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テレビ・オシロスコープ化装置の開発 - SUCRA
埼玉大学紀要 教育学部,5 9 (1) :5 1─6 0(2 01 0) テレビ・オシロスコープ化装置の開発 荻窪 光慈* キーワード:オシロスコープ、ブラウン管テレビ、アナログ放送、デジタル放送、電気技術 1 緒言 送から地上デジタル放送に完全に移行すること が我が国の法令(電波法など)によって決定さ 中学校技術・家庭科技術分野の電気技術関連 れている。すなわち、この日をもって地上アナ の学習において、本来目に見えない電気エネル ログ放送は完全に停波される。それに伴い、ブ ギーを、視覚的な電気信号として観察可能とす ラウン管式テレビの大量廃棄が懸念されている。 る装置は、学習の理解を格段に高められるとい 社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)に う観点から非常に重要な意義を持っている。そ よると、我が国における全テレビの普及台数約 のような装置の代表的なものとして、オシロス 1億台のうち、地上アナログ放送の停波に伴っ コープが挙げられる。オシロスコープは、横軸 て2 01 1年前後に排出されるブラウン管式テレビ を時間、縦軸を電圧として、電気信号波形をブ の数は最大14 28万台と予測されている2)。全て ラウン管画面上に可視化する装置であるが、そ のテレビは排出時において、いわゆる家電リサ のブラウン管画面のサイズは一般的に5インチ イクル法の適用を受けるが、一部の不心得な者 程度と小さく、授業において数十人の生徒全員 による不法投棄などが懸念されており、環境汚 に同時に観察させるのは困難である。また、オ 染などの重大な社会問題を引き起こす可能性が シロスコープは金額的にもそれほど安価ではな ある。 いことから、学校における整備状況も十分では そのような社会的不安を多少なりとも軽減し、 ないと考えられる。例えば、ある県内の中学校 地上アナログ放送の停波とともに恐らく廃棄さ における教材整備状況の調査によると、オシロ れるであろうブラウン管式テレビ、特に学校現 スコープの所有台数は標準規模校(3学年合計 場に所有されている大型テレビの再利用を目的 1) の学級数が6∼2 7)において0台∼4台であり 、 として、本論文では、テレビ・オシロスコープ オシロスコープを用いて生徒に電気現象を視覚 化装置の開発を行った。本装置により、ブラウ 的に学習させるためには、十分とは言えない状 ン管式テレビに電気信号を映し出すことが可能 況である。 となり、オシロスコープを所有しない学校にお そのような状況の一方で、従来型のブラウン いても、数十人の生徒が同時に電気信号の観察 管式カラーテレビは、学校現場において複数台 が可能となる。これにより、電気技術関連の学 の所有があると考えられる。テレビ放送につい 習が効率の良いものになると考えられる。 ては、2011年7月2 4日をもって地上アナログ放 * 埼玉大学教育学部技術教育講座 ─ 51 ─ 2 ブラウン管式テレビの動作原理 られる。したがって、1秒間当たりに描かれる 画像は3 0枚であるが、見かけ上は6 0回の書き換 2−1 テレビ信号の規格 えを行っていることになり、人間が見たときに 2−1−1 NTSC方式 チラツキが比較的少ない画面となる(なお、映 NTSC(National Television System Committee) 画館では毎秒24枚の画像を表示している)。画 とは、地上波アナログカラーテレビ放送の映像 面上端の走査線から下端の走査線まで光点を移 信号方式を策定したアメリカ合衆国の標準化委 動させることを垂直走査と呼ぶが、以上のこと 員会(全米テレビジョン放送方式標準化委員 から、NTSC方式の垂直走査周波数は6 0Hzで 会)である。また、同委員会が1 9 5 3年に策定し ある。 たテレビ放送標準規格をNTSC方式と呼ぶ。我 が国のブラウン管式テレビはこのNTSC方式の 映像信号に対応している。この方式は、我が国 の他に、韓国、台湾、フィリピンなどアジアの 一部や、北米、中南米の広い地域で採用されて いる。 テレビ放送においては、ブラウン管内の電子 銃から放出される電子による光点を、画面左端 から右端へ水平方向に走査させる。この動作を 水平走査と呼び、この時の光点の通り道を走査 線と呼ぶ。さらに、その水平走査を画面の上か ら下へ高速で行うことにより、一つの画像を描 いている。NTSC方式では、水平方向の走査線 数は5 25本である。これを毎秒3 0フレーム、す なわち1秒間に30枚の画像を描いている。した がって、1秒間当たりの水平走査の回数は、 5 25本×30回=157 ,5 0回である。このことから、 NTSC方式の水平走査周波数は157 . 5 kHzであ る3)。 しかし、実際の走査では画面の上から下へ1 行ずつ隙間なく水平走査を行っているわけでは なく、図1に示すように、1行おきに飛び越え て走査を行っている。これをインターレース (interlace)走査という。これは、まず図1 (a) に示すように、 1, 2, 3…のように1行おきに 飛び越えて粗く走査し、次に図1(b)に示すよ うに、26 4,265,266…のように先程飛び越えた 線の中間の所をもう一度走査するという方法で あり、2 625 . 本の走査線からなる粗い画像を2 回描くことにより、最終的に図1 (c) に示すよ うに、52 5本の走査線からなる1枚の画像が得 ─5 2─ 図1 NTSC方式におけるインターレース走査 なお、インターレース走査のように1行おき に走査するのではなく、1行ずつ隙間なく水平 走査を行う方式をプログレッシブ (progressive) 走査と呼んでおり、コンピュータのブラウン管 モニタなどに採用されている。 2−1−2 NTSC方式以外の規格 NTSC方式以外のアナログテレビ映像信号規 格として、PAL (Phase Alternating Line)方式や SECAM(Sequential Couleur Avec Memoire) 方式についても触れておく。 PAL方式は主に西ヨーロッパ、アジア、アフ リカなどで広く採用されており、水平方向の走 査線が6 25本、毎秒の描画数は2 5枚(垂直走査 周波数は50Hz)のインターレース方式である。 SECAM方式はフランス、中近東諸国、ロシ ア、東欧諸国で採用されており、水平方向の走 査線が6 25本、毎秒の描画数は2 5枚(垂直走査 図2 水平走査と帰線消去 周波数は50Hz)のインターレース方式であり、 PAL方式と似ているものの、色を表示する仕 組が複雑であり、両者に互換性はない。 2−2−2 コンポジット映像信号 2−2 NTSC方式における信号 光点が画面左端から右端へ移動する526 . ns 2−2−1 水平走査と帰線消去 の間に、画面上に映像を描くためのコンポジッ NTSC方式を採用するブラウン管式テレビで ト映像信号が入力される。コンポジット映像信 は、水平走査周波数が157 . 5kHzであることを 号は、明るさ(白黒の明暗)を表す輝度信号と、 先述した。したがって、水平走査線1本当たり 色相(色合い)や色度(色の濃さ)を表す色信 に要する時間は6 35 . nsとなる。その内訳として 号の2つから構成されるが、色信号については は、図2に示すように、走査線上を明るさを変 高度で複雑な信号処理が必要となるため、本論 え な が ら 動 く 光 点 が、画 面 左 端 か ら 右 端 へ 文では取り扱わないこととし、以下では輝度信 526 . nsの時間をかけて移動する。光点は画面右 号についてのみ説明を行う。 端まで到達すると、1 09 . nsかけて左端に戻る。 図3に示すように、パルス信号を水平同期信 その109 . nsの間に光点が光ると、不要な横線が 号に同期したPPM(Pulse Phase Modulation) 画面上に表示されることになるので、その期間 信号として入力すると、そのパルス信号の位相、 には映像信号として低い電圧を加えることによ すなわちそのパルス信号と水平同期信号との時 り、光点が光らないようになっている。これを 間差により、パルス信号が入力された走査線上 帰線消去と呼ぶ。また、その帰線消去期間には、 の位置の輝度が明るくなる。言い換えると、水 画面の横方向のブレを防ぐためのタイミングの 平同期信号とパルス信号との時間差tを、画面 基準となる信号が挿入されている。これを水平 上の長さLに変換するのが輝度信号の原理であ 同期信号と呼ぶ。 る。 ─5 3─ その明るさは、パルス信号の電圧に依存して ではなく、IREという単位を用いる慣習がある。 おり、図4に示すように、ペデスタルレベルと これは、映像信号の電圧を相対的に表す単位で 呼ばれる基準電圧に対して、電圧が高ければ白 あり、ペデスタルレベルを0IREの基準として、 に、低ければ黒に近くなり、その中間は電圧に 映像信号の10 0%白レベル、すなわち最も明る 応じて明るさの異なる灰色となる。また、帰線 い白を10 0IREとし、水平同期信号のレベルを 消去期間及び水平同期信号については、電圧が −4 0IREとして規定されている。なお、先述し ペデスタルレベルよりもさらに低くなっている。 たように、映像信号の入力電圧振幅は1Vp-pで なお、水平同期信号の最も電圧が低い所と、 あるため、1IRE=71 . 4mVである。 輝度信号の最も電圧が高い所の差は、最大で1 Vp-pと規定されている。また、映像信号におけ 3 テレビ・オシロスコープ化装置の開発 る電圧単位の表記に当たっては、ボルト[V] 3−1 テレビ・オシロスコープ化装置の回路 構成 テレビ・オシロスコープ化装置(以下、TV オシロと呼ぶ)の機能ブロック図を図5に示す。 任意の観察対象信号をブラウン管式テレビ画面 上に描かせるためには、図3に示したように、 その観察対象信号を水平同期信号に同期した PPM信 号 に 変 換 す る 必 要 が あ る。そ の 際、 PPM信号の位相がその観察対象信号の大きさ (振幅)と比例関係にあるならば、観察対象信 号と相似な波形がテレビ画面上に描かれること 図3 輝度信号の原理 になる。このことを踏まえ、まず観察対象信号 と水平同期信号に同期したのこぎり波との比較 によるPWM(Pulse Width Modulation)信号を つくり出し、それを微分してPPM信号を得る こととした。さらに、PPM信号と水平同期信 号とを適切な電圧レベルに調整した上で混合し 出力することにより、最終的にブラウン管式テ レビに入力可能なコンポジット映像信号が得ら れる4, 5)。 以上の機能を満足するTVオシロの回路図を 図6に示す。 図4 水平同期信号付近のタイミングと電圧 図5 テレビ・オシロスコープ化装置の機能ブロック図 ─5 4─ 図6 テレビ・オシロスコープ化装置の回路図 図7 タイマIC “555”の無安定マルチバイブレータ動作 3−2 回路各部の動作説明 る)または無安定マルチバイブレータ動作(周 期性のある矩形パルスを連続的に発生させる) 3−2−1 水平同期信号発生回路 タイマIC LMC555CN(National Semiconductor の2種類の動作モードがある。本論文では、無 製、 CMOS版)を用いて、水平同期信号を発生 安定マルチバイブレータとして動作させており、 させている。このタイマICは、時間的精度の その場合の一般的な使用方法については、図7 高いパルス信号を簡易に発生させる用途にしば に示すように、8ピン−7ピン間の抵抗をRA、 しば用いられ、単安定マルチバイブレータ動作 7ピン−6ピン間の抵抗をRB、6ピン−GND (一定時間幅を持つ単発矩形パルスを発生させ 間のコンデンサをCとすると、出力が“High” ─ 55 ─ レベルの時間TH及び“Low”レベルの時間TL リジナル製品であるが、その後、オリジナル品 は そ れ ぞ れTH=06 .9 3(RA+RB)C、TL= と同じ“555”という数字が型番に含まれる同 06 . 93RBCとなる。 機能の互換品(これをセカンドソースという) TLに相当する水平同期信号のパルス幅(規 が他社からも多数販売されており、我が国にお 格上は47 . ns)及びTH+TLに相当する次の水平 いては「ゴーゴーゴー」の愛称で親しまれ、現 同期信号までの周期(規格上は6 35 . ns)は、テ 在でも入手しやすい部品である。 レビの機種によっては若干の調整を要する場合 があるため、本論文においては、これらのパル 3−2−2 PPM信号発生回路 ス幅を可変抵抗VR1及びVR2によって調節可能 観察対象信号を可変抵抗VR3及びVR4によっ としている。 て適当な電圧レベルに調節した後、これをコン なお、タイマICの3ピンから出力される信 パレータIC LM3 93N(National Semiconductor 号は、NOTゲート(日本電気製nPD4 0 6 9UBC) 製)を用いて、タイマICの6ピンに接続され によって波形整形するとともに、後述する信号 たコンデンサの充放電電圧を利用したのこぎり 出力回路においてトランジスタのエミッタ接地 波と比較する。これにより、図8に示すように、 回路を通じて電圧レベル調整を行うため、その コンパレータICの出力としてPWM信号をつく 電 圧 レ ベ ル( “High”ま た は“Low”)を 図 2 り出し、NOTゲート2個による波形整形の後、 のような信号とは反転させている。すなわち、 さらにそれを抵抗とコンデンサからなる微分回 水平同期信号に相当する部分が“High”レベ 路を通過させ、さらにもう一度NOTゲートに ルで、映像信号に相当する部分が“Low”レベ よる波形整形を行うことにより、PPM信号を ルとなっている。 つくり出している。 また、タイマICの6ピンに接続されたコン なお、コンパレータIC LM39 3Nの出力端子 デンサの充放電電圧を、PWM信号をつくり出 はオープン・コレクタ出力となっているため、 すための水平同期信号に同期したのこぎり波と プルアップ抵抗が必要となる。また、このIC して利用している。 にはコンパレータが2個入っているが、本論文 な お、こ の タ イ マICは、元 々 は1 9 7 0年 代 初 では1個のみを使用している。 頭に米国Signetics社から販売されたNE5 5 5がオ 図8 PWM信号とPPM信号 ─5 6─ 3−2−3 コンポジット映像信号出力回路 ベルが電源電圧、すなわちほぼ9Vであるのに 2つのトランジスタを組み合わせた回路によ 対 し、Tr1の エ ミ ッ タ 端 子 か ら の 出 力 時 に は り、水平同期信号とPPM信号とを混合し、か “Low”レベルについては0Vで同様であるが、 つテレビに入力されるコンポジット映像信号の “High”レベルについては、84 . V(電源電圧9V 電圧振幅が1Vp-pとなるよう電圧レベル調整を −ベース・エミッタ間電圧06 . V)を75 0Ωと1 50 行っている。テレビのコンポジット映像信号入 Ωで分圧した値、すなわち約14 . Vとなる。 力端子の入力インピーダンスは、7 5Ωと一般的 以上で、水平同期信号部からの出力電圧が約 に定められている。インピーダンス整合を取る 06 . V、PPM信号部からの出力電圧が約14 . Vと ため、TVオシロの出力端抵抗も7 5Ωとしてい なり、これらを合成したコンポジット映像信号 る。したがって、TVオシロの出力端抵抗とテ の振幅は2Vp-pとなる。これは図4に示した規 レビの入力インピーダンスとで分圧したときに、 格上の2倍の電圧であり、それがTVオシロの テレビ側に入力される電圧振幅が1Vp-pとなる 出力端抵抗とテレビの入力インピーダンスとで ように、トランジスタ部において電圧振幅が2 分圧され、テレビ側に入力される電圧振幅が1 Vp-pのコンポジット映像信号をつくり出すよう Vp-pとなる。 に設計した。 タイマICの3ピンから出力され、その後の 4 テレビ・オシロスコープ化装置の製作 NOTゲートにおいて波形整形された水平同期 信号は、Tr2に入力される。Tr2はエミッタ接地 4−1 テレビ・オシロスコープ化装置の動作 回路であるため、ベース端子への入力信号とコ ユニバーサル基板上に製作したTVオシロの レクタ端子における出力信号との電圧レベル 外観を図9に示す。なお、基板との大きさの比 (“High”または“Low”)は反転される。した 較のため、十円玉を近傍に置いてある。 がって、Tr2のコレクタ端子において、図2の TVオシロに、ファンクションジェネレータ ような水平同期信号が得られる。ただし、その を用いて正弦波を入力した場合の、テレビ画面 電圧レベルは、Tr2のベース端子への入力時に 上の様子を図1 0に示す。 は“Low”レベルが接地電圧、すなわち0V、 テレビにおける描画原理上、水平方向が電圧、 “High”レベルが電源電圧、すなわちほぼ9V 垂直方向が時間の軸となっており、通常のオシ であるのに対し、Tr2のコレクタ端子からの出 ロスコープの場合と水平軸と垂直軸が入れ替わ 力時には“Low”レベルについては0Vで同様 であるが、 “High”レベルについては、電源電 50Ωで分圧した値、す 圧をTr2右方の2kΩと1 なわち約06 . Vとなる。 一方、コンパレータICの1ピンから出力さ れ、微分回路及びNOTゲートにおいて波形整 形されたPPM信号は、Tr1に入力される。Tr1 はコレクタ接地回路であるため、ベース端子へ の入力信号とエミッタ端子における出力信号と の 電 圧 レ ベ ル( “High”ま た は“Low”)は 反 転されず同相となる。ただし、その電圧レベル は、Tr1のベース端子への入力時には“Low” レベルが接地電圧、すなわち0V、“High”レ ─ 57 ─ 図9 テレビ・オシロスコープ化装置の外観 4−2 考察と今後の課題 今回開発したテレビ・オシロスコープ化装置 により、図1 0に示した通り、テレビ画面上に電 気信号波形を表示させ観察可能とするという、 所期の目的を達成することができた。 ただし、それは限られた条件下でのみ可能で あった。今回開発したTVオシロは、水平同期 信号発生回路を備えているが、垂直同期信号を 発生していない。したがって、観察対象信号が NTSC方式の規格上の垂直走査周波数である 6 0Hzまたはその整数倍の周波数である場合に (a) は、画面上で信号波形が静止して見えるが、そ れ以外の周波数の場合、タイマIC近傍の可変 抵抗を調節して水平走査周波数を変えることに より若干の調節は可能であるが、基本的に画面 上で信号波形が静止せず流れてしまう。垂直同 期機能を追加して、任意の周波数の観察対象信 号を画面上で静止させて観察可能とすることは、 今後の課題である。 また、本論文ではコンパレータIC LM39 3N に含まれるコンパレータを1個しか使用してい ないが、コンパレータを2個使用すれば、同時 (b) に2種類の信号を観察する 2チャンネル化が 図10 TVオシロ動作中の画面写真((a) 120Hz,(b) 600 Hz) 実現可能である。2チャンネル化についても、 今後開発を進めたい。また、さらにコンパレー タを増やせば、さらなる多チャンネル化も可能 っている。通常のオシロスコープを使い慣れて である。なお、その際、本論文では割愛した色 いる人にとっては、最初は違和感があるかもし 信号を利用し、複数チャンネルの各信号波形を れない。その場合は、テレビを左に9 0度回転さ 異なる色で表示させることについても検討した せて観察しても良いであろう。 い。 また、水平軸と垂直軸の基準値、例えば、1 Vの電圧や1msの時間が、テレビ画面上でい 5 結言 かほどの距離になるかということが、このまま では定かではない。今回開発したTVオシロで 本論文は、埼玉大学教育学部技術教育講座・ は、音声信号等を含む簡単な交流電気信号を定 石田康幸教授の定年退職を記念して、同講座の 性的に観察することを想定していたため、定量 電気技術分野担当教員によって執筆されたもの 的な観察が必要な場合は、あらかじめ信頼でき である。 る計測器を用いてTVオシロを校正してテレビ 我が国におけるNTSC方式によるカラーテレ 画面上に電圧や時間の基準線を書いておく必要 ビ放送は、1 9 60年9月1 0日にアメリカ、キュー があろう。 バに次いで世界で3番目に始まった。当時はま ─5 8─ だ白黒放送がメインで、カラー放送は一日に数 学校現場などにおいて多くの人々にとって電気 分から数時間程度であったが、その後、1 9 6 4年 技術の学習活動に役立つことができ、それによ 10月の東京オリンピックの熱狂を経て、1 9 7 3年 り、長年活躍したブラウン管式テレビに第二の 頃には終日カラー放送となり、カラーテレビの 人生を与えることができれば、筆者にとって望 普及率も白黒テレビのそれを逆転した。その後、 外の喜びである。 現在では一家に1台以上の広範な普及を見るに また、石田教授におかれても、今後とも多大 至った。 なる活躍をされ、新たな人生が益々充実したも カラーテレビ放送は、時代の激しい変革にさ のとなることを願いつつ、筆を置くこととする。 らされながら急速な進化を遂げ続けている電気 参考文献 電子産業界において、その放送開始からいわゆ る高度経済成長期を経て2 1世紀初頭の現在に至 るまで、戦後50年もの長きに渡って人々の生活 の第一線にとどまり続け、また人々の期待に応 え続けてきたのである。その活躍は、まさに石 1)滝本穣治・落合淳平・竹野英敏:茨城大学教育 学部紀要(教育科学)57号,pp.95−104(20 08). 2)社団法人電子情報技術産業協会:20 11年地上ア ナログ放送終了に伴うテレビの排出台数予測, 田教授の足跡とも軌を一にしている。 経済産業省産業構造審議会環境部会廃棄物・リ 石田教授は、19 6 8年に横浜国立大学を御卒業、 サイクル小委員会電気・電子機器リサイクルワ 19 70年には東京農工大学大学院修士課程を御修 ーキンググループ中央環境審議会廃棄物・リサ 了され、同年より千葉県農業試験場にて栽培技 イクル部会家電リサイクル制度評価検討小委 員会合同会合(第7回)配付資料,pp.4−5 術の研究に携わった後、1 9 7 9年に埼玉大学教育 (2 007) . 学部に着任された。実に大学卒業以来4 0年もの 長きに渡って栽培技術の研究者並びに教育者と 3)日本放送協会:カラーテレビ受信技術(増補 版),日本放送出版協会,pp.9−1 6(1 990) して第一線において活躍し続けて来られた。 このように、時を同じくして戦後日本の発展 4)比嘉善一:電気教具の研究─テレビオシロスコ ープ─,琉球大学教育学部紀要第2 3集,p.16 1 を支えてきた石田教授とカラーテレビの両者が、 21世紀が始まって10年が経とうとしているこの −16 6(19 79) . 5)徳永良男:ワイヤレス・オシロの試作,トラン 時期に、再び時を同じくしてその歴史的使命に ジスタ技術1 97 4年3月号,CQ出版社,p.24 1− ひとまずの終止符を打とうとしているのは、単 2 48(1 974) . なる偶然ではあるまい。 本論文で開発したテレビ・オシロスコープ化 (20 0 9年9月3 0日提出) 装置により、地上アナログ放送が停波した後の (20 0 9年10月16日受理) ブラウン管式テレビが廃棄処分されることなく、 ─ 59 ─ Development of the device that makes a television an oscilloscope Koji OGIKUBO Keywords:Oscilloscope, Cathode-ray tube type television, Analog broadcasting, Digital broadcasting, Electric and electronic technology The device that makes a cathode-ray tube (CRT) type television an oscilloscope was developed. The conventional analog broadcasting will be stopped to shift to the digital broadcasting completely on July 2 4, 2 0 1 1. Therefore, a large number of cathode-ray tube type televisions will become unnecessary, and they would be discarded in large quantities. They would become the great pressure to the environment. To reduce such social anxiety, and to use such televisions as oscilloscopes effectively for the learning of the electric and electronic technology in a technology education course in a junior high school, the device that makes a television an oscilloscope was developed. The result of production of this device, the expected purpose of observing an electric signal on the television could be achieved under the limited condition. Further several improvements will be added to the device in the future. ─6 0─