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一期一会のホスピタリティーを どれだけ発揮できるかは “感性” を

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一期一会のホスピタリティーを どれだけ発揮できるかは “感性” を
連 載
第3回
「ホテルオークラアムステルダム」「ウエ
スティンホテル上海」「ANA ホテルズ&
リゾーツ」「ロイヤルホテル」など国内外
の著名なホテルで経営陣として活躍をし
てきた中矢英俊氏。現在は次世代をにな
う学生たちに、ホテルマンとしての経験、
実績を背景に教鞭を振るっている。中矢
英俊教授にこれからの学生に向けての
メッセージをお聞きした。
一期一会のホスピタリティーを
どれだけ発揮できるかは
“感性” を磨くための
人間力向上しかない
美術・映画鑑賞や読書など
自発的な情報収集を
福永 中矢教授は「ホテルオークラアム
ステルダム」や
「ウエスティンホテル上海」
など、名だたるホテルで実務や経営な
ど豊富な経験をお持ちです。ホテルマ
ンとして歩み続け、そして今は大学教
授の立場で次世代育成に向け貢献して
いらっしゃいます。まず始めに、ホテ
ルマンとして求められる人材について、
中矢教授はどのようにお考えですか。
中矢 ホテルマンにとって必要なことは
先ず“感性”です。感性はある意味、
無意識的、
直感的なものですのでマニュ
アルはありません。常に多方向にアン
テナを張り、多くの引き出しを持つこと
により、さまざまな人が訪れるホテルに
おいてそれぞれのお客さまにご満足い
ただける接客、対応が可能になります。
感性を磨くためには美術館に足を運ん
だり、映画を観たり本を読むなど自ら
が動いて情報収集することです。例え
ば東京の外資系ホテルを舞台にしたソ
フィア・コッポラ監督の「ロスト・イン・
トランスレーション(2003 年上映)」な
どもインバウンドゲストが急増している
中で、ぜひ観ていただきたい映画作品
ですね。ウィスキー CM 出演のために
来日したハリウッドスターと、ハネムーン
を兼ねて夫の東京出張に同行したもの
の、ホテルの中で昼間は退屈で孤独に
過ごすアメリカ人妻との出会いと互いの
淡い思いを描いたものですが、単なる
男女の恋物語ではなく、映画に映し出
されているバーや都内の日本食の店の
80
ー 2015.9.25 ー
㈱フェイス 代表取締役
神戸国際大学 経済学部 都市環境・観光学科 教授
レストラン・ゲストハウスのウエディングプランナー
から各現場の管理職としてマネジメントを担い、確
実に業績を伸ばしてきた。2003 年にウエディング
プランナー養成スクール講師をはじめ、06 年より大
学にて非常勤講師として教壇に立ち、現在も教鞭を
執っている。06 年堂島ホテル婚礼部長に就任、そ
の後 08 年同ホテル副総支配人に昇任。09 年には
㈱フェイスを設立し、代表取締役に就任。現在は、
ホテル・ゲストハウスを主に成約率向上を目的とした
トレーニングや集客戦略立案・実践支援などのコン
サルティングに加え、ウエディング全般にわたる支援
を行なっている。著書・ウエディングプランナーじゃ
ない、アカンのは上司や! 悩める管理職のアメムチ
19 の育成術
職歴:ホテルオークラアムステルダム 総支配人補佐、
ホテルオークラ神戸 営業企画課長、ウェスティンホ
テル上海
(上海太平洋大飯店有限公司)副社長、ウェ
スティンホテル大阪 取締役総支配人、ANA ホテル
ズ&リゾーツ 執行役員(沖縄地域本部 COO、本社
運営本部長、ストリングスホテル東京 常務取締役
総支配人 他)、㈱ロイヤルホテル 執行役員、日本ホ
スピタリティ推進協会認定「ホスピタリティ・コーディ
ネータ」
その他活動:NHK連続TV小説「純と愛」ホテル
考証(2012 ~ 2013)、神戸市 舞子ビラ事業継承
者選定委員会 委員(2012 ~ 2013)、神戸市 フルー
ツフラワーパーク事業者選考委員会 委員(2014)
シーンなど、情景、サービススタイルを
見て外国人が日本、そして国際都市と
形容されている東京でいかに戸惑って
いるかなど、視点を変えて見ることが
大切です。
福永 しかし今の世代はマニュアル世
代ですから、自分自身で何かを読み取
ろうとか、感じようという力が不足して
います。汗水流さなくてもスマートフォ
ンでおおよその答えや情報を得ること
ができますので感性を磨くために、わ
ざわざ自身で情報を取りに行かなくても
よい状況にあります。
福永有利子 氏
中矢英俊 氏
マナーやスキルを超えるものは
「心」しかない
中矢 外資系のホテルではマニュアル
が徹底されていますので、世界どこで
も均一なサービスが提供されます。マ
ナーやスキルという点では日本の一流ホ
テルも大差はありません。実務におけ
る即戦力という点では、インターンシッ
プなどで実務経験を持つ専門学校生
の方が人手不足のホテル側にとっては
役に立ちます。しかしながらマニュアル
を超えるものは「心」しかなく、一期一
会のホスピタリティーをどこまで発揮で
きるかは“感性”を磨くための人間力
向上しかないのです。最近は大学でも
即戦力化に重点を置いて専門学校化し
たような取組みを重視しているところも
増えています。もちろん、実務も大切
なことですが、それ以上に人間として
の基本的な姿勢やモラル、そしてホテ
ルマン、ホスピタリティー産業従事者と
して求められる資質、感性、向上心を
高めていくための教育が必要だと思い
ます。
福永 ウエディング業界でも、今、お
客さまが何を思い、どう感じているの
かを読み取れないプランナーが増えて
きました。私たちの時代は先輩の言動
を見よう見まねで覚えたり、経験を積
むことで自身のモノサシ作りをしてきま
した。ただただお客さまによろこんでい
ただきたいという一心で自然と行動して
いたように思います。もちろん、全てで
はありませんが、今の世代はさまざま
な環境の変化もあり、
なかなか私が育っ
てきた時代のように感動したり、感動
させられることへの喜びを自分自身で
見出せないプランナーも多いようです。
中矢 実際、20 歳そこそこの年齢でウ
エディングプランナーの仕事は重いこと
でしょう。
“華やかなイベント作りが面白
そう”という感覚でウエディングを選択
する学生もいて、何となくイメージで選
択しています。ところが実務としては描
いている楽しさとはほど遠い現実があ
ります。私は大学で
「ホテル・ブライダル・
セレモニーコース」を担当しており、ブ
ライダル実践論など模擬結婚式を行な
うような専門的な授業に加え、ウエディ
ングとは切り離せないホテル産業・ホス
ピタリティビジネスについて教えていま
す。また、観光全般に関する授業もコー
スにかかわらず取り入れ、幅広い知識
により視野を広げることで狭い発想や
考え方ではなく、幅広い、包括的、経
営的な視点に立った見方、考えができ
る人材育成に努めています。単にイベ
ントが好き! ぜったいブライダル! とい
う感覚から一歩成長させることにより、
次世代の業界に寄与できる人材を送り
込めると思うからです。
国際化、観光の視点で見る
ホテルの醍醐味
福永 一方向や感覚ではなく広い視野
や考え方、見方ができる人材を育成で
きるのは大学の強みであり、ポイントで
すね。しかしながら、ホテル業界もウ
エディング業界も人手不足の状況です。
願い送りだすという言葉です。つまり人
ウエディングに関しては専門学校の入学
を思う、思いやる「心」を持ち合わせ
状況を見る限り、まだまだ人気職種で
ている人であることが、未来永劫、ホ
多くの学生さんを集めていますが、ホ
テルマンに求められることなのです。
テルマンになりたい人は年々、減少して
福永 おっしゃる通りで“心のトレーニ
いるような気がします。長時間労働や
ング”が求められます。どんなに優秀
賃金の問題などほかの職種と比較して
で完璧に館内案内をしてもなかなか成
職場環境や待遇面があまり良く思って
約率が上がらないプランナーもいます。
いないようです。またかつてのように憧
その一方で知識も案内もおぼつかなく
れの対象となるようなホテルマンが少な
ても成約率の高いプランナーもいます。
くなったとも言われています。
その差はまさに“心”です。本当に一所
中矢 確かにかつては憧れとなるホテ
懸命に新郎新婦のために尽くしたい、
ルマンの存在がありましたね。しかし今
お手伝いをしたいという気持ちが相手
後はますます国際化が進展し、観光を
にも伝わるのだと思います。最後にホス
核に国や各地方自治体、そして民間企
ピタリティー産業にかかわるものとして、
業が連携し協業体制で臨むようになり
これだけはできなければいけない、備
ます。その中で欠かせない存在として
えていなければならないことを教えてく
ホテルが位置づけられ、単なる単体の
ださい。
ホテルとは異なる存在であることに興
中矢 ホスピタリティー産業にかかわら
味を抱くことで若者の関心度が高まって
ず、人として礼儀と「5S」が必要です。
くると思います。国内だけでなくインター
整理、整頓、清潔、しつけ、そして習
ナショナルな世界で働ける醍醐味もあり
慣づけです。今の時代、帽子をかぶっ
ます。当大学でも観光プロデュースで
たまま講義を受ける学生がいます。私
国内外の地域活性化にかかわる観光
振興プログラムなども実践しています。 は即座に注意をうながし帽子を取らせ
ます。帽子をかぶったままということは
観光という大きな視点でとらえることで
訪日外国人客を迎えるホテルの在り方 “教壇に立つ講師、つまり先生に対し
て敬意を表していない行動であること”
など、即戦力だけではない人材を輩出
することが可能となります。もちろん、 を教えます。ファッションや自己都合で
帽子をかぶっているのでしょうが、講義
観光に関係する仕事やホテルマンにな
を受ける姿勢としては許されないことで
るためにはまずは“人が好き”であるこ
す。礼儀にそぐわない言動の若者に対
とが第一です。そしてさらに求められる
して目をつぶらず、逃げずに大人である
のは、ホスピタリティーの精神を表す「歩
私たちがきちんと伝え、習慣づけさせ
みいる人に安らぎを、去り行く者に幸せ
ていくことが「躾」
、ますますグローバ
を」という一言が物語っています。こ
ル化に進む日本として、また VIP はじ
れはドイツ・ローデンブルクのシュピター
めさまざまな国の方を受け入れるホテル
ル門に刻まれた銘文です。到着する旅
として欠かせないことだと思います。
人をあたたかく迎え入れ、平穏無事を
ー 2015.9.25 ー
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