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レジュメNo.06(営業(事業)譲渡)
企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 企業法Ⅰ(商法編) 講義レジュメNo.06 ※営業と事業 ¾営業(事業)譲渡の意義(15~18、 会社21~24、467~470) ¾最判昭和40・9・22 民集19巻6号 1600頁、判時421号20頁等 ¾判例百選46~55p参照 テキスト参照ページ(総則):47~59p テキスト参照ページ(会社):377~381p • 会社法は、会社の行う活動について、「事業」という 用語を用い、商法上、個人商人の「営業」と区別し ている。 • 旧商法24~29条の規定は、個人商人についての 規定として商法15 18条に規定され 会社に い 規定として商法15~18条に規定され、会社につい ては商法16~18条に相当する規定が会社法21~ 23条に設けられた。 • 会社法24条は、商人と会社との間で営業・事業の 譲渡が行われる場合の規定の適用関係について 定める。 1 2 Ⅰ 営業(事業)の意義 (客観的意義の営業) 「営業」の意義 • 主観的意義の営業:「商人の営利活動」 – 営業の自由:憲法22条1項(職業選択の自由) に含まれる • 客観的意義の営業:「商人の営業上の組織 客観的意義の営業: 商人の営業上の組織 的な財産」(営業財産説) – 一定の営業目的によって組織的・有機的に一体 となった財産の集合体:商人の営業ノウハウや 信用の元に組織化されることにより、個々の財 産の価値の総和以上の価値を有し、それ自体が 3 取引(譲渡や賃貸借)の対象となる • 譲渡・出資・賃貸借・担保などの対象と なる営業(事業)の意味をどう理解する か? • 客観的意義の営業の定義については、以 下のような見解が主張されている。 1. 営業財産説(通説) 2. 営業組織説 3. 営業活動(行為)説 4 客観的意義の営業(構成要素) 1. 営業財産説 ① 積極財産: 不動産(土地・建物)、動産(機械・商品・ 原材料)、現金、有価証券、物権(地上権、 抵当権) 債権(売掛代金債権) 知的財 抵当権)、債権(売掛代金債権)、知的財 産権(特許権、著作権) 暖簾(のれん)・老舗(しにせ):「財産的価 値のある事実関係」 ② 消極財産:営業に関して生じた一切の債務 • 営業の用に供せられる有機的一体と しての各種財産の総体をもって営業 と解する見解 • 動産、不動産、債権、知的財産権、 動産 不動産 債権 知的財産権 債務のほか、暖簾・老舗、営業秘密、 ノウハウ、得意先関係等財産的価値 のある事実関係を含む。 • 今日の通説・判例 5 6 1 企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 2.営業組織説 3.営業活動(行為)説 • いわゆる老舗、のれんなどの財産的価値 ある事実関係をもって営業の本体と解す る見解 • →特に事実関係のみを営業と解する合理 的説明が十分ではない。 • 営業活動をもって営業の本体と解 する見解 • →人の活動である営業活動を譲渡・ 賃貸借など法的処分の対象となると みるのは、法的には無理である。 7 Ⅱ 営業の法的性質 Ⅱ • 営業を一定の営業目的のために有機的に 組織化され一体として機能する財産とと らえ、これを譲渡、賃貸借、担保提供等 の対象となるとすると、営業それ自体を 独立の権利主体として物権の客体となる ことを認めるのが望ましい。 • 例:一つの営業それ自体に対する所有権 を認める、営業に対して担保権を設定す る(登記の対象とする)等。 9 Ⅲ 8 営業譲渡の意義 営業の法的性質 • しかし、現行法上は営業全体についての所有権 を認めても、これを公示する方法がない。その ため、営業は全体を一体としては物権の客体と なり得ないと解するのが通説。 すなわち 営業を譲渡するといっても その営 • すなわち、営業を譲渡するといっても、その営 業を構成する個々の財産について移転行為およ び対抗要件の具備(登記など)が必要である (特定承継)。 • 吸収合併と営業の全部譲渡とは、経済的効果は非常に 似ているが、合併は組織法的行為であり、包括承継で ある点が営業譲渡と大きく異なる。 10 1.営業活動説: 経営者地位移転(引継)説 • 客観的意義の「営業」についての 見解に応じていくつかの見解が主 張されている。 張 。 11 • 営業者としての地位の承継に 伴ってなされる営業財産の譲 渡 12 2 企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 2.営業組織説:営業組織譲渡説 • 財産的価値ある事実関係(のれ ん・老舗など)の移転が主体で、 各営業財産の移転はそれに付随す 各営業財産 移転 そ 随す るもの。 3.営業財産説:営業財産譲渡説 (多数説) • 一定の「営業目的」の下に有機 的に結合された「組織的財産」 を 体として移転するもの を一体として移転するもの。 • 以下、事例に基づいて判例の見 解を検討する。 13 14 事実の概要 事実の概要(続き) • X株式会社(S28設立)は、製材加工事業そ の他を目的とする会社であったが、S28末か ら営業不振のため休業中であった。 • XはS30.9に工場の土地・建物と運搬用軌道 施設を「Xが必要とする時はいつでも返還す る」という合意の上でY協同組合に無償貸与 した。 • XはS31.12にY会社に対し返還を求めたが、 YはS31.11にXとの売買契約により取得した と主張して返還に応じなかった。 • Xは、「本件売買契約は営業譲渡にあたるが、 X社の株主総会特別決議を経ていない(旧商 245)ため無効である」と主張。土地・建物お よび運搬用軌道施設の返還を請求した。 • Yは、「本件売買契約は営業譲渡にはあたら 「本件売買契約 営業譲渡 あたら ないから株主総会特別決議は不要である」と 主張して争った。 • なお、新会社法では「事業の譲渡」という用語 に変更される(467、309Ⅱ⑪)。 15 16 争点 X株式会社 営業用の 土地 建物 土地、建物 その他の 施設の売 却が営業 譲渡にあ たるか? ①経営難で遊休状 態の工場等をYに無 償で貸与 • 問題は、本件工場施設等がXとYどちらのものなの か、ということ(所有権の帰属) • X:売買契約は無効だから所有権はYに移転してお らず、自分たちのものであると主張(所有権に基づ く明渡請求) • Y:売買契約は有効であり、自分たちが正当に所有 権を取得したと主張(反訴により所有権確認請求) Y(協同組合) ②Xの代表取締役AがY Xの工場施設 に売却(X社株主総会の 特別決議なし) ③その後、Xが②の売買契約はX社の株主総 ③その後 Xが②の売買契約はX社の株主総 会の特別決議を経ない営業譲渡であり無効で あるとして、工場施設等の所有権に基づきYに 対して返還を請求した。 ④これに対して、YはXの工場施設は遊休状態に あり、営業に使用されていなかったのであり、営 業譲渡にはあたらず、特別決議は必要ない。 よって売買契約は有効であり、所有権はYにある と主張。 • 本件売買契約は「営業譲渡」なのか? 17 Yes→売買契約は無効(特別決議が必要) No→売買契約は有効(特別決議不要) 18 3 企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 営業譲渡の意義 営業譲渡に関する規定 • 商法上、15条以下(会社21条以下)で営業譲渡に ついていくつかの規定を置くが、営業譲渡自体を 明確に定義はしていない。また、会社の場合、事 業の譲渡、事業の賃貸借等について株主総会の 特別決議が必要であることを定めている(467条以 下、309Ⅱ⑪)が、事業譲渡の定義規定はない。 • 商法15条以下・会社21条以下(旧商24条以下)の 営業(事業)譲渡と467条以下(旧商245条以下) の営業(事業)譲渡の意義について判例と学説で 解釈が分かれている。 • 15Ⅰ:商号の譲渡は営業譲渡とともにする か、営業を廃止する場合に限り認められる • 16:営業を譲渡した者は、原則として、同一 市町村(区)内および隣接市町村(区)内では、 20年間は同一の営業を行ってはならない (競業避止義務)⇒譲受人の利益を保護する ため(ただし、特約で排除することができる) ・特約による競業禁止は30年以内(同一・隣 接府県内という地域の限定はなくなった) • 17~18:営業を譲り受けた者の責任 19 20 営業譲渡の意義(判例) 本件判旨 • 旧商245条1項と24条以下の営業譲渡の意義 は同一(会社467条と21条以下の事業譲渡は同 義?) • 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体 として機能する財産(経済的価値のある事実関係 を含む)の全部または重要な 部を譲渡し これに を含む)の全部または重要な一部を譲渡し、これに よって、譲渡人がその財産によって営んでいた営 業活動の全部または重要な一部を譲受人に引き 継がせ、譲渡人がその譲渡の限度に応じ法律上 当然に旧商法25条に定める競業避止義務を負う 結果を伴うものをいう。 • 営業財産の移転+営業活動の承継+競業避止義 21 務 • Xは、本件工場施設等をYに無償貸与する際に、 主要な機械・器具類を収去していること、YはXから 製材業を承継して営業する意図はなく、土地や事 務所を譲り受けようとしたこと、などから本件売買 は営業を構成する各個財産の譲渡であり、営業の 譲渡には当らない • 営業譲渡にあたらない以上、株主総会の特別決議 は不要で売買契約が無効になる理由はない 論点 事業譲渡の意義(少数意見) • 467条1項1号は、会社が事業譲渡をなす場合に は、株主の利益に及ぼす影響が大きいことから、 株主総会の特別決議によるべきことを規定してい る。これに違反する事業譲渡は無効とされる。 • 判例のように21条以下と467条1項1号の事業譲 渡の意義を同一ととらえた上で、営業活動の承継 や競業避止義務の負担を要件とすると、会社に とってきわめて重要な事業用財産の譲渡であって も特別決議を要しない場合があり得ることとなり、 社員の利益保護を目的とする467条1項1号の立 23 法目的に反するのではないか。 • 事業譲渡とは、会社の事業用財産の譲渡を意味 し、さらに、企業にとって重要な工場の重要な機 械設備を他に譲渡する場合、その譲渡が工場自 体の価値を破壊するときは、事業の重要な一部 の譲渡に当たる • これに対しては、「重要な機械設備」の譲渡にも株 主総会の特別決議を必要とする場合があるとす ると、決議を欠く譲渡契約は無効とされるため、取 引の相手方の信頼保護に欠ける(取引の安全を 害する)ことになりかねないという批判がある。 Xの請求を棄却し、Yの所有権確認請求を認容した 22 24 4 企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 事業譲渡の意義 Ⅲ • 学説の有力説:事業譲渡といえるためには有機的 一体として機能する組織的財産の譲渡でなければ ならないが、営業の承継や譲渡人が競業避止義 務を負うことは不要 • 総則の諸規定は、譲渡人・譲受人間で営業が承継 総則の諸規定は 譲渡人 譲受人間で営業が承継 されることを前提とする規定であるが、467(旧商 245)条は、株主の利益保護を目的とするもので、 営業活動の承継という要素は関係ない • もっとも、「有機的一体として機能する財産の譲渡」 の内容によっては、判例の立場に近付く 営業(事業)譲渡の効果 1. 譲渡当事者間の関係 ① 財産の移転 ② 競業避止義務 2. 第三者に対する関係 ① 債権者に対する関係 ② 債務者対する関係 25 26 ①「営業(事業)財産」の移転 ②「競業避止義務」 • 譲渡人は、営業譲渡契約に従い、営業を構成す る各種の財産を譲受人に移転する義務を負う。 • 営業は1個の物権の対象となり得ないので、こ れを一体として物権的に移転することはできな い そのため各個の財産ごとに移転し 第三者 い。そのため各個の財産ごとに移転し、第三者 対抗要件を備えるため引渡、登記、登録、通 知・承諾、裏書交付、債務引受等の手続をとら なければならない。 • 財産的価値のある事実関係については、性質に 応じて相当の措置(営業上の秘訣の伝授、得意 先の紹介など)をとることが必要である。 27 • 譲渡人が、譲渡後も従来の営業(事業)と同一 の営業(事業)を続けること(競業を行うこ と)は、営業(事業)譲渡の実質的な意義を失 わせ、譲受人に不利益を与えることとなる。 • 他方で、無制限に競業を禁止することは、譲渡 他方で 無制限に競業を禁止する とは 譲渡 人の営業の自由に対する過度の制限になる。そ こで、地理的・時間的範囲を限定して譲渡人の 競業避止義務を定めた(16、会社21)。 ②「競業避止義務」 ②「競業避止義務」 a. 競業禁止について当事者間に特約がない場合 (16条1項、会社21条1項) ・同一の営業(事業)を禁じられる範囲:同 一区市町村および隣接区市町村内 ・期間:営業(事業)譲渡の日から20年間 期間 営業(事業)譲渡の日から20年間 b. 契約当事者間で競業禁止の特約をした場合: 30年の期間内で有効(16条2項、会社21条2 項) 範囲:同一府県および隣接府県内という制限 は廃止された(参照:旧商25条2項) • 競業避止義務は、特約で排除するこ ともできる(16条1項、会社21条1 項) • ただし、その場合であっても、 ただし その場合であっても 不正競争の目的(=顧客の奪取など営業 譲渡の趣旨に反する目的)をもって同一 の営業(事業)を行うことは禁止さ れる(16条3項、会社21条3 項) 29 28 30 5 企業法Ⅰ講義レジュメ(商法編)No.06 ① 債権者に対する関係 2.第三者に対する関係 • • 営業(事業)譲渡は、当事者間の みならず、営業上の取引関係者に 重大な影響を及ぼすため、第三者 保護のための特則を用意している。 31 ① 債権者に対する関係 営業(事業)譲渡の当事者間では、譲渡により譲渡 人の債務も原則として譲受人に移転するが、譲渡人 の債権者に対する関係では、譲受人は当然に弁済義 務者になるわけではない。 a. 「商号の続用」がある場合(17、会社22): →譲受人も譲渡人の営業(事業)によって生じた債 務について弁済の責任を負う ・譲渡人の責任も存続し、不真正連帯債務の関係と なる。 ・商号を続用する場合でも、譲受人が譲渡人の債務 について責任を負わないことを登記した場合は一般 的に、また債権者に個別に通知した場合にはその通 知を受けた債権者に対して弁済の責任を免れる。32 2.債務者に対する関係 b. 商号の続用がない場合:譲受人・譲受会社は、 原則として、譲渡人・譲渡会社の債務を弁済 する責任を負わない(17Ⅰ、会社22Ⅰ反対解 釈) ただし、 債務引受の広告」をした場合は、 →ただし、「債務引受の広告」をした場合は、 譲渡人・譲渡会社の債権者は、譲受人・譲受 会社に対して弁済の請求をすることができる (18Ⅰ、会社23Ⅰ)。 c. 除斥期間:譲受人が責任を負う場合、譲渡人 の責任は一定期間の経過により消滅する 33 (17Ⅲ・18Ⅱ、会社22Ⅲ・23Ⅱ) ¾営業上の債権は原則として譲受人に移転 するが、特約で除外されたり譲渡人の二 重譲渡により第三者が対抗要件を備えた りするなどの原因によって債務者に二重 弁済の危険が生じる。その危険が特に著 しい商号の続用がある場合について債務 者を保護するため特則を設けた(17Ⅳ、 会社22Ⅳ)。 ¾債務者が営業の譲受人・事業の譲受会社に対 してなした弁済は、債務者に悪意・重過失が ない限り有効とされる。 34 参考 商人・会社間の営業・事業譲渡 • 民法上の債権の準占有者に対する弁済 では、債務者は善意・無過失であるこ とが要求される(民478条)。 無過失と言えるためは 真の債権者で • 無過失と言えるためは、真の債権者で はない者を真の債権者であると信じた ことについて相当な理由があることが 必要とされる。 • 会社が商人に対して事業譲渡した場合 →譲渡会社を商法16条1項に規定する譲 渡人とみなして、商法17条および18条の 規定を適用(会社24Ⅰ) • 会社が商人の営業を譲り受けた場合 →営業譲渡をした商人(譲渡人)を譲渡会 社とみなして、会社法22条および23条の 規定を適用(会社24Ⅱ) 35 36 6