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TANIGUCHI - terrapub

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TANIGUCHI - terrapub
大阪徹化石研究会蕗,特別号.第 10 号, p.339-347.1997 年 2~
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はじめに
塵もないのである.迷える人聞を指すこともあるが,むし
ろ岩山のように巨大なものカ哨の定めを得られずにさまよ
プランクトンの中には,一次生産者である植物プラン
いつづける報子を示すことばに起源している語であ札惑
クトンとそれを摂食する植食性動物プランクトンがあり,
星 (planet) と同根の語なのである.惑星は巨大なのに,徴
さらに肉食性の動物プランクトンもある.プランクトン群
塵子(ミジンコ)は文字通り小さい.それは何故か,その
集内にすでに数段階の食物連鎖があって,その構成は極め
ことから本文を始めたいと思う.
て複雑である.しかし,プランクトンの化石が例外なく雛
海洋生物からみた海の環績の特性
化石であることに示きれているように,プランクトンはみ
な小型であり,かなり食地位の高い種であっても大型であ
海洋環境の特質をわかりやすく示すためには,空気に比
ることは稀である.この事実から,プランクトンとは海洋
較して水の物性がどのように異なるかを示すと良い.海は
や湖沼の水柱中で生活している「雛小生物j のことである
水に満たされた空間だからである(谷口,
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6
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と定義する人もいる位である.ところが,プランクトン
水はむしろ風変りな物質だから,空気と水との差異を数
(pl皿kωn) という語義には f小型J というニュアンスは微
えあげるときりがない.海洋の生態系の一次生産を担う光
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合成生物からみたときに重要なのは,空気に比べて水の吸
光度,密度および粘度が桁違いに大きいという差異であ
る.吸光度が大きいから海中は暗い.光合成が可能な場は
海洋のごく表層に限られ,世界の海の平均水深3,8∞mのう
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谷口旭
340
ちの大部分は光合成生物にとっては死の世界なのである.
撒細でしかも下等な単細胞藻類である縫物プランクト
下層へ沈降することは彼らにとっては死を意味する.密度
ンは,いかにも頼りなく見える.しかし,真実は反対であ
と粘度が大きい海水は,太腸放射によって表面から暖めら
る.微細な単細胞藻類だからこそ,植物プランクトンは海
れると成層して鉛直混合しにくくなる.常に風が吹きとき
洋生態系の一次生産者たりうるというべきなのである.
には嵐が荒れ~う気圏に比べれば,海中は静揺である.そ
れゆえ沈降した有機物が分解したときに解放される栄養塩
は下層に溜り,表層へ回帰する速度は極めて遅くなる.す
なわち,表層は貧栄養の環境になる.
海洋では一次消費者もプランクトンである
海では一次生産者があまりに小きいために,それを採食
する一次消費者も小型にならざるをえない.海水中に懸渇
もちろん河口減やごく沿岸の水域は浅いから表面から
する微粒子を効率よく捕捉して摂食するためには,微細な
海底まで海水がよく混合し,かつ陵圏から栄養塩が補給さ
メッシュの i慮過摂食器官が必要である.そのような繊細な
れるから全層で栄養塩は多くなる.光も海底まで届き,下
器官を備えるには,自体のサイズが小さい方が有利だから
層が暗黒の世界になることはない.しかしそのような浅海
である.小型な動物ほどより微細な餌粒子を摂食すること
域の面積は,世界の海の面積からみれば無視できるほど狭
い.だから浅海域のことは例外としておき,本文では言及
しない.以下に海洋とか海というときには,原則としてこ
海はプランクトンの世界
のような浅海域を除いた,いわゆる沖合外洋域をさすこと
にする.
以上のことをまとめると,海の光合成生物は明るい表層
に浮請書しつづけなければならないが,その表層は貧栄養な
のだということになる.これが,光合成生物からみた海洋
海は水に議たされてい~
水は空気!こ比べて密度、粘度、
吸光度などが桁ちがいに大きい
v
環境の特性なのである.
1)潟水は重くてかを湿ざりにくく、物{ま沈み
海洋の光合成生物の適応ー小型化
前節でみたように,海洋の光合成生物は明るい表層に浮
にくくて浮きやすい.光は透過しにくく、
海の大部分は暗黒の世界だ.
滋しつづけることと,貧栄養の海水から効率よく栄養塩を
2) 栄養塩をたくさん含んだ深層水は表層水と
摂取することとを同時に遂行しなければならない.これを
混合しにくく、表層系は極端な貧紫養状態
可能にする方法はたったひとつしかない.それが小型化な
にある.
のである.海洋の克合成生物はほとんど全て藻類植物であ
る.体表面全体で栄養塩を摂取することができるからであ
v
植物プランクトンは、明るい表層中に浮かび続
ろう.外洋滅の光合成生物にとって,体表面は 2 つの機能
けることと、希薄な栄養塩を効率よく鰻取する
を有している.第ーが栄養塩摂取面であり,第二が海水と
こととを、同時に果たさなければならない.
の摩擦面である.表面積が大きければ,栄養塩摂取量が増
大するだけではなし沈降速度に大きなプレーキがかかる
ことになる.一方,体積が大きければ栄養塩の消費量要求
v
植物プランクトンは小さくなければならない.
v
量が大きくなる.また,原形質は海水よりも密度が大きい
から,体積が大きければ重くて沈みやすくなる.
ところで,立体の表面積はサイズの 2 乗に比例し,体積
植物プランクトンを捜食する動物プランクトンも
また、小さくなければならない.
は 3 乗に比例する.従って,表面積対体積の比はサイズに
反比例する.形が同じならばサイズの小さいものほど大き
な表面積対体積比を持つことになるから,栄養塩の摂取量
対消費量比も摩擦力対沈降力比もともに大きくなる.すな
わち,小型な生物ほど栄養塩摂取効率が高くなるとともに
沈降しにくくなるのである.だから海の光合成生物は,小
型になることによってのみ海洋環境に適応することができ
るのである.そういう生物が植物プランクトンとして生存
しているのである.
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海洋の環境とプランクトン
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ができるから,海洋の一次消費者は小型動物なのである.
口, 1975). 今ここで大切な事実は,動物プランクトンは小
すなわち,動物プランクトンである.海では,一次生産者
型になった,ということである.
も一次消費者もともにプランクトンでなければならないの
小型な動物の生理活性
である.このような海の生物園の特徴を「海はプランクト
ンの世界」であるといい表しでも良いであろう (Fig. 1
)
.
動物の生理活性の大小は,最も簡単に測定できる呼吸量
円石藻やさらに小型の非群体性の藍藻類や原始緑藻類
の大小で示されていることが多い.ここでもまず呼吸量に
(prochlorophytes) を摂食する動物プランクトンは主に原生
ついて述べていこう.動物 1 個体の呼吸量 (R) は体重(w)
動物で,それ自体が小さい.それを捕食するのは別の大型
によって決まる.変温動物のばあいには環境温度も本質的
な原生動物であり,それがさらに甲殻類プランクトンに摂
に重要な決定要因だから,比較生理学の分野では全ての
食される.珪藻頻や渦鞭毛藻のなかには群体性のものや大
データを, 20'C での値に標準化する.また,運動をしてい
型のものがあわ,それらは直接的に甲殻類プランクトンに
ない状態の基礎代謝を用いることも,この分野の標準法で
摂食される.そういう食物連鎖を数段重ねることによっ
ある.そうすると呼吸量と体重との関係は,
て,海洋の一次生産物は魚類のような大型動物へと転移す
R=a
V
f
b
ることが可能になっている.海洋の食物連鎖の構造はかな
というアロメトリー式で表され,このときの b の値が,全
り厳格にサイズ依存的なのである.この事実を見落すと,
動物を通じておおよそ 0.7 になることが判っている.
海洋生態系における一次消費者がなぜ動物プランクトンな
体重は体長の 3 乗,体表面積は体長の 2 乗にそれぞれ比
のか,あるいは動物プランクトンの存在が海洋食物連鎖の
例するから,熱の発生(保存)訴としての体重と,熱の発
成立を保証する鍵になっているということを説明すること
散器官としての体表との関係によめ, b=2,β=0.67 になる
はできない.
のだと説明されてきた.この体表面積の法則と呼ばれる仮
小型であることによって動物プランクトンは,植物プラ
説は合理的にみえたが,データが集積されてくると b は
ンクトンの項でみたと同様に,浮揚生活を送りやすくな
0.67 よりも大きく 0.75 ほどになることが明らかになり 1 こ
る.そのときに海水の密度が大きいためにその分大きな浮
の仮説は真懇性を失ったといえる.なぜ0.75 なのか現在の
力を得やすいという事実は,改めていうまでもないことで
人知では説明できず,むしろ地球上の生物体は b=O.75 に
あろう.浮力は魚類やクジラにも益している.陸上生態系
なるという定向的な進化を遂げてきたと考えるべきかも知
には空中で全生活史を全うする生物はいないが,海洋生態
れないという説もある (ScbDÙdt-Nielsen, 1972). それはさ
系では水中生活者が主役である.かたい根茎樹幹を必要と
ておき,ここで重要なのは, b は有意に1.0 よりも小さいと
しない大型海藻や,海水中に懸濁している餌粒子を摂食す
いうことである.だから,体重あたりの呼吸量(R/W)は
るサンゴ,ウミユ l} ,カキ,フジツポ,ホヤ等々の固着動
体重に負の相闘で変化することになる.小型な動物プラン
物も藍接的あるいは間接的に浮力の恩恵、を享受している.
クトンのR/Wは大きいのである.
しかし,なかでも体が小型なためにエネルギー貯蔵量が少
町W が大きいということは,自分の体を早く喰いつぶ
ない動物プランクトンにとって,海洋表層にしかいない一
すということでもある.すなわち小型な動物の寿命は短
次生産者を摂食する必要性を満たす上で,浮砕することは
くなる.その程度は小型化するにつれて加速度的に大き
特に重要であることにちがいない.
くなるから,単細胞の原生動物やバクテリアのR/Wはあ
ところが動物プランクトンの体の密度は海水の密度よ
まりにも大きく,寿命はあまりにも短くなると考えられ
りは大きいから,必ず沈降する.大型動物は浮嚢を作った
た.そこで単細胞生物と後生動物,それに恒温動物とで
りエネルギー消費を伴う運動力を身につけることによって
は,前のアロメトリー式の a の値が異なると考えた方が自
表層にとどまることを可能にした.これに対して,植物プ
然にみえたのである (Fig.2). ぞれが現在最も権威のある
ランクトンを摂食する動物プランクトンは小型化によって
比較生理学の教科書が教えるところである(例えば
沈降速度を低下きせる方法を選択したといえよう.動物プ
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ランクトンが完全な浮務力を獲得できなかったことは,浮
温動物と変温動物の差は正しいであろう.体温を保つた
1988 など).このうち恒
瀞生活への適正、に成功していないことを示すという説もあ
めにエネルギーを要するからである.しかし,変温動物と
る.しかし私にとってはその説は不完全にみえる,という
単細胞生物との差を信ずる合理的な理由が,私には昆え
よりも完全な誤りにみえる.その詳しいことは別に述ペで
てこないのである.
あるので繰り返さないが,要約すれば,動物プランクトン
確かにアメーパー類の代謝は低いらしい.しかしそれが
の生活にとって沈むことが必要な側面があるので,あえて
むしろ特殊であり,多くの原生動物の代裁が特に低いとい
完全な浮調書力を獲得しなかヮたのだと考えるのである(谷
うことはないように思われる.少なくとも私共が実測した
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例では,少数倒ながら,プランクトン性掛毛虫類の呼吸率
物プランクトンを摂食するために小型化を選択した動物プ
は決して低〈はなかった.過去の呼吸量の測定法が単細胞
ランクトンは,他方で寿命を縮めるという犠牲を払ったか
生物に過大なストレスかけるものであったために,得られ
のようにも思われる.そうではあるまい,と私は思う.寿
た結果カt低かったのではないかという主張が近年多くなっ
命が短いことは確かだが,それが犠牲ならば,海洋生態系
てきた.それらの説は,単細胞生物というものの代謝は可
はとうの昔に違った姿』こ置き換わっていたにちがいない.
変性に富んでいて,条件の良否によってすばやく代謝の大
小を調節できるのだということを主張している (Fenchel,
平
衡
成
長
1987). 単細胞生物を培養したり銅育してみれば,このこと
動物の生理学あるいは生理生態学の分野におけるもう
は良く実感できるであろう.天与の能力としては単細胞生
一つの話題は,平衡成長 (bal組制 growth) という概念で
物も変温動物と同様の生理活性を備えているとするのが,
ある.動物の成長(=生産)量を P,摂食量を 1,食物を消
合理的である.ただし,その活性は可変性に富んでいると
化吸収する同化効率を A,呼吸量は前と同様に R とすると,
いうことと,根足虫類の活性は特異的に低いらしいという
動物体内の物質・エネルギーの収支は P=AI-R となる.
ことは,付記しておかなければならない.可変性の理由は
このとき生態学では, P/Iを総成長係数 (k 1 と略記する ),
良く判るものの,後者の現象を進化学的な見地から説明し
町M を純成長係数ー(~)といい,食物連鎖を経由する物質・
得る仮説はいまだないようである.
エネルギーの転移効率の良否の目安にしてきた.従って,
以上のようにみてくると,海洋表層に浮接して微細な植
これらの係数に関するデータはかなり多い.そういうデー
海洋の環境とプランクトン
タを総覧した人達が発見した事実は,ある分類群ないし生
小型短寿命であることの生態学的意義
態群には,種の差異にかかわらず,ほほ一定の A.kJ' Isの
値があるということであった.
もちろん,大型種はたくさん食う(Iが大きい)し,偶
343
小型で成長の早い動物が発揮する生態学上の優位性に
ついては,おそらく見虫学の分野などでは良く論議さ札て
体当りの呼吸量 (R) も大きい.しかし,そういう大型動
いることであろう.いわゆる E 戦略と呼ばれている個体群
物では体重増加 (p) もまた大きかったのである.従って,
生長の戦略で,例えば変動しやすい環境では K 戦略の生物
P, 1, R 三者聞には単純な比例関係があるということにな
との競争で優位に立てると説明される.群集生態学の分野
る.わかりやすく言うと,たくさん食う動物は,代謝消費
における最も基本的な概念の一つであるこの説明は,つま
も大きいが早く成長するということになる.これが平衡成
るところ昆虫は寿命を f犠牲にして J P を大きくしたとい
長の内容である.この現象は,原生動物,動物プランクト
うに等しい.陸上生態系では,おそらくこの説明で十分で
ン(ほとんどの無脊椎動物門を含む),魚頼等で,それぞれ
あろう.しかし海洋生態系では,この説明だけでは不十分
知られている.おそらく,人間と動物園の動物を例外とし
である.
て,ほとんど全ての野生動物群に成立している現象だと考
えてよい.
最初に述べたように,水に満たされた広くて深い海では
一次生産は厳しい貧栄養条件によって制限されている.実
平衡成長しているから,例えば動物プランクトン群では
際に,現在の分析感度では検出不可能なほど栄養塩が低謹
次のような比例関係が成立している(Ikeda a
ndMotoda,
度であることもめずらしくはない.そのような貧栄養条件
1
9
7
8
)
.
では植物プランクトンを人工的に培養することはできない
1=
2
.5R~、つ
P=O.75
R
.
が,しかし自然海洋では植物プランクトンが光合成を営ん
前式は直感的に理解できる.呼吸消費量に比例して餌を食
でいるという,一見矛盾する現象が広くみられる.ところ
うのは当然だからである.しかし,後式には合点がいかぬ
で,近年の培養実験では,わずかな栄養塩を一時的に添加
という人は少なくない.生きて呼吸をしている限り成長し
したときに植物プランクトンは直ちにそれを摂取して短期
続けるというのか,という疑問がわく.答えはイエスであ
間だが急速に増殖すること,微細な種類ほど低農度の栄養
る.このときの P は個体の体重増加とは限らず,産卵量や
塩添加に対して敏感に応答できることなどが明らかになっ
分裂増殖量も含む.あるいは"仕事景"を加えても良いで
てきた.これらの事実は,海洋植物プランクトンが, 1 困
あろう.従って,平衡成長は個体レベルではなく個体群レ
の量は少ないがしばしば起こる栄養塩添加の機会を逃さず
ベルの概念だと断わる人もいる (Fenchel, 1987). しかし個
に利用するように適応していることを示していよう.小型
体およ E湘体群の双方に当てはまると考えても差し支えは
で代謝活性の高い動物プランクトンの頻繁な排班活動がそ
ないだろう.野生動物群では,生殖能力を喪失した老個体
の添加過程であることは,いうまでもない.
が生存し続けることはないからである.だから,獣医の保
もう一つ重要なことは,短寿命ということの意義であ
護下にある飼育動物を例外としたのである.老人医療や年
る.小型で短寿命な動物プランクトンは,クジラや大型魚
金の制度を発遣させ,またジョギングで R を増やして体重
とは異なって,何十年にもわたって体内に有機物を独占す
を減らす (P をマイナスにする)ことを考える人間が例外
るということがない.早〈成長して早く再生産し,そして
であることは,けだし当然である.
早く死ぬのが動物プランクトンである.そういう動物プラ
上述の逸話は,私たちは自然を観るときにも人聞の尺度
ンクトンが一次消費者となっていることが,海洋生態系の
を無意識に持ち込みがちであることを示している.同掠な
特徴なのである.その存在によって栄養塩の再生が促進さ
誤解は,人々が海洋生態系をうかがいみるときにも起こり
れ,一次生産が安定する.陸上生態系に比較すると,海洋
がちである.一次生産者と消費者と分解者によって生態系
では一次生産者の現存量は極端に少ないのに年間生産量は
が構成されているという点で,海洋生態系も控上生態系も
さほど少なくはない.すなわち回転率が大変高いのであ
何ら変わるところはない.しかし個々の生物(群)の生活
る.それを可能にしているのカ噛物プランクトンの早い代
を注意深くみると,水と空気という環境媒体の差異が,海
謝と短い寿命なのである.
洋生物と陸上生物とに対して基本的に異なる適応進化のみ
ちを歩ませてきたことに気付くであろう.
長寿命で大型の植食性動物が海洋に誕生して栄養塩を
体内に独占したとしたら,そのような動物は海洋生態系に
以上みてきたように小型な動物プランクトンにも平衡
とって危険な存在となり,繁栄することは許きれないであ
成長が成立しているのならば,彼らの寿命はやはり短いに
ろう.従って,動物プランクトンの繁栄にとって,小型短
ちがいない.それが negative にならないためには,それ以
寿命であることには posi値切な生態学的意義があると考え
上の gain がなければならない.それを次に考えてみる.
るべきであろう.彼らは決して短寿命という「犠牲J を払つ
谷口旭
344
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である.それを新生産と呼んで,再生生産と対比させる.
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すなわち栄養塩補給量の多い海域においては,沈降量(新
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生産量)はその絶対値だけではなく総一次生産量に対する
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割合でみても大きいということになる.
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分類学的にみると,再生生産を担うものは原始緑藻類,
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円石藻類,微細鞭毛藻類,微細珪藻類などであり,新生産
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を担うものは群体性の大型珪藻類である.群体性の珪藻類
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の中には Chaetoceros ∞,ncavicomis,
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nordensldoldii などのように,北方亜寒帯から北極海にかけ
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ての海域で春季にブルーミングを起こす種があり,ブルー
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ミング終期には大量に沈降する種もある (Lampitt, 1
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この点で珪藻は特異であり,進化学的に興味の深い分類苦手
である.
以上のことは,植物プランクトンの沈降には海域や分類
群によって差があることを意味している.換言すれば,沈
降には地理学的あるいは分類学的選択圧がかかっていると
いうことになる.徴化石や堆積物の分析にあたっては,こ
ているのではないのだ,ということを強調したい.
再生生産系と新生産系
のことに閲する注意が必要である.
it みたがるプランクトン
以上にみてきたように,海洋生態系にとって本質的に重
小型でかつ細長い突起刺毛を備えて浮瀞適応している
要なことは限られた量の栄養塩をくり返し利用することで
珪藻の多くが,わざわざ沈降しやすい長大な群体を形成す
ある.そのためには,合成された有機物の分解すなわち栄
るということは矛盾しているようにみえる.これに対し
養塩の再生が表層で起こる必要がある.下層で再生された
て,珪藻類は運動力がないから,沈降することによって常
栄養塩は,その場では一次生産に役立たないからである.
に新鮮な水と接して栄養塩を摂取するのだと説明される.
表層での栄養塩の再生と再利用という機能が,概細な植物
浮遊性有孔虫類の鉛直分布をみると,平均房室数が深度と
プランクトンと小型な動物プランクトンとの緊密な関係に
逆相闘を示している.すなわち表面近くには大型個体が,
よって海洋の低次生産層に付与されていることが理解され
下層には小型個体が多い(Fig.4). この現象は,配偶子形成
た.このような姿を,海洋の低次生産系は再生生産系だと
が中深海層の暗黒下で起こり,接合子が成長しながら表層
表現する.
へ浮上するという生活史に伴う鉛直田被害のー断函として説
再生生産系ということは有機物の大部分が表層で分解
されていることを意味しているから,表層から深層への有
明されるぞfaniguchi 祖d Bé, 1985).
そのために,成熟した
有孔虫は自ら線を取り払って沈降をはかる (Bé, 1982). こう
機物(生物体)の沈降量は極めて少ないということになる.
いうときに,珪藻の殻や有孔虫の殻の比重が大きいことが
最初から述べてきたことがらも,植物プランクトンはもち
沈降の助けになるであろう.同様のことは放散虫について
ろんプランクトンフォーナも基本的には沈降しないように
も言えるのではないだろうか.
適応してきたことを示している.それが海洋生態系の,系
としての適応進化であったであろう.
多くの後生動物プランクトンにとっても昼間に下層へ
沈降することが有利だから,日局鉛直移動の生態が広汎に
さまざまな海域において総一次生産量に占める再生生
観察される.この生態は昔から研究者の注目を集め,実に
産量の割合を調べた例をみると,ほとんどの海域では S仏
多くの説明が試みられてきた.それらを通覧することはプ
95% の範囲にあることがわかる.沿岸湧昇流域ではこの値
ランクトンの浮務適応について考察する上で極めて興味深
は低くなり. 40-80% である(Fig.3). 南極海の優勢な湧昇
く,また思考力を高める上で重要な過程になるが,ここで
流域や,冬季の対流によって大量の栄養壇が系外から補給
は省略する.ここで強調したいことは,動物プランクトン
きれている北太平洋高緯度海域でも,この値は低い.再生
にとっても沈降することが必要なときがあるということで
生産以外の部分は主として沈降により表層から失われるか
ある.それゆえ動物プランクトンは,完全な浮渉力を獲得
ら,それに見合う量の栄養塩が新たに締結されているはず
することをむしろ避けて,沈む性質を保持することをは
海洋の環境とプランクトン
345
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(a食erT,卸iguchi 岨dBé, 1985).
かったのだと解釈することができる.
植物および動物プランクトンの中には,生活史の中に休
眠期を持つ種がかなりある.シストや休眠胞子等の休眠細.
その適応価値に関してはふたたび諸説があるが (0町ison,
1984) ,いま大切なことは,沈降する必要性がここにもある
ということである.
胞はふつう海底で休眠するから沈みやすくできており,浅
以上のことは,プランクトンは基本的には浮調書生活に適
海域でならば期待通りに機能する.しかし,環境条件が季
応していて沈降しにくいようにできてはいるが,ときには
節的な変動を示きない深海底では休眠が解除される機会は
沈降することを必要としているということを示している.
ないであろう.従って外洋域に分布するプランクトンは休
このときにも,しかし,分類群による選択性カ噛くととも
眠胞子を形成しないと予測されるが,実際にはベーリング
に,生活史のある特定のステージに対しでも選択圧が働く
海やオホーツク海,北部北太平洋に分布する珪藻類や繊毛
ことに留意しなければならない.
虫類には,休眠胞子やシストを形成する種は少なくない.
谷口旭
346
その他の沈降過程
おわりに
プランクトンが下層へ沈降する過程としては,有孔虫の
本文?では,プランクトン起源の堆積物や微化石の研究を
ような厚く.て重い殻を持ったものは例外として,浮瀞して
専攻している人々に対して,プランクトンの研究に携わる
いたときと同じ単体や通常の群体として沈降する過程はむ
立場から二つのことをお伝えすることを試みた.第一点
しろ小きい.もっと大きな沈降過程がある.そのひとつは,
は,海洋生態系は基本的に再生生産系であるから,有機物
動物プランクトンによる摂食と排ふん行動である.植食性
を表層から下層へ沈下きせないように作動しているという
動物プランクトンは植物プランクトンを摂食し,食べた有
ことである.その鍵を握っているのがプランクトンフォー
機物の約 30% を排ふんする(すなわち同化効率A=70%) と
ナであるから,その大部分は沈下しにくいと考えなければ
いわれている(Ikeda 叩dMo凶a, 1978).
このとき,速やか
ならない.それにもかかわらず,有機物の一部は下層へ沈
に詠ぎ去ることができない動物プランクトンは,ふんの方
降して中深海層や海底の生態系のエネルギー源になってい
が早〈沈降し去るように,未消化物をコンパクトに固めて
る.このことはあらゆる海域で起こってはいるものの,沈
滑らかな膜で包んで排出する.ぞれは通常の植物プランク
降する量や時期は海域によって異なっている.また詑降の
トンよりもはるかに急速に沈降する伺o吋0, 1976; 佐々木・
しやすさは,分類群やステージ 1こよって異なっている.
井関, 1989). 夜間表層で植物を摂食した動物プランクトン
従って沈降や堆積の過程には時空間的な選択力と分類群組
が昼間下層へ沈降してから排ふんしたときには;さらに急
成に関する選択力が働いているはずである.これがお伝え
速に深海系へ輸送されることになる.
したかった第二の点であった.
もうひとつの沈降過程は,植物プランクトンが集塊と
海洋表層においてもプランクトン群集の組成は変化し
なって沈む過程である.おそらく活性が低下したときには
つづけている.極めて規則的な季節変動ならば,今後の変
細胞内容物の一部が細胞外に浸出するために,その浸出物
化を予測することも,過去の変化を理論的に再現すること
あるいはその浸出物を基質として増殖したバクテリアが粘
も,さほど困難なことではない (M紅galef, 1
9
6
9
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着剤j の役割を果たすことによって,植物プランクトンの大
阻lham, 1977). しかし日本列島の束北沖合に拡がる広大な
きな集塊が生ずる.これは肉眼的な大きさのものであり,
海域のように,亜寒帯および亜熱帯起源の異水塊が収束し
植物が能動的に形成する群体とは異なるし,それよりもは
て複雑な海況を呈する海域においては,プランクトン群集
るかに大きくて沈みやすい.マリンスノーと呼ばれるもの
組成はめまぐるしい時空間変化を示す.この海域における
の一種である.有機物含量が高いマリンスノーにはバクテ
海洋学的環境条件の変化とプランクトン相の変化との対応
リアや原生動物が住みついていることが多いが,そのまま
関係を明らかにすることは,容易なことではない (Kato a
n
d
雪のように降下していく. M
arinesnow という語は故中谷
Taniguchi, 1
9
9
3
;C脳血g e
tal. , 1994). しかし一旦それに成功
字吉郎博士の教えを受けた人達の命名になる和製英語であ
すれば,プランクトン栂菱化の根跡から過去の海洋学的環
るが (Suzuki 岨d Ka
t
o
.1953),海洋学の分野では今や国際
境条件の変化を再現することが可能になる.そのようなと
語になっている.
単体や群体で沈むにしろ,ふんやマリンスノーとして沈
きにこそ,上記の第二点に関する慎重な配慮が必要になる
のであろう.
むにしろ,浮瀞生活に適応したプランクトンの一部が表層
プランクトン学の分野でも,比較的最近になって分類学
から下層へ沈降することは確かである.しかし,それらの
上の新発見がいくつかあった.分類体系の改訂,シノニム
全てが外洋域の海底まで届くわけではない.春季ブルーミ
関係の整理あるいは新種の記載等が相次いでいる.そんな
ング後に形成されるマリンスノーが大量に海底に堆積する
中で非常に大きな発見の一つは,原始緑藻類が世界の海洋
ことは,北部北大西洋の外洋減では明瞭に観察されている
に単細胞のプランクトンとして大量かつ普遍的に分布して
ιampitt, 1985). しかし,ふつうは沈降中に有機物の大部分
いるという発見である.これは,高等経物の起源について
は失われると考えられている.沈降中には中深海層に生活
研究している人達に対して,決定的な影響を与えている
する動物に摂食される割合も小さくはないのである.ほと
(谷口, 1
990;Lewin, 1993).
んどのものは,だから,少なくとも一回は動物プランクト
判らなかったシスト様細胞の培養実験ができるようにな
ンの消化液の洗礼を受けてから海底に到達するのである
り, excyst した栄養細胞によってその分類学的地位が明確
また,今までは何物であるか
(佐々木・井関, 1
989;
Lam
p
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te
tal. , 19卯').このことも,徴
になった倒もあるし(Kim卸dT:創泊iguchi, 1995),実はシスト
化石や堆積物の研究の際に念頭に置いておく方がよいであ
ではなく栄養細胞であったということが確認されたものも
ろう.
あった σ担増uchi e
tal., 1995).
これらのシスト様細胞は撤
化石に保存されていることが多いので,古生物学者にはお
347
海洋の環境とプランクトン
なじみのものである(Reid a
ndJohn, 1
9
7
8
)
.
以上のようなことをみてくると,今後は古生物学とプラ
ンクトン生物学との聞の情報交換を,さらに踏み込んで協
力研究を推進することが大切なのだという思いが強くな
る.
今般は思いがけなく古生物学会で愚見を披露する機会
を与えられ,真に幸運でありました.この度のご親切なア
レンジをして下さった大阪市立大学理学部八尾
昭先生な
らびに宇都宮大学農学部相田吉昭先生に感謝しつつ,拙稿
を終ります.
文猷
Bé , A.W.H. , 1982, Biologyo
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