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循環型酪農への取り組みとシステム化

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循環型酪農への取り組みとシステム化
農業情報システム
循環型農業
家畜ふん尿
過剰窒素
特
集
循環型酪農への取り組みとシステム化
や ま だ
山田
肥料の過剰施肥,家畜ふん尿の不適切な処理に伴う窒素化合物の河川流出,
閉鎖系水域の富栄養化が社会問題化しています.NTT環境エネルギー研究所
な ぐ も
たくみ
は
た
の
りゅうすけ*
巧 /波多野 隆介
としゆき
ま る お
や す こ
南雲 俊之 /丸尾 容子
では,リモートセンシングによる水質監視,水質データベースの構築,循環
型酪農環境評価システムの開発を通して,農業の環境影響評価,自治体の施
策立案支援を目指しています.
NTT環境エネルギー研究所
(*北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)
り,適切に処理されない分は土壌蓄
を見積もっています(1) .牧場では,中
積,河川流出,大気放出というかた
央にケバウ川が流れていて,牧場内の
日本の高度成長期に,工業プラン
ちで環境へ影響を与えます.また,近
森林湧水や農地浸透水・暗渠排水は,
トが排出する大量の工場廃水・排煙に
年の農業の集約化・大規模経営化が
沢や明渠排水を通してケバウ川に流入
よる水質汚濁・大気汚染などの環境破
過剰窒素の局在化に拍車をかけて,一
し,牧場外へ流出します.ケバウ川を
壊が公害病というかたちで顕著な社会
部地域で閉鎖系水域の富栄養化の問
通しての窒素流出量を,下流部(図
問題となりました.一方で,農村地域
題を引き起こしています.国では対応
1 のKout地点)と上流部(図1の
は,環境問題とは疎遠であるように思
策として法的整備を進めていて,環境
Kin地点)での窒素負荷量の差として
われやすいですが,近年マスコミで取
基本法(水質汚濁防止法,悪臭防止
求めることで,物質流出のメカニズム
り上げられる問題の中には化学肥料の
法,大気汚染防止法)や農業・環境
を解明できると考えています.
過剰投与による土壌・水質の汚染,
3法(家畜排せつ物の管理の適正化
家畜ふん尿による悪臭や不適切な処理
及 び 導 入 の促進に関する法律ほか)
育され,総面積457 haのうち森林が
による大気・水質への影響,農薬の問
が制定・改正されています.こういっ
67%であり,ほかは草地,畑からなっ
題など,農業の環境への影響が次第に
た社会的情勢に伴って農業環境影響
ています.このような環境のもとで測
深刻な問題として取り上げられてきて
評価技術が注目されています.
定された窒素フローを図2に示します.
農業の環境への影響
います.
日本の物質収支をみると,1998年
では,重量ベースで輸入量7億トン,
輸出量1億トンであり,差額の6億ト
北海道大学静内研究牧場での
物質循環解析
農業環境影響評価という立場から,
牧場内では,馬90頭と牛140頭が飼
毎年12.7トンの余剰窒素が発生しケバ
ウ川に流出していることや,それに至
る各過程での窒素フローを明確に読み
取ることができます.
ンが国内滞留する計算となっています.
物質循環を定量的に解析することはそ
この研究の中で窒素流出は降雨時
食料,飼料,肥料にかかわる窒素収支
の要因の究明や影響の度合いを評価す
あるいは融雪期に大部分が発生してい
も例外ではなく,1994年では,窒素
るうえで重要な手法です.NTT環境エ
ることも明らかとなっています.このよ
換算で 66万トン余りを輸入しているの
ネルギー研究所では北海道大学との共
うなメカニズムの解明にも繋がる収支
に対し,輸出量は18万トンで,48万
同研究において,同大学北方生物圏
解析は,環境劣化の要因分析や改善
トン余りが国内に滞留しています.こ
フィールド科学センター静内研究牧場
策の立案をするための基礎となるもの
れらは食物残渣,家畜ふん尿などとな
での窒素フロー(窒素の流れ)の収支
です.
NTT技術ジャーナル 2003.1
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農業情報システム
購入飼料
3.0
蓄積(出荷)
0.8
家畜
畜舎での摂取 4.1+2.1
6.9 畜舎での排泄
放牧時の摂取
9.0
粗飼料生産
と敷き料
放牧時の排泄
10.3
収穫 7.1
化学肥料
9.1
降雨 6.4
窒素固定 12.6
行方不明
+4.0
2.9 散布
農地と森林
⊿森林成長 11.0
脱窒
1.5
余剰窒素
12.7
河川水・地下水
図1 静内研究牧場と付近の様子
堆肥盤
レキ溜
単位:トン
図2 静内研究牧場における窒素フローと河川への流出可能窒素量の見積り
データの収集・稼動状況の管理を行い
から常に排水されていて新鮮な水が一
ます.水質監視システムは「酪農環境
時的に溜まるようになっています.水
静内研究牧場の研究成果をベース
評価データベース」に接続していて,
槽には水質センサが設置されていて
にN T T 環境エネルギー研究所では,
複数拠点からの情報を蓄積します.サ
pH,EC,ORP,溶存酸素濃度
循環型酪農環境評価システムの開発
ンプリングした水を化学分析し得られ
(DO)が測定されます.濁度計,水
を行 っています.その要 素 技 術 は,
た水質データ(全窒素濃度,全リン濃
位計は直接川の中に固定して測定し
リモートセンシング技術,サンプリン
度,硝酸態窒素濃度など)もこのデー
ています.小屋内には自動採水器が
グ技術,水質分析技術,データベー
タベースに追加され,これらのデータ
設置されていて,雨量計と連動して
ス構築技術という汎用的なものから,
群は位置情報を持っていて循環型酪
ある一定以上の雨量を観測したとき
要因分析,環境改善シミュレーショ
農 環 境 評 価 システムのG I S
に採水器が作動するようになってい
ン,施策立案支援といった専門的なも
( Geographic Information System)
ます.これらの水質データ,濁度・水
上にマッピングされます.一方,土地
位データ,雨量データ,採水器ログは,
システムのイメージを図3に示しま
利用状況,農業センサス情報など営農
環境情報HUB,ネットワークを介し
す.各種センサ――測定項目:pH,
に関する種々のデータや集水域など地
てシステム管理者側に設置してある
電 気 伝 導 率 ( E C ), 酸 化 還 元 電 位
形に基づく情報もGISの各レイヤに格
サーバに自動的に送られるようになっ
(ORP),水位,雨量など――を収容
納されていて,さまざまな観点から
ています.
した「定点観測システム」を調査対象
G I S 上での環境影響解析が可能とな
地点に設置します.システム管理者側
ります.
循環型酪農環境評価システムの開発
のも含まれます.
に設置した
「水質監視システム」では
定点観測システムの概略を図4に示
ネットワークを介して各拠点を遠隔監
します.川からポンプで常に水が汲み
視し,定点観測システムが送り出した
上げられます.水槽からは上部,下部
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NTT技術ジャーナル 2003.1
循環型酪農環境評価システムの
今後の展開
循環型酪農環境評価システムは,
学術的な知識を持たなくても該当地
特
集
牛
舎
ガス放出
圃場
肥料
窒素溶脱
サンプリング
放牧地
電子野帳
ふん尿
窒素溶脱
調査,コンサル
定点観測システム
水質センサ,
環境情報HUB
ネットワーク
対策立案支援
要因分析
GIS
環境改善シミュレーション
精密施肥
飼料・ふん尿
植林・堆肥盤
水質監視システム
酪農環境評価DB
循環型酪農環境評価システム
ツール
サービス
システム
図3 システムのイメージ
域の環境が即座に把握できて,適切
のくらいの効果が期待できるかを,時
揚する中,環境に配慮した製品づく
な対策立案を支援するシステムです.
間,季節,温度をパラメータとしてシ
りが販売戦略として有効に働くこと
今後は,前述した定点観測システム,
ミュレーションできます.
が期待できるため,生産者側の意識
水質監視システム,酪農環境評価DB
を統合して,さらに,要因分析技術,
環境改善シミュレーション技術を追加
し,ユーザインタフェースにGISの手法
循環型酪農環境評価システムの
導入メリット
環境保全型農業の実現に向けては,
を用いた,使いやすくわかりやすいシ
法規制や世論により必要に迫られた
ステムを構築していきます.
対応(消極的対応)と,他地域との
として重要です.導入メリットは,以
下のようになります.
・クリーン酪農先進地としてのP R
効果(販売戦略)
・過 剰 な肥 料 投 入 防 止 ( 経 済 的
効果)
要因分析技術とは環境に影響を与
差異化・ブランド化のための自主的な
・地域の環境保全
えている原因を探るためのもので,環
対応(積極的対応)の両面で進んで
・環 境 意 識 の啓 発 ( 最 適 飼 料 の
境改善シミュレーション技術では,例
いくものと考えられます.特に後者に
えば,植林や吸着剤の設置によりど
ついては,消費者の環境への意識が高
購入等)
・環境教育への利用
NTT技術ジャーナル 2003.1
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農業情報システム
河川モニタカメラ
水質センサ
・伝導率(EC)計
・酸化還元電位(ORP)計
環境情報HUB
・ph計
・溶存酸素濃度(DO)計
ロガー
水質センサ測定用
水槽
自動採水器
雨量計
パネルヒータ
(冬期の保温用)
揚水ポンプ
支
柱
圧力式
水位計
制御室へ
排水(採水・測定後に河川へ戻す)
濁度
センサ
採水ホース
・取水口
鉄製パイプで取水ホースと
濁度センサ,水位計を固定
水の流れ
情報の流れ
図4 定点観測システムの概要
今後の課題
農 業 環 境 評 価 は, 従 来 は農 林 水
産 省 の各 研 究 機 関 , 農 業 試 験 場 ,
大学などが中心となって行われてき
ルな評価技術が必要とされる時期に
来ています.
■参考文献
(1) 無線ネットワーク利用北海道大学・NTT共同
研究ホームページ
http://ecodb.agr.hokudai.ac.jp/www/
ました.そこで得られた専門的な研
究成果をわかりやすいかたちでシステ
(左から)南雲 俊之/ 山田
巧/
丸尾 容子/ 波多野 隆介(右上)
ム化して現場にフィードバックするこ
と,さらにはできるだけ遠隔操作に
と思われます.環境 問題は対象とす
農業現場においては近年急速にインター
ネットも普及し,行政,JA,農家などさま
ざまなレベルで情報化が急速に進んでいま
す.このようなインフラ整備をさらに進め
て,環境情報コンテンツを充実させること
と併わせて,環境保全型農業の実現を推し
進めていきたいと考えています.
る物質の拡散性,流動性を考慮する
◆問い合わせ先
より大量のデータを収集して解析し,
全体像を見据えた分析と対策立案を
支援することが今後求められていく
と,もはや狭い地域の問題ではなく
近隣の自治体,あるいは都道府県,
国を巻き込んだ問題ととらえるべき
です.そのような広域を対象とする
リモートセンシングを活用したトータ
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NTT技術ジャーナル 2003.1
NTT環境エネルギー研究所
環境情報流通プロジェクト
TEL 046-240-3138
FAX 046-240-4728
E-mail [email protected]
URL http://kankyo.lelab.ecl.ntt.co.jp/
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