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安田美予子さん
プロジェクト 2014.10.14 渚の風 2号 19 連載 組織と人づくり①序章 関西学院大学 人間福祉学部教授 み よ こ 安田美予子さん Profile やすだみよこ 大阪府出身。これ まで、病院のソーシャルワーカー 未来に向けて による退院援助、ソーシャルワー クにおける質的研究、障害者の自 立生活支援などのテーマで研究し 障害者支援施設・三恵園(大阪府池田市)で、未来に向けての組織と人づくりのた てきた。大学では、社会福祉学原 めの「気づきと学び/根っこワークのプロジェクト」が本格的に稼働します。三恵園 論、社会福祉質的調査法、ソーシャ 管理者(施設長)の宮脇真佐恵さん(44)をはじめ、三恵園職員や三恵園の母体で ルワーク演習、障害者領域のソー ある社会福祉法人産経新聞厚生文化事業団の職員、そして安田を中心にチームを立ち シャルワーク実習を、大学院では 上げ、9 月 29 日に最初のミーティング兼研修会を開きました。 質的調査法を教えている。 なぜ組織と人づくりなのか 筆者安田美予子 間がひとりでそれを実現するには限界が ニケーションなどの知識やスキルを持つ あるので、基本に立ち返り現状の個別支 ある。だから、目的を同じくする人たち ことも求められます。 援の方法やプロセスを見直し、社会福祉 が集まって、協働しようという気持ちで、 以上のような、組織、チーム、組織で 実践の方法であるソーシャルワークに基 施設には、対応しなければならない課題 他の人とコミュニケーションをとって目 働く人、人々の間柄にまつわる事柄は、 づいて再構築したい、と考えていました。 が山積しています。障害者領域に限って 的達成のために働く。そのためにある、 アメリカの経営学から生まれた「組織行 も、本人の意思を尊重した本人中心の個 そうして成立するのが組織である、とい 動論」や「組織開発」という領域で、学 別支援、加齢によって重度化する障害や うことです。 問対象として研究され知識の蓄積がなさ 今日の社会福祉サービス提供事業所・ れてきました。 □ □ □ 発症する疾病への対応、権利擁護の推進、 虐待防止策、地域自立生活への移行・定 この組織や、組織内の人や、人と人と 一見、組織や組織内の人たちに対する 着支援、地域福祉の推進等、様々です。 の間柄にまつわることに対し、仕事をし 不満や愚痴のように思われることも、実 さらに、社会福祉法人には、広く地域 ている皆さんは次のような思いを抱いた は学問の対象であり、学問的知見と実践 ことはありませんか? 宮脇真佐恵さん 片山宣博さん によって変化させる必要があると考えら しかし、話し合いを続けるなかで、三 事業」を実施することも求められるよう 「職場に停滞感や閉塞感が漂っている」 れています。そして、そうした問題に「組 恵園で真に必要とされていることは、福 になりました。 「会議で意見を言っても仕方がない、出 織開発」という方法で取り組んでいる企 祉施設にとって、より根本的で基本的な 業も実際にあるのです。 ビジョンや理念にかかわる部分であるこ や社会の福祉の向上に役立つ「社会貢献 社会福祉法人や施設・事業所に求めら る杭は打たれるという空気がある」 れる利用者支援上の課題や役割がますま 「上司は問題が起こらなければよいとい す増えるなかで、なぜ組織や働く人たち う姿勢で新しいことにチャレンジしな に照準を合わせたプロジェクトを実施す い」 るのか?そんなことよりも、目の前の利 「部下とコミュニケーションがとれない」 とが明らかになりました。それは、これ からの三恵園について、どんな施設にし プロジェクト開始のきっかけ たい・ありたいのか、そして、どのよう な三恵園職員になりたい・ありたいのか、 このプロジェクトは、わたしが三恵園 用者や地域の問題解決に直結する課題に 働く人が気持ちよく、いきいきと働い 管理者の宮脇さんや前管理者で現在は産 それを非常勤職員も含めて全職員で考え 取り組むべきではないか?そんな声が聞 ていない、組織やチームがうまく機能し 経新聞厚生文化事業団企画推進本部長の る、というものでした。 こえてきそうです。 ていないと感じると、組織の定義にある 片山宣博さん(49)と知り合い、三恵 組織や人の未来の共通ビジョンを関係 園入居者に対する個別支援を再構築する 者が一緒に描くことで、組織と働く人双 ための協力を依頼されたことに始まりま 方に変化を起こすことは、「組織開発」 す。 が扱うところとぴったり重なります。 「組織の目的達成」に支障を来します。 □ □ □ ここで、組織に目を転じて、考えてみ 福祉事業所や施設の場合、そのしわ寄 ましょう。学校や企業や福祉事業所・施 せは入居・利用している障害のある人た 設、そのなかのクラブ・サークルや部署・ ちに向かいます。利用者支援は、職員独 2006(平成 18)年に開設された三恵 今後、チームメンバーで組織開発や組 チーム、これらはすべて組織です。 自の考えや単独行動ではなく、事業所や 園は、法人の理念のもと、①自閉症者支 織行動論などを勉強して知識や情報を共 経営学で定着しているチェスター・ 施設の理念や方針という大きな枠のなか 援、②地域生活移行支援、③地域福祉推 有し、三恵園の実情と照らし合わせて、 バーナード(1886-1961)の考え方に で、複数の職員やチームによる共同作業 進という 3 つを事業の柱として施設運 具体的な内容や推進方法や到達目標を考 よりますと、組織とは、人の集まりを基 によって進められるからです。 営・経営を進め、一定の成果を収めてき えていきます。 本とします。しかしそれが集団ではなく、 そして今日の福祉施設・事業所のリー こうしたプロジェクトチームの動きや ました。 組織となる、組織であるためには、集団 ダーや管理職には、利用者支援の知識や そして開設 7 年目を迎えた昨年 2013 が共通目的を持ち、協働意欲を持ち、コ スキルだけでなく、上に立つ者としての (平成 25)年度、新たに管理者となった ミュニケーションが取れていなければな 「存在(being)」やリーダーシップのあ 片山さんや当時サービス管理責任者だっ り様を考え、チームをマネジメントし部 た宮脇さんは、3事業の基盤にあるのが 下を指導・育成するのに効果的なコミュ 1 人ひとりの三恵園入居者の個別支援で 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 りません。 何か成し遂げたい目的があっても、人 売上金はすべて障害者のみなさんの就労金となります。 7月 地球 谷 義隆(たんぽぽの家) 「好きな色を順番に選び、力 強い筆使いで色を重ねてい きました」 8月 流れ 乙倉 秀弘(くすのき学園) 「ペンと筆では描き味が違 う。ペンでは丸を描きます が、筆では流れを表現しま す」 プロジェクト内容について、組織開発を はじめとする関連知識も踏まえて、今後、 『渚の風』で紹介していきます。 いぬい あし だ 問い合わせ 池田市立くすのき学園 ℡072-753-8558(乾、芦田まで) 9月 パンダ 厳原 三佳(たんぽぽの家) 「大好きなパンダ♡」 10 月 かき 梶原 幸江(第2三恵園) 「秋と言えばやっぱり柿で しょう!」 11 月 わたしの画 津﨑 真樹(こすもす) 「毎日描いてる画!!画用紙 いっぱい太陽や笑顔も入れ て楽しく描いています」 12 月 ゆきだるまが遊んでる 出来西 盟子(第2三恵園) 「冬の絵が描きたくてゆきだ るまを描きました。描いて て楽しかったです」