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世界のCCSの動向:2014 サマリーレポート - Home | Global CCS Institute

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世界のCCSの動向:2014 サマリーレポート - Home | Global CCS Institute
世界の CCS の動向:2014
サマリーレポート
[ SUMMARY REPORT ]
2014-2015 – CCSの分岐点となる時期
発電部門における世界初の大規模な CCS(Carbon Capture and Storage、二酸化炭素回収貯留)プロジェクトが、
2014 年 10 月、カナダ、サスカチュワン州の Boundary Dam(バウンダリーダム)発電所で操業開始した。発電部門
では、他にも 2 件の大規模 CCS プロジェクト - ミシシッピー州の Kemper County Energy Facility(ケンパーカウ
ンティエネルギーファシリティ)と、テキサス州の Petra Nova Carbon Capture Project(ペトラノバ炭素回収プロジェ
クト) - が、それぞれ 2015 年と 2016 年に操業に入ることが予定されている。また鉄鋼部門における世界初の大
規模 CCS プロジェクト、アラブ首長国連邦(UAE)の Abu Dhabi CCS Project(アブダビ CCS プロジェクト)も建設作
業が進められている。これら 4 件のプロジェクトは、世界で操業または建設中の 22 の大規模 CCS プロジェクト
(2010 年と比較してその数は倍増している)の一部である。
このように大規模 CCS 発電プロジェクトが実現した今、同技術の展開における重大なマイルストーンが達成された。すなわち、気候変
動の緩和に対する最小コストアプローチの一環として、いかに CCS を最適な形で展開できるかについての議論に移行する時期に入っ
たのである。我々は既に、同技術の「実験的な」性質、すなわち CCS 技術が化石燃料発電所に大規模に適用されていなかったという
段階からその先に議論を進められる状況にある。
さらに 14 の大規模 CCS プロジェクトが計画策定の進んだ状態にある。これには 9 件の発電部門のプロジェクトが含まれ、その多くは
2015 年中に最終投資判断が下されるまでに進捗することが見込まれている。このような動向により、(高まる)CCS の技術的成熟度へ
の信頼性が増すのは当然であるが、加えて幅広い業種、貯留の種類、燃料、および技術サプライヤーにまたがる、2020 年頃に稼働し
ているであろう大規模 CCS プロジェクトの「ポテンシャル・ポートフォリオ」の策定も可能となる。
これらの計画が進んだプロジェクトの実現(および計画の早期の段階にあるプロジェクトのそれ)を後押しするための行動が、今まさに
必要である。また大規模 CCS プロジェクトに関するデータから、政策決定者の関心を高める必要のある 2 つの領域が浮き彫りになっ
た。すなわち非 OECD 経済圏(中国以外)におけるプロジェクトの不在と、セメント、鉄鋼、化学などの炭素集約産業における CCS 技術
開発の進展の不十分さである。
数多くの国際的な研究から、地球規模の気候目標値を達成する上で CCS が必要不可欠であることが繰り返し示されている。我々は開
発計画段階にある CCS プロジェクトを実現させる必要があり、また CCS の開発にインセンティブを与える上での対象となる産業と地域
の幅を広げ、次世代プロジェクトの件数と多様性を拡大するための土台を築く必要がある。
上記目的を達成するために、以下の行動が必要不可欠である。
意志決定者への提言

2020 年までの、計画中のプロジェクトに関する現存の「ポテンシャル・ポートフォリオ」を、操業を開始しているプロジェクトの「現実
のポートフォリオ」に移行できるようにするため、短期間に財務的および政策的な支持構造を確立することが必要である。

長期的な CCS の展開、および投資家による CCS への投資の際に必要な“政策の予測可能性”の確保のため、強力で、持続可
能な排出削減政策の確立が早急に必要である。これらの政策では、CCS が他の低炭素技術よりも不利になるような状況を確実
に回避しなければならない。

有効な貯留量が確定していないことを理由に広域的な展開の時期が遅れることを回避するため、大規模な二酸化炭素(CO2)貯
留容量の調査と評価を奨励する各種政策および資金提供プログラムの策定が必要である。

2025~2030 年まで、またそれ以降も、非 OECD 経済圏での需要が増加する大規模 CCS プロジェクトを実現させるため、2010
年代のうちに、知識共有、能力開発、およびその他の各種政策・法的枠組みの実施に向けて多大な労力を払わなければならない。

CCS は、鉄鋼やセメントなどの各産業から排出される CO2 の大幅な削減を達成できる唯一の技術である。これらの産業における
CCS の広域的な展開にインセンティブを与える各種政策の策定に、緊急に注意を向けなければならない。
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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
CCS は必要不可欠
世界の化石燃料の消費は増え続け、CO2 排出量を増加させている。各国の政府が気候変動に取り組むために確約
および公約した現在の政策がすべて実施に移されたと仮定した場合でも、2035 年の世界のエネルギー需要の
75%が化石燃料で占められると予測されている。特に発展途上国において大幅な需要増加が予想されている。国
際エネルギー機関(IEA)は World Energy Outlook 2013 で、前記の仮定に基づくと、エネルギー起源の CO2 排出
量は 2035 年までに 20%増加すると見積もっている。この CO2 排出量の増加傾向により、長期間の平均的な温度
上昇は、国際的に合意された温度上昇 2℃の目標値を大きく上回り、結果的に 3.6℃に達する温度上昇曲線を描く
とされている。
CO2 排出量の増加を抑えるために、より多くの対策が必要になることは明らかである。地球規模の気候変動対策に
ついての新たな合意を 2015 年末までに取り纏めるために、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)による作業が進行
している。大気中の温室効果ガス(GHG)濃度を、気候変動の最悪の影響が回避されるレベルで安定化させるには、
このような合意が極めて重要になる。
CCS は、化石燃料用途からの CO2 の大幅な排出削減を達成するための費用対効果の高い技術であり、再生可能
エネルギー、エネルギー効率向上、原子力、その他の気候変動に対する地球規模での緩和オプションと共に、重大
な役割を担わなければならない。CCS は、化石燃料を利用する発電所からの CO2 排出量を抑制する上で重要な役
割を持つ。発電部門の CCS への投資が行われない場合、同部門の総緩和コストは、2050 年までに 2 兆米ドル増
加する(IEA、2012、Energy Technology Perspectives)。さらに CCS は、長期的には必要となる、多くの大規模工
業プロセスからの直接排出を大幅に削減することが可能な、唯一の選択肢である。
『長年の研究、開発を経て、また有用ではあるものの、実際的経験が殆ど蓄積されていないという状況を踏ま
えると、我々はギアをもう一段シフトさせ、実際のエネルギーオプションに CCS を取り入れ大規模に発展させ
るべき時期に来ている。遠い将来のいつの日にか実現するソリューションとして、長期的なエネルギーシナリ
オで CCS を捉えるだけでは十分ではない。そうでなく、今、この時点で現実に展開しなければならない。』
IEA 事務局長 Maria van der Hoeven(マリア・ファン・デル・フーフェン)
Technology Roadmap: Carbon Capture and Storage, 2013 序文より
CCS 発電プロジェクトは今や現実的なソリューションである
2014 年 10 月の SaskPower の Boundary Dam 石炭火力発電所における CCS の操業開始は重要な前進である。
近年、発電所の排ガスからの CO2 回収は、数多くのパイロットプラントおよび小規模実証プラントを通じて、実施可
能な技術として実証されている。Boundary Dam Integrated Carbon Capture and Sequestration Demonstration
Project(バウンダリーダム炭素回収隔離統合実証プロジェクト)は、発電所に CCS を大規模に適用する初の事例で
あり、CCS が発電部門の CO2 排出量を大幅に削減する実際的な選択肢であることを明確に証明すると同時に、今
後のプロジェクトに重要な教訓をもたらすであろう。
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[ SUMMARY REPORT ]
米国では、発電部門でさらに 2 件の大規模 CCS プロジェクトが建設段階に入っている。ミシシッピー州 Mississippi
Power 社の Kemper County Energy Facility と、テキサス州 NRG Energy 社の W.A. Parish 発電所における Petra
Nova Carbon Capture Project である。これらのプロジェクトは、それぞれ 2015 年と 2016 年の操業開始が予定さ
れている。重要な点として、これら 3 件のプロジェクトでは異なる回収技術が実証され(Boundary Dam と Petra
Nova の場合は Post-Combustion(燃焼後回収)、Kemper County では Pre-Combustion(燃焼前回収))、また異な
る技術サプライヤーの回収方式が採用される。
CCS を大規模に応用する世界初の鉄鋼プロジェクト、UAE の Emirates Steel プラントの Abu Dhabi CCS Project
も建設が進められている。製鉄・製鋼は、排出量の大幅削減の現実的な選択肢が CCS 以外にない工業の一つで
ある。工業部門は世界のエネルギー起源の CO2 排出量の約 4 分の 1 を占め、これらの部門からの排出量は、
「business as usual(現状維持)」アプローチの場合、2050 年までに 50%以上増加すると予測されている(IEA、2014、
Energy Technology Perspectives)。鉄鋼などの部門での CCS の実証の成功は、将来の排出削減努力に不可欠
な要素となる。
上記の 4 件の大規模 CCS プロジェクトは、世界で操業中(Operate Stage)または建設中(Execute Stage)にある
幅広い産業にわたる 22 のプロジェクトの一部であり、その数は 2010 年と比較して倍増している(Figure 1)。これら
22 件のプロジェクトの総 CO2 回収量は年間約 4,000 万トン(40Mtpa)にのぼり、デンマークやスイスなどの年間総
CO2 排出量に匹敵する。
プロジェクト件数
Figure 1 Operate および Execute Stage にある大規模 CCS プロジェクトの件数
Operate (操業)
Execute (建設)
年度間で一貫性を保つために、操業中の大規模 CCS プロジェクトの 2010 年の件数は、Rangely と Salt Creek の EOR プロジェクトを
合計したものとしてある。インスティテュートの記録においては、 2011 年以降、両プロジェクトは統合され、 Shute Creek Gas
Processing Facility Project とされている。
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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
操業中の CCS プロジェクトのポートフォリオの拡大が必要
Boundary Dam Project を除き、操業中の大規模 CCS プロジェクトは、CO2 と他のガスとの分離その工業プロセス
の一環として必然である部門(天然ガス処理など)、または比較的純度の高い CO2 が生成される部門(肥料または
エタノール製造など)で実施されている。このような産業では、CCS の適用は十分に理解されており、正しいインセン
ティブ構造と、工業プラントに適度に近い適切な貯留地が確保されれば、直ちに実際の CCS へと拡張できる。
Boundary Dam や今後 2 年間で操業を開始するプロジェクトなど、発電と鉄鋼産業における大規模 CCS プロジェク
トは、CO2 の回収がより困難な分野に CCS のポートフォリオを拡大する上で重要である。発電部門ではさらに 9 件
の大規模 CCS プロジェクトが開発計画の最も進んだ段階(Define : 精査段階)にあり、最終投資判断が下される見
通しが立ち始めている。適切な条件が整えば、これらのプロジェクトはすべて 2020 年頃までには操業に入っている
可能性がある。さらにこれらのプロジェクトにより、発電部門への CCS の適用範囲が、新しい回収技術(酸素燃焼を
含む)、新しいプラント構成(電力以外の製品とのポリジェネレーションを含む)、石炭以外の新しい燃料(天然ガス、
およびバイオマス)に拡大する可能性もある。現時点で、前記の Abu Dhabi CCS Project 以外に鉄鋼業で検討され
ている大規模プロジェクトはないが、この産業は世界の CO2 排出量の約 9%を占めている。また排出量の約 6%を
占めるセメント工業でも大規模プロジェクトは計画されていない。
化学工業と石油化学工業は、急速に増大しつつある排出源である。2011 年から 2050 年までに、「business as
usual」シナリオにおけるこれらの産業からの CO2 排出量は、ほぼ 3 倍の 37 億トンまで増加することが予想され、
鉄鋼部門からの「business as usual」排出量に匹敵すると見込まれている(IEA、2014、Energy Technology
Perspectives)。化学工業の肥料、合成天然ガス、水素製造の分野では計 4 件のプロジェクトが操業中であり、さら
に 2 件のプロジェクトが建設中または計画の後期段階に入っている。エタノール製造、精製、coal-to-chemicals(石
炭化学)、および coal-to-liquids(石炭液化)の各部門で建設中または計画の後期段階にある 5 件のプロジェクトを
通じて、CCS の化学工業と石油化学工業への適用に関するより広範囲の経験が得られる。ここで重要なのは、これ
らのプロジェクトのうち 2 件は、coal-to-chemicals 産業が急速に発展しつつある中国で実施されることである。
また今後 CCS が適用される国や地域、および利用される貯留方式の種類が拡大され、幅広い経験が蓄積されるこ
とが必要である。現在操業中、建設中、または計画の後期段階にある大規模 CCS プロジェクトは、石油増進回収
(EOR)に CO2 を活用する北米のプロジェクトに重点が置かれている。
北米では全世界で操業中の計 13 件のプロジェクトのうち 9 件、同じく建設中の計 9 件のプロジェクトのうち 6 件、お
よび精査段階にある計 14 件のプロジェクトのうち 6 件が実施されている(Figure 2)。開発ライフサイクルにおいて、
それら3つの段階にある他の 15 件のプロジェクトは、9 か国に分散しているが、そのうち中国(4 件)、英国(3 件)、
ノルウェー(2 件)においてのみ、複数のプロジェクトが操業、建設、または後期計画段階にある。
全体的に見ると、開発計画の早期段階(評価:Evaluate と構想:Identify)にある 19 件のプロジェクトを含め、グロー
バル CCS インスティテュート(以下、インスティテュート)は、世界で計 55 件の大規模 CCS プロジェクトを確認して
いる。
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[ SUMMARY REPORT ]
プロジェクト件数
Figure 2 ライフサイクルおよび地域/国別の大規模 CCS プロジェクト
Identify
Evaluate
Define
Execute
Operate
計
米国
中国
欧州
カナダ
オーストラリア
中東
その他アジア
南米
アフリカ
計
このように地理的にプロジェクトが集中する大きな理由として、北米における EOR を用途とする CO2 売却の機会が
挙げられる。米国とカナダで操業中のすべての CCS プロジェクトに関して、EOR からもたらされる収益がビジネスモ
デルの確立を支える上で重視されている(Figure 3)。EOR はブラジルで操業中の 1 件のプロジェクト、中東で建設
中の 2 件のプロジェクト、および中国で計画の後期段階にある 4 件のプロジェクトにも組み込まれている。EOR に
収益の可能性を見出すすべての地域において、EOR は CCS の早期の展開を後押ししている。
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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
Figure 3 操業(Operate)・建設(Execute)・精査(Define)段階にある業種別および貯留形態別の大規模 CCS プロ
ジェクトの、実際の操業時期および予想操業時期
発電
Coal-to-liquids
(石炭液化)
化学品製造
鉄鋼製造
EOR
天然ガス合成
純粋な地中貯留
肥料製造
油精製
天然ガス処理
水素製造
操業中
=1 Mtpa の CO2 (円の面積は貯留量に比例)
*圧入は中断中
CCS が排出量緩和のポテンシャルを最大限に発揮するには、最終的には、大半の CO2 を深部塩水層 (deep
saline formation) などの純粋な地中貯留層 (dedicated geologic reservoirs) に貯留する必要性が生じる。資源評
価によれば、長期的な CO2 回収・貯留ニーズに対応するためには、EOR よりも純粋な地中貯留の方がむしろポテ
ンシャルが大きいことが示されている。
深部塩水層への貯留に関する貴重な経験が、ノルウェー(Sleipner と Snøhvit CO2 Storage Project)とアルジェリ
ア(In Salah CO2 Storage Project)の大規模プロジェクト、およびフランスの Lacq、ドイツの Ketzin、オーストラリア
の Otway などの世界の一連のパイロット試験施設において得られている。建設中の 3 件の大規模 CCS プロジェク
ト(カナダの Quest Project、オーストラリアの Gorgon Carbon Dioxide Injection Project、および米国の Illinois
Industrial Carbon Capture and Storage Project)では、陸上(Onshore)の深部塩水層の貯留を目指している。これ
らのプロジェクトは、2015~2016 年に操業を開始する予定である。
また精査(Define)段階の 6 件のプロジェクトにおいても、深部塩水層または枯渇ガス田(depleted gas reservoirs)へ
の貯留を決定済みあるいは調査中である。これらには、オランダの ROAD Project、米国の FutureGen 2.0 Project、
および英国のすべてのプロジェクトが該当する。予想される操業時期は 2017~2020 年の期間である。総合的に見
ると、これら地中貯留のみのプロジェクトから得られる経験により、知識が大幅に拡大されると予想される。この意味
で、欧州における計画段階から建設および操業段階へのプロジェクトの進展(欧州では 10 年以上、建設段階まで進
んだ大規模 CCS プロジェクトはない)が、欧州地域においても、また世界的に見ても、CCS に対する前向きな認知
を確立する上で重要な役割を担うことになる。
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[ SUMMARY REPORT ]
一層の政策支援が不可欠
全世界で 10 件以上のプロジェクトが、来年中に最終投資判断(final investment decision)の段階に進む可能性が
あると予測されている。従って現存の政策と、今後 12~18 か月間で取られる新規イニシアチブにより、2020 年まで
の CCS プロジェクトのポートフォリオがかなりのレベルまで形作られることになる。このような計画中のプロジェクト
の「ポテンシャル・ポートフォリオ」を、2020 年までに操業中のプロジェクトの「現実のポートフォリオ」に移行するには、
早期の財務的および政策的後押しが重要である。
計画段階(planned)のプロジェクトを操業(Operation)にまで進展させるために必要な短期的措置に加えて、今後の
プロジェクトの予定数を大幅に拡大しなければならない。今後 10 年で、操業中のプロジェクトから重要な知見が得ら
れるはずであり、これがコスト削減と信頼性の向上につながり、また 2020 年代と 2030 年代の第 2 および第 3 世代
の CCS 技術の適用拡大にもつながるであろう。しかし現時点でプロジェクト計画の最も初期の構想(Identify)段階に
中国以外の地域でプロジェクトが策定されていないことは問題である。IEA のシナリオに対応して CCS が緩和オプ
ションとしてのその役割を完全に果たすには、このような状況が改められなければならない。結果として、長期的な
CCS の展開と投資家による CCS への投資の際に必要である、政策の長期的予測可能性を確保するべく、強力で、
持続可能な排出削減政策が早急に必要とされる。
早期のかつ長期的な政策支援を開始することが重要である。しかしインスティテュートが行った 2014 意識調査
(Perceptions Survey)への回答者の大半は、過去 1 年間において CCS に関する政策環境に大きな変化はなかっ
たと答えている。回答者の 4 分の 3 以上がプロジェクトの実現可能性への重大なリスクとして政策の不確実性を挙
げており、また同様の割合の回答者が、彼らのプロジェクトの実現可能性は政府の新しい政策決定に左右されると
述べている。
過去 5 年間の既存の政策支援だけでは、2010 年代初めに予定された数の大規模 CCS プロジェクトを「立ち上げ
る」のに不十分であった。実際に、意識調査の回答者の 40%以上が、現在実施されているインセンティブは、プロ
ジェクトの商業的な頓挫を確実に防ぐためには不十分であると述べている。
支援政策の必要性が複数の国と地域において認められている。英国の政策環境は、大規模プロジェクトの進行を
継続的に推進している。米国の政策、CCS/炭素回収・活用・貯留(CCUS)の法的および規制的環境は前進してお
り、特に EOR の機会に恵まれたプロジェクトが進展している。欧州委員会(EC)は、大陸諸国の開発計画にはただ
一つのプロジェクト(ROAD)しか存在していないという現状を踏まえて、欧州共同体(EU)の CCS 政策の見直し作
業に入っている。また複数の発展途上国が政策の見直しを進め、また広汎な気候変動政策の検討対象に CCS を
取り込んでいる。各国政府はまた、将来の CCS の展開に必須の技術インフラを開発する作業を、国際標準化機構
(ISO)を通じてサポートしている。
発展途上国での進捗の加速が必要
驚くに値しないが、現在まで、ほとんどの大規模 CCS プロジェクトは先進国で実施されている。公的な支援計画、
CO2 市場取引の機会、貯留可能性評価、および規制枠組みなどの主要なプロジェクト実現要因が先進国で最も進
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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
んでいるためである。しかし、非 OECD 経済圏は、今後数 10 年間のエネルギー需要の増加の大半を担うことにな
る。長期的な気候目標への対応には、このような経済圏にある設備からの CO2 の大量回収と貯留が要求される。
IEA は 2012 Energy Technology Perspectives の中で、2℃の世界的排出シナリオを達成するためには、2050 年
までに 70%の CCS 実装が非 OECD 諸国で実現される必要があると推定している。
複数の非 OECD 諸国および発展途上国で、CCS プロジェクトと政策展開に重要な進展が起こっている。2025~
2030 年まで、およびそれ以降に、非 OECD 経済圏で要求される大規模 CCS プロジェクトの件数の増加を実現させ
るには、このような努力が継続され、かつ今後 10 年のうちに、各種政策と枠組み(知識共有と能力開発プログラム
を含む)の実施に相当の努力が払われることが必要である。
技術的な課題とリスクは十分に理解されている
回収に関する研究、開発、実証はコスト削減の必須条件
CO2 回収(Carbon Capture)とは CCS プロジェクトの一つの段階を指す。すなわち純度の高い CO2 流を他のガスお
よび液体から回収または分離し、他の用途または貯留場所への輸送を可能にするものである。回収のコストは、対
象となる工業プロセスに応じて大きく変動する。天然ガス処理などの産業では、一般にメタンを主成分とするガスか
ら自然起源の CO2 を分離して販売用ガスを生成するため、この CO2 を大気中に排出せずに輸送・貯留する場合、
圧縮以外に生じる追加的「回収」コストは小額か、あるいは全く発生しない。これに対して、発電や高炉製鋼などの
産業では通常、プラント排ガス流の大部分を窒素が占め CO2 の割合は少ないため、CO2 の分離が複雑でコスト高
の工程になる。これらの産業では、回収は CCS 工程のなかで最もコストのかかる要素となる。
最終的に前向きな投資判断(final investment decision)が下された発電部門の 3 件の CCS プロジェクトの存在は、
精査(define)段階の 9 件のプロジェクトのそれと併せて、上記課題への取り組みと、化石燃料発電所から CO2 を大
規模に回収するフィージビリティの実証が大きく前進したことを具体的に物語っている。最終投資判断が目前の精査
段階にある一連のプロジェクトは、実証済みの回収手法と回収技術の種類をさらに拡大すると予想される。考え得
る様々な回収手法および回収技術の実証は、幅広い操業条件への理解を広げ、この分野の研究・開発(R&D)をさ
らに推進するために欠かすことができない。
コスト削減は、これまで同様、今後もずっと、大量回収のための R&D および技術改善の主要な焦点である。第 1 世
代の技術は、現在操業または建設されている first-of-a-kind(同種のものとしては最初の)大規模 CCS プロジェクト
で実証される。これらの技術を改善するための R&D 回収プロジェクトのポートフォリオは非常に広範囲にわたる。す
べてのコンセプトが同じペースで進行するわけではなく、また全てがパイロット試験とその後の実証試験に移行する
予定ではないが、最も有望な技術は、今後 10~20 年で投資と操業コストを大幅に削減する可能性を秘めている。
回収技術のさらなる改善を達成するために、政府、研究者、産業界が協調し、次世代の大規模 CCS プロジェクトを
支援することが重要である。同様に重要なのは、R&D を継続し、得られた知識を共有することである。これにより、リ
ソースを活用し、より良い結果を早期に達成し、将来的には、幅広い CCS の展開の推進に必要な、根本的に新しい
回収技術を生み出すことになる。特に欧州、北米、アジアにおいて、政府や産学の支援を受けた複数のプログラム
があり、回収技術はグローバルに開発されている。このような国際的な協業体制が、新しい技術の発展を推進する
9
[ SUMMARY REPORT ]
鍵となる。
輸送の主な課題は規模にある
この数十年間でパイプラインによる大量の CO2 の輸送が、特に米国において熟達している。これらのパイプラインに
は、国際的に採用されている標準および運用基準が適用され(これらは今後も更なる改訂が予定されている)、優れ
た安全実績の下で稼働している。このように CO2 パイプラインの技術は十分に確立されており、CO2 の輸送インフラ
の発注と建設は継続している。
パイプラインは CCS プロジェクトに係る大量の CO2 を輸送する方法として最も一般的に使用されており、今後もそ
の傾向が続くと見られるが、世界のいくつかの地域では船舶による輸送が代替選択肢となり得る。特に陸上や沿岸
に貯留地が確保できない地域がこの例に該当する。船舶による CO2 の輸送は、欧州で小規模に実施されており、よ
り規模の大きな CO2 の船輸送は、現在通常に行われている液化石油ガス(LPG)の船輸送とほぼ同様に扱われる
可能性が高い。工業および食品グレードの CO2 のトラックおよび鉄道輸送は、40 年以上の実績があり、パイロット
および小規模 CCS プロジェクトで活用できる可能性がある。
輸送面での主な問題は規模である。IEA が策定した、2050 年までにエネルギー関連の CO2 排出量を半減するシナ
リオで、CCS がそのポテンシャルを十分に発揮するためには、今後 30~40 年に建設が必要な CO2 輸送インフラの
推定延長は、現存するインフラ距離の約 100 倍になる。
CO2 のパイプライン輸送のコストは、パイプラインの長さ、CO2 の流量と対応するパイプラインの径、人件費、インフ
ラの耐用年数などの要因により、プロジェクト毎に異なる。CCS のコストを削減するための重要な選択肢となるのが、
単一の CO2 輸送および貯留インフラシステムを、分散した CO2 発生プラントを操業する複数のオペレータ間で共有
し、規模の経済を実現する方法である。この意味では、(2 点間のシステムではなく)地域規模の視点から CO2 輸送
インフラを検討することが重要である。
今後必要とされる CO2 輸送インフラの規模を念頭に置くと、複数の CO2 発生源と貯留層をつなぐ大規模な CO2 輸
送ネットワークの計画、設計、実施に関して、米国以外の経験が必要となる。ここでの政府の役割は、今後の他の
CCS プロジェクトおよび大規模な CO2 輸送ネットワークの開発に役立つ CCS 輸送ソリューションへの投資のインセ
ンティブを各プロジェクトに与えることである。
CCS の展開を加速するためには貯留地に関する初期段階の特性評価が重要
CO2 は、原油または天然ガスを閉じ込めている多孔性の岩石と同じ種類の岩石に貯留される。同様に、油とガスを
地中に留め、表面への移動を防止している不浸透性のキャップロックと同じ種類の岩石が、いくつもの地質年代に
わたって CO2 を封じ込めることが期待されている。
今日、150 ヵ所以上のサイトで、EOR 用あるいは純粋な貯留として、CO2 が圧入されている。これらのサイトの大半
は EOR を目的としており、EOR は米国では 40 年以上も前に始まっている。純粋な CO2 貯留の初のプロジェクト
は、1996 年ノルウェーの Sleipner 沖合ガス田で始まった。季節的および戦略的な貯留を目的とした天然ガスの地
下貯留も CO2 貯留といくつかの類似性があり、CO2 貯留サイトのリスク管理に情報が提供できるほどの長い実績が
10
THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
ある。
これらの各種貯留サイトや既存の CCS プロジェクトから得られた経験と、石油産業の実績が、CO2 貯留のフィージ
ビリティと操業に対する信頼性を一層高めている。安全な CO2 貯留サイトを数多く開発するための所要の技術はす
べて「既製」のものが活用できるが、地質科学と地下技術のコミュニティは、全体的なソリューションを改善するため
に、また適切な貯留サイトの範囲を拡大するために、引き続き大きなイノベーションを生み出している。現実の非常
に多様性に富む大規模貯留シナリオにおいて今後得られるデータから、このような作業にさらに情報が提供される
ことになると思われる。
未調査地域を最終投資判断に対応できる水準まで完全に評価するには、相当の時間、恐らくは 10 年近くを要する
可能性がある。これは CCS プロジェクトの回収と輸送部分に一般的に必要とされる期間を大幅に上回る期間であ
る。プロジェクト開発の早期の段階において、貯留地の確保は最も確実性に乏しい要素でもあり、莫大なリソースの
割当てが必要とされる場合もある。特定の貯留層の特性が、CO2 回収プラントと輸送システムの設計に重大な影響
を及ぼす可能性がある。
気候目標を達成するために 2020 年以降に要求される CCS 展開の規模を考慮すると、適切な貯留容量を特定する
という課題はさらに大きなものとなるであろう。プロジェクトを通じて複数の貯留候補地を調査し、探査のリスクを軽
減する必要が生じる場合もある。したがって、2020 年以降の広域的な CCS 展開に備えた、2010 年代における貯
留関連の作業の重要性は、いくら強調しても強調すぎるということはない。
利用可能な貯留地サイトを巡る不確実さによって広域的な CCS 展開が遅れるリスクを軽減するために、有効な
CO2 貯留容量の調査および評価を促す政策と資金提供プログラムが緊急に求められている。
すべての国において、一般市民の関与は重要な要素
最も進展している CCS プロジェクトの状況から分かることは、そのようなプロジェクトでは、地域のステークホルダー
以外に、国際的なレベルにおいても、一般市民の関与と長期的なアウトリーチ活動に全力を尽くしていることである。
このような関与とアウトリーチは、CCS への理解を高め、その一般的なまた個々のプロジェクトに関しての受容性を
確保する上で欠かすことができない。プロジェクトで最も効果的と評価された関与方法は、対面での会合、現地訪問、
正式な協議会合、教育プログラムなど、概して直接的な方法である。
肯定的な最終投資判断が得られた発電部門の 3 件の CCS プロジェクトの存在(およびそれに続く各プロジェクト)
は、CCS が効果的かつ効率的な CO2 排出削減ポートフォリオの重要な部分を担うというポジティブな認識を確立す
る上で必要不可欠の要素となる。また CCS 技術関連に限らず、広く気候変動と低炭素エネルギー一般について認
識を持たせ、コミュニケーションの努力を強く促すためにも、CCS 展開の過程におけるこのようなマイルストーンを活
用することが重要である。
10 年ほど前に開始し、プロジェクトのライフサイクルの段階が最も進んだ先発的なプロジェクトは、ほぼ全てが南北
アメリカと欧州、中東、アフリカ(EMEA)地域に集中している。これに対して、プロジェクト開発の早期段階にある大
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[ SUMMARY REPORT ]
規模 CCS プロジェクトの大半は、アジア太平洋地域で実施されている。インスティテュートの 2014 Perceptions
Survey では、アジア太平洋地域のプロジェクトの 1/3 近くは、積極的にステークホルダーを関与させているか一般
市民関与戦略を進めているが、一方で大多数のプロジェクトがこのような戦略を策定していない。したがって、ベスト
プラクティスのアプローチを採用するプロジェクト(前者)が、同じ地域の他のプロジェクト(後者)に対する重要かつ指
導的なケーススタディとなる。
今日までに実施された CCS の社会科学的研究の大部分は、先進国に重点が当てられ、発展途上国における CCS
の役割についてはほとんどその対象とされていない。世界で最も CCS が進んだ地域がどこであるかを考えれば、こ
れは驚くにはあたらない。しかし、このような結果は、むしろ先進国における CCS プロジェクトおよび研究者の知識
と経験へのアクセスを容易にすることの必要性が強調するものである。またこれは、最終的に先進地域と発展途上
地域のニーズの違いの理解につながり、後者の地域のプロジェクトが前者の教訓を効果的に活用する機会も生ま
れる。
CCS の推進には、国際的な協業体制が不可欠
数十年にわたり操業を続けている大規模 CCS プロジェクトがあるものの、CCS 産業界全体では、いまだその発展
の初期の段階にある。発展が同じような段階にある他のすべての産業と同様に、初期のいわば研究所内での概念
検討の段階から、段階的に規模を拡大するパイロット試験プロジェクト、さらには大規模プロジェクトまで、全体の開
発チェーンに沿った知識共有と協業体制をとることで非常に大きなメリットを得ることができる。プロジェクトのケース
スタディ、そして CCS および気候変動コミュニティの主要な意見の双方において、他者との協業体制の重要性が強
調されている。
大規模プロジェクトの経験を、順調に操業しているプロジェクトから新しいプロジェクトに移転させることは、コスト削
減とリスクの軽減に役立ち、また一般市民、政府、金融コミュニティにおける CCS への信頼性を築くのにも役立つ。
特に先進国・地域から発展途上国・地域への経験の移転は、将来の排出削減規模と、発展途上国において最少コ
ストで排出削減目標を達成することを可能とするための CCS の役割を鑑みた場合、欠かすことができない。
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THE GLOBAL STATUS OF CCS | 2014
© Global Carbon Capture and Storage Institute Ltd 2014.
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Global CCS Institute 2014,
The Global Status of CCS: 2014,
Melbourne, Australia.
本報告書内の情報は、2014 年 9 月現在のものです。
表紙写真:SaskPower Boundary Dam Integrated CCS Project(カナダ)の二酸化
硫黄除去装置の最終調整
画像写真:SaskPower
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