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概要 - 法政大学
映像作品におけるシーンの印象別背景音楽選定のための 音響特徴量分析 Acoustic Feature Analysis for Selection of Background Music for Conceptual Scene Type of Audio-visual Content 西 香織 Kaori Nishi 法政大学情報科学部ディジタルメディア学科 E-mail:[email protected] Abstract Visual media like movie and television are not composed only visual. It almost has sounds. In this study, to analyze relation between audio-visual content and back ground music (BGM), it is examined that acoustic feature of BGM used each situations of the story. First, variety audio-visual content are prepared, and scenes of each of content are classified five categories: “pleasure”, “sad”, “happy”, “fear”, “excitement” based on impression. And, acoustic feature of each category is analyzed by analyzing tempo, volume, and frequency of BGM. As a result, BGM used “pleasure” scene and “sad” scene was that the tempo was slow, the volume was low, and the band less than 500Hz had low power. BGM used “happy” scene was that the tempo was fast, the volume was middle and the band almost was average. And BGM used “fear” scene and “excitement” scene was that the tempo was chose fast tempo and slow tempo by the volume of action, and the volume was high. So, each category had acoustic feature. But it has a problem that there is no difference between “pleasure” scene and “sad” scene. ョンと,シンセブラス,ベース,ドラムの 3 つのパートか らなり,曲のテンポや調性を調節できる曲を用いている. このように,映像作品は背景音楽によって印象を高めら れていることが明らかになっている. 本研究では,映像作品において意図的に視聴者の感情 をコントロールするように作られたシーンに使われてい る背景音楽にどのような音響的特徴があるかを解析する. つまり,視聴者が受ける印象のためにどのように背景音 楽が使い分けられているのかを解析する.そのために, 映像作品に使われている背景音楽をもとに,ストーリー の状況別に使われる背景音楽にどのような音響的特徴が あるのかを検討する.これによって,簡単な映像作品を 作る場合に初心者でもストーリーの状況に合った背景音 楽を使うことを可能にすることや,映像作品の背景音楽 の自動生成を可能にすることを目指す. 2.映像作品の印象とシーン 映像作品を見て,人は楽しいと感じたり,悲しいと感 じたり,恐怖を感じたりする.そこで本研究では,人が 楽しいと思うようなシーンに使われる背景音楽にはどの ような特徴があり,悲しいと思うようなシーンにはどの ような背景音楽が使われているかなどを分析する. 手法としては,まず映像作品の全てのシーンを割り出 し,そのシーンを印象によってカテゴリに分類する.映 像作品の印象は人間の感情に基づいて分類する. 1.まえがき 2.1. 映像作品におけるシーン 一般に,映画やテレビのような映像メディアは,映像 だけでは成り立たない.必ず音を伴っている.映像に加 えられる音は,映像に表現された対象から発する音ばか りではない.映像作品をより印象的なものにするために, 特殊な効果音や音楽が用いられる.それらは映像の一部 と言ってもいいほど,映像表現の重要な側面を担う[1]. 文献[2]では,映像のみの場合と音が加わった場合の映 像作品の印象の違いを印象評定による主観評価実験によ り明らかにしている.実験材料として,「シェルブール の雨傘」や「スノーマン」などのミュージカル映画や音 楽ビデオ,アニメーションなどのオーディオ・ヴィジュ アル素材を利用している.また,文献[3]では印象評定に よる主観評価実験を行うことで,音楽の調性及びテンポ と映像の速度および密度の組み合わせに意味的調和の存 在を明らかにしている.この研究では,3D グラフィック ソフトで映像の密度や再生速度を調節できるアニメーシ 映像作品におけるシーンとは一定の場所の中での動作 の一区切りのことを言うので,これにしたがってシーン を割り出す.しかし,今回はストーリーの状況別に使わ れている背景音楽について解析するので,一定の場所の 中でもカテゴリ(印象)が変わったら,その時点で別の シーンとして割り出す. Supervisor: Prof. Katunobu Ito 2.2.シーンの分類 人間の感情の代表的なものには,「喜怒哀楽」という ものがある.しかし,映像作品には様々な分野があり, 恐怖感を感じるものや興奮するものもある.そこで, 「喜怒哀楽」に加えて「恐怖」と「興奮」という感情に おける背景音楽の特徴も分析する.ただし,「喜怒哀 楽」の「怒り」というものは映像作品を見る上では興奮 している状態なので「興奮」に含まれるものとする.よ って,カテゴリは[喜び],[悲しい],[楽しい],[恐怖], [興奮]の 5 つとする.[楽しい]シーンは明るくてにぎわっ ているようなシーンとし,おもしろいシーンなども含む. [悲しい]シーンは良くない出来事が起こったりする暗いシ ーンとし,切ないシーンやさみしいシーンも含む.また, [喜び]のシーンは涙を誘うようなシーンで,視聴者が良か ったと思えるようなシーンとする.[恐怖]のシーンは恐怖 感で驚くようなシーンとし,[興奮]のシーンは恐怖ではな く次の展開が気になるようなシーンとする. 3.実験 3.1.実験方法 まず,様々な分野の映像作品(ヒューマンドラマ,サ スペンス,ホラーなど)を実験材料として用意する.そ して,実験材料の映像作品を視聴し,映像作品のシーン を前述の 5 つのカテゴリに分類する.シーンをカテゴリご とに分類したら,テンポ,音量,周波数について音響的 特徴を解析する. 3.2.実験材料 今回用いた映像作品はドラマと映画を合わせて 10 種類 である.CM やオープニングテーマ,エンディングテーマ を除いた映像作品全体の時間はドラマが約 40 分,映画が 約 1 時間半である.カテゴリごとのシーン数を表 1 に示す. 表 1:カテゴリごとのシーン数 喜び 悲しい 楽しい 恐怖 興奮 10 67 37 33 30 わらず,信頼区間の幅が広くなったのはサンプル数が少 なかったためだろう.[悲しい]シーンはテンポが遅い背景 音楽が使われやすい(平均 74bpm,信頼区間 56bpm~ 93bpm).[楽しい]シーンはテンポが速い背景音楽が使われ やすい(平均 133bpm,信頼区間 85bpm~181bpm).[恐怖] のシーンはテンポが速い曲も遅い曲も使われる(平均 112bpm,信頼区間 55bpm~169bpm).[興奮]のシーンはテ ンポが速い曲も遅い曲も使われる(平均 108bpm,信頼区間 69bpm~147bpm). [恐怖]のシーンと[興奮]のシーンの背景音楽はテンポに あまり特徴がないように思えるが,闘ったり追いかけら れたりするようなアクションが多いシーンには 100bpm 以 上のテンポが速い背景音楽が使われており,何者かがゆ っくり迫ってくるようなアクションが少ないシーンには 100bpm 未満のテンポが遅い背景音楽が使われていた.よ って,背景音楽は感情だけではなく,動きの演出も考慮 して選ばれていると言える. 45 40 35 30 喜び 25 20 15 10 5 0 30 25 20 悲しい 15 それぞれのシーンの背景音楽のテンポを beat counter[4] を使って手動で検出する.そして,カテゴリごとに背景 音楽のテンポの特徴を分析する. 3.3.2.実験結果 実験結果を図 1 に示す.横軸はテンポを bpm(1 分間に 四分音符を何回刻むか)で示し,縦軸はそのカテゴリに おけるサンプル数の比率をパーセントで示した.点線は 平均値を示し,実線の矢印は 95%信頼区間,鎖線はカテ ゴリ全体の平均テンポ(100bpm)を示している.リズム やテンポが一定ではなく,不安定な音楽は「不規則」な テンポとした. 3.3.3.考察 それぞれのカテゴリごとに平均,95%信頼区間を求めた. その際,不規則なテンポは無視する.95%信頼区間は以下 の式で求めた. 95%信頼区間=標本平均±t×標本標準誤差 (1) このとき「t」は信頼区間で決められた分布の面積が 95%になるような数値で,サンプル数が増えると t は小さ くなり,サンプル数が減ると t は大きくなる.また,標本 標準誤差は標本平均の標準偏差のことである. また,テンポの速さを相対的に比較するために,カテ ゴリ全体の平均テンポを求めると,100bpm だった.これ によって以下のことが明らかになった. [喜び]のシーンはテンポが遅めの背景音楽が使われやす い可能性がある(平均 73bpm,信頼区間 22bpm~124bpm). 図を見ると狭い区間にサンプルが固まっているにもかか 10 5 0 45 40 35 30 25 楽しい 20 15 10 5 0 50 45 40 35 30 恐怖 25 20 15 10 5 0 20 興奮 15 10 5 0 60 未 満 60 ~ 69 70 ~ 79 80 ~ 89 90 ~ 10 99 0~ 10 9 11 0~ 11 9 12 0~ 12 9 13 0~ 13 9 14 0~ 14 9 15 0~ 15 9 16 0以 上 不 規 則 3.3.テンポによる音響的特徴の解析 3.3.1.実験方法 図 1:カテゴリごとのテンポ 3.4. 音量による音響的特徴の解析 3.4.1.実験方法 映像作品の映像データ(mpg)から PetitDecoco[5]によ り音データのみ(wav)を抽出する.そして,音のデータ を Audacity[6]により,カテゴリごとに切り取る.このと き,声(せりふや溜息)や環境音(車のエンジン音,ド アの開閉音など)は音量が大きいので,声や環境音のな い部分の背景音楽を切り取る.切り取った音のデータの 音量を MATLAB により分析する.単位は db(デシベル) とする.また,音データのサンプリング周波数は,48kHz である. 3.4.2.音量の計測法 ある周波数で考えたとき,音圧レベル p の音量は,人間 が聞こえる最小の音の音圧レベル p_min で割った比のデ シベル値であらわされる. 20 log10 p p min (2) ここでは,カテゴリごとに切り取ってきた音データを(2) 式の p に代入し,背景音楽や声や環境音などが無い無音の 部分の最小値を(2)式の p_min に代入する.そして,切り 取ってきたデータごとに音量の平均を求め,カテゴリ別 に特徴を分析する. 3.4.3.実験結果 実験結果を図 2 に示す.図は(2)式により計算した値を 四捨五入で整数値にして,ヒストグラムにしたものであ る.また,横軸は音量を db で示し,縦軸はそのカテゴリ におけるサンプル数の比率をパーセントで示したものと した.点線は平均値を示し,実線の矢印は 95%信頼区間, 鎖線はカテゴリ全体の平均音量(22.31db)を示している. 喜び 3.4.4.考察 それぞれのカテゴリごとに平均,95%信頼区間を求めた. 95%信頼区間は(1)式を使って求めた.また,音量の大き さを相対的に比較するために,カテゴリ全体の平均音量 を求めると,22.31db だった.このことから以下の事が明 らかになった. [喜び]のシーンは音量が小さめの背景音楽が使われてい る(平均 15.14db,信頼区間 6.89db~23.39db).図を見ると 使われている背景音楽の音量の幅が広く見えるが,これ はセリフが入っている時に流れる背景音楽は音量が小さ く感じたが,セリフが終わり背景音楽だけ流れるときに 音量がだんだん大きくなるのが感じられたので,そのた めだと考えられる. [悲しい]シーンは音量の小さい背景音楽が使われやすい (平均 8.93db,信頼区間 1.99db~15.87db). [楽しい]シーンは中間の音量の背景音楽が使われやすい (平均 28.70db,信頼区間 19.48db~37.93db). [恐怖]のシーンは音量が大きめの背景音楽が使われやす い(平均 29.63db,信頼区間 22.87db~36.39db). [興奮]のシーンは音量の大きい背景音楽が使われやすい (平均 35.57db,信頼区間 25.98db~44.05db). 3.5.周波数による音響的特徴の解析 3.5.1.実験方法 3.4.1 章で述べた方法と同様に背景音楽を切り取り,切 り取った音のデータのパワースペクトルを MATLAB によ り分析する.分析の方法としては,ランニングスペクト ルのフィルタバンク分析を行う. 3.5.2.ランニングスペクトルの分析 悲しい 楽しい 恐怖 ランニングスペクトルとは,フレーム周期ごとに求め られるスペクトルの時系列データのことを言う[7].本研 究では,サンプリング周波数 48kHz の音データに 4096 点 FFT を行い,その際の窓関数はハニング窓を使用した.ま た,フレームのシフト幅は 2048 点である. スペクトラムにフィルタバンクを用いると,多くの値 からなるスペクトラム情報を数個の値にデータ量を減少 でき,分析にかかる計算量が低減できる.フィルタバン クでは,得られた周波数スペクトラムを中心周波数と帯 域幅をもつ複数の帯域に分割し,各帯域内において中心 周波数の周りで加重平均を計算する[8].本研究では,十 二平均律を軸として,三角窓関数を用いてフィルタバン ク分析を行った.軸の範囲はピアノの音階(A0~C8)を もとに設定したので,軸の最小値は 55Hz,最大値は 8400Hz とする.フレームのシフト幅は十二平均律の半音 である. 3.5.3.実験結果 興奮 図 2:カテゴリごとの音量 実験結果は図 3 に示す.図の横軸は周波数を Hz で示し, 縦軸はパワーの常用対数をとった. 3.5.4.考察 それぞれのカテゴリの周波数分布に違いがあるのか評 価するために,全てのシーンの周波数分布の平均と比較 してカテゴリごとに特徴をみた.全体の平均との差が大 きいほど特徴があると言える.まず,全てのシーンの周 波数分布の平均を求めた.その全体の平均の周波数分布 とそれぞれのカテゴリの周波数分布の各点ごとに差を求 め,プロットしたものが図 4 である.横軸は周波数を Hz で示し,縦軸はパワーを示した.また,4000Hz 以降はど のカテゴリも 0 に収束するので省いた. 境音を組み合わせることで,にぎやかな雰囲気を演出し ていると考えられる. [恐怖]のシーンと[興奮]のシーンはアクションが多いシ ーンと少ないシーンの 2 種類があり,これによっても背景 音楽が使い分けられていることがわかった.また,この 2 つのシーンに共通して 200Hz 以下の低い音域のパワーが 強かったため,この音域は人に恐怖感や不安感を与える と考えられる. 5. むすび 図 3:カテゴリごとの周波数分布 [喜び]のシーンと[悲しい]シーンは似たような分布にな った.全ての周波数において平均より下回っていること から,ここでも音量が小さいということがわかる.また, 500Hz 以下の低い音域は弱い. [楽しい]シーンは,ほとんど 0 に近いことから,どの音 域も平均的に使われていることがわかった. [恐怖]のシーンは,100Hz 付近の低い音域が特に強く, ほかの音域はほぼ平均に近い.100Hz 付近の低い音域は人 に恐怖感を与えると思われる. [興奮]のシーンは,200Hz 付近,500Hz 付近,1000Hz 付 近,2600Hz 付近が強い.200Hz や 500Hz の低い音域と 1000Hz や 2600Hz の人に聞こえやすい音域を強くするこ とによって,より音量が大きいように感じることから人 に不安感を与えていると思われる.また,全ての周波数 において平均より上回っていることから,ここでも音量 が大きいことがわかる. 今回の研究により,それぞれのカテゴリごとに以下の ような音響的特徴が明らかになった. [喜び]のシーンと[悲しい]シーンの背景音楽はテンポが 遅く,音量が小さく,500Hz 以下の低い音域はパワーが弱 い.ただし,[喜び]のシーンよりも[悲しい]シーンの方が よりテンポが遅く音量が小さい. [楽しい]シーンの背景音楽はテンポが速く,中間の音量 で,周波数はどの音域も平均的に使われていた. [恐怖]のシーンの背景音楽はアクションが多いところで はテンポが速く,アクションが少ないところでは遅い. また,不規則なテンポの曲が多く使われていた.音量は 大きめで 100Hz 付近の低い音域のパワーが強かった. [興奮]のシーンの背景音楽はアクションが多いところで はテンポが速く,アクションが少ないところではテンポ が遅い.音量は大きく,低音や人に聞こえやすい音域の パワーが強くなっている. しかし,今回の研究で[喜び]のシーンと[悲しい]シーン の背景音楽の違いをあまり明白にすることができなかっ た.ストーリーの状況別に背景音楽を使い分けるには, この二つのカテゴリの違いも明白にしなければならない. そのためには,楽器の数や種類を調べるなど別の方法で 検討することで,この二つのカテゴリの違いを明らかに する必要がある. 文 図 4:全シーンとカテゴリごとの周波数分布の差 4.全体考察 [喜び]のシーンと[悲しい]シーンのように,視聴者をよ り感情移入させたいシーンの背景音楽はテンポが遅く音 量が小さい.これによって,これらのシーンはセリフや 役者の演出に視聴者の注意を引こうとしていると考えら れる. [楽しい]シーンの背景音楽は音量も周波数も平均的なも のを使うことで,視聴者に背景音楽による強い刺激をあ まり与えないようにしていると思われる.今回は研究の 対象になっていないが,このシーンは背景音楽よりも環 境音がよく聞こえる傾向があった.よって背景音楽と環 献 [1] 岩宮眞一郎,”映像作品における視聴覚コミュニケー ション”, 電子情報通信学会技術研究報告,vol.102, No.533,pp39-46,2002 [2] 岩宮眞一郎,”オーディオ・ヴィジュアル・メディア による音楽聴取行動における視覚と聴覚の相互作用”, 日本音響学会,vol.48,No.3,pp146-153,1992 [3] 岩宮眞一郎ほか,”音楽の調性及びテンポと映像の速 度および密度が映像作品の印象に及ぼす影響”,音楽 知覚認知研究,vol.8,No.2,pp53-64,2002 [4] http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se107444.html [5] http://www.vector.co.jp/soft/win95/art/se185896.html [6] http://www.forest.impress.co.jp/lib/pic/music/soundedit/au dacity.html [7] 早坂昇ほか,”ランニングスペクトルフィルタを用い た雑音にロバストな音声認識”,信学技報,vol.103, No.146,pp31-36,2003 [8] 黒澤栄司ほか,”発音パラメータを用いた超低速音声 通信の考察”,電子情報通信学会ソサイエティ大会講 演論文集,pp473,1996 [9] 杉原雅ほか,“十二平均律に於ける音楽和音の音響学 的 研 究 ( 生 活 科 学 ) ” ,京都府立大学学術報告, vol.13,No.1,pp75-82,1959