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平成28年度花巻市民芸術祭第10回文芸大会 一般の部 入選作品 【詩】
平成28年度花巻市民芸術祭第10回文芸大会 一般の部 入選作品 【詩】 *作品募集の部 ・芸術祭賞 「秋を浴びて」 しゃぼん玉が ながれ飛んでくる 池のほとりの草の上で 親子が遊びを始めたらしい 吹き口から生まれる小さな泡は ピッコロの音階だ オーロラ色にきらめいて光の帯のように広がり 一つひとつがふくらんでしゃぼん玉になる 水面をころころころがる すべってはじけて消える 男の子は父親と さっきから ずっと笑い合っているのに 声は聞こえない いこいの森の真昼 ゆったりと 静もっている 歩き疲れてベンチに腰を下ろし手足を伸ばす さりげない会話はモノトーンで草に吸われる 伊藤 諒子 訊ねたい事 話したいことを 言葉にしない安らぎもある 今のままを 今のままに 明日へと送る いたずらに 何かを待つこともなく 追い払うこともしない 無色のしゃぼん玉が漣の上に止まった 中に 黒縁めがねの父と ピンクのワンピースの五歳の私 岩手公園の草に座っておにぎりを食べている 数枚きりの 家族色した思い出のシーン 風に乗って池の上をころげ 微小の水滴となりそして消えてしまった メタセコイアの木の間をくぐり抜けて やってくる風は 秋をたっぷり 纏っている ・優秀賞 「小さな蝿に」 大森 わたしは一人 ― わたしは一人 ― 一人で五年も暮しているので もう なれてしまっている くる日も くる日も 一人 起きて 一人で炊き そして一人で箸をうごかしている ある昼のこと そこに ひょっこりとあらわれたのは 一匹の蝿 お一人でさみしいですか そうしたそぶりで わたしの前にきて見つめている おや お前さん どこからおいでになったの わたしは 一人の同居人のように声をかけてやる いいえ ずっと前から住んでいましたが こわいようなのでかくれていました 小さな蝿とはいえ わたしは一人でないことを知ったのだ 哲郎 わたしは できるだけ やさしくしてやろうと思いなが ら わたしの前にいる蝿を見つめていた それを感知したのか 蝿もわたしの周りをとんだりして 仲よくしてくれたことを喜んでいるかのよう である 一人暮らしが長くなると こんなにも仲間がいとおしくなるものかと われながらふしきな思いである ・奨励賞 「笑顔のおつり」 今朝の顔はとても良い 今日から古稀の顔 私は輝いている 小学校の頃 隣の母さんに 「ぼっこちゃんの笑顔は 気持良い」と 褒められた 初めて褒められた事は笑顔 幼い心に笑顔はしっかり根付いた 笑顔の「おつり」は 褒められる事 中学校卒業の寄せ書きにも 私を思えば「笑顔になる」とあった 笑顔のおつりは笑顔 あれから半世紀以上 色々な思いをしてきたが それでも私は「おつり」を忘れた事がない そして今日 全ての出来事が薬になった 今朝の顔は とても自分に似合っている ※ぼっこちゃん・・・私の愛称です 朝倉 了子 ・佳作 「道」 道には色々の思い出がある 亡き父母を思い出し 涙を流しながら歩いた道 重いリュックを肩に あえぎあえぎ山に向かった道 石ころにつまずいて 膝をすりむいて泣いた道 あの人に想いをうち明けた道 春風の中を自転車で走った道 道には色々の思い出がある 道は世界のどこまでも 続いている 誰も これらの道を行く事を拒まない それぞれの夢を持って行けばいい 道には色々の思い出がある 懐かしく振りかえられる よい思い出を 残すような道を 誰もが歩き続けて いけたらいい 神山 博 ・佳作 「ガリラヤ湖」 燃えるように 赤々とした 朝日を映し出す ガリラヤ湖 我に従え 漁師たちに 主イエスが声をかけられた ガリラヤ湖 主イエスに叱られ 風がやみ 大なぎになった ガリラヤ湖 主イエスの足跡を残す ガリラヤ湖 わが心にあり 桑原 響子 ・佳作 「夏の終わりの雲」 夏は往こうとしているのに 雲の貌にその気配はない 幼い頃の記憶にあるような 大らかでゆったりの夏の終わりの雲 不思議な白さで掴みどころが無い その自在な変容は夏だけのもの 懐かしさも哀しさも漂わせて 無性に慕わしく包まれてさえみたくなる 秋がそこまで来ているらしく 気圧とか気流とか気象用語や数値だけが 幅を利かせはじめて 文学とは二分されるかけ離れた世界 季節の姿を存分に見せてくれる雲たち 思い思いに感受し表現する悦び 烈風に引き千切られる前の 豪雨に痛めつけられる前の晩夏の雲の貌 ルディア・ひろこ