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ユーロ圏経済Update:緩やかに減速するが大崩れまではなかろう

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ユーロ圏経済Update:緩やかに減速するが大崩れまではなかろう
Sep 23, 2016
No.2016-045
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主任研究員 石 川
誠
03-3497-3616 [email protected]
ユーロ圏経済 Update:緩やかに減速するが大崩れまではなかろう
夏場の経済指標は、機械設備投資や乗用車販売、輸出の伸び悩みによってユーロ圏景気が減速し
ていることを示唆。Brexit 問題が、英国向け輸出だけでなく、企業や消費者の支出意欲にも影を
落としている可能性がある。しかし、Brexit 問題は一方で、ユーロ安を促してユーロ圏の輸出競
争力を高めるほか、これまで英国に向けられていた投資を取り込む機会にもなるため、必ずしも
悪い影響ばかりではない。また、失業率の低下などが示す通り、ユーロ圏のファンダメンタルズ
は改善基調を維持している。さらに、ECB による積極的な金融緩和が景気拡大を後押しするこ
とも期待できるため、ユーロ圏経済は多少の減速はあっても、2017 年にかけて 1%台半ばの成長
率を維持できる見込みである。
4~6 月期の成長率は大幅減速を回避
ユーロ圏景気は緩やかな拡大基調が続いている。9 月 6 日に
公表された、4~6 月期の実質 GDP 成長率(改定値)は、
先月公表済みの 2 次速報値 1 からほぼ変わらずの前期比
0.3%(年率換算 1.2%)となった。主に暖冬によって好調だ
った 1~3 月期(前期比年率 2.1%)からは低下したが、欧
州委員会が 1.0%と推計する潜在成長率並みを引き続き確保
した。
主要国の成長率を見ると、フランス(1~3 月期前期比 0.7%
→4~6 月期▲0.04%)とイタリア(0.3%→0.02%)がゼロ
成長にとどまったものの、ドイツ(0.7%→0.4%)は小幅減
速にとどまったほか、スペイン(0.8%→0.8%)とオランダ
(0.6%→0.6%)が堅調な伸びを維持し、全体を下支えした。
ユーロ圏の実質GDP (%、季節調整済前期比)
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
▲0.2
▲0.4
▲0.6
▲0.8
▲1.0
2013
個人消費
在庫投資
2014
2015
政府消費
輸出
2016
固定資産投資
輸入
(出所) Eurostat (注)輸入の増加は成長率に対しマイナスに寄与。
主な需要では、固定資産投資(建設投資及び機械設備投資、1~3 月期前期比 0.4%→4~6 月期▲0.01%)
が横這いにとどまり、個人消費(0.6%→0.2%)や政府消費(0.6%→0.1%)が減速するなど、圏内需要が
伸び悩んだ。一方で、1~3 月期は横ばいにとどまった輸出(0.02%→1.1%)が持ち直し、景気全体を下
支えした。名目ベースで、かつ財取引に限られた通関統計の情報になるが、仕向地別には、米国・英国・
アフリカ向けが増加に転じ、中国向けの持ち直しが続いたことが、輸出増に寄与した模様2である。
7~9 月期の成長率は一段と減速か
しかしながら、7~9 月期は、経済指標の出足が悪いことから、成長率がさらに低下する可能性が高い。
2 次速報値では前期比 0.3%、年率換算 1.1%であった。
GDP 統計における実質輸出(サービス輸出を含む)は 4~6 月期に増加したが、通関統計における名目輸出(財輸出のみ)は 4
~6 月期に前期比▲0.3%と、1~3 月期の同▲1.1%からマイナス幅が縮まったものの、減少自体は続いた。通関統計・名目輸出の
マイナス幅縮小には、ユーロ圏外向け(1~3 月期▲1.4%→4~6 月期▲0.2%)、特に米・英・中・アフリカ向けの増加が寄与した。
1
2
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
7~8 月分の経済指標を概観すると、7 月の鉱工業生産(除く建設)は 4~6 月平均比▲1.0%と、単月では
あるが 4~6 月期の前期比▲0.3%から減少ペースが強まった。需要面では、①7 月のドイツの資本財販売
(速報性の高い機械設備投資の一致指標)が、ドイツ国内向けで 4~6 月平均比▲4.5%と大きく落ち込み、
ドイツを除くユーロ圏内向けでも▲0.3%と小幅減に転じた3。また、②輸出(ユーロ圏外向け、通関ベー
ス)が 4~6 月期の前期比▲0.2%から 7 月は 4~6 月平均比▲1.0%4へ、③乗用車販売台数が 4~6 月期の
前期比▲0.4%から 7~8 月平均は 4~6 平均比▲1.1%へ、いず
ユーロ圏消費関連指標の推移 (季節調整値)
れも減少ペースを強めた。これらの一方で、(1)小売販売(4~
106
105
小売販売指数
104
(2010年=100、左目盛)
103
102
101
100
99
98
97
96
95
94
93乗用車販売台数
(年率、万台、右目盛)
92
91
2005
2007
2009
2011
2013
2015
6 月期前期比 0.1%→7 月の 4~6 月平均比 1.2%)が 7 月に増
勢を強め、(2)建設投資(▲0.6%→2.0%)が増加に転じたこと
から、景気の失速には至らないと見られるが、それでも多少の
成長ペース鈍化は余儀なくされよう。
こうした夏場の経済指標の弱さには、Brexit をめぐる先行き不
透明感が一因となっている可能性がある。すなわち、①英国経
済の悪化やポンド安ユーロ高に伴う対英輸出の減少、②世界的
な企業・消費者マインドの慎重化などを通じて、ユーロ圏内・
圏外双方の需要が下押しされ始めた可能性は排除できない。
1550
1500
1450
1400
1350
1300
1250
1200
1150
1100
1050
1000
950
900
850
800
(出所) Eurostat、ECB
ファンダメンタルズの改善続き、ECB の積極的な金融緩和姿勢も継続
もっとも、ユーロ圏では、①失業率(7 月 10.1%)が 2011 年
ユーロ圏の失業率と設備稼働率 (%、季節調整値)
7 月以来のレベルまで低下してきているほか、②鉱工業の設
設備稼働率
備稼働率(7 月 81.6%)が高水準を維持5しているなど、ファ
96
ンダメンタルズの改善傾向が続いている。
92
10
12
失業率(右目盛)
88
8
加えて、Brexit 問題は、
上記のような負の影響がある一方で、
84
6
対ドル・対円などではユーロ安要因と考えられ、対英以外の
80
4
輸出にいずれ追い風となる側面もあると考えられる。さらに、
76
2
やや長い目で見ると、英国・EU 間交渉の展開によっては、
72
0
世界各国からの対英投資の抑制がユーロ圏内に振り向けられ、
68
2004
圏内投資の拡大や資産価格の上昇を通じて、負の影響を緩和
▲2
2006
2008
2010
2012
2014
2016
(出所) Eurostat、欧州委員会
する可能性もあろう。
そして、ECB(欧州中銀)の積極的な金融緩和姿勢の継続が、当面の景気下押し圧力を減殺すると期待さ
れる。ECB は 9 月 8 日の定例理事会で、①リファイナンス金利 0.00%、②中銀預金金利▲0.4%、③月 800
億ユーロの国債・社債購入(量的緩和)
、④融資拡大を約束した銀行への低利での長期資金供給(TLTRO)、
といった一連の金融緩和策の継続を決めた一方、事務局に対し、③の国債・社債購入についての条件緩和
(債券の年限や金利、各国の国債購入の割合など)を検討するよう指示した。こうした「質的緩和」の検
討は、「2017 年 3 月」としている量的緩和の期限延長は勿論、「月 800 億ユーロ」の購入規模拡大(一段
3
4
5
4~6 月期は、ドイツ向けが前期比▲1.4%、ドイツを除くユーロ圏内向けが同 1.3%であった。
仕向地別に見ても、7 月はほぼ全ての地域で落ち込んだ。
昨年 12 月以降、前回の設備投資拡大局面の初期に当たる 2005 年の平均レベル(81.4%)を持続的に上回っている。
2
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
の量的緩和)の可能性も視野に入れた動きと言える。
ECB による一連の取り組みは、①金利抑制や銀行融資促進を通じて圏内需要への下支え効果を強めるほ
か、②ユーロ安地合いの持続を通じて、輸出の底割れを回避させる大きな要因になると考えられる。
2017 年にかけて 1%台半ばの成長率を維持する見通し
以上を踏まえると、ユーロ圏経済の先行き
ユーロ圏の成長率予想
について最も蓋然性の高いコースは「緩や
かな成長減速は不可避ながら、大崩れにも
%,%Pt
2013
2014
2015
2016
2017
実績
実績
実績
予想
予想
▲0.3
1.1
2.0
1.5
1.4
個人消費
▲0.6
0.8
1.8
1.5
0.8
では、通年の成長率が 2015 年の 2.0%6か
固定資産投資
▲2.5
1.5
3.1
2.2
3.6
ら、2016 年は 1.5%、2017 年は 1.4%へと
在庫投資(寄与度)
(0.2)
(0.2)
(▲0.1)
(▲0.2)
(▲0.1)
至らない」というものであろう。当研究所
低下するが、引き続き潜在成長率を上回る
伸びを確保できると予想している。
実質GDP
0.2
0.6
1.4
1.5
0.6
(0.4)
(0.0)
(0.2)
(0.1)
(0.2)
輸 出
2.2
4.4
6.3
2.4
4.3
輸 入
1.4
4.8
6.3
2.3
4.2
政府消費
純輸出(寄与度)
(出所)Eurostat (注) 2013年は17ヵ国、2014年は18ヵ国、2015年以降は19ヵ国ベース。
今般、2016 年 1~3 月期以前の GDP の遡及改訂も行われ、その結果、2015 年の成長率が輸出を中心に上方修正された(これ
までは 1.7%であった)
。
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