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塩化揮発法による焼却灰からの 重金属の高効率分離・回収 中 山 勝 也

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塩化揮発法による焼却灰からの 重金属の高効率分離・回収 中 山 勝 也
塩化揮発法による焼却灰からの
重金属の高効率分離・回収
中
山
勝
也
目次
序章
…1
1. 持続可能な社会の形成とそれにかかわる諸問題
…2
2. 我が国における資源のマテリアルバランス
…3
3. 日本における固体廃棄物の発生と対策
…4
3.1 一般廃棄物と産業廃棄物
…4
3.2 一般廃棄物の処理と対策
…6
3.2.1 処理の現状
…6
3.2.2 処理方法
…8
3.3 産業廃棄物の処理と対策
…11
4. 溶融飛灰
…13
4.1 溶融飛灰の発生フロ
…13
4.2 溶融飛灰の特徴
…14
4.3 溶融飛灰の処理方法
…17
4.4 溶融飛灰中重金属の資源的価値
…19
5. 溶融飛灰からの重金属回収方法
…20
5.1 湿式処理
…20
5.2 乾式処理
…21
5.2.1 塩化揮発法
…21
5.2.2 真空精錬法
…23
5.3 エネルギミニマム型の金属資源回生処理の指針
…24
6. 塩化揮発/減圧加熱の組合せ処理による重金属揮発分離の提案
…25
6.1 本研究の目的
…25
6.2 本提案法の基本概念
…26
6.3 本提案法の特徴
…27
7. 本研究の概要
…27
8. 参考文献
…31
第1章 飛灰に含有される重金属の塩素化反応による乾式分離特性
…37
1.1 緒言
…38
1.2 実験装置ならびに方法
…39
1.2.1 試料
…39
1.2.2 実験装置
…42
1.2.3 実験方法
…43
1.3 実験結果ならびに考察
…44
1.3.1 溶融飛灰、都市ごみ焼却飛灰の SEM 写真および X 線回折結果
…44
I
1.3.2 重金属試薬の熱重量分析結果
…46
1.3.3 塩素化反応装置による飛灰中重金属の揮発挙動
…48
1.3.4 模擬飛灰中の重金属の揮発特性
…51
1.4 結言
…53
1.5 参考文献
…54
第2章 塩酸含浸・加熱処理による都市ごみ溶融飛灰中重金属の塩化揮発挙動
におよぼすカルシウム含有量の影響
…56
2.1 緒言
…57
2.2 実験装置ならびに方法
…58
2.2.1 試料
…58
2.2.2 塩酸含浸処理法
…60
2.2.3 実験装置
…62
2.2.4 評価方法
…63
2.3 実験結果および考察
…64
2.3.1 模擬飛灰中の重金属揮発挙動
…64
2.3.2 都市ごみ溶融飛灰中の重金属揮発挙動
…67
2.4 結言
…73
2.5 参考文献
…74
第3章 都市ごみ溶融飛灰に含まれる NaCl, KCl, CaCl2 の重金属揮発挙動に及ぼす影響
…76
3.1 緒言
…77
3.2 実験
…78
3.2.1 試料性状
…78
3.2.2 実験装置および方法
…81
3.3 実験結果および考察
…82
3.3.1 無機塩素化合物が重金属酸化物の塩化揮発挙動に及ぼす影響
…82
3.3.2 溶融飛灰の重金属揮発挙動
…86
3.4 結言
…93
3.5 参考文献
…94
第4章 溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす未燃炭素の影響
…96
4.1 緒言
…97
4.2 実験方法
…98
4.2.1 試料およびその性状
…98
4.2.2 実験装置および方法
…100
4.3 結果と考察
…101
4.3.1 溶融飛灰と模擬飛灰からの鉛、亜鉛、銅の揮発挙動
…101
II
4.3.2 未燃炭素分の有無による鉛、亜鉛、銅の揮発率の相違
…102
4.3.3 溶融飛灰からの重金属の揮発率と未燃炭素含有量との関係
…109
4.4 結言
…111
4.5 参考文献
…112
第5章 減圧条件下での溶融飛灰からの亜鉛、鉛、銅の塩化揮発促進
…114
5.1 緒言
…115
5.2 実験
…115
5.2.1 試料およびその性状
…115
5.2.2 実験装置および方法
…116
5.3 結果および考察
…118
5.3.1 減圧加熱による重金属塩化物の揮発挙動
…118
5.4 結言
…124
5.5 参考文献
…124
第6章 減圧加熱下における重金属塩化物の揮発速度解析
…126
6.1 緒言
…127
6.2 実験
…128
6.2.1 実験装置および方法
…128
6.2.2 揮発速度式
…130
6.3 実験結果および考察
…133
6.3.1 重金属塩化物の揮発量と保持時間との関係
…133
6.3.2 重金属塩化物の揮発速度解析
…136
6.3.3 ZnCl2、PbCl2 および CuCl の個別分離条件の検討
…139
6.4 結言
…143
6.5 参考文献
…144
終章
…146
1. 本研究における検討と成果
…147
2. 今後の課題
…151
2.1 灰粒子群からの重金属塩化物の揮発速度解析
…151
2.2 重金属塩化物の揮発速度に及ぼす無機塩素化合物の影響
…152
2.3 重金属含有固体廃棄物の適応範囲の検討
…152
2.4 エネルギ収支比の観点からの本提案法と従来法との比較
…153
3. 今後の展望
…153
謝辞
…154
論文目録
…156
III
序章
[塩 化 揮 発 法 と減 圧 加 熱 との組 み合 せ処 理 ]
減圧加熱
塩素化反応
ZnCl2 Zn
揮発
促進
塩素化
剤
PbCl2 Pb
Pb
Zn
Cu
CuCl Cu
NaCl
KCl, CaCl2
溶融飛灰
残渣
Al2O3
SiO2
SiO2, Al2O3
金属塩化物
個別回収
無害
再資源化
本研究では、焼却灰を取り巻く現状ならびに含
有金属の回収方法についてまとめ、従来の塩化揮
発法およびその発展形として本研究で提案する減
圧塩化揮発法の特徴あるいは優位性について述べ
る 。 具 体 的 に は 、 天 然 鉱 物 の 数 ‐ 1 0 倍 程 度 の Cu 、
Pb お よ び Zn を 含 む 溶 融 飛 灰 か ら の 金 属 資 源 回 収 に
対する減圧塩化揮発法の特徴ならびに他の処理法
との相違などをまとめ、エネルギ・資源ミニマム
に基づく溶融飛灰からの金属資源回生の可能性を
検討した。
1
1.持 続 可 能 な社 会 の形 成 とそれにかかわる諸 問 題
我 が 国 に お い て 、 196 0 年 代 の 高 度 経 済 成 長 期 に 端 を 発 し た 「 大 量 生
産・大量消費・大量廃棄型」の社会経済システムは、人類に様々な利
便性をもたらしてきた反面、自然の有する能力を超えた負荷を自然環
境に与え、地球温暖化、砂漠化、酸性雨、オゾンホールなどの様々な
地 球 規 模 の 環 境 問 題 を 引 き 起 こ し て き た 。 こ れ ら の 環 境 問 題 は 、 1972
年 に ス ウ ェ ー デ ン で 開 催 さ れ た 国 連 環 境 会 議 (ス ト ッ ク ホ ル ム 会 議 )に
お い て 認 識 さ れ 始 め た 。ま た そ の 2 0 年 後 ( 1 9 9 2 年 ) 、ブ ラ ジ ル ・ リ オ デ
ジ ャ ネ イ ロ で 開 催 さ れ た 国 連 環 境 開 発 会 議 (地 球 サ ミ ッ ト )で は 、 世 界
約 180 ヶ 国 が 参 加 し 、 持 続 可 能 な 開 発 の 達 成 を 誓 約 す る 「 環 境 と 開 発
に 関 す る リ オ 宣 言 」並 び に そ の 具 体 的 行 動 計 画 で あ る「 ア ジ ェ ン ダ 21 」
が採択され、持続可能な開発こそが人類の安全並びに繁栄を保障する
ものであるとの共通認識がなされた。しかしながら、持続可能な開発
は 容 易 な こ と で は な く 、2 0 02 年 8 - 9 月 に 南 ア フ リ カ 共 和 国・ヨ ハ ネ ス
ブ ル グ に お い て 開 催 さ れ た 世 界 首 脳 会 議 (ヨ ハ ネ ス ブ ル グ サ ミ ッ ト )に
お い て は 、地 球 温 暖 化 、森 林 保 護 、有 害 物 質 に よ る 環 境 汚 染 な ど の 様 々
な問題に対しての議論がなされたが、会議の大目標であったアジェン
ダ 21 の 実 施 に 対 す る 各 国 の 同 意 に は 、 今 一 歩 、 至 ら な か っ た
1)
。
持続可能な開発とは、地球の持つ能力以上に天然資源の利用を増や
すことなく、世界全体の人々の生活を質的に向上させることであり、
こ の た め に は 1)経 済 成 長 と 公 平 性 、 2)天 然 資 源 と 環 境 の 保 全 、 3)社 会
開発の 3 分野において世界各国が一致する必要があるとされている
2)
。
こ の う ち 、 天 然 資 源 と 環 境 の 保 全 に お い て 、 我 が 国 で は 、 2 00 0 年 6 月
に循環型社会基本法を施行し、循環型社会の形成に向けた新たな取り
組みを始めている。この法律は、廃棄物等の発生量が増大し、資源の
循環利用が十分に行われていない状況を鑑み、廃棄物・リサイクル対
策を総合的かつ計画的に推進するための基盤を確立することを目標と
し て い る 。こ の 法 律 の 施 行 に 伴 っ て 、廃 棄 物 処 理 法 (廃 棄 物 の 処 理 及 び
清 掃 に 関 す る 法 律 、 1 97 6) や 容 器 包 装 リ サ イ ク ル 法 ( 容 器 包 装 に 係 る 分
別 収 集 及 び 再 商 品 化 の 促 進 等 に 関 す る 法 律 、 19 97 ) 、 資 源 有 効 利 用 促
2
進 法 ( 資 源 の 有 効 な 利 用 の 促 進 に 関 す る 法 律 、 2 00 1) な ど の 個 別 の リ サ
イクル法が次々と制定、改正され、この循環型社会基本法の枠組みに
よって体系化されている。このような廃棄物に対する世界的な取り組
みは、今世紀、人類が目標とする持続可能な社会の構築のために必要
とされる最重要テーマである。
2.我 が国 における資 源 のマテリアルバランス
我が国における廃棄物の循環利用の取組みを示すものとして、平成
12 年 度 に お け る 我 が 国 の 物 質 収 支
3)
を Figure 1 に 示 す 。本 図 に よ り 我
が 国 の 総 物 質 投 入 量 は 21 . 3 億 ト ン で あ り 、 そ の 半 分 程 度 の 1 1. 5 億 ト
ン が 建 物 、 社 会 イ ン フ ラ と い う 形 で 蓄 積 さ れ て い る 。 ま た 1. 0 億 ト ン
が 製 品 等 の 形 で 輸 出 さ れ 、全 体 の 約 4 割( 8. 4 億 ト ン )が エ ネ ル ギ 消 費
や廃棄物という形態で環境中に排出されている。
輸入
7.8 億トン
輸出
1.0 億トン
製品輸入
0.7 億トン
資源採取
7.1 億トン
新たな蓄積
11.5
億トン
資源採取
11.2 億トン
その他
(散布・揮発)
0.9億トン
食料消費
1.3億トン
自然界からの 総物質投入量
21.3億トン
資源採取
18.4億トン
エネルギー消費
不要物
4.2億トン
総廃棄物
排出
発生量
産業廃棄物
5.2億トン
2.4億トン
一般廃棄物
0.5億トン
国内
再生利用
2.3 億トン
Fi gu r e 1 我 が 国 に おける マ テ リア ル フ ロ ( 平 成 1 2 年 度 )
我が国における物質収支の問題点として「資源採取」の量が高水準
で あ る こ と が 挙 げ ら れ る 。 平 成 12 年 の 資 源 採 取 量 は 、 国 内 、 輸 入 を 合
わ せ て 1 8. 4 億 ト ン と 推 計 さ れ る が 、 こ の 値 は 、 昭 和 55 年 の 1 4. 4 億 ト
ン ( 9 . 9 億 ト ン ( 国 内 分 ) + 4 . 5 億 ト ン ( 輸 入 分 )) に 比 べ て 約 1. 3 倍
3
大 き い 。ま た 、こ れ に 伴 っ て 発 生 す る 総 廃 棄 物 量 は 、5. 2 億 ト ン と 高 水
準 で あ る に も か か わ ら ず 、 再 生 利 用 量 は 2. 3 億 ト ン と 、 総 物 質 投 入 量
( 2 1 . 3 億 ト ン )か ら エ ネ ル ギ 消 費 や 輸 出 分 を 除 い た も の( 1 4. 8 億 ト ン )
の7分の1程度に留まっている。このため我が国では、再生利用量の
比率を上げることで、資源採取の水準ならびに総廃棄物の発生量を低
減することが求められている。
3.日 本 における固 体 廃 棄 物 の発 生 と対 策
3.1 一 般 廃 棄 物 と産 業 廃 棄 物
我が国では、廃棄物を廃棄物処理法によって一般廃棄物と、産業廃
棄物とに分類している。産業廃棄物は、商店、事務所、工場などでの
事業活動に伴って生じた廃棄物であり、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、
廃 ア ル カ リ お よ び 廃 プ ラ ス チ ッ ク 類 な ど の 19 種 類 に 分 類 さ れ て い る 。
一 方 、 一 般 廃 棄 物 は 、「 産 業 廃 棄 物 以 外 の 廃 棄 物 」 と 定 義 さ れ て お り 、
上記分類以外の事業系一般廃棄物と、一般家庭の日常生活に伴って生
じた家庭系廃棄物とに分けられる。
Figure 2 お よ び Figure 3 に 、 我 が 国 の 一 般 廃 棄 物 お よ び 産 業 廃 棄 物
の年間排出量の推移を示す
4),5)
。また、一般廃棄物の総資源化量とリ
サイクル率の推移、ならびに産業廃棄物の再生利用量、減量化量、最
終 処 分 量 の 推 移 を そ れ ぞ れ Figure 4、 Figure 5 に 示 す
4),5)
。 Figure 2
お よ び F ig u r e 3 よ り 、近 年 の 一 般 廃 棄 物 、産 業 廃 棄 物 の 年 間 排 出 量 は 、
そ れ ぞ れ 約 5000 万 ト ン 、 4 億 ト ン と ほ ぼ 横 ば い の 傾 向 に あ る 。 こ れ に
対して、一般廃棄物の総資源化量および産業廃棄物の再生利用量は、
増 加 傾 向 に あ り 、 平 成 1 5 年 度 で は 約 91 6 万 ト ン 、 約 2 億 ト ン と 、 排 出
量 全 体 の そ れ ぞ れ 1 6 . 8 % 、 約 49 % に 達 し て い る 。 こ こ で 産 業 廃 棄 物 が
一般廃棄物と比べて再生利用しやすい原因としては、排出源の集約性
と廃棄物の性状の均一性、再生品の需要先確保の容易性などのほか、
排出者と利用者が連携して協力関係のもとにリサイクルを行う「閉じ
た系」を作りやすいためと考えられる。
4
5000
4000
3000
2000
1000
0
H6
Fi gu r e 2
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15
一 般 廃 棄 物 の年 間 総 排 出 量 の推 移
4.5
産業廃棄物の排出量[億トン/年]
一般廃棄物の排出量[万トン/年]
6000
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
H6
Fi gu r e 3
H7
H8
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15
産 業 廃 棄 物 の年 間 総 排 出 量 の推 移
5
中間処理後再生利用量
集団回収量
リサイクル率
1200
11.0
資源化量[万トン]
1000
800
9.8
9.1
8.0
11.0
12.1
400
214
232
251
247
252
236
200
257
278
300
H6
H7
H8
18
16.8
15
13.1
277
600
15.0
15.9
284
281
283
9
260
260
287
312
350
406
222
229
233
227
6
3
335
161
183
0
0
Fi gur e 4
12
リサイクル率[%]
直接資源化量
H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15
一 般 廃 棄 物 の 総 資 源 化 量 とリ サイ ク ル率 の 推 移
再生利用量
減量化量
最終処分量
産業廃棄物の排出量[億トン/年]
4.5
4
3.5
0.8
0.67 0.58
0.69 0.68
3
2.5
1.7
1.78 1.87
0.5
0.45 0.42
0.4
1.77 1.75 1.72
1.79 1.79 1.79
0.3
1.8
2
1.5
1
0.5
1.56 1.47
1.5
2.01
1.69 1.72 1.71 1.84 1.83 1.82
0
H6
Fi gu r e 5
H7
H8
H9
H10 H11 H12 H13 H14 H15
産 業 廃 棄 物 の再 生 利 用 量 、減 量 化 、最 終 処 分 量 の推 移
3.2 一 般 廃 棄 物 の処 理 と対 策
3.2.1 処 理 の現 状
現 在 、我 が 国 に お い て 再 資 源 化 で き な か っ た 一 般 廃 棄 物 に つ い て は 、
焼 却 に よ っ て 減 容 化 処 分 が 行 な わ れ て い る 。T a b l e 1 に 我 が 国 お よ び 欧
米各国
6)
における焼却率と埋立処分率との関係を示す。本表から分か
6
る よ う に 、我 が 国 に お け る 焼 却 率 は 約 80 % に 達 し 、欧 米 各 国 の 5 ‐ 6 0%
と比べて大きい。この原因として我が国は、温帯湿潤気候であり、公
衆衛生の確保が必要であることが挙げられる。日本での年間降雨量は
約 1 , 7 1 4 m m で あ る の に 対 し て 、 欧 米 諸 国 の そ れ は 1 ,00 0 m m 未 満 で あ
る。
T a b le 1
我 が 国 と 欧 米 各 国 にお ける 焼 却 率 と 埋 立 処 分 率
焼却率[%]埋立処分率[%]
日本
アメリカ
イギリス
ドイツ
フランス
オランダ
デンマーク
10
61
70
48
48
31
20
80
15
5
34
40
26
60
また、国土面積に対する人口密度が大きく、埋立処分場の十分な確
保 が 困 難 で あ る こ と が 挙 げ ら れ る 。 Figure 6 に 一 般 廃 棄 物 の 最 終 処 分
場の残余年数を示す。本図より、一般廃棄物は、焼却による減容化処
理 を 行 っ て い る に も か か わ ら ず 、 最 終 処 分 場 の 残 余 年 数 は 、 約 13. 2 年
4)
とわずかとなっている。住民反対などにより、埋立処分場の新規建
設が困難となっており、一般廃棄物のさらなる再生利用が求められて
いる。
7
残余容量
残余年数
20
164
残余容量[百万m3]
151
150
142 151
100
11.2
8.7
171
8.5
164
157 153
145 137
16
13.1 13.2
12.3 12.3 12.2 12.5
12
8
9.4
50
残余年数[年]
200
4
0
0
H6 H7
Fi gur e 6
H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15
一 般 廃 棄 物 の 最 終 処 分 量 の推 移
3.2.2 処 理 方 法
(1) 焼 却 炉
現在、一般廃棄物の焼却処理は、おもにストーカ式焼却炉
7)
もしく
は 流 動 床 炉 を 用 い て 行 わ れ て い る 。 Figure 7 に ス ト ー カ 式 焼 却 炉 の 一
例を示す。ストーカ炉では、階段状に並べられた炉床を列ごとに小刻
みに動かすことによりごみを徐々に撹拌しながら移動させるとともに、
炉床の隙間から高温空気を炉内に送り込み、ごみを燃焼させる。ごみ
の移動速度や燃焼用空気の温度や量を調節することによって、炉内の
燃焼状態を安定させ、ほぼ完全にごみを焼却することができる。一般
に 、ス ト ー カ 炉 に お け る 都 市 ご み の 減 容 化 率 は お よ そ 90 ‐ 9 5% ( 減 量 化
率 で 約 8 0‐ 90 % ) と さ れ て お り 、 焼 却 処 理 の 後 、 約 1 0‐ 20 % の 焼 却 灰
が 発 生 す る 。こ の う ち 、約 90 % が 主 灰 と し て 焼 却 炉 下 部 よ り 排 出 さ れ 、
約 10% が 焼 却 飛 灰 と し て 集 塵 装 置 で 捕 集 さ れ る
8
8)
。
Fi gu r e 7
ストーカ式 焼 却 炉
(2) 溶 融 炉
前述の焼却炉に対して、近年廃棄物の再資源化およびさらなる減量
化を目指した溶融処理の導入が進められている。溶融処理とは、燃料
の 燃 焼 熱 や 電 気 か ら 得 ら れ た 熱 エ ネ ル ギ に よ っ て 14 73 K‐ 17 73 K 程 度 の
高温状態で、廃棄物のガス化ならびに燃焼を行なうとともに、残留し
た灰成分を溶融することにより、人体に無害なスラグとする方法であ
る。この方法により廃棄物中のダイオキシン類等の有害有機物は燃焼
し、含有有害重金属はガラス質のスラグ内に閉じ込められて溶出防止
される
9)-11)
。
溶融炉の種類としては、重油や都市ガスを用いた表面溶融炉、コー
クスを熱源とするシャフト式溶融炉、電気を用いたアーク加熱やプラ
ズマ加熱式溶融炉などが実用化されている。一例として、シャフト式
溶 融 炉 の 概 略 図 を F ig ur e 8 に 示 す 。 T ab l e 2 に 、 溶 融 炉 の 設 置 施 設 一
9
覧を示す
12,13)
。現 在 、我 が 国 で は 10 0 ほ ど の 溶 融 施 設 が 稼 動 し て い る 。
溶融施設は年々増加をたどっており、一般廃棄物処理体系は溶融処理
に移りつつある。
Fi gur e 8
シャフト式 ガス化 溶 融 炉
10
T a b le 2 溶 融 炉 の 設 置 施 設 一 覧
設置事業体
稼働年
茨城鹿島町
埼玉東部
埼玉東部
長崎諫早市
徳島阿南市
埼玉狭山市
東京太田区
埼玉大宮市
埼玉坂戸市
愛媛松戸市
新潟白根
千葉我孫市
愛知衣浦
愛知東海市
埼玉狭山市
東京八王子
千葉東金市
東京多摩川
1981
1985
1986
1987
1990
1991
1991
1993
1994
1994
1994
1995
1995
1995
1996
1998
1998
1998
岩手釜石市
大坂茨木市
大坂茨木市
兵庫揖龍
香川東部
福岡飯塚市
1979
1980
1996
1997
1997
1998
基数
形式
熱源
メーカー
6.5
14
15
12
4.8
15
250
75
9.6
52
7
15
15
15
15
18
26
25
1
2
2
1
2
1
2
1
1
1
1
1
2
2
1
2
1
2
FS
FS
FS
RS
FS
RS
AE
AE
FS
PE
RS
BS
IM
SC
FS
RE
FS
AE
石油
石油
石油
石油
石油
石油
電力
電力
石油
電力
石油
石油
石炭
石油
電力
石油
電力
タクマ
タクマ
タクマ
クボタ
タクマ
クボタ
大同特鋼
大同特鋼
タクマ
荏原製作
クボタ
日立造船
石播重工
新日鐵
タクマ
日本鋼管
タクマ
大同特鋼
50
150
150
150
65
90
2
3
2
2
2
2
SC
SC
SC
SC
SC
SC
石炭
石炭
石炭
石炭
石炭
石炭
新日鐵
新日鐵
新日鐵
新日鐵
新日鐵
新日鐵
溶融炉容(t/日)
溶融処理の長所として、一般廃棄物の溶融処理によって生成した溶
融 ス ラ グ は 、路 盤 材 や 埋 戻 材 と し て 有 効 利 用 で き る こ と が 挙 げ ら れ る 。
一方、溶融処理の課題としては、膨大なエネルギを消費すること、な
らびに溶融飛灰の発生が挙げられる。溶融飛灰中には、溶融炉内で揮
発した鉛、銅、亜鉛などの有害重金属ならびにダイオキシン類等が含
まれており
14)
、これら有害成分を無害化するための飛灰処理技術は必
須とされている。
3.3 産 業 廃 棄 物 の処 理 と対 策
産業廃棄物についても、一般廃棄物と同様に埋立処分場の残余年数
が 、 平 成 1 5 年 4 月 時 点 で 約 4 .5 年 と 、 依 然 と し て 厳 し い 状 況 に あ る 。
産業廃棄物の未利用比率
15)
を F i g u r e 9 に 示 す 。本 図 よ り 性 状 等 が 比 較
的均一である鉱さい、がれき、金属くずおよび動物の糞尿などは再生
利 用 率 が 80% 以 上 と な っ て い る 。 し か し な が ら 、 ゴ ム く ず や 廃 プ ラ ス
チックなどは、有用な燃料源となりうる材料であるにもかかわらず、
再 生 利 用 率 は 30 % 程 度 に 留 ま っ て い る 。
11
Fi gu r e 9
産 業 廃 棄 物 の未 利 用 比 率
その中でも、使用済み自動車の廃棄処分時に発生するカーシュレッ
ダ ー ダ ス ト ( A S R : A u t o m o b i le S hr e dde r Re s idu e ) な ど は 、 プ ラ ス チ
ック、ゴム、繊維類などの可燃分の他、銅やアルミなどの金属類を含
む難処理廃棄物であり、ほとんどが埋立処分されていた。しかしなが
ら 、2 00 5 年 1 月 施 行 さ れ た 「 使 用 済 み 自 動 車 の 再 資 源 化 等 に 関 す る 法 律
( 通 称 「 自 動 車 リ サ イ ク ル 法 」 )」 に よ り 、 A SR に つ い て も 再 利 用 し て い く
ことが求められている。
A S R の 再 利 用 法 と し て は 、一 般 廃 棄 物 と 同 様 に 溶 融 処 理 が 用 い ら れ て
い る 。 F i g u r e 1 0 に シ ャ フ ト 式 A SR ガ ス 化 溶 融 炉 を 示 す
16)
。溶融炉に
投 入 さ れ た A SR 中 の 可 燃 成 分 は 、 ガ ス 化 し て 上 部 ガ ス 取 出 口 か ら 排 出
さ れ る 。一 方 、残 っ た 灰 分 は 、高 温 の 溶 解 帯 を 通 過 さ せ る こ と に よ り 、
完全に液体状の溶融スラグとして炉下部湯溜帯の出滓口から連続的に
排出する。排出された溶融スラグは水冷し、水砕スラグとなる。これ
らの水砕スラグ中には、鉄、銅などのメタル分が含まれるため、溶融
12
スラグ処理設備において乾燥、磁選処理をおこない、リサイクル性に
優れた水砕スラグとメタル分とに分けて回収される。一方、溶融処理
時に発生した粉塵ならびに低沸点の金属成分などは、溶融飛灰として
排出される。これらの溶融飛灰には、高濃度の重金属ならびにダイオ
キシン類等を含有するため、その適正な処理が求められている。
溶融設備
排ガス処理設備
二次燃焼炉
有害ガス除 去装置
NO.2噴霧
冷却塔
冷却水
冷却水
原料投入装置
NO.1噴霧
冷却塔
排ガス
(可燃ガス)
溶融炉
集塵機
サイクロン
酸素富化
M
冷却装置
灯油
バーナ
冷却水
活性炭
吸着塔
溶融スラグ
処理設備
乾燥炉
接続排気
ダクト
溶融
飛灰
溶融スラグ
掻き出し
コンベヤ
誘引
ファン
ダスト
磁選機
水砕スラグ
貯蔵計量設備
メタル
飛灰
ホッパ
飛灰
ホッパ
ガス冷却装置
M
M
原料ホッパ
(石灰石) (コークス)
排ガス
M
M
(鉱滓)
搬送機
飛灰安定化
処理装置
(カルボミキサ)
受入ホッパ
二軸混練機
切出し
計量装置
固化物
バンカ
成形物
ASR受入ホッパ
結露水
薬剤
水
造粒機
集合コンベヤ
計量コンベヤ
飛灰成形設備
シュレッダーダスト
集積ヤード
Fi gu r e 10
4.
4.1
飛灰安定化処理設備
シャフト式 ASR ガス化 溶 融 炉
溶融飛灰
溶 融 飛 灰 の発 生 フロー
現在の我が国における一般廃棄物からの溶融飛灰の発生フローを、
F i g u r e 1 1 1 7 ) に 示 す 。 本 図 よ り 、 約 50 0 0 万 ト ン の 一 般 廃 棄 物 の う ち 、
3900 万 ト ン が 、 焼 却 又 は 溶 融 処 理 さ れ て い る 。 こ の う ち 、 一 般 廃 棄 物
の 直 接 溶 融 お よ び 焼 却 灰 の 灰 溶 融 処 理 量 は 6 00 万 ト ン と な っ て い る 。
溶融処理によって生成した溶融スラグについては土木資材として再利
用される。一方、生成ガス成分は冷却される過程で雰囲気に応じて、
塩化物や酸化物等種々の形態として凝縮し、物理的な飛散物質ととも
13
に集塵機で回収され、溶融飛灰として排出される。今、全ての一般廃
棄物が直接溶融又は焼却+灰溶融の複合処理によって溶融されると仮
定 す る と 、 そ の 発 生 量 は 、 約 30 万 ト ン に 達 す る と 推 定 さ れ る 。
一般廃棄物 s
埋 立
5000万t
その他中間処理
資 源 化
3900万t
排ガス処理設備
焼 却 設 備
焼却主灰 s
放気
焼却飛灰 s
600万t
溶 融 設 備
排ガス処理設備
溶融スラグ s
溶融飛灰 s
土木資材
Fi gur e 11
4.2
(1)
30万t
山元還元
一 般 廃 棄 物 か ら の溶 融 飛 灰 の 発 生 フ ロ
溶 融 飛 灰 の特 徴
重金属
溶融飛灰の特徴としては、高濃度の重金属を含有することが挙げら
れ る 。T a b l e 3 に 都 市 ご み 溶 融 飛 灰 な ら び に 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 の 性 状 の
一 例 を 示 す 。本 表 よ り 、溶 融 飛 灰 に 含 ま れ る 鉛 、亜 鉛 、銅 の 含 有 量 は 、
焼 却 飛 灰 の そ れ に 比 べ て 2 .5 ‐ 1 3 . 5 倍 程 多 く 含 ま れ て い る 。 カ ド ミ ウ
ム は 、 約 12 0 m g/k g と 焼 却 飛 灰 と 同 等 量 の 含 有 量 と な っ て い る 。
亜鉛や銅などは人間の必須元素である一方、過剰に摂取すると急性
中毒や代謝異常をもたらすことが知られている。また、鉛、カドミウ
ム 、水 銀 な ど は 非 必 須 元 素 で あ り 、Table 4 に 示 す よ う に カ ド ミ ウ ム に
よるイタイイタイ病、水銀の水俣病のように多くの健康被害をもたら
す
18),19)
。
14
T a b le 3
溶 融 飛 灰 およ び 焼 却 飛 灰 の 試 料 性 状 の 一 例
溶融飛灰
焼却飛灰
Pb
16,000
2,100
Zn
20,000
8,000
Cu
2,700
200
Fe
800
11,000
Cd
Ash
composition Ca
[mg/kg]
Na
120
100
130,000
264,000
166,000
21,000
K
77,000
30,000
Si
1,200
66,600
Al
400
33,200
Cl-
268,000
163,000
Table 4
重 金 属 の毒 性
重金属類
健康被害
欠乏症
亜鉛(Zn)
急性中毒(発熱・腹痛・嘔吐・下痢)
発育不全・貧血・脱毛
味覚障害・嗅覚障害
銅(Cu)
急性中毒(下痢・嘔吐)
肝硬変
動脈硬化・心筋梗塞
貧血・脳障害
鉛(Pb)
急性中毒(腹痛・貧血・神経痛)
脳障害
―――
カドミウム(Cd)
腎障害
イタイイタイ病
カルシウム代謝異常
―――
ヒ素(As)
粘膜障害・神経障害
皮膚がん・肺がん
―――
六価クロム(Cr)
鼻中隔穿孔症・肺がん
水銀(Hg)
アレルギー性皮膚炎
中枢神経障害
足尾銅山
鉱毒事件
森永砒素
ミルク事件
糖尿病
(但し三価クロム)
―――
水俣病
こ の た め 溶 融 飛 灰 は 、19 92 年 改 正 の 廃 棄 物 処 理 法 ( 廃 棄 物 の 処 理 及 び
清 掃 に 関 す る 法 律 ) に よ っ て 特 別 管 理 一 般 廃 棄 物 に 指 定 さ れ て い る 。溶
融飛灰は、後述の厚生労働大臣の指定する中間処理を行ない、かつ
Table 5 に 示 す 環 境 省 が 定 め る 溶 出 基 準
20)
に適合した上で、管理型処
分場に埋め立てることが義務付けられている。
15
T a b le 5
重 金 属 の溶 出 基 準 値
項目
環境庁告示13号
(排出基準値)
環境庁告示46号
(環境基準値)
カドミウム
0.3mg/L以下
0.01mg/L以下
鉛
0.3mg/L以下
0.01mg/L以下
六価クロム
1.5mg/L以下
0.05mg/L以下
砒素
0.3mg/L以下
0.01mg/L以下
総水銀
0.005mg/L以下
0.0005mg/L以下
アルキル水銀
検出されないこと
検出されないこと
銅
セレン
(2)
125mg/L(土壌)
0.3mg/L以下
0.01mg/L以下
ダイオキシン類
溶融飛灰には、微量のダイオキシン類が含まれている。これは溶融
炉の排ガス処理工程で完全燃焼しなかった未燃成分あるいはダイオキ
シンの前駆物質が、ガス温度の冷却過程中に塩化水素との反応により
ダイオキシンとして再合成するためである
21)
。
ダ イ オ キ シ ン 類 と は 、多 塩 素 化 ダ イ オ キ シ ン 類 ( PC DD s )な ら び に 多 塩
素 化 フ ラ ン 類 ( PC D Fs) の 総 称 で あ り 、こ れ ら の 物 質 は 極 め て 強 い 急 性 毒
性、発癌性、催奇形性などの有害性を有することから人類が作り出し
た史上最強の猛毒物質と言われている
22),23)
。このため我が国でも
Table 6 に 示 す ダ イ オ キ シ ン 類 の 排 出 基 準 お よ び 土 壌 環 境 基 準 値 を 定
めて規制をおこなっている
24)
。溶融飛灰中のダイオキシン類含有量が
排出基準以上の場合には、含有重金属の処理に加えてダイオキシン類
の分解処理をおこなう必要がある。現在、おもに用いられている分解
装 置 と し て は 、F i g u r e 1 2 に 示 す 加 熱 脱 塩 素 方 式 な ら び に ハ ー ゲ ン マ イ
ヤ ー 方 式 が あ げ ら れ る 。 こ れ ら は 、 い ず れ も 低 酸 素 濃 度 気 流 中 で 62 3
‐ 8 2 3 K に 加 熱 す る こ と に よ り 90 ‐ 1 00 % の 分 解 率 が 得 ら れ る こ と が 知
られている
25)
。
16
T a b le 6
項目
重 金 属 の溶 出 基 準 値
排出基準値
土壌環境基準値
ダイオキシン 3 ng-TEQ/g
1000 pg-TEQ/g
架橋切断
脱塩素化
加熱脱塩素方式
Clx
脱塩素化
O
O
Cly
ダイオキシン
加熱脱塩素方式(参考例「三井飛灰処理システム」)
ハーゲンマイヤー方式
(参考例「日立造船ダイオキシン熱分解設備」)
加熱温度:400~500℃
炉内酸素濃度:3~8%
加熱時間:5~10分
分解率:98.0%
Fi gur e 12
4.3
加熱温度:300~450℃
炉内酸素濃度:1~2%
加熱時間:60分
分解率:99.7%
溶 融 飛 灰 中 の ダ イ オ キシ ン 類 の 処 理 方 法
溶 融 飛 灰 の処 理 方 法
厚生労働大臣の指定する溶融飛灰の処理方法として、溶融固化、セ
メ ン ト 固 化 、 薬 剤 処 理 、 溶 媒 抽 出 の 4 つ の 方 法 が 厚 生 省 告 示 第 19 4 号
に挙げられている。それぞれの処理法の概要ならびに特徴を以下に示
す。
(1) 溶融固化
26)-28)
溶融固化とは、高温条件下で有機物を分解しながら、シリカ、アル
ミナなどの無機物をガラス質のスラグとして取り出す方法である。溶
融固化してできたスラグが微視的には網目構造になっており、重金属
はこの網目構造中に取り込まれるため、溶出防止ができる。しかしな
が ら 、 溶 融 飛 灰 の 場 合 、 T a b le 3 の 溶 融 飛 灰 の 試 料 性 状 よ り 、 主 成 分 は
ナトリウム、カリウムおよびカルシウムなどのアルカリ金属、ならび
に鉛、亜鉛などの低沸点重金属によって構成されるため、現在、この
方法での溶融飛灰の処理は、ほとんど行なわれていない。
17
(2) セメント固化
29)-31)
セメント固化法とは、飛灰を常温でセメントおよび水と共に混練す
ることによって、セメント成形体中に飛灰を閉じ込める方法である。
この方法は、処理操作が簡易かつ経済的であることから古くから有害
廃棄物の固化法として用いられてきた。しかしながら、この方法は外
部との重金属の接触面積を減少させることによる物理的な封止である
ため、重金属の溶出抑制効果が他の方法に比べて弱いという短所を有
している。
(3) 薬剤処理
32)-36)
薬 剤 処 理 法 と は 、 液 体 キ レ ー ト 剤 (主 に ジ チ オ カ ル バ ミ ン 酸 系 化 合
物 ) と 飛 灰 を 常 温 で 混 練 す る こ と に よ っ て 、飛 灰 中 の 重 金 属 を 不 溶 化 さ
せる方法である。一般に、重金属の封止効果が高いとされているが、
キレート処理灰の長期的な重金属溶出抑制効果については、さらなる
調査が必要であるとされている。現在使用しているキレート剤のほと
ん ど が 、 催 奇 形 性 を 有 す る 二 硫 化 炭 素 を 発 生 さ せ る た め 、 2 00 2 年 2 月
に厚生労働省より、施設の改善もしくは薬剤の変更などによる安全策
を講じるように起案書が通達されている。
(4) 溶媒抽出法
37),38)
溶媒抽出法とは、主に硫酸や硝酸などの酸を用いて、飛灰中の重金
属をいったん溶出させ、硫化ナトリウム、キレート剤などの薬剤を添
加することによって不溶化し、捕捉する方法である。この方法では、
溶 出 液 の pH 調 節 を し な が ら 薬 剤 を 添 加 す る こ と で 金 属 ご と に 分 離 回 収
できるというメリットがある。しかしながら、現段階では回収金属に
比べ、設備の運転および排水処理コストが非常に高いという短所があ
り、実用化には至っていない。
18
4.4
溶 融 飛 灰 中 重 金 属 の資 源 的 価 値
現在行われている溶融飛灰の中間処理は、重金属やダイオキシン類
などの有害成分の環境への曝露を防止する技術がほとんどである。資
源循環型の社会経済システムへの転換が進む中で、溶融飛灰を資源価
値 の 観 点 か ら 見 直 す 試 み が 進 め ら れ て い る 。Tab le 3 に 示 し た 溶 融 飛 灰
中 に は 、T a b l e 7 に 示 す よ う に 資 源 の 可 採 年 数 の 少 な い も の が 含 ま れ て
い る 。例 え ば 溶 融 飛 灰 中 に 鉛 は 平 均 2 % 含 ま れ て い る が 、こ れ は 鉛 鉱 石
に 比 べ て 約 3 倍 高 い 値 で あ る 。さ ら に 日 本 で 排 出 さ れ る 焼 却 灰( 主 灰 、
飛灰)すべてを溶融したとき、発生する溶融飛灰から全ての鉛および
亜鉛が山元還元されるものと仮定すると、その年間再生量は亜鉛で約
2 2, 00 0t / 年 、鉛 で 約 9 , 0 0 0 t / 年 と な り
17)
、鉛 、亜 鉛 の 国 内 内 需 の 約 2 %
に匹敵する量となる。これら溶融飛灰の発生源が廃棄物処理施設であ
る こ と か ら 、こ れ を 資 源 枯 渇 の な い 小 さ な 鉱 山 と み な す こ と が で き る 。
金属資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている我が国において
資源の有効利用、環境への負荷の低減を考慮しつつ、資源循環社会を
構築するためには、安定した金属リサイクルシステムを確立していく
ことが必須であり、廃棄物中の金属の資源化・再利用のための技術開
発は極めて意義のあることと考えられる。そのようなことから溶融飛
灰を単なる有害廃棄物とするのではなく、有価物として含有重金属の
リサイクルを推し進めることは重要であり、さまざまな重金属分離技
術が研究され、実用化の検討が行われている。
T a b le 7
金 属 資 源 の可 採 年 数
金属
資源
生産量
[106t/年]
可採
年数[年]
リサイクル
率[%]
Fe
982
67
37.6
Al
13.0
192
55.2
Cr
11.7
116
27
Cu
9.0
39
46.5
Zn
7.3
20
13.2
Ti
6.5
27
50
Pb
3.3
21
31.8
Ni
0.872
56
81
Sb
0.211
20
8.3
19
5. 溶 融 飛 灰 からの重 金 属 回 収 方 法
溶融飛灰から重金属を分離・再資源化する方法は、従来から非鉄製
錬分野で用いられてきた既存のプロセスを適用することが考えられて
いる。非鉄製錬技術のプロセスは、電気化学を基礎とする湿式プロセ
スと化学熱力学を基礎とする乾式プロセスに大別され、各研究機関で
研究が進められている。
5.1 湿 式 処 理
湿式法は、目的金属を適当な溶媒に浸出・分離精製して目的金属イ
オンを含む溶液をつくり、化学的・電気化学的方法で還元または化合
物として析出沈殿させる方法であり、浸出・溶解法、中和沈殿法、硫
化物沈殿法、セメンテーション法、溶媒抽出法がある。
処理プロセスの設計が容易であり、かつ重金属の高純度回収が可能
で あ る こ と か ら 、 JFE ス チ ー ル 株 式 会 社 の 水 洗 プ ロ セ ス
株 式 会 社 の AE R プ ロ セ ス
38)
39)
、ユニチカ
、株 式 会 社 神 戸 製 鋼 所 の 酸 浸 出 プ ロ セ ス
同 和 鉱 業 株 式 会 社 の MRG プ ロ セ ス
41)
40)
、
など、様々な湿式プロセスが検討
されている。
一例として、株式会社神戸製鋼所が開発した溶融飛灰の金属回収プ
ロ セ ス を Figure 13 に 示 す 。 本 プ ロ セ ス で は 、 ま ず 溶 融 飛 灰 を 塩 酸 で
浸出して、亜鉛、鉛、銅などを浸出液に移行させる。つぎに、浸出液
を 特 定 p H に お い て 水 硫 化 ソ ー ダ ( NaH S ) を 加 え る 操 作 を 段 階 的 に 実 施
して、亜鉛、鉛、銅の硫化物を個別に析出させることで分離回収を行
っている。
最近では、溶融飛灰中の重金属形態
42)
に対して最適な逐次抽出法を
適応することにより重金属の回収を行なう方法
43)
や、重金属回収後の
残渣についてもセメント材料として用いることで廃棄物のゼロエミッ
ションを目指した研究が行なわれている
44)
。
湿 式 法 の 課 題 と し て は 、i) 浸 出 後 に 発 生 す る 残 渣 や 廃 酸 ・ 廃 液 の 処
理などのため処理プロセスが複雑になり、ランニングコストがかかる
8)
、 i i ) 生 産 性 が 低 い 、 ii i) 飛 灰 中 の ダ イ オ キ シ ン 類 の 事 前 除 去 を 行
20
う必要があるなどが挙げられる。
Fi gu r e 1 3
溶 融 飛 灰 の金 属 回 収 プロセスの一 例
5.2 乾 式 処 理
乾式処理では、有価金属を含む原料から熱エネルギを利用して高温
下で目的金属を化学反応させて、分離・回収する方法であり、還元揮
発
45)
、熱プラズマ
46)
、真空揮発
47)
および塩化揮発
48)
などの方法が検
討されている。
乾式処理の特徴として、湿式処理に比べてプロセスがシンプルであ
ることや、ダイオキシン類などの有害な有機塩素化合物を分解できる
ことが挙げられる。乾式処理は、比較的設備建設費が高くなるため、
処理規模を大きくすることで経済性をとる傾向にある。
5.2.1 塩 化 揮 発 法
飛灰からの重金属回収プロセスとしては、塩化揮発法による報告が
多くなされている
48)-62)
。 そ の 理 由 と し て 、高 沸 点 の 金 属 を 低 沸 点 の 塩
化物として揮発除去するため、比較的低温度かつ低エネルギ負荷で重
金 属 分 離 が 可 能 と な る こ と 、 元 来 、 粗 鋼 か ら の Cu 、 Zn 、 Cd な ど の 重 金
属成分の分離に用いられてきた実績ある技術
21
48),49)
であることなどが
挙げられる。この技術による重金属回収の実プロセスとして光和プロ
セス
56)
がある。
F i g u r e 1 4 に 光 和 プ ロ セ ス の 操 業 系 統 図 を 示 す 。本 プ ロ セ ス は 造 粒 工
程、塩化揮発焼成工程、ガス洗浄工程および液処理工程の四工程から
構成される。まず鉛、亜鉛および鉄を含む固体廃棄物に塩化カルシウ
ム液を混合してペレット状にした上で高温焼成する。次にペレットを
ロ ー タ リ キ ル ン に 装 入 し 、 最 高 14 7 3‐ 15 23 K で 加 熱 す る こ と に よ り 、
鉛、亜鉛は、ペレットから金属塩化物として揮発し、ペレットは純化
され且つ高温で焼成硬化されて製鉄用高炉の鉄原料となる。ガス洗浄
工程では、金属塩化物蒸気を水で冷却、捕集、溶解し、液処理工程で
は液中に溶解した鉛、亜鉛その他有価元素を分別しながら回収し、回
収物は製錬原料として其々の山元に還元する。
Fi gur e 14
光 和 プロセスの操 業 系 統 図
光和プロセスの課題としては、設備の耐塩素化対策が必要であるこ
と、処理規模が大きいため全国から溶融飛灰を確保する必要があるこ
22
となどが挙げられる。現状では、溶融飛灰に含まれる重金属は複雑な
化学的形態で存在すること
42)
、溶融飛灰は多種の重金属以外の化合物
を含有していることなどが起因して、溶融飛灰単独での操業は達成し
ていない
56)
。
5.2.2 真 空 精 錬 法
金属の高純度精錬においては、古くから真空精錬法がある
63)
。この
方法では、還元、蒸留、熱分解等の精錬反応を真空中で行なうことに
より、常圧では揮発しにくい金属を、低温・短時間でかつ高純度に分
離が可能となる
64)
。従来の乾式法に比べて小さな生産規模から経済的
採算点を見出すことができる。真空精錬法の課題としては、現在のと
ころ1回ごとに原料を充填するいわゆるバッチ運転を余儀なくされて
いることにある。現在、大容量の溶鋼に対する真空精錬法としては、
吸 上 げ 式 真 空 精 錬 法 で あ る R H( R hei ns ta h lun d He r aeu s ) 法 お よ び D H
( D o r t m u nd Ho rd e r) 法 が 主 流 と な っ て い る
65),66)
。 Figure 15 に RH 法
お よ び DH 法 の 基 本 構 成 を 示 す 。
RH 法 で は 、 2 本 の 浸 漬 管 を 使 用 し 、 気 泡 ポ ン プ の 原 理 を 用 い て 溶 鋼
を還流させることにより、真空槽内に噴流として吸入された溶鋼は、
Ar 吹 込 み ガ ス の 放 出 に よ り 微 粒 滴 と な り 表 面 積 を 増 し て 飛 散 し 、 こ の
間 に 各 種 脱 ガ ス 反 応 を 行 な う 方 法 で あ る 。 一 方 、 DH 法 は 、 真 空 槽 下 部
に 設 け た 1 本 の 吸 上 げ 管 に よ り 取 鍋 内 溶 鋼 を ほ ぼ 15 秒 / 回 の サ イ ク ル
で真空槽内へ吸上げ・放出を繰り返すものである。これらの方法によ
り 、 溶 鋼 中 の C な ら び に N 濃 度 を 1 0pp m 程 度 ま で 低 減 す る こ と が 可 能
である。
一方、真空精錬法を用いた微量重金属の揮発分離に関する研究とし
ては、溶銅中の亜鉛、鉛の減圧下での蒸発速度の研究
銅、マンガン、クロムの揮発除去
69)
、脱亜鉛
70)
68)
、溶鉄からの
、および鉛精錬における乾式脱銀
などが報告されている。
23
67)
(b) DH法
(a) RH法
Fi gu r e 1 5
R H 法 なら び に D H 法 の 基 本 構 成
5.3 エネルギミニマム型 の金 属 資 源 回 生 処 理 の指 針
Table 7 に 示 し た よ う に 、 鉛 、 亜 鉛 、 銅 の 残 余 年 数 は 、 30 年 前 の オ
イ ル シ ョ ッ ク の 頃 か ら そ の 枯 渇 が 騒 が れ て い る 石 油 の 残 余 年 数 40 年 に
匹敵する。地球の持つ能力以上に天然資源の利用を増やすことなく、
世界全体の人々の生活を質的に向上させるという持続可能な開発は、
今世紀における世界共通の課題である。したがって、埋立が一連の廃
棄物処理の終端であるという現在の大量生産・消費・廃棄型社会にお
ける思想を根本的に覆し、持続可能な開発へ思想転換を図ることが、
今後、廃棄物処理分野において必須とされると確信する。
資源循環型社会を実現する上で、それに投じるエネルギも最小限と
する必要がある。本章の冒頭でも述べたように、我が国の資源採取率
が多くなっている内訳には、エネルギ資源も含まれている。エネルギ
資源は、利用した後の再資源化ができない。前述の重金属の乾式回収
プロセスの中には、真空精錬法のような、常圧では揮発しにくい金属
24
を、低温・短時間で分離が可能となるものも存在する。しかし、いず
れも大規模プラントを用いたエネルギ多消費型となっており、次世代
のエネルギミニマム型の処理技術とは言いがたい。
6.
6.1
塩 化 揮 発 /減 圧 加 熱 の組 合 せ処 理 による重 金 属 揮 発 分 離 の提 案
本 研 究 の目 的
そこで本研究では、従来のエネルギ多消費型の重金属乾式回収プロ
セスからの脱却を目指して、従来の塩化揮発法の発展形として、減圧
加 熱 を 組 み 合 わ せ た 減 圧 塩 化 揮 発 法 を 提 案 し た 。従 来 の 塩 化 揮 発 法 は 、
低 温 で の 重 金 属 分 離 が 可 能 で あ る 利 点 を 有 す る が 、 処 理 時 間 が 約 3‐ 4
h と 長 い こ と に 起 因 し て 、エ ネ ル ギ ・ロ ス が 大 き い 等 の 問 題 点 が あ っ た 。
さらに乾式での重金属の個別分離はできず、重金属は一旦すべて塩化
揮発させ、ガス洗浄工程で溶液中に捕集した後、湿式処理によって重
金 属 の 個 別 分 離 を 行 な っ て い た 。本 提 案 法 で は 、塩 化 揮 発 法 に 対 し て 、
低温・短時間でかつ高純度に分離が可能となる減圧加熱を組み合わせ
ることにより、塩化揮発法の欠点を克服し、より省エネルギでの重金
属の揮発分離が期待できる。さらに、重金属の揮発速度の差を利用し
て多段で減圧加熱操作をおこなうことにより、乾式での重金属の選択
的回収ができ、湿式処理が不要となるなどの効果が期待できる。
本研究では、この減圧塩化揮発法を溶融飛灰に適応させ、含有する
高 濃 度 の 多 成 分 重 金 属( P b 、Z n、C u 等 )の 高 効 率 分 離 ・回 収 を 目 指 し た 。
具 体 的 に は 、 溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属 は 共 存 す る 無 機 塩 化 物 ( N aC l 、 K Cl 、
C a C l 2 等 )、 あ る い は 廃 塩 酸 、 塩 素 系 廃 プ ラ ス チ ッ ク か ら 供 給 さ れ る Cl
元素を有効利用して低沸点金属塩化物に変換する。次に、得られた金
属塩化物に対して減圧加熱下での揮発特性を定量的に把握することで
重 金 属 の 最 適 な 乾 式 個 別 分 離 指 針 を 得 る 。 本 研 究 で は ま ず 、 ( 1 )塩 素 化
剤ごとに重金属塩化物の生成条件ならびに固体廃棄物中の共存成分の
影 響 等 を 基 礎 観 点 か ら 明 ら か に し 、 つ ぎ に 、 (2) 試 作 の 減 圧 塩 化 揮 発 装
置を用いて溶融飛灰中重金属塩化物を効率的に分離・回収するための
実証試験を行った。
25
6.2
本 提 案 法 の基 本 概 念
減 圧 塩 化 揮 発 法 に よ る 金 属 資 源 回 収 プ ロ セ ス を Figure 16 に 示 す 。
本提案法は、塩素化プロセスと減圧加熱プロセスより構成される。塩
素化プロセスでは、塩素化剤を用いて溶融飛灰中の重金属を低沸点の
金属塩化物とすることにより、より低い温度での揮発分離が可能とな
る 。 こ の と き に 使 用 す る 塩 素 化 剤 と し て は 、 i) 塩 化 水 素 ガ ス 、 ii ) 廃
塩 酸 、i i i )溶 融 飛 灰 に 元 々 含 有 す る 無 機 塩 素 化 合 物( N a C l 、 K C l 、 C a C l 2 )
な ど の 廃 棄 Cl 源 を 有 効 利 用 す る こ と が で き る 。次 に 、減 圧 加 熱 プ ロ セ
スでは、重金属の揮発は、系の圧力と金属の蒸気圧の差を駆動力とし
て進行するため、減圧条件下ではより短期間での揮発が可能となり、
より省エネルギでの重金属の揮発分離ができる。さらに重金属の揮発
速度の差が最も大きくなる減圧加熱条件で処理を行なうことにより、
重金属の個別分離が期待できる。
資源循環利用
省エネルギー
Cl系廃材
Cl系廃材
減圧加熱部
重金属塩化物
(低沸点揮発
低沸点揮発)
減圧揮発
(揮発速度向上
揮発速度向上)
廃塩酸、無機塩素化合物
塩素系廃プラスチック(PVC)
塩酸
重金属塩化物
PVC
塩化反応
難処理性固体残渣類
回収部
PbCl2 PbCl2
m.p.501℃
減圧
焼却飛灰、溶融飛灰、
ASR、各種めっきスラッジなど
(Cu, Pb, Zn, Cd, Ni, Cr)
PbCl2
CuCl CuCl
m.p.430℃
Cu
Zn Cd
Pb
投入
CuCl
ZnCl2
環境保全
重金属、
ダイオキシン フリー
(埋立ゼロ,リサイクル
埋立ゼロ,リサイクル)
Fi gur e 16
CuCl
ZnCl2
重金属資源回収
(個別分離
個別分離)
(再資源化
再資源化)
PbCl2
ZnCl2 ZnCl2
m.p.283℃
無害化残渣
減 圧 塩 化 揮 発 法 によ る 金 属 資 源 回 生 プ ロ セ ス
26
6.3
本 提 案 法 の特 徴
本 提 案 法 は 、我 が 国 で 生 み 出 さ れ た 金 属 精 錬 の 革 新 的 技 術 で あ る「 塩
化揮発法」を固体廃棄物からの金属分離に応用したものである。従来
の 塩 化 揮 発 法 で は 、 常 圧 下 、 1 52 3 K の 条 件 で 重 金 属 の 塩 素 化 反 応 お よ
び揮発分離をおこなっているが、処理時間が長いことに起因して、エ
ネ ル ギ ・ロ ス が 大 き い 等 の 課 題 を 有 し て い る 。一 方 、本 提 案 法 は 固 体 廃
棄物にあらかじめ塩素化剤を添加させ、重金属の塩化物化を行わせる
ことによって操作時間の短縮と装置腐食および環境負荷を最大限低減
することが可能となる。さらに、重金属塩化物は減圧加熱下で揮発さ
せることにより、従来の塩化揮発法に比べて低温度、短時間、小規模
設備での揮発分離が可能となるとともに、重金属の揮発速度の差を利
用して重金属の選択的回収が可能となる。本法は回分式加熱処理を基
本としているため、飛灰中に含まれるダイオキシン類の分解にも有効
であることが期待される。
さ ら に 本 法 は 、金 属 を 含 む 溶 融 飛 灰 と 廃 塩 酸 等 の C l 化 合 物 を 含 む 廃
棄物との組み合わせによって両者を互いに無害化あるいは再資源化す
ることが可能であり、基本的にはバージン資源を必要としない。この
よ う に 廃 棄 物 を 組 み 合 わ せ た 「 資 源 ・エ ネ ル ギ ミ ニ マ ム 」 に 基 づ く 廃 棄
物の適正処理は環境負荷の極小化を目指す革新技術であり、本技術の
実用化によって埋立処分量を大幅に削減することが可能となる。
7.
本 研 究 の概 要
本研究は資源・環境の両面から多種の金属を高濃度で含む溶融飛灰
を 「 エ ネ ル ギ ・ミ ニ マ ム 」 処 理 に よ っ て 金 属 を 効 率 的 に 分 離 回 収 ・ 再 資
源化を可能とする資源循環型社会の早期実現に不可欠な固体廃棄物の
適正処理技術の確立を目指す。
27
塩素化反応の検討
処理対象物
含有NaCl, KCl,
CaCl2の影響
HClガス
難処理固体
廃棄物
◆飛灰種の検討
都市ごみ焼却飛灰、
溶融飛灰
Cu
Cd
Zn
Pb
含有未燃炭素
の影響 含有塩素
排ガス
利用
序章
第1章
既存の金属回収
プロセスとの比較
◆酸抽出法
◆溶媒抽出法
◆還元揮発
◆塩化揮発
減圧加熱による揮発促進
◆揮発速度差
による個別分離
有効利用
第2章
第3、4章
塩酸
◆含有Ca分の影響
Ca(OH)2, CaCl2
溶融飛灰
塩酸
重金属塩化物
の揮発速度
廃塩酸
利用
第5章 第6章
重金属の塩化
揮発促進
終章
有価資源の
個別回収、
再資源化
◆溶融飛灰
PbCl2、ZnCl2、
CuCl
Zn
Pb
Cu
Fi gur e 17
減 圧 塩 化 揮 発 プ ロ セ ス 構 築 の た め の本 研 究 の課 題
Figure 17 に 減 圧 塩 化 揮 発 プ ロ セ ス 構 築 の た め の 本 研 究 の 課 題 を 示 す 。
本研究での検討課題は大別して以下の2項目に集約される。
( i) 廃 棄 物 中 Cl 源 、 廃 塩 酸 な ど の 各 種 塩 素 化 剤 に よ る 金 属 塩 化 物
の生成挙動の把握
( ii) 減 圧 下 で の 重 金 属 塩 化 物 の 高 効 率 分 離 ・ 回 収 の 検 討
本研究では、まず各種塩素化剤による金属塩化物の生成挙動の把握
と し て 、 第 1 章 で は 、 H Cl ガ ス 流 通 下 で の 溶 融 飛 灰 中 の 鉛 、 亜 鉛 、 銅 、
鉄の揮発挙動を調べ、都市ごみ焼却飛灰中重金属の塩化揮発特性との
比較を行なった。第2章では、常温での塩素化反応ができる塩素化剤
として塩酸を用いたときの溶融飛灰中重金属の塩化揮発を調べ、含有
カ ル シ ウ ム が 及 ぼ す 影 響 を 検 討 し た 。第 3 章 で は 、溶 融 飛 灰 由 来 の Na C l、
KCl、 CaCl2 を 利 用 す る 重 金 属 の 塩 化 揮 発 に つ い て 検 討 し た 。 溶 融 飛 灰
中 に は 、 塩 素 化 剤 で あ る N a Cl 、 KC l 、 C aC l 2 と 還 元 剤 で あ る 未 燃 炭 素 が
共存していることから、第4章では、溶融飛灰中重金属の塩化揮発に
及ぼす未燃炭素の影響について検討した。
一方、減圧下での重金属塩化物の高効率分離・回収として、まず、
28
減圧条件下での溶融飛灰からの鉛、亜鉛、銅の塩化揮発促進効果を第
5章で検討した。減圧塩化揮発法では、多段の減圧加熱操作により重
金属の揮発速度差を利用した金属の選択的分離が期待できる。そこで
第 6 章 で は 、 P bC l 2 、 Z n C l 2 お よ び C uC l の 揮 発 速 度 を 、 単 位 時 間 、 単 位
面積あたりの揮発量が、揮発速度定数に比例すると仮定した見かけ揮
発速度式を用いて整理し、溶融飛灰からの重金属の最適な揮発分離指
針を求めた。
以下に各章の概要を示した。
第1章では、塩素化剤として塩化水素ガスを用いて、溶融飛灰に含
まれる鉛、亜鉛、銅、鉄などの重金属を低沸点塩化物とした後、揮発
分離することを試みた。実験では都市ごみ溶融飛灰ならびに都市ごみ
焼 却 飛 灰 を 用 い て 、 反 応 温 度 11 73 K の 下 で 反 応 保 持 時 間 お よ び 塩 化 水
素濃度をパラメータとして変化させ、飛灰に含まれる鉛、亜鉛、銅お
よび鉄の揮発挙動を検討した。これらの重金属の揮発実験結果に基づ
いて、都市ごみ溶融飛灰と都市ごみ焼却飛灰に含有される重金属の塩
化揮発特性を比較検討した。
第2章では、常温での塩素化反応ができる塩酸を利用し、塩酸含浸
に よ り 飛 灰 中 重 金 属 を 直 接 塩 素 化 あ る い は 含 有 カ ル シ ウ ム の C a Cl 2 生 成
を介して塩化することによって、重金属の揮発分離特性を検討した。
具体的には、試薬からなる模擬飛灰を用い、模擬飛灰中のカルシウム
含有量と塩酸添加量が重金属の塩化揮発挙動に及ぼす影響を検討した。
次に、カルシウム含有量の異なる溶融飛灰を用いて塩酸添加・加熱実
験を行い、模擬飛灰にて得られた重金属の揮発挙動と比較し、併せて
考察を行った。
第 3 章 で は 、溶 融 飛 灰 に 元 々 含 ま れ て い る 塩 素 化 剤 と し て Na C l、KCl、
C a C l 2 が 重 金 属 の 塩 化 揮 発 挙 動 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 検 討 し た 。具 体 的
に は 、 N a C l 、 K C l お よ び C a C l 2 が 、PbO 、Z n O お よ び C uO 等 の 重 金 属 酸 化
29
物の塩化揮発挙動に及ぼす影響について調べるために、重金属酸化物
に 対 し て NaCl、 KCl、 CaCl2 を 個 々 に 含 有 さ せ た 模 擬 飛 灰 を 用 い て 実 験
を行った。さらにいくつかの実溶融飛灰を用いて実験を行い、溶融飛
灰に含まれる無機塩素化合物ならびにその他の灰成分が重金属の揮発
挙動に及ぼす影響について検討を行った。
第4章では、第3章の研究結果を踏まえて、無機塩素化合物による
重金属の塩化揮発に及ぼす含有未燃炭素の影響を検討した。具体的に
は、含有未燃炭素量の異なる計6種類の溶融飛灰を試料に選び、未燃
炭素量と鉛、亜鉛および銅の揮発率との関係、および揮発回収物、固
体反応残渣中に存在する金属化合物の X 線回折分析結果より、溶融飛
灰中の重金属酸化物の塩化あるいは還元反応とこれに起因する鉛、亜
鉛、銅の揮発挙動を調べた。
第5章では、減圧塩化揮発装置を用いて実溶融飛灰中の金属塩化物
の揮発促進効果の発現範囲と減圧加熱条件との関係を検討した。具体
的には、塩素化剤として塩酸を用いて重金属の塩素化処理をおこなっ
た 溶 融 飛 灰 に 対 し て 加 熱 温 度 ( 1 12 3 K 、 97 3 K、 87 3 K :金 属 塩 化 物 融 点
以 上 ) な ら び に 減 圧 度 ( 1 . 3 k Pa ‐ 1 0 1.3 kPa ) を 変 化 さ せ た 条 件 下 で の 実
験を行った。得られた結果について、便宜上、減圧下における塩化金
属の飽和蒸気圧と気相中の塩化金属分圧との差を指標に用いて考察を
行った。
第6章では、減圧条件下における溶融飛灰中重金属塩化物の揮発速
度 を 調 べ る た め に 、 P bC l 2 、 Z nC l 2 お よ び C u C l 試 薬 を 用 い 、 単 位 時 間 、
単位面積あたりの揮発量が、揮発速度定数 K に比例すると仮定した見
か け 揮 発 速 度 式 を 用 い て 整 理 し た 。実 験 で 得 ら れ た P bCl 2 、Zn C l 2 、Cu Cl
の揮発速度と本揮発速度式から得られた推算値との比較を行い、本揮
発 速 度 式 の 妥 当 性 に つ い て 調 べ た 。 さ ら に 得 ら れ た 速 度 式 か ら PbCl2、
Z n C l 2 お よ び Cu C l の 最 適 な 揮 発 分 離 指 針 を 検 討 し た 。
30
終章では、1‐6章の結果をまとめ、次世代型の飛灰適正処理とし
ての本提案処理法の有効性、さらに今後の展望について述べる。
8. 参 考 文 献
1)
G re e n p e a c e J a p a n : グ リ ー ン ピ ー ス に よ る ヨ ハ ネ ス ブ ル グ ・ サ ミ
ッ ト の 成 績 表 , h t tp: // ww w .gr ee np e ace .o r. j p/c am pa g in/
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2)
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持続可
能 な 開 発 と は 何 か , h t t p : / /ww w. un i c.o r. jp / jo ha nn e s/
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3)
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5)
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年 度 実 績 )に つ い て , 平 成 1 7 年 1 1 月 8 日 付 ( 2 0 05)
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34
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illustrated
by
the
vacuum
distillation
of
zinc
from
lead–Theoretical, Vacuum, Vol.12, No.2, pp.83-95 (1962)
36
第1章
Volatilization ratio [%]
100
80
60
Pb
Zn
Fe
Cu
40
20
0
0
20
60
40
80
Hold time [min]
100
120
第 1 章 で は 、HC l ガ ス 流 通 下 で の 溶 融 飛 灰 、都 市
ごみ焼却飛灰からの鉛、亜鉛、銅、鉄の揮発挙動
を 比 較 検 討 し た 。 そ の 結 果 、 反 応 温 度 117 3 K に お
い て 鉛 、亜 鉛 は 飛 灰 種 に 関 係 な く ほ ぼ 10 0 % の 揮 発
率となった。また銅は、いずれの飛灰でも低い揮
発率を示した。一方、鉄は揮発率に相違が見られ、
溶融飛灰、都市ごみ焼却飛灰からの鉄揮発率は、
そ れ ぞ れ 85 % 、 100 % と な っ た 。
37
第 1章 飛 灰 に含 有 される重 金 属 の塩 素 化 反 応 による乾 式 分 離 特 性
1.1 緒 言
現在の都市ごみ焼却飛灰およびそれらを溶融固化処理した際に生じ
る溶融飛灰などは、含有される重金属の環境流出を抑制するために、
薬剤処理法などを用いて安定化処理が行われている。一般に、薬剤処
理 法 は 、「 セ メ ン ト 固 化 法 」、「 溶 融 固 化 法 」 お よ び 「 酸 抽 出 法 」 に 比 べ
て設備費および処理コストが安価であるといわれている
1)
。しかし、
1 00 ト ン / 日 規 模 の 都 市 ご み 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ る 焼 却 灰 の 処 理 に は 、
年間数千万円程度の処理コストがかかると推算される。埋立処分場に
おける処理済飛灰の長期安定性についても十分な知見が得られていな
いのが現状である
1)
。とくに溶融飛灰には、都市ごみ焼却飛灰に比べ
て高濃度の鉛が含まれているため、現在の薬剤処理法では、溶融固化
処理に占める薬剤処理費用の割合が高くなる。
一 方 、溶 融 飛 灰 に 含 ま れ る 重 金 属 を 再 資 源 化 す る た め の 研 究 が 行 わ れ
ており、現在、おもに酸抽出処理などの湿式法が考えられている。湿
式法は処理プロセスの設計が容易であり、かつ重金属の高純度回収が
可能であることから最近とくに研究が進み、実用段階に向けた検討が
行われている
2)-5)
。しかし湿式法は処理プロセスが複雑であり、薬剤
コストが高くなること
6)
、ならびに飛灰に含まれるダイオキシンの事
前除去を行う必要があるなどの課題が残る。
一 方 、乾 式 法 を 用 い る 重 金 属 処 理 に 対 し て は 、還 元 揮 発
ズマ
8)
、真空揮発
9)
7)
、R F 熱 プ ラ
および塩化揮発などの方法が検討されている。と
くに塩化揮発法は、高沸点の金属を低沸点の塩化物として揮発除去す
るため、比較的低温度かつ低エネルギ負荷で重金属分離が可能となる
こ と 、な ら び に 微 量 成 分 の 揮 発 に 適 し て い る と い う 利 点 が あ る 。近 年 、
この方法を用いて、都市ごみ焼却飛灰から重金属を回収する研究が行
わ れ て お り 、H C l ガ ス お よ び Ca Cl 2 に よ る 重 金 属 酸 化 物 の 塩 化 揮 発 反 応
機構の速度論的考察
揮発反応特性
11-14)
10)
、種々の塩化剤による都市ごみ焼却飛灰の塩化
、 C a C l 2 、 S iO 2 添 加 に よ る 模 擬 飛 灰 か ら の 鉛 と 亜 鉛 の
38
回収
15)
、塩 化 ビ ニ ル に よ る 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 含 有 重 金 属 の 除 去
16)
など
が行われている。塩化揮発法を用いた実用プロセスとしては、現在、
硫酸焼鉱から有価物を回収することを目的に開発された光和法が中間
廃棄物処理プロセスとして、廃棄物に含まれる重金属の回収に用いら
れている
17),18)
。
こ の よ う に 塩 化 揮 発 法 に 関 し て は 、都 市 ご み 焼 却 飛 灰 を 対 象 と し て 行
った研究例は数多いが、都市ごみ溶融設備より排出される溶融飛灰か
ら重金属を分離した例はほとんど見当たらない。溶融飛灰は、溶融方
式 に よ っ て 最 大 2 000 K 程 度 の 熱 履 歴 を 受 け る こ と 、 な ら び に 都 市 ご み
焼却飛灰に比べて飛灰組成および化合物形態が大きく異なるため、都
市ごみ焼却飛灰あるいはその他の飛灰との塩素化反応挙動が異なるこ
とが予測される。
そ こ で 本 研 究 で は 、都 市 ご み 溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属 の 乾 式 分 離 回 収 を 目
的 と し て 、HC l ガ ス を 用 い て 都 市 ご み 溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属 を 塩 素 化 反 応
させ、金属塩化物の形で揮発分離することを試みた。実験は都市ごみ
溶 融 飛 灰 な ら び に 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 を 用 い て 、 反 応 温 度 11 73 K の 下 で
保 持 時 間 お よ び H Cl ガ ス 濃 度 を パ ラ メ ー タ と し て 変 化 さ せ 、 飛 灰 中 の
鉄、銅、鉛および亜鉛の揮発挙動を検討した。これらの重金属の揮発
実験結果に基づいて、都市ごみ溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰中の
重金属の塩化揮発特性について比較検討を行った。
実飛灰の生成過程で受ける熱履歴ならびに含有無機塩素化合物が溶
融飛灰中重金属の塩化揮発挙動に及ぼす影響を基礎的に検討するため、
模 擬 飛 灰 を 用 い て 試 料 の 調 製 温 度 お よ び Na C l、 KCl の 添 加 量 を 変 化 さ
せたときの重金属の揮発挙動を調べた。これらの結果は、都市ごみ焼
却飛灰および溶融飛灰から得られた重金属の揮発挙動と比較し、併せ
て考察を行った。
1.2 実 験 装 置 ならびに方 法
1.2.1 試 料
(1) 飛 灰 の調 整
39
Table 1.1に 、 本 実 験 に 用 い た シ ャ フ ト 式 灰 溶 融 炉 か ら 排 出 さ れ た 溶
融飛灰ならびにストーカ式焼却炉から排出された焼却飛灰の成分分析
結 果 を 掲 げ る 。い ず れ も 消 石 灰 吹 き 込 み の バ グ フ ィ ル タ 捕 集 灰 で あ る 。
試 料 の 特 徴 と し て 、 溶 融 飛 灰 は 焼 却 飛 灰 と 比 べ て 、 P b 、 Zn 、 N a お よ び K
などを多く含むことが認められる。これらの溶融飛灰ならびに焼却飛
灰 は 乳 鉢 で 粉 砕 し 、 ふ る い を 用 い て す べ て 粒 径 が 7 5 μ m以 下 と な る よ う
に調製したものを試料とした。その後、試料はデシケータ内に保管し
た後、実験に供した。従来の塩化揮発法では、硫酸焼鉱から銅、金、
銀、鉛および亜鉛等の非鉄金属類と製鉄高炉用原料の鉄分を資源化し
ていたことより、今回は、非鉄および鉄の揮発分離の挙動も視野に入
れて非鉄としての鉛、亜鉛および銅を選んだ。
T a b le 1 . 1
C hem i c a l C o m po si t io n o f M S W Fl y A sh an d Mo lt en Fl y A s h
MSW molten
fly Ash
Sample
Ultimate
analysis
dry base[%]
Ash
composition
[mg/kg]
MSW fly ash
C
2.44
4.85
H
0.73
1.38
N
0.00
0.02
S
1.00
1.49
Si
46,000
66,600
Al
22,000
33,200
Ca
150,000
264,000
Fe
11,000
11,000
Pb
4,800
2,100
Zn
17,000
8,000
Cd
58
100
Cu
370
200
Na
97,000
21,000
K
110,000
30,000
Cl
190,000
163,000
(2) 模 擬 飛 灰 の調 製
飛 灰 中 の 重 金 属 の 揮 発 挙 動 を 基 礎 的 観 点 か ら 検 討 す る た め 、 Ta bl e
1.1 の 実 飛 灰 の 成 分 結 果 を 参 照 し て 模 擬 飛 灰 を 調 製 し 、 実 験 に 用 い た 。
40
ここでは溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰における熱履歴に起因する
灰 粒 子 の 物 理 化 学 的 な 構 造 の 相 違 か ら 、 模 擬 飛 灰 の 調 製 温 度 ( 117 3 K
お よ び 1 37 3 K ) を パ ラ メ ー タ に 選 ん だ 。 さ ら に T ab le 1. 1 の 成 分 分 析
結果ならびに後述する X 線回折分析結果から、溶融飛灰および都市ご
み 焼 却 飛 灰 に は N a C l お よ び K Cl が 存 在 す る た め 、 模 擬 飛 灰 に は N aC l
お よ び K Cl を 単 体 金 属 換 算 の 重 量 比 Na :K = 47 : 5 3 で 、 単 体 金 属 換 算 の
含 有 量 ( Na+K) と し て 22.0% を 添 加 し た 。
模擬飛灰の調製にあたり、市販の重金属酸化物特級試薬ならびに
SiO2、 Al2O3、 Ca(OH)2 の 特 級 試 薬 を 都 市 ご み 溶 融 飛 灰 中 の 灰 組 成 比 と 同
じ に な る よ う に 混 合 し 、 蓋 付 坩 堝 の 中 で 1373 K、 10 min 熱 処 理 し た 試
料 ( 以 下 S a mp l e A と 呼 ぶ ) な ら び に 11 7 3 K 、 10 mi n 熱 処 理 し た 試 料
( 以 下 S amp le B と 呼 ぶ )、 さ ら に こ れ ら の 試 料 に N aC l お よ び KC l を 加
え た 試 料( 以 下 S a m p l e C 、S a mp le D と 呼 ぶ )を 調 製 し 、実 験 に 供 し た 。
Table 1.2 に 、各 種 条 件 で 調 製 し た 模 擬 飛 灰 の 性 状 を 示 す 。熱 処 理 の 前
後で模擬飛灰中の重金属の揮発が見られなかったことから、熱処理し
た模擬飛灰中の重金属成分値は模擬飛灰を調製する際に用いた計算値
より算出した。
Table 1.2
C h e m i c a l C o m p o s i t i o n o f M o de l F l y A s h
Sample
Ash
composition
[mg/kg]
Sample A
Sample B
Sample C
Sample D
Si
200,000
100,000
Al
98,000
49,000
Ca
66,000
34,000
Fe
49,000
25,000
Pb
21,000
11,000
Zn
76,000
38,000
Cd
270
140
Cu
1,600
830
Na
-
100,000
K
-
120,000
Cl
-
270,000
41
1.2.2 実 験 装 置
F i g u r e 1. 1 に 本 研 究 で 用 い た 塩 素 化 反 応 実 験 装 置 の 概 略 図 を 示 す 。本
装 置 は ガ ス 供 給 部 、反 応 部 、反 応 管 上 部 な ら び に 5% 硝 酸 溶 液 か ら な る
揮 発 重 金 属 捕 集 部 お よ び 1 % Na O H 溶 液 の 排 ガ ス 処 理 部 か ら 構 成 さ れ て
いる。反応管は石英ガラス製で二重管構造となっており、下部に取り
付 け た フ ラ ン ジ を 介 し て 内 管 の 着 脱 が 可 能 で あ る 。外 管 は 内 径 φ 5 0 mm、
全 長 7 0 0 mm で あ り 、 全 長 30 0 mm の 電 気 炉 出 口 部 に は 、 揮 発 重 金 属 粒 子
を捕捉するために石英ウールが詰められている。一方、内管は内径φ
40 mmで あ り 、 先 端 部 に は 試 料 設 置 部 が 設 け ら れ て い る 。 試 料 設 置 部 に
は石英ガラスフィルタが取り付けられ、試料は石英ガラスフィルタ上
部 に 詰 め ら れ た 石 英 ウ ー ル の 上 部 に 約 250 mg設 置 し た 。 な お 試 料 は 、
HCl ガ ス と の 反 応 を 良 好 に す る た め 、試 料 の 装 填 厚 み を 1 m m 程 度 と し た 。
700mm
Exhaust
gas
φ50mm
α tube
14 K/min
1173
Electric
heater
22
X
Time[min]
Heater ON
HCl gas ON
F i g u r e 1. 1
Quartz wool
Quartz filter
Thermo
controller
40 K/min
273
Sample
300mm
Temperature [K]
5%HNO3-soln
1%NaOH-soln
Heater OFF
HCl gas OFF
Recovery
zone
φ40mm
Reaction
zone
N2 & HCl
X+60
Flow meter
Experimental Apparatus for Halogenation Reaction
反 応 管 の 最 高 温 度 を 1 17 3 K の 一 定 温 度 に 保 持 し た と き 、 塩 化 揮 発 反 応
装 置 の 反 応 管 内 軸 方 向 温 度 分 布 に つ い て 、 試 料 の 設 置 場 所 の 前 後 5 0 mm
で の 反 応 管 温 度 は 、 ほ ぼ 1 1 73 K の 一 定 温 度 に 保 た れ て い る 。 一 方 、 電
42
気炉出口付近から急激な温度低下が認められ、重金属捕集用の石英ウ
ー ル が 設 置 さ れ て い る 重 金 属 回 収 部 出 口 で は 約 7 00 K と な っ て お り 揮 発
分離・回収を目的とする重金属塩化物の凝縮温度以下になっている。
1.2.3 実 験 方 法
実 験 は 、反 応 管 の 試 料 設 置 部 に 試 料 を 装 填 し た 後 、所 定 濃 度 に 調 整 し
た HCl/N2 混 合 ガ ス を 流 入 さ せ る と と も に 電 気 炉 を 40 K/minの 昇 温 速 度
で 1 1 7 3 K ま で 加 熱 し た 。 そ の 後 、 反 応 管 温 度 を 11 73 K の 一 定 温 度 に 一
定 時 間 保 持 し た の ち 降 温 速 度 約 14 K/minの 自 然 冷 却 に て 降 温 さ せ 、 重
金 属 の 揮 発 実 験 の 1サ イ ク ル と し た 。揮 発 し た 重 金 属 粒 子 は 、電 気 炉 出
口部に設置した石英ウールによって捕集した。一部、石英ウールを通
過 し た 重 金 属 ガ ス は 5 % 硝 酸 溶 液 に て 完 全 に 捕 集 し た 。反 応 管 を 流 出 す
る 未 反 応 の H Cl ガ ス は 、 1 % N aO H 溶 液 に て 中 和 処 理 を 行 っ た 後 、 排 出 し
た。
実 験 後 、試 料 固 体 残 渣 に 残 存 す る 重 金 属 お よ び 捕 集 用 石 英 ウ ー ル か ら
回収された重金属はそれぞれ石英ウールごと酸溶解し、得られた溶液
お よ び 5 % 硝 酸 溶 液 中 の 重 金 属 は 、 ICP 発 光 分 光 分 析 装 置 ( P e rki nE lm e r
Jap an Co ., L td . 、 Op ti ma 3 30 0 D V ) を 用 い て 測 定 し 、 各 種 重 金 属 の 揮
発率を以下の関係から求めた。
VM = 100 × {(MW + MH) / (MR + MW + MH)}
(1.1)
こ こ で 、V M は 重 金 属 の 揮 発 割 合( % )、M R は 試 料 に 残 渣 す る 重 金 属 量( mg )、
M W は 捕 集 用 石 英 ウ ー ル で 回 収 さ れ た 重 金 属 量( m g)、M H は 5 % 硝 酸 溶 液 中
の 重 金 属 ( m g ) で あ る 。 あ ら か じ め ZnC l 2 試 薬 を 用 い て 装 置 内 の マ ス バ
ラ ン ス を 検 討 し た 結 果 、約 98% の 収 支 が 得 ら れ 、分 析 に よ る 誤 差 は 2%
程 度 で あ っ た こ と か ら 、 MR、 MW、 MHの 合 計 を 全 金 属 量 と 定 義 し た 。
本 実 験 で は 、塩 素 化 剤 と し て 窒 素 ベ ー ス の HC l ガ ス( 1. 5、1 4 、3 0 v o l % )
を 用 い 、 ガ ス 流 量 を 50 0 m l /mi n と 一 定 に 保 ち 、 保 持 時 間 ( F i gur e 1. 1
に 示 す よ う に 反 応 管 を 1 1 7 3 K に 一 定 に 保 つ 時 間 )を 10 、3 0、6 0、12 0 m i n
43
と し た 。 な お 保 持 時 間 0 m in で の 揮 発 量 は 、 所 定 の 反 応 温 度 に 到 達 す
るまでに、電気炉の昇温過程中で反応、揮発した重金属量を表す。
実飛灰に含まれる重金属の揮発実験を行うにあたり、本研究に用い
た 溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 は 、X 線 回 折 装 置( 株 式 会 社 リ ガ ク 、
R IN T2 50 0 TTR ) お よ び SE M / E D S ( 日 本 電 子 株 式 会 社 、 J S M - 6 3 3 0 / J E D
- 2 14 0 ) を 用 い て 、 粒 子 の 結 晶 構 造 お よ び 表 面 状 態 に つ い て そ れ ぞ れ
観察した。重金属酸化物および重金属塩化物試薬の揮発挙動を熱重量
分 析 装 置 ( 株 式 会 社 島 津 製 作 所 、 T G A-5 0 ) に よ っ て 調 べ た 。
1.3 実 験 結 果 ならびに考 察
1.3.1 溶 融 飛 灰 、都 市 ごみ焼 却 飛 灰 のSEM写 真 およびX線 回 折 結 果
本 研 究 で 用 い た 溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 の SEM 写 真 を
F i g u r e 1 . 2 に 示 す 。 本 図 よ り 、 溶 融 飛 灰 に は サ ブ ミ ク ロ ン か ら 5 μm
程 度 の 灰 粒 子 が 存 在 し 、 サ ブ ミ ク ロ ン 灰 粒 子 は 5 μm 程 度 の 灰 粒 子 の 表
面 に 付 着 し て い る 様 子 が 観 察 で き る 。こ れ は シ ャ フ ト 式 灰 溶 融 炉 で は 、
最 大 2000 K 程 度 の 温 度 領 域 が 存 在 し 、 こ の 温 度 領 域 で は ス ラ グ 成 分
( S iO 2 - A l 2 O 3 - C a O 、融 点 : 1 4 3 8 ‐ 1 5 33 K )の ほ か 、Pb O( 融 点 : 11 59 K)、
Z n O ( 融 点 : 2 25 3 K)、 C u O ( 1 3 7 3 K で Cu 2 O ( 融 点 : 1 5 03 K ) に 分 解 ) な
どの重金属酸化物のほとんどが揮発するものと考えられるため、本研
究で用いた溶融飛灰は、これらの凝縮物を含む不均一な状態で構成さ
れているものと推測される。一方、都市ごみ焼却飛灰では、溶融飛灰
に見られたサブミクロンの灰粒子がほとんど確認されず、比較的大き
な灰粒子が凝集した状態となっている。本研究で用いた都市ごみ焼却
飛 灰 は 焼 却 温 度 が 1 1 73 K の ス ト ー カ 式 焼 却 炉 か ら 排 出 さ れ た 飛 灰 で あ
る こ と か ら 、飛 灰 中 の ス ラ グ 成 分 な ら び に 重 金 属 酸 化 物 の ほ と ん ど は 、
焼却によって生じた粉塵由来によるものと推測される。
44
(a) MSW Molten Fly Ash
Figure 1.2
(b) MSW Fly Ash
S E M P h o t o gr a p h o f S a m p l e s
Figure 1.3 に 、 溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 の X 線 回 折 結 果 を
示す。本図より、溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰に含まれている成
分 を 比 較 す る と 、溶 融 飛 灰 で は Na C l お よ び KC l の 顕 著 な X 線 回 折 ピ ー
ク が 観 察 さ れ た 以 外 は 、 Pb、 Zn、 Cu な ど の 金 属 化 合 物 成 分 は 検 出 さ れ
な か っ た 。 な お 、 S i 、 A l お よ び Ca は 、 飛 灰 中 に 2. 2 ‐ 1 5 % 程 度 含 ま れ
ているが、化合物の X 線回折ピークは確認できなかった。このことよ
り、溶融飛灰に含まれるスラグ成分のほとんどは非晶質構造であると
推測される。一方、都市ごみ焼却飛灰については溶融飛灰と同様、重
金 属 化 合 物 の X 線 回 折 ピ ー ク は 認 め ら れ ず 、 NaC l お よ び K Cl の ピ ー ク
が 観 察 さ れ た ほ か 、S i O 2 お よ び Ca C O 3 な ど の ス ラ グ 生 成 に 寄 与 す る 化 合
物の結晶が観察された。これら両結果より、溶融飛灰と都市ごみ焼却
飛灰では灰粒子の構造および組成に大きな差異が見られた。
45
(a) MSW Fly Ash
○
□
△
▽
◇
Intensity [cps]
△
◇□ ○
△
▽
□ ○▽
NaCl
KCl
CaCO3
SiO2
Na2O-Al2O3-SiO2
○
(b) MSW Molten Fly Ash
□○
□
○
□
10
20
○
□
○
□
30
40
50
60
70
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
F i g u r e 1. 3
○
80
90
XRD Analysis of Samples
1.3.2 重 金 属 試 薬 の熱 重 量 分 析 結 果
実 飛 灰 に 含 ま れ る 重 金 属 の 揮 発 実 験 を 行 う に 当 た り 、ま ず 重 金 属 酸 化
物および重金属塩化物試薬を用いて、これらの重金属化合物の揮発挙
動 を 熱 重 量 分 析 装 置 に よ っ て 調 べ た 。F i g u r e 1 . 4 お よ び F i g u r e 1 . 5 に 、
重 金 属 酸 化 物 ( P b O 、 Z n O 、 C uO 、 Fe 2 O 3 ) お よ び 重 金 属 塩 化 物 ( PbC l 2 、
ZnCl2、CuCl2・2H2O、CuCl、FeCl2・4H2O、FeCl3・6H2O)の 窒 素 流 通 下 で の 5
K/minの 昇 温 に 伴 う 重 量 変 化 ( TGA曲 線 ) を 示 す 。
F i g u r e 1 .4 の 結 果 よ り 、 重 金 属 酸 化 物 試 薬 で は 、 P b O、 Zn O 、 CuO お よ
び F e 2 O 3 の い ず れ に つ い て も 1 27 3 K ま で の 昇 温 で は 重 量 変 化 が 認 め ら れ
な い こ と が 確 認 さ れ た 。 一 方 、 Fi gu re 1 .5 の 結 果 よ り 、 重 金 属 塩 化 物
試薬は、温度上昇とともに急激な重量減少を示した。しかしながら、
こ れ ら の 重 量 減 少 は 10 73 ‐ 117 3 K 以 上 で は 認 め ら れ ず 、 す べ て の 金 属
塩 化 物 は こ れ よ り も 低 温 度 域 で 揮 発 し た 。 FeCl2・4H2Oお よ び FeCl3・6H2O
の 重 量 減 少 率 が 40% 程 度 で 留 ま っ た の は 、 こ れ ら の 化 合 物 が そ の 中 に
存 在 す る 水 分 に よ っ て 加 水 分 解 し 、鉄 酸 化 物 に な っ た た め と 推 測 す る 。
な お 、Cu Cl 2 ・ 2 H 2 O が 多 段 階 で 重 量 減 少 し て い る の は 、こ れ ら の 試 薬 が 多
水和物であることによる。この結果を踏まえ、本研究では重金属の塩
46
化 反 応 な ら び に 揮 発 実 験 の 反 応 管 保 持 温 度 を 117 3 K と し た 。
Weight fraction [%]
100
80
PbO
ZnO
60
40
20
0
273
CuO
Melting point
PbO : 1159 K
ZnO : 2253 K
CuO : 1503 K
Fe2O3 : 1843 K
473
Fe2O3
673
873
1073
1273
Temperature [K]
T G A R es ul t s o f He a v y M e t al Ox i de s: N 2 - F l o w 1 0 0 m l / m i n
Fi gu r e 1. 4
PbCl2
Weight fraction [%]
100
CuCl
CuCl2-2H2O
80
ZnCl2
60
40
FeCl2-4H2O
FeCl3-6H2O
20
0
273
Melting Point
PbCl2 : 774 K
CuCl2 : 810 K
CuCl : 703 K
ZnCl2 : 586 K
FeCl2 : 943‐
947 K
FeCl3 : 579 K
473
673
873
1073
1273
Temperature [K]
Figure 1.5
T G A R e s u l t s o f He a v y M e t al C h lo r i de s: N 2 - F l o w 1 0 0 m l / m i n
47
1.3.3 塩 素 化 反 応 装 置 による飛 灰 中 重 金 属 の揮 発 挙 動
(1) 重 金 属 の揮 発 に及 ぼす保 持 時 間 の影 響
溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 を HC l 濃 度 30 % 、 反 応 温 度 11 73 K
の条件で加熱処理したときの鉄、銅、鉛および亜鉛の揮発率の経時変
化 を Figure 1.6 お よ び Figure 1.7 に 示 す 。
本 結 果 よ り 、溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 中 の 鉛 、亜 鉛 は き わ め
て 揮 発 し や す く 、両 飛 灰 と も に 保 持 時 間 約 1 0 m in 以 内 で 揮 発 率 は 98 %
以 上 に 達 し 、そ れ 以 降 の 揮 発 率 変 化 は ほ と ん ど 見 ら れ な か っ た 。一 方 、
鉄については都市ごみ焼却飛灰で、鉛、亜鉛と同様、反応開始と同時
に ほ ぼ 1 0 0 % が 揮 発 し た が 、溶 融 飛 灰 で は 若 干 、揮 発 率 の 低 下 が 見 ら れ
保 持 時 間 約 1 0 m i n で 8 5 % 程 度 の 揮 発 率 を 示 し 、そ れ 以 降 は 変 化 が 認 め
られなかった。銅については、鉛、亜鉛、鉄と比べて相対的に揮発し
に く か っ た 。 両 飛 灰 と も 1 20 min の 時 点 で は 、 銅 の 揮 発 は 増 加 傾 向 に
あった。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
20
0
Figure 1.6
Pb
Zn
Fe
Cu
40
0
20
60
40
80
Hold time [min]
100
120
R e l a t i o n be t w e e n H e a v y Me t a l s V o l a t i l i z a t i o n in M S W Mo l te n
F l y A s h a n d H o l d T i m e : HC l 3 0 %
48
Volatilization ratio [%]
100
80
60
20
0
Fi gu r e 1 . 7
Pb
Zn
Fe
Cu
40
0
20
60
40
80
Hold time [min]
100
120
R el a t i o n be tw e en H e a v y Me t a l s V o l a t i l i z a t i o n i n M S W F l y
Ash and Hold Time: HCl 30 %
(2) 重 金 属 の揮 発 に及 ぼす HCl 濃 度 の影 響
F ig ur e 1 . 6 お よ び F i g u r e 1. 7 の 結 果 よ り 、 鉛 、 亜 鉛 、 鉄 で は 保 持 時
間 が 12 0 m i n 程 度 で 揮 発 が ほ ぼ 終 了 す る こ と が 認 め ら れ た た め 、 こ こ
で は 保 持 時 間 を 1 2 0 m i n に 固 定 し 、 重 金 属 の 揮 発 に 及 ぼ す H Cl 濃 度 の
影 響 を 調 べ た 。 Figure 1.8 お よ び Figure 1.9 に 、 そ れ ぞ れ 都 市 ご み 焼
却 飛 灰 お よ び 溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属 の 揮 発 結 果 を 示 す 。Fig ur e 1 .8 に は 、
同じく都市ごみ焼却飛灰を用いて行われた武田ら
11)
の塩化揮発実験結
果 ( 反 応 温 度 1 1 7 3 K 、 反 応 時 間 1 20 mi n 、 HC l 濃 度 5 % ) も 併 せ て 示 し
た。
F i g u r e 1 .8 の 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 に 対 す る 本 実 験 結 果 よ り 、 鉛 、 亜 鉛
は H Cl 濃 度 1 . 5 % で 約 9 8 % 以 上 が 揮 発 し て お り 、 鉄 に つ い て も 約 9 0 %
程 度 が 揮 発 す る こ と が 分 か っ た 。 銅 に つ い て は H Cl 濃 度 に ほ ぼ 比 例 し
て 揮 発 率 の 増 加 が 認 め ら れ た 。さ ら に 、本 実 験 結 果 と 武 田 ら
11)
の結果
を 比 較 す る と 、 鉛 、 亜 鉛 は 1 00 % 近 く の 揮 発 率 を 示 し 、 良 く 一 致 し た 。
HCl 0% ( N2 ベ ー ス ) の 結 果 に お い て 、 銅 は 武 田 ら の 方 が 本 実 験 結 果 よ
り 約 2 0 % 程 度 多 く 揮 発 し た が 、 H C l 0 % か ら HC l 5 % 時 へ の 揮 発 率 の 増
49
加 量 は 約 8 % と 同 程 度 と な っ た 。 し た が っ て HC l 5 % に お け る 両 者 の 揮
発率の違いは、初期の原灰に含まれる銅化合物の存在形態とそれらの
存在量の違いによるものと考えられる。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
Pb
Zn
Cu
Fe
20
0
Fi gu r e 1 . 8
Takeda et.al
40
0
Pb
Zn
Cu
10
20
HCl concentration [%]
30
R el a t i o n be tw e en H e a v y Me t a l s V o l a t i l i z a t i o n i n M S W F l y
Ash and HCl Concentration: Hold Time 120min
つ ぎ に 、 F i g u r e 1 . 8 と F i g ure 1. 9 の 結 果 を 比 較 す る と 、 鉛 、 亜 鉛 に
つ い て は 、都 市 ご み 焼 却 飛 灰 お よ び 溶 融 飛 灰 と も に H Cl 濃 度 1 .5 % で 約
98% 以 上 が 揮 発 し て お り 、 ほ ぼ 同 じ 揮 発 挙 動 を 示 す こ と が 分 か る 。 鉄
に つ い て は H C l 濃 度 1 4 % で 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 の 揮 発 率 は ほ ぼ 10 0 % と
な る が 、 溶 融 飛 灰 に つ い て は 約 85% 程 度 に 留 ま っ た 。 一 方 、 銅 に つ い
て は 、H C l 濃 度 0 % に お け る 都 市 ご み 焼 却 飛 灰 お よ び 溶 融 飛 灰 か ら の 揮
発 率 は 、 そ れ ぞ れ 1 2 % お よ び 6 2% と な っ た 。 こ れ ら の 揮 発 物 は 飛 灰 中
にもともと含まれていた塩化銅などの低沸点化合物と推測される。と
こ ろ が 銅 は 鉛 お よ び 亜 鉛 と 比 べ 、 H C l 濃 度 を 3 0% に 設 定 し て も 十 分 な
揮 発 率 が 得 ら れ な か っ た 。 こ の 一 因 と し て 、 塩 化 反 応 雰 囲 気 中 の O2 濃
度 が 極 端 に 少 な い 場 合 、 銅 酸 化 物 お よ び 銅 単 体 金 属 は H Cl ガ ス と の 反
応によって塩化物になりにくいことが指摘されている
50
11)、 19)
。本研究
で は 、 N2 ベ ー ス の HCl ガ ス を 用 い た た め 、 こ れ ら の 原 因 に よ っ て 飛 灰
中の銅化合物の塩化反応が進みにくかったものと考察される。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
20
0
Figure 1.9
Pb
Zn
Fe
Cu
40
0
10
20
HCl concentration [%]
30
R e l a t i o n be t w e e n H e a v y Me t a l s V o l a t i l i z a t i o n in M S W Mo l te n
Fly Ash and HCl Concentration: Hold Time 120min
1.3.4 模 擬 飛 灰 中 の重 金 属 の揮 発 特 性
( 1 ) 飛 灰 の 熱 履 歴 お よ び含 有 無 機 塩 素 化 合 物 の 影 響
溶 融 飛 灰 の 生 成 過 程 で 受 け る 熱 履 歴 な ら び に 含 有 N aC l、 KC l が P b、
Z n 、C u お よ び F e の 揮 発 挙 動 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 す る た め に 、温 度 13 0 0
K お よ び 1 1 0 0 K で 加 熱 処 理 を 施 し た Sa mp l e A 、Sam p le B 、さ ら に Sa m pl e
A 、 B に 対 し て N a C l お よ び KC l を 単 体 金 属 換 算 の 重 量 比 N a:K =4 7 : 53
で 2 2 . 0 % を 添 加 し た 試 料( S a m p l e C お よ び D )を 用 い て 実 験 を 行 っ た 。
F i g u r e 1 . 1 0 に 、 各 種 模 擬 飛 灰 ( S a mpl e A ‐ D) を H C l ガ ス 3 0 % 、 加
熱 温 度 1 17 3 K 、 保 持 時 間 1 2 0 m in の 条 件 で 加 熱 処 理 を 行 っ た と き の 各
種 重 金 属 の 揮 発 率 を 示 す 。 本 図 よ り 、 S am pl e A お よ び Sa mp l e B を 比 較
す る と 、 い ず れ の 金 属 に つ い て も 揮 発 率 に 違 い が 認 め ら れ ず 、 Cu を 除
い て ほ ぼ 10 0 % の 揮 発 率 が 得 ら れ て い る 。こ の こ と か ら 、調 製 温 度 が 重
金 属 の 揮 発 挙 動 に 及 ぼ す 影 響 は 小 さ い も の と 考 察 で き る 。一 方 、N aC l、
51
KC l の 影 響 に つ い て S a m p l e A お よ び C 、 な ら び に S amp le B お よ び D を
それぞれ比較すると、銅、鉛および亜鉛では、両者の揮発率に違いが
認 め ら れ な か っ た が 、鉄 は 、Na Cl 、K Cl を 添 加 す る こ と に よ っ て 揮 発 率
が 2 0 ‐ 3 0% 程 度 減 少 す る こ と が 分 か っ た 。
Sample A
Sample B
Sample C
Sample D
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Fe
Cu
Pb
Zn
Sample A : Heat preparation at 1373K
Sample B : Heat preparation at 1173K
Sample C : Heat preparation at 1373K with NaCl, KCl added
Sample D : Heat preparation at 1173K with NaCl, KCl added
F i g u r e 1. 1 0
V o l a t i l i z a t i o n R a t i o o f He a v y Me t al s f r o m Mo de l F l y A sh e s :
H o l d T i m e 1 2 0 m i n , HC l 3 0 %
(2) NaCl, KCl 添 加 による鉄 の揮 発 挙 動 への影 響
そ こ で N a C l 、K C l が 鉄 の 揮 発 挙 動 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 、さ ら に 詳 細
に 検 討 す る た め 、 NaC l 、 KC l の 混 合 比 は 一 定 ( 単 体 金 属 換 算 の 重 量 比
N a : K = 4 7 : 53 ) の ま ま で 、 N aC l 、 KCl の 添 加 量 を 変 化 さ せ た と き の 模
擬 飛 灰 中 の 鉄 の 揮 発 率 を Figure 1.11 に 示 す 。 本 図 に は 溶 融 飛 灰 と 都
市ごみ焼却飛灰のデータも併せて示す。
本 図 よ り 、N a C l 、K C l が 添 加 さ れ て い な い 模 擬 飛 灰 の 場 合( Na + K = 0 % )、
鉄 の 揮 発 率 は ほ ぼ 1 0 0 % と な る こ と が 分 か る 。 鉄 揮 発 率 は 、 NaC l 、 K C l
添 加 量 の 増 加 に 伴 っ て 減 少 す る 傾 向 が 認 め ら れ 、 N a+ K の 添 加 量 が
22.0% の 時 、 鉄 の 揮 発 率 は 約 80% と な る こ と が 分 か っ た 。 一 方 、 模 擬
52
飛 灰 と 実 飛 灰 と の 結 果 を 比 較 す る と 、 模 擬 飛 灰 に お け る N aCl 、 K Cl 添
加量の増加にともなう鉄の揮発率の低下の様子は、溶融飛灰および都
市ごみ焼却飛灰で得られた結果と良く相関していることが認められた。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Fi gu r e 1 . 11
Sample C
Sample D
MSW molten fly ash
MSW fly ash
0
15
5
10
Na+K concentration [%]
20
R el a t io n b e tw e en V o l a t il i za t io n o f F e a nd N a, K C o n t e n t i n
F l y A s h e s : H C l 3 0 % , Ho l d T i m e 12 0 m i n
1.4 結 言
本研究から、次のような知見を得た。
1)
鉛および亜鉛の揮発特性について、都市ごみ焼却飛灰および溶融
飛 灰 の 間 に 顕 著 な 相 違 は 認 め ら れ な か っ た 。一 方 、鉄 の 揮 発 特 性 に
は 相 違 が 見 ら れ 、 溶 融 飛 灰 の 揮 発 率 は 85 % に 留 ま っ た の に 対 し て
都 市 ご み 焼 却 飛 灰 で は 100% の 揮 発 率 が 得 ら れ た 。
2)
亜鉛、鉛および鉄は、両飛灰とも比較的短時間で揮発をするが、
銅は揮発に長時間を要する。
3)
亜 鉛 、 鉛 、 鉄 は 、 両 飛 灰 と も 比 較 的 低 濃 度 の HC l で 揮 発 さ せ る こ
と が で き る が 、 銅 の 揮 発 に は 、 高 濃 度 の HC l が 必 要 で あ る 。
4)
調製温度の異なる模擬飛灰を用いた実験結果より、鉄、銅、鉛お
よび亜鉛の全ての金属に対してその揮発特性にほとんど相違は認
53
められなかった。
5)
N a C l 、 K Cl 添 加 量 の 異 な る 模 擬 飛 灰 を 用 い た 実 験 結 果 よ り 、 N aC l 、
K C l は 銅 、鉛 お よ び 亜 鉛 に つ い て は ほ と ん ど 揮 発 特 性 へ の 影 響 は 認
め ら れ な か っ た 。 鉄 に つ い て は Na C l お よ び KCl の 含 有 量 の 増 加 と
と も に 揮 発 率 は 減 少 し た 。こ の 減 少 傾 向 は 、溶 融 飛 灰 お よ び 都 市 ご
み焼却飛灰で得られた鉄の揮発率と良い相関を示した。
1.5 参 考 文 献
1)
伊 藤 一 郎 : 薬 剤 処 理 法 , 環 境 管 理 , 第
34 巻 , 第
9 号 ,
pp.21-26(1998)
2)
岩 崎 修 三 , 三 嶋 弘 次 , 片 岡 静 夫 , S . T . Iza tt : 溶 融 飛 灰 か ら の 金
属 回 収 ( 第 2 報 ) , 第 19 回 全 国 都 市 清 掃 研 究 発 表 会 講 演 論 文 集 ,
pp.82-84(1998)
3)
長 澤 松 太 郎 , 井 上 卓:資 源 循 環 型 飛 灰 処 理 シ ス テ ム( A E R プ ロ セ ス )
の 開 発 , 第
22 回 全 国 都 市 清 掃 研 究 発 表 会 講 演 論 文 集 ,
pp.97-99(2001)
4)
泉川千秋:固形廃棄物の処理における重金属の問題と金属リサイ
ク リ ン グ , 資 源 処 理 技 術 , 第 43 巻 , 第 3 号 , pp.149-155( 1996)
5)
木成寿秀, 水上俊一, 河端博昭, 片山学, 亀岡義文:溶融飛灰か
らの重金属分離回収技術, 日本機械学会環境工学総合シンポジウ
ム 講 演 論 文 集 , 第 6巻 , pp . 1 9 8 - 2 0 1 ( 1 9 9 6 )
6)
吉 田 隆 : 飛 灰 対 策 , エ ヌ ・ テ ィ ー ・ エ ス , p p. 20 9 -24 1( 19 9 8)
7)
品川拓也, 多田光宏, 中原啓介, 山本浩:溶融塩の重金属回収技
術 , 第 21 回 全 国 都 市 清 掃 研 究 発 表 会 講 演 論 文 集 , pp.52-54(2000)
8)
坂 野 美 菜 , 渡 辺 隆 行 , 田 中 元 史 , 山 本 優 : RF 熱 プ ラ ズ マ に よ る 飛
灰 処 理 ( そ の 1 ) , 化 学 工 学 会 第 32 回 秋 季 大 会 研 究 発 表 講 演 要 旨
集 , p.971(1999)
9)
小林瑞穂, 大林宏至, 細見正明:真空加熱による焼却・溶融飛灰
中 重 金 属 の 処 理 , 化 学 工 学 会 65 年 会 研 究 発 表 講 演 要 旨 集 ,
p.305(2000)
54
10)
大竹伝雄, 東稔節治, 駒沢勲, 川嶋将夫:塩化揮発法による重金
属 の 除 去 , 化 学 工 学 論 文 集 , 第 10 巻 , 第 .1 号 , pp.68-73(1984)
11)
武田信生, 岡島重伸, 長澤松太郎, 峯勝之:塩化揮発法による飛
灰中の重金属の分離に関する基礎的研究, 環境衛生工学研究, 第 8
巻 , 第 3 号 , pp.185-190(1994)
12)
C . C h a n , C. Q . J i a , J . W . G r a y d o n , D o n . W. K i c k : T h e b e h a v io u r
o f s e l e c t e d he a v y me t a l s i n M SW i n c i n e r a t i o n e l e c t r o s t a t i c
precipitator ash during roasting with chlorination agents,
Journal of Hazardous Materials, Vol.50, pp.1-13 (1996)
13)
C . C h a n , D . W . K i r k : B e h a v io u r of m e t a l s u n d e r t h e c o n d i t i on s
of roasting MSW incinerator fly ash with chlorinating agents,
Journal of Hazardous Materials, Vol.B64, pp.75-89, 1999.
14)
A . J a k o b , R . M o e r g e l i : D e t ox i f i c a t i o n a n d R e c y c l i n g o f F l y
A s h f r o m M u n i c i p a l S o l i d W a s t e In c i n e r a t o r s –
Process,
Proceeding
q
“ Re c y c l i n g ,
t h e CT F l u a p u r
Recovering,
Reintegration” , Vol.2, pp.182-186 (1999)
15)
S . A b e , T . K a g a m i , K. S u g aw a r a , T . S u g a w a r a : Z i n c a n d l e a d
recovery
from
model
ash
compounds,
Second
International
Conference on Processing Materials for Properties, pp.733-736
(2000)
16)
唐木亮太郎, 内田隆治, 平澤政廣:都市ごみ焼却飛灰無害化処理
へのポリ塩化ビニル有効利用に関する基礎的検討(第二報), 第
1 1 回 廃 棄 物 学 会 研 究 発 表 会 講 演 論 文 集 Ⅱ , p p.1 20 2- 1 204 (2 00 0 )
17)
工 藤 通:戸 畑 製 作 所 に お け る 資 源 再 利 用 , 資 源 と 素 材 , 第 109 巻 ,
pp.1124-1128(1993)
18)
光 和 精 鉱 ( 株 ): 光 和 精 鉱 に お け る リ サ イ ク ル 事 業 , 資 源 と 素 材 ,
第 113 巻 , 第 12 号 , pp.1165-1166(1997)
1 9)
武 田 信 生:揮 発 法 を 用 い た ご み 焼 却 飛 灰 か ら の 重 金 属 の 分 離 回 収
技術に関する研究, 平成7年度‐8年度 科学研究費補助金基盤
研 究 ( A ) ( 2 ) 研 究 成 果 報 告 書 ( 1 99 7 )
55
第2章
Volatilization ratio [%]
100
Model Molten
ash A fly ash
80
Cu
Pb
Zn
Molten fly ash A
60
Molten fly ash B
40
20
0
0.00
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
6.00
CaCl2 content [mol/ kg-ash]
第2章では、塩素化剤として塩酸を用いたときの溶融
飛灰中重金属の塩化揮発を調べた。塩酸含浸処理を施し
た溶融飛灰を N 2 ガス流通下、温度 1123 K で 120 min 加
熱を行った結果、鉛、亜鉛は、ほぼ 100%揮発したが、
銅の場合、溶融飛灰中の Ca 含有量の増加に伴って、CaCl 2
溶融物が増加し、揮発が阻害されることが分かった。
56
第 2章 塩 酸 含 浸 ・加 熱 処 理 による都 市 ごみ溶 融 飛 灰 中 重 金 属 の塩 化 揮 発 挙 動 に
およぼすカルシウム含有量の影響
2.1 緒言
我が国では、廃棄物の無害化および資源化を目的として、溶融固化処理の普
及が進んでおり 1),2) 、重金属を高濃度に含む溶融飛灰の発生量増加が見込まれ
ている。現在、溶融固化処理から排出される溶融飛灰の大部分は、重金属固定
用薬剤を用いて飛灰中の重金属の固定化を行った後、埋め立て処分が行われて
いる。しかし溶融飛灰には鉛および亜鉛が数%‐十数%含まれており、この金
属含有濃度は鉛および亜鉛の粗鉱に相当することから 3) 、今後の溶融飛灰の処
理方法については、有価物として金属リサイクルすることが期待できる。
重金属を含む廃棄物からの金属回収法として、塩化揮発法が提案されている。
本法は、製錬分野において古くから活用されており、とくに硫化鉄鉱から Fe、
Cu、Zn、Au、Ag などの有価物を工業的に分離回収してきた実績ある方法である
4),5)
。近年この方法を用いて飛灰中から重金属を分離回収する研究が多くの研
究者によって進められてきており、例えば HCl ガスおよび CaCl 2 による重金属
酸化物の塩化揮発反応機構の速度論的考察
都市ごみ焼却飛灰の塩化揮発反応特性
焼却飛灰含有重金属の除去
9)
7),8)
6)
、種々の気体/固体塩化剤による
、ポリ塩化ビニルを用いた都市ごみ
などが行われている。筆者らも本論文の第1章に
て、塩化水素ガスによる溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰中の銅、鉛、亜鉛、
鉄の金属乾式分離特性について調べた結果、反応温度 1173 K において銅、鉛お
よび亜鉛は飛灰種に関係なく揮発率の向上が得られることを示した。
しかし高温下で重金属を含む各種溶融飛灰に塩化水素ガスを適応する方式で
は、装置内の高温腐食を生じること、ならびに塩化水素ガスに対する作業環境
の安全性および大気環境への負荷低減のために、適切な排ガス処理を行うこと
が必要となる。一方で現在、我が国では濃度 11‐13%含有の廃塩酸が産業廃棄
物として7万トン/年排出されることを考慮すると、塩化揮発法に用いる塩化剤
についても、現状の廃棄物を有効利用していくことが必要である。
本研究では、重金属資源として有望な溶融飛灰に塩化剤として廃塩酸を利用
し、塩酸含浸により飛灰中重金属を直接塩素化あるいは含有カルシウムの CaCl 2
57
生成を介して塩化することによって、重金属の揮発分離特性を検討した。
一般に溶融飛灰は、排ガス処理設備で吹き込まれた消石灰に由来する Ca(OH)2
を多く含む場合が多い。したがって、本研究では飛灰中の重金属酸化物の塩化
揮発反応として次の 2 つの反応段階を想定し、飛灰中のカルシウム分が重金属
(銅、鉛、亜鉛)の塩化揮発におよぼす影響について検討した。
i)塩酸と重金属およびカルシウムの塩化反応
Me x O y + 2yHCl (l) → xMeCl 2 ↑ + yH 2 O + (x-y)Cl 2
Ca(OH) 2 + 2HCl (l) → CaCl 2 + 2H 2 O
(2.1)
(2.2)
ii)塩化カルシウムと重金属の塩化反応
Me x O y + yCaCl 2
→
xMeCl 2 ↑+ yCaO + (x-y)Cl 2
(2.3)
ここで、XおよびYは化学量論係数である。
本研究では加えた塩酸と重金属との直接塩素化反応(Eq.(2.1))ならび塩酸
によって生成した飛灰中の塩化カルシウムと重金属との塩素化反応(Eq.(2.3))
の影響を調べるため、まず、試薬からなる模擬飛灰を用い、模擬飛灰中のカル
シウム含有量と塩酸添加量が重金属の塩化揮発挙動におよぼす影響を検討した。
次に、カルシウム含有量の異なる溶融飛灰を用いて塩酸添加・加熱実験を行
い、模擬飛灰にて得られた重金属の揮発挙動と比較し、併せて考察を行った。
なお、飛灰からの重金属揮発挙動については一部、SEM/EDSによる表面状態の
観察に基づいて考察した。
2.2 実験装置ならびに方法
2.2.1 試料
Table 2.1 に 、 実 験 で 用 い た 都 市 ご み 溶 融 飛 灰 の 成 分 分 析 結 果 を 掲 げ る 。
Molten fly ash A は、都市ごみ焼却灰を電気式灰溶融炉で溶融固化した時に発
生した溶融飛灰であり、Molten fly ash B は、都市ごみ焼却灰をシャフト式灰
溶融炉で溶融固化した時に発生した溶融飛灰である。試料の特徴として、溶融
飛灰に含まれるカルシウム量は、排ガス処理設備(バグフィルタ)で消石灰吹
込みを行っていない Molten fly ash A(Ca 含有率 8.2 wt%)よりも、消石灰
吹込みを行っている Molten fly ash B(Ca 含有率 21.9 wt%)の方が多いこと
58
が認められる。Molten fly ash B は塩素含有量が多く(9.59 mol/kg)、ナトリ
ウム(1.55 mol/kg)、カリウム(3.16 mol/kg)だけでなく、カルシウム、銅、
鉛および亜鉛などの一部も塩化物として存在することが推測される。
Table 2.1 Chemical Composition of Molten Fly Ashes
Molten fly ash A
Sample
[mg/kg]
Cu
Fe
Pb
Ash
composition
[mol/kg]
1,500 0.0236
10,000 0.179
24,000 0.116
Molten fly ash B
[mg/kg]
[mol/kg]
1,100 0.0173
5,600 0.100
18,000 0.0869
Zn
120,000 1.84
Ca
82,000 2.05
219,000 5.46
K
156,000 3.99
60,600 3.16
Na
104,000 4.52
72,700 1.55
Al
15,000 0.556
Si
16,000 0.570
Cl
188,000 5.30
37,000 0.566
8,300 0.308
44,900 1.60
340,000 9.59
一方、塩酸含浸・加熱処理による重金属の揮発挙動を基礎的に検討するため、
模擬飛灰を調製して実験に用いた。調製にあたっては消石灰吹き込みに起因す
る都市ごみ溶融飛灰中のカルシウム分の存在、およびそれらの化合物形態が重
金属の塩化揮発反応におよぼす影響について調べるため、カルシウムの化合物
形態および含有量をパラメータとして選んだ。模擬飛灰は、(i)Molten fly ash
B 中の重金属濃度に合わせて市販の重金属酸化物特級試薬(PbO、CuO、ZnO)な
らびに Fe 2 O 3 、Al 2 O 3 の特級試薬を混合した試料(以下 Model ash A と呼ぶ)、(ii)
飛灰中に吹き込まれた消石灰を模擬するため Model ash A をベースに Ca(OH) 2
の特級試薬を加えた試料(以下 Model ash B と呼ぶ)、(iii)さらに加える Ca(OH)2
の一部を CaCl 2 の特級試薬に置き換えた試料(以下 Model ash C と呼ぶ)の 3
種類を調製した。Table 2.2 に模擬飛灰の性状を示す。これらのサンプルは 378
K で 120 min 乾燥を行った後に乳鉢で粉砕し、ふるいを用いてすべて粒径を 75
μm 以下に調整した。Figure 2.1 に調製後の各試料の粒径分布を示す。本結果
より、全ての試料について、粒径 75 μm 以下に調製されていることを確認した。
Molten fly ash A(平均粒径 7.1 μm)には、Molten fly ash B(平均粒径 14.2
59
μm)に存在しない粒径 1 μm 以下の粒子が確認され、同一の溶融原料(都市ご
み焼却灰)でも、溶融方法の違いによって異なる粒径分布の飛灰が発生するこ
とが考察された。一方、模擬飛灰(Model ash A、B/C)は粒径分布がほぼ同じ
であることが確認され、平均粒子径の結果より、Model ash A が 36.9 μm、Model
ash B/C が 33.4 μm と、Molten fly ash A、B に比べて約 20‐30 μm 大きく調
製されていることが分かった。
Table 2.2 Chemical Composition of Model Ashes
Model ash A
Sample
Ash
composition
[mg/kg]
Cumulative size distribution [%]
[mol/kg]
1,100 0.0173
1,100 0.0173
Fe
5,600 0.100
5,600 0.100
Pb
18,000 0.0869
18,000 0.0869
Zn
37,000 0.566
37,000 0.566
Total metal in
sample
80
[mg/kg]
Cu
Ca
100
[mol/kg]
Model ash B / C
-
-
61,700 0.770
219,000 5.46
61,700 0.770
Molten fly ash A
Molten fly ash B
Model ash A
Model ash B/C
60
40
20
0
0.01
0.1
1
10
100
1000
Particle diameter [μm]
Figure 2.1
Cumulative Size Distribution of Raw Fly Ashes: Average Particle Size
Molten Fly Ash A 7.1 μm, B 14.2 μm, Model Ash A 36.9 μm, B/C 33.4 μm
2.2.2 塩酸含浸処理法
塩酸含浸処理は、所定量の塩酸試薬(キシダ化学株式会社、35%HCl含有)と
60
試料(模擬飛灰または都市ごみ溶融飛灰)をEq.(2.4)で定義した塩素の当量比
( R Cl )を基準にして、種々の混合割合で乳鉢を用いて約5 min混練した。混練
時間は、予備実験としてCa(OH) 2 およびAl 2 O 3 か ら 構 成 さ れ る 模 擬 飛 灰 に 対 し 、
Ca(OH) 2 と当量のHClを添加・混練した結果、5 minの混練時間であればすべての
Ca(OH) 2 がCaCl 2 となっていることを確認したことにより決定した。塩酸を含浸
させた混練物は、あらかじめマッフル炉内にて378 Kで120 min乾燥し、水分の
除去を行った。
R Cl = M Cl / ( M Ca + M Cu + M Pb + M Zn + M Fe )
(2.4)
ここで、 M Cl は試料に添加した塩酸・CaCl 2 に含有する Cl 量(mol)、 MCa 、 M Cu 、
M Pb 、 M Zn および M Fe はそれぞれ飛灰中のカルシウム、銅、鉛、亜鉛および鉄がす
べて塩化物となるために必要な Cl 量(mol)である。
実験では含有カルシウムの存在が重金属の塩化反応におよぼす影響を調べる
ため、Model ash A(Ca 未含有)および Model ash B(Ca 含有)に含まれる重
金属(銅、鉛、亜鉛、鉄)に対して当量の塩酸を試料へ混合・混練した。ここ
で Model ash A および B への塩酸添加量は、Model ash に対する塩素当量比換
算で、 R Cl =1.0(Model ash A)、 R Cl =0.12(Model ash B)に相当する。
次に、カルシウムを含有する Model ash B に対して塩酸含浸・加熱処理を行
い、塩酸添加量の変化が飛灰中重金属の直接塩素化(Eq.(2.1))あるいは含有
カルシウムの CaCl 2 生成による塩素化(Eq.(2.2)、Eq.(2.3))に及ぼす影響を
検討するために、塩酸添加量を R Cl =0.0(無添加)、0.12、0.37、0.62、1.0(当量
添加)、2.0 と変化させた。塩酸の代わりに塩酸添加量と当量の Cl 分を CaCl 2
として添加した Model ash C を用いて、CaCl 2 含有量を変化させたときの銅、鉛
および亜鉛の揮発率変化についても調べた。
さらに都市ごみ溶融飛灰ならびに模擬飛灰の重金属揮発挙動を比較検討する
ために、カルシウム含有量の異なる都市ごみ溶融飛灰(Molten fly ash A およ
び B)に対して塩酸を R Cl =1.2 の条件(重金属とカルシウムがすべて塩化物化す
ることを保証するために 1.2 倍当量の塩酸を添加した)で混練した試料を調製
した。
61
2.2.3 実験装置
Figure 2.2に本研究で用いた塩化反応実験装置の概略図を示す。本装置はガ
ス予熱部、反応部(電気炉加熱部分)、揮発重金属捕集部(重金属捕集フィルタ
ならびに5%硝酸溶液)および排ガス処理部(1%NaOH溶液)から構成されてい
る。重金属捕集フィルタには揮発重金属粒子を捕捉するための石英ウールが詰
められている。
Metal recovery zone
Sample holder
5 mm
Stainless wire
Filter
(Quartz wool)
700 mm
Exhaust
gas
Sample
Φ50 mm
Φ40 mm
5%HNO3-soln.
1%NaOH-soln.
Thermo controller
Electric
furnace
N2
Gas preheating zone
(Quartz wool)
Flow meter
Figure 2.2
Schematic Diagram of Experimental Apparatus
実験は、石英皿(φ40 mm×5 mm)に載せた試料2.4 gを反応管最上部に設置
し、1123 Kの所定温度に保たれた反応部へステンレスワイヤの長さを調節して
導入した。その後、石英皿に装填した試料は1123 Kの一定温度に120 min保持し
た。ここでの保持時間は、予備実験として模擬飛灰(Model ash C)を用いた本
実験温度(1123 K)におけるCu、Pb、ZnとCaCl 2 との反応、さらにはこれに伴う重
金属の揮発変化は120 min以内でほぼ一定となることを確認したことより決定
した。
反応終了とともに、石英皿はステンレスワイヤを巻き上げて反応管最上部ま
62
で移動し、試料皿を常温付近まで冷却した後、反応残渣を採取した。Table 2.3
に実験条件を示す。反応温度は、重金属塩化物(銅、鉛および亜鉛)、塩化ナト
リ ウ ム お よ び 塩 化 カ リ ウ ム の 窒 素 流 通 下 で の 5 K/minの 昇 温 に 伴 う 重 量 変 化
(TGA曲線)から、溶融飛灰の主成分である塩化ナトリウムおよび塩化カリウム
と重金属塩化物を分離できる上限温度として1123 Kと固定させて実験を行った。
揮発した重金属粒子は、(i)反応管上部壁面(電気炉出口部)および (ii)重
金属捕集フィルタによって捕集した。一部、重金属捕集フィルタを通過した重
金属粒子については(iii)5%硝酸溶液にて捕集した。なお予備実験にて5%硝酸
溶液の後段に重金属捕集フィルタを設置し、ZnCl 2 特級試薬を用いた実験装置内
の物質収支を検討したところ、重金属捕集フィルタからはZnCl 2 が検出されず、
98‐99%程度の物質収支が得られたことから、5%硝酸溶液までで完全に捕集で
きたものと仮定した。
Table 2.3 Experimental Conditions
Sample weight [g]
2.4
Temperature [K]
1123
Hold time [min]
120
Atmosphere
N2
Gas flow rate [ml/min]
500
HCl soln. [vol%]
35.0
Equivalent ratio of HCl soln.
RCl [mol-Cl/mol-metal,Ca]
0, 0.12, 0.37,
0.62, 1.0, 2.0
2.2.4 評価方法
実験後、試料固体残渣に残留する重金属および揮発重金属捕集部から回収さ
れた重金属は石英皿および捕集フィルタとともに酸溶解した。酸溶解で得られ
た溶液ならびに5%硝酸溶液でトラップされた重金属の全量は、ICP発光分光分
析装置(PerkinElmer Japan Co., Ltd.、Optima 3300DV)を用いて重金属量の
測定を行った。各種重金属の揮発率を以下の関係から求めた。
V M = 100 × {( M W + M H ) / ( M R + M W + M H )}
63
(2.5)
ここで、 V M は重金属の揮発割合(%)、 M R は試料に残存する重金属量(mg)、
M W は (i)反 応管 上部 壁面 およ び(ii)重 金 属 捕 集 フ ィ ル タ で 回 収 さ れ た 重 金 属 量
(mg)、 M H は(iii)5%硝酸溶液中の重金属(mg)である。添字Mはそれぞれ銅、
鉛および亜鉛成分を表す。実験終了後の試料残渣はSEM/EDS(日本電子株式会
社、JSM‐6330/JED‐2140)を用いて表面状態の観察を行った。
2.3 実験結果および考察
2.3.1 模擬飛灰中の重金属揮発挙動
(1) 塩酸添加量の重金属揮発挙動への影響
Figure 2.3 に Model ash A (Ca(OH) 2 無添加)ならびに Model ash B (Ca(OH) 2
21.9 wt%添加)に、塩酸を添加し、1123 K、120 min 加熱処理を行ったときの、
鉛、亜 鉛 および銅の重金属揮発率の比較を示す。塩酸添加量は、Model ash A
および Model ash B に含まれる重金属(銅、鉛、亜鉛、鉄)に対して当量(Model
ash A: R Cl =1.0、Model ash B: R Cl =0.12)である。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Figure 2.3
Cu Pb Zn
Model ash B
Cu Pb Zn
Model ash A
Volatilization Ratio of Model Ashes A: without Ca(OH) 2 , B: with Ca(OH) 2 ,
Temperature 1123K, Hold Time 120min, Equivalent Ratio R Cl 1.0 (Model
ash A), R Cl 0.12 (Model ash B)
本図より Model ash A の場合、銅、鉛および亜鉛のすべてについて 96%以上
が揮発することが認められた。このことは模擬飛灰中の重金属酸化物が塩酸に
64
よっ て Eq.(2.1)に示されるように塩 化物 化し て生 成し た重 金属 塩化 物に 起因
するものと考えられる。なお、本加熱条件下ではこれらの重金属酸化物は揮発
しないことは、第1章で確認している。
一方、Model ash B の場合、銅、亜鉛の揮発率が 5%以下とほとんど揮発が認
められず、最も揮発量が多い鉛についても揮発率は 80%に留まった。この Model
ash B と Model ash A の重金属揮発挙動の相違については、Model ash B に塩酸
を添加した場合、塩酸のほとんどは Ca(OH) 2 の中和反応(Eq.(2.2))に用いら
れるため、重金属の塩化反応(Eq.(2.1))が十分進まないためと考えられる。
重金属の塩化反応における共存 Ca(OH) 2 の影響についてさらに詳細に検討す
るために、Model ash B への塩酸添加量を変化させたときの銅、鉛、亜鉛の揮
発率変化を調べた。Figure 2.4 にこのときの結果の一例をまとめて示した。本
図より、Model ash B への塩酸添加量を増加することによって、鉛、亜鉛の揮
発率は急激に上昇することが認められた。これらの結果に対し、金属製錬分野
における塩化揮発法(光和法) 4) では、反応温度 1523K を用いて硫化鉄鉱中の
重金属を PbCl 2(融点 774K、沸点 1223K)、ZnCl 2 (融点 586K、沸点 1005K)として
回収しているが、鉛、亜鉛については、本研究における反応温度(1123K)でも十
分な揮発率を得ることできることが分かった。
一方、銅の揮発率については塩酸添加量にかかわらず、本実験条件下ではほ
とんど変化が認められず、塩酸を模擬飛灰中の Ca(OH) 2 量以上に添加している
範囲( R Cl =1.0 以上)でも、約 10%の低い値にとどまった。これは、本研究に
おける反応温度(1123 K)が光和法
4)
の操作温度(1523 K)よりも 400 K 低く、沸
点の高い CuCl(融点 703 K、沸点 1763 K)が十分に揮発できなかったことが原因
であると推測する。
次に、塩酸の代わりに塩酸添加量と当量の Cl 分を CaCl 2 として添加した Model
ash C を用いて、CaCl 2 含有量を変化させたときの銅、鉛および亜鉛の揮発率変
化について調べた。その結果を Figure 2.4 に併せて示す。本図より塩酸添加し
た Model ash B の結果と Model ash C の結果とを比較すると、銅、鉛および亜
鉛のすべてについて R Cl =0‐1.0 の範囲における揮発率変化はほぼ一致している
ことが分かる。本結果より、塩酸添加量が R Cl <1.0 の条件では、添加した塩酸
のほとんどは、優先的に Ca(OH) 2 の中和反応(Eq.(2.2))に用いられているこ
65
とが考えられ、加熱処理時において Ca(OH) 2 の中和反応によって生成した CaCl 2
が飛灰中重金属の塩化揮発(Eq.(2.3))に有効に作用しているものと推察され
る。
Volatilization ratio [%]
100
80
Model ash B Model
with HCl-soln. ash C
added
(CaCl2)
Cu
Pb
Zn
60
40
20
0
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
2.5
RCl [mol-Cl / mol-metals,Ca]
Figure 2.4
Effect of Chlorinating Agent on Volatilization Ratio: Temperature 1123 K,
Hold Time 120min
(2) 残存 Ca(OH) 2 の重金属塩化反応に及ぼす影響
塩酸添加量が R Cl =1.0 以下の場合、飛灰中には未反応で残留した Ca(OH) 2 が存
在し、それらは本加熱処理条件下では CaO になって、飛灰中の CaCl 2 および重
金属の塩化反応(Eq.(2.3))を阻害することが考えられる。
こ こ で は 残 存 Ca(OH) 2 の 重 金 属 塩 化 反 応 に お よ ぼ す 影 響 を 検 討 す る た め 、
Model ash A において一定量の CaCl 2 添加(0.772、2.31、3.86 mol/kg -ash )に
対して、それぞれ補足添加する Ca(OH) 2 量を 0、1.62、3.16、4.70 mol /kg -ash
と変化させたときの、銅、鉛および亜鉛の揮発率変化を調べ、その結果を Figure
2.5 に示す。なお、模擬飛灰中の CaCl 2 量は重金属量に対して、モル基準でそれ
ぞれ 1.2、3.5、5.8 倍に相当する。
本図より、鉛、亜鉛および銅の揮発率は、重金属の種類によらず Ca(OH) 2 添
加量が増加するにつれて低下することが確認された。この原因としては、市販
の熱力学平衡計算ソフト(HSC Chemistry, Outo kumpu Research Oy Information
Service)によって得られた 1123K における CaCl 2 と重金属酸化物(ZnO、CuO、
66
PbO)の塩化反応の平衡定数の結果より、1.96×10 -5(CaCl 2 + CuO → CaO + CuCl 2 )、
4.87×10 -1 [-](CaCl 2 + PbO → CaO + PbCl 2 )、1.01×10 -5 [-](CaCl 2 + ZnO →
CaO + ZnCl 2 )という値を得たことから、CaO の増大によって PbO、ZnO および
CuO と CaCl 2 との塩化反応が進みにくくなったことが推測される。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
Ca(OH)2 amount [mol / kg-ash]
CaCl2
[mol/kg-ash]
Cu Pb Zn
0.772
2.31
3.86
Figure 2.5
Effect of Ca(OH) 2 Amount on Volatilization Ratio: Model Ash A,
Temperature 1123 K, Hold Time 120 min
2.3.2 都市ごみ溶融飛灰中の重金属揮発挙動
(1) 都市ごみ溶融飛灰の塩酸と重金属揮発率との関係
Figure 2.6 にカルシウム含有量の異なる Molten fly ash A および B を用い
て、塩酸含浸・加熱処理実験を行ったときの鉛、亜鉛、銅の揮発率の比較を示
す。本図より、Molten fly ash A の加熱処理のみでは、鉛は約 95%、銅、亜鉛
はそれぞれ約 20、30%の揮発にとどまることが認められた。これらの揮発重金
属は元々、飛灰中に塩化物などの低沸点化合物として含まれていた重金属成分、
あるいは飛灰中に含まれている CaCl 2 との塩化反応(Eq.(2.3))によって生成
した重金属塩化物であると考えられる。Molten fly ash A に R Cl =1.2 の条件で
67
塩酸を添加し、重金属ならびに含有カルシウム分をすべて塩化物化したのちに
加熱処理すると、鉛は 100%、亜鉛についても 99%以上が揮発した。銅につい
ても揮発促進が認められ、揮発率は 60%程度まで上昇することが分かった。
Molten fly ash B は、加熱処理のみで鉛、亜鉛の 95%以上が、また銅につい
ては約 10%が揮発した。本飛灰中の Ca(OH) 2 含有量を酸中和測定法を用いて測
定したところ、3.10 mol/kg -ash の結果となった。ここで酸中和測定法とは、温
度 313 K の水 1 L に試料 25 g を撹拌しながら、1 min 単位で 1N-HCl を pH 8.2
まで滴下し、延べ 10 min での 1N-HCl 滴下量からアルカリ性カルシウム分を求
める方法である。本飛灰中の全カルシウム含有量(Table 2.1 に示されている、
5.46 mol/kg -ash )からこの Ca(OH) 2 含有量(3.10 mol/kg -ash )を差し引いた残り
の 2.36 mol/kg -ash がすべて CaCl 2 と仮定し、Figure 2.5 において Model ash A
(CaCl 2 2.31 mol/kg -ash 、Ca(OH) 2 3.16 mol/kg -ash 添加)の結果と比較すると、
Molten fly ash B は Model ash A に比べて鉛および亜鉛の揮発率はそれぞれ 35%
程度高くなっていることがわかる。この重金属揮発率の上昇は、Molten fly ash
B に元々、含まれていた鉛および亜鉛の塩化物に起因するものと考えられる。
なお、Molten fly ash B に、 R Cl =1.2 の条件で塩酸を添加し加熱処理を行うと、
鉛、亜鉛は 100%揮発し、さらに銅についても約 35%まで揮発率が増加した。
以上の結果より、溶融飛灰中重金属に対して塩酸含浸・加熱処理を行うと、
鉛、亜鉛はカルシウム含有量にかかわらず 99%以上揮発することが分かった。
さらに、銅についてもカルシウム含有量が少ない飛灰ほど高い揮発率を得た。
68
Volatilization ratio [%]
100
Molten
fly ash A
Molten
fly ash B
80
60
40
20
0
Cu
Pb
Cu
Zn
Pb
Zn
Molten fly ash
Hydrochloric acid-soaked molten fly ash
Figure 2.6
Effect of Hydrochloric Acid on Volatilization Ratio from Molten Fly
Ashes: Temperature 1123K, Hold Time 120min, Equivalent Ratio R Cl 1.2
(2) 都市ごみ溶融飛灰中の重金属揮発率と CaCl 2 含有量との関係
Figure 2.4 において銅は、飛灰中の重金属およびカルシウムを十分に塩素化
できる量( R Cl =1.0 以上)の塩酸を添加した場合でも揮発率の向上が見られなか
った。Figure 2.6 の都市ごみ溶融飛灰の塩酸含浸・加熱処理の結果から、カル
シウム含有量の多い Molten fly ash B では、Molten fly ash A に比べて揮発
促進効果があまり見られなかった。
この原因について調べるために、Model ash A へのカルシウム添加量を増加
させたときの銅、鉛および亜鉛の塩化物の揮発挙動について検討した。その結
果を Figure 2.7 に示す。図中には、Molten fly ash A および Molten fly ash
B の結果も併せて示す。なお、Model ash A に対するカルシウム添加処理法とし
て、Model ash A に Ca(OH) 2 を種々の割合で添加し、塩酸を R Cl =1.2 の条件で完
全に CaCl 2 となるように添加することで調製した。
本結果より、Model ash A および Molten fly ash A、B いずれについても鉛
および亜鉛は、CaCl 2 含有量の変化に関係なく 100%揮発した。この原因として
PbCl 2 (融点 774 K、沸点 1223 K)および ZnCl 2 (融点 586 K、沸点 1005 K)の本
実験温度(1123 K)における平衡蒸気圧
10)
は、それぞれ約 35 kPa、101.3 kPa
以上であることから、鉛、亜鉛と CaCl 2 との塩化反応によって生じた PbCl 2 、ZnCl 2
69
は速やかな揮発が行われたことが推測される。一方、銅については Model ash A
および Molten fly ash A、B のいずれに対しても CaCl 2 含有量の増加に伴って
揮発率の減少が認められた。この原因として CuCl 2 は、本実験温度(1123 K)
における平衡蒸気圧が約 7 kPa と、PbCl 2 (約 35 kPa)および ZnCl 2 (101.3 kPa
以上)の蒸気圧
10)
に比べてかなり低く、揮発しにくい化合物であることが推測
され、本実験温度下で発生すると推測される CaCl 2 (融点 1045 K、沸点 1873 K
以上)の溶融物等が、揮発しにくい CuCl 2 に対して何らかの揮発阻害を及ぼし
ていることが推測される。
一方、模擬飛灰および溶融飛灰中の銅の揮発率変化を比較すると、溶融飛灰
の方が常に 20%ほど揮発率が高くなっている。この原因について、Figure 2.1
の Molten fly ash および Model ash の平均粒子径を比較すると、Molten fly ash
A(平均粒径 7.1 μ m)および Molten fly ash B(平均粒径 14.2 μ m)の方が、
Model ash A(平均粒径 36.9 μ m)および Model ash B/C(平均粒径 33.4 μ m)
に対して約 20‐30 μ m 大きいことが分かる。模擬飛灰および都市ごみ溶融飛灰
における揮発率に違いが現れたのは、模擬飛灰および溶融飛灰原灰の粒子状態
(粒径分布)の違いが原因ではないかと推測される。
Volatilization ratio [%]
100
Model Molten
ash A fly ash
80
Cu
Pb
Zn
Molten fly ash A
60
Molten fly ash B
40
20
0
0.00
1.00
2.00
3.00
4.00
5.00
6.00
CaCl2 content [mol/ kg-ash]
Figure 2.7
Effect of CaCl 2 Amount on Metal Volatilization: Temperature 1123K,
Hold Time 120min, Atmosphere N 2 , Equivalent Ratio R Cl 1.2
70
(3) 塩酸添加に伴う加熱処理後の飛灰の表面状態変化
Figure 2.7 の結果で得られた銅塩化物の揮発挙動について、飛灰表面状態と
対比して検討を行った。Figures 2.8‐2.10 に、CaCl 2 含有量を変化させた模擬
飛灰および溶融飛灰の加熱処理後に得られた飛灰表面状態の SEM/EDS 観察結果
を示す。
Figure 2.8 の結果より、模擬飛灰および都市ごみ溶融飛灰ともに飛灰中の
CaCl 2 含有量が増加するにつれて、試料残渣の粒径の増大および粒子間が閉塞し
ている様子が観察できる。Figure 2.9 の EDS 分析結果から、これらの粗大粒子
上に Ca および Cl の分布が一致することが認められた。したがって、これらの
粗大粒子の多くは CaCl 2 (融点 1045 K、沸点 1873 K 以上)であると推測する。
使用した模擬飛灰の原灰は、Figure 2.1 の結果より粒径分布がほぼ同一である
ことから、本加熱温度下(1123 K)における粗大粒子(CaCl 2 )の出現は塩酸含浸・
加熱処理時における CaCl 2 の溶融物に起因するものと考えられる。
Model ash A
(Ca 0 mol/kg)
(Ca 2.05 mol/kg)
(Ca 5.46 mol/kg)
10μm
Molten fly ash A (Ca 2.05 mol/kg)
Figure 2.8
Molten fly ash B (Ca 5.46 mol/kg)
SEM Images of Hydrochloric Acid-Soaked Fly Ash Samples after
Heating: Temperature 1123K, Hold Time 120min, Equivalent Ratio R Cl 1.2
71
SEM
Cl
Al
Ca
Model ash A (CaCl2 2.05mol/kg)
Model ash A (CaCl2 5.46mol/kg)
Figure 2.9
EDS Mapping of Hydrochloric Acid-Soaked Model Ashes after Heating:
Temperature 1123K, Hold Time 120min, Equivalent Ratio R Cl 1.2
SEM
Cl
Al
Ca
K
Na
Molten fly ash B (CaCl2 5.46mol/kg)
Figure 2.10
EDS Mapping of Hydrochloric Acid-Soaked Molten Fly Ash after
Heating: Temperature 1123K, Hold Time 120min, Equivalent Ratio R Cl
1.2
一方、Figure 2.10 の結果より、都市ごみ溶融飛灰についても模擬飛灰の結
果と同様、Ca と Cl の存在量が多く、それらの存在位置が一致することが確認
できる。都市ごみ溶融飛灰は Ca、Cl の他に Na、K の原子が粒子上に Ca、Cl と
72
同じように分布することが認められ、大部分の CaCl 2 の他に NaCl(融点:1074 K)
および KCl(融点:1043 K)の存在が確認された。
以上、Figure 2.7 の揮発率の結果と併せて比較してみると、粒子表面の溶融
状態が著しい試料残渣ほど、銅の揮発率が低くなっていることがわかる。この
ことから模擬飛灰および溶融飛灰における銅塩化物の揮発率低下の原因は、加
熱処理によって生じた CaCl 2 あるいは NaCl、KCl の溶融物が、本実験温度(1123
K)では蒸気圧が低い CuCl 2 の表面を覆うことによって揮発阻害を及ぼしたこと
が推測される。
2.4 結言
カルシウム含有量の異なる都市ごみ溶融飛灰に対して塩酸含浸・加熱処理を
行い銅、鉛および亜鉛の揮発挙動を調べるとともに、模擬飛灰の結果と比較検
討し、共存カルシウム成分(Ca(OH) 2 )の含有量ならびに含有形態が重金属の塩
化揮発挙動におよぼす影響を明らかにした。以下に本研究で得られた結果をま
とめる。
1)
Ca(OH) 2 を含有しない模擬飛灰の場合、重金属に対して当量の塩酸を添加し
て加熱処理(1123 K)を行うと、銅、鉛および亜鉛の揮発率は 96%以上と
なった。一方、Ca(OH) 2 含有模擬飛灰の場合、同じ塩酸含浸条件では重金属
の揮発率は低下した。含浸する塩酸量を増加させ、重金属ならびにカルシ
ウム分の合計量に対して当量添加すると、鉛、亜鉛の揮発は 99%以上まで
上昇したが、銅については約 10%の低い値にとどまった。
2)
塩酸含浸した Ca(OH) 2 含有模擬飛灰と CaCl 2 含有模擬飛灰の銅、鉛、亜鉛の
揮発挙動は、ほぼ一致したことから、塩酸によって模擬飛灰中の Ca(OH) 2
は CaCl 2 の生成を介して重金属の塩化揮発に作用するものと考えられた。
一方、模擬飛灰中の Ca(OH) 2 含有量を増加させると鉛、亜鉛、銅の揮発率
が低下したことから、過剰に存在する CaO によって PbO、ZnO および CuO
と CaCl 2 との塩化反応が進みにくくなったことが推測される。
3)
カルシウム含有量の異なる都市ごみ溶融飛灰について、含有重金属ならび
にカルシウム分の合計量に対して 1.2 倍当量の塩酸を添加するとカルシウ
ム含有量によらず、鉛、亜鉛は 99%以上の揮発率が得られた。銅について
73
も 10‐20%の揮発率から 35‐60%の揮発率に向上した。
4)
都市ごみ溶融飛灰および模擬飛灰について、飛灰中のカルシウム含有量が
多いものほど、銅の揮発が進みにくいことが分かった。この原因としては、
本実験温度(1123K)における CuCl 2 の平衡蒸気圧はかなり低く CuCl2 は揮
発しにくい状態であること、および実験後の試料残渣の SEM/EDS 観察結果
により模擬飛灰および都市ごみ溶融飛灰上に CaCl 2 溶融物が生成している
ことが推測されたことから、加熱処理によって生じた CaCl 2 の溶融物が、
本実験温度(1123 K)では蒸気圧が低い CuCl 2 の表面を覆うことによって揮
発阻害を及ぼしたことが推測された。
2.5 参考文献
1)
藤吉秀昭:ガス化溶融炉の開発・普及の現状と課題, 都市清掃, Vol.54,
No.242, pp.293-302 (2001)
2)
柿本幸司, 中野靖子, 加藤安彦:薬剤添加によるシュレッダーダスト焼却
灰・飛灰の重金属類溶出抑制に関する検討, 廃棄物学会論文誌, Vol.13,
No.1, pp.68-73 (1984)
3)
長崎英範:「溶融飛灰の山元還元」について, 都市清掃, Vol.51, No.227,
pp.605-610 (1998)
4)
小笠原正巳:塩化揮発ペレット法の応用による硫化鉄鉱処理工場の完成,
日本鉱業会誌, Vol.83, No.951, pp.879-885 (1967)
5)
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業会誌, Vol.81, No.920, pp. 35-41 (1965)
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大竹伝雄, 東稔節治, 駒沢勲, 川嶋将夫:塩化揮発法による重金属の除去,
化学工学論文集, Vol.10, No.1, pp.68-73 (1984)
7)
C. Chan, C. Q. Jia, J. W. Graydon, Don. W. Kick: The behaviour of
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Materials, Vol.50, pp.1-13 (1996)
8)
武田信生, 岡島重伸, 長澤松太郎, 峯勝之:塩化揮発法による飛灰中の重
金 属 の 分 離 に 関 す る 基 礎 的 研 究 , 環 境 衛 生 工 学 研 究 , Vol.8, No.3,
74
pp.185-190 (1994)
9)
唐木亮太郎, 内田隆治, 平澤政廣:都市ごみ焼却飛灰無害化処理へのポリ
塩化ビニル有効利用に関する基礎的検討(第二報), 第11回廃棄物学会研
究発表会講演論文集Ⅱ, pp.1202-1204 (2000)
10)
日本化学学会編:化学便覧基礎編
(1993)
75
改 訂 4 版 , pp.Ⅱ 117-Ⅱ 123, 丸 善
第3章
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Hold time [min]
Model ash Pb
A(CaCl2)
B(NaCl)
C(KCl)
Zn
100
120
Cu
第3章では、溶融飛灰由来の NaCl、KCl、CaCl 2 を利用
する重金属の塩化揮発を検討した。PbO、ZnO、CuO 試薬
に対して、NaCl、KCl、CaCl 2 試薬をそれぞれ個別に混合
した模擬飛灰を、N 2 ガス流通下、1023 K で加熱した結果、
鉛、亜鉛、銅の揮発率はいずれも CaCl 2 >NaCl>KCl の順
に高くなることを認めた。
76
第3章 都市ごみ溶融飛灰に含まれる NaCl, KCl, CaCl 2 の重金属揮発挙動に及ぼす
影響
3.1 緒言
溶融固化処理は、廃棄物の減容化に優れているとともに、溶融スラグを再資
源として有効利用できるという利点を持つことから、様々な廃棄物への適応が
広まりつつある
1)
。その一方で溶融固化処理は、人体ならびに自然生態系に害
を及ぼす重金属を高濃度に含む溶融飛灰を発生させる問題点が存在する。現在、
溶融飛灰の処理方法は、キレート剤による重金属安定化処理が広く定着してい
るが、粗鉱なみの含有量で存在する重金属
2)
を有害物として埋め立てるのでは
なく、有価物として再資源化処理を行っていくことの重要性が認識されており、
様々な角度から回収方法が検討されている
3)
。
筆者らも、これまで重金属を含む溶融飛灰からの金属回収法として、非鉄製
錬分野において古くから活用され実績ある方法である塩化揮発法
4),5)
を採用し、
第2章において塩酸含浸・加熱処理プロセスによる飛灰中重金属の塩化揮発分
離について述べた。その結果、飛灰中に存在するカルシウムの存在形態(Ca(OH) 2 、
CaCl 2 )および含有量の違いによって、銅の揮発率が低下することを示した
6)
。
しかしながら実際の都市ごみ溶融飛灰では、一部の重金属は塩化物の形として
存在していること
7)
含まれていること
8)
、さらに溶融原料である都市ごみ由来の NaCl および KCl が
、ならびに溶融飛灰のバグフィルタ捕集時の消石灰噴霧に
起因する CaCl 2 が存在することから、これらの含有無機塩素化合物の存在によ
って飛灰中の重金属の一部は重金属塩化物に変換することが考えられる。
これまで他の固体残渣については、加熱処理時における有害スラッジ中重金
属の揮発挙動に及ぼす金属形態(酸化物、塩化物)ならびに共存成分(NaCl、
KCl、炭素分)の影響
9)
、焼却飛灰の加熱処理時における加熱温度および加熱雰
囲気が重金属揮発挙動に及ぼす影響
10)
などが報告されている。しかし、溶融飛
灰の加熱処理時における重金属の揮発挙動について検討した例はほとんどなく、
とくに溶融飛灰に含まれる無機塩素化合物が重金属の塩化反応に及ぼす影響に
ついては不明な部分が多い。
そこで本研究では、溶融飛灰に多く含有される NaCl、KCl、CaCl 2 の存在が重
77
金属の塩化揮発挙動に及ぼす影響について検討した。具体的には、無機塩素化
合物の種類(NaCl、KCl、CaCl 2 )が、重金属酸化物(PbO、ZnO、CuO)の塩化揮
発挙動に及ぼす影響について調べるために、重金属酸化物に対して NaCl、KCl、
CaCl 2 を個々に含有させた模擬飛灰を用いて実験を行った。次に、実際の都市ご
み溶融飛灰における無機塩素化合物の組成を考慮し、重金属酸化物に対して
i)NaCl および KCl、ii)CaCl 2 、NaCl および KCl を含有させた模擬飛灰を用いて
実験を行い、NaCl、KCl、CaCl 2 を個々に含有させた模擬飛灰の結果と比較した。
加えて、実際の廃棄物溶融設備で得られた溶融飛灰の加熱処理実験を行い、模
擬飛灰で得られた結果と比較することによって、溶融飛灰中の NaCl、KCl、CaCl 2
ならびに他の灰成分が重金属の揮発挙動に及ぼす影響について検討した。
3.2 実験
3.2.1 試料性状
(1) 溶融飛灰の試料性状
溶融飛灰中の重金属揮発挙動に及ぼす含有無機塩素化合物ならびにその他の
灰成分の影響を調べるにあたり、異なる溶融原料および溶融設備から排出され
た溶融飛灰を用いた。
Table 3.1
Ultimate
analysis dry
basis [%]
Ash
composition
Chemical Composition of Molten Fly Ashes
Molten fly ash A
Molten fly ash B
Molten fly ash C
C
3.66
9.56
2.31
H
0.41
1.65
0.69
N
0
0
0
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
Pb
24000
0.116
20000
0.097
16000
0.077
Zn
120000
1.835
28000
0.428
20000
0.306
Cu
1500
0.024
3800
0.060
2700
0.043
Fe
10000
0.179
11200
0.201
800
0.014
Cd
190
0.002
0
0.000
120
0.001
Ca
82000
2.046
194400
4.851
130000
3.244
Na
104000
4.524
54200
2.358
166000
7.221
K
156000
3.990
68900
1.762
77000
1.969
Si
16000
0.570
37400
1.332
1200
0.043
Al
15000
0.556
7900
0.293
400
0.015
-
188000
5.303
220000
6.206
268000
7.559
Cl
Rcl
1.35
78
5.30
8.87
Table 3.1 に、本実験で用いた溶融飛灰の成分分析結果を示す。Molten fly ash
A は都市ごみ焼却灰の電気式灰溶融設備から発生した溶融飛灰、Molten fly ash
B は ASR(Automobile Shredder Residue)のシャフト式溶融設備から排出された
溶融飛灰、Molten fly ash C は都市ごみのガス化溶融設備から排出された溶融
飛灰である。試料の特徴として、Molten fly ash A は、捕集時にバグフィルタ
への消石灰吹込みを行っておらず、消石灰吹込み処理を行っている Molten fly
ash B、Molten fly ash C に比べてカルシウムの含有量が少ない。また、Molten
fly ash A および C は、都市ごみ由来の Na、K 含有量が、Molten fly ash B に
比べて 1.1‐3.1 倍程度多く含まれている。
(2) 模擬飛灰の試料性状
実 際 の 溶 融 飛 灰 に 含 ま れ る 重 金 属 の 塩 化 揮 発 挙 動 に つ い て 、 Eqs.(3.1)‐
(3.4)に基づく無機塩素化合物と重金属との基礎的な反応・揮発特性を検討する
ため、模擬飛灰を用いて実験を行った。
Me a O b + bCaCl 2 → aMeCl 2 + bCaO + (a-b)Cl 2
Me a O b + 2bNaCl → aMeCl 2 + bNa 2 O + (a-b)Cl 2
Me a O b + 2bKCl → aMeCl 2 + bK 2 O + (a-b)Cl 2
aMeCl 2 → aMeCl 2 ↑
(3.1)
(3.2)
(3.3)
(3.4)
ここで Me は模擬飛灰に含有させる重金属(Pb、Zn、Cu)であり、a および b
は化学量論係数である。模擬飛灰に添加する重金属については、高岡ら
11)
が逐
次抽出法によって求めた飛灰中の銅は CuO、Cu 2 O、鉛は PbO、PbO 2 、亜鉛は ZnO
の形態として存在していると考えられていることから、本研究では模擬飛灰中
の銅、鉛、亜鉛を PbO、ZnO、CuO として添加した。
実験では、Eqs.(3.1)‐(3.3)によって行われる無機塩素化合物と重金属酸化
物(PbO、ZnO、CuO)の塩化反応特性を調べるために、重金属酸化物(PbO、ZnO、
CuO)の特級試薬に対して、個々に無機塩素化合物を添加した模擬飛灰(Model
ash A‐C)を調製した。一方、実際の溶融飛灰の場合、NaCl、KCl、CaCl 2 が共
存して含有されることがあるため、Eqs.(3.1)‐(3.3)が共存する系を想定して
PbO、ZnO、CuO 試薬に対して無機塩素化合物を混合物((i)NaCl および KCl、
79
(ii)CaCl 2 、NaCl および KCl)として添加した模擬飛灰(Model ash D、E)を調製
した。Table 3.2 に模擬飛灰の試料性状を示す。
Table 3.2
Model ash A
Chemical Composition of Model Ashes
Model ash B
Model ash C
Model ash D
Model ash E
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
[mg/kg]
[mol/kg]
Pb
289000
1.39
282000
1.36
249000
1.20
265000
1.28
272000
1.31
Zn
91000
1.39
89000
1.36
79000
1.20
84000
1.28
86000
1.31
Cu
89000
1.39
86000
1.36
76000
1.20
81000
1.28
83000
1.31
Ca
168000
Na
-
-
K
-
-
Cl-
297000
RCl[-]
4.18
8.34
1.0
188000
289000
-
-
-
8.17
-
-
-
-
53000
1.31
88000
3.83
60000
2.63
-
212000
7.22
150000
3.83
103000
2.63
8.17
326000
7.22
272000
7.66
279000
7.88
1.0
1.0
1.0
1.0
Model ash A‐E を調製するにあたり、模擬飛灰中の重金属含有量に対する無
機塩素化合物試薬(CaCl 2 、NaCl、KCl)の添加量は、Eq.(3.5)で定義した当量
比( R Cl )で 1.0 となるようにした。
R Cl = M Cl / ( M Cu + M Pb + M Zn )
(3.5)
ここで、 M Cl は試料中の無機塩素化合物に含有する Cl 量(mol)、 M Cu 、 M Pb およ
び M Zn はそれぞれ試料中の銅、鉛および亜鉛がすべて塩化物となるために必要
な Cl 量(mol)である。
一方、模擬飛灰と実際の溶融飛灰で得られた重金属揮発率の結果を比較する
ために、Molten fly ash A と同じ重金属および無機塩素化合物含有量となる模
擬飛灰(Model fly ash A)を調製した。Table 3.3 に Model fly ash A の試料
性状を示す。Model fly ash A では、実際の溶融飛灰中のカルシウム分の一部
は、溶融炉煙道ガス中の塩化水素ガスとの塩化反応によって生成した塩化カル
シウムとして存在することから、Model fly ash A に添加する Ca 分については、
Molten fly ash A 中のアルカリ性カルシウム分を、酸中和測定法によって求め、
これを Ca(OH) 2 として添加し、残りの Ca 含有量を全て CaCl 2 と仮定して添加し
た。ここで酸中和測定法とは、温度 313 K の水 1 L に試料 25 g を撹拌しながら、
1 min 単位で 1N-HCl を pH 8.2 まで滴下し、延べ 10 min での 1N-HCl 滴下量か
80
らアルカリ性カルシウム分を求める方法である。なおこれらの模擬飛灰は、乳
鉢で粉砕し、ふるいを用いてすべて粒径を 75 μm 以下に調製した後、378 K で
120 min 乾燥を行った。
Table 3.3
Chemical Composition of Model Fly Ash A
Model fly ash A
[mg/kg]
[mol/kg]
Pb
24000
0.116
Zn
120000
1.835
Cu
1500
0.024
Ca (CaCl2)
67600
1.687
Ca (Ca(OH)2)
14400
0.359
Na
104000
4.524
K
156000
3.990
Al
9000
0.338
-
421500
11.889
Cl
RCl
3.01
3.2.2 実験装置および方法
本実験で用いた加熱処理実験装置および実験方法は、第2章に準拠した。実
験装置は窒素ガス供給装置および反応管下部からなるガス予熱部、反応部、重
金属捕集フィルタならびに 5%硝酸溶液からなる揮発重金属捕集部および 1%
NaOH 溶液の排ガス処理部から構成されている。反応管は、内径φ50 mm、全長
700 mm の石英ガラス製である。
加熱処理実験では、試料 2.0 g を載せたφ40 mm×5 mm の石英皿を、電気炉
によって一定温度に保たれた窒素雰囲気の反応管へ、ステンレスワイヤーの長
さを調節して導入した。その後、試料は一定時間保持され、反応終了とともに
石英皿を、ステンレスワイヤーを巻き上げて反応管最上部に移動し、試料皿を
常温付近まで冷却した後、反応残渣を採取した。Table 3.4 に実験条件を示す。
加熱処理実験後、採取した反応残渣は王水を用いて酸溶解し、得られた溶液
中の重金属濃度は、ICP 発光分光分析装置(PerkinElmer Japan Co., Ltd.、Optima
3300DV)を用いて測定し、各種重金属の揮発率 V M (%)を以下の Eq.(3.6)で定義
した。
81
V M = 100 × {1-( M R / M S )}
(3.6)
ここで、 M R は実験後の試料に残存する重金属量(mg)、 M S は実験前の試料に含
まれる重金属量(mg)である。
Table 3.4
Experimental Conditions
Sample weight [g]
2.0
Temperature [K]
873,973,1023,
1073,1123,1173
Hold time [min]
15, 30, 60, 120
Atmosphere
N2
Gas flux [ml/min]
500
3.3 実験結果および考察
3.3.1 無機塩素化合物が重金属酸化物の塩化揮発挙動に及ぼす影響
(1) 重金属酸化物の塩化揮発挙動の経時変化
Model ash A‐C を 1023 K で加熱処理した時の鉛、亜鉛および銅の揮発率の
経時変化を Figure 3.1 に示す。ここで温度は、熱重量測定装置(株式会社島
津製作所、TGA)による NaCl、KCl、CaCl 2 試薬の窒素流通下での 5 K/min の昇
温に伴う重量変化の結果から、無機塩素化合物が揮発しない上限温度として
1023 K とした。予め Model ash A を 1023 K で 120 min 加熱して得られた重金
属回収物の X 線回折分析を行った結果、重金属回収物中に存在する Pb、Zn、Cu
の化合物形態として PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl 2 を確認した。
本図より、Model ash A-C 中の鉛は、加熱開始とともに揮発率が増加し、保
持時間 15 min 以降は、いずれの模擬飛灰も揮発率の増加が緩やかとなることが
分かる。保持時間 120 分での鉛の揮発率を比較すると、Model ash A(CaCl 2 )>
Model ash B(NaCl)>Model ash C(KCl)の順に大きくなることが分かった。一方、
亜鉛はすべての Model ash について揮発が確認されず、銅については、保持時
間 120 min で最大 30%程度の揮発率(Model ash A)に留まった。
鉛については、予備実験にて得られた Model ash A からの重金属回収物中に
82
は、PbCl 2 を確認しており、本研究のような流通系での塩化反応の場合、生成し
た PbCl 2 が揮発することによって、PbO と NaCl、KCl および CaCl 2 との塩化反応
による PbCl 2 の生成が進行したものと考察される。一方、鉛の揮発率が、Model
ash A > B > C の順に大きくなった原因については、市販の熱力学平衡計算ソ
フト(HSC Chemistry, Outokumpu Research Oy Information Service)によっ
て得られた 1023 K における PbO と NaCl、KCl および CaCl 2 との塩化反応の平衡
定数は、それぞれ 3.62×10 -1 (PbO + CaCl 2 = PbCl 2 + CaO)、9.89×10 -14 (PbO +
NaCl = PbCl 2 + Na 2 O)、7.01×10 -19 (PbO + KCl = PbCl 2 + K 2 O)と CaCl 2 > NaCl
> KCl の順に大きいためと推測される。
保持時間 15 min 以降、鉛の揮発率が緩やかとなった原因としては、上述の鉛
の平衡定数は、3.62×10 -1 と反応が右には進みにくい条件であるためと推測さ
れる。保持時間 120 min 後の Model ash A の反応残渣を 100 ml の蒸留水で抽出
し、得られた残留物中の Pb 量を測定した結果、反応残渣中の Pb のうち 99.9%
が残留物中に残留した。ここで PbO( 10.7 mg/100 g at 25℃)と PbCl(1008
mg/100
2
g at 25℃)の溶解度の差から、残留物中に残留した鉛はほぼ全て PbO であると
推測される。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Hold time [min]
Model ash Pb
A(CaCl2)
B(NaCl)
C(KCl)
Figure 3.1
Zn
100
120
Cu
Effect of Hold Time on Metal Volatilization: Temperature 1023 K
83
一方、亜鉛および銅については、実験後に得られた反応残渣の X 線回折分析
より、残渣中に ZnO、CuO の存在が確認されており、1023 K では ZnO、CuO と NaCl、
KCl および CaCl 2 とは反応しにくいものと考えられる。以上の結果より、保持時
間 120 min であれば、重金属酸化物の塩化揮発がほぼ完了していることから、
以降の実験については、保持時間を 120 min と固定して実験を行った。
(2) 無機塩素化合物の混合物と重金属酸化物の塩化揮発挙動
実際の溶融飛灰では、複数の無機塩素化合物を含有していることから、加熱
処理時に Eq.(3.1)‐(3.3)による塩素化反応が共存していることが考えられる。
そこで次に(i)NaCl および KCl、(ii)CaCl 2 、NaCl および KCl を混合した模擬
飛灰(Model ash D、E)を、1023 K で 120 min 間加熱処理し、重金属の揮発率を
調べた結果を Figure 3.2 に示す。Model ash D および E の結果と比較するため
に、Figure 3.1 の保持時間 120 min 後に得られた Model ash B、C の揮発率の
平均値、Model ash A、B、C の揮発率の平均値を併せて示した。ここで Model ash
D は、Model ash B および C を 1:1 の割合で混合することで調製し、Model ash E
は、Model ash A、B、C を 1:1:1 の割合で混合することで調製したことから、
NaCl、KCl および CaCl 2 がそれぞれ独立して重金属の塩化反応に寄与した場合、
両者の揮発率はほぼ同程度となることが推測された。
本図より、Model ash D および E の結果と、Model ash B、C の揮発率の平均
値および Model ash A、B、C の揮発率の平均値の結果とを比較すると、鉛の揮
発率は Model ash D、E の方が大きくなり、銅の揮発率は逆に揮発率が小さくな
ることが分かった。亜鉛は Model ash D および E ともに、揮発が認められなか
った。ここで Model ash E の銅の揮発率が、Model ash A、B、C の揮発率の平
均値よりも小さくなった原因について、実験後に得られた Model ash E の反応
残渣中の銅の化合物形態を調べた。Model ash E の反応残渣を 100 ml の蒸留水
で抽出し、残留物中に残留した Cu 量を測定した。その結果、反応残渣中の Cu
量のうち 97.6%の Cu が残留物中に残留した。ここで CuO は水に不溶であるこ
とを予備実験にて確認済みであり、温度 298 K における CuCl 2 の溶解度は 74.8
g/100 g であることから、残留物中に残留した Cu は主として CuO と考えられた。
したがって Model ash E の反応残渣中には CuCl 2 がほぼ存在しないと考えられ
84
ることから、Model ash E で揮発率が低下したのは、無機塩素化合物が混合物
として存在することにより、CuO との塩化反応挙動が異なったためと推測され
た。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Figure 3.2
Ave.model ash B + C
Model ash D(NaCl+KCl)
Ave.model ash A + B + C
Model ash E(CaCl2+NaCl+KCl)
Pb
Zn
Cu
Effect of the Inorganic Chlorides on Heavy Metal Volatilization:
Temperature 1023 K, Hold Time 120 min
(3) 無機塩素化合物混合物の溶融挙動
Figure 3.2 における Model ash E の揮発率と Model ash A‐C の揮発率の平
均値との相違についてさらに考察するため、示差熱分析装置(株式会社島津製
作所、DTA-50)を用いて加熱処理時における無機塩素化合物の溶融挙動を調べ
た。Figure 3.3 に無機塩素化合物試薬((a)CaCl 2 、(b)NaCl、(c)KCl)ならび
に無機塩素化合物試薬の等モルの混合物((d)NaCl + KCl、(e)CaCl 2 + NaCl + KCl)
2.0 mg の N 2 流通下における示差熱分析結果(DTA)を示す。
本図より、(a)CaCl 2 、(b)NaCl、(c)KCl の吸熱反応開始温度は、973 K(CaCl 2 )、
1060 K(NaCl)、1023 K(KCl)と、無機塩素化合物の融点(CaCl 2 :1045 K、NaCl:
1074 K、KCl:1043 K)12) に近いことが分かった。一方、(d)NaCl + KCl、(e)CaCl 2
+ NaCl + KCl の吸熱反応開始温度は、923 K(NaCl + KCl)、823 K(CaCl 2 + NaCl
+ KCl)と、無機塩素化合物よりも 100‐200 K 程低いことが分かった。これは
(d)NaCl + KCl、(e)CaCl 2 + NaCl + KCl の場合、加熱処理中において何らかの
85
低融点共融混合物(NaCl‐KCl:融点 931 K、NaCl‐CaCl 2 :融点 773 K) 13) を形成
していることが推測された。このことから Figure 3.2 の結果で、鉛および銅の
揮発率について、Model ash E と Model ash A、B、C の揮発率の平均値とに違
いが見られた原因の一つとして、Model ash D、E 中の無機塩素化合物が 1023 K
以下の温度で共融混合物となることにより、PbO および CuO との塩化反応挙動
に影響を及ぼしたことが推測された。
(e)
0
(c)
DTA [μV]
-20
(b)
(d)
-40
-60
-80
-100
273
Figure 3.3
(a) CaCl2
(b) NaCl
(c) KCl
(d) NaCl+KCl
(e) CaCl2+NaCl+KCl
473
673
873
Temperature[K]
(a)
1023
1073
1273
DTA Results of the Inorganic Chlorides: Sample Weight 2.0mg, N 2 -Flow
50 ml/min, Heating Rate 2 K/min
3.3.2 溶融飛灰の重金属揮発挙動
(1) 溶融飛灰、模擬溶融飛灰中の鉛の揮発挙動の比較
実際の溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす含有無機塩素化合物の影響を検
討するために、実際の溶融設備から得られた溶融飛灰ならびにそれと同じ灰組
成の模擬飛灰を用いて実験を行い、両飛灰の揮発率変化を比較した。Figure 3.4
に Molten fly ash A、Model fly ash A 中の鉛の揮発率と加熱温度との関係を
示す。本結果より鉛は、873 K 付近から加熱温度の上昇に伴って揮発率が上昇
し、1173 K では Molten fly ash A は 100%、Model fly ash A は 90%の揮発率
が得られ、両溶融飛灰中の鉛の揮発率変化には良好な一致が認められた。
86
Pb volatilization ratio [%]
80
60
600
Model fly ash A
Model fly ash A’
450
Molten
fly ash A
40
300
20
150
0
873
Figure 3.4
Molten fly ash A + HCl acid.
Vapor pressure [mmHg]
760
100
Vapor pressure of PbCl2
1023
973
1073
Temperature[K]
0
1173
Effect of Temperature on Pb Volatilization Ratio with Molten Fly Ash A
and Model Fly Ash A: Hold Time 120 min
鉛の揮発率が 1023 K 付近から急激に上昇する挙動を示したことについて、
Molten fly ash A 中の鉛揮発挙動と PbCl 2 の蒸気圧の関係から考察した。Figure
3.4 に、Molten fly ash A 中の鉛、亜鉛、銅、鉄、カルシウム含有量に対して
当量の塩酸を、第2章で報告した塩酸含浸処理法に基づいて添加した時の鉛の
揮発率変化(Molten fly ash A + HCl acid)を併示した。ここで、塩酸添加後
の Molten fly ash A 中の鉛はほぼすべて塩化鉛となっていることを確認してい
ることから、Molten fly ash A + HCl acid 中の鉛の揮発率変化は、主として
PbCl 2 の揮発によるものと考えられた。
本図より、Molten fly ash A+HCl acid の結果と Molten fly ash A の結果
を比較すると、Molten fly ash A+HCl acid の揮発率は、973 K でほぼ 100%
の揮発率が得られたのに対し、Molten fly ash A では 16.8%程度に留まってい
ることから、Molten fly ash A 中には、まだ未反応の鉛が存在していることが
考えられた。このことから鉛の揮発率が 1023 K 付近から急激に向上したのは、
生成した PbCl 2 の蒸気圧上昇に伴う揮発率向上よりも、低温では進みにくかっ
た鉛と無機塩素化合物との塩化反応が、温度の上昇と共に含有する CaCl 2 (融
点:1045 K)、NaCl(融点:1074 K)、KCl(融点:1043 K)の溶融により促進
87
されたことが原因であると推測される。
1023 K における Model fly ash A の鉛揮発率と、Figure 3.2 の Model ash E
の結果を比較すると、Model fly ash A の R Cl が 3.01(Table 3.3)と、Model ash
E の 1.0(Table 3.2)よりも高いにもかかわらず、Model fly ash A の揮発率は
30.7%と、Model ash E の 71.8%に比べて低くなった。これは、溶融飛灰中に
Ca(OH) 2 が存在する場合、共存する Ca(OH) 2 によって鉛の揮発率が低下すること
が確認されており
6)
、Ca(OH) 2 を含有する Model fly ash A についても、同様の
挙動が起ったことが考えられた。ここで本実験条件 873‐1173 K における PbO
と CaCl 2 との塩化反応(PbO + CaCl 2 = PbCl 2 + CaO)の平衡定数は 1.37×10 -1
(873 K)‐3.62×10 -1 (1173 K)の範囲であり、反応は右には進みにくいこと
から、Ca(OH) 2 の増加に伴う鉛揮発率の減少の原因としては、Ca(OH) 2 の分解に
よって Model fly ash A 中に CaO が増加したことにより、PbO と CaCl 2 との塩化
反応が平衡論的に進みにくくなったことが推測された。
PbO と無機塩素化合物との塩化揮発挙動に及ぼす含有 Ca(OH) 2 の影響を確認
するため、Model fly ash A 中の Ca(OH) 2 分を Al 2 O 3 で置き換えた試料(Model fly
ash A’)を用いて、加熱処理実験を行った結果を、Figure 3.4(■)に併せて
示す。本図より、Model fly ash A’中の鉛は、Model fly ash A と比較して揮
発率が約 10‐30%程度向上し、1023 K における揮発率は約 70%と、Model ash
E と同程度の揮発率が得られることを確認した。
(2) 溶融飛灰、模擬溶融飛灰中の亜鉛の揮発挙動の比較
Figure 3.5 に Molten fly ash A、Model fly ash A の亜鉛の揮発率と加熱温
度との関係を示す。本図より、Model fly ash A 中の亜鉛の揮発は、ほとんど
見られず、1173 K でもほぼ 0%となった。これは、ZnCl 2 の沸点が 1005 K であ
り、1173 K では十分揮発できることから、Model fly ash A 中の NaCl、KCl お
よび CaCl 2 と酸化亜鉛との塩化反応が進みにくいことによるものと考察された。
一方、Molten fly ash A の亜鉛の揮発率は、加熱温度の上昇とともに増大し、
1173 K の時に 67.5%が得られた。このことから、Molten fly ash A 中の亜鉛
は無機塩素化合物による塩化反応によって揮発しているわけではなく、飛灰中
の何らかの共存成分の影響によって揮発が進行しているものと考えられた。
88
そこで、Molten fly ash A 中の亜鉛が、どのような化合物形態で揮発してい
るのかを考察するために、Figure 3.4 の Molten fly ash A+HCl acid を加熱
処理した時の亜鉛の揮発率ならびに Zn、ZnCl 2 の蒸気圧曲線を、Figure 3.5 に
併せて示す。ここで、塩酸添加後の Molten fly ash A 中の亜鉛はほぼすべて塩
化物として存在することを事前に確認した。本図より、Molten fly ash A + HCl
acid の亜鉛揮発率は、Molten fly ash A の結果とは異なり ZnCl 2 の蒸気圧曲線
の向上に伴って亜鉛の揮発率が向上し、973 K で 100%の揮発率が得られた。一
方、Molten fly ash A の結果(▲)と Zn、ZnCl 2 の蒸気圧曲線とを比較すると、
Molten fly ash A 中の亜鉛揮発率変化は、ZnCl 2 ではなくむしろ Zn の蒸気圧曲
線と傾向的に一致することが認められた。したがって加熱処理時における
Molten fly ash A 中の亜鉛は、塩化物として揮発しているのではなく、還元物
100
760
Molten fly ash A + HCl acid
80
60
40
Vapor pressure
of ZnCl2
20
0
873
Figure 3.5
Molten fly ash A
600
450
300
Vapor pressure of Zn
Model fly ash A
973
1073
Temperature[K]
150
Vapor pressure [mmHg]
Zn volatilization ratio [%]
として揮発したものと推測された。
0
1173
Effect of Temperature on Zn Volatilization Ratio with Molten Fly Ash A
and Model Fly Ash A: Hold time 120 min
ここで実際の乾式亜鉛製錬プロセスでは、約 1223 K の加熱温度下で炭素源と
してのコークスによって Eqs.(3.7)およ び(3.8)に 示す還元揮発が行われるこ
とや
14)
、ZnO を含有する試料に対して Fe 2 O 3 ならびに炭素源が共存する場合、
89
Eqs.(3.9)および(3.10)によって酸化亜鉛(融点 2248 K)が Zn(融点 693 K)
に還元・揮発促進されることが報告されている
ZnO(s) + C(s) = Zn(g) + CO(g)
ZnO(s) + CO(g) = Zn(g) + CO 2 (g)
Fe 2 O 3 (s) + 3C(s) = 2Fe(s) + 3CO(g)
ZnO(s) + Fe(s) = Zn(g) + FeO
15)
。
(3.7)
(3.8)
(3.9)
(3.10)
そこで未燃炭素ならびに鉄の含有量が異なる Molten fly ash B、C を用いて
加熱処理実験を行い、Eqs.(3.11)‐(3.14)に基づく未燃炭素および鉄と重金属
との基礎的な反応・揮発特性を検討した。
Me a O b +
Fe d O e +
Me a O b +
aMe →
bC → aMe + bCO
eC → dFe + eCO
bFe → aMe + Fe a O b
aMe↑
(3.11)
(3.12)
(3.13)
(3.14)
ここで Me は模擬飛灰に含有させる重金属(Zn)であり、a, b, d, e は化学
量論係数である。Eqs.(3.11)‐(3.14)が本実験温度でおこるかどうかを確認す
るために予備実験として Fe 2 O 3 と C と ZnO を 1:3:2 モル比で混合させた試料 2.0
g を 1173 K で 120 min 加熱し、得られた重金属回収物および反応残渣の X 線回
折分析を行った。その結果、重金属回収物の化合物形態として Zn を確認し、さ
らには反応残渣中の鉄の化合物形態として FeO を確認した。
Figure 3.6 に加熱温度の変化に伴う亜鉛揮発率変化と試料性状の関係を示す。
本図より、Molten fly ash A‐C 中の亜鉛は、含有する鉄および未燃炭素が多
い飛灰ほど、揮発率が増大する傾向が認められた。未燃炭素ならびに鉄分が少
ない Molten fly ash C に対して、Molten fly ash B と同じ鉄含有量となるよ
うに Fe 2 O 3 試薬を添加した試料(Moten fly ash C’)、ならびに Molten fly ash
A と同じ炭素含有量となるようにカーボン試薬を添加した試料(Molten fly ash
C”)を用いて実験を行い、炭素および鉄添加による亜鉛揮発率の影響について
詳細に調べた。その結果を Figure 3.6 に併せて示す。ここで添加した Fe 2 O 3 試
薬ならびにカーボン試薬は、Fe 2 O 3 特級試薬ならびにカ ー ボ ン 粉 末 試 薬 ( 純 度
90
99%以上)を乳鉢で粉砕し、ふるいを用いて粒径が 75 μm 以下となるように調
製したものを使用した。本図より、1173 K における Molten fly ash C’(Fe 2 O 3
添加)中の亜鉛は、Molten fly ash C に比べて約 15%の揮発率向上が認められ
た。さらに Molten fly ash C”(カーボン添加)中の亜鉛揮発率は、Molten fly
ash C に比べて 1173 K の時に約 80%の揮発率向上が認められ、Molten fly ash
A とほぼ同じ揮発率となった。以上の結果より、加熱処理時における溶融飛灰
中の ZnO は、主として溶融飛灰中の未燃炭素分による Eqs.(3.11), (3.14)の亜
鉛還元反応、さらには Eqs.(3.12)‐(3.14)による鉄の酸化・還元反応を経由し
た亜鉛の還元反応などによって生成した Zn として、揮発していることが推測さ
Zn volatilization ratio [%]
れた。
100
80
60
40
Molten
Fe
C
fly ash
[mg/kg] [%]
A(Zn):
10000 3.66
B(Zn):
11200 9.56
C(Zn):
800 2.31
C’(Zn): 10000 2.31
C’’(Zn):
800 9.56
Molten fly ash B
Molten fly ash C
20
0
873
Figure 3.6
Molten fly ash A
973
1073
Temperature[K]
1173
Effect of Temperature on Zn Volatilization with Molten Fly Ash A, B and
C: Hold Time 120min
(3) 溶融飛灰、模擬溶融飛灰中の銅の揮発挙動の比較
Figure 3.7 に Molten fly ash A、Model fly ash A で得られた銅の揮発率変
化を示す。本図より、1173 K における Molten fly ash A 、Model fly ash A
の銅揮発率は、それぞれ 12.6%、43.4%と、Molten fly ash A の揮発率が小さ
くなった。この揮発率の相違について、加熱処理時における Molten fly ash A
91
中の銅の化合物形態を考察するため、Figure 3.4 の Molten fly ash A+HCl acid
を加熱処理した時の銅揮発率を調べ、Figure 3.7 に併せて示した。ここで Molten
fly ash A+HCl acid 中の銅はほぼすべて塩化物として存在することを事前に
確認している。本図より、Molten fly ash A+HCl acid 中の銅は 1123 K の時
でも約 60%の揮発率しか得られておらず、温度 873‐1173 K において Molten fly
ash A+HCl acid に含有される塩化銅は揮発しにくいことが考察された。一方、
Molten fly ash A 中の銅は、Molten fly ash A+HCl acid の結果と比較して揮
発率の向上がほとんど見られず、Molten fly ash A 中の銅と無機塩素化合物と
の塩化反応が進んでいないものと考えられた。
Cu volatilization ratio [%]
100
80
A(Cu)
A”(Cu)
:
:
Fe
C
[mg/kg] [%]
10000 3.66
60
Molten fly ash
A(Cu)
:
A+HCl acid(Cu):
10000 3.66
10000 3.66
Model fly ash
40
20
0
873
Figure 3.7
973
1073
Temperature[K]
1173
Effect of Temperature on Cu Volatilization Ratio with Molten Fly Ash A
and Model Fly Ash A: Hold Time 120min
この一因として亜鉛と同様に、含有する未燃炭素、鉄の存在によって、銅が
還元されていることが推測されたことから、1173 K における酸化銅と未燃炭素
(C)、鉄(Fe)との還元反応における平衡定数を調べた。その結果、それぞれ 1.92
×10 7 (CuO + C = Cu + CO(g)) 、1.11×10 6 (CuO + Fe = Cu + FeO)が 得 られ
たことから、溶融飛灰中に酸化銅および鉄、未燃炭素分が存在した場合、溶融
飛灰中の銅成分は容易に Cu となることが考えられた。ここで生成した Cu は、
92
1173 K における CaCl 2 、NaCl、KCl との塩化反応の平衡定数が、7.931×10 -26(Cu
+ CaCl 2 = CuCl 2 + Ca) 、 1.723×10 -25 ( Cu + 2NaCl = CuCl 2 + 2Na) 、 1.248
×10 -27 (Cu + 2KCl = CuCl 2 + 2K)と、CuO と CaCl 2 、NaCl、KCl との塩化反応
における平衡定数(CaCl 2 :2.68×10 -5 、NaCl:2.491×10 -16 、KCl:8.561×10 -21 )
よりも高く、Cu は、CuO に比べて無機塩素化合物との塩化反応が進みにくいこ
とが推測された。
そこで Eqs.(3.11)‐(3.14)に よ る 溶 融 飛 灰 中 の 銅 に 対 す る 含 有 未 燃 炭 素 な
らびに鉄分の影響を調べるために、Model fly ash A に対して、Molten fly ash
A と同じ鉄、炭素含有量となるように Fe 2 O 3 試薬およびカーボン試薬を添加した
試料(Model fly ash
A”)を用いて 1173 K の加熱処理を行った時の銅の揮発
率変化を調べ、Figure 3.7(■)に併せて示す。本図より、1173 K における Model
fly ash
A”の銅の揮発率は、Model fly ash A に比べて揮発率の低下が認め
られ、その揮発率は Molten fly ash A とほぼ一致した。以上の結果より、Molten
fly ash A 中の銅が無機塩素化合物との塩化反応によって揮発率が向上しない
のは、Molten fly ash A 中の CuO が含有する未燃炭素および鉄分の存在によっ
て還元され、これらの Cu の生成によって無機塩素化合物(NaCl、KCl、CaCl 2 )
との塩化反応が CuO に比べて進みにくくなったが原因と推測される。
3.4 結言
溶融飛灰中の重金属塩化揮発挙動に及ぼす含有 NaCl、KCl、CaCl 2 の影響につ
いて、模擬飛灰および溶融飛灰を用いて実験的検討を行い、以下の結果を得た。
1)
PbO、ZnO、CuO を含有する模擬飛灰に対して NaCl、KCl、CaCl 2 を個々添加
し、1023 K で加熱処理した時の鉛、亜鉛、銅の揮発率は、すべて CaCl 2 >
NaCl>KCl の順に高くなった。
2)
加熱温度の変化に伴う溶融飛灰中の鉛揮発率は、模擬飛灰の結果と傾向的
に一致し、873 K 付近から揮発率の向上が認められた。Ca(OH) 2 を含有する
溶融飛灰の場合、共存する Ca(OH) 2 によって PbCl 2 の揮発率が低下すること
が分かった。
3)
加熱温度の変化に伴う模擬飛灰中の亜鉛の揮発変化は、溶融飛灰の結果と
は異なり、これは溶融飛灰中の ZnO が含有する未燃炭素分ならびに鉄分と
93
の還元反応によって Zn を生成し、ZnO の融点よりも低い温度で揮発促進し
たためと考察された。
4)
溶融飛灰中の銅は、加熱温度の変化に伴う揮発率の向上がほとんど得られ
ず、これは亜鉛の揮発挙動と同様、溶融飛灰中の未燃炭素および鉄分の存
在によって CuO が Cu となることにより、無機塩素化合物との塩化反応が
CuO に比べて進みにくくなったためと推測された。
3.5 参考文献
1)
国立環境研究所:平成 14 年度環境省受託業務調査結果報告書
スラグ等再
生利用促進調査, 国立環境研究所 (2003)
2)
長崎英範:「溶融飛灰の山元還元」について, 都市清掃, Vol.51, No.227,
pp.605-610 (1998)
3)
高岡昌輝, 河合利幸, 武田信生, 大下和徹:溶媒抽出法による溶融飛灰か
らの重金属回収に関する研究, 環境工学研究論文集, Vol.39, pp.403-412
(2002)
4)
小笠原正巳:塩化揮発ペレット法の応用による硫化鉄鉱処理工場の完成,
日本鉱業会誌, Vol.83, No.951, pp.879-885 (1967)
5)
矢沢彬, 亀田満雄:硫酸滓の塩化揮発焼結法における2,3の問題, 日本鉱
業会誌, Vol.81, No.920, pp. 35-41 (1965)
6)
中山勝也, 田中誠基, 田島善直, 小島義弘, 小澤祥二, 松田仁樹, 高田
満:塩酸含浸・加熱処理による都市ごみ溶融飛灰中重金属の塩化揮発挙動
におよぼすカルシウム含有量の影響,
化 学 工 学 論 文 集 , Vol.29, No.6,
pp.787-794 (2003)
7)
高岡昌輝,蔵本康弘,武田信生,藤原健史:X 線光電子分光分析による飛
灰表面上の亜鉛,鉛,銅の化学形態の推定,廃棄物学会論文誌,Vol.12,
No.3,pp.102-111 (2001)
8)
中山勝也, 山本政英, 田中誠基, 小澤祥二, 松田仁樹, 高田
満:飛灰に
含有される重金属のハロゲン化反応による乾式分離特性, 廃棄物学会論文
誌, Vol.13, No.5, pp.271-278 (2002)
9)
長屋喜一, 平岩良郎:熱処理による重金属の揮散, 日立造船技法, Vol.37,
94
No.3, pp.170-175 (1976)
10)
Jakob, A., S. Stucki and P. Kuhn: Evaporation of Heavy Metals during
the Heat Treatment of Municipal Solid Waste Incinerator Fly ash,
Environmental Science & Technology, Vol.29, No.9, pp.2429-2436 (1995)
11) 高岡昌輝, 蔵本康宏, 武田信生, 藤原健史: 逐次抽出法による飛灰中亜鉛、
鉛 、 銅 お よ び カ ド ミ ウ ム の 化 学 形 態 推 定 , 土 木 学 会 論 文 集 , No.685,
pp.79-90 (2001)
12) 日 本 化 学 学 会 編 : 化 学 便 覧 基 礎 編
改 訂 4 版 , pp. Ⅱ 117- Ⅱ 123, 丸 善
(1993)
13)
George, J.: Molten Salts Handbook, pp.31-37, Academic Press, New York,
U.S.A (1967)
14) 日本金属学会:非鉄金属製錬,pp.107-115, 丸善 (1980)
15) 伊藤聰, 阿座上竹四:酸化亜鉛の鉄還元揮発反応‐鉄還元揮発法による亜
鉛製錬の基礎研究(第1報), 日本鉱業会誌, Vol.104, pp.297-302 (1986)
95
第4章
Intensity [cps]
Pb
Zn
Pb2OCl2
NaCl
KCl
10
20
30
40
50
60
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
70
80
第4章では、溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす未
燃炭素の影響を調べるために、含有未燃炭素量の異なる
溶融飛灰を用いて温度 873‐1173 K、N 2 ガス流通下での
加熱実験を行った。その結果、溶融飛灰中の PbO、ZnO、
CuO は CaCl 2 との塩素化反応と未燃炭素による還元反応
が併発的に起こり、塩化物(PbCl 2 、Pb 2 OCl 2 、ZnCl 2 )お
よび単体金属(Pb、Zn、Cu)となり、塩化物(PbCl 2 、Pb 2 OCl 2 、
ZnCl 2 )および Pb、Zn は揮発し、Cu は固体残渣中に残存
することが分かった。
96
第4章 溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす未燃炭素の影響
4.1 緒言
都市ごみの溶融処理の普及にともない、粗鉱石並みの鉛、亜鉛を含有する溶
融飛灰の排出量は、年間 10 万トン以上に達すると推定されている
1)
。これに対
して、溶融飛灰から重金属を再資源化する方法としては、湿式法では、酸抽出・
アルカリ沈殿処理
塩化揮発法
9)-13)
2),3)
および溶媒抽出
4),5)
、乾式法では、還元揮発
1),6)-8)
および
などが提案、検討されている。著者らも、溶融飛灰から効率的
に重金属を回収することを目的として、塩化揮発法を適用した鉛、亜鉛、銅の
揮発・分離回収の検討を行い、実溶融飛灰に対して HCl ガス(第1章)、塩酸
(第2章)ならびに溶融飛灰に含まれる無機塩素化合物(第3章)を塩素化剤と
する重金属の塩素化反応ならびに重金属塩化物の揮発挙動を検討した。
一方、還元反応を利用した溶融飛灰中の鉛、亜鉛の揮発挙動については、例
えば非鉄金属製錬での MF 法による溶融飛灰中の亜鉛、鉛の分離回収
1),6)
が進め
られている。さらには還元剤としてポリ塩化ビニル又は炭素粉末を添加したと
きの亜鉛、鉛の揮発挙動
態の還元反応への影響
8)
7)
、ならびに溶融飛灰に含まれる亜鉛、鉛の化合物形
についての検討が行なわれている。これらの金属分離
操作はいずれも炭素などの還元剤を被処理物に対して外部より添加したもので
あるが、著者らは、第3章において、無機塩素化合物(NaCl、KCl、CaCl 2 )によ
る溶融飛灰中重金属の塩化揮発に対して、含有する未燃炭素がその揮発挙動に
及ぼす影響について検討した。その結果、窒素流通下、加熱温度 1173 K、処理
時間 120 min 後の溶融飛灰中の亜鉛の揮発率は、含有炭素量によって大きく異
なり、それぞれ 100%(C 含有量:9.56wt%)、約 68%(C 含有量:3.66 wt%)、
約 18%(C 含有量:2.31 wt%)となることを認めた。しかしながら未燃炭素分
が溶融飛灰中の重金属の揮発挙動に及ぼす影響についてはいまだ不明な部分が
多い。
そこで本研究では、上記、筆者らの第3章での研究結果を踏まえて、無機塩
素化合物による重金属の塩化揮発に及ぼす溶融飛灰中の未燃炭素の影響を検討
した。具体的には、含有未燃炭素量の異なる計6種類の溶融飛灰を試料に選び、
97
未燃炭素量と鉛、亜鉛および銅の揮発率との関係、および揮発回収物、固体反
応残渣中に存在する金属化合物の X 線回折分析結果より、溶融飛灰中の重金属
酸化物の塩化あるいは還元反応とこれに起因する鉛、亜鉛、銅の揮発挙動を調
べた。
4.2 実験方法
4.2.1 試料およびその性状
(1) 溶融飛灰
実験に供した溶融飛灰(A‐F)の試料性状を Table 4.1 に示す。溶融飛灰 A
および D は都市ごみ焼却灰、B、C は都市ごみ、E、F は ASR(Automobile shredder
residue)を溶融処理した際に生成した飛灰である。なお溶融飛灰 A は電気式灰
溶融炉、C‐F はコークスベッド式溶融炉、B はガス化溶融炉から排出された溶
融飛灰であり、B‐F についてはバグフィルタ直前の煙道で消石灰吹き込みされ
たものである。
Table 4.1
Chemical Composition of Model and Molten Fly Ashes
Molten fly ash
Wt%
C
H
N
Pb
Zn
Cu
mg/kg
Rcl
Rc
A
3.66
0.41
0
24,000
120,000
B
2.31
0.69
0
16,000
20,000
1,500
2,700
5,000
24,000
D
2.44
0.73
0
4,800
17,000
E
1.54
1.43
0.01
18,000
60,000
F
9.56
1.65
0
20,000
28,000
2,000
370
2,900
3,800
C
1.11
Model
ash
F
0
0
0
20,000
28,000
3,800
Fe
Cd
Ca
Na
1,200 11,200
10,000
800
0
8,900 11,000
24
190
120
58
0
93
82,000 130,000 218,000 150,000 308,000 194,400 194,400
104,000 166,000 51,000 97,000 38,000 54,200 54,200
K
Si
Al
Cl-
156,000 77,000
16,000
1,200
15,000
400
188,000 268,000
1.35
8.87
1.54
4.52
6,700 68,900 68,900
56,000 110,000
1,600 37,400
0
73,000 46,000
600
7,900 78,000
21,000 22,000
96,000 190,000 182,000 220,000 220,000
2.44
5.31
5.31
3.20
9.27
1.25
7.04
13.63
0
2.19
溶融飛灰中 A‐F には鉛、亜鉛が多量に含まれているほか、1.11‐9.56 wt%
98
の未燃炭素分が存在する。一例として Figure 4.1 に、溶融飛灰 F の X 線回折
分析結果を示す。本図より、加熱処理前の溶融飛灰に含まれる鉛、亜鉛、銅は
それぞれ PbO、ZnO、CuO として存在していることがわかる。ナトリウム、カリ
ウム、カルシウムは、いずれも塩化物の形態(NaCl、KCl、CaClOH)を有するこ
とを確認している。なお、原灰の溶融飛灰の平均粒径は、約 10 μm 前後であり
元々、微粒子であることを確認している。しかし、原灰中には一部、粒子同士
が付着して粒径が大きくなっているものも存在するため、これらを十分、再微
粉化させた後、ふるいを用いてすべて粒径を 75 μm 以下に調製した。
Intensity [cps]
PbO
ZnO
CuO
NaCl
CaClOH
KCl
10
20
30
40
50
60
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
Figure 4.1
(2)
70
80
X-Ray Analysis of Molten Fly Ash F
模擬飛灰
実際の溶融飛灰に含まれる未燃炭素による重金属の塩化揮発に及ぼす影響を
検討するために、炭素を含まない模擬溶融飛灰を調製した。
ここでは溶融飛灰の中で未燃炭素分が最も多い溶融飛灰 F を選んだ。溶融飛
灰 F に含まれる重金属(Pb、Zn、Cu)ならびに無機塩素化合物(Ca、Na、K)の
含有量は、市販の特級試薬である PbO、ZnO、CuO、Ca(OH) 2 、CaCl 2 、NaCl、KCl
および Al 2 O 3 を混合、調製して決定した。ここで塩化カルシウムは、溶融飛灰 F
では CaClOH として存在している。しかし、CaClOH 試薬は市販されていないた
め、ここでは CaCl 2 として添加した。SiO 2 について、焼却飛灰中の PbO、ZnO は、
CaCl 2 および SiO 2 との反応により、PbCl 2 、ZnCl 2 および CaSiO 3 を生成すること
99
が報告されている
14)
。しかしながら Figure 4.1 の結果より、溶融飛灰 F 中に
SiO 2 の 存 在 は 認 め ら れ ず 、 後 述 す る 溶 融 飛 灰 F の 加 熱 処 理 後 の 残 渣 か ら も
CaSiO 3 の存在が認められていないことから、本実験での模擬飛灰 F の調製にあ
たり SiO 2 は除外した。本試料性状を Table 4.1 に併せて示す。この模擬飛灰 F
は、溶融飛灰のときと同様に乳鉢で粉砕し、ふるいを用いてすべて粒径を 75 μm
以下に調製した。
4.2.2
実験装置および方法
実験条件を Table 4.2 に示す。実験では、第2章で使用した石英製反応管型
揮発装置を使用した。溶融飛灰および模擬飛灰はあらかじめ温度 393 K で 120
min 乾燥させたものの約 2 g を試料皿(内径 40 mmφ×高さ 5 mm)に採取し、
これを温度 873‐1173 K、窒素流通雰囲気下(流量 500 ml/min、滞留時間 1.2 min)
の反応管内に挿入した。
Table 4.2
Experimental Conditions
Sample weight [g]
2.0
Temperature [K]
873, 973, 1023,
1073,1123,1173
Treating time [min]
1, 10, 30, 60, 120
Atmosphere
N2
N2 Gas flow rate
[ml/min]
500
一定温度で 120 min の加熱後、試料皿中の固体残渣を採取し、これを王水に
溶解し、ICP 発光分光分析装置(PerkinElmer Japan Co., Ltd.、Optima 3300DV)
を用いて、溶解液中の重金属濃度を測定した。この測定値を用いて重金属の揮
発率 V M (%)を Eq.(4.1)から算出した。
V M = 100 × (1 - ( M R / M S ))
(4.1)
ここで M R (mg)および M S (mg)は試料残渣ならびに実験前の溶融飛灰に含まれる重
100
金属含有量である。
さらに溶融飛灰の加熱処理実験後の試料皿に残存する固体残渣および揮発回
収物に含まれる金属成分は、X 線回折装置(株式会社リガク、RINT2500TTR)に
よって同定した。
4.3
結果と考察
4.3.1
溶融飛灰と模擬飛灰からの鉛、亜鉛、銅の揮発挙動
Figure 4.3 に実験開始 120 min 後における、溶融飛灰 F および模擬飛灰 F か
らの鉛、亜鉛、銅の揮発率の温度変化を示す。本図より、溶融飛灰 F 中の鉛(○
印)は 973 K まではほとんど揮発しないが、約 1073 K あたりから揮発率は急激
に増加し、1123 K 以上ではほぼ 100%に達している。これに対して模擬飛灰 F
中の鉛(●印)では、873 K の比較的低温度から揮発が認められる。しかし、
1173 K の高温においても揮発率は約 85%に留まっている。つぎに、溶融飛灰 F
中の亜鉛(△印)では、約 973 K 以上で温度上昇とともに急激に揮発を起こし、
1073 K 以上での揮発率はほぼ 100%を示したのに対して、模擬飛灰 F 中の亜鉛
(▲印)では、加熱温度の上昇にもかかわらず揮発率は低く、1173 K において
も約 25%に留まった。さらに溶融飛灰 F の銅(□印)では、加熱温度の増加に
ともなう揮発率の増加がほとんど認められず、1173K でも 5%程度となったのに
対して、模擬飛灰 F 中の銅(■印)では、1173K で約 45%の揮発率となった。
101
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
873
Figure 4.3
4.3.2
Pb Model ash F
Pb Molten fly Ash F
Zn Model ash F
Zn Molten fly Ash F
Cu Model ash F
Cu Molten fly Ash F
923
973 1023 1073
Temperature[K]
1123 1173
Effect of Temperature on Pb, Zn and Cu Volatilization for Model and
Molten Fly Ash F: Treating Time 120 min
未燃炭素分の有無による鉛、亜鉛、銅の揮発率の相違
Figure 4.3 に示した溶融飛灰 F と模擬飛灰 F からの鉛、亜鉛、銅の揮発挙動
の相違について、溶融飛灰 F を用いて加熱温度 1173 K、加熱開始 5 min 後の排
ガスをサンプリングして CO、CO 2 ガス濃度を測定したところ、CO が約 3.5%、
CO 2 が約 0.75%検出された。
このことから溶融飛灰 F の実験の場合、反応管内部は還元雰囲気となってい
るため、以下に、未燃炭素による重金属の還元反応について、(1)に塩素化反応
および還元反応の平衡論的検討、(2)に金属塩化物および単体金属の揮発挙動、
さらに(3)で実際の溶融飛灰の加熱実 験後で得られた固体残渣ならびに揮発回
収物中の金属成分分析結果を示し考察を行なった。
(1)
重金属酸化物の塩化および還元反応の平衡論的検討
溶融飛灰中重金属の塩素化反応に及ぼす未燃炭素の影響について、Eq.(4.2)
‐(4.4)の無機塩化物(CaCl 2 , NaCl, KCl)による塩素化反応、未燃炭素をカー
ボンと仮定した金属酸化物の還元反応(Eq.(4.5))および CO ガスによる還元反
応(Eq.(4.6))の平衡定数を、市販の熱力学平衡計算ソフト(株式会社科学技術
102
社、MALT2)を用いて調べた。ここで溶融飛灰 F 中の塩化カルシウムは Figure 4.1
の結果より、CaClOH として存在しているが、使用した市販の熱力学平衡計算ソ
フトに熱力学データが存在しないため、本研究では溶融飛灰中の塩化カルシウ
ムを CaCl 2 と仮定して平衡論的検討をおこなった。
MeO
MeO
MeO
MeO
MeO
+
+
+
+
+
CaCl 2 = MeCl 2 + CaO
2NaCl = MeCl 2 + Na 2 O
2KCl = MeCl 2 + K 2 O
C = Me + CO(g)
CO(g) = Me + CO 2 (g)
(4.2)
(4.3)
(4.4)
(4.5)
(4.6)
ここで、Me は重金属(Pb, Zn, Cu)を表わす。
Figure 4.4 に、温度 873‐1173 K での酸化鉛、酸化亜鉛、酸化銅に対する無
機塩素化合物(NaCl, KCl, CaCl 2 )による塩素化反応ならびに炭素による還元
反応の平衡計算結果を示す。本図より、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化銅の塩素化反
応は CaCl 2 > NaCl> KCl の順で起こりやすいことがわかる。この塩素化反応の傾
向は、第3章での実験的検討で報告した結果とも一致する。一方、金属酸化物
(PbO、ZnO、CuO)と炭素または CO ガスとの還元反応の平衡定数と塩素化反応
のそれを比較すると、いずれの金属酸化物も還元反応の方が大きいことがわか
る。単体金属(Pb、Zn、Cu)と CaCl 2 との塩素化反応の平衡定数は、金属酸化物
のそれと比べて低いことがわかる。
以上の結果より溶融飛灰中の酸化鉛、酸化亜鉛、酸化銅はおもに CaCl 2 によ
って塩素化されると考えられる。本実験条件下では未燃炭素が存在する溶融飛
灰で は金 属酸 化物 の還 元反 応が 優 先 的 に 進 行 し 、 生 成 し た 単 体 金 属 は 、 CaCl 2
による塩素化反応が酸化金属と比べて進みにくくなると考えられる。
103
1173
5
T [K]
1073
973
873
0
Log(Kp) [-]
-5
-10
-15
-20
-25
-30
-35
8.5 9.0 9.5 10.0 10.5 11.0 11.5
1 / T [X10-4 K-1]
Figure 4.4
(2)
PbO+C=Pb+CO(g)
PbO+CO(g)=Pb+CO2(g)
PbO+CaCl2=PbCl2+CaO
ZnO +C=Zn+CO(g)
CuO+C=Cu+CO(g)
ZnO+CO(g)=Zn+CO2(g)
CuO+CO(g)=Cu+CO2(g)
ZnO+CaCl2=ZnCl2+CaO
CuO+CaCl2=CuCl2+CaO
PbO+NaCl=PbCl2+Na2O
ZnO+NaCl=ZnCl2+Na2O
CuO+NaCl=CuCl2+Na2O
Zn+CaCl2=ZnCl2+Ca
PbO+KCl=PbCl2+K2O
ZnO+KCl=ZnCl2+K2O
Pb+CaCl2=PbCl2+Ca
CuO+KCl=CuCl2+K2O
Cu+CaCl2=CuCl2+Ca
Equilibrium Diagram of Chlorination and Reduction of Metal Oxides
重金属塩化物および単体金属の熱重量曲線
次に塩素化反応および還元反応によって生成した溶融飛灰中の金属塩化物お
よび単体金属の揮発挙動を考察するため、Figure 4.5 に塩化物(PbCl 2 、ZnCl 2 、
CuCl 2 )、単体金属(Pb、Zn、Cu)特級試薬の窒素流通下(100 ml/min)での昇温
(昇温速度:5 K/min)にともなう重量変化(TGA 曲線)を示す。
本図より、PbCl 2 は、温度 773 K 付近から重量減少が認められ 973 K でほぼ揮
発が完了しているのに対して、Pb の重量減少は約 1073 K から始まっており、
PbCl 2 に比べて約 300 K ほど高くなっている。ZnCl 2 および Zn は、それぞれ 673
K および 973 K 付近から急激な重量減少が認められ、Pb の場合と同様に Zn の方
が ZnCl 2 に比べて 300 K ほど高い。ここで Zn は 1273 K でも約 18%の重量減少
しか認められていないが、1273 K で保持した結果、重量減少は進行することを
確認した。一方、CuCl 2 は、373 K で水分の蒸発による重量減少が認められた後、
623K 付近から重量減少が認められるのに対して、金属銅は 1273K 以下での重量
減少は認められないことが分かった。
104
以上の結果より、溶融飛灰中に生成した金属鉛(Pb)および金属亜鉛(Zn)の揮
発挙動として、塩化鉛(PbCl 2 )および塩化亜鉛(ZnCl 2 )よりも 300 K 程度高い
温度から揮発が進行すると考えられる。金属銅は揮発せずに固体残渣中に残存
することが考えられる。
Weight [%]
100
Cu
Zn
80
CuCl2
40
ZnCl2
20
0
Figure 4.5
(3)
Pb
60
273
473
PbCl2
873 1073
673
Temperature [K]
1273
TGA Results of Weight Decrease by Volatilization of Reduced Metals
and Metal Chlorides: Heating Rate 5 K/min, N 2 -gas Flow Rate 100
ml/min
固体残渣および揮発回収物中の重金属化合物形態
Figures 4.6‐4.8 に溶融飛灰 F 中の重金属の還元および塩化反応挙動を調べ
るために、1023K、1173K の加熱温度の下、処理時間 1 min、10 min、30 min、
60 min、120 min で得られた固体残渣、および 1173K、120 min 後の揮発回収物
の X 線回折分析結果を示す。
105
1min
PbO
ZnO
CuO
Pb
Zn
Cu
PbCl2
ZnCl2
Intensity [cps]
10min
30min
60min
120min
10
Figure 4.6
20
30
40
50
60
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
70
80
X-Ray Analysis of Solid Residue in Molten Fly Ash F: Heating
Temperature 1023 K
1min
ZnO
CuO
Pb
Cu
Intensity [cps]
10min
30min
60min
120min
10
Figure 4.7
20
30
40
50
60
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
70
80
X-Ray Analysis of Solid Residue in Molten Fly Ash F: Heating
Temperature 1173 K
106
Intensity [cps]
Pb
Zn
Pb2OCl2
NaCl
KCl
10
Figure 4.8
20
30
40
50
60
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
70
80
X-Ray Patterns of Metal Chlorides and Reduced Metals Volatilized
from Molten Fly Ash F: Heating Temperature 1173 K, Treating Time
120 min
Figure 4.6 より、1023 K の加熱処理後に得られた固体残渣中の重金属成分と
しては、処理時間 1、10 min では酸化物(PbO、ZnO、CuO)、塩化物(PbCl 2 、
ZnCl 2 )および単体金属(Pb、Zn、Cu)の存在を確認した。処理時間の経過に伴
って、30 min では塩化物(PbCl 2 、ZnCl 2 )、60 min では酸化物(PbO、CuO)の
存在が認められなくなり、最終的に 120 min では、酸化物(ZnO)および単体金
属(Pb、Zn、Cu)のみが確認された。一方、Figure 4.7 での 1173K の加熱温度
で得られた固体残渣中の重金属成分としては、処理時間1、10 min では酸化物
(ZnO、CuO)および単体金属(Pb、Cu)が確認され、30 min 以降は、Cu のみが
確認された。Figure 4.8 での 1173 K、120 min 後に得られた揮発回収物中には、
鉛は Pb および Pb 2 OCl 2 の形態で、亜鉛は Zn の形態で確認され、ZnCl2 の存在は
認められなかった。以上の結果より、加熱初期における溶融飛灰中の鉛、亜鉛
については、未燃炭素による還元と無機塩素化合物(おもに CaCl 2 )による塩
素化が同時に起こっていると考えられる。一方、処理時間の経過とともに、未
燃炭素による酸化物(PbO、ZnO、CuO)の還元反応が塩素化反応に比べて優先的
に進行するとともに、生成した Pb、Zn および Cu が CaCl 2 との塩素化反応が進
みにくくなり、Pb、Zn、Cu が固体残渣中に残存したものと考えられる。ここで
温度 1173 K の場合では、加熱温度の増加によって、ZnO の還元反応が塩素化反
107
応よりも進んだために、ZnCl 2 が生成しなかったものと推測され、さらに重金属
酸化物の還元および塩素化反応によって生成した Pb、Zn、Pb 2 OCl 2 が速やかに
揮発したために、固体残渣中にそれらが残存しなかったものと推測される。
(4)
溶融飛灰中重金属の塩素化および還元揮発挙動
Figures 4.4‐4.8 で得られた結果に基づいて、Figure 4.3 の溶融飛灰 F なら
びに模擬飛灰 F 中各金属の揮発挙動の相違は以下のように説明される。鉛につ
いては、模擬飛灰 F では PbO は CaCl 2 との塩素化反応によって生成した PbCl 2
が揮発すると考えられる。一方、溶融飛灰 F では PbO は CaCl 2 との塩素化反応
に加えて未燃炭素による還元反応が進行し、PbCl 2 、Pb 2 OCl 2 ならびに金属鉛(Pb)
が生成される。しかし加熱時間の経過とともに、炭素分による還元反応が優先
的に進み、金属鉛(Pb)として揮発が進行する。このとき Pb は 1073K 以下では
揮発しないため、このことから Figure 4.3 の結果で溶融飛灰 F 中の鉛は、温度
1073K 以下では模擬飛灰 F に比べて揮発率が低く、それ以上の温度では塩化鉛
の揮発に加えて金属鉛が揮発するため、模擬飛灰 F に比べて揮発率が増大した
ものと考えられる。
亜鉛については、模擬飛灰 F では ZnO は CaCl 2 との塩素化反応によって生成
した ZnCl 2 が揮発すると考えられる。このとき模擬飛灰 F 中の亜鉛の揮発率は、
1173K でも約 25%に留まっている原因としては、Eq.(4.2)の CaCl 2 による塩素
化反応が平衡論的に進みにくいためと考えられる。溶融飛灰中の酸化亜鉛(ZnO)
については、溶融飛灰中の鉛と同様に、飛灰中の未燃炭素による還元反応が塩
素化反応に比べて優先的に起こり、金属亜鉛(Zn)として揮発したために、模擬
飛灰中の亜鉛の揮発率と異なったものと考えられる。銅については、未燃炭素
を含有する溶融飛灰では鉛、亜鉛と同様に CuO の還元反応が主体的に進行し、
金属銅を生成すると考えられる。一方、Figure 4.5 の結果より Cu は本実験温
度(873‐1173K)では重量減少は認められないため、これらの原因によって、溶
融飛灰からの銅の揮発率は低下したものと考えられる。
108
4.3.3
溶融飛灰からの重金属の揮発率と未燃炭素含有量との関係
溶融飛灰中の未燃炭素含有量が鉛、亜鉛、銅の揮発挙動に及ぼす影響を検討
するため、Table 4.1 に掲げた炭素含有量の異なる溶融飛灰 A‐F に対して、
Eq.(4.7) で定義される炭素当量比 R C [-]を用いて重金属揮発率を考察した。
R C = M C / ( M Cu + M Pb + M Zn )
(4.7)
ここで、M C は溶融飛灰中の未燃炭素含有量(mol)、M cu 、M Pb および M zn はそれぞれ
溶融飛灰中の酸化銅、酸化鉛、酸化亜鉛を還元するのに必要な炭素量(mol)であ
る。 Eq.(4.7)によって求めた各種溶融飛灰の R C 値を Table 4.1 に併記した。
また、溶融飛灰中の無機塩素化合物の含有量に対して、Eq.(4.8)で定義する塩
素当量比 R Cl [-]を用いて整理すると、 R Cl はいずれも 1.35‐9.27 となり、本実
験で使用した溶融飛灰には重金属の塩素化に必要な過剰量の塩素が含まれてい
ることがわかる。
R Cl = N Cl / ( N Cu + N Pb + N Zn )
(4.8)
ここに、N Cl は試料中の無機塩素化合物に含有する Cl 量(mol)、N Cu 、N Pb 、およ
び N Zn はそれぞれ試料中の銅、鉛、および亜鉛がすべて塩化物となるために必
要な Cl 量(mol)である。
Figures 4.9 および 4.10 に、それぞれ 1023 K および 1173 K において溶融飛
灰 A‐F を 120 min 加熱した後の鉛、亜鉛、銅の揮発率と炭素当量比 R c との関
係を示す。Figure 4.9 より、鉛の揮発率は R c =1.25‐1.54 において 25‐60 %
とかなり変動幅を有し、 R c の増加とともに R c =13.63 では 20 %程度まで減少し
ていることが認められる。一方、亜鉛の揮発率は R c の増加とともに増大し、
R c =13.6 において揮発率は約 50 %となった。銅の揮発率は炭素当量比 R c によ
らず 3 %程度で推移し、きわめて低い揮発率となっている。
溶融飛灰中の鉛、亜鉛、銅は、 R c が小さい場合には無機塩素化合物との塩素
化反応によって塩化鉛、塩化亜鉛、塩化銅が生成すると考えられる。一方、 R c
の増加に伴って未燃炭素による還元反応が塩素化反応に比べて進みやすくなり、
109
Pb、Zn、Cu が生成すると考えられる。ここで Figure 4.5 の TGA 曲線の結果よ
り、温度 1023 K では PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl 2 、Zn は揮発するが、Pb および Cu は
揮発が認められていない。このことから溶融飛灰中の鉛は、 R c の増加にともな
って還元反応が進み、Pb となることで揮発が減少したものと考えられる。また、
亜鉛についても、鉛の結果と同様に R c の増加に伴って還元反応が進行し、Zn
となることで揮発率は増加すると考えられる。一方、銅は Cu に還元されても揮
発性は低く、固体残渣中に残存したと考えられる。
さらに、加熱温度が 1173 K に上昇すると、Figure 4.10 で認められるように、
鉛は炭素当量比 R c =1.25‐13.63 の範囲で揮発率はほぼ 100 %となった。亜鉛
についても、 R c の増加に伴って揮発が進み、 R c =13.63 でほぼ 100%の揮発率を
示した。一方、銅は、 R c の増加に伴って銅の揮発率が低下し、 R C =4 以上では揮
発率は 5 %以下となった。
これらの原因として鉛の場合、PbO の塩素化反応および還元反応によって生
成した塩化鉛および金属鉛が、1173K ではいずれも揮発したためと考えられる。
また、亜鉛および銅の場合、いずれも 1023K に比べて還元反応が進んだことが
原因と考えられる。
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Figure 4.9
Pb Molten fly ashes A-F
Zn Molten fly ashes A-F
Cu Molten fly ashes A-F
0
5.0
10.0
Carbon equivalent ratio Rc [-]
15.0
Effect of Carbon Equivalent Ratio on Metal Volatilization Ratio:
Heating Temperature 1023 K, Treating Time 120 min
110
Volatilization ratio [%]
100
80
60
40
20
0
Figure 4.10
Pb Molten fly ashes A-F
Zn Molten fly ashes A-F
Cu Molten fly ashes A-F
0
5.0
10.0
Carbon equivalent ratio Rc [-]
15.0
Effect of Carbon Equivalent Ratio on Metal Volatilization Ratio:
Heating Temperature 1173 K, Treating Time 120 min, N 2 Atmosphere
4.4 結言
本研究では、各種溶融飛灰中の重金属揮発挙動に及ぼす未燃炭素の影響を調
べ、以下の知見を得た。
1)
溶融飛灰中の鉛、亜鉛は温度の上昇とともに揮発率は増加し、1173K では
いずれもほぼ 100%になったのに対して、模擬飛灰のそれは 85%、25%に
留まった。一方、溶融飛灰中の銅揮発率は 1173K でそれぞれ約 10%、約 45%
であった。
2)
溶融飛灰中の金属酸化物(PbO、ZnO、CuO)は、CaCl 2 との塩素化反応およ
び未燃炭素による還元反応により、塩化物(PbCl 2 、Pb 2 OCl 2 、ZnCl 2 )なら
びに単体金属(Pb、Zn、Cu)となることを認めた。
3)
溶融飛灰中の金属酸化物は、炭素分による還元反応が無機塩素化合物によ
る塩素化反応に比べて進みやすく、処理時間の経過に伴って溶融飛灰中の
鉛および亜鉛は Pb、Zn として揮発し、銅は Cu として固体残渣中に残存す
ることが分かった。
4)
溶融飛灰中の重金属酸化物の還元は、炭素当量比 R C に影響され、温度 1023K
における鉛の揮発率は R c の増加とともに減少し、 R c =13.63 では約 20%と
111
なった。一方、亜鉛の揮発率は R c の増加とともに増大し、R c =13.63 では約
50%の揮発率となったのに対して、銅の揮発率は炭素当量比 R c によらず
3 %程度で推移した。
5)
溶融飛灰中の鉛、亜鉛、銅と炭素当量比 R c との関係において加熱温度が
1173 K に上昇すると、溶融飛灰中の鉛揮発率は、 R c =1.25‐13.63 でほぼ
100%となった。また、亜鉛の揮発率は R c の増加に伴って増大し、R C =13.63
でほぼ 100%となった。一方、銅は、 R c の値が小さい場合には、40%程度
の揮発率を示すが、 R c の増加に伴って銅の還元反応が進み、 R C =4 以上では
揮発率は 5 %以下となった。
4.5 参考文献
1)
小島和浩, 上木隆司, 塩川智, 辻本崇史:非鉄金属製錬技術を活用した溶
融飛灰処理技術の開発‐MF プロセスによる金属回収と無害化‐, 資源と素
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資源処理技術, Vol.43, No.3, pp.149-155 (1996)
3)
浅野闘一, 加賀美忠和, 阿部信二:焼却飛灰、溶融飛灰からの重金属回収
技術, 環境管理, Vol.34, No.9, pp.875-879 (1998)
4)
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第 22 回全国都市清掃研究発表会講演論文集, pp.97-99 (2001)
5)
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6)
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7)
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発挙動, 化学工学論文集, Vol.30, No.5, pp.715-720 (2004)
8)
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動に及ぼす溶融飛灰中の形態ならびに共存元 素の影響, 化学工学論文集,
112
Vol.31, No.4, pp.278-284 (2005)
9)
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の分離に関する基礎的研究, 環境衛生工学研究, Vol.8, No.3, pp.185-190
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10) 平岡正勝, 酒井伸一:ごみ焼却飛灰の性状と処理技術の展望, 廃棄物学会
誌, Vol.5, No.1, pp.3-17 (1994)
11) 光和精鉱(株):光和精鉱におけるリサイクル事業, 資源と素材, Vol.113,
No.12, pp.1165-1166 (1997)
12) C. Chan, D. W. Kirk:Behaviour of metals under the conditions of roasting
MSW incinerator fly ash with chlorinating agents, Journal of Hazardous
Materials, Vol.B64, pp.75-89 (1999)
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Municipal Solid Waste Incinerators –
Proceeding
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Recovering,
the CT Fluapur Process,
Reintegration”,
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pp.182-186 (1999)
14) S. Abe, T. Kagami, K. Sugawara, T. Sugawara:Zinc and Lead Recovery
from
Model
Ash
Compounds,
Second
International
Conference
Processing Materials for Properties, pp.733-736 (2000)
113
on
第5章
Volatilization ratio [%]
100
80
60
101.3 kPa
△ ZnCl2
◇ PbCl2
□ CuCl
40
20
1.3 kPa
▲ ZnCl2
◆ PbCl2
■ CuCl
0
0
30
90
60
Hold time [min]
120
第5章では、塩酸含浸処理した溶融飛灰からの ZnCl 2 、
PbCl 2 、CuCl の減圧加熱下での揮発促進効果を、温度 873
‐1123 K、保持時間1‐120 min、圧力 101.3‐1.3 kPa
の条件下で実験的に検討した。その結果、減圧下での各
種金属塩化物は、温度の増加に伴ってより短時間で揮発
し、1123 K、1.3 kPa では 1 min 以内でほぼ 100%の ZnCl 2 、
PbCl 2 が揮発した。
114
第5章 減圧条件下での溶融飛灰からの亜鉛、鉛、銅の塩化揮発促進
5.1 緒言
溶融飛灰が粗鉱石並みの重金属含有量を有することに着目した様々な重金属
の回収・再資源化法の検討がなされている
1),2)
。著者らは、これまで溶融飛灰
の主有価含有成分である銅、鉛、亜鉛の分離・回収を対象とし、塩化水素ガスに
よる塩素化飛灰の常圧下の揮発挙動の解明(第1章)、塩素化を介する常圧下
の揮発挙動に及ぼすカルシウム含有量の影響(第2章)および溶融飛灰中の無
機塩素化物の影響(第3章)について検討した。しかしながら、溶融飛灰に含
まれる重金属は複雑な化学的形態で存在すること
以外の化合物を含有していること
4)
3)
、溶融飛灰は多種の重金属
などに起因して金属の効率的な分離・回収
を困難にしている。
一方、金属製錬分野では減圧加熱処理法
5)
による金属分離が行われている。
減圧下での重金属揮発に関しては、溶銅中の亜鉛、鉛の減圧下での揮発挙動の
研究
6)
や、鉛の減圧加熱精製による脱亜鉛
7),8)
などが行われている。しかしな
がら、減圧加熱処理において、金属の揮発促進を目的とした塩素化処理との組
合せによる複合効果については、ほとんど検討されておらず、このような手法
を溶融飛灰に適応させた例は見当たらない。
そこで本研究では、溶融飛灰からのより効率的な重金属の分離・回収法を確立
するために、塩化揮発法に減圧加熱処理法を組み合わせた減圧塩化揮発法を提
案する。本研究では、減圧塩化揮発法を溶融飛灰に適応させることにより、含
有多成分重金属塩化物の揮発促進に及ぼす加熱温度ならびに減圧度の影響につ
いて、便宜上、減圧下における塩化金属の飽和蒸気圧と気相中の塩化金属分圧
との差を指標に用いて考察を行った。
5.2 実験
5.2.1 試料およびその性状
本 実 験 で は 、 自 動 車 シ ュ レ ッ ダ ー ダ ス ト で あ る ASR(Automobile Shredder
Residue)をシャフト式溶融炉処理しバグフィルタで捕集された溶融飛灰を試料
115
として用いた。その化学組成を Table 5.1 に示す。
Table 5.1
Chemical Composition of Molten Fly Ash
Components
Content [mg・kg-1]
Pb
2.00×104
Zn
2.80×104
Cu
3.80×103
Fe
1.12×104
Ca
1.94×105
Na
5.42×104
K
6.89×104
Si
3.74×104
Al
7.90×103
Cl-
2.20×105
溶融飛灰は第2章での試料調製法に従って、乳鉢で粉砕し、粒径 75 μm 以下
にふるい分けしたものを下記のように塩酸で前処理して実験に供した。すなわ
ち、2.0×10 3 mg の溶融飛灰に含まれる銅、亜鉛、鉛、鉄、カルシウムの塩素
化に必要な塩素量を、飛灰中の対象金属がすべて酸化物の形態、およびカルシ
ウムはすべて水酸化カルシウムの形態をとると仮定して求め、これを 35 wt%
塩酸の形で当量比 1(約 2 m l )添加した。乳鉢で混練・塩素化反応させた後、マ
ッフル炉(393 K)で 12 h 乾燥させて塩酸含浸試料を調整した。なお、本法で
は混練・塩化反応の時間を 5 min−1 h で種々変化させ、重金属の重量基準での
塩素化率を求めた結果、塩酸当量比 1 以上で混練・塩素化反応 5 min 以上では塩
素化率に相違は認められなかった。塩酸含浸処理後の溶融飛灰を X 線回折分析
したところ、PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl の存在を確認した。
5.2.2 実験装置および方法
Figure 5.1 に本実験で用いた減圧加熱実験装 置の概略図を示す。本装置 は
N 2 ガス供給部、反応部、重金属揮発物回収部および真空ポンプ(アルバック機工
116
株式会社、G-25SA)で構成されている。反応管は外径 58 mm、内径 52 mm、全長
520 mm の石英ガラス製であり、反応部は電気炉(株式会社アサヒ理化製作所、
ARF-80KC)に挿入されている。反応管内部の出口付近には、揮発重金属粒子を捕
捉するための石英ウールを充填した回収部を設け、その外周部は水冷ジャケッ
トによって冷却した。電気炉内温度は反応管軸方向中心部外周近傍に挿入した
温度センサの示度を電子温度調節器(オムロン株式会社、E5CN-R2HBTC)に入力
することにより制御し、この示度を加熱温度とした。
Sample
Cooling
water out
Quartz
Cooling
zone
N2 gas
Quartz
wool
Quartz Reaction Quartz
zone boat
tube
Exhaust
gas
Two-way
valve
P
80 mm
Figure 5.1
Manometer
20 mm
Thermo
controller
Electric
heater
Φ58 mm
520 mm
Recovery
zone
Vacuum
pump
Oil trap
Cooling
water in
Schematic Diagram of Experimental Apparatus
実験では、塩酸を含浸した溶融飛灰を幅 40 mm×長さ 80 mm×高さ 20 mm の石
英ボートに装填する。その後、石英ボートを反応管内に挿入し、真空ポンプに
よって反応管内を真空排気した後、反応管内を窒素で置換した。反応管内の圧
力は系内を真空排気することによって所定の一定圧力に調整保持した。つぎに、
この反応管をあらかじめ一定温度に加熱された電気炉内に挿入し、反応管が所
定温度に達した時点は、ほぼ 10 min 以内であったため、これを実験開始点とし
た。本実験で用いた条件を Table 5.2 に示す。下限の加熱温度(873 K)は、
第1章での熱重量測定結果より、ZnCl 2 、PbCl 2 および CuCl の重量減少が認めら
れる温度を考慮して決定した。本実験では揮発実験中、常時真空ポンプで管内
の真空排気を行い、このときの反応管内の最大減圧度 1.3 kPa を減圧下限条件
とした。これ以外の減圧条件は排気導管の途中に設けた二方コックの絞り調整
によって常に管内の圧力が一定となるように設定した。
117
Table 5.2
Experimental Conditions
Temperature [K]
873, 973,1123
Hold time [min]
1, 10, 30, 60, 120
Pressure [kPa]
101.3, 50.7, 25.3,
12.7, 6.3, 2.7, 1.3
Atmosphere
N2
Sample weight [mg]
2.0×103
実験で使用した原灰中の金属含有量について、王水処理ならびに王水+フッ
酸処理で酸溶解した溶液中の鉛、亜鉛、銅の含有量には、ほとんど違いが見ら
れないことを確認した。このことから実験後の反応残渣は王水で溶解させ、そ
の濃度を ICP 発光分光分析装置(PerkinElmer Japan Co., Ltd.、Optima 3300DV)
により測定し、各重金属の揮発率 V M (%)を次式で算出した。
V M = 100×{1-( M R / M S )}
(5.1)
ここで、 M R 、 M S (mg)はそれぞれ反応残渣および初期試料中の重金属重量であ
る。なお、事前に実験装置内の重金属の物質収支を検討した結果、本減圧加熱
実験において 98‐99%の収支が得られた。
5.3 結果および考察
5.3.1 減圧加熱による重金属塩化物の揮発挙動
(1) 加熱温度の影響
溶融飛灰の減圧加熱処理による各重金属の揮発挙動を調べるために、
Figures 5.2‐5.4 に加熱温度 873、973、1123 K の条件で常圧(101.3 kPa)お
よび減圧(1.3 kPa)下における塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅の揮発率 V M (%)の
経時変化を示す。Figure 5.2 には第2章で使用した窒素ガス流通型反応装置に
よって得られた結果も併せて示した。
Figure 5.2 より、窒素ガス流通型反応装置で得られた結果は、常圧加熱(101.3
118
kPa)下、静止系で得られた塩化亜鉛および塩化鉛の揮発率の経時変化とほぼ同
じとなり、塩化銅の揮発については若干、静止系を上回る結果となった。この
原因としては窒素ガス流通 実験下における反応管内の 平均ガス流速は 4.25×
10 -3 m/s と非常に遅く、このときの反応管内の状態がほぼ静止系と見なせるた
めと推測される。
さらに本図より、101.3 kPa および 1.3 kPa のいずれの圧力条件においても
すべての重金属塩化物の揮発率は保持時間の経過とともに増大することが認め
られた。つぎに、同一保持時間(30、60、120 min)に対していずれの重金属も
減圧加熱下(1.3 kPa)での揮発率は約 1.5‐3.0 倍まで増大することが分かった。
具体的には、塩化亜鉛、塩化鉛および塩化銅の常圧下、保持時間 120 min にお
けるそれぞれの揮発率は 60%、45%、7%に対して、減圧下のそれはそれぞれ
95%、85%および 20%に達している。なお、蒸気圧線図
9)
から求めた 873 K に
おける塩化亜鉛(ZnCl 2 )、塩化鉛(PbCl 2 )および塩化銅(CuCl)の飽和蒸気圧
はそれぞれ約 10 kPa、0.5 kPa、0.4 kPa となった。このことから減圧加熱によ
る揮発率の増加は、以下のことが原因していると考えられる。つまり溶融飛灰
中の金属塩化物の飽和蒸気圧は反応管内の圧力が低下しても変化しないのに対
し、金属塩化物の気相中の分圧は全圧の低下(1.3 kPa)により相対的に低下し、
揮発の推進力となる試料の飽和蒸気圧と金属塩化物の気相中の分圧との差が大
きくなったためと考えられる。
Figure 5.2 で観察された減圧による各種重金属塩化物の揮発率は、Figures
5.3‐5.4 に示すように加熱温度が 973 K さらには 1123 K と高温になるほどよ
り短時間で増加した。塩化亜鉛および塩化鉛が 90%程度揮発するのに要する時
間は 1.3 kPa、873 K の条件では 120 min であるのに対し、973 K では 10 min、
さらに 1123 K では 1 min でほぼ 100%近く揮発している。塩化銅は、常圧下 973
K、保持時間 120 min において 10%程度の揮発率であった。しかし、1.3 kPa
まで減圧することによって 973 K および 1123 K では揮発率はそれぞれ 40%お
よび 80%まで増加した。蒸気圧線図から求めた PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl の飽和蒸気
圧は、973 K では約 4 kPa、70 kPa、1.5 kPa、1123 K では約 35 kPa、101.3 kPa、
6.5 kPa となっており、金属塩化物が存在する気相中の全圧が仮に最大 1.3 kPa
119
であったとしても、各種重金属塩化物の飽和蒸気圧がそれ以上となったことが
揮発促進の原因と考察される。
Volatilization ratio [%]
100
ZnCl2 1.3 kPa
80
PbCl2 1.3 kPa
ZnCl2 101.3 kPa
60
40
PbCl2 101.3 kPa
CuCl 1.3 kPa
20
CuCl 101.3 kPa
0
0
30
90
60
Hold time [min]
120
ZnCl2 ( ), PbCl2 ( ), CuCl( ) : N2 gas flow condition
ZnCl2( ), PbCl2 ( ), CuCl( ) : Static condition at 101.3 kPa
ZnCl2( ), PbCl2 ( ), CuCl( ) : Static condition at 1.3 kPa
Figure 5.2
Time-Change of Volatilization of ZnCl 2 , PbCl 2 , CuCl with Time :
Temperature 873 K: Pressure 101.3 and 1.3 kPa.
120
Volatilization ratio [%]
100
80
101.3 kPa
△ ZnCl2
◇ PbCl2
□ CuCl
60
40
1.3 kPa
▲ ZnCl2
◆ PbCl2
■ CuCl
20
0
0
Figure 5.3
30
90
60
Hold time [min]
120
Time–Change of Volatilization of ZnCl 2 , PbCl 2 , CuCl with Time :
Temperature 973 K: Pressure 101.3 and 1.3 kPa.
Volatilization ratio [%]
100
80
60
101.3 kPa
△ ZnCl2
◇ PbCl2
□ CuCl
40
20
1.3 kPa
▲ ZnCl2
◆ PbCl2
■ CuCl
0
0
Figure 5.4
30
90
60
Hold time [min]
120
Time – Change of Volatilization of ZnCl 2 , PbCl 2 , CuCl with Time:
Temperature 1123 K: Pressure 101.3 and 1.3 kPa.
121
(2) 金属塩化物の揮発率と減圧度との関係
Figure 5.5 に、保持時間 120 min、加熱温度 873 K および 1123 K における
溶融飛灰中の塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅の揮発率と圧力の関係を示す。本図よ
り、温度 873 K における亜鉛の揮発率は 101.3 kPa では約 60%であったが、減
圧加熱により揮発率は約 10 kPa 付近より増加が認められ、1.3 kPa の時に約 90%
となった。これは温度 873 K における塩化亜鉛の飽和蒸気圧が約 10 kPa である
のに対して、気相中の塩化亜鉛分圧を含む全圧が 10 kPa 以下に減圧されたこと
に起因すると考えられる。一方塩化鉛は、温度 873 K における飽和蒸気圧が 0.5
kPa であるにもかかわらず、塩化亜鉛と同様に約 10 kPa 付近より揮発率が増加
していることが認められた。
この原因を調べるために、減圧加熱処理後の回収物について X 線回折分析を
おこなった結果を Figure 5.6 に示す。本図より、亜鉛、銅は ZnCl 2 、CuCl、CuCl 2
のピークが観察されたのに対して、鉛は PbCl 2 の他に KPb 2 Cl 5 のピークが確認さ
れた。塩化鉛(融点:774 K)の一部は、加熱処理中に溶融飛灰に含有される
KCl との反応によって KPb 2 Cl 5 (融点:707 K)となったものと推測される。銅
は温度 873 K では、揮発率の増加はほとんど認められなかった。しかし、1123 K
では圧力 10 kPa 以下に減圧することによって揮発率は増加し、1.3
kPa で約
80%の揮発率を示した。この原因としては、気相中の塩化銅(CuCl)分圧を含む
全圧(1.3 kPa)が 1123K における塩化銅(CuCl)の飽和蒸気圧(約 7 kPa)よりも
低いため、塩化銅の揮発が促進したためと考察される。
122
Volatilization ratio [%]
100
1123 K PbCl2, ZnCl2
80
873 K ZnCl2
60
40
1123 K CuCl
CuCl 873 K
20
0
100
10
Pressure [kPa]
Effect of Pressure on Volatilization of ZnCl 2 , PbCl 2 and CuCl :
Temperatures 873 K and 1123 K: Time 120 min
ZnCl2
PbCl2
KPb2Cl5
CuCl2
CuCl
Intensity [cps]
Figure 5.5
1
873 K PbCl2
10
20
30
40
50
60
70
Diffraction Angle 2θ/θ [degree]
80
Figure 5.6 XRD Diffraction Pattern of Volatile Matters at 1123K in 1.3 kPa
123
5.4 結言
塩酸含浸処理した溶融飛灰中の塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅の減圧下における
揮発促進について実験的検討を行い、以下の結果を得た。
1)
1.3 kPa の減圧加熱下における塩化亜鉛、塩化鉛および塩化銅の揮発率は、
常圧加熱下で得られた結果と比較して約 1.5‐3.0 倍大きくなった。1.3 kPa
の減圧加熱下での各種重金属塩化物の揮発率は、加熱温度の増加に伴ってよ
り短時間で増加し、1123 K では 1 min 以内でほぼ 100%の塩化亜鉛、塩化鉛
が揮発した。
2)
溶融飛灰中の各種重金属塩化物は、圧力の低下に伴って揮発率が増加した。
塩化亜鉛、塩化銅は、飽和蒸気圧以下に減圧することにより揮発率の増加が
認められた。しかしながら、塩化鉛は、圧力が塩化鉛の飽和蒸気圧以上でも
揮発率の増加が認められ、減圧加熱中の回収物中に KPb 2 Cl 5 を生成している
ことが認められた。
5.5 参考文献
1)
松野基次, 友田勝博, 川本孝治, 中村崇:焼却飛灰に関する新しい焼成無
害 化 プ ロ セ ス の 実 証 , 廃 棄 物 学 会 論 文 誌 , Vol.15, No.6, pp.465-471
(2004)
2)
野中利瀬弘, 菅原勝康, 菅原拓男:溶融飛灰からの亜鉛および鉛の塩化揮
発挙動, 化学工学論文集, Vol.30, No.5, pp.715-720 (2004)
3)
高岡昌輝,蔵本康弘,武田信生,藤原健史:X 線光電子分光分析による飛
灰表面上の亜鉛,鉛,銅の化学形態の推定,廃棄物学会論文誌,Vol.12,
No.3,pp.102-111 (2001)
4) 平岡正勝, 酒井伸一:ごみ焼却飛灰の性状と処理技術の展望, 廃棄物学会誌,
Vol.5, No.1, pp.3-17 (1994)
5) 藤 田 栄 一 : 真 空 ヤ 金 工 業 に お け る 諸 問 題 ,
化 学 と 工 業 , Vol.10, No.9,
pp.458-466 (1957)
6) 吉田孝, 長坂徹也, 日野光兀:減圧下における溶銅中の亜鉛,鉛の蒸発速度,
日本金属学会誌, Vol. 63, No.2, pp.167-173 (1999)
124
7) Davey, T. R. A.: Distillation under Moderately High Vacuum, Illustrated
by the Vacuum Distillation of Zinc from Lead-Theoretical, Vacuum,
Vol.12, p.279 (1962)
8) 日本金属学会:非鉄金属製錬,pp.124-130, 丸善 (1980)
9) 日 本 化 学 学 会 編 : 化 学 便 覧 基 礎 編
(1993)
125
改 訂 4 版 , pp. Ⅱ 117- Ⅱ 123, 丸 善
第6章
【重金属の最適分離指針】
ZnCl2、PbCl2、CuCl
混合物
減圧加熱処理 ①
973 K, 65 kPa
ZnCl2 回収物
減圧加熱処理 ②
1173 K, 60 kPa
PbCl2 回収物
CuCl 回収物
第 6 章 で は 、 減 圧 加 熱 下 に お け る P b C l 2 、 Zn Cl 2
お よ び C uC l の 揮 発 速 度 を 、 単 位 時 間 、 単 位 面 積 あ
たりの揮発量が揮発速度定数に比例するとした見
かけ揮発速度式を用いて整理した。その結果、
P b C l 2 、 Z nCl 2 お よ び Cu Cl の 揮 発 速 度 は 本 揮 発 速 度
式から推算した値とほぼ一致することを認めた。
本 揮 発 速 度 式 を 用 い る こ と に よ り 、 PbC l 2 、 Z nCl 2
お よ び CuCl を 個 別 分 離 す る た め の 最 適 操 作 指 針 を
得ることができた。
126
第 6章 減 圧 加 熱 下 における重 金 属 塩 化 物 の揮 発 速 度 解 析
6.1
緒言
固体廃棄物の溶融固化処理によって発生する溶融飛灰は、多成分の
重金属を高濃度に含有するため、現在、溶融飛灰からの重金属の再資
源化処理が実用化レベルで検討されている。一般に溶融飛灰の主成分
は 、 N a Cl 、 K C l お よ び C a C l 2 な ど の 無 機 塩 素 化 合 物 で あ る た め 、 事 前 に
湿式脱塩処理を施した後
1)
、既存の非鉄製錬施設で山元還元が行われ
ている。既存の非鉄製錬施設としては、例えば半溶鉱炉
3)
4)
および塩化揮発炉
2)
、銅製錬炉
な ど が 用 い ら れ て い る 。し か し な が ら い ず れ の 設
備も、湿式と乾式を組み合わせた複合システムであるため、プロセス
が複雑となることや、廃水処理が必要となっている。
これに対して著者らは、これまで溶融飛灰からの重金属の乾式分離
除 去 を 目 指 し て 、減 圧 塩 化 揮 発 法 を 溶 融 飛 灰 に 適 応 さ せ る こ と に よ り 、
溶融飛灰中の多成分重金属塩化物の揮発促進に及ぼす加熱温度ならび
に減圧度の影響について検討した
5)
。その結果、減圧下での各種金属
塩 化 物 は 、 温 度 の 増 加 に 伴 っ て よ り 短 時 間 で 揮 発 し 、 112 3 K 、 1.3 kP a
で は 1 m in 以 内 で ほ ぼ 1 0 0 % の Z nCl 2 、 Pb Cl 2 が 揮 発 す る こ と を 認 め た 。
しかしながら、溶融飛灰中の重金属を効率良く分離するためには、減
圧加熱下での各種重金属塩化物の揮発速度を定量的に把握する必要が
ある。
これまで減圧条件下での重金属の揮発速度解析について検討された
例としては、減圧下における溶銅中の亜鉛、鉛の蒸発速度
らの銅の蒸発速度
ンガンの蒸発挙動
7)
、ス ラ グ 中 の 亜 鉛 の 蒸 発 速 度
9)
8)
6)
、溶鉄か
および溶鉄からのマ
など多くの検討がなされている。しかしながら、
溶融飛灰からの重金属の揮発速度解析はいまだ検討されておらず、と
くに減圧下における溶融飛灰中の重金属塩化物の揮発速度について報
告された例は見当たらない。
そこで本研究では、減圧条件下における溶融飛灰中重金属塩化物の
揮 発 速 度 を 調 べ る た め に 、 P bC l 2 、 Z nCl 2 お よ び C u Cl 試 薬 を 用 い 、 単 位
127
時間、単位面積あたりの揮発量が、揮発速度定数に比例すると仮定し
た 見 か け 揮 発 速 度 式 を 用 い て 整 理 し た 。 実 験 で 得 ら れ た Zn Cl 2 、 P bC l 2
お よ び Cu C l の 揮 発 速 度 と 本 揮 発 速 度 式 か ら 得 ら れ た 推 算 値 と の 比 較 を
行い、本揮発速度式の妥当性について調べた。さらに得られた速度式
か ら P b C l 2 、 Z n C l 2 お よ び C uC l の 最 適 な 揮 発 分 離 指 針 を 検 討 し た 。
6.2
実験
6.2.1 実 験 装 置 および方 法
本 実 験 で は 、塩 化 鉛( P b C l 2 )、塩 化 亜 鉛( Zn Cl 2 )お よ び 塩 化 銅( Cu Cl )
の特級試薬を用いて、これを乳鉢で粉砕し、ふるいを用いてすべて粒
径 を 7 5 μm 以 下 に 調 製 し た も の を 実 験 試 料 と し た 。
本 実 験 で 使 用 し た 減 圧 加 熱 処 理 装 置 の 概 略 図 を Figure 6.1 に 示 す 。
720mm
Thermo controller
Infrared
gold image
furnace
Water
out
10mm
Quartz
wool
N2
Flow
meter
φ58mm
Valve
Exhaust
gas
Figure 6.1
Mano
mater
Sample
65mm
Water
in
360mm
Thermo
meter
P
Vacuum
pump
Valve
Buffer
Tank
Sc h e m a ti c D i ag r am o f E x p e r i m en t a l A p p a r a t u s
本 装 置 は 、 i ) N 2 ガ ス 供 給 部 、 ii ) 石 英 製 反 応 管 お よ び イ メ ー ジ 炉 か ら
な る 減 圧 加 熱 部 、 iii ) バ ッ フ ァ タ ン ク 、 ゲ ー ジ バ ル ブ お よ び 真 空 ポ ン
プ か ら な る 減 圧 調 整 部 、iv ) マ ノ メ ー タ の 圧 力 測 定 部 よ り 構 成 さ れ る 。
128
反応管は石英ガラス管であり、反応管右部のフランジを介して脱着可
能 な 構 造 と な っ て い る 。 反 応 管 は 外 径 φ 5 8 m m、 内 径 φ 5 0 mm 、 全 長 7 2 0
m m で あ り 、 全 長 36 0 m m の イ メ ー ジ 炉 ( 株 式 会 社 ア ル バ ッ ク 、 放 物 面 反
射 形 R HL ‐ P 6 1 0 C P ) の 出 口 部 に は 、 揮 発 し た 重 金 属 粒 子 を 補 足 す る た め
に、石英ウールが詰められている。反応管内には、試料温度測定用な
らびに反応管内温度測定用の熱電対が備え付けられており、イメージ
炉は反応管内温度の指示を用いて電子温度調節器により制御されてい
る 。 圧 力 調 整 は 、 測 定 範 囲 0.01‐ 130 kPa の マ ノ メ ー タ (株 式 会 社 ア
ル バ ッ ク 、 CC MT ‐ 100 0A ) の デ ジ タ ル 表 示 値 を 用 い て 行 な わ れ 、 さ ら に
揮発した重金属粒子のマノメータへの流入を防ぐために、バッファタ
ン ク と マ ノ メ ー タ の 間 に フ ィ ル タ ( 株 式 会 社 ア ル バ ッ ク 、 S S ‐ 4F ‐ 6 0)
が 設 け ら れ て い る 。 そ の 他 、 真 空 ポ ン プ (ア ル バ ッ ク 機 工 株 式 会 社 、 G
‐ 2 5 S A ) は 、オ イ ル の 逆 流 お よ び ホ コ リ 等 が 入 る の を 防 ぐ た め に 逆 止 弁
ならびにフィルタ付吸気管が設けられている。
実 験 で は 、 約 1 0 × 1 0 - 3 k g の 試 料 を 角 型 試 料 皿 ( 長 さ 5 0 m m × 幅 3 0 mm
×高 さ 10 mm)に 充 填 し た 後 、 こ れ を 実 験 装 置 の 反 応 管 内 に 装 入 し た 。
次に、真空ポンプによって反応管内を真空にした後、反応管内に窒素
を流入させ、二つのバルブ弁を閉じることによって反応管内を所定圧
力に調整、維持した。その後、イメージ炉を用いて所定の温度で一定
時 間 加 熱 処 理 を 行 な っ た 。 こ こ で 加 熱 時 間 3 00 s 以 降 で は 、 試 料 が 所
定 温 度 に 達 し て い る こ と を 事 前 に 確 認 し た た め 、 加 熱 時 間 30 0 s を 実
験開始点とした。実験後、試料皿中の残渣重量を電子天秤により測定
した。
本 実 験 に お け る 実 験 条 件 を Table 6.1 に 示 す 。 予 備 実 験 と し て 本 実
験 装 置 の 最 大 下 限 到 達 圧 力 0 .1 k Pa に お い て P bC l 2 、 ZnCl 2 お よ び CuCl
の 融 点 7 74 K 、 5 5 6 K お よ び 7 0 3 K で 保 持 時 間 60 0 s の 加 熱 処 理 を 行 っ
た と こ ろ 、 3 ‐ 6 % 程 度 の 揮 発 し か 認 め ら れ な か っ た 。 そ こ で 、 PbC l 2 、
Z n C l 2 お よ び Cu C l の 最 低 加 熱 温 度 を 融 点 付 近 に 設 定 し 、 最 高 加 熱 温 度
は 沸 点 以 下 と し た 。 ま た 保 持 時 間 は 減 圧 条 件 下 に お い て は 0 ‐ 600 s 、
常 圧 下 で は 0 ‐ 1 8 00 s の 間 で 測 定 し た 。
129
Table 6.1
6.2.2
Ex p e r i m e n t a l C o n d i t i o n
Temperature [K]
PbCl2 798 - 1048
ZnCl2 698 - 923
CuCl 723 - 1173
Hold time [s]
0 - 1800
Pressure [kPa]
0.1 - 101.3
Atmosphere
N2
Sample weight [kg]
10×10-3
揮発速度式
減圧下における溶融飛灰中の重金属塩化物の揮発速度モデルを検討
するにあたり、溶融飛灰中の重金属の物理的な存在形態について知る
必要がある。しかしながら、これまで溶融飛灰中の重金属の物理的な
存在形態について報告された例は見当たらなかった。
そこで、微粉炭の燃焼過程における飛灰の生成モデル
10)
を用いて、
固体廃棄物の溶融過程における溶融飛灰の生成モデルを推定した。
Figure 6.2 に 微 粉 炭 燃 焼 時 に お け る 飛 灰 の 生 成 モ デ ル を 示 す 。 微 粉 炭
は、まず熱分解に伴う揮発分の放出および燃焼が行なわれた後、チャ
の燃焼が行なわれる。このとき微粉炭燃焼灰は、①チャ内における鉱
物の合一、②チャ表面からの鉱物の脱落、③チャの分裂、④無機成分
の揮発と凝縮、⑤鉱物単体分離粒子の分裂などによって生成すると考
えられている。微粉炭に含まれている鉛、亜鉛および銅などの重金属
成分は、前述の項目④の生成過程によって揮発し、粒子径の小さい灰
粒子へ凝縮および濃縮すると考えられている
11)
。
今 、 溶 融 飛 灰 の 生 成 過 程 に お い て 、 固 体 廃 棄 物 は 最 大 20 00 K の 溶 融
処理を受けると考えると、固体廃棄物中の鉛、亜鉛および銅などは、
ほぼすべてが揮発するものと考えられ、これらは排ガスの冷却に伴っ
て 溶 融 飛 灰 上 へ 凝 縮 す る こ と が 考 え ら れ る 。 第 1 章 の Fi gu r e 1. 2 の 溶
融 飛 灰 原 灰 の S E M 写 真 よ り 、 溶 融 飛 灰 に は サ ブ ミ ク ロ ン か ら 5 μm 程 度
の 灰 粒 子 が 存 在 し 、 サ ブ ミ ク ロ ン 灰 粒 子 は 5 μm 程 度 の 灰 粒 子 の 表 面 に
付着している様子が観察されている。
130
Fi gur e 6. 2
Fl y A s h Fo r m a t io n Mo de l d ur i ng C o a l C o m b u s tio n
これら一連の推察から、溶融飛灰中の重金属塩化物の物理的な存在
形 態 な ら び に 、減 圧 加 熱 時 に お け る 重 金 属 塩 化 物 の 揮 発 挙 動 に つ い て 、
F i g u r e 6 . 3 に 示 す モ デ ル を 考 え た 。 ( i) 溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属 (Me Cl 2 )粒
子 は 、 単 一 飛 灰 粒 子 の 周 り に 付 着 し て い る も の と 仮 定 し た 。 ( i i) 単 一
飛 灰 粒 子 に 付 着 し た M e C l 2 粒 子 は 、減 圧 加 熱 に よ り 溶 融 し 単 一 飛 灰 粒 子
の回りに液相を形成し、その揮発段階は、気‐液界面での真の蒸発反
応 お よ び 気 相 中 へ の Me Cl 2 の 移 動 が 直 列 に 起 こ る こ と に よ っ て 揮 発 す
ると仮定した。
131
MeCl2粒子
減圧加熱
界面
液相
気相
気-液界面での真の蒸発反応 k1
溶融飛灰
見かけの揮発速度定数 K:
1/K = 1/k1+1/k2
Fi gu r e 6. 3
気相中へのMeCl2の移動 k2
V o la t i li z at io n Mo de l o f H e a v y Me t a l s f r o m M o l t e n F l y Ash
Eq.(6.1)に MeCl2 粒 子 の 見 か け の 揮 発 速 度 定 数 K を 示 す 。
1/K = 1/k1+1/k2
(6. 1)
こ こ に k 1 は L a n g m u i r の 式 で 与 え ら れ る M eCl 2 の 蒸 発 速 度 定 数 で あ る 。
k 2 は 気 相 中 へ の M e C l 2 の 移 動 速 度 定 数 で あ る 。今 、溶 融 飛 灰 中 の 重 金 属
同 士 の 共 融 に よ る 金 属 の 活 量 の 低 下 は な い も の と 仮 定 し 、 単 一 MeC l 2
粒子の単位時間、単位面積あたりの揮発量が、揮発速度定数に比例す
ると仮定すると、重金属塩化物の見かけの揮発速度は以下のように表
すことができる。
−
1 dW
=K
A dθ
(6. 2)
さ ら に E q.( 6. 2) の 両 辺 を 積 分 す る と Eq .( 6 .3) が 求 ま る 。
W0 − W
=K
Aθ
(6. 3)
こ こ で 、 K は 見 か け の 揮 発 速 度 定 数 ( k g/ m 2 ・ s )、 W は M e C l 2 の 実 験 後 の
重 量 ( k g )、 W 0 は M eCl 2 の 初 期 重 量 ( kg)、 A は 試 料 と 雰 囲 気 間 の 固 ・ 気
接 触 界 面 積 ( m 2 )、 θ は 保 持 時 間 ( s) を 示 す 。
132
さ ら に 処 理 圧 力 P が 飽 和 蒸 気 圧 P0 よ り 大 き い 反 応 領 域 P > P0 ( 沸
点以下)では、揮発は、塩化金属の飽和蒸気圧と処理圧力との差を推
進力として進行すると考えられる。そこで揮発速度が塩化金属の飽和
蒸気圧と処理圧力との差のn次に比例すると仮定し、見かけの揮発速
度 定 数 を E q(6 . 4) の よ う に 表 す と 、 最 終 的 な 揮 発 速 度 式 は E q.( 6. 5) の
ようになる。
⎛ P − P0 ⎞
⎟⎟
K = k ⎜⎜
⎝ P0 ⎠
n
⎛ P − P0 ⎞
W0 − W
⎟⎟
= k ⎜⎜
Aθ
⎝ P0 ⎠
( 6 .4 )
n
( 6 .5 )
こ こ で 、P は 反 応 管 内 の 処 理 圧 力( P a)、P 0 は M eCl 2 の 飽 和 蒸 気 圧( Pa )、
n は 反 応 次 数 、k は 圧 力 も 考 慮 し た 場 合 の 見 か け の 揮 発 速 度 定 数( kg /m 2 ・
s) を 示 す 。
6.3 実 験 結 果 および考 察
6.3.1
重 金 属 塩 化 物 の揮 発 量 と保 持 時 間 との関 係
F i g u r e s 6 . 4 ( a ) ‐ ( c ) に 、 温 度 9 23 K に お け る Z nC l 2 、 Pb Cl 2 お よ び
C uC l の 単 位 面 積 A 当 た り の 揮 発 量 ( W 0 - W ) と 保 持 時 間 と の 関 係 を 示 す 。
図 中 の 実 線 は 、後 述 す る E qs. (6 .9 ) ‐ ( 6. 11 ) の 揮 発 速 度 式 よ り 求 め た 推
算 値 で あ る 。本 図 よ り 、い ず れ の 減 圧 条 件 で も Zn Cl 2 の 単 位 面 積 あ た り
の揮発量は、時間に比例して増加することが分かる。処理圧力が小さ
くなるに伴って、同一保持時間における単位面積あたりの揮発量は大
きくなった。これは揮発の推進力となる試料の飽和蒸気圧と処理圧力
と の 差 が 大 き く な っ た こ と に よ る 。 実 験 結 果 の 傾 き か ら 、 圧 力 1 01 . 3
k Pa 、 7 0 k P a 、 5 2 k P a お よ び 3 0 k P a に お け る Z nCl 2 の 見 か け の 揮 発 速
度 ( ( W 0 - W )/ A ・ θ ) は 、そ れ ぞ れ 1. 12 × 10 - 3 、1. 3 1 × 1 0 - 3 、1 . 7 4 × 1 0 - 3 、4 .4 5
×10-3 kg/m2・s と な る こ と が 分 か っ た 。
F i g u r e s 6 . 4 ( b ) ‐ ( c ) の 結 果 よ り 、 P bC l 2 お よ び C uC l の 単 位 面 積 あ た
133
り の 揮 発 量 は 、 ZnCl2 と 同 様 、 保 持 時 間 に 対 し て 直 線 的 に 増 加 す る こ と
が 分 か っ た 。実 験 結 果 の 傾 き か ら 、P b C l 2 の 圧 力 条 件 1 01. 3 kP a 、3 8 k P a 、
1 5 k P a お よ び 1 0 k Pa に お け る 見 か け の 揮 発 速 度 は 、 そ れ ぞ れ 1. 84 ×
1 0 - 4 、2 . 6 7 × 1 0 - 4 、4 . 6 1 × 1 0 - 4 お よ び 5 . 8 9 × 1 0 - 4 k g / m 2 ・ s と な る こ と が 分
か っ た 。 同 様 に 、 C u C l の 各 圧 力 条 件 1 01 .3 kP a 、 3 0 kP a 、 1 0 kP a お よ
び 5 k P a に お け る 見 か け の 揮 発 速 度 は 、そ れ ぞ れ 3. 46 ×10 - 4 、5 . 2 5 × 1 0 - 4 、
1 . 0 4 × 1 0 - 3 お よ び 1 . 9 5 × 1 0 - 3 k g / m 2 ・s と な る こ と が 分 か っ た 。
3.0
30 kPa
(W0-W)/A [kg/m2]
2.5
70 kPa
52 kPa
2.0
1.5
101.3 kPa
1.0
0.5
0
0
Figure 6.4(a)
500
1000
θ [s]
1500
2000
Time Change of Weight Loss of ZnCl2 at 923 K
134
(W0-W)/A [kg/m2]
1.0
15 kPa
0.8
10 kPa
0.6
38 kPa
0.4
101.3 kPa
0.2
0
0
Figure 6.4(b)
500
1000
1500
θ [s]
2000
2500
T i m e C h a n g e o f V o la t i l i z a t i o n o f P b C l 2 at 9 2 3 K
1.8
(W0-W)/A [kg/m2]
1.5
10 kPa
5 kPa
1.2
30 kPa
0.9
101.3 kPa
0.6
0.3
0
0
Fi gur e 6. 4 ( c)
500
1000
1500
θ [s]
2000
2500
3000
T i m e C h an g e o f V o la t il i z at io n o f C uC l a t 9 23 K
135
6.3.2 重 金 属 塩 化 物 の揮 発 速 度 解 析
(1) 加 熱 温 度 および処 理 圧 力 の影 響
F ig ur e s 6 . 4 ( a ) ‐ ( c ) の 結 果 よ り 、 単 位 面 積 当 た り の 揮 発 量 は 、 保 持
時間に対して直線的に増加することが分かり、直線の傾きより求めた
揮 発 速 度 は 一 定 値 を 示 す こ と が 分 か っ た 。 そ こ で 、 Figures 6.4(a)‐
(c ) で 得 ら れ た 結 果 お よ び 他 の 実 験 温 度 で 得 ら れ た 結 果 を E q . ( 6 . 5 ) に
よ っ て 整 理 し 、 揮 発 速 度 の 対 数 ( l n{( W 0 - W ) / A ・ θ } ) と 圧 力 ( l n
{ (P-P0)/P0} )と の 関 係 を Figures 6.5(a)‐ (c)に プ ロ ッ ト し た 。
ln{( W0-W)/(A・θ )}
-4
798 K
823 K
873 K
923 K
-6
-8
-10
-4
Figure 6.5(a)
-2
2
0
ln{(P-P0)/P0}
4
6
Effect of Pressure on Volatilization Rate of ZnCl2
136
ln{( W0-W)/(A・θ)}
-4
923 K
973 K
1023 K
1048 K
-6
-8
-10
-2
Figure 6.5(b)
0
2
ln{(P-P0)/P0}
4
6
Effect of Pressure on Volatilization Rate of PbCl2
ln{( W0-W)/(A・θ)}
-4
923 K
973 K
1023 K
1073 K
-6
-8
-10
-2
Fi gur e 6. 5 ( c)
0
2
ln{(P-P0)/P0}
4
6
Ef f e ct o f Pr e ss u r e o n V o l a t i l i z a t i o n R a t e o f C u C l
本 図 よ り 、Z n C l 2 、P b C l 2 お よ び Cu C l の 揮 発 速 度 の 対 数( l n{( W 0 - W ) / A ・
θ } ) と 圧 力 ( l n{ ( P - P 0 ) / P 0 } ) と の 関 係 を 比 較 す る と 、 両 者 に 良 い 直 線
137
関係があることが分かる。この直線の傾きは、いずれの温度でもほぼ
同じとなることが分かる。このことから本実験範囲内では、減圧条件
下 に お け る Z n C l 2 、P b C l 2 お よ び C uC l の 揮 発 速 度 は 、E q. (6 . 5) で 整 理 で
き る こ と が 分 か っ た 。Fig ur es 6. 5( a )‐ (c ) に お け る 各 直 線 の 傾 き か ら 、
E q. (6 .5 ) に お け る 圧 力 項 の 次 数 を 求 め た 結 果 、Z n C l 2 で は - 0 . 4 0 次 、P b C l 2
で は - 0 . 5 0 次 、 C u Cl で は - 0.5 6 が 得 ら れ た 。
次 に 、 Figures 6.5(a)‐ (c)で の 直 線 の 切 片 か ら 、 見 か け の 速 度 定 数
k (kg/m・ s)を 求 め 、 温 度 と の 関 係 を プ ロ ッ ト し た 結 果 を Figures 6.6
に 示 す 。 本 図 よ り ln k と 温 度 T と の 関 係 は 、 ほ ぼ 直 線 で 近 似 で き る こ
と が 分 か る 。実 験 結 果 の 直 線 の 傾 き お よ び 切 片 を 図 中 よ り 求 め た 結 果 、
Z n C l 2 、 P b Cl 2 お よ び Cu C l の 見 か け の 速 度 定 数 k は 、 温 度 に 関 し て
E qs .( 6. 6 ) ‐ ( 6 . 8 ) の 関 係 で 表 さ れ る こ と が 分 か っ た 。
-4
CuCl
ln(k)
-5
-6
PbCl2
ZnCl2
-7
-8
723
Figure 6.6
823
923
T [K]
k CuCl
1123
Ef f e c t o f T e m pe r a tu r e o n V o l a ti l i z a ti o n R a t e C o n s t a n t k
(
= exp(7.74 × 10
= exp(1.54 × 10
)
× T − 13.6 )
× T − 6.78)
k ZnCl2 = exp 2.79 × 10 −3 × T − 8.95
k PbCl2
1023
−3
−3
138
(6. 6)
(6. 7)
(6. 8)
E q s . ( 6 .6) -( 6. 8 )で 得 ら れ た Zn C l 2 、 Pb Cl 2 お よ び CuCl の 見 か け の 揮
発 速 度 定 数 k と 、 F i g u r e 6 . 5( a) ‐ ( c) で 得 ら れ た 圧 力 項 の 次 数 n の 値
を E q .( 6 .5 ) に 代 入 す る こ と に よ り 、最 終 的 な Zn Cl 2 、P bC l 2 お よ び C uCl
の 本 実 験 に お け る 揮 発 速 度 式 は 、Eq s.( 6. 9) ‐ ( 6. 11 ) の よ う に 表 さ れ る
ことが分かった。
−0.40
⎛ P − P0
1 W0 − W
= exp 2.79 × 10 −3 T − 8.95 ⎜⎜
A θ
⎝ P0
⎞
⎟⎟
⎠
⎛ P − P0
1 W0 − W
= exp 7.74 × 10 −3 T − 13.6 ⎜⎜
A θ
⎝ P0
⎞
⎟⎟
⎠
−0.50
⎛ P − P0
1 W0 − W
= exp 1.54 × 10 −3 T − 6.78 ⎜⎜
A θ
⎝ P0
⎞
⎟⎟
⎠
−0.56
(
(
(
)
)
)
(6. 9)
(6. 10 )
(6. 11 )
次に実際に、これらの揮発速度式から求めた各重金属の揮発速度を
Figure 6.4(a)‐ (c)に 実 線 で 併 記 し た 。 本 結 果 よ り 、 実 験 に よ り 求 め
た 揮 発 速 度 と E qs .(6 .9 ) ‐ (6 . 1 1 ) よ り 求 め た 揮 発 速 度 を 比 較 し た と こ
ろ 、 そ の 値 は 10% 程 度 の 誤 差 範 囲 で ほ ぼ 一 致 す る こ と を 確 認 し た 。 以
上 の 結 果 か ら 、 Eq s.( 6. 9) ‐ ( 6 .1 1) の 揮 発 速 度 式 を 用 い る こ と に よ り 、
Z n C l 2 、 P bCl 2 お よ び C u C l の 単 一 成 分 の 揮 発 速 度 が 推 算 可 能 と 考 え ら れ
る。
6.3.3 ZnCl2、PbCl2 および CuCl の個 別 分 離 条 件 の検 討
(1) ZnCl2、PbCl2 および CuCl の混 合 物 からの ZnCl2 の個 別 分 離
Z n C l 2 、 P bCl 2 お よ び C u C l の 揮 発 速 度 差 を 利 用 し て 、 多 段 で 減 圧 操 作
を行なうことにより、重金属の選択的回収が期待できる。そこで、こ
こ で は Z nC l 2 、 P b C l 2 お よ び C u Cl 混 合 物 か ら の Zn C l 2 の 最 適 な 個 別 分 離
条 件 を 検 討 し た 。具 体 的 に は 、温 度 を Zn Cl 2 の 融 点 ‐ 沸 点 の 範 囲 と し て
5 73 ‐ 9 7 3 K で 温 度 5 0 K ず つ 、 圧 力 を 1 ‐ 101 .3 k P a の 範 囲 で 1 kP a ず
つ 変 化 さ せ 、 そ の と き の Z n Cl 2 、 Pb Cl 2 お よ び Cu Cl の 揮 発 速 度 を Eq s .
( 6. 9) ‐ ( 6 . 1 1 ) か ら 求 め た 。次 に 、Z n C l 2 の 揮 発 速 度 と 、P b C l 2 お よ び Cu C l
139
の 揮 発 速 度 と の 差 を 求 め 、 Figures 6.7(a)‐ (b)に プ ロ ッ ト し た 。 こ こ
で 温 度 7 7 3 K 以 下 の 結 果 に つ い て は 、 Z nC l 2 、 P bC l 2 お よ び C uC l の 揮 発
VZnCl2 – VPbCl2 [×10-2 kg/m2・s]
速度はいずれも小さく、図中より除外した。
1.6
1.2
873 K 923 K
823 K
0.8
0.4
0
Figure 6.7(a)
VZnCl2 – VCuCl [×10-2 kg/m2・s]
973 K
773 K
20
0
40
60
Pressure [kPa]
80
100
V o l a ti l i za t i o n R a t e D i f f e r e n c e b e tw e e n Zn C l 2 an d P bC l 2
1.6
1.2
973 K
773 K
873 K 923 K
823 K
0.8
0.4
0
Figure 6.7(b)
0
20
40
60
Pressure [kPa]
80
100
V o l a ti l i za t i o n R a t e D i f f e r e n c e b e tw e e n Zn C l 2 an d C uC l
140
F i g u r e 6 . 7 ( a ) よ り 、 Z n C l 2 と Pb C l 2 と の 揮 発 速 度 の 差 は 、 い ず れ の 温
度でも低い圧力条件ほど大きくなることが分かる。図中の各温度にお
ける揮発速度差曲線が途中で止まっているのは、それ以上の減圧条件
で は 、ZnCl2 が 沸 点 と な る た め で あ る 。こ の 各 種 金 属 の 融 点 ‐ 沸 点 間 で
の 加 熱 温 度 で 、 Z n C l 2 と Pb C l 2 と の 揮 発 速 度 差 が 最 も 大 き く な る 減 圧 加
熱 条 件 は 、 温 度 9 73 K 、 圧 力 65 k P a と な り 、 こ の と き の 揮 発 速 度 差 は
1 . 6 3 × 1 0 - 2 k g / m 2 ・ s と な る こ と が 分 か っ た 。 一 方 、 F i gur e 6 .7 (b) で の
Z n C l 2 と C u C l と の 揮 発 速 度 の 差 は 、 Fig ur e 6 .7( a) の 結 果 と 同 様 に 、 圧
力 が 小 さ く な る ほ ど 大 き く な る こ と が 分 か り 、温 度 97 3 K 、圧 力 65 k Pa
の と き に 、 速 度 差 が 1 . 6 4 × 1 0 - 2 kg /m 2 ・ s と 最 も 大 き く な る こ と が 分 か
っ た 。以 上 の 結 果 よ り 、Z n C l 2 、Pb Cl 2 お よ び C uC l の 混 合 物 か ら の Zn C l 2
の 個 別 分 離 条 件 と し て は 、 温 度 97 3 K、 圧 力 65 k Pa が 最 適 と 考 え ら れ
た。
次に、供給エネルギの観点から減圧塩化揮発法の有効性を検討する
た め 、 温 度 9 7 3 K で の 常 圧 10 1. 3 k Pa な ら び に 減 圧 65 k P a で の 本 実 験
装 置 下 で の エ ネ ル ギ 消 費 量 E( J) を 比 較 し た 。 検 討 方 法 と し て 、 試 料
重 量 1 0 × 1 0 - 3 k g の Z n C l 2 を 1 0 0 % 揮 発 さ せ る た め の 保 持 時 間 を E q .(6 .9 )
か ら 算 出 し 、 こ の と き の エ ネ ル ギ 消 費 量 を E qs. (6 .1 2 )‐ (6 .1 3 )を 用 い
て 求 め た 。常 圧 処 理 で は 電 気 炉 に よ る 供 給 電 力 ( Q W( W )) と 処 理 時 間( θ
( s ))か ら 求 め 、減 圧 処 理 で は 、電 気 炉 と 真 空 ポ ン プ の 合 計 電 力 ( Q W ( W )
+ P W ( W ) ) と 保 持 時 間 ( θ ( s )) よ り 求 め た 。 な お 、 電 気 炉 の 持 つ 熱
容量に対して試料の熱容量が十分小さいことから、いずれの温度にお
いても電気炉による供給電力は一定とした。電気炉および真空ポンプ
の 供 給 電 力 は そ れ ぞ れ 12 0 00 W 、 3 5 2 W で あ る 。
E101.3
E65
kPa
kPa
=
=
QW
×
( QW + PW
θ 101.3kPa
)×
θ 65
kPa
(6.12)
(6.13)
E qs .( 6 . 1 2 ) ‐ ( 6 . 1 3 ) を 用 い て 算 出 し た 結 果 、1 0 × 1 0 - 3 kg の Z n C l 2 を 、
温 度 9 7 3 K、 常 圧 101 .3 kP a な ら び に 減 圧 6 5 kP a の 下 で 加 熱 し 、 1 00 %
141
の 揮 発 を 得 る た め の エ ネ ル ギ 消 費 量 は 、 そ れ ぞ れ 13 kJ 、 1 .8 kJ と な
り 、 常 圧 に 比 べ て エ ネ ル ギ 消 費 量 を 約 8 5. 8 % 削 減 で き る こ と が 分 か っ
た。以上の結果より、供給エネルギの観点からも減圧塩化揮発法の有
効性が明らかとなった。
(2) PbCl2、CuCl 混 合 物 からの PbCl2 の分 離
P b C l 2 、 C uC l 混 合 物 か ら の Pb Cl 2 の 個 別 分 離 条 件 を 検 討 す る た め 、 温
度 を P b C l 2 の 融 点 ‐ 沸 点 の 範 囲 と し て 82 3 ‐ 117 3 K で 50 K ず つ 、 圧 力
を 1 ‐ 1 01 . 3 k P a の 範 囲 で 1 kP a ず つ 変 化 さ せ て 、 そ の と き の Pb Cl 2
お よ び C uCl の 揮 発 速 度 を Eq s. ( 6.1 0) ‐ ( 6.1 1) か ら 求 め 、PbC l 2 の 揮 発
速 度 と C uC l の 揮 発 速 度 と の 差 を 調 べ た 結 果 を 、 F i g u r e s 6 . 8 に 示 す 。
こ こ で 温 度 9 7 3 K 以 下 で は 、 P bC l 2 お よ び C uC l の 揮 発 速 度 は 小 さ い た
VPbCl2 – VCuCl [×10-1 kg/m2・s]
め、図中より除外した。
1.2
1173 K
0.8
973 K
1073 K 1123 K
1023 K
0.4
Figure 6.8
0
0
20
40
60
Pressure [kPa]
80
100
V o la t i l i z a t i o n R a t e D i f f e r e n c e be t w e e n Pb C l 2 a n d C u C l
本 図 よ り 、 い ず れ の 温 度 で も 減 圧 が 進 む に 従 っ て Pb C l 2 と C uC l と の
揮 発 速 度 差 が 大 き く な る こ と が 分 か る 。 加 熱 温 度 11 7 3 K 、 圧 力 60 k P a
142
の と き に 揮 発 速 度 差 が 1 . 2 1 ×1 0 - 1 k g/m 2 ・ s と 最 も 大 き く な る こ と が 分
かった。
以 上 の F i g u r e s 6 . 7 ‐ 6 . 8 の 結 果 よ り 、Z nC l 2 、P b C l 2 お よ び C u C l の 混
合 物 に 対 し て は 、 Figure 6.9 に 示 す 多 段 の 減 圧 加 熱 処 理 に よ り 、 重 金
属の個別分離が可能であることが考えられた。具体的には、第1減圧
加 熱 条 件 を 温 度 9 73 K 、 圧 力 65 k P a と す る こ と に よ り 、 Z nC l 2 を 選 択 的
に 回 収 す る 。 次 に Z n C l 2 回 収 後 の Pb Cl 2 お よ び C uC l を 含 む 反 応 残 渣 に
対 し て は 、 第 2 減 圧 加 熱 処 理 と し て 温 度 11 7 3 K 、 圧 力 60 k P a の 下 で 処
理 す る こ と に よ り 、 PbCl2 を 個 別 分 離 す る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。
ZnCl2、PbCl2、CuCl
混合物
減圧加熱処理 ①
973 K, 65 kPa
ZnCl2 回収物
減圧加熱処理 ②
1173 K, 60 kPa
PbCl2 回収物
CuCl 回収物
Figure 6.9
F l o w C h a r t o f C hl o r i de - I n du c e d V o l a ti l iz a t io n T r e a t m e nt
u n d e r R e d u c e d P r e s s u r e f o r S e l e c t i v e V o la t i l i z a t i o n o f He a v y
Me t a ls
6.4 結 言
減 圧 加 熱 下 に お け る P b C l 2 、Z n C l 2 お よ び C uC l の 揮 発 速 度 を 、単 位 時
間、単位面積あたりの揮発量が揮発速度定数に比例するとした見かけ
揮発速度式を用いて整理した。得られた知見を以下にまとめる。
1 ) 温 度 9 2 3 K に お け る Z n C l 2 、 Pb Cl 2 お よ び C uCl の 単 位 面 積 あ た り の
揮 発 量 は 、い ず れ の 圧 力 条 件 で も 保 持 時 間 に 比 例 し て 増 加 し た 。処
143
理 圧 力 が 小 さ く な る に 伴 っ て 、単 位 面 積 あ た り の 揮 発 量 は 大 き く な
った。
2)
減 圧 下 に お け る Z n C l 2 、P bC l 2 お よ び C uC l の 単 位 時 間 、単 位 面 積 あ
た り の 揮 発 量 は 、見 か け の 揮 発 速 度 定 数 に 比 例 す る こ と が 分 か っ た 。
揮 発 速 度 に 対 す る 圧 力 の 影 響 を 調 べ た 結 果 、P b C l 2 、Z n C l 2 お よ び CuC l
の 見 か け の 揮 発 速 度 定 数 は 処 理 圧 力 の 低 下 と と も に 増 加 し 、そ の 圧
力 依 存 性 は Z n C l 2 で は - 0 . 40 次 、P b C l 2 で は - 0.5 0 次 、C u C l で は - 0 . 5 6
次 と な っ た 。 揮 発 速 度 に 対 す る 温 度 の 影 響 を 調 べ た 結 果 、 Z nC l 2 、
P b C l 2 お よ び C u C l の 見 か け の 揮 発 速 度 定 数 の 対 数 は 、加 熱 温 度 に 比
例することが分かった。
3)
Z n C l 2 、 P b C l 2 お よ び C u C l の 揮 発 速 度 差 を 利 用 し た Zn Cl 2 の 個 別 分
離 条 件 を 求 め た 結 果 、 温 度 973 K、 圧 力 65 kPa の と き に ZnCl2 と 、
P b C l 2 お よ び C u C l と の 揮 発 速 度 差 が 、 そ れ ぞ れ 1. 6 3×1 0 - 2 お よ び
1.64×10-2 kg/m2・ s と 最 も 大 き く な る こ と が 分 か っ た 。 こ の と き に
供 給 さ れ る エ ネ ル ギ 量 は 、常 圧 に 比 べ て 、約 85. 4 % 削 減 で き る こ と
が 分 か っ た 。一 方 、P bC l 2 お よ び Cu C l の 揮 発 速 度 差 を 利 用 し た Pb Cl 2
の 個 別 分 離 条 件 を 求 め た 結 果 、 加 熱 温 度 11 7 3 K 、 圧 力 60 k P a の と
き に 、 揮 発 速 度 差 が 1 . 2 1 × 10 - 1 k g / m 2 ・ s と 最 も 大 き く な る こ と が
分かった。
6.5 参 考 文 献
1)
吉 田 卓 司 , 中 村 崇 , 前 田 正 史:溶 融 還 元 法 に よ る 二 次 飛 灰 の 処 理 ,
資 源 処 理 技 術 , V o l.5 0, N o .2, p p. 5 7-6 2 ( 2 0 03 )
2)
小島和浩, 上木隆司, 塩川智, 辻本崇史:非鉄金属製錬技術を活
用 し た 溶 融 飛 灰 処 理 技 術 の 開 発 ‐ MF プ ロ セ ス に よ る 金 属 回 収 と 無
害化‐, 資源と素材,
3)
Vo l .12 1, N o .7, p p. 3 41- 34 5 ( 200 5 )
三 菱 マ テ リ ア ル ( 株 ): 三 菱 マ テ リ ア ル 株 式 会 社 銅 事 業 カ ン パ ニ ー
の リ サ イ ク ル 事 業 ( 直 島 製 錬 所 ) の 紹 介 , 硫 酸 と 工 業 , Vo l. 58 ,
No.8, pp145-147 (2005)
4)
中野正明:光和精鉱株式会社の環境事業について, 硫酸と工業,
144
Vol.56, No.12, pp.121-124 (2003)
5)
水野賀夫, 中山勝也, 河地貴浩, 小島義弘, 渡辺藤雄, 松田仁樹,
高田
満:減圧条件下での溶融飛灰からの亜鉛、鉛、銅の塩化揮
発 促 進 , 化 学 工 学 論 文 集 , Vol .3 2, No. 1, p p .99 -1 02 (20 06 )
6)
吉田孝, 長坂徹也, 日野光兀:減圧下における溶銅中の亜鉛,鉛
の 蒸 発 速 度 , 日 本 金 属 学 会 誌 , Vo l. 63, No .2 , p p.1 67 -17 3 ( 19 99 )
7)
丸山徹, 片山博, 桃野正, 田湯善章, 竹之内朋夫:減圧下の尿素
吹 き 付 け に よ る 溶 鉄 か ら の 銅 の 蒸 発 速 度 , 鉄 と 鋼 , Vo l.8 4, No .4 ,
pp.243-248 (1998)
8)
吾妻潔, 岡村周良, 福富勝夫:スラグ中の亜鉛の揮発速度, 日本
鉱 業 会 誌 , V o l . 9 2 , N o . 10 5 7, pp .1 7 1-1 76 ( 1 976 )
9) Davey, T. R. A.: Distillation under Moderately High Vacuum,
Illustrated
by
the
Vacuum
Distillation
of
Zinc
from
Lead-Theoretical, Vacuum, Vol.12, p.279 (1962)
10)
神谷秀博, 寺前剛:石炭灰の付着・溶融機構, 化学工学シンポジ
ウ ム シ リ ー ズ 48
21 世 紀 を め ざ す 石 炭 利 用 技 術 , pp. 24 9- 2 5 8
(1995)
11)
小島紀徳, 上宮成之:石炭灰の付着・溶融機構, 化学工学シンポ
ジ ウ ム シ リ ー ズ 48
2 1 世 紀 を め ざ す 石 炭 利 用 技 術 , pp. 26 9- 2 74
(1995)
145
終章
製品化
消費
廃棄物
製錬
Zn
Pb
Cu
Cl系廃材
Cl系廃材
Cl
塩酸
廃棄物同士の組合せ処理
PVC
Cl
Cu
シナジー効果
Pb
固体残渣類
個別回収
資源・エネルギ
ミニマム型循環社会
CuCl
PbCl
省エネルギ
PbCl
減圧加熱
CuCl
重金属の揮発速度
の差を利用した個別分離
の差を利用した個別分離
減圧加熱による揮発促進
本研究では、各種塩素化剤による金属塩化物の生成挙
動の把握を行なうとともに、減圧下での重金属塩化物の
高効率分離・回収を検討した結果、溶融飛灰からの金属
資源回生のための本提案処理法の操作因子を明らかとす
ることができた。本処理法によって、多種の金属を高濃
度で含む溶融飛灰から金属を効率的に分離回収すること
ができ、持続可能な社会の発展に貢献できるものと期待
される。
146
ワン・
スルー
処理
1.本研究における検討と成果
我が国では、廃棄物の無害化および資源化を目的として、溶融固化処理の普
及が進み、重金属を高濃度に含む溶融飛灰の発生量増加が見込まれている。溶
融飛灰には可採年数が 40‐50 年以下の資源有限性が極めて高い Cu、 Pb、 Zn、
Cd 等の重金属を天然鉱物の数‐10 倍の高含有濃度に含んでいるものの、有害性
と分離・資源回収の困難性によって、現在、そのほとんどが直接、埋立処分さ
れている。
これに対して、溶融飛灰から重金属を再資源化する方法としては、湿式法で
は、酸抽出・アルカリ沈殿処理および溶媒抽出、乾式法では、還元揮発および
塩化揮発法などが提案、検討されている。とくに塩化揮発法は、高沸点の金属
を低沸点の塩化物として揮発除去するため、比較的低温度で重金属分離が可能
となる。しかし、長時間処理が余儀ないことがさらなる低エネルギでの金属回
収を妨げていることが指摘されていた。
そこで本研究では、塩化揮発法に減圧加熱を組み合わせた減圧塩化揮発法を
提案し、金属資源の高度回生と残渣の無害化を同時に達成しうる資源循環型社
会の早期実現に不可欠な溶融飛灰の適正処理技術の確立を目指した。本研究で
の検討課題は大別して以下の2項目に集約される。
(i)廃棄物中 Cl 源、廃塩酸などの各種塩素化剤による金属塩化物の生成挙
動の把握
(ii)減圧下での重金属塩化物の高効率分離・回収の検討
これまで、上記(i)の検討項目に関して、減圧加熱/塩化揮発装置の設計に
必要な塩素化剤として塩化水素ガス、塩酸、含有無機塩素化合物(NaCl、KCl、
CaCl 2 )を選び、これらによる重金属の塩化反応特性の検証を第1‐3章で述べ
た。これと関連して、溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす含有未燃炭素の影
響を第4章で検討した。
検討項目(ii)では、実溶融飛灰中の金属塩化物の揮発促進効果の発現範囲
と減圧加熱条件との関係を、第5章で詳細に検討した。具体的には、減圧塩化
揮発法を溶融飛灰に適応させ、金属塩化物融点以上としての加熱温度 873 K‐
1123K ならびに圧力を 1.3kPa-101.3kPa の範囲で変化させた条件下での実験を
行った。第6章において減圧加熱下における PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl の揮発速度を、
147
単位時間、単位面積あたりの揮発量が揮発速度定数に比例するとした見かけ揮
発速度式を用いて整理した。さらに得られた速度式から PbCl 2 、ZnCl 2 および CuCl
の最適な揮発分離条件を求め、金属資源回収のための本提案処理法の操作因子
の明確化をおこなった。
以下に各章で得られた成果を概説する。
第1章では、溶融飛灰に含まれる鉛、亜鉛、銅、鉄の重金属の乾式分離に対
して、塩化水素ガスを用いて重金属を低沸点塩化物とした後、揮発分離するこ
とを試みた。溶融飛灰、都市ごみ焼却飛灰に含まれる鉛、亜鉛、銅、鉄の揮発
挙動を比較検討した結果、反応温度 1173 K において鉛、亜鉛は飛灰種に関係な
く 98%以上の揮発率が得られ、鉄についても溶融飛灰で 85%、都市ごみ焼却飛
灰で 100%の揮発率を示した。銅は両飛灰とも鉛、亜鉛、鉄と比べて揮発しに
くいことがわかった。溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰の模擬飛灰を作成し、
試料調製温度および NaCl、KCl 添加量の変化による重金属揮発挙動を調べた。
その結果、試料調製温度による鉛、亜鉛、銅、鉄の揮発挙動の相違は見られな
かった。一方、NaCl、KCl 添加量の影響については、鉄の揮発率が NaCl、KCl
含有量の増加とともに減少し、この結果は溶融飛灰および都市ごみ焼却飛灰で
の鉄の揮発挙動と良い相関を認めた。
第2章では、都市ごみ溶融飛灰に塩化剤として塩酸を含浸させ、飛灰中に含
まれる Ca 分(Ca(OH) 2 )が銅、鉛、亜鉛の塩化揮発挙動におよぼす影響につい
て模擬飛灰・都市ごみ溶融飛灰を用いて検討した。その結果、Ca(OH) 2 を含有し
ない模擬飛灰に対し塩酸含浸・加熱処理を行ったところ、銅、鉛および亜鉛の
揮発率は 96%以上となった。一方、Ca(OH) 2 量が増加するにつれて鉛、亜鉛お
よび銅の揮発率は低下した。塩酸含浸処理後の Ca(OH) 2 含有模擬飛灰と CaCl 2
含有模擬飛灰の銅、鉛および亜鉛の揮発挙動がほぼ一致したことから、塩酸に
よって模擬飛灰中の Ca(OH) 2 が CaCl 2 の生成を介して重金属の塩化揮発に作用
したことが推測された。Ca 含有量の異なる都市ごみ溶融飛灰に対し、重金属お
よび Ca 含有量に対して 1.2 当量の塩酸含浸・加熱処理を行ったところ、飛灰種
によらず鉛、亜鉛は 99%以上の揮発率が得られ、銅の揮発率は 10‐20%から
148
35‐60%に向上した。銅は、Ca 含有量の多い都市ごみ溶融飛灰ほど、揮発が進
みにくいことがわかり、実験後の固体残渣表面の SEM/EDS 観察結果により、加
熱処理中に CaCl 2 溶融物の生成が推測されたことから、これらの CaCl 2 溶融物が、
1123 K では蒸気圧が低い CuCl 2 の表面を覆うことによって揮発阻害を及ぼした
ことが考えられた。
第3章では、溶融飛灰中重金属の塩化揮発に及ぼす含有 NaCl、KCl、CaCl 2 の
影響を、温度 873‐1173 K、窒素流通下で実験的に検討した。その結果、PbO、
ZnO、CuO を含有する模擬飛灰に対して NaCl、KCl、CaCl 2 を添加し、1023 K で
加熱処理した時の鉛、亜鉛、銅の揮発率は、すべて CaCl 2 >NaCl>KCl の順に高
くなった。一方、加熱温度の変化に伴う溶融飛灰中の鉛揮発率は、873 K 付近
から揮発率の向上が認められた。鉛の塩化反応は、923 K 以下の温度で生成し
た CaCl 2 、NaCl、KCl 共融混合物の影響を受けることがわかった。溶融飛灰中の
亜鉛は、含有 NaCl、KCl、CaCl 2 による塩化揮発ではなく、溶融飛灰中の未燃炭
素分ならびに鉄分との還元反応によって Zn を生成し、ZnO の融点よりも低い温
度で揮発したことが推測された。溶融飛灰中の銅は、加熱温度の変化に伴う揮
発率の向上がほとんど得られなかった。これは亜鉛の揮発挙動と同様、溶融飛
灰中に存在する未燃炭素分および鉄分によって CuO が Cu となることにより、無
機塩素化合物との塩化反応が進みにくくなったためと推測された。
第4章では、溶融飛灰中の重金属の塩化揮発に及ぼす未燃炭素の影響を調べ
るために、溶融飛灰および炭素分を含まない模擬飛灰を用いて温度 873‐1173 K、
窒素流通下で加熱実験を行った。その結果、溶融飛灰中の鉛、亜鉛の揮発率は
温度の上昇とともに増加し、1173 K でいずれもほぼ 100%となったのに対して、
模擬飛灰のそれは 85%、25%に留ま った。溶融飛灰中のこれら金属酸化物は
CaCl 2 と の 塩 素 化 反 応 と 未 燃 炭 素 に よ る 還 元 反 応 が 併 発 的 に 起 こ り 、 塩 化 物
(PbCl 2 、Pb 2 OCl 2 、ZnCl 2 )および単体金属(Pb、Zn、Cu)になり、塩化物(PbCl 2 、
Pb 2 OCl 2 、ZnCl 2 )および Pb、Zn は揮発し、Cu は固体残渣中に残存することがわ
かった。溶融飛灰中の重金属酸化物の還元は、炭素当量比 R C に影響され、1173
K、 R C =1.25‐13.63 では鉛揮発率はほぼ 100%、亜鉛についても R C =13.63 でほ
149
ぼ 100%の揮発率となった。一方、銅は R C の増加とともに揮発率は減少し、R C =4
以上で約 5%以下となった。
第5章では、塩酸含浸処理した溶融飛灰からの塩化亜鉛、塩化鉛、塩化銅の
減圧条件下での揮発促進効果について、加熱温度 873‐1123 K、保持時間1‐120
min、圧力範囲 101.3 kPa‐1.3 kPa の条件下で実験的に検討した。1.3 kPa の
減圧加熱下における塩化亜鉛、塩化鉛および塩化銅の揮発率は、常圧加熱下で
得られた結果と比較して約 1.5‐3.0 倍大きくなった。1.3 kPa の減圧加熱下で
の各種重金属塩化物の揮発率は、加熱温度の増加に伴ってより短時間で増加し、
1123 K では 1 min 以内でほぼ 100%の塩化亜鉛、塩化鉛が揮発した。溶融飛灰
中の各種重金属塩化物は、圧力の低下に伴って揮発率が増加した。塩化亜鉛、
塩化銅は、飽和蒸気圧以下に減圧することにより揮発率の増加が認められた。
しかしながら、塩化鉛は、圧力が塩化鉛の飽和蒸気圧以上でも揮発率の増加が
認められ、減圧加熱中の回収物中に KPb 2 Cl 5 を生成していることが認められた。
第6章では、減圧加熱下における PbCl 2 、ZnCl 2 、CuCl の揮発速度を、単位時
間、単位面積あたりの揮発量が揮発速度定数 K に比例するとした見かけ揮発速
度式を用いて整理した。その結果、温度 923 K における ZnCl 2 、PbCl 2 および CuCl
の単位面積あたりの揮発量は、いずれの圧力条件でも保持時間に比例して直線
的に増加した。実験で得られた ZnCl 2 、PbCl 2 、CuCl の揮発速度は本揮発速度式
から推算した値とほぼ一致することを認めた。ZnCl 2 、PbCl 2 、CuCl の揮発速度
差を利用した ZnCl 2 の個別分離条件を調べた結果、温度 973 K、圧力 65 kPa の
ときに ZnCl 2 と、PbCl 2 および CuCl との揮発速度差は、それぞれ 1.63×10 -2 お
よび 1.64×10 -2 kg/m 2・s と最も大きくなった。このときに供給されるエネルギ
量は、973 K の常圧に比べて約 85.4%削減できることが分かった。一方、PbCl 2 、
CuCl の揮発速度差を利用した PbCl 2 の個別分離条件を求めた結果、加熱温度
1173 K、圧力 60 kPa のときに、1.21×10 -1 kg/m 2 ・s と最も大きくなることが
分かった。
以上の結果より、減圧塩化揮発処理によって、溶融飛灰からの金属資源回生
のための本提案処理法の操作因子の明確化を達成することができた。
150
2.今後の課題
本研究では、溶融飛灰からの金属資源回生のための本提案処理法の操作因子
を明らかとした。しかしながら、本提案処理法の実用化をおこなうためには、
以下の検討項目を達成する必要がある。
2.1 灰粒子群からの重金属塩化物の揮発速度解析
本論文の第6章では、溶融飛灰のひとつの灰粒子に着目し、この灰粒子表面
に重金属塩化物が溶融していると仮定したときの、気液界面での揮発速度を、
単位時間、単位面積あたりの揮発量が揮発速度定数に比例するとした見かけ揮
発速度式を用いて整理した。しかし実際の溶融飛灰は、重金属塩化物が付着し
た灰粒子が粒子群を形成しているため、Figure 1 に示すように溶融飛灰からの
重金属の揮発速度は、気-液界面での真の蒸発反応 k 1 、気相中への MeCl 2 の移
動 k 2 のほかに、粒子間の移動速度 k 3 を考慮した総括揮発速度 K ”となることが
考えられる。
1/ K ” = 1/ k 1 + 1/ k 2 + 1/ k 3
(1)
そこで例えば、アルミナ試薬と重金属塩化物試薬を混合し、これを融点付近
で溶融させ、母体となるアルミナ粒子の表面に重金属塩化物をコーティングさ
せた模擬飛灰を調製する。次にこの模擬飛灰の造粒物からの重金属塩化物の揮
発速度定数 K ”を求める。この時、k 1 は Langmuir の式より求められ、気相中へ
の MeCl 2 の移動 k 2 は、本論文の第6章の結果を用いて推算することが可能であ
る。従って、これら一連の結果から、粒子間の物質移動 k 3 を求めることによっ
て、灰粒子群の影響を検討することができると考えられる。
151
界面
液相
気相
MeCl2粒子
気-液界面での真の蒸発反応 k1
¾粒子群 k3
気相中へのMeCl2の移動 k2
Figure 1
溶融飛灰粒子群からの揮発速度モデル
2.2 重金属塩化物の揮発速度に及ぼす無機塩素化合物の影響
実際の溶融飛灰には NaCl、KCl、CaCl 2 などの無機塩素化合物が含まれている。
これらの無機塩素化合物は、溶融飛灰中の重金属酸化物の塩素化に対しては有
効であるが、第3章にて示されたように加熱時に、重金属塩化物との共融混合
物を生成し、重金属塩化物の揮発挙動に影響を及ぼすことが考えられる。溶融
飛灰の主要成分は、無機塩素化合物であるため、これらの含有量ならびに存在
割合が変化したときの重金属塩化物の揮発速度に及ぼす影響について検討する
必要がある。
2.3 重金属含有固体廃棄物の適応範囲の検討
本研究では、溶融飛灰中の鉛、亜鉛および銅の揮発分離に対して減圧塩化揮
発法を適応させたが、本提案法は、多成分の重金属を含有する他の固体廃棄物
にも適応が可能と考えられる。具体的には、めっきスラッジ、製鋼ダスト、自
動車シュレッダーダストなどの固体廃棄物に対して、本提案法の適応範囲を把
握していく必要がある。最近では燃料電池や鉛フリはんだ等の普及により、貴
金属を含有した合金の需要が増えつつある。このことは、数年後には貴金属を
含有する難処理性固体廃棄物が排出されることを示しており、合金類からの金
属の分離回収についても検討していく必要がある。
152
2.4 エネルギ収支比の観点からの本提案法と従来法との比較
本論文の第6章では、本実験装置での減圧加熱によるエネルギ削減効果を検
討した。今後は、省エネルギプロセスとしての本提案法の位置づけをエネルギ
収支比の観点から評価していく必要がある。具体的には、エネルギ収支比の観
点からの本提案法と、現状の重金属固定化による埋立処分との比較、さらには
乾式重金属回収法である還元揮発、熱プラズマ、真空揮発および塩化揮発等と
の比較検討をおこなう必要がある。例えば、各種重金属回収法における投入エ
ネルギおよび投入資源に対して得られた重金属の回収率ならびに品位を、それ
ぞれ産出エネルギとして換算し、重金属固定化による埋立処分の場合は、金属
資源の枯渇、埋立処分場の逼迫、および埋立飛灰からの重金属流出による土壌
汚染などの環境負荷面でのマイナス要素を運用エネルギとして換算し評価する
手法を確立する必要がある。
3. 今後の展望
本研究を通して、溶融飛灰のような多成分の有価金属を含有する固体廃棄物
を埋立処分するのではなく、エネルギミニマム型の適正処理技術によって金属
資源回生することにより、新たな廃棄物処理の概念を世界に発信できるもの
と期待される。これは我が国が「資源小国」であるからこそ世界に提案できる
ことであり、今世紀、人類共通の目標である持続可能な開発の構築に向けた先
駆けとなる取り組みとなることを心から期待する。
[謝 辞]
本研究成果の第1章は、平成 12 年度川鉄 21 世紀財団ならびに平成 12 年度赤
崎記念研究奨励事業の研究助成によって得られました。ここに記して深謝致し
ます。本研究の第2章は、平成 14 年度(財)東海産業技術振興財団の助成よっ
て本研究成果が得らました。ここに記して感謝致します。最後に、本研究論文
の第4‐6章は、平成 16‐18 年度環境省廃棄物処理等科学研究費補助金(K1616、
K1732、K1843)によって遂行されたことを記し、謝意を表します。
153
謝辞
154
謝 辞
本研究は、名古屋大学大学院 工学研究科 エネルギー理工学専攻 松田仁樹教授のご
指導によって行なわれたものであります。本研究の遂行および博士論文の作成に当たり、
松田教授には研究に対する態度、方針、活動など精神的な面から日常の研究活動に至るま
で、ご指導、ご鞭撻を頂きました。ここに厚くお礼申し上げます。
本論文をまとめるにあたり、名古屋大学大学院 工学研究科 エネルギー理工学専攻
飯田孝夫教授、山﨑耕造教授、名古屋大学 エコトピア科学研究所 伊藤秀章教授の皆様
方には、適切かつ有益なご教示を賜り、心よりお礼申し上げます。
また、本研究を進めるにあたりご助言、激励を頂きました愛知工業大学 渡辺藤雄助教
授、名古屋大学 エコトピア科学研究所 小島義弘助教授、名古屋大学大学院 工学研究
科 出口清一講師、窪田光宏助手、名古屋大学 難処理人工物研究センター元助手 小澤
祥二氏の皆様に深くお礼申し上げます。
日常の実験ならびに研究ディスカッションを遂行するにあたり山本政英氏、
田中誠基氏、
田島善直氏、水野賀夫氏、河地貴浩氏、酒井啓介氏、西井智広氏には、多大なご協力をし
て頂きました。深くお礼申し上げます。M. S. Onyango 氏、D. Kuchar 氏には、懇切丁寧な
英語のご指導をして頂き、ここにお礼申し上げます。また、エネルギー理工学専攻 松田
研究室の卒業生ならびに在学生の皆様には、日常の研究活動においてご支援ご協力頂きま
した。心より重ねてお礼申し上げます。
社会人博士課程に入学する機会を与えて頂きました新東工業株式会社 最高顧問 永井
譲氏をはじめ、役員の方々の多大なご理解に深く感謝いたします。新東工業株式会社 開
発部調査役 高田満氏には、入学以前より、受託研究員としての在籍中から多年間にわた
りご支援頂くとともに、私の入学の際には、心のこもった推薦状を頂きました。ここに厚
くお礼申し上げます。また、新東工業株式会社 開発部 環境開発グループマネジャ 池
野栄宣氏、新東エコテックカンパニー 技術部長 後夷光一氏には、会社業務と研究生活
の両立にあたり、ご支援して頂きました。心よりお礼申し上げます。また、私が在学中に
所属した新東エコテックカンパニー 溶融事業部、新東工業株式会社 開発部 環境開発
グループおよび新東エコテックカンパニー 技術部の皆様方には言い知れぬご苦労をおか
けしましたことを、ここに陳謝し感謝の意を表します。
末筆となりましたが、社会人博士課程の修了に際し、体調維持のために食生活ならびに
精神面で気を配ってくれた妻に感謝し、この喜びをともに分かち合いたいと思います。
2007 年1月
中 山 勝 也
155
論文目録
156
論文目録
Ⅰ 学会誌等
論文題目
公表の方法及び時期
著者
1. 飛灰に含有される重金属のハロ 廃棄物学会論文誌, Vol.13, 中山勝也, 山本政英
ゲン化反応による乾式分離特性
No.5, pp.271-278 (2002)
田中誠基, 小澤祥二
松田仁樹, 高田 満
2. 塩酸含浸・加熱処理による都市 化 学 工 学 論 文 集 , Vol.29, 中山勝也, 田中誠基
ごみ溶融飛灰中重金属の塩化揮 No.6, pp.787-794 (2003)
田島善直, 小島義弘
発挙動におよぼすカルシウム含
小澤祥二, 松田仁樹
有量の影響
高田 満
3. 都市ごみ溶融飛灰に含まれる 化 学 工 学 論 文 集 , Vol.30, 中山勝也, 田島善直
NaCl, KCl, CaCl2 の重金属塩化揮 No.6, pp.778-785 (2004)
水野賀夫, 小島義弘
発挙動に及ぼす影響
松田仁樹, 高田 満
4. 減圧条件下での溶融飛灰からの 化 学 工 学 論 文 集 , Vol.32, 水野賀夫, 中山勝也
亜鉛、鉛、銅の塩化揮発促進
No.1, pp.99-102 (2006)
河地貴浩, 小島義弘
渡辺藤雄, 松田仁樹
高田 満
5. 溶融飛灰中重金属の塩化揮発に 廃棄物学会論文誌, Vol.17, 中山勝也, 酒井啓介
及ぼす未燃炭素の影響
No.6, pp.428-436 (2006)
河地貴浩, 田島善直
水野賀夫, 渡辺藤雄
松田仁樹, 高田 満
157
Ⅱ 国際会議
論文題目
公表の方法及び時期
1. Separation Characteristics of Proc. 10th the APCChE
著者
K. Nakayama, Y. Tajima
Heavy Metals from Molten Fly
Congress, Program P-06-059
S. Mizuno, Y. Kojima
Ash by Chloride-Induced
(Kokura, 2004)
H. Matsuda, M. Takada
Proc. 10th the APCChE
S. Mizuno, K. Nakayama
Volatilization
2. Enhancing Chloride-Induced
Volatilization of Heavy Metals Congress, Program P-06-060
(Kokura, 2004)
Contained in Fly Ash in a
Y. Tajima, Y. Kojima
H. Matsuda, M. Takada
Vacuum
3. Volatilization
Behavior
of Extended Abstracts of
Heavy Metals from Solid Wastes International Symposium on
by Chlorination Reaction
EcoTopia Science 2005,
T. Kawachi, S. Mizuno
K. Nakayama, F. Watanabe
Y. Kojima, H. Matsuda
pp.719-722 (Nagoya, 2005)
4. Effect of Ash Constituent on
Proc. 9th Conference on
Separation Characteristics of Environmental Science and
K. Nakayama, S. Mizuno
Y. Tajima, T. Kawachi
Heavy Metals from Molten Fly
Technology, Vol.A,
Y. Kojima, F. Watanabe
Ash by Chloride-induced
pp.1071-1076 (Rhodes, 2005)
H. Matsuda, M. Takada
Proc. 11th the APCChE
K. Sakai, T. Kawachi
Volatilization
5. Acceleration of
Volatilization Rate of Heavy
Congress, Paper ID 249 (Kuala S. Mizuno, K. Nakayama
Metal Chlorides from Molten
Lumpur, 2006)
M. Takada
Fly Ash under Reduced Pressure
6. Effect of Unburned Carbon on Proc. the 4th International
Chloride-Induced
Conference on Combustion,
Volatilization of Heavy Metals Incineration/ Pyrolysis and
from Molten Fly Ash
F. Watanabe, H. Matsuda
K. Nakayama, K. Sakai
T. Kawachi, Y. Tajima
S. Mizuno, F. Watanabe
Emission Control, pp.491-494 H. Matsuda, M. Takada
(Kyoto, 2006)
158
Ⅲ 著書、解説 他
論文題目
1.
公表の方法及び時期
著者
飛灰に含まれるダイオキシン類 特開 2002-136943
中山勝也, 高田 満
の分解および重金属の回収方法
小澤祥二, 松田仁樹
及びそのシステム
2.
固体廃棄物からの難分離性重金 特開 2002-275550
中山勝也, 高田 満
属の分離回収方法及びそのシス
小澤祥二, 松田仁樹
テム
3.
固体廃棄物中に含まれる重金属 特開 2005-137982
中山勝也, 高田 満
の分離方法及びその分離回収シ
田中誠基, 松田仁樹
ステム。
4.
5.
溶融飛灰に含まれる重金属の分 特開 2006-131962
中山勝也, 高田 満
離回収方法
田島善直, 松田仁樹
固体廃棄物の無害化処理方法
特開 2006-205020
中山勝也, 高田 満
水野賀夫, 松田仁樹
6.
塩化反応による飛灰中重金属の 第 5 回資源循環型生産システム 中山勝也, 高田 満
揮発反応特性
7.
8.
(IMS)
・シンポジウム,
山本政英, 小澤祥二
pp.178-184(2000)
松田仁樹
高アルカリ溶融飛灰処理システ 産業機械、No.630, p.64 (2003) 中山勝也, 浅井宏文
ム
松本克美
塩酸含浸・加熱処理による飛灰 化学工学会エネルギー部会シ
中山勝也, 田島善直
中重金属の塩化揮発に及ぼす含 ンポジウム講演論文集, Vol.3, 田中誠基, 水野賀夫
有 Ca の影響
No.1, pp.215-218 (2003)
小島義弘, 松田仁樹
高田 満
159
9.
塩化反応-減圧加熱を組み合わ 化学工学会エネルギー部会シ
せた飛灰中重金属の分離促進
水野賀夫, 中山勝也
ンポジウム講演論文集, Vol.3, 田島善直, 田中誠基
No.1, pp.223-226 (2003)
小島義弘, 松田仁樹
高田 満
10.
溶融飛灰中アルカリ塩の重金属 化学工学会エネルギー部会シ
塩化揮発反応に及ぼす影響
田島善直, 中山勝也
ンポジウム講演論文集, Vol.3, 田中誠基, 水野賀夫
No.1, pp.227-230 (2003)
小島義弘, 松田仁樹
高田 満
11.
カーシュレッダーダストガス化 素形材, Vol.45, No.1, p.35
溶融リサイクルシステム
12.
中山勝也
(2004)
ASR ガス化溶融リサイクルシス 第 9 回資源循環型生産システム 高田 満, 岡本 守
テムの開発
(IMS)
・シンポジウム,
村上礼喜, 清水正紀
pp.107-112(2004)
浅井宏文, 中山勝也
兵藤慎祐, 水野敏之
160
Fly UP