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フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営
3 <論 説> フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 ―経営の社会的性格をめぐって― 清 水 卓 はじめに する見方3、これらはフランスの歴史の特定の 段階における農業経営構造論というべきもので 本稿は、フランス・サントル地域圏の大規模 ある。 畑作経営の社会的性格について、主に2010年農 第二次大戦後についても、例えば、「二つの 業センサスの結果に基づき究明することを課題 農業」としてフランス農業問題を把握する視 とする。 点4、さらには、資本家的経営と小農民経営の フランスの農業経営の構造的特質については 併存を農業の資本主義化の適応的形態とする見 多くの研究業績がある。たとえば、地主、借地 方5などがある。いずれにせよ、農業経営構造 農、農業労働者への3階級分化を経たイギリス 論の焦点は、伝統的、生業的家族経営が、資本 との対比で、大革命後のフランスの農業経営構 主義経済の進展に適応し、どのような性格の農 造を「分割地農民」として特徴づける見方 1 が 業経営に形を変えていくかという点にある。 ある。さらに、「農地制度の二大タイプ―南方 今日でも、フランス農業経営の社会的経済的 タイプと北方タイプ―の共存が、わが国の農村 性格をどのように理解するかという課題は、経 生活の最も顕著な特性の一つである」とする見 済学にせよ、社会学にせよ、あるいは他の社会 方2、フランス北部とくに「パリ盆地の資本家 科学にせよ、基本的課題であり続けている6。 的大経営とその他の小農、過小農との併存」と 1 本稿では、フランス農業全般にかかわる農業 フランスの分割地農民論については巻末の参考資料を参照。 歴史的起源を踏まえた農業文明の地域的分布についての古典的業績としては、マルク・ブロック (1959)59頁。同書の90頁には、フランスにおいては、自然的条件と人類の歴史の双方に緊密な関係 をもっている農業文明の三つの大きな型を見分けることができる。)」として、①19世紀に至るまで 大部分の地方がそうであった「囲い込み地制度」②有輪犂と長形開放耕地、強い共同体規制を持つ 「北方型」、そして③無輪犂、二圃式輪作、弱い共同体規制の「南方型」を挙げている。 3 津守英夫(1965)では、 「典型的な資本家的大規模借地経営」が「資本家的色彩の濃い中小借地経営と 共に一定地域(主としてノール、パリ盆地一帯)に集中分化して存在」していると指摘している。他 方、農業史研究の立場から戦後の農業の農業構造の大変革をセンサス分析により論じた、遅塚忠躬 「戦後フランスにおける農業経営構造の変化」 『土地制度史学』、20頁では「現代フランス農業・土地 問題の最大の争点は、「過小農なきフランスへ、そしてまた資本家的経営と自立的中小経営との併存 へ、という形で解決されようとしている。」としている。もっとも、これらの資本家的大規模畑作借 地経営は「この地域での100ha以上経営の頭打ち傾向や農業労働者の一般的減少傾向からみて限定的 なものになるであろう」と指摘しているが。 4 ゴードン・ライト、杉崎真一訳『フランス農村革命― 20世紀の農民層』 、農林水産業生産性向上会議, (1965)。この革命では、伝統的農民層と近代化を夢見る若手農業者の対抗が主題であるが、その背 景には、パリ盆地の豊かな農業とそれ以外の貧しい農業という「二つの農業」の対抗図式が見て取れ る。 5 クロード・セルヴォラン(1972) 、本論文に関する解説としては、清水卓(1978)を参照。 6 エルビユー・ピュルセーグル(2013) 、戦後フランスの農村社会学の展開を踏まえ、現段階での課題 を提示する。 2 4 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 経営の「家族的性格」7および大経営の「資本主 1.土地所有と借地 義的性格」に焦点を合わせ、フランスの穀倉と 1)2010 年センサス いわれる当該地域圏の大規模畑作経営の現在の 2010年センサスでは、土地所有に関する調査 姿を明らかにしたい。紙数が限られているため、 項目は「土地に関するその他の情報の2.経営 分析は土地所有(借地関係を含む。以下同様) 耕地面積の土地所有形態」にまとめられている。 と農業就業構造に限定せざるを得ないことを予 その内容はいたってシンプルである。調査項目 8 めお断りしておく 。 番号201は「定額借地のうち、第三者からの借 なお、本稿で使われる用語の定義について簡 地」9、同じく202は「定額借地の内、法人社員 単に触れておこう。詳細は、大規模畑作経営の からの借地」であり、203は「自作地」、204は 多様性を論じた拙論(2014)を参照していただ 「分益(物納)小作地、205はその他の所有形態 きたい。 (暫定的借地など)である。 本稿では、フランスおよびEUの農業統計で また、理由は不明であるが2010年センサスで 用いられる営農類型分類のOTEX15経営を「穀 は、従来(例えば1970年センサス)公表されて 作経営」 (穀物・油糧作物・蛋白作物に特化し いたような自小作・小自作といったような複数 た経営)、OTEX16経営を「普通畑作経営」 (前 の所有形態を兼ねた経営体についてのデータは 者に、 工芸作物や露地野菜等を加えた畑作経 公表されていない。 また、 土地問題ついての 営)、OTEX61等を「有畜畑作経営」 (複合畑作・ 我々の関心は、農業経営と土地所有の分離がど 複合畜産経営)とし、 この3類型を合わせて の程度進んでいるか、そして地主の社会的性格 「大規模畑作」と規定する。同様に、経営耕地 の如何という点にある。しかし、この点につい 面積(surface agricole utilisée)を「経営面積」、 てフランスの2010年センサスは調査していない。 UTA(unité de travail annuel)を「年労働単位」 したがって従来と比較しても、2010年センサス とする。 では非常に簡単なデータを利用するに止まらざ 対象地域は、大規模畑作地帯であるパリ盆地 るをえないことを予めお断りしておきたい10。 の南西部に位置するサントル地域圏である。こ さて、2000年からの10年間にサントル地域圏 の地域圏の農業生産と大規模畑作経営の特徴に では経営耕地面積が237万haから231万haへと ついては清水(2014)を参照いただきたい。 2.3%減少した。1970年段階でのサントル地域圏 農業の土地所有状況を俯瞰すると、総経営耕地 7 巻末の参考資料に示した原田純孝氏の、現地調査を踏まえての、農地の相続制度を柱に農地所有・ 貸借の実態を詳細に分析し、戦後フランスの農業経営の家族的性格に光をあてた諸業績から学ぶと ころが多い。親子間賃貸借を含む家族的範囲での土地所有の継承についての論究は意義深い。 8 清水卓(2014)を参照。本稿と同様、2010年センサス結果をベースに、地域圏の農業および大規模畑 作経営における生産の多様性の解明を試みている。2010年センサスの用語法や大規模畑作の営農類 型分類を解説しており、本稿ではそうした共通部分を省略あるいは簡略に表現している。 9「第三者からの借地」には家族・親族からの借地が相当含まれている。原田純孝(1986)参照。 10 土地所有に関する詳細な調査は1970年、1980年に行われた。詳細は原田純孝(1986)の(一)131頁、 (二)177頁を参照。 11 1944年のエール・エ・ロワール県における土地所有状況をみると、自作地面積は15万2250ha、定額借 地が33万5500ha、その他が1550haであった(Monographies Agricoles Départementales, 28, L’Eure-et Loir, Ministére de l’Agriculture, La Documentation Française, 1956, p26) 。すなわち、第二次大戦末 期には、自作地率は当該県ではすでに31%と相当低い水準であった。遅塚忠躬(1963)67頁によると、 1955年センサスで小作地率が全国最高は本県であり78.6%であったとされる。論理的には、自作地率 は21.4%ということになる。その後、1970年センサスでは30.2%であり、1955年センサス結果との整合 性に問題が残る。1970年センサス結果を信頼するなら、 「静かな革命」といわれた1950年代からの経 営構造変化の中で、自作地率はほとんど変化していなかったといえる。その後、自作地率は2000年に 24.4%、2010年には12.7%まで急速に低下したのである。ちなみに、サントル地域圏全体では、1970年 の自作地率は41.3%であり、2000年は28%、2010年には13%と、これも急激に低下した。 5 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 第 1 表 大規模畑作経営の土地所有(借地)形態 年 穀作 普通畑作 全営農類型 2010 第三者からの借地 860,952 穀作 1,449,469 普通畑作 65% 67% 65% 法人社員からの借地 285,393 50,623 473,714 21% 24% 21% 自作地 175,955 16,755 296,963 13% 8% 13% 分益小作 686 その他の所有形態 合計 2000 140,074 単位:ha 全営農類型 ― 1,475 0% 11,374 1% 0% 1% 208,369 2,232,996 100% 100% 100% 93,998 1,176,798 53% 55% 52% 8,055 918 1,331,043 695,806 第三者からの借地 ― 0% 法人社員からの借地 249,230 41,244 437,794 19% 24% 19% 自作地 373,903 35,609 644,758 28% 21% 28% 分益小作 ― 0 0% 0% 0% その他の所有形態 合計 ― 2,309 431 6,428 0% 0% 0% 1,321,249 171,281 2,265,778 100% 100% 100% 出所)AGRESTE Centre,RA.Thématique_grandes_culture-FICH-120208.cle0a8596 面 積 は263万haで、2010年 の231万haと 比 較 し の自作地面積は、10年間に28%から13%へ、普 て、32万haも広かった。 この40数年間、 市街 通畑作経営では21%から8%へ減少した。 全て 化や公共用地(道路など)による浸食とともに、 の経営体でみると、28%から13%へ減少した。 地域圏内の農業条件の悪い地区で耕作放棄が進 地域圏のこうした自作地面積比率の急激な減少 んできた結果である。第二次大戦後、地域圏農 傾向は長期の歴史的趨勢の延長線上にあるが、 業はボースが代表する優等地での大規模畑作へ この10年間の自作地率の低下は異常な激しさで の専門化と経営規模拡大をすすめてきた。1970 あった。サントル地域圏を含むフランス北部地 年 時 点 で、 す で に 自 作 地 面 積 は40%程 度 で、 域におけるこうした自作地率の低さは、EU諸 60%近くは借地面積(以下、定額借地以外の借 国の中でも際立っている12。 地面積はほぼゼロに等しいので、必要な場合を ≪定額借地≫ 除き、定額借地を借地と表現する)であり、さ 定額借地面積の内、法人社員からの借地、第 らに、ここ40数間年で経営面積の内、自作地面 三者からの借地を区別してみると、2010年にお 積は13%へと減少、 借地面積は86%へ増加し、 いては、経営体全体では、前者が21%、後者が 現状の借地経営(あるいは面積)の圧倒的存在 65%であり、大半は第三者からの借地である。 11 が構造化されてきたのである 。 また、 この第三者からの借地面積は10年間に 22%増加し、法人社員からの借地面積の増加率 2)大規模畑作部門の中・大経営の土地所有形態 ≪自作地≫ 第1表によると、サントル地域圏の穀作経営 12 9%に比べ大幅である13。 10年間に、一方では自作地は34.8万ha減少し たが、他方では第三者からの借地が27.3万ha、 EU諸国の借地率をみると、スロヴァキア(89%)、チェコ(83%)、ブルガリア(79%)に次いで第4位 がフランス(74%)、次いでベルギー(67%)、ドイツ(62%)が上位にあり、オランダ(41%)、イング ランド(40%)、デンマーク(34%)が中位グループ、ルーマニア(17%)、アイルランド(18%)、ポー ラ ン ド(20%)が 下 位 グ ル ー プ に 位 置 す る。 Scottish Agricultural Tenure Evidence Review Scottish Government http://www.scotland.gov.uk/Publications/2014/06/9792/7(2014.11.05) フランスでは北半分で高率であり、南西部、中央山岳地域、プロヴァンスではやや低い。 なお、グレートブリテンでは、1908年には借地率が88%であったが1994年の35%まで傾向的に低下 している。Agricultural Tenancy Reform: The End of Law; or a New Popular Culture?,1997。 (原 資料はイギリス農務省)http://centaur.reading.ac.uk/27221/1/0397.pdf 6 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 第 2 表 総経営数および自作地を有する大規模畑作経営の構成(2010 年)(1) 営農類型 経済規模 全類型の経営体数 総数 (a) 穀作 有畜畑作 (c) 総数 自作経営 (個人 個人経営の 体比率 経営) 自作比率 純借地経営 法人 経営 小計 (個人 (法人 経営) 経営) (d) (d/a) (e) (e/b) (d-e) (f) (b-e) (f-b+e) 小経営 2,504 2,330 174 1,924 77% 1,860 80% 64 580 470 110 中経営 4,106 3,104 1,002 2,610 64% 2,486 80% 124 1,496 618 878 大経営 5,260 2,002 3,258 1,948 37% 1,620 81% 328 3,312 362 2,950 11,870 7,436 4,434 6,482 55% 5,966 80% 516 5,388 1,450 3,938 小経営 512 465 47 400 78% 387 83% 13 112 78 34 中経営 264 186 78 156 59% 152 82% 4 108 34 74 大経営 1,275 475 800 390 31% 354 75% 36 885 121 764 小計 2,051 1,126 925 946 46% 893 79% 53 1,105 233 872 小経営 960 929 31 681 71% 672 72% 9 279 257 22 中経営 803 670 133 555 69% 533 80% 22 248 137 111 大経営 1,576 533 1,043 591 38% 460 86% 131 985 73 912 3,339 2,132 1,207 1,827 55% 1,665 78% 162 1,512 467 1,045 17,260 10,694 6,586 9,255 54% 8,524 80% 731 8,005 2,150 5,855 小計 普通畑作 (個人 (法人 経営) 経営) (b) 単位:実数 自作地を有する経営 小計 合計 出所)2010 年センサス (1)法人経営には、農業共同経営集団 GAEC、有限責任農業経営 EARL、その他の法人(酪農民事会社 SCL、 農業経営民事会社 SCEA、有限会社、株式会社、協同組合、その他を含む。) 法人社員からの借地が3.6万ha増加した。それ の経済規模と個人および法人経営に区分し、土 らを含め総経営面積は3.3万ha減少した。 地所有形態との関連を表している。 なお、面積規模でみると、分益小作はほとん ど無視できるほどの存在である14。 サントル地域圏の大規模畑作経営体総数1万 7260戸に対し、自作地を有する経営体の総数は 大規模畑作の営農類型別に土地所有形態別の 54%の9255戸であることから、自作地を全く持 面積比をみると、両営農類型ともに自作地比率 たない経営体が46%の8005戸で、ほぼ半数に達 はこの10年間に大きく低下しているが、普通畑 することが分かる。自作経営体比率(自作地を 作経営が穀作経営よりも借地依存が僅かに高い。 持つ経営体の割合)を営農類型別にみると、穀 別のセンサスデータによると、有畜畑作経営で 作経営では55%、普通畑作経営では46%、有畜 は2010年の自作地面積比率が14%であり、前2 畑作経営では55%となり、普通畑作経営では自 者より僅かに高いものの、大きな違いはない。 作地を全く有しない経営体が過半である。 以上、サントル地域圏では、自作地面積の減 少傾向が続き、借地依存が非常に高まった。 小、中、大経営と3区分した経済規模との関 連では、いずれの営農類型においても小経営で は自作地経営比率が最も高く、大経営では最も 3)経済規模・経営の法的地位と土地所有形態 第2表は、大規模畑作部門の経営体を3階層 13 低い。 個人経営の自作経営体比率をみると、大規模 自作地率の低下は長期趨勢であるとしても、とりわけ、ここ10年間の激減には注目すべきであろう。 それには何かしら特別な理由が働いているとみるべきである。まずは、自作経営の減少、個人経営 の減少と経営体の法人化が考えられるが、法人内での土地所有の移転は市場取引ではないので、そ の 実 態 は 不 透 明 で あ る こ と が 問 題 と さ れ て い る。Qui, demain, possédera le foncier agricole, Paysans, n340, 2013, pp.29-34) 14 なお、分益小作を行っている経営体の数は222戸にとどまり、その内、170戸はブドウ栽培の大経営 である。大規模畑作部門では僅かに6戸である。(2010年)。 7 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 第 3 表 大規模畑作経営の土地所有形態と経営耕地面積(2010 年)(1) 全経営面積 営農類型 経済規模 総計 普通畑作 有畜畑作 純借地経営 (個人 (法人 自作地 自作面 (個人 個人経営 法人経営 経営) 経営) 面積総計 積比率 経営) の割合 の自作地 (a) 穀作 単位:ha 自作地を有する経営 小計 (個人 (法人 経営) 経営) (b) (c) (d)(d/a) (e)(e/d) (d-e) (a-d) 小経営 35,707 30,874 4,833 18,588 52% 17,231 93% 1,357 17,119 13,643 3,476 中経営 330,906 240,674 90,232 79,065 24% 76,926 97% 2,139 251,841 163,748 88,093 大経営 1,000,136 325,582 674,554 96,890 10% 76,551 79% 20,339 903,246 249,031 654,215 小計 1,366,749 597,130 769,619 194,543 14% 170,708 88% 23,835 1,172,206 426,422 745,784 小経営 8,495 5,783 2,712 3,649 43% 3,516 96% 133 4,846 2,267 2,579 中経営 14,771 9,841 4,930 2,811 19% 2,634 94% 177 11,960 7,207 4,753 大経営 193,619 62,776 130,843 13,943 7% 12,185 87% 1,758 179,676 50,591 129,085 小計 216,885 78,400 138,485 20,403 9% 18,335 90% 2,068 196,482 60,065 136,417 小経営 9,091 8,386 705 5,396 59% 5,242 97% 154 3,695 3,144 551 中経営 58,159 47,247 10,912 15,367 26% 14,652 95% 715 42,792 32,595 10,197 大経営 268,398 70,640 197,758 25,309 9% 19,257 76% 6,052 243,089 51,383 191,706 126,273 209,375 46,072 14% 39,151 85% 6,921 289,576 87,122 202,454 801,803 1,117,479 261,018 11% 228,194 87% 小計 合計 335,648 1,919,282 32,824 1,658,264 573,609 1,084,655 出所)同上 (1)同上 畑作の三つの営農類型を通じて、おおむねその まず、穀作経営の小経営では自作面積比率が 80%が自作地を有している。しかし、規模の大 52%、中経営では24%、大経営では10%である。 きな経営体ほど自作地率が低下するとの通念と しかし、 自作地の実面積をみると、 小経営が は異なり、有畜畑作経営の大経営の自作経営体 1万8588ha、 中経営が7万9065ha、 大経営が 比率(86%)が小経営(72%)よりも自作地率が 9万6890haである。 中経営の自作面積が小経 高く、自作地を確保している規模の大きな個人 営のそれより小さい普通畑作経営を例外として、 経営体の存在を表している。対照的なのが、普 大規模畑作3営農類型に共通し、純借地経営を 通畑作経営の大経営で同比率は75%に止まる。 除き、自作地をある程度確保する大経営が存在 大規模畑作部門の個人経営では、自作経営の 比率が高いことが分かったが、法人経営の土地 していることに留意しておこう。 第4表により、一戸あたりの自作地面積も法 所有にはどのような特徴があるだろうか。まず、 人経営の方が個人経営よりも大きい(例外は、 自作地を全く持たない法人経営は5855戸存在し 穀作経営の中経営のみ)。自作地面積の集積の て、法人経営総数の6586戸の実に89%は純借地 面ですらこうした格差があるのだから、借地依 経営である。 これを個人経営についてみると 存の強い大経営と自作依存の強い小経営では、 20%であり、個人経営と法人経営では全く対照 一戸当たりの経営耕地面積の格差は歴然として 的である。 いる。 4)経営体の経済規模と土地所有面積 経営が最大の190ha、 次いで有畜畑作経営で 一戸当たりの経営面積の規模をみると、穀作 経済規模が小さな経営ほど自作地経営の比率 が高く、経済規模が大きいほど借地経営の割合 170ha、 普 通 畑 作 経 営 が152haと な っ て い る。 この順位は、個人経営も法人経営も違いはない。 が大きくなることを上で確認した。この事実を 以上の検討から、サントル地域圏の大規模畑 経営耕地面積の面から確認していこう。(第3 作では、長年にわたる借地による規模拡大過程 表) を経て、自作地+借地または純借地による大経 8 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 第 4 表 経営体の平均経営(1) 単位:ha 平均経営面積 経営類型 穀作 普通畑作 有畜畑作 経済規模 平均自作地面積 平均面積 個人経営 法人経営 平均面積 個人経営 法人経営 小経営 14 13 28 10 9 21 中経営 81 78 90 30 31 17 大経営 190 164 206 50 47 62 小経営 17 12 58 9 9 10 中経営 56 53 63 18 17 44 大経営 152 132 164 36 34 49 小経営 9 9 23 8 8 17 中経営 72 71 82 28 27 33 大経営 170 133 190 43 42 46 111 75 170 28 27 45 合計 出所)2010 年センサス (1)自作地を有する経営体のみ 営への経営面積の集中が非常に高度な段階に達 かし、個人経営においても、自作地面積よりも したことが確認された。そうした大経営の内、 第三者からの借地面積の方がはるかに大きい。 37%は個人経営であり、63%は法人経営である 営農類型により異なるが、 自作地は19%から (第2表)。 27%の範囲であり、第三者からの借地は73%か 最後に、大規模畑作経営部門の平均14ha(そ ら81%の範囲にある(第5表参照)。 個人経営 の内自作地は10ha)程度の小経営はどのような では定義上、法人内借地はあり得ないので、必 性格の経営なのだろうか。この程度の面積規模 然的に第三者からの借地率が高くなるのである。 での大規模畑作(定義上、集約的園芸などは除 経営の経済規模に比例して自作地率は低くなる 外されている)による農産物販売収入だけでは が、第3表によると、三つの営農類型を合わせ 生計を維持できないだろう。年金収入、兼業な た大規模畑作の大経営においては、個人経営で どがあって初めて成り立つ経営体であることは は自作地率が24%であり、法人経営の3 %と比 推測に難くない。こうした経営体については後 べてはるかに高い。 に兼業の項で取り上げることにしたい。 農業共同経営集団、経営主一人の有限責任農 業経営および複数の経営主からなる有限責任農 5)経営の法的地位と土地所有・借地 業経営では、自作地の割合が1 %から3.4%、第 現在のフランス法制の下で、農業経営体の法 三者からの借地では62%から73%、法人内借地 的地位は種々存在する。ここでは、センサスの では24%から36.5%の範囲にあり、 構成比はほ 分類法に即して、個人経営、農業共同経営集団 ぼ似通っている。 (groupement agricole d’exploitation en それに対して、「その他の法人」では、法人 commun を指し、以下表記の通りとする))、 内借地の割合が高く、穀作経営ではその割合は 経営主一人の有限責任農業経営(exploitation 50%に達する。また前三者に比べて、自作地率 agricole à responsabilié limitée を指し、以下、 がやや高いのが特徴的である。法人経営におけ 表記の通りとする)、複数の経営主からなる有 る自作地は、法人所有の土地ということだから、 限責任農業経営、その他の法人経営に区分して、 法人内借地の割合の大きさと相俟って、安定的 土地所有と借地の特徴を明らかにしてみよう。 まず、個人経営であるが、法人経営体と比べ ると自作地依存が強いことは先に確認した。し な自己資産を有するということはできるだろう。 「その他の法人経営」には、酪農民事会社SCL、 その他民事会社SCEA、商事会社または協同組 9 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 第 5 表 営農類型・法的地位別土地所有(2010 年)(1) 合計 自作地 個人経営 96890 76551 単位;ha 有限責任農業経営 有限責任農業経営 農業共同 経営集団 経営主 一人 2857 その他の 農業共同 個人経営 複数 法人経営 経営集団 経営主 経営主 一人 その他の 複数 法人経営 経営主 6835 3355 7292 23.5% 3.4% 2.8% 2.3% 3.7% 647262 248297 52746 162481 91875 91864 76.3% 63.5% 66.4% 63.2% 46.3% 法人内定額借地 249137 27411 73617 48665 99444 ― 33.0% 30.1% 33.5% 50.1% 穀作経営 第三者から定額借地 分益小作 一時的借地 小計 普通畑作経営 自作地 第三者から定額借地 567 567 ― ― ― ― 0.2% ― ― ― ― 6280 168 s 1636 1541 s 0.1% s 0.7% 1.1% s 1000136 325583 13943 12185 130329 50577 法人内定額借地 48530 分益小作 ― 一時的借地 小計 有畜畑作経営 自作地 第三者から定額借地 ― ― 817 14 678 336 566 19.4% 1.2% 1.3% 1.0% 2.1% 9647 33610 21461 15034 80.6% 66.2% 62.2% 63.3% 54.5% 4745 19715 12090 11980 0.0% 32.6% 36.5% 35.7% 43.4% ― ― ― ― ― ― ― ― ― s s 0.0% s 0.3% s s s 180 62776 14571 54003 33887 25309 19257 2235 1086 1101 1631 27.3% 2.9% 2.6% 2.3% 6.5% 177751 51214 49711 29101 35451 12274 72.5% 65.1% 70.0% 73.1% 49.1% 24383 11386 11664 10953 ― 31.9% 27.4% 24.0% 43.8% 6385 ― 分益小作 s s 小計 179 193619 法人内定額借地 一時的借地 83014 244569 145436 198600 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% s 945 165 210390 70636 s 76329 s s 41573 ― 27580 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% s 299 48515 145 s s s ― s 0.2% s s 0.6% 0.6% 25003 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 100.0% 出所)2010 年センサス (1)表中の「s」は非公表データ 合、事実上の集団(共同輪作会社を除く) 、そ では、大規模畑作経営部門では、①自作地依存 の他法人が含まれるが、こうした形の経営でこ の強い個人経営の中・小経営が分厚く存在する そ、農業共同経営集団や有限責任農業経営に比 だけではなく、②大経営においても相当な自作 べて農民的・個人的土地所有と経営の分離が進 地面積を有する経営体が存在し、③法人経営に んでいると言えるだろう。 おいても構成員からの借地が20%強を占め、④ 「10年間に、 大規模畑作専業(穀作+普通畑 家族や親族からの借地を含む「第三者からの借 作)経営の自作地は40万9500haから19万2700ha 地」の存在が示唆するように、農地所有は依然 へと50%強縮小した。こうした傾向は、規模拡 として農業者と密接な繋がりを有していると言 大が進む経営構造の変化と、同時に、10年間に えるのである。 約4分の1近くの経営が消滅したことに原因が なお、フランスにおいては農地の売買、賃貸 ある。土地はますます直接生産者である農業者 借あるいは土地利用について強い公的規制がか 15 のものではなくなってきた。」 こうした評価を的外れとは言えないだろう。 かっている。こうした農地管理制度とその運用 実態については立ち入った検討が必要である。 確かに、これまでの分析からは、個人経営の減 少、規模拡大、農企業の法人化、借地依存の拡 大という構造変化が確認された。しかし、他方 15 Centre AGRESTE Analyse et Résultats, n2012AR60 dec.2012 http://www.agreste.agriculture. gouv.fr/IMG/pdf/r2412a34.pdf 10 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 2.農業就業構造 1)地域圏の農業就業構造 2010年センサスは、 この10年間の経営数の その他草食家畜経営においてである。」17 ≪経営主の兼業≫18 経営体総数の30%に当たる経営体では7500人 24%減少、常時就業者(家族、非家族員を含む) の経営主が複数就業(兼業)している。この割 数の27%減少を明らかにした16。このように農 合は2000年からほとんど変わらない。これらの 業経営が激減する中で、農業従事者にはどのよ 経営主の3分の2は農業以外を主な就業先とし うな変化があったのだろうか。まずは、地域圏 ている(多くは事務労働者、年金受給者) 、そ 全般の農業経営について概観してみよう。 して、農業活動は第二義的就業でしかない。こ ≪経営主および共同経営主≫ れら複数就業経営主は、大規模畑作部門の小経 第6表によれば、サントル地域圏の農業経営 営で最も多くみられる。 全体の投入労働量(年労働単位UTAで表示さ ≪配偶者≫19 れる)の主たる担い手は経営主および共同経営 共同経営主ではない配偶者が投入労働量に占 主であり、2000年からの10年間、その割合がや める割合は11%から6 %へと大幅に減少した。 や増加して2010年には経営体における総投入労 働量の59%になった。 ところで、共同経営主にはどのような立場の 「完全就業の4分の1未満しか就業しない配偶 者の割合が増加した。」 「その60%近くが事務労 働者あるいは中間的職業(教師、看護師など) 人がなるのだろうか。投入労働量に照らしてみ に就く。同様に、年金受給者、家事手伝いもみ ると、第一には経営主の配偶者がいる。その投 られる。配偶者全体の中で、農業従事しない配 入労働量は全ての営農類型を合わせて、2000年 偶者は労働力をあまり要しない小経営に多くみ の1261単位から2010年の1364単位に増加した。 られる」。 第二には、配偶者以外の親戚であり、それは法 自家就業する配偶者8106人がいるが、そこで 人経営が親戚関係の中で設立されていることを 完全就業する者は11%で、この比率は2000年と 示している。その投入労働量は同期間に2869単 同 様 で あ る。 経 営 で 就 業 す る 配 偶 者 の30% 位から2481単位に僅かに減少したが、配偶者よ (2412人)が、協力配偶者という法的地位を有 りも大きな役割を果たしている。第三には、親 し、22%が経営体のアソシエ(社員)であり、 戚以外の者であり、同じ期間に196単位から222 7 %が賃労働者であるが、40%強は農業者とし 単位へとやや増加したが、絶対的な労働量とし ての法的地位を有していない。なお、経営主の ては非常に僅かである。以上のような共同経営 配偶者の56%は経営体の仕事をしていない。 主の構成は、法人経営が主に親戚関係の中で形 ≪経営主と配偶者を除く家族従事者≫ 成されていることを示している。 経営主と配偶者を除く家族員の農業就業は3 なお、「女性経営主は4900人で地域圏の経営 %から2 %に低下した。センサスの公表データ 主の20%を占める。この割合は2000年と同程度 が明らかにしているのは家族員の中の農業従事 である。女性は小経営に多く、大経営では少な 者である。経営主、その配偶者、経営主の親を い。女性経営主の分布は、大経営で26%、中経 除くその他の農業就業者はマージナルな存在で 営で30%、 小経営で44%の割合である。」 「女性 ある。なぜなら、就労する場合は何らかの法的 経営主が比較的に多くみられるのは、畜産専門 地位を持つようになり、常雇(2010年は1074年 経営、とりわけ、羊・山羊あるいは、牛および 労働単位)や共同経営主、法人経営の社員とし 16 2010年センサスでは、総投入労働量(UTA)=「常時就業者」の労働量+「季節雇」と「農業機械利用 協同組合と農作業請負企業」の労働量、とされている。 17 Agreste Centre, Analyse et Résultats, numéro 2012AR05, février 2012, p5 18 同上、p 3参照 19 同上、p 4参照 11 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 第 6 表 営農類型別の就業構成(1) 使用する経営数 経営との関係 常時就業者 年 全経 営体 投入労働量(UTA) 大規模畑作 穀作 2000 33035 13499 一経営当たりの投入労働量(UTA) 大規模畑作 全経 営体 普通 畑作 有畜 畑作 1974 5670 43261 14776 穀作 普通 畑作 有畜 畑作 2734 7541 全経 構成比 穀作 営体 1.31 90.00% 1.09 普通 畑作 1.39 有畜 畑作 1.33 2010 25081 11870 2051 3339 33631 12057 2585 5032 1.34 89.10% 1.02 1.26 1.51 (経営主または筆頭共同 2000 33050 13499 経営主) 2010 25081 11870 1974 5670 22975 9767 1512 3953 0.70 47.80% 0.72 0.77 0.70 2051 3339 18231 8382 1503 2583 0.73 48.30% 0.71 0.73 0.77 0.92 2000 1557 584 95 354 1261 405 63 324 0.81 2.60% 0.69 0.66 2010 1935 751 158 312 1364 412 75 267 0.70 3.60% 0.55 0.47 0.86 2000 2861 1095 190 609 2869 920 170 699 1.00 6.00% 0.84 0.89 1.15 2010 2753 1139 232 530 2481 817 162 589 0.90 6.60% 0.72 0.70 1.11 2000 227 62 16 47 196 37 13 54 0.86 0.40% 0.60 0.81 1.15 2010 263 86 17 54 222 53 12 57 0.84 0.60% 0.62 0.71 1.06 (経営で就労する配偶者 ; 2000 11030 共同経営主を除く) 2010 6076 3903 738 2090 5083 1420 303 1094 0.46 10.60% 0.36 0.41 0.52 2388 533 983 2362 696 165 446 0.39 6.30% 0.29 0.31 0.45 (経営で就労する親 ; 共 2000 同経営主を除く) 2010 3296 1118 207 693 1661 453 93 382 0.50 3.50% 0.41 0.45 0.55 1718 744 119 265 759 249 47 137 0.44 2.00% 0.33 0.39 0.52 (経営で就労する他の家 2000 族員) 2010 46 5 S 10 20 2 S 4 0.43 0.00% 0.40 s 0.40 97 32 7 8 23 6 1 1 0.24 0.10% 0.19 0.14 0.13 2000 5003 1755 404 652 9195 1773 580 1030 1.84 19.10% 1.01 1.44 1.58 2010 4490 1503 454 596 8189 1443 621 953 1.82 21.70% 0.96 1.37 1.60 2000 8669 2647 703 1469 4451 593 526 420 0.51 9.30% 0.22 0.75 0.29 2010 7201 2872 786 904 3536 555 391 502 0.49 9.40% 0.19 0.50 0.56 2000 13755 5732 1129 2544 351 181 33 42 0.03 0.70% 0.03 0.03 0.02 593 (配偶者の共同経営主) (その他親戚の共同経営主) (親戚以外の共同経営主) (家族以外の常雇) 季節雇 ETA・CUMA 総投入労働量 2010 11087 5486 1022 1607 352 72 49 0.05 1.60% 0.06 0.07 0.03 2000 ― ― ― ― 48063 15550 3293 8003 ― 100% ― ― ― 2010 ― ― ― ― 37760 12964 3048 5583 ― 100% ― ― ― 出所)2010 年センサス DISAR (1)s は非公表データ、総投入労働量=(常時就業者+季節雇+ ETA・CUMA)の投入労働量、1 年労働単位 UTA は、 229 労働日、年間 1607 時間労働に相当 てとして地位を得るからである。 たことを反映している。総投入労働量における ≪雇用労働≫ 常雇いの割合は、10年間に19.1%から21.7%へ増 第6表のとおり、常雇いの労働量はこの10年 加した。また、季節雇、臨時雇いの割合は同じ 間に9195単位から8189単位へと減少したものの く9.3%から9.4%へと微増した。「常雇と季節雇 減少率は11%に止まり、経営体での投入労働量 の割合は、ロワレ県、シェール県、アンドル・ において、家族従事者に対して相対的に増加し エ・ロワール県で大きいが、それは労働力を要 た。季節労働者・臨時雇の労働量は4451単位か するブドウ栽培、果樹、園芸の存在によるもの ら3536単位へと21%の大幅減少をみた。 なお、 である。」 常時就業者全体では、投入労働量は22%の減少 であった。 このように、常雇の就労は他の集団に比べて 「常雇の人数は、営農類型では、園芸―果樹 (25%)大規模畑作(25%)、 ブドウ栽培(21%) に多い。4人のうち3人は、比較的若い男性で、 安定的である。それは、農業生産技術の高度化 その30%は30歳未満、 半数以上が40歳未満で により専門的技術者としての常雇が増加してき ある。 12 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 983人 の 常 雇 が 雇 用 者 集 団(groupement かった。しかし、近年の機械装備の大型化、技 d’employeurs、アソシエーション契約に関する 術装備の高度化に伴う価格上昇は大規模畑作経 1901年法に基づく非営利組合―筆者)により雇 営にとっても重荷となっており、経営コスト削 用され、彼らは主に営農類型では大規模畑作と 減という観点から、そうした機材の外部依存、 園芸―花卉で就業している。」20 つまり農作業の外部委託が増加する傾向にある ≪農業機械利用協同組合(CUMA)・農作業 請負企業(ETA)≫ 点では他地域と変わりはない21。 ≪就農と若手経営主≫22 農業経営の規模拡大の伸展により、営農指導 サントル地域圏には経営主年齢が50歳以上の は言うに及ばず、行政事務、会計や生産管理の 経営が1万5234存在する。その38%では後継者 ための情報処理、衛生管理のための獣医、衛生 が決まっている。全国平均でその割合は33%で 機関等、外部機関の利用がますます必要となる。 あるから、サントル地域圏はある程度後継者を これらの業務が、経営のパフォーマンスを左右 確保している地域圏であるといえる。この後継 する大きな要素となっている。農業経営を維持 者の内訳は26%が共同経営主、 6 %が家族員、 するうえでのこれらの業務の外部依存をどのよ 5 %がその他である。後継者が決まっていない うに評価すべきかについては「農業経営の社会 経営の割合は62%、その現況は後継者の未定が 的性格」を論じる上で重要な論点だが、ここで 52%、後継者不在が10%である。 立ち入る余裕はない。 経営主年齢が50歳以上で、後継者が未定ない ところで、センサスでは農作業の外部化の動 し不在の経営は9609経営存在し、これらの経営 きを、農業機械利用協同組合・農作業請負企業 は67万1000ha、 つまり地域圏全体の経営面積 の面から把握している。 の29%を占める。その平均経営面積は70haであ サントル地域圏での農作業時間を年労働単位 り、 地域圏平均の94haよりも小さい。 営農類 でみた場合、2010年までの10年間、農業機械利 型としては野菜・園芸、果実、羊・ヤギ飼養経 用協同組合・農作業請負企業の作業時間は実に 営が多い。自作地率は21%と地域圏平均よりも 69%増加したけれども、その貢献度は非常に低 高く、法的地位では個人経営の割合が73%であ いようにみえる(第6表) 。とはいえ、先端技 り、地域圏平均の63%よりも高い。 術を装備した大型機械を使用しての作業は、作 2010年センサスでは、40歳未満の経営主と共 業効率がそれだけ高い訳で、作業密度の相違を 同経営主は6153人いたが、その内の55%は就農 無視して、種々の作業を同じ作業時間で評価す 給付金を取得しての就農であった。その割合が ることが適切であるとは思われない。 最も小さいのはロワレ県の50%であり、 エー ともあれ、現実には、この地域圏の大規模畑 ル・エ・ロワール県、ロワール・エ・シェール 作経営の上層農家は、畑作に必要な農作業が時 県は57%、 アンドル県は59%で最高であった。 期的に集中し、機材を共同利用することが困難 若手就農者の内、給付金受給者の割合は、1997 であることから、機材、設備の自家所有を基本 年に最高の73%を記録してからほぼ一貫して低 としてきたのであり、そのため、農業機械利用 下し、2010年には4割程度に落ち込んでいる。 協同組合はこの大規模畑作地帯では普及率が低 40歳未満の経営主および共同経営主を有する 20 同上、p 3参照 外 部 依 存 に つ い て はINSEEの 研 究 を 参 照。INSEE, INSEE PREMIERE, Bernard Chevalie, Les agriculteurs recourent de plus en plus à des prestataires de services, no1160 ― octobre 2007を参 照。本論文によると、2005年には全国レベルで穀作経営の68%が農業機械利用協同組合と農作業請 負企業を利用し、利用日数は年6.4日であり、普通畑作経営ではそれぞれ81%、8.2日、有畜畑作経営 では67%、5.2日であるとしている。なお、農業経営の実質がETAに委ねられることや、ETAの機械 の大型化による土壌への悪影響などについて批判的議論も多い。 22 Agreste Centre, Analyse et Résultats numéro 2012AR22, avril 2012を参照。 21 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 13 経営体が経営総数に占める割合は、エール・エ・ は異なり、工芸作物や野菜を輪作に組み入れた ロワール県が最も低く18%、シェール県が最高 普通畑作経営、さらに、畜産を組込んだ有畜畑 で22%であった。若手経営者の経営体の3分の 作経営では、労働集約的な面が相対的に強いこ 2程度が大経営であり、その平均経営耕地面積 とから、家族以外の労働への依存をより必要と は130haと平均規模よりは大きい。経営の法的 する。このように、大規模畑作経営の三つの営 地位としては、とくに有限責任農業経営が多い。 農類型では就業構造がやや異なるといえる。こ 自作地率が低い(5 %)ことも特徴的である。 の点をもう少し立ち入って検討してみよう。 就農給付金を受けた若手(40歳未満)の受給 者 の 内90%が 男 性 で あ り、 そ の 平 均 規 模 は (1)投下労働量からみた3営農類型 154haで、8割が大経営である。経営主の学歴 サントル地域圏の大規模畑作の三つの営農類 は87%が後期中等教育ないし高等教育を修了し 型ごとに、経営数の10年間の変化と投入労働量 教育水準が高い。また、営農類型としては、地 の変化を比較してみると、経営数の減少率は穀 域圏の特性から大規模畑作が49%を占め圧倒的 作経営、普通畑作経営、有畜畑作経営の順に、 だが、それに次ぐのが有畜畑作経営(18%)お 12%減、4 %増、41%減となっている。これに よび酪農(8 %)である。大規模畑作専業経営 対し、総投入労働量は、17%減、7 %減、30% の多くの大経営では、就農給付金制度が有効に 減であった。つまり、穀作経営では経営数の減 利用され、世代交代が確保されている。 少に比べて総投入労働量は大きく減少しており、 ここまで、地域圏の農業経営全般についてみ かなりの省力化が進展したとみることができる。 てきたが、次には、大規模畑作に焦点を絞って 普通畑作経営では経営数の増加にもかかわらず、 検討していこう。 総投入労働量はここでも減少しており、変化率 の格差が11ポイントと大きいことから省力化が 2)大規模畑作の就業構造 穀作経営よりも一層顕著に進展したとみること 絶えざる規模拡大と機械・設備の大型化・高 23 ができる。対照的に有畜畑作経営では、経営数 度化を進めてきた大規模畑作部門であるが 、 の減少よりも総投入労働量の減少率が低いから、 それを支える農業労働の在り方にはどのような 一経営当たりの投入労働量はむしろ増加したの 変化があったのだろうか。 である。 農業生産の専門化、技術的高度化、経営規模 拡大の動きの中で、経営主を含めた家族労働の 割合が依然として大きいこと、また、その中で (2)大規模畑作の地帯構成と一経営当たりの 投入労働量 の経営主の役割の増加傾向を先に確認した。実 筆者は、大規模畑作経営の多様性について論 際、大経営の象徴的存在である大規模畑作にお じた清水卓(2014)において、サントル地域圏 いても、農業就業時間の67%が家族員によるも の6県を、大規模畑作の中核地帯、中間地帯、 のであり、大規模畑作専業経営の内、穀作経営 多角地帯の3区域に分けて、各区域における農 では投入労働量の81%、普通畑作経営 では64 業と大規模畑作の特徴を明らかにした。 %、有畜畑作経営は72%が家族労力による。つ 要約して示せば、 大規模畑作の中核地帯は まり、労働力面からみて、大規模畑作でも、依 エール・エ・ロワール県とロワレ県の2県から 然として、農業経営の家族的性格は維持されて なるが、そこにはボース農業地域というフラン いるのである。とはいえ、一貫機械化体系が確 スを代表する穀倉地帯が含まれている。穀物・ 立している穀物モノカルチャー的な穀作経営と 油糧作物・蛋白作物のシンプルな輪作体系によ 23 センサスでは、再生可能エネルギー生産施設、建物、機械、穀物、果実・野菜・馬鈴薯貯蔵施設、 農作業機器に関して調査されているが、その集計データや分析については現時点では未確認である。 14 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 第 7 表 農業地帯別の経営指標 中核地帯 中間地帯 多角地帯 営農類型 2000 2010 2000 2010 2000 2010 穀作経営 5,771 4767 3,728 3392 4,000 3710 普通畑作 1,406 1460 167 258 401 333 有畜畑作 1,251 688 2,328 1365 2,041 1082 穀作経営 94 108 125 141 90 101 普通畑作 105 124 46 46 55 74 有畜畑作 65 94 80 117 62 100 穀作経営 平均投入労働量(年 普通畑作 労働単位 / 経営体) 有畜畑作 1.10 1.07 1.29 1.22 1.09 1.01 1.69 1.56 0.85 0.68 1.94 1.77 1.41 1.93 1.37 1.61 1.41 1.85 穀作経営 85 101 96 116 82 100 62 79 54 67 29 42 46 49 58 73 44 54 経営体数 平均面積(ha) 面積当たり投入労働 普通畑作 量(ha/ 経営体) 有畜畑作 出所)AGRESTE、2010 年センサス る穀作経営が、経営体の数の上でも、生産量で ワール河とそれに合流する小河川流域の平地を も圧倒的な存在である。しかし同時に、中核地 見渡す傾斜地のブドウ栽培、そして流域平地の 帯では、穀物・油糧作物・蛋白作物に工芸作物 園芸、複合畑作・複合畜産経営からなる多様な や露地野菜などを加えた、比較的少数の普通畑 農業が存在する。 作経営の大経営が存在し、このタイプの経営体 の経済規模が最も大きいのである。 次に中間地帯とは、地域圏南部のシェール県 こうした地域圏農業の地帯構造を念頭におい て、三つの地帯毎に2000年と2010年の一経営平 均の投入労働量を比較してみよう。 とアンドル県かならなり、大規模畑作の特徴と 2000年から2010年にかけて、中核地帯の穀作 しては、 両県にまたがるシャンパーニュ・ ベ 経営の投入労働量は1.10年労働単位から1.07単 リッショーヌ農業地域における穀作経営の存在 位へ減少、普通畑作経営は同じく1.69から1.56 である。 しかし、 この農業地域の土壌条件は へ減少、これに対し、有畜畑作経営では1.41年 ボースに比べ見劣りし、生産性が低い24。集約 労働単位から1.93単位へと増加した。中核地帯 的畑作である普通畑作経営は非常に少ない。ま では有畜畑作経営は少数(2010年には688経営) た、農業生産額についてみると、シェール県の だが、省力化が顕著な大規模畑作専業経営とは ブドウ作の他、両県では、大規模畑作以外の、 対照的に、大規模畑作の中核地帯でも雇用を拡 肉牛、ヤギ、羊などの畜産と複合畑作・複合畜 大する形での経営の発展可能性の存在を示すも 産の混合経営の比重が高いことが特徴的である。 のとして興味深い。 多角地帯はロワール・エ・シェール県とアン 中間地帯についても同様にみると、穀作経営 ドル・エ・ロワール県の両県である。両県とも は1.29年労働単位から1.22単位へ減少、普通畑 フランス最大の河川であるロワール河が東西方 作経営は0.85単位から0.68単位へ減少、有畜畑 向に貫流し、 大規模畑作地帯をなす北部、 ロ 作経営は1.37単位から1.61単位へと増加した。 24 Agreste Centre, Mémento de la Statistique Agricole, 2012によると、 冬小麦の反収(トン/ha)は、 中核地帯のエール・エ・ロワール県が7.2、ロワレ県が6.6、次いで中間地帯のシェール県が5.7、アン ドル県が5.6、多角化地帯のアンドル・エ・ロワール県が5.8、ロワール・エ・シェール県が5.7という 格差がある。 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) が特徴である。 第 8 表 他人労働依存率(1) 営農類型 全類型 穀作 普通畑作 有畜畑作 15 2000 2010 小計 31.9% 35.5% 小経営 16.2% 19.2% ここでは、大規模畑作の大経営に絞って、雇 中経営 13.9% 18.7% 用労働の動向を確かめておこう。なぜなら雇用 大経営 43.1% 43.0% 小計 18.4% 20.3% 労働への依存の程度こそ農業経営の資本主義的 小経営 13.5% 15.7% 中経営 8.5% 11.6% 大経営 26.6% 25.1% 小計 36.7% 37.4% 小経営 37.5% 41.1% 中経営 16.0% 22.0% 大経営 42.7% 38.9% 小計 20.8% 29.5% 小経営 16.2% 7.3% 中経営 8.6% 14.2% 大経営 27.6% 36.0% 出所)2010 年センサス、AGRESTE、DISAR 1)他人には、常雇の家族員を含む (3)大規模畑作の労働力構成 性格を判断する基本的指標と考えられるからで ある。 ところで、現在の大規模畑作の大経営におい ては、農作業における他人労働の使用には、常 雇、季節・臨時雇、農業機械・設備の協同組合 の利用、請負企業への委託、グループによる雇 用、等々の形態がある。 第6表によると、2010年の大規模畑作の3営 農類型における投入労働量(年労働単位)の構 成 は、 常 雇(そ の 他)が3017単 位、 季 節 雇 が 1448単位、農業機械利用協同組合と農作業請負 企業が473単位である。以上の家族以外の雇用 労働量は4938単位である。3営農類型合計の投 入労働量(常時就業者+季節雇・臨時雇+農業 穀作経営については、中核地帯の平均経営面積 機械利用協同組合と農作業請負企業)は2万 よりも大きいことが投入労働量の大きさに反映 1595単位であるから、他人労働依存率は22.8% している。また、中間地帯での普通畑作経営は (常雇の家族員を家族と見做した場合)なる。 経営総数の2 %と非常に少なく、そこでの投下 これは第8表による農業経営全体の35.5%(こ 労働量の少なさからみて、零細な経営であるこ の数値は、常雇の家族員を他人みなした場合の とが分かる。同じ普通畑作経営でも中核地帯と もの。仮に家族員に含めると32.6%)と比べて 中間地帯では経営体の性格が大きく異なると考 かなり低い水準である。この事実は、今日、大 えるべきであろう。有畜畑作経営については大 規模畑作総体として(経営体の数が少ない普通 幅に経営数が減少する中で、生き残りの経営は 畑作を例外として)の大経営は、他人労働に依 投入労働量を増加させ経営規模を拡大するとい 存する資本主義的大経営を代表する存在とはい う、中核地帯と同様の傾向が見て取れる。 えないことを示している。 多角地帯についても同様にみると、穀作経営 そこで、三つの営農類型さらに小経営、中経 は1.09年労働単位から1.01単位へ減少、普通畑 営、大経営に区分して、この他人労働依存率を 作経営は1.94単位から1.77単位へ減少、有畜畑 みていこう。第8表の他人労働の数値には家族 作経営は1.41単位から1.85単位へと増加した。 員の常雇を含んでいるので、やや高い水準とな 穀作経営では、中核地帯よりも省力化が進んで るが、3営農類型全体として総投入労働量にお いること、有畜畑作経営の投入労働量は、中核 ける家族員の常雇の割合は2 %程度であるから、 地帯に比べて少ないが中間地帯よりは多いこと 比較の上では大きな支障はないであろう25。 25 常雇として自らの経営体で働く家族構成員を常雇としてカウントする統計表と、家族員でない常雇 のみをカウントする統計表の二本立てになっているので、前者の数値から後者の数値を控除して、 家族員でありかつ常雇である者の数値を求めた。 16 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 第 9 表 常雇を雇用する経営体の常雇労働量 第 11 表 営農類型 穀作 有畜畑作 常雇(家族員を含む) の就労(UTA) 一経営当たり常雇労働量 経済規模 2000 2010 2000 2010 2000 2010 小計 2045 1742 2092 1728 1.02 0.99 小経営 103 72 116 94 1.13 1.31 中経営 392 278 320 222 0.82 0.80 大経営 1550 1392 1656 1412 1.07 1.01 452 485 649 678 1.44 1.40 小経営 21 27 51 122 2.43 4.52 中経営 28 25 32 35 1.14 1.40 大経営 403 433 567 521 1.41 1.20 小計 782 684 1205 1095 1.54 1.60 小経営 31 17 145 20 4.68 1.18 中経営 124 67 114 83 0.92 1.24 大経営 627 600 947 993 1.51 1.66 小計 普通畑作 常雇(家族員を含む) を有する経営数 出所)AGRESTE、DISAR まず、穀作経営については、経済規模にかか 最低水準にあるが、畑作専業の前二者と異なり、 わらず、他人労働依存率が顕著に低い。この営 畜産不況の中で経営全般を縮小させた結果と考 農類型の輪作体系は単純で、必要な機械・設備 えられる。その対極に、同じ営農類型の大経営 の自家装備があれば、 経営主のみのワンマン があるが、そこでは上記の二つの営農類型の大 ファームも可能であることがここに反映してい 経営とは異なりこの10年間に依存率が上昇した。 る。大経営になるほど依存率は高いけれども、 有畜畑作経営が規模拡大するには、一定水準の 10年間にそれは低下しており、機械化・省力化 職業的知見や技能を有する労働力が必要である の進展がそこに反映しているとみられる。また、 ことを、この事実は示唆している。 中経営が最も依存率が低いことは、家族労力に 以上のように、大規模畑作部門の中でも、営 より経営できる程度の面積規模であることが理 農類型と経済規模により労働力構成とその動向 由であると思われる。 は多様である。しかし、大規模畑作部門は全体 普通畑作経営の依存率は、穀作経営に比べ顕 として、 他人労働への依存を強める方向に向 著に高い。これは生産品目の多角化により、栽 かっているが、大規模畑作専業(穀作経営と普 培管理を含め、技術や経験を備えたスタッフを 通畑作経営)の大経営ではそれと反対に、依存 必要とするからであろう。大経営よりも中経営 を軽減していることに注目すべきである。 の依存率が低いのは先の穀作経営の場合と同様 の理由によるものであろうが、小経営の依存率 が顕著に高い事情は不明である。なお、小経営 (4)大規模畑作の大経営における常雇 大規模畑作の大経営で他人労働への依存率が、 および中経営では依存率が10年間の間に高まり、 大規模畑作専業(穀作経営、普通畑作経営)で 大経営では低下しているが、この点は穀作経営 は低下し、混合経営(有畜畑作経営)では上昇 と共通しており、一言でいえば大規模経営ほど していることが明らかとなったが、この対照的 先進的機械装備による省力化が進展した結果で な動きは、一経営当たりの常雇の数(ここでは あろう。 年労働力単位で評価)により裏付けられる。 有畜畑作経営は、前二者と異なる面が多い。 とくにここ10年間、小経営の他人労働依存率が 2000年から2010年の間に、穀作経営の大経営 では、常雇が1.07年労働単位から 1.01単位へと フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 17 減少し、普通畑作経営(大経営)では同じく1.41 として、大規模畑作専業経営(統計上の、穀作 単位から1.20単位へと減少した。ところが、有 経営および普通畑作)だけでなく複合畑作・畜 畜畑作経営では同じく1.51単位から1.66単位へ 産経営(有畜畑作経営と略称)を大規模畑作の と増加したのである。この事実は、大規模畑作 担い手として位置付けた。その積極的理由は、 専業経営の大経営(穀作経営、普通畑作経営) この複合畑作・畜産経営が畑作物栽培に占める で進んだ省力化の下での規模拡大と、有畜畑作 量的位置だけではない。現実には大規模畑作3 経営(大経営)における労働力編成を維持した 類型の農業生産の在り方は、重複する部分が多 上での規模拡大という両者の経営戦略の相違を いからである。また、生業的な複合畑作経営と 示している。 いう伝統的イメージとは異なる複合畑作・畜産 ここで投入労働量が3単位以上の経営体をみ 「大経営」の存在が、穀作経営の生産多角化の ると、全営農類型ではこの10年間に、一経営体 一環としての複合畑作・畜産経営への途、ある 当たり5.75単位から5.85単位へと僅かに増加し いは、地力収奪型の穀物モノカルチャー的大規 た。この階層は平均して4単位程度を雇用して 模畑作を環境調和的で持続可能な形に変革しう いると推定できる。これに対し、2010年の穀作 る可能性が示唆されているからである。このよ 経営体の投入労働量は3.88単位、 普通畑作は うな問題意識の下に、本稿では、土地所有と借 5.94単位、有畜畑作は5.11であった。先述した 地、農業就業構造を取り上げ、大規模畑作経営 ように、大規模畑作部門はむしろ他人依存率が の現状の解明を試みた。その検討結果の要点を 低い。この10年間、穀作および普通畑作経営体 以下に示そう。 における常雇の投入労働量は2.02単位から2.03 本稿の1 . 土地所有と借地では、大規模畑作 単位へ、有畜経営体では2.76単位から2.77単位 経営の土地所有について検討した結果、以下の と変化は僅かであった。季節雇については、穀 事実が確認された。 作と有畜畑作経営体では微増したが、本来季節 ①サントル地域圏では、大規模畑作部門を含 雇への依存率が高い普通畑作では大きく減少し め圧倒的に借地による農業経営が行われて た。対照的に、絶対量は非常に小さいが、普通 畑作では農作業業請負企業または機械利用協同 組合の作業時間が急増した。 いる。 ②借地形態としては定額借地が支配的で、分 益小作はマージナルな存在である。 いずれにせよ、大規模畑作部門の大経営にお ③主な貸し手は経営主あるいは経営の外部の いても、平均すれば、常雇はせいぜい1名から 第三者からの借地である(ただし、第三者 3名といった程度であり、雇用規模でみれば第 からの借地には、親や親戚からの借地が含 2次、第3次産業の零細企業に相当するこうし まれるのであり、そこには親戚関係まで含 た経営を資本主義的「大経営」と呼ぶのは適切 む広義での家族的性格をよみとることがで とはいえないだろう。 きる)。 ④経営の規模拡大、構成員の自立、個人資産 結び の保全等々の動機により法人経営が増加し ているが、そうした法人経営の増加に伴い 本稿は、2010年センサスのデータを、サント ル地域圏、地域圏の三つの農業地帯区分、大規 模畑作の三つの営農類型のレベルで整理し、土 当該経営の社員からの借地が増加傾向にあ る。 ⑤借地面積の拡大による経営規模拡大が追求 地所有と就業に焦点をあて、農業経営の社会的 されることで、経済規模でみた大経営ほど、 性格の解明を試みた。 家族・親族からの借地を含め借地依存が強 大規模畑作の3営農類型の異同を生産面から 解明した清水卓(2014)では、大規模畑作部門 い。対照的に、小経営では自作地率が高い。 ⑥個人経営に比べて面積規模が大きい法人経 18 駒澤大学経済学論集 第 46 巻 第 4 号 営では借地率が高い。つまり、簡潔にいえ ②経営主以外の家族員の経営内の就業は非常 ば、個人経営=小・中経営=自作経営とい に僅かである。また、女性である配偶者の う相関、法人経営=大経営=借地経営とい 半数以上は経営内の農業活動に従事しない。 う相関が強い。 ③家族員の就業が減る中で、常雇や季節雇等 ⑦大規模畑作の営農類型の中では、土地所有 の雇用労働は実人数では減少したが、経営 構造に大きな違いは認められないが、法人 体での投入労働量に占める割合は相対的に 経営の比率が高い普通畑作経営では、穀作 増加した。 経営や有畜畑作経営に比べ借地率がやや高 い。 ④農作業請負企業および農業機械利用協同組 合への作業委託が、なお作業時間数として 以上の事実から、農業経営体の淘汰による経 は僅かだが、急速に増大した。その他、本 営規模拡大が、自作経営の大幅減少、借地型大 稿では扱うことができなかったが、複数の 経営の増加として進展したことが裏付けられた。 大規模畑作経営者が組織する雇用者集団に それはまた、個人経営の縮小であり、法人経営 よる常雇の確保、農家の休暇取得を助ける の増加と表裏一体であった。 農家ヘルパーなど、農作業の「外部化」が しかし、借地面積比率の高さは、直接生産者 着実に進んでおり、 その意味で、 現在の たる農業経営主による土地所有の縮小を意味す 「家族経営」は家族構成員だけの孤立的営 るのだろうか。確かにセンサスのデータでみる 限り、然りと言わざるを得ないのである。だが、 為ではないことに留意したい。 ⑤自作経営かつ個人経営であることが多い小 家族や親戚からの借地の存在に注目するなら、 経営では兼業化が定着している。穀作経営 その土地所有は家族農業経営という母体や、近 での高度な機械化や外部への作業委託の可 隣の農業者あるいは住民との地縁から離脱した 能性の拡大が自作地を維持しながらの兼業 自由な土地所有とはいえないのではないか、と 就業を可能としているのである。 いう問題は残されている。 さらに、大規模畑作部門においては、 そうした農地所有の特殊な性格を明らかにす ⑥穀作経営では他の二つの営農類型に比べて るには、農地制度についての法学や社会学領域 省力化体系が進み投入労働者量が少ない。 での研究の更なる深化が不可欠であろう。その ⑦作物の多角化と畜産の存在を反映して、普 他、圃場の分散性、地価・借地料水準、農地市 通畑作経営および有畜畑作経営では一経営 場とその社会的統制等など学際的研究が必要な 当たりの投入労働量および他人労働依存率 論点が数多く残されている。 が相対的に高い。 ⑧大規模畑作部門での雇用労力依存は、施設 本稿の2 . 就業構造では、サントル地域圏農 型園芸、ブドウ栽培、畜産経営などに比べ 業の担い手の性格について以下の諸点を明らか て相対的に低位である。大規模畑作部門は にした。 雇用労力に依存するという意味での農業経 ①農業就業の主たる担い手は、経営主と共同 営の資本主義化の先頭に位置してはいない。 経営主、経営主の配偶者であり、家族的性 ただし、この地域圏の大規模畑作の大経営 格が強い。その中には経営主の配偶者(多 の所得水準はフランス国内では最高位に位 くは妻)が共同経営主となった事例が含ま 置し、その社会的ステータスは高い26。 れる。とりわけ、ワンマンファームに示さ これらの事実から、大規模畑作部門での穀物 れるように、農業経営主の役割が圧倒的に 生産の専門化、少数の穀物栽培への傾斜を可能 大きい。 とした一貫機械化体系の普及によって省力化が 26 清水卓(2014)、26頁註13を参照 フランス・サントル地域圏の大規模畑作経営 (清水) 進み、一方では小経営の兼業への傾斜、他方で 19 性向上会議,1965.3. は穀作大経営のワンマンファーム化を進んだこ クロード・セルヴォラン C. Servolin, L’absorption とが確認された。経営数の上では、このような de l’agriculture dans le mode de 穀物モノカルチャーと称される穀作経営がサン production capitaliste, dans L’univers トル地域圏の大規模畑作経営の典型的姿である。 politique des paysans d a ns la France しかし、それと並んで、栽培の多角化あるいは contemporaine, 1972, Paris, Presses de 畜産との混合経営が存在し、こうした経営はよ Sciences Po. り多くの投入労働量、したがって雇用労働に基 清水卓 (1978)研究ノート「フランスにおける農 づき、より大きな経済規模を実現していること 業構造理論の展開―新潮流の台頭とその が確認されるのである。 性格―」 『土地制度史学』第78号,1979・ 最後に、大規模畑作部門では、いずれの営農 1,59-70頁. 類型にせよ、農業労働力の基幹を占めるのが依 ――――(2014) 「フランス・サントル地域圏の大 然として家族労働力であることは争えない現実 規模畑作」 『駒澤大学経済学部、 経済学 である。 論集』第46巻第1号. 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