光学工房

光科学及び光技術調査委員会
■
光
学
工
房
カ
メ
ラ
と
パ
ソ
コ
ン
で
拡
張
現
実
感
を
体
験
し
て
み
た
近年，拡張現実感（augmented reality; AR）とい
プログラムを最低限動かしてみるのに必要なもの
う技術が注目され，応用されはじめています．似た
は，
用語として，仮想現実感（virtual reality; VR）があ
●
りますが，VR はコンピューター上に仮想空間を再現
●
するものであり，例えば三次元 CG ゲームなどに使
●
われています．VR に対して，AR は現実世界に仮想
物体や情報を重ね合わせて，現実世界を拡張しよう
コンピューター
USB カメラ
マーカーを印刷した紙
です．プログラムを開発するには，
●
C 言語開発環境（Visual C++ など）
というものです．
が必要となります．以下，コンピューターは Windows
AR の応用例としては，現実の絵本の上を CG キャ
32 ビット環境とします．ARToolKit 自体はマルチプ
ラクターが動き回って見える仮想立体絵本や，ヘッ
ラットフォーム対応ですので，
Mac や Linux でも動き
ドマウントディスプレイなどを装着し，機器の操作
ます．MatlabやJavaやFlash対応版などもあります．
方法を支援するシステムなどがあり，特に最近セカ
ま ず 初 め に，ARToolKit の ホ ー ム ペ ー ジ 3） か ら
イカメラ1） が有名になりました．セカイカメラと
ARToolKit-2.72.1-bin-win32.zipをダウンロードします．
は，iPhone などのスマートフォンや携帯電話のカメ
1. ARToolKit のインストール
ラを街中でかざすと，そのカメラに写った建物・看
ダウンロードした ARToolKit-2.72.1-bin-win32.zip
板・商品などに関する情報が携帯端末の画面上でカ
を 解 凍 し，「C:¥Program Files¥ARToolKit」フ ォ ル
メラ画像と重なってリアルタイムに表示されるアプ
ダーを作りコピーします．コンパイル環境を設定す
リケーションです．セカイカメラは，情報を表示さ
るには，インクルードやライブラリーパスの設定，
せるために，GPS による位置情報を用いています．
OpenGL の補助ライブラリー GLUT 4） のインストー
これに対して，USB カメラで撮影した正方形の
ルが必要です．
マーカーを認識して，リアルタイムにコンピュー
2. マーカーの印刷
ターディスプレイ上にカメラ画像と CG を合成す
ARToolKit で作るアプリケーションは「マーカー
る C 言語のソフトウェアライブラリーとして，
をカメラで撮影すると，その上に 3D オブジェク
ARToolKit 2）があります．これは，奈良先端科学技術
トを上書き表示する」という，いわゆるマーカー
大学院大学の加藤博一教授とワシントン大学 HITL
検知タイプのアプリケーションです．最近では，
（Human Interface Technology Laboratory）が開発し
マーカーレスタイプ 5） の研究もされています．
「C:
たもので，研究用として公開されています．画像合
¥Program Files¥ARToolKit¥patterns」の中にマーカー
成 と い う の は 昔 か ら あ り ま し た が，近 年 の コ ン
のパターンが PDF ファイルで入っています．この
ピューターの発達によって，リアルタイムに画像認
中の「pattHiro.pdf」を紙に印刷します（Fig. 1）．
識と合成ができるようになっています．この画像認
3. サンプルプログラムを動かしてみる
識と合成の処理は，ARToolKit がやってくれます．
USB カメラを PC につなぎ，ドライバーのインス
今回，ARToolKit を用いて，AR を体験してみました
トール等の設定をすませておきます．サンプルプ
ので，紹介します．
ログラムは「C:¥Program Files¥ARToolKit¥bin」の中
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光 学
光
の
広
場
Fig. 1 印刷したマーカー．
に あ り ま す．他 の カ メ ラ キ ャ プ チ ャ ー プ ロ グ ラ
Fig. 2 マーカー上にリアルタイム合成された三次
元物体．
ム が 動 い て い な い こ と を 確 認 し，こ の 中 に あ る
「simpleTest.exe」をダブルクリックして起動します．
プログラムも同梱されています．また，マーカー
起動すると，カメラのプロパティー画面（画像サ
や 3D オブジェクトは，自分で好きなものを作成
イズ，フレームレート）が表示されます．そのまま
することができます．3D オブジェクトは，静止オ
OK を押すと，新しいウィンドウが出てきてカメラ
ブジェクトでも，アニメーションするオブジェクト
画像が表示されます．
でもかまいません．また，ARToolKit と OpenCV な
この状態で，先ほど印刷したマーカーをカメラで
どの他の画像認識，画像処理ライブラリーと連携さ
撮影してみると，コンピューターディスプレイ上に
せたプログラムなども考えられます．特別な知識も
は，Fig. 2 のようにマーカーの上に立方体が表示さ
必要なく，コンピューターとカメラだけで，このよ
れます（実際には，カラー画像です）
．マーカーを回
うに非常に簡単に AR を体験できますので，みなさ
転させたり傾けたりして動かすと，それにあわせて
んも一度体験されてはいかがでしょうか．
（大阪府立大学 水谷彰夫）
上に乗っている立方体もリアルタイムに動きます．
このままでも表示はできますが，もっと高精度に
CG を合成表示させるには，カメラキャリブレー
ションが必要となります．カメラキャリブレーショ
ンとは，ドットやチェックパターンのような既知の
規則的な点をカメラで複数方向から撮影し，画像上
でその点を指定してやることで，カメラレンズの焦
点距離やレンズ歪みなどのカメラパラメーターを求
文献・URL
1）http://sekaicamera.com/
2）橋 本 直：3D キ ャ ラ ク タ ー が 現 実 世 界 に 誕 生！
ARToolKit 拡張現実感プログラミング入門（アスキー・
メディアワークス，2008）
．
3）http://www.hitl.washington.edu/artoolkit/download/
4）http://www.xmission.com/~nate/glut.html
5）例えば，http://www.robots.ox.ac.uk/~gk/
め，収差補正などの校正を行う，通常の画像計測で
よく用いられる手法です．キャリブレーション用の
39 巻 9 号（2010）
465（ 43 ）