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事 後 評 価 報 告 書
日本学術振興会拠点大学交流事業 インドネシアとの交流(木質科学) 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Science for Sustainable Utilization of Forest Resources in the Tropics 事 後 評 価 報 告 書 実施期間 (1996 年度∼2005 年度) 2006 年 7 月 京都大学生存圏研究所 目 次 評価資料の要約 Executive Summary 1 2 1. 事業の目標 3 2. 事業の実施状況 2-1 事業の全体的な体制 2-2 共同研究の体制 2-3 セミナーの実施状況 2-4 研究者交流など、その他の交流の状況 2-5 事業に対する相手国拠点大学、対応機関との協力の状況 3. 事業を通じての成果 3-1 交流による学術的な影響 3-2 共同研究を通じて発表された研究業績 3-3 セミナーの成果 3-4 若手研究者の交流に関する成果 3-5 交流を通じての相手国からの貢献 3-6 交流を通じての相手国への貢献 3-7 成果の社会への還元 3-8 予期しなかった成果 3-9 課題・反省点 3-10 交流事業終了後の展望 22 24 34 35 37 38 39 40 40 41 4. 参考資料 41 3 8 17 20 21 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 評価資料の要約 地球上における最大の再生資源である森林・木質資源の効率的かつ環境に調和した生産と利用システムの構 築が、持続型社会を確立する上できわめて重要である。特に、熱帯の早生樹木、低質・未利用な木材、森林・ 農産廃棄物等の利用技術の確立が、 わが国はもちろんインドネシアをはじめとする東南アジア諸国から強く求 められている。このような背景のもと、 「木質科学」に関して京都大学木質科学研究所(現:京都大学生存圏 研究所)が日本側の拠点校となり、1996 年からインドネシア、マレーシアとの間で、 循環型社会の構築を目 指した熱帯森林資源の持続的な生産と利用 について、アジアの地域性に関連する共同研究を実施し、国際的 な学術交流事業を充実・発展させてきた。 この事業に参画した国内協力校は拠点校を含めて、20 大学に及び、参画研究者は当研究所の研究者を合わ せて 151 名に達している。一方、インドネシア側は、25 大学・研究機関から 164 名の研究者が参加し、2001 年度よりマレーシアの大学・研究機関が参画、2005 年度には 4 大学・研究機関、12 名の研究者が参加してい る。さらに、2004 年度にはフィリピンとタイの各1研究機関・大学から、2005 年度からはベトナムの1大学 から研究協力者として加わった。 循環型社会を目指した熱帯森林資源の持続的な活用のため、1)熱帯森林資源の持続的利用のための木質 材料科学、2)熱帯産樹種を対象とする木質バイオマス利用技術の開発、3)熱帯産樹種を対象とする木質生 命科学およびその応用技術の開発、4)森林資源と環境科学の横断的研究プロジェクト、の 4 つの主要研究課 題のもと、合計 26 の課題について国際共同研究を推進してきた。この国際共同研究者の日本側代表研究者に は、当研究所内だけでなく国内協力校の研究者もこれに当て、当研究所が日本側の拠点としての役割を果たし てきた。共同研究の成果は学術雑誌、国際会議等で積極的に発表されてきたが、得られた成果は学術面だけで なく、産業界での実用化と製品化にもむすびついている。 一方、1996 年度から隔年に、日本とインドネシア側で交互に国際木質科学シンポジウムを開催してきたが、 最終年度にあたる 2005 年度には、本交流事業の総括として第 6 回目を、 Towards Ecology and Economy Harmonization of Tropical Forest Resources を統一テーマに盛大に開催した。 国際交流事業ではより積極的に研究者、留学生を受け入れ、2005 年度までに日本政府国費留学生(拠点交 流事業枠)3 名、論博研究者 2 名に京都大学から博士(農学)の学位が授与された。現在、3 名の博士課程国費 留学生が拠点交流事業枠で、また1名の論博研究者が当研究所に在籍している。 本交流事業がその設立に貢献した インドネシア木材学会 は順調に発展し、会員数は 1996 年の創設時の 30 名から、2005 年には 200 名以上へと大きく増加して、学会誌”Jurnal Ilum dan Teknologi Kayu Tropis(Journal of Tropical Wood Science and Technology)”も発刊され、インドネシア国内の研究者の学術交流の場となってい る。また、本プログラムによる研究成果がインドネシア政府に高く評価され、2003 年に木質・生物資源材料 関連の研究所として “Research and Development Unit for Biomaterials – LIPI”が設立された。 本事業の総括的な成果については、事業年度の中間の 2000 年度と最終年度に英文報告集 Report of JSPS-LIPI Core University Program を出版し、さらに、2002 年度に「実績・評価報告書」を、2004 年度に「実 績・成果報告書」をとりまとめた。また、これら国際学術交流の状況や成果は、 International Newsletter (A4 判 8 ページ)として年2回発行し、広く内外に配布するとともに、ホームページを充実させ、拠点大学方式に よる交流事業の内容や共同研究・交流等の情報を紹介してきた。 1 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Executive Summary The JSPS-LIPI Core University Program in the Field of Wood Science started since 1996 for conducting the international cooperative research to establish the science for the sustainable development and utilization of forest resources in the tropics. The Research Institute for Sustainable Humanosphere (RISH), Kyoto University, which was established since 2004 from the previously existing organizations, the Wood Research Institute (WRI) has been implementing collaborative research with the counterpart core institute, the Research and Development Unit for Biomaterials, Indonesian Institute of Sciences (LIPI), which has recently become independent and expanded from the Research Center for Physics, LIPI, the collaborating universities in Indonesia, and Universiti Putra Malaysia (UPM) in Malaysia. The program has been focusing on the establishment of the sustainable production and utilization system for forest resources especially in the tropical regions, where contains a plenty of resources and biodiversity. Our research target is also indispensable for promotion of the wood industries of Japan and Indonesia, as well as other Southeast Asian countries. By this year, 151 Japanese scientists, 164 Indonesian scientist and 12 scientists from Malaysian universities, and one scientist from Philippines, Thailand and Vietnam, respectively, have been engaged in this program to expand the research collaboration. We have set up for convenience four major research areas for the collaborative research: 1) Wood material science, 2) Wood biomass chemistry, 3) Wood bioscience, and 4) Wood and environment science, and since 1996, 26 collaborative research projects have been conducted. We have obtained the academic achievements which have been published in the scientific journals, as well as the technological knowledge which was practically conducted in the commercial process. Another important academic activity is the organization of the international wood science seminar/symposium (IWSS). The first IWSS was held in Kyoto, Japan, in 1996, and since then, four symposia have been held every two years in Serpong and Kyoto, in turn. In 2005, which is the last fiscal year of the program, the 6th IWSS was held in Bali, Indonesia. The scope of the meeting was focused to summarize the program and propose future collaborations. After the start of the program, five Indonesian scientists who are members of the program have graduated from Kyoto University and received their PhD degrees either on the PhD course of study or through the Ronpaku system. At present, three scientists are studying in Kyoto University as PhD degrees candidates. It is noteworthy that the Core University Program contributed significantly to the establishment of the Indonesian Wood Research Society in 1996. The society grew up in the numbers of the members as well as the research activities publishing the academic journal. Also, it should be noted that a research center for biomaterials has been established. In the reorganization of LIPI in 2001, the establishment of a biomaterial research center was proposed, based on the successful results of the Core University Program, and the laboratory has become independent and expanded to become the Research and Development Unit for Biomaterials (RDUB) In the midterm and the end of the program, we published the research reports entitled as “Science for Sustainable Development and Utilization of Forest Resources in Tropics“, to summarized the research results of this program. For evaluation of the program, the evaluation reports on the program were published on 2003 and 2005, and circulated to the related researchers and organizations. The activities of the program has been announced by the brochure of “International Newsletter” from 1997(No.1) to 2006(No.18), and presented on the web-site of home-page of our institute. 2 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 1.事業の目標 石油などの化石資源に基づく産業社会は先進国のみならず発展途上国にも大いなる繁栄をもたらしたが、 一 方で温暖化の原因となる二酸化炭素の増加など、地球環境に深刻な負の影響を及ぼしている。それゆえ、化石 資源利用に代わり、 再生可能な資源利用を基盤とした持続型社会を構築することがますます重要となっている。 地球上の再生可能資源のうち、最多蓄積量を誇るのは、森林・木質資源である。したがって、木質資源の効 率的かつ環境に調和した生産と利用システムの構築が、持続型社会を確立する上できわめて重要である。特に 熱帯地域の森林資源は蓄積量のみならず生物種の多様性、 さらに物質循環の上でも重要なバイオマスとなって いる。一方、早生樹木、低質・未利用な木材、森林・農産廃棄物などの利用技術の確立が、わが国はもちろん インドネシアを始めとする東南アジア諸国から強く求められている現況にもある。さらに、早生樹木、低質・ 未利用な木材、森林・農産廃棄物などの利用技術の確立が、わが国はもちろんインドネシアを始めとする東南 アジア諸国から強く求められている。 以上の背景に鑑み、本事業では、1)熱帯森林資源の持続的な生産と利用と未利用バイオマス資源の利用に 関する技術開発、2)これらと関連する基盤研究の深化、3)さらに共同研究推進を通じた受入国、派遣国双方 の教育・研究レベル向上を目的とした。本事業は 1996 年度に開始され、京都大学木質科学研究所(現、生存 圏研究所)を日本側拠点とし、インドネシア科学院応用物理学研究開発センター(現、生物材料研究センター) をインドネシア側拠点とする体制で運営された。 2.事業の実施状況 2−1.事業の全体的な体制 本事業は、1996 年度、日本側 16 大学、参加研究者 79 名、インドネシア側 14 機関・大学、参加研究者 44 名が参加して開始された。共同研究の対象が木質科学に関する幅広い分野に拡大されてきたことに伴い、協力 大学・機関並びに参加研究者も下図のとおり年々増加してきた。 事業全体を通して、日本側 20 大学、参加研究者 151 名、インドネシア側 25 機関・大学、参加研究者 164 名の参加を得て実施した。また、事業の成果により当該分野の研究がインドネシアにとどまらず東南アジ ア諸国全体を含め、広域的かつ総合的に行うことが必須となったことから、2001 年度にはマレーシアが本事 業に参画し、最終年度には、4 大学・機関、参加研究者 12 名が参加した。なお、2004 年度からタイ、フィリ ピン、2005 年度からベトナムから各 1 名の研究者が参加した。 事業実施にあたっては、 両国のコーディネーター及びサブコーディネーター間において全体的な事業の方向 性について検討を行い、日本側においては教授2名、若手研究者2,3名から構成される本研究所国際交流員 会が事業運営を、宇治地区事務部研究協力課が研究支援事務を行った。 また、各協力大学に代表者をおき、年1回「連絡協議会」を開催し、事業運営に関する意見交換、共同研究 進捗状況及び成果についての報告を定期的に行い、円滑な事業実施に努めた。 日本側研究者 インドネシア側研究者 京都大学 生存圏研究所 43人 協力大学等 108 人 協力大学・機関等 LIPI 生物材料 研究センター 17 人 LIPI他研究所・ センター 27人 117人 3 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 協力校数と参加者数の推移 (単位:人) (機関) 30 160 140 25 120 20 100 80 15 60 10 40 5 20 0 日本側参加者数 インドネシア側参加者数 その他の国からの参加者数 日本側協力校数 インドネシア側協力校数 その他の国からの参加校数 1996 79 44 0 15 13 1997 84 66 0 15 15 1998 83 70 0 15 15 1999 89 83 0 16 17 2000 89 91 0 16 19 2001 90 108 7 18 19 2 2002 106 105 7 18 23 2 2003 111 133 10 19 23 4 2004 121 141 14 19 23 4 2005 129 145 14 19 24 4 0 (年度) 日本側・相手国側における実施組織の概要を以下に示す。 日本側拠点・協力大学 拠点大学 京都大学生存圏研究所(旧:京都大学木質科学研究所) コーディネーター 1996 年度 ∼ 2000 年度 桒 原 2001 年度 ∼ 2003 年度 則 元 2004 年度 ∼ 2005 年度 今 村 正 章 旧木質科学研究所長 京 旧木質科学研究所長 祐 嗣 生存圏研究所教授 サブコーディネーター 1996 年度 ∼ 1998 年度 川 井 秀 一 旧木質科学研究所教授 1999 年度 ∼ 2000 年度 島 田 幹 夫 旧木質科学研究所教授 小 松 幸 平 旧木質科学研究所教授 旧木質科学研究所教授 生存圏研究所助教授 (2005 年 7 月∼ 同教授) 2001 年度 2002 年度 ∼ 2003 年度 今 村 祐 嗣 2004 年度 ∼ 2005 年度 梅 澤 俊 明 4 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 運営組織 国際交流委員会(委員長 1 名、委員 5 名) 本研究所教員より選出し、任期は 2∼3 年。 事務組織 研究協力課長 宇治地区事務部長 国際交流掛 補助金掛 日本側協力大学及び研究協力者所属大学(事業最終年度) (協力大学名は事業加入の年度の順に記載) 協力大学(19 大学) 研究協力者所属大学(10 大学) ・北海道大学大学院農学研究科 ・福井工業大学工学部 ・秋田県立大学木材高度加工研究所 ・同志社大学工学部 ・岩手大学農学部 ・筑波大学大学院生命環境科学研究科 ・宇都宮大学農学部 ・千葉大学園芸学部 ・東京大学大学院農学生命科学研究科 ・中部大学工学部建築学科 ・東京農工大学大学院共生科学技術研究部 ・滋賀県立大学環境科学部 ・岐阜大学応用生物科学部 ・東京大学アジア生物資源環境研究センター ・静岡大学農学部 ・山口大学農学部 ・名古屋大学大学院生命農学研究科 ・大阪教育大学教育学部 ・京都大学大学院農学研究科 ・鹿児島大学農学部 ・京都府立大学大学院農学研究科 ・鳥取大学農学部 ・島根大学総合理工学部 ・愛媛大学農学部 ・高知大学農学部 ・九州大学大学院農学研究院 ・山形大学農学部 ・香川大学農学部 ・近畿大学農学部 相手国側拠点・協力大学 拠点大学 Research and Development Unit for Biomaterials, LIPI (インドネシア科学院生物材料研究センター) コーディネーター 1996 年度 ∼ 2000 年度 ∼ 1999 年度 Anung KUSNOWO Head of R & D Center for Applied Physics, LIPI 2002 年度 Achiar OEMRY Head of R & D Center for Applied Physics, LIPI 5 京都大学 2003 年度 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 ∼ 2005 年度 サブコーディネーター 1996 年度 ∼ 1999 年度 Endang SUKARA Deputy Chairman for Life Sciences, LIPI Bambang SUBIYANTO Researcher, R & D Center forApplied Physics, LIPI 2000 年度 ∼ 2001 年度 Sulaeman YUSUF Researcher, R & D Center forApplied Physics, LIPI 2002 年度 ∼ 2003 年度 Wahyu DWIANTO Researcher, R & D Center forApplied Physics, LIPI 2004 年度 ∼ 2005 年度 Bambang SUBIYANTO Head of Unit for Biomaterials ,LIPI 協力大学 インドネシア 協力大学(24 機関・大学) 研究協力者所属大学(3 機関・大学) ・Research Center for Physics, LIPI ・Research Center for Chemical and Packaging, ・Research Center for Chemistry, LIPI ・ Technical Implementation Unit for Chemical Processing of Materials, LIPI Ministry for Industry and Trade ・Ministry of Research and Technology ・Faculty of Engineering, Syiah Kuala University ・Research Center for Biotechnology, LIPI ・Research Center for Biology (Botany Division), LIPI ・Research Institute of Human Settlements Technology ・Research and Development Center for Forest Products Technology ・Bogor Agricultural University ・Biotechnology Research Unit for Estate Crops ・Institute for Research and Development of Cellulose Industry, Bundung (IRDCLI) ・Faculty of Forestry, Gadjah Mada University ・Center for Research and Development of Isotopes and Radiation Technology, National Nuclear Energy Agency ・Faculty of Forestry, Mulawarman University ・Faculty of Forestry, Winaya Mukti University ・Faculty of Forestry, Tanjungpura University ・Forestry Department, Hasanuddin University ・The University of North Sumatera ・Department of Forestry, Bengkulu University ・Environment Research Center, Lambung Mangkurat University ・Civil Engineering Department, Sriwijaya University ・Foresty Department, Faculty of Agriculture, The State University of Papua ・Environmental Engineering Department, Bandung 6 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Institute of Technology ・Forest Department, Faculty of Agriculture, Pattimura University ・Research Center for Pulp and Paper マレーシア 協力大学(4 機関) ・Dept. of Forest Production, Faculty of Forestry, Universiti Putra Malaysia ・School of Biological Sciences, Universiti Sains Malaysia ・Forest Research Institute, Malaysia ・Faculty of Civil Engineering, Universiti Teknologi Mara タイ 研究協力者所属大学(1 大学) ・Dept. of Forest Products, Faculty of Forestry, Kasetsart University フィリッピン 研究協力者所属機関(1 機関) ・Forest Products Research and Development Institute, Department of Science and Technology 京都大学 生存圏研究所 インドネシア科学院 生物材料研究センター 7 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 相手国協力機関・大学の配置図 2−2.共同研究の体制 拠点大学事業において最も重要な事業が共同研究である。 この共同研究は基本的に一つの研究課題を3年間 で完結させるもので、26 課題の共同研究を実施してきた。 共同研究の推進にあたっては、本拠点校プログラム 木質科学 の分野において重要な課題である、 「循環 型社会を目指した熱帯森林資源の持続的な活用」 のため、 下記に示す 4 つの主要カテゴリーに沿って実施した。 1)熱帯森林資源の持続的利用のための木質材料科学 2)熱帯産樹種を対象とする木質バイオマス利用技術の開発 3)熱帯産樹種を対象とする木質生命科学およびその応用技術の開発 4)森林資源と環境科学の横断的研究プロジェクト 当初、木質材料科学の研究が先行したが、その後、木質バイオマス利用技術や木質生命科学およびその応用 技術まで広がり、さらに、森林資源と環境科学の横断的研究プロジェクトまで拡大してきた。また、本拠点校 事業が余すところ 3 年となった 2003 年度には「循環型社会の構築に向けた熱帯森林資源の持続的生産・利用 に関する俯瞰的研究」(課題 25)を立ち上げ、過去の総括と今後の進むべき方向性につき検討を行った。 共同研究の研究テーマの設定については、日本側と相手国側の事前調整を前提に、一定の書式に沿った提案 書を研究協力者からコーディネーターに提案してもらい、 インドネシア側コーディネーターの意見も参考にし、 本事業の趣旨を基準にして国際交流委員会で採択を決定した。 これら国際共同研究の日本側代表研究者は、 15 課題が拠点大学、 残りの11 課題が協力大学の研究者であり、 国内協力大学の研究者が共同研究の代表者として積極的に本事業に参画していることを示し、 当研究所が日本 8 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 側拠点大学としての役割を果たしているといえる。相手国側代表研究者についても、15 課題が拠点大学、残 りの 11 課題が協力大学の研究者(うち 1 課題は、マレーシア)であり、インドネシア科学院が中心となりな がら広くインドネシア国内において共同研究を実施したことがうかがえる。 4 つのカテゴリーに沿って実施された 26 研究課題は次のとおりである。(代表者の所属機関名は、当時のも の) 1) 熱帯木質資源の持続的利用のための木質材料科学 (課題1)早生樹、竹、農産廃棄物を用いた木質セメントボードの開発と住宅外装サイジングとして の適用性 Cement Bonded Particleboard from Fast-growing Trees, Bamboo and Agrowastes, and its Application to Housing Exterior Siding 研究期間 1996 年度∼1998 年度 研究代表者 川井 秀一 Bambang SUBIYANTO 京都大学木質科学研究所 R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 6 名、インドネシア側 6 名 活動内容 熱帯産の早生樹、竹材および農産廃棄物等を原料に用い、各種無機添加物と蒸気 噴射プレス法を適用して木質セメントボードの急速硬化技術を開発し、さらに、 木質セメントボードの耐火性能、防腐・防虫性能、および耐候性を調べた。それ を踏まえ、建築の外装部材としての適用性を検討し、インドネシアにおける新し い外装壁材供給のための総合的な製造および利用技術の開発を行った。 (課題2)早生樹ならびに農産廃棄物を原料にした化学修飾木質材料の耐候性 Weathering Properties of Chemically Modified Wood-based Materials from Fast-growing Trees and Agrowastes 研究期間 1996 年度∼1998 年度 研究代表者 高橋 旨像 Sulaeman YUSUF 京都大学木質科学研究所 R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 5 名 活動内容 木材および木質材料の劣化は、光、水、腐朽菌、虫、大気中の塵埃など複合因子 により発生し、外構材料として適用するには耐候性の改善が必要である。1)熱 帯産の早生樹を原料に用いた化学修飾木質材料の耐候性の評価、2)耐候性に影 響する因子に関する因子の評価、3)価格競争力のある外構用化学修飾木材の開発 を行った。 (課題3)水熱処理による早生樹圧密化木材および木質材料の高寸法安定化 Dimensionally Stable Compressed Wood & Composite Wood Products from Fast-growing Trees by High-pressure Steam Treatment 研究期間 1996 年度∼1998 年度 研究代表者 則元 京 Myrtha KARINA 京都大学木質科学研究所 Research Center for Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 3 名 活動内容 早生樹を構造材、内装・家具材として利用するには、強度や表面硬度を改善する 9 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 ことが必要である。このためには、木材横方向圧縮と固定の加工法が効果的であ り、1)圧縮変形固定のための新しい技術の開発、2)変形固定メカニズムの解明、 3)圧縮木材の表面性状や強度の評価、4)圧縮材を用いた木質新素材の開発に ついて研究を行った。 (課題4)農産廃棄物および早生樹を用いた耐火性木質材料の開発 Fire Resistive Wood Composites from Agrowastes & Fast-growing Trees 研究期間 1996 年度∼1998 年度 研究代表者 石原 茂久 SUBYAKTO 京都大学木質科学研究所 R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 3 名、インドネシア側 2 名 活動内容 インドネシア産の低質木材の利用促進を行うためには、塗装や熱圧等、簡単な処 理によって木材に耐火性能を付与することが必要不可欠である。これを実現する ためには機能傾斜材料化、金属アルコシド丹夜処理あるいは炭素セメントなどの 無機物質の複合化が有効であることから、1)草生樹を用いた木質材料の簡潔な 新規耐火性能付与技術の開発、2)高強度、高寸法安定性の付与、3)住宅パネ ル材料としての適用性について研究を行った。 (課題5)早生熱帯樹種の生長機構 Growth Mechanism of Fast-growing Species in Tropical Forest 研究期間 1996 年度∼1998 年度 研究代表者 奥山 剛 名古屋大学大学院生命農学研究科 Yusuf Sudo HADI Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 3 名 活動内容 熱帯樹木の育種・育林技術の改善には,成長応力のコントロールが重要な課題と なっている。このため、1)成長応力発生機構の解明のために,実測される成長 応力と成長速度との関係の明確化、2)成長応力を樹種,育林方法等,条件毎に 整理し現場に適用する技術の確立を行った。 (課題9)早生樹種および低利用樹種の最適機械加工および乾燥技術の開発 Development of Optimum Machining and Drying Methods for Fast Grown Species and Lesser Use Species 1999 年度∼2001 年度 研究期間 研究代表者 林 和男 愛媛大学農学部 Edi Suhaemi BAKAR Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 3 名、インドネシア側 5 名 活動内容 熱帯産の早生樹種や低利用木材を有効利用するために、機械加工性や乾燥性に対 する問題点を明らかにした。それらの結果をもとに、最適な加工法や利用技術を 検討した。 (課題10)竹材の軟化挙動とそれを応用した加工 Softening Behavior and Its Application of Bamboo 10 京都大学 研究期間 研究代表者 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 1999 年度∼2001 年度 則元 京 京都大学木質科学研究所 Wahyu DWIANTO R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 5 名、インドネシア側 3 名 活動内容 竹材は東南アジアにおける再生産可能な成長の著しい生物資源である。竹材の軟 化挙動、大変形特性、変形の一時固定などを総合的に検討し、さらに寸法安定化 技術を開発するなど、竹材の高度加工の基礎となる学術知見の構築について研究 を行い、また、得られた成果の応用を試みた。 (課題11)熱帯産木質資源の高耐久利用技術の開発 Development of Integrated Technology on High-performance Utilization of Tropical Forest Resources 1999 年度∼2001 年度 研究期間 研究代表者 今村 祐嗣 京都大学木質科学研究所 Wiwik S. SUBOWO R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 7 名、インドネシア側 9 名 活動内容 熱帯木質資源の耐候性、耐朽性、耐シロアリ抵抗性、難燃耐火性を、気候環境の 異なる日本およびインドネシアにおいて総合的に検討した。また、シロアリの分 布と種の同定、非破壊的な劣化診断法の開発、木質複合材料の高耐久化にも取り 組み、さらに熱帯産木材に含まれる未知の耐久性成分の化学的解析をも行った。 (課題18)木質系複合材料の熱帯での生物的劣化防止と難燃性付与のための新しい試み New Strategies for Controlling Tropical Biodegradation of Woody Composite Materials 2002∼2005 年度 研究期間 古川 郁夫(2002∼2004) 研究代表者 鳥取大学農学部 今村 祐嗣(2005) 京都大学生存圏研究所 Sulaeman YUSUF R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 7 名、インドネシア側 6 名、マレーシア側 2 名 活動内容 熱帯地域における木質材料の総合的木材保存システム(IPS)の提案を目的に、環 境調和型木材保存剤で処理した木材や木質系複合材料(住宅外構部材)の熱帯性 シロアリによる劣化様式の特徴を把握するとともに、劣化程度の評価を行った。 特に熱帯地域におけるシロアリの生態的特性を考慮した防除法ならびに難燃性付 与のための基礎的検討を行った。 (課題19)熱帯産木材からの構造用 LVL の開発とその住宅構造部材としての性能評価 Development of Structural LVL from Tropical Wood and Evaluation of their Performance for the Structural Components of Wooden Houses 2002 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 小松 幸平 Sutadji YUWASDIKI 京都大学生存圏研究所 Research Institute for Human Settlements 参加研究者数 日本側 5 名、インドネシア側 5 名 活動内容 熱帯産木材で製造された LVL(単板積層材)の基本的性質を実験的に明らかにす 11 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 ると同時に、その用途として期待できる木造軸組構法住宅の柱、梁としての性能 特性の把握、耐力壁や床となった場合の構造性能について実験的、解析的検討を 行った。 (課題20)アカシアマンギウムの総合的利用 Total Utilization of Acacia mangium 2002 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 矢野 浩之 京都大学生存圏研究所 SUBYAKTO R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 5 名 活動内容 熱帯地域の主要な植林樹種であるアカシアマンギウムについて、植林地の持続的 経営のための指針と建築用途への積極的転換利用をはかるため、乾燥、グレーデ ィング、接着剤、木質材料といった異なる専門分野のインドネシアおよび日本の 研究者が、樹皮接着剤をキーテクノロジーとして総合的な共同研究を行った。 (課題22)インドネシア産主要樹種の特性評価ならびに未利用樹種の新規用途開発 Characterization of Main Wood Species and Development of Novel Utilization of the Unused and Unvalued Wood Species Grown in Indonesia 2002 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 湊 和也 京都府立大学大学院農学研究科 Wahyu DWIANTO R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 6 名、インドネシア側 6 名 活動内容 未利用材ならびに早生樹種を含む熱帯産木材について、建築部材としての利用に 深く関係する熱圧成型性、乾燥加工性、力学的性質、および保存処理等のための 注入性や防腐・防虫性、耐候性などについて合目的性の観点からの評価を行い、 より有効な用途開発のためのデータベースを構築した。 (課題26)持続可能型リグノセルロース及び接着剤原料を用いた環境に優しいバイオマテリアルの 開発研究 Development of Environmentalyy Friendly Biocomposites from Sustainable Lignocelluosic and Adhesive Resources 2004 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 滝 欽二 静岡大学農学部 Bambang SUBIYANTO R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 7 名、インドネシア側 6 名、マレーシア側 2 名 活動内容 多様な早生樹や農業副産物からの高性能バイオマテリアルの開発・製造を目的に、 天然系の新しい接着剤など環境に配慮したボード製造製造技術の研究を行った。 2) 熱帯産樹種を対象とする木質バイオマス利用技術の開発 (課題6)生物的手法を用いる熱帯産木質資源からのパルプ・紙の生産 Production of Pulp and Paper by Using Biological Methods from Tropical Wood Resources 1997 年度∼1999 年度 研究期間 12 京都大学 研究代表者 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 桒原 正章 京都大学木質科学研究所 Bambang PRASETYA R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 5 名、インドネシア側 8 名 活動内容 熱帯木質資源は主要な紙の原料である。微生物やその生産する酵素の持つ能力を パルプ・紙の製造の諸工程に組み込み、低エネルギーおよび低薬剤使用型で、公 害の発生のない低環境負荷の製造工程の構築に取り組んだ。 (課題7)熱帯産広葉樹の生理活性抽出成分の探索と同定 Survey and Identification of Biologically Active Extractives from Tropical Hardwoods 1997 年度∼1999 年度 研究期間 研究代表者 梅澤 俊明 京都大学木質科学研究所 Wasrin SYAFII Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 5 名、インドネシア側 3 名 活動内容 民間伝承により生理活性成分を含むと考えられる、数種の熱帯産樹木を対象に、 その成分検索、活性成分の同定、及びフィールドテストを含めた活性試験などを 行った。特に、抗蟻性、抗木材腐朽菌活性、抗腫瘍活性などを持つ、リグナンを 始めとする成分を集中的に検索した。また、母植物を伐採せずに、有効活性成分 を培養細胞系で生産する基礎として、活性成分の生合成機構についても検索を行 った。 (課題12)有機系廃棄物のコンポスト化による資源化・循環 Composting of Organic Wastes into Multifunctional Recyclates 1999 年度∼2001 年度 研究期間 研究代表者 寺沢 実 北海道大学大学院農学研究科 Neni SINTAWARDANI Research Center for Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 3 名 活動内容 し尿、畜産廃棄物、食品残さ等のコンポスト化を目的に、熱帯産木材のオガ屑を 用いた場合のバクテリア繁殖へ与える影響を調べ、さらに有機系廃棄物の資源化 処理に有効に働くバクテリア類のスクリーニングもターゲットに入れて研究を行 った。 (課題16)熱帯産造林木のパルプ化および漂白過程における抽出成分の挙動 Behaviors of Extractives during Pulping and Bleaching of Tropical Plantation Woods 2000 年度∼2002 年度 研究期間 研究代表者 飯塚 堯介 東京大学大学院農学生命科学研究科 Wasrin SYAFII Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 5 名 活動内容 熱帯産造林木からのパルプ製造技術に特有の諸問題を明らかにするとともに、そ の最適化に資することを目的とし、1)熱帯産造林木のパルプ化、2)熱帯産造 林木パルプの漂白、3)パルプ化、漂白における抽出成分の挙動、4)パルプの 品質評価などに取り組んだ。 13 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 (課題24)未利用植物資源からのセルロース系材料とバイオマスケミカルスの生産 Production of Cellulosic Materials and Biomass Chemicals from Unutilized Plant Resources 2003 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 渡邊 隆司 Bambang PRASETYA 京都大学生存圏研究所 R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 7 名、インドネシア側 9 名 活動内容 バイオマスから機能性ポリマーや有用ケミカルスを生産する生物化学的手法の確 立を目指し、微生物、酵素および化学反応を用いて、有効利用されていない熱帯 性植物資源からハイドロゲルなどの機能性ポリマーや有用ケミカルスを生産する 基礎的技術の開発について研究を行った。 3) 熱帯産樹種を対象とする木質生命科学およびその応用技術の開発 (課題8)熱帯樹木における木部形成の特質解明と材質特性の評価 Formation of Wood and its Quality Control of Fast-growning Trees in Tropical Forests 1998 年度∼2000 年度 研究期間 研究代表者 伊東 隆夫 京都大学木質科学研究所 Sri Nugroho MARSOEM Gadjah Mada University 参加研究者数 日本側 6 名、インドネシア側 4 名 活動内容 早生樹種の成長特性、早生樹種における施業体系と材質との関係、早生樹種にお ける欠点材の軽減因子、有用造林木(メランティ類、チーク)の形成速度と材質 との関係等を明らかにするため、解剖学的性質を中心とする基礎的形質の観点か ら調査した。 (課題13)造林チークの育林条件がその材質に及ぼす影響 Studies on the Effect of Silvicultural Conditionsto the Wood Qualites of Plantation Teak 1999 年度∼2001 年度 研究期間 研究代表者 奥山 剛 名古屋大学大学院生命農学研究科 Yusuf Sudo HADI Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 4 名、インドネシア側 2 名 活動内容 植林チークの生育環境が成長応力をはじめとする各種材質に及ぼす影響につい て、フィールド調査を中心とする実証的研究を行ない、さらに材質改良のための 指針を得ることを目指した。さらに、伝統的な育林施業法である"巻枯し処理 (girdling)"について、その科学的根拠の明確化についても取り組んだ。 (課題15)森林生態系における共生ならびに腐朽性担子菌類に特有な有機酸代謝の生化学的解析 Biochemical Analysis of Organic Acid Metabolism of Symbiotic and Saprophytic Basidiomycetes Occurring in Forest Ecosystems 2000 年度∼2002 年度 研究期間 研究代表者 島田 幹夫 Bambang SUBIYANTO 京都大学木質科学研究所 R&D Center for Applied Physics, LIPI 14 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 参加研究者数 日本側 3 名、インドネシア側 8 名 活動内容 グリオキシル酸回路の役割および生長促進機構の解明を目指し、1)有機酸生産 の生化学的原動力となっているグリオキシル酸回路の役割の酵素・遺伝子レベル での解析、2)外生菌根菌による宿主生育促進機構の解明および宿主生長促進物 質の同定、3)インドネシアにおけるマツ生育促進作用のある菌根菌の選抜と実 地試験、等を行った。 (課題17)ハイグレード熱帯造林木の解剖学的性質と材質特性 Anatomical Characteristics and Wood Quality of Tropical Plantation Trees for Quality Timbers 2001 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 野渕 正 京都大学大学院農学研究科 Mohd. Hamami SAHRI Universiti Putra Malaysia Imam WAHYUDI Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 3 名、インドネシア側 2 名、マレーシア側 2 名 活動内容 チーク、アガチス、フタバガキ科のメランティ類を中心に、将来良質材の持続的 生産に寄与するための基礎的知見を得ることを目的とし、木部形成と心材形成と の関係、未成熟・成熟材の特徴、あて材・交錯木理等の欠点材の特徴等について、 保育形式・方法と木材特性を関連づけて調査を行った。 (課題21)インドネシア産薬用植物および銘木由来の新規生理活性物質の検索 Investigation of the Novel Physiologically Active Substances Originated from Medicinal Plants and Fancy Woods in Indonesia 2002 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 荻山 紘一 山形大学農学部 Wasrin SYAFII Bogor Agricultural University 参加研究者数 日本側 7 名、インドネシア側 9 名 活動内容 世界の各地で森林資源、特に樹木や草本植物由来の抽出物の薬用素材としての価 値が再認識されつつある。インドネシア産の伝統薬用植物ならびに銘木類を調査 し、その抽出物の単離、同定ならびに生理および生物活性検定を行い、有用な新 規な生理活性あるいは生物活性成分を探索した。 (課題23)熱帯早生樹の組織培養と分子育種 Tissue Culture and Molecular Breeding of Fast-growing Tropical Trees 2001 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 吉澤 伸夫 宇都宮大学農学部 Nurul SUMIASRI Research Center for Biotechnology, LIPI 参加研究者数 日本側 9 名、インドネシア側 4 名、マレーシア側 1 名 活動内容 熱帯早生樹(アカシアマンギウム、センゴン、ニァトウなど)の組織培養による in vitro マイクロプロパゲ−ション及び熱帯産針葉樹木に含まれるモノテルペン 類の遺伝子解析を行った。 15 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 4) 森林資源と環境科学の横断的研究プロジェクト (課題14)オイルパームのゼロエミッションプロセス Zero Emission Processes for Oil Palm Utilization 1999 年度∼2001 年度 研究期間 研究代表者 川井 秀一 Bambang SUBIYANTO 京都大学木質科学研究所 R&D Center for Applied Physics, LIPI 参加研究者数 日本側 6 名、インドネシア側 7 名、マレーシア側 1 名 活動内容 オイルパーム廃異物のリサイクル利用に焦点を当て、4つの異なる生産プロセス、 すなわち、1)木質材料の製造、2)パルプの製造、3)糖の生産、および4) 木材炭化について、省エネルギー生産プロセスを開発し、さらに各生産プロセス におけるエネルギーフローを解析、最適化によって、ゼロエミッションプロセス の構築を目指した研究を行った。 (課題25)循環型社会の構築に向けた熱帯森林資源の持続的生産・利用に関する俯瞰的研究 Sustainable Production and Utilization of Tropical Forest Resources for Establishment of Recycling-based Society 2003 年度∼2005 年度 研究期間 研究代表者 梅澤 俊明 京都大学生存圏研究所 Bambang SUBIYANTO R&D Unit for Biomaterials, LIPI 参加研究者数 日本側 12 名、インドネシア側 4 名、マレーシア側 1 名 活動内容 本拠点校事業で実施された 25 共同研究を俯瞰的に総括するとともに、その結果を 基に、熱帯森林資源の育成保全ならびに木質資源の持続的再利用システムの構築 にむけての将来的な研究戦略の策定を行った。 共同研究の推移 また、共同研究の派遣・受入状況については、プログラム開始当初は、研究者交流枠による派遣・受入(2-4 で表示)が盛んに行われていたが、次第に共同研究枠による研究者の派遣・受入へシフトしてきた。特に、そ の中でも共同研究を目的とした相手国から日本への受入研究者数の伸びは著しく、 国際的な共同研究の推進と 相手国の教育・研究の向上を目指した交流がより盛んに行われたことを示している。 16 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 共同研究による派遣・受入の推移 派遣人数 受入人数 二国間長期交流事業受入人数 派遣日数 受入日数 二国間長期交流事業受入日数 (単位:人) (日数) 30 800 29 700 25 23 600 21 22 20 20 19 15 15 18 500 17 400 14 13 300 12 10 10 9 9 9 7 7 200 5 5 100 3 0 0 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年度) 2−3.セミナーの実施状況 セミナー(国際木質科学シンポジウム)は、1996 年から隔年開催され、これまでに 6 回、開催地は第 1 回 が日本に始まって以降、インドネシアと交互に開催した。本シンポジウムでは、アジアでは数少ない木質科学 に特化した国際学会としてレベルの高い研究成果の発表と議論が展開されており、また、国際学会へ参加する チャンスの少ないインドネシアの研究者に対し、 国際レベルの研究発表の場をもたらす貴重な機会としても高 く評価されてきた。 また別途、2003 年度には、代表的な早生樹であり、本事業の研究における対象樹木として最も重要なアカ シアマンギウムに関する特別シンポジウムを京都で開催した。この特別シンポジウムは、本交流事業関係者以 外の反響も大きく、世界各国からプロシーディングスの送付依頼が多数あり、当該分野の今後の研究が一層進 展するきっかけとなった。 なお、最終年度である 2005 年度には、インドネシア・バリ島において「熱帯森林資源の保全と利用の調和を 目指して」を統一テーマに、過去の共同研究で得られた成果を俯瞰的に総括するとともに、その結果を基に将 来的な国際共同研究について討論を行った。 セミナー参加者数は、1996 年度から回数を重ねるごとに増加し、2005 年度の第 6 回国際木質科学シンポジ ウムでは、194 名(日本 77 名、インドネシア 114 名、マレーシア 2 名、ベトナム 1 名)が参加している。ま た、 このセミナーにおける論文発表数は、 1996 年の 44 件から年々増加し、 2005 年度には 149 件となっている。 発表論文数の増加は、研究の生産性の量的な増加を示しているといえる。また、このセミナーは研究者の交流 の場としても大きな役割を果たしている。 参加者数及び発表件数の推移は下図のとおりである。 17 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 参加者数・発表件数の推移 (人数) 250 (件数) 160 140 200 120 100 150 80 100 60 40 50 0 日本 インドネシア その他の国 発表数 20 1996 48 16 4 44 1998 38 63 0 93 2000 82 39 11 86 第1回 第2回 第3回 2002 56 118 5 129 2004 160 36 6 115 第4回 第5回 2005 77 114 3 149 0 2003 (年度) カ ゙ウ 126 18 4 28 第6回 アカシア 各セミナーの概要は以下のとおりである。 第 1 回国際木質科学セミナー(The 1st International Wood Science Seminar) 開催期間 1996 年 12 月 6 日∼7 日 開催地 日本・京都大学木質科学研究所 概要 日本とインドネシア両国の研究機関・参加者が、今後の共同研究の活性化と発展をはかる ため研究者間の綿密な交流と情報交換を行い、研究テーマの設定、研究手法等について詳 細な討議を行った。 第2回国際木質科学セミナー(The 2nd International Wood Science Seminar) 開催期間 1998 年 11 月 6 日∼7 日 開催地 インドネシア・インドネシア科学院(セルポン) 概要 日本とインドネシア両国の研究機関・参加者が、2 年間の共同研究の成果について討議を 行うとともに、今後の活性化と発展をはかるため、研究者間の綿密な交流と情報交換を行 った。なおこの機会を利用し、木質科学研究所とインドネシア科学院応用物理学研究セン ターと部局間学術交流の覚書を交換した。 第3回国際木質科学シンポジウム(The 3rd International Wood Science Symposium) −持続可能な森林資源の利用:熱帯林の社会経済学的及び生態学的管理− (Sustainable utilization of forest products: Socio-economical and ecological management of tropical forests) 開催期間 2000 年 11 月 1 日∼2 日 開催地 日本・京都大学木質科学研究所 概要 「持続的可能な森林資源の利用」という統一テーマを掲げて企画。日本・インドネシアの ほか、マレーシア・タイ・カナダからの招待講演も行い、国際色あふれた活発な情報交換 18 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 が行われた。在日中のインドネシア農林省副大臣の訪問も受け、同国の関心の高さを示す 会議となった。従来の分野に加え、森林・木質バイオサイエンス分野の研究も活性化して きたことが示された。なお、この回から名称をセミナーからシンポジウムに変更した。 第4回国際木質科学シンポジウム(The 4th International Wood Science Symposium) −持続可能な森林資源の利用:熱帯林の社会経済学的及び生態学的管理− (Sustainable utilization of forest products: Socio-economical and ecological management of tropical forests) 開催期間 2002 年 9 月 2 日∼3 日 開催地 インドネシア・インドネシア科学院(セルポン) 概要 「持続的可能な森林資源の利用」という統一テーマを掲げて企画。本シンポジウムが回を 重ねるにつれ、日本、インドネシア、マレーシアを中心としたアジア各国の森林資源の持 続的利用に関する研究の活性化のための討議に場として重要な位置を占めてきた。この第 4 回では、アジアでは数少ない木質科学に特化したレベルの高い研究成果の発表と議論が 展開された。このシンポジウムの内容については、文教速報 6371、文教ニュース 1695 な らびに京大広報 573 で報道された。 第5回国際木質科学シンポジウム(The 5th International Wood Science Symposium) −熱帯森林資源の持続的生産と有効利用− (Sustainable production and effective utilization of tropical forest resources) 開催期間 2004 年 9 月 17 日∼19 日 開催地 日本・京都大学百周年時計台記念館 概要 「熱帯森林資源の持続的生産と有効利用」を統一テーマに、日本、インドネシア、マレー シアに加え、フィリピン、タイの研究者を招へいし、熱帯人工造林資源の持続的利用を広 く東南アジア地域全体の問題として捉え、今後の研究の方向性を探った。このシンポジウ ムの内容については、文教速報 6663、JSPS Quarterly No.10 ならびに日本木材学会広報ニ ュースで報道された。なおこの機会を利用して、生存圏研究所と生物材料研究センターと の間で、MOU(学術交流協定)を締結した。 第6回国際木質科学シンポジウム(The 6th International Wood Science Symposium) −熱帯森林資源の保全と利用の調和を目指して− (Toward harmonization of economy and ecology of tropical forest resources) 開催期間 2005 年 8 月 29 日∼31 日 開催地 インドネシア・イナ・グランド バリ ビーチホテル、エカ カルヤ ボタニカル ガーデン 概要 本事業の最終的な研究経過の確認と成果の取りまとめ、およびそれらを踏まえた将来的な 国際共同研究の方向性の確立を目標に実施した。熱帯森林資源の持続的な保全と利用の調 和を統一テーマに、熱帯森林資源の育成保全並びに木質資源の持続的再利用に向けたシス テム構築を目指した。このシンポジウムの内容については、文教速報 6794 ならびに文教ニ ュース 1849 で報道された。なお会議にあわせて、日本、インドネシア、マレーシアの若手 研究者による若手研究者会議(Young Scientists Wood Science Meeting)を開催した。ま 19 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 たこの機会を利用し、生存圏研究所とインドネシア科学院生物材料研究センターおよび PT Musi Hutan Persada 社の三者で部局間研究交流の覚書を交換した。 熱帯造林樹種アカシアマンギウムの持続的利用に関する国際シンポジウム (International Symposium on Sustainable Utilization of Acasiamangium) 開催期間 2003 年 10 月 21 日∼22 日 開催地 日本・京都大学木質科学研究所 概要 循環型社会構築に必須の森林資源として、東南アジアにおいて持続的な生産と利用が行わ れており、熱帯早生樹の中でも最も注目されているアカシアマンギウムに焦点を当て、遺 伝子工学から材料開発までの総合的な研究成果について発表及び討論を行った。京都大学 では最初となる大学共同利用機関「メディア教育開発センター」の SCS 車載局を利用して、 三波運用でシンポジウムの状況を岩手大学ほか 6 国立大学に送信し、また双方向で議論を 行った。SCS NEWS Vol.17、文教速報 6551、京大広報 585 で報道。 2−4.研究者交流など、その他の交流状況 共同研究が本事業のメインである一方で、 研究者交流はその後の共同研究への参加のための入り口的な役割 を果たしてきた。すなわち、共同研究の立ち上げにおいて、新たに優秀で研究意欲の高い研究者の参加を求め ることは、研究の具体化やより充実した研究成果を達成する上できわめて大切な要件である。そればかりでな く、国際共同研究の活動の発展において、研究者の相互交流はより研究を活性化させることにつながり、新た な分野の共同研究へ発展したケースも多く見られた。この点から、研究者交流による派遣・受入も重要な役割 を果たしてきたといえる。 また、この交流事業が「木質科学」の分野における日本の主要な研究機関と研究者を網羅したことから、相 手国研究者が希望する研究分野なり研究者を的確に把握して情報交換が可能になり、 従来成し得なかった国際 的な学術の交流の進展に大きく寄与したといえる。一方、日本側の研究者にとっても、熱帯森林資源の持続的 な生産と利用という、人類の生存に欠かせない重要な研究テーマに取り組んでいくきっかけと、それを促進す るという重要な役目を果たしたといえる。 研究者交流による派遣・受入の推移 派遣人数 受入人数 派遣日数 受入日数 (日数) (単位:人) 250 14 12 11 11 10 200 11 11 9 8 8 150 8 7 6 2 9 10 8 4 13 12 9 7 8 6 100 5 2 3 0 50 0 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 (年度) 20 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 2−5.事業に対する相手国拠点大学、対応機関との協力状況 1)日本側参加者の組織化 相手国側拠点大学、対応機関との協力をはかるため、まず、日本側組織の体制確立を行った。すなわち、北 は北海道大学、南は九州大学までの、日本全国の 19 協力大学との連絡体制を確立するため、毎年度日本側協 力大学代表者を迎え連絡協議会を開催した。さらに、セミナー開催時には、相手国側研究者も加えた拡大連絡 協議会を開催し、潤滑な協力体制の確立に努めた。また、日本側協力大学の代表者以外の本事業参加者への連 携を強化するため、SCS(スペースコラボレーションシステム)を活用し、一部の連絡協議会やシンポジウム の模様を三波運用により日本側協力大学へ送受信した。以上の結果、全共同研究 26 課題のうち、11 課題の日 本側代表者を、京都大学生存圏(木質科学)研究所以外の大学の教員が努めるなど、日本側協力大学の積極的 な参加を得ることができた。 2)日本側全体と相手国側との良好な協力関係の構築 [さまざまな参加者の共同研究への参画] 以上の日本側組織を基に、日本側全体と相手国側との良好な協力関係が構築された。例えば、全共同研究 26 課題のうち、14 課題の相手国側代表者を、相手国側拠点以外の研究機関の研究者が努めた。そして、これ らの 14 課題の内、8 研究課題では、日本側・相手国側双方とも、それぞれの拠点大学以外の研究機関の研究 者が代表を務めている。 特に、協力校研究者が代表者となった課題 21 の共同研究では、協力大学がサブ拠点校となった共同研究が 展開され、相手国研究者の来日にあわせてワークショップなども開催された。 Bogor Agriculture Univ. 山形大学 九州大学 香川大学 岐阜大学 Mulawarman Univ. [学術交流協定締結] また、本事業と関連して、京都大学生存圏(木質科学)研究所では、インドネシア科学院内の部局と学術交 流協定を締結してきた。すなわち、1998 年には木質科学研究所インドネシア科学院応用物理学研究センター と、引き続き、2004 年には生存圏研究所と生物材料研究センターとの間で MOU(協定内容:学術交流協定)を 締結した。また、2005 年には、インドネシア科学院生物材料研究センターおよび PT Musi Hutan Persada 社の 三者で MOU(協定内容:研究協定)を締結し、人的ネットワークの構築と、共同研究の一層の推進を図ってき た。 さらに、京都大学では、生存圏研究所以外にも、東南アジア研究所を始めとしてインドネシア科学院と学術 交流を独自に進めている部局が多数存在する。よって、京都大学とインドネシア科学院の学術交流の一層の進 展を図るべく、本事業を基に締結された部局間交流協定を足がかりとして、2006 年 3 月 17 日に大学間学術交 流協定が締結された。本協定は、自然科学から社会科学までの幅広い研究交流・人的交流・情報交換を含む、 包括的な協定であり、将来、文理融合を含めたさまざまな領域における学際的な共同研究に進展することが期 待される。京都大学は、現在、海外の大学と 69 件の大学間学術交流協定を締結しているが、インドネシア科 学院のような高等研究機関と協定を締結するのは、今回が初めてのことで、学内ニュースはもちろん産経新聞 や京都新聞などの一般紙でも取り上げられた。本大学間学術交流協定締結は、本事業が、京大全体のインドネ 21 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 シアとの学術交流の促進に貢献したことの表れである。 [サテライトオフィス用スペース等の供与] 本事業の実績を踏まえ、生存圏研究所は、ボゴール市郊外チビノンにあるインドネシア科学院生物材料研究 センター内に、2005 年 2 月サテライトオフィスを開設した。これは、生存圏研究所が 1996 年から日本学術振 興会拠点校事業で蓄積した、研究成果、人的資源、国際共同研究体制をもとに、これらを一層発展させ、人類 生存圏の構築に必須の熱帯森林資源の持続的生産・利用に関する東南アジア域での広域的な国際共同研究を担 う拠点とすることを目的に準備を進めてきたものである。 60 平方メートルの広さを有する本オフィスは、同研究所内のライブラリー(拠点校事業の学術情報の交換 事業として整備)や拠点校交流事業の成果展示を行うとともに、共同研究者の実験室と有機的に連携した機能 を備えている。また、インドネシア国内における熱帯森林資源の俯瞰的広域国際共同研究拠点、ならびに日本 国内からの出前講義や分析・解析・計測などの実習を実施する国際教育拠点、スマトラやカリマンタンで実施 しているアカシアマンギウムの生産と利用に関する研究や、 ジャワ及び周辺諸島で行なっているシロアリ行動 生態などのフィールド研究のデータ集積・解析拠点として機能させている。2006 年 3 月に開催された、現地 講義(Wood Science School 2006 in Cibinong)の会場としても利用された。 このサテライトオフィスは、無償でインドネシア科学院から使用を認められている。さらに、同オフィスの 運営に必要な光熱水費も、インドネシア科学院が負担している。このことは、本事業におけるインドネシア科 学院の積極的な協力支援の現れである。 この LIPI 長官も参加されたサテライトオフィスの開設行事については、文教速報 6719、文教ニュース 1822 ならびに京大広報 600 で報道された。 3.事業を通じての成果 3−1.交流による学術的な影響 1)熱帯資源の持続的な生産と利用についての学術の進展に大きく寄与した。 当初に立ち上げた熱帯森林資源の木質材料科学、ついで木質バイオマスの利用技術、さらに事業の展開とと もに交流事業の共同研究として組み入れられてきた木質生命科学およびその応用技術、 といったように事業の 展開にあわせて多くの研究成果が達成されてきた。これらの成果は国内外の学術雑誌に投稿され、掲載されて いる。 掲載された学術雑誌のレベルについては、本プロジェクトが森林・木質に関わる生命科学から材料科学まで の研究領域の異なる広範な分野にまたがっているため、 インパクトファクターを一律的な尺度として判断する ことについて議論もあるかと思うが、Proceedings National Academy Sci. USA(PNAS) や Biosci. Bioctechnol. Biochem.あるいはBiomacromolecule などきわめて指標値の高い雑誌に掲載されて論文があることが特筆できる。 また、本事業の実施年度を経るに従い、論文数の増大とともにこれらインパクトファクターの高い雑誌での掲 載が増えてきたことも、交流実績と共同研究の成果が表れてきたものと判断される。 また、成果の企業化や実用化という面では、竹/オイルパーム/熱帯早生樹を用いた高性能セメントボードの 開発、熱帯早生樹材を圧密して積層した床材の開発、熱帯産竹材の高度利用、アカシア樹皮の工業的利用技術 の開発などは、研究論文として発表されたことにとどまらず、熱帯木質資源の新規用途や機能化技術として工 業化されたものである。 一方、熱帯森林資源の生産と利用に関しては学術的に重要な多くの情報が未整理であった。この交流事業に 22 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 よって、未利用材ならびに早生樹種を含む熱帯産木材の用途開発のためのデータ、民間伝承により生理活性成 分を含むと考えられる熱帯産樹木の成分検索、抗蟻性・抗木材腐朽菌活性・抗腫瘍活性などを持つリグナンを 始めとする抽出成分の検索、 建築物や植林木に被害を及ぼすだけでなく物質循環に大きな役割を担っているシ ロアリの種の同定と分布など、多くのデータが貴重な学術情報として収集された。今後、熱帯森林資源の生産 と利用に関する総合的データベースとして構築すべく作業が継続されている。 2)熱帯樹木に関する木質生命科学の学術分野が大きく進展した。 本交流事業における共同研究では、当初、熱帯地域における早生樹木、低質・未利用な木材、森林・農産廃 棄物等の利用に関する課題が中心的に進められた。しかし、事業の展開と並行して、ますます天然林伐採が不 可能となり、今後は必要な分の木質資源を育成し、これを利用することの緊急性が高まってきた。そこで、本 交流事業の後半には、それまでの学術交流で培った人的ネットワークを活用し、樹木バイオテクノロジー研究 にも力を注いだ。 実用的な樹木のバイオテクノロジーは未だ世界的に研究が緒についたばかりであるが、本事業において、フ ァルカータなどの熱帯早生樹木の分子育種が始めて報告された。また、樹木の生育活性化に重要な働きを果た している、森林微生物の代謝に関しても全く新たなエネルギー獲得代謝経路が見出され、その成果が Proceedings National Academy Sci. USA (PNAS) に公表されるとともに、当該研究を行った留学生(Erman Munir) が、インドネシア科学院から特別表彰を受けた。これらの研究をさらに発展すべく、本事業終了後も、さらに 樹木バイオテクノロジー研究を推進する計画が進行中である。すなわち、本年設立された京都大学生存基盤科 学研究ユニットの生存圏研究所との連携研究プロジェクトとして、 樹木バイオテクノロジー推進が取り上げら れ、京都大学の全学的な支援の下に研究が開始された。 3)新たな研究分野の開拓につながった。 本事業における人的交流とともに、 特に熱帯森林資源の利用技術と持続的生産システムに関する共同研究を 通して、日射量の豊富な熱帯地域における持続的な大規模産業造林が、持続的、循環的な木材資源の生産基盤 として、わが国の資源確保や 地元住民の経済活動、福祉にとって極めて重要であることが明らかとなった。 その一方で、大規模産業造林には、単一樹種の連続的かつ土地集約的な植林に伴う「生産の問題」 、土壌栄養 分の短期収奪に関する「持続性の問題」 、地域住民の生活保証や経済振興といった「社会問題」 、木質資源の効 率的な材料変換やエネルギー変換に関わる「利用の問題」など生存圏全体に関わる、様々な課題が存在してい ることも指摘された。 この様な議論から、熱帯大規模産業造林の環境貢献や持続性について、俯瞰的・統合的に研究する新たな融 合研究分野の創成を求める声が高まり、生存圏研究所 と LIPI が核となり、インドネシア、スマトラ島のアカ シアマンギウム大規模産業造林を研究フィールドに、生命科学、木質材料学、電波科学、大気科学、森林科学 といった異分野の研究者が協働して、熱帯大規模産業造林の環境貢献や持続性を「エコノミーとエコロジーの 両立」といった観点から研究する新たな挑戦的研究分野が開拓されるに至った。 4)科学研究費補助金など他の研究費の取得と研究の展開にむすびついた。 本交流事業の共同研究が端緒となって、 関連研究課題の科学研究費補助金など外部資金の獲得につながった ことが指摘できる。 例えば、課題 15 の「森林生態系における共生並びに腐朽性担子菌類に特有な有機酸代謝の生化学的解析」 がきっかけとなって、2002 年度の科学研究費補助金の基盤研究(B)2「木材腐朽菌の酵素系阻害反応を利用し 23 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 た新規防腐剤選抜システムの開発」、ならびに 2003 年度基盤研究(B)2「木材腐朽菌の酵素系阻害反応を利用 した新規防腐剤選抜システムの開発」、同じ 2003 年度基盤研究(C)2「銅耐性褐色腐朽菌のシュウ酸生合成系 鍵酵素の cDNA クローニングと細胞内局在性」、さらに 2004 年度基盤研究(C)2「銅耐性褐色腐朽菌のシュウ酸 生合成系鍵酵素の cDNA クローニングと細胞内局在性」、2005 年度ホクト生物科学振興財団「木材腐朽菌オオ ウズラタケのシュウ酸輸送体の特定とその機能解析」の取得にむすびついた。これらの研究においては、森林 生態系における木材腐朽菌の木材分解機構や樹木に共生する菌根菌の代謝活動について、 多くの新しい知見が 明らかにされている。 5)国内協力校においても新たな研究ネットワークが構築できた。 本事業における研究者交流および共同研究を通して新たな研究ネットワークが構築されたが、 本事業終了後 も国際的な学術交流として展開されている。これは拠点校の共同研究はもちろんであるが、協力校においても 香川大学と Bogor Agricultural University、 Mulawarman University との熱帯樹木の抽出成分に関する研究などは、 若手研究者の受け入れや外部資金の申請という段階に進んでいる。 3−2.共同研究を通じて発表された研究業績 1) 熱帯木質資源の持続的利用のための木質材料科学 (課題1)竹/オイルパーム/熱帯早生樹を用いて住宅外装用セメントボードを製造する技術を開発した。 竹/オイルパーム/熱帯早生樹を用いてセメントボードを製造する際に発生するセメント硬化阻害性を改善 するために、温冷水抽出や醗酵などの前処理および水和促進剤添加の効果を実証した。また、適当な水和促進 剤を添加し、蒸気噴射プレス法あるいはホットプレス法を適用した迅速成形技術の開発を試み、ホットプレス 法と加熱養生法という比較的簡便な装置、 手法によって、 優れた材質をもつ竹セメントボードを短時間で成形、 製造することに成功した。さらに、超臨界あるいは高圧二酸化炭素養生法を開発し、硬化阻害の問題を解決す るとともに、迅速成型が可能であること、高強度材料の製造が可能であることを明らかにした。 (課題2)熱帯地域で暴露した木材に生育するカビの種を同定し、化学修飾による木材の耐久化をはかった。 熱帯産の 5 樹種の木材をインドネシアで屋外暴露した場合、 木材の暴露表面に発生するカビの繁殖状況を観 察した。 その結果、 暴露した木材表面には 20 種のカビが識別されたが、 このうち Aureobasidium, Cladosporium, Penicillium が共通して認められた主要な種であった。木材の耐候性を向上させるため、化学修飾処理を検討 したところ、 アセチル化と低分子量フェノール樹脂の注入処理が長期間にわたり耐候性を向上させることが示 された。さらに、木質ボードにフェノール樹脂の注入処理を適用したところ、屋外暴露によって生じる厚さ膨 張や腐朽の進行を抑えることが可能になった。 (課題3)熱帯早生樹材を圧密加工・積層した新しい床材を開発した。 熱帯早生樹材の高温・高圧水蒸気処理による圧密加工について、①合理的に製造する技術を確立するため、 ホットブレスに高周波加熱装置を組み込んだ機械システムの開発、 ②処理によって強度低下を引き起こさない 製造条件の検討、③応力一ひずみ関係の測定、応力緩和の測定、クリープの測定、X線回折測定などを導入し ての変形の永久固定の機構解明、などを実施した。基本的な技術的検討を踏まえ、これらの装置を用いて、熱 帯早生樹材圧密材を積層した床材の開発へと展開している。 24 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 (課題4)熱帯造林早生樹材に耐火性能を付与し建築用材としての方途を拓いた。 日本の造林木の代表のスギ(Cryptomeria japonica)、および熱帯で造林されている早生樹材ファルカータ (Paraserianthes falcataria )の両材に対して、リン酸・メラミンホルムアルデヒド初期付加縮合物を塗布して、 熱圧潰処理を施し、JIS, DIN, ASTM, ISO の耐火試験の求める耐火性能を有する材料の開発に成功し、家具材 料以外に利用がなかったファルカータの建築用材としての方途を拓いた。また、ファルカータを原料とする木 質セメント板を調整し、わが国市販の木質セメント板と同等の性能を有することを確認し、これまで全く解明 されていなかった火炎中における木質セメント板の熱の拡散、熱伝導に対する新たな試験方法を提案した。 (課題5)熱帯樹木の生長応力測定により品質の高い早生植林木の予測法を確立した。 育種・育林技術の改善には、 生長応力を解明することが必要であるが、 細胞壁の生長応力の解明するために、 生長応力と生長速度の関係を明らかにし、生長応力を樹種、育林方法等、条件毎別に分類し、品質の高い早生 植林木の予測法を確立した。 (課題9)熱帯早生材の乾燥・機械加工における最適化を行った。 熱帯早生樹種の乾燥特性をみると、 未成熟材を含むと乾燥性がばらつき仕上げるのに時間を必要とすること が明らかとなった。内部割れが激しく、人工乾燥をしても長時間を必要とするアカシアに対しては、予備乾燥 法として shed drying を試みたところ、よい結果が得られたため、実用化の可能性が示された。また、早生樹 種および低利用樹種の最適機械加工について、 工具の破損や著しい摩耗が生じた場合の自動監視下での加工の 方法を提案した。さらに、早生樹種および低利用樹種における表面層の欠点上で生じている繊維の交錯が、機 械加工後の状態において重要な因子となる表面あらさの大小に大きく影響していることが明らかになった。 (課題10)熱帯産タケ材の最適圧縮加工法を開発した。 東南アジアを中心に相当の蓄積がある竹材の高度利用をはかるため、 竹材の横圧縮力学特性や軟化挙動を詳 細に検討するとともに、明らかになった力学特性を利用して、横圧縮竹材を製造してその強度等を検討した。 その結果、竹材は乾燥状態では熱だけで湿潤木材と同程度に軟化するが、固定という観点からは、水分存在下 での高温処理が適当であることがわかった。 これら明らかになった固定条件を利用して横圧縮竹材を実際に作 成しその物性を測定した結果、水蒸気雰囲気で 180℃, 10 分の処理で MOE や MOR が向上し、高温・短時間 の圧縮処理は竹材の加工法として優れていることが示された。 (課題11)インドネシア産シロアリについて野外調査と正確な種の同定を行った。 AE(アコースティック・エミッション)によるシロアリの行動生態のモニタリングを実施し、種々の生息環 境条件の摂食活動への影響を検討した。この結果、相対湿度 75%の雰囲気においてイエシロアリの活動が最 大に活発になることが明らかにした。また、インドネシア産シロアリについての野外調査と正確な種の同定を 行い、生物学的な地理区分として著名なウォーレス線とシロアリ分布の関係について新しい知見を求めた。こ れらの成果は、社会性昆虫として代表的なシロアリについての昆虫学的な学術面だけでなく、植林木や建築物 の被害防除の新しい手法の開発に寄与するものと期待されている。 (課題18)木質系複合材料の熱帯での生物的劣化防止法を確立した。 総合的シロアリ防除法に関するユニークで画期的な幾つかの成果が得られた。 その概要は以下のとおりであ る。①市販のシロアリ寄生菌(Metarhizium anisopliae)をシロアリの餌木に効果的に付着させてコロニーまで運 25 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 ばせる新しいベイト法の開発に関して、技術的工夫を行い実証実験にまで達成した。②レスケミカル・高安全 性木材保存剤としてのキトサン・銅複合体(CCC)の開発と、それによって処理した木材(銅含有率 1.0 kg/m3) の高い生物劣化抵抗性を実証し、その作用機序を究明した。③シロアリの口器の構造とそれによる物理的齧り 取り量の形態計測を実施した。 (課題19)熱帯産の造林早生木材から住宅構造部材を開発した。 ゴム-ファルカータ異樹種 LVL(単板積層材)の曲げ、圧縮、せん断性能、釘接合性能、ボルト接合性能、 床構面の水平せん断耐力を、わが国で構造用面材として我が国で広く利用されているカラマツ厚物合板、ラジ アタパイン厚物合板比較した。その結果、ゴム-ファルカータ異樹種 LVL(いずれも厚さ 28mm)は、カラマツ やラジアタパイン合板と比べても、遜色のない、あるいはそれらをしのぐ優れた力学的性能を発揮し、床構面 や屋根構面用の構造用面材料として十分に利用可能であることを実証した。 (課題20)アカシアマンギウムの総合利用について新たな手法を開発した。 アカシアマンギウム製材品の機械的特性、その耐火性を明らかにし、建築用途に用いる上での重要な基礎的 データを集積した。また、良好な材色を保った状態で、効率よくアカシアマンギウムを乾燥する技術を見出し た。さらに、アカシア樹皮粉末の添加で、尿素樹脂接着剤の湿潤接着力が向上することを合板において明らか にするとともに、 アカシア樹皮粉末添加フェノール樹脂接着剤を用いたパーティクルボードの機械的特性を明 らかにし、ワックス添加により耐水性を向上できることを見出した。 (課題22)熱帯産未利用樹種の新規用途開発を目指したデータベースを構築した。 インドネシア産材の耐候性の評価を中心にし、 強度性能などの各種物性を加えて新たな用途開発に資するデ ータの整理を行い、20 数種のインドネシア産材の諸特性を相互に関連づけた。さらに、屋外暴露試験を一種 の枯らし(エージング)の効果の面から評価するため、振動試験から比動的ヤング率や損失正接を手段として 測定し、エージングが各種インドネシア産材に及ぼす効果を評価した。 (課題26) 熱帯の持続可能型リグノセルロース原料を用い、 環境に優しいバイオマテリアルの開発を進めた。 インドネシア及びマレーシアにおいて、持続可能型リグノセルロース資源として期待できるオイルパーム (アブラヤシ)の廃棄物利用の応用研究として、オイルを取り出した後の繊維状のオイルパームフルーツ殻 (EFB)からパーティクルボードを作成し、ベニヤを表裏に接着することで強度を向上させた木質材料を開発し た。さらに、アカシアマンギウムやそのバークのパーティクルとポリマー(マレイン酸無水物(MAH)により 修飾した熱可塑性プラスチック)から木材―プラスチック複合体を作成した。ポリスチレン、ポリエチレンあ るいはポリプロピレンと木材による複合体よりも MAH を添加すると引張強度や降伏応力が増加することを 明らかにした。 2)熱帯産樹種を対象とする木質バイオマス利用技術の開発 (課題6)インドネシア熱帯性樹林から有用リグニン分解菌を分離し、環境調和型の高効率パルプ漂白法を開 発した。 東南アジア地域に生息する強力なリグニン分解菌を分離し、それを利用した環境に優しい紙・パルプ製造プ ロセスを開発することを目的とする共同研究を実施した。 インドネシア熱帯性樹林から有用リグニン分解菌を 分離し、 それらの生産するリグニン分解酵素を利用した環境調和型の高効率パルプ漂白法を開発することがで 26 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 きた。 (課題7)熱帯造林早生樹 Albizia 材から、ストレス軽減活性を持つ生理活性リグナンの検索同定を行った。 熱帯早生樹材である Albizia falcata の化学成分分析を行うと共に、その抽出成分の有効利用の可能性につき 検討した。その結果、シリンガレジノールを心材から単離するとともに、その他のリグナン(メジオレジノー ル)の存在を強く示唆するデータが得られた。さらに、辺材と樹皮にシリンガレジノール配糖体が存在するこ とが示された。これらの結果を踏まえ、Albizia falcata に対象に、ストレス軽減活性を持つ生理活性リグナンの 検索同定が引き続き行われている。 (課題12)熱帯産材を用いて有機系廃棄物のコンポスト化を行った。 有機系廃棄物のコンポスト化による資源化については、南洋材の多くは生理活性成分を含んでおり、それら をそのまま人工土壌マトリックスとして使うと微生物の働き阻害する恐れがある。そこで、あらかじめ抽出操 作を入れることで活性成分の利用と残渣のオガ屑の人工土壌としての活用が可能となること指摘した。 (課題16)熱帯植林早成樹のパルプ化適性を明らかにした。 インドネシアなどの熱帯地方で広範に植林されている早成樹のパルプ化適性を判断する目的で、Gmelina arborea、 Eucalyptus deglupta、Paraserianthes falcataria について、冷アルカリおよび熱アルカリ抽出に伴う木 材成分の溶出挙動を解析した。その結果、蒸解の極めて初期に著量の非リグニン成分が失われ、それによりア ルカリの消費も進行することを明らかにし、アルカリに溶解しやすい多糖類の存在を示唆した。 (課題24)熱帯産未利用植物資源からバイオマスケミカルスの生産を試みた。 インドネシア産および日本産のバガスのエタノール発酵を行い、糖化発酵の前処理として、担子菌処理と水 蒸気処理の組み合わせが有効であることを示した。担子菌としては、バイオパルピング菌 Ceriporiopsis subvermispora の他、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)も有効であった。P. ostreatus の子実体を収穫した後の、廃 バガス培地の糖化・発酵によりエタノールが生産されたことから、食用キノコの収穫と廃バガス培地の糖化・ 発酵を組み合わせる方法が、現実的なアプローチと判断された。また、バガスの担子菌処理が反芻家畜による 消化性を大きく向上させることを明らかにした。 3)熱帯産樹種を対象とする木質生命科学およびその応用技術の開発 (課題8)熱帯に生育する樹木の木部成長の周期性を明らかにした。 インドネシアに生育する樹木の木部成長の周期性を調査するために、インドネシアでも数少ない Mindi(Melia azedarach)と呼ばれる環孔材を用いて肥大成長のリズムを調べてきた。定期的にピン打ちによる木 部内への印つけによって、材内に傷害樹脂道が1つ形成されることが分かり、これはその後の材の成長リズム の解析に大変有効となった。その結果、Mindi は1年に1度年輪を形成することが明らかになった。そして、 年輪界は乾燥期の 6 月から 8 月の間に形成されることがわかった。 (課題13)熱帯産造林樹種のチークの材成熟過程を明らかにした。 熱帯産の代表的な造林樹種であるチークについて、 造林段階での材質改良のための指針を得るための共同研 究を実施した。フィールドワークを主体とした解析を行ってきたところ、3 年間の巻き枯らし処理は、前乾燥 処理としての効果は高いが、時として大きな乾燥応力を発生させ、そのことが表面応力解放ひずみの見かけの 27 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 増加を招くことなどを明らかにした。また、チーク材をはじめとする数種の熱帯産造林樹種については、材成 熟は形成層によるのではなく、直径成長量に依存することを明らかにした。 (課題15)木材腐朽担子菌類のシュウ酸合成系に関わるグリオキシル酸回路を明らかにした。 森林微生物のうち、キノコ類(共生菌根菌と木材腐朽菌)に着眼して、森林樹木の成長と分解に及ぼす効果 を生化学レベルで検討するため、シュウ酸合成系に関わるグリオキシル酸回路の役割を酵素・遺伝子レベルで 解析した。特筆すべきことは、従来微生物はグルコースで培養した場合グリオキシル酸回路をもたないとされ ていた定説を覆し、 木材腐朽担子菌類はこの回路を構成的にもつのみならずユニークなクエン酸回路を機能さ せ、シュウ酸を合成することによってエネルギーを獲得していることを発見した。またその中心的鍵酵素はイ ソクエン酸リアーゼであることをつきとめ、本酵素を特異的阻害剤(イタコン酸)で阻害することにより、シ ュウ酸生合成のみならず本腐朽菌の成長を抑制することに成功した。 (課題17)ハイグレード熱帯造林木の育成技術に見通しを得た。 植林木チークについて、木部形成、木材材質に対する水分環境の影響についての評価を行い、熱帯多雨林的 条件下においては、生長輪構造が半環孔材的となり、また心材色が濃色となること、一方、乾季冬季の明瞭な 地域の植林木においては、自生地における樹木に類似して成長輪構造がより明瞭になること、また心材色が淡 色になることを示した。成長輪構造の相違は、材質にも影響を与えることが推察された。心材色の相違は、木 材の材価に大きく影響することを示した。 (課題21)熱帯樹木から生理活性成分を単離・同定した。 紫檀(rosewood, Dalbergia latifolia)およびジャックの木(Jack fruit tree, Artocarpus heterophyllaus)の心材抽出 物に顕著な活性が存在することを明らかにした。さらに各抽出物をクロマトグラフィーで分画・精製し、主要 活性成分がネオリグナンのラテフォリン、およびプレニル・フラボノイドのアルトカルピン、シクロアルトカ ルピン、モリンなどであることを明らかにした。これらの化合物はブラインシュリンプだけでなく、シロアリ や腐朽菌の成長抑制・致死にも有効なことを示した。 インドネシアにおいて民間医薬として利用されている、タンジュン、アカール・クニン根、およびギンブル 樹皮の抽出物に含まれる生理活性物質を抗酸化ならびに抗菌活性の面から究明した。その結果、タンジュン材 から得られたカテチン、エピカテチン、3,4,5−トリメトキシフェノール、及び 2,6−ジメトキシーp−ベンゾ キノンは高いラジカル消去性(抗酸化性)を示し、それは水酸基の数の多いほど、大であった。また、アカー ル・クニン根は黄色で日本産のキハダに含まれると同じベルベリンのほかフィブラウリンを含み、アセトン抽 出物を除く抽出物に抗菌性が認められた。また、粘着性のあるギンブル樹皮の強い抗酸化性はメタノール抽出 物に存在することを明らかにした。 (課題23)熱帯樹木の形質転換の分子育種に道を拓いた。 インドネシアにおけるリフォレステ−ションの一樹種として注目されているファルカータ(P. falcataria)の 組織培養による大量増殖を行った。 実生から得られた子葉をピクロラム 4.1μM およびディカンバ 9μM を含む MS 培地で培養したとき効果的にカルスが誘導された。プロトプラストの単離・培養条件およびカルスからの 幼植物体の誘導条件を検討した。 その結果、アカシアの形質転換法については未だ効率の良い手法は確立していないが、ファルカータにおい てはほぼ手法が確立された。また、組換えファルカータを土に移植し、組換え植物を扱うことの出来る封じ込 28 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 め実験室(P1 実験室)から、封じ込め温室(P1 グリーンハウス)での栽培に移行した。現在、インドネシア 側研究者によって成長のレベルを野生型と比較し解析しているところであり成果が期待される。 4)森林資源と環境科学の横断的研究プロジェクト (課題14)オイルパームについてゼロエミッションプロセスの可能性を示した。 インドネシアジャワ島ならびに半島マレーシアについて、 それぞれ一つのオイルパーム植栽地および油搾出 工場を閉鎖系ケーススタディモデルに選び、マテリアルフローを解析した結果、トランクおよびフロンドは林 地にコンポストとして還元し、EFB のみを利用の対象とするほうが合理的であることが判明し、ゼロエミッシ ョンプロセスの可能性を示した。また、未利用アブラヤシ繊維を用いた木質セメントボードの開発を行い、超 臨界あるいは高圧二酸化炭素養生下で高性能ボードの製造が可能であり、 養生時間も飛躍的短縮できることを 示した。さらに、そこで EFB 繊維を材料や紙パルプあるいは糖の原料として用いるために、リサイクル利用の 前処理技術としてバクテリアによる生分解を応用し、省エネルギー的な繊維分離技術を試みた。 (課題25)循環型社会の構築に向けた熱帯森林資源の持続的生産・利用に関して討議を進めた。 本拠点校事業で過去に実施されたあるいは、 現在進行中の共同研究課題の研究成果をインドネシアおよびマ レーシア側参加者とともに俯瞰的に取りまとめた。その成果の一部は、Proceedings of Workshop and Expose, Fundamental Research Scientific Result of Indonesia-Japan Cooperation Program として出版された。また、今後本事 業を発展的に展開するために、 熱帯早生樹の持続的大規模一斉植林システムの確立がますます重要となるとい う最近の結論に基づき、アカシアマンギウムおよびアカシアハイブリッドの林地調査を行った。俯瞰的研究協 議を継続し、本共同研究事業を最終的に見直すとともに、将来的な展開の基盤確立をはかった。 <論文リスト> (課題1) Kawai, S., D. Hermawan: Oil Palm Cement Bonded Board by Using Rapid Carbon Dioxide Curing Process, Proceedings of the International Symposium of Efficient Use of Oil Palm Waste as Renewable Resource for Energy & Chemicals (NEDO), 43, 2001 Hermawan, D., T. Hata, S. Kawai, W. Nagadomi, Y. Kuroki: Manufacturing oil palm fronds cement-bonded board cured by gaseous or supercritical carbon dioxide, J. Wood Science, 48, 20-24 (2002) Hermawan, D., T. Hata, S. Kawai, W. Nagadomi, Y. Kuroki: Effect of carbon dioxide-air concentration in the rapid curing process on the properties of cement-bonded particleboard, J. Wood Science, 48, 179-184 (2002) (他、12 報) (課題2) Yusuf, S., Y. Sudiyani, H. Kajita, Y. Imamura, M. Takahashi: Biological and physical properties of phenolic-resin treated wood bofore and after natural weathering, The International Research Group on Wood Preservation, Document No.IRG/WP/,99-40132, 1999 Sudiyani, Y., S. Tsujiyama, Y. Imamura, M. Takahashi, K. Minato, H. Kajita: Chemical characteristics of surfaces of hardwood and softwood deteriorated by weathering, J. Wood Science, 45, 348-353 (1999) Yamauchi, S., Y. Sudiyani, Y. Imamura, S. Doi: Depth profiling of weathered tropical wood using Fourier transform infrared photoacostic spectroscopy, J. Wood Science, 50, 433-438, (2004) (他、13 報) 29 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 (課題3) Dwianto, W., M. Inoue, M. Norimoto: Permanent fixation of compressive deformation of albizia wood (Paraserienthes falcata) by heat treatment, J. Tropical Forest Prod., 4, 59-67 (1998) Dwianto, W., M. Norimoto, T. Morooka, F. Tanaka, M. Inoue, Y. Liu: Radial compression of sugi wood (Cryptomeria japonica), Holz als Roh- und Werkstoff, 56, 403-411 (1998) Dwianto, W., T. Morooka, M. Norimoto, T. Kitajima: Stress relaxation of sugi (Cryptomeria japonica) wood in radial compression under high temperature steam, Holzforschung, 53, 541-546 (1999) (他、3 報) (課題4) Su, W. -Y., Subyakto, M. K. Yalinkilic, T. Hata, Y. Imamura, S. Ishihara: Enhancement of leach and termite resistance of plywood treated with boric compounds, Mokuzai Gakkaishi, 43, 595-601, (1997) Subyakto, T. Kajimoto, T. Hata, S. Ishihara, S. Kawai, H. Getto: Improving fire endurance of fast growing wood by coating of fire retardant and surface densification, Fire and Materials, 22, 207-212 (1998) Subyakto, W. Dwianto: Fire resistane properties of five wood species coated with Carbon Phenolic Spheres (CPS) tested by Cone Calorimeter, J. Tropical Wood Science and Technology, 2, 46-50 (2003) (他、24 報) (課題5) Wahyudi, I., T. Okuyama, Y., S. Hadi, H. Yamamoto, M. Yoshida, H. Watanabe: Growth stress and strain of Acacia mangium, Forest Product J., 49, 77-81 (1999) Wahyudi, I., H. Watanabe, M. Yoshida, H. Yamamoto, Y., S. Hadi, T. Okuyama: Tegangan Pertumbuhan dan Pengaruhnya Terhadap Kualitas Kayu Jati (Tectona grandis): duta RIMBA (Monthly Journal of Perum Perhutani, Indonesia), 34, 33-35 (1999) Wahyudi, I., T. Okuyama, Y., S. Hadi, H. Yamamoto, M. Yoshida, H. Watanabe: Relationships between growth rate and growth stresses in Paratherianthes falcataria grown in Indonesia, J. Tropical Forest Products, 6, 95-105 (2000) (課題6) Prasetya, B., Y. Srirejeki, T. Watanabe, M. Kuwahara: Acceleration of microbial lignin degradation of Accasia mangium wild by thermal pre-hydrolysis treatment, Proceeidngs of International Symposium on Emerging Technologies of Pulping and Paper Making of Fast Growing Wood, 25-35, 1998 Goenadi, D. H., Y. Away, Suharyanto, T. Panji, T. Watanabe, M. Kuwahara: Biopulping of empty fruit bunches of oil palm by white-rot fungi isolated from tropical plantation, Proceedings of 7th Internationa Conference on Biotechnology in Pulp and Paper Industry, B, 49-52, 1998 (他、8 報) (課題7) Umezawa, T., T. Okunishi, K. Mikame, S. Suzuki, Liswidowati, WasrinSyafii, M. Shimada: Mechanisms of lignan biosynthesis, part II (in Japanese), Annual Report of Interdisciplinary Research Institute of Environmental Sciences, 17, 29-36 (1998) Liswidowati, M. Karina, W. Syafii, S. Suzuki, T. Umezawa, M.Shimada: Isolation of syringaresinol from Paraserianthes falcataria (L.)Nielsen, Wood Research, No.88, 40-41 (2001) (課題 8) Jalil, N. R. A., T. Itoh, H. Sahri, Z. Jusoh, Z.: Periodicity of xylem growth of rubberwood (Hevea brasiliensis) grown in 30 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Malaysia, Holzforschung, 52, 567-572 (1998) Ona T., T. Sonoda, K. Ito, M. Shibata, Y. Ootake, J. Ohshima, S. Yokota, N. Yoshizawa: Rapid determination of cell morphology in Eucalyptus wood by Fourier transform Raman spectroscopy, Applied Sprctroscopy, 53, 1078-1082 (1999) Ona, T., T. Sonoda, K. Ito, M. Shibata, Y. Yamai, Y. Kojima, J. Ohshima,S. Yokota, N. Yoshizawa: Investigation of relationships between cell and paper properties in Encalyptus by examination of within-tree property variations, Wood Sci. & Technol., 35, 229-243 (2001) (他、5 報) (課題9) Basri, E., K. Hayashi, M. Shibuya, H. Nishiyama: Optimum drying schedule for some fast grown species from Indonesia, Proceedings of 7th international IUFRO wood drying conference, 84-89, 2001 Darmawan, W., E. D. Bakar, C. Tanaka, T. Ohtani, K. Hayashi: Wear Characteristics of High Speed (HSS) and Carbide Bits in Routing Some Indonesian Woods, Proceedings of the 4th International Wood Science Symposium, 26-27, 2002 (他、4 報) (課題10) Subiyant B., E. M. Alamsyah: The effect of heating temperature on physical and mechanical properties of compressed Indonesian bamboo (I), Proceedings of the 4th International Wood Science Symposium, 69, 2002 Inoue, M., M. Norimoto: Possibilities of Bamboo Based High Strength Materials, Proceedings of the 5th Ineternational Wood Science Symposium, 402, 2004 (他、4 報) (課題―11) Muin M., K. Tsunoda: Termiticidal performance of wood-based composites treated with silafluofen using supercritical carbon dioxide, Holzforschung, 57, 585-592, (2003) Indrayani, Y., T. Yoshimura, Y. Fujii, Y. Yanase, Y. Okahisa, Y. Imamura: Survey on the infestation of houses by Incistermes minor (Hagen) in Kansai and Hokuriku areas, Japan J. Environmental Entomology & Zoology, 15, 261-268, (2004) Muin M., K. Tsunoda: Retantion of silafuluofen in wood-based composites sfter supercritical carbon dioxide impregnation, Forest Products J., 54, 168-171, (2004) (他、19 報) (課題12) Horisawa, S., M. Terazawa, et al.: Succession of the Community of Dominant Growth as an Aerobic Biodegradation for Garbage, Which Uses a Wood Matrix, Eurasian J. Forest Research, 3, 11-12 (2001) Terazawa, M.: Effective Utilization of Forest Biomass ―Utilization of Sawdust as Artificial Soil Matrix for Bio-conversion of Biomass Wastes into Multi- functional Recyclates―, 北大拠点校 JSPS/LIPI ワークショップ, 52-54, 2002 (他、19 報) (課題13) Wahyudi, I., H. Watanabe, M. Yoshida, H. Yamamoto, Y. S. Hadi, T. Okuyama: Tegangan Pertumbuhan dan Pengaruhnya Terhadap Kualitas Kayu Jati (Tectona grandis): duta RIMBA (Monthly Journal of Perum Perhutani, Indonesia), 34, 33-35 (1999) 奥山 剛: 熱帯植林木の利用促進の必要性,Wood-Mic, No.203, 26-32 (2000) Wahyudi, I., T. Okuyama, Y. S. Hadi, H. Yamamoto, H. Watanabe, M. Yoshida: Relationships between released strain and growth rate in 39 year-old Tectona grandis planted in Indonesia, Holzforschung, 55, 63-66 (2001) 31 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 (他、1 報) (課題14) Ohnishi, K., Y. Okudaira, Y. Sawada, S. Kawai: Improvement on the Dimensional Stability of MDF Made from Oil Palm Fibers by Plazma Treatment, Utilization of Oil Palm Tree, 61-66, 1996 Hermawan, D., S. Kawai, B. Subiyanto: Manufacture and properties of oil palm frond cement bonded board, J. Wood Science, 47, 208-213 (2001) Hermawan, D., T. Hata, S. Kawai, W. Nagadomi, Y. Kuroki: Manufacturing oil palm frond cement bonded board cured by gaseous or supercritical carbon dioxide, J. Wood Science, 48, 20-24 (2002) (他、7 報) (課題15) Munir, E., J.J. Yoon, T. Tokimatsu, T. Hattori, M. Shimada: A physiological role for oxalic acid biosynthesis in the wood-rotting basidiomycete Fomitopsis palustris, PNAS, 98, 11126-11130 (2001) Munir, E., J.J. Yoon, T. Tokimatsu, T. Hattori, M. Shimada: New role for glyoxylate cycle enzymes in wood-rotting basidiomycetes in relation to biosynthesis of oxalic acid, J. Wood Science, 47, 368-373 (2001) Munir, E., T. Hattori, M. Shimada: Purification and characterization of malate synthase from the glucose-grown wood-rotting basidiomycete Fomitopsis palustris grown on glucose, Biosci. Biotechnol. Biochem., 66, 576-581 (2002) Munir, E., T. Hattori, M. Shimada: Purification and characterization of isocitrate lyase from the wood-destroying basidiomycete Fomitopsis palustris grown on glucose, Arch. Biochem. Biophys., 399, 225-231 (2002) (課題16) Takuya Akiyama, Y. Matsumoto, T. Okuyama G. Meshitsuka: Ratio of erythro and threo forms of b-O-4 structures in tension wood lignin, Phytochemistry, 64, 1157-11621 ( 2003) T. Akiyama, H. Goto, D. S. Nawawi, W. Syafii, Y. Matsumoto, G. Meshitsuka: Erythro/threo ratio of β-O-4 structures as an important structural characteristic of lignin. Part 4. Variation in the erythro/threo ratio in soft- and hardwood lignins and its relation to syringyl and guaiacyl composition, Holzforschung, 59, 276-281(2005) (他、2 報) (課題17) Mukogawa, Y., T. Nobuchi, M. H. Sahri: Tension wood anatomy in artificially induced learning stems of some tropical trees, Forest Research, Kyoto, No.75, 27-33, (2003) Nobuchi, T., Y. Higashikawa, T. L. Tobing: Some characteristics of growth ring structure and heartwood of teak (Tectona grandis) -Comparison of two plantation sites, central and west Java, Indonesia, Forest Research, Kyoto, No. 76, 33-38 (2005) (他、2 報) (課題18) Furuno, T., L. Lin, S. Katoh: Leachability, decay, and termite resistance of wood treated with metaborates, J. Wood Science, 49 (4), 344-348, 2003 Furuno, T., F. Wada, Y. Sulaeman: Biological resistance of wood treated with zinc and copper metaborates. Holzforschung, 60 , 104-109 (2006) (他、18 報) (課題19) Komatsu, K., Y. Idris, S. Yuwasdiki, B. Subiyanto, A. Firmanti : Development of Structural LVL from Tropical Wood and 32 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Evaluation of Their Performance for the Structural Components of Wooden Houses Part-1. Application of Tropical LVL to a Roof Truss", Proceedings of the International Council for Research and Innovation in Building and Construction, Working Commission W18-Timber Structures, CIB-W18/37-12-2, Edinburgh, UK, 2004 Hadi, M., B. Subiyanto, A. Firmanti, K. Komatsu : “Beam-Column Joint of Acasia Mangium-Albizia Falcataria Glulam with Bamboo Dowel Fasteners”, Proceedings of the IAWPS2005 (International Symposium on Wood Science and Technologies), CD-ROM, 4O24-3A1330, Yokohama, November 29, 2005. (他、10 報) (課題20) 矢野浩之、川井秀一、小川壮介、稲井淳文、本馬洋子、山内秀文、那須英雄、山崎道人、矢田元一:タンニン 高含有アカシア樹皮粉末の製造と接着剤への応用、木材工業、 60(10), 478-482(2005) Gopar, M., I. Budiman, Subyakto, B. Subiyanto: Particleboard from Acacia mangium Bark -Effects of resin type and ampunt of wax emulsion on the board properties, Proceedings of the 6th International Wood Science Symposium, 450, 2005 (他、3 報) (課題21) Ogiyama, K., N. Sekine, G. Lukmandaru, W. Syafii, N. J.Wistara:Chemical characterization of bioactive extractives from several fancy woods, Abstracts of 2005 International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (PASIFICHEM2005), Program No.:273, Honolulu,HAWAII, December 15-20, 2005 Arung, E., K. Yoshikawa, K. Shimizu, R. Kondo: The effect of chlorophorin and its derivative on melanin biosynthesis, Holzforschung, 59, 514-518, 2005 Sari, R. K., W. Syafii, K. Ogiyama: Anticancer activity of some tropical wood extractive, Proceedings of International symposium on Wood Science and Technology (IAWPS2005), pp313−314, Yokohama-Japan Nov.27-30, 2005 (他、14 報) (課題22) Dwianto, W., Sudijono, I. Iida, Subyakto, Y. Sulaeman: Mechanical Properties, Fire Performance and Termite Resistance of Acacia Mangium Willd, Proceedings of the International Symposium on Sustainable Utilization of Acacia mangium, pp. 128-139 (2003 Sudijono, W. Dwianto, S. Yusuf, I. Iida, Y. Furuta, K. Minato: Characterization of major, unused, and unvalued Indonesian wood species I: Dependencies of mechanical properties in transverse direction on the changes of moisture content and/or temperature, J. Wood Science, 50, 371-374 (2004) (他、16 報) (課題23) Katoh, S., D. Hyatt, R. Croteau: Altering product outcome in Abies grandis (-)-limonene synthase and (-)-limonene/(-)- α-pinene synthase by domain swapping and directed mutagenesis, Archives of Biochemistry and Biophysics, 425, 65-76, (2004) Yamamoto, H., Y. Ojio, K. Okumura, M. Yoshida, the late T. Okuyama, S. N. Marsoem, J. Sulistyo, E. Mashudi, M. Tsuchiya, K. Matsune, K. Nakamura, Y. Inoue: Effect of high growth rate of Sengon Solomon (Paraserianthes falcataria) on various xylem qualities. In Enhansment of CO2 Sink and Wood Production through Genetic Improvement of Tropical Fast Growing Tree Species 2005 (ed. Ide, Y., Nakamura, K.), pp.51-55, Tokyo, Japan, 2005. Ojio, Y., H. Yamamoto, M. Yoshida, S. N. Marsoem, M. Tsuchiya, K. Matsune, K. Nakamura, Y. Inoue: Influence of 33 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 growth rate on xylem properties of some fast-growing species. In Final program and abstruct, 6th Pacific Regional Wood Anatomy Conference, pp. 83-84, Kyoto, Japan, 2005. (他、21 報) (課題24) Amirta, R., K. Fujimori, N. Shirai, Y. Honda, T. Watanabe: Ceriporic acid C, a Hexadecenylitaconate Produced by a Lignin-degrading Fungus, Ceriporiopsis subvermispora, Chem. Phys. Lipids, 126, 121-131 (2003) Rahmawati, N., Y. Ohashi, T. Watanabe, Y. Honda, T. Watanabe: Ceriporic acid B, an extracellular metabolite of Ceriporiopsis subvermispora suppresses the depolymerization of cellulose by the Fenton reaction, Biomacromolecules, 6, 2851-2856 (2005). Rahmawati, N., Y. Ohashi, Y. Honda, M. Kuwahara, K. Fackler, K. Messner, T. Watanabe: Pulp bleaching by hydrogen peroxide activated with copper 2,2'-dipyridylamine and 4-aminopyridine complexes, Chem. Eng. J., 112, 167-171 (2005). Amirta R., T. Tanabe, T. Watanabe, Y. Honda, M. Kuwahara, T. Watanabe: Methane fermentation of Japanese cedar wood pretreated with a white rot fungus, Ceriporiopsis subvermispora, J. Biotechnol., in press (2006). (他、27 報) (課題25) Umezawa, T., Y. Imamura: Science for Sustainable Utilization of Forest Resources in the Tropics The Outline of the Core University Program in the Field of Wood Science -, In "Proceedings of Workshop and Expose & Fundamental Research Scientific Result of Indonesia & Japan Cooperation Program (LIPI-JSPS), Jarakuta, Indonesia 17&18 2003", Dureau for Cooperation and Promotion of Sciences and Technology, Indonesian Institute of Science (LIPI), Jakarta, Indonesia, 75-80, 2004 Umezawa, T.: Overview of the JSPS-Core University Program in the Field of Wood Science - Review of the past 9 years and future prospects -, 8th Annual Meeting of Indonesian Wood Research Society, September 3-5, 2005, Tenggarong, Indonesia pp. K-3 - K-4 (課題26) Entang R., B. Subiyanto, A. Darwis, A. Firmanti: Physical and mechanical performance of fiberboard made of coconut fruit, Proceedings of International symposium on Wood Science and Technology (IAWPS2005), pp.128-129, Vol.Ⅱ (他、11 報) 3−3.セミナーの成果 1)研究成果の発表 2-3.セミナーの実施状況で述べたように、セミナー(国際木質科学シンポジウム)は、合計6回開催され た。さらに別途、2003 年には、本事業の研究における対象樹木として最も重要なアカシアマンギウムに関す る特別シンポジウムが開催された。これらのシンポジウムでは、アジアでは数少ない木質科学に特化したレベ ルの高い研究成果の発表と議論が展開されており、また、国際学会へ参加するチャンスの少ないインドネシア の研究者に対し、国際レベルの研究発表の場をもたらす貴重な機会としても高く評価されてきた。 2)情報交換と研究推進 本事業のセミナーには、本事業の参加メンバーはもとより、メンバー外の研究機関や民間企業の研究者の参 加を得ている。セミナーでは、これらの関連研究者が一堂に会することから、さまざまな情報交換が極めて効 34 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 率的になされており、更なる共同研究の展開や、個々の研究の深化に、きわめて有効であったとの意見が寄せ られている。また、2003 年に開催されたアカシアマンギウムに関する特別シンポジウムは、本交流事業関係 者以外の反響が特に大きく、世界各国からプロシーディングスの送付依頼が多数あり、アカシアに関する多方 面の分野の研究が一層進展するきっかけとなった。 3)日本側学生への教育的効果 本セミナーを日本で開催した際はもちろん、インドネシアで開催した際にも、多くの日本人学生がセミナー に参加した。一般に日本人学生が国際学会に出席し、英語で研究発表を行う機会は、未だそれほど多いとはい えず、本セミナーは、多くの日本人学生に国際化を促す格好の機会を与えた。また、熱帯森林資源の持続的な 生産と利用に関する知識を深める好機となった。 3−4.若手研究者の交流に関する成果 1)留学生受入 当研究所では、 本拠点大学交流事業に先立ち日本学術振興会一般交流事業による交流をインドネシア科学院 およびマレーシア農科大学(現:マレーシア・プトラ大学)と約 10 年間に亘り実施してきた。この一般交流事 業推進時に、 インドネシアおよびマレーシアから大使館推薦および大学推薦による留学生を合計 5 名受け入れ、 学位取得まで指導した。彼らは帰国後両国の木質科学を牽引しており、中核メンバーとして本拠点大学交流事 業の企画と推進に参画した。本交流事業のインドネシア側サブコーディネーターの 3 氏は、いずれも、生存圏 (木質科学)研究所で学位を取得した留学生である。 この経験をもとに、当研究所では、本拠点大学交流事業開始時から、積極的に留学生の受入に努力した。す なわち、毎年 1 名の拠点枠の国費留学生を受け入れると共に、大学推薦(一般枠)及び大使館推薦による国費 留学生も 13 名受入れ、本拠点大学交流事業に直結する研究テーマの指導を行ってきた。一部の留学生は、修 士号取得後帰国したが、その後論博システムを利用して、研究を続け、多くは学位取得にこぎつけた。当研究 所において、本拠点大学交流事業推進中に、本事業における研究内容に関連したテーマで博士の学位を取得し た留学生数は、インドネシア 8 名、マレーシア 1 名であり、現在、博士課程に在籍中の留学生は 4 名である。 なお、日本留学中にあげた卓越した業績に対し、インドネシア科学院から特別表彰を受けた留学生(Erman Munir)も出た。 これらの学位取得者は、いずれも本国帰国後、各研究機関の中核研究者として研究教育に活躍しており、ま た、本拠点大学事業の中心メンバーとして、日本との重要な人的ネットワークを構成している。 本事業に関連し受け入れた「文部科学省国費外国人留学生」 、 「日本学術振興会論博事業研究者」の状況 文部科学省国費外国人留学生(拠点大学枠) 氏名 受入大学 受入年 取得学位 学位取得年 現 職 1 Hermawan, Dede 京都大学 1996 博士(農学) 2000 ボゴール農科大学・学科長 2 Munir, Erman 京都大学 1998 博士(農学) 2002 北スマトラ大学・講師 3 京都大学 1999 博士(農学) 2003 ハサヌディン大学・講師 京都大学 2000 ― ― 5 Muin, Musrizal Mashudi, Noor, Rahmawati Amirta, Rudianto 京都大学 2001 博士(農学) 2005 6 Indrayani, Yuliati 京都大学 2003 博士在籍中 4 ウィナムクティ大学・講師 ムラワルマン大学・講師 35 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 Munawar, Sasa, Sofyan Joko, Sulistyo 7 8 京都大学 2004 博士在籍中 京都大学 2005 博士在籍中 受入大学 受入年 取得学位 学位取得年 現 職 文部科学省国費外国人留学生(一般枠) 氏名 1 Wong, Ee-ding 京都大学 1996 博士(農学) 1999 マレーシア・プトラ大学・講師 2 Wahyudi, Imam 名古屋大学 1997 博士(農学) 2000 ボゴール農科大学・講師 3 Syafwina 京都大学 2000 ― ― シャクアラ大学・講師 4 Widiyorini, Ragil 京都大学 2001 博士(農学) 2005 ガジャマダ大学・講師 5 Enos Tangke Arung 九州大学 2003 博士(農学) 2006 ムラワルマン大学・講師 6 九州大学 2004 修士在籍中 京都大学 2005 修士在籍中 8 Fatmawati, Sri Ragamustari, Safendrii Komara Erwin 京都大学 2005 博士在籍中 9 Suryanegara, Lisman 京都大学 2005 修士在籍中 博士在籍中 7 10 Lukmandaru, Ganis 山形大学 2004 11 Falah, Syamsul 香川大学 2005 博士在籍中 12 Purnomo, Adi Setyo 九州大学 2005 修士在籍中 13 Maharani, Rizki 北海道大学 2005 修士在籍中 受入大学 受入年 取得学位 学位取得年 JSPS 論博事業 氏名 1 Subyakto 京都大学 1998 博士(農学) 2002 2 Sudiyani, Yanni 京都大学 1998 博士(農学) 2003 2 Firmanti, Anita 京都大学 2000 博士(農学) 2005 現 職 LIPI 生物材料研究センタ ー・上級研究員 LIPI 化学研究センター・上 級研究員 インドネシア労働省建築研 究所・グループ長 2)セミナー開催時における若手研究者・学生の参加促進 セミナー開催時においては、若手研究者に加え、とりわけ大学院学生に口頭発表の機会を多く与えるため、 ポスター発表についても、5 分間の口頭説明を課した。このことにより、多くの大学院学生が、国際会議にお いてはじめて英語で講演する機会を得た。彼らからは、大変緊張したが、将来に向けて貴重な経験をつんだと の感想が寄せられている。 3)セミナー開催時における若手研究者会議の開催 さらに、最終年度に開催した第 6 回セミナーにおいて、日本、インドネシア、マレーシアの若手研究者によ る若手研究者会議を開催した。本会議は、企画・運営から司会・進行まで、すべて若手研究者が取り仕切り、 今後の共同研究の方向性や研究組織について活発な討議がなされた。このような経験を積むことで、若手研究 者の国際会議への主体的な参画の自信を深めることが出来た。 36 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 4)現地講義における若手研究者の講師としての参加 2006 年 3 月に、インドネシア科学院生物材料研究センター内のサテライトオフィスで開催した現地講義 (Wood Science School 2006 in Cibinong)において、日本人講師 8 名枠のうち、2 名を若手助手に充てた。若 手の助手には、英語による始めての長時間(90 分)講演となると共に、各自の専門分野内容を始めて英語で 取りまとめる機会となり、将来の教育活動に対する貴重な経験となった。 3−5.交流を通じての相手国からの貢献 1)人的ネットワーク構築 国際学術交流には、異文化の理解と受容が必須であり、このことは相互信頼がなければ達成できない。われ われは、10 年間に亘る本事業の実施を通じて、相互信頼に基づく強固な人的ネットワークを構築することが 出来た。この人的ネットワークのおかげで、日本側研究者はさまざまな便宜を享受している。例えば、本事業 には参加していない本学教員で、インドネシアをフィールドとした研究を進めている研究者からは、現地での 調査研究遂行におけるさまざまな障害を耳にするが、 本事業関係者がインドネシアやマレーシアで研究を行う 際には、相手国側メンバーの手配により、常に全く障害無く研究を行うことが出来る状況にある。そして、最 近では、われわれの培った人脈を通して、本事業メンバー以外の研究の推進に対しても援助も行っている。 なお、この人的ネットワークの強さは、過日のジャワ島中部地震義援金活動においても実証された。すなわ ち、2006 年 5 月に発生したジャワ島中部地震においては、本事業の中核的メンバーの一つであるジョグジャ カルタのガジャマダ大学も被災した。日本側の本事業関係者に義援金を募ったところ、事業は既に終了してい るにもかかわらず、多くの方が嘗ての共同研究パートナーの惨状に心を痛め、わずか 10 日あまりの間に、総 計 63 名より総額 387,000 円+130US$ (Rp. 32,216,230)の浄財拠出が得られた。このことは、交流を通じて の相手国からの貢献ではないが、人的ネットワークの強さを物語るものである。 また、本事業で培った人的ネットワークは、今後の日本側の研究展開に大きく貢献すると考えられる。 ・第一に、本事業は 2005 年度を以って終了したが、当研究所では、本事業における研究を基盤に、インド ネシアやマレーシアの熱帯人工林をフィールドとした新たな先端研究の展開を企画している。そして、この目 的のため申請した 2006 年度京都大学総長裁量経費(研究課題名:熱帯人工林の環境貢献と持続的生産・利用) は、幸い採択となった。この研究では、樹木バイオテクノロジー関係など拠点校事業メンバー以外のインドネ シア研究者・研究機関との連携が必要であるが、これらのパートナーを選定するに当たっても、既に培った人 的ネットワークが決定的な役割を果たしている。 ・第二に、本事業を通じて、当研究所はインドネシア科学院生物材料研究センターと学術交流協定を締結し てきたが、2005 年 3 月、この協定を核として、京都大学全体とインドネシア科学院全体との学術交流協定が 締結された。このことは、木質科学に関する本事業の成果が、今後の、京都大学のあらゆる研究分野における、 円滑なインドネシアとの学術交流推進に貢献することを示している。 2)フィールドの使用 森林資源の研究においては、フィールドに入って研究開発を行うことが必須であることはいうまでもない。 しかし、本研究の対象である熱帯樹木は、温帯域にある日本では生育できないことから、研究の達成は、イン ドネシアやマレーシア側の支援が得られるか否かにかかっていた。本事業では、上記の人的ネットワークにも 支えられ、自由にアカシアなど対象樹種の林地の使用や樹木のサンプリングを行うことが出来た。特に、熱帯 早生樹の成長機構解析などでは、日本側研究者がインドネシア林地に長期滞在し、大きな成果を上げた。 37 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 3)サテライトオフィスの継続使用 2-5.2)に記載の通り、生存圏研究所はボゴール市郊外チビノンにあるインドネシア科学院生物材料研究セ ンター内に、サテライトオフィスを開設することが出来た。本拠点大学交流事業終了後も、本オフィスは、イ ンドネシア科学院のご好意により引き続き維持されており、オフィスの無償供与、運営に必要な光熱水費のイ ンドネシア科学院による負担も、従前どおりである。インドネシア科学院と当研究所は、今後も研究協力を継 続することで一致しているが、本オフィスは、今後の研究継続の拠点として使用される予定である。 なお、 京都大学には、 当サテライトオフィス以外にも、 東南アジア地域に海外研究拠点を多数有しているが、 これらを連携し組織的に運用する計画があり、当研究所は、本サテライトオフィスの全学的な運用への展開に 積極的に協力していく予定である。 4)日本人学生の国際性の向上 インドネシアやマレーシアからの研究者、 留学生を多く受け入れたことによって研究室は小さな国際交流の 場になっており、 そのことは日本人学生にとって研究面のみならず精神面においてたいへん貴重な経験になっ た。具体的には英語でのコミュニケーション能力の向上、研究に対する熱意や姿勢の変化、また日本文化の再 認識につながったことがうかがえた。外国人研究者の受入は、受け入れる側の学生にとっても価値のあるもの といえる。なお、2002 年度に刊行の実績・評価報告書には日本人学生の印象記が記載してある。 また、インドネシアやマレーシアからの研究者が来日した際、受入研究室において熱帯森林資源に関するセ ミナーを行ったが、これは、日本人学生が現地の状況を知る上できわめて貴重な機会となった。 3−6.交流を通じての相手国への貢献 若手研究者の交流に関する成果(3-4. 1) )で述べたように、インドネシアおよびマレーシアより、日本政 府奨学金による留学生を多数受け入れ、博士学位取得まで研究指導を行った。彼らは、帰国後は母国の大学・ 研究機関で中核メンバーとして活躍している。 招聘による訪問研究者には、滞在中に各分野の最新研究動向について紹介した。また、各共同研究プロジェ クトの下、 最大数十日程度滞在した研究者は、 短期間ではあるが集中的に実験研究を行い、 多くの成果を得た。 これらの成果は、セミナーや学術雑誌に公表されている。また、IAWPS 2005 など、日本で開催された大きな 国際会議の日程に合わせて招聘を行い、相手国研究者に国際会議での講演発表の機会をもうけ、相手国研究者 の一層の国際化に貢献できるよう配慮した。 なお、インドネシア側の本事業関係者が中核となり、本事業の推進中に「インドネシア木材学会」が創立さ れた。また、本事業の成果がインドネシア政府によって高く評価され、2003 年にインドネシア科学院内に、 生物材料研究センターという新たな研究所が設立された。インドネシア木材学会は会員数も 200 名を越え、学 会誌を刊行すると共に、毎年年会を開催しており、活発な活動を続けている。一方、生物材料研究センターは、 東南アジア域における木質材料研究の中心となっている。これらは、本事業がインドネシアにおける木質科学 の組織化や活性化に大きく貢献したことを示している。 また、日本から派遣された研究者は、訪問先研究機関・大学で特別講義を行ってきた。例えば、訪問先研究 機関・大学で手薄な樹木バイオテクノロジーに関する研究紹介を行った結果、当該分野を志望する留学生の受 入に繋がり、インドネシアにおける研究領域の拡大にも貢献した。 さらに、以下の 3-7. 1)に記載するように、共同研究の成果が新しい産業を創成し、雇用の促進にも寄与し た。すなわち、インドネシアに設立されたアカシアマンギウム樹皮会社「PT.Imago Citra Abadi」は、乾燥、 チップ化作業に係る雇用(約 200 人)を創出している。 38 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 3−7.成果の社会への還元 1)共同研究の成果が新しい産業を創成し、雇用の促進にも寄与した。 インドネシアでは、代表的な熱帯早生樹であるアカシアマンギウムが紙・パルプ用原料として 100 万ヘクタ ール近く植林されているが、パルプ製造過程で大量に排出される樹皮が工場周辺に放置され、環境を悪化させ ている。共同研究(課題 20)で、1)アカシアマンギウムの外樹皮から縮合型タンニンを 60%も含む微粉末 を 50%近い収率で製造する技術、2)その微粉末を高耐久性の合板用接着剤原料として利用する技術を開発 した。 2004 年 4 月には、この技術を基に樹皮粉末の製造・販売を目的とした会社「 (株)コシイウッドソリューシ ョンズ」が LIPI の技術指導によってインドネシアに設立され、タンニン高含有粉末を加工し、日本の木質建 材・接着剤メーカーに販売するまでに至っている。 現在、 同社では月産 100 トンのプラントが稼働しているが、 将来は、 それを月産 1000 トンにまで拡張する計画である。 一方、 インドネシアに設立された樹皮会社 「PT.Imago Citra Abadi」は、ボルネオ島に散在するアカシアマンギウム人工造林から樹皮を購入し加工しているが、乾燥、 チップ化作業に係る雇用(約 200 人)を創出している。このように本研究成果は、日本にとっては高性能接 着剤の製造・販売に、一方、インドネシアにおいては、地域環境の改善だけでなく、新産業の育成にも大きく 寄与し、両国の人々の生活を豊かにしながら、持続可能な資源に基づく社会の構築に貢献している。 (毎日新 聞 2004 年 9 月 29 日で報道) 2)共同研究の成果が、特許の取得に結びついた。 共同研究(課題 1)において、竹セメントボードおよびオイルパームセメントボードの製造過程で、蒸気噴 射プレス法あるいはホットプレス法を適用した迅速成型技術の開発を試み、 ホットプレス法と過熱養生法とい う比較的簡単な装置、手法によって、優れた材質をもつセメントボードを短時間で成型、製造することに成功 した。同時に、超臨界二酸化炭素養生による新しい高性能木質セメントボードの迅速製造法を開発したが、こ れに関連技術に関して特許を申請し取得した。 ・黒木康雄、永富 辨、金子真一、川井秀一、畑 俊充:特許「特願 1998−305256 木質セメント板の製造 方法」(公開中) ・黒木康雄、永富 辨、金子真一、川井秀一、畑 俊充、デデ・ヘルマワン:木質セメントの製造方法、特 許「特願 2000−162841 木質セメント板の製造方法」 (公開中) 3)新しい木質材料が開発され、実用化に向かっている。 ゴム樹液の生産が終了したゴムの木は、単独で使用すると、乾燥後の「あばれ」が大きく、破壊性状が脆性 的で構造信頼性は低い。また、早生樹種のファルカータは、わが国ではキリの代替材として利用される程比重 が低く、強度的性質は期待できないため、その単独使用の用途としては造作的利用に限られていた。今回の共 同研究(課題 19)の結果、この力学的性能の全く異なる2つの南洋材を交互に積層して異樹種の単板積層材 (LVL もしくは LVB)とすることによって、非常に優れた構造性能を有する木質材料の商品化に成功した。 この製品は、大阪の(株)ユニウッドコーポレーションで実用化されつつあり、新しい木質構造材料としての 需要の増加が期待される。 この研究成果は、単独での利用では構造信頼性に乏しかった個々の樹種を、積層接着することによって、構 造信頼性の高いエンジニアードウッドを生み出すことができたことを意味する。 これまで相対的に付加価値の 低かった1次産品の生産が主体であったインドネシア、マレーシアの木材産業に対し、自国に産する木材資源 39 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 からエンジニアードウッドという付加価値の高い木材製品の生産が可能であることを示唆しており、 両国の木 材産業の更なる発展に寄与するものと考えられる。 3−8.予期しなかった成果 1)京都大学-LIPI 学術交流協定の締結 2-5「事業に対する相手国拠点大学、対応機関との協力状況」の項で述べたように、本事業による学術交流 の進展によって、2006 年 3 月に京都大学と LIPI との間に、幅広い研究交流・人的交流・情報交換を含む包括 的な大学間学術交流協定が締結された。この協定締結にあたり、LIPI のウマール長官の「LIPI と京都大学の 共同研究は双方の科学の振興だけでなく、人類のための進歩を高めることができる」との表明は、両国並びに 世界の学術交流の進展に寄与することを謳ったもので、きわめて印象深いものであった。 2)研究業績が顕彰された。 拠点校事業の関連で京都大学において学位を取得した Erman Munir 氏(North SumatraUniversity)は、本学留学 中に挙げた卓越した業績に対し、2003 年 7 月にジャカルタで開催された LIPI-JSPS Workshop and Expose の席 上で、LIPI 長官から特別賞を受賞した。 3)国際シンポジウムの内容がインドネシアのマスコミに大きく取り上げられた。 2002 年の第 4 回国際木質科学シンポジウムでは、会議期間中、インドネシアの新聞社やテレビ局など 10 社 の報道関係者が集まって記者会見が行われ、 会議内容や熱帯森林資源の持続的な利用の重要性を訴える報道が 流された。これがきっかけとなって、インドネシアの研究機関のみならず造林公社などが参画する熱帯植林地 の生産と環境貢献に関する研究に発展しつつある。 4)国際会議の運営マニュアルが作成された。 2004 年度には、第 5 回国際木質科学シンポジウム (5th IWSS) を京都にて開催したが、今後の研究方向の解 析と次回のシンポジウムのよりよい運営のために、このシンポジウムにおける諸記録を取りまとめ、実施記録 冊子として刊行した。このシンポジウムは所内のほとんどの研究者が参画し、きわめて成功裏に、かつ効率的 に企画・運営できたことから、これ以降の研究所の国際会議の開催のマニュアルとなっている。 3−9.課題・反省点 木質科学という特化した研究分野での事業であったため、 日本側ではこれに関連する主要な大学からの研究 者を協力研究者として網羅でき、一方では、熱帯森林資源の持続的な生産と利用技術という問題認識を共通で きる研究テーマについて共同で取り組めた結果、多くの具体的な研究成果を達成することができた。また、相 手国との協力体制も本事業にに先立つ「一般交流」での実績が備わっていたことから出発時点からスムーズに 事業展開することができた。 しかしながら、相手国拠点校のインドネシア科学院は研究面においては拠点となっていて、インドネシア国 内の他大学、 研究機関の研究者を本事業の共同研究に参画させる中心的役割を果たしてきたことにおいて問題 はなかったが、インドネシア科学院の有する予算資源をインドネシア国内の他大学・研究機関の研究者が使用 できないという制限を抱えている。この行政的制度面における制限のため、インドネシア科学院以外の研究者 がインドネシア国内で開催するシンポジウム等についても、 インドネシア科学院の予算を使って参加したりす ることができず、今後のコストシェアの国際共同研究の展開に大きな課題を残している。 40 京都大学 熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発 共同研究の実施については本事業の予算目的が交流に重点が置かれていたため、 具体的な共同研究の実施に ついては他の研究費や新規に獲得した外部資金等を充当して実施してきた。 多くに共同研究の成果はこのよう な協力研究者の努力によって達成されてきたが、 予算措置の困難な萌芽的な研究や若手研究者が主体となる国 際共同研究を成功させるためには、それ相応の予算資源の配置と運用が必要であろう。 インドネシアの国内の政情などによってシンポジウムの開催や共同研究の遂行に大きな問題や困難を来た したことはなかったが、予測不可能な事態における危機管理については、それなりの措置を講じておく必要が あろう。 3−10.交流事業終了後の展望 本交流事業では、 目標を熱帯森林資源の持続的な活用のための技術開発に設定している。 すなわち端的には、 熱帯森林資源の利用研究に主眼をおいて出発した。一方、かつて一定の成功を収めた20世紀型の化石資源依 存社会は既に行き詰まりを示し、今後再生可能資源に依存する社会を構築することが愁眉に急となっている。 すなわち、今後最も蓄積量の多い再生可能資源である森林資源に対する依存度が上昇すると考えられる。しか し、今後天然林に依存したバイオマス生産は許されず、環境と折り合いをつけながら、植林した森林資源を持 続的に生産し、それを消費することが必須となっている。 したがって、今後は、 「環境と折り合いをつけながら、持続的に熱帯森林バイオマス資源を生産し消費する」 ことを可能とする文理融合型の学問体系の構築が緊急の課題である。本交流事業の途上で、以上の課題の重要 性が強く指摘されるようになり、 すでに本交流事業の後半では持続的熱帯人工林経営に関する検討が開始され た。そして、本交流事業終了後、当研究所ではさまざまな研究費申請枠について、本交流事業の成果を基盤と した熱帯森林バイオマス資源の環境貢献と持続的生産利用に関する研究を提案している。本年度は、幸い京都 大学総長裁量経費への申請(課題名、熱帯人工林の環境貢献と持続的生産・利用)が採択となり、また、京都 大学生存基盤科学研究ユニットでも、早生樹木の分子育種に関するプロジェクトが開始された。これらの研究 費や、その他の研究所全体あるいは所員の研究費を以って、人工林の持続的生産と利用に関する研究を鋭意継 続している。 4.参考資料 事業の進捗状況ならびに成果等について分析した評価・報告書を参考資料として提出します。 ① 「実績・評価報告書」2003 年 3 月刊 ② 「実績・成果報告書」2005 年 3 月刊 ③ 「日本学術振興会拠点大学交流事業(木質科学)実績・成果報告書(CD 版)」2006 年 3 月刊 また、以下の書籍等は事業で出版した刊行物です。 a 英文報告集 Science for Sustainable Utilization of Forest Resources in the Tropics 2001 年 3 月刊 b 英文報告集 Science for Sustainable Development and Utilization of Tropical Forest Resources 2006 年 3 月刊 c 第 1 回∼6 回国際木質科学シンポジウム要旨集 d 熱帯造林樹種アカシアマンギウムの持続的利用に関する国際シンポジウム要旨集 e International News Letter (No.1∼18) f Directrory(2000 年度、2002 年度), CD 版(2004 年度) 41