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第1089回 千 葉 医 学 会 例 会 第 25 回 歯 科 口 腔 外 科 例 会
〔千葉医学 81:197 ∼ 204,2005〕 〔 学会 〕 第1089回 千 葉 医 学 会 例 会 第 25 回 歯 科 口 腔 外 科 例 会 日 時:平成16年11月20日(土) 10 : 00∼17 : 05 場 所:千葉大学医学部附属病院 3 階 第 2 ・ 3 講堂 1 .口腔扁平上皮癌における非手術症例の臨床統計 学的検討 4 .口腔癌予後不良症例の検討−頸部リンパ節転移 症例について− 石田 亮,小野可苗(千大) 鎗田弘美,小野可苗(千大) 1997年 4 月 1 日∼ 2004年 8 月31日における口腔扁平 上皮癌の非手術症例39症例について検討し報告した。 全身疾患や高齢などにより非手術となった症例が多 かった。32症例について治療を行い,17症例に選択的 動注放射線療法を施行した。15症例の CR/PR 率は86% と良好な成績を得たが,平均生存期間は16か月であっ た。以上より選択的動注放射線療法は局所制御は有効 であるが,累積生存には寄与しないことが考えられた。 2 .重複癌の臨床的観察 対象者は,1997年 4 月から2004年 9 月までの 7 年 5 か月間に当科で根治的手術を施行した188人の口腔癌 患者のうち予後不良であった28人とし,頸部リンパ節 転移の様相・pN・その治療成績について検討した。一 次治療後の補助療法は累積生存には寄与しなかったが, 局所制御期間を延ばす事が可能であった。pN1 症例と pN2 症例においては累積生存率に有意に差があったこ とより,pN 分類が予後不良因子として重要であると考 えられた。 5 .再発を繰り返し治療に難渋した上顎骨肉腫の 1 例 伏見一章,椎葉正史(千大) 単発癌と比較して予後が悪いとされている重複癌の 臨床的特徴を把握するため,当科での重複癌症例36例 について検討した。重複癌は全体の21% にみられた。 重複癌のうち多重癌について詳細に検討したところ, 入院時の上部消化管内視鏡検査にて20% の頻度で同時 性多重癌を発見した。これらは全て早期の胃・食道癌 であり,口腔癌の治療が優先され予後は良好である。 本研究により口腔癌症例において内視鏡検査の有用性 が示唆された。 3 .循環器疾患を有する口腔癌患者の治療 野村仁美,武川寛樹(千大) 以前当科で,術後病態変化出現のリスクファクター として高齢・糖尿病・循環器疾患合併の 3 つが危険性 が高いことを報告したが,今回循環器疾患患者の口腔 癌治療について,当科での過去 7 年間の統計を含め, 患者の病態と全麻の可否を含む治療法の選択について 調査した。麻酔科・循環器内科学会の意見も含め検討 したところ,心筋虚血・左心機能・うっ血性心不全の 3 項目が精査すべきポイントとして挙げられた。 山野由紀男,武川寛樹(千大) 【患者】51歳女性。 【初診】平成15年11月 7 日。 【主訴】上顎骨肉腫に対する化学療法目的。 【現病歴】平成12年 1 月某病院にて重粒子線治療施行 され,7 月局所再発にて某歯科大学にて手術療法施行 された。平成15年局所再発にて当科紹介来院となった。 化学療法は HD-MTX, IFM, CDDP, DXR の 4 剤を中心 に行った。一時は著効し PR を得たが,腫瘍は徐々に 増大し腫瘍減量術を 4 回施行したが 1 年後に死亡した。 しかし本治療により患者の QOL を著しく向上できた。 6 .過去20年間当科における悪性黒色腫治療について 杉本俊介,小河原克訓(千大) 当科20年間の悪性黒色腫 5 症例について報告した。 経過転帰は一般的に 2 年以内の再発が多いとされるが, 今回17年後に原発巣再発を認めた,きわめてまれな症 例があったので,その詳細を報告した。 【症例】患者57歳男性。1986年 8 月28日初診。上顎悪 性黒色腫の診断の下,手術・化学療法・免疫療法を施行 するも,2004年 2 月 3 日再発を認め,DAC-tam-feron 療 法を施行した。結果は大変有効であり PR と判定した。 198 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 7. 過去 5 年間の術前補助化学療法−特に TS-1 の治 療効果について− 石上享嗣,小河原克訓(千大) 過去 5 年間の術前補助化学療法についてまとめ,と くに TS-1 の治療効果について調べた。過去 5 年間で はオイルブレオ,ペプレオが全体の 7 割,TS-1 が 2 割 の使用頻度であった。TS-1 の奏功率は64%と高く,重 篤な副作用も少なく使いやすいと考えられた。複数の リンパ節転移や早期遠隔転移症例では TS-1 の奏功率が 0 %であり,TS-1 の有効性が予後の指標,今後の治療 方針の参考となると考えられた。 8 .術後せん妄の臨床的特徴に関する検討 武井雅子,椎葉正史(千大) 術後管理に問題となる術後「せん妄」について,当 科で行われた全身麻酔手術540症例を検討した。41症例 ( 8 %)に術後「せん妄」の発症を認め,悪性腫瘍の初 回根治手術にのみ発症した。その中で発症頻度を各項 目別に検討したところ,病名が最も重要な危険因子で あり,さらに年齢・性別・術式・手術(麻酔)時間・ ICU 管理・基礎疾患が「せん妄」の誘発要因であるこ とが示唆された。 9 .重症化した歯性感染症の 1 例 村野彰行(鹿島労災) 丹沢秀樹 (千大) 左下 7 番根尖性歯周炎および口底部から頸部にいた る蜂窩織炎。初診時,呼吸困難の訴えあり,また腫脹 増大に伴う呼吸困難の増悪が懸念されたため,即日入 院とし気管切開,全身麻酔下にて切開排膿を行った。 舌下隙・頤下隙・顎下隙・翼突下顎隙・側咽頭隙を開 放し,ドレナージを行ったところ悪臭を伴う灰白色の 排膿が認められた。症状は著明に改善し,消炎後,原 因歯の抜歯を行った。 10.下顎埋伏智歯抜歯症例における QOL について 渡邉俊英,山木 誠,金沢春幸 (君津中央) 下顎埋伏智歯抜歯が患者の QOL にどのような影響を 与えているかアンケート調査を行った。対象は119名, 男性61人,女性58人。疼痛は抜歯翌日が最も強く一週 間後にはほぼ消退していた。腫脹は抜歯後 2 日が最も 強く,一週間後にはほぼ消退。開口障害は抜歯翌日が 最も強く,一週間後にはほぼ消退。話しづらさは抜歯 後 3 日間程度続き,食事のしづらさは抜歯後 1 週間持 続する。日常生活は抜歯翌日が最も制限されるといっ た結果となった。 11.重症心身障害児におけるビタミン K 欠乏による 抜歯後出血の 1 例 甲原玄秋(千葉県こども) ビタミン K 欠乏による凝固障害から重度心身障害児 ( 9 歳女児)の抜歯後出血例を経験した。患児は長期間 経管栄養で管理され,呼吸不全も伴い気管切開後,人 工呼吸器で管理されていた。交換期の乳歯を抜去した が,数時間後出血をきたし,やや止血は困難であった。 PT・APTT 延長,PIVKA-II 増加があり Vit K 欠乏が疑 われた。Vit K の補充により PT・APTT などの改善と 止血が得られた。患児は下痢が10日続いており,腸管 からの Vit K の吸収障害に起因したものと思われた。 12.成田赤十字病院歯科口腔外科の診療統計 村野彰行,東壽一郎,宮 恒雄 (成田赤十字) 開設から現在までの 4 年間の診療統計について報告 する。初診患者数は4,107名で 1 か月平均89.3人であっ た。年齢別では20歳代が最も多く20.1%であった。院 外からの紹介患者は,2,109名で紹介率51.4%であった。 院内の紹介患者は,内科・耳鼻科・整形外科の順で多 かった。地域別患者分布では成田市が,疾患別では智 歯周囲炎が,救急患者疾患別分布は裂創を含む外傷が, 最も多かった。 13.口腔電撃症の 1 例 金子哲治,小松聖美,冨沢健一郎 武石越朗,富樫 啓,佐藤栄需 辺 夏蓮,佐久間知子,菅野 寿 川嵜建治 (福島県医大) 今回我々は,電気コードを噛んで,舌および頬粘膜 に生じた小児の口腔電撃傷を経験したのでその概要を 報告した。患者は 6 歳 1 か月の男児。受傷後,他院に て処置を受け,6 日目に疼痛が悪化したため創傷処置 を目的に当科受診した。壊死組織除去と人工真皮移植 術を施行し,術後 1 か月ほどで創傷の治癒が得られた。 電撃傷は受傷から数日後に進行性に重症化するため, 受傷後は注意深く経過観察する必要がある。 199 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 14.高齢者にみられ比較的速やかに増大した腺リン パ腫の 1 例 17.オトガイ部に生じた神経鞘腫の 1 例 川畑彰子,濱本哲章,高橋喜久雄 (船橋中央) 近藤福雄 (同・検査部病理) 浅香陽介,田中孝佳,新野辰彦 園尾千恵,西村 敏,石井輝彦 三宅正彦,田中 博 (日大・歯口外 1 ) 【患者】82歳男性。 【主訴】左顎角部外側の腫脹。初診時,同部に30×30 ㎜の腫瘤を触知した。 【経過】手術を希望せず経過観察としたが,2 年を経 過し腫瘍が約 3 倍に増大したため再来,全麻下で腫瘍 切除術を施行した。 オトガイ部軟組織中に発生し下顎骨唇側に皿状の圧 迫吸収を生じた神経鞘腫の 1 例を経験したので報告し た。患者は20歳女性。右下 2 から左下 3 の唇側に弾性 軟で境界明瞭な半球状の腫瘤を認めた。生検を行った 結果,神経鞘腫の診断結果を得たため,腫瘍摘出を行っ た。腫瘍は骨と骨膜の間に存在しており,剥離は極め 【病理組織診断】腺リンパ腫。本症例では,高齢者に もかかわらず腫瘍が比較的速やかに増大したが,腫瘍 内部の嚢胞化と間質への漿液性内容液の貯留がその一 因と推察された。術後 6 か月の現在,経過は順調であ る。 て容易で,両側のオトガイ神経と腫瘍の関連はなかっ た。組織型は Antoni A 型優位の混合型神経鞘腫であっ た。 15.頬粘膜に発生した節外性反応性リンパ組織増生 (Reactive lymphoid hyperplasia)の 1 例 渡邉俊英,山木 誠,金沢春幸 (君津中央) 松嵜 理 (同・検査部病理) 節外性反応性リンパ組織増生(RLH)は,リンパ濾 胞の増生を伴う異型のないリンパ球のびまん性増殖状 態を示す病態である。患者は62歳男性。左側頬粘膜に 周囲との境界明瞭で正常粘膜色,20×17㎜の扁平な腫 瘤が存在した。弾性軟,可動性で圧痛はなかった。周 囲粘膜に発赤はなかった。左側下顎第一小臼歯に歯根 破折を認めた。腫瘤に対し摘出術を施行した。病理組 織学的・免疫組織学的見地から RLH と診断した。 16.下唇粘液嚢胞が再発を繰り返した後,同部の粘 膜下に発症した黄色腫の 1 例 上原 渉,麻野和宏,酒井英紀 川又 均,佐々木忠昭,今井 裕 (獨協医大) 今回我々は,下唇粘液嚢胞が再発を繰り返し,粘膜 下に黄色腫を発症した症例を経験した。患者は 8 歳女 児,下唇に粘液嚢胞が出現し,消退を数回繰り返し,2 度の切除術を受けた。しかしその後,近傍に結節状の 腫瘤を形成した。切除された腫瘤は,明るい細胞質の 中に顆粒を有する細胞で構成されており,顆粒細胞腫 が疑われた。しかしながら S-100が陰性で CD68が陽性 であり,マクロファージが結節状に集族した黄色腫と 診断された。 18.治療に苦慮しているトリーチャーコリンズ症候 群の 1 例 鶴見 徹,依田年央,山口明子 村田慎也,難波竜児,鯨岡裕晃 秋葉正一 (旭中央) トリーチャーコリンズ症候群により小顎症を呈した 患者さんに対し,上下顎同時の仮骨延長術を用いて加 療したものの,延長不足や術後の後戻りによってⅢ級 の open bite を呈した症例を経験し,加療に苦慮してい るので報告した。今後は,垂直骨切り術あるいはアン カーを用いた歯列矯正などでの対応を検討している。 19.両側唇顎口蓋裂を伴った13トリソミー症候群の 1例 越路千佳子,角田賀子,土肥 豊 金澤優美,酒井英紀,佐々木忠昭 今井 裕 (獨協医大) 13トリソミー症候群は,13染色体の過剰に起因した 全身の多発奇形症候群で,心臓や中枢神経系の重篤な 奇形のほかに唇顎口蓋裂や多指症など多彩な症状を呈 する。本症候群は約5,000∼7,000人に対し 1 人の割合と まれであり,生命予後は多発奇形を合併するのできわ めて悪いといわれており,積極的に奇形に対して治療 は行われていない。今回われわれは,両側唇顎口蓋裂 を伴った13トリソミー症候群の 1 例を経験したので報 告する。 200 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 20.軟口蓋裂を伴った22q11.2欠失症候群の 1 例 角田賀子,品川泰弘,中江由有子 城守美香,冨塚清二,佐々木忠昭 今井 裕 (獨協医大) 今回われわれは,軟口蓋裂を伴った22q11.2欠失症候 群の 1 例を経験したので報告する。患児は 1 歳 9 か月 の女児で,妊娠中ならびに周産期ともに異常はなかっ た。普通分娩により2002年5月10日出生(出生時体重 2,735g)し,哺乳障害及び軟口蓋裂を指摘された。心 エコー・染色体検査にて22q11.2欠失症候群と診断され た。2004年 2 月25日,全身麻酔下にて口蓋形成術を施 行し,現在経過観察中である。 21.先天性鼻咽腔閉鎖不全患者に行った咽頭弁形成 術の術後の評価 片岡伸浩,上杉尚子(千大) 先天性鼻咽腔閉鎖不全患者に Pharyngeal flap 法を施 行し,症状の改善を認めた症例を経験したので報告し た。患者は 8 歳男児で,鼻漏・構音障害を主訴とし, 唇顎口蓋裂他奇形は認められなかった。fMRI で軟口蓋 の機能障害が認められ,口蓋扁桃肥大がその一因と考 えられた。以前同様の症例において,口蓋扁桃切除術 のみで症状が改善されなかった経験をふまえ,咽頭弁 形成術を併せて施行したところ症状の改善を認めた。 22.当科における顎裂部新鮮自家腸骨海綿骨細片移 植術の臨床的検討 藤本幸久,麻野和宏,城守美香 藤田有希,澁澤富喜子,酒井英紀 佐々木忠昭,今井 裕(獨協医大) 当科において1995年から2003年まで顎裂へ二次的新 鮮自家腸骨海綿骨細片を移植した27例34顎裂について, 裂型・性別・骨移植時年齢・顎裂幅と術後の骨移植部 歯槽頂の高さを歯科用口内 X 線写真を用いて経時的に 計測した。これらの症例の中で骨移植術後早期にみら れた経過不良症例は 9 例にみられた。しかし,術後の 経過をみると骨移植部歯槽頂の高さは改善されている 症例が多かった。これらの症例について文献的検討を くわえ報告する。 23.下顎骨骨折治療に起因した顎変形症(下顎骨右 側偏位)に骨延長術を応用した 1 例 中西宏志,佐藤貴子,田中洋一 水口拓真,野間 昇,儀本壮太郎 岩成進吉,田中 博 (日大・歯口外 1 ) 後藤俊行 (春日部市立) 患者は36歳女性。咬合異常および下顎骨の右側偏位 の改善を目的に当科を紹介され来院。約20年前の交通 外傷により生じた(右側関節突起欠損)外傷性顎顔面 変形患者に対し,術前矯正後,両側下顎枝矢状分割法 と,術後の後戻りを考慮し同時に右側には骨延長術を 併用した症例を経験した。延長期間は 9 日間で計 9 ㎜ の骨延長を行った結果,初診時に比べ顔貌および臼歯 部の咬合関係や開咬が改善された。 24.下顎骨に発生した線維形成性エナメル上皮腫 (Desmoplastic ameloblastoma)の 1 例 山木 誠,渡邉俊英,金沢春幸 (君津中央) 松嵜 理 (同・検査部病理) 線維形成性エナメル上皮腫(以下 DA)は,間質の豊 富な膠原線維の増生と,境界不明瞭な蜂巣状の X 線透 過像を特徴とする疾患であり,1992年の WHO による歯 原性腫瘍分類で,エナメル上皮腫の一亜型に分類され た。今回われわれは下顎前歯部に生じた DA について 報告した。患者は55歳男性で,生検にて DA の診断を 得たため,全麻下で辺縁切除手術を行なった。術後 1 年を経過し再発は認めていない。 25.下顎埋伏大臼歯を自然萌出させることができた 小児エナメル上皮腫の 1 例 栗林良英,中村 恵,花澤康雄 (川鉄千葉) 田代圭祐 (小見川総合) 【症例】10歳女性。 【主訴】右下顎部腫脹。 【画像所見】下顎骨体部から下顎切痕部に 2 つと思わ れる嚢胞様透過像を認め,右下567は埋伏していた。 【処置・経過】開窓術を施行し歯原性嚢胞の病理診断 を得た。7 か月後,29か月後に再発したがそれぞれ摘 出掻爬術を施行し,エナメル上皮腫の病理診断を得た。 なお12か月後頃には右下56は自然萌出し,さらに 4 年 経過した現在再発なく右下 7 も本来の位置に自然萌出 し経過良好である。 201 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 26.エナメル上皮線維歯牙腫は歯牙腫の前駆病変か ? 木村時子,川又 均,村本 創 和久井崇大,藤田有希,亀掛川昭宗 今井 裕 (獨協医大) 29.再発を繰り返し治療法の選択に苦慮した超高齢 者口腔扁平上皮癌の 1 例 中江由有子,酒井英紀,加藤洋史 越路千佳子,横山朋子,川又 均 今井 裕 (獨協医大) 【患者】15歳男性,A 残存を主訴に来院。レントゲ ン精査にて同部歯牙腫,1 埋伏歯と診断し,A 1 抜 歯,歯牙腫摘出術施行。摘出した歯牙腫周囲軟組織の 組織像では,線維組織の間に歯原性上皮の小胞巣を認 め石灰化物が散見された。また,歯原性上皮の周囲に は未石灰化の象牙質様組織が存在し,エナメル上皮線 維歯牙腫と診断した。この組織学的な所見は,歯牙腫 今回われわれは,80歳女性の口腔多発癌を経験し, Field cancerization(FC)の概念に基づく検討を行っ た。患者は頬粘膜に第 1 癌,9 か月後に第 2 癌,4 か月 後に口角部に第 3 癌を発症,手術・放射線療法を施行 したが,第 4 癌が舌に発症し制御不能となった。病理 組織学的所見にて近傍に独立した二つの癌を認めるこ の形成過程の像であり,本腫瘍は歯牙腫の前駆病変で はないかと考えた。 と,癌周囲に異常な細胞を認めることなどから,本腫 瘍は,FC から発症した可能性が考えられた。 27.歯槽部に発症した悪性リンパ腫の 3 例 30.正中口蓋隆起の粘膜に限局してみられた白板症 の2例 濱本哲章,伊豫田学,川畑彰子 高橋喜久雄 (船橋中央) 近藤福雄 (同・検査部病理) 歯槽部にみられた悪性リンパ腫の 3 例を報告した。 【症例 1 】左上顎後方歯槽部全体が腫脹し来科。血液 内科で CD20モノクローナル抗体製剤による化学療法を 行ったが,予後不良であった。 【症例 2 】下顎前歯部にみられ,広範な骨露出を伴っ ていた。CHOP 療法を施行し,腐骨分離まで口腔ケア を行い経過良好である。 【症例 3 】右下顎臼歯部歯肉に腫瘤が生じ来院。HIV 陽性であった。他県の施設に転院し予後は不明である。 なお,病理組織学的には 3 例とも diffuse large B cell type であった。 28.診断に苦慮した舌・口底部髄外性形質細胞腫の 1例 城守美香,成川公貴,土肥 豊 冨塚清二,酒井英紀,川又 均 佐々木忠昭,今井 裕 (獨協医大) 髄外性形質細胞腫は骨髄外組織に発症する腫瘍で, 口腔領域での報告は極めて稀である。今回われわれは, 舌・口底部に発症した髄外性形質細胞腫を経験したの で報告する。 【患者】88歳女性,口腔内出血を主訴に受診。adenocarcinoma NOS の診断のもと,放射線療法を施行した。 放射線療法が著効したため,改めて診断の適否につい て再検討を行ったところ,診断に苦慮したが髄外性形 質細胞腫の診断に至った。 伊豫田学,川畑彰子,濱本哲章 高橋喜久雄 (船橋中央) 【症例 1 】67歳男性。口蓋部に示指等大の骨隆起と, 同部に限局した白斑が認められた。 【症例 2 】68歳女性。口蓋部に拇指等大の骨隆起と, その一部に限局した白斑が認められた。 【処置】 2 症例とも白板症と口蓋隆起を一塊にして切 除した。病理組織学的所見では白斑部の扁平上皮は過 角化をともなうが,肥厚は中程度で細胞の異型性もみ られず,白板症と診断した。本 2 症例では,骨隆起に より表面粘膜が機械的刺激をうけやすいことが一つの 発生誘因と推察された。 31.小児海綿状血管腫に対する硬化療法 村田慎也,鯨岡裕晃,山口明子 依田年央,難波竜児,鶴見 徹 秋葉正一 (旭中央) 今回われわれは小児の舌血管腫に対して,食道静脈 瘤治療薬に用いられているオレイン酸モノエタノール アミン(オルダミンⓇ)を用いた硬化療法を施行し良好 な結果を得たので,その概要を報告した。硬化療法は, ①手技が簡便で処置時間が短い,②血管腫以外の組織 犠牲を回避できる,③繰り返し行うことができるなど の利点を有し,合併症も少なく,特に小児に対して有 効な治療法であると思われた。 202 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 32.65歳以上の患者に摘出を行った歯牙腫の 3 例 中村 恵,栗林良英,花澤康雄 (川鉄千葉) 【症例 1 】65歳女性。上顎智歯部の歯牙様硬組織萌出 のため受診し局麻下にて摘出。 【病理診断】集合性歯牙腫。 【症例 2 】84歳女性。上顎智歯部の腫脹と排膿にて受 診し不整形な歯牙様不透過像を認めたので全麻下にて 摘出。 【病理診断】複雑性歯牙腫。 【症例 3 】65歳男性。左上小臼歯歯糟部に類円形の 透・不透過混合像と埋伏歯を認めたため全麻下にて摘 出。 【病理診断】複雑性歯牙腫。文献的検索を行うと60歳 以上の歯牙腫の発生頻度は,12/870人(1.37%)であっ た。 35.耳下腺鰓嚢胞の 1 例 浅海詩子,山浦永美子,斉藤康行 鶴田 正,秀 真理子,大木秀郎 松本光彦 (日大・歯口外 2 ) 大野敦香,三木裕香子,長谷川光晴 田中 博 (日大・歯口外 1 ) 患者は69歳女性。右耳下腺部の無痛性腫脹を主訴と して来院。右耳下腺部に23×20㎜大の境界明瞭で,弾 性硬の腫瘤を認めた。超音波および MRI 所見では嚢胞 様病変を認めた。耳下腺腫瘍または嚢胞の臨床診断の 下,耳下腺浅葉切除による腫瘤摘出術を施行。摘出物 は繊維性被膜に被われた単房性の嚢胞で淡黄色の内容 液が見られた。 【病理組織診断】Branchial cyst。術後再発の傾向は 認められない。 36.眼症状を呈した術後性上顎嚢胞の 1 例 33.上顎骨に生じたセメント質骨形成線維腫の 1 例 東壽一郎,宮 恒男(成田赤十字) 上顎に生じたセメント質骨形成線維腫の 1 例を報告 した。 【患者】14歳女性。 【主訴】左上顎犬歯根尖部付近の腫瘤。 【既往歴】肝芽腫( 1 歳)。 【現病歴】平成13年11月,左上顎犬歯根尖部付近の腫 瘤を自覚し,近歯科受診。精査加療目的に12月27日当 科紹介来院。同部に非可動性,骨様硬の腫瘤触知。生 検の結果,化骨性線維腫。平成16年 3 月25日,全麻下 に摘出術施行。術後 8 か月経過した現在,再発は認め ない。 34.上顎洞内に認められた骨壁で覆われた歯根嚢胞 の1例 中津留誠(千葉医療センター) 中嶋 大,加藤義国 (千大) 今回われわれは,上顎洞内に認められた骨壁で覆わ れた歯根嚢胞の 1 例を経験したが,本邦での報告は本 例を入れて11例だけであった。症例は33歳男性で,主 訴は右頬部の違和感。CT 像では,右上顎洞内に類円形 の骨様不透過像と内側に嚢胞様陰影像を認めた。全身 麻酔下で嚢胞と周囲骨壁を一塊として摘出した。病理 組織では歯根嚢胞とその周囲を覆う多列線毛円柱上皮 と骨を認めた。その骨形成の成因については未だ解明 されていない。 金澤優美,成川公貴,上原 渉 品川康弘,麻野和宏,佐々木忠昭 今井 裕 (獨協医大) 術後性上顎嚢胞の症状は多彩な臨床症状を呈し,患 者はその症状により耳鼻科・眼科・歯科口腔外科の三 科の領域にわたって来院することがある。今回われわ れは,術後性上顎嚢胞で眼窩底骨吸収が著しく,高眼 圧症,眼球の上方偏位および複視などの眼症状伴った 症例に対し,Caldwell-Luc 法に準じた嚢胞摘出術,お よび眼下底再建術を施行し良好な結果が得られたので 報告する。 37.両側性に生じた含歯性嚢胞の 1 例 原龍太郎,宇那木利英子,廣島直彦 奥田八重子,山本晃司,瀧川富之 大木秀郎,松本光彦 (日大・歯口外 2 ) 五十嵐裕二,原田大輔,田中 博 (日大・歯口外 1 ) 今回われわれは,下顎智歯部に両側性に生じた含歯 性嚢胞の 1 例を経験したので,文献的考察を加えて報 告した。患者は51歳女性。某歯科にて両側智歯部の透 過像を指摘され,精査加療目的で当科紹介来院。X 線 所見で両側下顎智歯歯冠を含む単房性,境界明瞭な嚢 胞様透過像を認めた。平成16年 5 月19日,下顎両側智 歯部含歯性嚢胞の臨床診断で嚢胞摘出術および下顎両 側智歯抜歯術を施行,現在術後 4 か月で経過良好であ る。 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 38.腺様嚢胞癌における DNA コピー数,mRNA の 発現解析 笠松厚志,中嶋 大,小池博文 鵜澤一弘 (千大院) 腺様嚢胞癌(ACC)の DNA コピー数の変化を comparative genome hybridization 法 を 用 い て 検 索 し た。 その結果,ACC に特異的な15箇所の DNA 増幅領域が 確認された。さらに,その領域における mRNA の発現 を GeneChip を用いて検索を行い,262遺伝子が過剰発 現していることが同定された。これらを Gene ontology, Pathway 解析を行い,癌に関与していることが確認で きた。 39.2D − DIGE を用いた口腔扁平上皮癌におけるタ ンパク発現解析 小池博文,笠松厚志,中嶋 大 鵜澤一弘 (千大院) 2 dimensional differential in-gel electrophoresis を用 いて口腔扁平上皮癌細胞株(OSCCs cell lines)と正常 口腔扁平上皮角化細胞の発現タンパクを定量的に比較 した。OSCCs cell line で 3 タンパクが過剰発現を示し, 4 タンパクが発現現弱を示した。よって,これらのタ ンパクが口腔癌の診断マーカーになり得る可能性が示 唆された。 40.口腔扁平上皮癌におけるカルシウムイオン関連 遺伝子の発現解析 森谷哲浩,加藤久視,鵜澤一弘 (千大院) 近年,Ca2+ に関わる分子の変異と癌との関連が報告 されてきている。本研究では,口腔扁平上皮癌細胞株 の遺伝子発現状況を,DNA チップ技術を利用して網羅 的に検討した。細胞内 Ca2+ 濃度調節に影響を及ぼす遺 伝子の多くに発現変異が見られ,発現変動の特に著し かった Ca2+ 関連遺伝子は,細胞内シグナル伝達・組織 形態・細胞移動に関わる遺伝子ネットワークと関連性 が高いことが示された。 41.唾液腺癌における遺伝子発現解析 神津由直,肥後盛洋,鵜澤一弘 (千大院) 唾液腺腫瘍は,薬剤や放射線耐性であり,予後不良 で遠隔転移も多い。この分子レベルでのメカニズムを 解明することは今後の治療に大いに関与する。本研究 は腺様嚢胞癌(ACC)に特異的に発現する遺伝子を同 203 定し,癌のネットワークを検索した。その結果 ACC 特 異的遺伝子とネットワークが理解され特性が解かった。 今後詳細に解析していくことにより更なる特性を理解 し,今後の外科療法だけでなく新しい治療に役立てる ことができる。 42.口腔扁平上皮癌における放射線(X 線・重粒子 線)応答遺伝子の探索 肥後盛洋,神津由直,鵜澤一弘 (千大院) 今回,我々は Gene Chip を用いた網羅的遺伝子発現 解析を行うことにより口腔扁平上皮癌における放射線 (X 線・重粒子線)感受性関連遺伝子を多数同定した。 得られた遺伝子の放射線感受性形成における詳細な機 能解明には今後の検討を要するが,本結果は口腔扁平 上皮癌における放射線感受性機構の解明に有用な基礎 的データを提供するものと期待される。 43.ヒト口腔扁平上皮癌由来細胞株と正常歯肉由来 表皮角化細胞との間で異なる発現を示したタン パク質のプロテオミクス解析を用いた特定 加藤久視,森谷哲浩,鵜澤一弘 (千大院) 口腔扁平上皮癌由来細胞株と正常歯肉由来表皮角化 細胞を用い,二次元電気泳動法・Peptide-mass fingerprinting 法により発現差のあるタンパク質群の解析を 行い,口腔扁平上皮癌関連タンパク質群の同定を試み た。その中で口腔扁平上皮癌由来細胞株で特異的に消 失しているタンパク質の 1 つは口腔扁平上皮癌で未報 告のものであり,細胞内のカルシウム濃度の調節に関 わっており,新たな口腔粘膜上皮の癌化機構への関与 が考えられた。 44.マイクロアレイを用いた口腔扁平上皮癌リンパ 節転移非転移症例における遺伝子発現解析 加藤義国,神津由直,鵜澤一弘 (千大院) 口腔扁平上皮癌(OSCC)リンパ節転移に関するバイ オマーカーを同定するため,PN (+); 7 症例,PN (-) ; 10 症例を用いてマイクロアレイ解析・クラスター解析を 施行した。ばらつきが少なく,誤判定がない235遺伝子 のうち上位20遺伝子をみると,PN (+)と PN (-)の 2 群 での比較ができた。その結果,転移初期応答に関与す ると思われる遺伝子が25% を占め,細胞外膜結合関連 遺伝子が見られた。 204 第1089回千葉医学会例会・第25回歯科口腔外科例会 45.口腔扁平上皮癌における PMCA 1 遺伝子の変異 解析 46.2D − DIGE を用いた唾液腺腺様嚢胞癌特異的タ ンパクの検索 齋藤謙梧,遠藤洋右,鵜澤一弘 (千大院) 中嶋 大,小池博文,笠松厚志 鵜澤一弘 (千大院) 近 年 癌 特 質 化 に 関 係 し て い る と の 報 告 が あ る Ca 2+ transporter ATPase の一つである Plasma Membrane Calcium ATPase isoform 1 の口腔扁平上皮癌における 遺伝子解析を行った。発現解析では現弱が免疫染色で 25%,realtimePCR では細胞株100%,臨床検体73%に 見られた。機能解析では,realtimePCR にて脱メチル 化処理により再発現が認められた。 2 dimensional differential in-gel electrophoresis を 用い,唾液腺腺様嚢胞癌(ACC)組織と正常唾液線組 織のタンパク発現状態の比較を行った。ACC で発現亢 進する 4 タンパクと,発現減弱する 5 タンパクを同定 した。さらに 5 倍以上の発現亢進を示した 2 つのタン パクの発現状態の確認を行い,その結果からこれらが ACC の診断マーカーとして有用であることが示唆され た。