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Strategy Report
2015/07/08
チーフ・ストラテジスト 広木
隆
本日の急落について
本日の東京株式市場で日経平均株価は大幅反落。終値ベースで 6 月 18 日以来、およそ 3 週間ぶりに
節目の 2 万円を下回り、5 月 15 日以来、ほぼ 2 カ月ぶりの安値で終えた。下げ幅は 2013 年 6 月 13
日(843 円 94 銭)以来、2 年1カ月ぶりの大きさだった。ギリシャの金融支援を巡る協議の先行き不透明
感に中国株式相場の下落が続いていることなど悪材料が重なり、全面安となった。
悪材料が重なったと書いた。確かにギリシャ懸念もあるにはあるが、今日の下げは中国株に対する不
安が理由のほとんどであると思う。「不安」というより「不信」である。売買停止というのが最悪の措置で
ある。市場というのはいくらボラティリティがあっても耐えられるが、流動性が枯渇したら終わりである。
企業が申請して売買を止めているのだが、それを当局が容認しているわけで、ここまでいくと市場の体
(てい)をなしていない。市場で自由な売り買いを制限すれば、疑心暗鬼しか残らない。売れるものはな
んでも売ろうと、余計に狼狽売りを誘うだけである。
これまで中国政府がさまざまな株価対策をとってきたが、一向に下げ止まらない。それは別に不思議
でもなんでもない。過去の歴史をみても人為的な対策で株価が下げ止まったことはない。1929 年、米
国で起きた株価大暴落「暗黒の木曜日」。JPモルガンとギャランティ・トラストをはじめとする大手米銀5
行が会合を持ち、資金を集め相場を下支えする対策を打ち出した。NYの株価は持ち直したものの、そ
れは一時的だった。その後も下げ続け、買い支え対策が打たれてから 5 割も下げてようやく下げ止まっ
た。昭和 40 年の証券不況に向かう当時の日本市場も同じ轍を踏んだ。1964 年に都銀 12 行、長信
銀 2 行、証券 4 社が出資し日本共同証券が設立されたが株の下落は止まらず、翌 65 年には、日
本証券保有組合が設立されたが、これも効果はなかった。90 年代に日本政府がおこなったPKO(株価
維持政策)も同様である。株ではないが、英国の中央銀行、イングランド銀行が英ポンドを買い支えよ
うとした時もジョージ・ソロスに売り崩されてしまった。
相場というのは下がるとこまで下がらないと止まらない。投げるひとが全員ぶん投げて底が入るわけだ
が、売買停止では売るに売れない。これでは中国株の底入れがいつになるか、まったく目途がたたなく
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なった。それが今日の日本株急落の背景である。
中国株がどこで止まるか、誰にもわからない。ただし、目の子では上海総合指数の 3500 ポイントという
のは大きな節目だろう。200 日移動平均もこの水準にある。3000 ポイントに乗せてしばらくもみ合った後、
上昇が加速してきたのも 3500 を超えてからだ。上述の通り、投げ切っていないから、まだ下値はある。
よって 3500 という節目を切って 3000 あたりで一旦、底をつけるのではないか。
上海総合指数の推移(2015年~)
5500
5000
4500
4000
3500
3000
2500
2000
2015/01
200日移動平均
2015/02
2015/03
2015/04
2015/05
2015/06
2015/07
(出所)Bloombergよりマネックス証券作成
問題は 2 つ。ひとつはこの中国株のバブル崩壊が中国の実体経済を反映したものかという点である。
僕が思うに、中国の株式市場は個人投資家の投機市場であり、経済実態を反映したものではない。実
体経済を把握する統計の信頼性に問題があるのでなんとも言えないが、PMI等を見る限りでは景気減
速は一服している。来週発表されるGDPが焦点となるだろう。そして万が一、本当に株安が中国景気
を冷やすと当局が思うなら、利下げだけでない景気テコ入れ策が打たれるだろう。
もうひとつは巷間言われるインバウンド消費に影響がでるのではないか、という点だが、中国人は中国
株高で潤ったから日本で爆買いしているわけではない。無論、一部には株高の資産効果もあるだろう。
だがインバウンド消費を促進しているのは単純に円安効果である。さらに言えば、株より資産効果に影
響が大きい不動産価格は下げ続けてきた。それにもかかわらず、爆買いは起きていたのだから、株安
だけを取り上げてインバウンド消費に翳り、というのは悲観論が過ぎるだろう。そして、ここがポイントだ
が、中国の富裕層が多く住む三大都市の不動産価格は昨年の秋には底を打ち、今年の春から上昇に
転じている。これが中国の資産市場のトレンドだろう。不動産取引が規制されたこともあり、株価のほう
は簡単に大衆が売買できることから投機の対象とされ、過熱した。それが弾けただけである。
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Strategy Report
訪日中国人客数と上海総合指数の推移
(%)
5,000
180
4,500
訪日中国人(前年比・右軸)
4,000
上海総合指数(左軸)
160
140
3,500
120
3,000
100
2,500
80
2,000
60
1,500
1,000
40
500
20
0
0
2014/01
2014/04
2014/07
2014/10
2015/01
2015/04
(出所)INDBデータベースよりマネックス証券作成
北京、上海と広州の不動産価格と上海総合指数の推移
(%)
3
(ポイント)
5,000
北京
3
4,500
上海
2
広州
2
上海総合指数(右軸)
4,000
3,500
1
1
3,000
0
2,500
-1
2,000
-1
1,500
-2
-2
1,000
2014/01
2014/04
2014/07
2014/10
2015/01
2015/04
(出所)Bloomberg、Windよりマネックス証券作成
日本株の注意点は国内景気指標の悪化である。海外の悪材料ばかり目が向きがちだが、足元出てき
ている国内景気指標は冴えないものが続いている。鉱工業生産も下振れ、実質賃金も 25 カ月マイナス、
今日発表された景気ウォッチャー調査も 7 カ月ぶり悪化。日本株のもろさは国内の指標の悪化も実は
ボディブローのように効いていると思う。そうした状況で明日の寄り前に発表される 5 月の機械受注は、
前月比マイナス 5%と 3 ヵ月ぶりに減少が予測されている。設備投資は、日銀短観で 11 年ぶりの高い伸
びとなったが、それはあくまで「計画」である。機械受注は設備投資の先行指標で、今回は、良好な設
備投資計画が示された後、初めて出てくるハードデータだから、市場の注目も高い。もともと反動減が
予想されているので予想の範囲内のマイナスなら影響はないだろうが、大幅マイナスとなると、ただで
さえ悪化している市場のセンチメントを一段と冷やすことになりかねないので注意が必要である。
日経平均は、取引時間中は一目均衡表の雲の下限で下げ止まっていたが大引けで一段安して雲を下
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抜けた。狼狽売りだからテクニカル的な目途は役に立たない。冷静になればバリュエーション面ではい
い水準である。予想PERは日経予想ベースで 15 倍台、クイックコンセンサス・ベース 14 倍台だ。待ち
に待った絶好の押し目であり、下値を拾う動きもそろりと出てくるだろう。
セオリーでは「落ちてくるナイフをつかもうとするな。床に刺さったところを引き抜け」であり、急落途中の
買いは慎めとされる。だが、最近の値動きの速い相場ではいいところを拾えない可能性がある。ここか
ら 3 回に分けて買い下がるくらいのつもりで、第一弾の押し目買いを入れてもいい水準と考える。
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