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産業別研究開発ストックの推計について1

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産業別研究開発ストックの推計について1
産業別研究開発ストックの推計について1
2013 月 5 月
文部科学省科学技術政策研究所
池内 健太(第 1 研究グループ研究員)
権 赫旭(客員研究官・日本大学経済学部教授)
深尾 京司(第 1 研究グループ客員総括主任研究官・一橋大学経済研究所所長)
科学技術政策研究所では、文部科学省「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推
進事業」の一環として、研究開発投資の経済効果の分析に資するため、産業別の研究開発ストック(技術
知識ストック)の長期系列を推計しました。推計結果は科学技術政策研究所のホームページで公開されて
いますので、科学技術イノベーションに関する政策担当者や研究開発投資の経済効果等のテーマに関心を
持つ研究者をはじめ、多くの方に活用いただければ幸いです。
URL:http://www.nistep.go.jp/research/scisip/data-and-information-infrastructure
(文部科学省科学技術政策研究所「データ・情報基盤」ホームページ内)
なお、本推計データを利用の際は、出所として、科学技術政策研究所(2013)
「研究開発・イノベーショ
ン・生産性データベース:産業別研究開発ストック推計値」を利用した旨、記載をお願いします。
研究開発活動が技術進歩に与える影響を検証するためには、研究開発ストック(技術知
識ストック)の長期系列を推計する必要があり、これまでも後藤他(1986)や深尾他(2003)
等において日本の産業別の研究開発ストックの計測の試みがある。我々はこれらの先行研
究の方法を概ね踏襲しながら、最近のデータも追加することで、1973 年から 2008 年の 35
年間にわたる長期の産業別の研究開発ストックに関するデータベースを構築した。なお、
産業別に研究開発ストックと生産性の関係が容易に分析できるように、推計に用いた産業
分類(部門分類)は、産業別の全要素生産性(TFP)の計測をおこなっている日本産業生産
性(Japan Industrial Productivity Database、略称 JIP)データベースの分類に合わせた。
以下では、推計に利用したデータと具体的な推計方法について解説する。
1. 研究開発ストックの推計のベースとするデータと対象範囲
本推計では研究開発投資として総務省統計局の『科学技術研究調査報告』で公表されて
いる企業等2の「社内使用研究費(支出額)
」のデータを用いた。対象期間は 1973 年から 2008
1
ここでの産業とは企業の「主生産物」で産業に格付ける分類ではなく、商品及びそれを生
産する生産活動を単位としたアクティビティ・ベースのことを指す。
2
会社法が規定する会社、特殊法人等並びに独立行政法人(非営利団体・公的機関及び大学
1
年とした3。
「社内使用研究費(支出額)」は以下のように定義される。
「社内使用研究費(支出額)
」=
「人件費」+「原材料費」+「有形固定資産購入費」+「リース料」+「その他の経費」
また、JIP データベースとの比較可能性を考慮して、本推計で用いる産業分類は企業の「主
生産物」で産業に格付けた分類ではなく、商品及びそれを生産する生産活動(アクティビ
ティ)を単位とした「アクティビティ・ベース」の分類を用いた4。すなわち、同一企業で
複数の産業にまたがる研究開発がおこなわれている場合も考慮し、
『科学技術研究調査報告』
の「製品・サービス分野別研究費」に基づいて、産業別の研究開発投資及びストックの推
計をおこなった。なお、
「製品・サービス分野別研究費」は各回答企業においてその合計が
「社内使用研究費(支出額)
」の合計(総額)に一致するように回答されているものであり、
「社内使用研究費(支出額)」の「製品・サービス分野別」の内訳と考えることができる。
(研究開発投資及びストックを推計した具体的な部門分類については、推計データファイ
ルの【部門分類】シートを参照されたい)
2. 名目研究開発投資系列の推計
本推計では産業別の名目研究開発投資の合計が『科学技術研究調査報告』で公表されて
いる「製品・サービス分野別研究費」の合計に一致するように推計する。しかしながら、
「製
品・サービス分野」の分類が粗いため、このまま JIP データベースとの部門分類に合わせる
ことはできない。そこで、本推計では総務省『接続産業連関表』にある「企業内研究開発」
部門のデータを用いることにより、
『科学技術研究調査報告』の「製品・サービス分野別研
究費」をより詳細な JIP データベースの部門分類別に按分した5。図表 1 には JIP データベー
スの部門分類と『科学技術研究調査報告』の「製品・サービス分野」分類との対応が示さ
れている。
等に含まれるものを除く)
をいう。
会社の場合には 95 年までは資本金 500 万円以上の会社、
96 年以降には資本金 1000 万円以上の会社を対象とした。
3 ここでの「対象期間」は『科学技術研究調査報告』の公表年ではなく、調査時点を指す。
また、2009 年以降はデフレータの推計に用いるデータが入手できないことから、対象外と
した。
4
「アクティビティ・ベース」の概念に関する詳細は深尾・宮川編『生産性と日本の経済成
長:JIP データベースによる産業・企業レベルの実証分析』東京大学出版会、2008 年を参照
されたい。
5
総務省『接続産業連関表』の企業内研究開発部門の産出額も本推計と同様に科学技術研究
調査のデータを基にしているが、『接続産業連関表』における企業内研究開発の産出額は有
形固定資産購入額の代わりに、減価償却費を用いた費用ベースの研究開発費を用いており、
本推計の支出ベースの研究開発費とは概念的に異なる。また、最終的な推計値の確定には、
独自調査の結果等に基づいて推計された他の部門における投入係数との調整を行っており、
科学技術研究調査の結果とも一致していない。
2
図表1.『科学技術研究調査報告』の製品・サービス分野別分類とJIP分類表の対応表
JIP部門
『科学技術研究調査報告』の製品・サービス分野別
JIP部門分類
コード
分類(1973~2000年)
1 米麦生産業
2 その他の耕種農業
農林水産品
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
61
62
63
64
65
66
67
68
69
70
71
72
73
74
75
76
77
78
79
80
81
82
83
84
85
86
87
88
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
100
101
102
103
104
105
106
107
108
畜産・養蚕業
農業サービス
林業
漁業
鉱業
畜産食料品
水産食料品
精穀・製粉
その他の食料品
飼料・有機質肥料
飲料
たばこ
繊維製品
製材・木製品
家具・装備品
パルプ・紙・板紙・加工紙
紙加工品
印刷・製版・製本
皮革・皮革製品・毛皮
ゴム製品
化学肥料
無機化学基礎製品
有機化学基礎製品
有機化学製品
化学繊維
化学最終製品
医薬品
石油製品
石炭製品
ガラス・ガラス製品
セメント・セメント製品
陶磁器
その他の窯業・土石製品
銑鉄・粗鋼
その他の鉄鋼
非鉄金属製錬・精製
非鉄金属加工製品
建設・建築用金属製品
その他の金属製品
一般産業機械
特殊産業機械
その他の一般機械
事務用・サービス用機器
重電機器
民生用電子・電気機器
電子計算機・同付属品
通信機器
電子応用装置・電気計測器
半導体素子・集積回路
電子部品
その他の電気機器
自動車
自動車部品・同付属品
その他の輸送用機械
精密機械
プラスチック製品
その他の製造工業製品
建築業
土木業
電気業
ガス・熱供給業
上水道業
工業用水道業
廃棄物処理
卸売業
小売業
金融業
保険業
不動産業
住宅
鉄道業
道路運送業
水運業
航空運輸業
その他運輸業・梱包
電信・電話業
郵便業
教育(民間・非営利)
研究機関(民間)
医療(民間)
保健衛生(民間・非営利)
その他公共サービス
広告業
業務用物品賃貸業
自動車整備・修理業
その他の対事業所サービス
娯楽業
放送業
情報サービス業(インターネット付随サービス業)
出版・新聞業
その他の映像・音声・文字情報制作業
飲食店
旅館業
洗濯・理容・美容・浴場業
その他の対個人サービス
教育(政府)
研究機関(政府)
医療(政府)
保健衛生(政府)
社会保険・社会福祉(政府)
その他(政府)
医療(非営利)
社会保険・社会福祉(非営利)
研究機関(非営利)
その他(非営利)
分類不明
『科学技術研究調査報告』の製品・サービス
分野別分類(2001年以降)
農
林・水 産 品
農
林・水 産 品
-
-
農林水産品
鉱業製品
鉱 業
食料品
食料品
繊維
その他の工業製品
繊
維
その他の工業製品
パルプ・紙
パルプ・紙
出版・印刷
その他の工業製品
ゴム製品
出版・印刷
その他の工業製品
ゴム製品
化学肥料, 無機・有機,化学工業製品
化学肥料, 無機・有機,化学工業製品
化学繊維
油脂・塗料・その他の化学工業製品
医薬品
化学繊維
油脂・塗料・その他の化学工業製品
医薬品
石油製品
石油・石炭
窯業製品
窯業・土石
鉄
鋼
鉄
鋼
非鉄金属
非鉄金属
金属製品
金属製品
一般機械器具
一般機械器具
その他の電気機械器具
家庭電気製品
その他の電気機械器具
家庭電気製品
通信・電子・電気計測器
情報通信機械器具・電子部品
その他の電気機械器具
その他の電気機械器具
自動車
自動車
船舶・航 空 機・鉄道車両・その 他 の輸送用機械
精密工業製品
航 空 機・鉄道車両・その 他 の輸送用機械
精密工業製品
その他の工業製品
その他の工業製品
建築・土木
建築・土木
電気・ガス
電気・ガス
-
-
その他
その他
-
-
その他
-
その他
ソフトウェア・情 報 処 理
ソフトウェア・情 報 処 理
その他
その他
ソフトウェア・情 報 処 理
その他
-
注)「-」は推計対象外の部門分類を示す。
3
出版・印刷
ソフトウェア・情 報 処 理
その他
-
JIP データベースの部門分類に合わせた名目研究開発投資額の推計過程は以下のとおりで
ある。
1)
『85-90-95 年接続産業連関表』
、
『90-95-2000 年接続産業連関表』、
『95-2000-2005 年接続産
業連関表』の基本分類の「企業内研究開発」部門の産出構造を JIP データベースの 108 分類
に変換し、集計する。ただし、
『接続産業連関表』において部門別の「企業内研究開発」の
産出構造に関する情報が利用可能なのは 85 年(85-90-95 年接続産業連関表)、90 年
(90-95-2000 年接続産業連関表)
、95 年、2000 年、2005 年に限られるため、85 年以前は 85
年の産出構造を、2005 年以降は 2005 年の情報をそのまま使用し、85 年から 2005 年までは
線形補間して各年度の「企業内研究開発」の産業別の産出構造を決定した。
2)1)のように推計した「企業内研究開発」の産出構造の情報を用いて『科学技術研究調
査報告』の「製品・サービス分野別研究費」を JIP データベースの部門分類に按分し、産業
別の名目研究開発投資額を確定する。
(産業別の名目研究開発投資額の最終的な推計値は推
計データファイルの【名目 R&D 投資】シートに収録されている)
3. 研究開発費のデフレータの推計と名目研究開発投資系列の実質化
名目研究開発投資系列の実質化をおこなうためには、デフレータが必要である。毎年の
『科学技術白書』
(文部科学省)では全産業レベルの研究開発費デフレータが公表されてい
るが、産業別のデフレータは公表されていない6。そこで、本推計では産業別の研究開発費
デフレータを以下のように推計し、研究開発投資額の名目値を実質化した。
まず、
『科学技術研究調査報告』で公表されている産業別の「社内使用研究費(支出額)
」
の内訳を人件費、原材料費、有形固定資産購入費、その他の経費の 4 項目に集計し、これ
らを「社内使用研究費(支出額)
」の総額で除することにより各項目の構成比を求めた。
次に、人件費、原材料費、有形固定資産購入費、その他の経費に関する産業別デフレー
タと上記で算出した毎年の各内訳の構成比をウェイトにかけて、毎年の研究開発費デフレ
ータとした。各内訳のデフレータはすべて『JIP データベース 2011』の値を利用した。人件
費については産業別賃金指数、原材料とその他の経費については中間投入額デフレータ、
有形固定資産購入費に対しては投資デフレータを利用した。すべてのデフレータの基準年
は 2000 年である。
最後に、各年の産業別の名目研究開発支出額を各々に対応する研究開発費デフレータの
値で除することにより、研究開発投資額の名目値を実質化した。
(産業別の研究開発費デフ
レータの最終的な推計値は推計データファイルの【R&D デフレータ】シートに、実質化さ
れた研究開発投資額は【実質 R&D 投資】シートにそれぞれ収録されている)
6
ただし、2008 年以降は『科学技術白書』ではなく、『科学技術要覧』
(文部科学省)に全
産業レベルの研究開発費デフレータが公表されている。
4
4. 研究開発ストックを推計するための陳腐化率
研究開発ストックを推計するにあたっては、適切な陳腐化率を選ぶ必要がある。陳腐化
率については、多くの先行研究では 10%や 15%という数値を用いているが、これには必ず
しも明確な根拠がない。陳腐化率の決定にはいくつかの方法が考えられるが、本推計では
統計調査の結果として公表されている産業別の研究開発成果の受益期間のデータを用いる
こととした7。具体的には、
『昭和 60 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
(科学技術庁)
と『平成 21 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
(科学技術政策研究所)における産
業別の研究開発成果の受益期間の調査結果に基づいて、まず各時点の産業別の陳腐化率を
求めた。次に、産業別に 2 時点の陳腐化率の平均値を求めて全期間に適用した8。図表 2 に
は本推計で用いた産業別の陳腐化率の推計値が示されている9。
図表2.産業別陳腐化率
受益期間※1
2009年
1985年 (過去の
(主要技 主力製
術)
品・サー
ビス)
5.6
8.9
8.1
16.6
10.7
8.7
11.1
11.2
10.0
9.1
10.0
12.4
12.6
11.0
7.6
9.0
10.6
11.2
13.0
8.3
8.0
11.7
14.0
10.3
12.2
9.1
13.3
11.4
9.8
10.5
11.8
9.1
陳腐化率※2
2009年 R&Dストックの
1985年 (過去の 推計に用いた
(主要技 主力製 値(1985年と
術)
品・サー 2009年の平均
ビス)
値)
17.9%
17.9%
9.8%
9.8%
11.3%
12.3%
11.8%
6.0%
9.2%
7.6%
11.6%
9.1%
10.3%
8.9%
8.9%
10.0%
11.0%
10.5%
10.0%
8.1%
9.1%
7.9%
9.0%
8.5%
13.2%
11.2%
12.2%
9.5%
9.0%
9.2%
7.7%
11.8%
9.7%
12.5%
8.8%
10.6%
7.2%
9.6%
8.4%
8.2%
10.8%
9.5%
7.5%
8.7%
8.1%
10.2%
9.6%
9.9%
8.5%
10.8%
9.6%
閾値
※3
農林水産業
33.2%
鉱業
建設業
34.6%
食料品製造業
35.6%
繊維工業
34.6%
パルプ・紙・紙加工品製造業
35.1%
印刷・同関連業
34.9%
医薬品製造業
34.9%
総合化学工業
35.3%
油脂・塗料製造業
34.2%
その他の化学工業
35.0%
石油製品・石炭製品製造業
35.3%
ゴム製品製造業
34.4%
窯業・土石製品製造業
35.4%
鉄鋼業
35.2%
非鉄金属製造業
35.4%
金属製品製造業
34.8%
はん用・生産用・業務用機械器具製造業
35.2%
電子部品・デバイス・電子回路製造業・電子応用・電気計測
7.4
9.9
13.5%
10.3%
11.9%
34.1%
機器・その他の電気機械器具・情報通信機械器具製造業
自動車・同付属品製造業
9.5
10.8
10.5%
9.4%
10.0%
34.8%
その他の輸送用機械器具製造業
7.0
8.8
14.2%
11.5%
12.8%
34.0%
精密機械製造業
4.1
24.6%
24.6%
その他の製造業
6.1
10.6
16.4%
9.8%
13.1%
33.5%
運輸業・郵便業
6.7
15.0%
15.0%
33.8%
24.6%
24.6%
ソフトウェア業※4
※1
受益期間の定義は以下のとおり。
・1985年:主要技術について、社外から特許収入の得られた期間、又は社内で適用する製品等によって収益を上げることができた期間
・2009年:かつては業績に大きく貢献し、現在では既に市場における新規性を失っている事例における利益が得られた期間
※2
陳腐化率の定義は以下のとおり。
陳腐化率=1-閾値^(1/受益期間)
ここで閾値とは新しい技術の陳腐化が定率で進んだときに、利益が獲得できる最低限の残存率の水準
※3
閾値は先行研究(後藤他1986)との比較のため、1985年時の陳腐化率=1/受益期間となるような値に定めた。
具体的には次の計算式に基づく。
閾値=(1-1/T85)^(T85) ただし、T85は1985年時の産業別の平均受益期間。
※4
ソフトウェア業の陳腐化率は日本経済研究センターの推計値である。
7
陳腐化率の推計に関するその他の方法として、特許所有者の主体的均衡条件から出発して
計量的に推計する方法、特許の残存年数データから計算する方法、実証に基づき感応分析
によって算出する方法、製品ライフサイクル年数を利用する方法などがある。
8 1985 年の調査(科学技術庁)と 2009 年の調査(科学技術政策研究所)では技術の受益
期間に関して質問内容が若干異なるため厳密な比較は困難と考え、年別の陳腐化率の推計
は断念した。
9
残念ながら陳腐化率についてはアクティビティ・ベースのデータは得られなかった。その
ため、産業別の陳腐化率の算定に用いるデータについては、企業の主生産物によって格付
けられた産業分類に基づく産業別の集計結果で代用することとした。
5
5. 研究開発ストックの推計
上記 3 で推計された産業別の研究開発投資額の実質値と上記 4 で推計された産業別の陳
腐化率を用いて、恒久棚卸法(Perpetual Inventory Method: PI 法)によって産業別の研究開発
ストックを推計する。具体的には、産業 i の t 期の研究開発ストック Ri,t は、以下のように
作成した。
Ri ,t  (1   i ) Ri ,t 1  I i ,t
ただし、Ii,t は産業 i の t 年における研究開発支出額の実質値、δi は産業 i での陳腐化率であ
る。なお、ベンチマーク年(1973 年)の研究開発ストックは、Hall et al. (2010) と同様に、
次のようにして求めた。
Ri ,b  I i ,b1 /( g i   i )
ここで、g は研究開発支出額のベンチマーク年以降の平均成長率である。
(産業別の研究開
発ストックの推計値はデータファイルの【R&D ストック(ラグなし)
】シートに収録されて
いる)
なお、本推計においては、ある年の研究開発投資を研究開発ストックに繰り入れるまで
のタイムラグ(懐妊期間)は 0 年(ラグなし)としている。そのため、本推計結果の利用
に際しては、必要に応じて適宜タイムラグを考慮されたい。例えば、研究開発ストックが
生産性に与える効果を分析する場合などはラグ構造に関して検討の必要があろう。なお、
我々の知る限り、コンセンサスが形成された研究開発に関するラグ構造は存在しないが、
本稿文末の補足資料「研究開発のタイムラグについて」において関連する一部のデータを
紹介しているため、適宜参考にされたい。
参考文献
後藤晃・本城昇・鈴木和志・滝野沢守(1986)「研究開発と技術進歩の経済分析」
、内閣府
経済社会総合研究所『経済分析』第 103 号。
深尾京司・宮川努・河井啓希・乾友彦・岳希明・奥本佳伸・中村勝克・林田雅秀・中田一
良・橋川健祥・奥村直紀・村上友佳子・浜潟純大・吉沢由羽希・丸山士行・山内慎子
(2003)
「産業別生産性と経済成長:1970-80 年」
、内閣府経済社会総合研究所『経済
分析』
、第 170 号。
深尾京司・宮川努(2008)
『生産性と日本の経済成長:JIP データベースによる産業・企業
レベルの実証分析』
、東京大学出版会。
Hall, B.H., J. Mairesse, and P. Mohnen, (2010) “Measuring the Returns to R&D,” in Hall, B.H., and
N. Rosenberg (Ed.), Economics of Innovation, Volume 2, Chapter 24, North-Holland,
pp.1033-1082.
6
付表:本推計でデータソースとして利用した資料一覧
総務省統計局
総務省
科学技術庁
文部科学省
科学技術政策研究所
経済産業研究所
『科学技術研究調査報告』
(昭和 48 年から平成 20 年の各年版)
『85-90-95 年接続産業連関表』
『90-95-2000 年接続産業連関表』
『95-2000-2005 年接続産業連関表』
『昭和 60 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
『平成 21 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
『JIP 2011 データベース』
(http://www.rieti.go.jp/jp/database/JIP2011/index.html)
7
補足資料「研究開発のタイムラグについて」
本推計ではタイムラグ(懐妊期間)を 0 として研究開発ストックを報告している。その
ため、本推計結果を分析に利用する場合は、必要に応じて適宜タイムラグを考慮されたい10。
なお、ラグ構造についても陳腐化率と同じようにコンセンサスが形成された推計値は存在
しないが、陳腐化率の推計でも用いた『昭和 60 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
(科学技術庁)と『平成 21 年民間企業の研究活動に関する調査報告』
(科学技術政策研究
所)の結果は 1 つの指針となろう。これらの調査結果によれば、研究開発の開始から商品
化までのタイムラグは全産業の平均で、1985 年の調査では 3.6 年、2009 年の調査では 5.4
年である。産業別の結果については図表 3 を参照されたい。産業別でみても研究開発にか
かるタイムラグは、平均 8 年超の医薬品製造業を除けば、概ね 2 年から 6 年の範囲である
と考えられる。ただし、1985 年調査と 2009 年調査では質問が若干異なるため厳密な比較は
できないことに留意されたい(1985 年調査は研究開発から商品化までの期間を質問してい
るのに対し、2009 年調査では「研究開発に要した期間」と「研究開発終了後、その成果が
製品等として市場に導入されるまでの期間」を 2 つに分けて質問している)
。
図表3.産業別ラグ構造
※
研究開発ラグ(研究開発・商品化にかかる年数)
1985年(研究開 2009年(研究開 2009年(研究開
2009年(商品化)
発~商品化)
発+商品化)
発)
2.2
2.9
5.8
3.8
2.0
2.5
3.9
2.5
1.4
2.5
5.4
3.9
1.5
4.0
4.5
5.8
4.0
1.8
8.1
8.8
6.8
2.0
5.5
5.7
3.8
1.9
3.0
5.7
3.6
2.1
5.2
7.8
5.5
2.3
4.6
3.2
2.2
1.0
1.9
4.3
3.2
1.2
3.6
4.7
3.0
1.7
2.9
4.4
2.8
1.6
4.2
5.3
3.8
1.5
3.3
4.7
3.1
1.6
2.8
4.6
3.2
1.4
農林水産業
建設業
食料品製造業
繊維工業
パルプ・紙・紙加工品製造業
印刷・同関連業
医薬品製造業
総合化学工業
油脂・塗料製造業
その他の化学工業
石油製品・石炭製品製造業
ゴム製品製造業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
非鉄金属製造業
金属製品製造業
はん用・生産用・業務用機械器具製造業
電子部品・デバイス・電子回路製造業・電子応用・電気計
測機器・その他の電気機械器具・情報通信機械器具製
3.3
5.4
3.6
造業
自動車・同付属品製造業
3.3
5.3
3.5
その他の輸送用機械器具製造業
3.0
6.1
4.3
その他の製造業
2.9
5.4
3.9
運輸業・郵便業
3.6
産業平均
3.6
5.4
3.7
※
研究開発ラグの定義は以下のとおり。
・1985年:自主技術により製品化や実用化は図る場合、研究部門で研究に着手してから商品化までに要した時間
・2009年:研究開発に要した期間+研究開発の終了から上市までの期間
10
1.8
1.8
1.8
1.4
1.7
次の方法を用いて、ラグ構造を考慮した研究開発ストック Ri ,t を推計することができよ
う。 R を本推計で報告されているラグ期間が 0 の場合の研究開発ストック、 をラグ期間
0
の整数部分、  をラグ期間の小数部分とし、 Ri ,t  (1   ) R 0 i ,t    R 0 i ,t  1 。
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