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科学技術振興調整費 第Ⅱ期成果報告書

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科学技術振興調整費 第Ⅱ期成果報告書
科学技術振興調整費
第Ⅱ期成果報告書
生活・社会基盤研究
都市ゴミの高付加価値資源化による
生活排水・廃棄物処理システムの構築
研究期間:平成 13 年度~
平成 16 年 6 月
九州工業大学
白井 義人
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
研究計画の概要
p.1
研究成果の概要
p.5
研究成果の詳細報告
1. 有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
1.1. 有用成分を保持できる生ゴミ分別・回収法の開発
1.1.1. 有用成分を保持できるディスポーザシステムと輸送系
p.14
1.1.2. ディスポーザシステムにより輸送された生ごみ有用成分の回収法
p.20
1.2. 分別生ゴミの高機能製品への変換
1.2.1. 生ゴミからつくられたポリ乳酸の利用法
p.28
1.2.2. 生ゴミ類の高機能飼・肥料への変換
p.45
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.1. 有機廃棄物用亜臨界水処理装置の開発
p.59
2.1.2. 亜臨界条件下における有機廃棄物の可溶化
p.70
2.1.3. 有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能性無機材料への転換
2.1.3.1. 有機廃棄物からの高機能性活性炭の製造
p.82
2.1.3.2. 陰イオン交換樹脂による陽イオンの除去と有機酸の濃縮
p.88
2.1.3.3. 新規 Ni/C 触媒を用いた有機水溶液の水熱ガス化による燃料ガスの製造
p.93
2.2. 鉄触媒による有機廃棄物由来水溶液からの石油関連製品の生産
2.2.1. 鉄触媒による可溶性有機物からの石油関連製品の生産
p.100
2.2.2. 有機廃棄物のメタン発酵によるプロセスエネルギーの供給
p.115
3. 有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ新たな都市環境システムの設計と評価
3.1. 新都市環境システムの設計・導入に関する課題と実現へのシナリオ
3.1.1. 都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術と新都市環境システムの比較・評価
p.130
3.1.2. 新都市環境システムの設計と実現シナリオ
p.142
3.2. エネルギー面から見た新都市環境システムの比較・評価
p.157
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
研究計画の概要
■ 研究の趣旨
本研究は平成 10 年度から平成 12 年度まで実施された文部科学省科学技術振興調整費事業生活者ニーズ対応研究
「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」が評価され、第Ⅱ期として企画された。
そもそも本研究は生ゴミを中心とする都市ゴミを分別する手段としてのディスポーザを導入することにより環境にやさしい新
しい都市システムを構築することを目標に企画された。その際、分別収集された生ゴミを資源化する手段として生分解性プ
ラスチックであるポリ乳酸にすることを発想し、その実証を目指した。その結果、生ゴミからポリ乳酸を製造する技術を確立
することに成功した。そもそも、生活者ニーズ対応研究は、生活者の生のニーズに直接応えることを旨とする問題解決型の
プロジェクトであり、その主旨を踏まえ、民間フォーラム等を通じ、常に一般生活者との対話と批判に答えることを心がけて
きた。その結果、第Ⅰ期の成果を踏まえ、以下の諸点が問題として挙げられた:1)ディスポーザ導入と生ゴミ・ポリ乳酸化技
術の整合性が不明瞭、2)新技術導入による環境負荷評価が不十分、3)既存の都市システムを具体的に如何に進化させ
るかシナリオが不明確、4)生ゴミ・ポリ乳酸化に偏重し、生ゴミを原料とすることに対する懸念(ゴミは減らすべき)、5)新シス
テム導入に対する費用評価が不十分。本研究はこれらを踏まえ、平成 13 年度より 3 年間の予定で企画された。その主旨は、
1)食品リサイクル法等、我が国資源循環政策に組込める具体的な生ゴミ減量化・資源化について総合的に研究する。2)
既存の都市下水・活性汚泥下水処理・メタン発酵という都市排水処理システムを有効に利用しつつ都市システムを低環境
負荷型に移行させる実現可能な方法論を研究する。3)ここで開発されるであろう新技術を都市に具体的に導入するシナリ
オと環境評価ができる方法論を開発する。4)これら成果は研究途上においても常に一般生活者に報告し、その批判・評価
を研究に活かす。
■ 研究の概要
本研究は、第 1 班:有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換、第2班:汚泥を含
む有機廃棄物の石油製品化、第3班:新都市環境システムの設計・導入に関する課題と実現へのシナリオの3つの大きな
テーマからなる。これらは常に相互にデータの交換、試料の供給、評価情報の提供等を通じ、機動的に連携している。さら
に、研究の途中成果を民間フォーラムで公表し、評価・批判を受け、研究の方向性を修正した。このため、研究グループは
常に機動的に研究内容の修正を求められた。本研究は生活者のニーズに直接答えることを求められており、この点、通常
の基盤研究と異なる。第1班は生ゴミから生分解性プラスチックであるポリ乳酸をつくると同時に、その生産段階で排出され
る残渣を飼料、肥料等に変換することを目指した。一方、第Ⅰ期の研究を通じ、生分解性プラスチックという一方通行のマ
テリアル利用に対する疑問やポリ乳酸原料としての生ゴミ利用への疑問(生ゴミは減らすべきでは?)から、ポリ乳酸自身の化
学リサイクルの研究に重点を移した。その他、ディスポーザで回収された生ゴミのポリ乳酸への利用性について検討した。第
2班はディスポーザで生ゴミが回収された際、増加すると予想される汚泥の資源化について検討した。すなわち、活性汚泥法
で処理された下水汚泥(生ゴミも含む)は、次にメタン発酵に供され、エネルギー回収される。この後、排出される消化汚泥を
亜臨界分解処理、特殊な鉄触媒による可溶化有機物のケトン化、生成ケトンからのベンゼン、トルエン、キシレンの合成を試
みた。第3班は第1班、第2班で開発された新技術を既存の都市システムに導入する具体的なシナリオをつくり、既存の都市
システムと比較し、環境負荷を定量的に検討した。この際、LCA, LCC に基づき、システム・ダイナミックス手法を用いた環境
負荷評価用のシミュレーションプログラムを作成した。このプログラムにより、設定したシナリオの環境負荷を評価することがで
きた。ここで得られた成果に基づき、都市環境システムに関する新たな政策提言も可能になると期待できる。
1
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 実施体制
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
1.有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システ
ムの開発と高機能製品への変換
(1)有用成分を保持できる生ゴミ分別・回収法の開発
九州大学大学院工学研究院
楠田哲也(教授)
東陶機器㈱
瓜生勝嗣
①生ゴミからつくられたポリ乳酸の利用法
九州工業大学大学院生命体工学研究科
◎白井義人(教授)
②生ゴミ類の高機能飼・肥料への変換
大分大学工学部応用化学科
○酒井謙二(教授)
①有機廃棄物用亜臨界水処理装置の開発
(独)産業技術総合研究所九州センター
柴田昌男
②亜臨界条件下における有機廃棄物の可溶化
中央大学理工学部
船造俊孝
③有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能性無機材
京都大学大学院工学研究科
三浦孝一(教授)
北海道大学大学院工学研究科
○増田隆夫(教授)
北九州市環境科学研究所
鈴木学
(株)エックス都市研究所
鈴木進一
②新都市環境システムの設計と実現シナリオ
名古屋大学大学院環境学研究科
○井村秀文(教授)
(2)エネルギー面から見た新都市環境システムの比
(財)北九州産業学術推進機構
田上真人
①有用成分を保持できるディスポーザシステムと輸
送系
②ディスポーザシステムにより輸送された生ゴミ有用
成分の回収法
(2)分別生ゴミの高機能製品への変換
2.汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
(1)有機廃棄物の可溶化法
料への転換
(2)鉄触媒による有機廃棄物由来水溶液からの石油
関連製品の生産
①鉄触媒による可溶性有機物からの石油関連製品
の生産
②有機廃棄物のメタン発酵によるプロセスエネルギ
ーの供給
3.有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ
新たな都市環境システムの設計と評価
(1)新都市環境システムの設計・導入に関する課題と
実現へのシナリオ
①都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術と新都市
環境システムの比較・評価
較・評価
(注:◎は研究代表者、○はサブテーマ責任者)
2
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 総合推進委員会
氏
名
◎ 花嶋 正孝
所
属
福岡県環境保全公社リサイクル総合研究センター センター長
遠藤 勲
宇都宮大学 教授
松尾 友矩
東洋大学 教授
羽野 忠
大分大学 教授
竹林 征雄
株式会社 荏原製作所 理事
富田 美穂
日本ガイシ株式会社 部長
◎ 総合推進委員長
4
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
研究成果の概要
■総 括
本研究では生ゴミから大規模にポリ乳酸を製造するための必要条件である、如何に大規模に生ゴミを収集輸送するかの
問題を解決するため、生ゴミを地域的に酵素糖化し、濃縮後、糖化液として大規模ポリ乳酸工場に輸送する方法を開発し
た。さらに、糖化後の残渣、乳酸発酵後の残渣を高品質肥料や飼料添加物とする技術も開発した。一方、ポリ乳酸は、原
料調整、乳酸発酵、濃縮、精製を経てポリ乳酸の原料になる乳酸が得られる。ポリ乳酸はそれからラクチドを合成し、その
開環重合により製造される。本研究では酸化マグネシウムを触媒にし、温度を 300℃弱にすることにより容易に高い光学純
度をもつラクチドが得られる技術を開発した。これはポリ乳酸製品を使用後、そのまま再びポリ乳酸の原料にできることを意
味しており、生ゴミを常に生ゴミの原料とする必要をなくした。ディスポーザの普及に伴い、生ゴミが分別処理されることにな
れば、臭うゴミを搬送する必要がなく都市のゴミ処理は根本的に改善される。しかし、汚泥量が増え、その処理が大問題に
なる。そのため、本研究では汚泥からガソリンをつくる技術を完成させた。この技術の特徴は、組成雑多な水溶性有機物を
活性酸素を発生する鉄触媒を用いてケトンと炭酸ガスに酸化することである。これにより、前処理で成分組成を揃える必要
がなくなり、エネルギー、コストの点で大きな進歩をみた。これらの新技術を都市システムとして導入し、都市システムをより
環境にやさしく、さらに快適なものにするため、具体的な方策を検討した。たとえば、食品リサイクル法を中心とした資源循
環政策に則り、生ゴミをポリ乳酸にする技術の普及をはかる。一方、ポリ乳酸自身はトウモロコシ等の農産資源からも製造さ
れ、急速に利用が促進され、世の中に蓄積されていくものと思われる。一方、生活者の環境意識の高まりにつれ、あるいは
調理完成品の利用促進により生ゴミそのものの排出も減少するかもしれない。これに伴い、ポリ乳酸自身から原料乳酸を作
り出す化学リサイクルも普及すると予想できる。さらに、分流型下水の普及に伴い、ディスポーザが普及する下地は整う。こ
の際、本研究で開発した汚泥のガソリン化技術は汚泥の処理・有効利用に大きな威力を発揮すると思われる。しかし、この
ように一見環境にやさしいプロセスも、その運転に化石資源を使っては今以上の環境負荷をかけることが開発した評価プロ
グラムにより明らかになった。都市のもつゴミ焼却場や大規模工場の排熱等に有効に使い、さらにディスポーザの利用に伴
う運営管理の責任の所在をはっきりさせることによってはじめて、ここで開発した新技術が環境にやさしく快適な新しい都市
環境システムの実現が可能になることを、本研究は明らかにした。
■ サブテーマ毎、個別課題毎の概要
1.1.1 有用成分を保持できるディスポーザシステムと輸送系
生ごみを有機資源として再利用するために、ディスポーザと下水道施設を用いて生ごみを収集・輸送・回収するシステム
を構築することを試みた。得られた結果は以下の通りである。(1)下水処理場でスクリーンにより有機成分を回収するための
ディスポーザは、現在のものより直径が 5mm 短いものが好ましい、(2)しかし、下水管路内に貝殻、卵殻が数%堆積すること
は避けられず、清掃回数を増やさざるを得ない、(3)回収スクリーンのメッシュサイズは 0.85mm が好ましい、(4)結果として、
スクリーン通過液は従来の下水の BOD5 の 1.11-1.53 倍となる、(5)ディスポーザ付きのマンションからの台所排水の BOD5
は夕方では 1600mg/L 程度になるが、その他の時間帯では 600mg/L 程度で、下水道への負荷量は計画原単位と余り変ら
なかった。
1.1.2. ディスポーザシステムにより輸送された生ごみ有用成分の回収方法
都市ごみを原料として生分解性プラスチックや石油関連商品などの高付加価値資源化への転換を行う上で、生ごみの
効率的な分別・回収方法の確立を行う必要性がある。本研究では、生ごみに含まれる有機性炭素の回収率向上を目的と
し、スクリーン濾過ならびに加圧浮上法のディスポーザ破砕生ごみへの適応について検討を行い、有機性炭素回収率を
80%まで高めることが可能であることを確認した。
5
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1.2.1. 生ゴミポリ乳酸の利用
生ゴミを簡便、廉価に酵素糖化するシステムを開発し、乳酸発酵、ブチルエステル化後の精製を経由してラクチドをつくり、
ポリ乳酸を合成するシステムを完成させた。成果は農林水産省の補助事業に継承され、北九州エコタウンで事業実証され、
技術の完成度が確認された。一方、製造されたポリ乳酸の化学リサイクルに関する研究を続け、小規模でも循環利用可能
なシステムとしてポリ乳酸製品の熱分解システムを提案した。この中で、酸化マグネシウムを触媒にすることにより、ポリ乳酸
から光学純度をほとんど低下させることなく、ラクチドを回収できる技術を確立し、特許を出願した。
1.2.2 生ゴミ類の高機能飼・肥料への変換
ポリ乳酸生産を基軸とした都市生ゴミの包括的なリサイクルシステムの確立を目指し,低設備/低エネルギー型乳酸発酵
法を開発し,改変生ゴミ処理プロセスを確立してその元素フローを明らかにした。また,プロセスで生成する副産物のうち,
糖化残さの制御型高温好気発酵による肥料化法を適用し,水稲栽培における有効性を明らかにした。さらに,副生乳酸菌
体について整腸効果,脂質代謝亢進効果,腸内菌相改善効果を有する機能性飼料添加物としての利用法を提示した。
2.1.1. 有機廃棄物用亜臨界水処理装置の開発
有機廃棄物を大量に効率よく水に可溶化するために、Ⅰ期で試作したスラリー流通式(連続式)処理装置を改造して有
機廃棄物用亜臨界水処理装置とし、固形物濃度約 10%の消化汚泥スラリーを安定に連続して亜臨界水処理可能とした。
消化汚泥を水に可溶化するための処理条件を検討した結果、消化汚泥中の有機質炭素の 60~80%が処理水中に溶解
することを明らかにした。有機酸を生成させるために過酸化水素水の添加を試み、過酸化水素水の添加は有機酸生成に
有効であることを明らかにした。消化汚泥の有機酸化にはカルシウム塩の添加が有効であること、および厨芥ゴミのモデル
としたドッグフードは、汚泥よりも水可溶化および有機酸化が容易であることを回分式処理法により明らかにした。
2.1.2 亜臨界条件下における有機廃棄物の可溶化
下水消化汚泥を有用物質に変換する資源化技術において、その前段プロセスである汚泥の可溶化・有機酸への変換
工程について、回分式反応装置および流通式反応装置を用いて、亜臨界水条件下で下水消化汚泥を可溶化できることを
示し、溶出有機炭素量に及ぼす可溶化条件の影響を明らかにした。また、流通式反応器を用いて、可溶化速度、脱窒素
速度、アンモニア生成速度を求めた。さらに、下水消化槽への生ゴミ直投の場合も想定し、生ゴミの亜臨界条件下における
可溶化条件を明らかにした。
2.1.3. 有機廃棄物からの高機能性活性炭の製造
生ゴミの処理プロセスから生じる種々の廃棄物や標準生ゴミから市販活性炭と遜色のない細孔特性を有する活
性炭を作製することができた。また、有機廃棄物を可溶化処理した有機水溶液から触媒毒となるカルシウム,ア
ンモニアなどの陽イオンを除去するとともに有機酸の濃縮に成功した。さらに、有機水溶液を新たに開発した高
活性金属担持炭素触媒を用いて水熱ガス化し、350℃という低温で、メタンや水素などの燃料ガスに転換すること
にも成功した。
2.2.1 鉄触媒による可溶性有機物からの石油関連製品の生産
消化汚泥由来可溶化有機物から 250~300℃、常圧~20 気圧で約 80%の収率でケトンを生成する鉄系触媒を開発する
とともに、ゼオライト触媒を用いて 400~450℃、常圧でケトンをベンゼン、トルエン、キシレンなど単環芳香族に転換すること
に成功した。これら技術の有用性をベンチスケールの試験装置で実証した。一方、反応原料中に含まれる触媒の被毒物
質の除去法を確立した。さらに、可溶性有機物中に含まれるアンモニアを水蒸気共存下で分解して水素を生成する高活
性で安定な Ni 触媒を開発した。
6
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2.2.2. 有機廃棄物のメタン発酵によるプロセスエネルギーの供給
濃縮後の余剰汚泥と消化槽引抜汚泥に対して、現場への適用が比較的容易と考えられる超音波処理を行って改質化し
た後、消化工程(メタン発酵工程)に供すると、消化ガス即ちメタンの収率が現状よりも増大することを回分式及び半連続式
消化実験により確認した。さらに、二酸化炭素の還元反応により、メタン収率を高める検討を行ったが、システムの構築まで
には至らなかった。また、将来直投式ディスポーザが普及した場合の汚泥の負荷増に対し、本市の日明浄化センターの現
消化工程が十分対応できること、またディスポーザ排水に由来するメタン収率の増加が見込まれることを明らかにした。
3.1.1. 都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術と新都市環境システムの比較・評価
従来技術と新都市環境システムの比較・評価に関する研究成果として、都市ゴミ資源化・リサイクル技術の導入が環境負荷
の低減に与える影響評価手法「新都市環境システム設計・評価手法」の中の「4 つのシステムイメージ構築」(要素技術のシ
ステム化)、「システム間の比較評価」(ライフサイクルアセスメント[LCA])、「シナリオ・プランニング」、「システム実現・拡大
のための戦略」の作成を実施した。
分析対象都市である北九州市の条件に基づき、新技術、及び従来技術を社会システムの中のツールとして位置づけ、シ
ステム間のライフサイクルでの環境負荷評価を行った結果、システムの最適化を行うことにより、新技術を導入した新都市
環境システムは従来システムよりも環境負荷を低減する可能性があることが明らかになった。
また新都市環境システム実現のための課題についても北九州市を例に調査を行い、生ごみ排出を行う生活者のニーズを
踏まえた合意形成、システム設計の工夫や、下水道の分流化等のインフラ対応等が重要な点となることを整理した。
3.1.2 新都市環境システムの設計と実現シナリオ
北九州市を対象とした新たな有機性廃棄物処理システム実現のための政策に対するシナリオ分析ツールを構築し、分別
収集してポリ乳酸化するシステムと、直投型ディスポーザを使用し生ゴミをエネルギー化するシステムについて 30 年間の動
態的なシナリオ分析を行った。焼却工場と下水処理場,再資源化工場など都市の施設全体をシステムとして処理施設間の物
質・エネルギーフローの変化による因果関係を考慮した結果、廃熱・安価電力の提供を行うなどの対策によって、費用につい
ては現状維持あるいは負担微増の状態で、二酸化炭素の排出量を BAU よりも抑制できる可能性のあることが判明した。
3.2.1 エネルギー面から見た新都市環境システムの比較・評価
本テーマに関する既存資料及びプロジェクト内の各機関から提供いただいた研究データの利用、また、北九州市内企
業を対象とした現地調査により、次のことが明らかになった。(1)生ごみからポリ乳酸を製造するシステムは、比較的低温
(120~150℃)のエネルギーを未利用エネルギーでまかなうことができれば、メタン発酵により生ごみを処理するシステムに
比べエネルギー面で優位となる。(2)家庭等での電気による生ごみ乾燥は、分別収集の効率化を大きく上回るエネルギー
の損失となる。従って、自然エネルギーまたは余熱利用による乾燥が望ましい。(3)下水汚泥のメタン発酵残渣から BTX を
製造することによりエネルギーの有効利用が図れる。(4)清掃工場からは未利用の蒸気が排出されている場合があり、比較
的使用しやすい条件と考えられる。その他、高温排ガスを排出している工場はかなりある。
■ 波及効果、発展方向、改善点等
波及効果
本研究において、生ゴミからポリ乳酸を採算が取れる経済性をもって生産する技術を完成させた。この成果は農林水産
省施設補助事業食品リサイクル施設先進モデル実証事業「生ゴミ精製乳酸化実証事業」(総事業費830百万円内国の負
担330百万円:事業主体(財)北九州産業学術推進機構、参加機関:㈱荏原製作所、㈱武蔵野化学研究所、環境テクノス
㈱、オルガノ㈱、電源開発㈱、帝人㈱、九州工業大学)に継承され、新事業としての将来が見通せるようになった。特筆す
べきは、本研究で申請した特許がこの実証事業で利用されることと本研究の第Ⅰ期に参加していた㈱武蔵野化学研究所
と環境テクノス㈱が本研究での成果を事業として実現すべくこの実証事業に出資し参加していることである。さらに我が国
7
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
初の各省横断的な総合プロジェクトであるバイオマス・ニッポン総合政策プロジェクトの中でも、食品廃棄物等のバイオマス
からマテリアル生産としてポリ乳酸が大きなテーマとして取り上げられている。これらは、文部科学省の基盤研究成果が、事
業官庁である農林水産省や民間企業に認められ、政策的に発展、波及したことを意味しており、大型基盤ナショナルプロ
ジェクトとしての任務を十分に果たしたと考える。
発展方向
近年、地球環境問題、とりわけ温暖化ガス問題の解決が 21 世紀における最重要課題のひとつに挙げられている。温暖
化ガス問題は化石資源の削減とバイオマス資源の利用が根本的な解決策となるが、これはそのまま、省エネルギーと資源
の循環利用に直結する。なぜなら、バイオマスは温暖化ガスの排出を伴わないカーボンニュートラルな原料であるからであ
る。ここで、我々は都市の未利用排エネルギー利用の重要性とそれがないといかに環境によさそうな開発技術も、これまで
の循環を伴わない使い捨て方式の方がむしろ環境負荷が低いことを示した。今後は高品質、最先端な技術開発のみを重
視するのではなく、たとえ何年も前に完成しているローテクノロジーであっても、それらを並べる順序、様々な廃エネルギー
を有効に利用する方法、つまり、全体のシステム化を、抽象的ではなく、地域を特定して具体的に検討することが極めて需
要であると思う。その際、全体を冷静がつ定量的に判断する方法論が必要であるが、本研究で開発した環境負荷評価プロ
グラムは有効な評価ツールになる。
改善点等
本研究におけるひとつの柱である生ゴミからポリ乳酸をつくる技術はすでに完成の域にある。今後はポリ乳酸を中心とし
た生分解性素材の化学リサイクルの事業実証が必要である。また、ポリ乳酸を中心とする生分解性素材は環境にやさしい、
カーボンニュートラルな植物起源の新素材として高い注目を集めているが、現在、十分な需要のある市場があるわけでは
ない。何よりもこの新素材が広く一般生活者に認められ、大きな需要をもつことが必要である。大きな需要という点では、もう
ひとつの柱である汚泥起源のベンゼン・トルエン・キシレンには全く問題がない。ベンゼン・トルエン・キシレンはハイオクガ
ソリンとして利用が可能であるからである。ガソリンは現在文明の中心である車を今ある姿のまま利用することが可能である
ばかりでなく、ガソリン使用に伴う温暖化ガス放出問題も解決する。さらに、現在、廃棄物処理問題の大きな課題のひとつ
である汚泥の処理問題をも解決することができる。このように、汚泥の石油製品化のもたらす、環境と経済に及ぼす波及効
果は計り知れない。しかし、一方、この技術はまだ実験室のベンチスケールで実証されたのみの基盤技術である。1 日も早
く、パイロット規模での実証研究と、汚泥処理とガソリン製造を両方睨んだ経済性を含むフィージビリティースタディーが必
要であろう。そして、ここでの成果を今後の我が国の政策に反映させていくことが重要である。
8
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 研究成果全体図
9
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 所要経費
(単位:千円)
研 究 項 目
担当機関等
研 究
担当者
所要経費
13
14
15
年度
年度
年度
19,422
16,261
6,986
42,669
14,751
16,735
1,995
33,481
34,426
38,764
34,194
107,384
30,349
35,081
23,855
89,285
8,824
7,301
6,984
23,109
9,558
9,551
9,468
28,577
23,432
27,026
20,271
70,729
36,123
39,852
30,146
106,121
10,047
12,416
10,586
33,049
26,463
25,891
26,081
78,435
11,699
14,130
14,954
40,783
22,225
24,984
24,884
72,093
247,319
267,992
210,404
725,715
合計
1.有用成分を保持できる生ゴミの分別・
回収システムの開発と高機能製品への
変換
(1)有用成分を保持できる生ゴミ分別・回収
法の開発
九州大学大学院
楠田哲也
東陶機器㈱
瓜生勝嗣
①生ゴミからつくられたポリ乳酸の利用法
九州工業大学大学院
白井義人
②生ゴミ類の高機能飼・肥料への変換
大分大学工学部
酒井謙二
(独)産業技術総合研
柴田昌男
①有用成分を保持できるディスポーザシス
テムと輸送系
②ディスポーザシステムにより輸送された
生ゴミ有用成分の回収法
(2)分別生ゴミの高機能製品への変換
2.汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
(1)有機廃棄物の可溶化法
①有機廃棄物用亜臨界水処理装置の開
究所九州センター
発
②亜臨界条件下における有機廃棄物の
中央大学理工学部
船造俊孝
京都大学大学院
三浦孝一
北海道大学大学院
増田隆夫
北九州市環境科学研
鈴木学
可溶化
③有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能
性無機材料への転換
(2)鉄触媒による有機廃棄物由来水溶液
からの石油関連製品の生産
①鉄触媒による可溶性有機物からの石油
関連製品の生産
②有機廃棄物のメタン発酵によるプロセス
究所
エネルギーの供給
3.有機廃棄物の高付加価値資源化を組
み込んだ新たな都市環境システムの設
計と評価
(1)新都市環境システムの設計・導入に関
する課題と実現へのシナリオ
①都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術
と新都市環境システムの比較・評価
②新都市環境システムの設計と実現シナ
(株)エックス都市研究
鈴木進一
所
名古屋大学大学院
井村秀文
(財)北九州産業学術
田上真人
リオ
(2)エネルギー面から見た新都市環境シス
推進機構
テムの比較・評価
所 要 経 費
(合 計)
10
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 研究成果の発表状況
(1) 研究発表件数
国 内
国 際
合 計
原著論文による発表
左記以外の誌上発表
口頭発表
合
計
第Ⅰ期 12 件
第Ⅰ期 31 件
第Ⅰ期 126 件
第Ⅰ期 169 件
第Ⅱ期 10 件
第Ⅱ期 9 件
第Ⅱ期 143 件
第Ⅱ期 162 件
第Ⅰ期 24 件
第Ⅰ期 13 件
第Ⅰ期 16 件
第Ⅰ期 53 件
第Ⅱ期 16 件
第Ⅱ期 6 件
第Ⅱ期 8 件
第Ⅱ期 30 件
第Ⅰ期 36 件
第Ⅰ期 44 件
第Ⅰ期 142 件
第Ⅰ期 222 件
第Ⅱ期 26 件
第Ⅱ期 15 件
第Ⅱ期 151 件
第Ⅱ期 192 件
(2) 特許等出願件数
第Ⅰ期 4 件 (うち国内 4 件、国外 0 件)
第Ⅱ期
合計
10 件 (うち国内 10 件、国外 0 件)
0 件 (うち国内 0 件、国外 0 件)
(3) 受賞等
第Ⅰ期 5 件 (うち国内 5 件、国外 0 件)
1.
ソロプチミスト日本財団賞(平成11年11月)酒井謙二 大分大学「微生物処理を介した生物由来廃棄物リサイク
ル」
2.
(財)バイオインダストリー協会 発酵と代謝研究奨励賞(平成11年10月)酒井謙二大分大学「有機廃棄物を原料
とする開放型乳酸発酵プロセス確立のための菌叢解析」
3.
土木学会論文賞(平成11年5月)松本亨、井村秀文 九州大学「社会資本整備に係わるLCA(ライフサイクルアセ
スメント)手法の開発と適用」
4.
日本化学会 化学技術賞(平成11年3月)小原仁実 ㈱島津製作所「再生可能資源からの高分子料ポリL-乳酸
の工業的製造法開発」
5.
日経地球環境技術賞(平成12年10月) 小原仁実 ㈱島津製作所「生ゴミから生分解性プラスチックであるポリ-L
-酸を製造する方法の開発」
第Ⅱ期 0 件 (うち国内 0 件、国外 0 件)
(4) 主な原著論文による発表の内訳
1.
山口聡世, 篠原久志, 楠田哲也:「ディスポーザ排水に混入する高比重物質の管路内輸送特性に関する基礎的
研究」, 第 40 回環境工学研究フォーラム, Nov. 14-16, (2003)
2.
H. Shinohara, F. Takayama, T. Yamaguchi and T. Kusuda:「Recovery of organic constituents from wastewater with
comminutor」, Asian Waterqual2003, Oct. 19-23, (2003)
3.
Tomokazu Mori, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Effect of chainend structures on pyrolysis of
poly(L-lactic acid) containing tin atoms」, PolymerDegradation and Stability, in pressing.
4.
Haruo Nishida, Tomokazu Mori, Shinya Hoshihara, Yujiang Fan, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Effect of Sn atom
on Poly(L-lactic acid) Pyrolysis」, Polymer Degradation and Stability, accepted for publication.
5.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Racemization on Thermal Degradation of
Poly(L-lactide) with Calcium Salt End Structure」, Polymer Degradation and Stability, in pressing.
6.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Thermal Stability of Poly (L-lactide): Influence
11
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
of End Protection by Acetyl Group」, Polymer Degradation and Stability, 84[1], 143-149 (2004)
7.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Tomokazu Mori, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Thermal Degradation of Poly
(L-lactide): Effect of Alkali Earth Metal Oxides for Selective L,L-Lactide Formation」, Polymer, 45, 1197-1205
(2004)
8.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Shinya Hoshihara, Yoshihito Shirai, Yutaka Tokiwa, and Takeshi Endo:「Pyrolysis
Kinetics of Poly(L-lactide) with Carboxyl and Calcium Salt End Structures」, Polymer Degradation and Stability,
Vol. 79, pp547-562(2003)
9.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Control of Racemization for Feedstock
Recycling of PLLA」, Green Chemistry, 5, 575-579 (2003).
10.
Kenji Sakai, Masayuki Taniguchi, Shigenobu Miura, Hitomi Ohara, Toru Matsumoto,
Yoshihito Shirai:「Making
Plastics from Garbage:A Novel Process for Poly-L-lactate Production from Municipal Food Waste」, J. Indust.
Ecol., vol. 7, (3/4) 63-73, (2004).
11.
白井義人,樊渝江,西田治男:「ポリ乳酸のケミカルリサイクルと循環社会システム」, 工業材料, 51[3], 27-29
(2003).
12.
白井義人, 樊渝江, 西田治男:「食品ゴミからポリ乳酸の製造とケミカルリサイクルについて」, Petrotech, 26[8],
621-627 (2003).
13.
Kenji Sakai,Hiroyuki Kawano,Akihiko Iwami,Masakazu Nakamura, Mitsuaki Moriguchi:「Isolation of a
Thermophilic Poly-L-Lactide Degrading Bacterium from Compost and Its Enzymatic Characterization」,J. Biosci.
Bioeng., 92,298-300 (2001)
14.
Kenji Sakai, Masatugu Mori, Akira Fujii, Iwami Yuko, Yoshihito Shirai: 「Fluorescent In Situ Hybridization
Analysis of Open Lactic Acid Fermentation of Kitchen Refuse Using rRNA-targeted Oligonucleotide Probes」, J.
Biosci. Bioeng., 98,(2004) in press.
15.
Miki Umeki, Kazutoshi Oue, Satoshi Mochizuki, Yoshihito Shirai, Kenji Sakai, Effect of Lactobacillus rhamnosus
KY-3 and Cellobiose as Synbiotics on Lipid Metabolism in Rats, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 50(5),
16.
(2004)
In press
M.Taniguchi, T.Tokunaga, K.Horiuchi, K.Hoshino, K.Sakai, and T.Tanaka, Production of L-lactic acid from a
mixture of xylose and glucose by co-cultivation of lactic acid bacteria, Applied Microbiology and Biotechnology
(2004) In press
17.
山田則行,坂木 剛,柴田昌男,安田誠二,大塚雅志,木元洋一,迎 勝也:「加圧熱水による古紙の糖化に及ぼす炭
酸カルシウムの影響」,日本エネルギー学会誌,81(5),328-336,(2002)
18.
山田則行,坂木 剛,柴田昌男:「加圧熱水による古紙の水可溶化特性と有機酸の生成」,日本エネルギー学会誌
印刷中
19.
田門肇: 「廃棄物の炭化処理と有効利用」, 資源環境対策, 第 38 巻, 297 頁, (2002)
20.
K. Nakagawa, T. Sugiyama, S. R. Mukai, H. Tamon, Y. Shirai and W. Tanthapanichakoon: “Preparation and
Characterization of Activated Carbons from Wastes Generated during Lactic Acid Fermentation from Garbage”, J.
Chem. Eng. Japan, in press, (2004)
21.
K. Nakagawa, A. Namba, S. R. Mukai, H. Tamon, P. Ariyadejwanich and W. Tanthapanichakoon: “Adsorption of
Phenol and Reactive Dye from Aqueous Solution on Activated Carbons Derived from Solid Wastes”, Water
Research, Vol. 38, 1791 (2004)
22.
T. Oomori, S. Haghighat Khajavi, Y. Kimura, S. Adachi, and R. Matsuno: “Hydrolysis of Disaccharides Containing
Glucose Residue in Subcritical Water.” Biochemical Engineering Journal, 18, 143-147 (2004).
23.
23.H. Nakagawa, A. Namba, M. Boehlmann, K. Miura: “Hydrothermal Treatment of Brown Coal for Upgrading
and the Treatment of its Wastewater Using Catalytic Hydrothermal Gasification to Recover Fuel Gas”, Fuel, 83,
719-738(2004)
12
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
24.
24.T. Masuda, Y. Kondo, M. Miwa, T. Shimotori, S. R. Mukai, K. Hashimoto, M. Takano, S. Kawasaki and S.
Yoshida:「Recovery of Useful Hydrocarbons from Oil Palm Waste Using ZrO2 Supporting FeOOH Catalyst」,
Chemical Engineering Science,56,897-906,(2001)
25.
E. Fumoto, T. Tago, T. Tsuji and T. Masuda:「Recovery of Useful Hydrocarbons from Petroleum Residual Oil by
Catalytic Cracking with Steam over Zirconia-Supporting Iron Oxide Catalyst」, Energy & Fuels,投稿中
26.
岡村実奈,入山広阿貴,井村秀文:「都市の有機物資源循環将来予測システムの開発に関する研究」, 環境システ
ム研究論文集, Vol.31, 113-123,(2003)
(5)主要雑誌への研究成果発表
Impact
Journal
Factor
サブテーマ 1
サブテーマ 2
サブテーマ 3
合計
Polymer Degradation and Stability
1.145
5
0
0
5
Polymer
1.838
1
0
0
1
Green Chemistry
2.547
1
0
0
1
J. Biosci. Bioeng.
0.777
2
0
0
2
J. Chem. Eng. Japan
0.459
0
1
0
1
Water Research
1.611
0
1
0
1
Biochemical Engineering Journal
0.941
0
1
0
1
Fuel
1.000
0
1
0
1
Chemical Engineering Science
1.224
0
1
0
1
Energy & Fuels
1.198
0
1
0
1
J. Nutr. Sci. Vitaminol.
0.720
1
0
0
1
Applied Microbiology and Biotechnology
1.744
1
0
0
1
サブテーマ 1:有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
サブテーマ 2:汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
サブテーマ 3:有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ新たな都市環境システムの設計と評価
※ Journal Citation Report.2002 による
13
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1. 有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
1.1. 有用成分を保持できる生ゴミ分別・回収法の開発
1.1.1. 有用成分を保持できるディスポーザシステムと輸送系
九州大学大学院工学研究院環境都市部門都市環境研究室
楠田 哲也
■要 約
生ごみを有機資源として再利用するために、ディスポーザと下水道施設を用いて生ごみを収集・輸送・回収するシステム
を構築することを試みた。得られた結果は以下の通りである。(1)下水処理場でスクリーンにより有機成分を回収するための
ディスポーザは、現在のものより直径が 5mm 短いものが好ましい、(2)しかし、下水管路内に貝殻、卵殻が数%堆積すること
は避けられず、清掃回数を増やさざるを得ない、(3)回収スクリーンのメッシュサイズは 0.85mm が好ましい、(4)結果として、
スクリーン通過液は従来の下水の BOD5 の 1.11-1.53 倍となる、(5)ディスポーザ付きのマンションからの台所排水の BOD5
は夕方では 1600mg/L 程度になるが、その他の時間帯では 600mg/L 程度で、下水道への負荷量は計画原単位と余り変ら
なかった。
■目 的
家庭にて発生する生ごみを有機資源として再利用するために、ディスポーザと下水道施設を組み合わせて生ごみを下
水処理場で回収する実用可能な高効率システムを構築することを目的とする。具体的課題は、回収目的のディスポーザの
開発、回収用のスクリーンのメッシュサイズの決定、排水中に含まれる高比重物質(貝殻、卵殻)の限界掃流力と堆積率の
算定、ディスポーザ付きマンションからのディスポーザ排水の水質調査である。
■ 研究方法
本実験に使用した生ごみは、国土交通省による標準生ごみである(「引用文献 1.」)。
(1)ディスポーザによる生ごみの分別収集
1)最適な破砕粒度のディスポーザの決定
本実験では、生ごみを効率的に輸送、回収するために、ディスポーザによる破砕の最適な粒度分布を決定する。破砕粒
度の異なる 3 種のディスポーザ排水を実験試料とする輸送・回収に関する実験結果から、最適な破砕粒度となるディスポ
ーザ構造を決定した。
粒度分布の異なる排水作成のために、ディスポーザ(アナハイム社製、950-JF)内部のターンテーブルの直径を縮小し、
固定刃との間隔を広くした。ディスポーザの改造の特徴を Table1 に示す。
2)高密度物質の管路内堆積現象
A. 貝殻、卵殻が単独で存在している場合
Table1 ディスポーザの種類と特徴
実験に使用する貝殻、卵殻は、3 種の破砕粒度の異
ディスポーザ
特徴
A
ターンテーブルを1.0cm短くしたディスポーザ
勾配、流量が操作できる矩形水路を用いて、単独の
B
ターンテーブルを0.5cm短くしたディスポーザ
貝殻、卵殻の掃流実験を行った。水路幅は 20cm、路床
C
通常のディスポーザ(アナハイム社製、950-JF)
なるディスポーザ(Table1)により破砕されたものである。
14
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
材料を塩化ビニル製の板とし、整流板の後 5m を助走区間とした。路床の中心部に、貝殻、卵殻を単独で設置し、流量、勾
配を変化させ、掃流時の水深、勾配、流量を測定した。
B. 貝殻が敷き詰められている場合
流量が操作できる矩形水路を用いて、貝殻が敷き詰められた状態から貝殻が掃流される際の摩擦速度を測定する。水
路幅は 25cm、路床材料には、貝殻を敷き詰め固定した。清流板の後 2m を助走区間として、試料が掃流される際の水深、
勾配、流量を測定した。貝殻が敷き詰められた水路では、水路流下時に不等流となるが、摩擦速度の式の動水勾配をエネ
ルギー勾配に変えて算出することで近似できる。
3)ディスポーザ排水中の懸濁態物質の回収
A. スクリーンによる有機成分の回収率
メッシュサイズ 0.85mm のスクリーン装置により、ディスポーザ排水中の懸濁態物質の回収実験を行った。1.5L のディスポ
ーザ排水を 80L の水に混合させ、スクリーン回収前の乾燥質量、炭素成分、窒素成分に対する回収率を算出した。実験試
料は、破砕粒度の異なる 3 種のディスポーザ排水(Table1)とした。
B.スクリーン通過液の負荷量
本実験では、ディスポーザ排水が混入している下水(以後、混合下水と称す)を実験試料とし、スクリーン通過液の下水処
理に対する負荷量を検討した。
実験試料は、破砕粒度の異なる 3 種のディスポーザ排水(Table1)が体積比 1/50 で混入した混合下水とした。スクリーン
装置に実験試料を投入し、メッシュサイズ 0.85mm のスクリーンにより、試料中の懸濁態物質を回収し、スクリーン通過液を
採水した。スクリーンによる全炭素、全窒素の回収率および、生下水と混合下水のスクリーン通過液の BOD5 を測定した。
(2)ディスポーザ付きマンションからの排水の負荷量の実態調査
福岡県のディスポーザが設置してある A マンションより排出されるディスポーザ排水を採水し、BOD 負荷量を算定した。
調査期間は、2004 年1月 27 日の午前 9 時から、1 月 28 日の午前 10 時までの 25 時間であり、専用浄化槽の一部である
沈砂層にて一時間に 1-3 回ディスポーザ排水を採水した。同時に流入排水の流量を沈砂層内の水面上昇速度から算出し
た。採水したディスポーザ排水の T-BOD、TC、TN を分析し、それらの経時変化を測定した。調査と同時に、ディスポーザ
の使用時間帯についてアンケート調査を行った。
■ 研究成果
(1)ディスポーザによる生ごみの分別収集
1)最適な破砕粒度のディスポーザの決定
破砕粒度の異なるディスポーザ A、B、C を比較すると、輸送系において貝殻、卵殻ともに、C よりも、A、B が粒度分布が
粗く、現行の下水管路設計基準の最低流速 0.6m/s で、それぞれ 4、1%程度掃流できなかった。しかし、A と B を比較すると
粒度分布はほとんど差違がなかった。回収系では、破砕粒度が大きくなるほど、質量、成分ともに回収率が増加していた。
しかしながら、A では、生ごみが十分に破砕されず、生ごみ(例えば、バナナの皮、グレープフルーツの皮)のまま流れ出て
いることがあった。また、ターンテーブルの削った長さに対しての回収率の増加度合いは減少しており、上記のことを考慮
すると、堆積が少なく、回収率が高いディスポーザ B の破砕形態をとると、システムの高効率化につながると考えられる。今
後は、堆積物の発生を抑制する、もしくは除去するための対処法を考案すること、回収率、回収効率を考慮したスクリーン
の開発が課題として残る。その上で最適な破砕のディスポーザの開発が必要となる。
2)高密度物質の管路内堆積現象
A. 貝殻、卵殻が単独で存在している場合
ディスポーザ A,B で破砕した貝殻は粒径 2.00mm 以上に約 65%が、卵殻は粒径 1.40mm 以上に約 50%が存在していた
15
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
ことから、後述の限界摩擦速度の測定においては貝
殻、卵殻共に粒径 1.40mm 以上のものを対象とした。
Fig.1 に摩擦速度と掃流率との関係を求めた結果
を示す。掃流率を求める際に、貝殻は粒径 2.00mm
以上(ディスポーザ C では 1.40mm 以上)を、卵殻で
は粒径 1.40mm 以上を対象とし、それ以下の粒径の
質量は粒度分布から補正した。Table2 に摩擦速度と
管路内残留率、堆積する破砕物の最小質量との関
Fig.1 貝殻(左)、卵殻(右)の掃流時の摩擦速度と掃流率の関係
係を求めた結果を示す。なお、ディスポーザ A,B の
破砕粒度の相違による掃流率の差は小さかった。
現在、沈殿物や土砂等が堆積しない流速として、
Table2 貝殻、卵殻の掃流時の管路内残留率と
堆積物の最小質量
最低流速を 0.6m/s として汚水管を設計するようにな
っている(「引用文献.2」)。実際の管路設計では、こ
Residual ratio
Mass of residual piece
Friction
velocity
%
g
m/s
Sea shell Egg shell Sea shell Egg shell
0.020
40
6
0.05
0.015
0.025
16
3
0.10
0.020
0.030
4
1
0.25
0.040
0.035
1
1
0.40
0.040
の最低流速が満管流時に出現するように管路勾配
などが決められることが多いが、実際の管路では管
径に対して通常 1/3 ~ 2/3 程度の水深であり、また、
管路は平均値を用いて余裕を持った設計とされてい
るため、雨天時を除いて、まず満流の状態となること
はない。管径 200mm の硬質塩化ビニル管を想定し、
現行の設計基準である最低勾配 3.0 ‰ 、マニングの粗度係数を 0.013 とした場合、水深が管径の 1/3 ~ 2/3 のときの
摩擦速度は 0.03 ~ 0.04m/s 程度である。摩擦速度が 0.03m/s の場合は、Table2 から貝殻では 4%、卵殻では 1%が堆積
することになる。また、Fig.2 より、この摩擦速度で堆積が懸念される貝殻は粒径 2.00mm 以上に分布することが解る。
実際の下水管では前述のように土砂やラードといった堆積物が存在することを考慮すると、現行の設計基準で得られる
摩擦速度は全ての貝殻を掃流するために決して十分ではないと考えられる。
これまでの議論は貝殻や卵殻が単独で存在するような状況を想定しており、相互作用により掃流されにくくなっている状況
や二次堆積は考慮していない。そのように単独で存在するような場合であっても、管路内堆積の可能性が十分考えられる。
このような二次堆積を解消するための有効な手段として、管路の汚水の流れが間欠的になるように操作することが考えら
れる。前述のように、管路は雨天時を除いて、まず満流の状態となることはないので、このような操作をある程度短いサイク
ルで実施することで、沈降堆積している物質を水撃圧を利用して浮上させることができる。さらに、流れを遮断していた間に
水量を確保することができれば、できるだけ満管に近い流れにより、堆積物の掃流に必要な摩擦速度を発揮することも可
能であると考えられる。
B. 貝殻が敷き詰められている場合
貝殻が敷き詰められている状態から掃流されると
きの貝殻の質量に対する摩擦速度を Fig.2 に示す。
Fig.2 より、貝殻が敷き詰められた状態と、貝殻単
体の状態での限界摩擦速度を比較すると、明らかに
前者の状態の方が限界摩擦速度は高かった。つまり、
掃流し難い状態である。周りに貝殻がある状態では、
貝殻一つ一つがそれぞれ相互的に作用し合って、よ
り大きな掃流に対する抵抗力を有しているように見え
る。貝殻が単体で存在している状態における限界掃
流力では、堆積した状態から同質量の貝殻を掃流
Fig.2 (I)単独の貝殻、(II)貝殻が敷き詰められている状態から
掃流される時の摩擦速度と質量の関係
することはできない。
16
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
実際に下水管路に直接ディスポーザ排水を投下した場合
を想定すると、下水流量の日々、時間当たりの変動、地盤沈
下等による下水管路の変形、そして、下水管路壁の付着物
などが原因となり、常時堆積する物質がない状態であるとは
断言しがたい。そこで、堆積すると考え、堆積物の処理が必
要となる。この時、掃流による処理を考えると、Fig.2 の結果よ
り大きな掃流力を持つ流量を流す必要性が明らかである。堆
積物による弊害を防ぐための対策として、前述の水撃圧によ
る方法に加えて、堆積する箇所の判定とともに、その箇所を
部分的清掃による方法が挙げられる。
Fig.3 回収実験に使用したディスポーザ
排水の粒径加積曲線
3)ディスポーザ排水中の懸濁態物質の回収
A. スクリーンによる有機成分の回収率
ディスポーザ A、B、C による 3 種類のディスポーザ排水を
試料として、メッシュサイズ 0.85mm のスクリーンで回収実験を
行った。実験試料の粒径加積曲線を Fig.3、回収率を Table3
に示す。
Fig.3 より、ディスポーザ排水の破砕粒度は、ディスポーザ C、
B、A の順で粗く、この破砕粒度の違いが有機成分の回収率
Table3 ディスポーザ排水中の懸濁態物質の乾燥
質量、炭素、窒素成分のスクリーン装置に
Recovery ratio
Comminutor Dry mass Carbon Nitrogen
%
%
%
A
B
C
66.2
59.7
60.0
85.2
83.3
71.8
95.5
88.1
79.5
C/N
9.10
9.67
9.21
に影響を及ぼしていた。Table3 よりディスポーザ排水の粒度
が粗くなるに従って、湿潤質量、乾燥質量、炭素、窒素の回収
率は増加していた。回収できる物質は野菜類、米、果物類が
主であり、魚の骨や茶葉、卵殻などはスクリーンの隙間を通っ
ていることを何度か確認することができた。質量では湿潤で
90%程度、乾燥で 60%程度回収できており、乾燥質量の回収率
が低くなっているのは、これは鳥の骨や卵殻など比重の高い
物質が装置内に堆積して、スクリーンまで到達しなかったこと
が原因と考えられる。成分では、炭素成分を 60-80%程度、窒
Table4 混合下水中の懸濁態物質中の乾燥質量、
炭素、窒素成分のスクリーンによる回収率
Recovery ratio
Comminuter Dry mass Carbon Nitrogen
%
%
%
A
B
C
6.5
4.5
3.5
13.6
13.3
11.2
8.1
8.1
5.2
C/N
13.5
14.2
15.1
素成分を 70-90%程度回収できていた。ディスポーザ A、B、C
による回収率を比較すると、粒度の粗さに従って回収率は増
加しているが、その B の C に対する増加率は、B に対する A
の増加率より高かった。しかしながら、ディスポーザ A による排
Table5 混合下水中のスクリーン前後の BOD5
Raw sewage
Comminutor
水は、バナナの皮や、キャベツ、鳥の骨などの生ごみを破砕
せずに排出しており、これは回収というより、生ごみの輸送に
A
問題がある。破砕せずに下水管路中を流下させるとすると、管
B
路の閉塞を引き起こす要因となる恐れがある。以上のことから、
C
BOD5
mg/L
159
175
149
116
203
141
Mixed sewage
passing the
BOD5
mg/L
234
198
207
177
226
161
Increase ratio
of load to the
sewer
1.47
1.13
1.39
1.53
1.11
1.14
回収に適したディスポーザは B に近いものである。
B.スクリーン通過液の負荷量
Table4 にスクリーンによる全炭素、全窒素の回収率を、Table5 に生下水とスクリーン通過後の混合液の BOD5 を示す。デ
ィスポーザ排水の混入率が 1/50 である場合、スクリーンによる乾燥質量、全炭素、全窒素の回収率は、すべてが 15%以下
であった。これは、回収された物質のうち大部分がディスポーザ排水中の懸濁態物質由来であり、本実験で使用した下水
中には 0.85mm 以下に多くの有機成分が存在していたためと考えられる。また、Table5 より、ディスポーザ排水が混入するこ
17
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1.4
り有機成分を回収した後の通過液の BOD5 は、161-234mg/L
1.2
であり、本実験に使用した下水の BOD5 の 1.11-1.53 倍であっ
1.0
た。実際の下水の BOD5 は、約 100-200mg/L 程度であり、ディ
スポーザ排水の混入比率が 1/50 であるとき、混合下水の
BOD5 は最大でも 300mg/L 程度と考えられる。
Frow (m3/h)
とにより、混合下水の負荷量は増加しているが、スクリーンによ
0.8
0.6
0.4
0.2
(2)ディスポーザ付きマンションからの排水の負荷量の実態調査
0.0
9
調査時のディスポーザ排水の流量と BOD5 の経時変化を
Fig.4,5 に示す。台所排水の流量が増加する時間帯は、朝、昼、
11 13 15 17
19 21
23
1
3
5
7
9
Hour
Fig.4 マンションからの台所排水流量の経時変化
夜の食事の時間帯であり、特に夕ご飯の時間が多くディスポー
ザが使用されていた。使用時間帯の幅は、朝,昼は 3 時間程度であり、夜は 6 時間程度の幅があった。流量と同様の傾向で、
BOD5 は変化していた。ディスポーザ排水のみの BOD 負荷量は 100-1600mg/L の範囲であり、非常に高い時間帯もあった
が、全体的にみると大部分の BOD5 が 600mg/L 以下であった。また、一般に台所排水の水量は生活廃水の 10-20%であ
るといわれており、処理場への BOD 負荷濃度は、通常の下水の負荷量から 20-300mg/L の増加となる。TS、TC、TN の経
時変化は流量と同様の挙動を示した。また、アンケート調査では 162 世帯中 67%から回答を得た。アンケート調査により、
同マンションでは1日にディスポーザ使用回数は、平均で 2.7 回であった。同時にディスポーザの使用時間帯について調
査した。その結果から、1日の全使用回数の中で、夜の食事の時間帯に多く使用されており、次に朝の食事の時間帯、そし
て昼の食事の時間帯の順番となっていた。以上のことから、ディスポーザは夜と朝に使用され、昼の使用状況はあまり見ら
れなかった。本調査の内容は、季節による変化も考えられるので、今後は同様の調査が必要である。
■考 察
第2期の研究成果をとりまとめると以下の通りである。
(1)ディスポーザ排水を輸送し、スクリーンにより有機成分を回収するシステムが、効率よく稼動するためのディスポーザ排水
の破砕粒度は、通常のものより直径が 5mm 短いディスポーザによるものである。
(2)下水管路内で堆積する貝殻、卵殻は、摩擦速度 0.030m/s のとき、それぞれ 4%、1%であった。
(3)メッシュサイズ 0.85mm のスクリーンにより、ディスポーザ排水中の全炭素、全窒素の 80%を回収できた。
(4)ディスポーザ排水が比率 1/50 で混入した下水のスクリーン通過液は、下水の BOD5 の 1.11-1.53 倍であった。
(5)マンションからのディスポーザ排水の1日の BOD5 は夕方では 1600mg/L 程度の時間帯もあったが、その他の時間帯で
は 600mg/L 程度であり、1 時から 5 時までは流量がなかった。
■ 引用文献
1.
山海敏弘ら:「ディスポーザ排水の標準組成と負荷特性」, 水環境学会誌, 第 22 巻, 第 1 号, pp.67-73, (1999)
2.
田中修司編:下水道管渠学, 環境新聞社, p.77, (2001)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌
1.
山口聡世, 篠原久志, 楠田哲也:「ディスポーザ排水に混入する高比重物質の管路内輸送特性に関する基礎
的研究」, 第 40 回環境工学研究フォーラム, Nov. 14-16, (2003)
18
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
国外誌
1.
1.H. Shinohara, F. Takayama, T. Yamaguchi and T. Kusuda:「Recovery of organic constituents from wastewater
with comminutor」, Asian Waterqual2003, Oct. 19-23, (2003)
口頭発表
1.
山口聡世, 篠原久志, 楠田哲也:「ディスポーザ排水に混入する高比重物質の管路内輸送に関する基礎的研
究」, 第 58 回年次学術講演会, Sep. 24-27, (2003)
2.
山口聡世, 篠原久志, 楠田哲也:「直投型ディスポーザ排水による下水管路内における輸送特性に関する検
討」, 第 38 回日本水環境学会年会, Mar. 17-19, (2004)
19
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1. 有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
1.1. 有用成分を保持できる生ゴミ分別・回収法の開発
1.1.2. ディスポーザシステムにより輸送された生ごみ有用成分の回収法
東陶機器株式会社ディスポーザ商品部
清水 康利、竹崎 義則、辻 隆正、瓜生 勝嗣
■要 約
都市ごみを原料として生分解性プラスチックや石油関連商品などの高付加価値資源化への転換を行う上で、生ごみの
効率的な分別・回収方法の確立を行う必要性がある。第Ⅰ期研究では生ごみをディスポーザを用いて破砕し、後段の処理
施設にて固形物を回収・乾燥が可能なことを確認できたが、有機性炭素回収率が約 50%と低いとの問題があった。第Ⅱ期
研究では、生ごみに含まれる有機性炭素の回収率向上を目的とし、スクリーン濾過ならびに加圧浮上法のディスポーザ破
砕生ごみへの適応について検討を行い、有機性炭素回収率を 80%まで高めることが可能であることを確認した。
■目 的
本研究では、ディスポーザを用いた生ごみの選択的回収を前提とし、ディスポーザ破砕生ごみから有用資源としての固形有機
性炭素の回収率を向上せしめる方式として、スクリーン濾過ならびに加圧浮上法の適応可能性を検証することを目的とした。
■ 研究方法
ディスポーザを用いた生ごみの回収に際し、本研究ではディスポーザ破砕生ごみを以下の手順にて作成し、各試験に供試
した。表1に標準生ごみ組成表を示す。本組成は建設省(現国土交通省)の総合技術プロジェクト「ディスポーザによる生ごみリ
サイクルシステム」(「引用文献 1.」)にて設定されたものであり、(社)日本下水道協会「下水道のためのディスポーザ排水処理シ
ステム性能基準(案)」(「引用文献 2.」)にも採用されている標準組成である。本組成の生ごみをディスポーザ(TOTO 製:
TJNDS100X)を用い、8L/min の給水量にて破砕したのち、所定の希釈率(重量比)に希釈し、各試験に原水として供試した。
表-1 標準生ごみ組成表
湿潤重量 [g]
重量 [%]
にんじん
45
18
キャベツ
45
18
バナナの皮
25
10
リンゴ
25
10
グレープフルーツの皮
25
10
鳥骨
20
8
あじの開き
25
10
卵殻
5
2
米飯
25
10
茶殻
10
4
合計
250
100
建設省((現国土交通省)の総合技術プロジェクト「ディスポーザによる生ごみリサイクルシステム」にて設定
20
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
スクリーン濾過試験方法について以下に示す。図1に試験に用いた実験装置の概略図を、図2に連続型固液分離機の
外観を示す。
連続型
固液分離機
M
M
M
回収固形分
透過液タンク
原水タンク
図-1 スクリーン濾過試験実験装置
粉砕生ゴミ
投入口
モータ
透過液排出口
φ2mm
パンチングメタル
回収固形分
回収口
図-2 連続型固液分離機外観
スクリーン濾過試験に用いた装置は、ディスポーザ破砕生ごみを貯留する原水タンク、連続型固液分離機、透過液を貯
留する透過液タンクから主に構成されており、連続型固液分離機には、目開きφ2mm のパンチングメタルを有し、樹脂製ス
クリューにより回収固形分を排出するスクリュースクリーン型固液分離機(円筒部内径 100mm、パンチングメタル部長さ
200mm、濾過面積 0.0314m2、スクリューピッチ 100mm、スクリュー径 95mm)を用いた。 実験は、スクリュー設置角度 10°、
回転数 7rpm に保った状態で、40L のディスポーザ破砕生ごみを一定流量(12L/min)にて固液分離機に投入することにより
行った。パンチングメタルを通過した透過液は、透過液排出口より透過液タンクに回収し、パンチングメタル上の固形分は
スクリューにより回収固形分回収口まで搬送された後、全量を回収した。回収された固形分については回収固形分重量お
よび含水率の測定を、回収透過液については透過液水質(TOC、BOD、SS)ならびに食品成分(澱粉質、可溶性糖、蛋白
質、油分、繊維質)を測定した。回収固形分含水率は、110℃、24 時間乾燥後の乾燥重量比より算出し、TOC の測定は
(島津製作所製:TOC-V)、BOD の測定にはクーロメータ(大倉電気製:OM3001A)を用い、SS は 0.45μm ガラス繊維濾紙
にて捕捉した固形分をもとに下水試験法に準拠して分析を行った。澱粉質は全糖と可溶性糖をフェノール硫酸法によって
分析し、それらの差分をとることで測定した(「引用文献 3.,4.」)。蛋白質定量分析はLowry法(「引用文献 5.」)に従った。油
分定量分析はBligh-Dyer法(「引用文献 6.」)に準じて行った。繊維質の分析はクロロホルム-メタノール溶液による油分
抽出後の残渣を資料として、デタージェント法(「引用文献 7.,8.,9.」に準じて行った。
また、実験は原水の破砕標準生ごみ希釈比(原水濃度)を変化させて行った。
21
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
加圧浮上試験方法について以下に示す。図3に加圧浮上試験に用いた実験装置の概略図を、図4に実験装置外観を
示す。
薬液タンク
M
原水タンク
加圧タンク(自動交互運転)
M
混合タンク
M
スクリーン
濾過機
P
P
加圧浮上槽
回収スカム
M
沈降固形分
M
回収固形分
加圧水
コンプレッサ
透過液タンク
処理水タンク
図-3 加圧浮上試験実験装置概略図
図-4 加圧浮上試験実験装置外観
22
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
加圧浮上試験に用いた実験装置は、ディスポーザ破砕生ごみを貯留する原水タンク、連続型固液分離機、透過液を貯
留する透過液タンク、透過液と凝集剤とを混合する混合タンク、加圧浮上処理を行う加圧浮上槽(容量 40L)、加圧浮上槽
へ加圧水を供給するための加圧タンク等から主に構成されており、連続型固液分離機には、目開きφ2mm のパンチングメ
タルを有し、樹脂製スクリューにより回収固形分を排出するスクリュースクリーン型固液分離機(円筒部内径 100mm、パンチ
ングメタル部長さ 200mm、濾過面積 0.0314m2、スクリューピッチ 100mm、スクリュー径 95mm)を用いた。混合タンクへの透過
液の供給には容積式ローラーポンプ(古江サイエンス製:RP-PL-m3)を用い、供給量を電磁流量計(東京計装製:
MGM1010)にて制御した。凝集剤は薬液タンクより電磁定量ポンプ(タクミナ製:PX-31)を用い定量注入し、混合タンク内
は常時撹拌羽根により撹拌状態に保った。混合タンク出口は V 堰となっており混合タンク流入量と同量の混合液が重力に
より加圧浮上槽内筒下部より流入される。加圧水は2ヶの加圧タンクにて加圧後、自動交互運転により加圧浮上槽内筒下
部より、ニードルバルブにて流入量調整後流入される。浮上固形分は加圧浮上槽上部に設置された回転掻き取り羽根によ
り外部へ搬出される。加圧浮上槽中層よりオーバーフローにて排出される加圧浮上処理液は処理水タンクへと流入され、
その一部を加圧水として循環利用した。
実験は、スクリュー設置角度 10°(水平より)、回転数 7rpm に保った状態で、40L の原水(希釈比 80)を一定流量
(12L/min)にて固液分離機に投入することにより、まず透過液を得た。透過液は 1.0L/min にて混合タンクへ供給し、同時
に加圧水を加圧圧力 400kPa、0.5L/min にて供給した。
実験中、20min 毎に加圧浮上処理液をサンプリングし、水質(TOC、BOD、SS)を測定した。
また、実験は凝集剤としてカチオン系高分子凝集剤(ハイモ社製:ハイモロック MX-6140:100 倍希釈)の添加量を変化さ
せて行った。
加圧浮上処理液についても、水質(TOC、BOD、SS)ならびに食品成分(澱粉質、可溶性糖、蛋白質、油分、繊維質)を
測定した。
■ 研究成果
スクリーン濾過試験において、原水の破砕標準生ごみ希釈比を生ごみ重量基準にて 20、40、80 倍とした場合の原水お
よび透過液水質を表 2 に示す。
表-2 スクリーン濾過時の原水および透過液水質
原水
透過液
回収率
希釈比
[-]
20
40
80
TOC
[mg/L]
3,240
1,710
860
BOD
[mg/L]
6,540
3,270
1,640
SS
[mg/L]
6,030
3,020
1,510
TOC
[mg/L]
1,660
820
410
BOD
[mg/L]
4,020
1,970
910
SS
[mg/L]
1,960
950
490
TOC
[%]
51
52
52
BOD
[%]
39
40
45
SS
[%]
67
69
68
原水濃度が変化する場合において、TOC 基準の固形分回収率は、いずれの希釈率においても約50%とほとんど変化
しないことが分かり、スクリーン濾過における TOC 固液分離性能は原水濃度に依存しないといえる。実際のディスポーザ排
水は、ディスポーザ排水と台所排水の混合水であり、排出タイミングにより、その濃度は大きく変化すると想定されるが、本
結果より、一般にディスポーザ排水の原単位とされ BOD:1,300mg/L、SS:1,350mg/L 程度である希釈比 80 を標準として評
価を実施しても問題ないと考えられた。また回収固形分含水率は 86%~88%(平均 87%)であった。
23
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
凝集剤添加無しの条件にて連続加圧浮上試験を行った際の加圧浮上処理水水質の経時変化を図5に示す。
600
TOC
BOD
SS
水質[mg/L]
500
400
300
200
100
0
0
20
40
60
80
100
120
140
時間 [min]
図-5 加圧浮上処理水水質の経時変化
加圧浮上槽内に水を満水にした状態から試験を開始したため、実験開始直後水質値は上昇し、加圧浮上槽 40L の理
論滞留時間 40min の2倍の実験開始後約 80min より加圧浮上処理水は安定した。そこで、80~120min における各水質の
平均値を加圧浮上処理水水質とした。表 3 に原水、スクリーン透過液、加圧浮上処理液の水質および回収率を示す。
表-3 原水、スクリーン透過液、加圧浮上処理液の水質および回収率
水質
[mg/L]
TOC
760
400
210
47
72
原水
スクリーン透過液
加圧浮上処理液
スクリーン固液分離
加圧浮上処理
回収率
[%]
BOD
1,770
930
470
47
73
SS
1,370
510
120
63
91
φ2.0mm スクリーンにて固液分離後、さらに加圧浮上処理を行うことにより、TOC 基準の固形分回収率は 72%へと向上した。
凝集剤添加量を 0%、0.25%、0.75%とした条件にて連続加圧浮上試験を行った際の原水、透過液、および実験開始後
80~120min における加圧浮上処理水水質を表4に示す。
表-4 凝集剤添加量を変化させた際の加圧浮上処理水水質
凝集剤添加量
原水
スクリーン
透過液
加圧浮上処理液
スクリーン
固液分離
回収率
スクリーン固液分離
+加圧浮上回収率
TOC
BOD
SS
TOC
BOD
SS
TOC
BOD
SS
TOC
BOD
SS
TOC
BOD
[%]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[mg/L]
[%]
[%]
[%]
[%]
[%]
0.00
760
1,770
1,790
400
930
510
210
470
120
47
47
72
72
73
0.25
770
1,840
1,910
390
870
490
180
430
30
49
53
74
77
77
0.75
800
1,940
1,820
420
930
500
150
380
20
48
52
73
81
80
SS
[%]
93
98
99
24
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
加圧浮上処理時、凝集剤を添加することにより、TOC 基準の回収率は約 80%に向上することが分かる。
また、回収物の有効利用にあたって有益な情報となるディスポーザ破砕液およびスクリーン濾過回収、加圧浮上回収時
の食品成分の測定結果を表5および図6に示す。
表-5 食品成分分析結果
食品成分
原水中重量
澱粉質
スクリーン透
加圧浮上処
過液中重量
理液中重量
スクリーン
スクリーン濾過+
濾過回収率
加圧浮上回収率
[g/5L]
[g/5L]
[g/5L]
[%]
[%]
3.3
1.5
0.6
56
81
可溶性糖
9.7
2.3
2.3
76
76
蛋白質
14.3
1.9
1.2
87
92
油分
10.0
4.4
0.6
56
94
繊維質
7.2
3.4
1.2
28
74
合計
42.0
13.4
5.9
68
86
ディスポーザ破砕液
スクリーン濾過回収
120
スクリーン濾過+加圧浮上回収
回収率 [%]
100
80
60
40
20
0
澱粉質
可溶性糖
蛋白質
油分
繊維質
合計
成分
図-6 各回収法における食品成分回収率
可溶性糖およびタンパク質については、スクリーン操作後の凝集剤添加加圧浮上操作の回収率向上効果は低いが、澱粉、
油分および繊維質については、凝集剤添加加圧浮上操作の回収率向上効果が高く、スクリーン操作時に比べ、25~46%も向上
していた。油分については微細粒子に付着していたものが凝集剤添加および加圧浮上により回収できたものと考えられる。
25
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■考 察
本研究にて得られた実験データをもとに作成したマスバランスを図7に示す。
加圧浮上回収固形分
固液分離回収固形分
原単位(1人・1日あたり)
ディスポーザ排水+台所排水
総量: 35L、35kg
BOD: 45.5g、1,300mg/L
SS: 47.0g、1,340mg/L
TOC: 19.2g、 550mg/L
ディスポーザ排水(5L)
標準生ごみ 250g
台所排水(35L)
総量:0.253kg
含水率 87%
BOD: 22.8g、89,890mg/L
SS: 32.9g、130,000mg/L
TOC: 9.6g、37,930mg/L
総量:0.407kg
含水率 88.6%
BOD: 36.4g (80%) 、 89,220mg/L
SS: 46.5g (99%) 、114,050mg/L
TOC: 15.4g (80%) 、 37,650mg/L
加圧浮上回収固形分
総量:0.155kg
含水率 91.2%
BOD: 13.7g、88,130mg/L
SS: 13.6g、88,000mg/L
TOC: 5.76g、37,190mg/L
Φ2mmスクリーン
固液分離
固液分離透過液
総量:34.747kg
BOD: 22.8g、660mg/L
SS: 14.1g、410mg/L
TOC: 9.6g、 280mg/L
加圧浮上
加圧浮上処理水
総量:34.592kg
BOD: 9.1g、260mg/L
SS: 0.47g、 14mg/L
TOC: 3.8g、 110mg/L
図-7 台所で発生するディスポーザ排水および台所排水をφ2mm 目開きスクリーンおよび
凝集剤添加加圧浮上を用いて固形分回収した際のマスバランス
マスバランスの原単位には、竹崎らの報告(「引用文献.10」)による以下の値を用いた。1日1人あたり、生ごみ排出量
250g、生ごみ破砕に用いるディスポーザ排水 5L、台所排水 30L、併せて 35L の排出水量、250g の標準生ごみに含まれる
BOD 負荷 27.5g、SS 負荷 35g、台所排水 30L に含まれる BOD 負荷 18g、SS 負荷 12g、併せて、35L のディスポーザおよ
び台所排出量あたり、BOD 負荷 45.5g、SS 負荷 47g との値を用いた。
また、本研究結果より、ディスポーザ破砕生ごみにおいて BOD 負荷 45.5g 相当時の TOC 負荷が 19.2g であったことか
ら、マスバランス原単位に本数値を用いた。
なお、標準生ごみの設定は竹崎らの報告および日本建築センターの報告(「引用文献 1.」)により規定されているものの、
台所排水については実験に用いる標準排水の設定が行われていないため、本マスバランスでは、標準生ごみを砕いたデ
ィスポーザ破砕水を用い、ディスポーザ排水および台所排水の負荷と同等になるように希釈した試料を供したφ2mm 目開
きスクリーンを用いた固液分離試験結果および凝集剤添加加圧浮上実験結果を用いている。
台所で発生するディスポーザ排水および台所排水をφ2mm 目開きスクリーンおよび凝集剤添加加圧浮上を用いて固形
分回収した際に、BOD 基準にて 80%、SS 基準にて 99%、TOC 基準にて 80%を回収することが可能であり、第Ⅰ期研究時
の有機性炭素回収率約 50%に比べ、回収効率を大幅に改善できるシステムが構築できたといえる。
■ 引用文献
1.
生ごみリサイクルシステム研究会:「ディスポーザによる生ごみリサイクルシステムの開発」,(財)日本建築センター,
(1999)
2.
(社)日本下水道協会:「下水道のためのディスポーザ排水処理システム性能基準(案)」,
26
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
http://www.alpha-web.ne.jp/jswa/03_news/06_desuposa/index.html,(2000)
3.
Hassid,W.Z,Neufeld,E.F: 「 Quantitative Determination of Starch in Plant Tissues 」 ,Methods in Carbohydrate
Chemistry,4,33.,Academic Press(1964)
4.
McReady,R.M et al.:「Determination of Starch and Amylose in Vegetables」,Anal.Chem.,22,1156(1950)
5.
Lowry,O.H,Rowebrough,N.J,Farr,A.L.,Randall,P.J.:
「
Protein
measurement
with
the
Folin-Phenol
reagents」,J.Boil.Chem.,193,265(1951)
6.
Bligh,E.G.,Dyer,W.J.:「A Rapid Method of Total Lipid Extraction」,Can.J.Biochem.Physiol.,37,911(1959)
7.
Van Soest,P.J.:「Use of Detergents in the Analysis of Fibrous Feeds. Ⅰ.Preparation of
Fiber Residues of Low
Nitrogen Content」,J.Assoc.Off.Anal.Chem.,46,825-829(1963)
8.
Van Soest,P.J.:「Use of Detergents in the Analysis of Fibrous Feeds. Ⅱ.A Rapid Method for the Determination of
Fiber and Lingin」,J.Assoc.Off.Anal.Chem.,46,829-835(1963)
9.
Van Soest,P.J.,Wine,R.H.:「Use of Detergents in the Analysis of Fibrous Feeds. Ⅵ.Determination of Plant Cell-Wall
Constituents」,J.Assoc.Off.Anal.Chem.,50,50-55(1967)
10. 竹崎義則,清水康利,稲森悠平,山海敏弘:「ディスポーザ排水の負荷原単位設定」,廃棄物学会誌別冊,Vol.12,
No.5,pp.312~321(2001)
■ 成果の発表
口頭発表
応募・主催講演等
1.
瓜生勝嗣、竹崎義則、清水康利(東陶機器):「生ごみリサイクル型ディスポーザ排水処理システムの一次処理
に関する研究」,福岡市百道パレス,水環境学会九州支部大会,2001.12.25
2.
瓜生勝嗣、清水康利(東陶機器):「生ごみの収集システムとしてのディスポーザの可能性」,大分東洋ホテル,
市民フォーラム「生ごみ革命」,2003.12.16
27
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1. 有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
1.2. 分別生ゴミの高機能製品への変換
1.2.1. 生ゴミからつくられたポリ乳酸の利用法
九州工業大学大学院生命体工学研究科白井研究室
白井 義人
■要 約
生ゴミを簡便、廉価に酵素糖化するシステムを開発し、乳酸発酵、ブチルエステル化後の精製を経由してラクチドをつく
り、ポリ乳酸を合成するシステムを完成させた。成果は農林水産省の補助事業に継承され、北九州エコタウンで事業実証さ
れ、技術の完成度が確認された。一方、製造されたポリ乳酸の化学リサイクルに関する研究を続け、小規模でも循環利用
可能なシステムとしてポリ乳酸製品の熱分解システムを提案した。この中で、酸化マグネシウムを触媒にすることにより、ポリ
乳酸から光学純度をほとんど低下させることなく、ラクチドを回収できる技術を確立し、特許を出願した。
■目 的
生ゴミからつくられたことを十分に考慮したポリ乳酸の利用を促進するための基盤を整備することを目標とする。具体的
には、1)生ゴミポリ乳酸を、原料である乳酸や前駆体であるラクチドへのケミカルリサイクルのため、乳酸への加水分解条
件とラクチドへの熱分解条件を明らかにする。2)生ゴミ回収とポリ乳酸への資源化およびケミカルリサイクルを促進する具
体的な商品開発手法を提案する。
■ 研究方法
乳酸のエステル重合体であるポリ乳酸は,生分解性プラスチックの代表としてよく知られている。さらに、化学リサイクルの
容易さから、近年は循環可能なリサイクル可能なプラスチックとしての期待が大きい。特に、でんぷんが原料であるポリ乳酸
は、でんぷんの前処理、発酵、精製、重合という長いプロセスが必要であり、少なくとも発酵プロセスの省けるポリ乳酸製品
の化学リサイクルは、エネルギーや放出炭酸ガス量の観点から有利であるばかりでなく、製造コスト的にも有利である可能
性がある。ポリ乳酸の製造方法として、乳酸の数量体ないし数十量体である乳酸オリゴマーから熱分解によってラクチドを
合成し、さらにそのラクチドを重合することによって製造する技術は従来からよく知られている。我々はポリ乳酸の熱分解過
程におけるラクチド生成の際のラセミ化について、特に、アルカリ土類金属の影響について、検討し、光学純度の極めて高
いラクチドの合成法を確立した。そして、さらに基礎的なポリ乳酸自身の熱分解反応性に着目、まったく明らかにされてい
なかったポリ乳酸の反応特性を詳細に検討し、その反応機構を明らかにした。
一方、近年の環境間題に対する意識の高まりから、ポリ乳酸以外の生分解性、循環性ポリマーも高い注目を集めるように
なってきた。特に、ポリブチルコハク酸のようなポリエステク化合物とポリ乳酸のブレンド体がレジ袋のような袋物として利用さ
れることが多くなってきた。この場合、熱分解以外に、アルコール分解のようなモノマー還元法も有効であると考えられる。こ
こでは、スーパーで利用されたポリ乳酸とポリブチルコハク酸からなるレジ袋のメタノールでの分解を試み、分解された乳酸
ブチル、コハク酸ジブチル、1,4ブタンジオールの蒸留分離について試みた。
その他、すでに事業実証フェーズに入っている生ゴミのポリ乳酸化における関連要素技術についても継続して開発研究
を続けた。その結果、省エネルギーに溶液から懸濁固形分を回収し、さらに、溶液の濃縮もできる凍結融解法を考案した。
これについてもここで報告する。
28
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
ポリ乳酸の化学リサイクルに関する実験方法
・装置及び材料
L,L-lactide は島津の製品を採用した。金属ナドリウムで乾燥したトルエンを用いて三回再結晶し、標準仕方で乾燥した
酢酸エチルを用いて一回再結晶してから、重合に使った。重合の開始剤とポリマーの精製に用いた溶媒は市販のものを使
った。市販のポリ乳酸樹脂として、島津製のポリ乳酸 Lacty を採用した。ポリ乳酸の熱分解を考察するに添加した各種金属
化合物は市販の試薬を使った。
ポリ乳酸の合成にはグロブボクス、窒素置換ライン、封管恒温油バスを用いた。
分子量測定にはTOSOH HLC-8200GPC測定装置を用いた。熱分解実験にセイコーインスツルメンツ株式会社製
のSEIKO EXSTRA6000 TGA/DTA6200分析システムを用いた。熱分解生成物の分析は島津製のGC-9Aガスク
ロマトグラフとVarian製のINOVA400 NMRスペクトメータを使った。熱分解GC/MS実験はフランテリア・ラボ製のPY2020D分解炉と島津製のGCMS-QP5050ガスクロマトグラフ/マススペクトメータを用いて行った。
・実験条件
ポリ乳酸の重合は窒素雰囲気と真空で行った。L,L-lactide と開始剤を所定量をグロブボクスで窒素雰囲気下重合管に
入れ、真空で脱湿してから、バーナーで封管をした。封管した重合管を110℃に恒温した油浴に入れて、110℃で48時間
恒温にした。重合したポリ乳酸をクロロホルムに溶かして、1M塩酸で処理した後,大量のメタノールに滴下して、再沈殿さ
せて精製した。
精製したポリ乳酸を所定の量でクロロホルムに溶かして、所定量の金属化合物を加えて,電磁攪拌機で1時間激しく攪
拌した後,フラートシャーレに注いで、溶媒をゆっくりとばして、キャステイングフィルムを作った。
さまざまな金属化合物を含むポリ乳酸フィルムを用いて,熱分解実験と分解生成物分析を行った。TGA/DTA分析は
窒素雰囲気でそれぞれ1,3,5,7,9K/minの昇温速度で行った。熱分解データはデータ処理システムで収集し,デー
タ処理ソフトで解析した。Py-GC/MS分析はヘリウムガス雰囲気で行った。熱分解炉は昇温速度10℃/minで加熱し,
サンプルを分解させた。分解性生物はGC/MSに導入して,所定の分析プログラムで分析した。
スズ触媒のポリ乳酸熱分解に及ぼす影響
・装置及び材料
L,L-lactide は島津の製品を採用した。金属ナドリウムで乾燥したトルエンを用いて三回再結晶し、標準仕方で乾燥した
酢酸エチルを用いて一回再結晶してから、重合に使った。重合の開始剤とポリマーの精製に用いた溶媒は市販のものを使
った。市販のポリ乳酸樹脂として、島津製のポリ乳酸 Lacty を採用した。ポリ乳酸の熱分解を考察するに添加した各種金属
化合物は市販の試薬を使った。
ポリ乳酸の合成にはグロブボクス、窒素置換ライン、封管恒温油バスを用いた。
分子量測定にはTOSOH HLC-8200GPC測定装置を用いた。熱分解実験にセイコウインスツルメンツ株式会社製の
SEIKO EXSTRA6000 TGA/DTA6200分析システムを用いた。熱分解生成物の分析は島津製のGC-9Aガスクロ
マトグラフとVarian製のINOVA400 NMRスペクトメータを使った。熱分解GC/MS実験はフランテリア・ラボ製のPY-2
020D分解炉と島津製のGCMS-QP5050ガスクロマトグラフ/マススペクトメータを用いて行った。
・実験条件
L-ラクチドをトルエンおよび酢酸エチルを用いて再結晶による精製を行い、得られた精製 L-ラクチドを Sn(Oct)2 を触媒と
して封管中で開環重合を行った。合成した PLLA サンプル(A: As Polymerized)、その一部を CHCl3-MeOH 系にて再沈殿
精製を行ったサンプル(B: Precipitated)、さらにこれを CHCl3-1M HCl 系で液々洗浄を行い、残留金属を除いたサンプル
(C: HCl washed)をそれぞれ作成した。分子量は GPC を用いてポリスチレン換算分子量として求めた。熱分解は TG/DTA
を用い昇温速度を 1~9K min-1 の範囲で変化させて行い、その重量減少結果から熱分解反応の動力学的パラメータ解析
を行った。また、熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析計(Py-GC/MS)を用いて熱分解生成物の確認を行った。
29
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
ポリ乳酸製品利用促進実験
一方、ポリ乳酸を主成分とするレジ袋の回収実験については、飯塚市の株式会社麻生飯塚病院内にあるスーパー麻生
病院店(麻生芳雄商事株式会社)で平成15年2月1日より20日まで実施した。レジ袋は株式会社サムズ製であり、ポリ乳酸
樹脂とコハク酸と 1,4 ブタンジオールのポリエステルであるポリブチリルスクシネート(PBS、商標ビオノ-レ:昭和高分子社
製)を3:7で混合させ、インフレーション法によりつくったものである。
社会実験を実施した飯塚病院は JR 新飯塚駅前にあり、1日1500人程度の出入りがある。入院患者数は約500人、病院
スタッフは1500人である。スーパー麻生病院店は床面積30m2程度の小規模店舗であるが、来客数は非常に多い。レジ
係りは常時2名、その他1名~2名の体制で営業されている。
ポスター、チラシ、マスコミ発表により社会実験を周知させた。実験は今回レジ袋を無料で配布、回収時に5円提供する
形で行った。袋は回収後、回収籠に顧客がもってきた形のまま回収した。実験では周知法の適否、顧客の評価、回収率、
回収袋の質、本業への影響について検討した。
回収されたレジ袋はメタノールで分解し、蒸留回収が可能であるか否かを検討した。まず、社会実験により回収されたレ
ジ袋をはさみで切り刻み、耐圧反応器に入れた。それにメタノール 500ml と触媒として硫酸 5gを入れた。レジ袋の量(25g・
50g・75g) 温度(90℃・120℃) 時間(3~12 時間)を変化させ、実験を行った。1 日放置して、装置が十分室温に戻ったこ
とを確認し、耐圧重合装置内の試料を取り出し、ガスクロ分析用の試料を少量採取した後、吸引ろ過を行い、沈殿物とろ液
を分けた。沈殿物を減圧乾燥させた後、秤量した。分解物はガスクロで分析した。メタノール溶解物を単蒸留し、生成成分
を分析し、精留の可能性について検討した。
関連成果(生ゴミ・ポリ乳酸製造プロセスの改良)
生ゴミのポリ乳酸化による資源化プロセス内には、その開始地点である生ゴミの糖化や乳酸発酵の前後をはじめ、多くの
固液分離プロセスが存在する。生ゴミ糖化液中から、目的成分である糖を含む溶液部分と懸濁固形分の分離は、後段処
理の効率を大きく左右することになるばかりか、ひいては資源化プロセス全体の効率に影響を及ぼす重要なプロセスである。
さらに、固形分と分離された有用成分を含む溶液の濃縮を図ることは、減容化につながり、貯蔵・保管の観点からも、有効
である。そこで、生ゴミ資源化プロセス全体の効率向上のためにも、効果的な固液分離法および濃縮法の開発は、克服す
べき技術的課題の一つである。
濃縮物を得る方法としては、蒸発法、膜濃縮法が一般的である。懸濁固形分を含む場合には、蒸発法には、スケーリン
グの発生や、釜残の処理が必要となるなどの欠点があり、膜濃縮法には、膜の目詰まりによる交換コストや洗浄の手間など
の欠点がある。一方、汚泥等からの懸濁固形分の除去には、薬品注入による凝集沈殿法が一般的であるが、薬品コストを
要することや環境保護の観点から望ましいプロセスとはいえない。
我々はこれまで、濃縮法としての凍結濃縮についての研究も行ってきた。凍結濃縮とは、溶液を凍結させて、溶液中の
水分を氷の形で取り除き、濃縮を達成するものである。液状食品のモデル溶液を凍結させた後、融解させると、融解初期
に原液よりも濃縮された融解液が得られる現象を発見した。また、マレーシアのパームオイル製造工場から排出されたパー
ムオイル廃液(原液 COD:70000ppm、懸濁固形分濃度:約 20000ppm)を凍結させ、メッシュ上で融解を行ったところ、融解
液の前半画分は 1.6 倍濃縮されていた。さらに、懸濁固形分の大部分を回収することが出来た。
そこで、我々は、凍結・融解法の適用による生ゴミ糖化液中からの懸濁固形分の除去と有用成分の濃縮を試みた。
・試験方法
試料には、生ごみの糖化液を用いた。生ゴミ糖化液は、標準組成の生ゴミに等量の水を加え、アミラーゼを添加して 6 時
間糖化したものを用いた。生ゴミ糖化液は、プラスチック製の容器に入れ、家庭用フリーザー(庫内温度-20℃)で一晩凍
結させた。
凍結物は、垂直に支持し、底部にメッシュ(メッシュサイズ 400)を備えた塩ビ製の円筒内に入れて、室温20℃で融解させ
た。メッシュを通過した融解液を下部より一定量ずつ分取回収した。融解液量は、メスシリンダーで測定した。生ゴミ糖化液
原液および融解液の糖濃度は、屈折率計を用いて測定した。また、メッシュ上の懸濁固形分量は、電子天秤で重量を測定
した。
30
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 研究成果
ポリ乳酸の熱分解における動力学検討
ポリ乳酸の熱分解によって選択的にラクチドを得るには、熱分解反応を制御しなければならない。そのため、ポリ乳酸熱
分解反応において、金属触媒の共存下、反応の動力学を検討した。その結果、金属触媒をポリ乳酸の熱分解に及ぼす影
響が分かるようになった。
具体的に,塩酸処理によって作られた金属を含まないポリ乳酸(PLLA-H)に各種の金属化試薬を加えて、ポリ乳酸の末
端構造を金属塩に変換した。PLLA-H 及び得られた金属イオン末端を有するポリ乳酸(PLLA-Na、PLLA-K、PLLA-Ca、
PLLA-Mg)を TA/DTA によって窒素雰囲気下、室温から 400℃までの温度範囲内で熱重量分析をした。動力学解析方法
である積分方、微分方とランダム解析によって、熱重量分析データを分析して、熱分解動力学パラメータを求めた。その結
果、表1に示した通りに,金属化合物が共存しない場合、複雑な分子内/分子間での分解反応が進行し、分解反応はラン
ダム分解によって進行したことを確認した。さらに、アルカリ金属化合物の存在下でも、同様に複雑な分子内/分子間での
分解反応が進行し、ランダム分解反応が起こることを確認した。一方、アルカリ土類金属化合物の存在下にポリ乳酸を熱分
解した場合、分解反応は主として、一次解重合によって進行することを発見し、熱分解の活性化エネルギーが下がって、よ
り低温で熱分解を進むことが可能になることが見出された。
表1 ポリ乳酸の熱分解動力学パラメータ
Ea
分解温度範囲
PLLA-H
280~370°C
PLLA-Ca
220~360°C
PLLA-Na
(KJ/mol)
250~370°C
A
n
Ea
A
(KJ/m
ol)
-1
(s )
w=0.9
140
n
176
Random
98
n
172
w=0.9
120
(s )
w=0.5~0.1
2.00×1012
w=1~0.4
8.40×105
w=1~0.4
6.80×1011
The beginning
n
-1
Random
1
Random
ポリ乳酸の等温熱分解
ポリ乳酸の熱分解反応によって化学リサイクルを実行するには、昇温方よりも、等温熱分解の方がより実行しやすく、連
続的に分解させることできる。より実際の化学リサイクルシステムの条件に近づいて、熱分解反応を予想するため、得られた
各種のポリ乳酸熱分解動力学パラメータを基づいて、等温熱分解条件の熱分解反応を予測した。図1にその結果を示す。
アルカリ土類金属化合物の存在下に乳酸ポリマーを熱分解した場合、低温で熱分解がより速く進むことを確認した。
random L=4
PLLA-Ca
280
290
300
310
320
330
0
20
40
60
t (min)
80
n=1
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
W
W
PLLA-H
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
100
280
290
300
310
320
330
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0
20
40
60
t (min)
図1.ポリ乳酸の熱分解におけるカルシウムイオンと温度の関係
31
80
100
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
ポリ乳酸の熱分解反応機構
熱分解動力学研究に基づいて、各種金属イオンの共存下ポリ乳酸の熱分解反応機構を検討し、金属触媒の共存下の
分解反応メカニズムに対する影響がわかるようになった。
PLLA-H 及び金属イオン末端を有するポリ乳酸の熱分解に関して、その熱分解生成物を熱分解 GCMS によって評価し
た。結果として、表2に示すように,PLLA-H 及びアルカリ金属化合物の存在下、熱分解生成物の中に、ラクチド以外の
様々の分解生成物が生成することを確認した。一方、アルカリ土類金属化合物の共存下に高分子量の乳酸ポリマーを熱
分解した場合、ラクチドを主な生成物として得られた。即ち、アルカリ土類金属化合物の共存は、特異的なラクチド単位で
の解重合反応を引き起こすものである。
表2 ポリ乳酸の熱分解生成物に対する金属イオンの影響
ポリ乳酸
PLLA-H
PLLA-Ca
PLLA-Na
Lactides
66.99
94.82
58.2
Trimer
2.3
0.55
4.2
Tetramer
7.13
0.46
7.6
Pentamer
7.95
1.81
9.6
Hexamer
6.10
0.74
5.8
Heptamer
3.64
0.52
3.2
Octamer
0.86
1.7
Nonamer
1.23
0.9
By-product 1
0.94
By-product 2
1.59
1.09
4.2
1.5
以上の結果から、アルカリ土類金属化合物の存在下に高分子量の乳酸ポリマーを熱分解した場合、乳酸ポリマーの分
子鎖末端より分解が開始し、ラクチド単位でジッパー式に脱離する解重合反応メカニズムで熱分解が進行することが分か
った。一方、アルカリ土類金属化合物が共存しない場合、複雑な分子内/分子間での分解反応が進行し、ランダム分解反
応で熱分解を進むことになった。さらに、アルカリ金属化合物の存在下でも、同様にランダム分解反応で熱分解を進んで、
様々の分解生成物が生成することを確認した。
アルカリ土類金属添加の効果
前述したように,アルカリ土類金属塩末端を有する
1
高分子量の乳酸ポリマーを熱分解した場合、乳酸ポリ
マーの分子鎖末端より分解が開始し、ラクチド単位で
0.8
ジッパー式に脱離する解重合反応メカニズムで熱分解
0.6
が進行することを発見した。即ち、アルカリ土類金属塩
w
PLLA-H
0.4
CaCO3
末端構造は、特異的なラクチド単位での解重合反応を
CaCl2・ 2H2O
0.2
引き起こす。今年は実際応用に向いて、乳酸ポリマー
MgO
CaO
にアルカリ土類金属を添加し、熱分解の性質を検討し
MgCl2
0
150
200
250
300
350
400
Temperature ( ℃)
た。図1に示した通りに,アルカリ土類金属の添加によ
って、ポリ乳酸の熱分解温度は顕著に下がって,より
図2.ポリ乳酸のTG曲線
低温での分解が可能になり,ラクチド回収の効率を向
上することができた。
32
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
アルカリ土類金属におけるポリ乳酸の熱分解温度の影響はその種類によって変化する。例えば、アルカリ土類金属化合
物として比較的アルカリ性である酸化物を用いると、比較的中性に近い炭酸塩と比較して、より低温で分解が起こる傾向が
ある。また、ポリ乳酸中に微細分散しやすいアルカリ土類金属化合物、例えば塩化マグネシウム(図2を参照)は、低温おい
ても熱分解がより早く進む傾向がある。末端アルカリ土類金属塩構造をもつポリ乳酸と同様に、アルカリ土類金属を添加し
たポリ乳酸を熱分解する際に、生成した分解生成物の組成はほぼ完全にラクチドであることを見出した。即ち、アルカリ土
類金属化合物の共存は、特異的なラクチド単位での解重合反応を引き起こす。
このような結果から、適当なアルカリ土類金属化合物を添加することによって、使用済みのポリ乳酸が熱分解を通じて選
択的に、しかも効率的にモノマーのラクチドに変換する可能性があり、有効なポリ乳酸のケミカルリサイクルのアプローチを
見出した。
図3.ポリ乳酸中アルカリ土類化合物の分散(左:MgO;右:MgCl2)
ポリ乳酸の合成結果
作成したサンプルの平均分子量(Mn、Mw)、分子量分布(Mw/Mn)、および Sn 含有量を表3に示す。A~C の処理に応じ
て Sn 含有量が 1006~24ppmの範囲で変化したが、いずれのサンプルも Mn>20 万、分子量分布 1.8~1.9 を有し、熱分
解挙動への分子量および分子量分布の影響は殆ど無いと考えられる。
表3.サンプルポリ乳酸の性質
分子量
スズ含量
Mn
Mw
Mw/Mn
[ppm]
A.ポリマー合成直後
229800
451400
1.96
1006.2
B.再沈殿処理後
217300
428500
1.97
688.9
C.塩酸洗浄後
265900
493500
1.86
23.5
ポリ乳酸の熱分解動力学解析
TG/DTA を用いて、等速昇温法による熱分解実験を行った。その重量減少結果から、Doyle らの示した式により PLLA の
熱分解における活性化エネルギーEa を求めた(図4)。その結果、Ea 値は、重合直後サンプル(As Polymerized)、MeOH 再
沈殿精製サンプル(Precipitated)、および塩酸洗浄後(HCl washed)の間で著しく異なる事が確かめられた。特に、重合直後
33
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
180
の PLLA サンプルの Ea は 95-80kJ/mol と著しく低く、こ
PLLA-H
の値は、先に Babanalbandi ら(「引用文献 1.」)、Wachsen
160
よって報告された 92~70kJ/mol という Ea 値に近い。こ
のようなPLLAのサンプル調整法による違いをさらに確
認するために、得られた TG データを、積分法およびラ
ンダム分解解析法等のシミュレーション解析法を用いて
動力学解析を行った。その結果、それぞれのサンプル
Ea [kJ/mol]
ら(「引用文献 2.」)、および Aoyagi ら(「引用文献 3.」)に
PLLA-pr
140
120
100
PLLA-ap
で明確な熱分解メカニズムの違いが見出された。これは、
80
PLLA 内でのスズの存在状態が、再沈殿精製に伴って
0.9
0.5 0.4 0.3 0.2 0.1
w
Figure 1. Changes of activation energy (Ea )
図4.ポリ乳酸の熱分解における活性かエネルギーの変化
変化し、結果的に、熱分解メカニズムを変化させたため
0.8
0.7
0.6
と考えられる。
レジ袋持参社会実験
図5にレジ袋の回収風景を示す。図6にはレジ袋の写真を示す。配布したレジ袋は17000枚であったが、そのうちの4割
の回収に成功した。目論見通り、レジ袋はほとんど汚れることはなかった。一方、顧客の関心も概ね良好であり、安全性、機
能性の点でも大きな支障はなかった。苦情としては若干カレーの匂いがするというのがあった。特に病院であり悪阻の患者
さんには問題があったと思う。この匂いはラクチドの匂いであり、インフレーションでの製袋作業時に熱分解したラクチドが原
因と思われる。今後は回収したレジ袋の組成解析や実際のケミカルリサイクル試験を行う必要があると思われる。一方、顧
客の多くはこの試みを知らず、レジでの説明のために多くの労度が必要であった。本社会実験を通じて、レジの繁忙が最も
問題であることがわかった。
図7にメタノール分解により得られた成分を示す。図より、乳酸メチル、コハク酸ジメチル、コハク酸モノメチル、アジピン酸
ジメチル、1,4 ブタンジオールの各成分が得られることがわかる。これらの成分はそれぞれ沸点が大きく異なるため、蒸留
操作によって、それぞれのモノマー成分に分けられることが示唆される。
●店舗風景
●ポスター掲示
図5(1).ポリ乳酸を含むレジ袋の回収社会実験の風景
34
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
●回収ボックス設置状況
●回収ボックス
図5(2).ポリ乳酸を含むレジ袋の回収社会実験の風景
図6.使用したポリ乳酸を含むレジ袋
70
生成量(g)
60
50
40
30
20
10
0
乳酸メチル
こはく酸
ジメチル
アジピン酸
ジメチル
1,4-ブタン こはく酸モノ
ジオール
メチル
90℃
5.38
23.17
6.71
12.14
0.29
47.69
120℃
7.73
26.77
7.59
1.21
0.72
44.03
図7.回収ポリ乳酸・ポリブチルコハク酸性レジ袋のメタノール分解結果
35
合計
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
この際、分解温度が 120℃の場合、1,4 ブタンジオールが極端に少ないのは過分解によるものと思われる。したがって、
アルコール分解は温和な条件で行われることが望ましい。
また、図8にメタノール、乳酸メチル、コハク酸ジメチル、1,4 ブタンジオールの単蒸留結果を示す。図からもわかるように、
それぞれの成分のピークが異なっており、多段向流の精留操作を行えば高純度にそれぞれの成分に分流できるものと考
120
100
80
60
40
20
0
250
200
150
100
50
温度(℃)
留出液組成(%)
える。これらについては今後確認するつもりである。
0
0
50
メタノール
1,4-ブタンジオール
100
150
時間(分)
200
乳酸メチル
温度
250
こはく酸ジメチル
図8.メタノール、乳酸メチル、コハク酸ジメチル、1,4 ブタンジオールの単蒸留結果
凍結・融解実験結果
下図は、生ゴミ糖化液を凍結し、融解液を分取した際に、融解液画分に含まれる糖濃度変化である。原液の糖濃度は、16%
であった。図からも明らかに、融解に伴い、濃度勾配を生じ、融解初期には、糖濃度 23%(原液の 1.4 倍)が得られた。
25
糖濃度[%]
20
15
10
0
2
4
6
8
10
画分
生ゴミ糖化液凍結・融解液の糖濃度変化
図9(1).生ゴミ糖化液の凍結・融解法による懸濁固形分の分離と糖液の濃縮.
36
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
生ゴミ糖化液の凍結融解後にメッシュ上に保持された懸濁固形分
図9(2).生ゴミ糖化液の凍結・融解法による懸濁固形分の分離と糖液の濃縮
この生ゴミ糖化液の原液固形分濃度は、約 78000ppmであった。写真に示すように、懸濁固形分は、ゲル状の構造化を
呈し、メッシュを通過して融解液中に含まれることなく回収できた。メッシュ上に生ゴミ糖化液中に含まれる 75%の懸濁固形
分を保持、除去することができた。
■考 察
ポリ乳酸の熱分解におけるラセミ化の制御
実用的な乳酸ポリマーは光学活性な L-ラクチドの開環重合によって製造され、融点約 175℃の透明で高強度のポリマ
ーである。しかしながら、光学活性の低下は、融点の低下を招き、その実用性を失ってしまう。そのため,ポリ乳酸の化学リ
サイクルシステムとして熱分解を考えた場合、安全にかつラセミ化を抑制することのできる光学活性ラクチドの製造が必要と
なった。今年中は、金属触媒を添加し、分解温度を制御することによって、効率的にかつ高い光学純度のラクチドに変換
することができることを見出した。
ポリ乳酸熱分解動力学研究とメカニズム分析から分かったように,アルカリ土類金属化合物の共存下、ポリ乳酸を熱分解
した場合、乳酸ポリマーの分子鎖末端より分解が開始し、ラクチド単位でジッパー式に脱離する解重合反応メカニズムで熱
分解が進行する。その過程におけるラセミ化を制御するため、PLLA-Ca 熱分解生成物の光学純度を評価した。結果、表4
に示すように、320℃を超える温度では、著しい meso 体の増加が確認された。一方、225℃以下では高分子量 PLLA の熱
分解の結果、200℃以下での極端な meso 体の増加が確認された。それにもかかわらず、225-250℃の温度範囲での熱分
表4 PLLA-Ca の熱分解に伴うラクチドのラセミ化
ポリ乳酸
PLLA-Ca
分解温度条件
全ラクチド中の meso 体の
含有率(%)
60-225℃昇温
92.0
60-250℃昇温
34.6
225-250℃昇温
1.3
250℃30 秒
1.7
250℃60 秒
2.2
250℃300 秒
2.6
250℃600 秒
2.3
PLLA-H
60-400℃昇温
58.2
PLLA-Na
60-400℃昇温
35.4
37
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
解生成物中の meso 体の含有率は、低い値を維持していた。さらに、250℃で PLLA-Ca の等温熱分解において、meso 体
の含有率も同じように低い値に維持していた。即ち,乳酸ポリマーにアルカリ土類金属化合物を添加し、225~320℃の温
度範囲で加熱することによって、効率的にかつ高い光学純度のラクチドに変換することができることを見出した。
一方、ケミカルリサイクルを考えた場合、高分子量の乳酸ポリマーを高温かつ長時間での熱分解条件下ではラセミ化が
進行し、生成するラクチドの光学純度は低下しやすい。アルカリ土類金属塩末端を有する高分子量の乳酸ポリマーは、20
0℃以上320℃以下に加熱することによって、効率的にかつ高い光学純度のラクチドに変換することができることを見出し
たが、より低温とより高温の温度範囲ではそれぞれのメカニズムでラセミ化が進行する事がわかった(図 10 参照)。
O
+
Ca
O
CH3
H
O
C
C
O
C
H
O
CH3
C
H
O
C
CH3
O
O
C
C
O
C
CH3 O
C
Ca+
O
-
O
+
H
H
T<200˚C
H3C
O
HC* C
OR
O
O
R'
CH3
H
C
O
C
C
CH3 O
meso-lactide
H3C
OH
C C
OR
O
O
T>320˚C
R'
図 10.アルカリ土類金属塩末端を有するポリ乳酸熱分解におけるラセミ化のメカニズム
meso-lac tide Content (% )
25
20
MgO(5%)
15
10
5
60-180
60-190
60-200
60-210
60-220
60-230
60-240
60-250
60-260
60-270
60-280
60-290
60-300
60-310
60-320
60-330
60-340
60-350
60-360
60-370
60-380
60-390
60-400
0
Temperature Range (℃)
図 11.MgO を添加したポリ乳酸熱分解におけるラセミ化
アルカリ土類金属を添加したポリ乳酸を熱分解する際、よりアルカリ性が弱いマグレシウムを用いた場合、図 3 に示したよ
うに、低温段階でのマグレシウム塩の生成を抑えられることによって、低温(<200℃)でのラセミ化を抑えることが可能にな
った。図 11 に MgO を5w/w%添加したポリ乳酸を熱分解する際に生成したラクチド中に meso-lactide の割合と熱分解の
38
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
温度との相関を示した。分解温度が270℃以下で熱分解を行う場合、生成したラクチドの中に、meso-lactide の含有率は
低い値に抑えられ、高い光学純度のラクチドを回収する可能性を示した。さらに、20グラムの市販のポリ乳酸を1.66グラム
のMgOと三口フラスコ内で混合し、真空条件下で210℃まで昇温した後、210℃で保温4時間して熱分解を試みた。生成
した熱分解物中,L,L-lactide の含有率は94.5%、meso-lactide の含有率は4.5%,D,D-lactide の含有率は0.08%であ
り、マグレシウム化合物がラセミ化を抑える効果が示された。
ポリ乳酸分解生成物の確認
また、表3に示すさまざまなサンプルに関して、Py-GC/MS を用いて、各熱分解温度で発生する分解生成物を確認した。
その結果、As Polymerized と Precipitated サンプルについては、分解生成物はほぼ L,L-Lactide のみであり、一方、HCl
washed サンプルは、meso- Lactide やオリゴマーの発生が顕著に認められた。さらに分解温度の上昇と共に oligomer の生
成が急速に増大することが確かめられた。
これらの結果から、Sn による PLA の熱分解への影響が複雑なのは、ポリ乳酸分子末端に位置する Sn+の存在状態によ
って、進行する分解反応が異なるためだと考えられる。表5にそれぞれの活性種に対するポリ乳酸の分解反応をまとめた。
表5. 予想される反応機構と活性化エネルギー
active species
Expected reaction mechanism
E a (kJ mol-1)
-O-・Sn+
unzipping reaction from -OH and intermoleculetranserification
80-90
-COO ・Sn
Selective lactide elimination depended on mobility of Sn salt moiety
120-130
-COOH、-OH
inter- and intra- moleculetranserification
~180
-
+
ポリ乳酸製品による化学リサイクルと今後の展望
ポリ乳酸は熱分解によって、モノマーであるラクチドや乳酸へ変換することが可能である。ポリ乳酸製品には所望の物性
を得るため、他のプラスチックや可塑剤等、他成分が含まれていることも多い。ポリ乳酸の化学リサイクルシステムを完成さ
せるには,他成分を含むポリ乳酸から,選択的に高効率で高純度のラクチドを取り出して,再びポリ乳酸を重合することも
ひとつの方法である。筆者らはアルカリ土類属の金属を触媒とし、反応温度を巧妙に調整することによって極めて高い光学
純度のラクチドを回収することに成功した(「引用文献 4.」)。この方法によれば、ポリ乳酸は直接ひとつ手前のプロセスに戻
して再生産することが可能である。しかも、ラクチドは反応蒸留によって蒸気として回収されるため、回収にかかるエネルギ
ーも少なく、装置も小型廉価につくることができるため、限られた地域におけるポリ乳酸製品の循環も可能と考えられる。こ
のような循環利用が可能であれば、ポリ乳酸は糖から乳酸発酵、精製を経てつくるよりも廉価かつ省エネルギー、省炭酸ガ
スに製造できると期待している。
また、ポリ乳酸はアルカリ溶液による加水分解やアルコール分解によってモノマーに分解することも可能である。筆者らは
この 2 月 1 日から 20 日まで、飯塚市の麻生飯塚病院内の売店で、ポリ乳酸とビオノーレ(昭和高分子社製)からなるレジ袋を
買い物時に配布すると同時に、持参すれば 5 円で買い取る社会実験を試みた。このようなレジ袋回収システムを周知させる
方法と回収する方法に大きな問題があることが明らかにはなったが、40%以上の回収率が達成でき、また、顧客の反応の概
ね良好であった。この際、回収したレジ袋をメタノール分解したが、量論的に乳酸メチル、コハク酸ジメチル、1,4 ブタンジオ
ールに分解することができた。このように、社会的に循環回収できるシステムがある程度容易に実現すれば、ポリ乳酸製造の
際、少なくとも発酵工程は省けるし、精製工程においてもかなり省プロセスと省エネルギーが可能になると予想できる。
ポリ乳酸の化学リサイクルが可能になれば、ポリ乳酸は地域的に循環させることによって利用し、循環の過程で汚れや破
損が激しく、循環に耐えなくなった分だけを大規模に中央でつくられた食品ゴミ起源のポリ乳酸から供給すればよい。そも
そも、これまでの循環社会は循環させるためにコストが必要であり、この負担を誰が負うかが最大の問題であった。しかし、
ここで示したポリ乳酸の循環は、循環すればするほど世の中にポリ乳酸が蓄積し、ポリ乳酸の価格を下げ、しかも化石資源
の使用と炭酸ガスの排出を削減するはずである。ポリ乳酸は生分解性があるため循環させた後には、たとえば、マルチング
シートとして、その分解機能も使うことができる。つまり、廃棄の観念のない新しい概念を生み出すことが可能になる。
39
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
生ゴミ糖化液の凍結・融解処理と今後の展望
生ゴミ糖化液中に含まれる懸濁固形分の除去を、凍結融解法によって達成出来た。また、融解液を分取することにより、
融解初期に目的成分である糖の濃縮も達成できた。今回適用した凍結・融解法は、簡便かつ穏和な操作条件で、バルク
の生ゴミ糖化液を一括に大量処理することが見込め、廉価なコストで懸濁固形分の除去と有用成分を達成するプロセスとし
て期待される。また、今回開発した凍結融解法は、生ゴミ糖化液のみならず同様の性状を持つその他のバイオマス(木材
や古紙など)糖化液からの懸濁固形分の除去と有用成分の回収や汚泥の脱水への適用による効果も期待出来る。凍結融
解法には、懸濁固形分を含む溶液を、まず凍結するというプロセスが必要である。そのため、冷凍機を運転する電力が必
要となるわけであるが、これは、生ゴミ資源化の一環であるとすると、ゴミ焼却場からのスーパーごみ発電による電力による
運転が期待出来る。また、融解に伴い、潜熱および顕熱分の冷熱が発生する。この冷熱は、乳酸精製プロセスの凝縮冷熱
として供給したり、あるいは、冷凍機運転の際の補助熱源として利用することも可能である。
そこで、今後の展望としては、まずより効果的な懸濁固形分除去と濃縮を達成するために、懸濁固形分濃度の影響など
詳細な操作条件の検討や、実プロセスとしての他法との比較、さらに、今回の試験は、回分式であったため、装置開発を念
頭に置いて、連続化による試験を行う必要があると考える。
目標の達成度と今後の展望
本研究の目標は、生ゴミからつくられたことを十分に考慮したポリ乳酸の利用を促進するための基盤を整備することであ
った。具体的には、1)生ゴミポリ乳酸を、原料である乳酸や前駆体であるラクチドへのケミカルリサイクルのため、乳酸への
加水分解条件とラクチドへの熱分解条件を明らかにすること、2)生ゴミ回収とポリ乳酸への資源化およびケミカルリサイクル
を促進する具体的な商品開発手法を提案することであった。
ポリ乳酸は、デンプン→乳酸発酵→濃縮→精製→ラクチド化→重合→ポリ乳酸、という工程でつくられる。したがって、ポ
リ乳酸製品を熱分解でラクチドとして回収できるプロセスが完成すれば2つの意味で画期的である。つまり、ポリ乳酸をつく
るのに、上記のような長いプロセスは不要になり、大幅な省エネルギーとコスト削減が可能になる。さらに、ポリ乳酸を熱分
解により得られるラクチドはガスとして回収でき、凝縮すればラクチド粉末が得られるため、溶媒が不要である。この場合、か
なり小さな規模でのラクチド回収が可能になる。しかし、本研究が開始されるまでのポリ乳酸の熱分解に関する分野は、熱
分解メカニズムがまったくわからない状況であり、いわんや、所望の光学純度のラクチドを回収するなどということは、夢の世
界であった。しかるに、この3年間において、まず、ポリ乳酸の熱分解プロセスを整理し、これまでの混乱を合理的に説明す
ることに成功し、さらに、その反応機構から、これまで誰も気づくことのなかった、熱分解におけるラクチドの窓(高温にも関
わらず光学純度が低下しない温度帯)の存在を発見、酸化マグネシウムという廉価な触媒により、高光学純度のラクチドを
得る方法を開発、いち早く特許出願した。さらに、最近には、高濃度の水酸化アルミニウムも同様の効果があることを見出し、
難燃性をもったポリ乳酸の化学リサイクルの可能性を大きく高めた。このような観点から、本研究を通じ、ポリ乳酸の熱分解
による化学リサイクルの基礎は、十二分に固まり、目標1)は完全に達成できたと自己評価できる。
さて、ポリ乳酸は、現在、非石油系のプラスチックとして大きな期待が寄せられている。バイオマスニッポン総合政策プロ
ジェクトの中でも大きな位置付けがされている 21 世紀の基礎素材と言えるかもしれない。しかし、ポリ乳酸にはまだ大きな市
場がない。これは品質的にさほど優れていないにもかかわらず、価格が高いことによる。価格を下げ、石油系プラスチックに
ない特性がなければ、大きな市場は望めないと思う。大きな市場をつくるためには、目標の2)がどうしても必要である。本研
究では、研究代表者が会長を務めるいいづか環境市民会議の買い物袋持参運動に便乗する形で、ポリ乳酸等、生分解
性素材を用いたレジ袋の持参実験を試みた。この試みは我が国で始めて NPO 対象に実施された環境事業である経済産
業省の「環境コミュニティ・ビジネス」事業に 20 倍を超える競争を勝ち抜き採択された。この社会実験を通じ、飯塚市程度の
規模の地域でも循環させることのできる商品を、ポリ乳酸を中心とする素材でつくり、環境コミュニティ・ビジネスを創生する
ことにより、新しい環境ビジネスをつくると同時に、回収された製品からポリ乳酸を化学リサイクルして廉価にポリ乳酸をつく
ることを考えた。今年度は北九州市でのエコテクノ 2004 での社会実験も計画されており、本研究の成果が評価されて化学
リサイクルに基づくポリ乳酸の商品開発の流れができつつある。このような現状から勘案しても目標2)も基盤研究としては
十分に達成されたと考える。
40
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
本研究は、開始当初から、北九州市の環境産業政策と密接に連携しつつ成果を上げてきた。現在も、農林水産省の支
援を受け、生ゴミからの精製乳酸化を中心にバイオマスの総合利用政策、新日鉄、三菱化学を中心としたコンビナートの排
熱利用政策、バイオマスからのポリ乳酸製造計画等、本研究の成果に基づく環境政策が現実に進行している。この意味で
も、第Ⅰ期も含め、本研究のテーマである生活者のニーズに答えることが十分にできたと思う。
■ 引用文献
1.
A. Babanalbandi et al.:Polym. Int., 48, 980 (1999).
2.
O. Wachsen et al.:Polym. Degrad. Stab., 57, 87 (1997).
3.
Y. Aoyagi et al.:Polym. Degrad. Stab., 76, 53 (2002).
4.
Yujiang Fan, et al.:Polym. Degrad. Stab.,
80, 503-511 (2003)
■ 成果の発表
原著論文
1.
Tomokazu Mori, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Effect of chainend structures on pyrolysis of
poly(L-lactic acid) containing tin atoms」, PolymerDegradation and Stability, in pressing.
2.
Haruo Nishida, Tomokazu Mori, Shinya Hoshihara, Yujiang Fan, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Effect of Sn
atom on Poly(L-lactic acid) Pyrolysis」, Polymer Degradation and Stability, accepted for publication.
3.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Racemization on Thermal Degradation of
Poly(L-lactide) with Calcium Salt End Structure」, Polymer Degradation and Stability, in pressing.
4.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Thermal Stability of Poly (L-lactide):
Influence of End Protection by Acetyl Group」, Polymer Degradation and Stability, 84[1], 143-149 (2004)
5.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Tomokazu Mori, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Thermal Degradation of
Poly (L-lactide): Effect of Alkali Earth Metal Oxides for Selective L,L-Lactide Formation」, Polymer, 45,
1197-1205 (2004)
6.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Shinya Hoshihara, Yoshihito Shirai, Yutaka Tokiwa, and Takeshi Endo:「Pyrolysis
Kinetics of Poly(L-lactide) with Carboxyl and Calcium Salt End Structures」, Polymer Degradation and Stability,
Vol. 79, pp547-562(2003)
7.
Yujiang Fan, Haruo Nishida*, Yoshihito Shirai, and Takeshi Endo:「Control of Racemization for Feedstock
Recycling of PLLA」, Green Chemistry, 5, 575-579 (2003).
8.
Kenji Sakai, Masayuki Taniguchi, Shigenbou Miura, Hitomi Ohara, Toru Matsumoto and Yoshihito Shirai:
「aking Plastics from Garbage: A Novel Process of Poly-L-Lactate Production from Municipal Food Waste」, 7,
PP 63-74 (2003).
9.
白井義人, 樊渝江, 西田治男:「ポリ乳酸のケミカルリサイクルと循環社会システム」, 工業材料, 51[3], 27-29
(2003).
10.
白井義人, 樊渝江, 西田治男:「食品ゴミからポリ乳酸の製造とケミカルリサイクルについて」, Petrotech, 26[8],
621-627 (2003).
口頭発表
招待講演
1. 白井義人:「生ゴミプラスチックによる大学発の新産業の創造」,福井大学地域共同研究センター,第 6 回バイオ
技術応用研究会,2001.10.24
41
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 白井義人:「生ゴミ革命-生体的資源環境を考える-」,(社)日本技術士会会議室,生体・環境、保全交流会第 16 回
例会,2001.11.16
3. 白井義人:「生ゴミからプラスチックをつくる-大学革命」、大学発新産業の創造なんて本当に可能か?-,広島大
学地域共同研究センター,平成 13 年度産学官連携セミナー,2002.01.31
4. 白井義人:「食品廃棄物からの生分解性プラスチックの生産事業の展開」,広島食品工業団地協同組合,排水・
廃棄物リサイクル技術研究会,2002.02.13
5. 白井義人:「食品ゴミのポリ乳酸化について事業推進」,石川県工業試験場,石川県産業大学講座・技術セミナ
ー,2002.02.27
6. 白井義人:「食品ゴミからプラスチックの製造-大学から新産業の発進-」,熊本県庁,ライフサイエンス調査研究
会・第 2 回廃プラスチック有効利用に関する研究会,2002.03.13
7. 白井義人:「マレーシアの温暖化ガス削減とビジネスチャンス」,明専会東京センター,平成 14 年度明専会東京支
部春季講演会,2002.04.13
8. 白 井 義 人: 「 生 ゴ ミ を プ ラ ス チ ッ ク と肥 料 に」, 板 橋 区立 文 化会館 , 第 7 回生 ゴミリサ イクル 全 国交 流大
会,2002.06.20
9. 白井義人:「驚きのゴミ処理技術」,共立女子大学 共立講堂,平成 14 年度日本応用糖質科学会東日本支部シ
ンポジウム,2002.07.05
10. 白井義人:「生物の不思議コース」,北九州市立大学 国際環境工学部,ジュニアサマースクール,2002.08.01
11. 白井義人:「ポリ乳酸のケミカルリサイクルと食品リサイクルへの応用」,瀬戸内海国立公園 めかり山荘,高分子学
会 バイオ・高分子研究会,2002.10.04
12. 白井義人:「環境社会の実現化」,福岡県立小倉高等学校,第 2 学年 分野別講演会,2002.10.22
13. 白 井義 人: 「 生 ゴ ミ 革 命 2- み ん な でつく る 都 市 環 境- 」 ,AIM (ア ジア イ ン ポ ー ト マ ート ) , 生 活者 フ ォ ー ラ
ム,2002.10.25
14. 白井義人:「生ゴミからできる生分解性プラスチック製品技術の実用化」,マリンメッセ福岡,NEW 環境展福岡会場
記念セミナー,2002.11.08
15. 白井義人:「食品ゴミから循環型プラスチックと肥料をつくる」,北九州国際会議場,西日本プラントエンジニアリン
グシンポジウム 2002,2002.11.27
16. 白井義人:「Production of Poly-L-lactate and Fertilizer from Kitchen Refuse」,(上海)華東理工大学,第 2
回日中化学工学シンポジウム,2002.11.29
17. 白井義人:「エッ!生ゴミがプラスチックに?」,中間市中央公民館,中間市 きらめき大学,2002.12.06
18. 白井義人:「生ゴミプラスチックと都市環境-生ゴミから生分解性プラスチックをつくる」,北九州市立大学 国際環
境工学部,特別講師,2002.12.20
19. 白井義人:「快適な地球環境のために~エッ!生ゴミがプラスチック?に~」,中間市朝霧公民館,朝霧ふれあい
塾,2003.02.09
20. 白井義人:「循環社会の実現をめざして-バイオマスを考える-」,テクノサポート岡山,循環型システム研究会 第 3
回セミナー,2003.02.18
21. 白井義人:「地球温暖化の防止について」,長崎県向陽高等学校,進学講演会,2003.03.13
22. 白井義人:「生ゴミポリ乳酸化のための北九州市における家庭ゴミの組成調査及び栄養評価」,東京大学本郷キ
ャンパス,化学工学会第 68 年会,2003.03.23
23. 白井義人:「地球環境、パート 2 塵芥の処理について」,飯塚総合会館,くらしの講座,2003.05.08
24. 白井義人:「生ゴミ革命-生ゴミと循環社会の構築」,北九州テクノセンター,KICS7 月例会(産学双方向セミナ
ー),2003.07.29
25. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業における CDM 事業の可能性と問題点」,福岡商工会議所,京都メカニ
ズム活用セミナー,2003.08.04
42
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
26. 白井義人:「生ゴミ起源のポリ乳酸のケミカルリサイクル」,東北大学,化学工学会第 36 回秋季大会,2003.09.13
27. 白 井 義 人 : 「 バ イ オ マ ス と 循 環 型 社 会 の 実 現 」 , 広 島 市 工 業 技 術 セ ン タ ー , 食 品 廃 棄 物 リ サ イ ク ル 研 究
会,2003.10.02
28. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業における地球温暖化ガス削減プロジェクトへの九州工業大学のチャレ
ンジ」,産学連携センター,第 3 回産学連携フェア,2003.10.08
29. 白井義人:「バイオマスと環境型プラスチックについて」,福岡県立小倉高等学校,分野別講演会,2003.10.14
30. 白井義人:「生ゴミ革命 3 みんなでつくる都市環境」,西日本総合展示場 エコ・テクノ内,生活者フォーラ
ム,2003.10.22
31. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業のゼロエミッションと地球温暖化ガス排出の削減」,西日本総合展示場
エコ・テクノ内,環境情報セミナー,2003.10.24
32. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業のゼロエミッションと国際共同研究」,福岡県立城南高等学校,ジョイント
セミナー,2003.11.13
33. 白井義人:「食品ゴミから環境エンジニアリングプラスチックの製造」,岡山県西大寺市民会館,第 41 回四国・中国
地区技術・家庭科研究大会,2003.11.14
34. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業におけるバイオマスの資源化とグリーン発電」,東北大学 工学研究科,
環境技術シンポジウム,2003.11.28
35. 白井義人:「生ゴミをプラスチックと肥料に」,福岡ひびき信用金庫 若松営業部,若松活性化協議会,2003.12.02
36. 白井義人:「マレーシアパームオイル産業におけるバイオマス及び排エネルギーの有効利用と温暖化ガス削減
戦略」,くまもと県民交流館パレア,平成 15 年度熊本県ライフサイエンス調査研究会,2003.12.15
37. 白井義人:「生ゴミリサイクルシステムの取り組み」,北九州市エコタウンセンター,平成 15 年度福岡県高等学校家
庭科研究部会 北九州地区第 2 回研修会,2003.12.25
38. 白井義人:「未来をひらく生分解性プラスチック」,北九州市立生涯学習総合センター,北九州市民カレッ
ジ,2004.01.14
39. 白井義人:「NPO 活動と事業展開」,グランメッセ熊本,九州地域環境クラスター推進セミナー,2004.02.06
40. 白井義人:「パームバイオマス再資源化技術開発の新展開-アジアを視野に入れて-」,九州大学箱崎キャンパス,
化学工学会九州支部第 28 回講習会,2004.02.27
応募・主催講演等
1.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Chemical recycling of PLLA: Control of
racemization」, The First International Conference on Green & Sustainable Chemistry, 13-15 March, 2003,
Tokyo, Japan
2.
Tomokazu Mori, Haruo Nishida, Yujiang Fan, Yoshihito Shirai, Takeshi, Endo:「Chemical recycling of PLLA:
Effect of 1st-order structure」, The First International Conference on Green & Sustainable Chemistry, 13-15
March, 2003, Tokyo, Japan
3.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi Endo:「Thermal degradation kinetics and mechanism of
metal salt end-capped poly (L-lactic acid)」, IUPAC Polymer Conference on the Mission and Challenges of
Polymer Science and Technology. 2-5 December 2002, Kyoto, Japan
4.
Tomokazu Mori, Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi, Endo:「Effect of Sn on poly (L-lactic
acid) pyrolysis」, IUPAC Polymer Conference on the Mission and Challenges of Polymer Science and Technology.
2-5 December 2002, Kyoto, Japan
5.
Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai:「Studies on the feedstock recycling properties of poly (L-lactic
acid) by thermal degradation」, The 14th Japan-Korea Joint Seminar for Young Organic Chemists. 16 November
2002, Iizuka, Fukuoka, Japan
43
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
6.
Tomokazu Mori, Yujiang Fan, Haruo Nishida, Yoshihito Shirai, Takeshi, Endo:「Effect of Sn on poly (L-lactic
acid) pyrolysis」, The 14th Japan-Korea Joint Seminar for Young Organic Chemists. 16 November 2002, Iizuka,
Fukuoka, Japan
7.
樊 渝江,西田治男,白井義人,遠藤 剛:「ポリ乳酸の熱分解におけるラセミ化制御」,第 51 回高分子討論会,
2002,10,2-4,北九州市
8.
森 智和,西田治男,樊 渝江,白井義人,遠藤 剛:「ポリ乳酸の熱分解におけるスズの作用機構」,第 51 回高
分子討論会,2002,10,2-4,北九州市
9.
樊 渝江,西田治男,白井義人,遠藤 剛:「ポリ乳酸の熱分解におけるラセミ化制御」,第 51 回高分子年次大
会,2002,5,29-31,横浜市
10. 西田治男,樊 渝江,白井義人,遠藤 剛:「ポリ乳酸の熱分解におけるスズの効果」,第 51 回高分子年次大会,
2002,5,29-31,横浜市
11. 森 智和, 西田治男, 樊 渝江, 白井義人, 遠藤 剛:「ポリ乳酸の熱分解における一次構造の影響」, 第 52 回
高分子学会年次大会, 2003, 5, 28-30, 名古屋市
12. 森 智和, 西田治男, 樊 渝江, 白井義人, 遠藤 剛:「PLLA の熱分解に及ぼすスズの効果化学構造の影響」,
第 52 回高分子討論会, 2003, 9, 24-26, 山口市
13. 樊 渝江、白井義人、西田治男、遠藤 剛:「PLLA の熱分解における末端保護基の効果」,高分子学会予稿集,
52[14], 4341 (2003). 山口市
14. 樊 渝江、白井義人、西田治男、常盤 豊、遠藤 剛:「ポリ乳酸ステレオコンプレックスの熱分解特性」、高分子
学会予稿集, 52[14], 4196 (2003). 山口市
15. 西田治男、森 智和、白井義人、遠藤 剛:「スズ原子を含むポリ(L-乳酸)の熱分解における連鎖末端構造の効
果」、Proceedings of 1st IUPAC International Conference on Bio-based Polymers (ICBP2003), P7-11 (2003). 和
光市
16. 樊 渝江、白井義人、西田治男、遠藤 剛:「ポリ(L-乳酸)/ポリ(D-乳酸)ステレオコンプレックスの熱安定性と
分解動力学」、Proceedings of 1st IUPAC International Conference on Bio-based Polymers (ICBP2003), P7-12
(2003). 和光市
特許等出願等
1.
「凍結融解による濃縮物の製造方法及び製造装置」,白井義人,脇坂港(発明者),白井義人,脇坂港(出願人),特
願 2002-051075
2.
「ラクチドの製造方法」,西田治男,白井義人,樊 渝江(発明者),西田治男,白井義人,樊 渝江(出願人),特願
2002-124375
3.
「生分解性ポリマーのケミカルリサイクル方法」,西田治男,白井義人,樊 渝江(発明者),北九州 TLO,九州工業
大学(出願人),特願 2004-135476
44
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1. 有用成分を保持できる生ゴミの分別・回収システムの開発と高機能製品への変換
1.2. 分別生ゴミの高機能製品への変換
1.2.2. 生ゴミ類の高機能飼・肥料への変換
大分大学工学部応用化学科
酒井 謙二
■ 要 約
ポリ乳酸生産を基軸とした都市生ゴミの包括的なリサイクルシステムの確立を目指し,低設備/低エネルギー型乳酸発酵
法を開発し,改変生ゴミ処理プロセスを確立してその元素フローを明らかにした。また,プロセスで生成する副産物のうち,
糖化残さの制御型高温好気発酵による肥料化法を適用し,水稲栽培における有効性を明らかにした。さらに,副生乳酸菌
体について整腸効果,脂質代謝亢進効果,腸内菌相改善効果を有する機能性飼料添加物としての利用法を提示した。
■ 目 的
第 I 期研究で我々は,都市ゴミの高付加価値資源化による生ゴミ処理システムの柱として生ゴミの乳酸発酵を介したポリ
乳酸製造が可能であり,循環プラスチック製品としてのリサイクルが有効であることを実生ゴミを用いた再資源化プロセスの
実証を通じて明らかにした「引用文献 1.」。本プロセスではまず,生ゴミに最小量の水を加えて粉砕,殺菌後,グルコアミラ
ーゼを用いて含有デンプンなどを糖化し,次いで L-乳酸生産菌である Lactobacillus rhamnosus KY-3 を植菌して37℃で4
−5日間発酵する。フィルターで発酵残さを濾別後,発酵液中の水分を蒸留除去しブタノールを用いてエステル化反応を
行う。これによりエステル化残さとして水溶性成分などが沈殿除去されると共に,他有機酸などが存在しても純度高い乳酸
ブチルが分留可能である。加水分解後,環状二量体であるラクチドを経てポリマー化することにより結晶性の高いポリ-L乳酸が得られる。本法の特徴は,生ゴミの持つ高い糖質含量と栄養価を乳酸菌の増殖に利用したこと,低品質な発酵液か
らの高品質ポリ乳酸製造プロセスを可能にしたこと,プロセスからのエミッションを最小限に押さえるように設計したことなど
である。食品成分としては雑多であるにもかかわらず種々の事業所や家庭ゴミ中にはある程度一定した乳酸に変換可能な
糖が含まれることが調査によって明らかになっている「引用文献 2.」。プロセス中,蒸留水,アンモニア,ブタノールなどは回
収リユースされる。また,必要なプロセスエネルギーの多くは 150℃程度の蒸気でまかなえるため,コジェネを導入すること
によりさらに環境インパクトは軽減できる。都市ゴミ処理の現場において生ゴミを分別利用することができれば,他の家庭ゴ
ミ成分については収集頻度の低減やゴミ発電効率の改善に好都合となり,焼却エネルギーの純減と合わせて正味の二酸
化炭素発生減が達成できると我々は考えている。
これまで高い経済性を有する生ゴミリサイクル法がなかったことを考えると,ポリ乳酸生産は環境改善に有効で且つ経済
的にも成立可能なストラテジーとして極めて有望である。しかしながら,とうもろこしなどからの工業的ポリ乳酸製造に対抗す
るためにはエネルギーのさらなる低減が必要である「引用文献 3.,4.」。また,プロセス中で回収されない残さ=副生成物が
依然として存在するため,残さの高度利用/元素別利用を念頭に置いたトータルな設計とプロセスの改良が必要である。
発生する副生成物の物性および組成は,生ごみの前処理法及びL-乳酸発酵の方法に大きく影響される。また副生成物
すべての画分について,成分的特性を生かした高機能製品への再変換法の検討と用途開発を行う必要があることから,本
研究では個別に下記の3項目を検討課題として設定した。
i) 生ゴミの糖化・発酵法のプロセス改良と元素収支の算出 ----- 実際の大規模ゴミ処理工程を考えた場合,生ゴミを
粉砕・オートクレーブ後糖化し,乳酸発酵液と乳酸発酵残さに濾別する従来の方法は,均質化や加熱時におけるスケール
アップの問題が生じることが想定された。また,後に述べるように,副生成物の飼料としての利用のためには,オートクレー
ブ処理が悪影響を及ぼすことが予想された。そこで,(1)オートクレーブ処理を行わずに高い光学純度のL−乳酸発酵を行
45
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
う方法の開発,及び(2)糖化工程と固液分離工程を逆にした場合の,各ステップの元素別物質収支と各生成物の成分的
特徴を検討した。
ii) 副生成物の高温好気発酵による改質と肥料としての肥効・機能評価 ----- 生ごみの乳酸発酵残さ,糖化残さにつ
いて,安定化,病原微生物死滅化,対植物影響の改善を期待して制御型高温好気発酵を施し,得られたコンポストの幼少
期植害試験と共に,水稲栽培における肥効をポット及び圃場水田レベルで検討した。
iii) 発酵微生物菌体に由来する副生成物の特徴分析と飼料としての栄養・機能評価 -----副生乳酸菌体について,高
付加価値製品として期待される機能性飼料添加物(プロバイオティクス)としての利用可能性を動物実験系で検討した。この
際,水溶性食物繊維であるセロビオースとの同時投与試験を行い,新たな機能性の発現とその時の腸内微生物叢の変化
の関係についても検討した。
■ 研究方法
2・1 生ゴミの乳酸発酵方法の改良と物質収支
間歇的 pH 調整による標準生ゴミの開放形乳酸発酵は、殺菌しない開放系,静置条件で行った「引用文献 5.」。標準生ゴミ
を調整後、30ml ずつ 50ml ファルコンチューブに小分けし、pH を 7 に調整した後に、種菌として Bacillus coagulans
NBRC12583 を加え各種温度条件下で保温静置した。発酵終了後、24 時間ごとのサンプルの有機酸、D/L-乳酸、グルコース
量及び全糖量を測定した。実生ごみを用いる発酵では、以下のような改良型糖化/濾別方法によって糖化液を得た。即ち収
集生ごみ 100kg に対して水 50kg、グルコアミラーゼを濃度 300ppm となるように投下し、ドラム型反応器にて 50℃で 6hr 攪拌
を行い、生ごみの糖化を行った。糖化後、目の粗い金網(1cm2)で固液分離し、液分を糖化液とした。pH 一定制御による生ご
みの開放系乳酸発酵には、全容 2L 小型多目的培養装置(ABLE 製)を用いた。また,北九州市において調査された事業系
生ごみなどに関するデータを基に、ホテルから排出された実ごみを用いて平均的な組成になるように再調製したものを,平均
的組成の都市ゴミ((炭水化物 61%(ご飯 38%, パン 8%, 麺類 13%, その他 1%), 肉類 19%, 野菜・果実 20%)とした。
これとは別に,糖化を粉砕・加熱殺菌工程の前段階で行うことで,残さ性状や全プロセスにおける元素収支がどのように
変わるかを検討した。先に示した平均的組成の都市ゴミを出発材料として糖化実験以下の変換プロセスに供した(図 1)。固
液分離によって得られた,等化残さは次項の方法で再発酵を行った。糖化液はオートクレーブ殺菌後 Lactobacillus
rhamnosus KY-3 を用いて37度 C, 96 時間培養した後,既報と同様の工程でポリ乳酸を合成し,それぞれのステップにお
ける生成物,残さの重量,水分と共に元素別の物質収支を CHN コーダー及び ICP 計を用いて分析した。乳酸菌体につい
ては生ゴミエキス培地を用いて得られた菌体を分析に供し,この時の乳酸生成量とプロセス中の乳酸生成量の比から菌体
収量を換算した。
2・2 乳酸発酵及び糖化残さの高温好気発酵による改質と肥効・機能評価
まず,前記した新・旧両プロセスで得られるすべての副生成物(乳酸発酵残さ,糖化処理残さ,エステル化固形分,蒸留
精製釜残さ,乳酸菌体)について,C,H,N,P,K および微量元素の化学的分析を行った。この分析値をもとに,肥料要素
のバランス等の観点から,各副生成物の特徴を確認し,成分別効能を生かした活用方法について検討した。また乳酸発酵
残さおよび糖化処理残さは各 2 検体を試料として用い,ロット差に基づく成分のばらつきに関しても検討した。
縦型撹拌,パネル型加温,軸貫通型通気などを特徴とし,中等度好熱性微生物の選択的増殖が可能であり,短時間で
減溶化,病原微生物の死滅が行える 25kg処理用高温高速好気発酵分析装置を試作した((株)エコアップ)。平均的組成
の事業所由来都市生ごみから改良法に従って糖化残さを得,試作発酵分析装置に約 60kgの糖化残さ,あるいは食堂生
ごみを 4 日間にわたって投入し,通気(20NLB/min),撹拌(1rpm)条件下 55 度Cで半連続的投入と6日間の運転を行い,
糖化残さ発酵物及び生ごみ発酵物を得た。
これらについて簡易植害試験法「植物に対する害に関する栽培試験の方法(昭和 59 年 4 月 18 日付け 59 農蚕第 1943
号農林水産省農蚕園芸局長通知(抄))」に従って播種から 1 週間後の発芽率と 3 週間後の葉長及び生体重を調査し作物
栽培に及ぼす影響を検討した。小松菜(夏楽天,タキイ種苗株式会社)を使用し,発酵物の対照区として,化成肥料区,市
46
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
販有機配合肥料区を準備した。また,本試験における有機肥料は,土壌に肥料を混和させた直後と 1 週間後の区画を準
備し,さらに生ごみ発酵物と糖化残さ発酵物については,りん酸とカリウム成分を調整した区画(成分調整区)も準備した。
次に,1/5000aポットを用いた水稲栽培試験(2002 年度),と共に,大分大学近傍の篤農家のご好意により水田約5アー
ルを借用契約し,圃場レベルにおける水稲栽培に及ぼす影響(2003 年度)を検討した。発酵物を施肥する際,『技術指針
作物水稲良食味品種の栽培指針大分県営農指導課』に基づいた基準量施用する区画に加え,3倍量施肥する区画及び
りん酸とカリウム成分を調整した区画を準備した。また,発酵物の対照区として,化成肥料区,市販有機配合肥料区を準備
した。ヒノヒカリを用い,一株あたりの植え付け本数は 3 本とし,条間×株間を 30×18cm とした。9 株分,即ち 90×54 ㎝=
0.486m2 の長方形の小枠をあぜ波板で区切り,1試験区とした。実際の水田での状況を再現するために,各試験区の周囲
にも同植え付け密度で苗を植え,試験区間は条間および株間を 2 株分(60 および 36 ㎝)の間隔を空けた。生育状況を調
査すると共に,稲刈り後,収穫物の 1 株あたりの穂数,1 穂あたりのもみ数,登熟歩合,一粒もみ重量を測定し,それらをす
べて掛け合わせた値から単位面積当たりのもみ収量を算出した。
2.3 乳酸菌体の飼料添加物としての栄養・機能評価と腸内菌叢に及ぼす影響
飼料としての利用可能性を検討するために,まず新・旧両プロセスにおける副生成物のすべての画分について,栄養成
分(タンパク質,脂質,灰分,糖質および繊維)の分析を行った。その結果から,飼料への利用が考えられた乳酸発酵残さ
および異ロットの糖化処理残さ 2 種に関して,飼料中の代替タンパク質源としての有効性を検討した。実験動物にはラットを
用い,4 群に分け,そのうちの 1 群には通常ラットを飼育する際の標準食として用いられる基本食を,残りの 3 群には副生成
物添加飼料食を与え 14 日間飼育した。飼料中のタンパク質含量は全て 10%とし,基本食のタンパク質源にはカゼインを用
いた。副生成物添加飼料食群は,タンパク質含量 10%のうちの半分(5%)を各副生成物と置き換えたものとした。飼育期
間中,体重および摂取量を測定した。飼育期間終了後,エーテル麻酔下で心臓より採血した後,肝臓,盲腸,胃,膵臓,
脾臓,腎臓を摘出し,各臓器を肉眼的に観察すると共に重量測定を行った。また,採取した血液は生化学検査を行った。
これらの結果を総合して検討し,各副生成物の飼料への有効性の評価を行った。
次に,プロセスの乳酸発酵過程で副生成する乳酸菌体 L. rhamnosus KY-3 以外に, 開放系乳酸発酵で優勢となる
L.plantarum KY-1, 自然界河川から有望菌として分離された Lactococcus lactis 50-4 の 3 菌体についても飼料添加物としての
機能性の探索を行った。まず,各乳酸菌体を未乾燥のまま添加した飼料をラットに投与し,整腸作用について糞便量から比較
検討した。つぎに現プロセスで使用される可能性の最も高い KY-3 について通過時間マーカーを用いた糞排泄促進作用,下
痢誘発物質としてポリデキストロースを飼料に添加することで誘発される下痢症状に対して,KY-3 の同時投与による下痢改善
作用を検討した。同時に投与するオリゴ糖としてセロビオースを選定し,脂質代謝への影響を検討した。すなわち,実験飼料に
はコントロール(C), L. rhamnosus KY-3 のみを添加した飼料(KY-3),セロビオースのみを添加した飼料(Cellobiose), L.
rhamnosus KY-3 とセロビオースを同時に添加した飼料(KY-3+Cellobiose),を用い,ラットに投与した。その際,盲腸
内容物について,重量,短鎖脂肪酸量(酢酸,プロピオン酸,酪酸)の測定と盲腸内容物中微生物の 16SrDNA プローブ
を用いた Fluorescent In Situ Hybridization (FISH)解析を行った。飼育期間完了後,エーテル麻酔下で盲腸を摘出
し,採取した盲腸内容物約 0.5g を,4%パラホルムアルデヒド で 4℃で 2 時間固定後,108〜1010 cells/ml になるよう
懸濁し,-20 で保存した。試料は観察時にスライドガラス上で固定・脱水し,リゾチーム処理を行った。その後,全細
菌に対して染色性を示すプローブ(EUB-338)以外に,
大腸菌群 (GAM42a),
乳酸菌群 (LAC722)及び L. rhamnosus (LAC457)
に対して特異的なの 16SrDNA プローブを用いて最適条件下でハイブリダイゼーションを行い,蛍光顕微鏡下で計数した。
本法は基本的に生ゴミの開放形乳酸発酵のFISH解析法「引用文献 6.」に従って行った。
■ 研究成果
3.1 生ゴミの乳酸発酵方法の改良とポリ乳酸生産における物質収支
Fig. 1 は、pH 振動制御による標準生ゴミの開放系発酵において B.coagulans を植菌した場合の、乳酸光学純度に及ぼ
す発酵温度の影響を示している。この結果から、40℃以下ではラセミ体の乳酸が生産されるのに対し、45℃を境に、D-乳
47
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
酸の生産量が減少し、50℃以上では L-乳酸のみが生産され、50℃~60℃では光学純度 95%~98%の乳酸を 20g/L 生
産することができた。45℃以下では乳酸の生産に B.coagulans の他に L.plantarum などの常温乳酸菌が関与し、50℃以上
になると、L.plantarum などの生育が阻害され、B.coagulans のみが生育したことによるものと考えられ,データは示さないが
このことは複合系微生物分析の結果とほぼ一致した。さらに,平均的都市ゴミから調製した糖化液(全糖濃度として
111g/L)を用いて pH 一定(7.0)制御の下,55℃で96時間発酵を行い,光学純度 93%の L-乳酸を 86g/L 得ることができ
た。これらの結果は殺菌-純培養系における成績に匹敵した。
100
光学純度
20
80
60
L-乳酸
15
40
10
20
5
0
D-乳酸
0
-20
30
40
50
60
光学純度 [ % ]
濃度 [ g/L ]
25
70
温度 [ ℃ ]
Fig.1 B. coagulans を用いた生ゴミの非殺菌開放系発酵における発酵温度の乳酸光学純度に及ぼす影響
Fig. 2 改良型ポリ乳酸製造プロセスにおける物質/元素フロー
(各数字の単位はそれぞれ,全量,kg;水分, %; 乾物, C,及び N,kg ; その他の元素(Na, Mg, P, 及び K),g.)
次に,従来法を改良して糖化工程と固液分離工程を逆にした場合の各ステップの元素別物質収支を求めた。
実生ゴミ (800kg) に半量の水 (400kg) とグルコアミラーゼ (300ppm) を添加し,湯浴を用いて 50 度Cで 8 時間撹拌し
た結果,糖液 902kg,糖化処理残さ 277kg (ロス 21kg) が得られた。本法における糖質の平均的な回収量は湿潤生ごみあ
たり,事業系生ゴミで 143g/kg,家庭系生ゴミで 129g/kg であった。また,未処理生ゴミに比較して,糖液を回収した後に得
48
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
られる糖化処理残さの塩分及び油分は有意に低下する利点もあることが判った。
平均的組成を示す都市生ゴミ 100kg に換算すると,これを出発原料としておよそ 7kg(14.6kg の生ゴミから 1kg)の市販品
と同等以上の品質のポリ乳酸が得られ,これは炭素収率にすると乳酸として 40%,ポリ乳酸として 33%となった。各元素の
バランスを見ると,全体の収支に極めて大きな誤差と未回収ロスがあることがわかる。そのうえで残さ中に回収された全量の
分布を見ると,乳酸として回収されない炭素の6割以上は糖化残さに残存する,窒素は糖化残さ,エステル化残さ,乳酸菌
体にそれぞれ 4:4:2 の割合で,リンは 3:1:2,カリウムは 4:2:1 の割合でそれぞれの残さに回収されることがわかった。
3.2 糖化残さ副生成物の高温好気発酵による改質と肥料としての植害試験と肥効検定
生ゴミ及び糖化残さとそれらの高温好気発発酵物の肥効成分濃度を Table 1 に示した。糖化処理残さの組成は生ゴミ発
酵物に比較的類似していた。これを高温好気発酵により改質した発酵物では C/N 比が 11 とさらに低くなり,有機肥料とし
て好ましいと考えられた。しかしながら,リン,カリウムに関しては発酵による濃縮効果が表れておらず,これは原料のばらつ
きと発酵種床成分の影響があることを示していると思われた。また,エステル化固形分は,他の画分と比較して全体的に塩
濃度が高く,特にリン,カリウム濃度が高い結果が得られ,脂溶成分も低いことから,成分別効能が使い分けられる肥料とし
ての利用の可能性が高いと考えられた。但し,ナトリウム濃度が 36g/kg と極めて高いことは塩害成分として注意が必要であ
る。尚,旧プロセスにおける乳酸発酵残さのC/N比は 6.6-8.3 とさらに低かった。
Table 1
水分
(%)
生ゴミ
残さ及びそれらの高温好気発酵によって得られた発酵物の成分
N
(%)
C/N
(-)
P2O5
K2O
CaO
(mg/kg)
(mg/kg)
(mg/kg)
MgO
(mg/kg)
Na
(mg/kg)
78.5
2.5
20.3
674
5840
5570
1070
5710
生ゴミ発酵物
7.0
3.2
15.5
701
6020
10750
1020
4790
糖化残さ
84.0
3.4
14.3
1080
8180
12300
1160
4700
糖化残さ発酵物
16.6
4.9
10.8
900
8150
14900
1230
5800
エステル化残さ
(46.7)
6.5
6.5
3360
23200
6660
2540
35863
Fig.3 に各肥料の小松菜の発芽及び初期生育に及ぼす影響を示した。発芽調査において,生ごみ発酵物を用いた基準
量区と2倍量区でのみ低い成績であった。これは,同3倍量区では悪影響がないことから,未熟発酵成分など何らかの毒性
成分が基準量区及び2倍量区に偏ったことが考えられた。また,初期生育における平均葉長調査では,いずれの区画にお
いても,施肥の無い基礎量区と比較して同等以上の成績であり,生体重調査では,発芽率の低い区画以外は基礎量区と
比較して同等以上の成績であった。即ち,発芽及び初期生育における悪影響は認められず,特に糖化残さ発酵物をねか
せた区画においては,市販肥料以上の良好な生育を示した。尚,データには示していないがエステル化残さについては2
倍量区及び3倍量区で強い発芽阻害とそれに続く生育阻害を示した。これは,ナトリウムを含む高濃度の塩類や残存する
有機溶媒の影響が考えられ,肥効成分を有効に利用するためには粗生成や添加比率などについてよりきめ細かい方法を
考案する必要があった。
1/5000a ポット試験を用いた予備試験を受けて行った圃場試験における,各肥料の水稲栽培の収穫に及ぼす影響を
Fig. 4 に示した。ポット試験と同様,水田においても基礎量区や化成肥料区に比べて収量増加が認められた。
糖化残さ発酵物及び生ごみ発酵物は 3 倍量施肥することで,市販有機肥料区とほぼ同等の増加が見られた。一方,リン酸
やカリウム成分を調整することによる大きな違いは見られなかった。また,地力成分のみでの栽培である基礎量区と比較す
ると,穂数に大きな違いが増収の要因であることが判り,これら発酵物が元肥として初期成育に及ぼす影響が非常に高いと
考えられた。
49
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(Ⅱ)
60
平 均 葉 長
(Ⅰ)
発芽率[%]
100
0
A BC
0
D-1 D-3 E-1 E-3
F-1
D-2 D-4 E-2 E-4
F-2
A BC
(Ⅲ)
25
D-1 D-3 E-1 E-3
F-1
D-2 D-4 E-2 E-4
F-2
基 準 量
2倍量区
3倍量
生体重[g]
(Ⅰ):発芽率 (Ⅱ):平均葉長 (Ⅲ):生体重
A:基礎量区
B:成分調整区
C:化成肥料区
D:生ごみ発酵物施肥区、未処理(-1)、成分調整区(-2)、
ねかせ区(-3)、成分調整後ねかせ区(-4)
E:糖化残さ発酵物施肥区、未処理(-1)、成分調整区
0
(-2)、ねかせ区(-3)、成分調整後ねかせ区(-4)
A BC
D-1 D-3 E-1 E-3
F-1
D-2 D-4 E-2 E-4
F-2
Fig. 3
F:市販有機配合肥料施肥区、未処理(-1)、ねかせ区(-2)
糖化残さ発酵物の小松菜の発芽及び初期成育に及ぼす影響
3.3 副生成物である乳酸菌体の飼料添加物としての栄養・機能評価の検討
新・旧プロセスにおける副生成物の栄養成分分析を行ったところ,乳酸発酵残さはタンパク質含量が高く,糖化処理残さ
はロット差に基づく成分のばらつきが大きいという特徴が明らかになった。また,エステル化固形分は灰分含量が高いこと,
蒸留精製釜残さは脂質含量が非常に高く,また性状が液体であることなどから飼料への添加方法が困難であり,利用は難
しいと考えられた。そこで,乳酸発酵残さおよび糖化処理残さをラットの飼料として用いた場合の生育・毒性試験について
検討を行ったところ,いずれの残さにも際だった毒性は観察されなかった。糖化処理残さを与えたラットの体重は,基本食
を与えたラットの体重より有意に増加し,飼料効率も高くなる傾向がみられ,良質タンパク質源として利用可能であることが
わかった。但し,ロット差に基づく成分のばらつきが大きく,飼料として重要である一定の品質の飼料を生産することが難し
いことが問題点として挙げられた。従って,糖化処理残さに関しては,糖化方法の確立や異ロットの混合による均質化の必
要性が考えられた。一方,乳酸発酵残さを与えたラットの体重は,基本食を与えたラットの体重より減少する傾向がみられ,
飼料効率も有意に低下した。この結果から,処理工程における非オートクレーブによるタンパク質の劣化回避や,残さと乳
酸菌体の別調整による高度利用を進めていくのがよいと考えられた。
次に,L. rhamnosus KY-3 (KY-3),L. plantarum KY-1 (KY-1),および Lcc.lactis 50-4(50-4)各菌体を添加した飼料を
ラットに与えたところ,いずれの菌種でも糞排泄増加効果が認められた。また成長,臓器等への悪影響はみられなかった。
色素マーカーを用い,KY-3 による糞排泄時間への影響を検討した結果,KY-3 は糞排泄促進物質のセルロースと同等の
効果を示した。下痢改善作用では,ポリデキストロース投与時においては下痢の発症時間を若干遅らせた。但しセロビオ
ース投与時においては,下痢改善作用は認められなかった。これらの結果から KY-3 は糞排泄促進・下痢抑制などの整腸
作用を有することが明らかになった。そこで,これらの盲腸内微生物叢について分析した。ポリデキストロース群のラットでは,
基本食のみを与えたラットに比べ全菌数,乳酸菌数ともに一桁近く低下していたが,ポリデキストロースと KY-3 同時投与群
50
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(Ⅱ)
110
穂数[本/
もみ数[粒/
(Ⅰ)
20
0
0.03
登熟歩合[%]
もみ重量[g/粒]
0
(Ⅲ)
100
0
基準量区
3倍量区
45
もみ収量[g/株]
(Ⅰ):穂数,(Ⅱ):もみ数,(Ⅲ):登熟歩合,
(Ⅳ):もみ重量,(Ⅴ):一株当りのもみ収量
A:基礎量区
B:化成肥料区
C:市販有機配合肥料
D-1:糖化残渣発酵物
D-2:糖化残渣発酵物-成分調整区
E-1:生ごみ発酵物
E-2:生ごみ発酵物-成分調整区
0
Fig. 4
糖化残さ発酵物肥料の圃場水稲栽培におけるもみ収量に及ぼす影響
では,L.rhamnosus が増加するに伴い全菌,全乳酸菌がほぼコントロール群に近い値まで回復していた。セロビオース投与
群では,コントロール群に比べ全乳酸菌と L.rhamnosus が一桁近く低下していたが,セロビオースと KY-3 同時投与群では,
これらの菌数はコントロール群とほぼ同じ値に回復していた。
上記の結果を受けて,L. rhamnosus KY-3 とセロビオースの組み合わせについてについてさらに検討を進めた。その結
果, KY-3 とセロビオースの同時投与による成長,臓器等への悪影響はみられないことを確認した。L. rhamnosus KY-3 と
セロビオースをラットに同時投与したとき,総脂質,総コレステロール,中性脂肪および総リン脂質などの血清脂質濃度が,
コントロールに対して有意に低下し,それぞれの単独投与ではみられなかった作用が現れた(Table 2)。この時,盲腸の内
容物重量の増加と微生物の代謝産物である短鎖脂肪酸量も増加しており,盲腸内発酵が盛んになっているものと考えられ
た(Table 3)。また,FISH 法による菌叢解析の結果からは,L. rhamnosus KY-3 とセロビオースの同時投与により,盲腸内に
占める乳酸菌数,特に L. rhamnosus 菌数の増加と大腸菌などの有害菌の減少が認められた(Fig. 5)。上記の血清脂質の
変動とこれら盲腸内細菌叢の変化が一部連動していることから,血清脂質濃度の低下作用メカニズムのひとつとして,
51
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
Table 3 KY-3とセロビオースの同時投与が盲腸へ及ぼす影響 内容物重量 (g)
酢酸 (μmol/cecum)
プロピオン酸 (μmol/cecum)
酪酸 (μmol/cecum)
1
総短鎖脂肪酸 (μmol/cecum)
Control
KY-3
Cellobiose
KY-3+Cellobiose
a
0.95 ± 0.07
a
1.02 ± 0.11
b
1.54 ± 0.12
c
1.89 ± 0.16
a
41.6 ± 2.3
a
14.9 ± 0.6
ab
48.4 ± 4.6
a
16.6 ± 1.4
bc
55.3 ± 3.1
b
26.2 ± 1.7
c
64.0 ± 4.8
b
29.2 ± 3.6
3.3 ± 0.6
a
59.8 ± 2.9
1.8 ± 0.7
a
66.8 ± 6.2
3.4 ± 1.3
b
84.9 ± 4.7
2.9 ± 0.9
b
96.0 ± 8.6
平均値±標準誤差
共通の肩文字を有しない群間に有意差あり(P<0.05)
1
総短鎖脂肪酸=酢酸+プロピオン酸+酪酸
Table 2
KY-3とセロビオースの同時投与による血清脂質濃度低下作用
Control
KY-3
Cellobiose
KY-3+Cellobiose
総脂質 (mg/dL)
454.0 ± 26.5b
440.5 ± 21.9b
396.2 ± 16.7ab
345.2 ± 9.4a
中性脂肪 (mg/dL)
107.2 ± 19.3b
97.5 ± 12.8b
70.5 ± 9.4ab
42.7 ± 5.3a
113.7 ± 4.2b
110.7 ± 2.7ab
102.7 ± 1.9a
リン脂質(mg/dL)
172.2 ± 4.5b
172.2 ± 6.7b
平均値±標準誤差
共通の肩文字を有しない群間に有意差あり(P<0.05)
159.3 ± 6.2ab
148.2 ± 3.1a
総コレステロール(mg/dL) 116.3 ± 3.3b
10×1012
全細菌数
乳酸菌数
L.rhamnosus
10×1011
cells / cecum
大腸菌数
10×1010
10×109
10×108
Control
Fig.5
KY-3
Cellobiose
KY-3+Cellobiose
KY-3 とセロビオースを同時投与したラットの盲腸内容物中の菌数
盲腸内細菌叢の変化が関与していると考えられた。糞については,L. rhamnosus KY-3 の単独投与でも排泄促進効果
がみられたが, L. rhamnosus KY-3 とセロビオース同時投与では,両者の相加効果により,さらに糞排泄量の増加が観察
された。これらの結果から L. rhamnosus KY-3 は,セロビオースと同時投与することによって糞排泄促進作用だけでなく,強
い脂質代謝促進効果を示すことが分かった。
52
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 考 察
本研究では第一期で示した生ゴミからのポリ乳酸生産を基軸とし,さらに包括的なリサイクルプロセス の提案を目指し,
糖化・発酵法のプロセス改良と元素収支の算出, 副生成物の高温好気発酵による改質と肥料としての肥効・機能評価,
発酵微生物菌体に由来する副生成物の特徴分析と飼料としての栄養・機能評価について検討し,それぞれについて有効
な手段を示すことができた。
まず,プロセスの改良を目指した。前期研究で完成したポリ乳酸製造プロセスにおける乳酸発酵は、生ゴミを等量の水と
ミンチし高圧蒸気殺菌を施した後,半固体系で行われていた。しかしながら、乳酸菌やカビの増殖に必要な糖質、アミノ酸、
ビタミンなどは高温処理に対して不安定で分解しやすく、それらが共存するとさらに分解反応が促進され、廃液の着色の原
因となる褐変物質や発酵を阻害するフルフラールなどの望ましくない物質がこの殺菌工程で生じる。また,スケールアップ
した場合には半固形状態であることが原料供給やオートクレーブの困難さと共に,殺菌操作の煩雑性や必要設備の増加
の原因となると考えられた。今回 Fig.1 で示したような検討により,これら高圧蒸気滅菌などの煩雑な工程を省略することが
できることが示された。本成果は収集前の各排出場所近辺において変敗や自然乳酸発酵の進行を避ける簡便な方法とし
ても利用することができよう。これとは別に,生成乳酸の光学純度が高く,低栄養要求性でアミラーゼ活性を有する
Rhizopus oryzae を用いて,乳酸生成に及ぼす原料成分の影響を検討し,ある種のペプチドが乳酸生成を顕著に促進する
こと,逆に肉類由来タンパク質などは生産性を低下させること,活性炭の培養系への添加が生ゴミ基質の示す乳酸発酵阻
害を軽減する効果があることなどがわかった。即ち本糸状菌は雑多な組成の生ゴミの発酵には適さずむしろ穀物・野菜類
からの乳酸生成に特化して用いるか, 糖化液の分画工程が必要になると考えられた。
また,収集後の大規模な生ゴミ乳酸発酵を,糖化-濾別を先に行う改良法について検討し全体プロセスを再設計した。こ
れにより,糖化と固液分離,糖液の濃縮,糖化残さの処理はオンサイトで比較的小規模で行い,スケールメリットが大きいポ
リ乳酸製造は濃縮糖液を収集してさらに集約化を図ることが可能となった。平均的な組成の都市生ゴミを用いてポリ乳酸化
プロセスの各ステップにおける元素収支を明らかにした。生ゴミは食品成分としては雑多であるが,本来生物由来であるこ
とから,構成元素の種類はほぼ変わらない。概して動物においては炭素と窒素の比(C/N)が低く植物では高い。構成分子
の点からは家庭生ゴミにも一般事業所ゴミにも相当量の糖質が含まれ,炭素原子換算で43%程度が乳酸に変換可能であ
ることが明らかになっている。一方,窒素を初め,リン,イオウ,カリウムといった生体元素はこれが閉鎖系水域などに流出す
るといわゆる富栄養化による水質環境悪化をもたらす。(ポリ)乳酸として回収される元素は炭素(及び水素,酸素)のみで
あるため,生ゴミの包括的な処理のためにはそれ以外の元素,特に,窒素,リン酸,カリウムなどを含む副産物の再利用を
組み込む必要があった。炭素及び窒素について考えた場合,糖化処理残さと発酵菌体を利用できれば8割以上のリサイク
ルがなされることがわかった。また,リン,カリウムについても糖化残さと発酵菌体を合わせると回収分のそれぞれ 66%及び
86%が再利用されることになる。そこで次に,両副生成物の高度利用を目指した。
今回得られた成果の2つ目は,糖化処理工程で得られる残さの高温好気発酵を介した変換と肥料としての高度利用の
例示である。糖化残さの再発酵は,縦型回転撹拌、軸貫通型通気孔,加温方法などを工夫し,中等度好熱菌の優勢増殖
を制御するタイプの発酵槽を用いて行い,残さに残存する易分解性糖質を短時間,55℃で処理した。得られた発酵物は
従来の完熟堆肥とは性格がやや異なるが,生ゴミ直接の発酵肥料よりも C/N 比,脂質,塩分含量が低いという特徴を有し
ていた。また,小松菜を用いた簡易試験では幼少期の植害が生ゴミそのものに比べて軽減されていた。尚,エステル化残
さについては2倍量区及び3倍量区で強い発芽阻害とそれに続く生育阻害を示した。これは,ナトリウムを含む高濃度の塩
類や残存する有機溶媒の影響が考えられ,肥効成分を有効に利用するためには粗生成や添加比率などについてよりきめ
細かい方法を考案する必要があった。糖化残さ発酵物を用いてヒノヒカリの水稲栽培試験をポットレベルで行ったところ,化
成肥料区等に対して米収穫量を有意に改善することがわかった。さらに,水田に 1 ㎡程度の流通式囲いを設けた試験区を
作成し,圃場レベルでの水稲栽培試験を実施した結果,糖化残さ発酵物についてポットレベルでの試験に準じた肥効を確
認することができた。これは肥効分子の形態的特徴から窒素成分が遅効性であり,稲が生育した後期の結実の段階で有
効成分として利用されるために,結果として一穂当たりの有効籾数を増加させることに依ると考えられた。
自給率の低い我が国における食・飼料の過半は輸入であるから,残さあるいは排泄物として得られる廃棄物バイオマス
も輸入超過の産物であり,我が国は廃棄物バイオマス資源国あるいは輸入大国であるとも言える。逆に,海洋投棄の禁止
53
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
によって国内での蓄積が進んでおり,特に窒素原子に関してはすべての生物系廃棄物の窒素を合わせると農地還元に対
して現状で供給過多になっているとされる「引用文献 7.」。 ここで示した様に,生ゴミ中の炭素を高付加価値なポリ乳酸と
して利用した残さ副生成物中の窒素,リン,カリウムの利用が国内稲作において可能となれば,我が国における元素サイク
ルの歪みを大きく変えられる可能性がある。
第3の検討項目で例示したもう一つの副生成物,発酵菌体の高度利用法は,副産物高度利用の2つ目は,家畜・ペット
用プロバイオティクスとしての利用である。 本発酵に用いる乳酸菌 L. rhamnosus KY-3 はラットの飼料添加物として排便促
進や下痢抑制などの整腸効果を示した。さらに,水溶性食物繊維であるセロビオースと同時投与すると,強い脂質代謝促
進効果を示すことが分かり,いわゆるプレ-プロバイオティクス(機能性オリゴ糖-生菌製剤)として家畜,ペット等の補助飼料
として利用する優位性が示された。
生ゴミ=食・飼料中の含窒素有機化合物の多くは本来植物,微生物のみが生産でき
る分子形態である。一方で我々動物は含窒素有機化合物の形態でしか窒素成分を利用できないことを考えると,一端土
壌(緑農地)還元した後作物としてリサイクルする以外に,有機窒素等を含むバイオマスを無機化せずに飼料などとして利
用する「生物的リサイクル」はやはり重要である。しかしながら,今回の検討は実験系微生物菌体を用いた結果であり,実プ
ロセスから得られる菌体の場合には種々の混入物が想定されることから,利用可能な生ゴミは食品工業残さや外食産業廃
棄物のような,内容に関するマニフェストの得られる範囲に限定され,家庭生ゴミなどではその利用に関しては予想される
危険性に対する予防と対処手段を開発する必要があろう。また,ラット試験のレベルでの結果であるため,家畜やペット,漁
業の場における対象動物を限定したさらなる検討が必要である。
最後に,我々の提案は生ゴミの組成や成分的特徴から,バイオマス炭素は化成品ポリマーとして,窒素,リン酸,カリウム
などは緑農地に還元可能な肥料や,飼料添加物となりうる微生物菌体の培養基として利用するという設計概念である。ここ
には石油化学コンビナートなどで見られるカスケードプロセスによる成分の総合的利用の観点があり,得られる全生産物の
経済的メリットがトータルな循環利用のために必要なコスト,即ちエネルギーの追加分による環境負荷を相殺する駆動力に
なることで,都市生ゴミのポリ乳酸生産を基軸としたリサイクルシステムの成立が容易になると考えられる(Fig.6)。
Fig. 6
循環型プラスチック,ポリ乳酸の生産を基軸とした都市生ごみのトータルリサイクルシステム
54
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 引用文献
1.
K. Sakai, M. Taniguchi, S. Miura, H. Ohara, T. Matsumoto, and Y. Shirai:「Making Plastics from Garbage: A Novel
Process for Poly-L-lactate Production from Municipal Food Waste」, J. Indust. Ecol., Vol. 7, 63-74(2003)
2.
酒井謙二,白井義人:「ポリ乳酸生産を基軸とした都市生ごみのトータルリサイクルシステム」, 廃棄物学会誌, 15 巻,
pp89-96(2004)
3.
U. Gerngross, and S.C. Slter: 「How green are green plastics」, Sci. Am., Vol.8, pp24-29 (2000)
4.
野村和博:日経バイオビジネス,6月号 pp74-76 (2002)
5.
K.Sakai, Y. Murata, H. Yamazumi, Y. Tau, M. Mori, M. Moriguchi, and Y. Shirai:「 Selective Proliferation of Lactic
Acid Bacteria And Accumulation of Lactic Acid during Open Fermentation of Kitchen Refuse with Intermittent pH
Adjustment」,
6.
Food Sci. Technol. Res., Vol.6, pp140-145 (2000)
Kenji Sakai, Masatsugu Mori, Akira Fujii, Yuko Iwami, Ekachai Chukeatirote, and Yoshihito Shirai:「Fluorescent In
Situ Hybridization Analysis of Open Lactic Acid Fermentation of Kitchen Refuse Using rRNA-targeted
Oligonucleotide Probes」, J. Biosci. Biotechnol. (2004) In Press
7.
松田 晃,間藤 亨:「窒素サイクルと食料生産」,化学と生物,41 巻,pp644-650(2003)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
Kenji Sakai,Hiroyuki Kawano,Akihiko Iwami,Masakazu Nakamura, Mitsuaki Moriguchi:「Isolation of a
Thermophilic Poly-L-Lactide Degrading Bacterium from Compost and Its Enzymatic Characterization」,J.
Biosci. Bioeng., 92,298-300 (2001)
Kenji Sakai, Masatugu Mori, Akira Fujii, Iwami Yuko, Yoshihito Shirai: 「Fluorescent In Situ Hybridization
2.
Analysis of Open Lactic Acid Fermentation of Kitchen Refuse Using rRNA-targeted Oligonucleotide Probes」,
J. Biosci. Bioeng., 98,(2004) in press.
3.
Miki Umeki, Kazutoshi Oue, Satoshi Mochizuki, Yoshihito Shirai, Kenji Sakai, Effect of Lactobacillus
rhamnosus KY-3 and Cellobiose as Synbiotics on Lipid Metabolism in Rats, J. Nutr. Sci. Vitaminol., 50(5),
(2004)
4.
In press
M.Taniguchi, T.Tokunaga, K.Horiuchi, K.Hoshino, K.Sakai, and T.Tanaka, Production of L-lactic acid from a
mixture of xylose and glucose by co-cultivation of lactic acid bacteria, Applied Microbiology and
Biotechnology (2004) In press
国外誌
1
Kenji Sakai, Masayuki Taniguchi, Shigenobu Miura, Hitomi Ohara, Toru Matsumoto,
Yoshihito Shirai:
「Making Plastics from Garbage:A Novel Process for Poly-L-lactate Production from Municipal Food Waste」,
J. Indust. Ecol., vol. 7, (3/4) 63-73 (2003)
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
望月聡,梅木美樹,森正嗣,中村仁計,酒井謙二:「高温好気発酵による廃棄養殖魚の家畜飼料としての有
効性の可能性」,大分大学教育福祉科学部研究紀要,24(1),185-191,(2002)
2.
望月聡,梅木美樹,酒井謙二,白井義人:「生ゴミからポリ乳酸を製造するプロセスで生成する副産物の飼料と
しての有用性」,大分大学教育福祉科学部研究紀要,24(2),367-373,(2002)
55
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3.
Masaki Saito, Nobuyoshi Ishii, Suguru Ogura, Hisato Fukushi, Katashi Nagamizu, Masatsugu Mori,
Kenji Sakai:「Research and Development of Biodegradation Disposal for SBS (Sugi Bark Sorbent)」,Kobe,
Proc. of International Symposium on Techno-Ocean 2002 (techno Ocean network) 2002.11
4.
望月聡,梅木美樹,酒井謙二,白井義人:「生ゴミからポリ乳酸を製造するプロセスで生成する Lactobacillus sp.
KY-3 菌体がラットの脂質代謝に及ぼす影響」,大分大学教育福祉科学部研究紀要,25(1),161-167,(2003)
5.
酒井謙二:「元素組成を考慮した食品廃棄物のトータルリサイクル」,「新政策」特集号 バイオマス・ニッポンへ
の技術開発,政策総合研究所,66-69,(2003)
6.
酒井謙二, 白井義人:「ポリ乳酸生産を基軸とした都市生ゴミのトータルリサイクルシステム」,廃棄物学会誌,
15(2),89-96, (2004)
国外誌
1.
Kenji Sakai, Mitsuaki Moriguchi, Kazuaki Yoshimune, Masatsugu Mori:「FISH Analysis of Microbial
Community in the Open Lactic Acid Fermentation of Kitchen Refuse」,Amsterdam ,9th International
Symposium on Microbial Ecology,2001.8
2.
Kenji Sakai , Kazuaki Yosimune , Mitsuaki Moriguchi , Ekachai Chukeatirote and Yoshihito Shirai :
「Quantification of Bacterial Population within Open Lactic Acid Fermentation of Kitchen Refuse by FISH」,
Keyonju ,Proc. of International Symposium on Genetics of Industrial Microbiology, 2002.7
3.
Kenji Sakai , kazutoshi Ohue , Kazuaki Yosimune , Mitsuaki Moriguchi , Ekachai Chukeatirote and
Yoshihito Shirai:「Group- and species-specific FISH analysis of LAB」,Khon Kaen, Proc. of International
Symposium on 14th Annual Meeting of the Thai Society for Biotechnology, 2002.11
4.
Kenji Sakai,
Yoshihito Shirai : 「 Total Recycle of Municipal Food Waste with the Production of
Poly-L-lactate.」, Taipei, Secaond Asian Conference on Lactic Acid Bacteria, 2003.11
5.
Jiro Nakayama, Mizuki Ando, Hidetoshi Tanaka, Kazutoshi Ohue, Kenji Sakai, Mitsuaki Moriguchi, Kenji
Sonomoto:「Microflora in fermented rice bran bed "Nukadoko" without spoilage for 380 years」,Taipei,
Secaond Asian Conference on Lactic Acid Bacteria, 2003.11
6.
Saowanit Tongpim, Atsushi Tateyama, Yutaka Ezaki, Kazutoshi Oue and Kenji Sakai:「Fermentation of food
waste by thermophilic, lactic acid-producing bacteria」,ChiangMei,
The15th Anuual Meeting of Thai
Society for Biotechnology, 2004.2
口頭発表
招待講演
1.
酒井謙二:「都市生ゴミの乳酸発酵・循環型プラスチック化によるリサイクル」,宮崎,宮崎県工業技術センター
主催第2回環境資源技術研究会,2001.9
2.
酒井謙二:「-現代の乳酸菌研究を斬る-生ゴミからのポリ乳酸生産と開放発酵系の FISH による解析」,山梨,
日本生物工学会シンポジウム,2001.9
3.
酒井謙二:「都市生ゴミからの乳酸-プラスチック生産」,大阪,バイオフォーラム 2001 OSAKA シンポジウム大
阪科学機器協会・日本工業新聞社主催,2001.11
4.
酒井謙二:「生ゴミの資源化のはなし」,大分,一日九州産業技術センターin 大分(財)九州産業技術センター
主催,2001.11
5.
酒井謙二:「都市廃棄物からの乳酸発酵」,東京,第2回生分解・処理メカニズムの解析と制御技術開発勉強
会 -資源循環型産業社会とバイオテクノロジー(財)バイオインダストリー協会主催,2001.12
6.
酒井謙二:「微生物を介した有機廃棄物のリサイクル-発酵と腐敗はどこが違うのか」,大分,城西ロータリー定
例会城西ロータリー主催,2001.12
56
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
7.
酒井謙二:「都市食品廃棄物の微生物処理を介した包括的リサイクル」,広島,環境2法の推進及び食品廃棄
物処理等の現状と技術開発・実用化に関する講演会広島県食品工業協会主催,2002.1
8.
酒井謙二:「産学官協同による生ゴミ発酵装置の開発と研究の展開」,広島, 平成14年度バイオテクノロジー
交流研究会 中国技術振興センター主催 ,2002.7
9.
酒井謙二:「産学官協同による生ゴミ発酵装置の開発と複合微生物制御」,山口,山口大学 地域共同研究セ
ンター講演会,2002.7
10.
酒井謙二:「生ゴミの開放系乳酸発酵における細菌の種および群レベルでの FISH 解析」,北海道,H14 年度
日本生物工学会 乳酸菌工学研究部会 講演会,2002.7
11.
酒井謙二:「ビフィズス菌のオリゴ糖代謝酵素とβ-グルコシドの馴養による関連形質の変化」,大阪,平成14
年度日本生物工学会大会 シンポジウム,2002.10
12.
酒井謙二:「都市生ゴミの高付加価値資源化によるリサイクルシステムの構築」,熊本,第167回 RISTフォー
ラム,熊本知能システム技術研究会,熊本県工業連合会 主催,2002.12
13.
酒井謙二:「都市生ゴミの高付加価値化によるトータルリサイクル」,熊本,環境バイオワーキングセッション,九
州経済産業局,(独)産業技術総合研究所九州センター,(財)九州産業技術センター 主催,2003.2
14.
第14回廃棄物学会研究発表会 (バイオマス系廃棄物研究部会), ポリ乳酸生産を基軸とした都市生
ゴミのトータルリサイクルシステムの提案, (筑波, 2003. 10)
応募・主催講演等
応募講演
1.
石井克行,石田淳也,田辺卓,酒井謙二,田中孝明,谷口正之:「膜型混合培養システムの開発とその乳酸菌
の選択的増殖条件解明への応用」,福井,化学工学会福井大会,2001.7
2.
酒井謙二, 森正嗣, 吉宗一晃, 森口充瞭:「開放系生ゴミ乳酸発酵の 16SrDNA プローブを用いた FISH 解
析」,山梨,日本生物工学会大会,2001.9
3.
藤井暁,岩切麻紀子,吉宗一晃,酒井謙二,森口充瞭:「生ごみ乳酸発酵の効率化を目指した有用菌のスクリ
ーニング」,福岡,日本生物工学会九州支部大会,2001.12
4.
貞光由美子,櫻井まみ,酒井久美子,吉宗一晃,酒井謙二,森口充瞭:「Bifidobacterium breve のβ-グルコ
シド馴養菌のプロテオーム解析」,仙台,日本農芸化学会大会,2002.3
5.
田辺卓, 酒井謙二, 佐藤和人, 大坪貞視, 田中孝明, 谷口正之:「米ぬかを炭素源とした同時糖化発酵
による乳酸の生産」,仙台,日本農芸化学会大会,2002.3
6.
望月聡,梅木美樹,酒井謙二,森正嗣,中村仁計:「高温好気発酵による廃棄養殖魚の動物用食飼料として
の有効利用の可能性」,奈良,平成14年度日本水産学会大会,2002.4
7.
石田淳也,田辺 卓,酒井謙二,田中孝明,谷口正之:「膜型混合培養システムの開発とその食品廃棄物資源
化への応用」,東京,日本食品工学会,2002.8
8.
田辺 卓,酒井 謙二,佐藤 和人,大坪 貞視,田中 孝明,谷口 正之:「未殺菌米ぬかを炭素源とした同時
糖化発酵による乳酸の生産」,新潟,化学工学会新潟大会,2002.8
9.
梅木美樹,大上和敏,酒井謙二,望月聡:「セロビオースと乳酸菌 KY-3 の同時摂取がラットの消化管機能なら
びに脂質代謝に及ぼす影響」,東京,日本食物繊維研究会学術集会,2002.11
10.
多宇裕子,山下剛史, 中村仁計, 酒井謙二, 吉宗一晃, 森口充瞭:「廃棄ミカンの発酵処理に関与する
酵母の分離と同定」,沖縄,日本生物工学会九州支部大会,2002.12
11.
梅木美樹,酒井謙二,望月聡,白井義人,吉宗一晃,森口充瞭:「生ゴミからのポリ乳酸製造において副生す
る乳酸菌体の有効利用」,沖縄,日本生物工学会九州支部大会,2002.12
12.
森正嗣,酒井謙二,中川美沙,桑原宏明,西村恭彦,白井義人,吉宗一晃:「生ゴミからのポリ乳酸生産で副
生する糖化残さの発酵処理と肥料化」,沖縄,日本生物工学会九州支部大会,2002.12
57
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
13.
大上和敏,梅木美樹,森正嗣,酒井謙二,吉宗一晃,森口充瞭,望月聡,白井義人:「FISH 法による乳酸菌
投与ラット盲腸内容物の菌叢解析」,神奈川,日本農芸化学会大会,2003.4
14.
梅木美樹,大上和敏,酒井謙二,望月聡,吉宗一晃,森口充瞭,白井義人:「Lactobacillus rhamnosus 及び食
物繊維を同時投与したラットにおける脂質代謝と盲腸内微生物活性の関連」,神奈川,日本農芸化学会大会,
2003.4
15.
中山二郎,安藤瑞起,田中英俊,大上和敏,酒井謙二,園元謙二:「分子生態学的手法を用いた糠床の細菌
叢解析」,東京, 日本乳酸菌学会,2003.7
16.
江崎豊,酒井謙二,吉宗一晃,白井義人,森口充瞭:「好熱性 L-乳酸生産菌 Bacillus coagulans による生ごみ
の開放系発酵」,熊本,日本生物工学会大会,2003.9
17.
田中英俊,中山二郎,安藤瑞起,大上和敏,酒井謙二,森口充瞭,園元謙二:「糠床中に棲息する優勢菌の
分子生態学的解析」,鹿児島,日本農芸化学会西日本関西支部合同大会,2003.9
18.
田 中 大輔, 櫻井 まみ, 酒井久 美 子,酒 井謙 二, 吉宗一晃,森口充瞭: 「ゲンチ オビオースで馴 養し た
Bifidobacterium breve 203 のキシロース代謝酵素系の変化」,宮崎,日本生物工学会九州支部大会,2003.12
19.
磯貝朋之,Reyes Dindo,田邉和彦,酒井謙二,門多真理子,吉川博文:「乳酸菌 Lactobacillus plantarum
KY-1 で変異導入型の細胞壁合成酵素遺伝子(ddl)の付加によるバンコマイシン耐性の減少」,広島,日本農
芸化学会大会,2004.3
20.
江崎豊,酒井謙二,白井義人,吉宗一晃,森口充瞭:「好熱性 L-乳酸生産菌による生ゴミの開放系発酵と
FISH 法による菌叢解析」広島,日本農芸化学会大会,2004.3
21.
藤井敬久,酒井謙二,吉宗一晃,白井義人,森口充瞭:「生ゴミの開放系発酵優勢菌 Lactobacillus plantarum
KY-1 の乳酸異性化反応」,広島,日本農芸化学会大会,2004.3
主催講演
1.
「生ゴミ革命 −循環プラスチックと新しいリサイクル社会の提案-」,大分,文部科学省 生活者ニーズ対応研究
成果報告会,2003.12.16
特許等出願等
1.
2003.4.24:「脂質代謝促進用食・飼料添加物」,酒井謙二,望月聡,梅木美樹,大上和敏,特願 2003-119791
2.
2003.8.29:「乳酸液の製造方法」,酒井謙二,江崎豊,白井義人,特願 2003-306871
3.
2004.2.26:「有機肥料の製造方法」,酒井謙二,岩見裕子,中村仁計,特願 2004-052073
58
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.1. 有機廃棄物用亜臨界水処理装置の開発
独立行政法人産業技術総合研究所基礎素材研究部門天然素材複合化技術研究グループ
柴田 昌男、坂木 剛、山田 則行、安部 英一
■要 約
有機廃棄物を大量に効率よく水に可溶化するために、Ⅰ期で試作したスラリー流通式(連続式)処理装置を改造して有
機廃棄物用亜臨界水処理装置とし、固形物濃度約 10%の消化汚泥スラリーを安定に連続して亜臨界水処理可能とした。
消化汚泥を水に可溶化するための処理条件を検討した結果、消化汚泥中の有機質炭素の 60~80%が処理水中に溶解
することを明らかにした。有機酸を生成させるために過酸化水素水の添加を試み、過酸化水素水の添加は有機酸生成に
有効であることを明らかにした。消化汚泥の有機酸化にはカルシウム塩の添加が有効であること、および厨芥ゴミのモデル
としたドッグフードは、汚泥よりも水可溶化および有機酸化が容易であることを回分式処理法により明らかにした。
■目 的
有機廃棄物を石油製品化するためには水に可溶化する必要がある。大量に排出される有機廃棄物を亜臨界水処理に
よって効率よく水に可溶化するためには、高濃度スラリーとして連続処理する必要がある。そのために、Ⅰ期で試作したスラ
リー流通式(連続式)処理装置の改造を行って有機廃棄物用亜臨界水処理装置を開発し、同装置を用いて消化汚泥を対
象として亜臨界水処理による水可溶化における処理温度、処理時間等の影響および酸化剤の添加効果を調べ、ベンゼン
(B)、トルエン(T)、キシレン(X)等の石油製品化に最適な処理条件の検討を行うことを目的とした。また、回分式処理法によ
って消化汚泥および厨芥ゴミのモデルとしたドッグフードの水可溶化挙動の基礎データを得ることを目的とした。
■ 研究方法
有機廃棄物用亜臨界水処理装置(図-1)による消化汚泥スラリーの亜臨界水処理は以下の方法で行った。まず高温に
おいて水を液体状態に保つために、保圧弁を調整することによってボールバルブ-2 以後の管式反応部、スロップタンク、
サンプル受器等の系の圧力を設定した反応温度における水の蒸気圧以上に加圧し、ボールバルブ-1 を開としてスラリー
槽に入れた試料スラリーをピストン式スラリーポンプでポンプのシリンダー中に吸入する。このとき管式反応部よりの逆流を
防止するために、ボールバルブ-2 は閉となっている。ピストンが試料スラリーを吸入し終わった時点でボールバルブ-1 を閉
とし、シリンダー中の試料スラリーのピストンによる吐出を開始する。ピストンの吐出圧力が系の圧力より若干高くなった時点
でボールバルブ-2 を開とし、試料スラリーを温度制御された管式反応部へ送入し、亜臨界水処理を行う。ボールバルブ-1
およびボールバルブ-2 の開閉、ピストンポンプによる試料スラリーの吸入吐出の時間的制御は自動的に行われる。試料温
度は管式反応部出口に挿入した熱電対で測定し、温度が安定するまでスラリーはスロップタンクへ廃棄し、温度が安定し
た後バルブを切り替えてサンプル受槽に流し亜臨界水処理を行った試料として採取する。サンプル受槽の容量を超える大
量のスラリーを連続処理する場合は、系の圧力を処理温度における水の蒸気圧以上に保持しながら、サンプル受槽に設
置したバルブより処理済の試料を系外に排出することによって行った。処理温度の制御は管式反応部を設置した塩浴の温
度を制御することによって行い、処理時間の制御はピストンの吐出速度を制御することによって管式反応部を通過するスラ
リーの流速を変化させる方法と管式反応部の長さを変える方法を併用して行った。過酸化水素水を添加する場合は、高圧
59
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
注液ポンプによって酸化剤貯槽に入れた過酸化水素水を直接スラリー輸送ラインへ注入した。回分式処理法による亜臨
界水処理は、内容積 6ml のミニ反応器を用い、試料 0.5g と水 3ml を充填し、系内の空気を窒素ガスで置換後密閉し、所定
温度に制御した塩浴中で所定時間上下に振盪することによって行った。試料温度はミニ反応器中に挿入した熱電対によ
って測定した。実験に用いた消化汚泥試料は北九州市環境科学研究所より提供を受けた。
亜臨界水処理を行って得た試料は遠心分離によって未反応固形物を除去し、さらに 0.20μm のフィルターで濾過し、分
析に供した。以後、固形物を除去した試料を処理水と記す。処理水中の全有機炭素濃度(TOC)および全窒素濃度(TN)
の分析には、全窒素分析用装置を付属させた全有機体炭素計(島津製作所製:TOC-VCSH+TNM-1)を用い、カルシウム
(Ca)およびリン(P)の分析には高周波誘導プラズマ(ICP)発光分光分析装置(パーキンエルマー製:OPTIMA 3300DU)を
用い、蟻酸や酢酸等の分析にはキャピラリー電気泳動装置(ウオターズ製:Waters Quanta 4000)を用いて行った。キャピラ
リー電気泳動分析用緩衝液には、 ピリジンジカルボン酸とヘキサデシルトリメチルアンモニウムをそれぞれの濃度が 5mM
および 0.2mM となるように調製した溶液を 2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールで pH を調整して用いた。
■ 研究成果
高濃度スラリーを安定して連続処理するために、Ⅰ期で試作したスラリー流通式(連続式)処理装置に対して以下の改
造を施した。スラリー循環ポンプについては、ピストンポンプによる試料スラリー吸入時に減圧となることにより水と固形分が
分離するのを防ぐために、吐出圧の高いダイヤフラム式ポンプを採用した。ピストンポンプにはスラリー吸入用とスラリー吐
出用の2台のモーターが設置されており、高濃度スラリーは高粘度でもあるため管式反応部へ安定してスラリーを送液する
ために吐出用モーターを高トルクモーターに換装した。亜臨界水処理により有機酸の生成量を増加させるために酸化剤で
ある過酸化水素水をスラリー輸送ラインへ直接注入する目的で、加圧可能な酸化剤貯槽と高圧注液ポンプを管式反応部
の入り口に設置した。改造した有機廃棄物用亜臨界水処理装置の仕様は以下のとおりである。スラリーポンプの吐出量は
20~50ml/min、最大吐出圧は 200kg/cm2。管式反応部の反応温度は最大 350℃、反応圧力は最大 200kg/cm2。サンプル
受槽の容量は 800ml、スロップタンクの容量は 2L。図-1 に有機廃棄物用亜臨界水処理装置の概略図を、図-2 に用いた有
機廃棄物用亜臨界水処理装置(試作)の写真を示した。
高圧注液
ポンプ
ブースター
ピストン式
スラリーポンプ
酸化剤貯槽
T.C
冷却器
P
水槽
窒素ボンベ
ボ-ル
バルブ-1
ボ-ル
バルブ-2
保圧弁
スラリー循環ポンプ
スラリー槽
管式反応部
サンプル受槽
スロップタンク
図-1 有機廃棄物用亜臨界水処理装置概略図
図-2 有機廃棄物用亜臨界水処理装置(試作)
有機廃棄物用亜臨界水処理装置を用いて、過酸化水素水無添加で消化汚泥の水可溶化挙動を検討するために、固形
物濃度約 10%の消化汚泥スラリーの亜臨界水処理を処理温度 209℃~325℃、処理時間 2.0~8.3 分で行った。得られた
処理水中の TOC および TN と処理温度の関係を図-3 に示した。TOC に対する処理温度の影響としては、処理時間 2.0
分と 8.3 分においては処理温度約 250℃および約 270℃までは処理温度が高くなるのに従って徐々に増加し、それ以上の
処理温度では処理時間 2.0 分ではほぼ一定となり、処理時間 8.3 分ではやや減少する傾向がみられる。処理時間 5.1 分の
場合は処理温度による影響に一定の傾向はみられないが、290℃付近で最大となっている。また TOC に対する処理時間
60
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
の影響としては、処理時間が 2.0 分の場合は他に比較して高くなっているが、5.1 分と 8.3 分では大差はないと思われる。
最も TOC が高かったのは処理時間 2.0 分、処理温度 308℃の場合で 1.57mole/L であった。TN は処理温度が高くなるの
に従って増加する傾向が見られるが大きくは変化していない。また、TN に対する処理時間の影響はほとんどみられない。
TN が最も高かったのは処理温度 308℃、処理時間 2.0 分の場合で 0.40mole/L であった。窒素は BTX への変換工程に使
用する触媒を被毒するといわれているので TN は低い方が望ましく、本結果からは TN に関しては可能な限り低い温度で処
理するのがよいといえるが、処理温度の影響は少なく、一方、処理温度が低いと TOC が減少する傾向があるので、TOC お
よび TN に関しては、処理温度は 260~310℃が適当であると考えられる。図-3 に示した処理水中の TOC の結果より、水可
溶性有機炭素として処理水中に溶解した炭素量を求め、消化汚泥中の有機質炭素を基準として水可溶性炭素収率を求
め、その結果を図-4に示した。ここで消化汚泥有機質中の炭素含有率を重量で 40%とした。最も水可溶性有機炭素の収
率が高かったのは処理時間については 2.0 分の場合であり、5.1 分と 8.3 分では大差はなかった。各処理時間において、
100
1.6
90
水可溶性有機炭素収率 (%)
1.8
濃 度 (mole/L)
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
80
70
60
50
40
30
20
10
0
200
220
240
260
280
300
320
340
200
220
240
260
処理温度 (℃)
TOC 2.0分
TOC 5.1分
TOC 8.3分
TN 2.0分
TN
TN
5.1分
280
300
320
340
処理温度 (℃)
2.0分
8.3分
5.1分
8.3分
図-4 処理時間と水可溶性有機炭素収率の関係
図-3 処理時間と TOC および TN の関係
最も水可溶性有機炭素収率が高かった処理温度と収率は、処理時間 2.0 分では 308℃において 85.8%、5.1 分では 289℃
において 64.9%、8.3 分では 271℃において 64.3%であった。しかしながら図-4 から明らかなように、処理温度は水可溶性
有機炭素収率に大きく影響を与えていない。本結果より、消化汚泥中の有機質炭素の中で 65~85%が水可溶性有機炭
素として水中に溶解することがわかった。
有機廃棄物の石油製品化に必要とされる処理水中の蟻酸、酢酸等の有機酸量の分析を行い、処理温度と処理水中の
0.030
ったのは酢酸であり、次いで蟻酸であった。酢酸の濃度
0.025
は何れの処理時間においても処理温度が高くなるのに
従って増加し、処理温度 308℃で最大となり、325℃では
減少している。処理温度 308℃における酢酸濃度は処理
時間 2.0 分では 0.027mole/L、5.1 分では 0.023mole/L、
濃 度 (mole/L)
有機酸濃度の関係として図-5 に示した。最も濃度が高か
0.020
0.015
0.010
8.3 分では 0.020mole/L であった。蟻酸の生成量は何れ
0.005
の処理時間においても処理温度が高くなるのに従って増
0.000
200
加し、処理時間 2.0 分では 271℃で、5.1 分では 252℃で、
220
240
260
280
300
320
340
処理温度 (℃)
8.3 分では 252℃で最大となり、さらに処理温度が高くな
ると減少した。 各処理時間、処理温度における蟻酸の
濃度は、0.010mole/L、0.0067mole/L、0.0069mole/L で
蟻酸 2.0分
酢酸 2.0分
乳酸 2.0分
蟻酸 5.1分
酢酸 5.1分
乳酸 5.1分
蟻酸 8.3分
酢酸 8.3分
乳酸 8.3分
図-5 処理時間と有機酸濃度の関係
あった。乳酸の濃度は酢酸に比較してかなり低かったが
61
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
濃度に対する処理条件の影響は酢酸と同様であった。蟻酸濃度に対する処理条件の影響が酢酸や乳酸と異なるのは、蟻
酸は反応性が高く処理条件が厳しくなるのに従って他の物質との反応あるいは分解によって失われるためであろうと思わ
れる。有機酸濃度と処理温度の関係をみるために蟻酸、酢酸、乳酸について濃度の合計と処理温度の関係を図-6 に示し
た。処理温度 209℃では処理時間による差はみられないが、さらに処理温度が高くなると処理時間 2.0 分の場合に生成量
が最も多くなり、次いで 5.1 分、8.3 分の順であった。以上の結果に基づいて、消化汚泥有機質炭素中で有機酸炭素として
処理水中に溶解した炭素の収率を有機酸炭素収率として求め、処理時間 2.0 分の場合の処理温度との関係を図-7 に示し
た。処理温度による各有機酸炭素収率の変化は図-5 の処理時間 2.0 分の場合と同様である。濃度が最も高い処理温度に
0.040
4.0
0.035
3.5
有機酸炭素収率 (%)
蟻酸・酢酸・乳酸の合計 (mole/L)
おける有機酸炭素収率は酢酸では 2.96%、蟻酸では 0.57%、乳酸では 0.46%であった。図-7 に示した有機酸炭素収率
0.030
0.025
0.020
0.015
0.010
0.005
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.000
0.0
200
220
240
260
280
300
320
340
200
220
240
処理温度 (℃)
2.0分
5.1分
260
280
300
320
340
処理温度 (℃)
8.3分
蟻酸
酢酸
乳酸
合計
図-7 処理温度と有機酸炭素収率の関係
(処理時間 2.0 分)
図-6 処理温度と有機酸濃度の関係
の合計(-■-)では、最も有機酸炭素収率が高かったのは 308℃において 3.63%であったが、271℃においても 3.57%であ
り、処理温度 260~310℃の範囲では消化汚泥有機質炭素中で有機酸炭素として処理水中に溶解する炭素の収率はほと
んど変わらないと考えられる。各処理時間における有機酸炭素収率の合計(全有機炭素収率)と処理温度の関係を図-8 に
示した。全有機酸炭収率が最も高いのは処理時間 2.0 分の場合で、次いで 5.1 分、8.3 分の順であった。処理時間 2.0 分
の場合と同様に 5.1 分、8.3 分の場合も処理温度 260~310℃範囲では有機酸炭素収率はほとんど変わらないと思われる。
但し、処理時間 5.1 分、処理温度 308℃の場合に収率が高くなったのは、図-5 において酢酸の濃度が高かったためである
が、その理由は明らかではない。
4.0
0.014
3.5
0.012
3.0
濃 度 (mole/L)
全有機酸炭素収率 (%)
処理水中の Ca および P の濃度と処理温度の関係を図-9 に示した。Ca の濃度は何れの処理時間においても、処理温
2.5
2.0
1.5
1.0
0.010
0.008
0.006
0.004
0.002
0.5
0.0
0.000
200
220
240
260
280
300
320
340
200
220
240
5.0分
280
300
320
340
処理温度 (℃)
処理温度 (℃)
2.1分
260
Ca 2.0分
P 2.0分
8.3分
Ca 5.1分
P 5.1分
Ca 8.3分
P 8.3分
図-9 処理温度と Ca およびPの濃度の関係
図-8 処理温度と全有機酸炭素収率の関係
62
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
度が高くなるのに従って減少する傾向がみられた。処理時間 2.0 分と 8.3 分では処理温度が 289℃以下では処理時間 2.0
分の方が濃度は高いがそれ以上の処理温度ではほとんど変わらないと思われる。処理時間 5.1 分では 289℃以下の処理
温度において他と比較して濃度がかなり高くなったこと、および処理温度 209℃において減少した原因は不明である。P の
濃度も Ca と同様に、何れの処理時間においても処理温度が高くなるのに従って減少する傾向がみられ、処理時間 2.0 分と
8.3 分を比較すると全処理温度域で処理時間 8.3 分において濃度は低くなっている。P の濃度においても Ca の濃度と同様
に処理時間 5,1 分の場合に他より高くなった。処理水中の Ca と P は BTX への変換工程において使用する触媒を被毒す
るので処理水中のこれら元素の濃度は少ない方が望ましい。本結果では、処理温度が高いほどこれらの元素濃度は低くな
っており、可能な限り処理温度を高く設定するのが良いと思われる。
消化汚泥のみのスラリーの亜臨界水処理を行い、得た処理水中の TOC および TN、有機酸生成量、Ca および P の濃度
の分析を行い、処理温度、処理時間等の処理条件による水可溶化挙動を検討した結果、BTX 等の石油製品化に適した処
理時間は約 2 分、処理温度は約 300℃であると考えられる。
有機廃棄物を BTX 等の石油製品に変換するためには、処理水中の有機酸濃度が高いことが望ましいので、亜臨界水
処理において有機酸濃度を高くするために過酸化水素水の添加を試みた。過酸化水素水添加条件下における有機系廃
棄物の水可溶化に関連する「引用文献 1.」によれば過酸化水素水の添加は有機廃棄物の低分子化に有効としているが、
生成物質については検討されていない。また、「引用文献 2.」によれば、回分式処理法による有機廃棄物の亜臨界水処理
において、過酸化水素水の添加により蟻酸、酢酸等の有機酸の生成量は増加するとされている。まず、固形物濃度約
10%の消化汚泥スラリー100g に対して過酸化水素水(濃度 30%)を0~61ml の範囲で添加して、過酸化水素水添加効果
および添加量と消化汚泥の水可溶化挙動の関係を処理温度 293℃で検討した。この場合、消化汚泥スラリー送入量を一
定としたので、過酸化水素水を注入することにより管式反応部での試料の流速が速くなり、処理時間は一定とはなっていな
い。処理時間は過酸化水素水無添加の場合で 5.1 分、過酸化水素水を 61ml 添加した場合は 3.1 分となった。過酸化水素
水添加量と処理水中の TOC および TN の関係を図-10 に示した。TOC および TN は過酸化水素水添加量の増加と共に
減少している。しかしながら、過酸化水素水の添加によってスラリーは希釈されるので、TOC および TN の変化より可溶化
挙動におよぼす過酸化水素水の添加効果を評価することは困難である。そこで、過酸化水素水の添加効果を評価するた
めに、過酸化水素水による希釈を考慮して生成した TOC および TN を求め、過酸化水素水無添加の場合を基準として、
過酸化水素水添加量と TOC および TN の生成量比との関係を図-11 に示した。TOC は過酸化水素水添加量の増加と共
に若干増加し、その後減少する傾向がみられた。これは炭素が過酸化水素水によって酸化され二酸化炭素として系外に
1.2
1.4
1.0
1.2
0.8
生成量比 (-)
濃 度 (mole/L)
放出されたためと思われる。TOC は過酸化水素水の添加量が約 20ml までは無添加の場合よりも増加することと、TN は過
0.6
0.4
0.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
0
10
20
30
40
50
60
0
20
30
40
50
60
過酸化水素添加量(ml/100gスラリー)
過酸化水素水添加量(ml/100gスラリー)
TOC
10
TOC
TN
図-10 過酸化水素水添加量と TOC および TN の関係
(処理温度:293℃)
TN
図-11 過酸化水素水添加量と TOC および TN
の生成量比の関係 (処理温度:293℃)
酸化水素水添加量が 20~30ml までは増加し、それ以上の添加量ではほぼ一定なっていることより、過酸化水素水の添加
によって消化汚泥の水可溶化が促進されていると考えられる。固形物濃度約 10%の消化汚泥スラリー100g に対して過酸
63
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
化水素水添加量が約 30ml までは TOC 生成量は無添加の場合とほとんど変わらず、有機酸の生成量等に効果が認められ
れば過酸化水素水の添加は有効であるといえる。
過酸化水素水添加量と処理水中の有機酸濃度の関係を図-12 に示した。過酸化水素水の添加によって各有機酸とも
に濃度は高くなっている。濃度が最も高いのは酢酸であり、次いで蟻酸であった。処理水は過酸化水素水の添加によって
希釈されており、TOC および TN と同様に濃度の変化から過酸化水素水の添加効果を評価するのは困難であるので、各
有機酸の生成量を求め、過酸化水素水無添加の場合を基準として過酸化水素水の添加量と各有機酸の生成量比の関係
を求め図-13 に示した。何れの有機酸も過酸化水素水の添加量がスラリー100g に対して 53ml までは増加しており、過酸化
8.0
0.06
7.0
0.05
生成量比(-)
濃 度 (mole/L)
6.0
0.04
0.03
0.02
5.0
4.0
3.0
2.0
0.01
1.0
0.0
0.00
0
10
20
30
40
50
0
60
10
蟻酸
酢酸
20
30
40
50
60
過酸化水素水添加量(ml/100gスラリー)
過酸化水素水添加量(ml/100gスラー)
蟻酸
乳酸
酢酸
乳酸
図-13 過酸化水素水添加量と有機酸生成量比の関係
(処理温度:293℃)
図-12 過酸化水素水添加量と有機酸濃度の関係
(処理温度:293℃)
水素添加は有機酸の生成に有効であることは明らかである。 特に生成量の増加が著しいのは蟻酸であり、過酸化水素水
添加量が 53ml の場合に無添加の場合に比較して 6.1 倍となった。また、酢酸は 3.8 倍、乳酸は 1.9 倍となった。プロピオン
酸も若干検出された。
過酸化水素水添加量と処理水中の Ca および P の濃度の関係を図-14 に示した。また TOC と TN および有機酸生量と
同様に過酸化水素水による希釈を考慮して各元素の溶解量を求め、過酸化水素水無添加の場合を基準として過酸化水
素水添加量と溶解量比の関係を図-15 に示した。Ca については、過酸化水素水の添加量が約 20ml までは溶解量が増加
し、それ以上の添加量ではほとんど変化しないと思われる。過酸化水素添加量 22ml の場合の Ca の濃度は 0.0022mole/L
0.007
3.5
0.006
3.0
0.005
2.5
溶解量比 (-)
濃 度 (mole/L)
であり、無添加の場合と比較して 2.45 倍であった。P については、添加量が約 20ml までは溶解量はほとんど変化しない
0.004
0.003
2.0
1.5
0.002
1.0
0.001
0.5
0.0
0.000
0
10
20
30
40
50
0
60
過酸化水素水添加量(ml/100gスラリー)
Ca
10
20
30
40
50
60
過酸化水素水注入量(ml/100gスラリー)
Ca
P
P
図-14 過酸化水素水添加量と Ca および P の濃度の関係
(処理温度:293℃)
図-15 過酸化水素水添加量と Ca および P の溶解量比
(処理温度:293℃)
64
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
が、それ以上の添加量では増加する傾向がみられる。過酸化水素水添加量 22mlの場合の濃度は 0.0041mole/L であり、
無添加の場合と比較して 1.28 倍であった。図-14 および図-15 に示したように過酸化水素添加量に対して溶解量が変化す
る理由については明らかではない。これらの元素が BTX への変換工程で使用する触媒の被毒物質であることから溶解量
の増加は好ましくないが、何れも濃度は低く約 20~30ml の添加であれば影響はほとんどないと思われる。
以上の結果より、固形物濃度約 10%の消化汚泥スラリー100g に対して過酸化水素水添加量を 20~30mlとすれば、
TOC および TN と P の溶解量にはほとんど影響を与えず、有機酸の生成量増加には有効であり、Ca の溶解量が増加する
点では若干好ましくないが濃度はそれほど高くないので、総合的には過酸化水素水の添加は有効であると考えられる。
過酸化水素水の添加は消化汚泥の水可溶化に有効であることが明らかとなったので、固形物濃度約 8%の消化汚泥ス
ラリー100g に対して過酸化水素水(濃度 30%)を 25ml 添加し、処理温度 243℃、276℃、297℃において処理時間 1.2 分、
3.0 分、4.2 分、5.9 分として、過酸化水素水を添加した場合の消化汚泥の水可溶化挙動におよぼす処理温度、処理時間
80
1.2
水可溶性有機炭素収率 (%)
1.1
濃 度 (mole/L)
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
70
60
50
40
30
20
10
0.1
0.0
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
0.0
1.0
2.0
処理時間 (分)
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
処理時間 (分)
TOC 243℃
TOC 276℃
TOC 297℃
TN 243℃
TN 276℃
TN 297℃
243℃
図-16 処理時間と TOC および TN の関係
276℃
297℃
図-17 処理時間と水可溶性有機炭素収率の関係
の影響を検討した。図-16 に各処理温度における処理時間と TOC および TN の関係を示した。TOC は、処理時間 4.2 分
以下では処理温度 243℃の場合に最も高く、276℃と 297℃では大差はないと思われる。処理温度 297℃では処理時間 3.0
分で TOC は他の処理時間より減少しているが、全体の傾向としては処理時間が長くなるのに従って TOC は減少しており、
これは処理時間、処理温度等の処理条件が厳しくなるのに従ってと二酸化炭素生成量が多くなるためであると考えられる。
最も TOC が高かったのは処理温度 243℃、処理時間 1.2 分の場合で 1.08mole/L であった。TN については、処理温度、
処理時間の影響はほとんどみられない。窒素は主とし
0.07
て消化汚泥中のタンパク質由来であると考えられるが、
0.06
不溶な物質への変化あるいは二次分解等によって系
外に排出されないと考えられる。最も TN が高かった
のは処理温度 243℃、処理時間 4.1 分の場合で 0.29
mole/L であった。図-16 に示した結果より、水可溶性
濃 度 (mole/L)
一旦溶解した窒素化合物は本処理条件下では水に
0.05
0.04
0.03
0.02
有機炭素収率を求め、処理時間と水可溶性有機炭素
0.01
収率の関係を図-17 に示した。処理時間と水可溶性
0.00
有機炭素収率の変化の関係は図-16 に示した処理時
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
処理時間 (分)
間と TOC の関係と同様である。水可溶性有機炭素収
蟻酸 243℃
酢酸 243℃
プロピオン酸 243℃
率が最も高かったのは、処理温度 243℃、処理時間
1.2 分の場合の 70.6%であり、最も低かったのは処理
蟻酸 276℃
酢酸 276℃
プロピオン酸 276℃
蟻酸 297℃ 酢酸 297℃
プロピオン酸 297℃
図-18 処理温度と各有機酸濃度の関係
温度 243℃、処理時間 5.9 分の場合で 55.5%であっ
65
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
た。以上より、処理条件の選択により消化汚泥有機質炭素の 60~70%を水可溶性有機炭素として処理水中に溶解させる
ことが可能であることがわかった。
処理時間と各処理温度における処理水中の蟻酸、酢酸等の有機酸濃度の関係を図-18 に示した。過酸化水素水無添
加の場合と同様に最も生成量が多いのは酢酸であり、次いで蟻酸であった。酢酸濃度は何れの処理温度においても処理
時間が約 3.0 分までは増加し、それ以上の処理時間ではほぼ一定となり、処理時間 5.9 分では若干減少する傾向がみられ
る。酢酸濃度に対する処理時間の影響としては、処理温度 243℃の場合が他と比較較して若干濃度が低いと思われるが、
276℃と 297℃ではほとんど同じである。特に処理時間 5.9 分では何れの処理温度においても濃度はほぼ同じであった。酢
酸濃度が最も高かったのは処理温度 276℃、処理時間 4.2 分の場合で 0.064mole/L であった。蟻酸濃度に対する処理温
度の影響としては、各処理時間において処理温度が低いほど濃度は高くなっている。処理温度 243℃では、処理時間が長
くなるのに従って濃度は高くなり、処理時間 3.0~4.0 分で最大となり、さらに処理時間を長くすると減少している。一方、処
理温度 276℃および 297℃では処理時間が長くなるほど濃度は減少している。この傾向は過酸化水素水無添加の場合と
同様であり、過酸化水素水を添加した場合も処理条件が厳しくなるのに従って他の成分との反応あるいは分解によって濃
度が低くなったものと思われる。蟻酸濃度が最も高かったのは、処理温度 243℃、処理時間 3.0 分の場合で 0.034mol/L で
あった。プロピオン酸濃度は非常に低く、処理温度 297℃の場合に若干増加したが処理条件の影響はほとんどみられなか
った。前述の過酸化水素水の添加量を変えた実験では乳酸が検出されたが本シリーズの実験ではほとんど検出されなか
12
12
11
11
10
10
9
9
全有機酸炭素収率 (%)
有機酸炭素収率 (%)
ったのは疑問であるが、何れにしろ濃度は非常に低く、主な生成有機酸は蟻酸と酢酸である。消化汚泥中の有機質炭素
8
7
6
5
4
3
8
7
6
5
4
3
2
2
1
1
0
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
0 .0
1 .0
2 .0
処理時間 (分)
蟻酸
プロピオン酸
3 .0
4 .0
5 .0
6 .0
7 .0
処理時間 (分)
酢酸
合計
243℃
図-19 処理時間と有機酸炭素収率
(処理温度:276℃)
0.009
0.008
時間と各有機酸炭素収率と有機酸炭素収率の合計(-■
0.007
た。各処理温度における処理時間と全有機酸炭素収率
濃 度 (mole/L)
め、有機酸炭素収率とし、処理温度 276℃の場合の処理
最も高かったのは処理時間 4.2 分の場合で 9.70%であっ
297℃
図-20 処理時間と各処理温度における
全有機酸炭素収率の関係
のうち有機酸炭素として処理水中に溶解した炭素量を求
-)の関係を図-19 に示した。有機酸炭素収率の合計が
276℃
0.006
0.005
0.004
0.003
の関係を図-20 に示した。全有機酸炭素収率は処理時
0.002
間 3.0~4.0 分までは徐々に増加し、それ以上の処理時
0.001
間ではほぼ一定となる傾向がみられた。また処理温度
0
0.0
297℃では他の処理温度より収率は低い傾向にあるが、
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
処理時間 (分)
243℃と 276℃において処理時間 3.0 分以上では処理温
度の影響は少ないと思われる。各処理温度で最も全有
Ca 243℃
Ca 276℃
Ca 297℃
P 243℃
P 276℃
P 297℃
図-21 処理時間と Ca および P の濃度の関係
機酸炭素収率が高かったのは、243℃では 3.0 分の場合
66
7.0
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
で 9.56%、276℃では 4.2 分の場合で 9.70%、297℃では 4.2 分の場合で 8.78%であった。過酸化水素水無添加の場合で
は、最も高い全有機酸炭素収率は 3.63%であったので、過酸化水素水を添加することにより全有機酸炭素収率は約 2.7 倍
に増加した。
処理時間と処理水中の Ca および P の濃度の関係を各処理温度について図-21 に示した。Ca 濃度に対する処理温度の
影響としては、処理時間 3.0 分までは処理温度が低いほど濃度は高くなったが、処理時間が 5.9 分では処理温度による差
はみられない。この結果から過酸化水素水無添加の場合と同様に、Ca は処理条件が厳しくなるのに従って他の成分と反
応して水不溶性の物質に変化すると考えられるが詳細は明らかではない。Pの濃度については、処理温度 243℃の場合に
処理時間 4.2 分までは他の処理温度の場合よりも高くなったが、処理時間 5.9 分では各処理温度でほぼ同じとなった。P の
濃度に対する処理時間の影響は、処理温度 243℃では若干みられるが、276℃と 297℃ではほとんどみられない。
以上の結果より、過酸化水素水を添加して亜臨界水処理により消化汚泥を水可溶化する処理条件としては、処理温度
260~270℃、処理時間 4~5 分が適当であると考えられる。
Ⅰ期において回分式処理法によって古紙の糖化を検
1.4
討し、炭酸カルシウム含有量の多い古紙では糖の生成
1.2
は困難であることを明らかにしたが、炭酸カルシウム含有
たことから、Ca は有機酸の生成を促進すると思われたの
で、消化汚泥に水酸化カルシウムを添加して回分式処
1.0
濃度比 (-)
量の増加と共に有機酸生成量が増加する傾向がみられ
0.8
0.6
0.4
理法による亜臨界水処理を処理温度 225℃、処理時間
15 分で行い、処理水中の酢酸および P の濃度を測定し、
0.2
無添加の場合を基準として図-22 に示した。酢酸の生成
0.0
0
量は水酸化カルシウム添加量の増加と共に増加する傾
2
4
6
8
10
12
水酸化カルシウム添加量 (g/100g 消化汚泥固形分)
向がみられ、消化汚泥においてもカルシウム塩の添加は
酢酸
有機酸生成量の増加に効果があることが確認できた。さ
P
図-22 水酸化カルシウム添加量と酢酸およびPの
濃度比の関係
らに、P の濃度は水酸化カルシウムの添加により顕著に
減少した。Ca は BTX 変換工程で使用する触媒の被毒物質であるのでその添加は好ましくないが、有機酸の生成量を増加
させ、P の濃度を減少させる効果があることがわかった。
タンパク質や脂質を多く含む厨芥ゴミのモデルとしてドッグフードの亜臨界水処理による水可溶化挙動を回分式処理法
によって検討した。過酸化水素水無添加で処理温度 275℃において TOC およびTN におよぼす処理時間の影響を検討し
た結果を図-23 に示した。ドッグフードの分解は消化汚泥と同様にかなり速く、TOC は処理時間 2 分でほぼ最大に達してい
ると思われるが、処理時間が長くなるのに従って減少が著しくなる傾向がみられ、この点では消化汚泥と異なると思われる。
4.0
0.06
3.5
0.05
濃 度 (mole/L)
濃 度 (mole/L)
3.0
2.5
2.0
1.5
0.04
0.03
0.02
1.0
0.01
0.5
0.00
0.0
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
1.0
5.0
処理時間 (分)
TOC
1.5
2.0
2.5
3.0
3.5
4.0
4.5
処理時間 (分)
蟻酸
TN
酢酸
乳酸
図-24 処理時間と有機酸濃度の関係
(処理温度:275℃)
図-23 処理時間と TOC および TN の関係
(処理温度:275℃)
67
5.0
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
一方、TNに対しては処理時間の影響がほとんどみられないことは消化汚泥と同様である。処理水中の有機酸濃度と処理
時間の関係を図-24 に示した。処理時間が長くなるのに従って有機酸の濃度は高くなっており、消化汚泥では処理時間が
長くなるのに従って酢酸生成量は増加し、蟻酸生成量は減少する傾向にあったのと異なる点である。また、蟻酸の生成量
が酢酸の生成量よりも多く、消化汚泥とは逆になっていることも特徴である。厨芥ゴミの亜臨界水処理に関連する「引用文
献 3.」によれば、繊維質に富む厨芥ゴミのモデルとしたラビットフードも亜臨界水処理により水可溶化が可能であり、有機酸
の生成もみられると述べられている。濃度 5%に調製した過酸化水素水を用いて 275℃でドッグフードを亜臨界水処理し、
TOC に対する処理時間の影響を検討した結果を図-25 に示した。過酸化水素水を用いた場合は図-23 に示した水のみの
場合と比較して最大値はほとんど変わらないが分解は速くなっており、処理時間約 0.7 分で TOC は最大となり、処理時間
が長くなるのに従って減少している。図-26 に処理時間と有機酸濃度の関係を示した。蟻酸の濃度は TOC が最大となる処
理時間で最大となり、酢酸の濃度は処理時間が長くなるのに従って増加している。プロピオン酸および乳酸はほとんど生成
0.25
4.0
3.5
0.20
濃度 (mole/L)
濃 度 (mole/L)
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.15
0.10
0.05
0.5
0.0
0.00
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
3.0
処理時間 (分)
処理時間 (分)
蟻酸
酢酸
図-26 処理温度と有機酸濃度の関係
(処理温度:275℃ 過酸化水素水濃度:5%)
図-25 処理時間と TOC の関係
(処理温度:275℃ 過酸化水素水濃度:5%)
しなかった。図-24 に示した水のみの結果と比較すると明らかに有機酸の生成量は増加しており、ドッグフードにおいても
過酸化水素水の添加は有機酸の生成に有効であることがわかった。ディスポーザーを用いて厨芥ゴミを直接下水道に投
棄する場合は、全て下水処理場で処理され最終的には消化汚泥として排出されることになるが、タンパク質や脂肪に富む
都市ゴミも亜臨界水処理によって水可溶化可能であり、さらに過酸化水素水を添加することによって有機酸の生成量を増
加させることができることを明らかにした。
■考 察
有機系都市ゴミを高濃度スラリーとして亜臨界水処理により大量に水可溶化し、さらに有機酸の生成量を増加させるため
の有機廃棄物用亜臨界水処理装置を開発するために、第Ⅰ期で試作したスラリー流通式(連続式)処理装置をベースとし
て改造を行った。高濃度スラリーは高粘度でもあるので吐出圧の高いスラリー循環ポンプの採用とピストンポンプから管式
反応部へスラリーを送入するためのモーターのトルク増強を行い、さらに酸化剤を注入するための高圧注液ポンプと酸化
剤貯槽の増設を行った。本装置を用いて、固形物濃度約 10%のスラリーを安定して亜臨界水処理可能であることを確認し
た。本装置はピストンポンプが単連であるため、ピストンポンプでスラリーを吸引中は管式反応部にスラリーが滞留する。滞
留時間をできるだけ短くするためにピストンポンプによるスラリーの吸入を高速で行うように製作したが、管式反応部でのス
ラリーの滞留を防ぐためにはピストンポンプを二連以上にする必要がある。またスラリー中に繊維質が混入するとスラリー輸
送ラインの閉塞が起きることがあったが、フィルターの設置や大口径の管を使用することによって解決できると思われる。本
装置を用いて、消化汚泥を対象として酸化剤である過酸化水素水無添加および過酸化水素水添加条件下における水可
溶化挙動におよぼす処理温度および処理時間の影響を検討し、過酸化水素水無添加条件下では、処理温度は約 300℃、
処理時間は約 2 分が適当であることを明らかにし、さらに過酸化水素水添加条件下では処理温度は 260~270℃、処理時
68
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
間は 4~5 分が適当であることを明らかにした。過酸化水素水の添加は無添加の場合と比較して有機質の分解を促進し若
干 TOC を減少させるが、処理条件を選択することにより有機酸の生成量を大幅に増加させることも明らかにした。また、
BTX への変換に用いる触媒の被毒物質である Ca および P の溶解挙動についても明らかにした。また、回分式処理により
タンパク質や脂肪に富む厨芥ゴミの水可溶化挙動についての基礎データの取得も行った。以上により、有機廃棄物用亜
臨界水処理装置により高濃度な有機廃棄物スラリーの連続亜臨界水処理による水可溶化が可能であることを確認し、処理
水中の溶解物質の挙動について明らかにすることにより、有機廃棄物の石油製品化に最適な処理条件を明らかにした。
■ 引用文献
1.
S.Jomaa, A.Shanableh, W.Khalil, B.Trebilco:「Hydrothermal decomposition and oxidation of the organic component of
municipal and industrial waste products」,Advances in Environmental Research,7,647,(2003)
2.
Armando T. Quitain, Muhammad Faisal, Kilyoon Kang, Hiroyuki Daimon, Koichi Fujie:「Low-molecular-weight
carboxylic acids produced from hydrothermal treatment of organic wastes 」 , Journal of Hazardous
Materials,B93,209,(2002)
3.
Motonobu Goto, Ryusaku Obuchi, Tsutomu Hirose, Tsuyoshi Sakaki, Masao Shibata:「Hydrothermal conversion of
municipal organic waste into resources」,Bioresource Technology,93,279,(2004)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
山田則行,坂木 剛,柴田昌男,安田誠二,大塚雅志,木元洋一,迎 勝也:「加圧熱水による古紙の糖化に及ぼ
す炭酸カルシウムの影響」,日本エネルギー学会誌,81(5),328-336,(2002)
2.
山田則行,坂木 剛,柴田昌男:「加圧熱水による古紙の水可溶化特性と有機酸の生成」,日本エネルギー学会
誌,83(7),493-499,(2004)
口頭発表
応募・主催講演等
1.
山田則行,井出隆之,大松茂雄,熊谷 聡,坂木 剛,柴田昌男,三島健司:「消化汚泥の加圧熱水による水可溶
化」,神戸,化学工学会第 35 秋季年会,2002.9.18.
2.
坂木 剛,柴田昌男,山田則行:「消化汚泥のスラリー流通式反応装置による水可溶化」,東京,化学工学会第 68
年会,2003.3.25.
3.
柴田昌男,坂木 剛:「バイオマス有効利用のために加圧熱水処理」,佐賀,産業技術連携推進会議資源・エネ
ルギー・環境部会平成 15 年度合同分科会研究発表会,2003.11.7.
4.
坂木 剛,山田則行,柴田昌男「汚泥の石油製品化のための水熱前処理」,熊本,第 2 回バイオマスワーキングセ
ッション,2004.2.23.
5.
山田則行,坂木 剛,柴田昌男「有機廃棄物の加圧熱水による水可溶化」,大阪,化学工学会第 69 年
会,2004.4.3.
69
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.2. 亜臨界条件下における有機廃棄物の可溶化
中央大学理工学部
船造 俊孝
■要 約
下水消化汚泥を有用物質に変換する資源化技術において、その前段プロセスである汚泥の可溶化・有機酸への変換
工程について、回分式反応装置および流通式反応装置を用いて、亜臨界水条件下で下水消化汚泥を可溶化できることを
示し、溶出有機炭素量に及ぼす可溶化条件の影響を明らかにした。また、流通式反応器を用いて、可溶化速度、脱窒素
速度、アンモニア生成速度を求めた。さらに、下水消化槽への生ゴミ直投の場合も想定し、生ゴミの亜臨界条件下における
可溶化条件を明らかにした。
■目 的
表1. 試料の組成
資源として低品位の廃棄物である汚泥から、高品位の有用物質に変換する工程に
おいて、その反応性の向上やハンドリングのために含水率の高い固体である汚泥を、
亜臨界条件下において可溶化させることを目的とする。最適可溶化条件を求めるとと
もに、後段の有機酸など高付加価値物質への変換工程における阻害物質であるア
ンモニアを主とする含窒素化合物の可溶化反応条件下での挙動を調査研究する。
■ 研究方法
1) 用いた試料
可溶化試料として、汚泥については(1) 凝集沈殿消化汚泥と、比較のために (2)
凝集沈殿前の消化汚泥水を、また、実際の(3)生ゴミを用いた。試料(1)(2)は北九州市
環境科学研究所より入手し、(3)は九州工業大学白井教授より提供されたものである。
これらの組成を表1に記す。
(1) 凝集沈殿汚泥
含水率 81 wt%
乾燥固体の元素分析値
C 30.29 %
H 5.05
N
5.40
(3) 汚泥水溶液
含水率 99.3 wt%
有機酸の濃度 320 ppm
酢酸濃度 0 ppm
プロピオン酸濃度 0 ppm
凍結乾燥固体中の元素分析値
C
30.29 wt%
H
5.05
C
5.40
(3) 生ゴミ
炭水化物
43 wt%
タンパク質
19
野菜。果実類 38
2) ボールミルによる微粉化
13
99.99
平均
中央値
12
99
積算個数 %
11
円相当径 μm
未処理
30分
60分
90分
99.9
10
9
8
7
95
90
80
70
50
30
20
10
5
1
6
5
.1
0
50
100
150
.01
200
1
10
100
500
粒径[μm]
処理時間[min]
図-1 ボールミル粉砕における粒径と処理時間との関係
図-2 処理時間による粒径分布変化(対数正規分布)
70
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
可溶化による汚泥性状との比較のため、ボールミルによる汚泥の微粉化実験を行った。容積3Lのステンレス製ボールミ
ルに脱水凝集沈殿汚泥 40g と蒸留水 100 mL を入れ、回転数 90 rpm で所定時間処理した。処理後、多量の水中にボール
ミルで処理した少量の汚泥を分散させ、これをスライドグラスに取り、スコープで撮影し、画像処理ソフトで粒度分布を算出
した。また、残りの処理汚泥は遠心分離機にかけた後、吸引ろ過し固形分を除去後、全有機炭素計で溶液中の有機炭素
量を測定した。
図-1 にはボールミル粉砕による粒子径と処理時間とのプロットを示す。処理時間の増加とともに汚泥粒子の円平均相当
径は減少するが、処理時間 50 分以降での粒径の減少はわずかであった。15 分の処理時間で平均径は約 12μm、50 分で
は約 9μm、90 分で 8μm でこれ以上ほとんど粒子径は低下しなかった。図-2 には図-1 の試料についての粒径分布を示
0.025
(a)
0.3
IC(t) [g/g-C in initial sludge]
TOC(t) [g/g-C in initial sludge]
す。どの処理時間における汚泥粒子の粒径分布も対数正規分布で近似できた。
0.2
0.1
0
0
50
100
150
時間 [min]
(b)
0.02
0.015
0.01
0.005
0
0
200
50
100
時間 [min]
150
200
図-3 ボールミル粉砕における (a) 全有機炭素溶出量 TOC(t) および (b) 無機炭素溶出量 IC(t)の経時変化
図-3 は溶液中の(a)全有機炭素溶出量と(b)無機炭素溶出量の経時変化を示す。有機炭素および無機炭素とも処理時
間の増加に伴って、その溶出量は増大している。ボールミル処理だけでも処理時間 15 分でおよそ 9%、180 分で汚泥中の
炭素の約 26%は可溶化されることがわかる。また、処理時間の増加とともに無機炭素(二酸化炭素)が発生し、15 分では初
めの汚泥中の炭素の約 0.6%が、180 分では約 2.2%が二酸化炭素として散逸された。
ポンプ
背圧弁
冷却水
冷却水
ポンプ
ポストカラム
酸化剤
蒸留水
溶融塩恒温槽
予熱カラム
反応器
図-4 流通式反応器
71
サンプリング
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
10
(a)
TOC
IC [100×g-C/g-C of sludge]
TOC [100×g-C/g-C of sludge]
100
80
60
40
20
0
0
10
Time [min]
4
2
0
10
Time [min]
20
4
Acetic acid
(c)
Formic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
Acetic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
(b)
6
0
20
4
3
2
1
0
IC
8
0
10
Time [min]
Formic acid
3
2
1
0
20
(d)
0
10
Time [min]
20
10
Total organic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
Total organic acid
(e)
473 K
523
573
603
623
8
6
4
2
0
0
10
Time [min]
20
図-5 酸化剤無添加における各収率の積算値の経時変化:
(a) 全有機炭素溶出量, (b) 無機炭素溶出量, (c) 酢酸収率,(d) ギ酸収率, (e) 有機酸合計収率
3) 汚泥の可溶化
凝集沈殿汚泥についての可溶化実験は容積 3.6 mL の回分式反応器と、図-4 に概略図を示す半回分流通式反応器を
用いて行った。流通式反応器においては、0.5g の脱水汚泥試料を室温のステンレス製反応管(内容積 3 mL)に仕込んだ。
時間ゼロでこの反応器を予め設定温度に保たれている溶融塩浴に入れ、それと同時に溶媒(蒸留水あるいは各種濃度の
過酸化水素水溶液)をポンプで反応器に供給した。溶融塩浴の温度は温度制御装置により±2K 以内の精度で制御され
ている。可溶化実験とは別に、同じ大きさ・形状の反応器内に設置された熱電対により反応器内の温度を直接測定したとこ
ろ、反応器を溶融塩浴に投入してから1分以内で反応器内の流体温度は設定値に到達した。反応器出口には室温の蒸留
72
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
IC [100×g-C/g-C of sludge]
TOC [100×g-C/g-C of sludge]
100
(a)
TOC
80
60
40
20
0
0
10
Time [min]
0
0
10
Time [min]
20
10
Acetic acid
(c)
Formic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
Acetic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
(b)
5
20
20
10
0
IC
10
0
10
Time [min]
Formic acid
6
4
2
0
20
(d)
8
0
10
Time [min]
20
Total organic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
20
Total organic acid
473 K
523
573
603
(e)
10
0
0
10
Time [min]
20
図–6 3% 過酸化水素水溶液の場合について、各収率の積算値の経時変化、
(a) 全有機炭素溶出量、(b) 無機炭素溶出量、(c) 酢酸収率、(d) ギ酸収率、(e)有機酸合計収率
水を加えて反応溶液の温度を低下させ、さらにクーラージャケットにより冷却し、反応を停止させた。系内の圧力は背圧弁
により±0.1 MPa の精度で 10 MPa 一定に保たれている。背圧弁から溶出される反応液を所定間隔で分収し、イオンクロマト
グラフにより有機酸を、キャピラリー電気泳動装置により窒素化合物を、有機炭素計により溶出炭素量を、溶出成分の全窒
素量を全窒素計で測定した。
図-5 に流量 2 mL/min で、酸化剤無添加における溶出液の全有機炭素量 TOC と無機炭素溶出量、生成した酢酸収率、
ギ酸収率、有機酸合計収率についてのそれぞれの積算値の経時変化を示す。反応温度は 473 K では有機炭素は溶出す
るが酢酸は全く生成しておらず、他の有機酸であるギ酸やプロピオン酸も生成していなかった。温度が 523K になると有機
炭素も 473K より速く溶出し、酢酸も生成している。しかし、その生成量は汚泥中の炭素の 1%程度とわずかである。573K ま
73
100
10
IC [100×g-C/g-C of sludge]
TOC [100×g-C/g-C of sludge]
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(a)
TOC
80
60
40
20
0
0
10
Time [min]
IC
6
4
2
0
20
(b)
8
0
10
Time [min]
20
Acetic acid
10
Formic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
Acetic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
6
(c)
5
0
0
10
Time [min]
3
2
1
0
10
Time [min]
20
Total organic acid yield
[100×g-C/g-C of sludge]
(d)
4
0
20
Formic acid
5
Total organic acid
20
1%
5%
10%
(e)
10
0
0
10
Time [min]
20
図-7 各収率に及ぼす過酸化水素濃度の影響、
(a) 全有機炭素溶出量、(b) 無機炭素溶出量、(c) 酢酸収率、(d) ギ酸収率、(f) 有機酸合計収率
では反応温度の上昇とともに溶出炭素量と酢酸生成量は増大するが、さらに反応温度を上昇させると溶出炭素収率は低
下し、分解が進行しているのがわかる。しかし、温度の上昇とともにより短い時間で汚泥は可溶化し、有機酸は生成してい
る。酸化剤無添加の場合、623K で酢酸収率は最大値を示し、初めの汚泥試料の炭素基準で 2.5%に相当する。酸化剤を
添加しなくても、ごくわずか有機酸は生成する。無機炭素量については温度の上昇とともに増大し、623K で最高 6.5%であ
った。酸化剤を添加しない場合、全有機酸収率の合計は最大 7%であった。
図-6 に 3%過酸化水素水溶液を 2mL/min で供給した場合の各温度における(a)全有機炭素溶出量、(b)無機炭素溶出量、
(c) 酢酸収率、(d)ギ酸収率、(e) 有機酸合計収率についてのそれぞれの積算値の経時変化を示す。過酸化水素無添加
の場合と異なり、有機炭素量は 523K で最大で、酢酸収率は 473K で最大の 14%を得た。有機酸合計収率では酸化剤無添
74
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
100
(a)
TOC
80
NO3 yield
[100 x g-N/g-N of sample]
TOC
[100 x g-C/g-C of sample]
100
60
40
20
0
0
5
10
(b)
NO3
80
60
40
20
0
15
0
5
Time [min]
NO2
80
NH4 yield
[100 x g-N/g-N of sample]
NO2 yield
[100×g-N/g-N of sludge]
15
100
(c)
60
40
20
0
5
10
(d)
NH4
80
60
40
20
0
15
0
5
Time [min]
15
(e)
80
60
40
20
0
5
10
Unknown N
[100×g-N/g-N of sludge]
100
Total N
0
10
Time [min]
100
Nitrogen recovered
[100 x g-N/g-N of sample]
10
Time [min]
100
0
453 K
493 K
533 K
15
Unknown N
50
0
0
Time [min]
(f)
5
10
15
Time [min]
図-8 酸化剤無添加における全有機炭素量と各種窒素化合物収率の積算値の経時変化。
(a)全有機炭素量、(b) NO3-イオン、(c) NO2-イオン、(d) NH4+イオン、(e) 窒素バランス、(f) 未同定窒素化合物収率
加の場合と比べて収率は大幅に増加し、また有機酸のなかで酢酸の割合が多かった。ギ酸は溶融した有機炭素量が最大
値を示す 523K で 2%程度の収率を得たが、ギ酸は分解されやすく、それ以上の温度では生成が確認されなかった。酸化剤
存在下では 473K において汚泥中の炭素の約 10%が無機炭素に変換されている。
図-7 には温度 523 K において、過酸化水素濃度を種々変えた場合の (a) 全有機炭素溶出量、(b) 無機炭素溶出量、
(c) 酢酸収率、(d) ギ酸収率、(e) 有機酸合計収率の各積算値の経時変化を表す。全有機炭素量は酸化剤濃度が 1%と 5%
の場合はほぼ同じで70%程度であるが、10%と濃くなると急激にTOC量は減少する。過酸化水素濃度 1%では溶出有機炭素
量が多いが、無機炭素量はそれほど増加していない。酢酸収率は過酸化水素濃度の上昇に伴い増加している。また、加
熱時間 5 分以内で酢酸の生成がほぼ終了していることがわかる。ギ酸は酸化剤存在下で分解されやすく、過酸化水素濃
度の増加に伴って、収率は減少している。有機酸合計収率では過酸化水素濃度の増加に伴い増加している。
図-8 には酸化剤無添加の場合の全有機炭素溶出量と窒素化合物の収率の経時変化を表す。窒素化合物のうち、測定
75
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
50
(a)
TOC
80
NO3 yield
[100 x g-N/g-N of sample]
TOC
[100 x g-C/g-C of sample]
100
60
40
20
0
0
5
10
(b)
NO3
40
30
20
10
0
15
0
5
Time [min]
15
100
(c)
NO2
40
NH4 yield
[100 x g-N/g-N of sample]
NO2 yield
[100×g-N/g-N of sludge]
10
Time [min]
50
30
20
10
0
453 K
493 K
533 K
0
5
10
(d)
NH4
80
60
40
20
0
15
0
5
Time [min]
10
15
Time [min]
(e)
100
50
0
0
5
10
Unknown N
[100×g-N/g-N of sludge]
Nitrogen recovered
[100 x g-N/g-N of sample]
100
Total N
(f)
Unknown N
50
0
15
0
5
10
15
Time [min]
Time [min]
図-9 5%過酸化水素水溶液の場合の全有機炭素量と各種窒素化合物収率の積算値の経時変化。
(a)全有機炭素量、(b) NO3-イオン、(c) NO2-イオン、(d) NH4+イオン、(e) 窒素バランス、(f) 未同定窒素化合物収率
できたのは、NO3-, NO2-, NH4+イオンであり、これらの物質の収率と、溶液中に溶解している窒素化合物を全窒素計によっ
て測定した。(f)に示す未同定窒素化合物収率は初めの汚泥試料の元素分析値から NO3-, NO2-, NH4+の窒素量合計との
差より算出した。酸化剤無添加で 493K において、もとの汚泥中に含まれる窒素のおよそ 90%程度が溶液中に溶出し、そ
のうち NO3-、NO2- 、NH4+は合せて 80%を占める。温度が高くなると NH4+収率は増加するが、NO2-は減少している。温度が
低いと溶出窒素量も少なく、未同定窒素化合物収率も多くなる。
図-9 は過酸化水素水を流通させた場合の全有機炭素溶出量と窒素化合物の積算値の経時変化を示す。明らかに酸化
剤存在下では NO3-、NH4+イオン収率が増加し、NO2-収率が低い。凡そ、汚泥中の含有窒素の約 50%が溶出していることが
わかる。酸化剤無添加の場合と比べて、ここで図-9(e)に示すように、溶出全窒素量が初めの汚泥試料中に含まれる値より
多くなる場合があるのは、汚泥試料の不均一さのためと考えられる。未同定窒素化合物収率は 20%以下である。酸化剤存
在下では 80-90%以上の窒素が溶出していることがわかる。
76
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-10 に凝集沈殿前の汚泥水の亜臨界処理をした場合の溶液中の有機炭素量と無機炭素量の関係を表す。図に示す
ように、酸化剤の有無にかかわらず、また、処理温度、時間によらず全有機炭素量の減少に伴い、無機炭素量が増加して
いることがわかる。従って、溶融している炭素質は反応条件が厳しくなるほど、つまりより温度が高く、反応時間が長く、酸化
剤濃度が高くなるほど分解が促進され、有機炭素は無機炭素に変換されていることがわかる。
8
260℃ 5%-H2O2 aq.
260℃ 10%-H2O2 aq.
IC/TOC
6
300℃ 5%-H2O2 aq.
300℃ 10%-H2O2 aq.
330℃ water
330℃ 1%-H2O2 aq.
330℃ 5%-H2O2 aq.
330℃ 10%-H2O2 aq.
4
360℃ 5%-H2O2 aq.
360℃ 10%-H2O2 aq.
2
0
0
0.0005
0.001
TOC [g]
図-10 酸化剤添加および無添加条件下における汚泥水について
無機炭素量と全有機炭素量との関係
10-1
(a)
TOC dissolution rate
10wt%-H2O2 aq.
-1
k [s ]
10-2
10-3
10-4
1.7
Water
1.8
1.9
2
2.1
-1
1000/T [K ]
10-1
2.3
10-2
(b)
(c)
kNH3 [s-1]
without oxidant
with 10 wt% H 2O2
kTN [s-1]
2.2
10-2
without oxidant
with 10 wt% H2O2
10-3
1.7
1.8
1.9
2
2.1
-1
1000/T [K ]
2.2
10-3
1.7
2.3
1.8
1.9
2
2.1
-1
1000/T [K ]
2.2
図-11 一次反応速度式と仮定した場合の 10%過酸化水素水溶液と蒸留水を流通させた場合の速度定数。
(a) 全有機炭素溶出速度、(b) 全窒素溶出速度、(c) アンモニア生成速度
77
2.3
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
4) 汚泥の可溶化速度、脱窒素速度、アンモニア生成速度
図-11 には酸化剤無添加と 10%の過酸化水素水を流通させた場合について、(a)全有機炭素可溶化速度、(b)脱窒素速
度、(c)アンモニア生成速度の速度定数についての Arrhenius プロットを示す。いずれの速度についても一次反応速度式で
近似でき、可溶化速度および脱窒素速度定数の温度依存性は類似している。酸化剤添加の場合、温度依存性は非常に
小さい。全有機炭素溶出速度定数の活性化エネルギーは、過酸化水素無添加の場合、42.1 kJ/mol、10%過酸化水素水の
場合、12.1 kJ/mol であった。全窒素溶出速度については、無添加の場合、36.7kJ/mol、10%過酸化水素水の場合、5.0
kJ/mol であった。また、アンモニア生成速度については水のみの場合、9.6 kJ/mol、10%過酸化水素水の場合、12.1
kJ/mol であった。酸化剤無添加と添加のそれぞれの場合について、全有機炭素溶出速度と全窒素溶出速度の活性化エ
ネルギーは近い値であるが、両者とも酸化剤の添加により大きく影響を受ける。しかし、アンモニア生成については酸化剤
の有無によっても両者の活性化エネルギーはほぼ同じであるが、酸化剤添加の場合、その速度は無添加の場合より約 50%
大きかった。なお、反応器の入口での過酸化水素濃度を測定したところ、いずれの反応条件でも過酸化水素は完全に分
解しており、反応器内には過酸化水素の形では導入されていないことがわかった。
5) 生ゴミ試料の可溶化
下水消化槽などに生ゴミの直投を想定して、消化汚泥同様、亜臨界水条件下において生ゴミの可溶化実験を回分式反
応器を用いて行った。
図-12 には酸化剤無添加の場合の(a)試料重量減少率、(b)全有機炭素溶出量、(c)アンモニア収率、(d) 全窒素溶出量
の経時変化を示す。生ゴミの固体試料は処理温度の上昇とともに重量減少率が増加し、可溶化率は温度に大きく依存す
ることがわかる。また、いずれの温度においても初期に可溶化が進み、その後、ゆっくりとした重量減少が進んでいる。一方、
有機炭素溶出量については、ほぼ処理温度の上昇とともに溶出量は増加しているが、試料重量減少ほど、温度依存性は
Sample weight loss [wt%]
100
Carbon eluted
[100×g-C/g-C of initial sample]
少なく、また、溶出量は反応時間が経過してもほとんど増加していない。また、酸化剤無添加の場合、アンモニア収率も酸
(a)
80
60
180 ℃
220
260
300
40
20
Water
0
0
5
10
80
60
40
180 ℃
220
260
300
20
0
0
5
Total nitrogen in soln
[100×g-N/g-N of initial sample]
Ammonia in soln
[100×g-N/g-N of initial sample]
80
(c)
Water
180 ℃
220
260
300
40
20
0
0
5
10
Time [min]
Time [min]
60
(b)
Water
10
100
(d)
80
60
40
180 ℃
220
260
300
20
Water
0
0
5
Time [min]
Time [min]
図-12 酸化剤無添加の場合の生ゴミ試料の可溶化結果。
(a) 固体重量減少率、 (b) 可溶化全有機炭素量、 (c) アンモニア生成量、 (d)溶出窒素量
78
10
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
化剤存在下と比べてはるかに少なく、初めの試料中に含まれる窒素の約 10%程度である。しかしながら、溶出する全窒素量
については、データのばらつきはあるものの 180℃を除いては 10 分経過すると 80%以上を示し、酸化剤がなくても、ほとんど
の窒素成分が溶液中に溶出することがわかった。
6) 含窒素化合物の亜臨界水処理
汚泥あるいは生ゴミとも亜臨界水処理により可溶化されるときに、アンモニアが発生する。特に、処理温度が高く、また酸
化剤存在下では窒素成分のかなりの部分がアンモニアに変換される。そこで、代表的な含窒素化合物の亜臨界水処理を
行い、その生成物と特にアンモニアの発生量と全有機炭素量との関係を調べた。反応器は図-4 に示す流通式反応器に長
さの異なるステンレス製(外径 1/16 および 1/8 インチ)管型反応器を取り付け、代表的な窒素化合物の水溶液を連続的に
反応管に供給することで、これら窒素化合物の亜臨界水条件下での分解反応を行った。用いた窒素化合物としてアセトア
ミド、ホルムアミド、尿素、2-アミノエタノールを用い、過酸化水素を酸化剤として、実験条件(温度、滞留時間、酸化剤の有
無、塩濃度)が生成物収率に及ぼす影響を調べた。
図-13(a)にはアセトアミドについて 340℃における生成物収率と滞留時間との関係を示す。アセトアミドは亜臨界水中で
容易に分解して、酢酸、アンモニア、二酸化炭素が生成する。いずれの滞留時間においても全有機炭素量と酢酸収率が
ほぼ同じことから、水溶液中に存在している有機物は酢酸であることがわかる。アセトアミドは非常に速く分解が進み、アセ
トアミドの分解量と酢酸およびアンモニアの生成量とほぼ等しい。図-13(b)には滞留時間が異なる各温度におけるアンモニ
ア収率とアセトアミド残存率とのプロットを示す。温度あるいは滞留時間によらず傾きはほぼ-1 であり、アセトアミドの分解
は脱アミノ基がおこり、アンモニアの生成が支配的であることがわかる。図には示していないが、過酸化水素の添加の場合
Ammonia yield (mol/mol-acetamide)
も、種々の反応条件においても、データは酸化剤無添加の場合の図-13(b)のプロットとほぼ重なる。
Yield [mol/mol-acetamide]
1
(a)
0.8
without H2O2
Acetamide
Acetic acid
Ammonia
CO 2
TOC
0.6
0.4
0.2
0
0
100
200
300
400
500
1
(b)
0.8
0.6
420℃
400℃
380℃
360℃
340℃
320℃
300℃
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
Acetamide remained (mol/mol-acetamide)
Residence time [s]
図-13 流通式反応器によるアセトアミドの亜臨界水処理(340℃)における、
(a) 生成物収率の経時変化, (b) アンモニア収率対アセトアミド残存率
Ammonia yield (mol/mol-formamide)
Yield (mol/mol-formamide)
1
(a)
0.8
wit hout H2O2
0.6
Formamide
Formic acid
Ammonia
CO2
T OC
0.4
0.2
0
0
5
10
Residence time (s)
15
1
(b)
0.8
0.6
without H2O2
420℃
400℃
380℃
360℃
340℃
320℃
300℃
0.4
0.2
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
Formamide remained (mol/mol-formamide)
図-14 流通式反応器によるホルムアミドの亜臨界水処理(340℃)における、
(a)生成物収率の経時変化、(b) アンモニア収率対ホルムアミド残存率
79
1
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図 14(a)には図-13 に示すアセトアミドの場合と同様、酸化剤なしで、340℃におけるホルムアミドの亜臨界条件下におけ
る分解生成物と滞留時間との関係を表す。アセトアミドの場合と同様、生成物はギ酸、アンモニア、二酸化炭素である。アン
モニアの収率とホルムアミドの分解率はほぼ等しいがギ酸収率は予想より少ない。これは酢酸に比べて、ギ酸のほうが亜臨
界水中で分解されやすいためと考えられる。図-14(b)にはアンモニア収率とホルムアミド残存率のプロットを示す。アセトア
ミドの場合と同様、傾きはほぼ-1 の直線が得られ、反応温度、滞留時間に影響していない。アセトアミドの場合同様、酸化
剤存在下においても同様のプロットが得られた。尿素および 2-アミノエタノールの場合も、水の亜臨界条件下ではアミノ基
は容易脱離され、アンモニアが生成された。
まとめ
汚泥は水の亜臨界条件下で容易に可溶化された。酸化剤存在下では可溶化速度は無添加の場合と比べて加速される
が、溶液中の全有機炭素量はさらなる分解のために減少する。生成する有機酸は酢酸、ギ酸、一部プロピオン酸が生成す
るが、酸化剤無添加の場合、その収率は少ない。酸化剤添加の場合、有機酸合計収率は初めの汚泥試料中に含まれる
炭素基準で最大 14%の収率を得た。酸化が進行すると溶液中の有機炭素量は減少し、有機物は酢酸に変換されていく。
反応初期に生成したギ酸など他の酸も分解されるが、酢酸は比較的安定なため、溶液中の酢酸の割合は増加していく。汚
泥中の窒素分は可溶化反応の進行に伴って有機炭素同様可溶化される。酸化剤無添加の場合、可溶化液中の窒素成分
は未同定の物質の割合が多いが、酸化剤存在下での主成分は、アンモニア、硝酸、亜硝酸で、未同定物質の割合は少な
くなる。有機炭素の可溶化速度、脱窒素速度、アンモニア生成速度は酸化剤添加および無添加のどちらの場合も一次反
応速度式で近似できた。酸化剤の有無は有機炭素および窒素可溶化速度に影響を与える。アンモニア生成速度につい
ては酸化剤添加は脱窒素速度を約 50%高めるが、活性化エネルギーは添加、無添加ともほぼ同じであった、
生ゴミ試料について酸化剤無添加の場合、試料重量減少は処理温度の上昇とともに増加するが、可溶化率は温度にあ
まり影響されず、初めの試料中に含まれる炭素重量基準で 50%程度であった。一方、アンモニアの生成量は酸化剤無添加
の場合、初めの試料中に含まれる窒素重量基準で最大 20%程度であった。
各種含窒素化合物の水の亜臨界条件下での分解反応をおこなったところ、アミノ基は容易に分解され、アンモニアが生
成することがわかり、さまざまな反応条件においてもアンモニアの収率と試料の未分解量とが一律に相関した。
■ 研究成果
資源として低品位の有機質資源である下水消化汚泥を亜臨界水条件下で可溶化できた。可溶化有機炭素量、無機炭
素溶出量、有機酸収率、アンモニア収率、脱窒素量に及ぼす可溶化反応条件の影響を明らかにし、有機炭素可溶化速度、
脱窒素速度、アンモニア生成速度を決定した。また、亜臨界水条件下において生ゴミについても可溶化可能であることを
示し、可溶化率、脱窒素率に及ぼす反応条件の影響を調べた。さらに、亜臨界水可溶化条件下における種々の窒素化合
物の脱窒素反応挙動、とくに脱アミノ基反応条件と生成物収率との関係を明らかにした。
■ 成果の発表
口頭発表
1.
岡崎森之,船造俊孝:「尿素の亜臨界・超臨界水酸化」,化学工学会第34回秋季大会,O105,札幌,2001 年
9月
2.
小室武士,弘田真和,船造俊孝:「水の亜臨界条件下における汚泥の可溶化」,化学工学会第67年会,
Q120,福岡, 2002 年 3 月
3.
岡崎森之,船造俊孝:「水の亜臨界・超臨界条件下における尿素の酸化分解」,化学工学会第67年会,
D202,福岡,2002 年 3 月
4.
小室武士,弘田真和,船造俊孝:「下水汚泥の溶融化と酸化分解」,化学工学会新潟大会,B202,新潟,
80
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2002 年8月
5.
小室武士,弘田真和,船造俊孝:「亜臨界水酸化による汚泥からの有機酸生成」,化学工学会第35回秋季
大会,W306,札幌,2002 年 9 月
6.
岡崎森之,船造俊孝:「尿素の超臨界・亜臨界水酸化における反応条件の影響」,化学工学会第35回秋季
大会,I321,札幌,2002 年 9 月
7.
小俣美咲,船造俊孝 :「植物系生ゴミ成分の水蒸気爆砕処理」,第13回廃棄物学会研究発表会, B2-4,
京都,2002 年 11 月
8.
小室武士,本宮明紘,船造俊孝:「下水汚泥の亜臨界水酸化反応における窒素化合物の生成」,化学工学
会第68年会, E301,東京,2003 年 3 月
9.
本宮明紘,小室武士,船造俊孝:「下水消化汚泥の亜臨界溶融化反応におけるアンモニアの生成」,化学工
学会群馬大会,P06,水上,2003 年7月
10.
高橋勝則,岡崎森之,船造俊孝:「2-アミノエタノールの亜臨界・超臨界水酸化分解」,化学工学会群馬大
会,P05,水上,2003 年 7 月
11.
小室武士,本宮明紘,船造俊孝:「下水汚泥の亜臨界水可溶化反応におけるアンモニア生成」,化学工学会
第36秋季大会,H2P04,仙台,2003 年 9 月
12.
岡崎森之,船造俊孝 :「アミド化合物の亜臨界・超臨界水酸化」,化学工学会第36秋季大会,I1P05,仙台,
2003 年 9 月
13.
本宮明紘,小室武士,船造俊孝:「熱水による生ゴミの可溶化」,化学工学会第36秋季大会, H2P02,仙台,
2003 年 9 月
14.
岡崎森之,船造俊孝:「アミド化合物の亜臨界・超臨界水分解に及ぼす反応条件の影響」,化学工学会第69
年会,317,堺,2004 年4月
国際会議
1.
T. Funazukuri, and M. Hirota:「Subcritical and supercritical water oxidation of sewage sludge」, The First
Internatioonal Symposium on Supercritical Fluid Technology for Energy and Environment, Suwon, Korea, Nov.
(2002)
2.
M. Okazaki, and T. Funazukuri:「Supercritical water oxidation of urea」, The 6th International Symposium on
Supercritical Fluids, Versailles, France, April (2003)
3.
M. Okazaki, and T. Funazukuri:「Decomposition of amides in sub- and supercritical water with/without
hydrogen peroxide」, The 2nd International Symposium on Supercritical Fluid Technology for Energy and
Environment Application, Nagoya, Nov. (2003)
81
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.3. 有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能性無機材料への転換
2.1.3.1. 有機廃棄物からの高機能性活性炭の製造
京都大学工学研究科化学工学専攻
三浦 孝一
■要 約
生ゴミの固体発酵で生じる乳酸発酵残渣,液体発酵で生じる糖化残渣,乳酸精製プロセスからの廃棄物,標準生ゴミの活
性炭化を検討したところ,市販活性炭と遜色のない細孔特性を有する活性炭を作製することができた。乳酸醗酵残渣や糖化
残渣から作製した活性炭のようにメソ細孔の発達した活性炭は市販活性炭と同等あるいはそれ以上の液相吸着能をもつこと
がわかり,作製活性炭の水処理等への利用可能性が示唆された。乳酸生成プロセスで生じる廃棄物からは,水蒸気賦活の
前処理として炭化物を塩酸処理することによって市販品と遜色のない細孔特性を有する活性炭の作製に成功した。
■目 的
物質収支
単位 kg・day-1
乾留ガス
78.72
アンモニア 5.26
メタン
20.86
二酸化炭素 23.65
一酸化炭素
8.72
水素
0.23
水
20.00
重油
24.49
水
40.03
乳酸発酵残渣
100.00
固形分
水
80.00
20.00
排ガス
1335.04
二酸化炭素 165.05
窒素
918.43
酸素
105.90
水
145.66
横型スクリュー移動式炭化装置
メインスクリュー部
外径
0.60m
内径
0.50m
長さ
2.40m
容積
0.471m3
空気
582.85
投入熱量(重油燃焼)
993.1 MJ・day-1
空気
608.95
重油
炭化物
21.28
排ガス
135.65
二酸化炭素
36.22
一酸化炭素
4.52
窒素
51.87
水素
2.85
水
40.19
5.05
水
54.42
空気
65.54
ロータリーキルン式賦活装置
キルン部
外径
0.40m
内径
0.35m
長さ
1.50m
容積
0.144m3
投入熱量(重油燃焼)
204.8 MJ・day- 1
図-1 活性炭の製造プロセスと物質収支及びエネルギー収支
82
活性炭
10.64
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
本研究では,生ゴミの固体発酵で生じる乳酸発酵残渣,液体発酵で生じる糖化残渣,乳酸精製プロセスで生じる廃棄物
から活性炭を製造することを目的とする。特に,乳酸精製プロセスからの廃棄物は水溶性であり,無機塩類の溶出のため
に土壌改質剤として使用できないなど,有効利用の際に問題が多い。本研究で取り扱う廃棄物は無機物を多く含有するた
めに,その炭化物の水蒸気賦活時に触媒作用によって灰分化し,活性炭を製造することが困難であると予想される。しかし,
著者らは都市ゴミ RDF を炭化し,炭化物に酸処理を加えれば水蒸気賦活によってダイオキシン吸着用市販活性炭よりメ
ソ細孔特性に優れた活性炭の作製に成功している[引用文献 1. –6.]。この手法を用いることによって上記廃棄物の活性炭
化が可能であると考えられる。
本研究で想定している廃棄物からの活性炭製造プロセスを図1に示す。本プロセスでは,乳酸発酵残渣,糖化残渣,乳
酸精製プロセスで生じる廃棄物を横型スクリュー移動式炭化装置とロータリーキルン式賦活装置に供給し,活性炭を製造
する。図-1 には乳酸発酵残渣 100kg/day を例にとった物質収支とエネルギー収支が示されている。
■ 研究方法
1)本研究で検討する廃棄物
①乳酸発酵残渣:生ゴミから固体発酵法によって乳酸を製造する際に排出される廃棄物である。
②糖化残渣:生ゴミから液体発酵法によって乳酸を製造する際に排出される廃棄物である。
③乳酸精製プロセスからの廃棄物:本研究では,乳酸ブチルエステル化残渣(固形状)と蒸留缶出液(懸濁液状)の 2 種類
の廃棄物を用いた。ブチルエステル化残渣はブチルエステル化によって生じた固形分を固液分離し,ブチルアルコールで
洗浄乾燥したものである。この残渣は無機成分と資化されずに残った糖を含有するものである。この残渣の灰分含有率は
36.6wt%である。響灘でのパイロットプラントではブチルエステル化後の固液分離にザルと布を使用しているために,蒸留缶
出液は濾過しきれなかった固形分を含有している。なお,灰分含有率は 8.4wt%である。
④標準生ゴミ:炭水化物 10wt%,野菜・果実類 74wt%,タンパク質 16wt%の組成[引用文献 7.]となるように調製した。
生ゴミ,糖化残渣,乳酸発酵残渣を空気雰囲気下で乾燥し,高速粉砕機で微粉砕して,以下に示す方法で活性炭を作
製した。エステル化残渣と蒸留缶出液はそのまま炭化した。
2)活性炭の作製
①炭化:石英反応管あるいはロータリーキルンを用いて,窒素雰囲気下(窒素流量 100cm3/min)で室温から 0.5~10 ℃
/min で 500℃まで昇温,同温度で 1 時間保持して炭化を行った。
②水蒸気賦活:石英反応管あるいはロータリーキルンを用いて炭化物を水蒸気賦活した。温度 850 ℃まで 10~20℃/min
で昇温させ,水蒸気雰囲気下(水蒸気流量 0.26g/min あるいは 0.5 g/min)で賦活時間を変えることにより収率の異なる活
性炭を作製した。
③水蒸気賦活の前処理:活性炭の細孔特性を向上させるために,水蒸気賦活の前処理として炭化物の塩酸処理を行った。
具体的には,炭化物を室温で 1.0N 塩酸 300cm3 に 24 時間浸漬し,蒸留水で十分洗浄後,110℃で乾燥した。
3)作製活性炭の細孔特性
定容法自動吸着装置(Belsorp28,日本ベル)を用いて 77K における窒素の吸着等温線および脱着等温線を測定して活
性炭の細孔特性を評価した。窒素の吸着等温線から BET 表面積を求め,Dollimore-Heal 法[引用文献 8.]を脱着等温線
に適用してメソ孔領域の細孔分布を求め,t-プロット法[引用文献 9.]によってミクロ細孔容積を評価した。
4)作製活性炭の液相吸着特性
作製活性炭の液相吸着特性を検討するため,液相吸着試験に通常使用されるフェノール,分子サイズの大きな染料の
一種である Black 5 および環境ホルモンの一種であるビスフェノール A の水溶液からの吸着平衡を 30℃で測定した。
83
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 研究成果と考察
1)エステル化残渣と蒸留缶出液の活性炭化
ブチルエステル化残渣の炭化収率は 48.8%であり,蒸留缶出液の炭化収率は 8.8%であった。蒸留缶出液は炭化時に揮
発する成分を多く含むことがわかる。水蒸気賦活によって作製した活性炭(未処理炭)の細孔特性を表-1 に示す。なお,比
較のためダイオキシン用市販活性炭および水処理用市販活性炭の細孔特性を同表に示す。表-1 に示されている BET 表
面積と細孔容積(メソ細孔 Vmeso;ミクロ細孔 Vmicro)から,作製活性炭はメソ細孔がほとんど発達していないことがわかる。し
たがって,乳酸プロセスから生じる廃棄物の炭化,水蒸気賦活だけでは比表面積 200m2/g 以下の活性炭しか作製できな
いことが明らかとなった。
乳酸精製プロセスからの廃棄物を炭化,水蒸気賦活しただけでは細孔はあまり発達しない。そこで,賦活反応を促進さ
せるために炭化物を常温において 1.0N 塩酸で浸漬処理した。酸処理後の炭化物の灰分含有率は,ブチルエステル化残
渣では 6.9%,蒸留塔缶出液では 1.7%であった。炭化物の塩酸処理によって含有灰分量を減少できることがわかる。表 1
は酸処理後水蒸気賦活によって作製した活性炭の BET 表面積および細孔容積を示す。この表から塩酸処理後作製され
た活性炭は細孔が未処理の場合と比較して著しく発達し,表面積が 800m2/g 程度の活性炭が得られることがわかる。特
にミクロ細孔の発達が顕著で,水処理用市販活性炭と遜色のない細孔特性を有することが表2からわかる。またメソ細孔容
積はダイオキシン吸着用市販活性炭には若干劣るものの水処理用活性炭よりもはるかに発達しており,作製活性炭は水
処理に使用できるだけでなく,ダイオキシン類の吸着処理にも利用できることが期待できる。
表-1 作製活性炭の細孔特性
廃棄物
賦活前処理
エステル化残渣
蒸留缶出液
市販活性炭
ダイオキシン吸着用
水処理用
未処理
酸処理
酸処理
未処理
酸処理
酸処理
収率
[%]
56
51
30
10
44
30
BET 表面積
SBET [m2/g]
103
638
885
163
566
755
ミクロ細孔容積
Vmicro [cm3/g]
0.03
0.29
0.41
0.06
0.25
0.33
メソ細孔容積
Vmeso [cm3/g]
0.06
0.13
0.19
0.09
0.12
0.18
―
―
―
―
567
785
0.22
0.44
0.26
0.07
2)乳酸発酵残渣から作製した活性炭
乳酸発酵残渣から作製した活性炭の細孔特性を,ゴミ固形燃料,廃ペットボトル,廃タイヤから作製した活性炭の細孔特
性とともに表-2 に示す。また,水処理用の市販活性炭の細孔特性も同表に示す。廃ペットボトルおよび廃タイヤからは市販
活性炭と同程度のミクロ細孔容積をもち,格段に BET 表面積とメソ細孔容積が大きい活性炭の作製が可能であることがわ
かる。また,乳酸発酵残渣やゴミ固形燃料からは,BET 表面積やミクロ細孔容積は小さいものの,市販活性炭と同等あるい
はそれ以上のメソ細孔容積をもつ活性炭が作製できる。
表 2 作製活性炭の細孔特性
活性炭
原料
BET 表面積
SBET [m2/g]
520
ミクロ細孔容積
Vmicro [cm3/g]
0.17
メソ細孔容積
Vmeso [cm3/g]
0.27
AC-RDF
ゴミ固形燃料
AC-LFD
乳酸発酵残渣
700
0.28
0.39
AC-PET
廃ペットボトル
1200
0.40
0.95
AC-Tire
廃タイヤ
1000
0.48
0.79
AC-Com
市販活性炭
910
0.39
0.24
ゴミ固形燃料(RDF),乳酸醗酵残渣,廃タイヤからは炭化物を 1.0N 塩酸で処理した
後に水蒸気賦活によって活性炭を作製,廃ペットボトルに Ca(NO3)24H2O を混合して
得られた炭化物を 1.0N 塩酸で処理した後に水蒸気賦活によって活性炭を作製
84
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1
10
AC-PET
AC-Tire
AC-RDF
Q [g/g-AC]
Q [g/g-AC]
フェノール
0.1
AC-PET
AC-Tire
AC-RDF
AC-LFG
AC-Com
25℃
0.01
10
100
Ce [mg/l]
Black 5
1.0
0.1
AC-LFG
AC-Com
0.01
1
1000
10
25℃
100
Ce [mg/l]
1000
図-2 作製活性炭におけるフェノールと Black5 の液相吸着平衡
乳酸発酵残渣および他の固体廃棄物から作製した活性炭と水処理用市販活性炭におけるフェノールの水溶液からの
吸着平衡を図-2 に示す。乳酸発酵残渣から作製した活性炭は市販活性炭以上のフェノール吸着量を示す。また,図-2 は
作製活性炭における Black 5 の吸着等温線を示す。乳酸発酵残渣と都市ゴミ固形燃料から作製した活性炭は市販活性炭
と同程度の Black 5 吸着量を示すが,廃ペットボトルと廃タイヤから作製した活性炭においては市販活性炭と比較して数倍
もの Black 5 吸着量が得られている。これは表 2 に示されているように作製活性炭が市販品と比較してメソ細孔が顕著に発
達しているためである。これらの活性炭は Black 5 のように分子サイズの大きな物質の吸着に適した吸着材であると言える。
乳酸発酵残渣からの活性炭も市販活性炭以上のメソ細孔をもつが,Black 5 の吸着量が市販活性炭と同程度であるのは表
面の親水的性質が強いためであると推察される。
3)標準生ゴミ,糖化残渣,乳酸発酵残渣の活性炭化
標準生ゴミ,糖化残渣,乳酸発酵残渣から作製した活性炭の細孔特性を表-3 に示す。糖化残渣および生ゴミから作製
した作製した活性炭(AC-T,AC-N)の BET 表面積は比較的大きいといえる。また,糖化残渣および乳酸醗酵残渣から作
製した活性炭(AC-T,AC-L)はメソ孔容積とミクロ孔容積を比べるとメソ孔を多くもつ。特に糖化残渣から作製した活性炭
(AC-T)は表 2 に示されている市販活性炭よりも大きなメソ孔容積をもつことがわかった。
図-3 に作製した活性炭の液相吸着平衡を示す。糖化残渣および生ゴミから作製した活性炭(AC-T, AC-N)は市販活
性炭より高いフェノール吸着能を示した。また,糖化残渣から作製した活性炭(AC-T)は市販活性炭と同等あるいはそれ以
上の Black5 吸着能及びビスフェノール A 吸着能を示した。乳酸発酵残渣から作製した活性炭はメソ細孔が発達していれ
ば,図-2 に示すように高い Black5 吸着能をもつ。活性炭(AC-L)はメソ細孔がそれほど発達していないために吸着特性は
市販活性炭に及ばない。しかし,いずれの吸着質に対してもある程度の吸着能を示した。以上のことから作製活性炭の水
処理等への利用可能性が示唆された。
表-3 作製活性炭の細孔特性
活性炭
原料
AC-T
糖化残渣
収率
[%]
10
BET 表面積
SBET [m2/g]
742
ミクロ細孔容積
Vmicro [cm3/g]
0.30
メソ細孔容積
Vmeso [cm3/g]
0.42
AC-L
乳酸発酵残渣
22
266
0.09
0.17
AC-N
生ゴミ
29
554
0.27
0.18
85
Qe [g-吸着質/g-活性炭]
Qe [g-吸着質/g-活性炭]
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
1
0.1
フェノール
0.01
10
100
1
0.1
0.01
10
1000
Qe [g-吸着質/g-活性炭]
Ce [mg/l]
Black5
100
Ce [mg/l]
1000
1
AC-T
AC-L
AC-N
0.1
市販活性炭
ビスフェノール A
0.01
10
100
Ce [mg/l]
1000
図-3 作製活性炭におけるフェノール,Black5,ビスフェノール A の液相吸着平衡
4)活性炭製造プロセスのコスト評価
図-1に示すように,廃棄物から横型スクリュー移動式炭化装置とロータリーキルン式賦活装置を用いて活性炭を製造す
るプロセスを想定している。廃棄物として乳酸発酵残渣を用いた場合のプロセス設計の結果を同図に示す。
物質収支,エネルギー収支から表4に示すコスト評価結果が得られた。なお,算出基準は乳酸発酵残渣 100kg/day であ
る。市販の水処理用活性炭は 300 円/kg,ダイオキシン除去用活性炭は 500 円/kg 程度であるので,十分に採算が取れる
ことが分かる。
表-4 乳酸発酵残渣からの活性炭製造プロセスのコスト評価
経費項目
ユーティリティ
管理費
設備費
(無利子,20 年償却)
設備補修費
総計
根拠
重油 (@25 円/kg)
水 (@10 円/t)
電力 (@10 円/(kWh))
ユーティリティの 15%
炭化装置(143.1 万円)
賦活装置(55.5 万円)
設備費の 2%/年
コスト[円/kg-活性炭]
69.4
0
8.7
11.7
18.4
7.2
10.2
125.6
■ 引用文献
1. H. Tamon, K. Nakagawa, T. Suzuki and S. Nagano: 「Improvement of Mesoporosity of Activated Carbons from PET by
Novel Pre-Treatment for Steam Activation」, Carbon, Vol.37, 1643, (1999)
2. S. Nagano, H. Tamon, T. Azumi, K. Nakagawa and T. Suzuki: 「Activated Carbon from Municipal Waste」, Carbon, Vol.
38, 915, (2000)
3. K. Nakagawa, A. Fuke, H. Tamon, T. Suzuki and S. Nagano: 「Preparation of Activated Carbons from Waste Coffee
Beans」, Japan. J. Food Eng., Vol. 2, 141, (2001)
4. K. Nakagawa,, H. Tamon, T. Suzuki and S. Nagano: 「Preparation and Characterization of Activated Carbons from
Refuse Derived Fuel (RDF)」, J. Porous Mat., Vol. 9, 253, (2002)
86
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
5. P. Ariyadejwanich, W. Tanthapanichakoon, K. Nakagawa, S. R. Mukai and H. Tamon: 「Preparation and Characterization
of Mesoporous Activated Carbon from Waste Tires」, Carbon, Vol. 41, 157, (2003)
6. K. Nakagawa,, S. R. Mukai, T. Suzuki and H. Tamon: 「Gas Adsorption on Activated Carbons from Mixtures of PET with
Metal Salt」, Carbon, Vol. 41, 823, (2003)
7. http://amb.bt.a.u-tokyo.ac.jp/WASTE/4.html
8. D. Dollimore and G. R. Heal: 「An Improved Method for the Calculation of Pore-size Distribution from Adsorption Data」,
J. Appl. Chem., Vol. 14, 10, (1964)
9. B. C. Lippens and J. H. Boer: 「Pore System in Catalysts, v. the t-method」, J. Catal., Vol. 4, 319, (1965)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌
1.
田門肇: 「廃棄物の炭化処理と有効利用」, 資源環境対策, 第 38 巻, 297 頁, (2002)
2.
K. Nakagawa, T. Sugiyama, S. R. Mukai, H. Tamon, Y. Shirai and W. Tanthapanichakoon: “Preparation and
Characterization of Activated Carbons from Wastes Generated during Lactic Acid Fermentation from
Garbage”, J. Chem. Eng. Japan, in press, (2004)
国外誌
1.
K. Nakagawa, A. Namba, S. R. Mukai, H. Tamon, P. Ariyadejwanich and W. Tanthapanichakoon: “Adsorption
of Phenol and Reactive Dye from Aqueous Solution on Activated Carbons Derived from Solid Wastes”, Water
Research, Vol. 38, 1791 (2004)
原著論文以外による発表
国内誌
1.
田門肇: 「各種廃棄物の炭化処理法の実際と用途の課題-吸着用炭化物・活性炭を中心に-」, 廃棄物の
炭化処理と有効利用―都市ゴミ,汚泥,廃木材等の炭化と用途開発-, 29-69頁, エヌ・ティー・エス, (2001)
口頭発表
1.
H. Tamon, K. Nakagawa and S. R. Mukai: “Activated Carbon from Wastes Generated during Lactic Acid
Fermentation from Garbage”, Tokyo, Proc. 6th Int. Symp. on Sep. Tech. - Japan and Korea, 2002.10.4-6
2.
田門肇: 「各種廃棄物を原料とした吸着剤の製造技術と応用展開」, 京都,吸着技術講習会(日本吸着学会),
2003.3.12
3.
田門肇,中川究也,向井紳: 「各種固体廃棄物から作製した活性炭の液相吸着特性」, 船橋, 分離技術会年
会 2003, 2003.6.7
4.
田門肇: 「固体廃棄物からの活性炭製造」, 京都,炭化物利用研究会, 2003.7.24
5.
河原真紀子,中川究也,向井紳,田門肇,白井義人: 「食品廃棄物の活性炭化と液相吸着への応用」, 大津,
食品工学会第4回(2003年度)年次大会,2003.8.6
6.
田門肇: 「固体廃棄物からの活性炭製造」, 草津,技術セミナー(廃棄物学会関西支部), 2003.11.25
87
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.3. 有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能性無機材料への転換
2.1.3.2. 陰イオン交換樹脂による陽イオンの除去と有機酸の濃縮
京都大学工学研究科化学工学専攻
三浦 孝一
■要 約
有機廃棄物の亜臨界水処理液に含まれ,後続の反応プロセスで触媒毒となるカルシウム,アンモニアなどの陽イオンの
除去,並びに有機酸の濃縮を達成するために,水酸化物イオン形陰イオン交換樹脂充填塔を用いたプロセスを提案し,そ
の有効性を実処理液を用いて検証した.また,操作条件等が分離・濃縮効率に及ぼす影響を検討するとともに,本プロセ
スにおける各種有機酸およびイオンの物質収支を算出した.
■ 研究目的
有機廃棄物の亜臨界水処理液には,目的とする有機酸以外にカル
シウム,アンモニア,リン酸などのイオンが含まれている.これらのイオン
有 機
廃棄物
は後続のプロセスで触媒毒となるため,除去する必要がある.また,亜
対象プロセス
亜臨界処理
有機酸
臨界水処理液中の有機酸濃度は低く,濃縮することが望ましい.本課
題が対象とするプロセスの位置付けを図1に示す.これらの点より,まず
各種吸着操作並びに電気透析法によるイオンの除去と有機酸の濃縮
◆ 有機酸の回収
◆ PO42-の除去
電
気
透
析
装
置
樹陰
脂イ
充オ
填ン
層交
換
◆ 有機酸の濃縮
◆ 陽イオン(Ca2+,
NH4+)の除去
の可能性について検討した.その知見に基づき,陰イオン交換樹脂を
の除去と有機酸の濃縮,並びに電気透析法によるリン酸イオンの除去
石油
関連
製品
有機酸
用いた吸着および脱着操作によるアンモニアイオンとカルシウムイオン
(塩類を
含む)
(可溶化)
(塩類を含まない)
鉄触媒
ゼオライト
触
媒
図1.本中課題の位置付け
が合理的であると判断し,各操作の詳細な条件検討を行った.さらに,
糖質系有機廃棄物の亜臨界水処理は,それらの再資源化プロセスとして注目されていることを踏まえて,各種糖質の亜臨
界水による加水分解および過分解の速度過程に関する基礎的な検討も実施した.
■ 研究方法
1)陰イオン交換樹脂塔による陽イオンの除去と有機酸の濃縮
研究開始時点では,有機廃棄物の亜臨界水処理液中の各種有機酸,陽
表1 有機廃棄物亜臨界水処理液の組成
イオンおよび陰イオンの濃度に関する十分な知見がなかったので,想定す
成分
べきプロセスの選定には,表-1に示すモデル液を使用した.また,研究の進
ギ酸
260
乳酸
160
捗に伴って実液が入手できるようになったので,モデル液を使用して決定し
たプロセスの妥当性を実液を用いて検証した.有機廃棄物の亜臨界水処理
酢酸
有機酸は解離すると陰イオンとなるので,陰イオン交換樹脂を用いること
により,陽イオンの除去と有機酸の濃縮の両方が具現化できる可能性がある.
88
9.65*
プロピオン酸
PO4
液 A と B の組成を表1に示す.
処理液A 処理液B モデル液
3-
Ca2+
NH4+
*
2.35
230
5.35
8.87
150
3.32
1.6
0.351
1.12
4.0
0.351
52
170
0.702
アルカリによる滴定値 [単位:mol/m3]
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
また,非解離型の有機酸は弱いながらも疎水性を示すので,
吸着性樹脂や活性炭を用いた操作も可能性がある.そこで,
ギ酸
各種充填剤の固定相(10 cmφ ×50 mm)における 1% (w/v)
乳酸水溶液の破過および脱着曲線を測定することにより充
乳酸
填剤を選択した.
酢酸
つぎに,架橋度が 8%の OH 形陰イオン交換樹脂をガラ
ス製カラム(10 cmφ ×50 mm)に充填し,6 mL/min の流量
プロピオン酸
(P酸)
でモデル液または実液 A を通液し,溶出液を適当な時間
間隔で分取した.なお,有機廃棄物の亜臨界水処理液は
不溶物を含むため,遠心分離(7500 rpm)により不溶物を
HPLC分析条件
カラム:YMC ODS-A A-301
(4.6 mmφ x 100 mm)
溶離液:20 mmol/L リン酸緩衝液,pH=2.8
(0.4 mL/min)
検出波長:220 nm
除去した上澄み液を使用した.また,実液 B については流
量を 1.91 mL/min と上記の場合の約 1/3 に低下させ,液
流速の影響について検討した.各試料液について,破過
点または終末点(実液 B の場合)に達した後,1.0 mol/L
図-2 有機廃棄物亜臨界水処理液 B の
HPLC クロマトグラム
NaOH 水溶液を試料液と同一流量で供給した.溶出液を
所定の時間間隔で分取し,各画分中の有機酸およびイオ
ン濃度を測定した.
各有機酸濃度は ODS-A 301-3 カラム(4.6 mmφ × 100 mm,YMC,京都)を用いた HPLC により定量した.なお,検出器
は SPD-6A UV 検出器(島津製作所,京都)(波長は 220 nm)を用い,溶離液には 20 mmol/L リン酸緩衝液(pH = 2.8)を使用
した.本分析法による実液 B のクロマトグラムを図 2 に示す.また,リン酸,カルシウムおよびアンモニウムの各イオン濃度は,
ホスファ C-テスト,カルシウム E-テストおよびアンモニア-テスト(いずれも和光純薬工業,大阪)を用いて測定した.
2)電気透析法による陰イオンの除去
まず,1.0% (w/v) 乳酸と 0.1% (w/v) CaCl2(いずれも終濃度)の混合水溶液 100 mL を試料として,電気透析装置(旭化成
工業製マイクロアシライザーS1,膜面積 20 cm2)を用いた塩類の除去の可能性と有機酸の回収率について検討した.電極
液には 100 mL の 0.5 mol/L 硝酸ナトリウム,脱塩されたイオンが移行する回収液には 75 mL の水を使用した.なお,試料
液の pH を一定で操作した場合には,試料液の pH を pH メータで測定しながら適宜 1 mol/L HCl を滴下した.電圧は約
3.9 V の一定値で操作した.経時的に試料液の一部を採取し,乳酸および Ca2+濃度を定量した.さらに,陰イオン交換樹脂
充填層から得られた脱着液に同量の 1.0 mol/L HCl を加えて中和したのち,約 3 V の定電圧で透析し,回収液中の各有
機酸およびリン酸イオン濃度の経時変化を測定した.
3) 亜臨界水による二糖の加水分解:グルコースのみからなりグリコシド結合の異なる各種二糖およびグルコースとガラクト
ースまたはフルクトースからなる各種二糖の 0.5%(w/v)水溶液を 180℃~260℃の所定温度に保った流通式管型反応器
(0.8 mm I.D.)に供給した.種々の滞留時間での流出液中の未分解の二糖を Supercogel K カラム(7.5 mm ×300 mm)を用
いた HPLC により定量し反応率を算出した.
■ 研究成果と考察
1) 陰イオン交換樹脂塔による陽イオンの除去と有機酸の濃縮: 陰イオン交換樹脂,活性炭,吸着性樹脂等を対象として,
陽イオンの除去と有機酸の濃縮に適した充填剤を検索した結果,架橋度 8%の OH 形陰イオン交換樹脂が最も有望なこと
が示された.モデル液を用いたときの吸着および脱着曲線を図-3 に示す.Ca2+および NH4+は充填層を素通りして除去でき
(図-3(a)),また有機酸が破過し始めると溶出液の pH が低下したことより,pH を測定することにより破過点が判定できること
が示された.また,NaOH で脱着することにより有機酸を濃縮・回収できることが示された(図-3(b)).なお,このときイオン交
換樹脂は OH 形に再生されるので,水洗後つぎの吸着操作に使用できる.
89
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
10
有機廃棄物の亜臨界水処理液を用いた陰イオン
(a) 吸着
1.5
交換樹脂への吸着および脱着過程を図-4 に示す.
8
プロピ
オン酸
上述したモデル液を用いた場合と同様に,Ca2+および
めると pH の低下が認められ,実際の処理液において
ギ酸
10
酢酸
Ca2+
0.5
pH
pH
C/C0
た.また,有機酸のうち乳酸と酢酸が溶出(破過)し始
1.0
C/C0
NH4+は充填層を素通りして除去できることが確認され
(b) 脱着
Dowex 1 x 8
ギ酸
6
4
5
NH4+
2
酢 酸
プロピ
オン酸
リン酸
も pH をモニターすることが有機酸の破過点を同定す
0
0
るために有効な方法であることが示唆された.なお,
40
80
160
120
(溶出体積)/(ベッド体積)
0
200
0
溶離液中のギ酸は他のピークと重複したために定量
0
2
4
(溶出体積)/
(ベッド体積)
図-3.OH 形陰イオン交換樹脂充填層におけるモデル処理液の
(a)吸着および(b)脱着曲線
できなかった.3価の陰イオンであるリン酸は乳酸・酢
酸より遅れて溶出した.有機酸の破過点からリン酸の
破過点までの画分を集めることで陰イオン中に占める
2.0
た.リン酸の溶出曲線(図-4(a))からリン酸とプロピオン
酸との競争吸着が示唆された.また,プロピオン酸の
吸着には樹脂の疎水性が関与していることが考えられ,
2.0
1.0
1.0
実際の操作には樹脂の疎水性などの特性も考慮する
0
こが必要である.脱着過程(図-4(b))においては全て
の陰イオンが吸着量に応じて脱離した.
以上の知見に基づき,有機廃棄物の亜臨界水処
理液を陰イオン交換樹脂充填層体積の 5 倍量になる
0
20
40
0
10
C/C0
価のプロピオン酸は3価のリン酸よりさらに遅く溶出し
C/C0, pH/10
有機酸の割合が高い溶液を得ることができる.一方,1
0
20
(溶出体積)/(ベッド体積)
図-4 OH 形陰イオン交換樹脂充填層における有機廃棄物亜臨界
水処理液(実液 A)の(a)吸着および(b)脱着曲線.●NH3+,■
Ca2+,▲PO43-,○乳酸,□酢酸,△プロピオン酸,○pH.
画分まで吸着させた後に洗浄し,1 mol/L NaOH で
脱着する操作を想定して,本プロセスにおける各成
脱着液
1,000 mol/m3 NaOH
0.5 m3 /2.7 h
分の収支を計算した(図-5).陰イオン交換樹脂充填
体積が 0.2 m3 で 1 m3/日の有機廃棄物亜臨界水処
理液の脱灰が可能で,かつ有機酸もほぼ 2 倍に濃縮
できることが示された.なお,本プロセスでは有機酸と
リン酸の分離が困難である.
2) 電気透析法による陰イオンの除去: 有機酸の解
離定数(pKa)は 4~5 程度であるので,試料液の pH
洗浄液(水)
0.2 m3/4.2 h
流量 0.06 m3/h (16.7 h/day)
亜臨界処理水
(1 ton = 1 m3)
有機酸
乳酸 160 mol/m3
酢酸 230 mol/m3
P酸 150 mol/m3
被毒物質
PO43- 1.6 mol/m3
Ca2+ 4.1 mol/m3
NH4+ 170 mol/m3
有機酸
陰
イ
オ
ン
交
換
樹
脂
塔
0.5 mφ×1.0 m
樹脂量(充填容積)
= 0.2 m3
注)P酸 = プロピオン酸
によっては解離形となり,電気透析で陰イオンを除去
廃液および洗浄液(1.2 m3)
Ca2+ 3.6 mol/m3 乳酸 31 mol/m3
NH4+ 150 mol/m3 酢酸 24 mol/m3
P酸 7.9 mol/m3
する際に電極液側に移行して回収率が低下すること
脱PO4処理
脱着液(0.5
有機酸
乳酸Na
酢酸Na
P酸Na
m3)
260 mol/m3
430 mol/m3
300 mol/m3
(回収率 87%,濃縮率 1.8倍)
Na3PO4
3.4 mol/m3
が懸念された.そこでまず,1% (w/v) 乳酸と 0.1%
図-5.陰イオン交換樹脂充填塔を用いた有機廃棄物亜臨界
水処理液からの陽イオンの脱灰プロセスの物質収支
(w/v) CaCl2 混合液を,pH を制御することなく電気透
析すると,有機酸の一部が解離して陰イオンとなるた
め,操作時間が長くなると,有機酸の回収率が徐々に低下した.一方,1 mol/L HCl を適宜滴下して試料液の pH を 2.35
に保ちながら電気透析を行ったところ,有機酸(乳酸の)回収率を高めることができ,本法が陰イオン(リン酸イオン)の除去に
適用できる可能性が示された.
そこで,モデル処理液を陰イオン交換樹脂塔に供給してのち NaOH で脱着した液を中和し電気透析したときの各有機酸
およびリン酸イオン濃度の経時変化を図-6 に示す.pH 調節を行わない場合(図-6(a))にはギ酸とリン酸が速やかに電極液
側に移動して除去された.ギ酸が除去されたのは,pKa が 3.75 と小さいためと考えられる.pH = 2.5 に調節した場合(図
90
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
-6(b))にはギ酸の電極液への移動を抑制できる
1.0
酢 酸
プロピ
オン酸
プロピ
オン酸
ギ酸
C/C0
C/C0
ン酸を分離するとは困難であった.したがって,
本法の適用性は試料のギ酸含有量に依存するも
(b) pH = 2.5
に調節
1.0
(a) pH調節なし
が,弱酸であるリン酸の移動も抑えられ,ギ酸とリ
リン酸
0.5
のと考えられた.
0.5
電 気
伝導度
なお,リン酸イオンは Ca2+と極めて難溶性の塩を
形成することはよく知られている.本法を適用する上
での問題点は CaCl2 等を添加する費用である.他グ
酢酸
リン酸
電 気
伝導度
ギ酸
0
0
0
50
100
150
(時間)/(処理液) [h/L]
0
50
150
100
(時間)/(処理液) [h/L]
ループによる全プロセスにわたるコスト計算の結果,
図-6.電気透析法によるリン酸の除去と有機酸の回収
Ca2+イオンの添加に要する費用は許容できることが
判明し,本法の適用が妥当であると結論された.
1.0
3) 亜臨界水による二糖の加水分解:220℃に
(a)
(b)
おける各種二糖の分解過程を図-7 に示す.グル
水分解の難易はグリコシド結合の種類に多くの
C/C0
コースのみからなるホモ二糖の亜臨界水による加
0.5
依存した.一方,グルコースとガラクトースまたは
フルクトースからなるヘテロな二糖は比較的分解
され易く,ことにスクロースは極めて加水分解を
0
受け易かった.いずれの二糖の加水分解過程も
0
2
4
次の Weibull 式で表現できた.
C/C0 = exp[-(kτ)n]
ここで,C と C0 は反応器出口および入口にお
ける二糖の濃度,τは平均滞留時間,k は速度定
0
2
滞留時間 [min]
4
6
図-7.亜臨界水による(a)グルコースのみからなる二糖および(b)グル
コースとガラクトースまたはフルクトースからなる二糖の 220℃に
お け る 分 解 過 程 . (a) □ , cellobiose , ▽ gentiobiose , ◇
isomaltose,○maltose,△trehalose,(b)▷lactose,◇leucrose,
◁melibiose,□palatinose,○sucrose,△turanose.
数,n は形状係数と呼ばれるパラメータである.各
二糖に対する 220℃における k 値と,分子軌道計
180
Tre
算ソフトウェアも用いて推算したグリコシド結合の
160
E [kJ/mol]
酸素の電荷には相関が認められ,酸素原子が負
に偏倚しているほど k 値が大きかった.これは亜
臨界水による糖の加水分解がプロトンによって触
媒されることを示唆すると考えられる.また,種々
の温度における加水分解反応から算出した活性
140
100
80
これは亜臨界水による糖の加水分解過程には熱
力学的補償効果が成立し,本質的には同じ機構
Tur
Iso
Mal
120
化エネルギーE と頻度因子 k0 の対数値との間に
は,図-8 に示すように線形な関係が認められた.
Cel
Pal
Leu
Mel
Lac
Suc
15
20
25
lnk0
30
35
図-8.亜臨界水による二糖の加水分解過程における
熱力学的補償効果の成立.
で反応が進行することを示唆する.
■ 成果の発表
原著論文による発表
国外誌
1.
T. Oomori, S. Haghighat Khajavi, Y. Kimura, S. Adachi, and R. Matsuno: “Hydrolysis of Disaccharides
Containing Glucose Residue in Subcritical Water.” Biochemical Engineering Journal, 18, 143-147 (2004).
91
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
口頭発表
1.
大森敏伸,Shabnam Haghighat Khajavi,木村幸敬,安達修二,松野隆一:「亜臨界水によるグルコースを構成
単位とする二糖の分解過程の解析」,日本農芸化学会 2003 年度(平成 15 年度)大会講演要旨集,p. 206.
92
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.1. 有機廃棄物の可溶化法
2.1.3. 有機廃棄物の脱灰有機水溶液と機能性無機材料への転換
2.1.3.3. 新規 Ni/C 触媒を用いた有機水溶液の水熱ガス化による燃料ガスの製造
京都大学工学研究科化学工学専攻
三浦 孝一
■要 約
亜臨界水で可溶化処理した有機廃棄物を,新たに開発した Ni/C 触媒を用いて 250~350 ℃で水熱条件のもと処理を
施すことによって,水に溶解した有機成分をガス化し,燃料ガスとして有用な水素,メタンに転換することを目的として,
種々の廃棄物の水熱ガス化特性や触媒の耐久性を検討した。有機廃棄物の乳酸発酵残渣を 300 ℃で 3 分間処理した可
溶化処理液は,350 ℃,20 MPa において90 %以上をガス化できたが,可溶化の処理時間が長くなるとガス化率が低下し,
最適な処理条件があることがわかった。他の有機廃棄物の可溶化処理液や可溶化液の濃縮液を想定した高濃度酢酸も,
300~350 ℃でほぼ完全にガス化できた。さらに触媒の耐久試験では 50 時間ではまったく活性の劣化が見られず,高い耐
久性を有することがわかった。
■ 研究目的
生ゴミ由来の生活汚泥は,非常に含水率が高い有機廃棄物であり,その処理方法として通常の凝集沈殿から脱水ケー
キを製造して燃焼させる方法は,多大なエネルギーを必要とする。本研究では,効率よく廃棄物を有効に利用するために,
廃棄物に含まれる多量の水分を蒸発させることなく,有用な物質に転換することを想定している。そのために,含水率の高
い有機廃棄物を亜臨界水処理によって可溶化させた有機水溶液を,新たに開発した Ni/C 触媒で水熱条件のもとガス化さ
せ,燃料ガスとして有用な水素やメタンに転換させることを目的としている。Ni/C 触媒は,水熱条件でも安定な炭素担体に
触媒である金属ニッケルが 45wt%も含まれ,かつ金属ニッケルの粒子径が 3~5nm と非常に高分散している。本プロセスは,
有機物を含む廃水を処理するプロセスであり,活性汚泥法やメタン発酵法のように汚泥という廃棄物を発生させないという
特徴を持つが,さらに処理条件や有機物の濃度によっては,廃棄物からエネルギーを生み出すプロセスにもなりうる。
有機廃棄物
可溶化処理
(亜臨界水処理)
水熱ガス化
燃料ガス
(新規 Ni/C 触媒)
(メタン,水素)
有機酸濃縮
図-1 本研究で想定している有機廃棄物の可溶化処理液の処理プロセス
93
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 研究方法
1)Ni/C 触媒の調製
CH3
Ni/C 触 媒 の 原 料 と し て , 市 販 の イ オ ン 交 換 樹 脂
CH3
CH CH2 CH CH2
COOH
COOH
CH3
(WK-11)を用いた。この樹脂は図2に示すようにメタクリル
酸型の樹脂で,弱酸性基であるカルボキシル基をイオン
CH
交換基として持ち,架橋剤としてジビニルベンゼンが用い
られており,イオン交換容量は 10.23 mol/kg-dry resin で
あった。この樹脂を 1 mol/l の NiSO4 水溶液に NH3 aq.を
CH
過剰に加えてアンモニウム錯イオンにした水溶液で一昼
を調製した。Ni 型樹脂 は, 真空乾燥後, 窒素気流中
CH2
CH2 CH CH2 CH CH2
COOH
CH3
CH3
CH
CH2
CH2 CH
2 CH
COOH
夜処理することにより,イオン交換を実施し,Ni 型の樹脂
CH
COOH
図-2 使用したイオン交換樹脂の構造図
10 ℃/min で 500 ℃まで加熱してから 20 分間保持するこ
とによって炭素化し,Ni/C 触媒を調製した。
調製した触媒は,全自動吸着量測定装置を用いて窒素の吸着等温線を測定して,BET 表面積および細孔径分布を算
出するとともに,X 線回折パターンから触媒金属の形態と結晶化度を検討した。
2)水熱ガス化実験
図3に水熱ガス化装置の概略を示す。実験は 20 MPa と
Back-pressure regurator
いう高圧で行ったので,配管は全て SUS316 を使用した。
Pre-heater
Gas bag
反応器はスエッジロック製の継ぎ手を用いて,0.5~1 g の
触媒を SUS の焼結フィルター付ガスケットで挟み込んで作
LC pump
成した。あらかじめ,0.5 µm の親水性テフロンフィルターで
ろ過して固体分を除去した廃水を,液クロ用高圧ポンプで
0.5~1.0 cc/min で反応器に送液した。反応器は,反応温
Liquid trap
度に保たれた流動浴層中で均一な温度になるように加熱
され,反応器の後ろに設置した背圧弁で 20 MPa になるよ
うに圧力を調整した。反応器を通過した液は,氷水で冷却
Catalyst(0.5~1 g)
後,背圧弁を通して排出され,排液トラップに採取した。生
Wastewater
Air
成ガスは,排液トラップで液と分離され,ガスバッグに採取
図-3 水熱ガス化装置
した。実験は,純水を通液して定常状態になってから,廃
水に切り替え 30 分間廃水を流した後に再び純水に切り替
えた。このようにして,廃水の供給量を正確に測定することにより,物質収支を正確に取れるようにした。
得られた処理水は,全有機炭素計によって,廃水中の有機物の炭素転化率を算出し,生成ガスはガスクロマトグラフで
水素,一酸化炭素,二酸化炭素,メタンおよび炭化水素ガスを分析した。
■ 研究成果と考察
1)調製した Ni/C 触媒のキャラクタリゼーション
図4に Ni/C 触媒の SEM 写真,図5に Ni/C 触媒の XRD パターンを示す。Ni/C 触媒はもとのイオン交換樹脂の形状を
保っており,直径 0.3 mm 程度の球状であることがわかる。表面には 1 µm 程度のマクロ孔が存在しており,さらに~10 nm
の細孔があることが窒素の吸着等温線よりわかっている。なお,BET 表面積は 170 m2/g であった。XRD パターンからは,
Ni のみのブロードなピークが見られるが,XPS からも含まれている Ni 元素はほぼ全て金属 Ni であることがわかった。この触
媒の Ni 含有率は,触媒を燃焼させて生成する灰分量から推算したが,45 wt%にもなることがわかった。このことから,調製
94
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
した Ni/C 触媒は,炭素多孔担体に多量の金属 Ni が非常に高い分散で存在しており,触媒として非常に高い活性を持つ
ものと期待できる。なお,触媒中の Ni はほぼ金属の状態であったので,炭素化後は水素還元などの処理を一切せずに,そ
のまま触媒として使用した。
Intensity [a.u.]
Ni
5µm
Ni
20
30
40
50
60
2θ angle [degree]
100µm
図-4 Ni/C 触媒の SEM 写真
図-5 Ni/C 触媒の XRD パターン
2)種々の水溶性有機物の水熱ガス化特性
図6に酢酸,ショ糖,フェノール,水溶性リグニンの水熱ガス
4
H2
CH4
CO2
化における各生成物の収率を示す(炭素濃度:600 ppm)。ガス
MPa であるので,水の状態は 10 MPa では水蒸気,20 MPa では
水になっている。10 MPa では,酢酸,フェノールはほぼ完全に
ガス化され,生成物はほぼ水素と二酸化炭素であった。しかし
ながら,リグニンについては炭素転化率(メタン収率+二酸化炭
素収率)は 70 %程度にとどまっている。この時,反応後に固形成
分が触媒層の下に析出しているのが確認でき,水が水蒸気に
Yield [ mol/mol-carbon ]
化温度は 350℃であるが,この温度における飽和蒸気圧は 16.5
3
2
H2
1
CH4
なることによってリグニンの不揮発成分が固体となって析出して
CO2
しまうことがわかった。反応圧力を 20 MPa にすると,このような
析出を抑制でき,リグニンでもほぼ完全にガス化することに成功
した。生成ガス組成を比較すると,反応圧力で大きな違いが見
られた。10 MPa ではほぼ水素と二酸化炭素であったのが,20
MPa ではメタン,水素と二酸化炭素となり,メタン収率は 25~
0
V L
lignin
V L
sucrose
V L
AcOH
V L
phenol
V:10 MPa, L:20 MPa
図-6 各種有機物の水熱ガス化における生成ガス収率
40 %であった。これは,10 MPa では水が水蒸気で存在するため
に,反応式(1)で示される反応の平衡が右側にシフトするために平衡組成がほぼ水素と二酸化炭素になるものと推測され
た。このように,反応温度でも析出しない成分であれば,反応時の水の状態を変化させることで,生成物組成を制御できる
可能性が示唆された。
CH4 + 2H2O ⇔ 4H2 + CO2
(1)
95
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3)実有機廃棄物の可溶化処理液の水熱ガス化特性
120
乳酸発酵残渣を 300 ℃で処理して可溶化させた試
料(処理時間は 3, 5, 6.8 分)を用いた。図7にそれぞれ
100
Carbon distribution[%]
の試料の水熱ガス化結果を示す。温度は 350 ℃,圧力
は 20 MPa である。いずれの可溶化処理条件において
も,TOC はほぼ 10000 ppm であった。図7を見ると,可
溶化の条件でガス化率が大きく異なった。処理時間が
最も短かった3分の場合,90 %以上がガス化され,燃
料ガスである水素とメタンが 50 %程度のガスが得られ
た。処理時間が長くなると,炭素転化率は低下し,処理
80
60
40
20
時間 6.8 分では 35 %程度であった。TOC は処理時間に
よらすほぼ同じであったことを考えると,可溶化の処理
H2
CH4
CO2
TOC
0
Sample
時間が長くなると可溶化率は変わらないが,含有される
3min
5min
7min
Time of heat treatment
有機物がガス化活性の乏しい形態に変化していくもの
図-7 可溶化処理時間が生成ガス収率に及ぼす影響
と考えられる。
図8,9に可溶化処理液(A,B)をニッケル/炭素触
媒を用いて水熱ガス化したときの,各成分の収率を示す。先に検討した可溶化処理液では,生成ガスが水素,メタン,炭化
水素ガス,二酸化炭素で液中の炭素はほぼ全て有機炭素であった。今回用いた可溶化処理液Aの液中での無機炭素濃
度(IC)は,90 mg/l と有機炭素の 1 %にも満たないのにもかかわらず,処理後の液には全炭素量のうち 30 %程度が IC と
して分析された。種々の検討により,この IC は処理水に溶解した CO32-であり,ガス化によって生成した二酸化炭素が溶解
していることが明らかとなった。さらに処理水を分析したところ,NH4+が存在しており,(NH4)2CO3 が溶解していると考えられ
た。処理前の可溶化液の pH は7であり,NH4+は存在していなかったと考えられるので,可溶化液中に存在していた窒素を
含む成分が,ガス化されることによってアンモニアとなり,それが処理水に溶解し,同時にガス化で生成した二酸化炭素を
溶解させたと考えられた。先に述べたように,全炭素中の 30 %が IC として処理水に溶解していたことを考えると,可溶化
液A中の成分が非常に窒素分に富んでいることがわかった。
ガス化に伴う炭素転換率を見ると,300 ℃,LHSV=50 h-1 の時には 75%程度であったが,350 ℃ではほぼ完全にガス
化できた。処理量を増加させ,LHSV=100 h-1 というさらに厳しい条件であってもほぼ完全にガス化でき,窒素分を多量に含
む有機物であっても高速にガス化できることがわかった。LHSV=100 h-1 ということは,100 t/day を処理するのに必要な反応
器体積が 42 l でよいということであり,非常に高速に処理できることを示している。また,生成ガス組成を見ると,これまでの
試料では CH4:CO2 がほぼ 1 であったのが,CO2 が一部処理水に溶解したため,生成ガス中の CO2 の割合が大きく減少し,
20 %程度になっている。これは,逆に生成ガスの 80 %が可燃性ガスであることを示しており,生成ガスのカロリーが大きく
向上している。このように,窒素を含む有機物をガス化した場合,窒素分がアンモニアに転化されるため,生成した二酸化
炭素を処理水中に固定することができ,生成ガスのカロリーが大きく向上することがわかった。
96
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
可溶化処理液Bについても,窒素が有機物の中に含まれているために,可溶化処理液Aと同様,カロリーの高い燃料ガ
スに転換することができた。反応性を見ると,300 ℃,LHSV=50 h-1 で完全にガス化できており,可溶化処理液Aよりも反応
性の高いことがわかった。LHSV=10 h-1 まで低くすれば,275℃でもほぼ完全にガス化できており,溶解工程の処理条件で
ガス化反応性が大きく異なることが分かった。
可溶化処理液 A
可溶化処理液 B
1.5
1.5
20 MPa
HCG
CH4
0.5
H2
HCG
CH4
CO2
IC
1.0
Yield [mol/mol-C]
Yield [mol/mol-C]
H2
1.0
20 MPa
H2
HCG
CH4
CO2
IC
0.5
CO2
IC
0.0
0.0
Temp[℃]
LHSV[h-1]
350
100
350
50
350
30
Temp[℃]
LHSV[h-1]
300
50
図-8 可溶化液 A の水熱ガス化における各生成物収率
300
50
275
50
250
50
250
10
図-9 可溶化液 B の水熱ガス化における各生成物収率
4)高濃度有機酸の水熱ガス化特性
本研究で想定している水熱ガス化プロセスにおい
率に大きな影響を及ぼす。有機物の濃度が低いとガ
収できるエネルギーも低くなる。そのため,高い濃度
の有機物でもガス化する必要がある。言い換えれば,
高濃度の有機物をガス化できれば,プロセスの熱効
率が向上し,廃水処理という観点だけでなく,エネル
350 ℃
20 MPa
0.8
Carbon conversion [-]
ス化によって得られる燃料ガス量が少なくなるので回
1.0
Carbon conversion
0.6
0.4
0.4
CO2
0.2
0.2
H2
0.0
に 15 wt%の酢酸水溶液を水熱ガス化した時の結果を
0.0
6
8
10
12
14
16
18
20
-1
示す。図は LHSV に対して,炭素転化率と各ガスの
度が 600 ppm の時には完全にガス化されていたが,
0.6
CH4
ギーの生産プロセスとして考えることができる。図 10
収率をプロットした。LHSV が 20 h-1 の場合,酢酸濃
0.8
Gas yield [mol/mol-C]
1.0
て,水中の有機物の濃度(発熱量)がプロセスの熱効
LHSV [h ]
図-10 高濃度酢酸の水熱ガス化特性に及ぼす LHSV の影響
高濃度になると炭素転換率が低下し,0.5 程度であっ
た。しかしながら,LHSVを下げると炭素転換率も向上し,LHSV が 8 h-1 の場合はほぼ完全にガス化された。この時の生成
ガスの主成分はメタンと二酸化炭素であり,ほぼ同程度得られた。このように,有機物の濃度が高くなると炭素転換率は低く
なるが,LHSV を下げることによりほぼ完全にガス化されることがわかった。
97
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
5)触媒の耐久性の検討
図 11 に本触媒の耐久試験の結果を示す。試料液と
1.0
LHSV=50 h-1 の条件で各温度で実施した。300 および
350 ℃においては,50 時間の間ほぼ完全にフェノール
をガス化することができた。ここには示していないが,生
成ガス組成も 50 時間の間ほぼ変化がなく,活性を維持
できていることがわかった。275℃では,反応初期に炭
Carbon conversion [-]
しては,TOC2400 ppm のフェノール水溶液を用い,
0.8
300 ℃
350 ℃
0.6
275 ℃
0.4
P=20 MPa
-1
LHSV=50 h
0.2
素転化率がやや低下し,わずかに活性が落ちているが,
0.0
その後はほとんど低下がないことがわかる。今回の耐久
0
10
試験では,50 時間と短い時間の試験しか実施できなか
20
30
40
50
Time [h]
ったが,50 時間で見る限りは,ほとんど活性の低下が見
図-11 フェノール水溶液を用いた触媒の耐久試験
られず,耐久性のある触媒であると言える。
6)プロセス設計
図 12 に本プロセスの物質収支と熱収支を示す(廃水中の水 1000 kg を基準に計算した)。原料となる可溶化処理済廃水
は,乳酸発酵残渣を 300 ℃で処理した可溶化液のデータを用い,TOC:10000 ppm の C5H10O2 とした。なお,分子式は,
可溶化液を乾燥させた後の固体分の元素組成から推定した。また,有機物の含有率は 1.7 wt%と低いので,水は反応によ
り消費されないとした。300℃で可溶化処理を受けた可溶化液は,350℃まで加熱され,触媒反応器に導入される。反応器
では 40 MJ 程度吸熱反応となり,350 ℃で反応器から排出される。反応器出口のガス組成については,平衡組成のものを
用いた。反応器出口の処理水は,350℃であるので,可溶化処理の加熱(20→300 ℃)に使用すると,94℃まで冷却される
ことになる。その後気液分離工程を経て,CH4: 56 %, H2: 10 %, CO2: 34 %の燃料ガス 22.7 m3 が得られる。この生成ガスの燃
焼熱は 439 MJ であり,ガス化装置に導入するための熱と反応熱をまかなえると言える。つまり,可溶化工程を含めても,他
からエネルギーを加える必要がないプロセスである。また,活性炭製造プロセスでは,より高温の廃熱があるので,それを利
用すれば,本プロセスからエネルギーを生産するプロセスになりうる。
有機廃棄物
CH4 : 56%
22.7 m3
24 MJ
H2 : 10 %
CO2 : 34%
439 MJ
1249 MJ
可溶化処理
水熱ガス化装置
350℃, 20 MPa
300℃
20 MPa
C2H5O2: 17 kg
H2O: 1000 kg
310 MJ
CH4: 8.29 kg
H2: 0.19 kg
CO2: 13.86 kg
H2O: 1000 kg
図-12 本プロセスの物質収支と熱収支
98
気液分離装置
94 ℃
1249 MJ
処理水
1000 kg
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 成果の発表
原著論文による発表
国外誌
1.
H. Nakagawa, A. Namba, M. Boehlmann, K. Miura: “Hydrothermal Treatment of Brown Coal for Upgrading
and the Treatment of its Wastewater Using Catalytic Hydrothermal Gasification to Recover Fuel Gas”, Fuel,
83, 719-738(2004)
口頭発表
1.
K. Miura, H. Nakagawa, M. Miwa, T. Tamura: “Production of Hydrogen and/or Methane through Gasification
of Aqueous Organic Solution by Use of a Nobel Ni-supported Carbon Catalyst at Less Than 350 ℃”, Hong
Kong, Proc. 17th Int. Symp. on Chemical Reaction Enginneering, 2001.6
2.
H. Nakagawa, A. Namba, M. Boehlmann, K. Miura: “Treatment of Wastewaters from Dewatering Process of
Brown Coal by Use of a Novel Ni-supported Carbon Catalyst”, New Orleans, Preprint of 255th ACS National
Meeting, 2003.4
3.
H. Nakagawa, A. Namba, T. Kato, T. Chin, K. Miura: “Hydrothermal Gasification of Brown Coal Derived
Organic Compounds by Use of a Novel Ni/Carbon Catalyst”, Pittsburgh, Proc. 20th Int. Pittsburgh Coal
Conference, 2003.9
4.
前一広,三和正宏,中川浩行,三浦孝一:「バイオマスモデル物質の低温水熱ガス化特性」,札幌,化学工学
会第 34 秋季大会,2001.9
5.
中川浩行,田村朋一郎,三和正宏,三浦孝一:「水溶性有機物の接触分解」,大阪,日本エネルギー学会関
西支部第 46 回研究発表会,2001.11
6.
三和正宏,中川浩行,田村朋一郎,三浦孝一:「各種有機物の高圧熱水中におけるガス化特性の検討」,福
岡,化学工学会第 67 年会,2002.3
7.
難波明生,中川浩行,加藤拓,三浦孝一:「新規金属担持炭素触媒を用いた実廃水の水熱ガス化による燃
料ガスの回収」,東京,化学工学会第 68 年会,2003.3
8.
難波明生,中川浩行,M. Boehlmann,三浦孝一:「新規金属担持炭素触媒を用いた水熱ガス化による工業廃
水からのエネルギー回収技術の検討」,仙台,化学工学会第 36 回秋季大会,2003.9
9.
M. Boehlmann,中川浩行,三浦孝一:”Hydrothermal, Catalytic Treatment of Biomass and Coal Derived
Wastewater”,福岡,第 40 回石炭科学会議(日本エネルギー学会),2003.10
99
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.2. 鉄触媒による有機廃棄物由来水溶液からの石油関連製品の生産
2.2.1. 鉄触媒による可溶性有機物からの石油関連製品の生産
北海道大学大学院工学研究科材料プロセス工学講座
増田 隆夫
■要 約
消化汚泥を亜臨界で可溶化すると有機物質とアンモニアが生成する。この可溶化有機物質をケトンに転換するための新
規な鉄系触媒を開発した。本触媒上で水分子が分解して活性酸素と活性水素を生成し、これらが有機物の酸化分解を促
進する。250~300℃の加熱水蒸気雰囲気で可溶性有機物から、炭素収率 80%でアセトンを生成することに成功した。得ら
れたアセトンは常圧下 400~450℃でゼオライトナノクリタル触媒上を通すことでベンゼン、トルエンとキシレンに転換できる
ことを見出した。一方、消化汚泥を可溶化する際に窒素分はアンモニアになる。このアンモニアを水蒸気雰囲気下、量論
的に窒素と水素に分解する高分散ニッケル触媒を開発した。
■目 的
下水処理場に集積される汚泥は、消化槽を有する処理場では、消化ガスを発生させた後の消化汚泥を、消化槽を有し
ない処理場では未処理の汚泥を、含水率 98%を 80%まで脱水する。その後、脱水ケーキは埋設や焼却処理され(一部の地
域ではセメント工場で処理)ている。埋設では土地の確保が困難であること、焼却処理では膨大なエネルギーを消費し、そ
のエネルギー発生のために多くの CO2 を発生させている。一方、全国で発生する汚泥が持つ潜在エネルギーは原子力発
電所の数基分に相当する。そこで、汚泥を廃棄物ではなく資源と捉え、その資源化に必要な技術開発が望まれる。これら
技術開発が進めば、汚泥処理に関連する環境・エネルギー両面の問題を同時に解決することができる。
そこで、第二班では、下水汚泥の石油関連製品の製造プロセスを提案した。本プロセスの概要を図-1 に示す。本プロセスは、①下水汚
泥からの消化ガス生成、②消化汚泥の可溶化、③脱灰と可溶化有機物の濃縮、④可溶化有機物のケトン化、⑤ケトンの芳香族化、⑥可溶
性有機物のガス化、⑦消化汚泥可溶化時に生成するアンモニアからの水素製造、⑧乳酸発酵残渣と固形物からの活性炭製造、から成っ
ており、当該研究者は上記④、⑤と⑦について要素技術開発を目的として研究を実施した(図中、該当するフローを太線で示した)。
■ 研究方法
(可溶化有機物のケトン化)
消化汚泥を 250~300℃の亜臨界水中で処理すると汚泥中の炭素のおよそ 80%が有機物として可溶化する。その有機物
をアセトン等のケトン類に転換することを目的として研究を実施した。
反応は酸化分解によって進行する必要がある。そこで、300℃以下の温度で、水を分解して活性酸素種を生成する Zr を
助触媒とした FeOx 触媒の調製を試みた。さらに、本触媒に Al を導入して熱安定性を高めることで、Zr/Al-FeOx 触媒を開
発した。触媒の物理化学的解析は XRD、メスバウアー分析、ICP、窒素吸着、TEM、水の TDS 分析により行った。また、触
媒の熱安定性は、常圧残油の水蒸気分解反応を実施する加速劣化試験により評価した。
ケトン生成反応は回分式オート-クレーブ(図-2)、常圧流通式触媒充填層型反応器(図-3)およびベンチスケールの加
圧流通式触媒充填層型試験装置(図-4)を用いて実施した。温度は 250~300℃、圧力は常圧~8MPa である。回分式反
応器では触媒のスクリーニングと反応条件の最適化を実施した。流通式反応器では、連続処理の可能性を検討した。
反応原料としてモデル原料である乳酸ナトリウムと、日明下水処理場(北九州市)の消化汚泥を 300℃亜臨界処理して
100
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
101
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
得た可溶化有機汚泥(含水
率 98%:産総研九州センター
圧力センサー
の柴田氏より供与)を用いた。
反応生成物は、ガスクロマト
グラフで分析した。
また、長期の反応で触媒被
N2
毒の可能性がある Ca2+、PO43-
た反応原料を用い、反応を実
熱電対
施するとともに劣化触媒の物
理化学的特性の変化を測定し
電気炉 攪拌槽型反応器
た。さらに、これら被毒物質の
除去法について検討した。
ガスパック
反応温度 : 300℃
反応時間 : 2h
反応圧力 :約80 atm
反応液量 : 100g
触媒濃度 : 3wt%
による劣化機構を調べるため、
これら物質を所望の量添加し
パージ
安全弁
熱電対
断熱
カバー
昇温前のみ
流量調節
バルブ
図-2 回分式オートクレーブ型反応器(スラリー反応)
(ケトンの芳香族化)
ケトンの芳香族化は脱水反応を経由するため、高
流量計
活性な固体酸触媒であるゼオライトが有効である。ま
た、細孔内の物質移動抵抗を低減するためにナノクリ
スタルのゼオライトが望ましい。そこで、珪酸ナトリウム
N2
432K
と硫酸アルミニウムを原料とし、水熱合成の条件を最
適化することによりナノクリスタルの MFI ゼオライトを調
触媒
熱電対
573K
製した。得られたゼオライトは 500-550 ℃で空気焼成
することで実験に用いた。
パージ
473K
芳香族化反応は流通式反応器とベンチスケールの
流通式の試験装置(図-5)を用いて行った。反応圧力
ガスパック
は常圧、温度は 400℃である。生成物はガスクロマトグ
氷+水
ラフで分析した。反応原料として水蒸気とアセトン蒸気
コンデンサー
図-3 流通式反応装置
が等モルの混合ガスを用いた。
(アンモニアからの水素製造)
触媒には活性と耐久性を高めた多孔体担持ニッケル触媒を用いた。
アンモニア分解反応は流通式固定床反応器を用い、常圧、300℃~450℃の条件下で行った。反応ガスには水蒸気-
NH3-Ar 混合ガスを用い、生成ガスの分析はオンラインのガスクロマトグラフで行った。
■ 研究成果
(可溶化有機物のケトン化)
本研究で開発した鉄系触媒上での反応機構を図-6 に示す。水は触媒上の ZrO2 で分解して活性酸素を生成する。生成
した活性酸素が主触媒である鉄上に移動して有機物の酸化分解を促進する。そのため、触媒活性は水の分解能に大きく
依存する。そこで、水の分解能を調べるため TDS 分析を行い、触媒上に前もって吸着させた水の分解によって生成する水
素の発生速度を測定した。その結果を図-7 に示す。図より Zr を担持した鉄系触媒は可溶性有機物の酸化分解反応温度
で水から水素を生成する。水素が生成することから水が分解して活性酸素が生成することが分かる。
102
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-4(a) ベンチスケールのケトン化装置
図-4(b) ベンチスケールのケトン化装置の制御部
103
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-5 ベンチスケールの BTX 化装置
これらの触媒を用いて 523 K の水熱条件下、乳酸アンモニウムをモデル反応物質として 2 h 反応させたときの生成物の
組成を図-8 に示す。図-7 より 523 K では Zr 未担持の触媒は水分解能を示さないが、Zr 担持触媒は水の分解能を示す。
そのため、Zr 未担持の触媒は活性を示さないが Zr 担持触媒が高選択率でアセトンやメチルエチルケトン(MEK)等のケトン
を生成する(図-8)。
触媒の活性種を決めることができたため、次に触媒の安定性を高めることを検討した。長期運転を実施すべきだが、短時
間で行う加速劣化試験によって触媒の評価を行った。そこで、分子中に酸素を含まない重質油(常圧残油)を反応原料とし、
流通式反応器を用いて水蒸気分解反応を 500℃で実施し、反応と再生を繰り返して触媒の活性と特性評価を行った。
104
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
R1 低級炭化水素
O
R2
有機物
ケトンR CR
1
2
R1-OOH
CO2 活性酸素 H2O
R1 R2
O- H
OH
O2 R1 R2
ZrO2
鉄系触媒
鉄触媒
FeOOH
FeOx
H 2O
O
CH2
CH2
CH3
CH3
C
OH + CH3
CH2 C
O
有機酸
O
CH2
C
O
O
C
OH
Zr/FeOOH触媒
鉄 触 媒
O
可溶性有機物
C
=
CH3
=
2CH3
CH3 + 2CO 2
=
CH3
OH
=
2CH3 CH2 C
OH
=
CH2
=
CH3
活性酸素
O* O* O*
+ CO 2
CH3
O
ケトン
Desorption rate / mmol・kg-1・K-1
図-6 鉄系触媒上での反応機構
0.005
反応温度
523~573 K
H2
水のTC: 647K
H2O
O
Zr
O
Fe
0.004
H
Zr(a)/Fe
0.003
H2O
H
O
H
0.002
Zr(b)/Fe
0.001
0
300
O
H2
H
O
Fe
O
Zr
Fe
400
500
T/K
600
700
O2- O
H Zr
O
Fe
図-7 水分解による触媒からの水素生成速度(昇温速度 60 K min-1)
105
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
dfC30+ /d(W/F) = -kC30+fC30+2
0.3
acetaldehyde
分解速度定数 kC30+ / h-1
カルボン 酸
無触媒
FeOx
others
Zr/FeOx
acetone
MEK
図-8 水熱条件下での乳酸アンモニウムの反応
Zr/Fe 前処理温度
773 K
0.2
Zr/Fe 873 K
Fe 873 K
0.1
Zr/Fe 973 K
0
0
20
40
60
80
100
Composition / GC(FID) area%
反応温度:773 K
0
1
2
3
4
反応→再生操作の回数 / 図-9 常圧残油の水蒸気分解反応速度定数の経時変化
図-9 はその際の反応速度定数の変化を示す。ただし、反応は 2 次反応である。図中 W は触媒量、F は重質油の供給速
度、fC30+は常圧残油中の炭素数 30 以上の成分の重量分率を表す。主な反応ガスは CO2 であり、水素も副生する(無触媒
では CO2 と水素は生成しない)。そのため、反応は、図-7 の酸化分解と同じ機構で進んでいる。反応と再生を繰り返すと触
媒は劣化し、Zr 無担持と同じ活性まで低下する。
劣化要因を調べるため、反応前後の触媒の TEM 写真
を観察した(図-10)。反応と再生を繰り返すと主触媒であ
る酸化鉄の構造変化が進行し、担持した Zr が剥離するこ
Zr/Fe 使用前
とが分かった。これが劣化の要因である。Zr の剥離による
水分解能の変化を調べるため TDS 分析を行った(図-11)。
図-10 から予測されるように水素発生量が大きく低下して
いる。そのため、水からの活性酸素生成能が小さくなるこ
とから触媒活性が低下する。
50nm
H2生成速度 / mmol kg-1 K-1
0.06
Zr/Fe 3 回反応後
反応に関与
0.04
使用前
0.02
0
300
50nm
反応温度
773 K
Zr/Fe
1回反応後
500
700
900
T/K
図-10 加速劣化試験前後の Zr/Fe 触媒の TEM 写真
106
図-11 Zr/Fe 触媒の加速劣化試験前後の吸着水の
分解による水素生成速度
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
分解速度定数 kC30+ / h-1
0.3
Zr/Fe-Al 使用前
反応温度:773 K
前処理温度
Zr/Fe-Al 873 K
0.2
Zr/Fe-Al 773 K
Zr/Fe-Al 873 K
再生なし
0.1
Zr/Fe-Al 973 K
0
0
1
2
3
4
50nm
5
反応→再生操作の回数 / 図-12 安定性を向上した触媒の常圧残油の
水蒸気分解反応速度定数の経時変化
Zr/Fe-Al 3回反応後
そこで、構造安定性を高めるため酸化鉄に Al を導入して
Zr/Fe-Al 触媒を調製した。この触媒を用いて反応と再生を繰り返
し、活性変化を測定した結果を図-12 に示す。活性は反応と再生
を繰り返すと徐々に高くなる。XRD パターンと細孔容積分布より、
微細孔が発達し、表面積が徐々に大きくなるためであることが分
かった。さらに、Al の導入により触媒を構成する Fe の結晶子のサ
イズが小さくなり、その結果大きな構造変化が抑えられ、Zr の剥
50nm
離が抑制されることが判明した。実際に、水の TDS 分析を行った
ところ、加速劣化試験による水素の生成量減少が抑えられている
図-13 加速劣化試験前後の Zr/Fe-Al 触媒の TEM 写真
ことが分かった(図-14)。
触媒への Al の導入が有機物の分解特性に与える影響を調
べるため、Zr/Fe 触媒と Zr/Fe-Al 触媒を用いて乳酸アンモニウ
-15 に示す。触媒に Al を導入することで反応速度定数は僅か
3%低下するだけである。また、選択率も差異は無く、触媒の反
応特性には Al は影響せず、触媒の構造安定性を高めることが
できることが分かった。そこで、以後は Al を導入した Zr/Fe-Al
触媒を用いることとした。
次に、触媒の長期使用に対して、可溶性有機物中に含まれる物
質の中でNH4+、Ca2+とPO43-の触媒に対する被毒の影響を調べた結
果を図-16に示す。反応原料は乳酸である。図中、k、k0 は反応速度
定数(一次反応)を表し、添え字0 は被毒物質を含まないときの値で
ある。一方、横軸は反応原料中の被毒物質の濃度を表す。図より
Ca2+と PO43-による被毒の影響が最も大きいことが分かった。
そこでこの二つを乳酸アンモニウム水溶液に 20 mol m-3 添
0.06
Zr/Fe-Al
H2生成速度 / mmol kg-1 K-1
ムの反応を 300℃の水熱条件で実施した。その時の選択率を図
反応温度
773 K
反応に関与
0.04
使用前
0.02
0
300
1回反応後
500
700
T/K
900
加し、反応前後の触媒の細孔容積分布を測定した(図-17)。
図より、PO43-では細孔容積分布に変化が無く、触媒活性点上
に吸着することがわかる。一方、Ca2+では細孔容積が大きく低
下しており、細孔閉塞の影響が大きい。そこで、二つの被毒物
107
図-14 Zr/Fe-Al 触媒の加速劣化試験前後の吸着水の
分解による水素生成速度
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
質の除去法について検討を行った。
3
kZr/Fe/kZr/Fe-Al = 1.03
PO43-
100
選択率/%
80
k0/k / -
MEK
Ac
2
Ca2-
60
40
EtOH
20
0
Zr/Fe触媒
NH4+
1
CH3CHO
0
0
20
Zr/Fe-Al触媒
40
60
80
100
120
被毒濃度: Cp/mol m-3
図-15 乳酸アンモニウムの反応の選択率
図-16 触媒活性の劣化速度
可溶性有機物からの Ca2+の除去では CO2 を導入し、CaCO3
8
として沈殿させることを試みた。しかし、50 h の間 CO2 を通気し
PO43-含有
ても、Ca2+の 40%が沈殿するだけであった。そこで、リン酸のペ
6
dVp/dRp
ロブスカイト、Ca5(OH)(PO4)3、を生成することで Ca2+と PO43-の
同時除去を行うこととした。図-18 は消化汚泥由来の可溶性有
機物について実施したときの処理前後の液中の PO43-と Ca2+
の濃度を示す。Ca5(OH)(PO4)3 が量論量生成するように Ca2+を
未被毒
4
2
若干加え pH を 11 にすることで、Ca2+と PO43-を Ca5(OH)(PO4)3
Ca2+含有
の沈殿物にして除去できることが分かった。
0
しかし、プロセスの外乱で被毒物質が触媒と接触する場合
1
10
Rp/nm
が想定される。そこで、触媒の再生法について検討を加えた。
PO43-を 120 mol m-3(消化汚泥由来の可溶性有機物中濃度の
100
図-17 反応前後の触媒の細孔容積分布
約 10 倍)含む乳酸アンモニウム溶液を用いて反応し、被毒し
た Zr/Fe 触媒を pH の異なる KOH 水溶液に浸し、触媒に残存する PO43-量を測定した結果を図-19 に示す。尚、PO43-の
吸着量は ICP によって分析した。図より、pH を 11 以上にすることで PO43-の 2/3 を除去できることが分かった。
PO43-
可溶性有機廃液
Ca2+
Ca(OH)2処理
(処理水pH未調整)
Ca(OH)2処理
(処理水pH11)
※CO2バブリングによる
Ca2+除去効果は認められず
0
3
6
9
被毒物質濃度Cp
108
/mol -3
m
12
15
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-18 PO43-と Ca2+の同時除去
8
能であるが、長期運転を想定すると微量でも被毒物質
と触媒が直接接触することを避けることが好ましい。そ
こで、スラリー反応ではなく、加熱水蒸気雰囲気下で
反応を実施した。回分式反応器を用い、汚泥由来可
溶性有機物を原料に用いて反応実験を行ったときの
生成物の炭素収率を図-20 に示す。無触媒の時と比
較し、FeOx 触媒を用いることでアセトンの収率が向上
することが分かる。さらに、水分解能を有する Zr を担
付着量×10-5 / mol-P-2m
以上のように、被毒物質の除去と触媒の再生は可
6
4
2
持した Zr-Fe 触媒では、予想されたようにアセトンの収
0
率は飛躍的に向上し、80%以上に達した。
6
以上の結果を基に、実証試験装置による反応実験を
8
10
12
14
洗浄液pH
実施した。触媒は熱的安定性を高めた触媒(Zr/Fe-Al
図-19 触媒に吸着した PO43-の除去
触媒)を用いた。原料として北九州市の日明下水処理場
の消化汚泥を可溶化(産総研急州センターの柴田氏よ
り供与)した液を用いた。原料液と得られた液の写真を
無触媒
酢酸
図-21 に、生成物質の炭素収率を図-22 に示す。黒い
可溶性有機物水溶液から淡黄色の透明の液が得られた。
また、アセトンが 80%の高い収率で得られており、その値
FeOx
アセトン
は回分式反応器の結果(図-20)とほぼ同じである。さら
に、図-22 の結果は、被毒物質である PO43-と Ca2+の除
Zr-Fe
去を行っていない可溶性有機物を原料としている。触媒
劣化が見られていないが、これは触媒充填層上部に原
0
料液が供給されるため、被毒物質が充填層の上部に蓄
20
40
60
80
収率/%
積し、触媒層に到達していないためである。長期の運転
図-20 加熱水蒸気下の実汚泥由来可溶化液の
ケトン化の炭素収率
を考えると、本研究で見出した原料液からの被毒物質の
除去操作が必要と考えられる。
酢酸
T=523 K
生成液
図-21 消化汚泥由来可溶性有機物と生成液
MEK
アセトン
0
可溶性有機物
100
20
40
60
80
100
C-収率/%
図-22 消化汚泥由来可溶性有機物の反応の生成物質の炭素収率
3.2 ケトンの BTX 化
ケトンの芳香族化には新しいナノクリスタル MFI 型ゼオライト触媒(図
-23)が高活性であることが分かった。
そこで、触媒の活性点分布が反応活性に与える影響を 673 K で調べ
た結果を図-24 に示す(Si/Al 比が小さいほど、活性点密度が反比例し
て高くなる)。ただし、反応原料はアセトン/steam=1、SV=4.32 h-1 で
ある。図より酸点密度が高いほど耐劣化能が良いことがわかる。
100nm
次に高活性な Si/Al=25 の触媒を用いて反応温度の影響を調べた
結果を図-25 に示す。温度の上昇と共に活性は高くなり、673 K 以上で
109
図-23 ゼオライトナノクリスタル触媒の SEM 写真
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
は高活性を維持する時間はほぼ同じである。
Acetone conversion [%]
100
Si/Al=25
80
Si/Al=75
60
40
20
Si/Al=100
0
0
5
10
15
20
25
30
Time on stream [h]
図-24 アセトン分解活性の反応率に与えるゼオライト中の Si/Al 比の影響
Acetone conversion [%]
100
80
673K
60
40
723K
623K
573K
20
0
0
5
10
15
20
25
30
Time on stream [h]
図-25 アセトン分解反応の反応率の温度依存性(ゼオライトの Si/Al 比:25)
Monoaromatic yield [%mol carbon]
100
80
673K
60
723K
40
623K
20
573K
0
0
5
10
15
Time on stream [h]
110
20
25
30
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-26 単環芳香族収率の温度依存性(ゼオライト
そこで、目的物質である単環芳香族(ベンゼ
調べた結果を図-26 に示す。図より、673 K を越
えると、収率が低下する。また、脱アルミによる
触媒劣化が進行する可能性があるため、図-25
4.2
Toluene
WHSV [ hr-1]
ン、トルエン、キシレン)の収率の温度依存性を
other hydrocarbons (<C6)
Yield (30%)
の Si/Al 比:25)
Xylene
other
mono-aromatics
Yield (40%)
の結果を併せて、反応温度は 673 K が好ましい
と考えられる。また、その温度では単環芳香族
0.4
の収率は 60%を越えることが分かった。
Benzene
そこで、実証試験装置を用いて 673 K で反
0
応を実施したときの油状成物の組成を図-27
20
に示す。BTX が 60%、単環芳香族全体では
90%以上の組成の油状成分が得られており、
40
60
80
Composition [ %mol carbon ]
100
図-27 アセトンの芳香族化実証試験における油状成分の組成
本技術の有用性が実証された。
3.3 アンモニアからの水素製造
100
触媒1-2
触媒1-2
下水汚泥の処理では消化汚泥中の窒素分
助教授によって消化汚泥の可溶時に窒素分
の多くがアンモニアとして溶液中に溶解する
ことが見出された。そこで、このアンモニアか
ら水素を得ることを検討した。
アンモニア分解用として高分散の Ni 触媒を
開発した。本触媒は水蒸気同伴の条件でも
工業触媒の 4~6 倍の活性を示す。図-28 は
90
Conversion(%)
の処理が問題となっている。中央大学の船造
触媒1-1
触媒1
80
触媒1-1
触媒1
70
T=450 ℃
反応温度:450℃
モル比:mol-H2O/mol-NH3=5
60
50
0
10
開発した触媒の活性の経時変化を示す。触
媒活性は、反応開始初期(0~3 時間)におい
20
30
40
reaction time(h)
50
60
図-28 アンモニアの反応率の経時変化
て僅かに低下するが、その後、50 時間以上一
定の値を示した。
以上の結果より、本研究で開発した触媒は
バイオマス由来の NH3 からの水素生成用触媒として有効であることが示された。
■考 察
本プロジェクトでは汚泥の石油関連製品の製造プロセスのための要素技術開発を行った。そこで、本研究者が所属する
当該グループの研究成果と上記の成果を組み合わせて作成したプロセスの物質収支を図-29 に示す。計算基準は北九州
の日明下水処理場(30 万人対応)の下水汚泥である(本研究者が研究を実施したのはケトン化工程、BTX 化工程と NH3
分解工程である。それ以外の工程は該当研究者の成果報告を参照されたい)。消化工程で発生する消化ガスは消化槽の
加熱に使用した残りとして 13100 m3/d が消化工程以降の工程の加熱に利用される。製品として BTX が 3.54 t/d と水素が
1416 m3/d となる。また、消化ガス以外に燃料ガスが 4918 m3/d 生成する。また、ディスポーザーを導入する場合には下水
の総量の変化は無視小であるが、炭素や窒素分のみが 1.58 倍になる。そのため、消化ガス、生成する BTX、水素、燃料ガ
スが 1.58 倍に増加すると考えられる。
111
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
C分: 11.75
N分: 1.25
消化ガス
13100 m3/d
消化工程
(ディスポーザー使用時は1.58倍)
単位:ton/day
SS:21.42
C分: 5.57
N分: 1.25
灰分: 7.50
可溶化工程
C分: 4.60
N分: 1.25
C分: 4.00
N分: 0.66
NH3
N分: 0.59
濃縮工程
C分: 2.00
N分: 0.33
C分: 2.00
N分: 0.33
ケトン化工程
水熱ガス化工程
NH3分解工程
H2 : 1416 m3/d
燃料ガス
CH4: 48.2 %
H2:24.1%
HC: 7.2 %
CO2:20.5 %
BTX化工程
BTX : 3.54
4918 m3/d
図-29 下水汚泥の石油関連製品化プロセスの物質収支
エネルギー投入
148.6×103MJ/d
エネルギー生産
消化工程
消化ガス
282.1×103
(439.7×103)
エネルギー投入
73.8×103
(116.4×103)
可溶化工程
濃縮工程
消化工程のボイラー効率:70%
それ以後の工程の熱回収:70%
(赤字はディスポーザー使用時)
単位:MJ/d
エネルギー投入
エネルギー投入
3.57×103
(5.63×103)
43.8×103
(69.0×103)
エネルギー投入
37.0×103
(58.2×103)
ケトン化工程
エネルギー投入
0.66×103
(1.06×103)
水熱ガス化工程
エネルギー生産
BTX化工程
製品
燃料ガス
4918 (8002) m3/d
→ 124.6×103 MJ/d
(202.8×103 MJ/d)
NH3分解工程
製品
H2 : 1416 m3/d
(2232 m3/d)
BTX : 3.54 t/d
(5.72 t/d)
t/d)
余剰分:94.3
×103 (243.6×
余剰分:94.3×
(243.6×103) MJ/d
図-30 下水汚泥の石油関連製品化プロセスのエネルギー物質収支
プロセスが成立するためには、消費エネルギーよりも利用可能な生成エネルギーが大きいことが必要となる。そこで、エネルギー
収支を図-30 に示す。図中の()内の数字はディスポーザ導入の場合を表す。図より、製品として BTX と水素が生成し、それに加え
て余剰エネルギーが得られる結果となった。現状システムではエネルギーを投入するとともに、1 トン当たり 1.5~2 万円を支払って
処理していた下水汚泥を、資源として活用し、石油関連製品が生産できる可能性を本プロジェクトの成果によって示すことができた。
112
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
多くの廃棄物では、その資源化において収集の問題が挙げられるが、下水汚泥はその問題が無い。さらに、その潜在エ
ネルギーは日本だけでも原子力発電の数基分に相当する。そのため、汚泥を有用物質へ転換できる技術が開発されれば
下水汚泥を資源として位置づけることができる。本プロジェクトでは、資源化のための要素技術の開発を行った。
可溶性有機物のケトン化では、8 割という高い炭素収率でケトンを得ることに成功し、実証試験装置においても同様の結
果を得た。また、ケトンを水蒸気が共存する条件でガソリンの主成分であるBTX(特にトルエンとキシレン)を高い収率で生
成することに成功した。さらに、消化汚泥の可溶化時に生成するアンモニアから水素を製造することができた。
これら開発した要素技術を実用化に繋げるためには、更に開発すべきいくつかの課題がある。まず、1)可溶性汚泥中の
アンモニアを省エネルギーで回収する方法を検討する必要がある。そして、2)消化汚泥は有機物以外に硫黄も含まれる。
また、亜臨界水処理の際に窒素分の全てがアンモニアに転換されるわけではない。これら硫黄と未回収窒素分の挙動を明
らかにするとともに、無害な形で取り除く技術開発も必要となる。上記1)については、現在研究を進めており、およそ見通し
を得ているが、2)については早急に取り組む必要がある。
■ 成果の発表
原著論文による発表
国外誌
1.T. Masuda, Y. Kondo, M. Miwa, T. Shimotori, S. R. Mukai, K. Hashimoto, M. Takano, S. Kawasaki and S.
Yoshida:「Recovery of Useful Hydrocarbons from Oil Palm Waste Using ZrO2 Supporting FeOOH Catalyst」,
Chemical Engineering Science,56,897-906,(2001)
2.E. Fumoto, T. Tago, T. Tsuji and T. Masuda:「Recovery of Useful Hydrocarbons from Petroleum Residual Oil by
Catalytic Cracking with Steam over Zirconia-Supporting Iron Oxide Catalyst」, Energy & Fuels,投稿中
原著論文以外による発表(レビュー等)
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
増田:「バイオマス廃棄物資源化技術」,NEDO & JCII 次世代化学プロセス技術開発に関する調査研
究,172-187,(2001)
2.
増田:「パーム廃棄物由来廃液からの石油関連製品の製造」, 総合政策提案誌「新政策」,政策総合研究所,特
集号,70-74,(2003)
口頭発表
招待講演
1.
増田:「バイオマス由来廃液からの石油関連製品の生成反応」,大津, 日本食品工学会 2001 年度
第二回年次大会,2001.8.4
2.
増田:「Palm 廃棄物の有用化学物質への転換技術の可能性」,札幌, 触媒学会北海道地区札幌講
演会,2003.12.18
応募・主催講演等
1.
T. Masuda, Y. Kondo, M. Miwa and S. R. Mukai:「Conversion of Oil Palm Waste-derived Fluid to Useful
Hydrocarbons by Using Iron Catalysts」, Osaka, The 8th Japan - Korea Symposium on Catalysis,2001.6
2.
E. Fumoto, T. Tago, T. Tsuji and T. Masuda : Catalytic Cracking of Heavy Oil with Steam over
ZrO2-Supporting FeOX Catalysts」,Paris, The 13th International Congress on Catalysis,2004.7
3.
麓,辻,増田:「鉄系触媒を用いた重質油の水蒸気分解」,札幌,第 11 回化学工学・粉体工学研究発表会,
2002.2
113
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
4.
沢岡,麓,辻,増田:「バイオマス由来廃液の水熱接触酸化分解によるケトン類生成」,神戸,化学工学会第 35
回秋季大会,2002.9
5.
沢岡,麓,辻,増田:「水熱条件下,鉄系触媒を用いた有機廃液からの有用物質の生成」,浜松,第 90 回触媒
討論会,2002.9
6.
麓,辻,増田:「鉄系微粒子触媒による重質油の水蒸気分解反応」,高山,第 32 回石油・石油化学討論会,
2002.10
7.
麓,多湖,辻,増田:「鉄触媒による重質油の水蒸気分解による軽質油の製造」,東京,化学工学会第 68 回年
会,2003.3
8.
麓,沢岡,辻,多湖,増田:「汚泥由来可溶性有機物の水熱条件下の接触反応」,仙台,化学工学会第 36 回
秋季大会,2003.9
9.
麓,多湖,辻,増田:「鉄系触媒を用いた重質油の水蒸気分解による軽質油の製造」,札幌,第 4 回北海道エ
ネルギー資源環境研究発表会,2004.2
10.
麓,多湖,辻,増田:「鉄系触媒を用いた重質油の水蒸気分解」,大阪,第 93 回触媒討論会,2004.3
11.
麓,水谷,多湖,辻,増田:「鉄系触媒による消化汚泥の有用炭化水素への転換」,大阪,化学工学会第 69 年
会,2004.4
特許等出願等
1.
2002.12.4:「廃棄物由来処理由来のアンモニアからのエネルギー回収方法」,増田隆夫,柳瀬哲也,野々川
正巳, 出願人:日本日本ガイシ(株),増田隆夫,特願 2002-352648
2.
「有機性廃棄物からのエネルギー回収法」, 増田隆夫,柳瀬哲也,遠藤正人,出願人:日本ガイシ(株),増田
隆夫,特願 2003-82143
3.
「廃棄物処理由来のアンモニアからのエネルギー回収法」,増田隆夫,多湖輝興,柳瀬哲也,野々川正巳,福
松輝城,出願人:日本ガイシ(株),増田隆夫,特願 2003-399311
4.
「有機性廃棄物からのエネルギー回収方法」,増田隆夫,多湖輝興,柳瀬哲也,遠藤正人,福松輝城,出願
人:日本ガイシ(株),増田隆夫,特願 2004-75697
5.
2000:「有機廃棄物分解用酸化鉄系触媒,その製造方法及び有機廃棄物の処理方法」,増田隆夫,池田裕一,
出願人:日本ガイシ(株)
6.
2004:「ナノ結晶ゼオライトとその製造方法」,増田隆夫,多湖輝興,出願人:東ソー(株),増田隆夫
114
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2. 汚泥を含む有機廃棄物の石油製品化
2.2. 鉄触媒による有機廃棄物由来水溶液からの石油関連製品の生産
2.2.2. 有機廃棄物のメタン発酵によるプロセスエネルギーの供給
北九州市環境科学研究所アクア研究センター
神代 和幸(平成 13 年度)、鈴木 學(平成 14~15 年度)
■要 約
濃縮後の余剰汚泥と消化槽引抜汚泥に対して、現場への適用が比較的容易と考えられる超音波処理を行って改質化し
た後、消化工程(メタン発酵工程)に供すると、消化ガス即ちメタンの収率が現状よりも増大することを回分式及び半連続式
消化実験により確認した。さらに、二酸化炭素の還元反応により、メタン収率を高める検討を行ったが、システムの構築まで
には至らなかった。また、将来直投型ディスポーザが普及した場合の汚泥の負荷増に対し、本市の日明浄化センターの現
消化工程が十分対応できること、またディスポーザ排水に由来するメタン収率の増加が見込まれることを明らかにした。
■目 的
有機廃棄物を亜臨界反応により石油製品に変換する際に必要なエネルギーを廃棄物自体のメタン発酵により供給する
システムを構築するもので、ここでは下水汚泥の持つエネルギーをできるだけ活用するため、消化槽投入汚泥を可溶化さ
せ消化ガス収率を高める前処理方法、消化ガス中のメタンの比率を高める方法、及び将来直投型ディスポーザが普及した
場合の消化工程への影響についての検討を行った。
■ 研究方法
1. 汚泥試料と試験方法
本市日明浄化センターの実施設から採取した重力濃縮後の初沈汚泥(以下「初沈汚泥」)と浮上濃縮後の余剰汚泥(以
下「余剰汚泥」)及び消化槽引抜汚泥(以下「消化汚泥」)を用いた。初沈汚泥は、均一性確保のためホモジナイザー処理
(10,000rpm、15min)を行い、余剰汚泥は、浮上濃縮槽から採取した直後に脱気処理を行った。汚泥は、必要に応じて固
形分(TS と略記)、強熱減量(VS)、溶解性物質、アルカリ度、全有機炭素(TOC)、溶解性全有機炭素(DOC)、アンモニア
性窒素、全窒素、全りんを「下水試験方法」((社)日本下水道協会(平成 9 年))に準じて測定した。発生した消化ガスは、
飽和食塩水で満たしたガス計量槽を用いて、あるいはテドラバッグに捕集して水上置換法で容量を測定し、標準状態に換
算した。また必要に応じ、TCD 型ガスクロマトグラフィによりガス成分の分析を行った。
2. 消化槽投入汚泥の前処理方法の検討
2.1. オゾン及び界面活性剤による汚泥の可溶化処理
消化工程の効率化のためには、先ず消化槽投入汚泥の可溶化を進める必要があると考え、オゾンと界面活性剤による
可溶化効果を検討した。オゾン処理は、オゾン発生器(日本オゾン㈱製 ON-3-2 型、オゾン発生能力 3g/h)で発生したオゾ
ンを、恒温に保った反応塔(内容積 7L のアクリル製円筒柱)に下部からディフューザー方式で導入し、汚泥(初沈汚泥:余
剰汚泥=2:1 で混合)と反応させた。オゾン注入量は、注入した総オゾン量(mg)を、初めに投入した汚泥固形分(g)で除して
表示した。反応条件として、オゾン注入量、加温温度を変えた。また界面活性剤 Tween80 を汚泥に添加し、添加濃度、加
温温度を変えて、可溶化効果を調べた。
115
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
オゾン処理の結果を図1、2 に示す。処理時間が増すにつれて、また総オゾン注入量に応じて溶解性物質が増加した。
また 40℃の加温により可溶化が促進された。一方、界面活性剤処理においては、最大 200mg/L の濃度で処理したが、混
合汚泥(初沈汚泥:余剰汚泥=2:1)及び余剰汚泥のみの場合とも、DOC の増加はわずかであった。また余剰汚泥のみの
場合発泡現象がみられ、操作が困難となることから界面活性剤による可溶化処理は実用的でないと判断した。
80
100
オゾン
加温(40℃)
オゾン+加温
89mg-O3/g-TS
22mg-O3/g-TS
60
2mg-O3/g-TS
増加量(mg/g-VS)
増加量(mg/g-VS)
80
60
40
40
20
20
0
0
0
50
100
150
200
250
300
0
60
120
処理時間(min)
180
240
300
処理時間(min)
図-1 オゾン処理による溶解性物質の増加
図-2 加温条件下でのオゾン処理による DOC の増加
2.2. オゾン及び加温処理した混合汚泥の回分式消化実験
内容積 20L のリアクター(宮本製作所製
12
AF20-2)を用いて、オゾン及び加温処理した
対照1
10
オゾン処理
ターの消化汚泥 2L を加え 40℃、攪拌速度
100rpm で回分式消化実験を行った。結果を
図 3 に示す。当初オゾン及び加温処理による
効果(ガス発生量増加)がみられたが、実験を
ガス発生量(L/L)
混合汚泥 14L に、種汚泥として日明浄化セン
8
オゾン+加温処理
6
4
継続するうち、対照におけるガス発生の再現
2
性に疑義が生じた。そこで実験の再現性及び
0
汚泥の前処理効果の再検討が必要と考え、
対照2
0
3
6
10
13
17
20 21 24 27
経過日数(d)
31
34
38
41
小規模な 500ml の系からなる回分式消化実験
図-3 オゾン処理におけるガス発生量の比較
を行い、オゾン処理による消化ガス発生量へ
の効果を調べた。しかしこの回分式消化実験において、ガス発生量は対照の値を超えなかった。これはオゾン処理の効果
を否定するものではないが、使用したオゾン強度では顕著な効果はないということである。オゾン発生装置の出力に制約が
あり、これ以上の出力増加が見込めないため、他の前処理法を検討することとした。
2.3. 1L リアクターを用いた回分式消化実験における前処理方法の検討
2.3.1. 実験装置と実験条件
2.3.1.1. 実験装置
容量1L の広口ガラス瓶からなるリアクターに、前処理した汚泥を 100ml 投入し、種汚泥として日明浄化センターの消化汚泥
500ml を加え、ゴム栓で蓋をし、ガラス瓶内の気相部を窒素で置換し、36℃の水槽に浸してスターラーで攪拌した。攪拌は液表
面が常に回転し上部にスカムが溜まらないように攪拌子の回転速度を調節した。また、対照として消化汚泥 500ml のみを加えた
リアクターを設置した。ガス発生量の算出に際しては、消化汚泥からのガス発生と投入汚泥からのガス発生は各々独立している
と仮定して、前処理汚泥を投入したリアクターのガス発生量から、消化汚泥のみのリアクターのガス発生量を差し引いた。
116
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2.3.1.2. 実験条件
オゾンに替わる投入汚泥の前処理方法として以下の処理方法を検討した。
超音波(US)処理:汚泥をトールビーカーに 100ml 採取し、超音波破砕機(TAITEC 製 VP-5、20kHz、25W)のホーン部を
汚泥に浸し、スターラーで攪拌しながら、20 分間処理を行った。
加温処理:汚泥を 60℃の恒温水槽中に移し、汚泥をよく攪拌しながら 1 時間加温を続けた。
アルカリ加温処理:20%NaOH 溶液を加えて所定の pH にした後、60℃の恒温水槽中で 20 分間攪拌した。その後、二酸
化炭素ガスを吹き込んで、元の pH まで中和した。余剰汚泥は 100ml につき 20%NaOH 溶液 1.0ml を加えて pH11 とし、
消化汚泥は 100ml につき 20%NaOH 溶液 1.25ml で pH9、2.5ml で pH10 とした。
2.3.2. 投入汚泥の超音波処理による消化ガス発生量の増加
浮上濃縮により多量の空気を含んだ余剰汚泥の超音波処理による見かけ上の変化として、最初は高かった汚泥の粘性
が、5 分で流動化し、10 分で滑らかな回転となり、25 分後には空気の泡の発生がなくなる現象がみられた。処理時間との関
係では、この装置の場合は図 4 に示すように約 20 分までに DOC の急激な増加がみられた。
処理時間を変えた余剰汚泥の回分式消化実験の結果を、図 5 に示す。20 分以上の超音波処理によりガス発生量が 8%増加し
た。処理により易分解性有機物が増加したものと考えられる。また、ガス成分については、処理時間が増しても変化しなかった。
1600
100
1.8
1400
1.7
ガス発生量(L/L)
DOC(mg/L)
1000
800
600
400
1.6
60
1.5
40
1.4
20
1.3
200
1.2
0
0
0
0
10
20
30
処理時間(min)
40
10
20
30
処理時間(min)
ガス発生量(L/L)
図-4 超音波処理による DOC の増加
CH4比率(%)
80
1200
40
CH4比率(%)
図-5 超音波処理によるガス発生量の増加
2.3.3. その他の方法による前処理効果
余剰汚泥と消化汚泥を対象として、超音波処理以外に、「加温処理」と「アルカリ+加温処理」による効果を検討した。表
1に示すように、ガス発生量のみをみると、余剰汚泥の場合、加温と超音波処理は同程度の増加を示した。最も効果が高か
ったのは超音波にアルカリ加温処理を組み合わせた場合であった。消化汚泥については、ガス増加率が余剰汚泥よりも高
く、消化汚泥を前処理後に再度消化槽に戻すことにより有機分の減量化が期待できる結果が得られた。なお、初沈汚泥を
対象とした場合、これらの処理によるガス発生量の増加はほとんどみられず、前処理効果を認めることはできなかった。した
がって、これ以後は余剰汚泥と消化汚泥を前処理の対象とした。
汚泥の種類
余剰汚泥
(VS 濃度
44g/L)
消化汚泥
(VS 濃度
10g/L)
表-1 投入汚泥の前処理による消化ガス発生状況
投入 VS 当たり
投入 VS 当たりの
前処理法
のガス発生増
ガス発生量(L/g)
加量(L/g)
対照
0.251
0
加温処理
0.272
0.021
超音波(US)処理
0.269
0.018
US+アルカリ(pH12)加温処理
0.325
0.074
対照
0.051
0
US 処理
0.115
0.064
アルカリ(pH9)+加温処理
0.076
0.025
アルカリ(pH10)+加温処理
0.097
0.046
US+アルカリ(pH9)+加温処理
0.137
0.086
117
発生ガス増加率
(%)
VS 消化率(%)
100
108
107
129
100
226
150
190
271
45
45
46
50
11
18
17
14
21
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
2.4. 前処理汚泥を用いた半連続式消化実験
2.4.1. 超音波処理した汚泥を用いた 3L リアクターによる消化実験
余剰汚泥および消化汚泥の超音波による前処理効果が回分式消化実験において確認されたので、半連続式消化実験
においても同じ効果が再現できるか確認した。種汚泥として消化汚泥 2 L を加えた容量 3 L の広口ガラス瓶をゴム栓で蓋を
したものをリアクターとし、36℃に保った恒温水槽に浸してスターラーで攪拌した。1 日1回一定量の汚泥をリアクターから引
抜き、その後投入汚泥を加えるという draw and fill 方式により運転した。実験に使用する余剰汚泥と初沈汚泥は、1 週間毎
に必要な量を採取し保冷庫で保管した。リアクター引抜汚泥は、1 週間分を均等に混合し、分析に供した。
このリアクターを 3 個設置し、混合汚泥(余剰汚泥と初沈汚泥を 1:2 の割合で混合)を用い HRT(水理学的滞留時間=リ
アクター有効容積/1 日当たり投入または引抜汚泥量)25 日で一定期間運転し、3 個のリアクターが同じ運転状況であること
を確認した後、RUN1は対照としてこの運転を継続した。RUN2 は、余剰汚泥を 20 分間超音波処理したものを初沈汚泥とあ
わせて投入、RUN3 は、余剰汚泥と引抜汚泥の双方を超音波処理した場合の効果をみるため、160ml 引抜き、80ml を超音
波処理し、RUN2 と同様の汚泥とともに投入した。いずれも定常状態になった後の試料を分析に用いた。
次に、投入汚泥を余剰汚泥単独に変え、HRT25日で実験を行った。RUN1は対照として「未処理の余剰汚泥」を、RUN2は「超音波処理
した余剰汚泥」を投入した。RUN3 は、投入汚泥は RUN1 と同様にし、160ml の汚泥を引抜き、80ml を超音波処理して再度投入した。
図 6 は、超音波処理を行った期間のガス発生状況を示したものである。超音波処理を行わなかった期間は、各 RUN とも、
同様なガス発生状況であったのに対し、超音波処理を行った期間は、RUN1に対し RUN2 および RUN3 でガス発生量が増
加し、半連続式消化実験においても超音波処理の効果が確認できた。発生ガス増加率および消化率を表 2 に示す。
2.4.2 加温とアルカリ処理の消化促進効果の検討
超音波処理に加えて、加温とアルカリ処理の効
1.0
果を調べた。RUN1 は対照で、初沈汚泥:余剰汚
泥の容積比 1:1 の混合汚泥を用い HRT25 日で実
100ml に 20%NaOH 溶液 1ml の割合で添加した
汚泥(アルカリ処理汚泥)を用い、それを RUN1 と
同様の比率で初沈汚泥と混合・投入した。RUN3
では、余剰汚泥 100ml に対し 20%NaOH 溶液 1ml
を添加し、20 分超音波処理後 60℃の恒温水槽中
ガス発生量(L/L/d)
験を行った。これに対し、RUN2 では、余剰汚泥
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
で 20 分間加温したもの(アルカリ加温処理汚泥)
0
8
を用い、RUN1 と同様に投入汚泥を調整・投入し
6
経過日数(d)
RUN1(VS負荷1.24g/L/d)
た。この条件で1ヶ月継続運転した。また、その後、
RUN3(余剰/引抜US)
RUN1(VS負荷1.17g/L/
RUN1 については、別途消化汚泥を 160ml 引抜き、
RUN2(余剰US)
RUN3(引抜US)
その 100ml に対し 20%NaOH 溶液 1ml を添加し
2
4
10
RUN2(余剰US)
図-6 超音波処理による消化ガス発生状況
20 分超音波処理後 60℃の恒温水槽中で 20 分間
加温したもの 80ml を再投入する運転を1ヶ月間継
続した。
表-2 半連続実験における消化ガス発生状況
投入 VS 当たりの
投入 VS 当たりの
投入汚泥の混合比
前処理
ガス発生増加量
ガス発生量(L/g)
(L/g)
対照
0.511
0
初沈(VS35g/L): RUN1
余剰(VS24g/L)
RUN2
余剰 US 処理
0.533
0.022
=2:1
RUN3
余剰/引抜 US 処理
0.553
(0.068)*
RUN1
対照
0.295
0
余剰(VS 30g/L)
RUN2
余剰 US 処理
0.367
0.072
RUN3
引抜 US 処理
0.327
(0.091)*
*:ガス増加分を消化汚泥の VS(g)当たりに換算
118
12
発生ガス
増加率(%)
VS 消化率(%)
100
104
108
100
124
111
68
70
70
63
63
64
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
余剰汚泥に対しアルカリ処理を行った場合、及びアルカリ処理後に超音波と加温処理を行った場合のガス発生量をみる
と、「アルカリ処理単独」ではガス発生量は増加しなかったが、「アルカリ・超音波・加温処理」の場合には 5%増加した。一方
引抜汚泥については、「アルカリ・超音波・加温処理」の効果がはっきりとはみられなかった。
3. メタン収率の向上に関する検討-二酸化炭素ガス添加によるメタン収率増加実験-
二酸化炭素ガスをリアクター気相部に注入し、初期分圧を 0.5atm および 0.6atm へ変化させる半連続実験を行った。種汚
泥として、消化汚泥 1.5L を加えた容量 3L のリアクターを用いて半連続実験を行った。リアクターの気相部を、両口付きアルミ
製のテドラバッグとチューブで連結し、シリンジを使って、バッグ内とリアクター気相部が攪拌混合できるように工夫した。
RUN1:初沈汚泥、余剰汚泥の容積比 1:1 の混合汚泥を投入。HRT30 日で運転した。
RUN2:HRT は RUN1 と同様。毎日、二酸化炭素ガスを 300ml 注入(気相部初期二酸化炭素分圧 0.5atm)。
RUN3:HRT は RUN1 と同様。毎日、二酸化炭素ガスを 600ml 注入(初期二酸化炭素分圧 0.6atm)。
二酸化炭素ガスは、ガスボンベからシリンジで規定量を採取し、注入した。以上の条件で1ヶ月間実験を継続した。
更にリアクター内汚泥量を 1L に変更し、RUN1 を対照として初沈汚泥、余剰汚泥の容積比 1:1 の混合汚泥を用い HRT20
日で運転しながら、二酸化炭素ガスを RUN2 には 400ml(初期二酸化炭素分圧 0.5atm)及び RUN3 には 900ml 注入(初期
二酸化炭素分圧 0.6atm)という条件で1ヶ月間継続、さらに、リアクター内汚泥量を 2L に変更し、初沈汚泥、余剰汚泥の容
積比 1:1 の混合汚泥を用い RUN1 では HRT25 日で運転しながら、二酸化炭素ガスを RUN2 では 300ml(初期二酸化炭素
分圧 0.5atm)、RUN3 では 600ml(初期二酸化炭素分圧 0.6atm)注入し、この条件で 1 ヶ月間継続した。しかし、各分圧条
件下におけるメタン収率の増加は、顕著ではなくまた不安定であった。原因として二酸化炭素ガスと汚泥の接触に問題が
あったと考えられたため、通常のリアクター内汚泥の磁気式スターラーによる攪拌に加え、手でもリアクター全体をよく振とう
することによって接触促進を図ったが、明らかな効果はみられなかった。しかし平均 10%以上のメタン収率増が得られる傾
向も部分的にみられたので、二酸化炭素分圧の維持や接触方法など改善すれば当初の目標を達成できる可能性がある。
ただし、これ以上の実験を継続することが時間的に困難と考えられたため、ここでは還元型リアクターのシステムについて
の検討を先送りすることとした。
4. 直投型ディスポーザ普及時の下水汚泥消化工程への影響とエネルギー収支の検討
4.1. ディスポーザ排水由来汚泥の調製
竹崎らの報告「引用文献 1.」に基づき、標準生ごみ 250g を調製し、それを蒸留水 5L を使用して、ディスポーザ(TOTO
製 TJNDS 100X)に 2 回通して粉砕した。これを最低 4 時間静置し、上澄液を別の容器に移し、分離した懸濁物を含む沈殿
水1Lを得た。この沈殿水を全量ホモジナイザー(10,000rpm、10min)で粉砕し、それを十分に攪拌しながら別容器に分取し、
ディスポーザ排水由来汚泥として消化実験に用いた。なお、粉砕した沈殿水を分取した後に残る骨等に起因する残留物
は、実施設では沈砂池で除去されることを想定して、調製汚泥に加えなかった。
4.2. ディスポーザ排水由来汚泥の消化実験Ⅰ
前述と同様に、リアクターを 3 個用意し、RUN1、2 は、初沈汚泥、余剰汚泥、ディスポーザ排水由来汚泥を容積比 1:1:1
で混合したものを投入し、RUN3 は、ディスポーザ排水由来汚泥のみを投入して、HRT25 日で1ケ月間馴致を行った。その
後、HRT を変化させて、それぞれの HRT で、3 週間継続した。
RUN1:初沈汚泥、余剰汚泥、ディスポーザ排水由来汚泥を容積比 1:1:1で混合したものを投入し、HRT25 日、その後
HRT10 日で運転。
RUN2:RUN1 と同様の同様の汚泥を投入し、HRT20 日、その後 HRT5 日で運転。
RUN3:ディスポーザ排水由来汚泥のみを投入し、HRT20 日、その後 HRT10 日で運転。
余剰汚泥は、実施設から 1 週間分を採取し、保冷庫に保管し、それを用いた。ディスポーザ排水由来汚泥及び初沈汚
泥は、必要数を小分けして調製後冷凍し、そのつど解凍して用いた。
119
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
4.3. ディスポーザ排水由来汚泥の消化実験Ⅱ
前述と同様に、リアクターを 3 個設置し、最初の1週間は、何も投入せず、その後、HRT を 25 日に設定し、RUN1は、初
沈汚泥と余剰汚泥を容積比 1:1 で混合したもので、RUN2 はディスポーザ排水由来汚泥のみで、RUN3 は初沈汚泥、余剰
汚泥、ディスポーザ排水由来汚泥を容積比 1:1:1で混合したもので、運転した。余剰汚泥と初沈汚泥は実際の施設から 1
週間分を採取し、保冷庫に保管し、それを用いた。その他の条件は、4.2.における実験Ⅰと同様である。
■ 研究成果
1. 投入汚泥の前処理方法の検討
嫌気性消化法は、高濃度の固形有機物を、嫌気性細菌による分解によって、メタンなどのガスにまで分解させる微生物
処理法である。嫌気性消化法については、これまでに多くの研究があり、特に 1980 年頃、投入固形物の加水分解が消化
過程の律速であるという研究「引用文献 2.」が発表されて以来、加水分解性の向上を促進させるための研究が大学や企業
でなされ、多くの知見が集積されてきた。
嫌気性消化槽内の微生物反応は、(ⅰ) 炭水化物・たんぱく質・脂肪などの有機高分子化合物が加水分解され低分子
化される過程、(ⅱ)低分子化された有機化合物が加水分解され酢酸・水素が生成する過程、(ⅲ)酢酸・水素からメタンが生
成する過程、から構成される。 このうち(ⅰ)の過程は、下水汚泥などの固形有機物を含むものが対象の場合には、固形有
機物からの加水分解とみなされ、固形物の可溶化過程として把握される「引用文献 3.」。また、メタンの生成量を決定するの
は、(ⅲ)の反応であるが、全体の反応は、(ⅰ)が律速であるとみなされている。特に李ら「引用文献 4.」は、余剰汚泥の連続
運転の詳細な解析から、(ⅰ) の可溶化速度は(ⅱ)の酸生成速度より小さく、(ⅲ)のメタン菌の代謝速度をも下回り、したが
って、反応初期から、消化過程における全体の反応が(ⅰ)の過程が律速になっていることを証明した。
余剰汚泥を含む汚泥の可溶化の研究は、(ⅰ)の加水分解過程が消化プロセスの律速段階であるとの研究結果から、加
水分解の促進によって、メタン化を促進しようとの目的である。これには、加水分解速度を増大させると同時に、有機物の分
解性を向上させることが含まれている。
1.1. オゾン・加温・界面活性剤による前処理
余剰汚泥については消化率およびメタン収率が低いとされており、そのための改善策として加温、ミル破砕、オゾン処理
等の前処理が検討され、それぞれ良好な結果が報告されている。また下水の好気性処理においてであるが、オゾンを利用
して余剰汚泥の再基質化をおこなった技術が開発されており、オゾンによる微生物の破砕効果が証明されている。
本実験においても、オゾンの汚泥可溶化効果を期待したが、消化ガスの収率向上という点では、期待したほどの効果は
得られなかった。
角田ら「引用文献 5.」は、遠心濃縮した余剰汚泥を対象に、オゾン注入量を 10~40mg/g-TS に変えて、実験を行い、オ
ゾン処理により溶解性成分が増加した点では我々も同様な結果を得ている。更に、処理によってガス発生が 16~57%増加
したとしている。彼らの実験結果は、DOC の増加分が大きい。これは、彼らが余剰汚泥だけを対象にし、また、オゾンとの接
触法を工夫してあることが影響したものと考えられる。我々の実験では、濃縮された余剰汚泥だけを反応塔に投入しオゾン
を注入するとと、空気の通り道ができ、接触が悪くなった。余剰汚泥だけを処理する場合には、接触の問題を解決する必要
があると考えられる。
可溶化を促進させるため、オゾン処理に加え、加温処理を加えた。加温処理による可溶化は、Haug ら「引用文献 6.」の
熱変性メタン発酵システム(TPAD)の提案以来、李ら「引用文献 7.」も、余剰汚泥の加熱処理は 170℃が最適という結果を
得ており、余剰汚泥に対する消化処理の前処理としての高温処理については、大幅な効果が確認されている。しかし、こ
れらのシステムはいずれも 100℃以上の熱処理であり、特別な加熱過程を必要とする。これに対し、平岡ら「引用文献 8.」は、
適用可能な熱処理として、60℃、2 時間、好気性での加熱処理をパイロットプラントで行い、全体ではメタンガスの 30%の増
加、余剰の分解性においては 44%の向上という結果を得ている。また、李ら「引用文献 7.」や汪ら「引用文献 9.」も、高温処
理ほどではないにしても、60℃での低温でもメタンガスの増加を示すとしている。
120
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
実験の結果、加温処理による可溶化効果は証明されたが、消化によるガス発生量の大幅な増加のためには、更なる可
溶化が必要と考えられたので、界面活性剤の添加を検討した。界面活性剤 Tween80 は、微生物の溶解剤として用いられ
ているが、清水ら「引用文献 10.」も余剰汚泥の超音波処理に併用し、その効果を確認している。しかし、Tween80 を
200ppm 添加した場合でも効果は小さく、逆に発泡することから実際の適用には難点があることがわかった。
1.2. 超音波による前処理
様々な前処理方法の中で、エネルギー的に有利な方法として、超音波の利用が指摘「引用文献 11.」「引用文献 12.」さ
れている。そこで、余剰汚泥及び消化汚泥の超音波による前処理を中心に、検討を行った。
余剰汚泥に対する超音波処理の場合、表 1 の回分式実験及び表 2 の余剰汚泥のみ投入した場合の発生ガスの増加率
と比較すると、表 2 の混合汚泥投入のガス発生率の値は大きすぎるように思われる。投入汚泥の強熱減量分あたりのガス
発生量には明確な差があるが、消化率にはあまり差がはっきりとは示されていない。おそらくこの程度の継続期間では、消
化率に差が現れないのであろう。短期間の実験であり、これをもって最終的な結論を下すには早計であるが、装置と時間
の制約で、これ以上の実験は行わなかった。
超音波による前処理を行った余剰汚泥対象の連続実験で、山下ら「引用文献 13.」は、70kJ/L で 1 割の発生ガス量の増
加を認めている。また、その後の混合汚泥の消化実験で、三宅ら「引用文献 14.」は消化ガスの 5%増加を得ている。これは、
われわれの実験と同程度の結果である。
また、熱処理及びアルカリ処理についてもすでにその効果が認められている「引用文献 15.」ので、超音波との加算効果
を期待して、実験を行った。回分式実験ではその効果が認められたが、半連続式実験では加温及びアルカリ添加の効果
は認められなかった。渕上ら「引用文献 16.」は、類似の実験でアルカリ添加の相乗効果を得ている。更に詳細な検討が必
要であろう。
引抜いた消化汚泥をミル破砕処理して再度投入する方法で、名和らは回分実験「引用文献 17.」で効果を確認し、
SRT30 日の連続実験「引用文献 18.」で消化ガスの 6%増加と汚泥の減少を得ている。この消化汚泥の引き抜きと処理後の
再投入法を三宅ら「引用文献 14.」は「繰返し法」とよび、超音波による処理を適用し、その有効性を証明している。
この「繰返し法」は、汚泥の再破砕を行うため、その後の汚泥処理(脱水操作など)に何らかの影響を与えるものと考えら
れるため、十分な評価には、その後の汚泥処理も含めて考えなければならない。
前処理における超音波の利用は、エネルギー的な有利さにある。本実験で使用した条件を、超音波強度 kJ/L(=超音
波処理の消費電力(kJ)÷処理汚泥量(L))で表すと 180kJ/L であり、汚泥専用の装置ではない点を考慮すると、今後検討を
重ね改良していけば十分使用に耐えうるレベルと考えられる。
2. 二酸化炭素ガス添加によるメタン収率増加実験
市川ら「引用文献 19.」が、二酸化炭素ガスによるメタン収率の増加の可能性を指摘し、金ら「引用文献 20.」は、消化ガス
中の二酸化炭素分圧による消化への影響を詳細に調査し、二酸化炭素分圧が 0.5~0.6 気圧の時メタン生成速度及び有
機物のメタン転換率が最大となることを確認した。坂上ら「引用文献 21.」は、更に気体分離膜を用いて、これを技術化する
ことに成功している。
そこで、この原理を利用する還元型メタン発酵を前処理法と組み合わせるために先ず半連続実験による追試を行った。
リアクター内汚泥量を調整して、気相部の容積を 1.5L、1L、2.0L と変え、それに対応して、気相部の二酸化炭素分圧を
0.5 及び 0.6 気圧にするため、二酸化炭素ガスをシリンジで気相部に注入した。各分圧条件での運転をそれぞれ 1 ヶ月間
継続したが、文献値のような高いメタン収率は得られなかった。しかし、平均 10%以上のメタンの収率増が不安定ながらも得
られており、今後分圧条件や接触方法をさらに検討したい。
3. 直投型ディスポーザ普及時の消化工程への影響とエネルギー収支の検討
3.1. 直投型ディスポーザ普及時の汚泥発生量の増加
現在稼動中の消化槽を有する本市日明浄化センター処理区域を対象区域として、ディスポーザ排水が、浄化槽を経ず
121
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
に直接下水管に流されると仮定した場合(直接投入型)の、下水処理場に与える影響を評価した。
ディスポーザが普及した場合の下水処理場に流入する水質の予測調査が行われ、「ディスポーザ普及時の影響判定の
考え方(案)」「引用文献 22.」としてまとめられている。また、ディスポーザ排水の水質については、すでに TOTO 等から報
告「引用文献 1.」「引用文献 23.」がなされている。そこで、それらの報告を参考にして、下水処理場におけるディスポーザ排
水由来の汚泥量を推定した。 更に、ディスポーザ普及時の汚泥およびガス発生を評価するための基礎実験を行い、消化
工程に与える影響を検討した。
報告書「引用文献 1.」によれば、ディスポーザ導入により、最初沈殿池の SS の除去率は変化しないか、または若干増加
する程度と推定されている。若干の増加というのは、ディスポーザ排水に含まれる固形分の粒子がやや大きく、そのために
除去率が増加したからであると考えられている。したがって、一般的には「ディスポーザ排水が流入しても、最初沈殿池から
流出する固形分量は大きく変化しないと考えられる。言い換えると、初沈汚泥発生量は、ディスポーザ排水由来の固形分
量の増加に応じて増加する」とされている。
先ず、竹崎ら「引用文献 1.」の報告に基づき、生ごみの負荷原単位を一人1日あたり 250g とし、標準生ごみを作成し、デ
ィスポーザ排水を調製した。ディスポーザ排水を 5L のビーカーで 4 時間程度静置させることにより分離した約 4L の上澄水
が、便宜上、実際の施設で最初沈殿池を通過して反応タンクに流入するものと仮定し、分離された沈殿物の部分を、ディス
ポーザ排水由来汚泥とみなすこととした。
以上のようにして調製したディスポーザ排水由来汚泥の分析結果から計算した負荷の値を、竹崎ら「引用文献 1.」の値
の結果と共に表 3 に示す。数値は 6 回調製した検体の平均値(全りんのみ 3 回の平均値)で、1 人 1 日当たりの汚濁負荷
量(単位 g/人・日)として示した。
表-3 分析に基づくディスポーザ排水負荷の推定
項目
ディスポーザ排水負荷
ディスポーザ排水上澄水負荷
ディスポーザ排水由来汚泥負荷
排水負荷に占めるディスポーザ排水
由来汚泥負荷割合(%)
標準生ごみの分析値(竹崎)
設定値の負荷による非溶解性負荷の
比率(竹崎ら)
使用水量
(L/人)
5
5
0
BOD
(g/人・日)
―
―
―
SS
(g/人・日)
37.8
5.4
32.4
COD(Mn)
(g/人・日)
23.3
12.3
11.0
T-N
(g/人・日)
2.03
0.52
1.51
T-P
(g/人・日)
0.37
0.11
0.26
―
―
86
47
74
70
5
28.5
37.4
25.6
1.31
0.25
―
76
―
77
83
77
負荷の分析値は、竹崎らの報告している値とほぼ同じであった。分析による上澄水と沈殿物との比率と設定値負荷によ
る非溶解性負荷の比率(「引用文献 23.」の表 3 より求めた)とは、COD の値で異なっている。この点については、最初沈殿
池での除去率に関係するため詳細な検討が必要であるが、今回は、実験で求めた値を最初沈殿池での除去率とみなすこ
ととした。
日明浄化センター処理区で、ディスポーザが 100%普及した場合を想定すると、ディスポーザ排水が加わっても、水量的
にはほとんど問題とならない。表 3 の値および日明浄化センターの水質試験実測値(平成 14 年度)「引用文献 24.」を用い、
最初沈殿池汚泥および余剰汚泥発生量を以下のように推定した。BOD については測定していないが、COD と同様と考え
て、COD の負荷の比率を用いた。
日明浄化センターの処理人口 353,512 人に対するディスポーザ排水による最初沈殿池汚泥の 1 日当たりの発生増加量
は、竹崎らの設計値を用いると
35(g)×353,512(人)×0.86÷1,000,000=10.6(t)
最初沈殿池流出水の BOD 及び SS 除去率の算出に表 3 の値を用い、SS 汚泥転換率 1.0、全 BOD に占める溶解性 BOD
の比率 0.5、溶解性 BOD 汚泥転換率 0.5「引用文献 25.」とすれば、余剰汚泥量の増加分は
27.5(g)× (1-0.47) ×0.5×0.5+35(g)×(1-0.86)) ×353,512(人)÷1,000,000=3.02(t)
したがって日明浄化センター水質試験実測値(平成 14 年度)をベースに考えると、表 4 のようになる。
122
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
表-4 ディスポーザ排水由来汚泥による負荷の推定(日平均値、固形分トン表示)
汚泥の種類
平成 14 年度実績
初沈汚泥
余剰汚泥
合計
22.3
9.03
31.3
ディスポーザ排水由来
増加分
10.6(+48%)
3.02(+33%)
13.6(+43%)
小計
32.9
12.0
44.9
なお、本プロジェクト第 1 班において、ディスポーザ排水からの有用成分回収を下水処理工程の入口においた検討を行
っている。固形分は、ディスポーザ排水からだけでなく、台所排水やトイレなどの下水からも、スクリーンで除去されるため、
この検討の中で提案されたシステムが普及した場合、負荷の増加の可能性があるのは、スクリーンを通過した溶解性 BOD
の増加による余剰汚泥の増加であろう。スクリーンによる除去率がどの程度なのかが影響するが、ディスポーザ排水と下水
の固形分の沈降特性にあまり違いがないということから、固形分の粒度分布にもあまり違いがないと考えられるので、スクリ
ーンによるディスポーザ排水単独中の固形分の回収率 60~80%、BOD 回収率が 50%程度ということからすると、ディスポ
ーザ排水の混合した下水においても、スクリーンによる除去後は、SS、BOD 共に下水単独より低くなると考えられる。
3.2. ディスポーザ排水由来汚泥の回分式消化実験
ディスポーザ排水由来の汚泥が、従来の初沈汚泥に比べ、消化特性が異なるかどうか回分式実験を行って検討した。
消化実験では、固形分の粒径により、消化率が影響を受けるとされている「引用文献 3.」「引用文献 26.」。しかし、ディスポ
ーザ排水の沈殿物は粒径が大きく、採取するにもばらつきが出て、均一な検体を調製しにくかったため、便宜的に沈殿物
を全量ホモジナイザーで粉砕したものを、ディスポーザ排水由来汚泥として消化実験に用いた。結果を表 5 に示す。ディス
ポーザ排水由来汚泥は、初沈汚泥に比べて、若干 VS の減少率(=消化率)が高い。しかし、初沈汚泥とディスポーザ由来
汚泥の VS を比較すると、後者の VS の割合が高く、そのために生成する消化汚泥は、VS の低いものになり、また、ガス発生
量も多くなる。すなわち、ディスポーザ排水由来汚泥は、消化に適した汚泥ということができる。
表-5 回分式実験による汚泥の消化特性の比較
汚泥の種類
VS(%)
VS 減少率(%)
初沈汚泥
余剰汚泥
ディスポーザ排水由来汚泥
83.1
84.7
92.6
73.3
46.4
77.0
VS 減少量に対する
ガス生成量(L/g)
0.691
0.627
0.656
メタン含有率(%)
66
74
66
3.3. 元素分析による消化特性の把握
重力濃縮後の初沈汚泥、浮上濃縮後の余剰汚泥、ディスポーザ排水由来汚泥の元素分析を行い、李ら「引用文献 27.」
の方法にしたがって、擬似分子式を求め、消化反応の理論式を算出した(表 6)。 擬似分子式より求めた、それぞれに対
応するメタン発酵の理論式は以下のとおりである。
C10H16O4N + 5.75H2O = 5.63CH4 + 3.38CO2 + NH4 + HCO3
C6H10O2N + 4.25H2O = 3.38CH4 + 1.63 CO2 + NH4 + HCO3
C9H15O5N + 4.50H2O = 4.75CH4 + 3.25 CO2 + NH4 + HCO3
表-6 元素分析に基づく議事分子式及び計算値
採取日
試料名
3.10.20
3.10.20
初沈汚泥
余剰汚泥
ディスポー
ザ排水由来
汚泥
消化汚泥
3.12.04
3.12.10
C
(%)
H
(%)
O
(%)
N
(%)
合計
(%)
擬似分子式
43.5
40.7
6
6
22.8
20.7
5.1
8
77.4
75.4
C10H16O4N
C6H10O2N
理論ガス
生成率
(L/g-除去
VS)
0.94
0.87
48.7
6.6
37.3
6
98.6
C9H15O5N
0.83
31.5
4.8
24.7
4.8
65.8
C8H14O5N
123
メタン
含有率
(%)
NH4-N 生成率
(g/g-除去 VS)
62.5
67.5
0.065
0.11
59.4
0.065
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3.4. ディスポーザ排水由来汚泥の半連続式消化実験Ⅰ
回分実験によって、ディスポーザ排水由来汚泥が消化に適した汚泥であることがわかったが、下水処理場においては、
汚泥の量が増加し、最初沈殿池、濃縮槽、消化槽において、既設のままでその負荷に対応できるかが問題となる。試算で
は、最初沈殿池、濃縮槽は、既設で対応できることが導かれた。
平成 14 年度の実績では、日明浄化センターの消化槽への汚泥投入量は、日平均 684 m3 であり、消化槽全容積が
30,300m3 であるから、計算では HRT は全体で 44 日となっており、実際にも、第 1、3 槽が平均 41 日、第4槽が 29 日であり、
設計値が 30 日であるから、現在の処理状況でも余裕があることがわかる。
もしも、先に示したように、ディスポーザによる負荷の増加によって、平成 14 年度の汚泥発生量 31.3t(固形分として)が
44.9tになり、それに比例して、消化槽に投入する汚泥量も平行して増加するとみなすと、40.6t の固形分、980 m3 の投入量
となる。しかし、この場合でも、消化日数は 31 日となるだけである。
既設のままでも、対応が可能であるが、余裕を持った維持管理のためには、消化日数をさらに短縮できることが望ましい。
そこで、消化日数を変化させて、投入汚泥として、初沈汚泥、余剰汚泥、ディスポーザ排水由来汚泥を容積比 1:1:1で混合
したものを用いて、半連続式で負荷を増加させた消化実験を行った。
負荷の予想からは、初沈、余剰、ディスポーザ由来の汚泥がほぼ同じ固形分濃度とすると、予想投入汚泥の比率は、
2:1:1 となる。しかし、現在の投入汚泥の比率が初沈:余剰=2:1 であること、他の分流式の浄化センターでは、余剰の比率
が高いこと、また、ディスポーザの普及が次第に広がっていく状況を勘案して、投入汚泥として、初沈汚泥、余剰汚泥、ディ
スポーザ排水由来汚泥を容積比 1:1:1で混合したものを用いて、実験を行った。
図 7 は、HRT 毎に、最後の週の 3 日間の値を示したものであるが、平衡状態に達しつつある状況がうかがえる。HRT5 日
は、実験開始以来、pH が 7.4 から 5.8 に次第に低下してきており、負荷が高く、安定処理ができないことを示している。
図 8 は、HRT と VS の減少率(=消化率)、COD 減少率を示したものである。HRT10 日程度でも問題なく処理できると考
1.0
減少率(%)
ガス発生量(L/L/d)
1.5
0.5
0.0
1
2
時間(d)
3
HRT5(d) VS負荷:5.83g/L/d
HRT10(d) VS負荷:2.91g/L/d
80
0.8
70
0.7
60
0.6
50
0.5
40
0.4
30
VS減少率(%)
0.3
20
COD減少率(%)
0.2
10
ガス量/VS減少(L/g)
0.1
0
0
0
HRT20(d) VS負荷:1.46g/L/d
ガス量/減少VS(L/g)
えられる。
5
HRT25(d) VS負荷:1.17g/L/d
図-7 HRT と消化ガス発生量の関係
10
15
HRT(d)
20
25
30
図-8 HRT と消化率の関係
連続流れ完全混合系において、佐々木ら「引用文献 27.」は、滞留時間と基質濃度との間に、次の関係を導いている。
(S i
− S e ) / θ = KS e − KS
E / θ = K (1 − E ) − K ( S n / S i )
ここで、Si:流入有機物濃度
θ = V / Q = HRT
n
Se:流出有機物濃度
V:消化槽有効容量 Q:1日当たり流水量
HRT:水理学的滞留時間
E = (S i − S e ) / S i
:分解率(減少率、消化率)
同様な計算で、半連続系の場合、同様な式を求めることが出来る。
E / θ = ( Exp( K ) − 1)(1 − E ) − ( Exp( K ) − 1) S n / S i
124
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
この式から、E/θと 1-Eが直線となり、反応速度定数Kを求めることができる。
VS 及び COD 等について、E/θと 1-Eの関係をとったところ、直線とならず、反応速度定数Kを求めることができなかっ
た。実験の精度や再現性の問題が影響したものと思われる。
3.5. ディスポーザ排水由来汚泥の半連続式消化実験Ⅱ
前項の半連続式実験Ⅰで、日明浄化センターでは既設のままで投入汚泥の増加に対応できることがわかった。
そこで、HRT を現状より多少短い 25 日とした場合のディスポーザ由来汚泥の影響をみるため、3 個のリアクターを用いて
半連続式実験を行った。時間的な制約があったので、最初に同一の汚泥を入れ、消化を継続していくにつれ、ガス発生等
がどう変化していくかを約 1 ケ月半追跡した。図 9 に 50 日間のガス発生状況を示す。RUN1のガス発生量の 2/3 に、RUN
2のガス発生量の 1/3 を加算すると、RUN3 のガス発生量とほぼ一致した。初沈汚泥、余剰汚泥、ディスポーザ排水由来汚
泥のガス発生に加成性があることがわかる。一般に HRT が長い場合、ガス発生量は、投入汚泥の量と質によって、ほぼ決
まるようである。1週間程度以内の細かなガス量の変動は、蓄積された易分解性汚泥の質や量、引抜汚泥の量などの影響
を受けて、変動するように思われる。
0.7
ガス発生量(L/L/d)
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
10
15
20
25
30
経過日数(d)
35
40
RUN1ガス量(L)*2/3
RUN2ガス量*1/3
RUN1*2/3+RUN2*1/3(計算値)
RUN3ガス量(L)(実験値)
45
50
図-9 ディスポーザ排水由来汚泥の混合消化におけるガス発生への影響
各リアクターの引抜汚泥の VS 濃度は、スタート時点の 8.1g/L から RUN1、2、3、それぞれ 9.3、7.0、9.1g/L へと変化した。
RUN1はリアクター内汚泥の粘性が次第に高くなり、50 日後には、スターラーでの攪拌が困難になった。RUN2 は逆に、汚泥
の粘性が低くなり、スカムも形成されず、攪拌が容易になった。RUN3 は、RUN1 と RUN2 の中間といったところであった。
ガス発生に関係しない有機物やガス発生後の有機物残渣を難分解性有機物として把握し、理論的に計算してみると、
RUN1、RUN3、RUN2 の順で、難分解性 VS 濃度が低くなっているのが示された。実際の実験では、スカムの形成を放置し
ており、完全混合でないので、直接の比較はできないが、引抜汚泥の VS 濃度の増減の傾向は、難分解性有機物の含有
率の変動を示していると考えられる。ディスポーザ排水由来汚泥は、難分解性 VS を低く保てるという面でも、有利であると
いえる。
表 7 に、最後の 3 週間の分析結果の平均値を表示した。回分式実験の結果と若干異なる点があるものの、全体としては
ほぼ同じと考えられる。
表-7 半連続式消化実験Ⅱにおける汚泥の消化特性の比較
投入汚泥の混合比
初沈汚泥:余剰汚泥=1:1
ディスポーザ汚泥
初沈汚泥:余剰汚泥:ディスポーザ汚泥=1:1:1
RUN1
RUN2
RUN3
VS(%)
VS 減少率(%)
84.2
85.7
84.8
67.0
73.1
69.3
125
VS 減少量に対する
ガス生成量(L/g)
0.645
0.863
0.746
メタン含有率
(%)
64
60
62
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3.6. ディスポーザ排水由来汚泥を加えた理論計算
以上の結果をもとに、直投型ディスポーザ普及時の消化槽への影響を計算した。
消化という観点から総合的に判断すると、ディスポーザ排水由来汚泥は、生ごみと違って、初沈汚泥と大差ないと考えら
れる。管路に滞留しないと考えれば、初沈汚泥が単に増加した場合と同じと考えてよいと思われる。
初沈汚泥、余剰汚泥、ディスポーザ由来汚泥に関する消化終了時の炭素と窒素の分布特性を表 8 に示す。これは、回
分式実験から求めたものである。投入汚泥については、炭素分、窒素分とも有機性のものが 100%とみなしてよいので省略
し、消化終了時の結果のみを示した。
表 8 に基づき、表 4 より、ディスポーザ普及時の1日当たりに発生する消化ガスと消化汚泥の炭素と窒素の収支を算出し、
表 9 にまとめた。表 9 の値をもとに算出したガス発生量は、実施設での値「引用文献 24.」より小さくなった。原因は不明であ
るが、実施設の規模や年間データ等の違いが反映したものと思われる。
表-8 回分式実験における消化終了時の炭素、窒素の分布(%表示)
汚泥の種類
炭素分布
消化汚泥
Org-C
Ino-C
36.8
6.7
66.0
9.1
ガス
初沈汚泥
余剰汚泥
ディスポーザ排水
由来汚泥
CH4-C
36.1
18.2
CO2-C
20.4
6.7
43.4
22.7
25.7
8.2
計
100
100
100
窒素分布
消化汚泥
Org-N
NH4-N
48.7
51.3
53.8
46.2
31.4
計
100
100
68.6
100
表-9-1 ディスポーザ普及時の汚泥の性状(日平均値、トン表示)
汚泥の種類
固形分
22.4
10.6
初沈汚泥
余剰汚泥
ディスポーザ排
12.0
水由来汚泥
計
44.9
VS:強熱減量 T-C:全炭素
VS(%)
78.3
81.6
投入汚泥
T-C/VS(g/g)
0.39
0.52
92.6
0.28
消化汚泥
無機分
4.8
2.0
T-N/VS(g/g)
0.047
0.101
固形分
9.5
6.6
VS
4.7
4.6
0.052
3.4
2.6
0.9
19.5
11.9
7.7
VS 消化率(%)
73.3
46.4
77.0
T-N:全窒素
表-9-2 ディスポーザ普及時の炭素、窒素収支の推定(日平均値、トン表示)
汚泥の構成
ガス
炭素分布
消化汚泥
Org-C
Ino-C
2.48
0.45
3.37
0.47
窒素分布
消化汚泥
Org-N
NH4-N
0.40
0.42
0.53
0.46
汚泥の種類
CH4-C
CO2-C
計
初沈汚泥
2.43
1.37
6.74
余剰汚泥
0.93
0.34
5.11
ディスポーザ排
1.19
0.62
0.70
0.23
2.74
0.16
0.35
水由来汚泥
計
4.55
2.34
6.56
1.14
14.59
1.09
1.23
CH4-C:メタンの炭素分 CO2-C:二酸化炭素の炭素分 Org-C:有機性炭素分 Ino-C:無機性炭素分 Org-N:有機性窒素分
NH4-N:アンモニア性窒素分
計
0.82
0.99
0.51
2.32
日明浄化センターの平成 14 年度の実測値をもとにディスポーザ普及時の消化工程における固形分の収支を推定した
結果を図 10 に示す。直投型ディスポーザ普及時にどのくらい初沈汚泥が増加するかについては様々な考え方があるが、
ここでは、「研究成果」で述べたように表 3 に基づき算出し、表 4 に示すように、初沈汚泥は 48%増、余剰汚泥は 33%増と推
定した。これを基にした試算では、ディスポーザ普及時の日明浄化センターの 1 日当りの消化汚泥発生量は、固形分で
20.2 トンとなる。
126
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
20.6
0.5
7.0
5.2
(場内返流水)
3.1
最終沈殿池
反応タンク
最初沈殿池
(返送汚泥)
258.8
(余剰汚泥)
9.0 (12.0)
浮上濃縮槽
ガス 13,100(19,500) m3
6.1 (7.9)
22.3
(32.9)
22.2
重力濃縮槽
(32.7)
28.3
12.2
14.1
消化槽
(40.6)
脱水機
(20.2)
1.9
0.2
黒字:現状
(単位:トン/日)
(赤字):直投型ディスポーザ普及時
図-10 日明浄化センターにおける1日当りの固形分収支
消化槽に関するエネルギー収支の現状を図 11 に示す。日明浄化センターにおける消化ガス発生量は、1日当り 13,100
m3 であるが、現状はこのうち 6,900m 3 が消化槽の加温に使用されているため、余剰ガスとして利用可能な消化ガスは
6,200m3 /日で、エネルギーとして 1.34×105MJ/日である。
消化ガス
投入汚泥加
温
ボイラー
消化ガス消費量 6,900m3/日
メタン比率 60%
発熱量 35.5×106kcal
熱損失:30%
ボイラー効率:70%
投入汚泥量 684m3/日
25℃昇温に要する熱量
17.1×106kcal
現状は 13,100-6,900=6,200m3/日 が余剰である
→31.9×106kcal/日=1.34×105MJ/日
図-11 日明浄化センターにおける消化工程のエネルギー収支の現状
■考 察
本プロジェクトにおける当研究所の役割は、有機廃棄物の石油製品化に必要なエネルギーを下水汚泥自身から供給す
るために、下水汚泥の消化工程においてメタンをできるだけ多く回収するシステムを確立することである。その際、プロジェ
クトの趣旨からは、将来直投型ディスポーザが普及した場合の消化工程を検討の対象とすることとなる。そこで先ずメタンの
収率を高める検討を行い、次にディスポーザ排水流入の消化工程への影響を室内実験により推定した。
はじめに消化ガス発生量の増加を目的とした消化槽投入汚泥の可溶化を図る前処理法を検討し、余剰汚泥及び消化
汚泥の前処理に最適な方法として超音波処理を選定した。他の方法に比べ、特にガス発生量が多いというわけではない
が、初期投資をはじめ、経済性、操作性、効率性などからみても現実性のある前処理方法と考えられる。
127
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
次に、消化ガス中のメタンの比率を高める手法を検討したが、二酸化炭素の還元反応によるメタン化が安定して進行せ
ず、メタンリッチシステムについては検討の余地を残すこととなった。原因としては、二酸化炭素とメタン還元微生物との接
触不足が考えられる。今後さらに検討し、メタン収率の安定した増加を確保したい。
また生ゴミをディスポーザ処理した沈殿物を投入汚泥に加えた室内消化実験により、将来直投型ディスポーザが普及し
た場合に、本市日明浄化センターの消化工程が、現状の施設のままで十分対応可能であることを明らかにした。
消化工程に関連するエネルギー収支については、第 3 班で詳細な検討が行われるためここでは詳述しないが、新たな
システムの付加に伴うエネルギー需要を補って余りあるシステムを構築する必要があり、この点に関しては、消化工程だけ
でなく、汚泥処理のすべての工程、特に消化工程の後続の工程についてのエネルギー的評価が必須である。
下水道の一連の施設は、汚水あるいは生ゴミという広く薄く存在するバイオマスを、下水管を通して常時集約することがで
きる貴重なインフラである。これまであまり重要視されてこなかったエネルギーの効率的利用に関し、今後は、自前のエネル
ギー回収・生産プロセスの導入促進によって、下水道全体のエネルギー消費を抑制する視点が重要になると考えられる。
■ 引用文献
1.
竹崎義則他:「ディスポーザ排水の負荷原単位設定」,廃棄物学会誌,Vol.12,(2001)
2.
J.A.Eastman,et al : 「 Solubilization of particulate organic carbon during the acid phase of anaerobic
digestion」,JWPCF,Vol53,(1981)
3.
浦辺真郎他:「廃棄物を用いた嫌気性消化に関する基礎的研究」,水処理技術,Vol25,(1984)
4.
李玉友他:「嫌気性消化の酸生成相における余剰活性汚泥の分解特性」,水質汚濁研究,Vol10,(1987)
5.
角田明彦他:「嫌気性消化におけるオゾン処理の効果について」,第 37 回下水道協会発表会講演論文集,(2000)
6.
R.T.Haug,et al:「Thermal pretreatment of sludges―a field demonstration」,JWPCF,Vol55,(1983)
7.
李玉友他:「余剰活性汚泥の嫌気性消化に及ぼす前処理及び滞留時間の影響」,水質汚濁研究,Vol12,(1989)
8.
平岡正勝他:「変性メタン発酵システムのパイロットプラント研究」,下水道協会誌,Vol23,(1986)
9.
汪群彗他:「余剰汚泥の可溶化および嫌気性消化に及ぼす前処理の影響」,廃棄物学会論文誌,Vol6,(1995)
10. 清水達雄他:「嫌気性消化プロセスにおける前処理としての余剰汚泥の超音波処理」,用水と廃水,Vol34,(1992)
11. 汪群彗他:「前処理による余剰汚泥の嫌気性消化効率の向上」,水質汚濁研究,Vol18,(1995)
12. 清水達雄他:「嫌気性消化プロセスにおける前処理としての余剰汚泥の超音波処理」,用水と廃水,Vol34,(1992)
13. 山下茂樹他:「超音波処理のよる嫌気性消化法の性能向上」,第 40 回下水道研究発表会講演集,(2003)
14. 三宅晴男他:「エネルギー回収型汚泥処理システムの開発に関する調査」,水すまし,No114,(2003)
15. 稲垣智亮他:「熱アルカリ前処理による嫌気性汚泥消化の効率化」,NGK 環境装置技報,No11,(1996)
16. 渕上浩司他:「メタン発酵における物理化学的前処理の効果」,第 40 回下水道研究発表会講演集,(2003)
17. 名和慶東他:「ミル破砕工程を含む嫌気性消化の効率化プロセスの研究」,第 35 回下水道研究発表会講演集,(1998)
18. 山田健二他:「嫌気性消化における機械的な汚泥破砕処理の検討」,第 36 回環境工学研究フォーラム講演集,(1999)
19. 市川茂樹他:「炭酸の利用によるメタン発酵に関する研究」,下水道協会誌,Vol19,(1982)
20. 金永哲他:「嫌気性消化に及ぼす CO2 の分圧の影響」,水環境学会誌,Vol19,(1996)
21. 建設省土木研究所、㈱タクマ:「二酸化炭素還元型メタン発酵機構の解明に関する共同研究報告書」,第 64 号,(1991)
22. 国土交通省・地域整備局下水道部国土技術政策総合研究所下水道研究班:「ディスポーザ普及時の影響判定の考
え方(案)」,(2002)
23. 山海敏弘他:「ディスポーザ排水の標準組成と負荷特性」,水環境学会誌,Vol22(1999)
24. 北九州市建設局:「下水道管理年報」(平成 14 年度版)
25. 日本下水道協会:「下水道施設計画・設計指針と解説」,2001 年版
26. 市川茂樹他:「厨芥粉砕試料を用いたメタン発酵の基礎的研究」水処理技術,Vol20,(1979)
27. 佐々木宏他:「生ごみの高温・高濃度メタン発酵に及ぼす滞留時間と負荷の影響」,水環境学会誌,Vol22,(1999)
128
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
■ 成果の発表
口頭発表
応募・主催講演等
1.
仰木雅也,岡山安幸,下原悦子,鈴木學,神代和幸:「メタン発酵による下水汚泥のエネルギー化研究-嫌気性
消化における前処理方法の検討-」,名古屋市,第 39 回下水道研究発表会,2002.7.25
2.
仰木雅也,江口芳夫,下原悦子,鈴木學:「嫌気性消化における前処理方法の比較」,東京都,第 40 回下水道研
究発表会,2003.7.22
129
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3. 有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ新たな都市環境システムの設計と評価
3.1. 新都市環境システムの設計・導入に関する課題と実現へのシナリオ
3.1.1. 都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術と新都市環境システムの比較・評価
株式会社エックス都市研究所環境社会計画部長
鈴木 進一
■要 約
従来技術と新都市環境システムの比較・評価に関する研究成果として、都市ゴミ資源化・リサイクル技術の導入が環境負
荷の低減に与える影響評価手法「新都市環境システム設計・評価手法」の中の「4 つのシステムイメージ構築」(要素技術のシ
ステム化)、「システム間の比較評価」(ライフサイクルアセスメント[LCA])、「シナリオ・プランニング」、「システム実現・拡大の
ための戦略」の作成を実施した。
分析対象都市である北九州市の条件に基づき、新技術、及び従来技術を社会システムの中のツールとして位置づけ、シ
ステム間のライフサイクルでの環境負荷評価を行った結果、システムの最適化を行うことにより、新技術を導入した新都市環
境システムは従来システムよりも環境負荷を低減する可能性があることが明らかになった。
また新都市環境システム実現のための課題についても北九州市を例に調査を行い、生ごみ排出を行う生活者のニーズを
踏まえた合意形成、システム設計の工夫や、下水道の分流化等のインフラ対応等が重要な点となることを整理した。
■目 的
我々3班は都市ゴミ資源化・リサイクル技術の開発を行う 1,2 班の研究成果が、どのように社会システムとして導入され、そ
の結果環境負荷にどのような影響を与えるかを評価することを調査目的とした。具体的には、新技術を現実の社会に導入す
ることを想定したシステム設計やライフ・サイクル・アセスメント(LCA)、シナリオ・プランニング、シナリオの動的モデル化など
のツールを用いた「新都市環境システム設計・評価手法」の開発を目指した。
3 班研究員は同手法を構成する各ツールの作成を分担して受け持ったが、「都市ゴミ資源化・リサイクルの従来技術と新都
市環境システムの比較・評価」の担当として、システム間のLCA評価の実施を中心に、評価のための対象システムの整理、
及び新都市環境システムの実現シナリオ検討のための情報整理を行った。
■ 研究方法
図-1に「新都市環境システム設計・評価手法」の作業フローを示す。
同手法は、①1,2 班要素技術のシステム化、②1,2 班技術のフィージビリティ検討、③1,2 班技術システムの導入可能性検
討の 3 項目から成っている。各項目には幾つかのツールが含まれており、そのうちの 4 ツール(「4 つのシステムイメージ構築」、
「システム間の比較評価」、「シナリオ・プランニング」、「システム実現・拡大のための戦略」)の作成を行った。
実施した研究を(1)LCA評価のための対象システムの整理、(2)システム間のLCA評価、(3)新都市システムの実現シナ
リオ検討のための情報整理、の 3 項目に大別した上で研究方法を下に記す。
130
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
新
都
市
環
境
作シ
業ス
フテ
ロム
ー設
計
・
評
価
手
法
技術研究班開発の要素技術のシステム化
○1班 「生ごみの生分解性プラスチック化」普及を前提
○2班 「廃棄物系・下水系統合化&汚泥再資源化」普及を前提
4つのシステムイメージ構築
技術研究班開発技術のフィージビリティ検討
プロセスエネルギーの評価
システム間の比較評価
技術研究班開発技術システムの導入可能性検討
シナリオ・プランニング
システム実現・拡大のための戦略
→ データ要求・
研究への提言
← データ提供・
シナリオ提案
実現シナリオのモデル化
市民
技術研究班
社会システムを構成する様々な主体(市民、事業者、行政、研究機関等)
社会システムを構成する様々な主体(市民、事業者、行政、研究機関等)
に対して認識・合意形成・判断のための情報を提供
に対して認識・合意形成・判断のための情報を提供
図-1 「新都市環境システム設計・評価手法」作業フロー
(1)LCA評価のための対象システムの整理 (ツール名:「4 つのシステムイメージ構築」)
現状のワンウェイ型処理処分システムを脱却し、資源物の高付加価値利用を基本としたバイオマス資源循環システムを構
築することを目的に、1,2 班が開発した都市ゴミ資源化・リサイクル技術を社会インフラとして組み込んだ都市の資源循環シス
テム(=新都市環境システム)を想定した。
具体的には、1 班開発の「生ごみポリ乳酸化」と 2 班開発の「廃棄物系・下水系統合効率化+汚泥再資源化」技術を組み込
んだ 2 つの新都市環境システムと2つの既存システムの計 4 システムを 2 軸・4 象限で整理した。
また「生活者ニーズ対応研究」であることに鑑みた消費・排出段階での市民の協力度の高低(市民協力度軸)と、資源循環
型に向けた技術インフラ対応度の高低(技術インフラ対応度軸)を将来のシステムの方向性を決めるキーファクターとして設
定し、2 つの軸として据えた。
(2)システム間のLCA評価 (ツール名:「システム間の比較評価」)
(1)で示した 4 つのシステムを基に、排出・運搬段階とリサイクル段階の組合せの違いによる複数のサブシステムを設定し、
新都市環境システムと従来システムとの比較評価を実施した。
評価指標
比較評価指標はエネルギー消費面からライフサイクルエネルギー(LC-E)と、地球温暖化影響面からライフサイクル二
酸化炭素(LC-CO2)の2つを主に用いる。なお、LC-CO2では下水処理からのメタン(CH4)と下水汚泥・廃棄物焼却から
の一酸化二窒素(N2O)を含んでいる。
また多面的比較を行うため、バージン資源削減量(※リサイクル時の直接的な燃料・物質の削減量を算定、間接分含ま
ず)、ライフサイクル生物化学的酸素消費量(LC-BOD)、ライフサイクル埋立量(LC-埋立量)も評価項目に加えた。
なおライフサイクル分析に際してはプロダクトバスケット法を援用した。リサイクルにおける代替効果は以下を想定してい
る。ただし、リサイクル効果の算定に際しては、イニシャル分を考慮していない。
・ ポリ乳酸に対してポリスチレン
・ 堆肥に対して化学肥料(ただし、前者の必要量は後者の 10 倍[窒素ベースで推定])
・ エコセメントに対して普通ポルトランドセメント
・ ごみ・メタン発電に対して電気事業者による発電
・ メタン燃焼に対して都市ガス
・ BTX に対して原油由来石油製品(芳香族化合物)
131
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
分析対象都市
分析対象都市として北九州市を設定し、次の各条件について市の実データを用いている。ただし、ごみ発電は従来
型を想定する等、一部単純化している。
・社会条件:人口、世帯数、廃棄物発生量、排水処理量
・排水、及び廃棄物処理システム:規模、設置時期、運用実績
評価対象システムと評価範囲
LC-E、LC-CO2の評価対象システムと評価範囲を表-1に示す。システムはディスポーザ、下水処理、廃棄物、生ごみ・
汚泥再資源化の 4 モジュールで構成されており、基本的に使用時、及び建設時も含む形で評価範囲を設定している。
表-1 評価対象システムと評価範囲
直投型
ディスポーザ
固液分離装置
付
浄化槽付
管渠
ポンプ場
下水道システム
処理場
ごみ収集
焼却場
製造、取り付け工事時
使用時
製造、取り付け工事時
使用時
製造、取り付け工事時
使用時
建設時
清掃時
建設時
共用時
建設時
共用時
汚泥焼却灰の輸送
収集車製造時
共用時
建設時
共用時
廃棄物
焼却灰輸送
最終処分場
PLA 化施設
ポリスチレン製
生ごみまたは
造施設
ディスポーザ汚泥
の再資源化
コンポスト化施
設
化学肥料
製造施設
輸送車製造時
共用時
建設時
共用時
建設時
生ごみまたはディスポーザ
汚泥の輸送
PLA 製造時
建設時
ポリスチレン原料輸送
製造時
建設時
ディスポーザ汚泥の輸送
製造時
建設時
化学肥料原料輸送
製造時
破砕機の製造および取り付け工事
上水消費、電力消費
破砕機、固液分離装置の製造および取り付け工事
上水消費、電力消費
破砕機、浄化槽の製造および取り付け工事
上水消費、電力消費
管渠の建設
管渠清掃作業
ポンプ場の建設
ポンプ場での水道、電力、経由、A 重油、ガスの使用
処理場の建設
処理場での水道、電力(消化ガス発電による電力回収)、
A 重油、ガスの使用
水処理に伴う CH4、汚泥処理に伴う CH4、N2O の排出
※評価対象外
ごみ収集車の製造
ごみ収集車の軽油使用
焼却場の建設
焼却場での水道、電力(ごみ発電による電力回収)、
A 重油、灯油、苛性ソーダ、硫酸、セメント、消石灰の使用
ごみ焼却に伴う CH4、N2O の排出
※生物起源の CO2 は含まない
輸送車の製造
輸送車の軽油使用
最終処分場の建設
最終処分場の運用
※評価対象外
※評価対象外
PLA 製造時に伴う電力消費、燃料消費、薬剤消費
排水処理
設備補修
※評価対象外
※評価対象外
ポリスチレン製造に伴う資源消費
※評価対象外
※評価対象外
コンポスト製造に伴う電気使用、重油使用、
苛性ソーダ使用、硫酸使用
※評価対象外
※評価対象外
化学肥料製造に伴う資源消費
評価対象システムの類型化
比較評価の対象となるシステムを 15 のサブシステムに類型化したものを表-2 に示す。新都市環境システムを従来システ
ムと比較するために 4 つのシステムを想定したが、各システム内における収集運搬方法やリサイクル方法・規模の違い、そ
れらの組み合わせにより幾つかのサブシステムに分かれることから、参考も含めて合計 15 のサブシステムを作成した。特
に「Ⅲ生ごみマテリアル循環システム」では収集運搬方法やリサイクルプラント規模をどのように設定するかでシステムが大
きく異なることから、システム最適化の方向性を探るために 6 つのサブシステムを設定している。
132
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
表-2 評価対象システムの類型化
システム名
サブシステム名
Ⅰ-1
Ⅰ-2
Ⅰ-3
Ⅱ-1
Ⅱ-2
Ⅱ-3
Ⅲ-1a
Ⅲ-1b
Ⅲ-2a
Ⅲ-2b
Ⅲ-3a
Ⅲ-3b
Ⅰ 現状維持システム
(焼却処理)
Ⅱ 従来型リサイクルシステム
(コンポスト化、メタン発酵)
Ⅲ 生ごみマテリアル循環システム
(ポリ乳酸化)
→ケミカルリサイクル
[プラスチック循環利用]
Ⅳ 生ごみエネルギー化システム
(BTX・水素化、ガス化溶融)
参考) Ⅱ’ 従来型リサイクル
+利便性向上システム
Ⅳ-1
Ⅳ-2
ゴミ焼却(+埋立)
、汚泥焼却(+埋立)
ゴミ焼却(+埋立)
、汚泥セメント化
ゴミ焼却(+埋立)、汚泥メタン発酵+発電
家庭内コンポスト化
手分別+集約コンポスト化(北九州市規模)
手分別+集約メタン発酵(北九州市規模)
手分別+糖化・ポリ乳酸化(北九州市規模)
手分別+糖化(北九州市規模)+ポリ乳酸化(10 万 t/年規模)
家庭内乾燥機+糖化・ポリ乳酸化(北九州市規模)
家庭内乾燥機+糖化(北九州市規模)+ポリ乳酸化(10 万 t/年規模)
固液分離装置付ディスポーザ+糖化・ポリ乳酸化(北九州市規模)
固液分離装置付ディスポーザ+糖化(北九州市規模)
+ポリ乳酸化(10 万 t/年規模)
単体ディスポーザ+メタン発酵+BTX・水素化
単体ディスポーザ+メタン発酵+ガス化溶融
Ⅱ’
浄化槽付ディスポーザ+集約コンポスト化
各システムの概略フロー図を図-2 から図-5 に示す。上段に示す下水処理システムと下段の廃棄物処理システムから構成
されており、廃棄物処理システムの焼却施設でごみ発電によりエネルギー回収を行う形は全システム共通となっている。
「Ⅰ現状維持システム」の概略フローを図-2 に示す。下水処理システムの下水処理場では、Ⅰ-1(汚泥焼却)、及びⅠ-2
(汚泥セメント化)以外は消化ガス発電によりエネルギー回収を行う形となっている。
図-3、図-4 は「Ⅲ生ごみマテリアル循環システム」の概略フローであり、生ごみを生分解性プラスチックの原料とするための
回収システムの違いが 3 つのサブシステムとなって表れている。図-3 は生ごみを手分別するⅢ-1 ケース、図-4 は生ごみを
ディスポーザで破砕し、各建物に設置される固液分離装置で分離した固分を回収するⅢ-3 ケースの例である。ちなみに図
-3 の生ごみ排出時に各家庭単位で乾燥するプロセスを加えるとⅢ-2 のケースとなる。
下水処理システム
下水処理システム
トイレの排水
トイレの排水
下水管
ポンプ場
その他の排水
処理場
下水管
放流水
ポンプ場
処理場
その他の排水
汚泥
放流水
汚泥
排水
消化ガス発電
消化ガス発電
ディスポーザー
生ごみ
(固液分離装置付き)
生ごみ
廃棄物処理システム
生ごみ
収集・運搬
生分解性
プラスチック
廃棄物処理システム
収集・運搬
焼却場
焼却灰輸送
埋立
生ごみ以外の
可燃ごみ
生ごみ以外の
可燃ごみ
収集・運搬
焼却場
焼却灰輸送
埋立
ごみ発電
ごみ発電
図-3 Ⅲ生ごみマテリアル循環システム(Ⅲ‐1)の概略フロー
図-2 Ⅰ現状維持システム(Ⅰ-3)の概略フロー
下水処理システム
下水処理システム
トイレの排水
トイレの排水
下水管
ポンプ場
処理場
その他の排水
放流水
下水管
汚泥
ポンプ場
その他の排水
生分解性
プラスチック
収集・運搬
生ごみ
ディスポーザー
(直投型)
収集・運搬
焼却場
焼却灰輸送
消化ガス発電
BTX・水素化
廃棄物処理システム
廃棄物処理システム
生ごみ以外の
可燃ごみ
放流水
汚泥
消化ガス発電
生ごみ
処理場
生ごみ以外の
可燃ごみ
埋立
収集・運搬
焼却場
焼却灰輸送
埋立
ごみ発電
ごみ発電
図-5 Ⅳ生ごみエネルギー化システム(Ⅳ-1)の概略フロー
図-4 Ⅲ生ごみマテリアル循環システム(Ⅲ‐3)の概略フロー
133
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
図-5 は「Ⅳ生ごみエネルギー化システム」の概略フローであり、ディスポーザから下水道経由で下水処理場に集められた
生ごみのメタン発酵を行うところは共通であるが、発酵後の汚泥を用いて BTX・水素化を行うケースがⅣ-1、汚泥をガス化溶
融するケースがⅣ-2 となっている。
(3)新都市システムの実現シナリオ検討のための情報整理 (ツール名:「シナリオ・プランニング」、「システム実現・拡大のた
めの戦略」)
新都市環境システムの実現シナリオを検討するために必要な情報整理を行った。情報整理の主な項目は、新都市環境シ
ステムの方向性を決める 2 つのキーファクターとして設定した、消費・排出段階での市民の協力度の高低(市民協力度軸)と、
資源循環型に向けた技術インフラ対応度の高低(技術インフラ対応度軸)の現状と今後の動向についてである。
市民協力度について
実現シナリオ検討における生活者ニーズの把握を重視し、北九州市民を対象としたグループインタビューを実施した。
対象グループの概要は表-3 のとおりである。
調査テーマは「1.環境問題への意識と行動」「2.環境を守るために各自が負担しなければならないことについて」「3.生
ごみ処理の方法について」「4.生ごみ処理方法のシナリオについての評価とその背景について」であり、特に消費・排出段
階での市民の協力度の高低に影響を与える要因の抽出に注力した。
表-3 グループインタビュー実施 4 グループの概要
区 分
主婦層
環境問題への意識の高い女性層
学生層(男性3名、女性4名)
参加者の属性
20代までの若い年代の主婦
40~60代までのベテラン主婦
H13年度のごみ計量調査協力者
将来の環境問題に直接関わってくる次世代世代の代表
合 計
人数
7名
7名
7名
7名
28名
また、北九州市で開催された環境系の展示会(2003 年 10 月 22-24 日、エコテクノ)において、主に一般市民を対象にした調査
成果発表のブース展示を実施した際に、来場者に対して新都市環境システムを含む 4 つのシステム選択アンケートを実施した。
技術インフラ対応度について
技術インフラ対応度の方向性を決める上で鍵となるのは、現状では各自治体において使用自粛要請が出されていることも
多い単体ディスポーザ利用の普及、及び下水道をバイオマス資源の輸送路として用いることの実現可能性である。
したがって、下水処理の現状、及び今後の動向を把握するために、(社)日本下水道協会、及び分析対象都市である北九
州市へのヒアリングを行った。また我が国におけるディスポーザ導入事例として、東京都公団住宅、(財)茨城県薬剤師会公
衆衛生検査センター、富山県魚津市、北海道歌登町の見学・ヒアリングを行った。
■ 研究成果
(1)LCA評価のための対象システムの整理 (ツール名:「4 つのシステムイメージ構築」)
1 班開発の「生ごみポリ乳酸化」と 2 班開発の「廃棄物系・下水系統合効率化+汚泥再資源化」技術を社会システムに導入
したシステムとして組み込んだ2つの新都市環境システムと2つの既存システムの計 4 システムを 2 軸・4 象限で整理したもの
を図-6 に示す。
このうち技術インフラ対応度の高い上部の 2 システムが新都市環境システムであり、市民協力度の高低によって協力度が
高い場合には、生ごみの分別排出や生成物であるポリ乳酸製品の率先購入、及び分別排出が求められる「生ごみマテリアル
循環システム」(第 1 象限)、協力度が低い場合にはディスポーザにて手間なく生ごみを処理できる「生ごみエネルギー化シス
テム」(第 2 象限)で対応する構造となっている。
134
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
技術インフラ対応度 高い
汚泥ガソリン化技術のシステム化
生ゴミポリ乳酸化技術のシステム化
ポリ乳酸化プラント
液体燃料
技
術
イ
分別排出
ン
フ(乾燥機利用含む) 車両収集運搬
ラ
対
手間
応
ポリ乳酸
度
軸
ケミカル
ディスポーザ
手間
下水道
下水処理場
(メタン発酵、ガソリン・水素化)
飼・肥料
リサイクル
Ⅳ生ごみエネルギー化システム
Ⅲ生ごみマテリアル循環システム
市民協力度軸
市民の協力度 低い
Ⅱ従来型リサイクルシステム 市民の協力度 高い
Ⅰ現状維持システム
手間
手間
分別排出
混合排出
車両収集運搬
焼却処分
コンポスト化
メタン発酵
技術インフラ対応度 低い
§2 軸(システムの方向性を決めるキーファクター)
横軸 市民協力度軸 (消費・排出段階での市民協力度 高⇔低)
縦軸 技術インフラ対応度軸 (技術インフラ対応度 高⇔低)
§システム名称
Ⅰ 現状維持システム (焼却処理)
Ⅱ 従来型リサイクルシステム (コンポスト化、メタン発酵)
Ⅲ 生ごみマテリアル循環システム (ポリ乳酸化→ケミカルリサイクル[プラスチック循環利用])
Ⅳ 生ごみエネルギー化システム (ディスポーザ→エネルギー回収)
図-6 4 システムのイメージ
排出
前処理
輸送
処理・リサイクル
自治体・一廃業者収集
自治体等資源選別施設
自治体・一廃業者収集
自治体焼却施設
生成物需要
排出
産業・事業系
事業系
資源ごみ
乾燥ごみ
生ごみ分別
事業系
資源ごみ
再資源化
エネルギー回収
埋立
焼却灰
生ごみ
前処理
資源ごみ分別
乾燥ごみ
生ごみ
産廃業者収集
家庭系
・堆肥化
生ごみ分別
自治体収集
生ごみ乾燥
自治体収集
ディスポーザー
排水処理槽
固分
産廃焼却施設
焼却灰
埋立
各種資源化施設
・堆肥化、飼料化
・バイオガス化
・生分解プラ化
堆肥、飼料
バイオガス
ポリ乳酸
ポリ乳酸化残さ
自治体・一廃業者収集
自治体等資源選別施設
自治体・一廃業者収集
自治体焼却施設
自治体収集
資源ごみ分別
自治体収集
自治体焼却施設
自治体収集
自治体資源選別施設
・堆肥化
固系廃棄物
生ごみ
生ごみ分別
自治体収集
生ごみ乾燥
ディスポーザー
埋立
エネルギー回収
自治体収集
固液分離装置
固分
公共下水道
下水処理場
汚泥
嫌気消化
自治体収集
処理水
資源ごみ
水系廃棄物
厨房排水
堆肥、セメント原料
BTX
水素
公共水域放流
処理水
資源ごみ分別
公共下水道
前処理
輸送
処理・リサイクル
自治体・一廃業者収集
自治体等資源選別施設
自治体・一廃業者収集
自治体焼却施設
生ごみ分別
自治体・一廃業者収集
下水処理場
汚泥
自治体焼却施設
自治体収集
自治体資源選別施設
埋立
エネルギー回収
再資源化
嫌気消化
バイオガス
汚泥等資源化施設
・堆肥化、セメント原料化
・BTX化
・水素化
排出
生成物需要
前処理
産業系
動植物性残さ
産廃業者収集
家庭系
・堆肥化
生ごみ分別
自治体収集
生ごみ乾燥
自治体収集
ディスポーザー
排水処理槽
固分
エネルギー回収
埋立
輸送
処理・リサイクル
資源ごみ分別
自治体・一廃業者収集
自治体等資源選別施設
自治体・一廃業者収集
自治体焼却施設
生ごみ分別
自治体・一廃業者収集
産廃焼却施設
焼却灰
各種資源化施設
・堆肥化、飼料化
・バイオガス化
・生分解プラ化
産業系
動植物性残さ
埋立
公共下水道
下水処理場
汚泥
自治体収集
自治体焼却施設
自治体収集
自治体資源選別施設
嫌気消化
固系廃棄物
生ごみ
処理水
生ごみ分別
自治体収集
生ごみ乾燥
自治体収集
ディスポーザー
排水処理槽
埋立
エネルギー回収
堆肥、セメント原料
BTX
水素
公共水域放流
固分
堆肥、セメント原料
BTX
水素
公共水域放流
生成物需要
産廃焼却施設
再資源化
焼却灰
エネルギー回収
埋立
焼却灰
埋立
各種資源化施設
・堆肥化、飼料化
・バイオガス化
・生分解プラ化
堆肥、飼料
バイオガス
ポリ乳酸
ポリ乳酸化残さ
堆肥、飼料
活性炭
水素
焼却
自治体収集
処理水
焼却灰
可燃ごみ
再資源化
資源ごみ
水系廃棄物
厨房排水
バイオガス
汚泥等資源化施設
・堆肥化、セメント原料化
・BTX化
・水素化
その他雑排水
・堆肥化
堆肥、飼料
活性炭
水素
焼却
自治体収集
産廃業者収集
家庭系
堆肥、飼料
バイオガス
ポリ乳酸
ポリ乳酸化残さ
焼却灰
資源ごみ分別
乾燥ごみ
生ごみ
処理水
可燃ごみ
事業系
資源ごみ
再資源化
焼却灰
資源ごみ
水系廃棄物
厨房排水
堆肥、飼料
バイオガス
ポリ乳酸
産業・事業系
乾燥ごみ
固系廃棄物
生ごみ
埋立
Ⅲ 生ごみマテリアル循環システムの処理フロー
産業・事業系
生ごみ
焼却灰
処理水
Ⅳ 生ごみエネルギー化システムの処理フロー
資源ごみ分別
産廃焼却施設
自治体収集
その他雑排水
排出
エネルギー回収
埋立
焼却灰
バイオガス
汚泥等資源化施設
・堆肥化、セメント原料化
・BTX化
・水素化
再資源化
焼却灰
各種資源化施設
・堆肥化、飼料化
・バイオガス化
・生分解プラ化
ポリ乳酸化残さ
堆肥、飼料
活性炭
水素
焼却
再資源化
可燃ごみ
その他雑排水
事業系
資源ごみ
生成物需要
自治体・一廃業者収集
産廃業者収集
家庭系
堆肥、飼料
活性炭
水素
焼却
焼却灰
可燃ごみ
生ごみ分別
産業系
動植物性残さ
処理水
資源ごみ
水系廃棄物
厨房排水
処理・リサイクル
自治体・一廃業者収集
産業系
動植物性残さ
固系廃棄物
生ごみ
輸送
産業・事業系
資源ごみ分別
資源ごみ分別
公共下水道
Ⅰ
下水処理場
汚泥
自治体収集
自治体焼却施設
自治体収集
自治体資源選別施設
嫌気消化
処理水
Ⅱ 従来型リサイクルシステムの処理フロー
現状維持システムの処理フロー
図-7 4 システムの処理フロー
135
再資源化
バイオガス
汚泥等資源化施設
・堆肥化、セメント原料化
・BTX化
・水素化
その他雑排水
埋立
エネルギー回収
堆肥、セメント原料
BTX
水素
公共水域放流
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
4 システムそれぞれの生ごみ排出から前処理、運搬、処理・リサイクルまでのルートを図-7 に整理する。
システムⅢ、及びⅣは技術インフラ対応度が高いシステムであり、Ⅲでは生ごみポリ乳酸化技術、Ⅳでは BTX(ベンゼン・ト
ルエン・キシレン)・水素化技術の導入を前提としている。しかしⅢでは生ごみは各家庭で分別され、生のまま、もしくは乾燥
機で乾燥させたものを自治体により定期的に収集された上でポリ乳酸化されるのに対し、Ⅳでは生ごみはディスポーザにより
粉砕され雑排水と共に下水道を経由して下水処理場に集められた上で BTX・水素といったエネルギーに転換されており、
Ⅲ・Ⅳ間の市民協力度の違いが排出・運搬方法の違いとなって表れている。
またシステムⅠ、及びⅡは技術インフラ対応度が従来並のシステムであるが、Ⅱは市民協力度が高いことから、各家庭で
のコンポスト化や自治体による生ごみ分別収集を経由した集約的なコンポスト化やメタン発酵といった従来型リサイクルの実
施を想定している。一方Ⅰは技術インフラ対応度も市民協力度も低いことから、生ごみは他の可燃ゴミと同様に混合排出され、
全量焼却処理される形にしている。
(2)システム間のLCA評価 (ツール名:「システム間の比較評価」)
比較評価対象である 15 のサブシステムを5つの環境指標にて多面的に評価した結果を表-4 に示す。
表-4 システム間の多面的比較評価
システム名称
LC-エネルギー
6
リサイクル時バージン
資源消費削減量
順位
順位
(103t)
LC-CO2
3
LC-BOD
(t)
全体
LC-埋立量
順位
3
(10 GJ)
順位
(10 t-C)
0.6
7
20.9
9
-10.3
0.4
4
-4.1
1
-29.1
1
11.3
7
1.0
9
22
2
0.3
2
5.0
4
-11.9
12
12.2
8
0.9
8
34
5
(10 t)
順位 総ポイント 総順位
Ⅰ 現状維持システム(焼却処理)
Ⅰ-1 ごみ焼却(+埋立)、
汚泥焼却(+埋立)
Ⅰ-2 ごみ焼却(+埋立)、
汚泥セメント化
Ⅰ-3 ごみ焼却(+埋立)、
汚泥メタン発酵+発電
14
14.2
11
1.1
10
51
11
Ⅱ 従来型リサイクルシステム(コンポスト化、メタン発酵)
Ⅱ-1 家庭内コンポスト化
Ⅱ-2 手分別+
集約コンポスト化(北九)
Ⅱ-2 手分別+
集約メタン発酵(北九)
2.0
11
26.5
11
-13.8
9
13.3
10
-0.1
1
42
9
0.4
5
6.2
6
-12.4
11
9.7
5
-0.0
3
30
4
0.5
6
6.4
7
-11.6
13
9.7
6
0.8
7
39
8
Ⅲ 生ごみマテリアル循環システム(PLA化→循環型プラ利用)
Ⅲ-1a 手分別+糖化・PLA(北九)
Ⅲ-1b 手分別+糖化(北九)+
PLA(全国)
Ⅲ-2a 家庭内乾燥機+
糖化・PLA(北九)
Ⅲ-2b 家庭内乾燥機+
糖化(北九)+PLA(全国)
Ⅲ-3a 固液分離装置付D +
糖化・PLA(北九)
Ⅲ-3b 固液分離装置付D +
糖化(北九)+PLA(全国)
0.4
3
5.9
5
-18.4
6
7.6
4
0.2
4
22
2
0.1
1
1.3
2
-20.4
3
5.2
1
-0.0
2
9
1
2.9
15
36.5
13
-18.4
6
8.9
3
0.8
6
43
10
2.6
13
31.9
12
-20.4
3
6.5
2
0.6
5
35
7
2.7
14
43.3
15
-16.9
8
28.9
15
5.5
15
67
15
2.5
12
39.7
14
-18.5
5
27.0
14
5.3
14
59
14
Ⅳ 生ごみエネルギー化システム(ディスポーザ→汚泥エネルギー回収)
Ⅳ-1 単体D+メタン発酵+
BTX・水素化
Ⅳ-2 単体D +メタン発酵+
ガス化溶融
1.0
8
3.5
3
-21.5
2
12.4
9
3.0
12
34
5
1.3
9
8.5
8
-10.2
15
15.0
12
3.1
13
57
13
参考)Ⅱ’ 従来型リサイクル(+利便性向上)システム
Ⅱ’ 浄化槽付D+集約コンポスト化
1.3
10
23.5
10
-12.5
10
17.6
13
2.9
11
54
12
注1)順位の付け方は、全項目とも量の少ないものから高い順位を付与。また総ポイントは各項目の順位を単純に足し挙げたもの、総順位は総ポイントの小
さいものから高い順位を付与したもの
注2)(北九):北九州市規模、(全国):全国規模、PLA:ポリ乳酸、D:ディスポーザ
主な結果は次の通りである。
○生ごみマテリアル循環システム :排出段階の方法やリサイクルプラントの規模の組み合わせにより6つのサブシステムを設
けたが、次の結果から「Ⅲ-1b 手分別+糖化(北九)+PLA(全国)」が最適なシステム設計と考えられる
・ 排出段階の方法:乾燥機や固液分離装置付きディスポーザを用いた方法は市民の利便性を高めるものの、各世帯が
それを導入することによる運用時のエネルギー消費が大きな割合を占める
・ リサイクルプラントの規模:北九州市規模と全国規模(PLA生産量10万t/y)では、規模の大きい方がより少ないエネルギー投入、
及び原料(生ごみ)投入量で1単位当たりのポリ乳酸を生産することができる(一方、大規模の場合には各地に設置する糖化施
設で生産する糖液をプラントに運搬する際の輸送分がマイナス要因となるが、相殺するとスケールメリットの方が大きい)
136
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
○生ごみエネルギー化システム :メタン発酵後の汚泥を BTX・水素化してエネルギー回収するケース(Ⅳ-1)との比較で、ガ
ス化溶融するケース(Ⅳ-2)を設定したが、全ての評価項目においてⅣ-1 の評価が上回った(しかしガス化溶融の発電効率
設定によって結果は異なる)
○新都市環境システムと現状維持システム・従来型リサイクルシステムとの比較 :生ごみマテリアル循環システム(最適シス
テムⅢ-1b)は各評価項目とも評価が高く、各順位の単純な足し上げによる総合評価で一番に位置付けられた。また生ごみ
エネルギー化システム(Ⅳ-1)は、利便性を高めるために各世帯にディスポーザを設置し運用時のエネルギー消費が大きい
にもかかわらず、下水処理場でのエネルギー回収が高まるために 3 番目に LC-CO2 が少ないシステムとなっている。
3.5
(10 6 GJ)
50.0
3.0
(10 3 t-C)
40.0
2.5
30.0
2.0
1.5
20.0
1.0
10.0
0.5
Ⅱ’
Ⅳ-2
Ⅳ-1
Ⅲ-3b
Ⅲ-3a
Ⅲ-2b
Ⅲ-2a
Ⅱ-2
Ⅲ-1b
-10.0
Ⅲ-1a
Ⅱ-2
Ⅱ-1
Ⅰ-3
Ⅰ-1
Ⅱ’
Ⅳ-2
Ⅳ-1
Ⅲ-3b
Ⅲ-3a
Ⅲ-2b
Ⅲ-2a
Ⅲ-1b
Ⅱ-2
Ⅲ-1a
Ⅱ-2
Ⅱ-1
Ⅰ-3
Ⅰ-2
Ⅰ-1
Ⅰ-2
0.0
0.0
図-8 システム間の LC-E 比較(左図)、及び LC-CO2 比較(右図)
(3)新都市システムの実現シナリオ検討のための情報整理 (ツール名:「シナリオ・プランニング」、「システム実現・拡大の
ための戦略」)
市民協力度について
消費・排出段階での市民の協力度の高低に影響を与える主な説明要因として、費用負担、排出手間、環境負荷等が挙
げられるが、図-9 に示すように個人や世代により態度形成における各説明要因の影響度合いは異なることが分かる。
<ごみ袋有料化による課金制について>
・ 無料だった時のことは記憶にない
・ 有料化当初は抵抗があったが、今は
別に気にならない
・ 現在は購入することに抵抗はない
環境保護には
いろんなかたちで
負担がかかる
ご
み
袋
の
料
金
ごみの分別
■20 代ヤング主婦層
・ 今のままでよい、便利で
ある
・ 東京は分別が細かい(北
九州は何でも出せていい
よねと友 人に 言わ れた )
ので、もう少し分別した方
がいい(3分別くらい)
■40~60 代ベテラン主婦層
・3分別位までなら大丈夫
・ 分別より先にごみを減らす
べき
・ ごみを置くスペースがない
ので、あまり細かく分別され
ても困る
・ 収集日を 増やすなどの 対
応が必要
・ 分別が進んでないことが、
文化の遅れのように感じる
・ 余力があるからこそ、今 の
処理能力を維持することが
今後も必要
■20 代ヤング主婦層 (料金:安い、まあまあ)
・5 割アップ(大袋 150 円→225 円)はきつい
・2 割アップ(大袋 150 円→180 円)までは大丈夫
■40~60 代ベテラン主婦層 (料金:安い)
・ごみに対する意識を変えるための値上げなら、いくらでも高
いとは思わない
・収益が上がっているらしいので、それをどう使っていくかを皆
に説明したうえでの値上げ
なら納得する
■環境意識が高い層 (料金:他自治体よりかなり安い)
・5 割アップ(大袋 150 円→225 円)でも大丈夫、300 円でも安い。
・安すぎるために、逆についごみを出してしまう(以前よりごみ
の量が増えた)
■次世代世代〔学生〕層 (料金:安いと思う)
・買う頻度が少ないので、あまり気にならない
・他の自治体は高いという話を聞いたので安いと思う
■環境意識が高い層
・ 今は分別が大雑把すぎる
ためにごみが増えている
のではないか
・ 分別したごみが有効利用
されるな ら手間は問題に
しない
・ きちんと再生されるなら幾
ら分別が増えてもいい
・ 住宅街のため、細かく分
別してごみの収集箇所が
広がるのは困る
■次世代世代〔学生〕層
・ 今ぐらい、わずらわしくな
い程度(2分別)がいい
図-9 ごみ排出時の費用負担と分別手間に対する市民の反応の違い
137
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
この違いは望ましい将来のシステム選択の際の違いになって表れており、表-5 に示すように生ごみマテリアル循環システ
ム選択者が重視する要因は「低い費用負担」「一般的な環境への配慮性(高付加価値物が生産できる、分別は環境に良いこ
と)」が、また生ごみエネルギー化システムについては「手間がかからない」「参加性の高さ」が挙げられる傾向がある。
また各システムの選択割合としては、環境展来場者への 4 システム選択アンケート結果では、有効回答数 180 名のうち
52%が「生ごみマテリアル循環システム」を、29%が「生ごみエネルギー化システム」を選択し、各システムともに一定の需要
があることが明らかになった。
この結果は一方で、いずれかひとつのシステムでは全ての生活者ニーズを満たすことは難しいことも示唆している。排出さ
れる生ごみの大半をリサイクルルートに載せることが効率的・効果的なシステム構築に不可欠であることから、採用するシステ
ムに対する多数の市民の合意を得るためのパブリックインボルブメントのあり方や、ニーズを踏まえたシステム設計の工夫等
が非常に重要となってくる。
表-5 新都市環境システムの選択理由
生ごみ
マテリアル
循環システム
の選択理由
生ごみ
エネルギー化
システムの
選択理由
○多少分別の手間がかかっても費用負担が少ない方がいい(20 代主婦)
○生ごみエネルギー化システムは費用がかかりすぎる(20 代主婦)
○経済的な負担がどのくらいになるにもよるが生ごみマテリアル循環システムがよい(20 代主婦)
○生ごみエネルギー化システムは集合住宅では費用負担が大きい(10 代学生)
→『生ごみエネルギー化システム』より費用負担が少ない
○手間はかかってもいいが、価値があるものができる(20 代主婦)
○価値があるものができる(20 代主婦)
○価値あるものが生まれるという点で(40 代女性)
○再生・再利用可能なものができ、最終的に肥料になる(環境意識高い 40 代)
○リサイクルする資源が生まれるという点で(環境意識高い 60 代)
○堆肥の他にも再利用できるものができる(10 代学生)
→価値があるものが生まれる、再利用可能なものが生まれる
○分別はどこでもやっていることであり、自分がやればいい事(60 代主婦)
○最初は手間を感じてもそのうち当たり前になる(学生 10 代)
○自分だけなら生ごみエネルギー化システムがいいが子供に分別の意味をわからせる(40 代主婦)
○分別することによって自分の意識が変わる(環境意識高い 50 代)
○手間がかかる分やることの意味(必要性)がわかり能動的にやれる(20 代学生)
→分別することは当たり前、手間をかけることで意識を変える
○市民全体で分別に取り組んで、皆でその設備を利用する(環境意識高い 70 代)
→自分が取り組んだことが、自分を含めて全体に還元される
○集合住宅なので皆の同意を取り付ける事は難しい(60 代主婦)
→住宅事情(集合住宅)から生ごみエネルギー化システムは難しい
○社会全体で取り組む以上、誰でもやれることでないと普及しない(50 代主婦)
○高齢夫婦や一人暮らし老人には、分別はかなり大変な作業である(50 代主婦)
○夫が一人残ったらごみの分別なんてできない(50 代主婦)
→高齢者、子供、家事に不慣れな男性でもやれる
○生ごみを毎日処理する大変さは身にしみているので、できるだけ手間がかからない方が良い(環境
意識高い 50 代)
○働くお母さんが多いので手間がかからないほうが良い(環境意識高い 30 代)
○ごみ(特に生ごみ)を人に見られることに抵抗がある(50 代女性)
○税金が高くなっても、手間が省けて環境問題に適している(20 代学生)
→できるだけ手間がかからない方が良い
技術インフラ対応度について
表-6 に示すように、国レベルでは単体ディスポーザの導入に対して循環型社会のひとつの選択肢としての位置付けがな
されつつある。
また実際に都市部での新築集合住宅を中心に処理槽付ディスポーザが急速に普及しており、首都圏新築マンション戸数
の 29.1%でディスポーザが導入されている(‘03 年 1-5 月期、不動産経済研究所調べ)。
138
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
表-6 単体ディスポーザ普及に関する最近の国の動き
○ 経済財政諮問会議「循環型経済社会に関する専門調査会中間とりまとめ」 (‘01)
:循環システムの末端回収手段としてディスポーザ導入に言及
○ 国交省「歌登町下水道ディスポーザー社会実験中間取りまとめについて(「ディスポーザー普及時の影響判定の
考え方(案)」(‘02)
:単体ディスポーザを導入しても下水処理場でのエネルギー回収により現状より LCA が改善する試算を紹介
○ 国交省「今後の下水道の整備と管理、及び流域管理のあり方はいかにあるべきか中間とりまとめ」(‘02)
:ディスポーザ生ごみ回収を新しいサービス、エネルギー回収システムとして言及
○ 環境省「平成 14 年度版循環型社会白書」
:循環型社会に向けた 3 シナリオのひとつ(技術開発推進型シナリオ)で家庭生ごみのディスポーザ収集案を提示
一方、自治体レベルでは単体ディスポーザ導入に否定的な見方が支配的である。北九州市の単体ディスポーザ導入に対
する現状と意向について調査を行った結果、雨水流入により越流水が発生することから単体ディスポーザ導入が困難な合流
式下水道が市街地を中心に普及している等の状況から、北九州市において早急に単体ディスポーザを導入することは困難
であることが明らかとなった。調査結果を表-7 に示す。
表-7 単体ディスポーザ導入に向けた北九州市の現状と意向
○ 単体ディスポーザについて
市内部での検討 WG の設置
: 単体ディスポーザが「高齢者対策」「ごみ減量対策」「バイオマス有効利用」の点で社会的なニーズが高いこ
とは十分認識。市建設局では、仮にディスポーザ導入した場合の影響把握のため、平成 14 年度から建設
局内部で検討WGを設置
単体ディスポーザ導入の課題
1. 下水道施設への影響: 既存下水道施設はディスポーザを想定したつくりになっていない。そのため以下
の影響が考えられる
① 管路施設: 管路の堆積物が増加し、流下阻害や硫化水素の発生、悪臭の原因となる。そのため、清
掃浚渫業務が増加
② 水処理施設: 浄化センターへの流入量増加や流入水のBOD、SSが若干上昇
③ 汚泥処理: 汚泥発生量増加に伴い処理費増加。施設増設必要となる可能性も
④ 合流式越流水1: 雨天時越流水の汚濁負荷増加、放流先河川に影響。市下水道の約 1/4 は合流式。
合流改善事業完了には相当の期間・経費要する※
⑤ 合流式越流水 2: 特に問題は市街地に合流式下水道が集中していること。レストラン等の外食産業
からの排出を懸念。また雨水滞水池対応エリアでは、越流回数が減少するものの無くなる訳ではない
ため、単体ディスポーザ導入は困難
※ 今年度末策定予定の合流改善計画では、合流管の分流化と雨水滞水池設置の 2 方式を想定。しかし
単純計算では総費用で 1000 億円程度、年数で分流化が 250 年程度、雨水滞水池設置が 40 年程度
かかる
2. 制度構築: 北九州市のみ解禁する場合、単独ディスポーザの機種認定や指定工事店制度等を単独で行
うことが必要
3. 維持管理費用: 単体ディスポーザ導入により下水道への負荷が増加すると考えられるため、施設の維持
管理費用の増加が発生する。また増加分の財源の検討が必要(例:ディスポーザ利用者から別途料金を
徴収、下水道使用料値上げ等)
4. 都市部での導入実績: 導入事例である北海道歌登町や富山県魚津市は人口が少なく、大都市との比較
は簡単ではない
○ 嫌気性消化処理について
: 5 つの浄化センターのうち、4 ヵ所の消化槽が運転を休止。休止理由は老朽化進む中で経済性の観点・効
率性の観点から。当時はバイオマス利用や温暖化ガス排出抑制の観点はなかった。施設は現存しているが
消化槽を復活させる考えは現状ない
139
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
以上の情報整理に基づき、新都市環境システムを実現するための課題を整理すると、まず「生ごみマテリアル循環システ
ム」では表-8 のような課題が想定される。
表-8 「生ごみマテリアル循環システム」実現に向けた課題
○ポリ乳酸原料としての生ごみの分別収集の実施
・各家庭での生ごみ分別排出の実施
・各戸でエネルギー消費のない生ごみ乾燥機導入による収集の容易化
○ポリ乳酸の循環利用促進施策の導入
・ポリ乳酸利用促進(または汎用プラ利用抑制)のインセンティブ施策の整備
・ポリ乳酸ケミカルリサイクルのための回収・再利用システムの構築
○ポリ乳酸製造の効率・採算性
・焼却施設等の排熱有効利用
・糖化残さの飼肥料化による事業性向上、及び副産物有効利用
・全国規模のポリ乳酸化事業で大量バイオマスを確保するシステムの構築
また「生ごみエネルギー化システム」では表-9 のような実現に向けた課題が想定される。
表-9 「生ごみエネルギー化システム」実現に向けた課題
○ 下水道システムと廃棄物処理システムの統合による新たな「有機物再資源化システム」の実現
・バイオマス回収システムとしてのディスポーザ+下水道システムの構築
・単体ディスポーザの全面的な普及、そのための条件整備
-インフラ整備(下水道分流化、雨水浸透枡設置等)
-単体ディスポーザ利用者からの負担金徴収システムの構築
-各種制度構築(技術基準、規制等)
・生ごみ受け入れに対する下水道管理側(管路、処理場)での柔軟な対応
・収集ごみの組成変化に対する廃棄物処理側での柔軟な対応
・BTX・水素化技術の実用化
・BTX、水素の需要先の開拓
・下水処理場内のエネルギー回収,利用効率向上(メタン発酵加温の排熱利用等)
・下水処理分野でのエネルギー利用促進のインセンティブ施策の整備
■考 察
本調査で要素開発を行った都市ゴミ資源化・リサイクル技術と従来技術を比較・評価するために、対象技術をシステムに組
み込んだ市民の協力度と技術対応度を軸とする 4 つのシステムを考案し、LCA 手法を用いた複数の環境指標による評価を
行った。また、新技術を組み込んだ新都市環境システムを実現するための課題を抽出するために、生活者ニーズの把握、及
び技術対応のための前提条件を確認した。
以下に、得られた知見をまとめる。
○ 「生ごみマテリアル循環システム」は、システム設計によっては現状よりも CO2 排出量が増大する可能性がある。
システムの最適化を左右する主な要素は、省エネルギー型の生ごみ分別収集方法の開発、及びリサイクルプラ
ント大規模化によるスケールメリットの創出にあり、最適化の実施によりシステム間比較で最も優れたシステムとな
る可能性が示された
○ 「生ごみエネルギー化システム」は、ディスポーザ導入による利便性と引き換えに各戸でのエネルギー使用量の
増加につながるものの、下水処理場への生ごみ集約とエネルギー回収により、現状よりも CO2 排出量を削減でき
る可能性が示された
○ 都市ゴミ資源化・リサイクル技術利用に係る生活者ニーズを調査したところ、個人や世代により態度形成における
各説明要因(費用負担、排出手間、環境負荷等)の影響度合いが異なることが分かった。また、求められる市民
協力度に違いのある 2 つの新都市環境システム(「生ごみマテリアル循環システム」、及び「生ごみエネルギー化
システム」)には、それぞれ一定の需要があることが明らかになった。また一方で、いずれかひとつのシステムでは
140
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
大多数の市民のニーズを満たすことが難しいことも示唆しており、市民の合意を得るためのパブリックインボルブ
メントのあり方やニーズを踏まえたシステム設計の工夫等が非常に重要である
○ 分析対象都市である北九州市の実態を踏まえて新都市環境システム実現に向けた課題を調査したところ、「生ご
みエネルギー化システム」実現の前提となる単体ディスポーザ導入は、合流式下水道の存在等の理由から早急
には困難であることが明らかになった
また、今後の課題としては次の事項が挙げられる。
○ LCA 評価では新都市環境システムの潜在可能性が明らかになったが、新技術の評価のために使用したデータは
現在ラボ・実証研究レベルのデータであることから、実際にシステム運用している既存技術との比較のためには、
今後更なるデータの精査が必要である
○ 新都市環境システム実現に向けた課題として、生活者ニーズを踏まえた合意形成のあり方やシステム設計の工夫
の必要性、都市が持つ既存の前提条件の限界等が明らかになったことから、新技術の持つ優位性を踏まえつつ、
現実の社会に導入し、システムを最適化するための実効性のある方法論の検討が必要である
■ 引用文献
1.
松本亨,石崎美代子,左健,島岡隆行:家庭系食品廃棄物の再資源化技術導入シナリオへのライフサイクルシミュレーショ
ンの適用,環境システム研究論文週 Vol.31,2003 年 10 月
2.
GREGORY M. BOHLMANN:BIODEGRADABLE POLYMER LIFE CYCLE ASSESSMENT,SRI Consulting 2001.12
3.
新エネルギー・産業技術総合開発機構:地球温暖化対策技術開発に関する調査 生分解性プラスチックの普及に関す
る研究調査 平成 14 年 3 月,平成 13 年度調査報告書 51401157-0
4.
バイオ生分解素材の開発・普及に関する研究会:バイオ生分解素材普及に向けた政策提言 平成 14 年 7 月
5.
日本政策投資銀行:資源循環型社会で注目される生分解性プラスチック-“バイオマス由来”の特性で広がる用途展開
-,調査 第 56 号 2003 年 9 月
6.
国土交通省都市・地域整備局下水道部 社団法人 日本下水道協会:下水道政策研究委員会報告 中長期的視点に
おける下水道整備・管理の在り方について 平成 14 年 5 月
7.
国土交通省都市・地域整備局下水道部 国土技術政策総合研究所下水道研究部:ディスポーザー普及時の影響判定
の考え方(案) 平成 14 年 5 月
8.
北九州市下水道政策検討委員会:北九州市における 21 世紀の下水道のあり方について(提言) 平成 13 年 10 月
9.
北九州市ごみ処理のあり方検討委員会:北九州市ごみ処理のあり方検討委員会(提言) 平成 15 年 7 月 17 日
10. 北九州市バイオマス産業創出懇談会:北九州市バイオマス利活用基本構想報告書 平成 15 年 12 月
141
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3. 有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ新たな都市環境システムの設計と評価
3.1. 新都市環境システムの設計・導入に関する課題と実現へのシナリオ
3.1.2. 新都市環境システムの設計と実現シナリオ
名古屋大学大学院環境学研究科
井村 秀文
■要 約
北九州市を対象とした新たな有機性廃棄物処理システム実現のための政策に対するシナリオ分析ツールを構築し、分別
収集してポリ乳酸化するシステムと、直投型ディスポーザを使用し生ゴミをエネルギー化するシステムについて 30 年間の動
態的なシナリオ分析を行った。焼却工場と下水処理場,再資源化工場など都市の施設全体をシステムとして処理施設間の物
質・エネルギーフローの変化による因果関係を考慮した結果、廃熱・安価電力の提供を行うなどの対策によって、費用につい
ては現状維持あるいは負担微増の状態で、二酸化炭素の排出量を BAU よりも抑制できる可能性のあることが判明した。
■目 的
本プロジェクトでは、市民との対話・意見交換に積極的に取り組んできた。そうした場において、「新しい処理システムに取り
組むとしたら、手間や金銭的負担等自分達の生活がどう変わるのか、それによって将来がどうなって子孫にどういった社会が
残せるのか、その2つが知りたい。」といった意見に度々遭遇した。そこで、1、2 班が研究・開発を行っている有機廃棄物リサ
イクルに係る要素技術を導入した新システム実現について、各システムの仮定条件を明快にした上で、施設の更新や普及速
度なども踏まえた時間軸上で複数の代替案を同じ基準で定量的に比較・分析するためのツール開発を目指した。
■ 研究方法
上述の目的に対し、北九州市を対象として、廃棄物処理、下水処理、自家処理間の有機性廃棄物フローを統一して評
価できる政策分析ツールを構築し、シナリオ分析を行った。本手法の特徴は、生ゴミ処理方法に対する市民の意識を反映
した選好モデルを組み込んだ上で、発生から最終処理までの物質(全体量、炭素、窒素、りん)フローを 2000 年から 30 年
間予測し、予め設定した政策を費用と二酸化炭素排出量を指標として評価し得ることにある。
1) 2000 年における北九州市の有機性廃棄物処理システムの現状分析
最初に、有機性廃棄物の全体量に加えて、炭素、窒素、りんのマテリアルフローを扱うことを目指し、現状把握のため文
献1)、2)に従って 2000 年度における北九州市の食品廃棄物排出量と炭素、窒素、りんの 3 元素についてのマテリアルフロ
ーを作成した。結果を表-1、図-1 に示す。
2000 年度に、北九州市の焼却工場に持ちこまれた年間 534,051tのゴミ
の厨芥率は 11.6%(乾量ベース)である。収集ゴミの水分率が 40%であること
表-1 2000 年の食品廃棄物排出量
[t/年]
から、厨芥の水分量を 75%と仮定すると厨芥収集量は 148,923t程度と推定
事業系食品廃棄物量
77,081
される。これには食品産業廃棄物、事業系食品廃棄物、家庭系生ゴミが含
家庭系生ごみ
79,830
発生量合計
156,911
まれていると考えられるが、ここでは事業系食品廃棄物と家庭系生ゴミで構
成されると仮定した。主に動植物残渣や汚泥である食品産業廃棄物は、北
九州市では平成 10 年度の調査で年間 112,276tが排出されており、その
93%が排出事業者によって自己処理されている。さらに自己処理・委託処
142
家庭内自家処理量
市収集量
7,983
148,923
家庭内自家処理量は、コンポスト容器・
生ゴミ処理機の推定普及率より計算
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
理を問わず中間処理を経て大きく減量され、その残量の 95%が
有効利用されていることが明らかになっており、市収集産業廃棄
物量 41,524tの内訳は全く不明ではあるものの、食品産業廃棄物
はほとんど含まれていないと推察されるためである。
2) 政策分析ツールの開発
作成した政策分析システムは、廃棄物排出、方法別処理量配
分、処理・再資源化の3つのセクタからなっており、各セクタは複
数のモジュールから構成されている(図-2)。このシステムには、
パラメータ入力と政策に関するキーファクターの設定が必要であ
る。人口の増加率や都市の下水道普及率、ゴミの排出原単位等
のパラメータは、対象としている北九州市の実績値やプロジェクト
内で行った調査結果、文献等から Default 値が設定されている。
これらのパラメータは、入力シートによって設定・変更が容易であ
る。また、政策に関する設定は、対話型の設定パネルから入力す
ることが可能である。これらの入力に対して、物質フローの他に費
用と二酸化炭素排出量を計算する。費用については、対象都市
においてゴミ処理・下水処理・新たな有機性廃棄物処理システム
のための年間必要金額と、それを自治体と市民がどのように負担
をしたかが計算される。二酸化炭素排出量については、対象都
市においてゴミ処理・下水処理・新たな有機性廃棄物処理システ
ムによって年間どれだけの二酸化炭素が直接・間接的に排出さ
れたかが計算される。ただし、食品廃棄物由来の二酸化炭素排
出量は対象外とする。分析対象の範囲を表-2 にまとめて示す。
本システムの作成にあたっては、視覚的な画面を通してのモデル
構築が可能で、変更も容易であることから、システムダイナミクス
専門のソフトウェア Powersim を用いた。
以下に、各モジュール毎の主に物質フローの計算について説
明する。特に明記がない場合、費用や二酸化炭素排出量は、
物質フローに依存するランニングと、減価償却費や人件費等
図-1 北九州市の食品廃棄物由来成分のマテリアルフロー
の固定費に依存するイニシャルの合計となる。
ア) 人口予測モジュール
都市人口の変動は、出生率と死亡率から決まる自然増加と転入率と転出率から決まる社会増加を考慮している。自然増
加率については、北九州市の 2000 年度のデータを基準とし、国立社会保障・人口問題研究所が発表する将来推計人口
の増加率を変動予測値とした(「引用文献 3.」)。北九州市の社会増加は、過去10年常にマイナス値を取っており、今回は
2000 年度のデータを用いて一定値とした。
イ)世帯構成予測モジュール
世帯構成は単独世帯から10人の世帯までの10区分とし、変動率を入力することによって計算している。変化率の値に
ついては、国立社会保障・人口問題研究所が発表する世帯数の将来推計は家族類型によるものであり、世帯構成人数別
の推計はないため、2000 年度の北九州市のデータを基準とし、単独世帯数と 2 人世帯数の増加率はこの値を用い、その
増加分を他の世帯数が 2000 年度の比率を保ったまま減少するものとした(「引用文献 4.」)。都市人口と世帯構成人数比か
ら、1 世帯の平均人数と総世帯数を計算している。
ウ) 家庭系生ゴミ排出量予測モジュール
家庭系有機性廃棄物排出量予測モジュールにおいては、家庭において発生する生ゴミ量の他にし尿・生活排水の排出
143
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
量を計算する。排出生ゴミ
廃棄物排出セクタ
量は、焼却工場の処理区
人口予測
(新門司工場、日明工場、
世帯構成予測
都市人口
INPUT
皇后崎工場)別に、し尿・
生活排水は下水処理場の
総世帯数、世帯平均人数
生ゴミ以外の一般ゴミ排出量予測
家庭系生ゴミ排出量予測
し尿総発生量、
事業系食品廃棄物排出量予測
生活排水総発生量、
事業系食品廃棄物
家庭系生ゴミ総排出量
総排出量
パラメータ入力
処 理区 (新 町処 理 場 、 日
INPUT
厨芥以外の家庭ゴミ量、
食品廃棄物以外の
事業系ゴミ量
政策設定
&
政策パラメータ
●ゴミ排出量原単位
明処理場、曽根処理場、
方法別処理量配分セクタ
●下水道普及率
●住居形態
北湊処理場、皇后崎処理
市民の採用処理方法予測
●各処理方法の属性
(市場価格,ランニング
コスト,環境負荷 etc.)
●下水.汚泥処理場内
物質フロー係数
●市民の生ゴミ処理
方法に関する効用
関数パラメータ
場)別に推定する。なお、
実際は焼却工場の処理区
と 2 つの下水処理場の処
習慣解凍機会普及予測サブ
●大きく4つのシステム
↓
各システムにおける
キーファクターの設定
処理方法選択確率算出サブ
処理方法別選択確確率
習慣解凍機会普及率、新行動世帯率
各処理方法普及率
方法別処理量配分
処理・再資源化セクタ
理区にまたがっているなど
下水処理
流入下水
家庭内コンポスト化量
自家処理
完全には一致していない
下水処理場サブ
糖化施設サブ
(消化)汚泥,発生消化ガス量
糖化液,ポリ乳酸、残渣
汚泥再資源化サブ
糖化残渣再資源化サブ
BTX,水素
飼・肥料,活性炭
コンポスト
年間焼却量
が、計算を簡単にするため、
焼却工場
重なっている面積比から判
循環型プラスチック
分別収集量
焼却灰、低位発熱量、
発電量
断して下水処理区をいず
OUTPUT
れかの焼却工場処理区に
事業系生ごみ
15 336
● 物質フロー : 全体量, C, N, P
割り振った。
調理くず
食べ残し
1 1 2 63
焼却灰
293
代謝
6 7432
7 2381
● 評価指標 : 費用
このモジュールでは、
焼却ガス
26 306
厨芥
11 2 6 3
摂取
大気圏
1 0610 4
酸化分解
51 3 4
消化ガス
4 29 1
脱水ケー キ
6 9 97
し尿
(全体,個人負担,自治体負担)
4 9 49
台所排水
放流
1 6 69
生活排水
4 9 4 9
セメント原料
4 02 3
焼却ガス
2 94 1
焼却灰
32
水圏
地圏
4 9 0 9
工場廃水
3 2 8 2
都市の世帯人数構成と世
摂取
家庭系生ゴミの LCCO2
1669
4348
環境
処理・再 資源化
排出
食物由来 の炭素 フロー (t
- C / 年)
帯構成人数別生ゴミ排出
原単位から都市の一世帯
図-2 政策分析システムのモジュール構成
当たりの平均生ゴミ排出原
表-2 政策分析システム内で取り扱う費用と二酸化炭素排出量の範囲一覧表
費用
* * * * 下水関連 * * * *
管渠
ポンプ場
二酸化炭素排出量
水処理
(標準活性汚泥法)
汚泥処理
(濃縮→脱水)
汚泥処理
(濃縮→消化→脱水)
北九州市の累積建設費より減価償却費を計算
☆既に実施しているケースにつ
いては対象外
☆休止中の施設を稼動させる
場合の整備補修費は計上
イニシャル
分流化
ランニング
管渠の清掃延長に応じて
揚水量に応じて
エネルギー
処理量(t)に応じて
エネルギー,薬品
処理水量(m3)に応じて
エネルギー,薬品
人件費,整備・点検等の固定費(一定)
管渠
ポンプ場
水処理
(標準活性汚泥法)
汚泥処理
(濃縮→脱水)
どのケースでも同じなので対象外
イニシャル
分流化
ランニング
管渠の清掃
延長に応じて
使用エネル
ギー
使用エネルギー,薬品
汚泥処理
(濃縮→消化→脱水)
☆既に実施しているケースについて
は対象外
☆休止中の施設を稼動させる場合
の整備補修は計上
エネルギー,薬品
(ただし,消化ガス化において使用する薬品は,
費用データは存在したが薬品名が不明のため対象外)
人件費と整備補修費
使用水量に応じた支払い下水道料金
利用者負担
* * * * ゴミ関連 * * * *
収集 (可燃ゴミ・分別生ゴミ収集・糖化液輸送)
イニシャル
焼却
埋立
建設費用/使用年数で計算
対象外
収集
イニシャル
車両減価償却費+年間補修費+収集人員人件費
埋立
対象外
年間補修整備
建設費減価償却費に応じた整備費
処理量に応じた
エネルギー費
処理量に応じたエネルギー費
ランニング
焼却
建設費用/使用年数で計算
車両減価償却+年間補修
走行距離に応じた燃料費
使用エネルギー・
薬品
使用エネルギー・薬品
ランニング
使用燃料
人件費等の固定費(一定)
排出量に応じた支払い料金 ・・・自己搬入事業系ゴミ処理料金 (円/t)
・・・市収集ゴミ処理料金 (ゴミ袋代から計算 円/袋)
利用者負担
* * * * 自家処理 * * * *
イニシャル
ランニング
コンポスト容器
電気式生ゴミ処理機
浄化槽付ディスポーザ
直投型ディスポー
ザ
生ゴミ乾燥機
本体価格
本体価格
浄化槽+破砕機の価格
破砕機価格
本体価格
月あたりのEMぼかし代
月あたりの費用
(エネルギー+チップ)
月あたりの費用
月あたりの費用
(エネルギー,上水,
浄化槽維持管理費,
(エネルギー,上水)
浄化槽で発生する汚泥処理費)
月あたりの費用
(エネルギー)
イニシャル
コンポスト容器
電気式
生ゴミ処理機
浄化槽付ディスポーザ
直投型ディス
ポーザ
生ゴミ乾燥機
本体
本体
本体+浄化槽
本体
本体
使用エネルギー
使用エネルギー・
上水
(浄化槽において発生する
汚泥の処理は対象外)
使用エネル
ギー・上水
使用エネルギー
飼・肥料化
活性炭化
ランニング
購入補助金
自治体負担
* * * * 再資源化 * * * *
イニシャル
糖化施設
飼・肥料化
活性炭化
BTX・水素化
建設費
建設費
建設費
建設費
処理量に応じた必要エネルギー, 処理量に応じた必要エ 処理量に応じた必要エネル
薬品
ネルギー,薬品
ギー,薬品
ランニング
糖化施設
イニシャル
処理量に応じた必要エネルギー,薬品
人件費
人件費
人件費
人件費
整備補修費
(建設費の2%)
整備補修費
(建設費の3%)
整備補修費
(建設費の4%)
整備補修費
(建設費の5%)
その他の経費
(他のランニングの15%)
その他の経費
(他のランニングの
15%)
その他の経費
(他のランニングの15%)
その他の経費
(他のランニングの15%)
排出量に応じた支払い料金
・・・自己搬入事業系ゴミ処理料金 (円/
排出者負担 t)
・・・市収集ゴミ処理料金
(ゴミ袋代から計算 円/袋)
処理量に応じた必要エネルギー,薬品
ランニング
再資源化による生成物は削減効果として差し引く
●消化ガス化・・・直接利用した場合はバイオガス
●発電・・・電力
●コンポスト化・・・堆肥(家庭内コンポスト化も家庭内で有効利用されると仮定)
●生ごみ糖化・・・糖化→ポリ乳酸化の費用、二酸化炭素排出量も加えた上で、
生成ポリ乳酸に対してポリスチレンで評価
●活性炭化・・・市販活性炭
●BTX・・・原油由来石油製品
144
BTX・水素化
対象外
整備補修
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
単位と家庭系生ゴミ総排出量を計算し、生ゴミの炭素率、窒素率、りん率を用いて家庭系生ゴミ総排出量と3元素量を計算
する。世帯構成人数別の生ゴミ排出量原単位は、本プロジェクトが北九州市の家庭の協力をもとに得た結果を利用した(表
-3)。また、生ゴミ中の3元素量は、「引用文献 5.」の組成から導出した(表-4)。ただしこのような組成データは、代表的な栄
養素である蛋白質・炭水化物・脂質で与えられることが多い。そこで、栄養素に含まれる炭素量の算出には、蛋白質・脂質・
炭水化物中の炭素含有率を 53%、77%、40%、窒素については蛋白質に 16%含まれるとした松本らの研究による値を採用
し、りんについては食品成分の平均を用いて推定した(「引用文献 1.」)。
また、水系廃棄物については、表-5 に示す「流域別下水道整備総合計画調査指針と解説」の原単位から下水道への炭
素排出量を推定した(「引用文献 6.」)。また、生活排水には洗剤由来の炭素も含まれることになるが、本研究では下水処理
場で一括処理されるそれらを分割して扱う必要性がないため一括計上した。
エ) 事業系有機性廃棄物排出量予測モジュール
食品廃棄物を排出すると想定される事業を表-6 にある 7 つの事業に分類し、人口と同様に業種別従業員の増減を求め
た。本来この従業員の増減は、景気など社会状況に左右されるためそれらを反映させたモデルとするべきであるが、適当
な因果関係を与える情報を得られなかったため今回は人口の変動と連動させた。業種別排出食品廃棄物量は、「資源循
環型食品産業モデル展開事業・北九州地区ゼロエミッション推進委員会報告書」にある業種別従業員数に食品廃棄物発
生原単位を乗じて計算する(「引用文献 7.」)。ただし、報告書内にもその旨の記述があるが、この排出原単位調査はサン
プル数が少なく過大に推定されている可能性が高い。2000 年度の現状分析結果と比較しても 4 割ほど多くなっているため、
システム内では補正係数を乗じることで修正を行った。
オ) 有機性廃棄物以外の一般ゴミ排出量予測モジュール
家庭における一人当たりの一般ゴミの排出量原単位は、本プロジェクトが北九州市の家庭の協力をもとに得た分類項目、
処理方法別の結果を集計して利用した(表-7)。生ゴミの 217gは、世帯構成人数別排出原単位と北九州市の世帯構成より
求めた 2000 年時点における平均値であり、将来の世帯構成人数の変化が生ゴミの発生量に反映される(「引用文献 8.」)。
生ゴミ以外の一般ゴミ原単位も、世帯構成別に計算することは可能であるが、生ゴミのように日々排出される性質でなく世
帯構成人数との相関が明白ではないため、平均の値を採用した。よって人口予測モジュールで計算される人口に比例して、
家庭からの生ゴミ以外の一般ゴミ量が計算され、焼却工場モジュールに受け渡される。また、事業系一般ゴミについてはデ
表-5 市民 1 人あたりの下水環境負荷排出原単位
表-3 世帯構成別生ゴミ排出原単位
世帯構成別生ごみ排出原単位 (g/人・日)
2人
3人
4人
5人
6人
295
222
141
190
194
単独
248
排出量
表-4 生ゴミ 100gの組成と炭素・窒素・りん(g)
生ゴミの組成割合
炭素
T-N
T-P
表-6 食品廃棄物排出業種別排出原単位
100g当たり
重量組成比(%) 重量(g) 蛋白質(g) 脂質(g) 炭水化物(g) リン(mg) 蛋白質(g) 脂質(g) 炭水化物(g) リン(mg)
野菜類
果実類
肉・魚介類
米飯
茶殻
その他
BOD
(g/人・日)
(l)
(mg/l)
し尿
50 (1.4)
400
13.4
10
1
生活排水
200
207
27.7
2.7
0.68
( )内は非水洗の場合の排出量
7人
128
37.4
30.0
12.5
7.7
5.6
6.8
37.4
30.0
12.5
7.7
5.6
6.8
1.9
0.7
19.0
8.4
24.5
8.6
0.1
0.9
12.4
2.0
4.7
13.1
6.3
12.3
0.4
74.6
47.7
30.4
42.1
0.7
0.0
2.4
16.9
0.2
0.3
3.7
165.0
2.4
1.6
0.0
315.7
0.6
0.2
5.7
290.0
1.4
0.3
2.7
151.2
0.6
0.9
2.1
合計
5.9
3.2
16.6
生ごみ100g中の炭素(g)
生ごみ100g中の窒素(g)
生ごみ100g中のりん(g)
食品廃棄物量原単位 炭素割合 窒素割合
15.7
5.1
20.6
24.3
16.2
10.3
92.3
12.2
0.94
0.09
(kg/人・日)
飲食料品卸売業
9.4
各種商品小売業
5.0
飲食料品小売業
4.1
一般飲食店
2.4
その他飲食店
0.6
1.9
旅館・その他宿泊所
病院
0.5
(%)
15.4
15.4
15.4
9.3
9.3
15.8
32.6
りん割合 従業員総数
(%)
1.24
1.24
1.24
0.64
0.64
0.94
1.24
(%)
0.14
0.14
0.14
0.09
0.09
0.14
0.24
(人)
9,051
6,912
32,178
20,062
14,666
4,702
18,262
表-7 一般ゴミ項目別使用データ
ゴミ組成 m
排出原単位 事業系廃棄物推定量 炭素含有率
g/人・日
生ゴミ
217.0
紙
102.1
繊維
7.6
プラスチック類
44.7
ゴム・皮革類
0.0
木・竹
19.0
金属
4.1
ガラス・陶磁器
3.2
雑物
4.7
t/年
79379
114718
14810
72851
0
24900
14699
11452
47800
%
12.0
34.1
40.2
57.7
45.9
23.8
0.0
0.0
-
表-8 ディスポーザ排水原単位と固形分率
灰分率
%
排出量
2.8
6.4
0.4
2.0
3.8
34.0
100.0
100.0
20*
BOD
排出原単位
T-N
(g/人・日)
28.25
2.05
(l/人)
5
T-P
0.275
表-9 浄化槽付ディスポーザ排水原単位
排出量
BOD
炭素含有率,灰分率は、文献 9)10)より著者整理
*:2000 年度の北九州市焼却灰発生量より推測
145
T-N
T-P
(g/人・日)
(l/人)
台所排水+ディスポーザ排水
35
46.3
3.85
0.51
処理水
35
10.5
1.93
0.25
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
ータが存在しないため、2000 年度に北九州市の 3 焼却工場に持ち込まれた組成データに基づいて推定した市全体の分
類項目別排出量から、上記の排出原単位×人口で計算した家庭系一般ゴミ量を除いたものを事業系一般ゴミ量とし、2001
年以降の計算でもこれを一定とした(「引用文献 11.」)。
カ) 市民の採用処理方法予測モジュール
市民は生ゴミ処理方法を、費用の他に手間や臭いといった利便性、あるいは環境への影響といった複数の要因(ここで
は属性と呼ぶ)で評価しているものと考えられる。しかしながら、日常的な行動である“ゴミ処理”は市民の生活において習
慣化している可能性が高い。ある行動が習慣化すると、その実行においては態度や意図を含む様々な心理量が行動に及
ぼす影響の強度が低下する、情報を収集しなくなるといった特性が現れると報告されている(「引用文献 15.」)。よって上述
の属性を考慮して生ゴミ処理方法を評価・選択するといった行動を起こすきっかけ(= 習慣解凍機会)が必要となる。そこで、
本システムでは①現在可燃ゴミと一緒に収集に出している世帯は、その行動が習慣化している。②その習慣解凍機会はロ
ジスティック方程式に従って普及する。③解凍機会を得た世帯はその時点で選択可能な全ての処理方法から多項選択モ
デルに則って選択行動を行う、という仮定のもとでモデルを構築した(「引用文献 16.」)。
このモジュールでは、習慣解凍機会普及予測サブモ
ジュールにおいて習慣解凍機会普及率と処理方法見
直し世帯数を計算し、処理方法選択確率算出サブモジ
ュールにおいて処理方法別選択確率を求め、最後に各
効用関数
Vi= f (費用,手間,環境負荷)
アンケート調査でパラメータ推定
処理方法の普及率と処理方法別処理量の配分を計算
START
している(図-3)。また、現状に即した処理方法について
選択肢 N i 決定
政策
i = 可燃ゴミと一緒,コンポスト容器・・・
の評価だけではなく、将来の仮想的な生ゴミ処理方法
に対する評価も可能とするため、費用等の属性を説明
各 i の属性レベル決定
処理方法見直し
世帯数算出
変数とした生ゴミ処理方法に関する選好モデルをコンジ
政策,技術,市場
各 i の選好度 Vi 決定
環境制約 M k i
(住居環境別選択可能性)
ョイント分析によって推定した。生ゴミ処理方法に関する
各 i の選択確率 Pi 決定
効用関数は、「環境への負荷」、「臭い」、「ゴミ出しの手
NO
間」、「分別の手間」、「堆肥化等の特別な手間」、「初期
シミュレーション終了?
YES
費用」、「月々の費用」を属性として設定し、プロジェクト
END
内で取り組んだグループインタビュー(2003 年7月)の参
図-3 市民の生ゴミ処理方法選択モジュール内
のフローチャート
加者とエコテクノ会場(2003 年 10 月 22-24 日、北九州
市で開催されたエコテクノにおいて本事業がブース展
示を実施)で来訪者を対象に行ったアンケート調査から
推定した。その結果、選択肢 i に対する効用値 Vi は以
下の式と係数で表される。
V i = β 1C iI + β 2 C iR + β 3 Li + β 4 G i + β 5 B i + β 6 T i + β 7 O i
CiI :初期費用(百円)
CiR :毎月の負担額(百円)
Li :環境負荷
Gi :ゴミ出しの手間の有無を示すダミー変数
表-10 生ゴミ処理方法に関する効用関数パラメータ推定結果
(サンプル数:447)
1次モデル
係数
t値
-0.005
-10.02
-0.098
-7.01
-1.384
-8.03
-0.640
-3.46
-0.719
-3.95
-0.702
-4.49
-1.077
-6.71
0.353
変数
β1: 初期費用(百円)
β2: 毎月の負担額(百円/月)
β3: 環境負荷
β4: ゴミ出し手間
β5: 分別手間
β6: 特別手間
β7: 臭気
尤度比指数
Bi :分別の手間の有無を示すダミー変数
Ti :堆肥化等特別な手間の有無を示すダミー変数
Oi :臭気の有無を示すダミー変数
なお、ここでの環境負荷とは、
環境負荷=生ゴミ由来の CO2 排出量
+ 処理にかかる燃料由来の CO2 排出量
-有効利用分の CO2 排出削減量
表-11 各処理方法の属性設定値
処理方法 i
属性
C iI
C iR
Li
Gi
Bi
Ti
Oi
146
可燃ゴミと一緒
コンポスト容器
(i =1)
(i =2)
電気生ゴミ処理機 単体ディスポーザ
(i =3)
分別収集
(i =4)
(i =5)
×
○
×
×
○
○
×
○
初期費用 (円)
システム内で計算
ランニングコスト (円/月)
環境負荷
ゴミ出しの手間
分別の手間
特別な手間
臭い
○
×
×
○
×
○
○
○
×
○
○
○
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
と定義し、生ゴミに含まれている炭素に由来する二酸化炭素量を “1” とした場合の値である。つまりこの値が 1 より大きい
ことは、余分にエネルギーを消費して処理していることを表している。
各選択肢の属性レベルのうち、初期費用、毎月の負担額、環境負荷はモデル内でシナリオ設定、時間変化に応じて計
算されるが、利便性に関する設定は表-11 とした。また、政策によって選択肢群は変化する可能性があるが、同時に生活して
いる環境によっても制約を受ける(図-3 内の Mki )。コンポスト容器はその性質上戸建住宅居住世帯のみ選択可能とし、単体
ディスポーザもたとえ使用自粛要請が解除されたとしても集合住宅居住者は取り付けることが困難であるとの判断から戸建居
住者のみとした。このモデルでは、新築の集合住宅のうち一定割合で浄化槽付ディスポーザが設置されると仮定しており、そ
の設置率はディスポーザ製造業者へのヒアリング調査から 0.2 とした。ただし、直投型のディスポーザが使用自粛解除になっ
た場合には、その後に建設される集合住宅は浄化槽付ディスポーザではなく直投型ディスポーザを設置し、その設置率は1
と設定した。なお、戸建住宅における浄化槽付ディスポーザシステムの将来発展性については、ヒアリング調査の結果、シス
テムの価格が高額であることと、2000 年の時点で北九州市において設置している世帯がわずか 1 世帯であることから普及の
見通しは小さいと考え、今回のシステムでは戸建住宅の浄化槽付ディスポーザシステムの普及は扱っていない。
また、選択行動後のコンポスト容器と電気生ゴミ処理機使用世帯については、平均使用年数が経過した時点で再び処
理方法選択機会を得るものとした。ただし再選択世帯は、これまで実施していた処理方法と、使用期間中に属性に変化が
あって効用値が実施していた処理方法を上回る処理方法があった場合その処理方法と、使用期間中に新たに加わった処
理方法を選択肢とした新たな住居環境別の再選択肢集合から選択を行うとした。単体ディスポーザの使用世帯については、
一度その利便性を経験した世帯の 90.9%が継続使用を希望しているという実証実験に基づくアンケート調査結果(「引用
文献 17.」)から、機器寿命時の再選択においても単体ディスポーザを選択すると仮定した。
キ)焼却工場モジュール
焼却工場モジュールでは、焼却による物質フローと平均低位発熱量、燃焼によって発生する蒸気量・発電量を計算して
いる。焼却される量は、廃棄物排出セクタで計算した生ゴミ以外の一般出原単位ゴミ排出量と事業系廃棄物、方法別処理
量配分セクタで計算した可燃ゴミと一緒に収集される生ゴミ量、更にシナリオ設定によって処理する汚泥残渣や再資源化
残渣を合わせた量である。焼却処理される際の低位発熱量は「引用文献 9.」によりゴミ組成別の発熱量を計算し、それぞれ
の処理量を用いて計算している。燃焼によって発生する蒸気量は、シミュレーション開始時の既存施設に関しては現状の
発生状況を反映させ、更新後は「引用文献 12.」の計算式によって推定する。蒸気のうち、シナリオ設定によってはゴミ発電
に使用せず直接供給する場合があり、施設内消費と他施設への供給分を差し引いた残りの蒸気が発電への投入量となる。
発電効率は、既存施設中は 2000 年度の各施設の実績値とし、その後は「引用文献 12.」の値とした。更に発生する焼却灰
量は、焼却灰の水分率が 21.6%であることと各ゴミ組成の灰分率と処理量から推定している。発生した焼却灰は全量埋め
立て処分されるものとした。
なお、焼却工場の更新は、新門司焼却工場が 2019 年に更新されることが既に決定しているものの、他の施設について
は未定であるため、シナリオ設定内で設定できるものとし、更新時に建設される規模は、その時点での処理量に応じて設定
されるものとした(「引用文献 12.」)。
評価項目に関しては、焼却工場への収集についても「引用文献 13.」の手法に基づいて計算している。
ク) 下水処理場モジュール
下水処理場モジュール内のフローについては、全体量、炭素、窒素、りんに加えて固形分量もデータとして扱い、北九
州市の下水道管理年報を基に処理場毎に算出する(「引用文献 14.」)。ディスポーザ排水の原単位は表-8 の値を用い(「引
用文献 8.」)、浄化槽付ディスポーザについては、設置された浄化槽付ディスポーザは全て厨房系統分流方式であると仮
定し、その台所排水も表-9 の水質まで処理され下水道処理地区対象世帯分のみ下水処理施設に流入するとした。こうし
たシステムへの評価項目としては BOD、SS、n-ヘキサン抽出物質の各基準値が与えられており(「引用文献 19.」)、また窒
素・りんについては、適合評価機関へのヒアリングの結果、好気・嫌気性排水処理システムで 8 割、好気性システムで5割程
度処理されているとの回答を得たため、台所排水とディスポーザ排水の半分が処理されるものと仮定した。
処理場内のフローは水処理系と汚泥処理系に分かれており、汚泥処理においては、“消化ガス化実施の有無”、消化ガ
ス化実施の場合“発生ガスの消化槽加温への使用の有無”、“消化ガス発電実施の有無”、“汚泥の処理方法(「焼却 or セ
147
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
メント原料化」/「BTX・水素化」)”をそれぞれ設定する必要がある。北九州市の現状としては、皇后崎処理場の消化ガス
化は 2001 年度半ばで休止されており、現在まで一貫して実施されているのは日明処理場のみである。汚泥処理は、シナリ
オ内で「焼却 or セメント原料化」を選択した場合は、2000 年の時点での各処理場での処理比率でそれぞれ焼却、セメント
原料化されるものとした。
BTX・水素化の物質フロー、製造に係るエネルギー使用量については、プロジェクト内の対象研究者からデータの提供
を受けた。BTX・水素化を実施した場合の残渣は焼却工場にて全量焼却されるものと仮定した。
なお、管渠、ポンプ場も含んだ下水処理システムの減価償却費は、簡単のため全償却期間を 50 年と仮定し、過去の建
設費に対して計算している。2000 年以降の建設費については、2000 年度の金額で一定とし、全てのシステムで共通とした。
また、直投型のディスポーザ普及によって影響を受ける可能性のある管渠の清掃費と分流化費用は固定費から分離して
扱っている。なお、汚泥の輸送(乾燥化のための処理場から処理場への移動や乾燥汚泥の焼却工場への輸送など)に関
しては、今回は考慮していない。
ケ) 自家処理モジュール
家庭内コンポスト化モジュールでは、生ゴミの堆肥化収率 0.095 で堆肥が生成されるものとした。
コ) 循環型プラスチックモジュール
このモジュールでは、食品廃棄物を分別収集しポリ乳酸を精製するシステムを評価するために、分別収集に係る評価と
食品廃棄物をポリ乳酸化するまでの物質フローとそれに伴う評価を計算する。収集に関しては、一般ゴミの収集と同様に文
献
13)
の手法に基づいて計算している。家庭系生ゴミに関しては、分別収集を実施し始めた時点で、可燃ゴミと一緒に収集
に出していた世帯はそのまま分別収集に協力するものと仮定し、家庭内コンポスト化を実施していた世帯は機器の寿命が
来た時点で、選好モデルに基づいて選択がなされると仮定した。事業系の食品廃棄物は、自治体としてどの程度の処理量
を想定して施設の規模を決定するのか重要な要素ではあるが、今回の分析は生活者の観点から実施しているため、収集
可能な最大量として全量分別収集されるものと仮定した。北九州市内の食品廃棄物量では、新たに一貫して食品廃棄物
からポリ乳酸までを精製する工場を建設・運営することは規模の点から不利である。このため本研究では、市内に大規模な
ポリ乳酸生成工場が建設され稼動している現状を踏まえ、自治体において糖化施設を建設し、生成糖化液を既存のポリ乳
酸工場に引き取ってもらうシナリオを想定した。また、糖化施設は焼却工場の隣接地に建設し、廃熱利用の効果を検証す
ると共に、残渣の処理については焼却処理・堆肥化・活性炭化の3つのケースを想定した。それぞれの物質フローや処理
に必要なエネルギー量についての情報は、プロジェクト内研究担当者より収集した。
サ) 評価項目について
費用は、都市全体を対象としているため、自治体が処理等にかけた経費と自家処理を実施している世帯が負担した電気
代等の費用の合計である。なお、自治体の処理経費の一部は、下水処理料金やゴミ袋の代金として排出者が負担してい
る。よって、都市全体の費用は、自治体、世帯、事業者の主体別の負担費用についても計算している。ただし、こうした費
用の中には事業系ゴミの排出者が自治体の集約処理過程に排出する前に負担したオンサイト処理にかかる費用は考慮さ
れていない点に留意する必要がある。
■ 研究成果
1) システムの設定
プロジェクト内では、外部委員の意見等を踏まえ、システム比較・評価の前提となる4つのシステムイメージを、2つの新都
市環境システム(1班「生ゴミポリ乳酸化」と2班「有機性廃棄物の下水サイドへの統合効率化+汚泥再資源化」)と2つの既
存のシステムとして整理してきたが、実現へのシナリオは、その手段の組み合わせが複数あるために膨大なケースが想定さ
れる。動態的に将来予測を行うツールで扱うため、それらの中からエックス都市研究所による LC-エネルギー及び
LC-CO2 の比較結果や実現性等を勘案して、4 つのシステムを以下のシナリオに絞った。
148
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
システム① (生ゴミマテリアル循環システム) … 自治体が家庭系生ゴミを分別収集し、自治体において糖化施設
を運営、糖化液を 10 万 t 規模のポリ乳酸生成プラントに引き取ってもらう。建設地を日明焼却工場・日明
下水処理場の隣接地とする。
システム② (生ゴミエネルギー化システム) … 直投型ディスポーザの使用自粛を解除し、下水処理場で増加する
汚泥を消化ガス化及び BTX・水素化して有効利用する。現状で消化ガス化を実施している日明処理場に
おける処理を対象とする。
システム③ (従来型リサイクルシステム) … 現在北九州市で実施されているコンポスト容器・電気式生ゴミ処理機
の購入助成を更に強化するなど、家庭内コンポスト化を促進させる政策を実施する。
システム④ (現状維持システム)… 現状維持の焼却処理を続ける(BAU)。
また、全システムで共通である都市人口の変化と食品廃棄物排出量を図-4 に示す。
2) シナリオ設定と分析結果
2010 年 4 月 1 日から各
システム実現における主要
[百万人]
政策(システム①:分別回収
1.05
開始、システム②:直投型デ
1
食品廃棄物排出量
人口
[万t/年]
事業系食品廃棄物排出量
15
0.95
ィスポーザ使用自粛解除、
0.9
システム③:家庭内コンポス
0.85
10
0.8
ト化促進政策)を実施した場
家庭系生ゴミ総排出量
20
5
0.75
合について、2000 年 4 月 1
0
0.7
2000 2005 2010 2015 2020 2025 年
2000 2005 2010 2015 2020 2025 年
日から 2030 年 4 月 1 日(2000
図-4 都市人口と食品廃棄物排出量の変化(全シナリオ共通)
年度から 2029 年度)までの
シミュレーションを行った。計
算の時間刻みは1ヶ月である。各システムのシナリオ設定を、表-12 に示す。図-5 は、各システムの計算期間における費用
表-12 システム間比較に用いたシナリオ設定一覧
システム
1
2
3
システムの概要
分別収集→ポリ乳酸化
単体ディスポーザ使用可能
+汚泥の消化ガス・BTX・水素
化
自家処理促進
(家庭内コンポスト化)
現状維持
生ゴミ処理方法に関する
効用関数に基づいた選択行動
(生ゴミ処理方法選択モデルの使用)
△:分別収集開始時期に既に家庭内コ
ンポスト化を実施している世帯について
は自由選択.それ以外は強制的に乾燥
化に参加するものとする
○
○
○
(各シナリオの政策実施後の)
家庭内コンポスト化促進政策
廃止
続行
パワーアップ
(補助台数上限なし,全額補助)
続行
実施有無
○
×
×
×
収集頻度
2週間に1度
生ゴミ
分別収集
収集袋の値段
無料
形態
乾燥して収集
乾燥機使用
の場合
配布形態
アウトプット
メインの評価項目・・・
○二酸化炭素排出量
○費用
(自治体負担と世帯負担)
コンポスト生成量
全体を通して生ゴミ由来の
Cフロー
Nフロー
Pフロー
全戸無料配布
機器の ★値段・・・5万円
パラメータ ★使用エネルギー・・・廃熱利用
ゴミ袋値段
そのまま
そのまま
値上げ
(1枚15円→80円に)
そのまま
収集頻度
2週間に1度
週2回
週2回
週2回
実施有無
×
○
×
×
一般ゴミ
直投型
ディス
ポーザ
4
初期費用
5万円
課金
導入技術
再資源化
通常の下水料金のみ
糖化液製造
(⇒ 大規模ポリ乳酸生成工場
へ)
製造糖化液の引き取り価格
・・・輸送費のみ負担
日明処理場において
消化ガス化+BTX・水素化
管渠清掃頻度・・・38倍
製造時の廃熱利用・・・あり
消化槽加温への消化ガス利用
・・・あり
糖液輸送距離・・・60km
消化ガスの利用・・・
加温+BTXプロセス
残渣の処理・・・堆肥化
汚泥の処理・・・焼却・セメント化
影響因子
149
★下水処理場・・・現状通り日明処
理場でのみ消化ガス化実施を継続
★焼却工場・・・現状通りゴミ発電
実施を継続.焼却工場は,それぞ
れ,新門司工場(2019年),日明工
場(2016年),皇后崎工場(2023
年)に更新されるものとし,更新後
は最大限発電を行うと仮定した.
以上の過程は他のシナリオにおい
ても原則同じとした.
焼却工場における
○焼却量 ○低位発熱量
○発生蒸気量 ○発電量
○焼却灰
下水処理場における
○処理量
○発生汚泥量
○(実施した場合)
消化ガス発生量
シナリオ毎に
○生成ポリ乳酸量
(糖化液量)
○生成BTX,水素量
など
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(全体、自治体負担、世帯負担)と二酸化炭素排出量の累積値を、システム④の結果をそれぞれ“1”として相対比較したも
のである。また、BAUであるシステム④について、全体の費用と二酸化炭素排出量の処理項目別の値の変化を図-6 に示
す。BAU では、30 年間の処理費用の総額が 17,220 億円、二酸化炭素排出量が 200,887tである。費用内訳で下水関連の
値が大きいのは、処理場や管渠建設費(2000 年度の実績投資額:185 億円)を分析対象範囲としているためである。また、
2022 年度に二酸化炭素排出量の焼却の値が逆転するのは、施設の更新があり、更新後の蒸気発生量や発電効率に理論
値を用いたため既存施設中よりも発電量が小さくなった影響の結果である。
全体費用
1
0 .5
費用
(自治体負担)
費用
(世帯負担)
二酸化炭素排出量
システム①
システム②
システム③
システム④(BAU)
図-5 BAU(システム④)を 1 とした場合のシステム間比較 (30 年間累積値)
800
費用内訳
[億円/年]
20,000
700
二酸化炭素排出量内訳
[t/年]
15,000
600
200
10,000
糖化
分別収集
5,000
自家処理
埋立
0
焼却
一般ゴミ収集
-5,000
下水
100
-10,000
500
400
300
0
2000
2005
2010
2015
2020
2025
-15,000
2000
年
2005
図-6 BAU の処理項目別費用と二酸化炭素排出量の変化
150
2010
2015
2020
2025
年
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
システム③のシナリオは、希望者全員に自治体が機器の購入を全額補助するとともに、一般ゴミのゴミ袋代を 1 枚 80 円
(全国自治体のゴミ袋料金の中で高いレベル)まで値上げし、家庭内コンポスト化を促進する政策である。しかしながら、本
システムの選好モデルによると、利便性の問題から、コンポスト容器と電気式生ゴミ処理機の普及率の合計は、30 年後にお
いても 19%程度に留まっている。この政策によって、自治体側の支出は約 949 億円削減されるが、ゴミ袋料金の値上げと
自家処理実施世帯増加の結果を反映して世帯の負担は約 290 億円増加する。ゴミ袋料金が値上げされた影響で事業者
の負担も増加し、全体としては 30 年間で 54 億円程度費用の負担が増加する。これは、主に自家処理を実施するための機
器とエネルギー消費によるものである。これに伴い、二酸化炭素排出量も 7.0%、13,884t増加する。また、家庭内コンポスト
化を試みたもののその後挫折する世帯が一定割合あること、生成したコンポストの利用先がなく結局可燃ゴミとして排出さ
れる可能性があることなどが北九州市の実態調査において明らかになっており、一部の熱心な市民に努力を強いるこの方
法は、都市全体の新システムとはなり得ないであろう。
システム①と②については、費用の負担は若干増加するものの、二酸化炭素排出量を大きく削減できる可能性がある。
これらのシステムのシナリオ設定については、生ゴミの収集段階と再資源化段階の 2 つのステージにおいてそれぞれ代替
案が存在し、組み合わせが可能である。そこでシステム①と②に関しては、まず収集段階について、次いで再資源化段階
における代替案の比較分析を行う。
ア) システム①(生ゴミ分別収集&ポリ乳酸化)
● 収集
生ゴミの分別収集は、そのままの状態
表-13 システム①の収集段階に関するシナリオ分析に用いた設定
で分別されたものを収集する方法と、家庭
内で乾燥化したものを分別収集する方法
が考えられる。収集頻度について分析し
収集時
家庭系生ゴミ
可燃ゴミ
収集形態 収集頻度 収集頻度 機器本体価格
そのまま
月電気代
安価電力/
残渣処理
廃熱利用
糖液
移動距離
糖液引渡し
価格
60km
輸送費
のみ負担
週2
2週1
乾燥
シナリオ
①-1
1,000円/月
た結果、生ゴミが抜けることによって収集
頻度が下げられると考えられる一般ゴミの
再資源化時
生ゴミ乾燥機 (全額市補助)
×/×
50,000円
2週1
×
0円/月
5,000円
①-2
①-3
①-4
1,000円/月
収集については、週 1 回の収集よりも 2 週
3 .7
4.1
3 .3
3.6
間に 1 回の収集の方が、費用・二酸化炭
1.6
素排出量共に若干削減効果が高いことが
1.5
判明した。また、生ゴミをそのまま収集す
1.4
る場合は、現状の一般ゴミの収集回数であ
1.3
る週 2 回から削減することは難しいと考えら
1.2
れるため、収集頻度を減らすことは考慮し
1.1
①-2
なかった。乾燥化した場合は、水分が抜け
1
①-3
る分腐りにくくなり収集頻度は減らせると考
0.9
えられ、週 1 回の収集よりも 2 週間に 1 回
0.8
の収集の方が、費用・二酸化炭素排出量
0.7
共に若干削減効果が高いことが判明した。
0.6
さらに、乾燥化をどのように行うかの設
定は、機器の本体費用と処理にかかる費
①-1
①-4
総費用
自治体負担費用
世帯負担費用
二酸化炭素排出量
図-7 システム①の収集段階に関するシナリオ分析結果
( 30 年間累積値 )
用で行った。乾燥化は電力で行うと仮定
すると月々の費用は電力使用量で決定される。表-13 に示すように、現在市場に出回っている電機生ごみ処理機(乾燥型)
の他に、機器価格はそのままであるものの家庭内の廃熱を利用するなど電力に頼らない省エネ機器と、消費電力はそのま
まに価格のみ布団乾燥機並に低価格化した機器を想定して計算を行った。そのままの生ゴミを収集したケースと共に、結
果を図-7 に示す。
151
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
シナリオ①-1 の分析結果より、そのままの生ゴミを週 2 回収集するシステムは、費用については 0.8%程度増加し、二酸
化炭素排出量も約 3.9 %増加することが判明した。本来この生ゴミ分別収集システムは、手間の点で現状よりも市民の負
担が大きくなることを前提としている。その中でも現状の生ゴミの取り扱いで列挙される問題点の解決がないままにゴミ出し
の手間が増加するこのシナリオは、最も市民に努力を強いるシナリオであると言える。
シナリオ①-2 の現状の生ゴミ乾燥機を利用するシステムでは、機器を補助する自治体側、月々の処理費用を負担する
世帯共に費用負担が増加する。さらに二酸化炭素排出量にいたっては、BAU の 4.1 倍も増加する。シナリオ①-2 と①-3、
①-4 の結果から、二酸化炭素排出量の増加は、月々使用される電力の影響が大きいと言える。よって、乾燥した生ゴミを
収集するシステムであるならば、乾燥化に使用する電力がより少ない機器、あるいは家庭内の廃熱を利用するなど石油由
来のエネルギーに依存しない未来型機器が開発されることが望ましい。
● 再資源化
表-14 システム①の再資源化段階に関するシナリオ分析に用いた設定
再資源化段階の分析は、収集段階の設
収集時
定をシナリオ①-3 の石油由来のエネルギー
家庭系生ゴミ
に頼らずに乾燥化して収集するとして分析
可燃ゴミ
再資源化時
生ゴミ乾燥機 (全額市補助)
収集形態 収集頻度 収集頻度 機器本体価格
月電気代
を行う。糖化プロセスにおいて使用する重
油が蒸気で代替可能であることから、設定し
乾燥
2週1
2週1
50,000円
安価電力/
残渣処理
廃熱利用
×/×
×
○/○
×
○/○
肥料化
○/○
活性炭化
糖液引渡し
価格
シナリオ
①-3
60km
0円/月
たシナリオにより、日明焼却工場から焼却工
糖液
移動距離
①-5
輸送費
のみ負担
①-6
①-7
場から蒸気の供給を受けるとともに焼却工
場のゴミ発電による電力を安価提供してもら
うシナリオ(①-5)と、蒸気・安価電力提供を
受けつつ糖化残渣を堆肥化するシナリオ
(①-6:表-12 のシステム間比較の設定と同
じ)、同じく残渣を活性炭化するシナリオ(①
-7)を比較した(表-14、図-7)。シナリオ①
-7 においては、製造プロセスで残渣を濃縮
1.5
1.4
1.3
1.2
①-3
1.1
①-5
1
する必要があり、そのエネルギーを焼却工
0.8
場の蒸気で賄うものとした。シナリオ①-3 と
0.7
①-5 の比較から、二酸化炭素排出量の結
0.6
果より、焼却工場側の蒸気を提供することに
よる発電量減少の影響よりも、糖化プロセス
①-6
0.9
①-7
総費用
自治体負担費用
世帯負担費用
二酸化炭素排出量
図-7 システム①の再資源化段階に関するシナリオ分析結果
( 30 年間累積値 )
で重油を使用しないことによる効果の方が
高い。また、生ゴミの糖化のプロセスでは残渣が多く発生するが、シナリオ①-6、①-7 の結果は、その残渣をさらに有効利
用することによって、二酸化炭素排出量を大きく削減できることを示している。費用については、施設の建設費等も考慮す
ると、若干現状よりも増加する傾向にある。ただ、活性炭のように商品価値の高いものを製造すると、費用も BAU を下回る
可能性がある。シナリオ①-7 では、同じく活性炭化を実施し、その際の残渣濃縮を蒸気ではなく重油で行った場合につい
ても計算し比較すると、二酸化炭素排出量の削減効果が 14.4%も減少する。
以上の分析は、政策実施前や移行期も含んだシミュレー
ション期間中の累積値による比較であった。ここで、より最適
表-15 2029 年度における評価項目の BAU との比較
(下段の数字は変化率を示し、マイナスは削減を意味する)
と思われるシナリオ①-6 と①-7 について、2029 年度におけ
費用
る費用、二酸化炭素排出量をBAUと比較する(表-15)。両
自治体負担 世帯負担
億円/年
システムとも、BAUよりも年間 30%以上二酸化炭素排出量
が少ないシステムが実現している。ただし、費用に関しては、
シナリオ①-6 では 6.3%増加し、より市場価値の高い活性炭
を生成するシナリオ①-7 では 5.6%抑制される。
152
シナリオ
①-6
①-7
24.2
6.3%
-21.4
-5.6%
-4.0
-3.0%
-4.0
-3.0%
二酸化炭素
排出量
t/年
-5,179
-30.0%
-6,037
-35.0%
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
なお、糖液の輸送距離を 60kmと設定して計算を行ってきたが、例えばシナリオ①-6 において輸送距離が 120kmになる
と、2030 年度で比較して、年間 1.35 億円費用が増加し、510t二酸化炭素排出量が増加する。また、ポリ乳酸を生成するプ
ラントに対して糖液輸送費の負担だけでなく、料金を支払うケースについても検討した。この料金は、糖液をポリ乳酸化す
る過程で発生する残渣処理の費用を賄うと想定し、現在の北九州市の事業系のゴミ処理料金から発生残渣処理費に見合
う料金を計算すると、糖液 1tあたり 1,200 円程度となる。この料金設定の場合、例えばシナリオ①-6 において 2030 年度で
年間 3,257 万円費用が増加する。
イ) システム② (ディスポーザ使用自粛解除&汚泥の消化ガス・BTX・水素化)
● 収集
現在、浄化槽付ディスポーザは集合住宅に設置され普及しつつあるが、下水道に直接ディスポーザ排水を流す直投型
のディスポーザは自治体の利用自粛等により普及していない。直投型ディスポーザを使用するためには、まず下水道が分
流式であることが大前提となる。北九州市の分流式下水道区域は現状で全整備区域の 75%であり、その条件を満たして
いない。したがって、このシステムのシナリオは下水道の分流化と歩調を併せざるを得ない。ヒアリング調査によると北九州
市の完全分流化は、現在の予算状況では 245 年程度かかると見積もられている。今回はそのペースで分流化されるものと
設定して、条件(下水道分流地区の戸建居住者)を満たす世帯に対して普及するシナリオについて分析した。なお、下水
道分流地区の集合住宅は新築されれば設置率(=1)で設置されるものとした。
最初に、利用自粛解除が実施された後の直投型ディスポーザの普及について分析する。国内メーカーの標準的な単体
ディスポーザ販売価格は、5~7 万円であるが、ディスポーザ使用が普及しているアメリカにおいてはホームセンターで 1 万
円程度から販売されている。そこで、市場価格が 5 万円の場合(シナリオ②-1)と 2 万円程度まで低価格化した場合(シナリ
オ②-2)、さらに有機性廃棄物の処理システムを下水道系へ一元化すること促進するために自治体が購入時の補助を実施
する場合(シナリオ②-3、②-4)の計算を行った(表-16)。また、北九州市では年間で全管渠延長の 0.8%程度の清掃を行
っているが、これは全国平均の 4~6%よりもかなり少ない。ディスポーザが普及しているアメリカでは年間で管渠延長の
30%程度(32 都市の平均値)の清掃を実施しているという報告があり、北九州市においても直投型のディスポーザが普及
すれば、管渠の清掃頻度を上げて対応することが必要となる。そこで、直投型ディスポーザの普及に伴って管渠清掃頻度
表-16 システム②の収集段階に関するシナリオ分析に用いた設定
収集時
再資源化時
下水道
ディスポーザ本体について
管渠
清掃頻度
機器
価格
50,000円
20,000円
現状の
10倍
38倍
50,000円
購入補助
消化ガス
化
消化ガスの
消化槽加温
への使用
消化ガス有効利用
汚泥処理方法
発電
焼却・
セメント化
なし
日明のみ
○
全額補助
シナリオ
②-1
②-2
②-3
②-4
36%
1.2
34%
1.1
32%
1.0
②-1
0.9
②-2
28%
0.8
②-3
26%
0.7
②-4
30%
24%
22%
0.6
20%
総費用
自治体負担費用
世帯負担費用
二酸化炭素排出量
直投型ディスポーザ普及率
図-8 システム②の収集段階に関するシナリオ分析結果
(30 年累積値と 2030/4/1 における直投型ディスポーザの普及率)
153
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
を 10 倍に増やす場合(シナリオ②-3)と、アメリカの水準まで増やす場合(シナリオ②-4)についても比較した。30 年間の累積
値と 2030 年 4 月 1 日における直投型ディスポーザの普及率を図-8 に示す。市民にとっては、シナリオ②-1、2、3 および 4
の順に初期費用の負担が小さくなるため普及率が上昇する。直投型ディスポーザが普及するにつれて、下水処理場にお
ける負荷は増加し、収集・焼却処理における負荷は減少する。このことから、自治体の費用については、機器購入の補助
を実施しない限り BAU に比べて微増する程度である。費用に比べて、直投型ディスポーザ普及による二酸化炭素排出量
の増加は大きい。これは、自家処理(直投型ディスポーザ機器本体の製造と使用)からの排出によるものである。
また、ディスポーザが普及することに対する負荷は管渠の清掃頻度で捉えたが、ディスポーザ普及時には現状の 38 倍
の清掃頻度が必要であると設定したシステム②-4 で、管渠清掃費用を受益者負担の観点から直投型ディスポーザ使用者
に負担させた場合、負担は 1 世帯年間 13,300 円程度であった。
● 再資源化
再資源化段階の分析は、収集
段階の設定をシナリオ②-4 で統一
し、汚泥の BTX・水素化を日明処
表-17 システム②の再資源化段階に関するシナリオ分析に用いた設定
収集時
再資源化時
下水道 ディスポーザ本体について
消化ガスの
消化ガス 消化槽加温
消化ガス有効利用 汚泥処理方法
機器
管渠
化
購入補助
への使用
清掃頻度
価格
発電
理場で発生する汚泥のみを対象と
して実施する場合(シナリオ②-5)、
38倍
50,000円
全額補助
日明のみ
○
焼却・
セメント化
②-4
BTX・水素化(日明のみ)
BTX・水素化(新町・日明・曽根)
BTX・水素化(全汚泥)
新町処理場と曽根処理場で発生
シナリオ
②-5
②-6
②-7
する汚泥も脱水ケーキの状態で運
搬し一緒に BTX・水素化する場合
(シナリオ②-6)、他の全処理場から
1.2
1.1
脱水ケーキを収集して BTX・水素
化する場合(シナリオ②-7)につい
て、②-4 と比較した(表-17、図-9)。
1
②-4
0.9
②-5
0.8
②-6
0.7
②-7
2000 年度に置け北九州市では、
汚泥の乾燥化が日明処理場で集
約して実施されており、新町と曽根
処理場の脱水ケーキもここで処理
されている。このことから、脱水ケ
ーキを運搬する事は決して非現実
的ではないと考えた。
0.6
総費用
自治体負担費用
世帯負担費用
二酸化炭素排出量
図-9 システム②の再資源化に関するシナリオ分析結果 (30 年累積値)
設定したシナリオでは、消化ガ
スを消化槽加温に使用したケース
ばかりであるが、加温には使用せず焼却工場からの蒸気で賄
う場合についても計算した。その結果、全シナリオに共通して、
表-18 202z9 年度における評価項目の BAU との比較
(下段の数字は変化率を示し、マイナスは削減を意味する)
費用
加温に使用するために減少する焼却工場における発電量の
影響が大きいため、蒸気を使用しない方が費用・二酸化炭素
共に有利であることが判明した。BTX・水素化のプロセスでは
水熱ガスが生成されるため、消化ガスのエネルギーのみでは
不足する場合でも、水熱ガスも利用することによって十分賄え
シナリオ
②-5
②-7
自治体負担 世帯負担
億円/年
28.8
7.5%
19.8
5.1%
1.5
1.1%
1.0
0.8%
二酸化炭素
排出量
t/年
-572
-3.3%
-2,570
-14.9%
る結果となった。
また、2029 年度のシナリオ②-5 と②-7の費用、二酸化炭素排出量をBAUと比較する(表-18)。図-9 及びこの結果より、
汚泥を全量 BTX・水素化した方が費用増加を抑制する効果が高く、より二酸化炭素排出量は抑制できると言える。ただし、
今回の分析では脱水ケーキの輸送を考慮していないため、実際にはシナリオ②-6 と②-7 については過小評価されている
可能性があることに留意する必要がある。実際には、運搬して集約処理するよりも、日明下水処理場に次いで規模が大きく、
154
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
焼却工場に隣接しており、消化ガス化施設も有している皇后崎下水処理場において消化ガス化・BTX・水素化を実施する
シナリオも考えられるであろう。
現状分析のためのヒアリング調査時に得た情報では、下水汚泥の消化ガス化実施に対しては消極的な姿勢の自治体が
多いそうである。お金と手間をかけてわざわざ消化ガス化するより、脱水ケーキにして焼却した方が効率的であるとの理由
である。その問題点の一つとして、生成した消化ガスの有効利用先がないと言う点が挙げられる。日明処理場でも、余剰ガ
スは燃焼させているのが現状である。本システムのように、消化ガス化によって得られたエネルギーを有効利用するシステ
ムを構築することが出来れば、現状よりもより二酸化炭素排出量を抑制できる処理システムが実現できる可能性があること
を分析結果は示している。
■考 察
本研究において、北九州市をモデルとする4つの有機性廃棄物処理システム実現のための政策に対するシナリオ分析
システムが構築された。特に、プロジェクトの研究成果を集約したと言える2つの新都市環境システム(「生ゴミポリ乳酸化」と
「有機性廃棄物の下水サイドへの統合効率化+汚泥再資源化」)については、収集方法と再資源化段階における分析から、
焼却工場のようなエネルギー供給施設にもなりうる施設を核としてこれまで未利用であったエネルギーも無駄なく利用でき
るシステムとして構築することによって、費用については現状維持あるいは負担微増で、BAU よりも二酸化炭素の排出量を
かなり抑制できる可能性のあることが判明した。
以下に得られた知見をシステム別にまとめる。
システム①・・・生ごみの分別収集による焼却量の減少を規模に反映できるように焼却工場を更新する以前に、石油由来
のエネルギー消費がより少ない生ゴミ乾燥機を用いて家庭内乾燥した生ゴミを収集する形態を確立すると共に、安価
電力・廃熱の供給が受けられる地域に糖化施設と残渣再資源化施設を隣接して建設、運営することで二酸化炭素排
出量を BAU よりも大幅に削減できる可能性がある。
システム②・・・北九州市のように完全分流式ではない都市においては、何よりも社会に直投型ディスポーザを導入するた
めの前提条件を満たす必要があるものの、現状では実施していても生成量を全て有効利用できていない消化ガスを
BTX・水素化のシステムと組み合わせる事によって二酸化炭素排出量を BAU よりも大幅に削減できる可能性がある。
構築したシステム内の各モジュールは、それぞれ求める精度によって変更・改良し得る点が多く、モデル内のパラメータ
設定もデータ収集能力の制約上一般的な値や理論値を採用している箇所が多い。今回のシステムはまだ骨格に過ぎず、
実際に処理システムの変更計画に直面した自治体において適応するよう改良し、実績値や見積もり等のより具体的なデー
タが入力され活用されてこそ、成果が活かされたことになるのではないかと考える。また、本研究の目的が、比較対象シス
テムの条件・仮定等を明快に共有し、外的要因及び市民の選択要因を踏まえた定量的な結果を提供する、政策の合意形
成のためのコミュニケーションツールの提供を目指したものであることからも、今後構築したシステムを公開する方法を前向
きに検討したい。
■ 引用文献
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松本亨,岩尾拓美,大迫洋子,井村秀文:「都市の有機物資源循環システムの評価指標の開発」,環境システム研究論
文集,Vol.28, (2000)
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市江達也,馬籠信之,森杉雅史,井村秀文:「有機物資源循環を目指した都市環境インフラシステムの設計に関する研
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pp,312-321, (2001)
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都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
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日本下水道協会:流域別下水道整備総合計画調査 指針と解説 平成 2 年
7.
食品産業センター:平成 12 年度 資源循環型食品産業モデル展開事業 北九州地区ゼロエミッション推進委員会 報
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岡村実奈,井村秀文:「都市の有機物資源循環構造のモデル化と将来予測シミュレーションに関する研究」,第 30 回環
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12. 北海道大学大学院環境学研究科廃棄物資源工学講座廃棄物処分工学分野:都市ゴミの総合管理を支援する評価
計算システムの開発に関する研究,(1998)
13. 高月紘:「都市内分散型エネルギー需給技術の温暖化抑制効果と都市環境影響に関する研究」,環境省地球環境研
究総合推進費報告書
14. 北九州市建設局:管理年報(平成 12 年度版)
15. 北村隆一,森川高行,佐々木邦明,藤井聡,大和俊行:交通行動の分析とモデリング, 技報堂出版
16. 岡村実奈,入山広阿貴,井村秀文:「都市の有機物資源循環将来予測システムの開発に関する研究」, 環境システム
研究論文集, Vol.31, 113-123,(2003)
17. 農林水産省農村振興局事業計画課 財団法人日本環境整備教育センター:平成 12 年度 農業集落における生活廃
水・生ゴミ一体処理システム検討調査委託事業報告書,(2001)
18. 国土交通省都市・地域整備局下水道部:ディスポーザ普及時の影響判定の考え方(案)平成 14 年 5 月
19. 日本下水道協会:下水道のためのディスポーザ排水処理システム性能基準(案),(2001)
■ 成果の発表
原著論文による発表
国内誌(国内英文誌を含む)
1.
岡村実奈,入山広阿貴,井村秀文:「都市の有機物資源循環将来予測システムの開発に関する研究」, 環境シ
ステム研究論文集, Vol.31, 113-123,(2003)
口頭発表
応募・主催講演等
1.
市江達也,馬籠信之,森杉雅史,井村秀文:「有機物資源循環を目指した都市環境インフラシステムの設計に関
する研究」,国立オリンピック記念青少年総合センター, 第 29 回環境システム研究論文発表会,2001.11.1
2.
岡村実奈,井村秀文:「都市の有機物資源循環構造のモデル化と将来予測シミュレーションに関する研究」,山
梨大学,第 30 回環境システム研究論文発表会,2002.10.27
156
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
3. 有機廃棄物の高付加価値資源化を組み込んだ新たな都市環境システムの設計と評価
3.2. エネルギー面から見た新都市環境システムの比較・評価
財団法人北九州産業学術推進機構
田上 真人
■要 約
・
生ごみからポリ乳酸を製造するシステムは、比較的低温(120~150℃)のエネルギーを未利用エネルギーでまかなうこ
とができれば、メタン発酵により生ごみを処理するシステムに比べエネルギー面で優位となる。
・
家庭等での電気による生ごみ乾燥は、分別収集の効率化を大きく上回るエネルギーの損失となる。従って、自然エネ
ルギーまたは余熱利用による乾燥が望ましい。
・
下水汚泥のメタン発酵残渣から BTX を製造することによりエネルギーの有効利用が図れる。
・
清掃工場からは未利用の蒸気が排出されている場合があり、比較的使用しやすい条件と考えられる。その他、高温排
ガスを排出している工場はかなりある。
■目 的
本研究は、生ごみからポリ乳酸を製造するシステム及び汚泥から BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)や水素を製造する
システムについて、使用するエネルギーの量や質を明らかにし、他の方法で製造されたプラスチック製造におけるエネルギ
ー等と比較することによる位置付けを行うとともに、LCA 等で使用可能なデータを提供することを目的とする。
本研究の項目を次に示す。
・
ポリ乳酸製造に必要なエネルギー
・
生ごみ処理の PLA システムとメタン発酵システムの比較
・
生ごみ乾燥に必要なエネルギー
・
下水汚泥からの BTX 製造に必要なエネルギー
・
工場等の未利用エネルギーの利用可能性
■ 研究方法
研究目的で示した各項目に対し、次の方法により研究を実施した。
「ポリ乳酸製造に必要なエネルギー」については、九州工業大学白井研究室から情報提供をいただくとともに、既存資料
を収集、整理することによりとりまとめた。
「生ごみ処理の PLA システムとメタン発酵システムの比較」については、生ごみから PLA を製造する生ごみ処理システム
と、生ごみをメタン発酵してエネルギーを取り出す生ごみ処理システムを比較可能な形に整理し、PLA システムが有利とな
りうる条件を検討した。
「生ごみ乾燥に必要なエネルギー」については、PLA 製造のために生ごみを分別収集することを想定し、その利便性等
を高めるため生ごみ乾燥を行った場合に必要なエネルギーについて、生ごみ乾燥機のメーカー資料等をもとに調査した。
「下水汚泥からの BTX 製造に必要なエネルギー」としては、北海道大学増田研究室から必要エネルギーに関する情報
提供をいただき、北九州市の日明浄化センターから発生する下水汚泥を想定して、エネルギー収支を検討した。
「工場等の未利用エネルギーの利用可能性」としては、生ごみからの PLA 製造については、比較的低温(水を蒸発させ
157
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
るレベル)のエネルギーを多く要するため、それらのエネルギーを北九州市内の未利用エネルギーでまかなう可能性があ
るか否かについて、実態調査を行った。
■ 研究成果
1.ポリ乳酸製造に必要なエネルギー
図-1 に、生ごみからのポリ乳酸の製造フローを示す。生ごみ 100kg から約 5kg のポリ乳酸を製造することができる。
生ごみの糖化
生ごみ 100kg
グルコアミラーゼ300g
水50kg
生ごみ糖化
残さ(肥料化) 50kg
固液分離
糖化液 100kg
乳酸発酵
乳酸発酵
発酵残渣
(飼料添加物)5kg
水(廃棄)
エステル残渣
(リン資源)3kg
アンモニア
固液分離
発酵液の濃縮
エステル化
蒸留
加水分解
ブタノール
乳酸の精製
90%乳酸 8kg
乳酸の重合
ラクチド化
重合
ポリ乳酸 5kg
図-1 生ごみからの生分解性プラスチック(PLA)の製造フロー図
なお、このフロー図は暫定的なものであり、現在も改良が続けられている。また、プラント設計を伴う精度の高いエネルギ
ーデータは現時点では得られないことから、穀物からのポリ乳酸製造も含めて様々なエネルギーデータを収集し、参考値
を示すこととした。
158
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
次に、ポリ乳酸製造エネルギーについて記載した既存資料を示す。
①白井教授の提供資料(未発表資料)
・
40kg の生ごみを用いた実験データをもとにしている。
・
100kg の生ごみから、7.0kg の割合でポリ乳酸が得られたとしている。
・
生ごみからポリ乳酸 1kg を得るのに、全体で約 70-80MJ のエネルギーが必要。
・
濃縮、エステル化、蒸留のプロセスで最も多くのエネルギーを使用しており、ポリ乳酸 1kg あたり 40.2MJ となる。
②食品産業センター報告書(「引用文献1.」による)
・
生ごみ量で 100t/日クラスの施設を対象としている。
・
生ごみ量に対して 5.5%のポリ乳酸が生成するとしている。
・
発酵、精製、重合のそれぞれのプロセスで、生ごみ 1t あたり 345,125kcal、384,375kcal、242,850kcal の入力熱量が
必要としている。(うち、25%が放散または水冷却によって外部に持ち去られる)従って、合計の入力熱量は、生ごみ
1t あたり 972,350kcal。
・
100t クラスの施設について、メーカー担当者の検討をもとにしている。
・
必要な熱量の根拠は示されていないが、別途、資料として、電力、燃料や蒸気、薬品の使用量等が明らかにされている。
③カーギル・ダウ社の発表(「引用文献 2.,3.」による)
・
化石燃料からの使用エネルギーは、生産の効率化に伴って大きく減少するとしており、生産の 1 年目-57GJ/t、5 年
目―34GJ/t、長期的-5GJ/t としている。
・
これに対し、HDPE、PET、Nylon6 はそれぞれ、80GJ/t、77GJ/t、120GJ/t としている。
・
C)数値の利用可能性
・
穀物からの PLA の生産のため、生ごみと異なる可能性がある。
・
数値計算の条件が不明である。
・
将来的に使用エネルギーが大きく削減されるとしているが、その要因が不明である。
④平成 12 年度生活社会基盤研究技術資料(「引用文献 4.」による)
・
生ごみから乳酸の製造までの間のエネルギー消費は、省エネ対策の導入により、精製乳酸量あたり 8Mcal/kg 程度
にすることができる。
・
精製乳酸の重合に要するエネルギーは乳酸量あたり 2.15Mcal/kg と比較的小さいが、加熱温度が 200℃を超えるた
め、廃熱は利用しにくい。
・
C)数値の利用可能性
・
液濃縮時の省エネ対策手法が検討されている。
⑤荏原製作所平成 13 年度報告(「引用文献 5.」による)
年間ごみ処理量 150 万t、PLA製造 10 万 t の施設について、糖化設備、発酵・精製設備、重合設備のそれぞれについ
て、電力、燃料、薬剤等の使用量が示されている。糖化設備については、実験データをもとにした算出としている。
表-1 エネルギー使用量
電力
PLA 量あたり使用量
2.00 kwh/PLA-kg
重油
0.42 Kg/PLA-kg
ごみ量あたり使用量
0.11 kwh/ごみ-kg
0.02 Kg/ごみ-kg
PLA 量あたりエネルギー
7.20 MJ/PLA-kg
17.84 MJ/PLA-kg
ごみ量あたりエネルギー
0.40 MJ/ごみ-kg
0.98 MJ/ごみ-kg
159
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
⑥ポリ乳酸製造に係るエネルギーのまとめ
各資料にあるデータをまとめ、ポリ乳酸1kgあたりの熱量(MJ)として整理すると次のようになる。
白井教授資料
食品産業センター
カーギル・ダウ
12年度検討(前川製
作所)
荏原製作所H13報告
書
H14生活者フォーラ
ム資料
表-2 ポリ乳酸製造量あたりのエネルギー使用量
エネルギー使用量
備考
70-80MJ/kg
74MJ/kg 生ゴミ量で100t/日程度の規模
1年目:57MJ/kg 長期的なエネルギー使用量は、自然エネルギーの導入が
5年目:34MJ/kg なされるとし、それらを除くエネルギーが5MJ/kgとなるとして
長期的:5MJ/kg いる。
72.7MJ/kg 省エネ策のない場合、約103MJ。
直接糖化法により、57.0MJ。
17.8MJ/kg この他に、電気、ブタノールやトルエン等の入力量が示され
ている。
糖化を生ゴミ量で100t/日程度の規模で行い、これを数十施
設分集めて年間PLA10万tの大規模施設にて後工程。
60.3 MJ/kg
上記から考えて、小規模施設の場合は 70-80MJ/kg であり、規模拡大に伴い、熱のカスケード利用等を取り入れれば、
エネルギー消費量の削減の可能性があると考えられる。
なお、①及び③から、「生活者フォーラム 生ごみ革命2」では、次の値を設定している。
プロセス
生ごみの糖化
糖化液の乳酸発酵
乳酸の精製
乳酸の重合
計
表-3 生ごみからポリ乳酸を製造するために必要なエネルギー
必要エネルギー
(他に比べ相当小さい)
3.0Mcal(12.6MJ)
9.4Mcal(39.4MJ)
2.0Mcal(8.4MJ)
14.4Mcal(60.3MJ)
表 3 によれば、乳酸の重合は 200 度以上の熱を必要とするが、その他は水を蒸発させられるレベル(120~150℃程度)
の熱とすることができる。
2.生ごみ処理のPLAシステムとメタン発酵システムの比較
(1)他の方法によるプラスチック製造
他の方法によるプラスチック製造に要するエネルギーの調査例を次に示す。
①「生分解性プラスチック研究開発成果報告書」H10.3.(財)地球環境産業技術研究機構(NEDO 委託)
表-4 ポリマー合成と製品成型に使用する累積エネルギー
PS
PET
PE
生分解性プラスチック
化学合成
多糖誘導
微生物産生
汎用プラスチック
・
(MJ/kg)
50.5
70.0
23.9
54.2
34.1
47.2
生分解性プラスチックは、今後プロセスの簡略化や改良の効果が期待されるとともに、原料として化石燃料を使わな
いため、汎用プラスチックより有利としている。
・
上表にはフィードストックエネルギーを含んでいないと思われるが、明示はされていない。フィードストックエネルギー
としては、40-50MJ と考えられる。
160
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
②カーギル・ダウ社資料
プラスチックの種類
汎用プラスチック
生分解性プラスチック
(PLA)
表-5 プラスチックの出荷までにかかるエネルギー(MJ/kg)
プロセスエネ
フィードストッ
ルギー
クエネルギー
HDPE
31
49
PET
38
39
Nylon6
81
39
1年後
57
0
5年後
34
0
長期的
5
0
合計
80
77
120
57
34
5
PLA の生産にかかるエネルギー使用は将来的に大幅に減少するため、汎用プラスチックより有利であるとしている。
③「石油化学製品の LCI データ調査報告書」1999.7.(社)プラスチック処理促進協会
表-6 合成樹脂の(製造までの)ライフサイクルエネルギー
LDPE
HDPE
PP
PS
EPS
PVC
69.3
65.8
68.1
68.6
72.3
45.5
(フィードストックエネルギーとプロセスエネルギー、輸送等のエネルギーを含む)
B-PET
60.1
④PLA製造との比較
取り上げた汎用プラスチックの製造に係るエネルギーは、(フィードストックエネルギーを含み)40-120MJ/kg 程度の広がりを持って
いる。最も多いのは、60-90MJ/kg 程度。
生ごみからの PLA 製造については、これに近い値といえるが、熱のカスケード利用等の省エネ対策によってさらなるエネル
ギー使用量の削減が考えられる。
(2)PLA化エネルギーのシステム的評価
①メタン発酵システムとの比較
以上を踏まえ、生ごみのPLA化システムと、今後導入が進むと考えられる生ごみ処理システムであるメタン発酵システム
を次のように比較する。
PLA化システム
生ごみ
650 kg
高温熱
395 MJ
低温熱
3,015 MJ
投入資材
製造
762 MJ
石油
525 MJ
PLA製造
PLA
50 kg
火力発電
電気
55.4 kwh
メタン発酵
電気
55.4 kwh
プラ製造
石油系プラ
メタン発酵システム
生ごみ
石油
650 kg
3,260 MJ
50 kg
図-2 PLAシステムとメタン発酵システム
図のように、システムへの入力を生ごみとエネルギー(石油及び熱)とし、出力を電気とプラスチックとして比較を行う。こ
れを取りまとめると、次のようになる。
161
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
表-7 PLAシステムとメタン発酵システムに使用するエネルギー
①PLA
②メタン発酵
①-②
システム
システム
低温のエネルギー
3,015
0
3,015
それ以外のエネルギー
1,682
3,260
-1,578
計
4,697
3,260
1,437
このように、必要なエネルギー全体としてはPLA化システムのほうが大きいが、比較的低温のエネルギーの割合が高いことから、
これを未利用排熱でまかなうことができれば、新たに必要とする化石燃料等を用いたエネルギーの量を少なくできる可能性がある。
また、通常のプラスチックの製造工程が既に省エネ化が進み、これ以上の省エネには限界があると考えられるのに対し、
PLA化システムのほうは使用エネルギーのカスケード利用等を考慮しない数値であるため、大幅な省エネ化を進める余地
があるものと考えられる。
3.生ごみ乾燥に必要なエネルギー
(1)電気式生ごみ乾燥機を用いた生ごみ乾燥に必要なエネルギー量
生ごみの乾燥によく利用されている市販の生ごみ乾燥機を用いた場合、次表のように、生ごみ 1kg あたり 5,000~
6,000kJ/kg 程度のエネルギーを必要とすると考えられる。
表-8 生ごみ乾燥に必要なエネルギー量
必要なエネルギー量
理論値
2,143
kJ/kg
メーカー資料より算出
5,040
kJ/kg
国民生活センター調査より算出
6,120
kJ/kg
これに対し、ごみ収集及びプラスチック製造に必要なエネルギーは次のとおりである。
表-9 ごみ収集及びプラスチック製造に要するエネルギー
ごみ 1kg 収集に要するエネルギー
103.4
kJ
プラスチック 1kg 製造に要するエネルギー
3,349
kJ
ごみ収集に要するエネルギーは、乾燥に要するエネルギーの数十分の1であり、また、プラスチック製造に要するエネル
ギーは、乾燥に要するエネルギーより小さい。
・
すなわち、ごみ収集の頻度や運搬重量を減少させてエネルギーを節減させることや、ポリ乳酸製造事業をしやすく
するために生ごみ乾燥機を各家庭に設置する政策は、エネルギー的には割に合わないことがわかる。
この面から見ると、生ごみの乾燥は、太陽熱を利用した乾燥、風乾、家庭の余熱利用(燃料電池やコジェネが普及した
場合には可能性がある)によることがのぞましい。
(2)省エネ以外の生ごみ乾燥収集の意義
①悪臭、液だれ等の防止
定量的評価は困難であるが、これらの効果は大きいと考えられる。
②自宅での肥料としての使用等の促進によるごみ減量効果
これも定量的評価は困難であるが、乾燥して扱いやすくなる結果、自宅で肥料としての利用等が促進され、減量がなさ
れる可能性がある。
③(ごみ焼却処理の場合)発電量の増加
乾燥した生ごみを焼却発電に利用した場合には、水分が持ち去っていたエネルギーの一部が発電に用いられ、発電量
が増加すると考えられる。この効果を計算することは可能であるが、「せっかく乾燥したごみを焼却する」ことに抵抗があると
考えられ、実現性は薄い。
162
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
④生ごみ分別の促進
定量的評価は困難であるが、生ごみを乾燥することによって扱いやすくなり、分別を促進することが可能と考えられる。
4.下水汚泥からの BTX 製造に必要なエネルギー
(1)プロセスの設定
下水汚泥から BTX を製造するプロセスを下図のように設定する。すなわち、ここでは人口 35 万人規模の下水処理施設
から発生する汚泥を対象として考える。
また、図中の四角の枠内下段の数値はそのプロセスで必要なエネルギーであり、カッコ外はディスポーザーが普及して
いない場合、カッコ内はディスポーザーが普及した場合を示す。
処理区域:人口35万、水量18万m3/日
枠内:投入エネルギー(GJ/日)
日明浄化センター
(活性汚泥処理)
下水汚泥
20乾t(31乾t)
嫌気性消化
メタン 148.6(148.6)
3.88t-C(6.09t-C)
消化汚泥
5.57t-C(8.86t-C)
可溶化
73.8(116.4)
濃縮
NH3分解
3.57(5.63)
-
ケトン化
18.5(29.1)
BTX化
0.33(0.53)
BTX
1.77t
(2.86t)
残さ
水熱ガス化
21.9(34.5)
水素
水素
2,459m3
1,416m3
(4,001m3) (2,232m3)
図-3 下水汚泥から BTX を製造するプロセス
(2)まとめ
①メタン発酵でもたらされるエネルギー
ディスポーザーが普及していない場合、メタン発酵により 290GJ/d のエネルギーが得られる。ディスポーザーが普及した
場合には、これによって下水中の有機分が増加すると考えられ、450GJ/d のエネルギーが得られると考えられる。
ただし、うち 242GJ/d(ディスポーザーなし)、310GJ/d(ディスポーザーあり)は、原料加温と残さの乾燥に必要となる。
②メタン発酵残渣のBTX化により得られるエネルギー
メタン発酵残渣のBTX化により、70GJ/d(ディスポーザーなし)、116 GJ/d(ディスポーザーあり)の純産出エネルギーが
得られる。これは、灯油 1.6~2.7t/d に相当する。
しかも、BTX 化の残渣はメタン発酵残渣の半分程度の量となり、性状も良いとされている。そのため、乾燥エネルギーは大
幅に削減が可能となる。
メタン発酵残渣の BTX 化のエネルギーをメタンガスでまかなうこととすれば、最終的に得られるエネルギーの 40-50%は
BTX や水素となる。BTX はガソリンの代替燃料として使用可能であるため、制度上の対応ができれば販売も可能と考えら
れる。また、水素については、将来的に燃料電池が普及するなどした場合には需要が伸びると考えられる。
163
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
5.工場等の未利用エネルギーの利用可能性
(1)既存調査
①全体的状況
「引用文献 7.」より、全国排熱量上位の都市を次に示す。
1
2
3
4
5
都市名
川崎市
北九州市
市原市
横浜市
東京特別区
表-10 全国排熱量上位の都市
排熱(Tcal/Y)
9,652
6
9,501
7
8,532
8
7,723
9
7,448
10
都市名
大阪市
倉敷市
姫路市
知多市
袖ヶ浦市
排熱(Tcal/Y)
7,222
6,587
5,795
5,432
5,267
「引用文献 7.」によれば、工場あたりの排熱量の多い業種は、鉄鋼一貫工場が圧倒的であり、ついで電力、石油精製な
どとなっている。北九州市で排熱の多い理由は、製鉄所、発電所等の影響が大きいと考えられる。
②主要な未利用排熱排出事業所
北九州市に関連があると考えられる主要な未利用排熱の排出事業所とそこでの排熱の性格を次に示す。
業種等
化学工場
(北九州市内事例)
レンガ製造工場
(北九州市内事例)
清掃工場その1
(北九州市内事例)
清掃工場その2
(北九州市内事例)
鉄鋼一貫メーカー
(北九州市内事例)
セメント工場
(北九州市内事例)
発電所
(他地区事例)
鉄鋼電炉
(他地区事例)
表-11 北九州市に関連すると考えられる主要な未利用排熱排出業種と排出の状況
状況
動力用ボイラ発電の排ガスの排熱があり、技術的には蒸気回収可能である。以前、都市ビルへの熱供給を検
討したが採算が合わず中止した。その他、加熱炉の排ガスで200℃以上のものが5件ある。
当工場では蒸気使用量が減少しており、ユーティリティの有効利用が課題となっている。
レンガ工場は窯業の中では規模が小さい。排熱量が小さく、熱回収設備の設置スペースもない。
ごみ量710t/日(能力810t/日)に対し、発電能力が36,300kw(ガスタービン8,000kw、蒸気タービン28,300kw)
ある。現状では余剰蒸気は存在せず、むしろごみ量が少なく稼動日数が制約されるとのこと。
ごみ量510t/日(能力600t/日)に対し、1500kwhの発電能力しかない。発電設備能力はボイラー設備能力の
1/4程度しかないため、熱が余剰となっている状況にある。ただし、施設更新計画があり、現在環境アセス実施
中である。
広大な工場で工程も複雑であり、全体を把握するにはさらに調査が必要。焼結鉱排ガスなど、比較的高温
(200℃)で量の多い排ガスもある。また、可燃性の高炉ガスは共同火力で発電している。
焼成キルンの排熱は、原料予熱に使用されており、90℃のガスで排出されている。その他、350℃の排ガスを
300℃に下げる際に水添加をする工程、製品クリンカの冷却ガス(200℃)など、さらに利用できる可能性はある。
小規模の共同発電の状況等をみると、排熱は135℃の排ガスと温水であり、蒸気としての余熱は存在しない。
取鍋乾燥炉、均熱炉、加熱炉などで250℃~500℃の高温の排ガスがあり、熱量もかなり大きい。(日量
100Gcal以上の排ガスが複数ある)ただし、排ガスの質、稼動スケジュール等によって利用に制約があるのかも
しれない。
ガラス工場
他地区事例によれば、溶解炉等からの比較的高温(220~350℃)の排ガスがあるが、工場内に熱需要がない
(他地区事例)
ため利用されておらず、エネルギー回収が期待できるとのこと。
(「引用文献 7.8.9」の整理による)
③北九州エコ・コンビナート構想(引用文献 10 による)
九州経済産業局、北九州市、(財)省エネルギーセンター、大学関係者、関係企業 15 社により、平成 15 年度より「北九州
エコ・コンビナート構想検討委員会」が設置され、エネルギーカスケード利用、水素利用、マテリアル循環の3つのテーマに
ついて検討が行われている。
うち、エネルギーのカスケード利用分野においては、小倉地区、東田地区、若松地区、黒崎地区の4つの地区において、
工場で回収した熱を周辺地域での民生、工場等で利用する案が検討されている。
(2)実態調査概要
①調査対象
北九州市内の第 1 種熱管理工場 35 事業所
164
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
②調査方法
工場担当者に面接して説明の上、調査票を手渡し、後に訪問して調査内容をヒアリングで確認し回収。一部はファックス
等で回収。
③調査実施時期
工場訪問及び調査票の回収を、2003 年 10 月~11 月にかけて行った。
④回答状況
調査票回収数:29(回収率 83%)
うち、何らかの未利用熱の排出があると答えた事業所は、22 事業所
(3)実態調査結果
①蒸気の排出
蒸気を排出している事業所は6事業所あり、その内容としては、市の清掃工場が 2 箇所、その他が 4 箇所である。
市の清掃工場は、200℃以上の蒸気 13~30t/h が未利用蒸気とされている。これは、ごみ量、質による変動はあるものの、
今回調査の中では比較的安定しているエネルギー源と考えられる。
その他の未利用の蒸気としては、コークス製造時の湿式消火の際の蒸気、夜間の発電施設とボイラ能力のアンバランス
により一時的に発生する蒸気、オートクレーブから一時的に発生する蒸気、配管ドレン(一部回収済み)である。配管ドレン
を除いては、発生が一時的である。
②高温排ガスの排出
高温排ガスを排出している事業所は 20 箇所であり、ほとんど全ての事業所が排出していると言える。
これを温度帯、定常/非定常の別に分けると、次のようになる。(複数の排出を行っている事業所は、温度の高い排ガス
の側に区分した。定常と非定常の両方について回答した事業所はなかった)
表-12 高温排ガスの排出状況(事業所数)
定常
200℃以下
11
200℃超~300℃以下
0
300℃超~500℃以下
1
500℃超
5
計
17
非定常
2
0
1
0
3
このように、大半の事業所は、200℃以下の高温排ガスを定常的に排出している。今回調査では、非定常の高温排ガス
に関する記述は少なかった。
一方、500℃以上の定常的な高温排ガスの排出を行っている事業所も 5 事業所あった。
③その他
その他の未利用排熱として、温水(85℃、490GJ/月)、高温スラグの保有熱等が上げられている。
165
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(4)排熱の発生と利用状況の事例
アンケート回答事業所のうちから、排熱の発生と利用に関する事例を次に示す。
表-13 排熱の発生と利用状況の事例
工場名
三菱化学㈱
黒崎事業所
三井鉱山㈱
北九州事業所
業種
その他の有機化
学製品製造業
コークス製造業
新日鐵化学㈱
九州製造所
その他の石油製
品製造業
旭ファイバーグラス
㈱ 断熱・建材事業
部九州工場
ガラス繊維・同製品
製造業
新日鐵高炉セメント㈱
小倉セメント工場
クボタ松下電工外装
㈱
東陶機器㈱
小倉第一工場
セメント製造業
黒崎播磨㈱
製造事業部
神鋼メタルプロダク
ツ㈱
日立金属㈱
若松工場
耐火物製造業
・キルン系排ガス(116℃)約26万m3/hが定常的に発生。(250日~300日/年運転。)
・スラグ乾燥排ガス(102℃)約17万m3/hが発生。16h/d(日曜のみ24h/d)運転
・オートクレーブからの間欠的な蒸気が2000t/月程度排出。
・135~149℃の乾燥機排ガスが約4万m3、定常的に排出。
・排ガスを熱交換し、120℃の予熱用空気として利用しているが、7~17時の間は使わ
ないため排出(原油換算158kL/y)。
・85℃の温水が発生しており利用しているが、一部は利用しきれていない。
多数の炉から120℃~800℃の排ガスを定常的に排出。(排出量合計約20万Nm3/h)
伸銅品製造業
300~740℃程度の排ガスを少量排出しているが、全体で1Gcal/h以下である。
金属工作、加工
機械用部品・付属
品製造業
戸畑共同火力㈱
戸畑共同発電所
発電所
北九州市
日明工場
一般ゴミ焼却
・熱処理炉から200~400℃の排ガスを500~2,000Nm3/h程度排出している。
・鋳型乾燥炉から100~200℃の排ガスを500Nm3/h程度排出している。
・溶解炉から200℃程度の排ガスを14,000Nm3/h程度排出している。
(いずれも非定常的な排出である)
3つのボイラからの排ガスは、温度130℃~160℃及び排出量200~300万m3N/hを
定常的に排出しているが、排出ガス温度及び排出量共に燃料構成、季節及び時間的
にボイラ負荷が変化するため、変動している。
・260℃の蒸気を平均13t/h発生させている。定常的発生であるが、季節、搬入ごみの
カロリーによる変動がある。H14年度の稼働日数は227日。
北九州市
皇后崎工場
北九州市
新門司工場
一般ゴミ焼却
㈱テック
耐火物製造業
その他のセメント
製品製造業
衛生陶器製造業
一般ゴミ焼却
・工場内の3つの発電所から、130~170℃の排ガス(80万Nm3/h以下程度)を定常的
に排出している。
・コークス生産時、赤熱コークスを湿式消火する際に2,200t/d程度の蒸気が発生。これ
に対して、コークス乾式消火設備(CDQ)の導入を検討中。
・熱交換後の200℃の排ガスが定常的に約400万Nm3/日(300Gcal/日)程度発生。
・3月~11月頃の夜間、10~20t/h程度の未利用蒸気が発生する。理由は、冬季以外
の夜間は、発電量を減少させるが、排熱ボイラの蒸気発生量がそれに見合うだけ下が
らず、また蒸気の利用量が少ないため、蒸気が過剰となる。
・熱交換後の約160℃の排ガスが定常的に4万Nm3/h程度発生。
・約1000℃の排ガスが発生しており、今後利用するために排出状況の測定を計画中。
・スーパーごみ発電により、高効率の発電を行うとともに、一部の蒸気地域熱供給に利
用している。
・213℃の蒸気を平均30t/h発生させている。定常的発生であるが、季節、搬入ごみの
カロリーによる変動がある。H14年度の稼働日数は233日。
・200~300℃の排ガスを平均300Nm3/h(最高600Nm3/h)排出する。1回あたり48時間
の排出を月に8回程度行う。
(5)利用可能熱量の試算
利用可能熱量については、次のように試算した。
定常的な蒸気発生源(市の清掃工場)については、蒸気1tあたり4GJとして計算した。
排ガスについては、250℃以上の排ガスを発生している事業所について、次の式で計算した。
利用可能熱量=(排ガス温度-200℃)×比熱×排ガス量×熱回収効率
ただし、比熱は 200℃における空気の比熱を化学工学便覧より計算して近似し、Cp=1,280kJ/Nm3/K とする。熱回収効
率は 70%とする。
これによれば、清掃工場における未利用蒸気量は、86GJ/h である。
また、定常的に高温排ガスを排出している工場において、上記の定義で熱回収が可能な工場は 3 つある。それぞれ、
22GJ/h、0.8GJ/h、0.1GJ/h である。その他、約 1000℃の高温ガスを排出しているが、ガス量が不明という事業所が一つあった。
166
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
(6)複合中核施設について
北九州市内には、産業廃棄物の処理と同時にエネルギーを供給する施設として、「複合中核施設」が建設中である。そ
の概要を次に示す。
・
廃棄物処理能力:160t/日×2 炉(計 320t/日)
・
処理方式:シャフト炉タイプのガス化溶融方式
・
年間稼動日数:290 日。
・
受入対象物:シュレッダーダストが約 75%で、残り 25%がその他の廃棄物を想定している。
・
発電能力:14,000kwh(発電効率約 20%)
エネルギー利用方法としては、ガスを燃焼させて得たエネルギーを、74t/h の高圧蒸気とし、抽気復水タービンで発電す
る。10t 程度は抽気して場内使用する。電気の利用については、エコタウンに立地する 20 社で「北九州エコタウン受電共同
組合」を、平成 15 年 4 月に結成した。これは、複合中核施設で発電した電力をエコタウン地区の工場等で利用するための
組合である。ここで利用しきれなかった分は九電に売電する。
現状では、周辺に蒸気を利用する施設がないため、最大限発電を行う方針とのことであるが、隣接して蒸気を利用する
ような施設があれば、物理的には蒸気の利用が可能と考えられる。
■考 察
生ごみからのポリ乳酸製造に必要なエネルギーは 60MJ/kg 程度であり、石油からプラスチックを製造する場合と大きく変
わらないと考えられる。しかしながら、生ごみからのポリ乳酸製造は新しい技術であり、今後の効率化の余地は石油からの
プラスチック製造に比べて大きいと思われる。また、生ごみの焼却を行わないことで、炉の安定燃焼に寄与し、ダイオキシン
類の発生抑制やごみ発電の効率低下の防止効果が期待される。
また、比較的低温のエネルギー(120~150℃)を多く必要としているため、地域の未利用エネルギーによってこれを供給
できれば、他のエネルギー有効利用方策であるメタン発酵システムよりエネルギー的に有利となる。ただし、地域の未利用
エネルギーとしては、排ガスの形態を取る場合が多く、有効利用のためには経済性等の検討の上、熱回収のための設備
投資を行う必要がある。その中では、自治体のごみ焼却施設及び産業廃棄物処理施設において、定常的な蒸気の排出が
見られ、物理的には利用可能性があると考えられる。
下水の消化汚泥の BTX 化については、投入エネルギーの 1.5 倍程度のエネルギーを、BTX 及び水素等の使いやすい
形で得ることができる上、残渣形状が扱いやすくなるというメリットがある。
今後の社会システムのあり方としては、未利用エネルギーが使用できる場合には、それを用いて生ごみからのポリ乳酸の
製造により、全体のエネルギー消費量を削減できる可能性がある。特に廃棄物の焼却施設からは未利用の蒸気が排出さ
れている場合が多く、有効利用の可能性が高いと考えられる。さらに、下水汚泥については、メタン発酵によってエネルギ
ーを得るとともに、その残渣からも BTX 及び水素を得ることができる。エネルギーの観点からは、こうした技術を導入し、地
域からのエネルギー供給を可能にすることが望ましいと考えられる。
■ 引用文献
1.
(財)食品産業センター:「資源循環型食品産業モデル展開事業北九州地区ゼロエミッション推進委員会報告書」,(2001.3)
2.
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包装セミナー資料(2001)
3.
M Patel et all.:「Environmental assessment of bio-based polymers and natural fibers」,http://www.chem.uu.nl/nws/ (2002)
4.
前川製作所:「都市ゴミの生分解性プラスチック化による生活排水・廃棄物処理システムの構築」,第1期成果報告書(2001)
167
都市ゴミの高付加価値資源化による生活排水・廃棄物処理システムの構築
5.
(株)荏原製作所:「生ごみから生分解性プラスチックを製造するための糖化技術の開発」(2002.3)
6.
国民生活センター:「家庭用生ごみ処理機の商品テスト結果」,http://www.kokusen.go.jp/news/data/ n-20001005_1.html
(2000.10)
7.
(財)省エネルギーセンター「広域エネルギー利用ネットワークシステム エネルギーシステム設計技術の研究 工場群の
エネルギーシステムに関する調査研究」(2000.5.)
8.
(財)省エネルギーセンター「広域エネルギー利用ネットワークシステム エネルギーシステム設計技術の研究 工場群のエ
ネルギーシステムに関する調査研究」(1999. 5.)
9.
広域エネルギー利用ネットワークシステム エネルギーシステム設計技術の研究 工場群のエネルギーシステムに関する
調査研究」(1998.5.)
10. 北九州エコ・コンビナート構想検討委員会(2004.2.17),検討資料
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