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卓上型NMRを用いた違法薬物(アンフェタミン)の分析

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卓上型NMRを用いた違法薬物(アンフェタミン)の分析
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
Application Note NMR15002
卓上型 NMRを用いた違法薬物(アンフェタミン)の分析
キーワード
特に分子構造の情報を得るために優れた手法で、
GC-MSや GC-
アンフェタミン、
デザイナードラッグ、
違法薬物、
NMRライブラリ、スクリーニング
FTIRと同様に定性・定 量 分析に用いられます。しかし高 磁 場の
1
はじめに
税関や郵便物などで押収される薬物には、デザイナードラッグと呼ばれる違法な薬
物や、
規制対象外の薬物が多様に存在します。特に、フェネルチアミンとカチノンに似
た構造の薬物の多様化が進み、
既存のスクリーニング試験では識別が困難な構造を
持つ化合物が増加しています。
現在、
呈色試験、
赤外分光法、
薄層クロマトグラフィー
(TLC )
が試験方法として採用さ
れています。これらの中でも呈色試験は屋内外を問わず簡単に実施できるため、もっ
とも広く使用されている試験法です。ただし、呈色試験はデザイナードラッグなどの
類似した構造を持つ分子を識別することが困難であるため、誤った判定結果が生じ
る可能性があります。
赤外分光法は化合物の構造に関する多くの情報が得られ、
迅速
H-NMR分析は、高価で使用場所の制限もあるため、迅速な確認
分析には困難な手法であると言えます。
Thermo Scientific™ picoSpin™ 80 NMRスペクトロメーター
は、コンパクトな卓上型装置で、簡便に NMR分析を行うことが可
能です。 NMRスペクトルは解析が容易で、化学構造のわずかな
変化を検出でき、
アンフェタミン類のような、
薬物の分類を決定付
ける官能基に帰属するシグナルが保持されたまま検出されるとい
う利点があります。
またその一方で、
官能基の変化や位置の変化に
よって、
NMRのスペクトルに特徴的な変化が検出され、薬物の特
定に必要な情報が得られます。
なスクリーニングに利用できる手法ですが、スペクトルライブラリに含まれるデータ
実験
との一致に結果が依存します。
新たなデザイナードラッグの改変は日々行われている
標準サンプルとして図 1に示したアンフェタミン(Amphetamine;
ため、
スペクトルライブラリを頻繁に更新する必要があります。TLCはクロマトグラフ
1)、p-ヒドロキシアンフェタミン(PHA;1a )、α-メチル -2,5 -ジメ
による分離と呈色試験を組み合わせた手法で、
サンプルの分離に適した手法です。
トキシフェネチルアミン(2,5 -DMA;1b )
、
2,5 -ジメトキシ -4 -ブ
多様化するデザイナードラッグを特定するためには、
分子構造の情報から識別するこ
ロモアンフェタミン(DOB;1c )
、
メチレンジオキシアンフェタミン
とができ、
かつ迅速なスクリーニング方法が必要です。
核磁気共鳴
(NMR )
分光法は、
(MDA;1d)
、
(2-FA;1e)
、
2-フルオロアンフェタミン
4-フルオロアン
フェタミン(4 -FA;1f )
を用いました。
使用したサンプルはすべて塩酸塩または硫酸塩どちらかの塩であ
り、測定に必要な濃度で容易に水に溶解できました。各サンプル
の測定時間は6分(積算25回前後)
で行いました。
標準サンプルをそれぞれ5 ∼ 12 mg用いて200 μLの重水に溶解
させ、
250 mMの濃度に調整しました。使用した重水には、内部基
準 物 質として TMSP-d4 0.35%(w/v )を 添 加しました。また、
1
mLポリプロピレンシリンジと22ゲージのノンベベル針を使用し、
サンプル溶液のキャピラリーカートリッジへの注入を行いました。
測定に用いた picoSpin 80 NMRスペクトロメーターは、
82 MHz
のパルスを使った FT-NMRで、
永久磁石とキャピラリーカートリッ
ジプローブを搭載しています。流路は約40 μLの体積で、テフロン
チューブと石英キャピラリーで構成されています。石英キャピラ
リーの内径は400 μmで、
RFコイル部は約70 nLです。
図1:アンフェタミン類標準サンプルの分子構造
アンフェタミン類は、
メチル基とβ-メチレンのダブレットから識別
アンフェタミンの構造式と官能基の位置番号を図 2に示します。
が可能です。
アンフェタミン誘導体では、アンフェタミンのα-メチルエチルア
6.5 ∼ 8.0 ppmの芳香族1 Hの領域のシグナルから、官能基の情
ミン構造は保持され、ベンゼン環の Hが別の官能基に置き換えら
報が得られます。置換基を持たないアンフェタミンでは、
7.4 ppm
れます。この側鎖の構造が変化すると、アンフェタミン類ではなく
にシングレットのシグナルが検出されます。芳香環のいずれの位
別の分類の薬物となります。たとえば、アミンの Hがメチルに置き
置が置き換えされてもこのシングレットのシグナルが変化し、置
換わるとメタンフェタミンに、βメチレンがカルボニル基になると
換基の種類に応じてシグナルのシフトやシグナル形状の変化が生
カチノン(β -ケトアンフェタミン)に分類されます。これらの化合
じます。
物とアンフェタミン類では NMRスペクトルが異なるため、置換基
化合物1a、
1b、1cの場合は特徴的な複合2重線(ダブルダブレッ
の情報に加えて薬物の分類も明らかになります。
ト)
、またはダブレットのシグナルが検出され、化合物1dではアン
Application Note NMR15002
結果
フェタミンよりも高磁場にシングレットのシグナルが検出されま
す。フッ素置換された1e、
1fでは置換基の位置によるシグナルの
変化に加えて、
フッ素とのカップリングが生じます。
アンフェタミン
誘導体においては、
それぞれの置換基の種類による芳香族1 Hの分
裂パターン(図 3 中青点 線)を見ることで、構造を推測することが
可能です。
図2:アンフェタミンの化学構造と位置番号
アンフェタミン類標準サンプルから得られた1 H-NMRスペクトル
1
まとめ
を図 3に示します。
アンフェタミンの H-NMRスペクトルは単純で、
picoSpin 80 NMRスペクトロメーターは、世界中で増大している
アンフェタミン誘導体の構造解析に利用できます。1.25 ppm付
デザイナードラッグのスクリーニングに必要な構造を識別する能
近と3 ppm付近(図 3 中赤点 線)にα-メチルエチルアミンのメチ
力を有した装置です。コンパクトな装置であるため設置場所の制
ル基とβ -メチレンのシグナルがそれぞれ検出されており、この二
限が少なく、違法薬物のスクリーニング検査に有用です。NMRス
つのシグナルはα-メチンの1 Hとのカップリングによりダブレット
ペクトルから薬物の分類や、
類似物の構造の推測が可能であり、
主
の形状になっています。α-メチンのシグナルはアミン基に隣接す
要な薬物のスペクトルライブラリを作成することで迅速に薬物を
るため、
3.5 ∼ 3.75 ppm付近に多重線でわずかに検出されます。
識別できます。
図3:picoSpin 80 により得られたアンフェタミン類の1 H-NMRスペクトル
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