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平成 20 年度 石油資源開発等支援事業

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平成 20 年度 石油資源開発等支援事業
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平成 20 年度 石油資源開発等支援事業
サウジアラビア・サウジアラビア NABAA ペトロケミカル
リファイナリープロジェクト概念設計調査報告書
平成 21 年 1 月
経
委託先:
済
産
業
省
独立行政法人日本貿易振興機構
ユニコ インターナショナル株式会社
要約
1.1 調査目的と背景
サウジアラビアは石油・ガス共、その埋蔵量は豊富で、且つ大型の石油精製設備があり
オイルメジャーとの協力関係も長く存続したことから原油の処理能力は大きく落ち込むこ
となく順調に運転されている。従って 40 万バレル前後のナフサ(ライトナフサおよびヘ
ビーナフサ)が生産されている。これらのナフサ(Nathpha)は輸出にも向けられていた
が現在では国内の石油化学工業の大ブームにより石油化学原料となるナフサおよび天然ガ
スあるいは石油生産時に随伴してくる随伴ガス(Associated Gas)中の C2(エタン)成
分は輸出用および大型石油化学プロジェクト用に全て引当済みとなっている。もはやこれ
までの SABIC 社の独壇場であったエタンを出発原料とするエチレンコンプレックスは建設
不可能となった。今後はプロパン、ブタン等その他の石油製品の(=重結合のない飽和炭
化水素製品)から水素を部分的に除去(Dehydration:脱水素反応)し、基礎化学品とな
るエチレン(CH2=CH2)、プロピレン(CH2=CH-CH3)やブタジエン(CH2=CH-CH=CH3)を熱分
解(ナフサ分解、エタンクラッキング等)以外の方法で石油化学品の出発原料を生産する
ことが必須となっている。
このような傾向はラスタヌーラ製油所における Iso-Butane Cracker Project(2004~
2005 年)
、ラスタヌーラ製油所高度化プロジェクト(2005~2006 年)等をサウジアラムコ
と検討している時点から現われており、喩々顕著化してきている。
このような厳しい石油化学原料事情において、NABAA は再三石油化学品プロジェクト用
原料の供給要請をサウジアラムコに行っていたが、上記の如き原料事情により最早供給余
力がなく、計画の前進が阻まれていた。このような状況下で NABAA はサウジアラムコから
の手紙により原油をフィードストック(Feedstock Crude Oil)とする新たなスキームの
石油化学コンプレックスを検討することが求められていた。これは自ら石油化学原料を原
油から生産し、それから石油化学品を生産するというこれまでいかなる企業も試みていな
い石油化学プロジェクトスキーム、即ち Petrochemical Refinery(PCR)の構図が求めら
れていた。この場合には、石油精製事業を目指していない企業にとってリファイナリー施
設を所有し、運営することは考えも及ばないことで、且つ石油製品(ガソリン、軽油、重
油、残渣油等)の処理は高度の技術を要し、且つサウジアラムコに引き取ってもらう以外
販売手段は持たないことから極めて難しい要請となっていた。しかし NABAA ではこの要請
を受けて 2006 年度(平成 18 年度)には、原油8万バレル/日及び減圧残渣油(Vacuum
Residue:VR)を 11 万バレル/日受け入れた場合のオレフィンコンプレックスプロジェク
トの検討を実施した。しかしサウジアラムコの更なる通達により VR も石油製品の一部で
あることから国際価格でのみ供給可能なること判明し、最終的に 2007 年8月以降、原料
1
を全量原油とする Petrochemical Refinery(PCR)構想に至り、本調査を実施する必要性
が生まれた。
ペトロケミカルリファイナリーの概念を理解する上で、下記に分かりやすく図解した。
図 1.1-1 ペトロケミカルリファイナリーの概念モデル
最大化
CRUDE OIL
400,000 BPD
FUEL
OILS
PROCESSING
&
PETROCHEMICALS
+
PETRO
COKE
CONVENTIONAL
280~300KBPD
(非在来型の新しいスキームコンセプト)
CRUDE OIL
150,000 BPD
1,800~2,300KT/Y
最小化
最大化
FUEL
OILS
PROCESSING
750~1,540KT/Y
&
PETROCHEMICALS
+
PETROCOKE
EVOLUTIONAL
6.3~28KBPD
(プラント内で消費)
2,900~3,300KT/Y
140~340KT/Y
+
Feedstock Gas for NH3/Urea
出典:ユニコ インターナショナル㈱作成
上図より、新たな考え方として燃料油の生産を最小化し NABAA とサウジアラムコ間の買
い戻し(BUY-BACK)量を最小限とし、石油化学原料及び石油化学製品の生産を大きくした
“EVOLUTIONAL PETROCHEMICAL REFINERY”のプロジェクトスキームとして推進することと
なった。
このプロジェクトスキームでの全体プラント及び構成各コンバージョンユニットの設備
能力の決定の為、詳細な技術検証(プロセスコンフィギュレーションの検証)、製品構成
(プロダクトスレート)を決定する為のマーケット分析、それに基づくプロジェクトの概
念 設 計 ( Scope of Facilities, Utilities Plan, Integration Plan with Downstream
plants 等)の策定が重要となった。今回の調査では、これ等を早急に固めた上でファイ
ナンス、オフテイク、原油供給契約(サウジアラムコと)、EPC Contractor & Licensors
の選定等を平成 21~22 年前半に完了させるため、プロジェクト実施基本計画(プロジェ
クト概念設計)を作成した。
1.2 調査内容
前項で一部述べた如く、本調査は単なる経済性の検証と異なり、本プロジェクトの下流
につながってくる Petrochemical Derivatives の想定とその生産量の想定をし、その数字
をベースに本調査対象となる基礎石油化学品の生産量、即ちエチレンプラントのイールド
パターン(各基礎化学品の収率構成)を決める必要があり、そのために原油処理セクショ
ンの蒸留装置以降のコンバージョンユニット(各種分解装置:熱分解/接触分解装置)の
2
組合せとそのユニットの能力を決めるためのシミュレーションという膨大な作業が必要で、
本調査の中核をなすものである。
これに付随して、第3章に示されている如く関連調査(設備計画、設備コスト、原料の
性状、建設スケジュール、プロジェクトの経済性、ダウンストリームの構成等)が多くあ
り、その中でも重要な項目は事業スキームの構築そのものである。
本調査では、上流/中流/下流域含めた一貫事業のケースでの事業スキームとしている
点に留意する必要がある。本調査時点では情報管理上、外部との接触を最小限とし、将来
の想定される参画企業とのコンタクトは、意見を聞くにとどめ、当方から内容に触れるこ
とはしない方針で調査に臨んだ。従って事業スキームは想定される各種条件、状況を当方
にて整理し、結果に反映させた。
更に重要な項目として人材育成を含めたオペレーション&メンテナンス構想もサウジア
ラビアという特殊性、特にサポーティングインダストリーの成熟度を考慮して本プラント
がスタンドアローンで運営管理できる体制を検討した。
設備計画については、詳細に検討した結果を簡略化して理解されやすい内容として図示
した。
マーケット調査については、異常な市場環境にあるも、その特異性を排除し、可能な限
り将来のマーケット予測に重点を置いた分析とした。その結果、経済分析に使用した製品
価格は原油 60 ドル/バレルに対応する数字を設定し、楽観にすぎる予測、設定は排除し
た。
本調査では、環境事前評価の視点で検討したが、未だ設備の詳細仕様を決められる段階
ではないので、具体的な環境対策設備にはふれていないが、関連ルールについては充分に
調査して対応可能なる内容であることの確認を行った。
合弁会社設立に必要な関連法、ルールの調査は充分に行い、SAGIA(サウジアラビア投
資庁)とのミーティングを通じてその内容の検証も行った。
合弁の形態が今後も変化しうることから引き続き SAGIA との接触は必要となろう。
資金計画については、未だバンカーと接触する段階ではないので NABAA を通じてサウジ
アラビアのバンカーと近い将来面談を予定しているが、本レポートはこれまでの経験の範
囲内で作成した。
1.3 調査実施方法、体制、スケジュール
調査業務は、対象国であるサウジアラビアの石油・石油化学産業及び石油・石油化学製
品についての公開された刊行物、プロジェクト・パートナーである NABAA から収集する情
報とデータ、2回の現地訪問での調査・見聞内容に基づいて調査業務を実施した。
尚、一般刊行物や NABAA から得がたい化学品マーケット関連情報詳細については、商社
化学品本部の協力を得て信頼性の高い情報収集に努めた。
現在、高騰状態にあるプラント建設コストについては、商社プラントプロジェクト部門
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および本邦エンジニアリング企業の協力を得て精度の高い積算を行い、当該
“Evolutional Petrochemical Refinery”プロジェクトの経済面からの成否を検証するも
のとする。更にサウジ側関係者、機関との協議を通じて、日本の企業の声も反映してプロ
ジェクトスキームの策定を行い、実施の為のプロジェクト概念設計を作り上げた。
また、環境社会影響については、サウジアラビアでの適用法規と国際レベルのガイドラ
インとの差異及びプロジェクトサイトの環境問題の現況を把握して、プロジェクトの初期
段階で実施すべき環境影響調査(EIA)の重点項目を明確にするものとする。
図 1.3-1 調査実施体制
主要調査メンバー
協力企業
※ プロジェクトマネージャー
※ エネルギー部門担当
商社プラント部門
・PCR全体計画策定と事業化基本計画
・プロセス構成の策定
・製品構成の策定
・製品出荷設備の検討
エンジニアリング企業
プラント設備計画担当
・プロセス設備計画全般
・プラントコスト試算と検証
・プロジェクトエコノミックスの検証支援
エンジニアリング企業
環境事前評価と
ユーティリティ設備担当
※ 環境社会分野
オフサイト/ユーティリティ設備計画
オフサイト計画
オフサイト計画と
製品出荷港湾設備計画
プロジェクトエコノミックス担当
※ 財務・経済分析
資金計画
マーケット分析担当
商社化学品本部
マーケット分析&
マーケティング戦略
合弁事業関連法担当
合弁事業関連法体系情報
収集と契約法務
プロジェクト実務計画
生産・補繕技術計画担当
生産技術移転計画
事業計画策定担当
コンプレックス開発プラン
出典:ユニコ インターナショナル㈱作成
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表 1.3-1 調査実施スケジュール
08/9月
10月
11月
12月
09/1月
【国内作業】
×
①事業計画策定事前業務
②計画内容の個別検証と
ディベロップメント
×
×
③全体計画の最終化作業
×
④まとめの作業
×
⑤最終修正&編集
【現地作業】
20日
①計画内容第1回摺合せ
×
25日
20日
②事業化計画個別打合せ
×
26日
×
③最終報告会
出典:ユニコ インターナショナル㈱作成
1.4 調査結果
本 PCR プロジェクトは原油処理部門から基礎石油化学品の生産部門に至る大きなプラン
ト設備であり、概略プロジェクト総額は約 80 億ドルとなり近年の大型投資案件に近い規
模である。
この PCR の事業収益性は、税引後で約 20%のリターンが確保されることが確認された。
但し、これまで Domestic Price of Crude Oil for Feedstock to Domestic Projects と
して5~6ドル/バレルがほのめかされているが昨今の原油の激しい変化の中でサウジア
ラビア国内のプロジェクト用原油といえども過去の5~6ドル/バレルの“Domestic
Price”の摘要が受けられるかどうか、今後の交渉に待たざるを得ず、5~30 ドル/バレ
ルの想定変動幅の中間値を用いた 15 ドル/バレルベースでの経済性である。
(但し基礎石
油化学品のマーケットプライスは原油 60 ドル/バレル時点のものを使用している。
)
このプラントのダウンストリームとして Petrochemical Derivatives(Petrochemical
Complex:PCC)のプラントが 20 プラント近くぶら下がり、その総投資額は概略 70~80 億
ドルの投資事業となることが想定される。従って最終の姿での事業経済性は今後の
Development Plan により検証することとなる。
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1.5 調査結果の活用と見込み
本調査結果は次の流れに乗って活用されていくことが予定されている。
図 1.5-1 調査結果の活用と見込み
2009/1
本レポート
2009/1
Development in Detail &
Addition with downstream section
(Petrochemical Derivatives)
再編集版(プレゼン
用)
(英語版一部修正)
各種誘導品の
詳細計画を
補完した英語版
アラムコ社との
予備折衝
Full Range Report of
Total Scneme of the
Project
2009/4~8
アラムコ社との
本格折衝
Preliminary Petrochemical &
Products Slates Plan
日本中核企業との
本格的交渉
Semi-Final Project
Scenario (誘導品
詳細計画) 確定
2010/2011中
Preliminary
Feedstock Supply
Agreement
日本企業全体構図
確定のための内部調整と
基本合意書作成
出典:ユニコ インターナショナル㈱作成
以上フロー図として示した。大きな流れが2つあり、そのそれぞれに活用されていくこ
と、また重要な出発点となっていることは自明と思われる。
このフロー図に示した如く、本調査に基づくサウジアラムコとの予備折衝が最初の重要
な行動で少なくとも必要原油量と想定された油種に関する供給可能性のヒアリングができ
ると思量する。
現状比較的引き取り手の少なかったアラビアンヘビー(重質油 API27.4°平均)を対象
にプロセス構成を決定しているが、将来の変化にも対応できるようにライト/ヘビー
50%/50%のカクテルクルード(ブレンディッド原油)まで受け入れられるように装置の
能力にも余裕を持たせてある。
一方サウジアラビア政府、サウジアラムコの方針として今後重質油の増産方針が打ち出
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され9億ドルの予算化も発表されていることから重質油の供給不安はないものと判断した。
更に軽・重格差で供給価格が5~6ドル/バレル以上に高くなった場合も想定しておく
と、この軽・重格差が広がり2ドル/バレル以上の差も充分にありうるとの予想から、少
しでも安い原料との考えから、重質油を第一選択版としている。
本格的なサウジアラムコとの交渉は上図の右の流れに沿った作業が見なし、また日本の
中核企業の意思表明が得られるなら本年8月に向けて更に精度の高い検討結果をもって交
渉に臨める。
1.6 環境社会的側面の検討
当該プロジェクトはサウジアラビアの工業専用開発地域であるヤンブー市をサイトとし
て計画するものである。石油精製設備とエチレン製造設備を主体とするプロジェクトであ
るが、これらの設備は、電力や加熱炉とボイラの燃料に大量のエネルギーを消費するだけ
でなく、大気と水系へ大量の放熱を齎すことになる。エネルギー消費は、二酸化硫黄
(SO2)
、窒素酸化物(NOx)
、煤塵(PM)による大気汚染を招く可能性があり、自然環境へ
の放熱は温排水を招く可能性がある。
ヤンブー市に適用される環境法規は、王立委員会 RCJY(Royal Commission for Jubail
and Yanbu)が管掌する RCER(Royal Commission Environmental Regulation)であるが、
RCER の大気汚染物質排出基準は単位発熱量当たりの SO2 許容排出量を規定しているが、こ
れは燃料油の硫黄分 0.7%程度に相当する。サウジアラビアの原油には2%弱の硫黄分が
含まれ、精製後の燃料油には3%強の硫黄分が含まれているとされている。当該プロジェ
クトでは燃料油は出荷しないため、自家消費しなければならず、RCER の排出基準をクリ
アすることができない。従って、燃料油を消費する燃焼装置は排煙脱硫装置を設置する必
要がある。
ヤンブー市の工業専用開発地域ではユーティリティ供給会社 MARAFIQ が電力、海水、脱
塩水、飲料水を供給するだけでなく、コンビナート各社から排出される排水処理を担う方
式が採られている。RCER では紅海への排水温度を海水温度+1℃以内とすることが規定
されている。コンビナート単位で排水する場合、この規定を満たすことは難しい面がある
が、MARAFIQ の長大な放水路を通して、十分な冷却時間を持たせれば、この規定を満たす
ことは可能と思われる。距離的に MARAFIQ の放水路を使用することができない場合は、プ
ロジェクト実施段階で温排水の問題を十分に検討する必要がある。
近 年 、 工 業 プ ロ ジ ェ ク ト を 実 施 す る 場 合 、 全 世 界 的 に 環 境 影 響 調 査 EIA
(Environmental Impact Assessment)が必要となっているが、RCER でもプロジェクトに
よる環境影響調査 ECC(Environmental Consent Construct)の許可取得を義務付けてい
る。プロジェクト計画段階でプロジェクトに必要な土地の分割申請を行う際に、ECC の要
否について RCJY によるスクリーニングが行われる。当該プロジェクトは石油精製と石油
化学基礎原料の製造を目的としているため、ECC の実施は必須条件である。ECC は環境面
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でのプロジェクト実施の許可申請であるが、建設が完了した後、ECC の許可通りに建設さ
れているか否かを確認する EPO(Environmental Permit to Operate)の許可を得て 操業
を開始することになる。プロジェクトの土地分割申請から、操業開始に至るまでの手順は、
図 1.6-1 に示す通りである。図 1.6-1 に明らかな如く、RCER の ECC では、通常の EIA で
必要とされる方法の公告・縦覧や住民への説明会は規定されていない。プロジェクトによ
っては建設工程に大きな影響を及ぼす可能性がある環境影響調査も、工業専用開発地域で
あるヤンブー市で計画する当該プロジェクトの場合には、懸念する必要は少ないものと考
えられる。
図 1.6-1 RCER による環境影響調査の手順
PEサイト・アロケーション申請
RCJY環境スクリーニング
Type-I, II
Type-III
Yes
PE EIA実施
EIAの要否
PE ECC申請
RCJYレビュー
PE 追加情報準備
必要追加情報の要否
Yes
No
RCJY ECC承認
No
Yes
建設開始~建設完了
RCJY EPO検査
PE 操業開始
PE:Project Executor
出典:Royal Commission Environmental Regulations
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ヤンブー市は、元々、住民が少ない寒村を 1970 年代に工業専用地域として開発する遠
大な国家計画に基づいて今日に至っている。従って、当該プロジェクトの実施に際しても、
社会面の負の影響、土地開発による自然の破壊あるいは史跡等の撤去・移転を伴うことが
ない。当該プロジェクトは、原油輸出への依存度が高いサウジアラビアの経済体質を多様
化する上で大きく貢献するプロジェクトである。サウジアラビアの若年層の雇用創出の面
でも効果が期待できるプロジェクトである。
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