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日本企業が抱える I真のリスクJとは - THOMSON REUTERS EIKON
世間を騒がすニュースでわかるとおり、不祥事は大企業でも存亡の危機につながる。 大惨事を未然に防ぐため、法務担当者はさまざまな施策を社内で講じ、 コンプライアンス意識の徹底を図っているが、それでもまだ足りない。 トムソン・ロイターの調査結果からは、対策に乗り出しながらも、 まだ十分とは言いがたい企業の実体が浮かび上がる。 トムソン・ロイター/日経BPコンサルティング共同調査レポート 「法務・コンプライアンス担当者意識調査」が明らかにした 日本企業が抱える 「真のリスク」 とは コンプライアンス担当者の90%以上が 対策強化の必要性を認識 データのねつ造、不正会計、情報漏洩等々、企業の不祥事が イアンスやリスク管理に関与する課長職以上の300人から回答を るようになって久しいが、不祥事はなくなるどころか、むしろ増え 約40%、1000人から4999人が約30%、999人以下が約30%と、 頻発している。コンプライアンスが日本の企業社会の中で言われ ている印象さえ受ける。 なぜ不祥事が続くのか。その背景を知るうえでヒントになりそ うな調査結果がある。トムソン・ロイターが日経BPコンサルティ 集めた。回答者が所属する企業の従業員数は、5000人以上が 大企業から中小中堅企業まで幅広くカバーしている。 この調査を詳しく読み解いていこう。 まず興味深いのは、 「現状の取り組みへの評価」 (p2・表1参照) ングと共同で実施した「法務・コンプライアンス担当者意識調査 だ。 「勤務先のコンプライアンスやリスク対策の現状の取り組み 2016年3月にインターネットを用いて行われたこの調査は、企 「ややそう思う52.7%」を合わせると、実に75%、4人に3人が肯 報告書」だ。 業などの法務・コンプライアンス、経営系部門などの、コンプラ 1 が十分できているか」との問いに対し、 「とてもそう思う22.3%」 定的に答えている。 制作・東洋経済企画広告制作チーム 表1 現状への取り組みへの評価(できているか否か) 1.3% 表2 対策強化の意向 6.7% 0.7% とてもそう思う とてもそう思う ややそう思う ややそう思う 23.7% 22.3% あまりそう思わない あまりそう思わない まったくそう思わない まったくそう思わない 45.0% 47.7% 52.7% ところが、 「対策強化の意向」 (p2・表2参照)を聞いた設問では、 「より積極的に取り組むべき」という担当者の意向が90%以上に 達している。 表3 コンプライアンスやリスク対策の企画・推進・管理部署 コンプライアンス専門 一見、矛盾するようにも思えるこの2つの回答の傾向は、どの 法務 ようにとらえればいいのだろうか。自社の対策は評価できるが、 企業の不祥事が続発している状況を見ると、もっと積極的に取り この点に関連して、 「海外のコンプライアンスやリスク対策につ いての担当部署」 (表3参照)を聞いたところ、 「コンプライアン 各事業部の担当 「海外の拠点、現地法人の担当」 「海外事業の本社管理担当」と 現地法人の担当 ライアンスに関しては、20%以上の企業がコンプライアンスなど 本社管理担当 ス専門/専任」や「法務」という回答が多くはなっているものの、 その他 いるという現実が浮かび上がってくるからだ。 ない/決まっていない も出ている。そうした状況下で20%以上もの企業が海外のコン 分からない プライアンスやリスク対策に関しては決して十分とは言えない体 49.7 29.0 15.7 12.0 10.7 海外事業の の専門/専任ではない本社の海外管理部門や海外拠点に任せて 52.7 25.3 海外の拠点、 いう回答が20%に達していることがやや気になる。海外のコンプ 海外、特に欧米では日本以上に企業の不祥事に対する当局の 34.3 経営企画 組む必要があると答えざるを得ないということだろう。 取り締まりが厳しく、日本企業や日本人社員が摘発されるケース 40.0 /専任 28.0 28.7 26.0 3.7 3.0 4.0 1.3 3.0 12.7 日本本社 海外拠点 制であることは、見過ごせない点であろう。 では、コンプライアンスやリスク対策に関連してどのようなテー マに関心が高いのだろうか。関心度の高いほうからいくつかの テーマをピックアップして、その背景を探ってみよう。 コーポレートガバナンスコードの影響とは 「国内のコンプライアンスやリスク対策等で興味があるテーマ」 (p3・表4参照)として挙げた人がいちばん多かったのは「内部 監査、内部不正」であった。データねつ造や不正会計など内部 監査に反する不正の事案が続発していることを考えれば、これを 則に基づき、上場企業はコードに同意しない場合はその理由を説 明しなければならない。 内部不正は未然に防ぎ、もし防ぎきれずに不正が発生したとき も速やかに正しく対応し、説明責任を果たさなければならない。 トップに挙げた人が多かったのは至極妥当なところであろう。 ガバナンスがきちんと発揮されていなければ経営陣の責任がより 公益通報したことを理由にした解雇は無効になった。簡単に言え に大きいといえる。 06年4月には、公益通報者保護法が施行された。これにより、 ば、内部通報することのハードルが下がったわけである。そのた めにコンプライアンスやリスク対策にかかわる人の関心が高く 厳しく問われることになり、企業に与えるプレッシャーはそれなり 「内部不正」の中には、機密情報や営業秘密、個人情報などの 漏洩も含まれる。2年ほど前、教育関連企業が2000万件を超え なっている。 る顧客の個人情報が漏洩したことを公表した事例は、記憶に新し たことの影響も背景にあると考えられる。コーポレートガバナン を盗用されたとして韓国企業を訴えたこともあった。これらの情 また、15年6月からコーポレートガバナンスコードが施行され スコードは、株主の権利や取締役会の役割などを示した企業統治 の指針であり、法的な強制力はない。ただ、 「同意と説明」の原 いところだ。日本の大手製鉄メーカーが特殊な鋼板の製造技術 報漏洩は、企業が今もっともシビアになる不祥事の一つだ。 2 ライバルを利する情報漏洩 今年の1月、営業秘密を扱う改正不正競争防止法が施行された。 らの情報流出にも神経をとがらせる必要度が増している。当たり 人では2000万円(改正前1000万円)、法人では5億円(同3億円) は往々にして海外での管理を海外に任せきりにしがちだ。海外社 また、改正前は情報を不法に盗られたとしても、盗られた側の ス教育とリスク対策を実施すべきだろう。 営業秘密を持ってこさせた側の罰金額が改正前より増額され、個 前のことだが海外でも情報漏洩は起こりえる。だが、日本の企業 となり、総じて責任をより厳しく問う方向での改正であった。 員のロイヤルティということも踏まえて、一層のコンプライアン 企業が告訴しなければ訴訟にならなかったが、改正後は被害者の もう一つ、情報漏洩には深刻な問題がある。 告訴がなくても警察や検察が独自に捜査できるようになった。つ かつての栄光は色あせ、韓国や中国のメーカーの後塵を拝す まり、親告罪ではなくなったということである。 ようなポジションに立たされている日本の電機メーカー。この立 いた。そしてその背景には「恥の文化」が影響しているとも推察 流出が、ライバルメーカーを利していた側面は否定できない。 日本では機密情報の漏洩にかかわる訴訟が少ないと言われて 場の逆転にはさまざまな要因があるが、日本の技術やノウハウの されている。情報を盗られた被害企業の側が「そんなみっともな 日本のメーカーを定年退職した技術者やリストラされた技術者 いことは公にできない」と考えがちであるとの見立てだ。 などが韓国や中国の企業に請われるように行き、日本企業で培っ では、非親告罪になったらどうなるのか。情報漏洩に気がつか てきた技術やノウハウを伝授したことは今や公然の秘密である。 たとしよう。この場合、警察や検察が不法行為に気がつけば、独 のアルバイトをしていたケースも珍しくなかったという。 なかったり、気づいても内部調査や告訴したりしない企業があっ かつては現役の技術者が土日を利用して海を渡り、 “技術指導” 自に捜査、摘発されることもありえる。そうすると違法な事例が こうした技術の漏洩に対する違法性の認識は必ずしも高くな 明るみに出て、被害企業が漏洩に気がつかなかったことや、気づ かった。自分の知見が韓国や中国の発展に貢献できるならと、高 いていたのに告訴しなかったことも明るみに出る。そうなればマ い志をもって “技術指導” したエンジニアもいたかもしれない。 スコミなどからは「なぜ気がつかなかったのか」 「気がついてい だが、そうしたことが日本企業の競争力を相対的に弱めたこと たのになぜ告訴しなかったのか」と問われるだろう。こうなれば、 まさに恥の上塗りである。被害者でありながら、世間からは白い もまた否定できない事実だ。そしてたとえ違法行為ではなかった としても、企業内のコンプライアンス意識を高めていれば、こう 目で見られ、企業イメージまで損なってしまう。そういう意味でも した行為も防げた可能性はある。つまり、コンプライアンスやリ さらにグローバル化が進んだ結果、海外の現地法人や拠点か るということだ。 企業は情報漏洩に神経質にならざるを得ないのだ。 スク対策の不備は、企業を弱体化させてしまう危険すら孕んでい マネーロンダリング対策は テロ資金供与対策でもある 「国内のコンプライアンス̶」 (表4参照)においては「反社 もある。実質的支配者がペーパーカンパニーでないことも明らか 会的勢力、反市場勢力」にも高い関心が寄せられている。現在、 にする必要もある。 勢力との付き合いや接触には、企業も非常に敏感になっている。 金対策につながると考えられている。欧米各国はそうした考え方 すべての都道府県で暴力団排除条例が施行されており、反社会 グローバルレベルで見ると、マネーロンダリング対策はテロ資 この条例は反社会勢力の資金源を断つことも目的の一つだが、 を日本も導入するよう強く求めている。今後、こうしたことにかか が一層強化されることになっている。この犯罪収益移転防止法は レポートに戻ろう。 今年の10月には犯罪収益移転防止法が改正され、そうした施策 わる法規制はさらに強化されていくに違いない。 (表4参照)において、3番目 「国内のコンプライアンス̶」 犯罪によって得た資金を、正当な取引を装ってロンダリングする に関心の高い「税務関連」は、脱税だけでなくマネーロンダリン のを防ぐ法律で、法人名義で金融機関の口座を開設するときや、 グに通じる部分もある。米国政府などは、米国籍の人間は、米国 不動産、宝飾品などを取引するときには、外国政府の関係者で 以外で働いている場合も米国の税法に従って納税しなければいけ ないことなどの確認が義務づけられている。法人名義の口座の場 ないという法律を強化し、規制を強めている。そうしたこともあっ 合、その法人の実質的な支配者が誰か、大株主の実質的支配者 て日本の企業もこの問題への関心を高めているようだ。 は誰かというようにさかのぼって確認しなければならないケース 表4 国内のコンプライアンスやリスク対策等で興味があるテーマ(興味の順に5つ選択) その他 マネーロンダリング ︵AML/CFT︶ インサイダー取引 組織による顧客確認 ︵KYC︶ 贈収賄 独占禁止法 税務関連 反社会的勢力、 反市場勢力 3 5番目 4番目 3番目 2番目 1番目 内部監査、 内部不正 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% スコア スコア ( 「1番目」 から順に得点化し、 合計した数字。 この項目のみ右目盛り) 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 表5 海外事業のコンプライアンスやリスク対策等で興味があるテーマ(興味の順に5つ選択) スコア スコア ( 「1番目」 から順に得点化し、 合計した数字。 この項目のみ右目盛り) 80% 5番目 4番目 3番目 2番目 1番目 70% 60% 50% 40% 30% 80 70 60 50 40 30 10 0 その他 インサイダー取引 「贈収賄」に関していえば、国内では5番目でも「海外事業」 (表 反社会的勢力、 反市場勢力 独占禁止法 税務関連 贈収賄 内部監査、 内部不正 0% 組織による顧客確認 ︵KYC︶ 20 10% マネーロンダリング ︵AML/CFT︶ 20% 支払うことで米司法当局と和解した例もある。英国の贈収賄法 5参照)に限ると、2番目に関心の高いテーマとなる。グローバ (UKBA)も昨年の後半以降、摘発が増える傾向にあるなど、贈 り、海外の公務員との接点も多くなったことなどを背景に、日本 もちろん日本国内でも贈収賄は違法だが、海外、特に途上国 ル化が進み、海外に事業所や現地法人を持つことが当たり前にな 収賄に対する厳しい姿勢がグローバルで鮮明になっている。 の企業が、国内以上に海外での贈収賄に敏感になっている現状 では文化や商習慣が違ううえに、賄賂なしではビジネスがしにく 国が積極的で、近年は米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)の の果実だ。この問題に関しては現地拠点に任せるのではなく、日 が浮かび上がってくる。贈収賄に対する取り締まりでは、特に米 運用を一段と厳しくしている。米国企業に限らず外国企業にも積 極的に適用しており、過去には日本企業が2億ドル以上の罰金を い現実もある。だが、贈収賄は決して手を出してはいけない禁断 本本社が中心となって対策を講じておかねばならない。 90%の関心も、 サービス利用は15%のギャップ 最後に2つの調査項目を紹介したい。 コンプライアンス関連の5項目を作成して「項目別の関心度」 (表6参照)を聞いたところ、 「国内外の法制度、商習慣をふまえ たコンプライアンス遵守と教育・リスクの低減」と「コンプライ アンスやリスク対策のプロセス全体の管理とレベル向上・効率化」 では関心を持つ層は9割以上にのぼった。ところが、次の問い「コ ンプライアンスやリスク対策サービスの利用・検討状況」 (表7参 14.3 10.3 54.0 43.0 29.7 27.0 80% 60% 40% やシステム」を「すでに利用している」と答えた割合がいずれも 15%以下しかないからである。逆に「利用や検討の予定はない」 という回答は30%以上もある。 冒頭で示したように、現状の自社の取り組みに対しては75%が 10.3 51.0 48.0 37.7 23.0 52.7 35.7 コンプライアンスやリスク対 策のプロセス全体の管理とレ ベル向上・効率化 イアンスやリスク対策関連の業務を一元的に管理できるサービス 11.0 18.0 19.7 海 外の取 引 先 等のリスク 情報の収集の強化 0% 9.7 海外の従業員に対するコンプ ライアンスやリスク対策に関 する教育 20% 取 引 先 等のリスク 情 報の 収集の強化 先等のリスク情報を確認できる情報提供サービス」や「コンプラ 100% スコア 「とても関心がある」 から順に得点化し、 合計した数字。 この項目のみ右目盛り 国 内 外の法 制 度、高 習 慣 を ふまえたコンプライアンス遵 守と教育・リスクの低減 照)に対する回答には驚かざるを得ない。 「海外ビジネスや取引 表6 項目別の関心度 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 まったく関心 はない あまり関心は ない やや関心が ある とても関心が ある 肯定的に評価している。そして、コンプライアンス教育やリスク の低減には90%以上もの人が関心を寄せているにもかかわらず、 必要と思われるサービスを利用するなどリスクに対する備えがで きていない企業のほうが多く、リスクに対して無防備と考えられ る企業も少なくない。この意識と行動の大きな落差にこそ、日本 企業の抱える真のリスクが潜んでいるのではないだろうか。 4 13.3 12.3 既に利用している 7.3 11.0 11.7 今後利用予定 60% 28.0 24.0 28.3 利用するかどうか 未定だが、検討は している 40% 11.0 13.0 20% 38.7 38.7 0% 14.3 33.3 今後検討する予定 利用や検討の 予定はない コンプライアンスやリスク対 策 関 連の業 務 を 一 元 的 に 管 理できるサービスやシステム トムソン・ロイター・マーケッツ 東京都港区赤坂5-3-1赤坂Bizタワー 30階 15.0 80% グロー バルで利用できるコ ンプライアンスやリスク対 策 に 関 す るeラ ーニン グ・ ソリューション トムソン・ロイターの製品/サービスに関するお問合せ お問合せフォームURL:tr-j.jp/otoiawase お問合せ番号:03-6743-6515 100% 海外ビジネスや取引先等の リスク情報を確認できる情 報提供サービス 出典: 「法務・コンプライアンス担当者意識調査報告書」 (トムソン・ロイター /日経BPコンサルティング共同調査) 表7 コンプライアンスやリスク対策サービスの利用・検討状況 4