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石狩市浜益

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石狩市浜益
農村環境を考えよう!「タニシの引越し」
石狩支庁農業振興部調整課、整備課
○環境との調和に配慮した農業農村整備事業の推進について
食料・農業・農村基本法が、平成11年度に制定され、これを踏まえ土地改良法におい
ては、事業の実施に当たって、「環境との調和に配慮すること」が位置づけられ、また、
「環境との調和に配慮した農業農村整備事業等基本要綱」及び「農業農村整備事業におけ
る環境との調和の基本方針」の制定により、計画樹立の早期段階から事業実施に到るまで
の考え方・扱い等の方針が農林水産省から示された。
石狩支庁では、これを受けて平成14年6月6日付けで「石狩支庁道営農業農村整備事
業等環境情報協議会」を設立し、環境に関する専門家を含めた外部委員の参画によって毎
年度開催している。
平成15年度は、協議会において道営5地区に対して意見を頂いたところであるが、経
営体育成基盤整備事業柏木大成地区にかかる地域の概況及び意見はつぎのとおりである。
○地域の概況
ⅰ)浜益村の概要
柏木大成地区が位置する浜益村は、西は日本海、東には暑寒別天売焼尻国定公園の山岳
地帯と海と山に囲まれた地域であり、農地は浜益川沿いに広がる平野部に集中している。
農業は、稲作主体であり、生産される米の品質は石狩支庁管内では最上位である。
ⅱ)柏木大成地区の概要
予定工期H16∼H21、総事業費720百円、受益面積37ha(区画整理)
ⅲ)環境の概要(タニシに関すること)
地区内の水田や水路には他の地域ではほとんど見られなくなったタニシが多く生息して
いる。
区画整理と併せて、外水位が高いために置土工法を予定している。近隣の小学校の総合
学習も併せて工事前にタニシを他の場所へ移設することを検討している。
イメージ
○環境情報協議会での意見
ⅰ)タニシが多く生息している理由としては、農薬の使用量が少ないこと、山地からの湧
水が供給される環境によるものと推測される。
ⅱ)タニシの移設については、地域の子供たちに関心を持ってもらうということが重要で
あり、将来の環境保全にとって大きな意義を持っている。
教育の一環として行うのであれば、引越し方法やその後の観察など、できるだけ教育的
効果が上がるようなカリキュラムを考える必要がある。
○取り組みの経緯
環境配慮を具体的に取り組む上で、何に配慮するのかが最大のポイントとなるが、自然
界の動植物で、かつ、希少である場合にはイメージしやすいが、必ずしもどの地域でも明
確な配慮事項があるとは限らない。
タニシに関しては、戦後は食用として養殖していたが、近年の生息状況など体系的に調
査されている例はない。このため、置土によるタニシへの影響度合いを検証するのではな
く、一時的に負荷軽減のための移設を選択した。
また、今回の「タニシの引越し」は、地区の近隣に小学校が所在していたこともあっ
て、環境情報協議会の意見を踏まえ、農業への理解向上と併せて、工事期間中のタニシへ
の負荷軽減のため、浜益小学校児童とともに関係機関による一時回避を含めた田んぼの生
き物観察会などの取り組みに至った。
○環境配慮に向けた具体的な取り組み
ⅰ)基礎情報の入手
まずはじめに、アセスメント調査を専門にしている民間企業からタニシに関する情報を
提供して頂き、生態環境条件は、①水中の酸素量が十分であること。②水温が高くならな
いこと。③農薬が少ないこと。④えさ(土壌中の微生物、藻類)が十分であること。で
あった。また、移設場所の環境が水が停滞しているようであれば、酸素欠乏の恐れがある
ので、酸素量(DO)の調査を勧められた。なお、浜益に生息している種類は「マルタニ
シ」とのこと。(北海道に生息しているのは大タニシとマルタニシの2種類のみであ
る。)
このことを受け、道立中央農業試験場の協力を得て、地区内の水生生物の概略調査と併
せて水質調査を実施した。
ⅱ)安全対策
イベントを開催するときは必ず考慮しなければならないのが安全対策であるが、今回
は、児童と一緒に行動する初めての試みであったこと、また、1年生から6年生まで幅広
い参画であったため、安全面に関しては特に留意した。
<取り決め事項>
・怪我防止のために、児童は田んぼ以外のところでは、裸足は厳禁
・排水路の出入りには必ず大人が補助
・水深が深い排水路の立ち入りを遮断するための仕切りロープの設置
・用具の取り扱いの留意
・手洗いなど衛生面の確保
・へび、蜂、薮蚊、ヒル、ガラス片、空き缶などの危険因子への対応
特に、蛇に関しては、日本海側の地域では、毒蛇であるマムシが生息しているた
め、この地域における蛇情報を付近の住民から聴き取るとともに、あらかじめ畦の草
刈を行い死角をなるべく排除した。また、万一、噛まれた際に迅速な対応が必要とな
るため、あらかじめ血清保有場所とその数を確認した。
・巡回員等の設定
児童の体力や基礎知識により低学年、中学年、高学年の班によって作業内容を分
け、各班ごとの監視員はもとより水路周りや蛇などから危険を未然に回避できるよう
にした。
支庁では、準備段階より計画及び実施の直接担当のみならず、係単位を超えたチームで
構成した。
ⅲ)事前準備
児童向け説明資料(ねら
い、行動概要、注意事項、そ
の他)、タイムマシンカー
ド、タニシの引越し先の立て
看板、児童に分かりやすいひ
らがなネームプレートなどを
事前に作成した。
※「タニシ」引越し中
(移設先の目印用に、
廃材を利用して職員が
作成したものである。
なお、現在は浜益小学
校に掲示されてい
る。)
特に低学年のために、田んぼの生き物の観察と集中力を保ってもらうため、水槽を準備
して、前日に、魚類等を捕獲して現地に展示することとした。なお、このことが、結果的
に雨天となったことで大きな効果を発揮した。
・児童の反応について
当日の説明の際に、タニシの理解度を挙手によって行ったが、低学年を中
心に約6割の児童がタニシを見たことがないと答えた。
また、ドジョウ、おたまじゃくし、蛙などに初めて触ったという児童も散
見された。
一方、やごについては、学校の授業でも取り上げられていることもあっ
て、とんぼの幼虫であることなど他の生物に比較して理解されている印象で
旧河川(地区外)で採取した「がむし」の幼虫は、児童全員は初めて見た
とのことで大変驚きの様子であった。なお、大人たちも現物を見たことがあ
るのは1名のみであった。
雨天のため予定していたタニシ採取及び移動は、学校関係を除く機関で行
うこととなったが、児童たちには、前日採取した標本に触れることで、農村
地域の環境に興味を持ってもらう一助となったものと推測される。
なお、前日に採取した田んぼの生き物達は、現在は浜益小学校で飼育及び
観察されている。(はず)
※がむしの幼虫(鋏が不気味)
※田んぼからタニシを採取し
ている様子。
※移設先の地区外の水路
・「タイムマシンカード」
「タイムマシンカード」は、全校児童を対象に3年後のタニシの生息状況を予測するこ
とをテーマに取り組んだが、学年ごとの基礎知識の違いもあるため、感想など自由な意見
も可能として進めたものである。傾向としては、1∼2年の低学年は、見たことや触った
ことについての記述が多く、3∼4年の中学年は、見たことや触れたことのほかに感想が
含まれているのが特徴的であった。また、5∼6年の高学年は、質問趣旨に対する回答を
中心としているものが多かった。
今回は、意識調査が主目的ではないため、集計分析は行っていないが、重複回答を含め
単純累計をすると以下のとおり。
<生き物に関すること>
・タニシについて
・ドジョウについて
・おたまじゃくしについて
・蛙について
・その他について
37
10
8
5
3
件
件
件
件
件
<予想に関すること>
・大きくなる
・増える
・少なくなる或いは死んでしまう
・元に戻る
17
15
8
2
件
件
件
件
<感想に関すること>
・うれしかった
・楽しかった
・良かった
・可愛かった
・心配だ
<その他>
・触った
・3年後にやりたい
5
3
9
4
1
件
件
件
件
件
※77名全員のカードを保管し
12 件 ている。3年後に開封を予定。
6 件
ⅴ)今後の予定
H17年度以降は、H16年度と同様の取り組みを別の工事区域でも検討中。また、一時
回避場所でのタニシの生息に関するモニタリングを行い、工事完了後(3年後)はタニシ
定
を元の場所に戻すことを予定している。
○おわりに
浜益小学校、浜益村産業課並びに同教育委員会、同総務課、浜益土地改良区、中央農業
試験場、道農政部農村計画課の関係職員の皆様に、ご協力を頂いたことに深く感謝申し上
げる。
最後に、浜益小学校の児童たちのキラキラした眼差しが今でも印象深い。
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