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イギリスの社会保障と介護者

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イギリスの社会保障と介護者
SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
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イギリスの社会保障と介護者
三富, 紀敬
静岡大学経済研究. 11(4), p. 49-78
2007-02-28
http://doi.org/10.14945/00000751
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イギリスの社会保障 と介護者
論
説
イギリスの社会保障 と介護者
三
富
紀
敬
はじめに
筆者は、かつて『イギリスの在宅介護者』(ミ ネルヴァ書房、2000年 、 1-625頁 )を 世に問う
たことがある。拙著は、い くつかの書評でも指摘 されたように(1)介 護者のニーズに着日して要介
護者への支援 とは相対的に区別 される介護者支援 について主張 をするものの、その理論的な根拠
がやや不明である、(2)介 護者への支援が介護者の「生活の質」 を引き上げると主張 しているが、
要介護者の「生活の質」 とその引き上げとの関連についてもやや不明である、(3)出 版 された時期
とも関わつて、介護者の承認 とサービスに関す る1995年 法並びに『介護者のための全 国戦略』
(1999年 )に ついては扱うものの、その後 に制定 された介護者 と障害児 に関する2000年 法 をはじ
め コミュニテイケア と保健 に関する2002年 法
(ス
コットラン ド)、 介護者の均等 な機会 に関す る
2004年 法及び介護者の確認 と支援 (プ ライマ リーケア)に 関す る2006年 法案 について扱 つていな
い、な どの課題 を抱える。
本稿 は、拙著 に寄せ られたこれらの批判 を念頭 に置 きながら介護者への支援 について検討 しよ
うとす るものである。
1.介 護者 の発見 とベ ヴァリジ報告 の修正
介護者 は、イギリス において広 く用い られる表現 に従 えばケアラー (carers)と 呼 ばれる。イ
ギ リスで もかつ て用 い られた こと もあ るケアテイ カー (care― takers)あ るい はサポー ター
(supporters)や アメリカで今 日も広 く使用 されるケアギヴアー (caregivers,care― givers)な ど
の表現 は、最近のイギ リスに見 ることはで きない。また、 これもアメリカにおいて一般 に使用 さ
れるフアミリー 0ケ アギヴァー (family caregivers)の 表現 も、イギリス において確認 されない。
アメリカでは、 ここに示す ようにケアギヴアーの前 にフアミリーを付けて呼ぶ場合が一般的で
ある。 これは、 この国の政策担当者 による造語である。 フアミリー、すなわち家族が頭 に付 くか
らといってアメリカの介護者が、要介護者の家族から専 ら構成 されるわけではない。友人や隣人
もイギリス と同 じように含 まれる。 この限 りにおいてイギリスとの違いはない。 フアミリーが頭
にあえて付け られた経緯 は、以下の ことにある。すなわち、介護者支援の一環 としてのサー ビス
は、要介護者 と同居す る介護者 に絞 られ、重い介護責任 を同じように担 うとはいえ、要介護者 と
一-49-―
経済研究11巻 4号
別 の住居 に住 む介護者、それゆえに別 の家族 の一員 としての介護者 は、居住 の条件 をもって給付
の対象 か ら外 される。 こ う した給付要件 を外す州 は当初 に較べ るならば増 えてい るとはい え、依
然 としてこれを求 める州政府 もなお存在す る。用語 の頭 にフアミリー を付 けてファミリー・ ケア
ギバー と呼 ぶ ことには、家族 の責任 を強調 してサ ー ビスの受給 を狭 くしよ う とす る狙 いが込め ら
れてい る。 イギ リス におい てファミリー・ ケアギヴァーの用語が使用 される ことは、既 に述べ た
ようにない。 ファミリー 0ケ アラー (family carers)の 用語が使用 される場合 もあるが、 ご く稀
な例 で あ り、それ も民間人 による使用 に限定 される。政府や 自治体 による使用 の例 は確認 されな
い。 してみる とイギ リス にお け る用語 は、アメ リカに較べ るならば介護者 の権利 に照 らして積極
的な意味 を持 つ と考 え られる。
ホ ー ム ケ ア ラ ー (home carers)の 表 現 が 用 い られ る 場 合 もあ る 。 こ れ は 、他 の 呼称
(domiciliatt care worker,support worker,independent li宙 ng assistant and care alYll髭 ピy)と 共
に介護サ ー ビスの現場 におい て広 く用 い られる職名 の一種 であ り、かつ てホー ムヘ ルパー と呼 ば
れた在宅介護労働者 (home care workers)の ことで あ る。介護者、す なわちケアラー とはサ ー
ビスの対価 の無償性 と有償性 を基準 に明 らか に区別 して使用 される。
ケアラーの表現 は、世界保健機構
また、 ヨーロ ッパ連合
(WHO)に お いて もケ アギヴ ァー と共 に広 く用 い られる。
(EU)か らの研究資金 を得 て ヨーロ ッパ23カ 国
(オ
ース トリア、ベ ルギー、
ブルガ リア、チ ェコ、デ ンマー ク、 フィンラン ド、 フランス、 ドイッ、ギ リシャ、ハ ンガ リー、
アイルラン ド、 イタリア、 ル クセ ンブルク、マル タ、 オラ ンダ、 ノル ウェー、 ポー ラ ン ド、 ポル
トガル、 スロベニ ア、スペ イ ン、 ス ウェーデ ン、ス イスお よびイギ リス)の 介護者 に関す る調査
研究 (研 究期 間 2003年 1月 下2005年 12月
)を 手 が けた組織 で あるユーロ ファミケア (EUROF
A1/1CARE)は 、 ファミリーケアラー (family carers)の 表現 を用いる。見 られるようにケアラー
の表現 を用い、ケアギヴァーの表現 を使用 していない。イギリスにおける用語例 の影響である。
ケ アラ ー、す な わ ち介護者 に最初 の定義 を与 えたの は、雇用機会均等 委員会 (Equal
Opportunities Conlmission,EOC)で ある。雇用機会均等委員会 は、
『高齢者 と障害者の介護経験』
(1980年 )と 題す る調査研究報告書の冒頭 において以下のように述べ る。
「介護者 は、病人や障害
者あるいは高齢者の世話に責任 を負 う成人 として定義 される」(lLこ の定義 は、その後 の調査研
究 にも基本的 に継承 される。 た とえば保健社会保障省 (Department of Health and Social
Secutty,DHSS)の 要請 に応えて実施 された人ロセ ンサス調査局 『世帯調査』 (1985年 )は 、ケ
アラーの表現を用 いた上で、 これらの人々が「病人や障害者あるいは高齢者の世話 に責任 を負 う
ことから、特別の家族責任 を持つ人々」0)で あると定義す る。
雇用機会均等委員会な どの定義 には、その後い くつかの検討が加えられる。第 1に 、障害者や
高齢者の世話に当たる人々は、サー ビス労働へ の対価 の支払 い を基準 に考 えるならば有償 と無償
―-50-―
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とに区分 される ことか ら、介護者 の範 囲 を無償労働 (unpaid care)の 担 い手、す なわち、無償
の ケアラー (inforrnal carers)に 限定す る表現 を盛 り込 む ことで あ る。 これによって有償 のサ ー
ビスを担 う人々、すなわちケアワーカー との区別が図 られる。無用の混乱 は避けることができる。
第 2に 、介護者 の年齢階層 は成人に狭 く限定 されない。その後 の調査研究 は、介護 を担 う児童
(young carers)の 存在 とその広が りとを明 らかにする。 これは、その後 イギリス国内 に限 って
もイングラン ドはもとよ リウエールズとス コットラン ドにおいても実施された『国勢調査』2001
年版 をはじめとするい くつかの調査 によっても確 かめられる。介護者の定義 に当たっては、 これ
らの成果 に促 されて年齢階層 を成人に狭 く限定 しない。第 3に 、介護者 と要介護者 との家族関係
は実 に幅広 い とい う事実 に照 らして、介護者の定義 に当たって これを要介護者の家族構成員であ
るといかにも狭 く把握するわけではない。介護者が要介護者の友人や隣人、兄弟姉妹あるいはパー
トナーである場合 も考慮 に入れなが ら定義 される。
これらの検討 を経 て全 国統計局 『世帯調査』2000年 版 は、介護者 を以下のように定義す る。す
なわち、介護者 は「長期 の身体的あるいは精神的な疾患 もしくは障害、ない し高齢 に由来す る諸
問題 を抱える人の世話 に当たることから追加的 な責任 を負 う者である」(3)。 さらに、全国統計局
『国勢調査』2001年 版 は前年 に実施 された『世帯調査』の定義 を継承 しなが ら、 よ り明確 な定義
を与 える。「長期 の身体的あるいは精神的 な疾患 もしくは障害、ない し高齢 に由来す る諸問題 を
抱えることから家族や友人、隣人 もしくは他 の人に何 らかの援助 を与 えるならば、彼女 もしくは
彼 は無償 の介護の提供者である」(4)。 この定義 には、先 の 3つ の検討課題が全て周到 に生かされ
る。雇用機会均等委員会 によつて与 えられた初めての定義 は、その21年 後 に理論的 にはもとより
実際的 にも完成度の高い姿 を示すのである。
全国統計局によるこの定義 は、イギリス において広 く利用 される社会政策の教科書 におけるそ
れ 5)と も重なり合 う。また、英国介護者協会 (Carers lIK)に よる定義(6)と も内容の上で重なる。
介護者の定義 は、理論的に正 しいかどうかとい う優 れて調査研究上の課題であるに止まらない。
それは、介護者の生活 にとつて実際上の利益 を左右す る。介護者の権利が時代 と共 に法的に認め
られるにつれて、介護者の範囲 をどのように定めるかが常 に問われる。要介護者の家族 だけを介
護者 として法的に認知す るならば、優れて自発的に重い介護 を担 う友人や隣人あるいはパー トナー
でさえも、要介護者 の家族 ではない とい う理由だけをもって法律 の適用 を受けることがで きず、
結果 として権利の行使 はなされない。就業 と家族 に関す る2006年 法案の国会 における討論 で も論
点の一つ として登場 した事柄である。
雇用機会均等委員会 による定義 に始 まるその後の議論 は、介護者の利益 を第一義的に考慮 に入
れなが ら介護者の実際 に即 して広 く把握す るとい う結論 に至るのである。
イギリスの介護者 は、 この国におけるケアラーの定義 に照 らす とき日本 の介護者 とい くつかの
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点 において異なる。まず、それは、要介護高齢者の世話 に当たる人々に限定されない。 日本の介
護者 は、介護保険制度を巡 る議論 と制度化 の内容 もあって もっぱ ら高齢者の 日常生活上の援助 に
携 わる人々に狭 く限定され、障害児 はもとよ り障害者の世話 に当たる人々を含 まないことが多い。
こうした事情 は 日本 に特有であって、イギリスには無縁 である。 また、介護者 は要介護者の家族
に狭 く限定されない。全国統計局の定義 に示 されるように友人や隣人あるいは他 のパー トナーで
あることも少なくない。 ここに言 うパー トナーには、婚姻 に当たって法的な手続 きを取 らない事
実婚 の当事者 も含まれる。また、要介護者 と同居をしなが ら世話 に当たる同性 の介護者 も含 まれ
る。いずれも家族形態の多様化 として論 じられる事情の一環である。介護者ではな くあえて家族
介護あるいは家族介護者 と表現す ることの少なくない 日本 の事情、 とりわけ日本 の行政機関の事
情 に比べ るならば、これもイギリス における特徴 のひとつである。さらに、介護者 には成人 となら
んで児童が含 まれる。介護 を担 う児童 は、日本 においても同 じように存在す るにもかかわらず、こ
の存在自体が日本 において残念ながら意識されていない。これも両国における相違のひとつである。
さて、介護を日本 においても定義 されているように要介護者の 日常生活上の援助 としてひとま
ず理解をするならば、 こうした行為 は、拙者 において述べ たよう(7)に 11世 紀の初頭にも既 におこ
なわれていたことを、イギリスのあまりにも有名 な小説家の作品や児童の歴史 に関す る研究 を通
して知 ることがで きる。
不朽 の名作 を数多 く残 した小説家 C。 デイケ ンズ (Charles Dickens,1812-1870年 )の 作品 を例
にとろ う。デ ィケ ンズの円熟期 の作品『 リトル・ ドリット』 (Little Dor血 ,1857年 )を ひもとく
と、登場人物
(エ イ ミー
)が 、「小 さな母親」 (little
mOther)の 役割 を負 い、幼い頃から彼女の
家族 のためにかいがい しく働 いているさまを読み取 ることができる。 リトル・ ドリットは当時13
歳、弟や妹 にとつては家政婦であ り母親である。父 は、当然 に持 っていて しかるべ き父親 として
の資格 を初 めから欠いている。父は負債 を抱 えて逮捕 され、マーシャルシー (Marshalsea)債
務者監獄へ連れていかれる。エ イミーは、不運な家族 の年長児 として働 くのである。作品 には、
彼女の抱いた不安やつ らさが描 かれている。
イギリスの著名な小説家であ り詩人で もあるT。 ハーデイー (Thomas Hardy、 1840-1928年
の最 も優 れた作品『ダーバーヴィル家 のテス』 (Tess of the D'Urbervilles,1881年
)
)か らも、在
宅介護を担 う児童の姿 を知ることがで きる。女主人公のテスは、飲 んだ くれの父親 と子沢山の生
活 に追 われる母親の もとに育つ。彼女 は10代 で父親を失 う。彼女 は、 7人 の子供 を育 てるのに苦
心する母親の もとで、いわば母親代 わ りの役割 を担 う。彼女 は、自らの苦労 を忘れて母親の役割
を担 うと共 に病気を患 う母親の介護 も手掛ける。
小説に描かれた これらの姿 は、児童の歴史 に関す る研究成果 によっても確 かめることができる。
児童 は、ある女性研究者によると両親の一方 もしくは双方の死亡 と共に弟や妹 たちの介護 を親 に
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イギリスの社会保障と介護者
代 わって背負 う。11世 紀初頭のことである。13世 紀 に至っても、平均寿命 は30歳 ほどである。幼
少期 を過 ぎた児童 は、連れ合いを失 つて悲 しみにくれ過度の負担 にも悩 む母親 を助けて、家族構
成員の世話を引き受ける。 リンカー ンのヒュー少年 (Sto Hugh of Lincoln)の 事例が、 この女性
研究者 によって紹介 されている。 ヒュー少年 は母親 を早 くになくす。 ヒユー少年 は、父親の老齢
化 と共 にその一身 を父の介護 に捧げる。父親の手 を引いて一緒 に歩 き、衣服の着脱 と入浴の介助
もお こな う。ベ ッド・ メイクも手がける。父親が加齢 と共 に一段 と弱々 しくなった時 に、 ヒュー
少年 は、父親の食事 を作 るばか りか食事 の介助 さえも手がける。
ところで、ベ ヴァリジ報告『社会保険お よび関連サー ビス』 (1942年 )が 戦後 の社会保障制度
に与 えた影響 は、改 めて言 うまで もな くいかにも大 きい。 この国の社会政策 に関す る教科書が、
一つの例外 もなしにベ ヴアリジ報告 とその影響 に多 くの頁 をさいていることは、そのご く一例 で
ある。 しか し、ベ ヴァリジの視野 に介護者の姿 とそのニーズは存在 しない。ベ ヴァリジは、社会
保障へ のニーズが生 じる 8つ の根本原因 として失業をはじめ労働不能、生計手段 の喪失、老齢退
職、女性 の結婚、死亡に伴 う葬祭費、16歳 までの児童及 び疾病 もしくは心身障害 をあげ、 この う
ち最初の 7つ の原因に対 しては失業給付 をはじめ とす る所得保障、 ならびに、最後 の 1つ の原因
に関 しては居宅あるいは施設での医療サービスと治療後 のリハ ビリテーシヨンの制度化 をもって
対応す る、 と提言す る(8)。 これらの所得保障 とサ ー ビスの他 には、明快 な説明 を施 して制度化を
退ける。たとえばベ ヴァリジは、包括的な保健サー ビスの一環 として「主婦 に家政婦サー ビス を
「 しか し、 これを必
提供す るような手段 をあたえるべ き」 ではないか と自らに問いかけた上で、
要 とす ることはほとんどない ように思われる」。なんとなれば「隣人や家族 の援助 によつて、そ
のような事態 に対処す るべ きだからである」(9)と して、主婦 の病気治療 に伴 う家政婦サー ビスの
提供 について、 これを不用 と断 じて退ける。戦時経済の進行 とともに家事援助サービスが広が り
を見せたことを思い起 こすな らば、 この議論 は、やや一貫性 に欠けるのではないかと考 えられな
いわけではない。 しか し、戦時経済の置かれた状況 こそ異常であって、平時 においては隣人や家
族の援助 による対処 を当てにすることができる。ベ ヴアリジはそのように考 えたのである。
ベ ヴァリジは、主婦への家政婦サー ビスに関す る論述からうかがい知 ることができるように家
事や介護を既婚女性 の中心的な役割のひとつ と見 なす。既婚女性による家事や介護 を社会保障 に
包括 される事故のひとつ として捉 えることは、ベ ヴァリジにとつて社会の規範 に関わる事項 とし
て退け られる。既婚女性が病気のために家事や介護 を担 うわけにいかない場合でさえも、ベ ヴァ
リジは、隣人や家族による役割の代替 を社会の規範 として要求す る。未婚女性 についてはいかが
であろ うか。ベヴァリジは、未婚女性 による家事や介護 を社会政策の視野 にそれとして納 めるこ
ともない。未婚の介護者 は、 S.ボ ール ドウイン (Saly Baldwin)が 実 に的確 に述べ たl101よ うに
ベ ヴァリジにとって見 えぎる存在 である。
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ベ ヴァリジの見地 は、その名 を冠 した報告書の出た当時に格別珍 しいことではない。なんとな
れば『働 く女性―戦後の就業 に関す る働 く女性 の態度 と諸問題一』 (1944年 )あ るいは『女性 と
工業』 (1948年 )と 題 して公刊 された女性労働 に関す る調査研究0に 目を通す限 り、介護者に関
す る調査 の項 目はい ささかもない。介護 とその影響が女性 の就業 に関す る調査 に初めて顔 を見せ
るのは、 これらの 2つ の調査研究からおよそ20年 後 のことである。A.ハ ン ト (Audrey Hunt)
の手 になる1965年 の調査研究がそれであるl121。
家事や介護を既婚女性 の中心的な役割のひとつであると見なすベ ヴァリジの考 えは、戦後 も根
強 く受け継がれる。 しかし、家族形態の変化や人口の地域 間の移動が、既婚女性をはじめとする
女性 の役割 とその遂行に避けがたい揺 らぎをもたらした ことも、否定 しがたい。既婚女性に従来
と変 わ りのない介護 の役割 を期待す るために、 これを声高 らかに歌 い上げるだけではな く、何 ら
かの政策的な支援が調査研究 を通 して模索 され提案 されることになる。
B.E.シ
ェンフィール ド (BoEeShenfield)『 高齢者のための社会政策一英国における高齢者
のための社会サー ビス に関す る検討―』 (1957年 )は 、高齢者のための家族介護 と題す る項 を独
自に設けて実証的に検討 しなが ら、政策の方向 を探 った初期 の作品である。高齢者の家族介護 は、
著者 によれば若い世代 に非常 に大 きな負担 をかける。家族責任を負 う女性 は、そうした地位にあ
るがために既婚 と未婚 とを問わず彼女 自身が病気 を患 うことも珍 しくない。休 日を定期的に享受
す ることはもとよ り、屋外における活動へ の参加 もしばしば妨げ られるl131。 そ こで、
「 ご く僅 か
な家事援助サー ビス を提供す るならば、高齢者 は自宅で暮 らす ことができ」l141、 これが、介護施
設な どへ の入居に比べ るならば最 も安上が りの方法である として、地方自治体や民間非営利団体
の担 う家事援助サー ビスの提供 について提言 をす る。女性が家族責任をまっとうす るわけにいか
ない場合に限っての家事援助サー ビスに関す る提言である。
P.タ
ウンゼン ト (Peter TOwnsend)は 、 ロン ドン東部 における調査 を拠 り所 に家族 による
介護 を当てにす ることので きない高齢者への家族支援サービス について提言す るl151。 家族による
介護 は、女性 の近親者に担われる。男性が家族 のために家事や介護を担 うこともないわけではな
い。 しか し、それは、男性の年齢階層 に関わ りなく至 って稀であ り、女性 の近親者が全 く居 ない
か、あるいは居 たとしても遠 くに離れて居住す る場合 に限られる。介護が家族によってお こなわ
れるならば、公的なサー ビスヘ の需要 はおのず と乏 しい。問題は、子 どもとりわけ娘 の居 ない高
齢者の存在 であ り、娘 と遠 く離れて暮 らす高齢者の場合である。包括的な家族支援サー ビスが求
められる所以である。そうすれば一人暮 らしの高齢者が介護施設 に入居することも防止 される。
P.タ ウンゼン トは、 B.E.シ ェンフィール ドと全 く同じように女性による無償 の介護 に大
きな期待 を寄せる。かかる期待 は、高齢者を看 る家族 とあわせて精神障害者の介護 に携 わる家族
にも視野 を広げて検討 したR
M。 モ ロニー (Robert MoMOrOney)な どによって も表明 される
-54-
イギリスの社会保障と介護者
l161。
介護者 とその ニーズ につい て論ず る姿勢 は、そ こには ない。 C。 ア ンガー ソン (Clare
Ungerson)な どのフェ ミニス トたちがこれらの議論 に対 して後 に強い批判 を寄せるのも
l171、
P.
タウンゼン トなどの議論の内容 に照 らして 自然の成 り行 きである。
介護者の置かれた状態 に着 目をしてそのニーズヘの政策的な対応 を模索す る動 きは、1960年 代
初頭以降に現 れる。いずれも精神障害児や精神障害者 とその家族 に関する調査研究の産物である。
要介護者 を抱えることに由来す る労働力率 と生活水準 の判然 とした低 さはもとよ り、その一環 と
しての厳 しい住宅条件、自宅 における介護時間 とその長 さに由来する社会的な接触 の乏 しさと社
会的な孤立感 などが分析 され、介護 を担 う家族 の公営住宅へ の入居 をはじめ家事援助 による介護
者の 自由時間 と休息機会の確保、所得保障の制度化、介護の方法な どに関す るサー ビスの提供お
よび介護者同士の交流機会 などについて提言す るl181。 これらの調査研究 は、家族 による介護、正
確 に言えば女性による介護を至極当然の生業 と認識す ることから出発す るがゆえに、 これを政策
的な支援 の対象 として救い上げることのなかったP.タ ウンゼン トなどの議論 と明 らかに異なる。
1960年 代初頭からの提言 は、雇用機会均等委員会 にも発展的に継承 される。雇用機会均等委員
会 は、障害者 に加えて高齢 の要介護者 とその家族 にも調査研究の視野 を広げなが ら、介護者への
支援 (Cares for the carers)と い う表現 を初めて用いた上で、体系的な勧告 をお こなうl191。 1982
年のことである。勧告 は、介護者へ のサー ビス と就業条件 および所得保障の 3つ の分野 に及 び、
合計17の 項 目から構成 される。
まず、介護者へ のサー ビスについてである。(1)慢 性疾患 と障害者 に関す る法律 の1970年 におけ
る完全施行 と充分 な資金の地方自治体へ の配分がお こなわれなければならない。(2)虚 弱 な高齢者
や病人あるいは障害者 を抱える世帯への援助 は、介護者の性別 に関わ りなく等 しくそのニーズ に
沿 ってお こなわれなければならない。(3)自 治体 は介護者のニーズ を考慮 しなければならないので
あって、用意されるサービスに関す る情報 と助言 とを介護者 に提供す る義務 を負 う。に)自 治体 は、
介護者への代替サー ビスの積極的な調整 をお こなわなければならない。この介護代替サー ビスは、
介護者の求めに応 じて給付 される。(5)在 宅サービスは、要介護者のニーズに対応 して大幅に拡充
されなければならない。(6)自 治体 は、全 ての種類の住宅ニーズ を充足す る責務 を負 う。(7)介 護の
作業 を容易 にする設備や器材 は、介護者 に無料 かつ容易 に貸与 されなければならない。(8)介 護者
は、一人での移動が不適当であると医学的に証明 された要介護者に付 き添 う場合 に、交通機関の
乗車割引の権利 を付与 されなければならない。
さらに、介護者の就業条件の改善 についてである。(1)労 働者 は要介護者の診察 に同伴す るため
の有給休暇の権利 を認められてしかるべ きである。(2)労 働組合 は、危篤状態の配偶者 もしくは近
親者 を抱える労働者のための特別休暇 に関す る労働協約の交渉 をお こなわなければならない。(3)
(4)労 働組合 は、
長期 にわたる無給の介護休暇が制度化 されるように検討 されてしかるべ きである。
―-55-―
経済研究11巻 4号
要介護者 を抱える労働者の負担 を考慮 して労働時間の弾力化 に向けた交渉 に乗 り出して しかるベ
きである。
最後 に、介護者へ の所得保障の改善である。(1)介 護者手当 (Carers A1lowance)は 、既婚女性
と事実婚の状態にある女性をも直 ちに適用対象 に加 えなければならない。(2)介 護者手当は、要介
護者の死亡後 においても一定の期間継続 して支給 されなければならない。
(3)こ の手当ての金額 は、
将来的 には補足給付 (Supplementary Beneit)の 長期 レー トに等 しい水準 に引 き上 げられなけ
ればならない。(4朕 養親族手当 (Dependent Relatives'A1lowance,DRA)な どの諸手当は廃止さ
れ、 これによって節約可能 な財源 は、介護者 を対象 にす る手当の原資 として利用 されなければな
らない。(5)介 護者 を対象 にす る手当が、要介護者の福祉 に主たる責任 を負 う全 ての介護者 に非課
税かつ無拠出の所得保障 として支払 われなければならない。
雇用機会均等委員会の提言 は、その体系性 において他 に例 を見 ない。同時に、介護者へ の支援
に関す る提言 は、雇用機会均等委員会のそれを拠 り所 にしなが らその後 もお こなわれ、一段 と拡
充される。提言の内容 に即 して考 えるならば、それは 2つ に大別 される。
そのひとつは、雇用機会均等委員会の提言 に全面的な賛意を表 した上で、 これを発展的に継承
す る内容 である。 こうした試 みには、実に多 くの研究者が加 わる。 P.ウ イルモ ット (Peter
Willmott)は 、介護者をで きうる限 り早い時期 に発見 してそのニーズに機敏 に対応 しなければな
らない とす る001。 家事援助などの実際的な援助 に加 えてカウンセ リングを踏 まえた情緒的な支援
の重要性についても述べ る。前者が要介護者 を直接 の対象 にす るのに対 して、後者 は介護者 を給
付 の対象 にす るサー ビスである。 この うち後者の介護者の情緒に関わる支援 については、M.ニ
セル (Mttel Nissel)や D.チ ャリス (Da宙 d Challis)な どもその必要性 を論 じなが ら提起す る
1211。
また、 J.ル イス (Jane Lewis)は 、一般開業医 (GP)を はじめ とす る専門的な援助者
(professiOnal helpers)│こ よる介護者への支援 の重要性 を指摘す るの。専門的な援助者 は、職務
上の位置 と権限 に照 らして介護者の早期 の発見や情緒的な支援 は もとより家事援助な どの実際的
な支援 をお こなう上で、枢要な位置にあるからに他 ならず、 このことに着目 しての提言である。
さらに、A。 リチャー ドソン (Ann Richardson)は 、介護者へ の支援 に当たってその民族的
かつ宗教的 に多様 な存在 に正当な工夫が払 われるように求めるの。雇用機会均等委員会がもっば
ら社会的な性差に注 目す るのに対 して、A.リ チャー ドソンは、新 たに介護者の人種や民族に対
す る深い考慮 を求めるのである。 ニーズのアセスメン トとサー ビスの給付 に当たつて人種や民族
に無頓着であ り続けた社会サー ビス部の根深 い姿勢 に対す る批判である。そうした姿勢 を介護者
へ のサービス に即 して改善す るように求めるのである。氏は、介護者への諮問 を通 したサー ビス
の設計 についても提案す る。 これも雇用機会均等委員会の提案 には盛 り込まれていなかった全 く
新 しい内容の提案であ り、その後計画策定過程 における介護者の参加 として政策的に論 じられる
―-56-―
イギリスの社会保障と介護者
ことになる内容に関す る初 めての提案である。提案 はこれらを含 む合計10項 目におよび、 これを
介護者憲章 と命名 して公表 される。ちなみにA.リ チャー ドソ ンの提案 は、エ イジコンサ ー ン
(Age Concern)な どの民 間非営利団体 か ら構成 される全 国無償介護 フォー ラム (National
lnfo.111」
G。
Carlng Forum)の 発議 に沿 って実施 に移された事業計画の産物である。
ダリ (Ginian Daley)は 、介護者が介護 と有償労働 とを両立することができるように介護者
手当の所得要件 の引 き上 げを求めると共 に、有償労働 から長期 にわたつて遠ざかざるを得 なかっ
た介護者の老齢年金についても全 く新 たに提言 をお こなう②。
S。
ベ ッカー (Saul Becker)他 は、介護者の支援 に関す る政府 や地方自治体 の動 きを注意深
く見守 りながら、一段 と包括的な提言をお こな う251。 それは、介護者 と要介護者へ のサー ビスお
よび所得保障の 2つ の分野 にまたがる合計14の 項 目からなる。
(1)家 族へ の支援 は、介護者 の存在 を理 由に差 し控 えられてはならない。(2)重 い介護責任 を負 う
ことから終 日要介護者の世話に当たる介護者 には、少なくとも6ケ 月ごとにアセスメ ン トをお こ
なわなければならない。(3)自 治体社会サ ー ビス部 と保健局 は、アセスメン トをおこなう体制 と手
続 きを確立 しなければならない。(411■ 会サー ビス部 は、介護者 による休息機会の享受 に向けた包
括的なネットワークを整備 しなければならない。(5)社 会サー ビス部 は、緊急時の休息サー ビス を
全国規模 で確立するための責任 を負 う。(6)介 護者が 自らの権利 としてサー ビス を受けることがで
きる ように、急 いで新 しい法律 が制定 されなければならない。(7)介 護者へ の現金支払 い制度
(carers pttment scheme)を 新 しい法律 の制定 に沿 つて急いで創設 し、 これによつてサー ビス選
択の原資 となる現金を介護者に直接支給するべ きである。(8)全 ての社会サービス部 は、要介護者
への現金支払 い制度 を拡充 しなければならない。(9)介 護者へのサー ビスの拡充 は優先事項 として
扱 われ、 これに要す る資金が手当てされなければならない。l101介 護者へ のサー ビスは、料金の支
払い不能 を理 由に拒否されてはならない。al141L会 保障制度 は、介護者 と要介護者 に十分 な水準 の
手当 を用意 してしかるべ きであ り、 これによつて介護者が尊厳 のある生活 を営 む ことができるよ
うにしなければならない。l121介 護者が社会サー ビスは もとより医療サービス、住宅サー ビス、交
通手段 および諸手当な どに関す る情報 を lヶ 所で入手 して、必要 な手続 きをそ こでお こなうこと
がで きるように、ワ ンス トップ 0シ ョップ
(one― stop
shop)の 拡充 を進 めなければならない。
l131介 護者 と要介護者 に提供 される情報 の内容 とその伝達方法が改善され、 これによって介護者 な
どが、その諸権利 を充分 に理解す ることができるようにしなければならない。l141ア セスメン トは、
社会サービス と医療 とでかな りのところ重複 していることから、 これらの効果的な統合が図 られ
てしかるべ きである。
S.ベ ッカー他 による提言 は、見 られるように介護者への支援 の進展を注意深 く見守 りなが ら、
その一段 の発展を念頭 にお こなわれたものである。
―-57-―
経済研究11巻 4号
さて、 い まひとつ の流れ は、雇用機会均等委員会 による提言 の多 くに賛同 しなが らも、介護者
へ の手当 に限 つて強 い疑念 を呈 す る議論 で あ る。 C.ア ンガー ソン (Clare Ungerson)は 、介護
者 に直接 に支払 われる手当 もしくは「介護 のための賃金」 は、殆 んどの介護者 が女性 か ら構成 さ
れる ことを考 えるな らば彼女 たちを介護 に拘束 しかねず、 この ために女性 の労働市場 か らの引退
を促す結果 になる として、介護者へ の所得保障 に批 判的 な態度 を取 る261。 所得保障 に代 わつて必
要 な ことは、要介護者が 自立 す る生活 を送 るに値す る介護施設や在宅サ ー ビスの整備 で あ り、 こ
れ らに加 えて介護者へ の休息 の保障 で ある と主張す る。介護者へ のサ ー ビス につい て特段新 しい
提言 は、お こなってい ない。
雇用機会均等委員会 の提言 に対す る 2つ の異 なる対応 は、その後 の介護者へ の支援 の動 きに照
らす とき、 どち らが政策 の次元 にお い て採用 され、 どち らが退 け られたであろ うか。そ れは、雇
用機会均等委員会 の提言 を発展的 に継承す る議論 が政策 として徐 々 に採用 され、他方、かかる提
言の一部 に限られるとはいえ強い疑念 を呈 した議論 の不採用 とい う結果である。正確 に言 えば疑
念 を含 む議論 の全体が退けられたわけではない。介護者への所得保障の廃止 ない し縮小 とい う政
策上の提起 に限つて、退け られたのである。 このように考 えると雇用機会均等委員会 による1982
年の提言 は、広 く発展的に継承 されたと評す ることができる。82年 の提言に含 まれる内容 の一部
は、 C.ア ンガーソンによって も積極的に継承 されるからである。
A.リ チャー ドソンが雇用機会均等委員会の提言 を継承 しなが ら介護者憲章 として これを公表
した ことは、既 に述べ た。 この憲章 は、英国放送協会
(BBC)の 「誰が介護 をするか」 と題す
るテレビ番組 (1991年 4月 9日 に第 1回 放送)に おいて紹介 されると共 に、協会の介護者向け出
版物 にも再録されての さらに広 く知 られるようになる。 これらの動 きも、雇用機会均等委員会の
提言が継承 され、その影響力 を時代 と共 に広げたことの間接的な例証である。
1960年 代初頭 に始 まる政策提言 は、その後いかなるサー ビスや所得保障 として実 を結ぶであろ
うか。簡単 にでも述べておきたい。
保健省 は、介護者にいかなるサービス を届けるならば最 も効果的であるのか、介護者への支援
の形態 について探 るためにイース トサセックス州 (East Sussex)を 含 む 3つ の 自治体
(サ
ンド
ウエル市、Sandwell、 ス トックポー ト市、Stockport)を 対象 に介護者支援事業 を始 める。1986
年 に開始 され88年 まで継続 された 3カ 年の事業である。
取 り組みは、法制度の変更 を伴 う。障害者 に関す る1986年 法 は、介護者に関する最初の法令 で
ある。 この86年 法 によれば要介護者のニーズのアセスメン トに当たつて介護者 による介護 の継続
可能性に考慮 を払 わなければならない。 これは、介護者のニーズの重要性 とこれを要介護者への
サー ビス給付 の際 に考慮す る必要性について、初 めて承認 したものである。 しかし、86年 法 にお
ける文言 は「 巨常的 に介護 を提供 し続ける他 の人物」である。介護者 とい う表現 は、法令上の用
―-58-―
イギリスの社会保障 と介護者
語 として採用 されていない。グリフイス・ レポー ト (Griith Report)と して知 られ、社会サー
ビス担当大臣に提出 された文書 『コミュニテイケア』 (1988年 )は 、無償 の介護者へ の支援 に失
敗す るならば介護者自身の生活の質 を貶めるに止 まらず、要介護者のそれをも低下させるとして、
アセスメン トに際 して介護者のニーズ をも考慮 に入れるよう求める981。 これは、介護者自身の生
活の質 に視野 を広げることに示 されるように、86年 法の規定 を発展的に継承 したものである。
介護者 とい う用語が法的 にも認知 されるのは、国民保健サー ビス とコミュニテイケアに関す る
1990年 法 においてである。介護者の承認 とサー ビスに関す る1995年 法 は、介護者 にアセスメン ト
請求権 を認 める。95年 法 は、 コミュニテイケアに関す る一連の法律 の中で介護者の役割 を完全に
「介護者が介護役割
認めた最初 の法律 である。保健省 『介護者のための全国戦略』 (1999年 )は 、
を担 うことができるように援助す る」 ことをその 目的 として示す と共 に、あわせて介護者が 自ら
の生活 をよ り選択的 に設計す ることがで きる ように、
「介護者 を個人 として認 めてサー ビス を提
供す る」09こ とも、い まひとつの欠かすわけにいかない 目的のひとつ に加 える。 これらの 2つ の
目的の うち前者 は、86年 法 と90年 法 に既 に認められる内容の継承 であ り、後者 は、全 く新 たに加
えられその後の追加的な法制化 に連なる内容である。
95年 法は、介護者 にアセスメン ト請求権 を初めて認める。 しかし、介護者へのアセスメン トの結
果 に照 らして考慮 されるのは、要介護者へのサー ビスとその改善である。介護者 は、 これによつ
て重要であるとはいえあ くまで間接的な利益 を享受す るにす ぎない。 しかも、自治体 は、介護者
へのアセスメン トに続 くサービスの提供 を義務付け られていない。 これらの限界 は、介護者 と障
害児 に関する2004年 法 によって克服 される。2004年 法 は、介護者へのアセスメン トの結果 に照 ら
して要介護者 に対す るサービス とその改善 はもとよ り、介護者 を直接 の対象 にするサー ビスの給
付 にも新 たに道 を開 く。自治体 は、要介護者へのサー ビスの拡充 と介護者への直接的なサー ビス
給付 の双方 もしくは一方の決定 を、介護者へのアセスメントの結果 に照 らして迫 られる。さらに、
介護者 の均等 な機会 に関す る2004年 法 は、 アセスメン ト請求権 を介護者 に知 らせる義務 を自治体
の法的な責務 のひとつ として新 たに加える。アセスメントは、介護者が障害児 の世話を継続す る
ことができるかどうかに止まらない。それは、労働 もしくは求職の意思お よび生涯教育 と訓練あ
るいは余暇活動への参加 の意思についてもお こなわれる1301。 アセスメン トとして実施される内容
の拡充 は、『介護者のための全 国戦略』 に示 される目的の完全な具体化 である。介護者 による介
護の継続可能性 に止まることなく、彼女や彼 の求職 と教育訓練 に関す るニーズ にまで視野 を広げ
て い る こ とに注 目す るな らば、2004年 法 は、労働 市場 か ら退 か ざる を得 なか った介 護者 の 労働 力
率 の上 昇 とそ の 条件 の 形 成 に も、政 策 手段 の 法 的 な枠 組 み を初 め て 用 意 した とい う こ とが で き
る。
ス コ ッ トラ ン ドにお い て は 、『介護 者 の ため の全 国戦 略』 に続 い て『 国民 保健 サ ー ビス の 介護
一-59-―
経済研究11巻 4号
者情報戦略』が公表 される。2004年 のことである。
要介護者への応急的な対応 を理由にする休暇の権利 は、就業諸関係 に関す る1999年 法 によつて
認められる。 この休暇の権利 は、法令上は無給 の扱 いである。 しか し、労働者 は障害児 をはじめ
配偶者、両親あるいは友人はもとよ り事実婚 を含 むパー トナーの介護 を担 う場合 にも、 この権利
を行使す ることができる。友人やパー トナーの介護 を担 う場合 にこの権利 を認めたことは、介護
者へ の支援 に関す る提言の正当性 を追認す る行為であると言い換えることもできる。
6歳 以下の児童 もしくは18歳 以下の児童 を持つ両親 は、就業 に関す る2002年 法 によつて少 なく
とも26週 以上の勤続 を重ねるならば在宅勤務やパー トタイムを含 む弾力的な働 き方の権利 を行使
す ることができる。 この権利 は、就業 と家族 に関す る2006年 法 によつて仕事 を持ちなが ら18歳 を
超す要介護者の世話に当たる他 の介護者 にも拡張される。
介護 を担 うために離職 を余儀 な くされた女性 を対象 に年金保険料 の納付猶予が認 められるの
は、1967年 のことである。介護を担 う女性の経済的な窮状 に配慮 を加えた措置である。
介護者手当は、障害者介護手当 (hvalid Care A1lowance,ICA)の 名称 の もとに1976年 に制度
化 される0⇒ 。未婚の介護者 に直接支払 われる手当である。 この適用が既婚女性にも広げ られるの
は、欧州裁判所 (European Court of Justice)の 判決が出された1986年 である。手当の制度化か
ら10年 後、雇用機会均等委員会の提言から4年 後 の改正である。 この年の 6月 には、1984年 12月
にさかのぼって適用 される。手当の水準 も改善される。支給 は、雇用機会均等委員会の提言から
間接的に推察されるように要介護者の他界 と同時 に打ち切 られていたものの、その後要介護者の
死亡後 8週 間まで延長 して給付 される。申請 は65歳 を超す介護者 にも道が開かれる。 これ らの期
間 と年齢の拡張 は、いずれも2002年 2月 28日 以降にお こなわれた措置である。障害者介護手当は、
翌2003年 3月 1日 からその名称 を介護者手当に変更 される。
1967年 に初 めて着手 された介護者へ の支援 は、 この ように年 を追いなが らその領域 を広げる。
それは、所得保障 として制度化 されたことに続いて介護者の持 つニーズの考慮へ と広が る。 アセ
スメン トの結果 は、当初要介護者に対す るサー ビスの改善 として、次 いで介護者 を直接 の対象 に
す るサー ビスとその充実 として も活用 される。アセスメン ト請求権 は、要介護者の権利 に止まる
ことなく介護者のそれとしても認められる。最後に、介護者の継続的な就業 と就業機会の拡大 に
向けた支援 も登場すると共 に、その適用対象を広げる方向で改善が加えられる。
保健省社会サー ビス検査官 (Social Service hspectorate,SSI)が 、1994年 から95年 にかけて
自治体 の介護者支援 に関す る全 国的な検査 を初めてお こない、その結果 を95年 に公表 したのは、
自治体 の1980年 代中葉以降における介護者支援 の流れと蓄積 を読み取 った上で、その後の拡充 を
意図 してのことである。
ベ ヴァリジの社会保障計画 は、 よ く知 られるように国民 とそのニーズの考慮 に始 まる。すなわ
―-60-―
イギリスの社会保障と介護者
ち、社会保障に対する国民 の根本的なニーズの考慮 である。ベ ヴアリジは、国民 を被用者 とその
他の有業者 など6つ の部類
(他
に主婦、その他 の労働年齢 にある者、労働年齢 に達 しない者、労
働年齢 をす ぎた退職者)に 区分 した上で、失業給付 と労働不能給付あるいは老齢退職年金な どか
らなる社会保障規定 を構想す る。そ こに、介護者に関す る独 自の区分 とこれを対象 にす る所得保
障制度 はない。
1967年 以降に開始 される介護者への支援 は、ベ ヴァリジによる構想 の修正に道を開 く。社会保
障は、ベ ヴァリジに従 えば所得保障 を意味す る。そ こで介護者支援 の中では介護者手当が、その
名称 に示されるように介護者 を独 自の対象 にす る社会保障である。ベ ヴァリジの構想 は、介護者
手当の登場、すなわち1976年 を以 って修正されたのである。構想 の提示 された1942年 から譴年後
の出来事 である。 この手直 しは、時代 と共 に広が りを見せ る。介護者 は、 この国の社会保障 はも
とよ り広 く社会政策 に確 たる地歩 をようや くにして築 くのである。介護者の問題が「忘れられた
女性 たち」 と題 して初めて雑誌
1963年 5月
(『
フェデイラシオン・ニュース』、Federation News,10巻 2号 、
)に 掲載 された時から数 えると、13年 のち以降のことである。
2.社 会保障 に対す る―般的な二…ズ と介護者
ベ ヴァリジは、社会保障 に対す る根本的なニーズは、
「一般的かつ一様 なニーズで」021あ って、
だからこそ強制保険、すなわち社会保険の対象 に適すると指摘す る。社会には「一般的かつ一様
なニーズ」 の他 にも「多 くのニーズや危険」が存在す ると認めた上で、それは任意保険の対象で
ある。社会保障計画 は、均一額の最低生活費給付 をはじめとする 6つ の基本原則
(他
に均 一額の
保険料拠出、行政責任 の統一、適正な給付額、包括性および被保険者の分類)に 沿 って構成 され
る社会保険 を基礎 にし、その補足的な方法 として国民扶助 ならびに任意保険 と結びつ くことによつ
て「 どんな事情 の もとで も窮乏 を不要 なものにす ることをそのねらい としているのである」1331。
このように指摘す る。国民扶助 は、その資力 に照 らして不本意 ながら均一額の保険料 を拠出する
わけにいかないことから、社会保険の受給資格 を手 にしえない階層 を念頭 に置 く。
かつてD。 チャリスは、主な介護者の多 くが 自らもクライアン トであると述べ たことがある1341。
D。
チヤリスは、 この調査結果 を拠 り所 に介護者 に対 しても一層優先的に実際的な支援 を保障 し
なければならない、 と提言す る。 この提言がグリフイス報告 の基調 に据 えられることを通 して、
イギリスの コ ミュニテイケア政策 に大 きな影響 を与 えた ことは、既 に日本 においても知 られる。
介護者 は、 クライアン トと認知 されることから政策の対象 として登場す るのである。
介護者が社会保障 と社会政策の対象であると主張 をす るためには、ふたたびベ ヴアリジの表現
を借 りるならば介護者のニーズが「根本的」あるいは「一般的」 なそれであることを示 さなけれ
ばなるまい。
-61-
経済研究11巻 4号
介護者 は どの程度 の規模 に上 るで あ ろ うか。 この問い に最初 に答 えたA.ハ ン トは働 く女性 の
10人 に 1人 、働 い てはい ない女性 の 8人 に 1人 が高齢者 や障害者 の世話 に当 たってい る、 と述べ
たことが あ る00。 1965年 の指摘 で ある。 これは、みず か ら手 が けた就業女性 に関す る調査 か ら導
かれた結果 で ある。 しか し、 介護者 は、 この当時 とい えども一方 の性、す なわち女性 に専 ら担 わ
れてい たわけではない。そ れゆえにA.ハ ン トは、介護者全体 の規模 につい て指摘 を した もので
はない。その後、雇用機会均等委員会 は、障害者 の規模 を150万 人 と推計 した上で、 これ を基礎
に125万 人 の介護者 の存在 につい て指摘 した こ とが あ る1361。
A。
ハ ン トの推計 か ら 7年 後 の1982
年 にお け る推計結果 であ る。 しか し、 この計数 は、推計作業 の当事者 で ある雇用機会均等委員会
も自ら認めるようにご く控 え目な推計結果である。雇用機会均等委員会の推計作業から5年 後の
87年 には、介護者 と高齢要介護者全国評議会 (National Council for Carers and their Elderly
Dependants,NCCED)に 従 えば130万 人、労働党によれ│お 25万 人の推計作業 も相次いで公表さ
れ、 これらの結果 を好意的に紹介する作業 も現れる130。 これらは、翌88年 に公表された全 国統計
局の調査結果 によって覆される。いずれも程度の差 はあれ過小な推計 であることが、明らかにさ
れる。
介護者 は、全国統計局の調査 (2000年 )に よれば16歳 以上人口の実数 にして600万 人、比率 に
す ると6人 から8人 の勘定である (表
1)。
2001年 の調査結果 によれば586万 人である。 しか し、
これは、週 1時 間に満たない介護者が調査表から除かれていることによる。表中の計数 には、介
護 を担 う児童17万 5,000人 が加算 される (2001年 )。
介護者 は、英国介護者協会 (Carers lIK)の 推計 に従 え│ル 037年 までに介護 を担 う児童 を除い
ても900万 人に増加する1381。 介護 は、高齢者 と障害者の身体的および精神的な状態の変化 に応 じ
て一定の期間の後 に終了す ることもあれば、全 く新 たに開始 を迫 られることもある。介護 を担 う
機会 は、 このことを考慮 に入れるならば格段 に広が りはるかに多 くの人々によって担 われる。殆
ん どの人 々が 、人生 のいず れかの時期 に介護 の責任 を負 うので あ る。M.ジ ョー ジ (Mike
George)が 英国介護者協会の委託 に応えておこなった研究 によれば、10人 中 7入 以上の女性 は、
生涯のある時期 に介護者 としての地位を経験する。同 じ経験 は、男性 の場合にも10人 中お よそ 6
人である09。
年齢 と性 は、介護者になる可能性 を規定す る最 も重要な要因である。就業の状態 も要因の一つ
である。未就業ではなく就業の状態にあることは、介護者化 の可能性 を一般的に低 くす る。 しか
し、それは、就業の形態 と就業者の性および要介護者 との同居 のいかんに左右 される。介護者化
の可能性 は、 フルタイム就業者 に較べ ると同じ就業者に属するとはいえ週30時 間未満の就業者の
場合 に高い。 この現象 は、女性 よ りも男性 に顕著である。介護者化 の可能性 は、 フルタイムの地
位 にある女性 よ りもパー トタイムで働 く女性について僅 かであるとはいえ高い。 しか し、 この可
―-62-―
イギリスの社会保障 と介護者
表1 介護者の規模 とその推移 (1985-2001年 )
実数 (万 人)
比率 (%)
1985笙 F
女性 (B)
計
(C)
0 0 0
5 5 0
2 3 6
男性 (A)
12
15
14
1990年
(B)
(C)
(A)
(B)
(C)
03
0
4
2
3m
1995生 F
0 0 0
9 9 8
2 3 6
(A)
13
17
15
11
14
13
2000年
(A)
(B)
(C)
18
16
4
3
8
5
(A)
(B)
(C)
6 0 6
2
2001年
14
(資 料)0臣 ce of Population Censuses and Sweys,Infonnal carers,a study“ 口ied out on behalf ofthe DHSS as
part of the 1985 GHS,HMSO,1988,p.6,Office for National Statistics,Informal carers,results of an
independent study carried out on behalf of the Departlnent of Health as part of the 1995 GHS,The
Stationa7 0ffice,1998,p■
1,National Statistics,Carers 2000,results from the carers module of the GHS
2000,The Stationtt mce,Tso,p.1,p.3 and p.6,National Statistics,Carers,5.2 mШ ion carers in England
statistics.gov.uk/cci/nugget.asp?id=347,Scottish Executive,Report of the JRIAF
and Wales,http://― 。
sub.group on single shared assessment performance measures performance measures for carers'
assessments― consultation paper,http://-7.scodandogovouk/consultations/health/ipiaf-06.asp,mce for
National Statistics,Social trends,No35,2005 edition,PJgrave,2005,p.114よ
り作成。
(注 )(1)空 欄 は不明である。
能 性 は 、 フル タイ ム で 働 く女 性 と男 性 と を比 べ る な らば前 者 に つ い て は る か に 高 い 。
こ れ ら とは 別 の 要 因 と して 婚 姻 状 態 をあ げ る こ とが で きる。 介 護 者 化 の 可 能 性 は 、事 実 婚 を含
む 既 婚 者 に つ い て 高 い 。 も と よ り これ は 、 事 実 婚 を含 む 既 婚 の 状 態 に は な い 独 身 者 の 介 護 者 化 を
い さ さか も否 定 しな い 。
社 会 職 業 階 層 の 影 響 も無 視 す る わ け に い か な い 。 介 護 者 化 の 可 能 性 は 、 非 現 業 職 なか ん ず く専
門 的 管 理 的 職 業 に 較 べ る と現 業 職 に つ い て 相 対 的 に 高 い 。 人 種 や 民 族 に よ る相 違 も指 摘 され る 。
―-63-―
経済研究11巻 4号
介護者化 の可能性 は、バ ングラデ イシュ人 にお い て最 も高 い。 これ にイ ン ド人、パ キス タ ン人、
カ リブ海出身の人 々が続 き、 自人 の場合 は相対 的に低 い1401。 これは、多世代家族 と配偶者 の年齢
に関す る人種や民族 間の相違か ら生 まれる現象 で ある。 バ ングラデイシュ人 をは じめパ キス タ ン
人お よびイン ド人 は、他 の人種 や民族 に較べ るならば二世代以上 で家族 を形成す る割合 が、歴史
的には もとよ り今 日にお いて も高 く、 しか も、バ ングラデ イシュ人 とパ キス タ ン人 の女性 は、年
齢 の相対 的 に高 い配偶者 と暮 らす ことか ら、介護 の必要性 も自ず と高 くな る傾向 にあ る。
週20時 間を超えて要介護者の世話 に当たる介護者 は、少なくない
(表 2)。
実数 にして190万 人、
この うち週50時 間以上の介護者 は109万 人である (2001年 )。 介護者のおよそ半数は、 5年 以上の
長 きにわたってその地位にある。介護者のいる家族 は、 これも表 に示す ように 5家 族中 1家 族を
超す。 これは、実数 にして500万 家族 である。
要介護者の世話に生活時間の一部 を割かなければならないことから、介護者の労働力率 は相対
的に低 い。働 き続ける場合 にも介護 に費やす時間 との調整を迫 られることから、 フルタイムから
表2
介護者の属性等 に関す る諸指標 (2000年 )
実数 (万 人)
比率 (%)
1.介 護者の週介護時間別構成
週20時 間未満
週20時 間以上49時 以下
週50時 間以上
2.週 20時 間以上の介護者の うち要介護者を
2-3時 間 1人 にしてお くことので きない介護者
3.週 20時 間以上の介護者の うち長期の疾病を患 う
72
16
11
51
介護者
50
4.週 50時 間以上の介護者の うち健康への影響
疲れを感 じる介護者
憂鬱である介護者
睡眠が中断する介護者
緊張感 を感 じる介護者
影響のない介護者
52
34
47
40
28
5.介 護者の介護期間別構成
6。
4年 以下
5年 以上 9年 以下
24
10年 以上14年 以下
11
56
15年 以上
介護者のいる家族
(資 料)National Statistics,C arers 2000,op.cit。
10
500
,p.2,p.17,p.20,p.22 and p.26よ
り作成。
ならない。
(注 )(1)表 中介護者の週介護時間別構成 の計数 は、四捨五入のため に合計 は100に
……64-
イギリスの社会保障と介護者
パー トタイムヘの 自主的な転換 を含 めて労働時間の個別的な短縮 を余儀 なくされる。就業形態の
変更 は女性 に多い。昇進の機会 を不本意 に逸す ることも少 なくない。 これは、女性 よ りも男性 に
多 く認 められる。 これらは、いずれも所得の低下 を招 き入れる。多 くの介護者が、長い休暇の取
得 を含 む余暇活動 の削減 を迫 られるの も故 なしとしない。食費の縮減 までもが調査 を通 して伝 え
られること0に は、やや驚 きを覚えざるを得 ない。 しかし、 これも所得の低下 と介護 に伴 う義務
的な出費 によって解決の迫 られたや りくりの一つである。介護者 自身が、要介護者の世話 を担 う
結果 として長期 の疾病 を患 うことも、前出の表 に示す ように冷厳 な事実である。 これは、週50時
間以上にわたつて世話を続ける介護者 に顕著である。『介護者のための全 国戦略』 は、 アメリカ
の調査 によれば認知症患者の世話 に当たる介護者の 5人 中 4人 が、自らも慢性疲労やうつ状態 を
含 む精神疾患 を患 う状態 に置かれている、 と紹介す る1421。 これは、イギリスの介護者 にも無縁 と
はいえない。『介護者 のための全国戦略』 に紹介 されていることは、 アメリカの深刻 な事態 をイ
ギリス政府みずから他山の石 として公式 に認めたことを示す。
ところで、政府の社会的排除ユニ ット (Social Exclusion Unit,SEU)は 、2001年 以降の年次報
告書 の中で介護者 についてしばしば触れ、 これらの人々が、社会的排除の状態 にあると指摘す る
1431。
同様 の言及 は、地方自治体の社会的排除に関す る政策文書 にも見 ることができる。これらは、
社会的排除 に関す る諸指標 の うち低所得 と罹病率の高 さとに着目してのことであるように推測 さ
れる。 もとよ り他 の諸指標、す なわち失業 と差別、低 い技能水準、家族の崩壊あるいは高い犯罪
発生率 と介護 との関係 は、い ささかも説明 されていない。 この不明瞭 さに注目するならば、社会
的排除の表現が明確 に定義 されたそれではな く、一種 の標語 に過 ぎない としばしば繰 り返される
批判0を 好意的に受け入れることができる。同時に、介護者の所得 と健康状態 は、政府の社会的
排除ユニ ッ トがその職責に照 らして保健省 とは別個 に政策上の関心 を払 うように、特別の問題 を
抱える。 このことは、記憶 されるに値す る事柄のひとつである。
介護者化 の可能性 は、既 に述べ たように著 しく高い。それは、 ご く一部の人々の問題 に止まら
ない。介護 を担 うことに伴 う身体的かつ精神的な負荷 はもとよ り、経済的な負担 も重い。それゆ
えに改めてベ ヴァリジの言葉 を借 りるならば、介護者のニーズ を「その他 のニーズ」 として分類
「社会保障 に対する根本的なニーズ」 の一つ に数 えられるに値す る。
す る理由はない。
介護者 とそのニーズ を要介護者のニーズとあわせて重視す る見地 には、あるいは強い批判が寄
せ られることも予想 される。日本 の介護保険制度 とその効果 を積極的に評価す る立場からの間接
的な批判である。
介護保険は、厚生労働省 によれば「介護が必要な期間が長期化 した り、介護す る家族 の高齢化
などが進 んでいることから、家族 による介護 では十分な対応が困難 となってきてい 。・・」1451る
ことなどを考慮 して制度化 される。家族 による介護 を社会保険制度 によつて社会化す るならば、
―-65-―
経済研究 11巻
4号
サー ビス を受ける要介護高齢者 とその「家族 の精神的、肉体的な負担が軽減 される」 ことは もと
よ り、高齢者 とその「家族が社会生活 に参加す る機会が増 えリフレッシュで きる」1461メ リットが
期待 される。
サー ビスの給付 をおこなう市町村 は、第 1号 被保険者の保険料 を財源 に介護研修や介護をして
いる家族 の リフレッシュを目的にする交流会 も手がけることがで きる。 しか し、 これは、
「地域
の独 自のニーズ に応 じ」140る 場合 に限られる。介護研修などの介護者 を直接 の対象 にす るサー ビ
スは、一般的なニーズ として介護保険制度 に認知されるわけではない。それは、あ くまでも特定
の地域に固有のニーズに止まる。 この種のサー ビスの実施状況を丁寧 に調べ ると、少なくない 自
治体 において実施 される。 してみると「地域 の独 自のニーズ に応 じ」 た事業 とは、言いがたい。
しか し、法制度 の上では、地域に固有 のニーズヘの対応であって一般的なニーズ としての理解に
欠ける。また、家族介護慰労金あるいは家族介護者慰労金 は、要介護高齢者が過去 1年 間に介護
保険のサー ビス を受けない場合 に限られる。介護者に対する年額10万 円の給付 は、要介護 4も し
くは 5と 認定された高齢者へのサー ビス給付 の断念 を必須 の交換条件にするのである。介護者 は、
こうしてサービスは もとより所得保障の対象でもない。介護保障は、古橋エ ツ子氏 も指摘 される
ようにあ くまで要介護高齢者を対象 にする。
介護者 は、介護保険制度 によるサー ビスの社会化 の結果 としてその負担 を軽減することがで き
たと積極的に評価す る声 は、少なくない。樋口恵子氏 は、『 日本経済新聞』の取材 に応えて介護
保険制度 の施行後 に行 われた「多 くのアンケー ト調査」 の結果 に照 らして「介護者の負担が減 つ
た」1481と 評価 される。樋口氏が理事長 を務 める高齢社会を良 くす る女性 の会 も「介護保険 は概ね
期待 された効果 を上 げ」
「家族に集中していた介護が軽減 され」1491た と述べ て、樋口氏による評
価 を追認す る。
これらの議論から共通する特徴 を読み取 ることがで きる。すなわち、介護保険制度の施行 に前
後す る負担 の推移 に焦点 を絞 って評価 を下す ことである。その上で、負担の減少ない し軽減 につ
いて確認 をす る。それゆえ、介護保険の制度化に当たって提出された論点、たとえば「家族が社
会生活 に参加す る機会が増 えリフレッシュで きる」 かどうかの検証 をお こなう姿勢 は、そ こにな
い。 これは、以下のように言い換 えてもよい。樋口氏他 は、負担 の絶対的な水準に関心 を寄せる
ことはない。仮 に負担が軽減 されたとしても、介護者が依然 として背負 う負担の重さやその継続
性 に着 目す るならば、異なる評価 も考 えられる。
樋口氏他 と同 じように負担 の時系列変化 を追跡 しなが ら、全 く異なる結論 を導 く議論 もある。
たとえば市場調査 の専門調査機関である中央調査社 は、主な介護者の身体的な愁訴数 をはじめ介
護 による精神的な消耗、介護による社会生活の支障 といった 3つ の側面か ら介護者の負担度 の変
化 について計測す る。 この結果、身体的な愁訴数 と社会生活上の負担 に目立った変化 は見 られな
―-66-―
イギリスの社会保障と介護者
い。介護者 の情緒的な消耗 は、介護保険制度 の施行 された後 の2002年 度 の方 が施行前 の1996年 と
98年 よ りも有意 に悪化す るlpl。 中央経済社 は、 この結果 につい て以 下 の ような論評 を加 える。す
なわち、在宅介護 の主力 が依然 として家族 に担 われてい ることか ら、介護者 の身体的 0精 神 的お
よび社会的な負担 は軽減す るまでに至 ってお らず、介護保険制度 の導入 を画期 に始 まった介護者
の相談 に対す る支援態勢 の弱 ま りが 、介護者 の精神的な負担 の増加 に影響 してい る可能性 も考 え
られる。 これ と類似 の結論 は、近藤克典氏 の調査研究 か らも学 び取 ることがで きる1511。
さらに、第61回 日本公衆衛生学会 (2002年 )に おけるい くつ かの報告 は、家族 による負担 の高
い水準 に注 目し、介護者が休息 を取 る ことので きる制度 の設立 に向けた提案 をお こな う1521。 広部
す みえ氏 は、福井県内 の家族介護者 124人 の87%が 疲 れを覚 えてお り、疲 れの原因 として44%が
介護 を挙 げた とされる。疲労感 の うち「 ひと晩寝 て も取 れない」 は57%と 家族介護者 の半数 を超
えた とも指摘 される。広部氏 は「介護保険 でサ ー ビスは多様 になったが、サ ー ビス業者 は効率 を
上 げ るため に提供時間 を厳密 に し、介護者へ の精神 的支援や健康相談 が従来 よ り減 った との声 が
家族 から聞かれた」 と指摘 して、先の中央経済社 と全 く同じように介護保険の制度化 に伴 う変化
に着 目した評価 を下される。 また、渡辺訓子氏 は、静岡県内 4市 町で要介護度 1か ら5の 高齢者
と暮 らす主介護者948人 を対象 にア ンケー ト調査 をお こなったところ、ス トレスが「 うつ状態」
「介護者 の負担 を軽 くす るには、生活習慣 をサ
領域 に入る介護者が 回答者の58%に 達 してお り、
ポー トす る仕組みが必要」であると報告 される。さらに、鷲尾昌一氏は、福岡県遠賀郡内の介護
者 と高齢者47組 を調べ たところ、介護負担の重い群 は軽い群に比べ てシ ヨー トステイ・サー ビス
を利用す る人が多かったにもかかわらず、介護者 の外出時間は少 ない現状 に注 目して、「本当に
必要な ときに使 え、 もっと自由時間を取れるサー ビス を」 と提案 される。
これらの学会報告 は、ケース数が少 なく地域的にも偏 りを持つ と批判 されるかもしれない。予
想 される批判 に応えるために厚生労働省 『国民生活基礎調査』 に聞いてみよう。要介護者 と同居
す る介護者の うち悩 みやス トレス を抱えると回答 した者 は、介護保険制度の施行前後で有意 な改
善 を示す とはいえない (表 3)。 悩 みやス トレス を訴 える介護者 は、 3人 中 2人 を記録す る。自
覚症状 のある介護者 も表 に示す ようにおよそ 2人 に 1人 である。厚生労働省『国民生活基礎調査』
は、先の学会報告 の結論 を覆すどころか、むしろそれらと内容の上で重なり合 う現状 について伝
える。
時系列の変化 を拠 り所 に政策効果 を判定す る手法 は、樋口氏他が着 目されるようにそれ 自体有
効であつて、調査研究の多様 な分野にまたが って採用 される。 これとは別 に、ある時点の絶対的
な水準 に関心 を寄せて事柄の是非 を判定す る方法 も、よく知 られるように効果的である。厚生労
働省 『国民生活基礎調査』の信頼 に足 る結果 をこれらの 2つ の手法 に沿 つて検討す るならば、樋
口氏他 とは全 く異なる結論 にたどり着 く。
―-67-―
経済研究 11巻
4号
表3
日本における要介護者 と同居の主な介護者の悩 みやス トレスなどの状況
比率 (%)
悩みやス トレスのある介護者
1995年
65.1
1998年
72.3
2001年
67.6
2004年
64。
4
自覚症状 のある介護者
2001年
46。 3
2004年
45。 9
健康が「あま りよ くない」「よ くない」 と意識する介護者
2001年
19.6
2004年
20。
3
(資 料 )厚 生省 『国民生活基礎調査』平成 7年 版、第 2巻 、148-149頁 、平成10年 版、第 2巻 、164-
165頁 、厚生労働省『 国民生活基礎調査』平成13年 版、第 2巻 、306頁 、309頁 、312-313頁 、平
成16年 版、第 2巻 、762-763頁 、765頁 、768頁 よ り作成。
(注 )(1)表 中 2と 3の 調査結果 は2001年 以降 についての もので、 これ以前 の1995年 と1998年 の調査票
にはない。 このために95年 と98年 の結果 を示す ことはで きない。
やや理論的に考 えてみよう。介護者のニーズ に応えてサー ビス を含 む各種 の支援 をお こなうな
らば、 また、介護者のニーズ も考慮 して要介護者への支援 に工夫 を加えつつサービス を拡充す る
ならば、それは、介護者が 自らの生活 に負 う介護 の影響 とうまく向き合 うに止 まらず、要介護者
への対応 にも優れて 自発的でや りがい を伴 う援助 になるであろう。要介護者の「生活の質」 を引
き上 げる結果 もおのずから期待 される。
樋 口氏他 の議論 は、 このように考 えて くると介護者への支援 とその根拠 を問接的 に批判す る程
の内容を伴 うとは考 えにくい。各地でおこなわれた個別の調査 は もとよ り全国規模 の調査結果 は、
む しろ介護者への支援の必要性 を示す といつてよい。
3.介護者 への支援 の諸方法
介護者 とそのニーズ を政策の次元 において承認す ることに対 して、 イギリス にも議論 のなかっ
たわけではない。公的な承認に異議 を唱 える議論 のひとつは、障害者の諸権利 を重視す る立場か
らのそれであ る。特 に 自 らも障害者 であ る女性研究者か らの批判 である。 J.ツ ィグ
(Julia
Twigg)の 編集 になる著書が この種 の議論 を俎上に載せて批判的な検討を加えてお り、氏がイギ
リスの介護者研究 における重鎮 のひとりであることlBlと 併せて考 えるならば、障害者の 自立を重
視す る立場からの議論 は、研究者の間に一定の影響 を与 えたと考 えてよさそ うである。
―-68-―
イギリスの社会保障と介護者
障害者の 自立を重視す る運動 はアメ リカにおいて生まれ、アングロサクソン諸国に徐 々にその
影響 を広めてい くことになる。 この運動 による批判のそもそもの出発点 は、ハ ンディキャップに
関す る社会的な解釈にある。すなわち、ハ ンディキャップは、身体的な損傷 の産物ではないので
あつて、無能力な状態を余儀なくさせる社会的な環境 の結果 に他な らない。ハ ンディキャップが
社会的に作 られるのであって、社会的ならびに経済的な変化 は、身体的な損傷を負 う個人 をハ ン
デイキヤップの状態から救 いあげることができる。そのような変化、 とりわけ障害者自身による
管理 を認める対人サー ビス を整備す るならば、対人サービスの必要性、すなわち介護者 の必要性
は解消 される。介護 は、ハ ンデ ィキャップに関す るこのような考 え方からす ると社会的 に構成 さ
れた産物である。介護者 とそのニーズ を積極的に語 る論調への批判 も、おのず と生まれる。介護
者へ の支援 を強調す ることによって依存状態 を是認す るわけにいかないのであって、障害者の 自
立を担保す るに相応 しい援助 こそ求められる。介護者のニーズの強調 は、 こうした考 えに従 えば
寄せ られてしかるべ き当事者への関心 を散逸 させ、障害者への援助 とい う真 に解決の迫 られる問
題 に投 じられてしかるべ き財源を拡散 させる0。
『介護者のための全 国戦略』が公表 されると、 これに対す る批判 として も展開 される。たとえ
ば L.ロ イ ド (L.Lloyd)に よれば この『全 国戦略』 は「介護を受ける人に展望を開 く戦略であ
るようにはみえない 000。 それは介護者の利害 を要介護者の利害の上に押 し当てる危険 さえも
内包する」0。
自主性 と自立 は、障害者 と高齢者が人間 として抱 くに相応 しい期待である。人間であることを
間違いなく示す願望のひとつである。 しか し、 これらのニーズが障害者や高齢者の内部 において
自足的 に充足 されるわけではない。それらは、介護者 とケアワーカーなどとの諸関係 においての
み見通す ことができる。障害者自身による管理 とその是認 は、自立を尊重するひとつ として重要
であるにもかかわらず、かかる文字通 り自主的な管理が可能な障害者や とりわけ高齢者の規模 は、
限られる。
介護者 と要介護者 とがダイヤー ド
(dyard)、
すなわち 2人 の関係 もしくは介護 の二重 の焦点
(dual focus of caring)と して言及 されるの も、故 なしとしない。介護者 と要介護者のいずれか
一方 を直接 の対象 にす るサービスでさえ も、それは、双方 に影響 を与 える。要介護者がその状態
に相応 しい内容 と方法のサービス を受けて生活状態 を改善 し、 これに満足の意を示すならば、そ
れは、介護者 の歓 びともな り要介護者の世話 に当たる意欲 をも刺激す る。他方、介護者が介護技
術 の講習 に参加 をして生活援助 のスキル を引 き上げるならば、それは、介護者の負担 を軽減す る
に止 まらず、要介護者が以前 にも増 して心安 らかに世話を受け入れる状態をも作 り出す。また、
介護者が休暇の機会 を享受するならば、自らの健康状態 を懸念す ることなく優 れて自発的な意思
に沿 つて介護 を担い続けることができる。 これは、サー ビス を受ける要介護者の安寧 と喜 びの拠
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経済研究11巻 4号
「介護者へ の援助 は、介護 を要す る人々 を支援す るための最良な方法 のひとつで
り所 で もある。
ある」lulと 『介護者のための全国戦略』 に述べ られる内容 も、 このように考 えると容易 に理解す
ることができる。
もとより両者の関係 は、いかなる場合 にも同一の利害 に彩 られるわけではない。 2人 の関心や
意見が異なる場合 も人間社会における生業の一種 として否定 し得 ない。たとえば介護者への休息
機会の担保である。 これが介護者 に緊急 に必要 になったとしても、要介護者 としてこれを俄かに
は認めがた く、彼女や彼 にとっては一種 の重荷になることもあ りうる。だからこそ『介護者のた
めの全国戦略』 は、
「介護関係 の両当事者が ともに尊重される手法 を開発 しなければならないの
であって、一方のニーズ を他方のそれに従属 させてはならない」150と 注意を喚起 して、両当事者
の尊重 を担保す るに相応 しい態勢 と手続 きの整備 について提起す る。
介護者への支援 は、雇用機会均等委員会が1982年 に体系的な整理をお こなったように 3つ の分
野 にまたがる。 まず、介護者 に対す る直接的 もしくは間接的なサー ビスの給付 である。次いで仕
事 を持ちながら介護 を担 う人々の就業条件 の改善である。 これには、パー トタイムの 自発的な選
択 を含 む柔軟 な働 き方 と介護休暇制度、再就業 を希望す る介護経験者への職業訓練機会 と職業紹
介の保障な どから構成 される。最後に、介護者への所得保障である。 この領域 には、介護者手当
の改善 とならんで介護 に携 わる人々の年金権 の保障が問題 になる。
これらの 3つ の分野の うち どれを重視す るかは、論者 によつて異なる。たとえば『介護者のた
めの全 国戦略』 は、柔軟な働 き方を最初に位置付けた上で所得保障 を論 じ、最後 にサー ビス給付
について述べ る。労働力率 の上昇 を重視するブレア政権 ならではの考 え方である。雇用機会均等
委員会の既 に紹介 した整理 とは異なる。
以下においては、介護者 に対す る直接的 もしくは間接的なサービスの給付 に絞 って、支援 の方
法 を検討 したい。
まず、介護者自身を対象 にするサービスである。介護者支援 グループは、 この最 もわか りやすい
事例 である。 グループは、その 目的 と機能 において多様 である。 グループは、話 し合い とリラッ
クスの場所 を提供す ることから休養の機会 を提供す ることができる。介護 とい う同 じ体験 を共有
す ることで日々の東縛から介護者 を解 き放つ機能 を担 う。 ソーシャルワーカーなどの専門家 と介
護者 とが接触す る機会 を提供す ることもある。情報を提供 し訓練 の機会 を用意す ることも、各地
のよ く知 られた経験 である。 グループは、地方 もしくは全国 レベルの圧力団体 としてその関心 を
集中す ることもある。介護者支援 グループは、 これらの機能のい くつかを併せ持ちながら運営さ
れる。 グループは、自助グループの形態の もとに運営 されることもあれば、介護者センター もし
くは介護者支援 センター (Carers'Centre)を 設立 して一段 と多様 なサー ビス を体系的 に提供す
ることもある。規模 と財政基盤 は、おのず と後者 において大 きく広 い。支援 センターの良 く知 ら
-70-
イギリスの社会保障と介護者
れる事例 は、介護者 のための プ リ ンセス・ ロ イヤ ル トラス ト (The Princess Royal Trust for
Carers、 1991年 10月
設立 )で あ り、 イ ングラ ン ドは もとよリウエー ルズ とス コ ッ トラ ン ドお よび
北 アイル ラ ン ドの各都市 に設 け られ運 営 される介護者 のためのセ ンターで あ る (143ケ 所、2006
年 8月
)。
情報 の提供 をは じめ助言 とカウ ンセ リング も介護者 を直接 の対象 にす る。 これは、介護者 によ
る援助 システ ムの よ り広 い利用 を 目的 のひ とつ にお こなわれる。専門的な能力 を持 つ人 々か らカ
ウ ンセ リングを受 け るな らば、介護 に伴 う心理的な重圧 に うま く向 き合 う術 を学 び取 る こと も期
待 される。介護者支援 グル ー プは、先 に述べ た ように情報 の伝達 を機能 のひとつ にす る。情報 の
提供 は、介護 を同じように担 う人々の知識や経験 から恩典 を得 た個 々の介護者の間で しばしば 日
常的にお こなわれる。 これは、要介護者の直面す る問題の性格 を知 り地域において受けることの
可能なサー ビスについて学 び取 る上において、主要 な情報源のひとつである。自治体 は、地域 に
おける一連 のサー ビスと支援 グループについてわか りやす く解説 した『介護者便覧』を作成 して、
これを無料 で配布す るなど、介護者 によ り体系的に情報 を届ける事業 をお こなう。名称 は『介護
者のための情報』や『介護者情報集』 など区々である。その後20世 紀末葉以降 になると、全 ての
自治体がホームページを通 して介護者 に有用 な情報 を住民サー ビスのひとつ として幅広 く提供す
る。F介 護者便覧』 もここからダウンロー ドす ることがで きる。政府がケアラー・ ウエブサイ ト
(carers'web― sit)と 名 を付 したホームページを開設す るのは、2000年 2月 である。
『介護者便覧』 は、要介護者 と介護者 を対象 にす るサービスや所得保障 に関す る実用的な案内
である。 たとえばマンチ ェス ター (Manchester)の 北西 に位置す るボル トン市 (Bolton)に お
いて発行 される冊子 『あなたは誰 かの世話 をしてい ますか ―ボル トン介護者便覧一』 (20062007年 版、A4版 、 1-87頁 )lulは 、以下の 目次 に沿 って編集 される。(1)あ なたは介護者ですか、
(2)ど
こに援助 を求めますか、(3)ア セスメン ト、に)介 護援助 の器材、(5)介 護者手当な どの諸給付、
(6)法 律上 の相談 と助言、(7)休 息 を取 る、(8)誰 かと話す機会 を持 つ、(9)交 通手段 と移動、l101住 宅 と
住 まいの安全、llllあ なた 自身の健康 に注意 をす る、l121■ 事 と介護 を両立する、l131自 分 の意見を聞
いてもらう、l141緊 急時の対応、l151自 宅における介護 とは別の方法、l161介 護が終了 した後 に。
この冊子 は、日次からうかがい知 ることができるように介護 を担 う人々が介護者 として 自らの
位置 を認識す ることへ の援助から始 まり、介護が終了 して一抹 の満足感 と社会生活への復帰 を果
たす までを視野 に納 めて、それぞれの異なる場面 において介護者が直面す るであろう諸問題への
効果的で簡便 な対応を平易 な言葉で解説す る。介護者 は、 この冊子 を利用す ることでサービスや
所得保障の存在 について知 り、それらの利用 に歩みを進めることになる。
キングス・ ファン ドは、介護者への支援 を目的にす る一連 の冊子 を発行 して注目される。 これ
らの冊子 には、『ケアリンク』 (Carelink)と 題す る季刊誌 の他 に『休暇 を取得す る』 (1987年 )
一-71-―
経済研究11巻 4号
や 『 自宅 で世話 をす る』 (88年 )な どが含 まれる1591。 キ ングス・ ファン ドは、介護者 の介護技術
訓練用 の ビデオテー プ も製作 して利用 に供す る。
民間非営利団体 は、キ ングス・ ファンドのこうした事例 に示 されるように情報の提供や助言の
分野 においていかにも積極的な役割 を担 う。比較的初期 の優 れた別の事例 としては、アルツハ イ
マー疾患協会 (Alzheimer's Disease Socie飢
ADS)に よる冊子『認知症患者の世話をする一家族
と介護者 のための手引 き一』 (1984年 )を あげることができる00。 英国介護者協会や介護者のた
めのプリンセス・ロイヤル トラス トなどによる電話相談あるいはインターネットによる情報 の提
供 も、その一例である。
介護 を担 う児童 とその家族 を対象 にす る事業 は、 これも民間非営利団体が保健省や自治体 の財
政的な支援 を受けて265ケ 所 において展開される (2006年 8月
)。
家事援助や身体介護の提供 は、 これまで述べ てきた介護者を直接 の対象 にす るサービス とはそ
の性格を異にするものの、介護者支援の一方法であることに違いはない。介護者に提供されるサー
ビス と要介護者を対象 にす るそれとを区別す ることは、家事援助や身体介護の提供 に即 して言 え
ば難 しい。要介護者への援助 は、そのことを通 して介護者の状態に何 らかの影響 を与 える。介護
者の担 つて きた日常生活上の援助 の一部 もしくは全部が、有償 のサー ビス にとって代 わられるな
らば、それが直接 には要介護者に給付 されるとはいえ、介護者の介護 に費やす時間は自ず と短 く
な り負担 も軽減される。 日本 において「介護 の社会化」 として論 じられてきた事柄である。
しか し、両者の峻別 と評 して良いほどの区別が 自治体 によって長 らくお こなわれてきた ことも、
否定す るわけにいかない事実である。すなわち、特定のサー ビスは、介護者が居ない場合 に限つ
て提供 されてきたのである。 この最 もよく知 られた歴史的にも古 くからの事例 は、 ホームヘル
プ・サー ビスである。介護者の存在いかんによってサー ビスの給付 を決めるや り方 は、地域看護
師 (District Nurse)の 担 うサー ビス、 とりわけ入浴サー ビスやディヶァなどの利用 にも広 く認
められる。 S.ベ ッカーが既 に紹介 したように「家族へ の支援 は、介護者の存在を理由に差 し控
えられてはならない」 と述べ たわけも、そうした現実の中で解決を迫 られたからである。ちなみ
に S。 ベ ッカーによるこの定式化 は、『介護者 のための全 国戦略』 の公表 された年 に同 じ1999年
である。家事援助サービスが第 2次 大戦以降に発展 してきた ことを改めて思い起 こすならば、介
護者の居 ない場合 に限定するサー ビスの給付 は、半世紀以上の歴史 を重ねたことになる。
子 どもと同居する高齢者 は、ホームヘルプ 0サ ー ビスの給付要件を満たさない としてこれを排
除す るや り方は、自治体によっては政策文書 にそれとして明示され、あるいは、明文化 されてい
ないけれ どもサー ビス を給付す る現場 の長年 にわたる慣行 のひとつ として定着 し、行政機関の内
部 においてそれとして是認 されてきた。 この限 りにおいて家事援助サービスは、要介護者に影響
を及ぼす ことはあって も介護者にい ささかの関わ りも持 たない。なんとなればサービス を受ける
―-72-―
イギリスの社会保障と介護者
要介護者 は、介護者の居 ないことを必須 の要件 にす るからである。 しか し、その後、介護者への
支援 を家事援助サー ビスの 目的のひとつ に認める自治体 もゆっ くりとではあれ現れる。たとえば
マンチ ェス ターの東部 に隣接す るタームサイ ド市 (Tameside)で は長年 の慣行 を廃上 し、 これ
によつて介護者の居 る要介護者への家事援助サー ビス を80年 代後半 に認める1611。 これは、他 の 自
治体 と同 じように介護者支援計画の策定過程 における反省 を契機 にす る。家事援助サー ビスは、
こうして要介護者に直接に給付 されるとはいえ、そのことを通 して介護者 にも積極的な影響 を及
ぼすのである。
要介護者のニーズ を周到 に考慮す る住宅の改造や公共交通手段 の整備 は、家事援助や介護サー
ビス と同 じように要介護者の「生活の質」 を引 き上げるだけではな く、そのことを通 して介護者
の「生活の質」 をも肯定的に左右す る。
介護から離 れる機会 を用意 して介護者 に休息や休暇の取得 を保障することは、支援 の欠かすわ
けにいかない方法 のひとつである。イギリス において も長 い問 レスパ イ トケア (Respite care)
『介護者のための全国戦略』 によって休 日や休暇の取得 を介護者 に保障するためのサー
と呼ばれ、
ビスとして提起 された援助の方法である。介護者に体 日や休暇を担保するための形態 は、多様 で
ある。要介護者の介護施設へのショー トスティをはじめディセ ンターヘの通所、介護者の夜間に
おける睡眠 を可能 にす る夜間サー ビス
(night sitting service)、
おなじく日曜 日に協会に出かけ
た り友人 と過 ご した りす ることので きる日曜 日サ ー ビス (Sunday sitting sewice)、
介護者が夕
刻の時間帯 に映画に出かけたレス トランで食事 をした りして過 ごす ことので きるイヴニ ング・サー
ビス
(evening sitting service)、
(day― time
買い物 などの生活行動 の時間を担保す るデイタイム・サー ビス
sitting service)お よび介護者 と要介護者 とが一緒 に休暇 を過 ごすためのホリデー・サー
ビス (holidays service)な どが、それである。要介護者 に対す る 日常生活上 の援助 は、いずれ
の場合 にもケアワーカーが介護者 に代 わつて担 うことになる。
休 日や休暇の期間は、これを担保す る形態の多様 さから推察 されるようにこれも多岐 にわたる。
短い場合 には半 日や 1日 、長 くなると 1週 間もしくは 2週 間である。休 日や休暇の取得が定期的
に繰 り返 されることもあれば、急な状況の変化 に対応 して一時的にお こなわれる場合 もある。介
護者 は、取得期間の長さや頻度のいかんに関わ りなく『介護者のための全国戦略』 も認めるよう
に「自分 自身の生活 を設計す る自由」1621を 取得す ることになる。 これは、介護者の健康状態 を維
持す ることにも通 じ、優れて 自発的な意思の もとに介護 を担い続ける条件 の形成 にも効果 を発揮
す る。 これは、介護者へのサービス として用意されなが ら、介護関係 のい ま一方の当事者 として
の要介護者 にも積極的な影響 をもたらす方法である。
最後 に、要介護者 に給付 される水準 の高いサー ビス も広 い意味では介護者 に対す る支援 のひと
つである。なん となれば高い水準 の専門的な援助は、要介護者 の健康状態 を改善 し自立を促す こ
-73-
経済研究11巻 4号
とができる。そうす ることを通 して介護者の抱 き続けてきた精神的な不安や悩みを和 らげて くれ
る。自立の程度 に応 じて介護者 に求められる生活援助の頻度 は少 なく、その時間も短 くなる。 こ
れらが相まって介護者の負担 は軽減される。 これらのサー ビスには、リハ ビリテーシヨンは もと
よ り急性期 の治療が含 まれる。ちなみに『介護者のための全国戦略』 は、 この種のサー ビス を介
護者 に対す る支援 の方法 として位置付けていない。介護者 に対す る支援 の一環 としての理解 は、
J.ツ イグやD。 ワンレス (Derek Wanless)お よび L.ピ カール
(Linda Pickard)に よつて示
される1631。 ここでは、既 に述べ てきた理 由に即 して J.ツ イグなどの指摘 を肯定的に受け止めて
いる。
おわ りに
筆者 は、介護者について久 しぶ りに考 える機会 を得 た。論 じなければならない内容 はい まだ多
い。本稿 は、あ くまで もその初発 である。
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1311 作家 の緑 ゆ うこ氏 は、
「英国神話 にクール な視点 を説 く」 (『 毎 日新 聞』2003年 5月 28日
)
方のようである。 しか し、氏 は以下のように述べ ることによって介護者手当の存在 はもと
よ りその給付要件 についても全 くご存 じない。
「・
0・
姑の介護 にも国から現金が支給 され
るようにすればよい。・ 。・その方向で議論 を進めていけば、かならず どこまでを対象 と
して含めるべ きかが問題 となるだろ う。老人の 日常 の世話 と病気 の介護 はどこで区別す る
か、対象 は実の親 までか、あるいは配偶者の親 までか、結婚 していない同居パー トナーの
親 は、身寄 りのない親戚の介護 は 。・ 。と、キリがない」。緑ゆうこ『イギリス人は「建前」
がお得意』紀伊国屋書店、2002年 、63-64頁 。
かかる手当の存在 とその給付要件 は、自治体 の社会サー ビス部や民間非営利団体な どの
窓回はもとよ り電話を介 しても、日本 とは異なっていかにも容易 に知 ることがで きる。氏
は、イギリス を「理想化す るのではな く、現実をもっと見 てほしい」 と『毎 日新聞』 (前 掲)
のイ ンタビューに答 えておられる。氏においてこそイギリスの「現実をもっと見 てほしい」
と考 える。イギリスの制度上の「建前」 さえも知 らない ままの評価なぞあ りえまい。
00ベ ヴァリジ著、山田雄三監訳、前掲、192頁 。
1331同 上、10頁 。
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