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手書き文字と活字の認識の差に関するfMRI研究 – ノイズ要素の分離の
手書き文字と活字の認識の差に関する fMRI 研究 – ノイズ要素の分離の試み – A fMRI study about difference of perception between handwritten characters and typed characters – A trial of noise separation – 中村太戯留 †1 ,田中茂樹 †2 ,田丸恵理子 †3 ,上林憲行 †1 Tagiru Nakamura, Shigeki Tanaka, Eriko Tamaru, Noriyuki Kamibayashi †1 東 京 工 科 大 学 ,†2 仁 愛 大 学 ,†3 富 士 ゼ ロック ス 株 式 会 社 Tokyo University of Technology, Jin-ai University, Fuji Xerox Co., Ltd. †1 {tagiru, norikami}@media.teu.ac.jp, †2 [email protected], †3 [email protected] Abstract The purpose of this study was to investigate why taking notes by hand was better for memory than by typing. Using a fMRI device, the activity of the brain was imaged while 6 participants looked at handwritten or printed characters with visual noise or not. As a result, strong activity was observed in bilateral associative visual cortex, left cingulate cortex, and right caudate nucleus. The results showed that handwritten characters were perceived related with some kind of movements perception, probably handwriting. Keywords — note-taking, handwriting, handwritten characters, visual-noise, fMRI 1. はじめに ノ ー ト に 手 書 き す る こ と は ,ワ ー プ ロ に タ イ ピ ン グ す る 場 合 と 比 べ て ,そ の 内 容 が 記 憶 さ れ や す い こ と が 指 摘 さ れ て い る [4].中 村 他 [7] は ,fMRI を 用 い た 実 験 に お い て ,手 書 き 文 字 を 見 て い る 場 合 ,活 字 を 見 て い る 場 合 と 比 べ て 脳 の 活 動 部 位 が 広 く,ま た 体 性 感 覚 や 運 動 感 覚 を 統 合 す る 部 位 が 活 動 し て お り,そ の こ と が 記 憶 の パ フォー マ ン ス に対してプラスに作用している可能性を示唆して い る .本 研 究 で は ,手 書 き 文 字 に は ,歪 み や 擦 れ と いった ノ イ ズ 要 素 が 含 ま れ て い る と 考 え ,そ れ を分離した場合の手書き文字の脳に与える影響を 探 る た め の fMRI 実 験 を 実 施 し た . 2. 方法 実験参加者 日本語を母国語とする健常者6名 (21∼27 才 ,平 均 23.2 才 ,う ち 女 性 3 名 ) 実験 条件 予め収集した手書き文字を提示する 手 書 条 件 (H),コ ン ピュー タ の フォン ト を 提 示 す る 活 字 条 件 (F),画 面 全 体 に 視 覚 的 な ラ ン ダ ム ノ イ ズを加えたノイズ入りの手書条件 (NH),ノイズ入 り の 活 字条 件 (NF),そして何も活動しない背景条 件 (R) の 5 種 類 を 設 定 し た . 提 示 刺 激 手 書 条 件 ,活 字 条 件 ,ノ イ ズ 入 り の 手 書 条 件 ,ノ イ ズ 入 り の 活 字 条 件 は そ れ ぞ れ ,ひ ら が な の「 あ 」∼「 と 」ま で の 20 文 字 を 刺 激 と し て 使 用 し た .手 書 き 文 字 は ,今 回 の 実 験 参 加 者 と は別の 1 名に予め記してもらったものをスキャニン グ し ,320 x 320 ピ ク セ ル の 画 像 と し て 保 存 し た . 活 字 は「MS P 明 朝 」の 300pt の 文 字 を 72dpi で 画 像 化 し ,同 じ く 320 x 320 ピ ク セ ル の 画 像 と し て 保 存 した.また,ノイズは Photoshop を用いて 75 %のグ レースケールのガウス分布ノイズを加えた. 刺 激 提 示 の 流 れ 各 条 件 ご と に ,1 つ の ブ ロッ ク は「( 各 文 字 刺 激:300ms + 注 視 点:500ms)× 20 文字」で構成した.但し,各ブロック内の提示はラ ン ダ ム な 順 序 で お こ な い ,ど こ か 一 箇 所 の み 同 じ 刺激が連続するように調整した.実験は 2 セッショ ン 実 施 し ,1 セッション は 4 パ タ ー ン で 構 成 し た . 各 パ タ ー ン は ,順 序 効 果 を 相 殺 す る た め に ,4 種 類 の 条 件 (H, F, NH, NF) の ブ ロック を ラ ン ダ ム な 順 序 で 提 示 し ,そ の 後 に 背 景 条 件 (R) を 提 示 す る という形式で構成した. 実 験 装 置 文 字 刺 激 は 液 晶 プ ロ ジェク タ ー に よ り,実 験 参 加 者 の 頭 部 上 方 に 設 置 さ れ た ス ク リ ー ン に 投 射 し た (サ イ ズ=13.8 × 10.0 cm,視 距 離=38 cm,文 字=300 pt,視 角=約 12 度).反 応 は 光 ファイ バ ー を 用 い た ボ タ ン ス イッチ に よ り 収 集 し ,刺 激 を 提 示 す る の と 同 じ コ ン ピュー タ に 記 録 し た . 手 続 き 実 験 参 加 者 に は ,同 じ 文 字 が 連 続 し た ら ボ タ ン ス イッチ を 押 し て 知 ら せ る よ う に 教 示 し た .な お ,セッション 1 の 反 応 は 右 手 の 人 差 し 指 で ,セッション 2 の 反 応 は 左 手 の 人 差 し 指 で お こ な う よ う に 指 示 し ,反 応 に 使 用 す る 手 の 効 果 を 相 殺した. 撮 像 1.5T の fMRI ス キャナ を 用 い た (GE-EPI, TR=3,000 ms,TE=55 ms,FA=90,FOV=240 mm, matrix=64 × 64,軸 断 30 ス ラ イ ス ,5 mm 厚). 解析 SPM2 を用い,前処理として,slice timing, realign の 後 ,各 実 験 参 加 者 の 3D 画 像 お よ び MNI template を 用 い て normalize し ,8 mm の smoothing 1 ノイズの影響 (NH を行った.実験参加者ごとに,⃝ 2 手 書 条 件 の ノ イ ズ の 影 響 (NH + NF - H - F),⃝ 3 活 字 条 件 の ノ イ ズ の 影 響 (NF - F),⃝ 4 ノイ H),⃝ 5 ズ 入 り の 手 書 条 件 と 活 字 条 件 の 差 (NH - NF),⃝ ⃝ 手 書 条 件 と 活 字 条 件 の 差 (H - F), 6 ノ イ ズ 条 件 も 含めた手書条件と活字条件の差 (NH + H - NF - F) 1 と い う コ ン ト ラ ス ト で 解 析 を 行った .続 い て ,⃝ の ノ イ ズ の 影 響 に つ い て は one sample t-test,ノ イ 2 -⃝ 3 ,⃝ 3 -⃝ 2 ,⃝ 4 -⃝ 5 ,⃝ 5 -⃝ 4 ),お ズの影響の差 (⃝ よびノイズの影響を差し引いた手書き文字の効果 5 -⃝ 3 および ⃝ 6 -⃝ 1 ) については two sample t-test (⃝ に よ る グ ル ー プ 解 析 を 行った .結 果 は ,voxel level p < .001 (uncorrected) で 表 示 し た . 3. 結果 平 均 正 答 率 お よ び 平 均 反 応 時 間 は ,条 件 間 に 有 意 差 は 認 め ら れ な かった . 1 ) に お い て は ,両 側 二 次 視 覚 野 ノ イ ズ の 影 響 (⃝ (V2, BA 18,賦 活 領 域 の 79 % ,図 1-A),右 視 覚 連 合野 (V3, BA 19),右海馬傍回 (BA 36),右眼窩前頭 野 (BA 11) の 賦 活 が 認 め ら れ た .ノ イ ズ の 影 響 の 2 -⃝ 3 ) は,左脳幹の橋 (46 %),左体性感覚連合 差 (⃝ 野 (BA 7,36 %),右 視 覚 連 合 野 (V3, BA 19),右 小 4 -⃝ 5 は ,両 側 尾 状 核 の 賦 活 が 認 め ら れ た . 脳 ,⃝ ノイ ズ の 影響を差し引いた手書き文字の効果の 5 - ⃝ 3 に お い て は ,両 側 視 覚 連 合 野 (V3, BA う ち⃝ 19,賦活領域の 94 %),左帯状回 (BA 24),左海馬傍 6 -⃝ 1 に お い て は ,右 視 覚 連 合 野 (V3, 回 (BA 35),⃝ BA 19,賦 活 領 域 の 45 % ,図 1-B),左 帯 状 回 (Bas 24, 31, 32,賦 活 領 域 の 34 % ,図 1-C),右 尾 状 核 (図 1-D),右中側頭回 (BA 21),右紡錘状回 (BA 37),右 二 次 視 覚 野 (V2, BA 18) の 賦 活 が 認 め ら れ た . 4. 考察 ノ イ ズ の 影 響 の 結 果 か ら ,ノ イ ズ は 主 に 二 次 視 覚 野 (V2) に 影 響 を 与 え て お り,中 村 他 [7] の 手 書 条 件における後頭葉の賦活は手書きのノイズ要素の 影響によるものである可能性が考えられる.また, ノ イ ズ の 影 響 の 差 の 結 果 に あ る 尾 状 核 は ,報 酬 や 愛 情 と 関 連 し て い る と い う 報 告 も あ り [5],手 書 き 文字のノイズ要素はそれを記した人が自分に与え る感情のようなものも合わせて評価するように仕 向けている可能性が考えられる. この ノ イ ズ の要素を差し引いた手書き文字の効 果 の 結 果 に あ る 視 覚 連 合 野 (V3) は ,動 き の 処 理 に 関 与 し て い る と い う 報 告 も あ り [1],手 書 き 文 字 に お け る 動 き の 要 素 (お そ ら く は 書 字) を 捉 え よ う と し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る .ま た ,帯 状 回 の 前 部 は 統 制 作 用 ,後 部 は 評 価 や 空 間 認 知 [3, 8],さ ら 図 1 ノ イ ズ の 影 響 (上),手 書 の 効 果 (下) に 前 部 の 腹 内 側 部 位 は 感 情 制 御 ,背 側 部 位 は 高 次 認知処理 [2] に関与しているとの報告があることか ら ,多 く の 要 素 を 総 合 的 に 利 用 し て 手 書 き 文 字 を 捉 え よ う と し て い る 可 能 性 が 考 え ら れ る .な お , 新規の文字の学習時,手書き文字の観察において, 右 視 覚 連 合 野 (V3),両 側 体 性 感 覚 連 合 野 ,右 一 次 体性感覚野,両側紡錘状回が賦活した旨の報告 [6] が あ る こ と か ら も ,今 回 の ノ イ ズ 要 素 を 分 離 し た 結果は妥当なものと考えられる. こ れ ら か ら ,手 書 き 文 字 は ,体 性 感 覚 や 運 動 感 覚 ,ノ イ ズ 的 な 要 素 が 喚 起 す る 感 情 要 素 ,そ し て これらを総合的に捉える高次認知処理の活動が活 字 に 比 べ て 強 く,こ の こ と が 記 憶 パ フォー マ ン ス の向上に寄与している可能性が考えられる. 参考文献 [1] Braddick, O. J., O’Brian, J. M. D., et al., (2001) “Brain areas sensitive to visual motion” Perception, Vol. 30, pp. 61-72. [2] Bush, G., Luu, P., & Posner, M. I., (2000) “Cognitive and emotional influencesin anterior cingulate cortex” Trends in Cognitive Sciences, Vol. 4, pp. 215-222. [3] Carter, C. S., Botvinick, M. M., & Cohen, J. D. G., (1999) “The contribution of the anterior cingulate cortex to executive processes in cognition” Reviews in the Neuroscience, Vol. 10, pp. 49-57. [4] Dzulkhiflee, M., 田野俊一, 岩田満, & 橋山智訓, (2008) “日 本 語 の メ モ 書 き 作 業 に お け る 手 書 き 入 力 の 有 効 性” 電 子 情 報 通 信 学 会 論 文 誌, J91-D, pp. 771-783. [5] Fisher, H., Aron, A., & Brown, L. L., (2005) “Romantic Love: An fMRI Study of a Neural Mechanism for Mate Choice” The Journal Of Comparative Neurology, Vol. 493, pp. 58-62. [6] Longcamp, M., Boucard, C., et al., (2008) “Learning through hand- or typewriting influences visual recognition of new graphic shapes: behavioral and functional imaging evidence” Journal of Cognitive Neuroscience, Vol. 20, No. 5, pp. 802-815. [7] 中 村 太 戯 留, 田 中 茂 樹, 田 丸 恵 理 子, & 上 林 憲 行, (2008) “手 書 き 文 字 と 活 字 の 認 識 の 差 に 関 す る fMRI 研究” 日本認知科学会第 25 回大会論文集, pp. 390-391. [8] Vogt, B. A., Finch, D. M., & Olson, C. R., (1992) “Functional heterogeneity in cingulate cortex: The anterior executive and posterior evaluative regions” Cerebral cortex, Vol. 2, pp. 435-443.