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GE-PON
技 術 基 礎 講 座 第1回 PONとは 第2回 IEEE802.3ah標準規格 第3回 DBA機能 第4回 GE-PONシステム技術 第5回 今後の標準化 【GE-PON技術】 IEEE802.3ahは高速広帯域なイーサネット(Ethernet)通信をアクセスネットワークに適用す ることを目的にIEEE(米国電気電子技術者協会)802委員会で標準化された規格です.規格の中に, 今注目を集めているGE-PON(Gigabit Ethernet-PON)の仕様について規定されています. こにイーサネットを適用するという意味でEFMと呼ばれ IEEE802.3ahの概要 ました.IEEE802.3ahでは,Copper方式,光Point to IEEE802.3ahはイーサネットの標準化団体として知 Point(P2P)方式,光Point to Multipoint(GE- られるIEEE802.3WGで,イーサネットの経済性,相互 PON)方式の3つの通信方式とすべての方式に共通で使 接続性,高速広帯域性をアクセスネットワークに適用す える保守監視機能 (OAM: Operation, Administration, るための新しいブロードバンド規格として昨年6月に標 and Maintenance)を規定しています.各機能は,レ 準化されました.802.3ahは通称EFM(Ethernet in イヤごとに規定されています.図1はIEEE802.3ahのレ the First Mile)と呼ばれています.アクセスネットワー イヤ構造です. * ク (正確には, き線点 からお客さま宅までの最後の数百m) のことを「ラストワンマイル(Last one Mile)」と呼ぶ ことがありますが,EFMではユーザ側を起点に考え 「ファーストワンマイル(First one Mile)」と呼び,そ なお,GE-PONはIEEE802.3ahではEPON (Ethernet-PON)と呼ばれていますが,ここでは混乱を 招かないようにGE-PONと呼ぶこととします. PMD副層 * き線点:加入者ケーブルが地下管路から架空へと立ち上がるポイントのこと. IEEE802.3ahではGE-PON方式,光P2P方式, Copper方式のPMD(Physical Medium Dependent) 上位層 上位層 MAC クライアント MAC クライアント MAC クライアント OAM OAM OAM 副層が規定されています.表にPMDの光インタフェース を示します. マルチポイントMACコントロール データリンク層 MAC MAC RS 物理層 OSI参照モデル 表 PMDの光インタフェース MAC GMII 方式 実効速度 (bit/s) ファイバ 距離 (km) トランシーバ波長 (μm) PCS P2P P2P 100BASE-LX10 1000BASE-LX10 100 M 1G 2心 2心 10 10 1.31 1.31 PMA P2P 100BASE-BX10-D 100BASE-BX10-U 100 M 1心 10 1.55 1.31 P2P 1000BASE-BX10-D 1000BASE-BX10-U 1G 1心 10 1.49 1.31 GE-PON 1000BASE-PX10-D 1000BASE-PX10-U 1G 1心 10 1.49 1.31 GE-PON 1000BASE-PX20-D 1000BASE-PX20-U 1G 1心 20 1.49 1.31 PMD MDI MAC:Media Access Control RS:Reconciliation Sublayer GMII:Gigabit Media Independent Interface PCS:Physical Coding Sublayer MDI:Medium Dependent Interface 名称 光ファイバ :GE-PONに関係する部分の プロトコルスタック 図1 IEEE802.3ahのレイヤ構造 D:OLT側インタフェース U:ONU側インタフェース NTT技術ジャーナル 2005.9 91 GE-PON方式では,従来の1Gbit/sの伝送速度を持つ GE-PONシステムでは,下り信号(OLT→ONUの信 ギガビットイーサネットで標準とされていた 号)は全く同一のものが 放送形式で全ONUに到達します. 1000BASE-Xファミリー(1998年標準化.規格化タス よって,各ONUは受信したフレームが自分宛であるかど クフォース名:IEEE802.3z)とは別に,GE-PONで必 うかを判断し,受信フレームの取捨選択を行う必要があ 要となるバースト信号の送受信を考慮した1000BASE- ります.GE-PONではこの判断をLLID(Logical Link PX規格が 追加されました.PX規格は伝送距離(10,km対 ID)という識別子を用いて行います.LLIDは図2のよう 応/20,km対応)と上り・下り方向それぞれの合計4種類 にイーサネットフレームのプリアンブルに収容されます. に分類されます.使用波長帯域は1.55μm帯による映像 なお,LLIDの値はONU登録時にOLTで決定され,OLT の多重を考慮して,1.49μm帯〔OLT(Optical Line は自分の配下のONUでLLIDの重複が起こらないように管 Terminal)→ONU(Optical Network Unit)〕および 理しています. 1.31μm帯(ONU→OLT)を用います.波長多重によ 下り方向通信では,OLTは送信フレームごとにどの り双方向それぞれ1Gbit/sの通信速度(物理信号速度は ONUに送信するかを判別し,そのONU用のLLIDを送信 1.25,Gbit/s)で通信を行います. フレームに埋め込んでONUへ送出します.ONUは受信 光P2P方式では光ファイバ2心で通信を行う フレームのLLIDをあらかじめOLTから通知された自分の 100BASE-LX10,および1000BASE-LX10とWDM LLIDと照合し,一致していれば自分宛であると判断して (Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重) 受信フレームを取り込み,そうでなければ自分宛でない 方式を用いた100BASE-BX10,および1000BASEBX10が 規定されています. と判断し受信フレームを廃棄します. 上り方向通信(ONU→OLT方向の通信)では,ONU なお,BXとPXの場合WDMを用いた双方向通信を行 は自分に割り当てられたLLIDを送信フレームに埋め込ん うため,OLT側とONU側を入れ替えて使用することはで でOLTへ送出します.OLTでは受信フレームのLLIDによ きません.100BASE-BX10,1000BASE-BX10間 り,どのONUから送信されたフレームであるかを判別し も使用する波長が異なるため相互接続できません. ています. 1000BASE-BX10と1000BASE-PX10は使用波長 図3に示すようにLLIDによる識別を行うと,物理的に が 同一ですが,後に説明するGE-PON方式のマルチポイ はGE-PONの形態であっても論理的にはP2P形態での通 ントMACコントロールの機能が P2P方式にはないため, 信が可能となることから本機能はP2PE(Point to 相互接続ができません. Point Emulation)と呼ばれています. Copper方式では,短距離・高速用の10PASS-TSと P2PEの例外として,下り通信に関してブロードキャ 長距離・低速用の2BASE-TLのPMDが規定されていま ストLLIDと呼ばれる特別なLLIDが定義されています. す.10PASS-TSのPMDおよびPMA(Physical ONUは受信フレームがブロードキャストLLIDを持つ場合 Medium Attachment)はANSI T1.424.のVDSL は,無条件にそのフレームを取り込みます.メディアコ (Very high-bit-rate Digital Subscriber Line)に準拠 ンバータ(MC: Media Converter)などのP2Pシステ しており,最大通信速度10,Mbit/s,最大通信距離 750,mを可能とします.2BASE-TLのPMDおよび オクテット数 8 6 6 2 46∼1 500 宛先 アドレス (DA) 送信元 アドレス (SA) タ イ プ 送信データ 4 ≧12 PMAはITU-T G.991.2のSHDSL(Single-Pair HighSpeed Digital Subscriber Line)に準拠し,最大通信 インター フレーム プリアンブル ギャップ インター FCS フレーム ギャップ 速度2Mbit/s,最大通信距離2,700,mを可能とします. イーサネットのフレームフォーマット Reconciliation副層(RS) 0x55 0x55 0x55 0x55 0x55 0x55 0x55 0xd5 イーサネットのプリアンブルフォーマット RSは,MACと物理層の仲介役(フレーム間隔の調整) 0x55 を行っていますが,IEEE802.3ahでは,OLT−ONU間 のイーサネットフレームを識別するため,RSで規定する プリアンブル(Preamble)の一部に識別子を埋め込み, 新機能を加えています. 92 NTT技術ジャーナル 2005.9 0x55 0xd5 0x55 0x55 LLID LLID CRC8 IEEE802.3ahのプリアンブルフォーマット FCS:Frame Check Sequence CRC8:Cyclic Redundancy Check 0x55:「0x 」は16進(hexadecimal)表記を明示する 記号の1 つ.0x55は二進法で「01010101 」. 図2 LLIDの収容位置 技 術 基 礎 講 座 1 UNI 2 UNI 3 1 UNI A B C 1 2 3 LLID ONU#1 (LLID ‘A’) A B C 1 2 3 A B C 1 2 3 ONU#2 (LLID ‘B’) 光スプリッタ A B C 1 2 3 2 3 SNI 1 2 3 に論 等理 価的 MC#1 1 P2Pシステム MC#1 2 UNI MC#2 MC#2 3 3 1 GE-PONシステム ONU#3 (LLID ‘C’) UNI 2 SNI OLT L2 SW MC#3 UNI MC#3 UNI:User Network Interface SNI:Service Node Interface L2SW:Layer2 Switch MC:Media Converter 図3 GE-PONシステムとP2Pシステムの比較 ムでブロードキャストフレームやマルチキャストフレーム を転送する際には,転送対象となるMCの数だけフレーム をコピーしてから個別にMCに送る必要があるため,コ ピーに処理時間を要し,帯域使用効率が低下するという問 題がありました.一方,GE-PONシステムではブロード キャストLLIDを使うことによりフレームをコピーするこ となく全ONUに転送可能なため,下り同報配信に適した システムであるといえます. ONU OLT Discovery GATE (未登録のONUに対し送信タイミングを通知) Register Request (未登録のONUからの登録要求) Register 〔未登録のONUへの登録(LLID )の通知〕 GATE (送信帯域および送信タイミングの通知) Register ACK (Register の受信応答) Physical Coding副層(PCS) PCSではデータの符号化を行いますが, IEEE802.3ahでは,PCSに,エラービットを訂正する 機能をオプションとして加えています. 図4 P2MPディスカバリ アクセスネットワークのような長距離伝送では,光信 号が劣化するため,受信側でエラー訂正を可能とする P2MPディスカバリに関するものと,上り信号制御に関 FEC(Forward Error Correction)方式を規定していま するものに大きく分けることができます. す.FECを使用することにより光特性の改善を図ること ■P2MPディスカバリ ができ,遠距離のONU接続や,ONU接続数の増加が可 能となります. マルチポイントMACコントロール副層 GE-PONのマルチポイントMACコントロール副層は GE-PONでは,ONUがPONに接続されるとOLTはそ のONUを自動的に発見し,ONUにLLIDを付与して通信 リンクを自動的に確立します.この機能をP2MPディス カバリと呼びます.P2MPディスカバリのシーケンスを 図4に示します. NTT技術ジャーナル 2005.9 93 P2MPディスカバリ中に,OLTは該当ONUとの間の E1 ONU #1 AT い,またONUはOLTとの時刻同期を行います.RTT測定 G RTT(Round Trip Time:フレーム往復時間)測定を行 および時刻同期はその後も定期的に行われ,線路条件の 変化などによりズレが生じた場合には随時補正されます. ■上り信号制御 GATE2 GATE1 GATE3 OLT GE-PONの上り信号は光スプリッタで合流するため, GATEフレームによりそれぞれのONU の信号送信タイミングを指示 G AT E3 各ONUからの上り信号が合流後に衝突しないように制御 する必要があります.GE-PONではOLTが 司令塔の役割 GATE2 ONU #2 ONU #3 を務め,各ONUに対して送信許可を通知することにより, 各ONUからの上り信号を時間的に分離して衝突を回避し ています.上り通信衝突回避の例を図5に示します. 送信許可の通知は,具体的には「GATE」と呼ばれる ONU #1 上り 信号 1 制御フレームをOLTから各ONUへ送ることにより実現さ れます.GATEフレームには,そのONUに対する送信開 始時刻と送信量(いつの時点からどれだけの上り信号を 上り信号2 上り信号2 上り信号3 OLT 送ってよいという情報)が収容されています.ONUはそ 3 信号 の指示に従って上り信号の送信を行います. なお,IEEE802.3ahでは各ONUへの上り信号送信許 上り信号1 ONU #2 上り ONU #3 ONUはOLTから与えられたタイミングど おりに信号を送信するため,上り信号の 衝突は発生しない(上り信号と同時に REPORTフレームも送信される). 可方法は規定されていますが,各ONUへの帯域の割当 (送信開始時刻と送信継続時間の計算)方法については規 図5 上り信号衝突の回避 定されていません. OAM副層 OAMとは,装置や回線の保守監視制御のことです. PONを実際にシステム(装置)として導入していくため には,他にもさまざまな機能が必要となります. LANを中心として発展してきたイーサネットをアクセス その1つの例が,マルチポイントMACコントロール副 系に適用するには保守監視機能を強化する必要がありま 層の上り信号制御の項で触れた各ONUへの帯域割当を行 した.そのため,IEEE802.3ahではOAM副層が新たに う機能です.この機能はDBA(Dynamic Bandwidth 規定されました. Allocation)機能と呼ばれています.次号では,DBA機 OAM副層では,OAM機能としてOAMフレームと OAMフレームを用いた制御機能について規定されていま す.GE-PONではOAMフレームはOLT−ONU間で使用 されています.OAMフレームを用いた主な機能としては, 障害通知,ループバック試験,リンク監視があります. 能について詳しく説明します. ■参考文献 (1) 落合・立田・藤本・田中・吉原・太田・三鬼:“Gigabit Ethernet-PON (GE-PON)システムの開発,”NTT技術ジャーナル,Vol.17,No.3, pp.75-80,2005. (2) 藤本:“IEEE802.3ah(EFM)標準化動向−Ethernet規格がアクセス系に 本格進出, ”NTT技術ジャーナル, Vol.14, No.10, pp.66-68, 2002. また必要に応じてシステム開発者がIEEE802.3ahで規 定された手段に従って不足するOAM機能を拡張すること もできます. OAM副層はGE-PON方式だけではなく,P2P方式や Copper方式にも適用可能となっています. GE-PONシステムとIEEE802.3ah 以上述べてきたように,IEEE802.3ahではGE-PON に関する各種規定がなされています.しかしながら,GE- 94 NTT技術ジャーナル 2005.9 ◆問い合わせ先 NTTアクセスサービスシステム研究所 第一推進プロジェクト IPアクセス推進DP TEL 043-211-3290 FAX 043-211-8875 E-mail [email protected] このコーナで取り上げ て欲し いテーマを E-mailで編集部までお寄せください. ●(社)電気通信協会内 NTT技術誌事務局 E-mail [email protected]