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第 2 章 諸外国・地域の動向 - Japan Patent Office
第 2 章 諸外国・地域の動向 1 中国 ①我が国と中国国家知識産権局との取組 第2章 (1)我が国との関係 第1章 中国は、今や世界で最も多く専利(我が国における「特許・実用新案・意匠」に相当)及 び商標の出願を受理する国となった。これは、急速な経済発展に伴って、経済活動に必須で ある知的財産権の確保が一層重要となっていることを表しているといえよう。特に、2008 年 に中国国務院より公布された「国家知的財産権戦略綱要」で定められた目標を達成するため、 各省庁や地方など様々なレベルで各種の計画を策定し、産業財産権の取得奨励をはじめとす る知的財産権に対する認識が浸透してきたこと、製造拠点から巨大市場として中国の位置付 けが変化する中で、多国籍企業と現地企業の合弁による R & D の現地化が進展していること などを背景として、国内出願人による権利取得の活発化が目立っている。このような状況下 では、輸出入共に中国を主要貿易相手国とする我が国にとっても、中国における知的財産権 保護の重要性は高まる一方である。 本節では、中国政府、特に専利を所管する中国国家知識産権局、商標を所管する中国国家 工商行政管理総局を中心とした知的財産政策の動向、及び両機関との協力・働きかけを中心 とした中国に対する我が国の取組について紹介する。 国際的な動向と我が国の取組 受理した特許出願件数が 2011 年に米国を抜いて世界一となった中国は、2012 年もさら に出願件数を伸ばし、その地位を不動のものとしつつある。経済成長の著しい ASEAN を始 めとする新興国においても、知的財産の重要性が再認識され法制度整備や運用の改善が 進んでいる。このように新興国が台頭する中において、欧米諸国も手をこまねいているわ けではない。米国の抜本的な特許法改正や、欧州における単一効特許制度の導入に向け た動きなど、各国・地域は知的財産制度をより魅力的なものにするべく、様々な取組を行っ ている。本章では、こうした諸外国・地域の取組や、我が国との関係を紹介する。 第4部 第2章 諸外国・地域の動向 材の育成に関する協力覚書(人材育成協力覚 書)を締結した。 我が国特許庁では、二国間及び多国間での 2012 年は、10 月に開催した第 19 回日中 枠組みを利用し、中国国家知識産権局におけ 特許庁長官会合において、特許分野における る審査環境の整備、サーチ・審査結果の相互 協力として、日中特許審査ハイウェイ(PPH) 利用、制度調和、情報化に関する協力を推進 について、試行期間を 2012 年 11 月以降も しており、2009 年 12 月には我が国特許庁 1 年間延長するとともに、申請に必要な提出 と中国国家知識産権局の間で、特許権・実 書類を一部不要とすることに合意した。また、 用新案権・意匠権に関する協力を強化する 中国特許文献への FI・F ターム 1 の付与につ ための覚書(特許庁間協力覚書)を締結し、 いて合意した。これは、急増する中国特許文 2009 年 9 月には、独立行政法人工業所有権 献のアクセス性を向上させるために、当初は 情報・研修館と国家知識産権局中国知識産権 特許庁が FI・F タームの付与を行うとともに、 トレーニングセンターとの間で、知的財産人 分類実務者の交流を深め、将来的には中国国 1. IPC をベースに JPO が独自に細展開した内部分類のこと。 特許行政年次報告書 2013 年版 277 第 2 章 諸外国・地域の動向 家知識産権局が付与するものである。また、 国特許庁と国家工商行政管理総局は、ハイレ 日本語と中国語の機械翻訳に関し、辞書構造 ベル(長官− SAIC 副局長)の交流や、実務 や翻訳精度の評価手法等に関する協力強化に レベルの交流を今後も重ねていくことで一致 ついても合意した。さらに、2008 年に開始 した。この実務レベルの交流の一環として、 した、審査官を相互に派遣して審査運用につ 審査官を相互に派遣して審査運用について協 いて協議する国際審査官協議も継続して実施 議する商標審査官協議を開始、初回は我が国 している。 特許庁から審査官、審判官をそれぞれ 1 名 また、意匠分野においても、2004 年以降 ずつ派遣した。 ほぼ毎年、日中間で意匠分野の情報交換を 行っているところ、2011 年に新設された日 b.冒認商標出願への対応 中意匠専門家会合の第 2 回会合が 2012 年 我が国の地名や著名な商標等が第三者によ 8 月に北京で開催された。同会合では、画像 り商標出願・登録される冒認商標について デザインの保護、先行意匠調査、意匠の十分 は、我が国企業等の現地でのビジネス展開に な開示、創作非容易性等について意見交換を 支障を及ぼす可能性がある。特に中国では、 行った。また、同年 11 月に東京でフォロー 2001 年の商標法改正により、中国国内にお アップ会合を行い、画像デザインの保護、ハー いて公知の外国地名を拒絶とする法制を導入 グ協定加盟に関する検討状況、中国における していたが、2003 年に「青森」が第三者に 悪意の意匠登録等について意見交換を行っ より商標出願されていることが判明し、その た。なお、これらの会合に加え、同年 4 月 後、日本の都道府県名についても第三者によ に意匠審査官が外観設計審査部を訪問し、意 り多く出願されていることが確認された。こ 匠審査の品質監理、秘密意匠制度等について のような状況を受け、日中の知的財産保護に の情報交換を実施した。 関する対話・協力の中での働きかけ等を行っ さらに、後述する中国で検討されている制 た結果、近年、改善が見られ、2008 年より 度改正に関しては、特許庁間の会合や官民合 毎年行われている「中国における日本の地名 同ミッション等の場を通じて意見交換を行う 等に関する商標登録出願の調査結果」1 にお とともに、専利法改正草案、専利審査指南改 いては、9 の都道府県名(北海道、福島、新 正草案、職務発明条例草案の各意見募集に対 潟、長野、京都、兵庫、長崎、鹿児島、沖縄) して、我が国特許庁から意見を提出している。 及び 1 の政令指定都市名(名古屋)について、 第三者の商標出願の拒絶又は商標登録の取消 ②我が国と中国国家工商行政管理総局と の取組 しが前年と比較して新たに確認された。 a.国家工商行政管理総局(SAIC)副局長 換や意見交換を通じて、中国政府に対する実 との会合 務レベル、ハイレベルの働きかけを行い、適 2012 年 5 月、北京において、特許庁長官 正な審査が行われるよう協力を進めていく。 と中国国家工商行政管理総局副局長との会合 他方、この問題に対処するためのユーザーへ を開催した。本会合では、日中の商標分野に の支援サービスとして、我が国特許庁では、 おける二国間協力及び TM5 を始めとする多 2008 年 6 月に公表した「中国・台湾での我 国間協力を強化していくことで一致した。ま が国地名の第三者による商標出願問題への総 た、SAIC の審査・審判において活用しても 合的支援策」に基づき、商標検索・法的対応 らうため、我が国特許庁から日本の地名及び 措置に関するマニュアルを作成し、都道府県、 地域団体商標に関する情報を提供した。我が 政令指定都市、農業関連団体等に配布する等、 1. http://www.jetro-pkip.org/upload_file/20121213095701.pdf 278 我が国特許庁は、今後も引き続き、情報交 特許行政年次報告書 2013 年版 1 2020 年)」を推し進めていくために、毎年 台北に「冒認商標問題特別相談窓口 」を設置 11 月頃に計画を発表しており、2012 年 11 して、我が国の自治体等関係者の相談に対応 月には、「2013 年全国専利事業発展戦略推 している。 進計画」が発表された。本計画では、主に 3 つの施策に分け、(一)「専利制度の革新」と 先に商標権を取得することが重要であるが、 して専利法、職務発明条例等の改正や法制度 中小企業にとっては出願・弁理士・翻訳の費 の評価活動等の実施、(二)「専利制度運用保 用等の負担が大きいことに鑑み、我が国特許 障システムの建設」として、審査の質の向上、 2 庁は、外国出願に要する費用の補助 も行っ 専利投融資サービスシステムの確立、行政執 ている。 行強化、専利情報公共サービス及び専利人材 (2)近年の知的財産政策の動向 育成等の実施、(三)「専利による経済・社会 の発展へのサポート」として、企業知的財産 中国では、2006 年∼ 2010 年の総合的な 権管理規範の公布、パテントプール等、専利 国家政策である「国民経済と社会発展第十一 活用による戦略的新興産業の発展、WIPO と 次五カ年計画綱要」(十一五)において、中 の連携、地方における知的財産活動発展のサ 国独自のイノベーションを意味する「自主創 ポート等、を実施することとしている。 国際的な動向と我が国の取組 さらに、冒認商標出願問題対策としては、 第4部 幅広く情報提供を実施している。また、北京・ 新」を掲げ、専利、商標、著作権等の知的財 b.制度改正に向けた動き て直接言及し、2008 年には、中国国務院よ ア)専利法改正に向けた動き り「国家知的財産権戦略綱要」を公布した。 中国では、中華人民共和国専利法という一 つの法律によって、発明、考案、意匠が、そ 社会発展第十二次五カ年計画綱要」(十二五) れぞれ「発明専利」、「実用新型専利」、「外観 では、より具体的に知的財産に言及し、知的 設計専利」(以下、それぞれ「特許」、「実用 財産と技術移転サービスの強化や、知的財産 新案」、「意匠」と記載)として保護されてい 制度の改善、知的財産権の創造、利用、保護 る。同法は、1985 年施行、1993 年に第一 と管理、法執行の強化、中国独自の知的財産 次改正法施行、2001 年に第二次改正法施行、 権と技術標準の採用奨励等が示された。これ 2009 年に第三次改正法施行、と約 8 年おき らの国家政策に基づき、中国では、政府機関 に改正がなされてきた。しかし、エンフォー や地方政府等、様々なレベルで各種の知的財 スメント強化の必要性から、通例より早い 産政策が策定されている。 2012 年 8 月、権利執行に係る条文に対象を 第2章 そして、2011 年∼ 2015 年の「国民経済と 第1章 産保護強化と知的財産サービスの発展につい 限定した改正草案が中国国家知識産権局よ (3)中国国家知識産権局の取組 3 り公表された。改正草案は、1) 司法機関と 中国国家知識産権局(SIPO )は、特許、実 行政執行機関への証拠調査収集権の付与、2) 用新案、意匠に関する業務を所管する、国務 行政執行機関への損害賠償額判定の職権を付 院直属機構である。 与、3) 無効審判請求に関する審決の効力発 生時点及び後続手続の明確化、4) 故意侵害 ①中国国家知識産権局の政策動向 への懲罰的賠償制度の新設、5) 行政執行機 a.2013年全国専利事業発展戦略推進計画 関への悪質な侵害行為の摘発・制止機能の付 中国国家知識産権局は、2010 年 11 月に 与、が盛り込まれており、行政執行権限の強 策定された「全国専利事業発展戦略(2011- 化が目立つものとなっている。 1. http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/shohyo_syutugantaisaku.htm 2. 第 3 部第 7 章 2.(1) 参照 3. State Intellectual Property Office of the People's Republic of China 特許行政年次報告書 2013 年版 279 第 2 章 諸外国・地域の動向 イ)専利審査指南改正に向けた動き 中国における実用新案制度と意匠制度は、 の取り決めの登録等が盛り込まれた案となっ ている。 実体審査を有さない制度であるが、日本にお ける方式審査及び実用新案の基礎的要件の審 エ)発明専利出願優先審査管理弁法の施行 査に相当する初歩審査の段階で、明らかな新 中国では、専利審査指南において、「国家 規性や明らかな重複出願についても審査対象 の利益或いは公共の利益にとって重大な意義 となっている。しかし、現行の専利審査指 をもつ出願」を優先的に審査することが規定 南(日本における方式審査便覧や特許審査基 されていたが、特許審査ハイウェイ(日中で 準等に相当)には、「通常は検索を行わない」 は 2011 年 11 月 1 日試行開始)以外の具体 旨の規定があり、有効に機能していなかった。 的な手段が明確でなかった。2012 年 8 月 1 しかし、中国でこれらの出願が急増する中、 日、中国国家知識産権局は優先的に審査を受 実用新案と意匠の権利の質の低下が問題視さ けられる対象や手段を規定した「発明専利出 れるようになり、2013 年 2 月、先行技術・ 願優先審査管理弁法」を施行した。この弁法 先行意匠や先願の検索についての制限規定を では、対象として、省エネルギー・環境保護、 削除する改正草案が中国国家知識産権局より 次世代情報技術、バイオ、先端装置の製造、 公表された。 新エネルギー、新材料、新エネルギー自動車、 低炭素技術、資源節約技術の他、外国への出 ウ)職務発明条例制定に向けた動き 願の基礎となった最初の中国出願、国家利益 中国における職務発明は、専利法及び専利 又は公衆利益に重大な意義がある出願、が具 法実施細則で規定されており、原則、使用者 体的に挙げられ、手続として、管轄の地方知 に帰属するものとされ、使用者・従業者間で 識産権局が審査し公印を捺印した「発明専利 契約がある場合はそれに従った報奨や報酬、 出願優先審査請求書」及び規定の検索報告の 契約がない場合には、法定された支払方法、 提出を求めるものとなっている。 最低金額及び料率に従った報奨や報酬を与え る必要があるとされている。しかし、専利法 c.審査体制の強化 以外の知的財産関係法では同様の規定がない 中国国家知識産権局は、審査官の採用数拡 こと、使用者に帰属することで従業者の権利 大を柱とする審査体制の強化を進めており、 が無視され発明に対するインセンティブが働 2010 年に発表された全国専利事業発展戦略 かないこと等を課題として、2012 年 11 月、 (2011 − 2020 年)において、2015 年まで 専利権だけでなく植物新品種権、集積回路配 に審査官数 9000 名を目標とすることが掲げ 置図設計専有権、ノウハウをも包含する「職 られた。この方針の下、中国国家知識産権局 務発明条例」を新たに制定するための改正草 の下部組織である専利審査協作中心を北京 案が中国国家知識産権局より公表された。条 市、広州市(広東省)、蘇州市(江蘇省)に 1 例草案では、発明報告制度 や、報奨や報酬 設立、さらに鄭州市(河南省)、武漢市(湖 の支給義務や額の算定、事業体による職務発 北省)、天津市にも 2015 年末までに設立し、 明の譲渡に係る発明者の権利、国有企業等に 2017 年末までにそれぞれ 2000 名の審査官 おける職務発明の不実施の取扱い、税制上の を採用することが予定されており、2015 年 優遇措置、監督管理部門における事業体によ 以降も審査官数が増加していくことが予想さ る職務発明制度の履行状況の監督検査の実 れる。 施、発明者氏名表示権・報奨・報酬及び権利 帰属に係る紛争の取扱い、事業体と発明者と 1. 発明者における事業体への発明の報告義務と事業体の回答義務、職務発明について知的財産権を出願・放棄する場合の事業体の発明者への通知義務等であり、時期 的制限を含む。 280 特許行政年次報告書 2013 年版 中国は、2011 年 11 月の日中 PPH 試行開 e.ウェブサイトによる情報発信の強化 中国国家知識産権局のウェブサイトでは、 中国専利文献の検索や審査経過情報に関する 2012 年 に は、1 月 に ド イ ツ、3 月 に 韓 国、 情報発信を強化している。2011 年には、こ 7 月にロシアと、2013 年には、1 月にデン れまでの検索機能を一新し、明細書の全文検 マーク、フィンランド、3 月にオーストリア、 索も可能とした「専利検索与服務系統」1 を メキシコと PPH を試行開始するなど、対象 公開し、2012 年には、審査意見通知書(我が 国が徐々に拡大している。我が国との間では、 国における拒絶理由通知書に相当)や専利権 上述のように、試行期間を 2012 年 11 月以 評価報告書等の審査関連書類や審査経過、権 降も 1 年間延長するとともに、申請に必要 利の状態等を参照できる「中国専利査詢系統」2 な提出書類を一部不要とすることになり、一 を公開した。 層の利用拡大が期待される。 4-2-1 図 専利検索与服務系統(左)及び中国専利査詢系統(右) 国際的な動向と我が国の取組 始 を 皮 切 り に、2011 年 12 月 に ア メ リ カ、 第4部 d.特許審査ハイウェイ(PPH)の拡大 第1章 第2章 (4)中国国家工商行政管理総局の取組 評審委員会」を傘下に有する。 3 中国国家工商行政管理総局(SAIC )は、 市場監督管理と関連する行政法執行業務を主 ①中国国家工商行政管理総局の政策動向 管する国務院直属機関である。その一部局と 中国の商標出願件数は既に膨大な数に上っ して、商標登録業務及びその管理業務、異議 ているところ、中国国家工商行政管理総局は、 申立の裁定、馳名商標(著名商標)の認定、 2020 年までに「商標大国」から「商標強国」 商標権侵害事件の調査及び処理等を行う「商 と な る こ と を 目 標 と し て い る。2009 年 に 標局」、拒絶査定不服審判、異議決定不服審判、 は、上述の「国家知的財産権戦略綱要」に基 不正登録等による取消審判、不使用取消審判、 づいて、2009 年 11 月に「国家工商行政管 馳名商標(著名商標)の認定等を行う「商標 理総局による商標業務の世界水準達成の計画 1. http://www.pss-system.gov.cn/ 2. http://cpquery.sipo.gov.cn/ なお、書類の参照は、2010 年 2 月 10 日以降に出願されたものに限られる。 3. State Administration for Industry and Commerce of the People's Republic of China 特許行政年次報告書 2013 年版 281 第 2 章 諸外国・地域の動向 (2008 年∼ 2012 年)」を公表した。この計 立理由を相対的拒絶理由に限定。 画では、商標法改正の加速、商標審査・審判 ・異議申立の決定に対する再審の廃止。 の効率化・審査期間短縮・品質管理システム ○商標の保護対象の拡大 整備、行政法執行強化、農産品商標・地理的 ・音声や単一の色等を新たな保護対象に追加。 表示の保護強化、馳名商標・著名商標の認定 ○意見書提出制度を追加 と保護の強化、人材育成、情報化、商標分野 ・審査の過程において商標局が必要と認める の国際的交流・提携の強化等の目標が掲げら 場合に、出願人に出願の内容を説明又は修 れている。 正する機会を容認。 2012 年 は、 中 国 に お け る 商 標 法 の 公 布 30 周年であったが、その記念シンポジウム では、商標審査期間が 10 か月以内に短縮さ れたこと、異議案件の審理期間が 20 か月以 イ)市場における公正な競争秩序を維持 するための修正 内に、評審(審判)案件の審理期間が 18 か ○悪意の商標出願(抜け駆け出願)禁止 の強化 月以内に短縮されたこと等が発表された。ま ・他人が使用する商標を契約・取引関係等を た、2012 年 10 月には、第三次商標法改正 有し、当該他人の商標の存在を明らかに知っ 案(後述)が国務院常務委員会で採択され、 ている者が抜け駆け出願(いわゆる冒認出 12 月には、全国人民代表大会(全人代)か 願)することの禁止。 ら意見募集稿が公表された。 ○馳名商標(著名商標)の趣旨の明文化 ・馳名商標(著名商標)の認定は、商標の登録 ②第三次中国商標法改正 a.背景 第三次中国商標法改正は、これまで国家工 ・拒絶に関する異議や審判、商標権侵害に関 する裁判等の事件の処理における必要な事 実認定であることを明文化。 商行政管理総局及び国務院より計 5 回の意 ○商標代理組織の関係規定の整備 見募集がなされ、前述のとおり、直近では、 ・商標代理組織に資格制度を導入し、商標代 2012 年 12 月に全国人民代表大会(全人代) 理組織を管理する団体を設立。また、違反行 より改正案に対する一般向けの意見募集が公 為に対する罰則を規定。 表された。 全人代が公表した今回の商標法改正の全体 説明によれば、国内における実際のニーズを 踏まえた改正、商標権の取得・使用における ウ)商標権保護を強化するための修正 ○商標権侵害行為の協力者に対する罰則 規定を追加 問題に対する関連制度を整備、改正案という ・権利侵害に故意に便宜を図り、他人が商標 形式による現行商標法の体系の維持が全体的 権侵害行為を実施するのに協力した場合は、 な考え方として示されている。 商標権侵害行為に該当する規定を新設。 具体的には、出願人の商標登録に便宜を図 ○商標権侵害に対する民事的救済規定の強化 るための改正、市場における公正な競争秩序 ・懲罰的な賠償の規定を追加し、悪意性が重 を維持するための改正、商標権の保護を強化 大である侵害について、最大で3倍の範囲内 するための改正が行われている。 で賠償金額を裁判所が算定でき、また、損害 額の算定が困難な場合に、裁判所が裁量に b.全人代意見募集案の主要ポイント より決定できる法定賠償額の上限を50万元 ア)出願人の商標登録に便宜を図るため から100万元に引上げ。 の修正 282 ・権利侵害者が把握している権利侵害に関する ○商標登録異議申立制度の完備 帳簿・資料等について裁判所が権利侵害者に ・異議申立の申立人適格を利害関係人に、申 提出を求めることができる規定を新設。 特許行政年次報告書 2013 年版 ○商標権の効力の範囲を規定 ・再犯の厳罰規定の追加。不法経営額の罰金 ・商標権の効力の及ばない範囲及び先使用権 の明確化。 の規定の追加。 Column 急増する中国の実用新案・意匠出願への取組 2012年、中国における実用新案及び意匠の出願件数は、それぞれ74万件及び66万件に達するまで急 増しています。実用新案及び意匠は、初歩審査と呼ばれる予備的審査のみを行い、実体審査がなされずに 登録されることから、無効となる理由を含んだまま権利化されてしまうおそれがあります。我が国の実用 新案権も、実体審査を経ずに登録されますが、権利行使時の技術評価書提示義務等、権利の濫用を防止し、 第三者に不測の不利益を与えないための規定が設けられています。中国では、同様の規定がないことか ら、出願件数の増大に伴って、権利が濫用される懸念が高まっています。 このような中、 我が国特許庁は中国国家知識産権局 (SIPO) を交えて以下の取組を行ってきました。 国際的な動向と我が国の取組 コラム27 第4部 ○商標権侵害に対する行政罰の強化 ●日中米韓実用新案・意匠ラウンドテーブル 2012年9月、中国の実用新案・意匠制度に関する相 第1章 互理解を深めることを目的として、日本、中国、米国及 び韓国の共催によるラウンドテーブルが北京にて開催 されました。我が国特許庁からは、我が国の実用新案・ 意匠制度の紹介を行うとともに、日系企業の声として、 第2章 中国実用新案制度の課題について研究している中国 IPG1メンバー企業からの講演がなされました。 SIPOからは、権利の質を向上させるための取組とし て、特殊な出願やレベルの低い出願、例えば、先行技術 をコピーしたような出願や、重複して大量にされた出 願等の非正常な出願についてのスクリーニングを行う 2012年9月26日 中国・北京市 ことが表明されました。 ●日中韓特許庁における実用新案に関する比較研究 日中韓特許庁により実用新案制度に関する比較研究が行われ、2012年11月に開催された第12回日 2 中韓特許庁長官会合において、研究成果としての「日中韓実用新案制度比較表」 が了承されました。 この比較表において、例えば「権利行使時の技術評価書提示義務」について、SIPOは、 「関連規定はない。 ただし、実務上、実用新案権者は、侵害訴訟のための人民法院における裁判手続において、専利権評価報告 書を提供しなければならない。」としています。 ●中国政府の対応 このような取組がなされてきた中、SIPOは、2012年12月に「中国実用新型専利制度発展状况」を公表 しました。この中で、品質向上に向けた施策として、既存技術の盗用や重複出願等の非正常出願の取締り を行い、明らかな新規性欠如や重複登録等の低品質な実用新案の審査を強化することが改めて表明され ました。 さらに、中国の審査基準である現行の「専利審査指南」では、実用新案・意匠の初歩審査は、原則として 「検索をせず」に、明らかな新規性の有無等を判断すると規定していますが、2013年2月に、この「検索を せず」を削除することを中心とした「専利審査指南」改正案の公開意見募集が行われました。これは、SIPO によりなされてきた表明を具体化するための改正案であるといえます。 このように、大きな変化を見せつつある中国の実用新案・意匠制度について、今後も注目していくこと が必要です。 1.特許行政年次報告書2012年版第4部第2章3.中国コラム31「在中国日系企業による中国IPG活動」参照 http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/toushin/nenji/nenpou2012_index.htm 2.特許庁ホームページ http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai3/nicyukan_jitsuyou.htm 特許行政年次報告書 2013 年版 283 第 2 章 諸外国・地域の動向 2 米国 米国では、長年にわたり国内外の関心を集めていた米国発明法が 2011 年 9 月に成立した。 そして、2013 年 3 月 16 日には、ついに先発明主義から先願主義へと移行した。また、2012 年 12 月にはハーグ協定及び特許法条約実施法が、2013 年 1 月には米国発明法の修正法がそ れぞれ成立し、近年、米国の知的財産制度は大きな変化を遂げている。また、米国特許商標 庁(USPTO)は、特許の審査順番待ち件数の削減等の目標達成に向けて人員・予算を積極的 に増大させるとともに、米国発明法成立に伴う様々な施策を導入している。本節では、我 が国との関係に加え、米国における近年の知的財産政策の動向及び米国特許商標庁(USPTO) の各種取組を紹介する。 (1)我が国との関係 同戦略では、知的財産権に関し、海外市場 米国特許商標庁(USPTO)と我が国特許 における確実な知的財産保護の必要性や、米 庁の間では、特許の分野において、特許審査 国技術の競争力を発揮するため、国際標準に ハイウェイ、国際審査官協議等を通して緊密 対する協力の強化に言及している。また、同 な協力関係を築いている。また、日米欧三極 戦略では、特許に値しないものは拒絶する一 特許庁会合、日米欧中韓五大特許庁会合と 方で、イノベーティブなものには質の高い特 いった多国間の枠組みにおいても、制度調和 許を付与することが必要であるとし、そのた を始めとする種々の分野において連携を取っ めに必要なリソースや権限を USPTO に対し ている。 与えることを求めている。さらに、特許制度 商標の分野では、2001 年から推進してき た 日 米 欧 の 三 極 協 力 を 発 展 さ せ、2012 年 から日米欧中韓の商標五庁の枠組み(TM5) による協力を実施している。 意匠の分野では、TM5 意匠セッションや 改革を大統領の公約の一つとして例示もして いる。 また、2011 年に改訂された同戦略におい ても、特許制度改革の重要性を強調するとと もに、知的財産権のエンフォースメントも重 意匠専門家による二国間会合を通じて意見交 要であるとして、知的財産執行調整官(IPEC) 換を行ってきた。さらに、主要な実体審査国 による初の模倣品・海賊版対策に係る共同戦 である両国の審査実務や運用に対する理解を 略プランの発表や、偽造品の取引の防止に関 より深め、より緊密な協力関係を築くべく、 する協定(ACTA)交渉について言及している。 2013 年 4 月に初の意匠審査官協議を開始し た。 ②米国特許法改正 米国における特許制度は、先発明主義、限 (2)近年の知的財産政策の動向 ①米国イノベーション戦略 別(いわゆる ヒルマードクトリン の問題) 米国では、オバマ大統領のイニシアティブ など、世界的にも特異な制度を有するもの の下、2009 年に米国イノベーション戦略(A であったが、2011 年の米国発明法(アメリ strategy for American Innovation)を策定し カ・インベンツ・アクト)成立により、先願 ている。この戦略は、昨今の景気停滞からの 主義への移行、ヒルマードクトリンの撤廃、 回復や今後の持続的成長のためにはイノベー 新たな行政上の特許取消手段(特許付与後レ ションが重要であるとして、米国の将来に向 ビュー)の導入など、大幅な制度改正を行っ けたイノベーション推進のためのビジョンや た。 戦略、政策を提示したものである。 284 定的な出願公開制度、後願排除効の言語差 特許行政年次報告書 2013 年版 こ の 背 景 に は、 特 許 訴 訟 の 増 加、 高 額 目的としており、その改正項目は多岐にわた 1 Practicing Entity、特許不実施主体 )に関係 る。 する課題が指摘される中、2003 年、米国連 以下、主要な改正項目について紹介する。 第4部 な 法 廷 費 用、 長 い 訴 訟 期 間、NPE(Non 邦取引委員会(FTC)により、有効性に問題 a.先願主義の導入 消費者に無用のコストを負わせているとし (2013年3月16日施行) て、特許の質を向上させるための法改正を提 ・先行技術の範囲について、これまで公知・ 案する旨の報告書が提出されたことが挙げら 公用発明は米国内のみに限定されていたが、 れる。また、2004 年には、米国ナショナル 改正後は世界公知・公用まで拡大する。 アカデミーにより、非自明性判断の適正化や ・先願主義への移行に伴い、インターフェ USPTO の機能強化など、特許制度改革への アランス手続 3 を廃止し、真の発明者を決定 7 つの提言 2 を含む報告書が提出されている。 する手続(デリべーション手続)を導入する。 これらにより、特許の質向上と訴訟の減少を ・グレースピリオド 4 の規定は日欧と異な り、自身の発明開示後であって、自身の出願 求める動きが高まってきたと言える。 さらに、我が国政府としても、日米規制改 前に独自発明の第三者が同一発明を出願又は 革イニシアティブ、日米経済調和対話など、 開示した場合であっても、自身の出願は当該 様々な機会を利用し、国際的な制度調和と 第三者の出願又は開示による影響を受けない (いわゆる「先発表主義」)。 ユーザー保護の観点から、前述の特異な制度 4-2-2 図 このような中、特許法改正法案が 2005 年 A社 第 111 議会まで 3 度の廃案を繰り返してき B社 発明X公表(文献A) A社による 出願Aが特許に 発明X公表(文献B) 1年以内 会が開会した後は、1 月 25 日に上院に法案 提出、3 月 30 日に下院に法案提出と非常に Xを出願(出願A) 日本では、出願Aは 文献Bにより特許にならず な お、 先 願 主 義 へ の 移 行 に 先 立 っ て、 早く手続が行われた。その後、上院と下院と USPTO は、2013 年 2 月 14 日に先願主義に の間で意見の相違がみられたが、両院司法委 関する施行規則及び審査ガイドラインを公表 員長の連携により、9 月 16 日に大統領の署 した。 名に至り、ついに米国発明法が成立した。こ 先願主義のルールが適用されるか否かは、 のように迅速に法律が成立した背景には、当 それぞれのクレームが有する有効出願日で 該法案が超党派による法案であったこと、上 判断される。すなわち、全てのクレームの 院及び下院の司法委員長が特許法改正に非常 有効出願日が 2013 年 3 月 16 日以降の出願 に前向きだったこと、特許法の改正が雇用対 は、当然に先願主義のルールが適用されるが、 策の一環とされたこと等が挙げられる。 2013 年 3 月 16 日以前の出願であっても、 今回成立した米国発明法は、過去に廃案と 2013 年 3 月 16 日以降の米国出願に新規ク なった法案と同様に、(ⅰ)特許の質の向上、 レームが1つでも含まれている場合は、全て (ⅱ)訴訟コストの低減、(ⅲ)国際調和等を 第2章 に第 109 議会に提出されたが、2009 年の 先発表主義的グレースピリオド 第1章 を改正するように働きかけてきた。 た。 し か し、2011 年 1 月 5 日 に 第 112 議 国際的な動向と我が国の取組 のある特許の存在がイノベーションを阻害し のクレームに対して先願主義のルールが適用 1. 自らは製品の開発や製造を行わず、他社から取得した特許権を利用した特許侵害訴訟により収益を稼ぐ組織。否定的な意味合いで、 「特許トロール」などとも呼ばれ ていた。今日では否定的に過ぎるとして、その呼称の使用には慎重である。 2. 7 つの提言は次のとおり。 ①開放的で、単一でかつ柔軟な特許制度を維持すること。②非自明性要件を再生させること。③オープン・レビュー制度を創設すること。④ USPTO の能力を強化する こと。⑤特許発明の一定の研究利用を侵害の責任から保護すること。⑥訴訟の主観的要素を変更又は除去すること。⑦各国の特許制度間の重複及び不整合を低減す ること。 3. 同一発明をクレームした出願人が複数いた場合に、先発明者を特定する先発明主義特有の制度。 4. 発明の公表から特許出願するまでに認められる猶予期間。 特許行政年次報告書 2013 年版 285 第 2 章 諸外国・地域の動向 に、明細書記載要件(ベストモード要件は除 されることになる。 く)についても申立が可能となる。 そのため、2013 年 3 月 16 日より前の優 先日等を有する同日以降の出願等が、同日以 ・レビュー開始要件は、 「特許無効である可能 降の有効出願日を有するクレームを含む場合 性が50%より大きいこと(more likely than は、その旨の書面を出願から 4 ヶ月以内に not)」。 ・レビューは、改正法で創設される特許審判部 提出することが規定された。 (Patent Trial and Appeal Board)により行 われる。 b.後願排除効の言語差別(ヒルマードク トリン等)の撤廃 ・後願排除効の言語差別(ヒルマードクトリン 等)を規定していた条文が削除された。 c.先使用権 (2011年9月16日施行) ・従来「ビジネス方法」に関する特許に対して 特許付与後の手続の概要 4-2-3 図 (2013年3月16日施行) 査定系再審査 付与後レビュー 特許発行 当事者系レビュー 特許発行から9か月 e.当 事 者系 レ ビ ュ ー (inter partes review) のみ認められていた先使用による抗弁(第 (2012年9月16日施行) 273条)について、対 象の限定が削除され ・現 行 の当 事 者 系 再 審 査( i n t e r p a r t e s た。 reexamination)の名称を改めたもの。 ・抗弁のためには、出願日又はグレースピリオ ・利害関係者であれば、申立は特許付与後9か ドが適用される発明開示日のうちいずれか 月以降又は特許付与後レビューが終了した日 早い日より、少なくとも1年前に商業利用され のいずれか遅い日以降に特許の無効を申し ていることが必要とされる。この点について 立てることができる。 は、日米の先使用権制度で異なることに留意 が必要である(日本では、特許出願時以前か ・請求理由としては、刊行物の提示による新規 性、非自明性のみである。 ら、独立して同一内容の発明を完成させ、さ ・レビュー開始の認定要件は、特許無効である らに、その発明の実施である事業をし、ある という「reasonable likelihood(合理的蓋然 いは、その実施事業の準備をしていたことが 性)1」があることとされる。 必要とされる)。 ・ただし、特許侵害訴訟の訴状受理後1年経過 した場合、当該レビューは行われない。 d. 特 許 付 与 後 レ ビ ュ ー ( post grant review) (2012年9月16日施行) ・レビューは、改正法で創設される特許審判部 (Patent Trial and Appeal Board)により行 われる。 ・利害関係者であれば特許発行の日から9か 月以内に特許の取消を申し立てることができ f.第三者による情報提供 る。 (2012年9月16日施行) ・ただし、ビジネス方法特許に関しては、特許 ・USPTOに係属中の特許出願について、第三 発行後9か月以上を経た場合でも申立可能 者による情報提供を認めることが法定化され (法施行後8年間で廃止される(sunset条 る。 項))。 ・請求 理由としては、新規性、非自明性以外 ・提出できる期間は、特許査定前まで、又は出 願公開から6月若しくは最初の拒絶の日のど 1. 付与後レビューの開始要件である”more likely than not”よりも緩いものと解釈されている。 286 特許行政年次報告書 2013 年版 h.ベストモード開示要件1 (2011年9月16日施行) ・特許係争における非特許権者側の抗弁(特 g.補充審査制度 許無効又は権利行使不能の抗弁)の理由か ・特許権者が、自己の保有する特許に影響を与 らベストモード開示要件を削除。 えると考える情報をUSPTOに提供し、補充審 ・ただし、明細書の記載要件としての当該要件 査を受けることができるようになる。 は依然として存続する。 ・特許権者のみが請求可能であり、また、陳述 書の提出はできない。 i.料金設定権限 ・追加提出された情報が補充審査の結果、特 (2011年9月16日施行) ・USPTO長官に手数料の設定、変更を行う権 許性に影響を与えないと判断された場合、当 限が付与される。 該情報は、後に提起された訴訟において不公 ・個人発明家や中小企業を対象とした料金減 正行為(inequitable conduct)の証拠から除 額に関し、小規模事業体(small entity)を 外される。 50%減額、極小規模事業体(micro entity) 国際的な動向と我が国の取組 (2012年9月16日施行) 第4部 ちらか遅い方までとされる。 を75%減額とする(極小規模事業体に対する 減額は2013年3月19日から発効)。 第1章 4-2-4 図 料金減額制度の概要 第2章 1. 明細書には発明者が最良と信じる発明の態様を記載しなければならないという要件。 特許行政年次報告書 2013 年版 287 第 2 章 諸外国・地域の動向 j.手続料金 ても、当事者系レビューが請求できると規定 (2011年9月26日施行) している。 ・施行日の10日後から一部の特許関連手数料 に15%の追加手数料が計上される。 b.宣誓書等の提出期限の明確化 米国発明法の規定では、特許許可は、宣誓 k.料金ダイバージョンの廃止とUSPTO ファンドの設立 書、宣言書、代替陳述書、譲渡証明書を提出 した場合に通知することができると定められ (2011年10月1日施行) ていた。この法律では、当該書面は特許料金 ・特許商標庁料金リザーブファンド(Patent 支払前に提出することを義務づけるように変 and Trademark Fee Reserve Fund)を設立 更している。 し、年度内の料金収入が当該年度の歳出法 に規定された金額を超過した場合には、超 過額を該ファンドに繰り入れる。 c.真の発明者を決定する手続(デリべー ション手続)の申請期限の変更 ・当該ファンド内の残金は、USPTO関連予算の 米国発明法の規定では、真の発明者を決定 みに利用されるが、年度ごとに歳出法によっ する手続(デリべーション手続)を申し立て て規定されなければならない。 ることができる期間は、冒認したクレームの 出願の最初の公開日から 1 年とされていた。 ③米国発明法の修正法 2013 年 1 月 14 日、 オ バ マ 大 統 領 は、 そして、この規定の文言上、冒認した発明を クレームせずに明細書に含めておき、当初ク 2011 年 9 月に成立した改正特許法を技術的 レームの公開後 1 年経過してから冒認した に修正する法案に署名し、成立した。 発明をクレームに追加した場合には、現行規 今回成立した法律は、誤記と思われる部分 定の対象外となる可能性があるとされてい の修正や改正特許法で明記されていなかった た。そこで、この法律では、真の発明者を決 施行日を規定するなど、 「技術的修正」となっ 定する手続(デリべーション手続)の申立て ている。 は、冒認された発明がクレームされて特許ま 以下、法律の概要について紹介する。 たは公開されてから 1 年以内に行わなけれ ばならないとしている。 a.当事者系レビュー(inter partes review)申請時期の拡大 d.特許諮問委員会、商標諮問委員会 米国発明法の規定では、当事者系レビューの 委員の任命に関する条項を修正し、12 月 申請は、特許発行後 9 か月を経過してからと 1 日からの 3 年間とすることや、欠員が出た されており、特許発行後 9 か月までは特許付 場合は 90 日以内に補充されること、そして 与後レビュー(post grant review)にて対応す その補充で入った委員の任期は前任者の残り ることとされている。しかし、特許付与後レ 期間となること等を規定している。 ビューは対象出願が改正法適用出願(先願主義 適用出願、2013 年 3 月 16 日以降の出願)に 限られているため、審査順番待ち期間を考慮 米国発明法の規定では、特許関係で徴収し すると、当事者系レビューが施行された今年 9 た料金は特許関係業務のみ、商標関係で徴収 月 16 日から今後数年間は、特許後 9 か月の空 した料金は商標関連業務のみに費やすことと 白が生じることとなっていた。 されていたが、この法律でその制限を撤廃し そこで、この法律ではその空白を無くすべ く、旧法適用出願(先発明主義適用出願)に 関しては、特許発行後 9 か月を経過しなく 288 e.USPTO収入の使途の柔軟化 特許行政年次報告書 2013 年版 ている。 2012 年 12 月 18 日、オバマ大統領はハー 略アクション(Enforcement Strategy Action Items)は、以下の 6 つに分類される。 グ協定及び特許法条約実施法案に署名し、同 法が成立した。 <執行戦略アクションの概要> (Leading Example) 意匠特許に関して、ハーグ協定のジュネー 政府調達における模倣品購入防止に向けた ブ改正協定に基づく出願を米国の通常出願と 政府横断的な WG 設立や委託業者に対する 同等に扱うことや、権利の保護期間が 14 年 正規版ソフト使用の指導などを行う。 から 15 年に延長されること等が規定されて いる。大統領署名から 1 年後または同協定 の米国での発効のいずれか遅い方に施行され る。 b.透明性向上 (Increasing Transparency) 政策決定や国際交渉過程での情報公開、 権利者等との情報共有・連携、スペシャル b.特許法条約関連部分 特許請求の範囲の提出がなくても出願日を 301 条報告書(後述)における海賊版サイ 国際的な動向と我が国の取組 a.連邦政府による模範指導 a.ハーグ協定関連部分 第4部 ④ハーグ協定及び特許法条約実施法 トの公表などを行う。 確保することや、出願日のため、先に提出さ c.効率性と連携の確保 と置換すること、優先権の回復を認めること (Ensuring Efficiency and 等が規定されている。大統領署名から 1 年 Coordination) 後に施行され、原則として 省庁同士の重複を避け効率性を向上。省庁 連携や DB による情報共有の促進、連邦政府 ・施行日より前に発行された特許 と州、地方レベルとの連携促進、在外担当官 ・施行日以降の出願 の効率性向上などを行う。 第2章 ・施行日以降に発行された特許 第1章 れた出願の引用を当該出願の明細書及び図面 ・施行日に継続している出願 が対象となるが、施行日より前に訴訟の対 象となっている特許等については適用が除外 される。 d.国際的権利執行 (Enforcing Our Rights Internationally) 海外ウェブサイトにおける侵害への対策強 ⑤「模倣品・海賊版対策に係る共同戦略 プラン」、「模倣品・海賊版対策に係 る年次報告書」 2008 年 10 月に成立した包括的模倣品・ 海賊版対策強化法(PRO-IP 法)に基づき、 化、外国政府・国際機関との連携などを行う。 e.サプライチェーンの保護 (Securing Our Supply Chain) 侵害品流通防止に向けたサプライチェーン 2010 年 6 月、初めての「模倣品・海賊版対 保護。善意に侵害品を輸入した者の自発的情 策に係る共同戦略プラン」が発表され、議会 報開示による救済措置や侵害品輸出行為への へ提出された。 罰則強化の検討などを行う。 同プランは PRO-IP 法の主要項目の一つで あり、同法に基づいて大統領府に新設された f.データ重視型政府の構築 知的財産執行調整官(IPEC)が、関係省庁 (Building a Data-Driven Government) との調整を主導しつつ、政府横断的な共同 知的財産活動に関するデータ・情報収集を 戦略プランを策定し、議会へ提出すること 改善し、法律や執行活動を評価する。関係省 とされている。同プランの核である執行戦 庁が当該活動に費やしたリソースに関する 特許行政年次報告書 2013 年版 289 第 2 章 諸外国・地域の動向 データ収集や法制度の包括的レビューなどを て「優先監視国」のリストに加えられた。また、 「監視国」は 2011 年は 29 か国であったが、 行う。 前述のようにウクライナが「優先監視国」に ま た、2011 年 2 月 に は、PRO-IP 法 に 基 指定されたことに加え、マレーシアは著作権 づき、初めての「模倣品・海賊版対策に係る 保護強化がなされるとともに薬剤のデータ保 年次報告書」が発表された。同年報も PRO- 護が図られたとして「監視国」から削除され、 IP 法の主要項目の一つであり、知的財産執 スペインはインターネット上の海賊版対策に 行調整官(IPEC)が、政府の模倣品・海賊 ついての法令が制定されたことにより「監視 版対策に係る取組等について取りまとめ、議 国」から削除されたため、26 か国に減少した。 会へ提出するとともに広く公衆へ提供されて 国 別 レ ポ ー ト で は、 多 く の 国 は 1/2 ∼ 1/3 ページ程度の記述であるなかで、中国に いる。 同年報の内容は、「模倣品・海賊版対策に 関しては約 9 ページにわたり記述がなされ、 係る共同戦略プラン」で示された戦略アク ロシアも約 2 ページにわたって記述がなさ ションのその後の進捗状況を始め、執行当局 れるなど、両国を重要視する姿勢を垣間見る による取締状況、関係省庁による模倣品対策 ことができる。 の取組紹介などとなっている。 (3)米国特許商標庁の取組 1 ⑥スペシャル301条 報告書 2010 年 10 月、米国特許商標庁(USPTO) 米国通商代表部(USTR)は 2012 年 4 月、 は、2010 ∼ 2015 年 度 に わ た る 次 期 戦 略 「2012 年スペシャル 301 条報告書」(以下、 計 画(FY2010-2015 Strategic Plan) を 発 レポート)を公表した。 表した。発表された戦略計画では、USPTO 本 レ ポ ー ト は、1974 年 米 国 通 商 法 182 の ビ ジ ョ ン や 使 命(mission)、3 つ の 戦 略 条に基づき、知的財産権保護が不十分な国や、 目 標(Strategic Goal) 及 び 組 織 運 営 目 標 公正かつ公平な市場アクセスを認めない国を (Management Goal)が示されるとともに、 特定するものである。警戒レベルには、高い 特許審査に係る審査順番待ち期間を 2014 年 順に「優先国」、「優先監視国」、「監視国」の までに 10 か月以内 3、最終処分期間を 2015 3 段階があり、「優先国」に特定されると調 年までに 20 か月以内 4 とし、再着手待ち件 査及び相手国との協議が開始され、協議不調 数を 50% 減少させて審査着手後最終処分ま の場合には対抗措置(制裁)への手続が進め での期間を 10 か月以内とするなど具体的な られる。 数値目標も盛り込まれている。戦略項目の具 2012 年のレポートでは、中国・ロシアを 体的内容は以下のとおりである。 含む 13 か国が「優先監視国」に指定された。 また、 「監視国」が 26 か国、 「306 条監視国 2」 として 2011 年同様パラグアイが指定され、 全 40 か国が指定された。 「優先監視国」に関しては 2011 年の 12 か国はそのまま「優先監視国」にとどまる一 方、2011 年は「監視国」であったウクライ ナは模倣品海賊版の氾濫が拡大しているとし 戦略目標1:特許の質及び適時性の最適化 目標1:効率性向上と有効性強化に向けた特 許プロセスの再設計 目標2:特許審査処理能力の向上 目標3:国際協力及びワークシェアによる審 査期間及び質の改善 目標4:特許の質の評価と改善 1. 1974 年通商法 301 条(貿易相手国の不公正な慣行に対して当該国との協議や制裁について定めた条項)の知的財産権についての特別版であるところから、スペシャ ル 301 条と呼ばれる。 2. 1974 年通商法 306 条に基づき、米国との通商問題における改善措置や協定等の履行義務が USTR によって監視される国。 3. 2014 年度の予算教書では、2016 年までに審査順番待ち期間を 10 か月以内にするとしている。 4. 2014 年度の予算教書では、2017 年までに最終処分期間を 20 か月以内にするとしている。 290 特許行政年次報告書 2013 年版 目標6:入口から出口(end-to-end)に至る処 理システムの開発と実現戦略 戦略目標2:商標の質及び適時性の最適化 を目的に無料化された。 また、2012 年 10 月からチェコ共和国と の間で、2013 年の 1 月からポルトガル及び フィリピンとの間で、それぞれ PPH を開始 した。現在までに、日本、EPO、韓国、中国、 最終処分期間を13か月に維持 カナダ、英国等を含む、26 の国・地域との 間で PPH を締結している。 目標3:出願・登録における商品・役務の指 定の正確性確保 c.ファースト・アクションインタビュー 目標4:商標審判部(TTAB)の運営強化 試行プログラム 目標5:次世代ITシステムの開発と実施によ 参 加 者( 出 願 人 ) に 対 し、 審 査 官 が るITシステムの近代化 目標6:次世代の商標管理職(リーダー)の育 成 実施した先行技術文献調査の結果を含 む「 イ ン タ ビ ュ ー 前 通 知(Pre-Interview Communication)」を受領した後に審査官と 戦略目標3:グローバルな知的財産政策・保 のインタビューを実施させることで、①出願 護・執行の改善に向けた国内外でのリーダー 審査の促進、②出願人と審査官の意思疎通の シップの発揮 促進、③審査の最初の段階で特許性に関する 問題を一つ一つ解決する機会の提供、④早期 の発展における国内リーダーシップの の特許化等の多くの利益を提供することを目 発揮 的としている。 目標2:知的財産保護・執行の改善のための 発揮 組織運営目標:組織の卓越性の達成 目標1:ITインフラ及びツールの改善 目標2:運営に係る持続可能な財政モデルの 実現 目標3:職員及び利害関係者との関係改善 さらに、2011 年 9 月に成立した米国発明 法では、財政を含めた USPTO の機能強化や 施策の実施が図られている。 第2章 国際政策におけるリーダーシップの 第1章 目標1:知的財産施策及び国家知的財産戦略 国際的な動向と我が国の取組 目標1:審査順番待ち期間を2.5∼3.5か月、 目標2:審査の質の継続的監視と改善 第4部 目標5:審判及び付与後手続きの改善 特に、2011 年 11 月に成立した 2012 年 度 予 算 法 に よ る と、USPTO の 予 算 額 は 最 大 27.1 億ドルまで認められ、2011 年度の 20.9 億ドルを大幅に上回っている。さらに、 2013 年度の予算教書では、特許審査順番待 これら目標の達成に向け、USPTO は、様々 な施策に取り組んでいる。 ち件数を減少させるために必要不可欠な職 員数として、2011 年度末の実数は 9,991 名 で あ る と こ ろ、2012 年 度 末 に 10,507 名、 a.特許オンブズマンプログラム 2013 年度中に 12,212 名への増員を見込ん 何らかの理由で通常のプロセスどおりに審 で い る。 こ の よ う に、USPTO で は 財 政 面、 査処理が進まず、滞っているケースについて、 人材面での強化が着実に進行しており、他に そのような状況を解決するためのサポート手 も以下のような施策に取り組んでいる。 段を出願人・代理人に設けるもの。 a.料金ダイバージョンの廃止とUSPTO b.特許審査ハイウェイ(PPH)の申請手 数料無料化と締結国の拡大 従来、USPTO に対して特許審査ハイウェ ファンドの設立(再掲) 特許商標庁料金リザーブファンド(Patent and Trademark Fee Reserve Fund)を設立し、 イを申請するためには申請 1 件につき 130 年度内の料金収入が当該年度の歳出法に規定 ドルを納付する必要があったが、利用の促進 された金額を超過した場合には、超過額を該 特許行政年次報告書 2013 年版 291 第 2 章 諸外国・地域の動向 ファンドに繰り入れる。 対応した新料金を公表した。この新料金は、 当該ファンド内の残金は、USPTO 関連予 3 月 19 日から適用されている。 算のみに利用されるが、年度ごとに歳出法に 今般の新料金は、当事者系レビューや査定 よって規定されなければならない。 系再審査など高額さが話題となっていた項目 に関しては、2012 年 10 月時点の料金から は引き下げられている。 b.USPTOの料金設定権限 USPTO に対し、各種特許料金の設定権限 が与えられている。 2013 年 1 月、USPTO は、 米 国 発 明 法 に 4-2-5 図 USPTO の 3 月 19 日以降の新料金 項目 出願料金 3を超える独立請求項への追加料金 RCE 請求料 1 回目 2 回目以降 トラックⅠ優先審査 維持年金 1 回目 2 回目 3 回目 査定系再審査 当事者系レビュー 特許付与後レビュー 2013年3月19日 からの料金 $1,600 $420 $1,200 $1,700 $4,000 $1,600 $3,600 $7,400 $12,000 $23,000 $30,000 c.優先審査(ファースト・トラック) 2010 年 6 月、優先審査(ファースト・トラッ ク)、通常審査(セカンド・トラック)及び 遅延審査(サード・トラック)からなるスリー トラック制度の導入提案が USPTO からなさ れた。このうち、優先審査(ファースト・ト ラック)については、2011 年 9 月の米国発 明法成立とともに実施された。 優先審査(ファースト・トラック)の対象 出願について、クレーム数の制限(独立請求 項 4 項、合計 30 項まで)を設定し、受理件 数の上限は当面年度当たり 10,000 件とされ 2012 年10 月 時点の料金 $1,206 $250 $930 $930 $4,800 $1,150 $2,900 $4,800 $17,750 $27,200 $35,800 増減率 27% 67% 29% 83% - 17% 39% 24% 54% - 32% - 15% - 16% d.サテライトオフィスの設置 米国発明法では、法施行から 3 年以内に、 デトロイトを含め少なくとも 3 つのサテラ イトオフィスを設立することが規定されてい る。デトロイトオフィスは、2012 年 7 月に 開設された。さらに、ダラス、デンバー、シ リコンバレーにもサテライトオフィスが設 立される予定である 1。なお、2012 年 11 月、 USPTO のカッポス長官(当時)は、シリコ ンバレーオフィスのトップは元 Google の次 席 法 務 顧 問 の ミ シ ェ ル・ リ ー(Michelle Lee)氏であることを発表した。 た。また、その手数料は、当初$4,800 に設 定 さ れ て い た が、2013 年 3 月 19 日 以 降、 $4,000 に引き下げられた。なお、遅延審査 (サード・トラック)は最大 30 月まで審査 の遅延を申請できるものとして提案されてい たが、2013 年 4 月時点において実施されて いない。 1. デトロイト、ダラス、デンバー、シリコンバレーはそれぞれ異なるタイムゾーンに属するため、米国本土(アラスカ、ハワイを除く)のタイムゾーンは全てカバーされる。 292 特許行政年次報告書 2013 年版 米国におけるパテントトロール対策の現状 パテントトロールが関係者の話題に上るようになって久しい。しかし、 「トロール」という言葉は「妖怪」 「怪物」といった侮蔑的な意味を持ち、パテントトロールには「悪者」との意味が言外に含まれていること から、最近では、自身で発明の実施を行っていない者、NPE(Non practicing Entity)との用語が用いら れることが多くなってきました。 これらNPEには、その用語から明らかなように、大学や個人発明家等も含まれる。個人発明家等が不当 な権利侵害から自己の利益を守ることには理解も得られると考えられますが、他方で、制度趣旨を超えて 特許権を「濫用」するNPEが存在することも事実です。このような特許権を「濫用」するNPEの存在は、企 業活動を阻害し、経済に悪影響を及ぼすため、その「濫用」を制限するための対応が望まれています。しか しながら、 「濫用」には主観が入る余地があること等から、特許権を「濫用」するNPEを正確に定義するこ とは困難であり、制限を法制化等することは非常に難しいことです。 国際的な動向と我が国の取組 Column 第4部 コラム28 そうした中、これまでにも、2006年5月のe-bay判決による差止の厳格化、2011年1月のUniloc判決 による損害賠償額算定の弾力化など、判例による制限もなされてきました。そして、2011年9月に成立 した改正特許法(AIA)においても、いくつかの対応がなされています。例えば、付与後レビュー、当事者系 の企業等を同時に訴えることを困難とすること、特許虚偽表示に対する出訴の制限と商品への特許表示 要件の緩和により、虚偽表示関連訴訟を制限すること等です。 の向上を図る制度の導入は一定程度の効果が見込まれています。しかし、付与後レビューは、対象案件が 2013年3月16日の先願主義移行後のものが対象であるため、その効果が現れるにはしばらく時間がか 第2章 従来から、質の低い特許の存在が、NPE問題の原因の一つとされており、付与後レビュー等の特許の質 第1章 レビュー等の特許無効化手段の強化により特許権の質を高めること、当事者(被告)の併合を制限し、多数 かります。他方、虚偽表示関連訴訟の制限は、改正特許法成立と同時に施行(2011年9月16日)された、 いわゆる「マーキングトロール」対策であり、これは極めて有効に機能しています。 では、当事者(被告)の併合の制限についてはどうでしょうか。この条項は、NPEが他者を特許権侵害訴 訟で訴える場合、数多くの企業等を同一の訴訟に含めることが多いため、これを制限しNPEの活動をも 制限しようとする趣旨です。 この条項も改正特許法成立と同時に施行され(2011年9月16日)、この日以降に提起される訴訟に適 用されました。これによりNPEによる訴訟数はどうなったでしょうか。 表1にみられるように、審理が早く特許権者側に有利とされるテキサス州東部地区連邦地裁やデラ ウェア州連邦地裁の訴訟件数は急増している一方で、2012年の被告の総数は12,000人強と、2011年 の14,000人から約2,000人減少しています1。そして、図1に見られるように、特許侵害訴訟総数に占め るNPEの割合も急増しています2。 これらのデータをみると、訴訟が個別に提起されるようになったと推定されること、そして被告数が減 少しているという点で、法改正の意図は果たされつつあるように見えます。しかしながら、訴訟件数の増 加が著しく、これほど多くの訴訟数に裁判所が対応できるかは疑問です。関係者の間では、そもそも、裁判 所自体がこれほどの訴訟件数に対応できず、結局訴訟を併合することになるのではないかと言われてい ます。まだ改正特許法施行後それほど時間がたっていないことから判断を下すには早いですが、現状を見 る限りこの条項の有効性にはやや疑問があります。 1. http://newsandinsight.thomsonreuters.com/Legal/News/2013/01_-_January/Texas_court_back_on_top_in_new_patent_lawsuit_filings/ 2. http://www.ftc.gov/opp/workshops/pae/docs/cchien.pdf そのような状況下で、現在、米国議会には、通称SHIELD Actと呼ばれる法案が上程されています。この 法案は、特許権者が以下の3条件のいずれかに該当しない場合、特許無効又は特許の非侵害を主張して勝 特許行政年次報告書 2013 年版 訴した被告側に、弁護士費用を含む全訴訟費用を回収する権利を与えるというものです。 293 ます。まだ改正特許法施行後それほど時間がたっていないことから判断を下すには早いですが、現状を見 る限りこの条項の有効性にはやや疑問があります。 第 2 章 諸外国・地域の動向 そのような状況下で、現在、米国議会には、通称SHIELD Actと呼ばれる法案が上程されています。この 法案は、特許権者が以下の3条件のいずれかに該当しない場合、特許無効又は特許の非侵害を主張して勝 訴した被告側に、弁護士費用を含む全訴訟費用を回収する権利を与えるというものです。 (1) 特許所有者が、発明者、または、最初の譲受人(original assignee)である。 (2) 特許所有者が、該特許でカバーされる製品の製造または販売を通して、該特許の活用に多額の投資を 行った。 (3) 特許所有者が、大学、または、技術移転機関(technology transfer organization)である。 前記(1)の条項は、通常の企業が特許管理会社を活用している場合等には、通常の企業もこの法案の対 象となってしまう可能性があることや、NPEが最初の譲受人である率も一定程度あると予想される等の 問題点もあり、この法案が成立するか否かは不透明です。ただし、こうした趣旨の法律が仮に成立し、上述 の付与後レビュー等による特許の質の担保が十分に機能すれば、資金面での余裕が余りないとされる NPEが質の悪い特許を安く買い取り、それに基づいて権利侵害で訴えるという構図はかなり減少するで あろうと考えられます。 このように、特許権の「濫用」への対策は非常に難しいが、米国における対策が徐々ではありますが進み つつあり、今後の動きが非常に興味深いです。 ●表1 出訴数 裁判所 2012 年の件数 2011 年の件数 テキサス州東部地区連邦地裁 1,260 件超 418 件 デラウェア州連邦地裁 約 1,000 件 484 件 2544件 ●図1 特許訴訟総数にNPE企業による訴訟が占める割合の推移 606件 622件 631件 631件 19% 23% 25% 27% 29% 2006 2007 2008 2009 2010 569 件 年 294 特許行政年次報告書 2013 年版 1509件 61% 45% 2011 2012-(12 月 1 日まで) 4-2-6 図 4-2-7 図 国別貿易動向(輸出)2011 年 中南米 5% その他 9% 海外現地法人数の増減(2011 年度中) 北米 16% 第1章 欧州 13% ASEAN 15% 韓国 8% 第2章 その他アジア 6% インド 1% 台湾 6% 国際的な動向と我が国の取組 2013 年は日ASEAN 交流 40 周年となる節目の年である。我が国と ASEAN は地理的に近く、 政治的・経済的・文化的に深い関係を築いてきたが、近年の急激な ASEAN 諸国の経済成長や 企業活動のグローバル化により、ASEAN 諸国と日本の関係はますます深まっていくことが予 想される。 2011 年における我が国の国別貿易動向 ( 輸出 ) では、ASEAN は中国、北米に次ぐ 3 番目に 位置づけられている(4-2-6 図参照) 。また、2011 年度中の海外現地法人数に関し、販売を 行う海外現地法人の増加数は、ASEAN5 か国で中国を上回り、生産を行う海外現地法人の増加 数は、中国に次ぐ勢いとなっている(4-2-7 参図照) 。このように、我が国からの貿易・投資 拡大が見込まれ、今後も高い経済成長が予測される ASEAN 諸国について、本節では、ASEAN 域内の知的財産関連協力に関する我が国特許庁の取組及び ASEAN 各国の知的財産に関する最 近の取組を紹介する。 第4部 3 ASEAN 中国 21% (資料)財務省貿易統計 (資料)国際協力銀行 (JBIC)「2012 年度海外直接投資アンケート結果 ( 第 24 回 )」 (1)ASEAN 域内の協力 BRICS( ブ ラ ジ ル・ ロ シ ア・ イ ン ド・ 中 協定については、ASEAN 加盟国のうち 7 か 国を目標とする。)。 国・南アフリカ)に匹敵する成長市場である また、ASEAN 加盟国では、域内での特許審査 ASEAN は、2015 年の経済統合を目指してい の迅速化のため、ASEAN 特許審査協力(ASPEC: るほか、「ASEAN 知的財産権行動計画 2011- ASEAN Patent Examination Cooperation)プロ 2015」をまとめるなど、知的財産分野におい グラムを 2009 年 6 月より開始している。これ ても積極的な取組を行っている。本行動計画 は、出願人が、ASEAN 域内の複数の特許庁 は、2011 年 8 月、インドネシアにおいて開 に対し同一の特許出願を行った場合、早期に 催された ASEAN 経済大臣会合において了承 審査を終了した特定の特許庁の審査結果を他 されたもので、2015 年までに ASEAN 加盟 の特許庁に審査の参考資料として提出すること 各国がマドリッド協定議定書、ハーグ協定及 を可能とするものである。これにより審査の質 び特許協力条約(PCT)に加盟すること等が の向上や審査期間の短縮といった効果が期待 目標として掲げられている(ただし、ハーグ されている 1。 1. 他の特許庁による審査への拘束力を持つものではない。また、早期審査の要素は定められていない。 特許行政年次報告書 2013 年版 295 第 2 章 諸外国・地域の動向 4-2-8 図 ASEAN 知的財産権行動計画 2011-2015 及び ASPEC プログラムの概要 5つの観点で戦略目標を分類 迅速・的確・利用可能性の高い知財サービスを提供すべく、バランスの取れた知財システムの構築 2015年までに、平均6ヶ月で商標登録可能にする(異議がない場合)。 ASEAN特許審査協力(ASPEC)の完全履行(2015年までに利用率を5%以上にする)。 知財エンフォースメント地域行動計画の策定 著作権、地理的表示、伝統的知識等の保護強化、知財実務者の能力向上等 アセアン加盟国の国際知財保護制度への参加 2015年までにマドプロ、ヘーグ、PCTなどの国際制度への加入 知財の創造・意識向上・活用の体系的な促進 域内特許ライブラリーのネットワークを学校や大学に構築。 技術移転・商業化の意識向上、中小企業の知財活用強化。 国際的なIPコミュニティへの活発な参加及び各種機関との連携強化 世界知的所有権機関(WIPO)と2年単位の地域計画の実施。 日本国特許庁を含むダイアログパートナーとの協力強化。 WIPOやWTOのフォーラムや域内のステークホルダとの連携強化。 アセアン地域の各知財庁の人的・組織的な能力向上 特許・商標審査官、能力の強化を域内各国のニーズ調査を踏まえ体系的に実施。 2015年までの特許・商標書類の電子化を含む、各知財庁のインフラ近代化。 ベトナム Vietnam タイ ブルネイ Thailand Brunei ASPEC シンガポール Singapore カンボジア Cambodia (ASEAN Patent Examination Cooperation) Philippines Laos フィリピン Myanmar ミャンマー Indonesia インドネシア ラオス Malaysia マレーシア 我が国との関係では、ASEAN 知的財産協 差といった ASEAN が抱える課題に対応する 力作業部会(AWGIPC)を通じ、知的財産分 ため、また、進出する日系企業の円滑な事業 野における日 ASEAN 間の協力の在り方を議 活動・知的財産活用のため、具体的なアクショ 論 し て き た。 ま た、2012 年 2 月 に は、 日 ンプラン(行動計画)を設けることとなった。 ASEAN 間の知的財産協力を進めていくため、 2013 年 4 月には、第 3 回日アセアン特許庁 第 1 回日アセアン特許庁長官会合が東京で開 長官会合が京都にて開催された 1 。 催され、ASEAN の経済成長のための知的財産 保護強化及びそれを実現するための日本の協 力を確認した「東京知財声明」が採択された。 さらに、同年 7 月には、第 2 回日アセアン特 ①インドネシア インドネシアは、米国通商代表部が毎年公 許庁長官会合がシンガポールにて開催され、 表している「スペシャル 301 条報告書」2 に 我が国特許庁と ASEAN 各国の知的財産庁と おいて優先監視国に指定されているように、 の間で知的財産に関する協力覚書が締結され 模倣品や海賊版などの不正商品問題が大きな た。同覚書では、国際条約への加盟の遅れ、 課題となっている。この課題に対処するた 不十分な審査能力、域内各国の保護レベル格 め、2011 年 2 月、それまで特許、商標、意 1. 日アセアン特許庁長官会合については、第 4 部第 1 章 1. (3)参照 2. 第 4 部第 2 章 2 . (2)⑥参照 296 (2)ASEAN 各国の取組 特許行政年次報告書 2013 年版 シア知的財産権総局の知的財産取締官)を 正 実 体 審 査(MSE:Modified Substantive 一つの局に統合し、捜査局(Directorate of Examination)2 を採用し、我が国を含む米国・ Investigation)が新設された。インドネシア 欧州特許庁等 7 ヵ国・機関を所定特許庁 3 とす 知的財産権総局の捜査官と警察の協力によ るほか、他国の知的財産庁へ実体審査の外注を り、商標権、著作権、意匠権、特許権を対象 行っていた。また、サーチレポート等で特許性 として違法品の摘発を行っている。 が低いとされても、出願人が手数料を納付すれ 2011 年 4 月からは、国際協力機構(JICA) ば特許査定される制度(自己評価制度)であっ と協力した知的財産権保護強化プロジェクト た。しかし、2012 年 7 月の特許法改正により、 が開始され、①知的財産エンフォースメント 実体審査制度(ポジティブ・グラントシステ 関連機関の機能強化、②インドネシア知的財 ム 4)を導入することを決定した。 産権総局の審査能力の向上、③大学等高等教 育機関における知的財産権の活用促進を具体 4-2-9 図 修正実体審査(MSE)の概要 的な成果目標として、精力的な活動が行われ ている。我が国特許庁としても、①長期専門 A 国際的な動向と我が国の取組 て 自 国 で 実 体 審 査 を 行 っ て い な か っ た。 修 第4部 匠局に分散していた文民捜査官(インドネ 家としての職員の派遣、②必要な短期専門家 の派遣、③研修生の受入れ等、積極的な協力 を行っている。 MSE B 権総局との間で、2013 年 6 月 1 日より特許 加えて、シンガポール知的財産庁(IPOS) 開始すること、および 2013 年 6 月 1 日以 では 2012 年より特許審査官の採用を始め、 降にインドネシア知的財産権総局が受理した 今後バイオ・情報通信の分野で自ら実体審査 PCT 国際出願に対する国際調査・国際予備 を行っていくことを発表している。 1 このような状況において、IPOS と我が国 審査を、我が国特許庁が管轄 することに合 意した。 第2章 審査ハイウェイ(PPH)の試行プログラムを 第1章 2013 年 4 月には、インドネシア知的財産 特許庁は、これまでの両庁間の協力関係のさ らなる強化のため、2012 年 7 月、以下の具 ②シンガポール シンガポールは、2010 年の World Economic 体的協力内容を含む、知的財産に関する協力 覚書を締結した。 Forum (WEF) Global Competitiveness Report において、知的財産保護水準が世界 5 位と ✓IPOS を受理官庁とするPCT 国際出願の国 なるなど、知的財産制度の整備水準は非常に 際調査・国際予備審査の管轄化に向けた検 高い。2009 年から我が国特許庁及び米国特 討 許商標庁と特許審査ハイウェイプログラムを ✓知的財産に関する普及啓発活動 実施しているほか、2012 年 10 月には韓国 ✓知的財産専門家の交流 特許庁と同プログラムを開始した。 ✓知的財産関連シンポジウムや研修プログラム これまで、シンガポールは特許制度におい の開催 1. 日本国特許庁がある国の PCT 国際調査・国際予備審査を管轄する管轄国際調査機関・管轄国際予備審査機関である場合、その国で受理された PCT 国際出願について、 出願人の希望があれば日本国特許庁が国際調査報告・国際予備審査報告を作成できる。 2. 同制度を有する国の特許庁(当該国特許庁)とあらかじめその国が指定する他の国(所定国)の特許庁(所定特許庁)に対して、互いに対応する特許出願がなされてい る場合において、出願人が所定の手続に従って所定特許庁における対応特許出願の審査結果に係る情報を、当該国特許庁に提出することにより、当該国特許庁が基 本的に、その所定特許庁の審査結果を受け入れ、当該国における特許権の付与を行う仕組みをいう。 3. 所定特許庁となったことにより、シンガポールに特許出願を行った出願人は、日本で特許が成立したことを示す特許公報を英語訳とともにシンガポールに提出する ことにより、同国で特許を迅速に取得することが可能となる。 4. 審査によって特許性の認められたもののみを特許とする制度。 特許行政年次報告書 2013 年版 297 第 2 章 諸外国・地域の動向 ✓先行文献調査及び特許審査の能力向上 2011 年 10 月にタイで発生した洪水被害 ✓知的財産制度や運用に関する情報交換 の際には、我が国の特許、実用新案、意匠及 ✓知的財産に関する国際的な取組及び動向に び商標に関する出願又は審判について、我が 関する情報交換 国特許庁の指定した期間内に手続を行うこと が困難である出願人に対し、手続期間の救済 2012 年 10 月 に は 同 覚 書 に 基 づ い て、 措置を講じた。 IPOS の調査団が我が国特許庁を訪問し、実 体審査を導入する体制の構築に関する意見 交 換 を 行 っ た。 ま た、2012 年 12 月 か ら、 ④フィリピン フィリピンは 2001 年 5 月に特許協力条約 IPOS が受理した PCT 国際出願に対する国際 (PCT)加盟書を WIPO 国際事務局に寄託し、 調査・国際予備審査を、我が国特許庁が管轄 同年 8 月に第 112 番目の PCT 締約国となっ することになった。 た。また、2002 年 1 月よりフィリピン知的 財産庁が受理した PCT 国際出願の国際調査・ ③タイ 国際予備審査を、我が国特許庁が管轄するこ インドネシアと同様、タイも米国通商代 とになった。2012 年 2 月には、我が国特許 表部の「2012 年スペシャル 301 条報告書」 庁とフィリピン知的財産庁との間で PPH の において優先監視国として位置づけられてお 試行プログラムを同年 3 月 12 日から開始す り、模倣品・海賊版など不正商品問題や特許 ることに合意した。 審査における権利化の遅延など知的財産に関 また、ASEAN 知的財産権行動計画 2011- する課題は多い。タイは生産拠点、あるいは 2015 の履行に向け、政府内においてマド 消費市場として、ASEAN の中でも特に日本 リッド協定議定書加盟に向けた検討を 2011 企業の進出が多い国であり、同国における知 年 8 月から開始し、マドリッド協定議定書 的財産制度の整備は非常に重要な課題となっ 加盟は 2012 年 7 月 25 日に発効、同日から ている。このような課題に対してタイ知的財 フィリピン知的財産庁はマドリッド協定議定 産局は、タイにおける日系企業が同局に対 書による国際登録出願の受理を開始してい し、知的財産に関する意見を表明できる対話 る。 の機会を設けるなどの取組を行っている。ま 加 え て、 フ ィ リ ピ ン 知 的 財 産 庁 で は、 た、ASEAN 知的財産協力作業部会(AWGIPC) 2012 年 に 知 的 財 産 自 動 化 シ ス テ ム(IP の議長をタイ知的財産局長が務めるなど、 Automation System: IPAS)を全面的に導入 ASEAN 域内における知的財産に関する議論 した。 についても率先して進めている。 タイ知的財産局と我が国特許庁との間では 298 ⑤ブルネイ 2006 年 5 月、両国の特許庁長官が書簡を交 2012 年 1 月、これまで法務省(Attorney 換し、タイ知的財産局において出願人が海外 General s Chambers / AGC)の下の知的財産 における対応特許出願の審査結果を提出する 部署に含まれていた登録部門のうち、特許 ことにより、当該特許出願が優先して審査さ 登録部門がブルネイ経済開発委員会(Brunei れることを相互に確認した。また、2009 年 Economic Development Board / BEDB)下に 9 月に特許協力条約(PCT)加盟書を WIPO 移管され、特許登録部が創設された。同年 国際事務局に寄託し、同年 12 月 24 日に第 10 月に意匠登録部門も特許登録部に統合さ 142 番目の PCT 締約国となった。さらに、 れ、将来的には商標部門についても統合する 2010 年 4 月よりタイ知的財産局が受理した 予定となっている。2011 年 11 月にパリ条 PCT 国際出願の国際調査・国際予備審査を、 約、2012 年 4 月に特許協力条約(PCT)に 我が国特許庁が管轄することになった。 加盟している。 特許行政年次報告書 2013 年版 法令の普及促進、②知的財産行政およびエン いては、従来の再登録制度から委託審査制度 フォースメント機関の能力向上、③知的財産 へ移行した。従来の再登録制度はイギリス、 関連機関の連携強化および知的財産権法の見 マレーシア、シンガポールで特許登録された 直し等を目的としている。 2012 年 7 月からは、ベトナム国家知的財 権を設定するものであった。今後は、ブルネ 産庁が受理した PCT 国際出願に対する国際 イの当局が受理した特許出願について独自に 調査・国際予備審査を、我が国特許庁が管轄 方式審査を行い、実体審査についてはデン することになった。 マーク、オーストリア、ハンガリーの各知的 財産庁へ外注を行うこととなっている。 ⑦マレーシア マレーシアでは、2011 年 2 月の特許・商 ⑥ベトナム 標規則改正により、電子出願制度、早期審査 ベトナムは、直近 5 年間平均で 6.5%台と 制度等が導入された。また、同国は、模倣品・ いう高い経済成長を実現しており、2011 年 海賊版対策や知的財産裁判所の設置といった に政府が打ち出した 10 カ年計画「社会経済 知財政策が評価を受け、上述の米国通商代表 開発戦略」では、2020 年までにベトナムを 部の「スペシャル 301 条報告書」において、 近代工業国にするという目標が掲げられてい 監視対象国のリストから除外されている。 産の重要性も今後急速に拡大していくことが 正実体審査制度(MSE)を採用しており、我 予想される。我が国からのベトナムへの直接 が国特許庁がその所定特許庁となっている。 投資も活発で、多数の日本企業がベトナムに 日マレーシア両特許庁長官による MSE 申請 進出しており、我が国にとってもベトナムに 手続簡素化に係る覚書への署名 1(2007 年 3 おける知的財産保護環境整備は重要な課題で 月)、 日・マレーシア経済連携協定(EPA) ある。 第 1 回知的財産小委員会における MSE 制度 このような状況の中、2012 年 2 月、ベト 運 用 改 善 の 確 認(2008 年 1 月 ) 等、MSE ナム国家知的財産庁と我が国特許庁は、我が の利用促進のために様々な取組が進められて 国とベトナムの間で経済、貿易、科学技術を いる。 向上させるために知的財産分野の協力を推進 また、2013 年 4 月からは、マレーシア知 することの重要性を認識し、より効果的な知 的財産公社が受理した PCT 国際出願に対す 的財産システムをベトナムで構築するための る国際調査・国際予備審査を、我が国特許庁 協力覚書を締結した。同協力覚書には、ベト が管轄することになった。 第2章 マレーシアは、シンガポールと同様に修 第1章 る。経済成長に伴いベトナムにおける知的財 国際的な動向と我が国の取組 発明について、申請により(自動的に)特許 第4部 また、2012 年 1 月からは、特許制度につ ナムにおける知的財産保護の促進を目指した 政策に対する助言、審査手続の簡素化、知的 ⑧ミャンマー 財産管理システムの強化、知的財産の普及支 2012 年 4 月、テイン・セイン大統領が訪 援や人材育成といった、我が国特許庁による 日し、当時の野田内閣総理大臣と会談を行い、 包括的な協力内容が盛り込まれている。 日本政府としてミャンマーに対し本格的な支 ま た、2012 年 4 月 よ り、JICA と 協 力 し 援を再開することを表明した。民主化に動き た知的財産権の啓蒙および取り締まり強化プ 出したミャンマーは、消費市場としての魅力 ロジェクトを開始し、我が国特許庁から長期 (人口約 6,300 万人)、ASEAN、中国、イン 専門家として職員を派遣している。本協力 ド等への高いアクセス性、豊富で安価な労働 は、①知的財産関連機関と国民への知的財産 力等から、投資先として近年注目されている 1. http://www.jpo.go.jp/torikumi/kokusai/kokusai2/asia-mmse_tetuzuki.htm 特許行政年次報告書 2013 年版 299 第 2 章 諸外国・地域の動向 一方で、独立した知的財産法が存在せず、知 ✓ミャンマーの産業財産権法及び規則案に対 的財産法の整備を通じたビジネス環境整備と するコメントをミャンマーの担当機関に提 いう点では不十分といえる。ミャンマーにお 供。 いては、外国からの投資を呼び込むことは経 済発展のために重要な課題であり、同国への 団を受入。 我が国企業からの投資が今後見込まれる中、 ✓ミャンマーにおける知的財産庁の設立及び発 知的財産関連法の制定、知的財産庁の設立、 展等のための専門家派遣の可能性を検討。 知的財産庁職員の能力向上など、知的財産権 ✓ミャンマーの知的財産庁の設立及び発展の を適切に取得・保護できるような制度の整備 ため、6か月の長期研修生を招へいするな が急務となっている。 ど、ミャンマーの関係者を招へいして研修を このような状況の中、ミャンマー科学技 術大臣及び同副大臣と我が国特許庁長官は、 実施。 ✓我が国特許庁の産業財産権に関する審査の 2013 年 2 月にミャンマーの首都ネーピー 運用マニュアル及びその他の資料を英訳して ドーにおいて会談を行った。この会談におい ミャンマーの担当機関に提供。 て、ミャンマーにおける知的財産システムの ✓ミャンマーの担当機関に特許の審査官等を 構築に向けた両国間の協力が進展し、今後、 派 遣し、審査 業務に関するアドバイスを実 ミャンマー側の要請に応じつつ、我が国特許 施。 庁が実施することになった。本協力の具体的 内容は以下のとおりである。 300 ✓WIPOと協力して、ミャンマーからの訪問調査 特許行政年次報告書 2013 年版 ✓ミャンマー等において産業財産権に関するセ ミナーを開催。 AWGIPCと日ASEAN知財庁協議について ASEANでは、加盟各国知財当局などからなるASEAN知的財産協力作業部会(ASEAN Working Group on Intellectual Property Cooperation: AWGIPC)という定期会合が開催されています。 ASEANの設立から約30年を経た1995年、ASEANにおける知的財産分野の協力活動のフレーム ワークを規定した「ASEAN知的財産協力枠組協定」が成立しました。この協定が、ASEANにおける知的 財産分野の組織的な活動の契機といえます。そして、翌1996年に、ASEAN加盟各国知的財産庁などか らなるASEAN知的財産協力作業部会(ASEAN Working Group on Intellectual Property Cooperation: AWGIPC)が設立されました。この会合は、ASEAN各国が知的財産に関する地域的或い は国際的な取組について議論及び情報共有を行うための場となっています。 国際的な動向と我が国の取組 Column 第4部 コラム29 会合の成果の代表的な例として、AWGIPCでの議論により、2009年には、ASEANにおける特許審査 協力の枠組であるASPEC(ASEAN Patent Examination Cooperation)プログラム1が合意されまし た。また、ASEANの知的財産情報をワンストップで提供するインターネット・サイト「ASEAN IP Portal」の構築も進められています。 での年二回開催から年三回の定期開催となったことからも、ASEANにおける知的財産に関する地域協 また、AWGIPCは、我が国を始めとする諸外国・機関のダイアログパートナーとともに、ASEAN地域に おける知的財産分野の様々な課題に取り組んでいます。我が国はAWGIPCが開催される機会を利用し、 第2章 力の重要性の高まりがうかがえます。 第1章 これらのASEANとしての活動はASEAN知的財産権行動計画2011-2015(ASEAN IPR Action Plan 2011-2015)に基づくものですが、このような計画の策定や、2012年から、AWGIPCをこれま ①ASEAN域内の取組の現状把握、②知的財産に関する我が国取組の紹介、③ASEAN地域の知的財産制 度・運用の向上に向けたアドバイスや協力に関する協議をASEANと行ってきました。 2013年3月には、ルアンパバーン(ラオス)で開催された第40回AWGIPC会合に併せて、我が国特許 庁とASEAN各国知的財産庁との協議が行われました。この協議では、2012年度の日ASEAN知的財産 権行動計画(アクションプラン)の履行状況に関する意見交換や、2013年度の行動計画の最終調整など、 第3回日アセアン特許庁長官会合に向けた準備に関する意見交換などが活発に行われました。特に、我が 国特許庁から提示された情報化協力に関するプランに対しては、ASEAN各国の参加者からは大きな関 心や期待が示されました。 今後も、AWGIPCの開催にあわせて、このような日ASEAN間の実務者レベルの協議の場を定期的に設 ける予定です。そして、このような協議の場を通じて、2015年の経済統合を目指すASEANに対して、各 国知的財産庁へのより効果的な協力や働きかけを行うとともに、日ASEAN間の知的財産制度のすり合 わせを進めていきます。 1.第4部第2章3.(1)参照 特許行政年次報告書 2013 年版 301 第 2 章 諸外国・地域の動向 4 欧州 欧州では近年、欧州特許制度改革の動きが活発になり、単一効特許制度と統一特許訴訟制 度の導入に向け大きな成果があった。 また、欧州では、欧州特許庁が中核として大きな役割を担っており、様々な取組の下、欧 州特許庁が開発するサーチや分類のシステムは欧州外へも広がりを見せている。その一方で、 欧州各国特許庁も欧州特許庁と協調し、また、差別化を図りながら、様々な取組を行っている。 (1)我が国との関係 あり、欧州特許庁(EPO)において出願及び 我が国と欧州は、欧州連合(EU)、欧州特 審査を一元的に行うことができる。しかし、 許庁(EPO)、欧州共同体商標意匠庁(OHIM)、 EPC に基づく出願を行う際は、英語、ドイ 各国知的財産庁を通じて様々な関わりを持っ ツ語、フランス語を手続言語とするものの、 ている。 各国で特許権を有効なものとするためには、 我が国と EU との間の直接的なチャネルと EPO において特許査定がなされた後に、原 し て、「 日・EU 知 財 対 話 」 が あ る。 毎 年 1 則として、特許請求の範囲と明細書を各国の 回開催されており、知的財産に関する関心事 言語に翻訳する必要がある。また、各国の権 項について幅広く意見交換を行う場となって 利は独立しているため、特許権を行使する際 いる。特許の分野においては、我が国特許庁 には、各国で訴訟を提起する必要がある。現 (JPO)と EPO の間で、日米欧三極協力、日 在、EU 加盟国は、これら出願人に課される 米欧中韓五大特許庁協力を通して交流を図っ 翻訳費用や訴訟費用の負担を軽減すべく、出 ている。また、商標の分野においては、JPO 願や審査のほか、特許権成立後の侵害や有効 と OHIM の間で、商標五庁会合を通して意 性についての訴訟手続を一元的なものとする 見交換を行っている。さらに、意匠分野では、 単一効特許制度及び統一特許訴訟制度の導入 日欧意匠審査官会合や商標五庁会合意匠セッ に向け、議論を行っている。 ションを通じて、OHIM と意見交換を行って 単一効特許制度の導入については、2010 いる。その他、JPO と欧州各国の知的財産庁 年 7 月に欧州委員会によって、英語、ドイ の間においても、政策、人材交流などを通じ ツ語、フランス語のひとつによって審査が行 て積極的に関わりを持っている。 われ、許可された特許はその言語で公開され 2012 年 11 月には、EU 外務理事会は、日・ るとともに、法的拘束力を有する正本になる EU 間の経済連携協定(EPA)に係る欧州委 ことを規定する、翻訳の取決めに関する規 員会の交渉権限を採択。事務的な調整を経 則案が提案されたものの、EU 理事会の全会 て、2013 年 4 月、同 EPA 交渉が開始された。 一致が得られなかった 1。そのため、2010 年 当該 EPA を通じて日本と欧州の関わりはよ 12 月に 12 の EU 加盟国により、「強化され り深まることが期待されている。 た協力(Enhanced Cooperation)2」の制度を 利用して議論を開始することが EU 理事会に (2)近年の知的財産政策の動向 ①欧州特許制度改革の動き 要請され、2011 年 3 月には、同制度を利用 し、EU 理事会において EU 加盟国のうち参 現在、欧州の複数の国において特許を取得 加を表明していないイタリア・スペインを除 する場合には、各国の知的財産庁に対してそ く 25 の加盟国により、議論を開始すること れぞれ直接出願を行うほかに、欧州特許条 が承認された。一方、イタリアとスペインは、 約(EPC)に基づく出願を行うことが可能で 検討中の翻訳言語の規則案が英語、ドイツ語、 1. EU 運営条約(TFEU)第 118 条には、欧州知的財産権のための言語の取決めには全会一致が必要である旨が規定されている。 2. 全 EU 加盟国での合意が不可能であるである場合に限り、9 加盟国以上の参加によって枠組みの創設を可能とするもの。 302 特許行政年次報告書 2013 年版 的であることや、議論が不十分で最終手段を 施する欧州議会及び理事会規則」及び「単一 取り得る段階ではないことなどを理由に、 「強 特許保護の創設の領域における強化された協 化された協力」は認められないとの立場であ 力を実施する適用翻訳言語の取決めに関する り、2011 年 5 月、単一効特許の枠組創設を 理事会規則」を、イタリア、スペインを除 承認した前述の EU 理事会決定に対し、これ く 25 か国が参加する「強化された協力」の が無効であるとして、欧州連合司法裁判所 枠組みにおいて採択した。しかしながら、統 (CJEU)へ提訴した。EU 競争担当相理事会 一特許訴訟制度については、2011 年 3 月、 は、2011 年 6 月の臨時会合において、欧州 CJEU から、欧州及び共同体特許裁判所(ECPC 単 一 効 特 許(European patent with unitary :European and Community Patents Court) effect)に関連する 2 つの規則「単一特許保 の設立を規定する協定案が EU 条約に適合し 4-2-10 図 現行の出願ルート 国際的な動向と我が国の取組 護の創設の領域における強化された協力を実 第4部 フランス語を柱にしており言語について差別 第1章 第2章 4-2-11 図 単一特許の出願ルート 特許行政年次報告書 2013 年版 303 第 2 章 諸外国・地域の動向 ないとする意見が公表された。その後、統一 ための新たな国際的枠組みの策定を提唱した 特許裁判所の創設へ向けた新たな条文案の作 ものであり、2011 年 10 月 1 日に東京で開 成作業が迅速に行われ、EU 競争担当相理事 催された署名式において、オーストラリア、 会は、2011 年 9 月に開催された会合におい カナダ、韓国、モロッコ、ニュージーランド、 て、統一特許裁判所(Unified Patent Court) シンガポール、米国、日本の 8 か国によっ の新しい条文案について公式に議論を開始し て署名が行われていた。そして、EU および た。 さ ら に、2011 年 12 月 EU 競 争 担 当 相 22 の EU 加盟国 1 は、EU 理事会における全 理事会は、統一特許裁判所の一部の設置場所 会一致の承認を経た後、2012 年 1 月 26 日 について合意がなされた旨発表した。そし に東京において署名を行っていた。 て、ついに 2012 年 12 月の欧州議会におい ACTA は、6 か国以上の批准によって発効 て、欧州単一効特許及び統一裁判所の法的枠 することとされており、我が国では、2012 組みについて審議が行われ、修正の上、賛成 年 9 月、批准することが衆議院本会議にお 多数で採択された。EU 競争担当相理事会に いて賛成多数で可決されている。 おいても既に承認されており、EU 理事会議 欧州議会のプレスリリースによれば、リス 長及び欧州議会議長の署名を経て正式に EU ボン条約の発効によって欧州議会の権限が強 の規則として成立することになった。今回採 化されて以来、その権限を行使した初めての 択された単一特許の制度は、イタリアとスペ 事例であるとしている。 インを除く 25 の EU 加盟国の間で単一的な 効力が与えられるものであり、新たに創設さ れる統一特許裁判所は、単一特許のみならず、 (3)欧州特許庁の取組 欧州の特許制度については、欧州特許庁 従来型の欧州特許についても専属管轄を有す (EPO)が中核として大きな役割を担ってい ることとされている。成立することとなった る。EPO は欧州特許条約(EPC)に基づき設 単一特許規則については、統一特許裁判所協 立された機関であり、EPC の現在の加盟国は 定と同時に適用が開始されることになってお 38 になる。EPO において審査され、特許査 り、同協定は、2013 年 2 月に EU24 か国に 定された場合、指定した加盟国において特許 より署名が行われた。今後、英国、ドイツ、 として効力が発生する。EPO はこれまでも、 フランスを含む 13 か国の加盟国の批准に 出願人の利便性を高めるための EPC の改正 よって、早ければ 2014 年 1 月に発効する (EPC2000、2007 年 12 月発効) 、翻訳コス 予定である。 トの削減(ロンドン・アグリーメント 2、2008 年 5 月発効)や審査の質の向上などに取り ②ACTAの批准を否決 欧州議会は、2012 年 7 月に、偽造品の取 組んできた。現在も、審査の質、効率性の向 上に向け、以下のような取組を強化している。 引の防止に関する協定(ACTA)の批准に関 し、投票結果に基づき否決した。これによっ ①機械翻訳 て、EU 運 営 条 約(TFEU) 第 207 条 お よ び 2010 年 11 月、欧州特許庁は、Google 社 第 218 条に基づき、EU における ACTA の批 と特許文献の多言語の機械翻訳に関し、長期 准・発効することが不可能となった。また、 的な連携協定に合意し、2012 年 2 月には、 各 EU 加盟国も同様に ACTA の批准をするこ 新しい機械翻訳サービス「Patent Translate」 とができなくなった。 の提供を開始した。同サービスでは、Google ACTA は、我が国が模倣品・海賊版防止の の翻訳技術を活用し、英語と、フランス語、 1. オーストリア、ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセン ブルク、マルタ、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、英国 2. 英独仏のいずれかを公用語とする指定国は、明細書を他の言語に翻訳することを求めない。また、英独仏を公用語としない指定国は、あらかじめ、英独仏のいずれかの言語を指定し、当 該指定言語で明細書が記載されている場合は、明細書を他の言語に翻訳することを求めない。英、独、仏、オランダ、デンマーク、スウェーデン、ハンガリー等、現在、18 か国が批准。 304 特許行政年次報告書 2013 年版 ガル語及びスウェーデン語との間での特許文 PCT の手続の枠組の改善を目的としており、 献の機械翻訳を可能とし、欧州で発行され 本合意によると、双方にとって PCT 関連の る特許文献の約 90% を網羅している。さら 利益のある分野における協力活動の年間計画 に、2013 年には、デンマーク語、オランダ が確立される予定とされている。 語、フィンランド語、ギリシャ語、ハンガリー ま た、2012 年 10 月 に は、 特 許 協 力 条 語、ノルウェー語、中国語が利用可能となり、 約 (PCT) を強化するための 2 つの提案につ 2014 年末までには、EPC 締約国の 28 の公 いて、意見募集を行った。1 つ目の提案は、 用語に加えて、中国語、日本語、韓国語、ロ 国際予備審査機関 (IPEA) に関するものであ シア語の合計 32 言語について機械翻訳が提 る。現在は、国際調査機関 (ISA) として EPO 供される予定である。EPO は各国特許庁と を利用しない国際出願 (PCT 国際出願 ) は、 協力することによって着実に取組を進めてい IPEA として EPO を利用することは出来な る。 いが、PCT 国際出願の出願人にとっての国 際段階の選択肢を増やすため、IPEA として ②米国特許商標庁との共通特許分類 EPO を利用できるようにすることを提案し 商標庁とともに、欧州特許分類(ECLA)を 内段階で審査手数料が減額される利点があ 基礎とした共通特許分類(CPC)の実現に るとしている。2 つめの提案は、五大特許庁 向けた作業を開始することを発表し、2012 (IP5) の枠組みで EPO、USPTO(米国特許商 年 10 月 に は、 米 国 特 許 商 標 庁 と の「 協 標庁)及び KIPO(韓国知的財産庁)により 力 特 許 分 類(CPC:Cooperative Patent 試行されている協働国際サーチ・審査に関 Classification)」について、CPC ウェブサイ するものである。本試行では、ISA の審査 トにおいて、全技術分野のスキーム、一部 官が予備的な国際調査報告 (ISR) 及び見解書 の技術分野の定義、ECLA と CPC と国際特 (WO-ISR) を作成し、他の 2 庁の審査官から 許 分 類(IPC) と の コ ン コ ー ダ ン ス( 対 照 のフィードバックを受けた上で、最終的な 表)を公表した。そして、2013 年 1 月に、 ISR 及び WO-ISR を作成した。本提案では、 同庁と米国特許商標庁(USPTO)とで、特 EPO 審査官による予備的な評価結果や課題 許文献のための国際的な分類システムであ を紹介しつつ、共同報告書が次回の IP5 会 る 協 力 特 許 分 類(CPC: Cooperative Patent 合でとりまとめられるとしている。 第2章 ている。IPEA として EPO を選択すると、域 第1章 2010 年 10 月、欧州特許庁は、米国特許 国際的な動向と我が国の取組 は、特に、出願人の利用増加を視野に入れた 第4部 ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポルト Classification)スキームが開始された。CPC スキームについて、技術主題の詳細説明を ④経済及び科学諮問委員会 含む「CPC の定義(CPC definitions)」が各 2012 年 1 月、欧州特許庁長官の諮問機関 CPC サブクラスについて提供されており、定 として、経済及び科学諮問委員会(Economic 期的に更新される予定である。また、2013 and Scientific Advisory Board) が 設 立 さ れ 年の早い時期に、利用者向けの通信学習プロ た。特許が経済と社会に与える影響について グラムが利用可能となるとされている。 経済的及び社会的研究を行い、欧州特許庁に 対して助言、政策提言を行うことを目的とし ③PCTに関する取組 EPO と世界知的所有権機関(WIPO)は、 ている。世界各国の企業の代表や大学教授等 が委員として選出され、テーマの選択には欧 2012 年 5 月、世界経済のイノベーションを 州特許庁は関与せず、同委員会に一任されて より良く支援するための国際的な特許システ いる。11 名の委員の一人として、我が国か ムの更なる発展を目的として、両機関の包括 らは長岡貞夫一橋大学教授が参加している。 的な 3 年間の技術協力に合意した。本合意 2012 年 1 月に開催された同委員会の第 1 特許行政年次報告書 2013 年版 305 第 2 章 諸外国・地域の動向 回会合では、「特許の質」、「特許料金」、「特 日、EU 理事会は、「知的財産権の侵害に関 許の藪」の 3 つのテーマが選択された。そ す る 欧 州 監 視 部 門(European Observatory して、2012 年 5 月には、「特許の質」及び on Infringements of Intellectual Property 「特許料金」についてのワークショップが開 Rights)」を OHIM へ委任することを規定す 催され、2012 年 9 月には、「特許の藪」に る 規 則 案 を 採 択 し、2012 年 6 月 5 日 に 発 ついてのワークショップが開催された。また、 効した規則 No.386/2012 により、OHIM に 2013 年 3 月には、2012 年の活動における 委任された。2013 年 1 月、初代部長として 主たる研究成果に基づいて、特許制度を改善 ポール・マイヤー氏が就任した。これにより、 1 「特許の質」、 「特 するための勧告が公表され 、 OHIM は、これまでの共同体商標や共同体意 許料金」及び「特許の藪」に関する 3 つのワー 匠の権利付与の役割に留まらず、あらゆる知 2 クショップの報告書も公表された 。 的財産権の権利行使において重要な役割を担 うこととなった。 (4)欧州共同体商標意匠庁の取組 ①欧州共同体商標意匠庁(OHIM)の概要 ②OHIMストラテジックプラン2011/2015 OHIM は、1993 年に採択された欧州共同 OHIM は、2011 年に「ストラテジックプ 体(EC)商標規則に基づき設立された行政 ラン」を策定した。同プランは、2011 年か 機関の一つであり、1996 年 1 月から共同体 ら 2015 年までの 5 年間に欧州における意 商標登録出願の受付を開始(OHIM の公式 匠・商標のネットワーク構築に向けて必要な な業務開始は同年 4 月 1 日)した。正式名 取組について、3 つのゴール(運用の収束の 称は、域内市場における調和のための官庁 推進、業務の品質向上及び最大限の迅速化、 (商標及び意匠)(Office for Harmonization 強く活力ある創造性に富んだ組織作り)とそ in the Internal Market(Trademarks and れに向けた 2 つの柱(卓越した組織、国際 Designs))であり、所在地は、アリカンテ 協力)及び 2 つの柱を支える 6 つのアクショ (スペイン)である。なお、2012 年の共同 ン(人材改革、情報システムの簡素化及び近 体 商 標 登 録 出 願 は、107,925 件 で あ っ た。 代化、労働環境の改善、IP アカデミー等の また、2001 年 12 月、欧州閣僚理事会が EU 創設、品質改善・拡大、欧州ネットワークの 意匠規則を採択したことを受け、OHIM は 構築)を掲げており、現在、OHIM は同プラ 共同体登録意匠の登録機関となり、2003 年 ン実現に向け、全庁的に取り組んでいる。 1 月から共同体登録意匠の受付を開始(同 年 4 月 1 日 か ら 登 録 を 開 始 ) し た。 な お、 2012 年の共同体意匠登録出願は、83,051 意 匠 3 で あ っ た。 さ ら に、2012 年 3 月 22 1. http://www.epo.org/news-issues/news/2013/20130313.html 2. http://www.epo.org/about-us/office/esab/workshops.html 3. 欧州では、ロカルノ国際意匠分類のメインクラスが共通する範囲で複数の意匠を一つの出願書類にまとめることができ、統計情報では出願数ではなく意匠数を主に 用いているためこれにならった。なお、2012 年の欧州共同体意匠の出願数は 22,498 件であり、そのうちの 50%が複数の意匠を含む出願だった。 306 特許行政年次報告書 2013 年版 第4部 4-2-12 OHIM ストラテジックプランの概要図 国際的な動向と我が国の取組 第1章 第2章 (5)欧州各国の取組 ①英国 て 2013 年 4 月から導入済みである。さら に、現行の知的財産の枠組が十分に英国経済 ビジネス・イノベーション・職業技能省 の成長及びイノベーションを促進していない の下に、英国知的財産庁(UKIPO)が設置さ 可能性があるというキャメロン首相の問題意 れている。同省が、特許、商標、意匠、及 識に基づき、知的財産の枠組がどのように成 び著作権を所管しており、イノベーション 長や技術革新を支えるかについてレビューを 促進の観点から知的財産権に関する責任を 行い、2011 年 5 月、「デジタル機会:知的 担っている。UKIPO は、特許審査ハイウェ 財産と成長(Digital Opportunity :A Review イ(PPH)についても早くから取り組むな of Intellectual Property and Growth)」 ど、国際的な取組も活発であり、現在、日 題する報告書(通称:ハーグリーブス・レ 本、米国、韓国、カナダと PPH を実施して ビュー)を公表した。そして、2012 年 6 月 いる。また、オーストラリア、カナダの特許 には、英国議会のビジネス・イノベーショ 庁とバンクーバーグループを構成し、同グ ン・職業技能委員会は、ハーグリーブス・レ ループ内での特許審査ワークシェアリングの ビューにおいて示された提言について、こ 促進、そのための IT システムの整備などの れまでの実施状況と今後の取組をまとめた 協力を実施している。政府全体としても、知 第 1 回の報告書(Business、Innovation and 的財産に力を入れており、特許権に基づく所 Skills Committee - First Report)を公表した。 得について低税率で分離課税する制度の導入 当該報告書では、英国政府の 1 年間の取組 の検討を表明し、パテントボックス制度とし を評価する一方、引き続き、ロードマップを と 特許行政年次報告書 2013 年版 307 第 2 章 諸外国・地域の動向 明確に定めて着実に実施することを求めてい すること、出願人が希望した場合の審査にお る。 ける口頭審理を義務化すること、及び、オン また、英国においては、特許制度の更新・ 改正・近代化を目的とし、2012 年 12 月に、 ラインによる包袋閲覧サービスを可能とする ことなどである。 特許法改正に向けた意見募集が行われた。主 な改正点は、現行法の下では出願公開がなさ ③フランス れるまで他庁に情報提供を行うことができな フランス経済・財政・産業省の所管庁の いこととされている先行技術文献調査・審査 下 に フ ラ ン ス 産 業 財 産 権 庁(INPI :Institut に係る情報を、出願公開がなされていない段 national de la propriété industrielle)が設置 階でも守秘義務を課して他庁と共有できるよ されており、特許制度、意匠制度、商標制度 うにすること、及び、特許権者が自身の製品 を所管している。フランスは 1968 年より審 にウェブサイトのアドレスをマーキングする 査主義を採用している。ただし、直接なされ ことを特許権の「みなし通知(constructive る出願については、サーチレポートに新規性・ notice)」を行うためのオプションの一つと 進歩性を阻害する先行技術文献が提示される して認めることなどである。 が、進歩性欠如を理由に拒絶することはせず に、新規性などその他の特許要件を具備すれ ②ドイツ ば特許される制度になっている。 ドイツは、地理的な位置ばかりでなく、国 同庁は、フランス国内に 22 の地方支局を の規模や国力の面でも欧州の中心的な存在で 持っている。この地方支局においては、特許 ある。製造業も盛んであり、特許出願や特許 出願、商標出願を受理する事が可能となって 訴訟も他の欧州の国に比べて多く、税関など いるだけでなく、支局の職員が、出願に関す も模倣品の取り締まりに積極的であると言わ るアドバイス、コンサルティングのサービス れている。また、ミュンヘンには、欧州特許 を中小企業、大学等に提供している。また、 庁(EPO)や世界的に有名なマックス・プラ 企業の知的財産戦略を分析した上で、更なる ンク知的財産・競争法研究所がある。ドイツ 知的財産の活用によってどのような利益を得 の知的財産制度については、連邦司法省の下 ることができるのか情報提供を行い、知的財 にドイツ特許商標庁が設けられ、そこがドイ 産に対する認識を向上させる活動を実施する ツ国内の特許、実用新案、商標及び意匠の審 など、きめ細かい支援を行っている。 査・登録や、従業者発明の報償の調停などの 中核を担っている。 2011 年の出願件数は、特許約 5 万 9 千件、 商標約 6 万 4 千件、意匠約 5 万 3 千件、実 さらに、同庁は、ドバイ(アラブ首長国連 邦)、北京(中国)、ラバト(モロッコ)、ブ ラジリア(ブラジル)に模倣品対策を目的と した海外拠点を有している。 用新案約 1 万 5 千件であり、EPO や欧州共 同体商標意匠庁(OHIM)を除けば欧州一の 規模である。 欧州特許庁(EPO)が存在する一方、欧州 同庁は、2012 年 1 月から中国国家知識産 各国にも特許庁が存在し、EPO への業務の 権局(SIPO)と欧州の知的財産庁として初 集中化と分散化をめぐって綱引きが行われて めて PPH を開始した。 いる。EPO への出願が順調に増加してきた また、ドイツにおいては、2012 年に、ド のとは対照的に、中小規模庁にとっては自分 イツ特許法の改正案が提出されている。主な たちの存在意義が失われるのではないかとい 改正点は、異議申立期間を 3 か月から 9 か う危機感も根強い。このような状況で、中小 月に延長すること、サーチレポートを作成す 規模庁は様々な取組を行っている。 る際に、サーチレポートと共に見解書も送付 308 ④その他の欧州各国 特許行政年次報告書 2013 年版 例えば、スウェーデン特許登録庁は、PCT 機関、国際予備審査機関であり、デンマーク、 動している。北欧特許庁は、EPO と異なり フィンランド、アイスランド、ノルウェー、 実体のないバーチャルな機関であり、実際の スウェーデンの北欧 5 か国からの出願に対 審査業務は、デンマーク特許商標庁とノル して国際調査機関、国際予備審査機関として ウェー産業財産庁に下請けされている(アイ 活動することが認められており、手続言語も スランド特許庁は実体審査機能を有していな デンマーク語、英語、フランス語、フィンラ い)。 ンド語、ノルウェー語、スウェーデン語と 6 さらに、ハンガリー、オーストリア及び つの言語をカバーしている。また、1998 年 ルーマニアの中欧 3 か国は、中欧地域にお よりトルコ特許庁から審査の外注を請け負っ ける PCT の国際調査機関及び国際予備審査 ている。同庁では、審査官による有料サービ 機関となることを目的としてドナウ特許庁の スも提供しており、出願前に発明の特許可能 設立を目指している。同庁は、ブダペストに 性を知るための新規性についての先行技術文 本拠地を構えて管理業務の中心としての役割 献調査、既に成立している特許の有効性調査、 を担うものの、実体のサーチ・審査業務は各 自由実施できるかどうかについての調査など 庁によって行われる。つまり、同庁は、実質 を実施している。 的に三庁の技術的知見を有する審査官によっ また、デンマーク特許商標庁は、途上国へ 国際的な動向と我が国の取組 の国際調査機関、国際予備審査機関として活 第4部 が施行された当初の 1978 年からの国際調査 て構成される。ハンガリー知的財産庁(HIPO) ンド、東欧諸国などの政府機関に対して研修 に議論を開始しており、2011 年秋には、ルー コースの提供などを行っている。さらに、同 マニア発明商標庁が参加を表明した。各庁の 庁内には、「北欧特許庁」と看板を掲げた小 事前合意によると、2013 年の業務開始を目 さな部屋が存在している。この北欧特許庁は、 指している。 第2章 とオーストリア特許庁(APO)は、2009 年 第1章 の協力活動に関心が高く、中国、ロシア、イ デンマーク、ノルウェー、アイスランドの 3 か国によって 2006 年に設立され、主に PCT 特許行政年次報告書 2013 年版 309 第 2 章 諸外国・地域の動向 コラム30 Column 欧州連合における特許活用をめぐる競争法のルール整備の現状 <はじめに:特許活用の基本パターンと競争法のルールとの関係> 特許活用の基本パターンは、①「自社で特許発明を独占的に実施する」か、②「他社に特許発明の実施権 をライセンスして実施料等を得る」かの2つに大別されます。そして、後者には、さらに、②(その1) 「相対 取引で技術移転契約を行う方法」と、②(その2) 「技術標準の策定等の目的で互いの特許を持ち寄り、パテ ント・プールを形成して多数当事者間で技術移転契約を行う方法」という2つの選択肢があります。 特許制度は、これらの方法によって特許を積極的に活用することを、イノベーションの普及・促進に貢 献し、消費者の福祉にも適う、社会全体に好ましい影響を与える正当な活動として奨励するものです。こ のように、特許権にはある種の独占的性質が伴いますが、これと同時に、技術開発や技術競争のモチベー ションとなり得る側面を備えています。このため、単に技術の市場化とこれによる投資の回収手段として これらの方法を採用し、通常の権利行使を行っている限りは、市場における公正な競争を維持する機能を 有する「競争法(我が国においては「独占禁止法1」が該当)」上も問題ないこととされています。 ただし、特許権者が、単に自社の特許をこれらの方法で活用するのを超えて、例えば、市場における支配 的地位を濫用したり、技術移転契約を利用して市場を分断したり競合技術を市場から排除したりする行 為は、特許制度が本来促進するはずの公正な技術競争を阻害してしまいます。このような行為は、特許制 度の趣旨を逸脱するものであり、競争法に抵触する可能性があります。 具体的に特許権者のどのような行為が競争法上問題とされるのかは、イノベーションを促進するとい う特許制度の目的2と、技術市場における公正な競争を維持するという競争法の目的とのバランスで個別 に判断されることとなり、そのためのルールは、具体的な事案に関する判断を経ながら、より網羅的かつ 精緻に整備されていくことになります。 <欧州委員会によるルール整備と注目の論点> 現在、欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会【写 真】は、原則として特許権の行使を、欧州連合の単一市場にお ける重要な基盤としてイノベーションを促進する重要な役 割を果たすものとして是認・尊重する立場を表明しています 。その一方で、 「競争法の目的」の観点から、先に触れた特許 3 の活用の基本3パターン4について、EU市場に参入する企業 の行動を監視し、EUの競争法上のルールに照らして必要に 応じて企業の問題のある行動を是正しながら、そのルールを 目まぐるしく変化するEU域内市場の実情に適合させるため ●欧州委員会本部(ブリュッセル) に適時に改訂し続けています。 欧州委員会は、具体的には、問題があると疑われる企業の行動について、事後的にEUの競争法に違反す るかどうかを判断・決定して判断事例を蓄積するとともに、違反事例の発生を未然に防止する目的でその 判断基準の公平性・透明性・予見可能性を高めるためのガイドラインの改訂を模索するなどして、特許権 の競争法の側面に関するルール整備を行っています。現在、欧州委員会では、特に下記の3つの論点に注 目して検討しているところです。 ※次ページの★印を参照 これらを始めとする諸課題に関し、欧州委員会が、特許制度の有する将来のイノベーションを促す効果 を委縮させることのないよう、適正な競争法上の規制を実施していくことが望まれます。EUにおける特 許活用をめぐる競争法のルール整備の進展状況から今後も目が離せません。 1.我が国の独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54号)の第21条は、 「この法律の規定は、著作権法、特許法、実用新案 法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しない」として、知的財産権を行使する行為を、同法の適用対象から除外している。 2.我が国の特許法(昭和34年法律第121号)第1条は、 「この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目 的とする」と規定する。 3 . 欧 州 委 員 会 2 0 1 2 年 1 2 月 2 1 日 付 け メ モ ラ ン ダ ム「 S a m s u n g – E n f o r c e m e n t o f E T S I s t a n d a r d s e s s e n t i a l p a t e n t s ( S E P s ) 」 (http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-12-1021_en.htm)のQ&Aにおける「Is the Commission generally questioning the use of injunctions by patent-holders?」及び「What are the general implications of the case for patent protection?」に対する回答を参照。 4.①自社での独占実施、②(その1)技術移転契約、②(その2)技術標準策定に関連する多数当事者間でのパテント・プール形成の3つの類型 310 特許行政年次報告書 2013 年版 1.製薬業界における反競争的慣行1 ここで問題となっている新薬開発企業の行動は、特許の活用パターン①に該当する事例です。医薬品に関して言えば、 ルする権利を確保できることとなります。それ自体は先に述べたとおり問題にはならないのですが、欧州委員会が 2009年7月にまとめた製薬業界の特許和解の実態調査に関する最終報告書によれば、新薬開発企業とジェネリック医 薬企業との間の訴訟において、新薬開発企業が自身の特許権を濫用してジェネリック医薬企業の市場参入を遅らせたり 阻止したりするなど、問題のある和解合意が行われており、EU域内市場において製薬業界内での競争が阻害される事態 が生じているようです。 さらに、2013年1月31日に欧州委員会が発信したプレスリリースでは、欧州委員会が2012年7月以降、新薬開 発企業の行為に関し3件の事案について、反競争的であるとの予備的見解を示したことも紹介されています。 これらの事案においては、新薬開発企業が、ジェネリック医薬企業に対して、直接の金銭の支払いのほか、ジェネ リック医薬の在庫を買い取ることの見返りにジェネリック医薬を市場に投入しないことや特許権の有効性を争わな いことをジェネリック医薬企業に約束させていたとのこと。欧州委員会は、これらの行為について、特許権者が市場に おいて「支配的地位の濫用」を行ったとしてEUの競争法に違反すると指摘しています。ジェネリック医薬品の市場へ の投入が新薬開発企業及びジェネリック医薬企業の双方の合意によって先延ばしにされることにより、本来なされる べき価格競争が妨げられ、患者がより安価な価格で医薬品を購入する機会が奪われていることを、欧州委員会は問題 視しています。 このように、特許をめぐる当事者間の契約の内容には、反競争的な効果を生じ得るものが含まれる可能性がありま 国際的な動向と我が国の取組 その有効成分に関するたった1つの特許を保有しているだけで、特許権者は理論上その製造・販売についてコントロー 第4部 ★欧州委員会が注目する特許活用をめぐる競争法上の論点 す。新薬開発企業の研究開発のモチベーションを阻害せず、ジェネリック医薬企業の商活動も妨害することなく、消費 者が適正な価格で医薬品を入手することを含めた公衆の利益が尊重されるよう、欧州委員会は、バランスの取れた適 正な競争法上の規制を実現することを目指しています。 欧州委員会は、特許の活用パターン②(その1)に該当する、特許等の実施権をライセンスする「技術移転契約」に関 する競争法上のルール とそのガイドラインの改訂を提案しています。欧州委員会は、この改訂提案に対する利害関係 3 者の意見を聴取し、現行制度が失効する2014年4月末までに新たな制度を採択する予定です。 許権者にライセンスし返すよう義務付ける「排他的グラントバック条項」は、競争やイノベーションを阻害するおそれ があることから、競争法上問題ないものとして一律に取り扱うことはせずに、ケースバイケースで評価されることに 第2章 欧州委員会は、例えば、ライセンスを受けた実施権者が特許権などの知的財産権の有効性を争った場合に契約を解 除できるとの「契約解除条項」や、実施権者がライセンスを受けた特許発明に対して事後的に生み出した改良技術を特 第1章 2.技術移転契約に関するルール等の改訂2 することなどを提案しています。 このように、欧州委員会は、利害関係者の意見を適切に反映し、市場の実情により適合し、特許権者とライセンシー の双方にとって納得感のあるルールを構築することを模索しています。 3.携帯電話標準必須特許に基づくサムスンのアップルに対する侵害差止請求事件4 本件は、特許の活用パターン②(その2)に該当する事案です。この事案では、サムスンがアップルに対して自身の携 帯電話標準必須特許に基づき多数のEU加盟国において侵害差止めを求めていました。これに対し、2012年12月21 日に欧州委員会は、サムスンの侵害差止請求がEUの競争法によって禁止されている「市場における支配的な地位の濫 用」に当たるとの予備的見解をサムスンに通知しました。これは、唯一の特許によって商品の生産・販売のすべてがコ ントロールできることが多い医薬品とは異なり、通信技術に関する技術標準を策定する活動が多数の多国籍企業の参 加によって活発に行われ、製品には無数の特許を実装する必要があり、その結果、技術標準に特許を含むことが不可欠 となるという、携帯電話の技術分野特有の事情を背景に生じた事案だと言えるでしょう。 ただし、この予備的見解は、欧州委員会による調査の最終的な結論ではありません。また、欧州委員会は、この予備的 見解が妥当するのは、必須特許に係る特許保有者が「公正、合理的かつ非差別的な条件」 (いわゆる「FRAND条件」)に 5 基づいて実施権をライセンスすると自らが事前に交わした誓約に違反し、かつ侵害者にFRAND条件に基づくライセ ンスについて交渉する意思があるという限定的なケースにおいてのみであると強調しています。 欧州委員会の予備的見解に対するサムスンの反論及び欧州委員会のこの事件に関する最終判断は、本稿執筆の 2013年3月現在では明らかにされていませんが 、EUにおける知的財産と技術標準・競争法との今後の関係を占う 6 ランドマーク的な事件となることは間違いなさそうです。 1.JETRO欧州知的財産ニュース「欧州委員会、反トラストに係る製薬業界の調査状況について発表」参照。 http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/pdf/20130201_1.pdf 2.JETRO欧州知的財産ニュース「欧州委員会、技術移転契約に関する競争法制度改正案についてパブリック・コメントの募集を開始」参照。 http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/pdf/20130225_1.pdf 3.「技術移転一括適用免除に関する規則」 (欧州委員会規則772/2004号:通称「TTBER」)。 4.JETRO欧州知的財産ニュース「欧州委員会、携帯電話標準必須特許の濫用の可能性についてサムスンに異議告知書を送付」参照。 http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/pdf/20130107_1.pdf 5.fair(公正)、reasonable(合理的)and non-discriminatory(非差別的)の頭文字から、 「FRAND条件」と呼ばれる。 6.本稿執筆中の2013年3月21日に、 ドイツのデュッセルドルフ地方裁判所は、同裁判所に係属している中国の通信機器メーカー同士の特許侵害訴訟において、欧州委員会の予備的見解に基づく判断とドイ ツで確立された判例に基づく判断とが一致しない可能性があると判断し、その訴訟手続を中止するとともに、どのような場合に標準必須特許の保有者の行為が「市場における支配的な地位の濫用」に該当す ることになるのかを明確化するための質問を、EU法解釈の最終審級である欧州連合司法裁判所(CJEU)に付託した。これによって、サムスンのアップルに対する侵害差止請求事件に関する欧州委員会の最 終決定が、デュッセルドルフ地方裁判所から付託された質問に対するCJEUの判断を待って行われる可能性がでてきたことから、欧州の知的財産関係者の間では、欧州委員会によるこの事件の審理が長期 化するのではないかとささやかれている。JETRO欧州知的財産ニュース「デュッセルドルフ地方裁判所,標準必須特許権侵害に係る救済の在り方について,欧州連合司法裁判所に質問を付託」参照。 http://www.jetro.go.jp/world/europe/ip/pdf/20130424.pdf 特許行政年次報告書 2013 年版 311 第 2 章 諸外国・地域の動向 5 韓国 韓国では、2011 年の知識財産 1 基本法の施行を受けて、国家知識財産委員会が設立され、 知的財産強国および、豊かな未来の実現のため、知識財産の創出・保護・活用の好循環を政 策目標に掲げて、様々な取組を積極的に推進している。また、2013 年 2 月に政権を引き継い だ朴槿恵(パク・クネ)大統領も、新政権の 140 大国政課題の一つとして、知的財産環境の 整備を掲げるなど、知的財産重視の方向性を打ち出している。 本節では、韓国における産業財産権をめぐる動向や韓国特許庁の取組について紹介する。 (1)我が国との関係 韓国特許庁とは、1983 年に第 1 回日韓特 許庁長官会合を開催して以降、意匠、商標、 c.日韓商標専門家会合 第 9 回日韓商標審査専門家会合は、2012 機械化、審判に関する各種専門家会合や、人 年 4 月に韓国テジョンにて開催され、韓国 材育成機関間の会合等を毎年開催し、二国間 の新商標及び証明標章制度、ニース国際分類 の課題について意見交換を行っている。また、 表における日韓類似群コード対応表、悪意の 両庁における国際審査官協議も積極的に行わ 商標出願等、様々な議題について情報・意見 れており、特許審査についての相互信頼の醸 交換が行われた。また、2010 年 12 月の日 成を図っている。 韓特許庁長官会合で締結した覚書に従い、我 が国の地域団体商標のリストと韓国の地理的 ①韓国特許庁との各種会合について 表示等のリストの交換が行われた。 a.日韓特許庁長官会合 第 24 回日韓特許庁長官会合は、2012 年 12 月に東京にて開催され、特許分野では、 d.日韓機械化専門家会合 第 15 回日韓機械化専門家会合は、2012 審査官協議の継続・拡充、日韓 PPH の利用促 年 5 月に韓国テジョンで開催され、三極ネッ 進への協力、商標分野では、類似群コード、ID トセキュリティ向上、共通引用文献(CCD) リストの日韓翻訳の作成、審判分野では日中韓 プロジェクト、日韓間データ交換、ワンポー 審判専門家会合の前に日韓審判専門家会合を実 タルドシエ及びグローバルドシエ、機械翻訳 施すること、人材育成分野では韓国でセミナー 及びコーポラ 2、特許英文抄録・特許文書の を開催すること等について合意した。 電子化、WIPO のデジタルアクセスサービス (DAS) の改善、意匠公知資料データの交換に b.日韓意匠専門家会合 関する議論が行われた。 第 11 回日韓意匠専門家会合は、2012 年 11 月に東京にて開催され、ハーグ協定のジュ e.日韓審判専門家会合 ネーブ改正協定加盟に向けた両国の準備状況 第 3 回 日 韓 審 判 専 門 家 会 合 は、2012 年 や加盟に伴う具体的な運用、画像デザインの 11 月に韓国テジョンで開催され、両国特許 保護、意匠法条約、両国の審査実務等につい 庁が抱える、権利の安定性、日韓双方におけ て意見交換を行った。また、多くの共通する る審判制度の運用等の課題についての個別意 制度を有する両庁は、今後も両国の法改正や 見交換を行った。 意匠制度の国際議論にあたって、緊密に情報 交換していくことで一致した。 1. 韓国では、2011 年 7 月の「知識財産基本法施行令」の制定に合わせ、文学・芸術・デザイン・発明・特許など、すべての知的活動により創出される無形財産に関する法律 用語を「知識財産」に統一している。ここでは、固有名詞及び韓国政府による発表を引用した箇所について、 「知識財産」の語を使用している。 2. コーパスの複数形。コーパスとは、自然言語の文章を構造化し、大規模に集積したもの。特に、異なる言語の文と文を対訳にしてまとめた文書の集まりを指す場合、対 訳コーパスと呼ぶ。 312 特許行政年次報告書 2013 年版 て、「2013 年度国家知識財産施行計画」が 策定された。同計画においては、「競争力の 本法」の施行に伴い、「国家知識財産委員会」 ある知識財産の創出及び管理の強化」、「知識 を設置すると共に、第 1 次国家知識財産戦 財産の執行及び紛争対応支援の強化」、「知識 略計画(2012 ∼ 2016)を策定し、知識財 財産金融及び事業化の促進」、「知識財産構成 産の創出・保護・活用の好循環体系の構築を 社会の具現」、「知識財産専門人材養成及び認 通じた「知識財産強国、豊かな未来」の実現 識向上」、 「国家知識財産ガバナンス強化」、 「地 に向けた取組を行っている。具体的には、企 域における知識財産能力の強化」、「新知識財 業における知的財産と R&D との連携戦略支 産育成基盤の構築」、といった重点 8 大推進 援、標準特許取得戦略、官民特許管理会社に 課題が掲げられ、今年度は総額約 2 兆 4400 1 よる NPE(Non-Practicing Entity )対策、知 億ウォンの予算(予定)が投じられる計画で 的財産ポートフォリオ強化の支援等を行って ある。 いる。 2012 年 1 月、韓国政府は、国家知識財産 委員会において、李明博大統領(当時)、金 ②具体的な知的財産施策 a.国家R&Dの促進 産強国元年」と宣言し、知的財産政策に対し の高さ、知的財産権の総括的管理体系の未整 積極的に財源配分を行った。この流れを受 備と、これに起因する慢性的な技術貿易赤字 けて、2013 年 2 月に政権を引き継いだ朴槿 等が指摘されている。このような状況に対 恵(パク・クネ)大統領も「創造経済の実現 し、国家 R&D 促進のため 1999 年に科学技 に向けた知的財産の環境構築」を新政権の 術の主要施策、研究開発計画・予算配分の審 140 大国政課題として発表している。 議を行う国家科学技術委員会を設置すると共 に(2011 年に大統領直属の行政委員会組織 ①知識財産基本法と国家知識財産基本計画 に改編)、2010 年に知識経済部において「知 2011 年 7 月、知的財産の創造、保護及び 識経済 R&D 戦略企画団」を設置し、同部内 活用に関する基本理念並びにその実現に向け の R&D 予算配分、政策調整などを行ってい た基本事項を規定する知識財産基本法が施行 る。具体的施策としては、核心素材 10 分野 され、政策の立案・推進のために「国家知 において事業団を設立し、最終的にこれらの 識財産委員会」が設置された。これを受け、 各分野における世界シェア 30% 以上の獲得 2011 年 11 月には、「第 1 次国家知識財産 を目指すと共に、「部品・素材未来ビジョン 基本計画(2012 ∼ 2016)」が議決された。 2020」を制定し、2020 年までに部品・素 この計画では、5 大分野として「価値ある知 材輸出 6,500 億ドル、貿易収支 2,500 億ド 識財産の創出促進」、「知識財産保護の実効性 ルを達成し、世界第 4 位への浮上を目標に 確保」、「知識財産による新産業創出及び公正 掲げている。 第2章 韓国においては、源泉技術に対する依存度 第1章 滉植国務総理出席の下、2012 年を「知識財 国際的な動向と我が国の取組 韓国政府は、2011 年 7 月の「知識財産基 第4部 (2)近年の知的財産政策の動向 な活用秩序の実現」、「知識財産と親和的な社 会基盤の造成」、「新知識財産保護及び育成体 系の確立」が掲げられて、グローバル競争力 b.中小企業の育成 韓国政府は、中小企業の育成を目的として、 の強化や知的財産審査・登録の安定性向上、 知的財産 R&D 連携の高度化支援(知的財産 知的財産権人材の育成等が重点推進課題とし 中心の技術獲得戦略支援、先端部品素材の知 て挙げられている。また、2012 年 12 月に 的財産 R&D 連携支援等)、知的財産経営支 は、第 7 回国家知識財産委員会会議におい 援(地域特許総合コンサルティング事業、地 1. 自らは製品の開発や製造を行わず、他社から取得した特許権を利用した特許侵害訴訟により収益を稼ぐ組織。 (第 4 部第 2 章 2.コラム 28 参照) 特許行政年次報告書 2013 年版 313 第 2 章 諸外国・地域の動向 域知的財産センターの運営等)、デザイン・ 訟防衛のための特許購入等を行っている。こ ブランド分野の支援、各種財政的支援を実施 れらの官民特許管理会社は、NPE から自国 している。更に、中小企業の技術保護支援と の企業を守る目的で設立されたものである して、韓国知識財産協会(KINPA)の設立、 が、近年では、国家的な知的財産ポートフォ 大企業と中小企業が共に成長する「同伴成長」 リオ構築の意味合いが強くなっている。 の強化、知的財産権濫用の取締強化などの対 策も行っている。 (3)韓国特許庁の取組 韓国特許庁は、特許、実用新案、意匠、商 c.標準特許戦略 韓国政府は、2009 年に「標準特許の戦略 的創出支援総合対策」を策定し、国内の産・ 標、半導体集積回路、並びに営業秘密を所管 する、知識経済部(2013 年、産業通商資源 部に改編)の外局である。 学・官における付加価値の高い標準特許の創 出を専門的に支援する「標準特許半導体財産 チーム」を韓国特許庁内に設立し、韓国特許 ①韓国特許庁の2013年度業務計画 2013 年 3 月に金榮敏(キム・ヨンミン) 情報院(KIPI)内にも、標準特許の戦略的創 庁長が就任し、新体制の下での韓国特許庁の 出支援の専門機関である「標準特許支援セン 新たな業務計画が示された。この計画は、新 ター」を設立した。標準特許取得支援として、 政権を意識し、朴槿恵大統領の国政哲学であ R&D 段階における技術動向分析、国際標準 る「国民の幸せ」を実現するための実践課題 制定時における特許戦略支援、標準特許制定 等が明示されている。主な内容は以下のとお 後のフォローアップ支援、中小企業を対象と りである。 したオーダーメイド型支援、標準特許創出基 a.知的財産権創出の支援システムを革新 盤整備などを行っている。 ・1次審査待ち期間を、2015年までに特許10か 月、意匠5か月、商標3か月に短縮するととも d.国際知的財産紛争への対応 に、審判処理期間を7か月に短縮する。 市場参入阻止の手段としての知的財産活 ・R&D-標準-特許を相互連携するオーダーメイ 用、NPE の増加などによる知的財産紛争の ド型戦略により、標準特許確保に向けた支援 増加を背景に、韓国政府は、現地における情 を拡大する。 報収集、権利取得支援等を目的とした海外 IP-DESK の設置、各種ガイドブック、国際知 的財産紛争情報ポータルサイトなどの情報提 b.知的財産の保護、及び創造経済を牽引 できる人材の育成 供、コンサルティングサービス、知的財産保 ・オン・オフラインの模倣品取 締りを強化す 険加入支援など、国際知的財産紛争対応な ると同時に、特許訴訟の管轄集中及び弁理 どの支援を行っている。2012 年 11 月には、 士の共同訴訟代理制度の導入などを推進す 知識財産権紛争対応センターが開設され、韓 る。 国企業が直面する知的財産権の紛争状況に応 ・個別企業に合わせたコンサルタント支援、技 じて、「平時・警告・対応」の 3 段階におけ 術別団体間の協力体制構築、海外知識財産 る支援サービス、紛争情報を提供している。 センター(IP-DESK)の拡大等を通じて知的財 産権紛争対応の支援を強化する。 e.官民特許管理会社 韓国では、2010 年に 2 つの官民特許管理 ・専門人材育成や、発明教育の強化に積極的 に取り組む。 会社(IP キューブパートナーズ、インテレ 314 クチュアル・ディスカバリー)が設立されて c.地域・中小企業の知的財産活用能力強化 おり、アイデア・特許等の購入、特許化、訴 ・金融支援拡大、大学・公的研究機関の特許 特許行政年次報告書 2013 年版 頭に置いた制度改正等が予定されている。 制度の定着等を推進する。 ・知的財産の有望中小企業を「IPスター企業」 として、2017年までに1,500社育成する。 中小企業間の相互協力を拡大する。 ・公知例外適用期間(グレースピリオド)を12 か月に延長。 ・登録遅延に伴う特許権存続期間の延長制度を 導入(出願日から4年又は、審査請求日から3年 d.国民の幸せのための知的財産行政サー ビス提供 ・出願人の利便性を高めるための様々な法令 のうち遅い日までに設定されなかった場合に、 遅延期間特許出願人の請求により、その遅延し た期間分特許権の存続期間を延長。 を見直し、迅速かつ便利な相談サービスや手 ・不実施による特許権取消制度の廃止。 数料の合理化策等を設ける。 ・秘密維持命令制度の導入。 ・特許情報検索システム(KIPRIS)の高度化 や、世界の特許情報を充実化したビッグデー タの構築により、電子政府3.0の実現に積極 的に取り組む。 b.特許法改正(2013年7月1日施行、ただ し、一部3月22日施行) 国際的な動向と我が国の取組 ・知的財産のボランティア活動を通じた大手・ a.特許法改正(2012年3月15日施行) 第4部 技術の利用度向上、企業内の職務発明補償 ・出願人の責めに帰することができない事由 により審査請求又は再審査請求の期間を途 過した特許出願について、その回復規定を新 ・途 上国の現 地に合わせた適 切な技術の開 設。 発・普及の拡大、途上国の知的財産能力の強 化を支援するなど、先進・途上国間の知的財 ・特許、及び商標分野の先進5ヵ国の協力体制 に積極的に参加し、韓国の影響力を拡大す る一方、FTA交渉等を通じて知的財産権の保 護環境も見直していく。 料にまで拡大。 ・共同出願について、特許を受ける権利の譲渡 等を受けた者も共同出願人とするよう規定を 整備。 第2章 産の格差を解消する。 ・手数料返還対象を、優先権主張の申請手数 第1章 e.信頼される知的財産の模範国家建設 ・特許を受けられない要件のうち「大統領令で 定めた電気通信回線を通じて公衆が利用可 能な発明」から大統領令を削除。 ②制度改正の動向 ・明細書等の手続補正について、最後に補正さ 2012 年における韓国の知的財産制度改正 れた発明を明確化するために、最後に行った の主な動向として、特許法関連では、韓米 手続補正以前のものを取り下げられたものと FTA に対応し、公知例外適用期間(グレース みなす規定を新設。 ピリオド)の延長、登録遅延による特許権存 ・分割、変更出願の優先権証明書提出期間及び 続期間の延長、医薬品許可−特許連携制度が 冒認出願に対する正当な権利者の出願につい 上げられる。2013 年 3 月にも、国内の環境 ての審査請求期間について、要件を緩和。 変化や需要に対応し、特許出願における回復 機会の拡大、手数料返還対象の拡大、電気通 c.商標法施行規則改正 信回線範囲の制限規定の削除等を盛り込んだ (2012年1月1日施行) 改正が行われている。商標法については、音・ 2012 年 1 月 1 日から施行予定のニース分 匂いの商標、証明商標の導入などが挙げられ 類 (NICE Classification) 10 版 の 改 編 事 項 及 る。今後は、特許法条約(PLT)に対応した び取引市場での商品及びサービス業の取引実 特許法改正、ハーグ協定のジュネーブ改正協 態を反映して、商標法施行規則商品類区分と 定加盟に伴うデザイン国際出願制度の整備等、 サービス業類区分を改正した。 商標法に関してはシンガポール条約加盟を念 特許行政年次報告書 2013 年版 315 第 2 章 諸外国・地域の動向 d.商標法改正 ・創作性判断基準の国際主義採択。 ア)2012年3月15日施行 ・出願日後20年間の権利存続期間。 ・音、匂い商標の導入。 ・類似意匠制度の廃止及び関連意匠制度の導 ・商品・サービスの品質、特性等を証明・保証 する証明商標制度の導入。 ・専用使用権の登録を効力発生要件から第三 者対抗要件に変更。 入。 ・同一人による出願に対する拡大先願の適用 の排除。 ・複数意匠出願範囲の拡大(審査/無審査(一 ・5,000万ウォン(約400万円)以下の少額損 部審査)問わず20件から100件まで可能)。 害賠償訴訟に対する法定損害賠償制度の導 ・新規性喪失の適用除外の主張可能期間の拡 入。 大。 ・使用意思確認制度(例えば、指定商品等が5 類区分以上指定されている場合、拒絶の対 象となる。)。 f.薬事法改正(医薬品許可-特許連携制度) オリジナル薬の医薬品許可を受ける際に、 その医薬品の特許権を「グリーンブック」に イ)2012年4月1日施行 登録し、後にジェネリック薬の品目許可申請 ・手数料加算制度(類区分あたり20個以上の があった際、特許権者に通知し、特許権者に 指定商品に対し、1指定商品ごとに2,000ウォ よる侵害訴訟提起、権利範囲確認審判請求等 ン賦課される。)。 により、ジェネリック薬の市販防止措置を可 能とする内容の制度を導入した(ただし、市 e.デザイン保護法改正(2012年9月4日立 法予告) ・ハーグ協定加入及び、国際意匠出願制度の 販防止措置については、韓米 FTA 発効後 3 年間猶予中であることから、2013 年 4 月時 点で具体的な制度は未確定)。 導入(2013年9月加入、2014年1月1日発効予 定)。 コラム31 Column 朴 槿恵(パク・クネ)新政権下での知的財産施策 2012年12月19日、韓国大統領選挙が行われ、セヌリ党のパク・クネ新大統領が誕生した。今回の選挙 では、韓国財閥系企業に一極集中している富を法により適正に配分すべきとする「経済民主化」がキー ワードとなり、財閥構造の全面改革を目指す民主統合等の文 在寅(ムン・ジェイン)候補と激しく競い合 うこととなった。また、各候補の公約内容などから、比較的高齢者が支持するパク・クネ新大統領と、若者 層が支持するムン・ジェイン候補に2分化され、従前みられた各候補者の出身地域や支持母体などを離 れ、 国家を2つに分ける激しい選挙であったと評価されている。 パク・クネ新政権においては、 「創造経済」の実現がもう一つの大きな公約としてうたわれている。これ は、創造的な中小・ベンチャー企業の育成を図り、 「創造経済を通じて、全ての分野で想像力と創意性を生 かし、各産業の融合を促進することにより、新たな付加価値と雇用を創出する」 (大統領就任式2月25日) ことを目指すものである。 さて、このようなスローガンを掲げる新政権であるが、知的財産に関しては、どのような施策がとられ るのであろうか。このコラムを作成している時点において、具体的な施策はまだ見えていないが、いくつ か情報をご紹介したい。 316 (1) 知的財産に関する国政課題 特許行政年次報告書 2013 年版 新政権は、韓国の国政課題を140大国政課題として発表し、 その中で、知的財産に関するものを「27. 知的財産の創出・保護・活用体系の先進化」 として挙げている。 <課題概要> かし、各産業の融合を促進することにより、新たな付加価値と雇用を創出する」 (大統領就任式2月25日) ことを目指すものである。 さて、このようなスローガンを掲げる新政権であるが、知的財産に関しては、どのような施策がとられ るのであろうか。このコラムを作成している時点において、具体的な施策はまだ見えていないが、いくつ (1) 知的財産に関する国政課題 新政権は、韓国の国政課題を140大国政課題として発表し、その中で、知的財産に関するものを「27. 知的財産の創出・保護・活用体系の先進化」 として挙げている。 知的財産が効率的に創出/保護/活用される知的財産市場生態系の早期構築 <主要推進計画> ①IP価値評価、金融活性化等、知的財産活用の極大化 ・研究開発/標準/特許の三角連携による高付加価値な源泉・標準特許の戦略的確保 ・知的財産サービス産業育成基盤の構築及び専門人材の養成 ②知的財産権利救済実行性確保及び侵害対応強化 ・特許訴訟管轄制度の改善、訴訟代理の専門性強化 ・デジタルフォレンジック等、知的財産権侵害に対する捜査技術・専門性の向上、関係機関における情 報共有・協力強化 ・海外支援センターの連携・拡充、国際協力を通じた侵害防止・権利救済支援 ③中小・中堅企業知財権紛争対応力量強化 ・中小・中堅企業の知的財産力向上による紛争予防支援 ・国際知的財産権紛争に対する段階別オーダーメード支援体系の運営 国際的な動向と我が国の取組 <課題概要> 第4部 か情報をご紹介したい。 ④正当な知的財産補償体系の確立及び国民認識の引上げ ・職務発明に対する正当な補償の活性化 新政権では、政府組織の改編が予定されており、その中から、産業政策ないし知的財産政策に関連する 組織再編のうち、主なものを紹介する。 ①未来創造科学部の創設と知識財産戦略企画団の移管 括などを主に担う予定である。また、国務総理室に置かれていた知識財産戦略企画団がここに移管され、 第2章 新政権による最も大きな組織改編は、未来創造科学部の新設であろう。これは、教育科学技術部と知識 経済部の一部が移管されたもので、科学技術政策の立案、国家研究開発(R&D)の統括、情報通信分野の統 第1章 (2) 組織再編 国家R&Dによる基礎研究から事業展開のための産業技術開発まで、一貫した知的財産政策を実現すると している。ただし、国家知識財産委員会は、従前 どおり国務総理室に置かれる予定である。 ②知識経済部の産業通商資源部への改編 知識経済部におけるR&D業務が上述の未来創 造科学部に移管される一方、通商業務が外交通 商部へ移管され、新たに産業通商資源部に改編 されることにあった。これにより、産業政策と通 商政策とを連携し、例えばFTA交渉などにおけ る対応力を向上させるとしている。 新政権の「経済民主化」と「創造経済」の実現と いうキーワードからみて、中小・ベンチャー企業 のブランド、技術力向上、そしてこれを支援する ための国家R&Dの推進と高付加価値な知的財産 の創出/保護/活用に官民挙げて取り組むであろ うことは、想像に難くない。新政権においても、 知的財産政策は、重要な国家課題であるといっ てよいだろう。 【韓国の行政機構(2013年4月1日時点)】 特許行政年次報告書 2013 年版 317 第 2 章 諸外国・地域の動向 6 台湾 台湾では、喫緊の課題とされている審査順番待ち件数の削減に取り組む一方で、発明専利 加速審査作業方案(AEP)や、 内外ユーザーの要望を反映した専利法及び商標法の大規模改正、 我が国および米国との間で特許審査ハイウェイを実施するなど、知的財産制度の利便性向上 にも注力している。本節では、台湾における産業財産権をめぐる動向や台湾智慧財産局の取 組について紹介する。 (1)我が国との関係 版の取締り強化、大学等における知的財産権 我が国と台湾は経済的な関係が強く、日 保護徹底、知的財産権の教育・宣伝強化、他 本から台湾への特許出願件数についても、 国との交流や協力の強化、発明奨励及び企業 2012 年 に は 12,646 件( 総 件 数 51,189 件 による商品化のサポート等、8 大目標を掲げ、 の 24.7%)と日本から海外への出願では、五 具体的な取組を計画、実施している。 大特許庁に次ぐ規模となっている。また、台 湾における国籍別出願件数を見ると、外国籍 では、日本からの出願が最も多い。この状況 ②国家知的財産戦略綱領 2012 年 10 月、台湾行政院において「国 下、2012 年 4 月には、 (公財)交流協会と(財) 家知的財産戦略綱領」が策定された。同綱領 亜東関係協会との間で、民間覚書である「特 では、知的財産権の保護と流通を実施すると 許審査手続分野における相互協力に関する覚 共に、国家知財能力を整合して産業競争力を 書」が署名されたことを受け、2012 年 5 月 向上させる 6 大戦略として、1)高付加価値 より日台特許審査ハイウェイ(PPH)試行プ 化された専利の運用創造、2) 文化コンテン 1 ログラムを開始した 。 ツ利用の強化、3) 卓越した農業価値の創造、4) 学界における知的財産流通の活性化、5) 知 (2)近年の知的財産政策の動向 台湾では、2002 年の WTO 加盟及び「知 的財産権の保護貫徹行動計画」策定、2004 的財産権の流通及び保護体制の実施、6) 質、 量共に充分な知的財産実務人材の育成、を打 ち出している。 年 11 月の保護智慧財産権警察大隊の発足、 2008 年 7 月の智慧財産法院の設立等、知的 財産の保護が着実に強化されている。また、 ③海峡両岸知的財産権保護協力協議 2010 年 6 月に重慶で開催された両岸(台 近年では、知的財産における中台両岸の協力 湾と中国)の窓口トップ会談である第五回江 関係も強化されている。以下、主要な知的財 陳会において、「海峡両岸知的財産権保護協 産政策について紹介する。 力協議」が締結され、同年 9 月に発効した。 同協議では、1) 専利・商標の優先権の相互 ①知的財産権の保護貫徹行動計画 承認、2) 植物品種権の保護、3) 知的財産諸 台湾行政院は、知的財産権の保護政策の実 問題の協議処理メカニズムの構築、4) 業務 施を目的として、2002 年より「知的財産権 交流の 4 点について、今後必要な対応を行 の保護貫徹行動計画」を 3 年ごとに策定し うことで合意している。また、両岸協力の一 ている。現在は、2011 年に策定された「知 環として、2011 年より台湾人による中国専 的財産権の保護貫徹行動計画(2012-2014 利代理人試験参加が可能となった。試験合格 年)」に基づいて各種の取組を実施している。 者は、中国の事務所に在籍することを条件と 本計画では、法制度の質向上、模倣品・海賊 して、中国で専利代理人として活動を行うこ 1. 我が国特許庁としては、交流協会に対して我が国国内法令の範囲内でできるかぎりの支持と協力を与えるとの立場から日台 PPH 試行プログラムを実施。 318 特許行政年次報告書 2013 年版 ②早期権利付与に向けた取組 台湾智慧財産局では、2009 年に開始した 「発明専利加速審査作業方案(AEP)」に基づ (3)台湾智慧財産局の取組 台湾智慧財産局は、特許、実用新案、意匠、 き、「加速審査」と呼ばれる早期審査を実施 している。この制度では、出願人の請求から 秘密を所管する、台湾経済部の外局である。 原則として6か月又は9か月以内に審査結果 の通知書を発行する制度となっている。 ま た、2011 年 9 月 に は、 台 米 PPH 試 ①清理専利積案計画(専利滞貨クリーン アップ計画) 行プログラムを開始し、我が国との間でも 台湾智慧財産局では、審査順番待ち期間の 2012 年 5 月より日台 PPH 試行プログラム 増加が大きな問題となっており、台湾行政院 を開始した。 利滞貨クリーンアップ計画)」に従って、順 (TW-Support Using the PPH Agreement)方 番待ち件数の解消をするために、任期付審査 案」を実施している。これは、台湾智慧財産 官の採用、検索外注機関である(財)専利検 局(第一庁)に出願後、同一発明を PPH 実 索中心の設立 (2012 年 5 月 ) 等の取組を実 施庁(第二庁)に出願した場合に、同方案を 施している。この結果、2012 年通年の審査 利用することによって、台湾智慧財産局にお 処理件数は、行政院が設定した目標を大きく いて審査結果を 6 か月以内に得ることがで 上回る 52,425 件(前年比 43.13% 増)となり、 きる。台湾における審査期間が大幅に短縮 2012 年末における特許審査の順番待ち件数 されるとともに、その後、第二庁において は、4 年連続の増加傾向から減少に転じ、前 PPH を利用することによって、権利を迅速 年比で 7,790 件減の 152,509 件となった。 に取得することが可能となった。 【TW-SUPA の概要】 4-2-13 図 第1庁(OFF) TIPO TW 出願案件 第2庁(OSF) USPTO又はJPO TIPOは6ヶ月以内に OAを発出 TW-SUPAを申請 優先権 主張 第2章 さ ら に、2012 年 3 月 よ り、「TW-SUPA 第1章 において承認された「清理専利積案計画(専 国際的な動向と我が国の取組 商標、著作権、半導体集積回路、並びに営業 OSFへの出願から6ヶ月以内に TIPOへTW-SUPA申請を提出 第4部 とが許可される。 審査意見 通知 申請費用:4,000元(NTD) 応答補正 査定書 TW出願案件に対する TW-SUPA加速審査 JP、US 対応出願 ③制度改正の動向 2011 年にユーザーの要望を多く取り込ん PPHを申請 USPTO、JPOによる 早期審査 ・新規性喪失の例外事項として、刊行物発表を 追加。 だ、専利法及び商標法の改正が行われ、数年 ・故意でなく出願時の優先権主張をしなかっ ぶりの大規模改正となった。また、2013 年 た場合、納付期限内に専利証書費若しくは年 1 月には営業秘密法の改正草案が立法院(国 金を納めなかったため失権した場合に、その 会に相当)を通過し、営業秘密の漏洩に対す 権利回復を申請するメカニズムの新設。 る罰則が強化されている。 ・特 許 請求の範囲と要約の明細書からの独 立。 a.専利法改正(2013年1月1日施行) 主な改正内容は以下のとおりである。 ・出願人による自発補正の時期的制限を緩和 し、特許出願の初審における特許査定後30 特許行政年次報告書 2013 年版 319 第 2 章 諸外国・地域の動向 日以内に出願分割できるよう緩和。 ・専 利権の効力が及ばない事 項について改 正。例えば、非商用目的の非公開行為、台湾 内外の薬物市場での販売許可の取得を目的 とする研究試験、国際消尽原則の明確な採 用等。 ・医薬品又は農薬の専利権の期間延長に関す る規定を改正。 ・強制実施権の理由、手続及び補償金査定の 規定を改正。 ・開発途上国及び後発開発途上国(LDC)の公 衆衛生問題のために、薬品の製造と輸入の 強制実施を可能とした。 ・専利の無効審判制度を改正。例えば、職権に ・商標の不当な併存登録の回避規定。 ・故意でない納付期限徒過について回復規定 を新設。 ・消費者に誤認・混同を引き起こすおそれがあ る場合、使用事実の立証規定を新設。 ・「損害賠償」は侵害行為者に主観上の故意・ 過失があることを必要とする。 ・著名商標の識別性又は、信用・名誉毀損のお それの「可能性」だけで権利侵害行為とみな す。 ・他人の「登録商標」を自己の会社名称等にす ることを侵害とする。 ・税関の職 権による押収の法的 根 拠の明確 化。 よる審査の排除、一部請求項に対する無効 ・産地証明標章、産地団体商標などを明確化、 審判請求を可能とした(無効審判と訂正審判 証明標章権の直接・間接侵害の刑事罰規定 の合併審判・合併査定等)。 を新設。 ・専利権侵害の主観要件を明確に定義し、損 害賠償の計算方式、専利(登録番号の)表示 c.営業秘密法改正 の規定を改正。 (2013年1月に立法院通過) ・同一出願人による特許と実用新案の同日出 台湾において情報漏洩事案が発生したこと 願に関する規定を新設。智慧局が特許可能 を受けて罰則強化の声が高まり、従来の民事 と認めた場合に、出願人にどちらの権利を選 責任に加え、刑事責任を問う内容が追加され ぶのかを選択させ、出願人が特許を選んだ ている。主な改正項目は以下のとおりである。 際に、実用新案はなかったものとみなす。 ・刑事罰の追加:最大5年の懲役、5,000万台 ・部分意匠、アイコンとグラフィカルユーザーイ ンターフェースの意匠、組物意匠を解禁し、関 連意匠制度を新設。 湾ドル(約1.5億円)の罰金など厳罰化。 ・域外加重規定:営業秘密の台湾外への持ち 出しに対し、罰則を加重し非親告罪とした。 ・刑事罰の両罰規定:法人の代表者又は従業 b.商標法改正(2012年7月1日施行) 員が、業務の遂行によって刑事責任を負う場 主な改正内容は以下のとおりである。 合、法人に対しても罰金を課す。 ・商標登録の保護客体を拡大。例えば、匂い、 動きやホログラムなどの新しい商標。 ・「商標の使用」の態様について明文化。 ・登録料の二期分納制度を廃止。 320 特許行政年次報告書 2013 年版 ・違反防止行為者の保護:両罰規定は存在す るものの、法人等が違反行為防止措置を実施 していれば、処分対象より除外する。 台湾における日本ブランド 台湾は東日本大震災以降、親日の地域として度々日本で取り上げられるようになりました。交流協会が 2012年に実施した調査によりますと、最も好きな国は日本であると答えた方が41%(2位は中国、米国 でそれぞれ8%)に上り、群を抜いて多い結果となっております。また、4分の3の台湾人が日本に親しみ を感じるとも答えており、台湾は日本ブランド、メイドインジャパンが非常に高く評価される地域である と言えます。 例を挙げますと、台湾で日系企業のコマーシャルがテレビで放映されると、日本製であること、日本の 部品を利用していることが強調されることがあるだけでなく、わざと日本語のままコマーシャルが放映 されることがあります。現地の日本人に理由を聞くと、日本製、日本ブランドであることを最も消費者に 伝えることが出来る方法であるとのことで、日本ブランドの台湾での力の大きさを深く実感した出来事 でした。 国際的な動向と我が国の取組 Column 第4部 コラム32 しかしながら、このように日本ブランドが力を発揮する地域であるからこそ、模倣品の発生や、先取り 商標などの問題が台湾において数多く存在しています。台湾に進出しようとして、自社商標の調査を行う と、ほぼ同じ商標が登録されていたり、消耗品の模倣品が発見されたり、日本コンテンツの海賊版が大量 台湾への日本からの直接投資も2011年には441件と過去最高の数字となっており、日台のビジネス における協力がより促進される中、今後も問題は継続していくことが予測されますが、日本ブランドを活 特許行政年次報告書 2013 年版 第2章 かす上で基礎となる知的財産権の準備に万全を期すことが台湾ビジネスにおいて重要になります。 第1章 に販売されているなど、多くの日本ブランド、コンテンツが無断で使用されています。 321 第 2 章 諸外国・地域の動向 7 インド インドは、近年、知的財産制度の強化に向けた取組を進めており、2012 年 9 月には、政府 として取り組むべき方針を示した国家知的財産権戦略の草案を発表した。一方で、インドで は、2012 年 3 月に、ドイツの製薬メーカーが所有するがん治療薬の特許に対して、現行法下 で初となる強制実施権が発動されている。 本節では、インドと我が国の関係、近年の知的財産政策の動向及びインド特許意匠商標総 局の取組について紹介する。 (1)我が国との関係 インドは、BRICS の一角として、近年、急 速に経済成長しており、我が国からの企業進 出も拡大している。そのような中、両国間の 年には、マドリッドプロトコル議定書への加 盟を視野に入れた改正商標法が議会を通過し ている。 近年は、知的財産制度の強化に向けた動 経済関係の強化のために、2011 年 8 月には、 き が 加 速 し て い る。 イ ン ド 政 府 は、2010 日インド包括的経済連携協定(JICEPA)が 年∼ 2020 年を「イノベーションの 10 年」 締結された。また、インドは、日本と共に、 と 宣 言 し、2020 年 ま で の ロ ー ド マ ッ プ を 2012 年 11 月に交渉が立ち上げられた東ア 策定するために国家イノベーション評議会 ジア地域包括的経済連携 (RCEP) の参加国で (National Innovation Council)を設置した。 もある。 また、2011 年 5 月には、ロードマップ策定 知的財産の分野においても、インドにおけ の一環で、セクター別委員会として、民間 る審査能力の向上に向けて、人材育成等で 企業、学術研究機関、政府関係者等が委員 協力を進めている。2009 年度からは、先行 となり知的財産委員会(Sectoral Innovation 技術文献調査及び審査実務に主眼をおいた Council on IPR)が設置された。同委員会が 3 か月の特許審査実践研修を実施している。 中心となり、2012 年 9 月には、国家知的財 2012 年 5 月には、インド特許意匠商標総局 産権戦略の草案を発表している。本草案には、 からの要請に応じて、新規採用の特許審査官 審査処理の迅速化や電子化の推進を含む特許 に対して特許審査実務に関する研修を実施す 意匠商標総局の機能強化、エンフォースメン るために我が国から特許審査官を派遣した。 トの改善、実用新案制度の導入、営業秘密保 また、国際審査官協議も 2010 年度から開始 護制度の整備など、知的財産制度の創造を推 しており、2012 年 12 月には、我が国特許 進し、その活用を奨励するために政府が採る 庁の 2 名の特許審査官をチェンナイに派遣 必要のある措置の方針が示されている。 した。 また、従来インドでは、裁判に長期間を 要すると言われてきた。米国のスペシャル (2)近年の知的財産政策の動向 301 条報告書 1 でも、その点が指摘されてい インドの知的財産制度は、1995 年の世界 たが、インド政府は、2009 年に裁判の平均 貿易機関(WTO)への加盟以来、数度の法 期間を 15 年から 3 年に短縮化することを掲 改正がなされるなど、整備が進められてきた。 げた国家訴訟政策を発表し、改善に取り組ん 2005 年に施行された改正特許法により、物 できた。その結果、2012 年の米国のスペシャ 質特許制度が導入され、医薬品関連発明に対 ル 301 条報告書では、裁判期間に対する指 して特許が与えられるようになった。2010 摘は削除された。 1. 知的財産権保護が不十分な国を特定するため、米国通商代表部が毎年公表しているレポート。警戒レベルには高い順に「優先国」、 「優先監視国」、 「監視国」の 3 段階が あり、 「優先国」に特定されると調査及び相手国との協議が開始され、協議不調の場合には対抗措置(制裁)への手続が進められる。2012 年のレポートにおいて、イン ドは、 「優先監視国」に指定されている。第 4 部第 2 章 2. (2)⑥ 322 特許行政年次報告書 2013 年版 る 5000 年の歴史を持つ伝統的医学を始めと を求める請求を行ったが、知的財産控訴委 する伝統的な知識が存在する。インド政府は、 員会は、2012 年 9 月に暫定停止請求、また 自国の伝統的知識を証拠に拒絶されるべき発 2013 年 3 月に不服申立てをそれぞれ却下し 明が誤って特許にされるのを防ぐため、イン た 4。 ドの伝統的知識を収録した「インド伝統的知 識電子図書館 (TKDL)」を作成し、インター (3)インド特許意匠商標総局の取組 インドでは、近年の経済成長にあわせて、 ネットを通じて各国の知的財産庁へ提供して いる。我が国特許庁は、2011 年 4 月にアク 特許出願件数も急速に増加しており、審査順 セス契約をインドと締結した。 番待ち件数の増大が課題となっている。イン ド特許意匠商標総局は、審査官を大量増員す 2012 年 3 月には、現行法下で初となる強 1 制実施権 が発動された。同事案では、ドイ るなど、審査処理促進に向けた取組を進めて ツ製薬メーカーが持つがん治療薬の特許に いる。インド特許意匠商標総局の取組を後押 ついて、2011 年 7 月、インドのジェネリッ しするため、我が国特許庁は、日本開催研修 ク医薬品製造企業が強制実施権の発動を申 への審査官の受入れやインドへの講師派遣な 請した。この申請に対し、インド特許意匠 ど、人材育成に対して積極的に協力をしてい 商標総局は、強制実施権の発動要件を規定 る。 したインド特許法第 84 条に基づき、一定の また、インド特許意匠商標総局は、電子出 願受付及びインターネットによる公報検索 定に対して、2012 年 5 月、特許権者である サービス導入等の近代化プログラムを進めて ドイツ製薬メーカーは、知的財産控訴委員 いる他、2007 年の WIPO 加盟国総会で承認 3 会(Intellectual Property Appellate Board) された国際調査機関・国際予備審査機関とし に不服の申立てをすると共に、不服申立ての ての業務開始に向けた準備も進めている。 インドにおける特許出願件数と GDP の推移 4-2-14 図 インド 第2章 条件の下で当該特許の利用を許可した 。同決 第1章 2 国際的な動向と我が国の取組 結果が出るまでの強制実施権の暫定的な停止 第4部 インドには、「アーユルベーダ」と呼ばれ 日本 米国 EU 中国 韓国 (出願件数) その他 名目GDP (10億インドルピー) 45,000 100,000 40,000 90,000 80,000 35,000 70,000 30,000 60,000 25,000 50,000 20,000 40,000 15,000 30,000 10,000 20,000 5,000 10,000 0 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 0 (年) (資料)特許出願件数:WIPO Insustrial Property Statistics、 (資料) 特許出願件数:WIPOWorld Insustrial 名目GDP:IMFEconomicProperty Outline Statistics、 (2012年10月)を基に特許庁作成 名目 GDP:IMF- World Economic Outline (2012 年 10 月)を基に特許庁作成 1. 一定の要件が満たされた場合に、行政庁等の裁定によって、他人の特許発明等を、その特許権者等の同意を得ることなく、あるいは意に反して、第三者が実施することができる 権利。強制実施権はパリ条約や TRIPS 協定で認められたものであるが、強制実施権が認められる要件は各国で異なる。なお、我が国において強制実施権が設定された事例はない。 2. インド特許意匠商標総局の決定:http://www.jetro.go.jp/world/asia/in/ip/pdf/precedent_201203_jp.pdf 3. インド特許意匠商標総局の上級官庁にあたるインド産業政策推進局(DIPP)の傘下に 2003 年に設置された専門機関。 4. 暫定停止請求の却下:http://www.jetro.go.jp/world/asia/in/ip/pdf/compulsory_jp.pdf 不服申立ての却下:http://www.ipab.tn.nic.in/045-2013.htm 特許行政年次報告書 2013 年版 323 第 2 章 諸外国・地域の動向 コラム33 Column ジェトロ・ニューデリー事務所に知的財産権部を新設 ジェトロでは、アジアを中心とする世界の主要都市に知的財産権部を設置し、世界各国の知的財産関連 の情報収集とその提供、個別相談対応等を行っています。近年のインドに対する日系企業の関心の高まり と、同国における知的財産権問題の顕在化に鑑み、2012年8月に、ニューデリー事務所に知的財産権部 を設置し、専従職員を配置しました。ジェトロ・ニューデリー事務所知的財産権部は、インドのみならず、 南アジアおよび中東地域の知的財産権問題について取り組み、日系企業のビジネス展開及びこれら地域 との投資・貿易関係のさらなる発展を支援して参ります。 その活動の一環として、2012年12月に東京にて、インド知的財産訴訟セミナーを開催しました。同セ ミナーには、インドの知的財産訴訟の約7割を扱うと言われているデリー高等裁判所から知的財産訴訟 を担当する判事らを講師に招き、インドでの知的財産訴訟の最新動向について紹介いたしました。ジェト ロのウェブサイトにおいて同セミナーの募集を開始したところ、半日足らずで定員に達し、インド知的財 産に対する関心の高さを証明するものとなりました。 また、インドで日系企業が直面する様々な問題をインド政府に届けるために、インド日本商工会が 2009年以降作成している建議書において、知的財産に関する問題を新たに提起し、インド政府に対して 改善を求めています。 さらに、在インド日系企業を中心に組織したインド 知的財産研究会(インドIPG)の事務局を務めており、 2006年の発足以降一時休止していた活動を再開し、 在インド日系企業の活動を知的財産の側面からサポー トしています。 ジェトロ・ニューデリー事務所の活動は始まったば かりですが、今後も特許庁と連携しつつ、南アジア・中 東地域における日系企業の知的財産分野の活動をより ジェトロ・ニューデリー事務所が入居するビル外観 324 特許行政年次報告書 2013 年版 積極的に支援していきます。 ロシアを含む独立国家共同体 (CIS) 諸国で (WTO) 加盟が承認され、2012 年 8 月 22 日 は、経済統合に向けた動きがあり、1994 年 に正式な加盟国となった。WTO 加盟に伴い、 4 月、自由貿易圏の創設に関する協定が締結 関税の引下げやサービス規制の緩和がなされ された。これをベースにロシア、ベラルー る。知的財産権の分野でも、特許出願料を含 シ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン む知的財産権関係料金が、従来非居住者向け の 5 か国は、物品・サービスの輸入に関す 料金の方が高く設定されていたが、居住者、 る貿易規則の統一化、加盟国間での人の移動 非居住者の区分を撤廃し、統一料金を設けた。 の自由化などを目指すユーラシア経済共同体 ロシアは、2008 年 1 月に知的財産関連法 を 2001 年に発足した。さらに、このうちロ の大幅な改正を行い、特許法を始めとする多 シア、ベラルーシ、カザフスタンの 3 か国 1 くの知的財産関連法を民法典第四部 に一本 が 2010 年に関税同盟を成立させ、2011 年 化した。その後、同国は関連規程の整備な 7 月 1 日には、3 か国間での税関業務が撤廃 どを進めており、連邦知的財産局(ロシア された。 化プロジェクトを行い、審査ガイドライン 2 月 15 日に、ロシア、ベラルーシ、カザフ (Examination Guideline)を作成した。なお、 スタンの関税同盟を含む CIS8 か国 3 が加盟 2012 年 4 月に、メドベージェフ前大統領に するユーラシア特許庁との間で、特許審査 よって、知的財産関連の第四部を含む民法典 ハイウェイ(PPH)を開始した。本 PPH を 全体の改正法案がロシア連邦の下院に提出さ 利用することで、CIS8 か国で有効な広域特 れ、現在、審議が継続されている。 許を早期に取得することが可能となる。な 2 お、ロシア特許庁との間では、2009 年 5 月 に関する法律が採択され、2013 年中に創設 から PPH を開始している。また、国際審査 される予定である。知的財産関連の訴訟を審 官協議について、ロシア特許庁との間では、 議する特別商事裁判所として、第 1 審と破 2010 年から開始しているが、2013 年 1 月 毀審(第 3 審)としての役割を果たすこと には、ユーラシア特許庁との間でも初めて実 となる。 施した。 2011 年 11 月には、知的財産裁判所創設 第2章 このような中、我が国特許庁は、2013 年 第1章 特許庁)は、2010 年に EPO との制度近似 国際的な動向と我が国の取組 ロシアは、2011 年 12 月に世界貿易機関 第4部 8 ロシア 1. 民法典第四部和訳:http://www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/russia/minpou_no4.pdf 民法典第四部英訳:http://www.rupto.ru/rupto/nfile/3b05468f-4b25-11e1-36f8-9c8e9921fb2c/Civil_Code.pdf 2. http://ipc.arbitr.ru/ 3. ロシア連邦、カザフスタン、キルギス、トルクメニスタン、タジキスタン、ベラルーシ、アゼルバイジャン、アルメニアの 8 か国 特許行政年次報告書 2013 年版 325 第 2 章 諸外国・地域の動向 9 ブラジル ブラジルでは、特許審査着手が出願日順に また、ブラジルでは、特許ロイヤルティ料率 行われるが、審査順番待ち期間が約 8 年と、 の上限規制や技術移転契約期間の制約がある 審査の遅延が課題となっている。そこで、ブ 他、技術移転契約及び知的所有権ライセンス ラジル産業財産庁(INPI)は、2015 年まで に係る契約は、INPI への登録が必要とされ に出願日から 36 月以内の審査着手を達成す ている。 ること目標に掲げて、各種施策を実行してい また、ブラジル産業財産権法によれば、医 る。 一 例 と し て、2012 年 時 点 で 240 名 の 薬用の製品及び方法に関する特許の付与に 特許審査官を、2015 年に 700 名まで増員 は、国家衛生監督庁(ANVISA)の事前同意 することを計画している。また、手続の電子 が必要であり、さらなる審査の遅延等の問題 化を進めており、商標については、既に電子 が生じている。従来、INPI で審査が行われ 出願の受付を開始しているが、現在、特許に た後に ANVISA で特許出願の審査が行われて ついても電子出願の受付に向けて準備を行っ いたが、最近、手続が変更され、ANVISA で ている。また、将来的なマドリッド協定議定 の審査の後に INPI での特許出願の審査が実 書の加盟を目指して、18 か月以内の審査終 施されることになった。 了という目標を掲げて、商標出願の審査処理 2008 年 7 月に取り交わした我が国経済産 業省とブラジル開発商工省との合意を受け、 の迅速化にも取り組んでいる。 INPI は、2007 年 10 月 に 開 催 さ れ た 2009 年より、我が国とブラジルの間で貿易 WIPO 加盟国総会において国際調査機関・国 投資促進合同委員会を開催しており、2010 際予備審査機関として承認され、2009 年 8 年 4 月には、我が国特許庁とブラジル産業 月から国際調査・国際予備審査業務を開始し 財産庁が協力覚書(MOC)を締結した。こ た。同庁は中南米諸国の中小規模特許庁と特 の MOC に基づき、具体的には、人材育成分 許審査などで協力を進めるプラットフォー 野での協力、知的財産制度に関する情報交換、 ム「 産 業 財 産 に お け る 地 域 協 力 シ ス テ ム 両庁の政策や管理体制に関する情報交換を進 1 (PROSUR) 」の構築を提案するなど、同地域 めている。2012 年 11 月には、第 6 回委員 における特許庁間の協力強化を進めている。 会が日本で開催され、我が国特許庁と INPI 2012 年には、アルゼンチン特許庁と共に、 間の協力、ANVISA における医薬品発明の審 PROSUR 内でパテントファミリーの審査結果 査、技術移転契約の問題等につき意見交換を 2 等の情報を共有するためのシステム「e-PEC 」 を開発し、2012 年 7 月からテスト運用を開 始している。 ブラジル政府は、2007 年に米国企業が有 行った。 また、審査実務の相互理解を深めるため に、2012 年 11 月に、我が国特許庁の特許 審査官 2 名をリオ・デジャネイロに派遣し、 するエイズ治療薬の特許について強制実施権 INPI との間では初めての国際審査官協議を を発動した。また、2010 年 3 月には、米国 実施した他、同月、サンパウロにおいて、現 政府による綿花生産者補助金の WTO 違反に 地の税関等の執行機関に対して我が国企業か 対する報復として、米国企業が保有する特許 ら真贋判定に関するセミナーを開催した。 権の停止などを含む報復措置案を公表した。 1. PROSUR:2008 年に設立された南米 9 か国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、スリナム、ウルグアイ)による審査協力等を中 心とした知的財産協力の枠組み。 2. http://epec.inpi.gov.br/epec/login.php 326 特許行政年次報告書 2013 年版 2012 年 3 月に同協定は発効した。コロンビ (1)中南米 中南米諸国の知的財産庁は、互いに近隣知 アとの間でも、2012 年 9 月に、日コロンビ ア経済連携協定の交渉立ち上げが合意され、 行技術文献サーチ・審査協力のための枠組み 2012 年 12 月に交渉の第 1 回会合が行われ として、中米諸国 には「中米諸国並びにド た。 ミニカ共和国向け特許出願検索管理サポート システム(CADOPAT)」、南米諸国 2 には産業 財産における地域協力システム(PROSUR) (2)中東諸国 中東地域はアジアとヨーロッパをつなぐ貿 による「e-PEC」というウェブプラットホー 易の中継点として重要な役割を果たしている ムが設けられている。 と同時に、模倣品の流通経路となっていると の指摘もなされている。これに対し、我が国 ACTA 交渉にも参加するなど、知的財産保護 は、ドバイ税関職員に対し我が国企業から真 の姿勢を打ち出している。我が国との関係 贋判定に関するセミナーを実施するなど、模 で は、2011 年 7 月 か ら 特 許 審 査 ハ イ ウ ェ 倣品取締りに向けた協力を行っている。湾岸 イ (PPH) の 試 行 を 開 始 し、2012 年 11 月 諸国(バーレーン、オマーン、クウェート、 に本格実施に移行した。また、メキシコは、 サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カター 2013 年 2 月にマドリッド協定議定書に加盟 ル)においては、1998 年より広域特許庁と した。また、我が国特許庁とメキシコ産業財 しての湾岸協力会議(GCC)特許庁が設けら 産庁とは 2012 年 2 月に産業財産分野での れている。 イ ス ラ エ ル は、2009 年 の WIPO 加 盟 国 財産制度・運用に関する情報交換、人材育 総会において国際調査機関として承認され、 成、情報技術の利用等に関する協力を進めて 2012 年 6 月から業務を開始した。また、我 いく。2012 年 9 月には、我が国特許庁の特 が国との PPH 試行を 2012 年 3 月から開始 許審査官 2 名をメキシコに派遣し、同国と したが、2013 年 3 月 1 日に対象を拡大し、 の間では初の国際審査官協議を実施した。 我が国特許庁またはイスラエル特許庁が国際 チ リ は、 知 的 財 産 庁 の 組 織 改 編 を 行 い、 調査機関・国際予備審査機関として特許性を 2009 年 に 現 在 の チ リ 産 業 財 産 庁(INAPI) 有するとの見解を示した国際特許出願につい が設立されて以来、審査期間を急速に短縮 ても、PPH 申請(PCT-PPH)が可能となった。 するなど、業務改善を進めている。2012 年 なお、2010 年 9 月には、イスラエルにおい 10 月に開催された WIPO 加盟国総会におい てマドリッド協定議定書が発効している。 て、国際調査機関・国際予備審査機関として トルコとの間では、2012 年 7 月に、日ト 承認され、現在、業務開始に向けた準備を進 ルコ経済連携協定に関する共同研究の立ち上 めている。 げが合意され、2012 年 11 月に共同研究の ペルーについては、2009 年 4 月に日ペルー 第2章 協力覚書に署名を行った。具体的には、知的 第1章 メキシコは、他の中南米諸国に先駆けて 国際的な動向と我が国の取組 的財産庁との連携を深めている。具体的な先 1 第4部 10 その他(中南米、中東諸国、アフリカ) 第 1 回会合が開催された。 経済連携協定の交渉立ち上げが日本との間 で合意され、その後 7 回の交渉会合を経て、 1. コスタリカ、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、ニカラグア、ドミニカ共和国、キューバ(2010 年時点) 2. アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、スリナム、ウルグアイ。 特許行政年次報告書 2013 年版 327 第 2 章 諸外国・地域の動向 ある。2010 年、EPO で特許可能と判断され (3)アフリカ アフリカには ARIPO(主に英語圏の国々 1 2 た出願をモロッコでも無審査で有効化(バ が加盟) 、OAPI(主にフランス語圏の国々 が リデーション)することに合意がなされた。 加盟)という二つの広域特許庁が存在する。 2011 年には、チュニジアとの間でもバリ 我が国も WIPO と協力してこれらの広域特 デーションに向けた関係強化に合意がなされ 許庁を始めアフリカ諸国の知的財産庁の能 ている。南アフリカでは 2011 年 5 月、企 力向上を支援している。エジプトは 2009 年 業知的財産登録庁(CIPRO)と企業知的財産 の WIPO 加盟国総会において国際調査機関 監督庁(OCIPE)が合併し、企業知的財産委 として承認されており、国際調査機関として 員会(CIPC)が設立された。 の業務開始に向けた準備を進めている。ま た、2009 年 9 月にはエジプトにおいてマド リッド協定議定書が発効している。モロッ コ、チュニジアなどの北アフリカ地域は歴史 的にヨーロッパとの結び付きが強く、知的財 産分野においても、EPO と強いつながりが 1. ARIPO(African Regional Intellectual Property Organization、アフリカ広域知的財産機関)加盟国:ボツワナ、ガンビア、ガーナ、ケニア、レソト、マラウイ、モザ ンビーク、ナミビア、シエラレオネ、ソマリア、スーダン、スワジランド、タンザニア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ、リベリア、ルワンダ 2. OAPI(Organisation Africaine de la Propriete Intellectuelle、アフリカ知的財産機関)加盟国:ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、中央アフリカ、コンゴ共和 国、コートジボワール、ガボン、ギニア、ギニアビサウ、赤道ギニア、マリ、モーリタニア、ニジェール、セネガル、チャド、トーゴ 328 特許行政年次報告書 2013 年版 特許行政年次報告書の歴史 1.特許庁年報 特許行政年次報告書の前身である「特許庁年報」は、特許庁発足(1949年5月)後間もなくに、第1巻が 発刊されました。この「特許庁年報」は、戦前に特許局1が発行していた「特許局概要」、 「特許、実用新案、意 匠及び商標の趨勢」及び「特許局統計年表」の内容を整理してまとめ、ユーザーの利便性を高めるために作 られたものです。このころは、出願数等の統計情報に加え、特許局の概要や、法律規則、公告事項等も掲載 されていました。 2.特許行政年次報告書 第50巻となる1998年版からは、名称を「特許行政年次報告書」と変更し、内容も大幅な刷新を行いま した。表紙や本文(政策編)をカラーにして図表やグラフを多く取り入れ、技術のトレンドや各出願の最新 動向を掲載したほか、企業や大学等出願人種別の統計情報も掲載し、より多くの情報を盛り込みました。 2003年には、知的財産に関する情報が増加してきたこともあり、これを二分冊し、本編に施策情報等 国際的な動向と我が国の取組 Column 第4部 コラム34 を、統計・資料編に統計情報を掲載する現在のスタイルとなり、 また、2006年からは、本編のタイトル を「産業財産権の現状と課題」とし、我が国企業の知的財産戦略の情報や、各施策の具体的な取組事例等に ついてのコラムを盛り込みました。 2012年は、各種の施策情報がより分かりやすく伝わるよう基本構成を改めるとともに、冒頭に特集 興に向けて特許庁が実施した取組を紹介しています。 3.特許行政年次報告書2013年版について 今後の課題について紹介するなど、更なるトピックスの充実化を図りました。特に、2013年版では、グ ローバルイノベーションサイクルという我が国におけるイノベーションを加速するための新たな方針を 第2章 2013年版では、2012年版の基本構成を踏襲しつつも、よりユーザーが必要とする情報を発信できる よう、知的財産に関する全般的な統計・施策情報に加え、産業競争力強化の観点から見た知的財産戦略と 第1章 コーナーを設け、主要な統計による知的財産動向の概要や産業財産権行政に関するダイジェスト、震災復 導入し、その方針に基づいた知的財産の動向を紹介しています。冒頭ダイジェストにおいても、そのポイ ントをわかりやすく紹介するとともに、グローバルイノベーションサイクルを促進するための特許庁の 代表的な施策や支援策を紹介しています。 また、2013年版では、特許行政年次報告書では初の試みとして表紙デザインを一般公募し、選ばれた 優秀作品を2013年版の表紙デザインに採用しています。 特許行政年次報告書は、60年以上の歴史の中で、ユーザーにとって読みやすい冊子にすべく様々な改 善がなされてきました。今後もより内容の充実した冊子を目指し、有益な知的財産権情報を皆様にお届け してまいります。 第1巻 1998年版 2013年版 2006年版 2012年版 2013年版[統計・資料編] 1. 特許庁の前身。 特許行政年次報告書 2013 年版 329