほうがいいというものはありますか。例えばマスコミ、報道はいろいろな絞り込 みがあって初めて記事が出てくるわけですね。そうならないけれども、それなりに 対処しなくてはいけないことがあると思うので、そういうものへの配慮をどのよう にすればいいのか。 ○奥山氏 いろいろなものがあり得ると思います。消費者委員会で提言されておられ るような違反企業名の公表も一つの方法だと思います。公益通報者への違法な不利 益扱いがあったときに、それをやった企業に対する是正勧告とその企業名の公表を ワンセットでやるということは一つの方法としてあると思います。 ただ、それについて私があまり意見を言うというのは、ジャーナリズム、報道を離 れたところで私から意見を言うということは差し控えたいです。報道の記者として 自分に当事者性のある問題については、 「報道機関への外部通報の要件をもっと低く すべきだ」とか、そういうことは意見を申し上げていいのだと思いますけれども、そ れ以外の部分は、報道記者としてはできるだけ客観的な立場を保ちたいと思ってい ます。なので、そこはあまり言わないほうがいいと思います。 ○拝師参与 今日、お話しいただいたこととか、資料でいただいたものは基本的には ジャーナリストというか、当事者としてのところで言えるものをきちんとおっしゃ ったと、そういうスタンスでということですね。触れていないところは、逆にこのま までもいいという趣旨でもないということですか。触れていらっしゃらない部分に ついての改正は特に。 ○奥山氏 そこは特に申し上げないようにしているということです。このままでいい という趣旨ではもちろんありません。私は論説委員ではなく、記者なので、そこはニ ュートラルな立場に立ちたいと思っています。ただ、報道の当事者としてかかわる 問題についてはきちんとモノを言っていかなくてはいけない、モノを言っていくと いうことも許されるだろう、と思っています。そういうスタンスです。 ○服部審議官 なかなか記事にならなかったという背景にはいろいろな理由があると 思うのですけれども、これはと思ったにもかかわらずなかなか記事として公表され るまでに至らなかった大きな理由は何なのかということが、お伺いしたい1点目で す。2点目は、一生懸命やろうとする企業、前向きに取り組む企業が備えるべき要 件、こういうものを備えている企業であれば御経験からして前向きだと判断できる、 そういう要件があれば教えていただければと思います。 ○奥山氏 記事にならなかった理由の大きなものとしては、そもそもニュース性がな いと判断して記事にならないケースも多々あります。ニュース性があると判断した としても裏がとれないケースもあります。例えば告発者の方が資料とかをお持ちだ 29 ったら、その資料をもとに取材していって裏づけをしやすいのですけれども、その 人のお話だけという場合は非常に取材がしづらいと思います。さらに言えば、その 人が直接体験した自分の体験の話だったらいいのですけれども、伝聞が入っている ケース、――話をより分けていくと結局、伝聞が大部分を占めているというケース ――だとさらに一歩遠くなるという現実があります。 あと、実際に告発者の話をもとに取材していったとしても、結局、 「取材はしたけ れども記事にはなりませんでした」ということになる場合もありえます。そういう 場合、告発者の人の名前は出さなくても何らか疑われたりとか告発者の不利益があ り得ます。記事になればそれもまだ本望というか、致し方ないと思ってもらえるの ですけれども、取材はしたけれども記事にならなくて結局、告発者が危うい立場に 置かれただけということになると、非常に申し訳ない。そういうことはできるだけ 避けたいと思っていますので、そこで、取材に取りかかるというところで躊躇する。 きちんと取材したら記事になるのかというところの見極めがつけられない場合に取 材に着手するかどうか迷う。そういうときは「どうしますか」と告発者に相談して、 「そこはあなたの選択です」ということを申し上げなくてはいけないと思います。 あと、一生懸命やろうとしている企業についてのお話なのですけれども、ここは 話が逆の言い方になるかもしれないのですが、公益通報者保護法ができたことによ って、内部通報にきちんと対応していない企業があったとした場合に、そのことを 記事にしやすくなったという面があります。企業のきちんとしたガバナンスの制度 が機能していないということを捉えて記事にできるという場合があると思います。 告発者の告発の中身そのものについてはさほどニュース性が高くないとか、ニュー ス性があまりないケースであっても、告発者の告発への対応がおかしかったら、そ の内部通報への対応がおかしいということを捉えて、そこにニュース性を見出して 記事にできるということがあります。それを逆にとらえると、一生懸命やろうとし ている企業だとそういうことはないわけです。一生懸命やらないというか、内部通 報制度はつくってあっても、そんなものが来たらその社員をこらしめてやろうと思 っている企業があったとすれば、そのこと自体を問題にするという形で記事に積極 的にしていけると思っています。 ○服部審議官 いま、見極めという話がありましたが、内部通報を受け取った企業の 窓口についても、同じように早い段階でそれをどうするのかという迅速な判断、場 合によってトップまで上げるとか、そういう迅速かつ精緻な体制がきちんとルール 化されているかどうかということは、本当に告発者の方を大切にしていないと出て こないわけですから、そういう意味では重要なポイントだと思ったのですが、いか がでしょうか。 ○奥山氏 おっしゃるとおりですね。企業として内部通報を受け付けてきちんとやろ うという姿勢というか、本気度合いといいますか、それがあるかどうかが重要だと 思います。 企業の内部調査は権限があります。内部の書類を調べたり、自分の従業員だった 30 ら事情聴取したり、内部で調査する権限はあるので、本気になれば、そうとうの調べ をやれる。私ども報道機関にはそういう権限があるというわけではありません。捜 査機関みたいに銀行のお金の動きを調査したりとか、そういう権限があるわけでも ありません。そこはいろいろな工夫といいますか、労力を投入したりとかいろいろ なところで一生懸命そこは乗り越えているわけなのですけれども、私ども報道機関 とは異なり、企業の場合は内部調査についてはある程度のやる気があればかなりの ことをできると思うのです。 繰り返しますが、調査をするときにどこまで本気でやるかが重要です。人の話を 聴くという場合でも、通り一遍に話を聞く場合と、本当に魂を触れ合わせるぐらい の状況で話を聴く場合とでは、聞ける話の内容やその深さはおのずと違ってくると 思います。それは刑事さん、検察官の取り調べと同じで、本当に相手に真相をしゃべ ってもらおうと思えば、深く深くその人の生い立ちみたいな話から聴いていく必要 がある。そのぐらいやろうという姿勢でやっていけば、相当のことがわかるはずで す。 ○大森課長補佐 お答えの中で告発者の方が確実な資料を持っていなくて記事にでき ないことも多いというお話もありましたけれども、感覚としてどれくらいの割合の 人がそういう資料を持って通報されたりするのでしょうか。 ○奥山氏 新聞社に寄せられる手紙とかメールとか電話とかは、いろいろなものがあ りまして、その中にはよくわからない内容のものもあれば、たまに本当に文書がど さっと来たりすることもあって、母数を何でとるかで割合の数字は違ってきます。 常連みたいに連絡してくる人もいるわけですし。したがって割合を申し上げるのは 難しい。 これはいけるのではないかという話は毎日1件ずつぐらいあったと、私は経験し ています。現在はそういう告発を見る立場にはないのですけれども、以前、社会部に いたときとか、内部告発窓口の運用を担当していたときとか、そういうときの経験 からだと、そんな実感です。 今日お配りしているレジュメの2ページ目にウェブサイトの画像を引用している のですが、2008 年に「求む!ニュースの素材」 「こちら調査報道班」という名前で内 部告発を受け付ける窓口となるウェブサイトをつくり、当初の半年ぐらい、その運 用を担当しました。そのときの印象だと、ならすと1日1件ぐらいのペースで、中身 がきちんとした通報があった。半年間で 200 件以上はあって、そのうち記事になっ たのが数件ありました。うち1件は一面、社会面に展開する大きな記事で、2件は社 会面トップの記事で、あとはもうちょっと小さな記事という感じでした。 ただし、その記事の多くで、新聞社の窓口に寄せられた内部告発の情報でこの記 事ができましたということは、特に一面に載った記事については一切伏せました。 取材を受けて書かれた側としては、その情報が内部告発者からもたらされた情報で あるということを全くわかっていなくて、おそらく、別のところからの情報で取材 しているのだろうと思っていたと私は思います。ですが、本当はここを経由して内 31 部告発者から寄せられた情報でその記事は書かれたのです。 ○大森課長補佐 もう一点お聞きしたいと思いますが、風評被害についてのお話があ りましたけれども、これまで内部告発がもととなった報道で風評被害が生じたとい う例は何かありましたでしょうか。それはどういうところに問題があったとお考え か、もしよろしければ教えていただければと思います。 ○奥山氏 「風評」という言葉の定義を私はよくわかっていないものですから、根拠の あるものも含めて「風評」と言うのかどうかという問題がまずあると思うのですが、 内部告発者の話をもとに誤報が書かれたケースが過去にあるかというお尋ねだとす れば、そういうケースもあったのだろうと思います。 なぜそうなったのかというと、おそらく取材が甘かったのだろう、と思います。告 発者の言うことをそのままうのみにして、ほとんど何の裏づけもせずに、告発者が 言ったことをそのまま記事に書いた結果がそうなったのだろうと思います。 内部告発を端緒に記事を書くということは、当局の発表をもとに記事を書くのと は異なり、たいていの場合、調査報道として取り組まなければなりません。ですか ら、報道の側で徹底的に調査し、取材する。これが当然のことです。その当然のこと ができていないことがときどきあります。 内部告発したいということで新聞社に来る人の中に、意図的にウソを言う人もい るかもしれません。そんな人にはめられないよう、それには常に用心しなければな らない。中には、告発者にはまったく悪意がなくて、告発者が誤解していて、不正が あると信じて込んでいて、報道機関に内部告発してくる、ということがあります。そ ういうときは、それが誤解であることをきちんとリサーチなり取材なりの中で明ら かにして、告発者にフィードバックして納得してもらうのが世の中のためになる、 と思います。そういう取材をせずに、告発者の言うことを鵜呑みにするのは、結局、 告発者をも困らせることになります。 そういう記事が全くないかと言われれば、ないことはないと思います。人間のや ることなので、そういうことはあるだろうと思うのですが、それが多いかというと 決して多いわけではないと思います。 ○板東長官 内部告発者の対象範囲を広げたらどうかということなのですが、労働者 の場合と違うようなケースについても不利益が現実に生じているようなケースとか、 こういうところはもう少し考えてはどうかといったことについて、具体的に御指摘 いただけるような話があれば、教えていただければと思います。 ○奥山氏 辞めた人への不利益というものは現実にあり得ると思うのです。2004 年の 公益通報者保護法制定当時の国会の政府答弁で出ている事例(事業者から退職年金 を差し止められたケース)もありえますし、たとえば、辞めた人、OBに会社の社屋 への自由な立ち入りを許しているのに、それを「もうお断りします」と特定のOBの みに言うケース。あるいは、会社が事務局を務めるOB会みたいなところから特定 のOBをはじき出すケース、あるいは、OBへの何らかの会社としてのサービスみ たいなもの――例えばOBに社内報をお配りするというサービス――があったとき 32 に、それを差しとめるケース。そういうことはあり得るのではないかと思います。 ○井手氏 取引先は、何かフォローしてほしいと思います。取引先の方が内部のこと を御存じで通報されるということはあることで、それと、おっしゃられた役員です。 役員は、会社の内部事情を非常によく知っていて、ただし、本当に不正などを発露さ れるのは、社内の対立感情があるみたいなところはあります。 辞められた方からの通報は、私も受けたことがあるのですけれども、調べるとき に正直に言ってこちらがものすごくリスクをとっているのです。元々、調査報道と いうもの、内部告発については、新聞社の中で記事を出すときのハードルはめちゃ めちゃ高いのです。要するに、必ず読売新聞社の調べでわかったということで、あと 何の支えもないわけです。ですから、社内でも相当なチェックの場面をクリアしな ければ、記事にすることは無理なのです。 辞められた方の場合は、特に過去の話で今にこれが続いているかどうかというこ とがポイントで、調べ方も、その方の証言だけでは無理で、別の裏づけを、という部 分があります。辞められた方の場合は現実的な処分、解雇であるとか左遷であると かということより、嫌がらせのような不明瞭な部分になりますで、そういうものを どうしていくのかという話だろうと思います。私は先ほど、意見聴取で例を示した ような、雇用関係ではないのですけれども、日本代表監督と女子柔道選手みたいな 関係であるとか、学校の先生と生徒であるとか、病院の医師・看護師と患者であると か、力関係の中で、どちらかというと弱い人たちの問題があると思います。そうした 弱い立場の方々に対する嫌がらせ行為や行動を制限する圧力みたいなものであると か、現実問題としてそれは起こり得ることです。会社でも派遣労働者のような弱い 立場の方が本当に見聞きしたことを新聞社に持ってこられた通報で動いたあったこ ともあります。私がタッチした例ではありませんが、通報者の犯人捜しをされて、こ の人だと特定されてはじき飛ばされた例というものは結構あるように聞いています。 ○拝師参与 会社を辞められた方の中には、定年退職でOBになる方もいるのですけ れども、途中で何らかの事情でやめて再就職をされたケースもあります。そういう ケースでの不利益みたいなことは、お聞きになったケースはありますか。 ○奥山氏 短期雇用を重ねているタイプの非正規労働者で、雇用と雇用の間が 10 日ぐ らいあく、あるいは1カ月とか3カ月あくという場合があります。そういうときに 再雇用が事実上予定されていたにもかかわらず、内部告発したことを理由にされて なのか、そこで雇い止めにされてしまうというケースが、私の同僚がかかわったケ ースでありました。短期雇用が繰り返されていて雇用と雇用の間にちょっと時間が あく場合、労働法上それをどう評価するのかというのは結構難しいのではと思いま す。雇用が途切れている間については「労働者ではない」と判断されるのではないか と思います。 ○井手氏 内部告発を理由に解雇になった従業員が再就職を目指す場合にも、不利益 が及ぶ例を聞いたことがあります。はっきりとした裏づけをとったわけではないの ですが、その方々が、再就職しようとするのが、同じ業界の場合、そこにあいつはこ 33 んなやつだといって流していったみたいな感じはあります。1つは、そんなところ に勤めている人を何となく雇いにくいということと、もう一つ、あいつらが秘密を 言ったからということを経営者側が流して、その経営者はその地方では大きな力を 持っていて、影響力があるといった場合もあると聞いたことがあります。通報者は、 再就職、再出発もしづらくなっているような気がします。 ○島田氏 奥山さんがおっしゃったケースは、同じところで再雇用が予定されていた ということですか。 ○奥山氏 はい。 ○島田氏 それは雇い止めで争えるように思います。 ○奥山氏 雇い止めは間がつながっている場合はいい(雇用と雇用が連続している場 合の雇い止めは社会通念上の相当性がないということで無効にできると思う)ので すけれども、離れている場合はどうなのでしょうか。 ○島田氏 極端に離れているとあれですけれども、多少の間は事実上の問題なので、 基本的には雇い止めで争えると思います。 以上 34