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イギリスとドイツの地域施設・研究所を訪ねて
イギリスとドイツの地域施設・研究所を訪ねて 海外派遣研究員報告 1 渡辺富雄 1.Sportshalle Realschule im Aurain / Bietigheim-Bissingen ガラス箱のように軽快な学校と地域 のためのスポーツホール 海 外 派 遣 研 究 員 と し て,2007 年 8 月 1 日 ~ 同 10 月 26 築を簡単に紹介し,報告とする。 日(86 日 間 ), ヨ ー ロ ッ パ に 行 く 大 変 幸 運 な 機 会 を い た だいた。前半の 8 月はイギリス,後半の 10 月はドイツに 地域施設の計画とデザイン─スポーツ施設を中心に─ 滞 在 し, そ の 間 の 9 月 の 3 週 間 ほ ど, 北 欧 の 3 都 市( ヘ シュツットガルトの郊外ビッテンゲン・ビッシンゲン ルシンキ,ストックホルム,コペンハーゲン)とスイス にある中学校のスポーツホールは,学校と地域開放を考 を訪ねてきた。 慮に入れた建築である。ボリュームを周辺の町並みに合 今回の目的は;①地域スポーツ施設と小・中学校など わせてアリーナを一層下げて計画するのは常套手段であ の教育施設がどのように連携しながら計画されているか。 るが,建物両サイドは一面ガラスで覆われ,トップライ 主にイギリスやドイツの事例を視察し,できるだけ関係 トから入る光と相まって明るい開放的な,美術館のよう 者にヒアリングすること。②スポーツ関連研究所などの なシンプルなデザインが印象的であった(写真 1)。 訪問と情報収集。③省エネルギーを目指した建築デザイ ケルンの市民のためのプール,アグリッパは,競泳プー ン の 最 新 事 例 の 視 察( 昨 年, 建 築 学 会 か ら 出 版 さ れ た ル,遊 泳・ 飛 び 込 み プ ー ル,ジ ャ グ ジ ー,フ ィ ッ ト ネ ス 系 「Solar Architecture Design Book」で最新外国事例 の施設など盛りだくさんの内容で,大変人気があり利用 の編集を担当したこともあって,それらを実際にこの目 者が多い。更衣室周りのブースの扱い方は日本のように で確かめること)。 男 女 更 衣 室 を 別 々 に 設 け る 方 法 で は な く, 更 衣 ブ ー ス・ そして,せっかくの機会なのでアスプルンド,ヤコブ ロッカー方式は大変参考になるものがあった(写真 2)。 セン,アアルトなど,私にとってはじめての北欧近現代 ミュンヘンの北インゴルスタッドの町外れにある肢体 建築をぜひ見て来たい,という欲張ったものであった。 不自由児のための学校に併設された小さなスポーツホー 準備もそこそこに訪問先の連絡メモだけをもって,ス ルとスイミングプールは,古い城塞を再利用したもので ケジュール調整・訪問許可などは現地で行うことにして ある。建物の外観はおもちゃ箱のようなむき出しのデザ 成田を出発した。最初はロンドンを拠点にし,その後も インであるが,スポーツホール,プール,更衣室周りな 毎日のようにメールや電話のやり取りで,スケジュール ど の 内 部 は き め の 細 か い 配 慮 が さ れ て い る。 ハ ン デ ィ 調整については悪戦苦闘の日々が続くことになった。 キャップをもつ人や高齢者にとって水の浮力を利用した 以下,三つの目的にそって,参考になると思われる建 水中での運動は効果的である。かつて私は東京近郊のハ 2.Agrippabad/Köln ケルンの市民プール,屋内・屋外に魅力的なさま ざまなプールが設置され,ケルンの人気スポット になっている 18 3.Sportä tatten der Kö rperbehindertenschule / Ingolstadt 肢体不自由児のための学校のスポーツホール(左) とスイミングプール(右) 4.BISP;Bundesinstitut fü r Sportwissenschaft/Bonn 連邦スポーツ科学研究所にて,Michael palmen 氏(左)・Peter Ott 氏(右)と ンディキャップをもつ人たちのための専用プールの利用 ながら,自然と共生し地域の再生・活性化を目指したプ 観察調査したことがあるが,この学校での半日の利用状 ロ ジ ェ ク ト(IBA エ ム シ ャ ー パ ー ク ) の 一 環 と し て 建 況観察は,日本のものと比較して大変参考になった(写 てられた地域の教育文化施設で,大きな集成材のフレー 真 3)。 ムの中に,宿泊,研修施設が含まれたボックスインボッ クスの巨大な建物である。外側のボックスには透光型モ スポーツ施設関連研究機関 ジュールによる太陽光発電装置がきれいなパターンでデ BISP / ボ ン の 連 邦 ス ポ ー ツ 科 学 研 究 所 は, 旧 西 ド イ ザインされている。既に日本でもたびたび紹介されてい ツの時代の内務省のビルにある国の研究機関である。全 るが,町おこしの一つの好例である(写真 5)。 スタッフが 20 数名の小さなものだが,スポーツに関わる ベディントンのゼロ化石エネルギー住宅団地は,ロン 医学や生理学など多角的な研究委託を行っている。ここ ドンの南,下水処理場跡地に計画された住宅団地で,石油, へ は 5 日 間 ほ ど 通 い, 建 築 の 専 門 家 3 名 か ら ス ポ ー ツ 建 石炭,天然ガスといった化石燃料に一切頼らないで,す 築に関する興味深い研究レポートをいくつか紹介しても べてのエネルギーを再生可能なエネルギー源から得てい らった。ドイツ語はまったくできないので,説明と絵や る。太陽光発電と不要木材チップを原料にして,発熱と 図から判断するしかないが……(写真 4)。 発電を同時に行う小型ガス化プラントから供給されてい IAKS / ケ ル ン の 国 際 ス ポ ー ツ 施 設 協 会 は,IOC( 国 る。カラフルな屋根の上の巨大なウインドカル(回転換 際オリンピック委員会)とコンタクトをもちながら,ス 気塔)は風力を使って換気するシステムで団地の景観を ポ ー ツ 施 設 の 紹 介 や 普 及 に 取 り 組 ん で い る。3 日 間 ほ ど 特徴づけている。技術的なシステムを突き詰めていくと 通い,世界中のスポーツ施設を紹介した機関誌「sb」を こうなるのだろうかという一つの事例として興味深い(写 中心に主にヨーロッパの最新事例を収集した。事務局は, 真 6)。 ケルンスポーツ大学,リニューアルされたケルンのサッ 今回ガラス建築を多く視察したが,切れ味の良いダブ カースタジアムに隣接している。このスタジアムは,今 ル ス キ ン の デ ザ イ ン と い う 点 か ら み る と,GSW 本 社 ビ 回いろいろ見た中でも個人的にはドイツのベスト 3 の中 ルを挙げたい。これも既に有名な建築で,高層棟が弓形 に入る施設ではないだろうか。 に 湾 曲 し,90cm の ダ ブ ル ス キ ン の 中 に 組 み 込 ま れ た 縦 LAB / デ ュ ッ セ ル ド ル フ の 国 際 水 ス ポ ー ツ・ レ ク リ 型ルーバーの赤・オレンジ・ピンクなどの柔らかい色調 エーション協会では,施設の設計・運営に関する国際会 が古いベルリンの町並みに不思議と溶け込んでいるのが 議(ハンブルグ)に参加してきた。その後,ハンブルグ 印象的であった(写真 7)。 から電車で 3 時間ほどの小さな町に事務所を構えている 協会副会長のダン・ヤンセン事務所を訪問し,計画中の ここで紹介したものはほんの一部なので,写真・資料 新しいプロジェクトの紹介やプール計画・設計上の留意 などに興味ある人は研究室を訪ねてください。 点・ディテールなど,長時間にわたり有意義な情報を得 最後に,長期間にわたっていろいろとご迷惑をおかけ ることができた。 した建築教室の皆様はじめ関係者の方々にお礼申し上げ ます。 省エネルギーを目指した建築とデザイン (わたなべとみお・准教授) ヘルネ文化研修センターは,歴史的な産業遺産を残し 5.Mont-Cenis Academy / Herne 間口70m,奥行き170m,高さ16m の巨大なボック スの中に宿泊,研修施設などが組み込まれている 6.Beddinnton Zero Energy Develop-ment / London 屋根の上の巨大なウインドカル(回転換気塔)が 景観を特徴づけている 7.Headquaters GSW/Berlin GSW 本社ビル,ダブルスキン内に組み込まれた 縦型ルーバーは気候に合わせて可動でき,表情を 変える 19