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低調な太陽活動極大期 ∼いま太陽は特異なのか - ITU-AJ

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低調な太陽活動極大期 ∼いま太陽は特異なのか - ITU-AJ
スポットライト
低調な太陽活動極大期
∼いま太陽は特異なのか∼
く ぼ
独立行政法人 情報通信研究機構 宇宙環境インフォマティクス研究室 主任研究員
1.はじめに
ゆう き
久保 勇樹
220
200
近年、国民の太陽活動に対する関心が非常に高まってき
られるようになってきたことからも、その関心の高さをうか
がい知ることができる。太陽活動が約11年の周期で極大期、
極小期を繰り返していることはよく知られるところである。
そして今、太陽活動が極大期を迎えている。本稿では、近年
話題となっている今太陽活動周期の太陽活動について、主
に太陽活動周期の長期化と太陽の大規模磁場の反転に関す
る話題を中心に述べる。
180
黒点相対数(移動平均値)
ており、様々なメディアに太陽活動に関する情報が取り上げ
160
140
120
100
80
60
40
20
0
1996
1998
2000
2002
2004
西暦
2006
2008
2010
2012
図2.太陽活動周期長の比較。黒点数データの出典は図1と同じ。
2.太陽活動周期
図1に1610年以降の黒点数の変化を示した。黒点数がお
太陽活動といっても様々であるが、太陽表面での爆発現
およそ11年の周期で増減しているのがよく分かる。1650年頃
象である太陽フレアが代表的な太陽活動としてよく知られて
から1700年代前半にかけて見られる黒点がほとんどなかった
いる。ほとんどの太陽フレアは黒点が密集した場所(黒点
時期は、マウンダー極小と呼ばれている。ちょうどこの時期
群)で発生するため、太陽活動の指標として黒点の数が広
にヨーロッパではテムズ川が凍結したなどの記録が残されて
く用いられており、黒点数が少ない時期は太陽活動の極小
おり、太陽活動の地球気候への影響も指摘されている。ま
期、多い時期が太陽活動の極大期に対応する。太陽活動の
た、1800年頃から約20年間にわたってそれらの前後の太陽活
周期には、西暦1755年の極小期から始まった周期を第1太陽
動周期に比べて有意に黒点数が少なかった時期が見られる
活動周期として順番に番号が振られており、現在は2008年
が、この期間はダルトン極小と呼ばれている。
12月頃から始まった第24太陽活動周期の極大期を迎えてい
る。
近年、太陽活動周期の長期化に関する話はよく話題とし
て取り上げられている。図2に過去9太陽活動周期についての
黒点数の変化を示す。グラフは各太陽活動周期の開始時期
をそろえてあり、次の周期が始まるまでの期間を比べられる
250
黒点相対数(月平均値)
ようになっている。オレンジ色の各線が第15から第22太陽活
動周期のデータ、青線が第23太陽活動周期のデータである。
200
図を見ると第23太陽活動周期は、過去8周期に比べて周期
150
が長くおおよそ12.6年であったことが分かる。また、第23∼
24太陽活動周期の極小期付近に当たる2006年から2011年ま
100
での無黒点日数は800日を超えており、太陽活動は非常に低
調であったと言える。
50
0
1600
1650
1700
1750
1800 1850
西暦
1900
1950
2000
図1.太陽黒点数の変化。データはベルギー王立天文台
(http://www.sidc.be/sunspot-data/)及びアメリカ海洋大気庁
(http://www.ngdc.noaa.gov/stp/solar/ssndata.html)より。
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ITUジャーナル Vol. 43 No. 10(2013, 10)
3.太陽磁場の反転
太陽は、地球と同じようにおおよそ北極-南極を磁軸とし
た大規模な双極子状の磁場を持っており、今の太陽活動周
期が始まった時点での極性は、北極がS極、南極がN極とな
陽極域の磁場を高い精度で観測することに成功した。
「ひの
っていた。この大規模磁場の極性は、太陽活動の極大期に
で」による高精度太陽極域磁場観測によって、今まで知ら
反転することが知られているが、この磁場の反転も太陽黒点
れていなかった太陽極域の新たな描像が見え始めてきている。
と密接に関係している。
これまで、太陽の極域には一様に弱い磁場が広がってお
黒点はその周辺に比べて磁場が強い領域であり、通常はS
り、これらが大規模磁場の極性を担っていると考えられてき
極とN極が東西に並んだ対になって現れる。その対の位置関
た。しかしながら、
「ひので」の観測によって極域には黒点と同
係は完全な東西方向ではなく、東側にある黒点の方がやや極
程度の強い磁場を持った斑点状の構造が分布しており、これ
側に近く、その極性はその黒点がある半球の大規模磁場の極
らが大規模磁場の極性を担っていることが分かってきた[2]。
性と反対極性になる(図3)
。図3で太陽面での東西が地球上
そして「ひので」は、極域磁場を長期間観測することによっ
での東西と反対になっているのは、地球から太陽を見たとき
て、大規模磁場が反転していく様子を世界で初めて捉えるこ
にその東西南北が地球上での東西南北と一致するように決
とに成功した[1]。図4は2007年9月(左)と2012年9月(右)
めているからである。これらの黒点は太陽表面の対流によっ
に観測した北極の磁場の様子を示しており、図中の同心円
て崩壊していき、その寿命は長いもので数週間程度である。
は緯度5度ごとに描かれている。2007年には北極域全体がS
大規模磁場の極性は、大規模磁場とは反対極性を持ったや
極(オレンジ色)の強い磁場の斑点で覆い尽くされているの
や極に近い位置にある黒点が崩壊しながら、太陽表面を赤道
に対して、2012年になると、全域でS極の磁場斑点が小さく
から両極に向かう流れ(子午面環流)や拡散によって極域
なり、北緯75度付近より南側ではN極(青色)の強い磁場
方向に移動していくことで、徐々に大規模磁場と反対極性
の斑点が優勢になってきているのが見て取れる。これは北極
を持った磁束が増えていき、最終的に反転すると考えられて
域の磁場反転が北緯75度付近まで進行していることを示し
いる。現在は、太陽活動極大期を迎えており、大規模磁場
ている。
の反転が進行している最中である。
一方、南極磁場に対しても同様の観測が行われており、
最近、今の太陽活動周期の大規模磁場の反転が、南北半
2012年の段階でもいまだに南極域全体がN極の強い磁場の
球で非対称に進んでいるという研究結果が発表されて話題と
斑点でおおわれた状態となっている。図5は、両極域それぞ
なっている 。この研究は、日本が打ち上げた太陽観測衛星
れでのS極、N極の磁場斑点の強さの平均値の時間変化を表
[1]
「ひので」が観測した大きな成果である。
「ひので」は太陽活
動の極小期であった2006年に打ち上げられ、現在も太陽を
観測し続けている。太陽の北極、南極は地球から見ると太
陽の縁になるため、これまで地上の望遠鏡や人工衛星からの
観測でも、太陽極域を高精度で観測することは非常に困難
であった。しかし、
「ひので」に搭載されている極めて高い性
能を持つ可視光磁場望遠鏡という装置は、地球周辺から太
図4.
「ひので」で観測された太陽北極域の詳細な磁場構造。左右はそ
れぞれ2007年、2012年の観測(国立天文台/JAXA提供)
。
図3.太陽黒点の極性とその位置関係の模式図。
図5.
「ひので」で観測された太陽両極域における平均磁場の時間変化。
左右はそれぞれ北極、南極の観測(国立天文台/JAXA提供)
。
ITUジャーナル Vol. 43 No. 10(2013, 10)
35
スポットライト
したもので、左右それぞれ北極、南極となっている。北極で
かった周期の次の周期の太陽活動度は低くなることが指摘さ
はS極(オレンジ色)が急速に減少、N極(青色)は徐々に
れている[5]。マウンダー極小やダルトン極小の直前の太陽活
増加しており、2013年にはS、N極の強さが逆転、すなわち
動周期が長かったという事実はこれと合致している。現時点
大規模磁場の反転が起きそうな状況である。一方、南極で
でのNASAの最新の予測(2013年7月1日発表:
はN極は徐々に減少してはいるもののS極はほとんど増加して
http://solarscience.msfc.nasa.gov/predict.shtml)によれ
おらず、依然としてN極が優勢な状態が続いており大規模磁
ば、今太陽活動周期の極大は2013年夏頃で黒点数の最大値
場の反転の兆候は見られない。以上のことは、現在太陽では
は約67となっており(注:2012年2月にも黒点数67に達して
北半球の方が南半球に比べて急速に大規模磁場の反転が進
いる)
、これは過去100年間で最低である。今周期の低調な太
行している状態にあり、大規模磁場の反転が南北半球で非
陽活動と、前太陽活動周期が12.6年と長かったことを考える
対称となっていることを裏付けている。
と、現在はマウンダー極小やダルトン極小のように今後長期
これらの観測は大規模磁場の反転が低緯度側から徐々に
進行していくこと、大規模磁場の反転が必ずしも南北対象
間太陽活動が低調な状態が続いていく前兆なのではないか、
と考える研究者もいる。
に起こっているわけではないということを、観測史上初めて
このように、今の太陽活動周期は、過去数周期と比較す
明確に示したことになる。このように、今まで観測すること
ると若干特徴が異なっており特異なように見える一方で、百
ができなかった太陽極域の詳細な磁場構造を、
「ひので」を
年以上という長い時間スケールで見ると、現在の太陽活動は
用いることで初めて高精度に観測することに成功したという
特別異常な振る舞いではない、というのが大方の見方である。
点で、これらの結果は非常に重要である。
5.おわりに
4.今の太陽活動周期は特異なのか?
太陽活動は、地球周辺の宇宙環境を変動させ、人類の社
今太陽活動周期に入って、太陽活動に関する多くの新し
会活動に多大な影響を与える。このような宇宙環境の変動
い事実が分かってきた。特に、前述の大規模磁場反転の南
を把握し予測する宇宙天気予報の研究が、情報通信研究機
北非対称の事実は大きな話題となっている。では、この非対
構で行われている。宇宙環境変動の源である太陽活動が宇
称な大規模磁場の反転は今太陽活動周期だけの特徴なので
宙天気予報に大きく影響するのは当然のことであるが、今の
あろうか?前節で、
「ひので」が初めて太陽の極域を詳細に
太陽活動周期ほど低調な太陽活動は、宇宙天気予報の研究
観測することに成功したと述べたが、実は数十年前から太陽
が始まって以来、初めてのことであり、このような低調な太
の極域の観測は行われていた。それらの観測では、極域の詳
陽活動が続いたときに宇宙天気にどのように影響するのかを
細な構造は分からないが極域全体での極性程度であれば観測
我々はいまだ知らない。さらに、今後の太陽活動が低調なま
できており、既に非対称な大規模磁場の反転は示唆されてい
ま停滞するのか、それとも再び活発な活動を取り戻していく
[3]
た 。
のか、また低調な太陽活動は長期的な地球環境の変動に対
第23太陽活動周期は約12.6年と過去8周期に比べて有意
してどのように影響するのかといった宇宙気候的な問題、な
に長かったと第2節で述べたが、このようなとても長い太陽活
どは非常に興味深い問題である。今後10∼20年という長期
動周期も実は天文学的な時間スケールで見れば特異なことで
にわたる太陽活動の観測・監視が、これらの問題の答えを与
はない。マウンダー極小やダルトン極小の直前の太陽活動周
えてくれるかもしれない。
期は約12∼13年であったと言われており、また樹木の年輪や
南極大陸の氷中に残されている炭素14の量から、黒点数の
観測がまだ存在していない時期の太陽活動度が推定されてい
参考文献
[1] Shiota, D., et.al., 2012, Astrophysical Journal, 753, 157
[2] Tsuneta, S., et.al., 2008, Astrophysical Journal, 688, 1374
るが、その結果からも太陽活動周期の伸びは過去に何度も起
[3] Babcock, H. D., 1959, Astrophysical Journal, 130, 364
きていることが分かっている[4]。
[4] Miyahara, H., et.al., 2010, Journal of Cosmology, 8, 1970
太陽活動度の低下と太陽活動周期の伸びとの関係につい
ては過去から数多く研究されており、例えば、活動周期が長
36
ITUジャーナル Vol. 43 No. 10(2013, 10)
[5] Watari, S., 2008, Space Weather, 6, S12003
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