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陸上の生物群集と環境

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陸上の生物群集と環境
H20年度 生態学・生態工学 第3回
陸上の生物群集と環境
農学生命科学研究科 附属緑地植物実験所 加藤和弘
本日の主な内容
・植生と環境
・植生遷移
・鳥類・昆虫と環境
本日の講義のねらい
• 生物の生息に配慮した建築や工事が広がりつつある。どうすれば生
物の生息を妨げずにすむのだろうか。
• 建築や工事によって生物が傷つかないようにするだけでは十分とは
言えない。
• どのような要因によって生物群集・個体群が維持
され、あるいは衰退しているのかを把握し、維持
に必要な条件を確保すると同時に、衰退をもたら
しているか、将来もたらし得る要因を排除するよう、
心掛けなければならない。
広域的な環境要因
植生と環境
• 気候
• 生物地理学的要因(種ごとの分布域)
• 景観構造に関わるもの
– 生息地の連結性(種子散布などに関連する
– 異種の生息地との混在(帰化植物の侵入と関
連する)→第6回講義
局地的な環境要因 1
静的なもの
短い=人間の日常生活で意識に上がる程度の
=タイムスケールにおいて
• 地形・微地形(他の環境条件と関連する)
• 土壌(水分、栄養条件など)
• 微気象(風衝、湿度、温度、日照などのミク
ロスケールでの変化)
例:環境条件と植物群落
小貝川中流部で観察された、河川水辺の地形断面と地下水位、植
物群落の対応関係を、例として紹介する。流路から離れるに従って
地下水位が深くなり、植物群落はヨシ・オギ群落からシロザ群落を経
てシバ群落(植栽起源)へと変化した。
同じ調査地で見られた、地下水位および土壌硬度と植物群落タイプの
関係についても紹介する。2つの環境条件の変化に従って、成立する
植物群落も変化した。
このほかに冠水頻度なども植物群落に影響する。
これらの環境条件はいずれも微地形と密接な関係があり、微地形はこ
うした環境条件の総合的な指標と考えることが可能である。
1
局地的な環境要因 2
例:コナラ林の群落構造
動的なもの
• 人為的攪乱(伐採、野焼き、放牧など)
• 自然による攪乱(山火事、風倒木による物
理的攪乱やギャップの形成など)
20m四方の調査区で記録された樹木の本数を樹高別、樹種別に集計した
結果が、植生管理のあるなしでどう変わるか、東京近郊のコナラ林を例に
紹介する。
→攪乱(生物体の破壊、除去)は、植生遷移
の進行を抑制、逆行させ、植生を遷移系列
の中途の段階にとどめる。
下草刈りの効果
• 下草刈りには、大きく2つの効果がある。
– アズマネザサの除去
– 常緑樹実生の除去
• 東京周辺では、雑木林を放置した場合、林床部
でしばしばアズマネザサが密生する。
• アズマネザサが密生しない場合には、常緑樹の
実生が密な下層植生を形成する。ヒサカキ、シラ
カシ、アラカシが主要な構成種となる。
• 林床部におけるこうした密生は、草本植物の生
育を著しく阻害する。
植生管理が行われている場所に設置された調査区では、樹高4.5m以下の
低木は56本で、リョウブ、エゴノキ、ヤマウルシ、ネジキなどが多い。植生
管理がなされていない場所に設置された調査区では、樹高4.5m以下の低
木は240本以上にもなり、シラカシ、アラカシ、ヒサカキなど常緑広葉樹(の
実生、稚樹)がその多くを占める。
中規模攪乱仮説 1
• 熱帯雨林における種の多様さを説明するために
Connellによって提唱された。
• 生物群集の種多様性は「中程度」の攪乱のもと
で維持される、とする。
• 大規模な攪乱のもとでは、それに耐えて生育す
ることのできる種はきわめて限定され、種多様性
は大きく低下する。
• 攪乱が軽度の場合には、種間競争が大きく妨げ
られることはなく、種間競争を制した種が優占し
て種多様性の減少をもたらす。
中規模攪乱仮説 2
自然界における攪乱の影響
• 草地の植生を対象とし、放牧を攪乱要因としたい
くつかの研究は、中規模攪乱仮設を支持する。
• 放牧を全く行わないか、軽度の放牧圧である場
合よりも、「中規模」の放牧圧のもとに置かれた
牧草地の方が、植物の種多様性が高くなる。
• 場所ごとに「中規模」の水準が異なる。生産力が
高い場所ではかなりの程度の攪乱が「中規模」と
見なし得る。生産力が低い場所では、少々の攪
乱で生育可能な種が限られてしまう。
• 自然の働きによる攪乱もまた、植生に影響する。
• 河原を生育場所とする植物のあるものは、増水
によって形成される裸地があって初めて健全に
生育できる。
• 山火事があることによって初めて成立できる植生
もある(火災の高温にさらされることで種子など
の休眠が解除される)。
• 大規模な面的な攪乱ではなく、局所的な攪乱も、
植物群落の維持に寄与している。
– 群落の一部がパッチ状に破壊され、そこで遷移のリセットが起こ
るということが、群落のどこかで常時起こっている。
– 群落全体が一斉に老化するのを防ぎ、攪乱を受けた際に芽生え
てくる遷移の初期段階の構成種を確保しておくことができる。
2
落ち葉かきの場合
z 下草刈りには優占的な植物の物理的除去を伴う
攪乱という意味合いが強いが、落ち葉かきは栄
養物質の除去による富栄養化防止の意味を有
する。
z 富栄養化すると、成長の速い少数の種の優占が
促されるが、これを妨げることで特に林床植物の
種の多様性が保たれる。
z 落葉落枝の除去は、下刈りによる植物体の除去
と同様に、落葉広葉樹二次林の林床における植
物の種多様性を保つために重要である。
生物的な環境要因(生物間相互作用)
• ナースプラント
–大型または叢生する植物が生育場所の環境を緩和し、
結果として他の植物の生育を助ける。
• 相互依存の強い生物種の存在
–花粉の媒介や種子散布を特定の動物に依存する植物
は、その動物がいなくなると自らも危うくなる。
• 他の生物が作る環境に対する適応
• アレロパシー
看護植物
看護植物の例
• 乾燥地域では、大型の潅木やサボテンの周囲に、
小型の多年生草本がかたまって生育する。
• 核となる大型の植物が、周囲に生育する小型の
植物の生育によい影響を与えると考えられてい
る。
• 動物が大型の植物の周りに集まり種子を散布す
る、風や水により移動してきた種子が植物体によ
りトラップされる、という考え方もある。
•中国内蒙古の半乾燥地の草原における調査事例を
紹介する。
•マメ科の低木であるCaragana microphyllaには多くの
棘が生じ、放牧されている家畜の侵入を多少は防ぐ。
•ニレの実生はCaraganaのパッチの中では高い頻度で
見られたが、Caraganaの丈よりも高く育っていた個体
はなかった。
•パッチの外では個体密度が大きく低下していた。
•Caraganaがこの地域で看護植物として機能している
可能性は高いと考えられる。(Katoh, K. et al., 1998)
一次遷移
植生遷移
• 植物の生育していない裸地から植物群落が形成
されていく形の遷移。
• 東京周辺では、一年生草本群落→多年生草本
群落→低木群落→落葉樹林群落→常緑樹林群
落へと植生が変化していくとされる。
• 群落の前後関係は、構成種の生態(種子散布能
力、発芽条件、光要求、生長速度など)によって
規定され、常に図式通りの過程にはならない。
3
溶岩流上の植生回復に関わる要因
• 溶岩流の周囲から内側に向かって植生の
回復が進行している。
• 種子の供給が植生回復を規定する要因の
一つになっていると考えられる。
• 植物の進入に伴う土壌化の進行も関係し
ている可能性がある。
種子の供給
溶岩流上の植生分布の例
三宅島東部の赤場暁溶岩流(1940年、1962年の噴火により形成)上での調査結果
を例として紹介する。
周囲からの植物の侵入が起こりにくい溶岩流中央部には、裸地に近い場所や、オ
オバヤシャブシを伴わないハチジョウイタドリ群落が見られた。
そこから溶岩流の端に近づくに従って、オオバヤシャブシを伴うハチジョウイタドリ
群落、スダジイを伴わないオオバヤシャブシ低木林、スダジイを伴うオオバヤシャ
ブシ低木林へと植生が変化していた。
二次遷移
• 雑木林の分断による雑木林間の連絡の遮断の
ため、動物による「どんぐり」の散布が妨げられ、
母樹の分布が限られて樹種では実生の発生に
影響が出始めている。
• 植物群落が何らかの形で破壊された後で(まだ
多少なりとも植物が残っている状態から)遷移が
再び進行する場合。
• 同じ気候、立地条件における一次遷移の場合に
期待されるものと同じ極相へと進んでいくことが
多い。
• 場合によってはその遷移系列から外れ、特殊な
群落が形成されてそのまま植生遷移が停止して
しまうこともある(偏向遷移。クズ群落はその典
型的な例)。
紹介する事例
植生遷移の停止・退行
• 東京近郊のコナラ林において、伐採からの
経過年数が異なる複数の区画で群落構造
を調査した結果を紹介し、二次遷移の過程
で植物群落がどのように変化すると考えら
れるか、例を示す。
• 既に形成されている群落に対し、外部からの攪
乱が加えられた場合、遷移が中途段階で止めら
れたり、逆方向に進んだりすることがある。
• 定期的な伐採によって維持される雑木林や、毎
年の火入れによって維持される草地は、中途段
階に維持されている植生の代表的なもの。
• 洪水や山火事によって同様な効果が生じている
場合がある。
• 遷移の中途段階(途中相)の植生を維持するた
めには一定の攪乱が必要である。
• 雑木林が分断され孤立化してきている。
• 種子の供給における制約
– 周辺の住宅地や街路樹から、アオキ、ウメモドキ、シュ
ロ、トウネズミモチ、ヒイラギナンテンなどの植栽樹種
が侵入を始めている。
4
退行遷移 • 逆方向に進む遷移
• 過放牧の結果生じる植生の破壊は、その
一例。
• 放牧圧が過重になると、植物は長期にわ
たって生育し続けることが難しくなり、生育
期間が短い種類や家畜による食害を受け
にくい種類を優占種とする群落に移行して
いく。
動物と環境
鳥類の生息に影響する要因
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•
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•
生息場所の面積。面積が広いほど多くの種類が生息する。確率的な問題で
はなく、面積が広くなければ生息できない種が少なくない。
植生の階層構造。低木層、草本相が発達していることが必要な種がかなり
多く見られる。逆に、開けた地表に降りて採食する種もある。
植生の種多様性。植生の種が多様であると、供給できる食物の種類も増え、
結果として鳥の種類も多くなる。
大径木、立枯木の存在。キツツキやフクロウの仲間などは、樹洞を利用した
り樹勢の衰えた木の材に巣くう虫を食べたりするので、老熟木や枯れ木を好
んで利用する。
営巣場所が特殊な地形条件などを満たす必要がある種については、そうし
た条件。
食物の供給量、捕食者の存在。
隣接空間の植生、土地利用。生息個体の移入、分散や捕食者、競争者の侵
入に関係する。生息のために複数の種類の空間を必要とする種もある。
生息場所や隣接地における人間の活動。
紹介する事例
• 多摩川の河原における鳥類相と植生(特
に群落構造)との関係
• 三宅島の樹林地における植被率と鳥類の
個体密度・種多様度との関係
• 三宅島における蛾の幼虫の発生状況と、
それを食物とする鳥の分布の対応の様子
昆虫
昆虫の種類は非常に多く、種ごとに環境に対する要求性が異なるが、
要点は、概ね以下のようにまとめられよう。
•食草、食樹。植食性の昆虫の場合、食物となる植物が生えているか否
かがその分布の可否を決めてしまう。
•吸蜜植物。蝶は、羽化した後で蜜を吸うための花が必要になるが、こ
れが食草・植樹と同種とは限らない(なお、蝶の中には樹液を好む種類
もある)。
•その他の食物資源(材、リター、動物遺骸、他の昆虫など)
•シェルター、営巣場所など、生息に必要な空間
– これらの資源が限られた時期だけに発生する場合は、フェノロジー(生
物季節)が重要な意味を持つことがある。
•生息場所の面積、孤立性、周辺環境
•ゲンジボタルの個体数変化の調査事例を紹介。
参考図書
•日本の植生
– 宮脇昭 (編) 学研 (1977)
•日本の森林-多様性の生物学シリーズ(全
5巻)(東海大学出版会 発行)
のうち、特に、
– 「鳥たちの森」(日野輝明 著)
– 「昆虫たちの森」 (鎌田直人 著)
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