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第1研究域 動態研究 <現代>文明と身体 研究の内容 野蛮から文明へ
第1研究域 動態研究 <現代>文明と身体 ◆研究の内容 野蛮から文明へといたる人類の歴史の流れのなかで、人の自らの身体へのまなざしは如何なる変貌を遂げて きたのだろうか。古代において既に高度な文明を有していた地中海地域、あるいは独自の文明を発達させた中 南米において、身体はどのような解釈を受けていたか。また、文明化の過程が遅れた地域においては、進んだ 異文化異文明という他者との出会いの中で、それまでの身体観に如何様な変化が生じたのか。他方、進んだ他 者として臨んだ者にも異文化から受けた衝撃はあったのだろうか。本共同研究は、古今東西の身体へのまなざ しを考えるのに相応しい事例を、文明という文脈のもとでまず考察を加え、そしてそのような歴史上の諸事例 を参考にしつつ、最終的には近代日本の文明観を、身体を一つの切り口にして再検討することを目標とする。 ◆研究組織 代表者 牛村 幹 劉 建輝 国際日本文化研究センター准教授 事 圭 国際日本文化研究センター教授 ◆本年度研究会開催予定日 3回(7・10・2月) <現代>人文諸学の科学史的研究 ◆研究の内容 学問の歴史をふりかえる科学史研究は、おもに、理科系の分野で試られてきた。科学が、時代や社会、そし て企業や国家に左右される様子をとらえた仕事は、数多く積み重ねられている。しかし、文化系のいとなみに、 こうした分析が施されていたことは、あまりない。今回の共同研究では、いままでややおろそかにされてきた 歴史学や文学などを、科学史的に振り返ることがこころざされている。 言うまでもないことだが、人文系の諸学問にも、時代色はある。我々は、古い論文を読む時、それが書かれ た時代の流れを、否応なく感じさせられるものである。今回の共同研究では、そういう時代色のありようを浮 かび上がらせることに努めたい。各分野の研究者が、学問史を振り返り、それらを互いに比べあう。そうする ことで、超分野的に研究者たちが巻き込まれた時流、あるいは、ある限られた分野にしか及ばなかった時流の 違いなどを、見極めたい。 大学による学風、学統の実相も、この作業を通じて明らかになってゆくだろう。 我々は、たとえば関東と関西の学問に、地域的な偏りのあることを、体験的に知っている。こうした要素が、 実際のところどのように、またどの程度まで研究を左右するのかも、つきとめたい。 理科系の場合と違い、人文系の諸学問がスポンサーシップで揺らぐことはあまりないだろうと、とりあえず 予想される。しかし、それは全くないと言っていいのか。社会的な要請に答えようとする力みが、研究を左右 するケースも、どこかには潜んでいるかもしれない。 さまざまな観点から、学問の中立性を歪めるだろう諸要因を、解き明かす。 ◆研究組織 代表者 井上 章一 国際日本文化研究センター教授 幹 瀧井 一博 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(4・9・11・1・3月) <伝統>日 本 庭 園 の あ の 世 と こ の 世 - 自 然 、 芸 術 、 宗 教 ◆研究の内容 日本の庭園をどうとらえるか、にはさまざまな視点があるだろう。「日本庭園のあの世とこの世」、と掲げ たのは、日本の庭園の独自性を解明するのに古代・中世的な自然観(「あの世」)と近世・近代の自然観(「こ の世」)の対比、並存の視点で見る方法があり得るとの予感からである。 日本庭園の造形と思想を取り上げる際に、その儀礼・宗教性に注目するのと利用・遊興性に注目するのとで は、まったく異なった庭園像が生まれる。それは拝観・鑑賞の対象としての今日の日本庭園(芸術性)とかつ て多様な行事や遊興の宴の場として利用された日本庭園(実用性)の分裂した理解にもつながる。 日本の庭園は自然、芸術、宗教などの日本における観念の集大成ともいえる。その総合性を「あの世とこの 世」という対比で歴史的に読み解く共同作業を通して、日本の自然観における前近代的なものと近代的なもの の対立・並存の構造を考えたい。 ◆研究組織 代表者 白幡 洋三郎 幹 榎本 渉 事 国際日本文化研究センター教授 国際日本文化研究センター准教授 ◆本年度研究会開催予定日 4回(5・7・11・1月) <基層>怪異・妖怪文化の伝統と創造―研究のさらなる飛躍に向けて― ◆研究の内容 本研究は、これまで日文研で行ってきた共同研究「怪異・妖怪文化の伝統と創造」等の成果を継承・発展さ せるとともに、これまでの研究蓄積を整理し、今後の研究をいっそう学際的・総合的に進展させることを目的 とする。 第1年度は「準備期間」に充て、近年の妖怪文化研究を批判的に検討・評価し、研究上の問題点を洗い出す 作業を行うとともに、妖怪その他周辺概念の整理と再定義、研究方法論の検討を試みた。第2年度は、現代日 本における怪異・妖怪文化の展開、とりわけ近世の民俗文化、近代の大衆文化から現代のポピュラー・カルチ ャーにいたるまでの妖怪像・霊魂観の変遷をたどるため、怪異・妖怪の図像化やメディア研究に明るい研究者 をゲスト・スピーカーとして招き、現代日本の怪異・妖怪文化の特徴を明らかにした。 最終年次の本年は、共同研究の初発に掲げた目標である次の四点について、さらに資料を集め、議論を深 めて研究を進展させる。さらにH25年度に予定される国際研究集会の準備を行う。。 ①怪異・妖怪文化研究の、多分野における概念や方法論について整理し、学際的研究の促進をは かる。 ②近世から現代までの、怪異・妖怪文化研究の学史的整理・検討を行う。 ③怪異・妖怪文化研究の国際比較を行う。 ④怪異・妖怪文化の新資料の発見・検討とともに、その活用等を推進する。特に現代メディアにおける幅広い 妖怪キャラクターの利用についての、研究の視点を構築することを目指す。 怪異。妖怪文化が日本文化に果たしてきた役割を多領域から照射し、立体的に分析する一方で、そうした日 本の怪異・妖怪文化が国外から受けた影響や、現在国外にもたらしている影響についての研究を進展させる。 ◆研究組織 代表者 小松 和彦 国際日本文化研究センター教授 幹 山田 奨治 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(5・7・9・11・1月) 第2研究域 構造研究 <自然>現 代 民 俗 研 究 方 法 論 の 学 際 的 研 究 ◆研究の内容 本研究は、現代民俗に関する研究方法論に関して、民俗学のみならず、文化人類学や社会学や文化研究、メ ディア論などの学際的な立場から、「民俗」概念の再検討を行い、その再構成を試みることで、現代社会の必 要性に対応した新たな研究方法の確立を目指すことを目的とする。 現代民俗研究の新たな方法論を確立するにあたって、本研究が採用するアプローチは、その「学際性」であ る。現在、急激なグローバル化の進展によって、現代社会は大きな転換を迎えている。それに応じて、たとえ ば、歴史学や民俗学が扱ってきた対象を社会学者が研究したり、文化人類学者が地理学や社会学的なテーマに 取り組んだりするなど、従来的な学問的区分がゆらぎ相互乗り入れが確実に進んでいる。つまり、「民俗」も また、いまや民俗学だけの研究対象ではありえないのである。とりわけ「現代民俗」の研究にあっては、前近 代の生活様式を主に扱ってきた民俗学よりも、現代を扱ってきた社会学をはじめとする隣接分野に参考にすべ き多くの蓄積があり、学際的な立場からのアプローチは不可欠である。本研究では、民俗学のみならず、文化 人類学や社会学や文化研究、メディア論など複数の立場の研究者が参加し、それぞれの問題関心と方法をぶつ け合うことで、学際的な立場から、現代民俗研究の新たな方法論の確立を目指す。 具体的には、「民俗」概念の再検討を通じた、その解体と再生の作業を試みることにある。本研究が、「民 俗」概念に着目する学術的背景の一つには、90年代以降の近代国民国家批判論がある。「一国民俗学」とい う言葉に端的に表れているように、民俗学がナショナリズムの形成に果たした役割が批判に晒されることにな った。これにともない、民俗学のまなざしを規定してきた「近代」そのものを反省的に捉えようとする研究が 大量に産出されることになった。しかし、これらは「民俗」概念それ自体の再検討に及ばなかったために、か えって「民俗」の時制を前近代あるいは近代に固定する結果を招くことになった。一方、ユネスコの世界遺産 事業が進むなか、文化財保護制度の中に位置づけられていた「民俗文化財」に関する、学問的関心と社会的重 要性が高まってきた。民俗学は、文化遺産化という現代的現象を扱うことによって、現代科学の一歩を歩み始 めたが、しかし、それは皮肉にも、民俗学の対象を文化財に限定する動きを導き、民俗学の「文化財学化」を 急速に進めることになった。その理由もやはり、近代に生み出された「民俗」概念に無批判的に依存している ことに求めることができる。 本研究では、「民俗」概念の解体と再生の作業が、現代民俗研究の方法論の確立には、不可欠という立場か ら、以下の研究内容を設定している。 異人、他者、移民、移動、流動性などの概念に注目することによって、固定的かつ静態的な「民俗」概念を 再構成する。そのために、 ① 理論社会学によるストレンジャーや他者に関する理論研究 ② 環境社会学・観光社会学・地域社会学による「よそ者」に関する実証的研究 ③ 文化人類学・民俗学による民俗社会における異人観の研究 ④ メディア論による他者表象の研究 以上の研究成果を総合することによって、現代社会文化研究における「民俗」概念の可能性を追求する。そ して、新たな「民俗」概念を用いた現代社会文化研究の射程を検討し、具体的な事例研究に向けての方向性を 見出す。以上の作業を通じて、現代社会が抱える困難な課題に対しても、新たな視点からの独自の貢献の可能 性について検討し、その実践的・応用科学的な可能性についても検討する。 ◆研究組織 代表者 山 泰幸 国際日本文化研究センター客員准教授 幹 小松 和彦 国際日本文化研究センター教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 6回(5・6・10・11・12・2月) <人間>夢と表像―メディア・歴史・文化 ◆研究の内容 本共同研究は、文学、歴史、美術、宗教、時間論など、研究者それぞれが専門的に推進するディシプリンに 立脚しつつも、広く比較文化史的な、また領域相関研究的な視点を取り入れて研究交流を行い、「夢と表象」 をめぐる諸相を考究しようとするものである。その基盤は、研究会での研究発表と討議である。 第二年次にあたる本年度は、共同研究展開の年と位置づける。第一年次に引き続き、研究員相互の問題意 識の共有と研究交流としての研究発表を継続して行う。併せて、研究会での啓発や議論をもとに研究員それぞ れが個的研究を進展させ、最新の研究成果の発表と議論の交換を行う。 研究会は本年度も5回を予定し、第一年次での議論と、本年度の研究推進に鑑み、共同研究総体として問 題設定に必要と思われる関連の分野の研究者を若干名ゲストスピーカーとして招き、研究の成就に資する。 今年度も、あらたな研究展望の獲得と研究者の交流の促進のため、所外研究会を開催する(東京の予定) なお本年度は、第三年次以降の成果発表の方法をも議論し、出版、国際シンポジウム等、より相応しい研究 成果公表の方法を模索し、準備をすすめる。 研究代表者をはじめとして、研究員が個別に発表した研究成果等についても、適宜情報交換し、議論する。 ◆研究組織 代表者 荒 木 幹 Markus RÜTTERMANN 国際日本文化研究センター准教授 事 浩 国際日本文化研究センター教授 ◆本年度研究会開催予定日 5回(4・7・9・11・1月) <社会>デジタル環境が創成する古典画像資料研究の新時代 ◆研究の内容 目ざましく発展するデジタル環境において、日本の古典、とりわけ中世の絵巻、お伽草子、近世の浮世絵な どを代表とする画像資料を対象とする諸研究が迎える新しい時代をめぐり、中世・近世の学者をはじめ、デジ タル技術の開発者、図書館など情報の構築・発信する組織、出版業界など異なる分野の人々が集まり、共同研 究を行う。これを通じて、お互いの研究課題や方法を共有し、画像研究とデジタル環境の現状、理想とする発 展のあり方を多方面からアプローチし、学術研究の新時代に寄与することを目標としたい。 2012年度においては、計三回の研究会開催を予定している。そのうち、一回(5月予定)は、東京での開催 を計画している。東京大学史料編纂所、東京国立博物館に会場を借りて、それぞれのところで現在進行してい る古典資料のデジタル化の現場を見学し、考察しつつ、現地のプロジェクト責任者に詳しく話を伺う。 本共同研究は、2012年夏に終了する。研究成果報告の内容やその方法などをめぐり、すでに研究会において 数回触れられた。研究内容に沿いつつ、デジタル出版の可能性を含め、広く出版、発行の関係者の意見や提案 も聞き入れながら、しっかりと報告書の作成や出版の準備に取りかかりたい。 ◆研究組織 代表者 楊 暁捷 幹 小松 和彦 事 国際日本文化研究センター外国人研究員 国際日本文化研究センター教授 ◆本年度研究会開催予定日 3回(4・5・6月) <社会>建 築 と 権 力 の 相 関 性 と ダ イ ナ ミ ズ ム の 研 究 ◆研究の内容 本研究は、建築と権力の相関性とダイナミズムを明らかにしようとするものである。権力者にとって、「ど こで」意思決定を行うかということは、「いつ」、「どのように」行うのかということと併せて、極めて重要であ る。しかるに、これまでの権力をめぐる研究では、権力行使の空間に対する問題意識は希薄であった。本研究 は、権力者が構築した建築物を通して、その重要性を明らかにするとともに、日本における権力のあり様を浮 き彫りにしようとするものである。 本研究が明らかにせんと試みるのは、建築と権力の相関性とダイナミクスであり、つまるところ、日本にお ける権力のあり様である。しかし、これまで日本における権力とは何かと問われれば、その答えは必ずしも一 様ではありえない。実際、研究代表者のこれまでの研究(代表的成果として、御厨[2010]『権力の館を歩く』 毎日新聞社)も、「近代以後」の「関東」における「政治権力」に特化してしまったことは否めないのである。 だが、考えてみれば、日本の権力は、そもそも関西にあったのではなかったか。さらに、近代、戦後、現在 に至るまで、関西の権力の持つ意味は、依然大きいことは言うまでもない。それを無視した建築と権力の分析 は、ありえないのではないか。そこで、本研究は関西地域の「権力の館」を積極的に取り上げ、それを関東地 域の「権力の館」と比較考察することで、日本における権力のあり様の全貌を浮き上がらせようと試みる。 ◆研究組織 代表者 御厨 幹 井上 章一 事 貴 国際日本文化研究センター客員教授 国際日本文化研究センター教授 ◆本年度研究会開催予定日 6回(5・7・9・11・1・3月) 第三研究域 文化比較 <生活>仕掛けと概念:空間と時間の日仏比較建築論 ◆研究の内容 本計画の主要な最終目的は、空間と建築について、主要なふたつの文化といえる日本とフランスを焦点に、 日本空間をフランスの視覚から検討し、「語彙集」を編纂することにある。とりわけ重要となるのが、空間を 仕切り、区切る仕組みにかんする実験が顕著な成果をみせつつある。この関連において、伊藤ていじの「景観 の美」の批判的フランス語訳の刊行も視野にいれている。 2012 年度の会合は、すでに承認された、国際研究集会と重ねて運営し、外国からの参加者と、国内からの 共同研究員とのあいだでの討論をすすめたい。これをもって、1 年間にわたる共同研究会を終了する。なお、 これにあわせて、関西日仏学館との共催による公開講演会が実施可能かどうか、協議中である。また、国際研 究集会報告書を編集するかたわら、共同研究会そのものについては、成果出版物をフランス語で出版準備中で あり、共同研究会の規定にしたがった出版補助を申請する予定である。 ◆研究組織 代表者 Philippe BONNIN 国際日本文化研究センター外国人研究員 幹 稲 賀 国際日本文化研究センター教授 事 繁 美 ◆本年度研究会開催予定日 1回(5月) <制度>近代日本における指導者像と指導者論 ◆研究の内容 指導者とはどうあるべきか。指導者に期待される役割とは何か。そうした役割を果たすべき指導者に必要と される資質とはどんなものか。そのような資質を備えた指導者を、どのようにしたら育てることができるのか。 このような問いは、古くから多くの人によって投げかけられ、様々の答えが示された。その問いかけと、答え の出し方は、その国の政治文化の重要な部分を構成するといってよい。 この共同研究では、幕末維新期から現代までを射程に収め、近代以降の日本人が、どのような指導者像を描 き、いかなる指導者論を語ってきたかを考察し、その考察を通じて日本の政治文化の重要な一面を明らかにし たい。政治文化と言っても、政治指導者に関わるイメージや言説だけを対象とするのではない。政治の世界だ けでなく、官界、経済界、メディア界、文芸界などにも視野を広げ、分野によって指導者のあり方に変化があ るのかどうか、を検討する。 この共同研究を通して、例えば、次のような問題の解明が試みられるだろう。1930年代に日本の政治は 「下剋上」と呼ばれる悪弊に煩わされ、意思決定の分裂症状が発現したが、なぜそのような現象が生じたのか。 この原因は政治権力の構造分析からだけでなく、指導者のあり方をめぐるイメージや意識の面からも、明らか にできるところがある。また、指導者不在と言われる時代については、どのような意味での指導者が不在であ ると考えられたのか、そのとき指導者に期待された役割、能力、資質はどのようなものであったのか、といっ た問題と取り組む事が必要となろう。 共同研究では、個々の研究対象やアプローチは研究者個人の選択に委ねられる。ある特定の時期の、あるい は特定の分野の、指導者をめぐる言説を取り上げる研究もあるだろうし、特定の指導者個人ないし指導者群を 取り上げ、彼らの指導者として自己イメージを考察する研究もあるだろう。共同研究全体を通して、指導者の あり方について近代日本の全般に共通する特徴を導き出すことを追求したい。 ◆研究組織 代表者 戸部 良一 国際日本文化研究センター教授 幹 瀧井 一博 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(4・7・9・12・2月) <制度>徳川社会と日本の近代化―17~19世紀における日本の文化状況と国際環境― ◆研究の内容 18世紀の徳川社会については前回の共同研究会「18世紀日本の文化状況と国際環境」において入念に検 討し、その成果として『十八世紀日本の文化状況と国際環境』を公刊していることもあり、今次研究会におい ては18世紀徳川社会に見られたものが、19世紀のそれへ移行していく中で、どのような変容と発展をとげ ていくかを分析する。本年度の研究会では併せて、アジア諸国および欧米諸国の動向にも目を配り、グローバ ルな観点から徳川社会の動態特性を探究する。 われわれの研究会においては、特定の近代化に関する既往の理論的フレームワークを用いることをしていない。 既往の手垢の付いた理論的整理のワナから逃れるための方法的遮断である。それ故、研究は事実主義に徹して 事実の究明につとめる。各分野、各種問題における新たな動向、これまでに知られていなかった趨勢の検出に つとめる。 ◆研究組織 代表者 笠谷 和比古 国際日本文化研究センター教授 幹 佐野 真由子 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 6回(4・6・8・10・12・2月) <思想>昭 和 4 0 年 代 日 本 の ポ ピ ュ ラ ー 音 楽 の 社 会 ・ 文 化 史 的 分 析 ― ザ・タイガースの研究― ◆研究の内容 本共同研究会は、1960 年代後半から 1970 年代初頭に活動したポピュラー音楽グループ、ザ・タイガース(沢 田研二、岸部修三、森本太郎、加橋かつみ、瞳みのる、岸部シロー)の活動の歴史を研究することを通して、 1960 年代後半の日本の大衆社会の動態を解明しようとするものである。ザ・タイガースは 1960 年代後半のポ ピュラー音楽ブーム、「グループサウンズ(GS)」を牽引したグループであり、その人気の背景を探ることを通 して、当時の大衆がベンチャーズやビートルズの影響を受けたエレキ・サウンドになぜ魅了されたのか、また テレビの普及に代表されるような大衆消費社会という経済的伸長や、1968 年の学生運動から 1970 年の安保闘 争へと展開していく政治運動との関係において、戦後社会にどのような意味を有するものであったのかを考え てみたい。 すでに 1960 年代に、歴史家の色川大吉や安丸良夫によって「民衆史」というジャンルが歴史学の主軸とし て整えられ、基本的には日本の農村社会の歴史を通して近代の民衆の心性と政治的活動の歴史を掘り起こす作 業が今日にいたるまで続けられてきた。皮肉なことに、1960 年代は日本の農村社会が決定的に解体されてい く時期であり、その時期に農村社会の歴史叙述を本格的に開始することは、当時においては消え去りゆく日本 の民衆の姿を記憶にとどめるために重要な寄与をなすものであった。その後、1970 年代においてはやはり歴 史家の網野善彦によって社会史の研究が展開され、農民のみならず、職人や山間民の歴史が、日本の歴史を稲 作農業によって覆い尽くそうとする従来の歴史に対する批判として、明らかにされていった。しかし、2000 年代を超えた現在、グローバル資本主義の影響下にあるトランスナショナルな民衆や大衆の歴史を記述しよう とするならば、人々の共感をひろく呼ぶ歴史とは、農民の歴史でも山間民の歴史でもあるまい。もっと、現代 の資本主義社会を生きる人々にとって身近に感じられ、ルーツに触れるような歴史が必要になっていると思わ れる。それが、1960 年代のビートルズに代表されるロック音楽の出現である。それはイギリスやアメリカと いった西洋世界の枠を超えて、日本を含む非西洋世界のティーンエイジャーに大きな影響を与えた。エレキ音 楽は、単なる音楽を聴くといった行為にとどまらず、すでにイギリスのカルチュラル・スタディーズが先鞭を つけていたように、社会への抵抗、自己の解放、西洋文化への憧憬といったものを喚起し、当時の若者たちの 生き方や考え方を大きく変えていった。そのビートルズの音楽に刺激を受けて登場したのが、日本の場合「グ ループサウンズ(GS)」であり、最も代表的なグループのひとつがザ・タイガースである。 このようなポピュラー音楽を研究対象に選ぶことで、学問の対象が単なる抽象的な概念だけでなく、そこに ジル・ドゥルーズのいうような情動の問題を研究の俎上に載せることができるであろう。しかもザ・タイガー スは大手の芸能プロダクションである渡辺プロによってマネイジメントされたことで、日本国内ではほかに例 を見ない大成功を得るとともに、ミュージシャンとしての音楽活動とタレントとしての芸能活動の間でそのメ ンバーたちは葛藤し、その人間関係のなかに亀裂が入っていくことになる。そして、最終的にはメンバーの脱 退、ついには解散に至ることになる。そこには、音楽の問題を単に音楽の質の問題には還元することのできな い、資本主義の論理のなかでどのようにポピュラリティーを獲得するかという、まさに社会・文化的な研究対 象にふさわしい主題が存在していたのである。また渡辺プロは、占領期の進駐軍を顧客としたジャズ音楽のマ ネイジメントからその仕事をはじめ、占領軍が東京から撤退した後には、新たに国内の日本人の若者をその聴 衆とするようになった。その意味で、渡辺プロによるザ・タイガースのマネイジメント戦略は 1960 年代にと どまらず、戦後史の変遷のなかでの日本の大衆文化の軌跡を跡づける存在であった。それを情動(大衆とミュ ージシャン)、および資本主義の論理と音楽の問題(ミュージシャン同士およびプロダクションとの関係)の視点 から論じていくことは、新たな戦後日本の民衆史研究の突破口を開くものとなろう。 ◆研究組織 代表者 磯前 順一 国際日本文化研究センター准教授 幹 井上 章一 国際日本文化研究センター教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(5・7・10・1・3月) 第4研究域 文化関係 < 旧 交 圏 Ⅰ > 21世 紀 10年 代 日 本 文 化 の 軌 道 修 正 : 過 去 の 検 証 と 将 来 へ の 提 言 ◆研究の内容 日本文化のみならず日本文明は、すでにここ20年にわたり、おおきな軌道修正を迫られてきた。ところが、 専門分野に過度に集中した学術領域は、こうした課題に対応できていない。東北大震災以降の状況によって露 呈したこの現実を前にして、抜本的な軌道修正を構想するための研究会(準備会)を企画し、今後の共同利用 研としての共同研究の可能性を含めて、議論を進め、提言をまとめたい。 1.まず、現在の研究体制にたいする問い直しを提唱したい。そこには3つの課題があろう。 1-1.いままでの学術、日本文化研究のありかたが問われねばならない。はたして 20 世紀日本が後世にの こすべき《文化遺産》とは何か?を、産業技術博物館構想が挫折した時点で、問い直したい。 1-2.つづいて、日本文化の対外的発信の問い直しも火急な課題だろう。戦時下における《対外文化工作》 への反省から、今後の国際文化交流の将来への展望を模索する機会を設けたい。 1-3.さらに、学術を支える文化環境の再設定が、必要だろう。産・官・学協同による学術研究の相互乗り 入れについて、日本の社会構造はいちじるしく硬直しており、韓国や中国をふくむ諸外国と比較しても、さま ざまな制度的制約が、抜本的な刷新を阻害している。将来像を模索したい。 2.つぎに、日本の学術の世界の内部でも、いままでの知の継承が危機に瀕している。 学者社会はどこにゆこうとしているのか。既存の学会組織は、後継者養成やポストの刷新に円滑を欠き、留学 生への対応にも不適応を呈して、自己再生能力を喪失しつつある。学会再編成への構想も必要とされているの ではないか。世界との連携、共同事業の推進にむけた青写真作りが必要となるだろう。 3.この問題は、さらには日本文化の将来像の再構築に結びつく。 3-1大量生産・大量消費モデルの限界は、この20年ほど顕著になってきたが、軌道修正はなされていない。 まずリサイクルの思想と実践を問い直し、将来へのビジネス・モデルの提起を含めた、社会再構築にむけて、 いま学術に何が要請されているのか、問い直したい。 3-2それとの関連で、《もの》に触れる思考の復権を提唱したい。これは頭脳中心主義の異常肥大からの脱 却にむけて、あらたな学術姿勢、研究の再定義をも含む提言をめざすこととなる。 4これらをうけて、具体的に日本文化の軌道修正を考える場合に、いくつかの話題を設定したい。 4-1「《ガラパゴス》はどこへゆく:日本型孤立文化の進化に将来はあるか?」 4-2「《島嶼性文化》の特質と課題:日本列島文化史の将来構想にむけて」 といった設定は、島国としての日本の世界における文化的・文明史的位置の問い直しを促進する。 ◆研究組織 代表者 稲賀 繁美 国際日本文化研究センター教授 幹 牛村 圭 国際日本文化研究センター教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 3回(4・8・9月) <旧交圏Ⅰ>万国博覧会とアジア ◆研究の内容 万国博覧会は、その開催の政治的背景から、巨大な催しとしてのそれ自体、そこに展示される個々の出品物 や、訪れた見学者の動向に至るまで、あらゆる要素が着目点となりうる研究テーマのるつぼであり、日本にお いてはとくに 1980 年代以来、魅力ある学際的テーマとして多くの研究者を惹きつけてきた。しかし、その視 野は「日本と」万国博覧会のかかわり方にとどまる場合がほとんどであり、論点の比較、共有が可能であるは ずのアジア諸国の状況には、十分な注意が払われてこなかったのではないか。 本研究会では、そのような問題意識に基づき、万国博覧会をめぐるさまざまな論点――19 世紀から今日に 至る異文化展示の手法の変遷、各国の近代化過程における博覧会の役割、また、経済、産業、都市政策はもと より、文化政策との関連における万博開催の功罪など――を整理しつつ、アジア諸国間の比較の文脈の中に置 き直していく。そうした視角を持つことによって、既存の研究の位置を互いに相対化するとともに、そこに立 ち現れる万博研究の新たな意義を確認し、より長期的な研究計画の立案につなげることが主要な目的である。 同時にこの試みは、万博研究そのものにとどまらず、日本について深く詳細に知ろうとする日本研究・比較研 究を超えて、日本の位置を相対化した、いわば世界史の一角としての日本研究のあり方を模索するための、一 つのステップともなるであろう。 共同研究会としての活動にあたっては、万博をめぐる歴史研究と現代社会的研究を分断せず、連続的に取り 扱っていくこと、また、万国博覧会ならではの、学術的研究と政策実践の交錯する場としての性格を重視し、 現実社会への還元力を持った研究をめざすことを、とくに意識して進めたいと考えている。2005 年の愛地球 博、2010 年の上海万博、2012 年麗水万博と、東アジアでの開催が連続することで、中国や韓国において若手 研究者による万博研究が盛んになるなか、日本での万博研究もいっそう深めるべき段階にあり、それを通じた アジア諸国間の交流も視野に入れていきたい。 ◆研究組織 代表者 佐野 真由子 国際日本文化研究センター准教授 幹 劉 建 輝 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 3回(5・9・11月) <旧交圏Ⅱ>日本文化形成と戦争の記憶 ◆研究の内容 この共同研究では、どのように戦争が起こり、変質し、日本の文明に組み込まれたのかについて、過去と現 在のダイアログを検証しつつ明らかにする。文化が歴史や記憶を〈とらえる〉のか、あるいは記憶それ自体が 歴史になるのか。かつて存在したものは消滅しておらず、変化、継続しており、新しい要素とともに日本文化 を形づくっている戦争体験を見つめる機会を広げてきている。想像の戦争(Imagined war)―文学、美術、 音楽、映画、建築的な視点、科学的な予測など―は、極めて重要な研究分野で、創造性や芸術的想像力とその 活動への戦争の影響である。戦争の記憶との関連で文化を見直すことは、様々な分野の研究者や専門家に、新 しい認識や概念編成にむけての共通理解をさぐる機会を与えることになろう。 「総力戦の世紀」(Century of Total War)に精通した幅広い分野の学者たちと取り組む本プロジェクトは、 「歴史化」という広範な課題、生きている記憶を通した戦争の歴史的表象の問題、歴史的ナラティブの個人的 かつ集団主義的な記憶が、いつ日本に適合したかを体系的に分析する場となる。 意識的な追悼や半ば公的な記憶やアジアや太平洋諸国における戦争の「光景」(warscapes)を作り出す努 力が、日本とフランスやオーストラリアなど他国とでは対照的なものとなる。学際的で、かつ世代を超えた本 研究のアプローチは、それぞれの専門知識を集結させ再編する類まれな機会となるはずである。 以下のようなサブテーマから、プロジェクト組織を行っていくことを想定している。 +ほとんど忘却された過去からの反響:新しい時代における「サムライの伝統」 +伝統と創造: 「武士の国」という神話と未来 +つくりだされる記憶:国家が認定する歴史と個人的経験 +文芸と記憶 +兵士たちの戦争と記憶・日中問題 +遺された者と死者の声:遺族は戦没者を物語るか?いつまで? +戦争への過程と責任の所在に関する記憶 +戦争記録の歴史化 +誰の記憶か?:国際的な観点 +戦後文化のなかに生きる幼少期の影:疎開、孤児、青年期の再生 +戦時期とその後のジェンダー政策 +記憶の場所、哀悼の場所 +戦争の記憶と、記憶文化の将来 +将来の記憶;未来を形づくる歴史の重み ◆研究組織 代表者 Theodore.P.COOK 国際日本文化研究センター外国人研究員 幹 鈴 木 事 貞 美 国際日本文化研究センター教授 ◆本年度研究会開催予定日 5回(7・10・12・2・3月) <新交圏>「心身/身心」と「環境」の哲学―東アジアの伝統的概念の再検討とその普遍化の試み― ◆研究の内容 2012年度には、主として朱子学の基本概念を中心に、伝統中国の哲学・思想上の諸概念 検討を行った前年度(2011年度)の成果を踏まえ、そうした基礎的な諸概念 中で、如何なる展開を見せたか、次いで、中国思想史みならず、日 や修正を被りながら、伝播し、受容されたかについて、 について、 が、中国思想史の流れの 本思想史上においても、如何なる変容 比較思想や文化交渉史などの観点から、より具体的・ 個別的な検討を加える。 また、その際、朝鮮・韓国の儒学や思想史に関しても、相応の注意を払うとともに、 更には、やはり「心」や「身体」、「自然」「環境」をめぐる思想的営為を基軸としながら、仏教学やイス ラーム思想、西洋哲学などの専門家との連携も深めつつ、比較哲学・思想的な検証を重ね、そうした一連の 作業を通じて、東アジアの前近代の思想における普遍性と特殊性、多様性を見極めることを目指す。 併せて、研究代表者とコアメンバーの数名との共同作業として、既に実施中の『朱 子語類訳注』(朱子学の集大成者である朱熹と弟子たちとの問答や講義の記録)のうち、こうした基本的な 概念語彙に関わる、巻四~巻六(性理)の部分の翻訳・注釈を継続し、上記の研究に資することを目指す。 また、そうした作業を通じて、文献学的にも基礎的な史料を整理した上で、平易な日本語によって紹介し、 周辺諸分野の研究者をはじめとして、学界や一般社会への貢献や還元を試みていきたい。 また、こうした諸作業を踏まえながら、本研究の最終的な目標である、東アジアの伝統思想が有する現代 的な意義や価値の探求、延いては、近代西洋的な思惟様式の一定の相対化とともに、「心」や「身体」「環 境」などをめぐる、より普遍的な意味での哲学的・思想的な考究なども、本格的に深めていく段階へと辿り 着きたい。 ◆研究組織 代表者 伊東 貴之 幹 榎本 渉 事 国際日本文化研究センター教授 国際日本文化研究センター准教授 ◆本年度研究会開催予定日 6回(5・7・9・10・12・1月) 第5研究域 文化情報 <外国における日本研究Ⅰ>東アジア近現代における知的交流―概念編成を中心に ◆研究の内容 東アジアにおける今日の知のシステムは、19 世紀半ばから 20 世紀を通じて、「西洋」文化を受け入れ、伝 統的なシステムを再編することによって、地域的なちがいをもちつつ、ヨーロッパやアメリカとは相対的に独 自に展開してきた。とりわけ日本は、東アジアの伝統文化のうえに独自に展開してきた文化システムの近代的 再編にいち早く着手し、その制度が 20 世紀を通じて、台湾、朝鮮、中国大陸に伝播してゆく様子が観察され る。今日の東アジアの知的システムは、その基盤の上に、さらに再編成が重ねられてきたものである。われわ れは、そのなかに置かれており、そのシステムに規定されているが、今日の文化のグロバーリゼイションに対 応するため、各国、それぞれに更なる再編が問われている。 本研究会では、受け入れた「西洋」文化の要素と、それを受けとめた「伝統」的要素との双方を検討し、全 体の知的システムの編成替えが、東アジアの知的近代化に深く関係しているかを明らかにしてきた。西欧近代 文化を東アジアの伝統文化で受け止めて成立した日本近代の知的システムの特殊性を解明するための基礎資 料、および分野・各地域で分散的に行われてきた諸分野の学術史研究文献などを調査整理し、近現代の学術研 究を統合し、日本および東アジアの特殊性をふまえ、地球環境問題など「ポスト・ヒューマニズム」とも呼ば れる 21 世紀の課題に応えうる新しい学術体制づくりを目指す国際共通認識をつくりだすため、共同研究をお こなってきた。本研究の意義と本共同研究の過程で訴えてきたアジア地域の共同研究の重要性は、中国、韓国、 台湾を中心に、確実な反応を得ている。 ◆研究組織 代表者 鈴木 貞美 国際日本文化研究センター教授 幹 伊東 貴之 国際日本文化研究センター教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(4・6・9・11・1月) <外国における日本研究Ⅱ>新大陸の日系移民の歴史と文化 ◆研究の内容 本共同研究会は、南北アメリカ大陸に渡った日本移民とその子孫の歴史と文化に関し、多分野にわたる研究 者の討論の場を提供することを主な目的とする。特に英語圏とスペイン語・ポルトガル語圏の間で分断されて いたテーマを共有し、別の文化的・歴史的文脈で考え直すきっかけを与えることを長期的な目的としている。 場合によっては、他地域への日本移民、新大陸の他の移民、日本への還流移民の研究者も加え、より巨視的で 広範囲を押さえる成果を期待したい。 新大陸(ハワイを含む)への日本移民は明治とともに開始し、近代史の一側面として重要な役割を果たして きた。彼らは日本と受入国の経済状況に左右されつつ、外交的な課題、政治的な包摂や排除の対象としての歴 史を歩んできた。日本史や文化研究の一部であると同時に、受入国の歴史や文化のなかで少数民族としての位 置を確かめる必要があることは、移民研究の端緒から指摘されている。しかし北米の日本移民禁止法(1924 年)が南米諸国への移民の増加を招いた例からわかるように、あるいは北米から南米、南米の国から国への再 移住者の存在が示すように、国別の移民研究には限界がある。どの国へ渡った集団にも帰国者が存在するが、 その行方、日本の歴史や文化への影響はつかみがたい。これらについて、他国の例、他の民族移動の例を引き つつ、日本移民の特徴を捉えていく必要がある。昨今は人・モノ・情報の流動性が高く、既存の地理的な参照 点について柔軟に考察することはいうまでもない。移民研究の幅が広がると同時に、その輪郭があいまいにな っていく。それは学問の進むべき道であろう。 移民研究のさまざまな対象のなかで、本研究班は歴史と文化に集中する。歴史に関しては 19 世紀後半から 現在までを含む。文化は幅広く習慣、生活様式、思想、文物の生産、社会組織、イベント、メディア、言語、 行動、芸能、芸術などを含む。主に移民集団を通した日本文化の海外での適応や変容も含む。つまり文化の生 産者、媒介者、受容者としての移民集団を歴史的な流れ、受入国の歴史と文化、また日本の近代史と文化の中 で、総合的に理解することを模索する。移民(移動民)の研究は政策提言や社会運動と結びついて活性化され てきた経緯があるが、本研究班はそれよりも生活、表現、感情を視野に入れた方向を打ち出したい。 出発点でまず〈日本文化〉という前提を問い直す必要がある。これは文化ナショナリズムやメディアの研究で 盛んに議論されているが、移民集団のありかたから間口を広げていくことも可能だろう。何がいつどの道筋で 移動し、誰によってどのように文脈の変化に対応し変容したか、 「文化変容」 「適応」、 「折衷」や「混淆」とい う既存の社会学・人類学の概念がどこまで有効か、各局面で具体的に考えていく必要がある。経験論的な調査 と理論的な考察をバランスよく取り込んだ姿勢が何よりも望まれる。 ◆研究組織 代表者 細川 周平 国際日本文化研究センター教授 幹 瀧井 一博 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 5回(5・7・9・11・1月) <日本における日本研究>日記の総合的研究 ◆研究の内容 本研究においては、日本史学(日本古代史・中世史・近世史・近代史・文化史) 、日本文学(日本中古文学・ 中世文学・近代文学)、そして心理学(臨床心理学を含む)、それぞれの分野における第一線の研究者を一堂に 集め、研究会における議論を集積することによって、日記と日本人との関わりを、総合的に究明しようとして いる。 その際、単にそれぞれの研究員が、自分の専門分野とする古記録(あるいは作品)に関する研究発表を行な うのみではなく、たとえば一つの古記録を題材として、異なる分野の研究者が、複数の研究発表を行なえば、 どのような化学変化が生じることになるのか、本研究は、そのような実験的な試みをも、視野に入れている。 3年目にあたる本年度は、本格的で個別具体的な研究発表を踏まえ、それに対する討論を蓄積することによ って、研究の深化をはかる。日本史学、日本文学、心理学、それぞれの分野から、独自の視点による発表を行 なうこととなる。また、中国や韓国における日記の研究を行なった実績のある海外共同研究員を参加させる予 定である。 5回の日文研内研究会において、各回6人(第1回と第5回の初日は打ち合わせも入れるので、2日目と合 わせて5人)の研究発表を行ない、合計28人の発表と討議を予定している。それぞれ、次年度に商業出版を 計画している論集の執筆予定者とする。 さらには、所外研究会を1回、予定している。松尾芭蕉の『奥の細道』と、同行した門人曽良の『曽良日記』 を比較・分析し、それぞれの描いた現地を踏査することによって、日記の持つ多面的な要素をあぶり出すこと を目的とする。1日目の午後に2人の発表を予定している。 以上、論集出版に向けての本格的な計画を確定し、出版社の選定、ページ数を含めた分量、および本の形式 や内容に関して、これを決定する。 また、前年度に引き続き、中間報告的に『日本研究』に研究論文を投稿する。 ◆研究組織 代表者 倉本 一宏 国際日本文化研究センター教授 幹 佐野 真由子 国際日本文化研究センター准教授 事 ◆本年度研究会開催予定日 6回(5・7・9・10・12・2月)