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サイアロン系蛍光体と発光素子への応用 佐久間 健
サイアロン系蛍光体と発光素子への応用 佐久間 健 i 目次 第1章 序論 1 1.1 研究の背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1 1.2 照明の歴史 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 2 1.3 固体照明への期待 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 1.4 光学特性評価項目 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9 1.5 蛍光体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15 1.6 アルファサイアロンの研究 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18 1.7 アルファサイアロン蛍光体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19 1.8 目的と課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 1.9 本研究の構成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24 参考文献 第2章 25 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 28 2.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28 2.2 実験方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 2.3 第 1 の実験の結果と考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33 2.4 第 2 の実験の結果と考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37 2.5 第 3 の実験の結果と考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46 2.6 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 60 参考文献 第3章 62 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 65 3.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 3.2 実験方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 67 3.3 結果と考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68 ii 目次 3.4 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 参考文献 第4章 83 85 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 88 4.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 88 4.2 実験方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 89 4.3 結果と考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 91 4.4 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 100 参考文献 第5章 102 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 104 5.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 104 5.2 実験方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 105 5.3 結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 107 5.4 考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 114 5.5 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 122 参考文献 第6章 123 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 126 6.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 126 6.2 酸窒化物・窒化物蛍光体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 127 6.3 高演色 4 色混色型白色 LED ランプ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 129 6.4 高演色型白色 LED ランプの温度特性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 135 6.5 高演色型白色 LED ランプの視感効率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 136 6.6 装飾用中間色ランプ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 139 6.7 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 141 参考文献 第7章 142 総括 145 原著論文 148 国際会議論文 148 受賞歴 149 iii 関連原著論文 149 関連国際会議・学会発表 150 関連解説記事/講演/雑誌掲載 152 謝辞 154 1 第1章 序論 1.1 研究の背景 近年, 環境問題に注目が集まっており, 多方面において「サスティナブル=永続的」な社 会を実現するための技術開発が求められている. 1997 年には京都市の国立京都国際会館 で開かれた地球温暖化防止京都会議 (第 3 回気候変動枠組条約締約国会議, COP3) におい ていわゆる京都議定書 (Kyoto Protocol) が議決され, 地球温暖化の原因となる, 温室効果 ガスの一種である二酸化炭素, メタン, 亜酸化窒素, HFCs, PFCs, 六フッ化硫黄の排出量 を各国が削減していくこととなった [1]. 日本においては, 1990 年を基準として 2008 年–2012 年の間に 6 % を削減することに なっており, 温暖化対策要素ごとに, エネルギー消費に関係する二酸化炭素排出量の削減 0.0 %, メタン・亜酸化窒素の排出抑制 −0.5 %, ライフスタイルの変更・革新的技術開発 −2.0 %, 代替フロンガスの排出抑制 +2.0 %, 森林による吸収源の確保 −3.9 %, 排出量取 引・技術供与による削減 −1.6 % といった削減目標を定めている. この中で, 二酸化炭素の 排出量については, プラスマイナス・ゼロの目標に対して 2002 年時点ですでに +11 % と 激増しており, 目標の達成が困難視されている. 日本における二酸化炭素の総排出量は 2002 年度時点で 12 億 4,800 万トンであり, そ のうち実に 30.4 % が発電所等に由来している [2]. また, 家庭内における消費電力量の構 成を見ると, エアコン 23.9 %, 冷蔵庫 16.4 %, 照明機器 15.4 %, テレビ 9.4 %, その他 34.9 % となっている [3]. 近年, エアコンと冷蔵庫については研究開発の進展により使用 電力量を大幅に削減することに関して一定の成果が得られており, 次なる課題は照明の省 エネ化であると言える. 2 第 1 章 序論 食器洗浄 乾燥機 1.2% 衣類 乾燥機 2.5% 温水洗 浄便座 3.3% 電気 カーペット 4.0% 図 1.1 その他 23.9% エアコン 23.9% 冷蔵庫 16.4% テレビ 9.4% 照明器具 15.4% 平成 13 年度電力需給の概要 (平成 12 年度推定実績). (参考文献 [3] の数値をグラフ化) 1.2 照明の歴史 人類が最初に火を利用したのは約 50 万年前と言われ, 19 世紀までの長い間これが唯一 の照明であった. 照明器具が蝋燭などの炎から電力に切り替わったのは, 19 世紀に入っ てから, 電球や炭素アーク灯の発明以後のことである. 以下に, 参考文献 [4][5] などから その歴史を抜粋引用して紹介する. 電球開発当初の時期は, 白熱ガス灯が広く普及したた め, 電球の普及は実用化からさらに 30 年も遅れたと言われている. 電球は Thomas Alva Edison の数多の発明品の一つとして有名であるが, 実際には Edison 以前に多くの研究開 発が成されたことが記録に残っている. 電球の発明者については, 諸説あるが, 現象の発見としては 1801 年に英国の Sir Humphry Davy が空気中で白金線に電気を流し, 電気抵抗による加熱で発光させたのが 最初のようである. この時は, すぐに白金は酸素と反応して焼き切れてしまったとのこと である. その後白金線を真空のガラス容器に封入する多くの試みが行われたが, 白金の融 点が 1,772◦ C と低いこともあって白金フィラメント電球はついに実用化には至らず, 研 究の主流は炭素フィラメントへと移っていった. 炭素フィラメントは, 真空中であれば約 3,500◦ C まで耐える. 当時は真空技術が未熟であり, 酸化を防止し寿命を延ばすことが開 発のポイントであった. 1854 年, ドイツ生まれの Heinrich Göbel が竹を炭化したフィラメントを用いて電球を つくり, 1859 年には寿命を 400 時間にまで延ばした. この時には, 特許出願はしていない. Göbel の炭素フィラメント電球は, 1879 年出願の Edison 特許に対する無効請求訴訟で先 1.2 照明の歴史 発明の証拠として引用されたことにより有名である. 英国の Sir Joseph Wilson Swan は, 1850 年に真空のガラス容器と紙をコイル状にして 炭化したフィラメントで電球をつくり, 1860 年にはこれを改良して木綿糸を乾留炭化して 炭素フィラメント電球をつくるが, 真空度の低さから寿命は短く, 一度は開発を断念する. 17 年後, 真空技術の向上を待ち開発を再開した彼は, 木綿糸を硫酸処理して炭化したフィ ラメントを用いて炭素フィラメント電球を完成させ, 1878 年 2 月 5 日には 700 人の前で 公開している. この時点でもなお低真空とフィラメントの材質に起因する寿命の短さは問 題であったが, Swan の電球は商用化され販売されるに至った. また, サイエンティフィッ ク・アメリカン誌の 1879 年 7 月号にも取り上げられた. Thomas Alva Edison は, 1871 年にニュージャージー州のニューアークに実験所をつ くってから発明に専念するようになり, 1876 年にメンロ・パークに移って発明工場をつ くった. 1874 年, Henry Woodward と Mathew Evans は窒素ガスを封入したガラス球の 中に細い棒状の炭素を電極で支えた電球に関してカナダ特許を取得するが, 事業化する資 金が無く, Edison がこの特許を 1875 年に購入した. その後 Edison は目標を電球開発に 絞り, 所員を総動員して水銀排気ポンプの改良と炭素フィラメント材料の探索と改良を組 織的に進めていった. 前記のサイエンティフィック・アメリカン誌の Swan の電球の記事 を見た所員のチャーチル・バチェラーが木綿糸を炭化した炭素フィラメントで電球の実験 を行い, 1879 年 10 月 19 日から 21 日にかけて, 40 時間以上発光させることに成功, これ を元に Edison は 1879 年 11 月 4 日に特許を出願し 1880 年 1 月 27 日に公告となった. この特許はいったんは無効との判決を受け, その後の訴訟で再び有効と認められ, 法廷闘 争は特許権が切れる 1894 年まで続いた. Swan との間でも長期に渡る法廷闘争が続いた が, Edison と Swan とは和解し 1892 年にエジソン&スワン電灯会社 (Ediswan) を設立, これが今日のゼネラル・エレクトリック (GE) 社の元となる. 寿命を延ばし実用化するた めのフィラメント材料探索では, 全世界に 20 人の所員を派遣し, 6,000 種以上の物質を試 し, 1880 年に日本の京都八幡村の竹が最も適した材料であるとの結論に達した. フィラメント材料の探索はその後も続けられ, 1883 年には Swan がニトロセルロース から細い繊維「人造絹糸」をつくりだした. この人造絹糸は, 1884 年フランスの Comte de Louis-Marie-Hilaire Bernigaud de Chardonnet が製法特許を取得し 1891 年から工業 生産を開始, 炭素フィラメント電球のコストの低減に貢献した. 金属フィラメントの探索にも多くの研究者が取り組んだ. フィラメントを抵抗加熱し て発光させるフィラメント電球では, 発光色はフィラメントの温度により決まる. 太陽光 に近い白色の発光をフィラメントを用いて得るためには, 炭素フィラメントよりもさらに 高温に耐える高融点金属のフィラメントが必要であった. エジソンも金属フィラメント 電球の開発を進めていたが, 最初に成功したのは白熱ガス灯の発明者でもある Dr. Carl Auer von Welsbach である. 高融点金属フィラメント開発の課題は, 高融点であり坩堝を 3 4 第 1 章 序論 用いて溶融することが出来ない高融点金属をいかにしてフィラメントに加工するかにあ り, Welsbach は粉末冶金法により焼結してフィラメントを製造する方法を発明しこれを 解決した. Welsbach が選択した材料は融点 2,700◦ C のオスミウムであり, 白金属 6 元素 (ルテニウム, ロジウム, パラジウム, オスミウム, イリジウム, 白金) の中では一番融点が 高いものである. 残念ながら, オスミウムフィラメント電球は実用化されたとは言っても, 寿命が短く高価であり成功はしなかった. オスミウムよりもさらに高融点の金属としてタンタル (融点 2,996◦ C) やタングステン (融点 3,387◦ C) があるが, これらについても Welsbach の粉末冶金法の発明によって相次 いで実用化された. タンタルフィラメント電球は 1903 年にドイツのジーメンス社により 実用化されたが, 残念ながら脆いという問題が残っていた. またタングステンフィラメン トは同じく 1903 年に Sándor Just と Ferenc Hanaman により炭素フィラメントをタン グステンサスペンションで被覆し加熱して炭素分を除去するという製法により発明され, ハンガリーの Tungsram 社が世界で初めて販売を開始した [5][6]. 1908 年には GE 社の研 究員 William D. Coolidge により冶金的な線引き法が発明され, タングステンフィラメン トの製法はこれに置き換わった. GE 社は 1911 年に炭素フィラメント電球の製造設備を 全面的にタングステンフィラメント電球に切り替え, 販売を開始. これにより 100 年続い た電球フィラメント材料の探索はその終焉を見ることとなった. 電球は, その後, 真空ではなく不活性ガス封入とすることでフィラメント材料の蒸発を おさえる, 不活性ガスを分子量の大きなものとし, またフィラメント形状をコイル形状, さ らには二重コイル形状とすることによって対流をおさえフィラメント温度の低下を防止す るなどの改良が加えられた. また, フィラメントから蒸発したタングステンをハロゲン化 タングステン化合物にし, 再度フィラメントに戻す「ハロゲンサイクル」を利用して寿命 の問題を解決したハロゲンランプも開発された. 電球と共に現在広く普及している照明器具に, 相関色温度の高い白色光を高効率で発光 する蛍光灯がある. 蛍光灯は, 放電現象を利用して電力を紫外光に変換し, 蛍光体を用いて 紫外光を白色光に変換する. 放電現象を利用した照明器具は, 1800 年代の初めには英国の Sir Humphry Davy により炭素アーク灯が発明されており, 1808 年 Alessandro Volta の 電池を 2,000 個接続した公開実験が実施されている. 蛍光体の歴史については後述するが, 例えば電球の普及を 30 年遅らせたと言われるほどに普及した白熱ガス灯も, マントルに 酸化物として 1% 含まれている希土類元素セリウムの熱励起発光 (Candoluminescence) を利用している. また, 白熱ガス灯は, 炎の黄色い光とセリウムの青い光との混色により白 色光で発光しており, 補色の関係を用いた青黄混色型白色照明装置の元祖であると言える. Sir Humphry Davy は, 水銀蒸気による放電現象によって紫外線が発生することも発 見した. ガラス管内の水銀蒸気中のアーク放電による光放射を用いた光源が水銀灯であ り, 可視領域の輝線スペクトルを用いる高圧水銀灯と, 紫外光を利用するかまたは紫外光 1.2 照明の歴史 を蛍光体で可視光に変換する低圧水銀灯の 2 種類に分けられる. アーク放電を直接利用し た放電灯としては水銀灯の他にナトリウムランプやメタルハライドランプが実用化され, HID(High Intensity Discharge) ランプと呼ばれている. 現在最も効率の良い低圧ナトリ ウムランプもこの放電ランプの 1 種である. 放電現象により蛍光体を発光させたのは, 1859 年フランスの Alexandre-Edmond Becquerel*1 がガイスラー管で蛍光体を発光させる実験を行ったのが最初であるとされて いる. 放電を用いた照明の開発が本格化するのは, 1890 年代に入ってからである. 1893 年, Nikola Tesla がシカゴ万国博覧会に高周波電流を外部から与えてガラス管のなかのガ スを発光させる照明器具を展示した. 1894 年には, Daniel McFarlane Moore が窒素と 二酸化炭素ガスを封入した放電灯でピンク色の光を放つ「ムーア・ランプ」を発明してい る*2 . 1895 年, Edison はガラス管の内面に塗ったタングステン酸カルシウム蛍光体に X 線を当てて青白い光を得る X 線ランプをつくった. 1901 年, 米国の Peter Cooper Hewitt が低圧水銀ランプの特許を取得. これは青緑色 に発光するものであり, その外側に有機染料ローダミン B を塗って黄色がかった赤に発光 させたものであった. ローダミン B が褪色するので実用にはならなかったが, これが現在 の蛍光灯の原型と考えられる. 1926 年, ドイツのレクトロン社の Edmund Germer は, Friedrich Meyer と Hans J. Spanner とともに蛍光灯の特許を出願, 1939 年に 2,182,732 として米国で権利化された. Germer らの蛍光灯は, 容器内の蛍光体を紫外線で励起するものであり, Germer らを蛍光 灯の発明者であるとする意見もある. この蛍光灯は 1932 年から市販されたが, その後特許 は GE 社に売られることとなった. 1934 年, 英国の General Electric Company (GEC) 社が, 発光効率が 35 lm/W と高 効率の緑色蛍光灯の開発に成功した. 後述するように緑色光源では白色光源と比較し て視感効率のルーメン値は高い値となるのであるが, いずれにしても白熱電球の効率が 3–5 lm/W であった当時に 35 lm/W は驚異的な数値であり, GE 社の研究者が 1 桁間違 えているのではないかと思ったという話が残されている. GE 社では George E. Inman を中心とする研究グループを立ち上げ, 1936 年に特許出 願, 1938 年に市販を開始した. 一般的には蛍光灯は 1938 年に Inman らが発明したもの として扱われている. また, GE 社は, Germer らの特許などを購入している. 当時, GE 社 の他にスティングハウス社とシルバニア社が実用的な蛍光灯を市販するに至ったが, 当初 GE 社とスティングハウス社は自社の既存電球事業を圧迫する蛍光灯の販売に熱心ではな く, シルバニア社が大きくシェアを延ばした. 効率に優れる蛍光灯は, 効率を重視する工場 *1 *2 ノーベル賞学者 Antoine-Henri Becquerel の父. N. Tesla, D.M. Moore の両名は Edison の元で仕事をしていたことがある. 5 6 第 1 章 序論 などから普及していった. 蛍光灯の光学特性を左右するのは蛍光体であり, 蛍光体技術は英国の GEC 社が抜きん 出ていた. 1942 年, GEC 社の Alfred H. Mackeag がアンチモンとマンガンを微量に添加 したハロリン酸カルシウム系蛍光体を開発, 1 種類で可視光全域の白色光を発光する画期 的なものであった. さらに, アンチモンとマンガンの添加量を制御することで, 相関色温度 2,700–6,500 K の範囲で発光色の調整まで可能であった. 効率も向上し, 60 lm/W に達し た. これを用いた蛍光灯は 1946 年に市販された. これにより, 現在の蛍光灯がほぼ完成さ れた. 1970 年代の初め, 3 波長型の蛍光灯とすることで白色蛍光灯の効率も演色性も大幅に改 良されることが理論的に示された. この研究には, ブラウン管型カラーテレビ用の赤・緑・ 青 (RGB)3 原色の電子線励起型蛍光体の研究成果も影響を与えた. 1973 年には, オラン ダ Philips 社により効率 90 lm/W の三波長蛍光灯が開発された. ここでは, 希土類元素を 用いた蛍光体が重要な役割を果たしている. 1.3 固体照明への期待 近年, 省エネのためにさらなる効率向上を求めて, 固体照明への期待が急速に高まって きている. 1826 年のライムライト (Limelight) を世界最初の solid-state lighting device であるとする考え方もあるようであるが, ライムライトは石灰を酸水素炎で高温にし発光 を得るものである. 近年固体照明を話題にする時には, 通常は固体電光変換素子を一次光 源に用いたものをさしており, 半導体発光ダイオード (Light Emitting Diode, LED) と有 機 EL(Electro-luminescence) デバイスが有力な候補とされている. 他には, レーザダイ オードや無機 EL についても検討されている. 1907 年には, H.J. Round が, SiC カーボランダム結晶に電圧をかけることで黄色, 明る い緑色, 橙色, 青色など様々な色に発光することを報告している [7]. 実用的な赤色 LED の発明は, 1962 年にさかのぼる [8]. 当時 General Electric Com- pany に在籍していた Nick Holonyak Jr. (後にイリノイ大) らが, GaAsP による赤色 LED を開発したことが可視光 LED の始まりである. その後, 緑色・橙色などの LED が 実用化され, 機器の表示灯などに広く普及するに至った. しかしながら, 3 原色の一つであ る青色 LED が実用的なレベルで実現されなかったことから, LED を用いたフルカラーあ るいは白色の発光デバイスはなかなか実現に至らなかった. 1971 年にはすでに, J.I. Pankove らにより Metal-Insulator Semiconductor (MIS) 型 LED で青色の発光が確認されている [9]. 日本においても 1975 年 (昭和 50 年) から 3 年 間, 通商産業省 (当時) の青色発光素子開発プロジェクトが実施され, 1980 年 (昭和 55 年) にはフリップチップ型青色 LED がサンプル出荷までされている [10]. しかしながら当時 1.3 固体照明への期待 の GaN 結晶は品質が悪く, また p 型結晶が実現されていないこともあり, 多くの研究者 が ZnSe や SiC など他の材料に移行し, GaN による青色 LED の研究は一時下火となっ た. 名古屋大学赤 勇教授ら, 日亜化学工業中村修二ら, 豊田合成など一部の研究者はそれ でも GaN の研究を継続した. 1989 年, 世界初の GaN の p-n ジャンクション型青色 LED が名古屋大学赤 研の天 野浩 (現名城大教授) らによって報告された [11]. 1993 年には, ついに日亜化学工業から InGaN を発光層に用いた青色 LED ランプが製品化され, RGB の光の 3 原色が揃った. これにより, 白色を含む任意の色度の発光を得ることが可能となった. 当初はインジケー タなどサイン用途のランプとして普及し, さらには RGB3 個の LED を 1 単位として多数 のピクセルを並べたフルカラーディスプレイ装置が開発された. しかし 3 色の素子を用い た LED ユニットは, 色ごとに素子の駆動電圧が異なることから駆動回路電気基板は複雑 かつ高価なものとならざるを得ず, これを用いて白色に発光させ照明器具として用いるこ とは現実的では無かった. 青色 LED と蛍光体を用いた発光ダイオードが最初に多田津芳昭と中村修二によって日 亜化学工業から特許出願されたのは, 1991 年 11 月 25 日のことである. この時には, 白色 光を得るという発想は無く, 視感効率の低い発光波長の短い 420–440 nm の青色をより視 感効率の高い波長の長い 480 nm の青色に蛍光体で変換するというものであった. その 後, 5 年が経過した 1996 年 7 月 28 日, YAG:Ce(セリウム付活イットリウム・アルミニウ ム・ガーネット) 系蛍光体を用いて青色光を黄色光に変換し, 青色光とその補色である黄 色光との混色により白色に発光する LED ランプが日亜化学工業の清水義則らによって出 願され, 後に特許第 2927279 号や U.S. Patent No. 5,998,925 として成立, 一般にはこれ ら特許が白色 LED ランプの基本特許と呼ばれることとなった. わずか 2 ヶ月後の 1996 年 9 月には, この白色 LED ランプのサンプル出荷が開始された [12]. 発光効率はわずか 5 lm/W にすぎず, 白熱電球にも劣るものであった. その技術的詳細は, 1996 年 11 月の 蛍光体同学会第 264 回講演会で報告された [13]. 1997 年に本格的に商品化されたこの白 色 LED ランプは, その後発光効率が改善され, 携帯電話の液晶パネル用バックライト光源 として採用され, 市場が急激に拡大した. 照明の省エネルギー技術開発が極めて重要であるとの見地から, 現在一般に広く用いら れている白熱電球や蛍光灯を上回る 120 lm/W のエネルギー効率を有する白色 LED 照 明光源を 2010 年に実用化することを目的に, 1998 年に独立行政法人新エネルギー・産業 技術総合開発機構 (NEDO)「高効率電光変換化合物半導体開発」(21 世紀のあかり) プロ ジェクトが開始された [14]. 同プロジェクトは, 財団法人金属系材料研究開発センターが NEDO からの委託を受け, 山口大学田口常正教授をプロジェクトリーダーとして, 13 企 業 7 大学などの参加により 2002 年度までの 5 年間に渡り実施された. その後, 世界各国で semiconductor lighting (半導体照明) または solid-state lighting 7 8 第 1 章 序論 (固体照明) に関する国家プロジェクトが開始された [15]. 米国では, U.S. Department of Energy (DOE) の支援により固体照明の研究開発が精力的に進められている [16]. 2001 年 3 月に DOE の支援を受けて Optoelectronics Industry Development Association (OIDA) がまとめたロードマップ [17] では, 200 lm/W が目標としてあげられている. 2004 年 8 月には 11 の研究プロジェクトが選定され, 2∼3 年間で白色 LED 関連 4 プ ロジェクトに US$7.7M, 有機 EL 関連 3 プロジェクトに US$6.9M, 国研の研究 4 プロ ジェクト (Los Alamos National Laboratory, Pacific Northwest National Laboratory, Sandia National Laboratories 2 件) に US$5.9M が投じられることとなった. 中国では 清華大学を中心とした大型の国家プロジェクトをはじめとして 50 もの研究プロジェクト が国家や自治体の支援を得ている. 近年急速に工業化の進展している中国では電力不足が 深刻化しており, 今後は今なお蝋燭による照明に頼っている辺境農村部にも白熱電球が普 及することでさらなる電力供給危機に陥ることが懸念されている. 固体照明による電力削 減に成功すれば, 今後新たに建設する発電所の必要量を削減することが可能になる. 台湾 では, 2003–2005 年に 11 企業の参加を得て “Next Generation Lighting Project” が実施 され, 約 NT$383 million が投じられたと見られる. 研究レベルで 100 lm/W, 製品レベ ルで 50 lm/W が目標である. さらに同国の National Science Countil (NSC) からも 2 年で NT$12 million の研究資金が提供された. 韓国では, Korea Photonics Technology Institute (KOPTI) が中心となって白色 LED 固体照明の研究開発がすすめられており, 毎年 US$20M が投じられている. 目標は 2008 年に 80 lm/W を達成することである. 欧 州でも直接あるいは間接的に固体照明の発展に寄与する研究プロジェクトが存在する. LED 素子を一次光源として白色光を得るには, いくつかの方法がある. 清水は, 各種の 方式の白色 LED ランプのそれぞれについて視感効率の理論限界と演色評価数とを検証し た [18]. 図 1.2 に, 参考文献 [18] の図 5 を引用する. 彼の計算では, LED 素子の電力から 青色光または近紫外光への変換効率を 100 %, また蛍光体の内部量子効率も 100 % と仮 定し, 蛍光体での波長変換に起因するストークスシフト損失のみを損失として考慮してい る. 赤色・緑色・青色の 3 個の LED 素子を用い蛍光体を用いない構成のものが最大の効 率を示すが, しかしこの方式では高コストである. 近紫外 LED を励起光源とする方式に ついては, ストークスシフトに起因する理論損失が大きい. 青色光で励起し蛍光体で波長 変換する方式の白色 LED ランプは, 低コストで効率も高く, 固体照明用途に適した方式で ある. 白色 LED に次いで有望な技術に, 有機 EL 白色照明パネルがある. 白色 LED は一次 光源である半導体発光素子が点光源であるため, グレアと呼ばれる不快なぎらぎらするま ぶしさを減じて照明器具を構成するためには導光板や散乱板などを必要とするが, 有機 EL は面発光デバイスであるためそのような問題が無く有利である. また, 低コストで製 造可能になるであろうとの期待もある. 現状技術では有機 EL パネル白色照明器具は白色 1.4 光学特性評価項目 9 Blue LED + Yellow Phosphor Blue LED + Yellow (Green) / Red Phosphor Lumens per watt Blue LED + Green LED + Red LED NUV LED + R / G / B Phosphor * NUV LED + 4 Color Phosphors NUV LED + Continuous Spectrum Phosphor Color Rendering Index Ra 図 1.2 Calculation assumptions : (1)LED die efficiency : 100% (2)Phosphor IQE : 100% No energy loss except stokes shift was mentioned. 平均演色評価 Ra と理論効率の関係から見た白色方式の比較. (参考文献 [18] の図 5 を引用) LED ランプと比較して発光効率に劣り, また寿命が短いという問題がある. 有機 EL 照明 の研究については, 照明用高効率有機 EL の実用化先導研究として, NEDO からの委託に より 4 億円の助成を受けて 2004–2006 年に山形大学城戸淳二教授を中心とする「有機の あかりプロジェクト」が組織されている. 有機 EL の場合でも, 青色発光素子を一次光源 とし, 青色励起型蛍光体を用いて白色光などに変換するタイプのものがある. 1.4 光学特性評価項目 ここで, 照明器具としての白色 LED ランプの評価において重要な項目である色度座標, 相関色温度, 発光効率と演色性などについて言及する. 「色」の表現にはいくつかの種類があるが, 代表的なものとして XYZ 表色系における色 度座標, いわゆる CIE 1931 色度図上の xy 色度座標と, CIE 1976 UCS 色度図上の u’v’ 色度座標とについて説明する. CIE は, Commision International de l’Eclairage 国際照 明委員会である. 人間の視細胞には錐体細胞 (または錐細胞, 円錐細胞, 錐体) と桿細胞 (または桿体細胞, 桿体, 杆体) とがあり, 色は主に 3 種類の錐体細胞で知覚され, これが赤・緑・青の光の三原 色に対応している. 各錐体細胞は, 厳密には赤・緑・青に吸収ピークを有するというわけで はなく, それぞれ一定の感度分布を有するものである. XYZ 表色系 [19] では, RGB(赤・ 緑・青) の光の三原色の代わりに X,Y,Z の三つの仮想の原刺激を求める. 以下の式 (1.1) ∼(1.3) は, 光源色の三刺激値 X, Y, Z であり, S(λ) は光源の放射量の相対分光分布, x, 10 第 1 章 序論 2.0 x(λ) y(λ) z(λ) z(λ) Responsitivity 1.5 x(λ) y(λ) 1.0 0.5 x(λ) 0.0 380 480 580 680 780 Wavelength [nm] 図 1.3 XYZ 表色系における等色関数. (JIS Z 8724) y, z は XYZ 表色系における等色関数である. 図 1.3 にその分布を示す [20]. k は比例係 数であって, 三刺激値の Y の値が測光量に一致するように定める. S(λ) が分光放射密度 の絶対値である場合には, 測光量の絶対値を求めるには k = 683 lm/W を用いる. X=k Y =k Z=k Z Z Z 780 S(λ)x(λ)dλ (1.1) S(λ)y(λ)dλ (1.2) S(λ)z(λ)dλ (1.3) 380 780 380 780 380 この三刺激値を元に, XYZ 表色系における色度座標 x, y, z は式 (1.4)∼(1.6) によって 求める. z= x= X X +Y +Z (1.4) y= Y X +Y +Z (1.5) Z =1−x−y X +Y +Z (1.6) 色を表示するには, 一般に色度座標 x, y 及び三刺激値の Y を用いる. 図 1.4 は, CIE 1931 色度図である. すべての色はこの馬蹄形で示された範囲内の色度座標を有する. 1.4 光学特性評価項目 11 0.9 0.8 Spectrum locus 0.7 0.6 y 0.5 Blackbody locus 0.4 0.3 0.2 Purple boundary 0.1 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 x 図 1.4 CIE1931 色度図. 凸状曲線が単色発光のスペクトル軌跡であり, 左下の角部が青, 青緑を経て左上の凸部先 端が緑, 黄緑, 黄, 橙を経て右下の角部が赤となっている. 左下の角部と右下の角部とを 結ぶ直線を純紫軌跡と呼ぶ. 馬蹄形の内側の円弧は黒体輻射軌跡であり, 白色とは座標 (0.3333, 0.3333) 付近あるいはこの黒体輻射軌跡上の座標を言う. 続いて, CIE 1976 UCS 色度図 [21] について述べる. CIE 1976 UCS 色度座標 u’, v’ は, 前述した三刺激値 X, Y, Z を用いて下記式 (1.7),(1.8) によって求める. 図 1.5 に CIE 1976 UCS 色度図を示す. CIE 1931 色度図との違いは, 知覚的にほぼ均等な歩度を 持つ色空間となっていることである. u′ = 4X X + 15Y + 3Z (1.7) v′ = 9Y X + 15Y + 3Z (1.8) 光源色がほぼ無彩色であるような光源の発光色度が黒体輻射軌跡上のどこに位置するか は, 相関色温度 (Correlated Color Temperature, CCT) Tcp [単位:K] によってあらわさ 12 第 1 章 序論 0.7 0.6 Spectrum locus 0.5 Blackbody locus v' 0.4 0.3 Purple boundary 0.2 0.1 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 u' 図 1.5 CIE1976 UCS 色度図. れる [22]. 前述した三刺激値 X, Y, Z または CIE 1931 色度図上の x, y 色度座標を用いて 式 (1.9)∼(1.12) により CIE 1960 UCS 色度図上の色度座標 u, v を求める. u= 4X X + 15Y + 3Z (1.9) v= 6Y X + 15Y + 3Z (1.10) u= 2x −x + 6y + 1.5 (1.11) v= 3y −x + 6y + 1.5 (1.12) −1 次に, 文献 [22] などに記載の表から, 当該 u, v 色度座標に対応する逆数相関色温度 Tcp [単位:/MK] を求め, 式 (1.13) によって相関色温度 Tcp を計算する. 色度座標 u, v が黒体 輻射軌跡上にあると認められる時は, 相関色温度 Tcp ではなく色温度 Tc と呼ぶ. 相関色 1.4 光学特性評価項目 13 1.2 Luminosity [a.u.] 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 360 460 560 660 760 Wavelength [nm] 図 1.6 CIE 標準比視感度曲線. 温度の適用範囲は, CIE 1960 UCS 色度図上の黒体輻射軌跡から約 0.02 以内の偏差にあ る光源の色度座標である. Tcp [K] = 106 −1 Tcp [/M K] (1.13) なお, CIE 1960 UCS 色度図は過去のものとされており, 現在は相対色温度の算出を除 き前述した CIE 1976 UCS 色度図を用いる. 光源色は, 相関色温度が高いものは青白く冷たい印象の, また低いものは赤みがかった 温かみのある印象の色合いとなる. 発光効率については, いくつかの指標があるが, 一番良く用いられているのは投入電力 に対する視感効率 (Luminous Efficacy, 単位 lm/W) である. これは, 投入電力当たりの光 束であるが, 光束などの明るさの単位は心理的な物理量, すなわち人間がどう感じるかを 基準に決められたものである. 図 1.6 に, 人間がどの波長の光を明るいと感じるかをあら わした CIE 標準比視感度曲線 V (λ) を示す. 人間の視細胞のうちで, 主に桿細胞が光量を 感知する. 桿細胞の吸収ピークは 498 nm であるが, 桿細胞と錐体細胞をあわせた全体と しては, 標準比視感度曲線に示すように, 波長 555 nm の光を一番明るいと感じる. 標準比 視感度曲線は, 日本においては経済産業省令第 189 号計量単位規則 [23] 別表第八に分光視 感効率として定められている. 厳密には明所標準視感度と暗所標準視感度とがあり, ここ に示したものは明所標準視感度である. また, 実際には個人差や, 同じ人であっても体調な どによる差があり, また加齢に伴って短波長側の感度が劣化することも知られている. 光 14 第 1 章 序論 束 φ は単位ルーメン [lm] であらわされ, 式 (1.14) によって求められる [24]. ここで, Km は最大視感効果度であり明所視では 683 lm/W である. また, φe,λ (λ) は放射束の分光分 布, V (λ) は CIE 標準比視感度曲線である. 光源がすべての方向に放出する光束の総和を, 全光束と言う. 光束の単位 1 lm(ルーメン, lumen) は, 光度 1 cd(カンデラ, candela) の均 一な点光源から単位立体角 1 sr(ステラジアン, steradian) 中に放出される光束と定義され ており, これは周波数が 540×1012 Hz(波長 555 nm) で, その放射束が 1 683 W の単色放射 の光束と等価である. φ = Km Z ∞ 0 φe,λ (λ) · V (λ)dλ (1.14) 式 (1.14) より, V (λ) が大きい波長 555 nm 近傍の成分が多い光源ほど明るく感じられ ることがわかる. 光源の全光束を積分球などを用いてルーメン単位で測定し, これを光源に投入した電力 で割り算すると, 投入電力に対する視感効率である Luminous Efficacy を求めることがで きる. 本研究においては, これを LEele と表現することにする. これに対し, 同じく光源の 全光束を, 光源から発せられた放射光のエネルギー量をワット単位で計測してこれで割り 算すると, 放射光パワー (放射束) に対する視感効率 Luminous Efficiency を求めること ができる. 本研究においては, これを LEopt と表現することにする. いずれも全光束の値 が大きければ大きな値になることから, 発光スペクトル形状に大きく依存し, V (λ) が大き い波長域の成分割合が高い発光スペクトル形状で視感効率が高いことになる. 変換効率が 100 % の時に LEele は LEopt に一致するが, 紫外光または青色光を励起光源とする白色 LED ランプの場合には蛍光体におけるストークスシフトによるエネルギー損失があるた め変換効率の理論上限が存在する. 演色評価数 (Color Rendering Indices, CRI) は, 光源の色再現性を評価する指標であ り, 定められた試験色の色票に基準の光を照射した時の色度と, 測定対象である試料光源 を照射した時の色度のずれを CIE 1964 均等色空間上の距離として評価するものである [25]. 試験色は, 国際的には 1 から 14 まで定められており, 日本においては JIS 規格で試 験色番号 15 が追加で定められている. 試験色番号 15 は, 日本人女性の顔の肌の色である と言われている. 図 1.7 に, 演色評価数計算用の試験色の分光放射輝度率を示す. 基準の 光は, 試料光源の相関色温度が 5,000 K 未満の時は完全放射体の光を, 5,000 K 以上の時 は CIE 昼光を原則として用いる. ただし, 4,600 K 以上の昼白色蛍光ランプを試料光源と するときには, CIE 昼光を用いる. 試験色番号 1 から 15 に対するそれぞれの評価結果を, 特殊演色評価数 R1 から R15 と呼ぶ. また, R1 から R8 の平均をとって, 平均演色評価数 Ra と呼ぶ. 演色評価数は, これを定めた当時の一般的な照明器具が 50 となるように調整 式が定められており, 基準の光で照射した場合と同一の色が再現できている場合には 100 1.5 蛍光体 15 0.9 R1 R2 R3 R4 R5 R6 R7 R8 R9 R10 R11 R12 R13 R14 R15 Spectral reflectance [a.u.] 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 380 430 480 530 580 630 680 730 780 Wavelength [nm] 図 1.7 演色評価数計算用の試験色の分光放射輝度率. となる. 白色 LED ランプの場合で考えると, これら光学特性のうちで視感効率については青色 LED 素子の発光効率に負うところが大きいが, 青色光からの変換効率, 相関色温度, 演色 評価数はすべて蛍光体の発光特性に大きく依存している. また, LED ランプのパッケー ジ構造に依存した光の取り出し効率についても, 粉末蛍光体の光散乱特性の影響が大き い. よって, 白色 LED ランプの特性を改善するためには, 蛍光体材料の研究開発が重要で ある. なお, JIS 規格では前記 LEele , LEopt をそれぞれ光源の視感効果度または光源効率 luminous efficacy of a source, 放射の視感効果度 luminous efficiency of radiation とし ている [24]. また, 一部文献では Luminous Efficacy と Luminous Efficiency とを同一の ものとして扱っていたり, あるいは逆の定義で用いていたりする場合があるので, 文献ご とにどのような定義で用語を用いているのか確認する必要がある. 1.5 蛍光体 古い蛍光体の記録としては, 約 1000 年前の宋の時代に「昼は姿が見えず夜になると戻っ て臥している不思議な牛の絵」の話があり, これに用いられている「南倭 (日本) の人が 海の貝から採った特殊な絵具」が夜光塗料の一種であると考えられる [26]. 科学的な実 16 第 1 章 序論 験研究の記録は, 17 世紀のボローニア石 (Bolognian stone) にさかのぼる. 1550 年頃に はすでに知られていたとの説もあるが, あるいは 1603 年に靴屋で錬金術師の Vincenzo Casciarolo が発見したと記録されている [4]. ボローニア石は, Galileo Galilei や Johann Wolfgang von Goethe らによっても研究された. 今日では, これは不純物金属元素を発光 中心とする硫化バリウムであるとされている. 近代の蛍光体の研究については, 参考文献 [27][28] に詳しい. まず, 第 2 次世界大戦終了 までの研究として, Lenard 学派, Göttingen 学派, 亀山学派の 3 大学派による研究がある. 19 世紀末から 20 世紀初めにかけて, ドイツの物理学者 Phillip E.A. Lenard(1862–1947 年, 1905 年ノーベル賞受賞) らが Zn および IIa 族金属 (アルカリ土類金属) のカルコゲナ イドについて多くの研究を行っており, これら蛍光体は Lenard 蛍光体と呼ばれ戦前の蛍 光体の主流であった. Lenard はその他多くの蛍光体の研究もしており, 蛍光体の種類の 把握という点では現在の半分近くをすでに押さえていた. 1925 年頃から, ドイツの R.W. Pohl ら Göttingen 学派が Ag, Tl などを付活剤とするハロゲン化アルカリ蛍光体の研究 を行った. 陰イオン欠陥にトラップされた電子による着色を色中心 (color centers) として 明確にし, 戦後の格子欠陥理論に寄与した. 日本では, 1930 年頃から, 東京帝国大学工学 部応用化学科において, 亀山直人教授 (1890–1964 年) を首班とし, 終戦まで約 15 年, 延べ 50 人を投入した集中研究が行われた. 主な対象は Lenard 蛍光体であり, 戦時研究として 赤外検出が目的であった. ZnS:Pb と (Ca,Sr)S:Ce,Bi との 2 系統に優れた材料を発見し ている. 1941 年 (昭和 16 年) には, NHK 技術研究所の山下彰氏らの発議に亀山教授らが 賛同し, 蛍光体同学会が発足した. 1984 年 (昭和 59 年) 以降は電気化学会蛍光体研究懇談 会として活動している. 蛍光体の用途は夜光塗料, 計器用・ブラウン管用蛍光板, X 線増感紙, 間接撮影用医療用 蛍光板, シンチレーションカウンタ用, 蛍光標識, サインペンなど多岐に渡るが, 中でもカ ラーテレビ用途と蛍光ランプ (蛍光灯) 用途が大きな需要がある重要なものである. テレビジョンについては, 1927 年に旧制浜松高等工業学校で高柳健次郎教授が初め て「イ」の字の電送に成功した時, ブラウン管は CaWO4 を蛍光面とするものであっ た. 戦後, ZnS:Ag の青と ZnS–CdS(56%):Ag の黄の混合物を用いた白黒テレビが広 く普及し, その後 ZnS:Ag と ZnS–CdS(14%):Cu,Al に改善されて, 約 20 年間続いた. カラーテレビ放送は 1960 年 9 月 10 日から放送が開始され, 1964 年の東京オリン ピックを契機に普及した. 初期のカラーテレビでは蛍光体として青に ZnS:Ag, 緑に Zn2 SiO4 :Mn2+ , 赤に Zn3 (PO4 )2 :Mn2+ が用いられ, その後緑が ZnS–CdS(35 %):Ag に, 赤が ZnS–CdS(82.5 %):Ag になった. 希土類元素である Eu3+ の赤色の発光が注目され てからは, YVO4 :Eu3+ , Y2 O3 :Eu3+ などが検討され, 最終的に Y2 O2 S:Eu3+ となった. 緑色はさらに ZnS(cubic):Cu, Al や ZnS:Cu, Au, Al になった. 例えば株式会社日立製 作所はカラーテレビにキドカラーという名称を用いたが, これは高輝度と希土類蛍光体 1.5 蛍光体 とのキドをかけたものである. 日本におけるテレビジョンの標準規格は NTSC[29] であ り, 3 原色の標準 xy 色度座標は赤 (0,67, 0.33), 緑 (0.21, 0.71), 青 (0.14, 0.08) である. CIE 1931 色度図上でこの 3 点を結ぶ三角形の中の色が表現可能である. 一般に蛍光灯と呼ばれ広く普及している蛍光ランプは, 低圧水銀ランプと呼ばれる種類 のものである. 蛍光灯用蛍光体は, 当初 E. Germer らの蛍光灯では珪酸亜鉛蛍光体を用 いていた. 1942 年 GEC 社の Alfred McKeag らが画期的なハロ燐酸カルシウム系蛍光体 (halophosphor) を発明し, これが 1946 年に発売されて以降白色蛍光灯は広く普及するこ ととなった. これは, ハロ燐酸カルシウム結晶中にアンチモン (Sb3+ ) とマンガン (Mn2+ ) が微量に添加されたものであり, およそ 480 nm 及び 575 nm にピークのあるブロードな 連続発光スペクトルを有する. 組成式は Ca10 (PO4 )6 FCl:Sb, Mn である. 1970 年代初め には波長 450 nm, 540 nm, 610 nm の青・緑・赤の 3 原色を用いることでスペクトル幅の狭 い発光であっても高演色性を実現できることが報告され, 1973 年にはオランダのフィリッ プス社から初の 3 波長型蛍光灯が発売された. 青色蛍光体には 3Sr3 (PO4 )2 ·SrCl2 :Eu2+ , 緑色蛍光体には Zn2 SiO4 :Mn2+ , 赤色蛍光体には Y2 O3 :Eu3+ が用いられていた. その 後, 青色蛍光体は BaMg2 Al16 O27 :Eu2+ に, 緑色蛍光体は CeMgAl11 O19 :Tb3+ に改良さ れた. 近年では, 青色蛍光体に (SrCaBaMg)5 (PO4 )3 Cl:Eu を, 緑色蛍光体に LaPO4 :Ce, Tb を用いる. 赤色蛍光体は Y2 O3 :Eu のままである. 従来から, 蛍光体はフッ化物, 塩化物, 臭化物, ヨウ化物, ハロ酸化物, 酸化物, 硫化物な ど様々な組成のものが報告されている. さらに, 近年になって, 材料合成技術の進展に伴 い, 酸窒化物蛍光体, 窒化物蛍光体が合成され, 報告されるようになった. 1998 年, J.W.H. van Kervel らが Ce3+ で付活した Y–Si–O–N 系蛍光体の長波長発光 について報告している [30]. 具体的には, Y5 (SiO4 )3 N:Ce, Y4 Si2 O7 N2 :Ce, YSiO2 N:Ce 及び Y2 Si3 O3 N4 :Ce である. 2000 年には, 多くの酸窒化物・窒化物蛍光体が報告された. 上田らは, オキシナイトライドガラスを母体材料とした希土類付活蛍光体を開発し [31], また LaSi3 N5 :Eu3+ 蛍光体について報告している [32]. H.A. Höppe らは Eu2+ で付活 した M2 Si5 N8 蛍光体 (M = Ba, Ca または Sr) を報告している [33]. 広い励起帯域を有 する赤色蛍光体であり, 例えば M = Ba では 610 nm と 630 nm とに発光ピークがある. この蛍光体はその後白色 LED 用に用いられることとなった. 2002 年には, 希土類元素で 付活したアルファサイアロン蛍光体が開発された. アルファサイアロン蛍光体については, 次項でアルファサイアロンの材料研究の歴史を概観した後で詳述する. これら酸窒化物・窒化物蛍光体では, 励起波長, 発光波長の長波長シフトが特徴である と報告されている. 特に Eu2+ で付活した蛍光体が注目を集めている. 図 1.8 に示すよう に, Eu2+ で付活した蛍光体は酸化物・硫化物をはじめとする多くの化合物において紫外 光励起, 青色発光となることが従来報告されている. しかしながら, 酸窒化物・窒化物を Eu2+ で付活し蛍光体とした場合にあっては, 前述した (Ba,Ca,Sr)2 Si5 N8 :Eu2+ や後述す 17 18 第 1 章 序論 図 1.8 化合物中の 1 価及び 2 価カチオンサイトにある Eu2+ の df 遷移発光帯の波 長.(参考文献 [34] の Fig. 2 を引用) る Ca-α-SiAlON:Eu2+ など, 紫外光から可視光領域にまでまたがる大変広い励起波長帯 域を有し, 赤色・橙色など長波長で発光する蛍光体となることが報告された. これは, 共有 結合性が高いことなどによる nephelauxetic 効果と 5d 軌道の配位子場分裂が大きいこと に由来すると考えられている. 1.6 アルファサイアロンの研究 ア ル フ ァ サ イ ア ロ ン 蛍 光 体 に つ い て 言 及 す る 前 に, ア ル フ ァ サ イ ア ロ ン の 材 料 研 究 の 歴 史 を 概 観 す る [35]. ア ル フ ァ サ イ ア ロ ン (α’-SiAlON) は 一 般 式 Mx Si12−(m+n) Alm+n On N16−n で 表 さ れ る 酸 窒 化 物 材 料 で あ り, α 構 造 窒 化 ケ イ 素 (α-Si3 N4 ) と類似した結晶構造を有する. β 構造の方が α 構造よりも安定であり, アル ファサイアロンは固溶金属元素 M の導入によってその構造が安定化する. 28 元素からな るユニットセルに 2 箇所の空隙があり, ここに M が侵入型固溶するので x ≤ 2 である. M の導入による電荷の不整合は, m+n 個の Si–N 結合が, m 個の Al–N 結合と n 個の 1.7 アルファサイアロン蛍光体 Al–O 結合に置き換えられることによって補償される. K.H. Jack らが初めてアルファサイアロンを報告したのは, 1972 年のことであり, M は Li であった [36]. その後の研究により, M としては Li, Ca, Mg, Y と, 一部のイオン半径 の大きい元素を除くランタノイド が添加可能であると報告されている [35][37]. 窒化ケイ 素とサイアロンとは, 一般に高温高強度構造材料としての応用を目的として材料研究開発 が実施された. 一例として, タービンブレードへの応用研究があげられる. 難焼結材料で あり, 合成には焼結温度において液相の存在が必要とされ, このため焼結助剤として様々 な材料の添加について研究された. 各種希土類元素の添加も試みられたが, それにもかか わらず蛍光体としての報告がほとんど無かったのは, 焼結助剤としての検討であったため 添加量が多く, 濃度消光のため目視で蛍光を確認するには至らなかったからであると考え られる. 添加元素の固溶範囲については広く研究され, ランタノイドのうちで La, Ce, Pr, Eu はイオン半径が大きいことから固溶しないとされたが, 後に Ca または Yb を共添加 することで La3+ であっても固溶可能であることが H. Mandal らによって示された [38]. 光学特性に対する興味としては, B.S.B. Karunaratne らや Z.-J. Shen らが希土類添加ア ルファサイアロンの吸収スペクトルすなわち母体色について報告している [39][40]. 1.7 アルファサイアロン蛍光体 サイアロンが蛍光体の母相材料として利用可能であるという事が最初に報告されたの は, 公開特許公報特開昭 60-206889 号 (優先権主張オランダ NL8400660)[41] においてで ある. ここには, Teo Yohan Aufusuto Popuma により各種の希土類元素付活ベータサイ アロン蛍光体が開示されている. しかし, これについてはその後継続的研究の成果を報告 している文献は見あたらない. アルファサイアロンを母相として用いた蛍光体が初めて開発され報告されたのは, それ から 17 年を経過した 2002 年のことである. 日本では, 独立行政法人物質・材料研究機構 (National Institute for Materials Science, NIMS) の前身である科学技術庁無機材質研 究所 (National Institute for Research in Inorganic Materials, NIRIM) が, またオラン ダでは Eindhoven 工科大学がそれぞれ独立に発見し, ほぼ同時に報告した. NIRIM の R.-J. Xie らは, 希土類付活アルファサイアロンで希土類として Eu, Tb ま たは Pr を固溶させたものを合成し, 励起・発光スペクトルを含む各種測定結果を報告し ている [42]. 原材料として, Si3 N4 , AlN, CaCO3 , Eu2 O3 , Tb2 O3 及び Pr2 O3 の微細粉 末を用いて, Si3 N4 –R2 O3 :9AlN の線上に乗る組成で Ca/Eu 共添加, Ca/Tb 共添加及び Ca/Pr 共添加の 3 種類のアルファサイアロンを合成した. 無水溶媒としてヘキサンを用 いて原料粉末を遊星ボールミルで混合し, 乾燥させた後, 窒化ホウ素コーティングしたグ ラファイト製ダイスを用いてホットプレス法で合成した. 合成条件は 1 気圧の窒素雰囲気 19 20 第 1 章 序論 下, 20 MPa で加圧して 1,750◦ C で 1 時間とした. 粉末 X 線回折パターンの測定結果によれば, Ca/Eu 共添加アルファサイアロンでは Eu 濃度 70 at.% まではアルファサイアロン単相であることが確認され, 70 at% の試料 では β-Si3 N4 あるいはベータサイアロンが観測された. Eu 100 %(Ca 無し) の試料では, 従来から Eu-α-SiAlON は合成できないとされてきたが, アルファサイアロン相の他に β-Si3 N4 またはベータサイアロンと, S-phase Sr2 Alx Si12−x N16−x O2+x に類似した相と が観測されており, やはり単相の Eu-α-SiAlON は合成出来ないということが確認された. これは Eu3+ で r = 0.095 nm, Eu2+ で r = 0.117 nm と, Eu のイオン半径が大きいこと に由来すると考えられる. 走査型電子顕微鏡 (Scanning Electron Microscope, SEM) 観察結果の後方散乱像から は, 均質に形成された粒径 0.4–1.0 µm の α-SiAlON の等軸結晶粒とガラス状粒界相とが 観測された. また, EDS (Energy Dispersive Spectrometer) による元素分析の結果, Ca も Eu も α-SiAlON 相に含まれていることが確認された. 図 1.9 に, 参考文献 [42] の Fig.4 を引用し, Ca/Eu 共添加アルファサイアロンセラミッ クスの励起・発光スペクトルを示す. 図 1.9 の (a) の励起スペクトルには, Eu をドープ した全ての試料で 297 nm 付近と 425 nm 付近とに中心を持つ 2 つの幅広い励起帯域が 示されている. 第 1 のピークはアルファサイアロン母相の吸収に対応し, 第 2 のピークは Eu2+ 陽イオンの 4f 7 –4f 6 5d 吸収に対応している. 吸収ピーク強度は Eu 量の増加ととも に向上し, Eu 量が 50 at.% である試料で最大となる. 図 1.9 の (b) の発光スペクトルに は, 550–590 nm にピークを有する単峰型の幅広い発光スペクトルが示されている. Eu 量 の増加とともに発光ピーク波長が長波長側にシフトし, また帯域幅は狭くなっている. 発 光強度は 50 at% までは Eu 量の増加とともに向上し, それ以上になると低下している. ス トークスシフト量もこれに対応して Eu 量の増加とともに減少し 50 at% で最小となり, 70 at% では若干増加している. Eu3+ のシャープな線状の発光スペクトルは観測されてい ない. Eu3+ はグラファイトダイスを使用したことによる一酸化炭素雰囲気と窒素雰囲気 とによって焼結過程中に Eu2+ に還元されたものと考えられる. Eu2+ の発光は 5d 準位 の分裂の大きさにより 4f –4f 遷移のシャープな発光または 5d–4f 遷移の線幅の広い発光 が観測されることが従来より知られており, これらアルファサイアロン試料は, 励起準位 である 4f 6 5d 配位状態の一番低いエネルギー準位から 8 S7/2 (4f 7 ) 基底状態への遷移に対 応した線幅の広い発光を示している. Ca/Tb 共添加アルファサイアロンセラミックスでは, アルファサイアロン中の Tb3+ のエネルギー準位に対応した 490, 545, 590 及び 620 nm にピークを有する 4 本の強い発 光帯域が見られ, それぞれ 5 D4 → 7 F6 , 5 D4 → 7 F5 , 5 D4 → 7 F4 , 5 D4 → 7 F3 の各 4f –4f 遷移に対応している. Ca/Pr 共添加アルファサイアロンセラミックスでは, 波長 270 nm の光による励起で 1.7 アルファサイアロン蛍光体 図 1.9 Eu 濃度を変更した, Ca/Eu 共添加アルファサイアロンセラミックスの励起ス ペクトル (a) と発光スペクトル (b).(参考文献 [42] の Fig. 4 を引用) 506, 545, 615, 630, 669 nm の 5 本の発光帯域が見られ, Pr3+ のエネルギー準位の 3 P0 → 3 H4 , 3 P0 → 3 H5 , 1 D2 → 3 H4 , 3 P0 → 3 H6 , 3 P0 → 3 F2 の各遷移に帰属される. Eindhoven 工科大学の J.W.H. van Krevel らは, 同時期に Tb, Ce または Eu を固溶 させたアルファサイアロンについて報告している [43]. 原材料となる微細粉末を i-プロ パノール中でローラーベンチで混合し, 乾燥後 Mo るつぼに入れ 5 % H2 /95 % N2 雰囲 気中で 1,700◦ C で 2 時間反応させ, Y/Ce 共添加アルファサイアロン, Y/Tb 共添加アル ファサイアロン, Ca/Eu 共添加アルファサイアロンを合成した. また, 参考文献 [44] に 示す別の合成方法によって, Ca/Ce 共添加アルファサイアロンを合成した. なお, 参考文 献 [44] には, 酸化物原料を 800◦ C で仮焼後, 原料粉末をエタノールを溶媒として湿式遊星 21 22 第 1 章 序論 ボールミルで混練し, ロータリーエバポレータで乾燥させた後 600 MPa プレスでペレッ トに成形し, グラファイト抵抗炉で 1,800◦ C で 2 時間焼結する合成方法, BN るつぼに入 れ 1,800◦ C で HIP 焼結炉中でアルゴンガス加圧下で 1 MPa で 1.5 時間, 50 MPa で 1.5 時間焼結する合成方法, BN コーティンググラファイトダイスを用いてホットプレス法で 1,800◦ C で 1 時間焼結する合成方法などが開示されている. また, 焼結後にはモリブデン 製の炉で 1,450◦ C で 720 時間の熱処理を行っている. Tb で付活した Y-α-SiAlON は, 黄緑色の発光を示し, 線状の発光スペクトルは Tb3+ の 5 D4 → 7 Fj の 4f –4f 遷移に帰属される. Ce で付活したアルファサイアロンについて は, Y-α-SiAlON と Ca-α-SiAlON とでは大きく光学特性が異なり, Y-α-SiAlON では線 幅の広い青色の発光を示し, Ce はほとんどアルファサイアロン母相中に取り込まれてい ないものと考えられる. Ca/Ce 共添加アルファサイアロンは線幅の広い黄緑色の発光を 示し, その発光ピーク波長は, 励起波長に依存して 515–540 nm の範囲で変化した. Eu で 付活した Ca-α-SiAlON について, 図 1.10 に, 参考文献 [43] の Fig. 4 を引用する. 図 1.10 の (a) で, Eu をドープしていない Ca-α-SiAlON は白色の粉末であり, 反射スペクトルの UV 域に吸収があり吸収端は 260 nm 付近である. Eu をドープした Ca-α-SiAlON 粉末 は黄色である. これは, 反射スペクトルの吸収域が 400–500 nm の青色領域まで拡張され ていることにより説明される. 発光帯域は, Eu2+ の 5d → 4f 遷移の特徴である線幅の広 いものとなっている. 590–615 nm にあらわれる Eu3+ に特徴的な線幅の狭い発光は観測 されていない. 試料 Ca0.98 Eu0.02 Si10 Al2 N16 では, 365 nm の励起では 70 % もの強い吸 収により明るい発光が観察されており, 254 nm 励起では発光強度は低い. Eu2+ の発光は 通常 350–500 nm に観測されるが, 560–580 nm と通常よりも長波長の発光となっている. 特許出願による研究成果の開示としては, 日本国特許庁特許公報特許第 3668770 号に, NIRIM の三友らの研究成果が開示され, 白色発光ダイオード及びこれを用いた照明器具 への応用についても言及されている. また, ドイツではドイツ特許公報 DE10133352 に アルファサイアロン蛍光体を用いた白色 LED の特許出願があり, アルファサイアロン 蛍光体の温度消光が小さいことなどが開示されている. これは Eindhoven 工科大学の研 究成果を元にしたものと考えられるが, 発明者は Osram 社の A. Ellens らとなっており Eindhoven 工科大学のメンバーは含まれていない. 以上のように, アルファサイアロン蛍光体は白色 LED 用蛍光体として有望な材料であ るが, しかしながらまだ発明から間もない材料であり, 実用化に際してはさらなる研究開 発が必要な段階であった. 1.8 目的と課題 1.10 (a)CaSi10 Al2 N16 (実 線), Ca0.98 Eu0.02 Si10 Al2 N16 (破 線), Ca1.47 Eu0.03 Si9 Al3 N16 (一点鎖線) の反射スペクトル; (b)Ca1.47 Eu0.03 Si9 Al3 N16 の 励起・発光スペクトル.(参考文献 [43] の Fig. 4 を引用) 図 1.8 目的と課題 使用電力量を大幅に削減し, 永続的な社会を実現するためには, 省エネルギー性能に優 れる固体照明の導入が必須であると考えられるが, 固体照明技術として現在一番有望と考 えられる白色 LED ランプであっても解決すべき多くの課題を有しており, さらなる技術 開発が求められている. これまで, 白色 LED ランプは, YAG:Ce 系蛍光体を用いたものが 主流であったが, 相関色温度が低く発光効率の高い白色 LED ランプが実現できないなど の問題があった. 固体照明の本格的な普及のためには, 発光効率と演色性とに優れ, 光学特 23 24 第 1 章 序論 性の安定した白色 LED ランプが求められていたが, キーマテリアルとなる青色で励起可 能な蛍光材料の研究開発が課題となっていた. 酸窒化物系蛍光体に注目が集まっており, 中でもカルシウム固溶ユーロピウム付活アルファサイアロン黄色蛍光体が有望であると考 えられているが, 実用化のためには更なる研究開発が必要とされていた. 本研究では, 省エネルギーに貢献する固体照明を普及させるために, 一般照明用白色 LED ランプの効率と光学特性を向上させることを目的として, キーマテリアルである蛍 光体材料の研究を行った. ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光 体を中心に, 青色光で励起可能な新規酸窒化物・窒化物蛍光体の合成を試み, その光学特 性の評価を実施した. また, 応用研究として, 新たに合成し, 光学特性を改良したそれら酸 窒化物・窒化物蛍光体を用いて実際に各種の白色 LED ランプを製作し, その光学特性を 評価した. 蛍光体の特性改善により白色 LED ランプの高輝度化・発光効率向上と演色性 の向上を達成することを研究の目的とした. 1.9 本研究の構成 第 1 章では, 永続的な社会を実現するためには照明用電力の削減が重要であるとの課題 を明らかにし, 照明技術の歴史と固体照明技術について概観した. 光学特性評価項目につ いて述べ, 照明器具の光学特性を決めるキーマテリアルである蛍光体の歴史とアルファサ イアロン蛍光体の先駆的研究を概観した. 第 2 章では, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体について, 青色光励起型白色 LED ランプ用蛍光体として実用化することを目的とし, 組成探索, 合成 条件の検討, 光学特性の評価を実施した. 第 3 章では, 光学特性を改善したユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン 黄色蛍光体を用いて一般照明用白色 LED ランプを製作し, その光学特性を評価した. 第 4 章では, 発光色度の制御を目的とし, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサ イアロン黄色蛍光体のカルシウム元素の一部をイットリウム元素に置換したものを合成 し, その光学特性を評価した. 第 5 章では, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体と, これ を用いた LED ランプとの発光波長について検討し, 再吸収機構による Eu2+ イオンの発 光波長の赤方偏移について研究した. 第 6 章では, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体に加え てユーロピウム付活ベータサイアロン緑色蛍光体とカズン赤色蛍光体とを用いて, 発光効 率と演色性に優れた様々な相関色温度の白色 LED ランプを製作し, その光学特性を評価 した. 第 7 章では, 本研究の総括を行った. 25 参考文献 [1] 気候変動に関する国際連合枠組条約の京都議定書, Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change, UNITED NATIONS, 1998 [2] 2002 年度 (平成 14 年度) の温室効果ガス排出量について, 環境省, 2003 [3] 資源エネルギー庁, 電気事業便覧 (平成 13 年版) [4] 宮原諄二, 「白い光のイノベーション」, 朝日新聞社, 2005 年 [5] Arturas Zukauskas, Michael Shur, Remis Gaska, “Introduction to Solid-State Lighting,” Wiley-Interscience, 2002 [6] GE Lighting TUNGSRAM, A Short History, URL http://www.tungsram.hu/tungsram/downloads/tungsram/tu short history 18961996.pdf [7] H.J. 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Soc., vol. 19, pp.2349–2357 (1999) 28 第2章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体 の合成と光学特性 2.1 緒言 白色発光ダイオード (Light-Emitting Diode, LED) を用いた白色光源は, 従来の白熱 電球や蛍光灯と比較して, 長寿命, 高効率, 高信頼性という点において優れており, 消費電 力を低減し化石燃料の使用による環境負荷を低減してくれるものと期待されている. 最 初の白色 LED は, 青色 LED と黄色蛍光体 (Y1−a Gda )3 (Al1−b Gab )O12 :Ce3+ (YAG:Ce) とを組み合わせたものであり, 1996 年に商用化された [1]. この素子では, 青色 LED の光 と, その青色光が蛍光体を励起して出来た黄色光との混色により白色光が生成される. 今 図 2.1 α-SiAlON 結晶構造. 2.1 緒言 日, 市販されている白色 LED は平均演色評価数 Ra が約 85 であり, 一般照明用途として 十分な値である. しかしながら, これら白色 LED は赤色の発光成分に乏しく, 低い色温度 領域での演色性に劣っており, ある種の医療応用あるいは建築照明用途には適用できない. 言い換えれば, warm-white と言われる温かみのある白色が必要とされている. 現行の黄 色蛍光体 (例えば YAG:Ce) を用いた 2 色混色型白色 LED では, 温かみのある白色を生 成することは出来ない. この問題を克服し赤色の発光を増すためには, 2 種蛍光体型 LED が用いられる [2]. その代わりとして, 青色 LED を励起源として橙色の蛍光体を用い温か みのある白色を生成し, あるいは 2 種類の黄色蛍光体 (例えば, YAG:Ce と橙色蛍光体) を 用いて演色性の向上を達成することができる [3]. 我々の知る限りでは, YAG:Ce 以外に環 境安定性に優れ毒性の無い黄色蛍光体はほとんど無い. 本章の研究の目的は, UV から青 にかけての波長域で励起可能であり, YAG:Ce よりも赤色成分を有する黄色蛍光体を探索 することにある. 近年, 希土類付活酸窒化物・窒化物蛍光材料はその無毒性, 興味深い発光特性と蛍光 体や顔料としての応用可能性とから大きな注目を集めている [4][5][6][7][8][9][10]. 例 えば, Y–Si–O–N:Ce3+ [4], LaSi3 N5 :Eu3+ [5], M2 Si5 N8 :Eu2+ (M = Ca, Sr or Ba)[6], Ca1−x Lax TaO2−x N1+x [7] and Eu2+ -, Ce3+ -, Tb3+ -doped α-SiAlONs[8][9][10] などで ある. これら酸窒化物・窒化物蛍光材料の中では, α-SiAlON が良い母相となることが報 告されている. Eu2+ 付活 α-SiAlON は高効率な新種の黄色蛍光体を代表するものであり, UV から可視にかけての分光域で強い吸収を有しピーク波長が 550–590 nm である幅広い 発光帯域を示す [8][9]. 従って, この α-SiAlON 黄色蛍光体は, GaN 系の青色素子と組み 合わせて白色 LED 用に応用できるものと期待されている. さらに, α-SiAlON の独特な 結晶構造により, α-SiAlON 母相は以下の利点を有する. (i) 結晶構造を変えることなく柔 軟な材料設計が可能, (ii) 組成により光学特性を調整可能, (iii) 発光効率及び発光色の高温 安定性が硫化物, 酸化物, ハロゲン化物と比較して高い. 図 2.1 に, α-SiAlON の結晶構造 を示す. α-SiAlON は α-Si3 N4 と等価な構造である [11]. α-SiAlON の単位胞は 4 単位の “Si3 N4 ” を含むものであり, 一般式 Mval+ m/val Si12−(m+n) Alm+n On N16−n (val は M イオン の価数) で表すことができる固溶体である [11][12][13]. α-Si3 N4 と比較して, α-SiAlON 構造中では, m+n 個の Si–N 結合は m 個の Al–N 結合と n 個の Al–O 結合とに置き換え られている. 置き換えによって発生する電荷の不一致は安定化陽イオン M の導入によっ て補償され, 陽イオン M は Li, Mg, Ca, Y 及び La, Ce 及び Eu を除くランタノイド元素 である. 陽イオン M は α-SiAlON 結晶中の空隙サイトを占め, (N,O) 陰イオンが 7 配位 となるイオン結晶であり, M-(N,O) 間距離は異なる 3 種類となる [14]. Si あるいは Al を 置換するサイトに入ることは無いと考えられている. 一般に Eu2+ イオンはイオン半径が 大きいため単独では α-SiAlON 構造を安定させることはできないとされていた. しかし, La3+ であっても Ca または Yb を共添加することで固溶可能であることが H. Mandal ら 29 30 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 によって示された [15]. 同様に適切な共添加元素を固溶させることで, Eu も固溶させる ことが可能である. 共添加元素の選択にあたっては, 蛍光体として用いる目的からは可視 波長域に吸収を有しないことが好ましく, M-α-SiAlON 母相が白色の粉末となるものが良 い. また, 付活元素濃度あるいは α-SiAlON 母相組成を広範囲に検討するためには共添加 元素の固溶組成範囲が広いことが好ましい. これら視点からは, Ca が適当であると考えら れる. これまでに Ca を共添加し Eu を固溶させた事例が報告されており [8][9], その結果 が良好であったことから, 本研究においても同様に Ca を共添加元素とした. 本章の研究の第 1 の実験において, まず我々は, 色分布範囲が黄色から橙色まで広範囲 にわたる Eu2+ で付活した Ca-α-SiAlON を合成し, 白色 LED 用黄色蛍光体としてのそ の基本的特性を示した. この第 1 の実験の結果により, 我々は, 窒化物のみ (すなわち, Si3 N4 , AlN 及び Ca3 N2 ) から合成した Ca-α-SiAlON が Si3 N4 , AlN 及び CaO から合成したもの [16] よりも広 い単相生成領域を有する (すなわち, 高い固溶度を有している) との知見を得たので, こ れに基づき, 第 2 の実験においては, 窒化物のみから合成した Ca-α-SiAlON (組成式 Cax Si12−m Alm N16 , x = m/2) を母相として選択し, (i)Eu2+ の高い固溶限度を実現する こと, (ii) 広い組成範囲で母相の組成が発光特性に及ぼす影響を検討すること, を目的とし た. Eu2+ の発光は, 4f 7 → 4f 6 5d 遷移に帰属され, Eu2+ イオン周囲の環境 (例えば結晶 場)[19] と Eu2+ 自身の濃度とに強く依存している. このことが α-SiAlON:Eu 蛍光体の 発光特性 (例えば 効率, 発光色, 消光効果など) を注意深い材料設計を行うことにより制 御可能にしている. Eu2+ 付活 α-SiAlON の初期段階の実験では, その合成と発光スペク トルとが主たる興味の対象となり, 付活元素濃度あるいは母相の組成といった組成の影響 については十分な注意が払われなかった. 第 2 の実験の研究では, Eu2+ 付活 α-SiAlON 蛍光体の包括的な研究の結果を示し, その構造上の変化, 光学特性の組成依存性と濃度消 光の効果について明らかにした. 第 3 の実験においては, 工業的に大量製造する際のコストを考慮し, 付活元素 Eu 及び 共添加固溶元素 Ca の供給源となる出発原料として, 高価な窒化物材料を用いるのではな くより安価な酸化物原料を用いた場合について, 合成条件の最適化を試みるとともに光学 特性の組成依存性について検討した. 2.2 実験方法 2.2.1 第 1 の実験 α-SiAlON へ の Eu2+ の 固 溶 度 を 改 善 す る た め, 純 窒 化 物 で あ る α-SiAlON Ca0.625 Si10.75 Al1.25 N16 を母相として用いた [16]. 2.2 実験方法 組成が Ca0.625 Eux Si10.75−3x Al1.25+3x Ox N16−x (Ca-α-SiAlON:Eu, x = 0–0.25) であ る Eu2+ 付活 Ca-α-SiAlON 粉末蛍光体を, 出発原料 α-Si3 N4 , AlN, Ca3 N2 及び Eu2 O3 をガス加圧焼結法 (Gas-Pressure Sintering, GPS) で 1,800◦ C, 0.925 MPa N2 ガス加圧 下 2 h の条件で焼結し合成した. 出発原料中 Eu2 O3 中の Eu3+ イオンは, 焼結中に還元 され Eu2+ になる [9]. 焼結後の生成相を Cu Kα 線 (λ = 1.5406 Å) を用いた粉末 X 線 回折 (X-Ray Powder Diffraction, XRD) 装置 (PW1700, Philips) で 40 kV 及び 40 mA の条件で測定し確認した. 粉末蛍光体の発光スペクトルを蛍光分光光度計 (F-4500, 日立 製作所) を用いて測定した. 内蔵光源は 150 W ウシオキセノンショートアークランプで ある. 発光スペクトルについては, 光拡散板とタングステンランプ (Noma, 10V, 4A) を用 いてモノクロメータとホトマル (R928P, 浜松ホトニクス株式会社) の応答の分光分布を補 正した. 励起スペクトルも同様にして, ローダミン-B を標準試料として測定することによ りキセノンランプの発光強度の分光分布を補正し測定した. 拡散反射スペクトルを積分球 付き紫外・可視分光光度計 (Ubest V560, 日本分光株式会社) を用いて測定した. スペク トラロン標準反射白板を用いて反射スペクトルの校正を実施した (反射率は 200–900 nm の範囲でほぼ 100% である). 2.2.2 第 2 の実験 組成式 (Cax Euy )Si12−(2x+3y) Al2x+3y Oy N16−y (x = 0.2–2.2, y = 0–0.25) で表される Eu2+ 付活 Ca-α-SiAlON 蛍光体を出発原料 α-Si3 N4 (SN-E10, 宇部興産株式会社), AlN (Type F, 株式会社トクヤマ), Ca3 N2 (株式会社高純度化学研究所) 及び Eu2 O3 (信越化 学工業株式会社) から合成した. Ca3 N2 の空気 (酸素) 及び湿気に対する感受性のため, 窒素雰囲気の純度を連続的に高める機構のついたグローブボックス (MBRAUN Unilab, MBRAUN GmbH, Germany) 中で出発原料粉末の混合を実施した. 酸素濃度及び湿気 (水分) はいずれも 1 ppm 未満である. 続いて GPS によって 1,800◦ C, 2 h, 窒素ガス加圧 10 atm の条件で粉末を合成した. 出発原料 Eu2 O3 中では Eu3+ イオンであるが, 焼結中 に窒素雰囲気下で還元され Eu2+ となることが後述するように吸収・発光スペクトルに より確認されている. 粉末を合成した結果生成された相については, 第 1 の実験同様粉末 X 線回折によって同定した. 走査速度 0.5◦ 毎分で 0.005◦ 2θ ステップとした. α-SiAlON の格子定数を決定するために, 内部標準試料としてシリコンを使用した. 粉末の形態を走 査型電子顕微鏡 (scanning electron microscopy, SEM) で確認した (JEOL-840A). 粒径 分布をレーザ散乱・回折式粒度分布測定装置 (CILAS1064) で測定した. 粉末蛍光体の蛍 光スペクトル及び拡散反射スペクトルをそれぞれ蛍光分光光度計 (F-4500, 日立製作所) 及び 積分球付きの紫外可視分光光度計 (Ubest V-560, 日本分光 JASCO) を用いて測定 した. 31 32 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 2.2.3 第 3 の実験 第 1 の実験及び第 2 の実験では, 固溶金属元素 Ca の供給源として窒化物 Ca3 N2 を用 いていた. 第 3 の一連の実験では, 事業化を念頭に置き, Ca の供給源としてより安価であ り, また取扱いの容易な酸化物原料 CaCO3 を用いて α-SiAlON 蛍光体の合成を試みた. 出発原料として α-Si3 N4 (SN-E10, 宇部興産株式会社), AlN (Type F, 株式会社トクヤ マ) 及び Eu2 O3 (信越化学工業株式会社) を用いることは第 1 及び第 2 の実験と同様であ り, CaCO3 (株式会社高純度化学研究所) を用いた点が異なる. CaCO3 と Eu2 O3 を出発 原料とすることから, Ca を 2 価のカチオン, Eu を 3 価のカチオンとして組成設計し, 組成 式 Cax Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Euy で表され, m = 2×x+3×y, n = (2×x+3×y)/2 となる. 後述する広範な組成範囲で, 最適組成を探求した. また, 白色 LED ランプへの適 用を念頭に置いて光学特性の改善について, 焼結条件及び焼結前後の処理など様々な検討 を実施した. これら出発原料を電子天秤で秤量し, 窒化ケイ素製の容器とボールとを用いて, n-ヘキ サンを溶媒として遊星ボールミルで 2 h 混合し, ロータリーエバポレーターを用いて乾燥 させた. その後, 以下に示す各条件にて GPS による焼結とその前後の処理を実施し, 蛍光 体粉末を合成した. 粉末化について, GPS 工程の前後の処理について検討し, 粉末状のまま焼結する場合 にステンレス製の試験用網ふるいに通してあらかじめ適切な粒径に造粒する方法を検討 した. GPS 工程後には乳鉢を用いて粉末状に崩し, 再び試験用網ふるいを用いて分級し, 蛍光体粉末試料とした. 粉末の形態をフィールドエミッション走査型電子顕微鏡 (Field emission scanning electron microscopy, FE-SEM) で確認した (JEOL JSM-6700F). 粒 径分布をレーザ散乱・回折式粒度分布測定装置 (CILAS1064) で測定した. 実際に白色 LED ランプを試作しその適用性について確認した. GPS の プ ロ セ ス 諸 条 件 の 中 で, 焼 結 温 度 に つ い て 最 適 条 件 を 検 討 し た. 組 成 式 Cax Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Euy に対して, x = 0.75 及び y= 0.25(すなわち, m = 2.25 及び n = 1.125) である第 1 の組成と, x = 0.75 及び y = 0.0833(すなわち, m = 1.7499 及び n = 0.87495) である第 2 の組成との 2 種類の組成について, 冷間等方圧加圧 装置 (Cold Isostatic Pressing, CIP) によりペレット状に成形したものと, 粉末状のまま のものとを用意し, 計 4 種類の試料をそれぞれ焼結温度を 1,500◦ C, 1,600◦ C, 1,700◦ C, 及 び 1,800◦ C の 4 種類として合成し光学特性を比較した. CIP 成形した試料については, 乾 燥後まず金属製の型と油圧プレス機とを用いて円柱状に仮成形してから, CIP で 4 t の静 水圧をかけて成形した. 粉末状の試料については, 乾燥後乳鉢により粉砕し, JIS Z 8801 に準拠した公称目開き 63 µm のステンレス製の試験用網ふるいに通して粒径 63 µm 以下 2.3 第 1 の実験の結果と考察 に造粒した. これら試料を, 窒化ホウ素製の容器に入れ, GPS 装置内に収容し, 各焼結温 度でそれぞれ 8 h 保持した. 昇温速度は 10◦ C/min とし [17], 冷却は炉冷で約 10◦ C/min であった. なお, 昇温にあたっては, 反応が開始する温度域まではさらに速くしても問題は 無い. 昇温開始時 800◦ C までと, 冷却時 800◦ C 以降は真空とし, 高温域でのみ窒素を導入 し 1 MPa で加圧した. 焼結後は, ペレット状に仮成形してから焼結した試料は機械的手 段を用いて粉砕し, また粉末状のまま焼結した試料は乳鉢及び乳棒を用いて粉末に崩して, いずれも 125 µm 以下に分級した. 蛍光分光光度計による発光スペクトル及び励起スペクトルの測定, 及び積分球付き紫 外・可視分光光度計による拡散反射スペクトル測定については, 第 1 及び第 2 の実験と同 様とした. 組成式 Cax Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Euy で Ca の組成範囲 0.25 ≤ x ≤ 1.25, Eu の 組成範囲 0.02 ≤ y ≤ 0.5 で 28 種類の組成の異なる試料を合成し, その光学特性を測定し て最適組成について検討した. 焼結後の粉末の光学特性改善のために, 酸処理を実施した. 蛍光体実装時のミー散乱の低減による特性向上を目的として, 微細粒子の除去について 検討した. 2.3 第 1 の実験の結果と考察 第 1 の実験の結果では, 図 2.2 の XRD パターンに示すように, 各試料は α-SiAlON 単相となっている (JCPDS カード No. 33-0261 を参照). Eu2+ を固溶させていない Ca-α-SiAlON と比較して相対ピーク強度に変動が見られるのは, 格子の歪みと Eu2+ が α-SiAlON の格子中に取り込まれたことを示している. Eu 濃度 (x 値) を高くすると, Si–N と比較してより長い Al–N の結合により α-SiAlON の結晶格子は広がると考えら れる. Eu 濃度が x = 0.25 以下の範囲では, α-SiAlON 結晶構造は変化無く保持された. 図 2.3 は, 異なる Eu2+ イオン固溶量についての Ca-α-SiAlON:Eu の吸収スペクトル である. Eu2+ を固溶させていない Ca-α-SiAlON は白色であり, スペクトルの UV 域 に吸収端がみられる. Ca-α-SiAlON:Eu は, しかしながら, UV から可視の領域で高い 吸収を示し, また Eu2+ の濃度があがるにつれて吸収端が赤方偏移する. これにより, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の色は, Eu 濃度があがるに連れて明るい黄色から橙色まで変化 する. 図 2.4 は Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の蛍光スペクトルである. Ca-α-SiAlON:Eu の励起 スペクトルは UV から可視までの領域に幅広く広がっており, 反射スペクトルと一致して いる. 励起スペクトルは, 約 300 nm と 400 nm とにピークを有する 2 つの幅広い励起帯 域を有している. 第 1 のピークは母相 (α-SiAlON) の吸収に帰属され, 第 2 のピークは 33 211 300 202 301 102 210 201 200 110 Intensity 101 Si 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 Si 34 Ïww Ïww Ïww Ïww Ïww 20 25 30 35 40 45 50 2T (degree) 図 2.2 Eu2+ 付活 Ca-α-SiAlON の粉末 X 線回折パターン. 0.7 x = 0.25 Absorptance (a.u.) 0.6 x = 0.10 0.5 0.4 x = 0.05 0.3 x = 0.01 0.2 0.1 0.0 x=0 300 400 500 600 700 Wavelength (nm) 図 2.3 Ca-α-SiAlON:Eu の Eu 濃度を変化させた試料の拡散反射スペクトル. Eu を ドープした試料では UV から可視域にかけて大きな吸収が見られる. Eu2+ の 4f 7 → 4f 6 5d 遷移に対応している. Eu2+ を固溶させた Ca-α-SiAlON:Eu の発 光スペクトルは 583–603 nm に発光ピーク波長を有する強く幅広い発光帯域を一つ有す る. この発光帯域は, 4f 6 5d → 4f 7 許容遷移に帰属できる [9]. α-SiAlON 中の Eu2+ の長 波長の励起帯域と発光帯域とは, 窒素リッチな配位状態により重心位置が低エネルギーと なっていることと結晶場の分裂が大きいこととを示唆している. 2.3 第 1 の実験の結果と考察 35 5000 Emission PL intensity (a.u.) Excitation 0.075 4000 0.10 0.05 0.025 3000 0.01 0.25 2000 1000 0 300 400 500 600 700 Wavelength (nm) 図 2.4 Ca-α-SiAlON:Eu の励起・発光スペクトル. 発光スペクトル測定時の励起来 波長は 450 nm, 励起スペクトル測定時の発光モニタ波長は 590 nm である. 5000 PL Intensity (a.u.) 4000 3000 2000 1000 0 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 Eu Concentration 図 2.5 Ca-α-SiAlON:Eu の発光強度の Eu 濃度依存性. 図 2.5 に発光強度の Eu 濃度依存性を示す. 発光強度は x = 0.075 の組成で最高値と なった. Eu 濃度が x = 0.075 を超えると, 濃度消光が起きた. 参考文献 [18] によれば, 濃度消光は主に Eu2+ イオン間のエネルギー移動により引き起こされ, その発生確率は Eu2+ 濃度が上がるにつれて増大する. この材料中での Eu2+ の 4f → 5d 遷移は許容遷移 であり, 発光スペクトルは 550–570 nm でオーバーラップしているので, 電気多極子の相 36 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 0.9 0.8 0.7 Ca-D-SiAlON:Eu 0.6 Y 0.5 0.4 Planckian locus 0.3 0.2 0.1 450 nm 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 X 図 2.6 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の色度座標. Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体と青色 LED 素子との組み合わせで, 温かみのある白色が生成されることがわかる. 互作用と発光の再吸収の結果として複数の Eu2+ イオン間での非輻射エネルギー遷移が生 じる. Eu2+ 濃度が高いと, Eu2+ イオン間の距離は小さく, よってエネルギー移動の確率 は増える. さらに, 励起スペクトルと発光スペクトルとのオーバーラップは相互作用がエ ネルギーの回遊を誘起することを意味しており, 結果的にはやはり濃度消光が起きる. 他 の Eu 濃度に関連した現象としては, 図 2.4 にみられるように Eu2+ 濃度の増大に伴う幅 広い発光帯域の赤方偏移がある. これは, Eu2+ 周辺の結晶場のなんらかの変化が 5d 電子 の分裂を引き起こしていることに由来すると考えられる. 前述したように, Eu2+ イオン の高い準位にある 5d 準位から低い 5d 準位へのエネルギー移動の確率は Eu 濃度の増大に 伴って増大する. このことが, 高 Eu 濃度により 5d 励起状態から 4f 基底状態への遷移の 発光エネルギーを低くすることを可能にし, これにより発光波長を長波長側にシフトする ことができる. 図 2.6 では, CIE (Commission International del’Eclairge) 1931 色度図上に, Eu2+ 濃度を変えた Ca-α-SiAlON:Eu の色度座標を示す. 色度座標 (x, y) は組成 x = 0.01 の時の (0.491, 0.497) から組成 x = 0.25 の時の (0.560, 0.436) まで変化した. 青色 LED (発光波長 450 nm) の色度座標と α-SiAlON 黄色蛍光体の色度座標とを結ぶ線 は, 1,900–3,300 K の範囲で黒体輻射軌跡と交差している. よって, 青色 LED と Ca-α- SiAlON:Eu 蛍光体とを組み合わせた新規 2 色混色型白色 LED によって, 「温かみのあ る白色」を作り出すことができる. 「温かみのある白色」すなわち warm-white は, 例え ば 2,500–3,500 K である. これは, 従来 YAG:ECe 黄色蛍光体を単独で青色 LED と組み 2.4 第 2 の実験の結果と考察 37 α Si Intensity α α Si α α α αα α α α α αα xx d c b a 20 25 30 35 40 45 50 2θ (Degree) 図 2.7 ユーロピウム濃度を変化させた時の X 線回折パターン (x = 0.625). ユーロピ ウムの固溶限界は y = 0.20 である. (a) y = 0, (b) y = 0.075, (c) y = 0.10 and (d) y = 0.20. 合わせても実現し得なかったことである. これに加えて, その必要がある場合には, 一方 を Ca-α-SiAlON:Eu2+ とし, もう一方を他の黄色または緑色の蛍光体として, 2 種の蛍光 体を用いた蛍光体変換型の LED で白色光を作り出すこともできる. まとめとして, 本節 で我々は組成 Ca0.625 Eux Si10.75−3.0x Al1.25+3.0x O1.0x N16−1.0x (x = 0–0.25) の酸窒化物 α-SiAlON 黄色蛍光体を合成し, その蛍光特性と発光色度座標について報告した. これら 予備的実験の結果は, この高効率黄色蛍光体が, 2 色混色型白色 LED または 2 種蛍光体型 白色 LED, 特に温かみのある白色を発するものに適用できる候補材料であることを示し ている. 2.4 第 2 の実験の結果と考察 2.4.1 構造解析 図 2.7 は, x = 0.625 に固定してユーロピウム付活濃度を振った試料の XRD パターン を示している. 単相の α-SiAlON が生成されているのは, y < 0.20 の範囲である. y = 0.20 では, α-SiAlON 主相とともに, “x” で印したように未知の第 2 相の生成が確認さ れ, α-SiAlON への Eu2+ の固溶限界が 0.20 未満であることが示された. 付活していない 38 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 Si Si α α α Intensity α e d c b a 20 α α αfα β 25 γ γγ γ β β 30 α α α α α α αα β 35 40 45 50 2θ (Degree) 図 2.8 ユーロピウム付活量を y = 0.075 に固定し組成を変化させた時の X 線回折パ ターンに見られる漸進的ピークシフトと相変化. (a) x = 0.2, (b) x = 0.3, (c) x = 1.05, (d) x = 1.8, (e) x = 1.9 and (f) x = 2.0. α = α-SiAlON, β = β-SiAlON, γ = CaAlSiN3 . Ca-α-SiAlON と比較した時の相対ピーク強度とピーク位置の変化は, 格子の歪みと Eu2+ が α-SiAlON 格子中に導入されたこととを示している. 図 2.8 は, y = 0.075 とした時の 広範囲な組成での各試料の XRD スペクトルである. 0.3 ≤ x ≤ 1.8 (すなわち, 0.75 ≤ m ≤ 3.75, m = 2x + 2y) の範囲が α-SiAlON 単相領域であることがわかる. 本研究で示さ れた α-SiAlON 形成範囲は, 本研究の共同研究者らが従来報告している範囲 (0.5 ≤ x ≤ 1.7) よりも若干広いものとなっている. これは, 試料合成方法の違いなどに由来するもの であると考えられる. x が 0.3 未満では, α-SiAlON とともに β-SiAlON の生成が見られ る. また, x が 1.8 を超えると, CaAlSiN3 (JCPDS Cards No. 39-0747) が生成する傾向 にある. Ca2+ 濃度 (すなわち, m 値) の増加とともに, 次第に回折ピークが低角度側にシ フトしていっていることが明らかであり, これは後述するように結晶格子の拡張を示唆し ている. x 及び y を振った時の各組成の格子定数を, 仕込み組成の m 値の関数として図 2.9 に示 す. 注目すべきこととして, α-SiAlON 単相領域では, 格子定数と m 値とは比例関係にあ ると見える. α-SiAlON 単相領域を超えると, 格子定数は一定となる. 格子定数の増加は m 値及び n 値の増加に帰属でき, 平均の Si–N 結合の長さ 1.74 Å が Al–N 結合 (1.87 Å) や Al–O 結合 (1.75 Å) よりも短いからである [11]. さらに, 同一の m 値において, Ca2+ 2.4 第 2 の実験の結果と考察 39 8.00 6.00 x = 0.625, y = 0 - 0.25 y = 0.075, x = 0.2 - 2.2 5.95 7.90 5.90 7.85 5.85 7.80 5.80 7.75 5.75 7.70 5.70 7.65 5.65 7.60 0 1 2 3 4 5 c (A) a (A) 7.95 5.60 Nominal m value 図 2.9 組成の異なる各試料の格子定数. 濃度を x = 0.625 に固定し y 値を振った組成のものと Eu2+ 濃度を y = 0.075 に固定し x 値を振った組成のものとでは, 同一の m 値においては格子定数もほぼ等しいものであっ た. これは, Eu2+ や Ca2+ のイオン半径は α-SiAlON の格子寸法にほとんど影響を与え ていないことを示唆している. Si–N 結合の部分的置換によって引き起こされる格子の拡 張は Eu2+ イオン周囲の結晶場を変化させ, これが最終的に Eu2+ 付活 α-SiAlON の発光 特性に影響を与えているものと考えられる. 図 2.10 は, 典型的な α-SiAlON 蛍光体 (x = 0.625, y = 0.075) の電子顕微鏡写真であ る. 大部分は等軸状で一部六角柱状の形状の 0.5–1.8 µm 粒径の結晶粒が寄り集まって成 長しさらに大きな凝集体を形成している. 凝集体は乳鉢中で一部粉砕されている. 粉末は 均一であり, 図 2.11 に示すように粒度分布は狭いものとなっている. 2.4.2 拡散反射スペクトル Eu2+ イオン濃度を変化させた複数のサンプルの紫外・可視拡散反射スペクトルを 図 2.12 に示す. ここにみられるように, 付活していない α-SiAlON は白色であり, 吸収端 はスペクトルの紫外域にのみ見られる (∼297 nm). Eu2+ 付活 α-SiAlON は, しかしなが ら, 紫外から可視の分光域に Eu2+ に帰属可能な非常に強い吸収を有する. 同時に, Eu2+ 濃度の増加に従って, 吸収開始位置の低エネルギー側へのシフト (赤方偏移) も見られる. この赤方偏移は, Eu2+ 濃度を増加させた時の発光帯域に見られる赤方偏移にも一致して 40 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 図 2.10 α-SiAlON 粉末蛍光体の走査型電子顕微鏡 (SEM) 写真 (x = 0.625, y = 0.075). 1.0 Frequency 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 0.01 0.1 1 µm 10 100 図 2.11 α-SiAlON 粉末蛍光体の粒度分布 (x = 0.625, y = 0.075). おり, 発光帯域の赤方偏移についてはストークスシフトの増大と Eu2+ の 5d 軌道の分裂 に帰属できる (後述する). 以上から, Eu2+ 付活 α-SiAlON それ自体の色は, Eu2+ 濃度の 増加に従って明るい黄色から橙色へと変化する. 吸収端の赤方偏移もまた, Eu2+ 付活濃 度を変化させたことによる α-SiAlON の光学的バンドギャップの変化によって説明する ことができる. 光学的なバンドギャップ (Eg ) は, 以下の半導体のための計算式によって 2.4 第 2 の実験の結果と考察 41 100 y=0 F(R) 80 60 y = 0.025 40 y = 0.125 20 y = 0.2 0 300 400 x = 0.625 500 600 700 800 Wavelength (nm) 図 2.12 ユーロピウム固溶濃度を変化させた Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の紫外・可視拡 散反射スペクトル. 見積もることができる [20]. αhν = A(hν − Eg )q/2 ここで α, ν, A 及び Eg はそれぞれ吸収係数, 光の周波数, 比例定数とバンドギャップで ある. q は半導体中の遷移の性質を表しており, 1 または 3 であれば直接許容遷移, 4 また は 6 であれば間接遷移である. 吸収係数 α は Kubelka–Munk 関数 F (R)2 /[2(1 − F (R))] の F (R) に比例している. q と Eg とは以下の手順によって求めることができる [21]. 最 初に, Eg に近似値を用いて ln(αhν) vs ln(hν − Eg ) をプロットし, 続いてバンドエッ ジ近傍の直線の傾きから q を決定する. 次に, (αhν)2/q vs hν をプロットし, 直線を (αhν)2/q = 0 まで外挿することによってバンドエッジ Eg を評価する. この方法によれ ば, q は 4 と決定され, Eu2+ 付活 Ca-α-SiAlON の間接許容光学遷移であることが示さ れた. 付活無しの α-SiAlON のバンドギャップ Eg は約 4.45 eV であり, 従来報告され ている α-Si3 N4 の光学バンドギャップ (5.0–5.2 eV) よりも小さい値である. この差異は α-SiAlON 中の Si–N から Al–N 及び Al–O への部分的置換に由来するものであろうと 考えられる. β-SiAlON (Si8−z Alz Oz N6−z ) の光学バンドギャップが z 値の増大とともに 減少するとの事例が報告されている [22]. 光学バンドギャップは, Eu2+ イオンの導入に より著しく減少している. y = 0.005 では 2.50 eV に, また y = 0.20 では 2.29 eV にま で減少した. 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 PL Intensity (a.u.) 42 300 400 500 600 700 800 Wavelength (nm) 図 2.13 α-SiAlON 蛍光体の典型的な励起・発光スペクトル. この試料のカルシウム 量は x = 0.625 でありユーロピウム量は y = 0.10 である. (実線の励起スペクトルの 発光モニタ波長は 590 nm, 発光スペクトルの励起波長は実線のものは 410 nm, 破線 のものは 305 nm である.) 2.4.3 発光特性 図 2.13 は, α-SiAlON:Eu 蛍光体の典型的な励起・発光スペクトルを示している. ここ に示した試料の組成は x = 0.625 及び y = 0.10 である. 励起スペクトルは幅広く, 微 細構造の見られない形状である. UV から可視までの波長域をカバーしており, 反射スペ クトルと一致している. ピーク波長が 305 nm と 412 nm である二つの線幅の広い帯域 が見られる. 第一の帯域は母相 (α-SiAlON) の吸収に帰属され, 第二の帯域は Eu2+ の 4f 7 → 4f 6 5d 遷移に対応している. 発光スペクトルは, ピーク波長 592 nm の線幅の広 い強いピークを一つ有する. この発光帯域は Eu2+ の 4f 6 5d → 4f 7 許容遷移に帰属でき る. 580 nm 及び 650 nm にシャープな線状ピークがあらわれる Eu3+ に特有の発光は 観測されていない. このことは, α-SiAlON 中のユーロピウムイオンが 2 価であることを 示唆している. 通常考えられるよりも長波長に寄っている励起・発光帯域は, これまでに 報告されているように α-SiAlON 中の Eu2+ 周囲の窒素リッチな配位状態に由来するも のであると考えられる [4][9]. N3− の形式電荷が O2− と比較して高いことと, 窒素の電 気陰性度 (3.04) が酸素のそれ (3.44) と比較して低い (nephelauxetic 効果) こととの両方 が, 5d レベルの配位子場分裂を大きくし 5d 軌道の重心位置のエネルギーレベルを低くし 2.4 第 2 の実験の結果と考察 図 2.14 α-SiAlON 中の Eu2+ の発光のバンドギャップモデルの模式図. ているものと考えられる. また, d 軌道の優越方位あるいは伝導帯の低レベル準位が長波 長発光に影響していることもまた示唆される [6]. スペクトルから簡易的に評価した Eu2+ 付活 α-SiAlON のストークスシフト量は, 7,000–8,000 cm−1 であり, 従来報告されてい る値と良く一致している [4][9]. Krevel らは, この大きなストークスシフト量について, α-SiAlON 中の空隙サイトが小さいことで励起状態にある Eu2+ が基底状態と比較して 収縮させられており, 緩和が大きくなるのでストークスシフト量が大きいのだとする説明 を提案している [4]. 不純物を加えられた半導体では, 不純物の発光に 2 つの励起経路が 寄与する. 一つは間接励起, すなわちホスト材料の伝導帯への励起と, これに続くホスト 材料から不純物イオンへのエネルギー移動が不純物イオンの発光を起こす経路である. も う一つは不純物イオンの直接励起である. 励起スペクトルに見られるように, Eu2+ 付活 α-SiAlON では直接励起と間接励起の両方が関係している. 図 2.14 は Eu2+ 付活 α-SiAlON の発光のバンドギャップモデルの模式図である. 電 子が価電子帯から伝導帯へ母相 (ホスト材料) のバンドギャップを越えて励起され (step 1), これに続いて深くトラップされた欠陥準位の正孔への輻射遷移 (step 2) か, または ユーロピウムの 5d 準位への非輻射遷移 (step 3) が起こる. さらに step 3 に続いては, Eu2+ の励起状態から基底状態への輻射遷移が起き (step 4), Eu2+ の発光がもたらされ る. 図 2.13 に示すように, Eu2+ 付活 α-SiAlON の発光では, 明らかに不純物イオンの直 接遷移 (励起波長 412 nm) の方が母相による間接遷移 (励起波長 305 nm) よりも高効率 である. 43 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 x = 0.575 x = 0.725 x = 1.0 x = 1.4 PL Intensity (a.u.) 44 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 Eu Concentration 図 2.15 発光強度 vs ユーロピウム濃度のグラフ. y = 0.075 において濃度消光が起き ることを示している. 2.4.4 濃度消光と組成依存性 図 2.15 は, 異なる α-SiAlON 母相組成について, Eu2+ 濃度に対する発光強度の変化を 示したものである. すべての α-SiAlON 組成において, 低 Eu2+ 濃度から発光強度が増 していき Eu2+ 濃度が y = 0.075 で最高となり, その後は急速に低下して y = 0.25 で最 低となっている. 臨界値を越えて以降の発光強度の低下は, 主として Eu2+ イオン間にお けるエネルギー移動によって生じる濃度消光であるとして説明が可能である. 2 個の付活 イオン間のエネルギー移動の確率は, 付活イオン間の距離 R′ の n 乗に反比例 (n = 6, 8 または 10) している [18]. Eu2+ イオンの濃度が高くなると, Eu2+ イオン間の距離は小 さくなり, これによってエネルギー移動の確率は増すことになる. 図 2.16 は, 発光強度の α-SiAlON 組成依存性を示している. Eu2+ 濃度を y = 0.075 固定とした時, 発光強度は x = 1.4 で最大となった. 組成依存性がどう説明され得るのかは未だ明らかでは無いが, しかしながら上記の結果は Eu2+ 付活 α-SiAlON の発光特性が母相の組成を制御するこ とによって調節可能であることを暗示しているものと考えられる. その他の α-SiAlON 母 相の組成と Eu2+ 濃度に関する興味深い特徴としては, 発光帯域のシフトがある. 図 2.17 は, 異なる Eu2+ 濃度それぞれの仕込み組成の m 値に対するピーク発光波長をプロット したものである. m 値すなわち Eu2+ 濃度が増すにつれて, 発光波長の赤方偏移が観測さ 45 PL Intensity (a.u.) 2.4 第 2 の実験の結果と考察 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 Nominal m value 図 2.16 発光強度 vs 全体の仕込み組成の m 値のグラフ. Peak emission Wavelength (nm) 615 610 605 y = 0.20 600 595 y = 0.075 590 y = 0.025 585 580 575 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0 Nominal m value 図 2.17 ピーク発光波長 vs 全体の仕込み組成の m 値のグラフ. れている. この波長シフトは格子の拡張と部分的な Si–N 結合の置換により引き起こされ た Eu2+ イオン周囲に働く結晶場の変化によるものと考えられる. m 値の増加は短く強 い Si–N 結合が長く弱い Al–N 結合に置換される割合の増加を意味しており, これにより α-SiAlON 格子の堅固さも弱まっていると考えられる. その結果, m 値の増大とともにス 46 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 (a) (b) 図 2.18 造粒・焼結・分級後の α-SiAlON 黄色蛍光体粉末の走査型電子顕微鏡 (SEM) 像. (a)1,000 倍, (b)25,000 倍. トークスシフト量も増大し, 発光波長の赤方偏移が起きているものと考えられる (励起波 長は変化していない). Eu2+ 濃度が高くなった場合についても同様であろう. さらに, 結 晶場の変化が Eu2+ の 5d 軌道を分裂させると考えられる. 前述したように, Eu2+ の 5d の高い準位から 5d の低い準位へのエネルギー移動の確率は, Eu2+ 濃度の増大とともに 増大する. これにより, Eu2+ 濃度を高くするということは低い 5d 励起準位から 4f 基底 状態への遷移すなわち低い発光エネルギーとなるようにすることであり, これにより発光 波長が長波長側にシフトすると考えられる. 2.5 第 3 の実験の結果と考察 2.5.1 造粒方法及び粉末化方法 α-SiAlON は構造材料であり, 通常は成形体として利用する. しかし, 蛍光体は一般に微 細な粉末状で利用するものであり, 適切な粉末化方法について検討することは重要である. R.-J. Xie らは, 当初, α-SiAlON 蛍光体をホットプレス法によって合成していた [9]. ま た, 本研究の初期段階においては, 遊星ボールミルで混練した出発原料を CIP によりペ レット状に成型し, これを GPS で焼結していた. このような場合, 得られたバルク焼結体 を機械的な手段を用いて粉砕し粉末化する必要がある. 具体的な機械的粉砕手段の一例と して, 我々は, 衝撃により対象物を粉砕するタングステンカーバイト製の粉砕治具を用い た. 粉砕治具にハンマー等で衝撃を与え粉砕した後, 試験用網ふるいに通して微細粒子の みを粉末試料として選り分け, 粗大粒子は再び治具により粉砕した. α-SiAlON はモース 硬度約 9 の非常に硬い材料であり, 粉砕は困難であって, これら粉砕治具を用いた工程も 多大な手間を要する. さらに, 粉砕の過程で試料が若干変色することが目視観察によって 2.5 第 3 の実験の結果と考察 47 1.0 0.9 相対度数/累計 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.1 1 10 100 粒径 [μm] 図 2.19 レーザー回折式粒度分布計で測定した, 造粒・焼結・分級後の α-SiAlON 黄 色蛍光体粉末の粒度分布. も確認された. 焼結後のペレットは黄色であるが, 粉砕治具にて衝撃を与えると, 衝撃が大 きいと考えられる領域を中心に次第に緑色に変色した. これは, 外力によって表面近傍に 何らかの結晶欠陥が導入されたものと考えられ, 光学特性の劣化要因になっていると推測 される. 機械的粉砕手段によらず粉末を得るために, 原料粉末を成形することなく粉末のまま GPS により焼結する方法について詳細に検討した. 原料粉末は, 電子天秤を用いて秤量し た後, まず湿式遊星ボールミルを用いて 2 h 混練する. 容器及びボールには窒化ケイ素製 のものを用いた. ここで, 溶媒として n-ヘキサンを用いるため, 続いてロータリーエバポ レーターによりほどよく乾燥させる. 続いてこれを乳鉢を用いて十分にすり潰し, ステン レス製の試験用網ふるいを用いて適切な粒径に造粒した. 試験用網ふるいは, 公称目開き 45 µm, 63 µm, 125 µm などのものを用い, それぞれ開口径に応じた凝集粉体が得られた. なお, 公称目開き 20 µm では湿気や静電気の影響で造粒は困難であった. 125 µm を超え るふるいで造粒した場合には, 得られる粉末の粒径が大きすぎて蛍光体としての利用に問 題が出ることから, これらが適正範囲であると言える. このようにして造粒した凝集体を, 窒化ホウ素製のふた付き容器にそっと収容した. この際, 詰め込みすぎないことが重要で ある. これを容器ごと GPS により焼結すると, 試料は一つの塊となって取り出される. α- SiAlON の焼結過程は固相・液相共存状態にあると考えられ, これにより原料粉末の段階 48 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 4000 発光強度 [任意単位] 1700℃ 1800℃ 3000 1600℃ 2000 1500℃ 1000 0 500 550 600 発光波長 [nm] 650 図 2.20 試料 D の各焼結温度で焼結した場合の発光スペクトル. (励起波長 450nm) での造粒状態を基本的には保ちながらも, 凝集体同士がある程度くっついて一つの塊状に なるものと考えられる. この塊は, わずかな力を加えるだけでさらさらと粉末に崩すこと が可能であり, 乳鉢を用いて粉末化した. これを再び試験用網ふるいを用いて分級し, 粉末 蛍光体試料とした. 図 2.18 に, このようにして得られた α-SiAlON 粉末蛍光体の FE-SEM 像を示す. 造粒 には公称目開き 125 µm の, 分級には 45 µm の試験用ふるいをそれぞれ用いた. サブ µm の結晶粒が凝集した多孔質球体が形成されている. 一般に蛍光体粉末は粒径が大きい方が 発光強度が高いことが知られているが, このようにして得られた凝集体においても結晶粒 の一次粒径にかかわらず凝集体の二次粒径が大きければ大きいほど試料の発光強度は高く なった. この方法によれば, 試験用網ふるいの開口径を選択することで適切な粒径の試料 を得ることが可能である. 図 2.19 に, この試料をレーザー回折式粒度分布計で測定した粒度分布を示す. メジアン 粒径は 33.8 µm, 10% 粒径は 21.8 µm, 90% 粒径は 47.4 µm であった. なお, 粉末蛍光体 は, 塗布性を考慮して通常数 µm の粒径のものを用いるが, 我々は白色 LED ランプの製 造工程を検討した結果, こうして得られた粒径数十 µm の凝集粒子を用いて高光度の白色 LED ランプを製作することに成功した. 2.5.2 最適焼結温度 最適焼結温度を検討するために, 2 種類の組成について 2 種類の製法で試料を合成した. 以下で, 第 1 の組成でペレットに仮成形した試料を試料 A, 第 1 の組成で粉末状態で焼結 2.5 第 3 の実験の結果と考察 49 発光強度 [任意単位] 4000 試料A 試料B 試料C 試料D 3000 2000 1000 0 1450 1500 1550 1600 1650 1700 焼結温度 [℃] 1750 1800 1850 図 2.21 発光波長 583 nm で比較した各試料の発光強度. 100 1700℃ 1600℃ 相対反射率 [%] 1800℃ 80 1500℃ 60 D:\WORKS\KSakumaDoctralThesis\draft\DataFigsPat083453\KSA3Y09.xls 40 500 550 600 650 波長 [nm] 700 750 図 2.22 試料 D の拡散反射率の波長依存性. した試料を試料 B, 第 2 の組成でペレットに仮成形した試料を試料 C, 第 2 の組成で粉末 状態で焼結した試料を試料 D とした. それぞれについて, 焼結温度は, 1,500◦ C, 1,600◦ C, 1,700◦ C 及び 1,800◦ C とした. 得られた α-SiAlON 蛍光体について, 蛍光分光光度計を用いて発光スペクトルと励起 スペクトルを測定した. 発光スペクトル測定時の励起波長は 450 nm, 励起スペクトル測 D:\WORKS\KSakumaDoctralThesis\draft\DataFigsPat083453\KSA3Y09.xls 定時の発光モニタ波長は 583 nm とした. また, 積分球付き紫外可視分光光度計を用い て拡散反射率を測定した. 反射率の基準として, 米国連邦標準・技術局 (NIST: National 50 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 表 2.1 各試料の発光ピーク波長. 試料 A 試料 B 試料 C 試料 D 1,500◦ C 585.2 nm 588.2 nm 583.0 nm 585.6 nm 1,600◦ C 585.0 nm 588.4 nm 582.2 nm 582.8 nm ◦ 588.8 nm 590.8 nm 583.2 nm 582.8 nm ◦ 590.4 nm 593.8 nm 582.8 nm 582.8 nm 1,700 C 1,800 C 表 2.2 発光波長 583 nm, 590 nm, 595 nm で比較した各試料の相対発光強度. 試料 A を 1,600◦ C で焼結した試料を基準とした. 試料 A 試料 B 試料 C 試料 D 1,500◦ C 0.63/0.63/0.63 0.70/0.70/0.70 0.49/0.49/0.49 0.55/0.55/0.55 1,600◦ C 1.00/1.00/1.00 1.30/1.30/1.30 1.28/1.26/1.25 1.68/1.66/1.64 ◦ 0.96/0.98/0.99 1.31/1.33/1.35 1.13/1.12/1.11 1.95/1.94/1.92 ◦ 0.72/0.74/0.76 1.00/1.03/1.06 1.02/1.02/1.01 1.88/1.88/1.88 1,700 C 1,800 C 表 2.3 拡散反射率の波長範囲 500–780 nm における平均値. 試料 A 試料 B 試料 C 試料 D 1,500◦ C 79.7% 85.5% 79.6% 82.2% 1,600◦ C 75.9% 87.6% 79.3% 89.6% 1,700 C 70.5% 87.6% 69.2% 91.9% 1,800◦ C 59.3% 80.9% 62.2% 86.6% ◦ Institute of Standards & Technology) により定められた規格に準拠したスペクトラロン を使用した. この白色標準拡散反射板に所定の波長を有する試験光を照射し, この際の拡 散反射強度を基準値 (反射率 100%) とした. つまり, 後述する各試料の拡散反射率を y %, 各試料の拡散反射強度を x, 前記の基準値を a とすると, これらの関係は y = (x/a) × 100 である. このように各試料の拡散反射率 y は, 相対的な数値であり, その数値が大きいほど, 試 料が当該波長領域の光を良く反射していて, 当該波長領域において「白い」と考えられる. これは, 蛍光体粉末の特性を検証するにあたっての重要な要素である. 図 2.20 は, 試料 D の励起波長 450 nm に対する発光スペクトルである. 発光スペクト ルは組成や原料の形状が同一であっても焼結温度により異なっており, 図中の 4 本の各線 がそれぞれ焼結温度が 1,500◦ C, 1,600◦ C, 1,700◦ C 及び 1,800◦ C である試料に対応して 2.5 第 3 の実験の結果と考察 いる. 図 2.21 は, 各試料の発光強度を発光波長 583 nm において比較した図である. 試料 A の 1,600◦ C で焼結したものを 1.00 として規格化した. 焼結温度が 1,500◦ C である場合, 試料 A から D のいずれにおいても発光強度は小さい. したがって, 焼結温度は不十分で あると考えられる. この点は, 粉末X線回折の測定結果からも明らかであり, 未反応の原 材料を含む Ca-α-SiAlON 以外の多様な相のピークが観察された. また, ペレット状に仮 成形されていた試料 A 及び C は, 焼結温度 1,600◦ C で最高発光強度を示した. 一方, 粉 末状のまま焼結した試料 B 及び D は, 焼結温度 1,700◦ C で最高発光強度を示した. また, 試料 A から D のいずれにおいても, 焼結温度を 1,800◦ C まで上昇させると発光強度が再 び低下した. 表 2.1 に, 各試料の発光ピーク波長を示す. 発光ピーク波長は, 582 nm から 594 nm の範囲で変化している. 表 2.2 には, 図 2.21 の結果に加えて発光波長 590 nm 及 び 595 nm における比較結果を示す. 発光ピーク波長の変化範囲内において, 試料の種類 及び焼結温度と発光強度との関係は図 2.21 と同様であった. 次に各試料の拡散反射率について説明する. 図 2.22 は, 試料 D の波長 500 nm から 780 nm における拡散反射率である. 拡散反射率も組成や原料の形状が同一であっても焼 結温度により異なっており, 図中の 4 本の各線がそれぞれ焼結温度が 1,500◦ C, 1,600◦ C, 1,700◦ C 及び 1,800◦ C である試料に対応している. 表 2.3 は, 各試料の拡散反射率の波長 範囲 500–780 nm における平均値である. 前述した通り, 1,500◦ C では焼結温度が不十分 であったと考えられるので, これを除外し 1,600◦ C, 1,700◦ C 及び 1,800◦ C で焼結した各 試料について比較する. 唯一, 試料 D の 1,600◦ C 焼結品の数値と 1,800◦ C 焼結品の数値 の大小関係が逆転している点を除けば, 拡散反射率の平均値が高い焼結温度の試料で発光 強度が高くなっており, 顕著な相関が見られる. これら試料のように拡散反射率が高くま たその波長依存性が平坦であるものは, 母相すなわち Ca-α-SiAlON それ自体の物体色は 白く, さらにはその白色度が高く, 励起波長帯域でのみ付活元素である Eu に起因する吸 収が見られる. 試料 A から D のいずれにおいても, 焼結温度が 1,800◦ C になると拡散反 射率が低下しており, これは 1,600–1,700◦ C の適切な焼結温度であれば母相が白いが, さ らに高い焼結温度だと母相が「灰色」へと変化する, 黒化することを示している. また, 粉 末焼結した試料では反射率が高く, 一方で焼結後に機械的粉砕手段を用いて粉砕した試料 においては反射率が低いことがわかった. その差は同一組成且つ同一焼結温度の試料どう しの比較で 10–24% にも及んだ. また, その差は焼結温度が高いほど大きくなった. 2.5.3 最適組成の検討 第 3 の実験においては固溶元素である Ca 及び Eu の供給源として酸化物原料を用いて いることから, 第 1 及び第 2 の実験の結果と比較して生成される SiAlON 試料の酸素含有 51 52 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 表 2.4 合成した試料の設計組成. composition parameter No. x (Ca 濃度) y (Eu 濃度) 試料 #1 0.875 試料 #2 composition (wt%) α-Si3 N4 AlN CaCO3 Eu2 O3 0.02 68.20 17.48 13.76 0.55 0.875 0.04 67.23 17.98 13.69 1.10 試料 #3 0.875 0.0833 65.14 19.03 13.56 2.27 試料 #4 0.875 0.25 57.49 22.91 13.05 6.55 試料 #5 0.875 0.5 47.02 28.20 12.36 12.42 試料 #6 0.75 0.02 72.14 15.32 11.99 0.56 試料 #7 0.75 0.04 71.11 15.83 11.94 1.12 試料 #8 0.75 0.0833 68.96 16.92 11.81 2.30 試料 #9 0.75 0.25 61.04 20.94 11.36 6.66 試料 #10 0.75 0.5 50.23 26.42 10.75 12.60 試料 #11 1 0.02 64.41 19.58 15.47 0.54 試料 #12 1 0.04 63.46 20.05 15.41 1.08 試料 #13 1 0.0833 61.44 21.08 15.25 2.23 試料 #14 1 0.25 54.04 24.82 14.69 6.45 試料 #15 1 0.5 43.90 29.93 13.92 12.24 試料 #16 1.25 0.02 57.16 23.58 18.74 0.52 試料 #17 1.25 0.04 56.27 24.02 18.66 1.05 試料 #18 1.25 0.0833 54.38 24.97 18.48 2.17 試料 #19 1.25 0.25 47.46 28.46 17.81 6.27 試料 #20 1.25 0.5 37.93 33.26 16.92 11.89 試料 #21 0.5 0.04 79.31 11.32 8.22 1.16 試料 #22 0.5 0.0833 76.98 12.50 8.14 2.38 試料 #23 0.5 0.25 68.49 16.81 7.82 6.88 試料 #24 0.5 0.5 56.94 22.69 7.39 12.98 試料 #25 0.25 0.04 88.06 6.49 4.26 1.20 試料 #26 0.25 0.0833 85.58 7.75 4.20 2.46 試料 #27 0.25 0.25 76.46 12.41 4.03 7.10 試料 #28 0.25 0.5 64.08 18.72 3.81 13.39 2.5 第 3 の実験の結果と考察 53 表 2.5 合成した試料の光学特性. 450 nm 励起 No. 405 nm 励起 蛍光強度 発光ピーク波長 蛍光強度 発光ピーク波長 [任意単位] [nm] [任意単位] [nm] 試料 #1 6074 577.4 5978 574.4 試料 #2 7192 583.6 6774 577.0 試料 #3 7324 585.0 6882 581.6 試料 #4 5279 591.6 4291 591.0 試料 #5 4513 590.6 3288 585.0 試料 #6 4953 577.4 4926 571.4 試料 #7 7250 578.2 6728 573.8 試料 #8 7768 584.8 7098 581.2 試料 #9 5143 591.6 4608 591.6 試料 #10 4203 590.6 3354 584.6 試料 #11 6661 578.2 6471 574.8 試料 #12 7628 580.6 7241 577.0 試料 #13 7487 585.8 6787 584.4 試料 #14 5060 593.6 3987 591.0 試料 #15 3947 591.8 2837 588.6 試料 #16 5414 580.4 5210 574.2 試料 #17 7171 584.4 6269 580.4 試料 #18 6753 585.0 5563 580.4 試料 #19 4979 594.8 3581 592.0 試料 #20 3539 594.0 2712 591.6 試料 #21 4426 578.0 4536 574.4 試料 #22 5798 581.0 5568 577.0 試料 #23 4510 588.6 4403 586.6 試料 #24 3966 588.0 3436 584.4 試料 #25 2918 577.0 2993 573.6 試料 #26 4117 584.4 4129 579.4 試料 #27 2681 589.8 2743 586.0 試料 #28 2298 591.2 2185 584.8 54 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 率が高くなる. また, 合成手順についても若干の検討を行い, その条件を変更した. そこ で, あらためて広範な組成範囲の試料を合成し, 最適組成について検討した. 組成式 Cax Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Euy で Ca の組成範囲 0.25 ≤ x ≤ 1.25, Eu の 組成範囲 0.02 ≤ y ≤ 0.5 で 28 種類の組成の異なる試料を合成し, その光学特性を評価し た. 表 2.4 に各試料の組成設計と, 各組成設計に応じて算出した各原料の混合組成とを示 す. 混練後の造粒には公称目開き 125 µm のステンレス製の試験用網ふるいを用い, GPS で焼結温度 1,700◦ C,1 MPa の窒素雰囲気中で 8 h 保持した. 表 2.5 に, 励起波長 450 nm 及び 405 nm にて測定した発光強度及び発光ピーク波長を それぞれ示す. 波長 450 nm は, 現在主流である青色光励起型の発光白色ダイオードラン プに本実施例の蛍光体試料を適用する場合を想定したものであり, 波長 405 nm は, 今後 普及が見込まれる近紫外光励起型の白色発光ダイオードランプに当該試料を適用する場合 を想定したものである. まず, 起波長 450 nm で測定した発光強度に着目する. 試料#8, 試料#12, 試料#13, 試料#3, 試料#7, 試料#2 及び試料#17 が特に高い発光強度を示し, また試料#18, 試料#11, 試料#22, 試料#4, 試料#9 及び試料#14 も高い発光強度を示し ている. 次に, 励起波長 405 nm で測定し発光光強度について検討する. 試料#12, 試料 #8, 試料#3, 試料#13, 試料#2, 及び試料#7 が特に高い発光強度を示し, また試料#11, 試料#17 及び試料#1, 試料#22, 試料#18 及び試料#16 がこれに続いて高い発光強度を 示している. 試料#6, 試料#9, 試料#21, 試料#23, 試料#4, 試料#26 及び試料#14 も十 分な発光強度を有している. 以上のことから, 組成範囲 0.75≤x≤1.0 且つ 0.04≤y≤0.0833 において良好な特性が得られたと結論できる. 2.5.4 酸処理 蛍光体粉末の表面付近には, 一般的に結晶欠陥の存在等に由来する発光効率の低い層が 存在するとされている. また, サイアロン系材料などでは, 出発原材料比や合成プロセス条 件にも依存するが, 粒界相としてガラス相や第二相が存在し, これらが表面を覆って発光 効率を低下させている場合もある. 従来から無機蛍光体粉末の表面を酸洗浄する技術は存 在するが, α-SiAlON は難溶解性材料であり, 従来の工程をそのまま適用するのは困難で あった. ここでは, 山本らが公開特許公報特開 2005-255885[17] において開示した, α-SiAlON 蛍光体を対象として新規開発された酸洗浄工程を応用し適用した. 具体的には, フッ化水 素酸と硫酸と水とからなる酸溶液を用いて溶解処理を実施した. フッ化水素酸 (HF) 5 ml, 硫酸 (H2 SO4 ) 5 ml, 純水 390 ml をフッ素樹脂製のビーカ中で混合し, フッ素樹脂製マグ ネット式スターラーで 5 分間攪拌した. フッ化水素酸は和光純薬工業社製の試薬特級, 濃 度 46.0∼48.0 % を, 硫酸は和光純薬工業社製の和光一級, 濃度 95.0 % 以上のものを用い 2.5 第 3 の実験の結果と考察 た. この混酸溶液中に, 焼結後粉末化し試験用網ふるいで分級した α-SiAlON 蛍光体粉末 5 g を入れ, 引き続きスターラーで 30 分攪拌した. 攪拌終了後, 30 秒程度静置し, 沈殿し た粉末状蛍光体を吸い込まないように注意して酸溶液をスポイトで廃棄し, 溶液がなくな ると純水を再び加えるという洗浄操作を 5 回繰り返して水洗いした. 再びビーカ中に純水 を加え, 超音波水槽で 15 分間超音波を印加した. このとき, 透明だった水は白く濁った. 30 秒程度静置し, 沈殿した粉末状蛍光体を吸い込まないよう注意しながらこの白濁した水 をスポイトで廃棄し, 溶液がなくなると純水を再び加えるという洗浄操作を 5 回繰り返し て水洗いした. 白濁は, 表面や粒界のガラス相のうち溶解しなかった微細な残留物が剥離 したものと考えられる. 最終的に, 濾紙を用いて粉末を取り出し, これを乾燥させて蛍光体 粉末試料とした. このようにして酸処理を実施した試料では, 実施しなかったものと比較 して発光強度の大幅な向上がみられた. 向上の程度は, 少ない試料で数 % 程度, また試料 によっては数割増しとなった. 発光波長, 発光スペクトル形状等光学特性に変化がみられ なかったことから, 粒界ガラス相に Eu の偏析は無いものと判断できる. 酸処理後の粒径について, 山本らの報告によれば酸処理前の粉体凝集体は平均粒径 d50 値が 336 µm であったものが酸処理により解体されて平均粒径 0.65 µm の微細な粉末に なったとされているが, 前述した方法により造粒した凝集体はこの酸処理によって解体さ れず, 数十 µm の粒径を保った. なお, 静置時間について, 山本らは 10 分としているが, ここでは微細粒子を除去する目 的から意図的に短い時間とした. これについては, 次項で詳述する. 2.5.5 微細粒子除去 第 3 の実験の過程において, 蛍光体粉末の粒径が微細過ぎると, 強い散乱が誘起され, 白 色 LED ランプのパッケージの光取り出し効率を低下させてしまうとの知見が得られた. この現象に対する考察と, 微細粒子の除去について述べる. 微細粒子を濃密に分散させた透明膜において光が透過しなくなる現象は, 光のアンダー ソン局在の問題として知られている [23]. 入射光と同程度かそれ以下の直径をもつ粒子を 分散させた透明溶液 (サンプル) に光を入射すると, 溶液が希薄である場合には入射光は一 度だけ粒子に散乱されてからサンプル外部に出射する. サンプル中の粒子の濃度が増加す ると, 入射光は多数の粒子により繰り返し散乱されるようになる. 言い換えれば, 光の平均 自由行程が短くなる. サンプル中の粒子濃度の増加に伴い, 前方散乱では直進透過光が減 少し, 散乱光成分が出射光のエネルギーの大半を占め, その強度分布は空間に広く一様に 広がって分布するようになる. この時, 入射と反対の方向では, Enhanced Backscattering と呼ばれる後方多重散乱光におけるコヒーレント散乱光ピークが観察される. 近年, この 後方散乱光ピークの研究がさかんに進められている. 光のアンダーソン局在が生じる要件 55 56 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 としては, 散乱体が高屈折率であること, 高密度に分散されていること, 光の波長程度の大 きさであることが挙げられる. 粒子を分散させた透明材料の透過率に関する研究として, 長沼らによる一連の研究が挙 げられる. 該研究においては, 散乱を抑制することにより透過率が向上するとの観点から, 粒子分散オプティカル複合材料の光透過率に及ぼす粒子寸法, 粒子体積率の影響を調べ, 光透過率を向上させるための粒子形態の指針が得られたことが開示されている. 参考文献 [24] では, エポキシ樹脂中にガラス粒子を分散させた複合材料において, 平均粒子寸法 dp が増加するに従って複合材料の透過率が向上することが述べられている. 当該論文中で実 験に用いられた試料の dp は, 26 µm, 42 µm, 59 µm, 85 µm の 4 試料である. 規格化透過 率は式 Tc (λ)/Tm (λ) = b1 exp[−b2 〈Sa〉∆Nc (λ)] で表すことができる. 該式中, Tc (λ) は 複合材料 (composite) の透過率, Tm (λ) はエポキシ樹脂 (matrix) の透過率, b1 と b2 は定 数である. 〈Sa〉 は規格化粒子総表面積であり, 〈Sa〉 = S/Vc = Sp · fp · ρp と定義される. ここで, S は総表面積, Vc は複合材料の体積, Sp は単位質量当たりの (BET 法により求め た) 粒子の比表面積, fp は粒子体積率, ρp は粒子の密度である. ∆Nc (λ) は, 粒子とエポキ シ樹脂との屈折率差に由来する効果を導入したパラメータである. 該論文では, 規格化粒 子総表面積, すなわち粒子/マトリックス界面の面積を減らすことによって複合材料の透 過率が向上すると結論している. 参考文献 [25] では, 粒子体積率 fp を 0.0001 から 0.4 の範囲で変化させて複合材料の透 過率を検討した結果が開示されている. 該論文中で実験に用いられた試料の dp は, 26 µm, 85 µm の 2 試料であり, 幾何光学領域における検討結果である. 粒子体積率が fp < 0.01 の範囲では, 透過率は粒子体積率の増加に伴い極めてわずかに減少するのみである. しか し, fp > 0.01 の範囲では, 透過率は粒子体積率の増加に伴い急激に減少する. また, この 範囲では, 粒子寸法の減少によっても透過率は大幅に低下する. 該論文において, 複合材料 単位体積中に含まれる全ての粒子の表面積の和を示す相対総表面積 〈S〉 を導入することに より, 粒子体積率と粒子寸法が光透過率に与える影響を統一的に解釈できることが明らか となり, この結果として, 粒子寸法が入射波長より十分大きな幾何光学領域において, 複合 材料の光透過率を大きくするためには 〈S〉 を小さくすれば良いこと, すなわち粒子寸法が 大きく, 球状に近い形状の粒子を選択すれば良いという, 粒子形態についての指針が得ら れたことが述べられている. なお, ここでの 〈S〉 は, 前記 〈Sa〉 と同じものである. さらに 長沼は, その学位請求論文 [26] において, 粒子形態の指針として, 「入射光波長よりも十分 大きく, 数十ミクロンオーダー以上の粒子寸法をもち, 球形に近い形状の粒子を選択する こと」が望ましいと総括している. これまで, 白色 LED ランプ用蛍光体粉末の粒径の下限としては, 特許第 3364229 号公報 [27] に d50 値が 5 µm 以下の発光物質顔料粉末は著しくアグロメレーション (agglomeration:凝集) 作用の傾向があるとデメリットが記載されている程度であり, アグ 2.5 第 3 の実験の結果と考察 ロメレーション作用以外のデメリットについては特に言及されておらず, また粒径の下限 について言及している他の公知文献は見あたらない. しかし, 第 3 の実験の過程において, 粉末状蛍光体を遊星ボールミルでさらに微細な粉 末に粉砕した後に, これを用いて白色 LED ランプを作製し, その輝度を測定したところ, 蛍光体の粒径がサブ µm から 1 µm 前後の微小なものとなると, これを有する白色 LED ランプの発光強度が著しく低下するという現象が観測された. 具体的には, 砲弾型の白色 LED ランプの前方にて測定された輝度がおよそ 1/5 にまで低下した. これは, ボールミル 粉砕により粉末状蛍光体の表面状態が劣化し, 励起効率が低下したことも原因の一つであ る可能性があるが, 蛍光体の粒径が可視光波長とほぼ同程度であることから, ミー散乱が 原因であることも考えられる. ミー散乱とは, 波長と同程度の大きさの粒子 (散乱体) を含 む媒質中を光が透過する際に, 光の波長とエネルギーは変化せずに進行方向が変化する現 象を指す. ここで, 光の粒子散乱の特徴を表す粒子散乱パラメータ χ は, D を粒子の粒径, λ を光 の波長とすると, 式 χ = πD/λ で表される. 前記の粒子散乱パラメータ χ が一桁の数字で あるときに, ミー散乱の散乱特性を示すとされており [28] 可視光波長域が 400–700 nm で ある場合に, 粒子散乱パラメータ χ が 1–9 となる粒径 D の範囲は 0.13–2.0 µm である. なお, ミー散乱を記述する式は, 電磁波としての光と粒子との相互作用を電磁気学的に解 いたものであり, 一般の粉体分散系に適用できる [29]. ミー散乱が発生した場合, 励起光は蛍光体粒子の内部には侵入せず, 粒子表面で反射し てしまうことになり, この場合, 蛍光体は波長変換材料としての機能を十分に発揮できず, また, 波長変換されなかった励起光は透過するのではなく様々な方向へ散乱される結果と なる. 従来は, 白色 LED ランプの実装構造においては, 意図的に散乱材を添加するなどし ており, 例えば蛍光体による散乱について特許第 3364229 号公報 [27] には「無機発光物質 YAG:Ce は, 特に, 約 1.84 の屈折率を持つ非可溶性の色素顔料であるという特別の長所を 持つ. これにより波長変換の他に分散及び散乱効果が生じ, これにより青色のダイオード ビームと黄色の変換ビームとの混合が良くなる. 」と述べられている. しかしながら, 複雑 な散乱が発生した場合には, 青色 LED 素子から発せられ, 蛍光体分散樹脂層を透過するべ き青色光と, 蛍光体から発せられた黄色光とが白色 LED ランプ外部に至るまでに非常に 複雑な経路を経ることになり, その間には各種部材による吸収等 (蛍光体自体の非発光吸 収も考えられる) により発光強度低下が発生し, 最終的には光の取り出し効率低下の原因 になると考えられる. 以上の考察から, 透明樹脂に粉末状蛍光体を濃密に分散させた蛍光体分散樹脂層を有し, 該樹脂層を透過した可視波長光を利用するデバイスである白色 LED ランプにおいては, 蛍光体分散樹脂を塗布する実装工程が問題なく容易に実施可能であること, 光学設計通り の適切な割合の励起光を蛍光体が波長変換すること, の 2 つの要件を満たす範囲内におい 57 58 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 1.0 Median size Diameter at 10.0% Diameter at 90.0% 相対度数分布/累積度数 0.9 36.76um 25.05um 54.75um 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 1 10 100 粒径 [μm] 図 2.23 微細粒子を除去した α-SiAlON 蛍光体粉末の粒度分布. て, 粉末状蛍光体粒子による散乱を可能な限り減らすことが, 蛍光体分散樹脂層の可視波 長光透過率を向上させることになり, これがすなわち白色 LED ランプの光取り出し効率 を向上させ改善させることになると結論することができる. そして, 従来の白色 LED ランプと同等の簡素かつ安価にできる構造のままで白色 LED ランプの発光効率を改善するために, 蛍光体分散樹脂層の可視光透過率を向上させるため には, 第一に, 粉末状蛍光体から粒径が 2–3 µm 程度以下の小さな粒子を選択的に除去し, ミー散乱の発生を最大限抑制することが重要である. 第二に, 粒子径が入射光波長よりも 十分大きな幾何光学領域にあって, 粉末状蛍光体の粒子径は, より大きなものであること が好ましい. 具体的には, 数十ミクロンオーダー以上の粒子寸法であって, 塗布が容易であ る大きさを上限とする粒径を選択することが重要である. 第三に, 単位体積あたりの粒子 表面積が小さいことが好ましい. よって, 球形に近い形状の粒子を選択することが重要で ある. なお, この第三の点について, 粒子体積率すなわち蛍光体含有率を十分小さくするこ とによっても単位体積あたりの粒子表面積を小さくすることができるが, 適切な割合の励 起光を蛍光体が波長変換するという要件を満たしかつデバイスの寸法を小型のものとする 場合にはこれを十分小さなものとすることは困難である. ミー散乱の発生要因となる微細粒子を除去する具体的手段として, ここでは, 前述した 酸処理後に酸溶液を廃棄し, あるいは純水洗浄して洗浄水を廃棄するに際して, 粗大粒子 のみが沈殿し微細粒子が浮遊している状態で微細粒子を含む上澄みを廃棄する手段をとっ た. 図 2.23 は, このようにして微細粒子を除去した α-SiAlON 蛍光体粉末の粒度分布の 一例である. 棒グラフは相対度数分布を, 曲線は累積度数をあらわしている. 設計組成 2.5 第 3 の実験の結果と考察 59 図 2.24 ブラックライト (365 nm) 照射によって励起された α-SiAlON 黄色蛍光体. Excitation spectrum Intensity [a.u.] Emission spectrum 300 400 500 600 700 800 Wavelength [nm] 図 2.25 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体 (試料 FY6) の励起スペクトル及び発光スペクトル. 発光スペクトル測定時の励起波長は 450 nm, 励起スペクトル測定時の発光モニタ波長 は 585 nm である. Ca0.88 Si9.135 Al2.865 O0.955 N15.045 :Eu2+ 0.05 になるように出発原料を遊星ボールミルで混合 し, 公称目開き 125 µm の試験用網ふるいを用いて造粒し, GPS で 1,800◦ C, 窒素ガス加 圧 0.5 MPa の条件で 24 h 焼結し, 乳鉢で粉末化して公称目開き 45 µm 以下のものを分 級した. この分級後の粉末に対して前述の酸処理を実施した. ここで, スターラーで攪拌 後に, 30 秒だけ静置して, 微細粒子がまだ浮遊している間に微細粒子を含む酸溶液あるい 60 第 2 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の合成と光学特性 は純水洗浄液をスポイトで廃棄した. このようにして微細粒子を除去した α-SiAlON 蛍光 体粉末では, 図 2.23 に示すように, 粒径 20 µm 以下の粒子の含有割合を 2 質量 % 未満と することが出来, またメジアン粒径 36.76 µm, 10 % 粒径 25.05 µm, 90 % 粒径 54.75 µm であった. 2.5.6 代表的な光学特性 第 3 の実験の成果として得られた蛍光体の一例を示す. 図 2.24 は, α-SiAlON 蛍光体の 一例の写真である. 発光波長 365 nm のブラックライトを照射しているため, これを励起 光として黄色に発光している. 図 2.25 に, 発光スペクトルと励起スペクトルの一例を示す. この試料 FY6 は, 設計組 成が Ca0.875 Si9.06 Al2.94 O0.98 N15.02 :Eu0.07 であり, 125 µm のふるいで造粒後 1,700◦ C, 0.5 MPa, 50 h の条件で GPS で焼結し, 45 µm のふるいで微細粒子を除去後残った粗大 粒子の中から 63 µm のふるいで分級したものである. 発光モニタ波長 585 nm で測定し た励起スペクトルの励起ピーク波長は 449.0 nm である. 励起波長 450 nm で測定した発 光スペクトルの発光ピーク波長, 発光主波長, CIE1931 色度図上の発光色度座標 (x,y) は それぞれ 586.0 nm, 581.2 nm, (0.517, 0.476) である. 2.6 結言 第 1 の実験では, 組成が Ca0.625 Eux Si10.75−3x Al1.25+3x Ox N16−x (Ca-α-SiAlON:Eu, x = 0–0.25) である Eu2+ 付活 Ca-α-SiAlON 粉末蛍光体を, 出発原料 α-Si3 N4 , AlN, Ca3 N2 及び Eu2 O3 をガス加圧焼結法 (Gas-Pressure Sintering, GPS) で 1,800◦ C, 0.925 MPa N2 ガス加圧下 2 時間の条件で焼結し合成した. 生成相を粉末 X 線回折により同定 し, 光学特性を紫外可視分光光度計による拡散反射測定と蛍光分光光度計による測定で室 温で評価した. 粉末 X 線回折測定の結果, 既知の Ca-α-SiAlON と同等の XRD パターン が得られ, 各試料が α-SiAlON 単相となっていることが確認された. 吸収スペクトルから, Eu2+ イオンを固溶させることで Ca-α-SiAlON では UV 域にあった吸収端が可視域にま で移動し, さらに固溶量の増大とともに赤方偏移することが観測された. 励起スペクトル は約 300 nm と 400 nm とにピークを有する 2 つの幅広い励起帯域を有している. 発光 スペクトルは 583–603 nm に発光ピーク波長を有する強く幅広い発光帯域を一つ有する. 発光強度の Eu 濃度依存性は x = 0.075 で最高値となり, それ以上では濃度消光が起き た. Eu2+ 濃度の増大に伴い, 発光帯域の赤方偏移が観測された. 発光色度座標は Eu の 濃度 x が 0.01 から 0.25 の間で変化するのに応じて CIE1931 色度図上で (0.491, 0.497) から (0.560, 0.436) まで変化した. 青色 LED 素子と組み合わせることで相関色温度が 2.6 結言 1,900–3,300 K の白色 LED ランプを構成可能である. 第 2 の実験では, Ca-α-SiAlON:Eu 新規黄色蛍光体を第 1 の実験よりもさらに広い組 成範囲 (Cax Euy )Si12−(2x+3y) Al2x+3y Oy N16−y (x = 0.2–2.2, y = 0–0.25) についてガス 加圧焼結法で 10 気圧の窒素加圧下で 1,800◦ C, 2 h の条件で合成した. その光学特性を 紫外可視分光光度計による拡散反射測定と蛍光分光光度計による測定で室温で評価した. 付活元素濃度と母相の組成が α-SiAlON 中の Eu2+ の光学特性に与える影響について議 論した. Eu2+ 濃度の増大とともに吸収端は長波長側にシフトし, これにより蛍光体粉末 自体の色は明るい黄色から橙色まで変化した. 発光の濃度消光は Eu2+ 濃度が 0.075 以 上で起きた. このことは Eu2+ イオン間のエネルギー移動で説明される. Eu2+ 濃度ある いは Ca2+ 濃度の増大で系統的な発光波長の赤方偏移が観測され, これは結晶格子の堅固 性の減少と, 結晶場の変化に起因する Eu2+ の 5d 軌道の分裂によるものと考えられる. α-SiAlON 母相の組成を制御することにより, 発光波長の調節が可能である. 第 3 の実験では, 固溶金属元素 Ca の供給源として安価な酸化物を用いることを主眼と し, 組成, 合成条件, 粉末処理方法等について検討した. 粉末状のまま焼結する場合にステ ンレス製の試験用網ふるいに通してあらかじめ適切な粒径に造粒する方法について検討 し, 二次粒径が数十 µm の凝集体を得ることが出来た. GPS の焼結温度について検討し, 粉末のまま焼結する場合に 1,700◦ C が適切であること, またペレット状・粉末状いずれの 場合であっても焼結温度が適正温度を超過すると発光強度が低下することがわかった. 拡 散反射率の測定結果との比較により, 適切な温度で焼結した発光強度の高い試料では発光 波長域で反射率が高いこと, 焼結温度が高すぎる試料では反射率が低下してしまうことが 確認された. 組成式 Cax Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Euy で Ca の組成範囲 0.25 ≤ x ≤ 1.25, Eu の組成範囲 0.02 ≤ y ≤ 0.5 で 28 種類の組成の異なる試料を合成し, 最適組成に ついて検討した. 組成範囲 0.75≤x≤1.0 且つ 0.04≤y≤0.0833 において良好な特性が得ら れた. フッ化水素酸と硫酸を混合し希釈した酸溶液で蛍光体粉末を処理した結果, 発光強 度の大幅な向上が見られた. 白色 LED ランプに実装した際にミー散乱の要因となるよう な微細粒子を除去する検討をした. 以上の結果, 白色 LED ランプ用途に適した黄色蛍光 体が得られた. 61 62 参考文献 [1] S. Nakamura and G. Fasol, “The Blue Laser Diode: GaN Based Light Emitters and Lasers,” (Springer-Verlag, Berlin, 1997). [2] M. Yamada, T. Naitou, K. Izuno, H. Tamaki, Y. Murazaki, M. Kameshima and T. Mukai, “Red-Enhanced White-Light-Emitting Diode Using a New Red Phosphor,” Jpn. J. Appl. Phys., vol. 42, pp. L20–L23 (2003) [3] A. Ellens, G. Huber and F. 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LED により白色光を実現する最も単純な方法は, RGB すなわち赤・ 緑・青の 3 原色それぞれの LED 素子を用いてこれを混色することである [3]. この方法 によれば, 白色のみならず任意の発光色が得られるという利点があるが, 一方で 3 原色の LED 素子はそれぞれが異なる駆動電圧を必要とすることからシステム全体としては高価 なものとなる欠点を有しており, 一般照明用途には向かない. 他の方法として, LED 素子からの発光と, その LED 素子により励起され発光する蛍 光体材料からの発光とを混色するものがある. これまでに, 青色 LED 素子と, 青色で 励起され青色の補色である黄色で発光する蛍光体を用いた優れた方法が提案されている [3][4][5][6]. この黄色蛍光体は, 一般式 (Y,Gd)3 (Al,Ga)5 O12 :Ce3+ で表されるイットリウ ム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体であり, 以前から P46 蛍光体として知られたブラ ウン管 (Cathode Ray Tube, CRT) 用蛍光体を改良したものである. この蛍光体は, 相関 色温度にして 3,000 K 以上であるような, 色温度の高い青白い白色や通常の白色を作り出 すには最適なものであった. しかしながら, 一般照明用途においては, しばしば相関色温度 の低い温かみのある白色も必要とされるのであるが, (Y,Gd)3 (Al,Ga)5 O12 :Ce3+ を用い てそのような色を出すことは出来なかった. 複数の蛍光体材料を混合することによりこの 66 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 EPOXY Resin Gold Wiring SiAlON Phosphor InGaN Blue LED Chip Lead Pins 図 3.1 砲弾型電球色 LED の模式図及び斜視図. 問題を解決する方法も提案されたが [7][8], 残念ながら蛍光体を混合すると一般的に変換 効率は低下する傾向にある. 本章では, 複数の蛍光体を混ぜる事無く, 単一の蛍光体を用いて温かみのある電球色の 発光を実現した新規白色 LED ランプについて報告する. その構成の一例について模式図 を図 3.1 に示す. 青色 LED 素子とともに, 新規開発した橙色蛍光体である 2 価のユーロ ピウムで付活したカルシウム固溶アルファサイアロン (Ca-α-SiAlON:Eu) 蛍光体を用い た. サイアロンは, 30 年以上の長きにわたり, 高温構造材料として研究が続けられてきた [9]. 近年になって, 希土類を固溶させたアルファサイアロンが蛍光を発することが複数の 研究チームによりそれぞれ独立に発見された [10][11]. これまでに報告されたアルファサ イアロン蛍光体の中で, 2 価のユーロピウムで付活したものが橙色蛍光体として好適であ る. 2 価のユーロピウムはそのイオン半径が大きいことから単独ではアルファサイアロン に固溶させられないことがこれまでに報告されているが [12], カルシウムなどを共添加元 素とすることで固溶させることが可能である [13]. 3.2 実験方法 3.2 実験方法 3.2.1 蛍光体の合成と光学特性の測定 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の色度は, その組成を変更することで制御可能である. これま でに, 青色 LED 素子と, 様々な組成の Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体とを用いて, 相関色温度 1,900 K から 3,300 K の白色 LED が実現可能であることを報告した [14]. 以下の実験では, その組成が Ca0.875 Si9.06 Al2.94 O0.98 N15.02 :Eu2+ 0.07 である蛍光体を用 いた. 出発原料として, Si3 N4 , AlN, CaCO3 及び Eu2 O3 の微細粉末を用いた. 1 バッチ あたり 50 g になるように遊星ボールミルを用いて混練した. これをガス加圧焼結炉を用 いて 0.5 MPa の加圧窒素雰囲気下で 1,700◦ C で 50 時間保持して焼結し, 蛍光体を合成し た. この蛍光体の試料番号を FY6 とする. 分光蛍光光度計を用いて, 合成した蛍光体の励起スペクトルと発光スペクトルとを測定 した. 測定には, 日立製作所製 F-4500 を用いた. 分光蛍光光度計の校正は, 最初にロー ダミン B の吸収を基準として装置関数を求め, 波長範囲 200–600 nm での励起スペクト ルの補正を実施した. 続いて, ラブスフィア社製の標準白板を用い, スペクトル補正済み の励起光を基準として装置関数を求め, 波長範囲 200–600 nm での発光スペクトルの補 正を実施した. 最後に, メーカ提供の副標準光源を基準として装置関数を求め, 波長範囲 600–900 nm での発光スペクトルの補正を実施した. また, その組成が Ca0.88 Si9.135 Al2.865 O0.955 N15.045 :Eu2+ 0.05 であり, 0.5 MPa の加圧窒 素雰囲気下で 1,800◦ C で 24 時間保持して焼結し, 酸による表面処理を施した蛍光体試料 FY10 も用いた. 測定方法は同様である. 3.2.2 発光ダイオードランプの組立と光学特性の測定 まず, 砲弾型とよばれる図 3.1 に示した構成の白色発光ダイオードランプを, 試料 FY6 を用いて, 実装する蛍光体量を変化させながら複数作製し, その光学特性を測定した. 一次 光源は市販の InGaN 系半導体青色発光ダイオード素子である. 最初にリードワイヤ頂部 に形成されたカップ内にダイボンディング工程により素子を固定した. この時, 青色 LED 素子の下部電極は導電性銀ペーストを用いて電気的にリードワイヤに接続される. 続い て, 青色 LED 素子の上部電極ともう一方のリードワイヤとを金ワイヤを用いてワイヤボ ンディング工程により接続した. 蛍光体粉末は透明なエポキシ樹脂に 25 重量 % の濃度で 分散させ, これを青色 LED 素子を被覆するように塗布し, 熱硬化させた. 実装する蛍光体 の量を変化させるにあたっては, 蛍光体を分散させたエポキシ樹脂の塗布量を制御し変化 させた. 最後に, キャスティング法により両リードワイヤ頂部, 青色 LED 素子, 金ワイヤ, 67 68 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 Excitation spectrum Intensity [a.u.] Emission spectrum 300 400 500 600 700 800 Wavelength [nm] 図 3.2 Ca-Eu-SiAlON 橙色蛍光体 (試料 FY6) の励起スペクトル及び発光スペクト ル. 発光スペクトル測定時の励起波長は 450 nm, 励起スペクトル測定時の発光モニタ 波長は 585 nm である. 蛍光体分散エポキシ樹脂のすべてをモールドするエポキシレンズを形成した. 表面実装 (Surface Mount Device, SMD) 型白色発光ダイオードランプも製作した. 模 式図を図 3.13 に後述する. SMD パッケージは中央がカップ状の凹部となっており, その 底面の電極表面に素子をダイボンディング工程により固定し, ワイヤボンディング工程に よりもう一方の電極に電気的に接続した. 蛍光体粉末を薄く分散させたシリコーン樹脂を 凹部に充填し硬化させた. このようにして製作した白色発光ダイオードランプの光学特性を, Optronic Laborato- ries, Inc. 社製高速 LED 測定装置 OL-770 を用いて測定した. 測定には積分球を用い, 駆 動電流は 20mA を標準とした. 3.3 結果と考察 3.3.1 蛍光体の光学特性 図 3.2 に, 合成した蛍光体試料 FY6 の, 蛍光分光光度計で測定した励起スペクトル と発光スペクトルとを示す. 発光モニタ波長 585 nm で測定した励起スペクトルの励起 ピーク波長は 449.0 nm であり, InGaN 系青色 LED 素子で励起するのに最適であるこ とがわかる. 励起波長 450 nm で測定した発光スペクトルの発光ピーク波長, 発光主波長, 3.3 結果と考察 69 0.9 0.8 ●Fabricated LEDs △SiAlON phosphor ○Blue LED 0.7 0.6 y 0.5 Blackbody locus 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 x 図 3.3 試作した LED, 青色 LED 及び Ca-Eu-SiAlON 橙色蛍光体の CIE1931 色度 図上の色度座標. CIE1931 色度図上の発光色度座標 (x,y) はそれぞれ 586.0 nm, 581.2 nm, (0.517, 0.476) である. 励起ピーク波長と発光ピーク波長から求めたストークスシフトは 5210 cm−1 であ る. 発光ピーク強度は, 市販の YAG:Ce 系蛍光体 P46-Y3(組成式 (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce3+ ) を 460 nm で励起した時の発光ピーク強度を基準とした時その 95 % である. 発光スペク トルには, 3 価のユーロピウムに特有なシャープなピークは全く観察されず, これはユーロ ピウムイオンが焼結の過程で還元され 2 価になっていることを示唆しているものと考えら れる [10]. よって, 酸素・窒素比率は設計組成 (仕込み組成) とは異なっている可能性が高 いと考えられる. 3.3.2 発光ダイオードランプの光学特性 図 3.3 の CIE1931 色度図上に, 製作した LED(•), 青色 LED(◦), 使用したサイアロン 蛍光体 (△) の色度座標をそれぞれ示す. LED の色度は, 室温・駆動電流 20 mA の条件下 で測定した. 青色 LED の発光ピーク波長は 454 nm であった. サイアロン蛍光体を用い て作製した LED の色度座標は, 青色 LED の色度座標とサイアロン蛍光体の色度座標の 2 点間を結ぶ線上を, 塗布した蛍光体量に応じて変化している. 70 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 0.50 Spectrum locus 0.45 y JIS Chromaticity Limits Blackbody locus SiAlON Phosphor LED 0.40 0.35 0.40 ANSI Chromaticity Limits 0.45 0.50 0.55 x 図 3.4 温かみのある白色で発光する電球色 LED の CIE1931 色度図上の色度座標. 四角形は日本工業規格 (JIS) Z 9112 に定義された蛍光ランプの色度範囲である. 楕円 形は American National Standard Institute (ASNI) C78.376 に定義された 2,700 K ランプの色度範囲である. 製作した LED ランプの中から, 以降の議論のためにその色度座標が黒体輻射軌跡に最 も近いものを一つ選択した. 図 3.4 に示す. CIE1931 色度図上の色度座標及び相関色温 度 (Correlated Color Temperature, CCT) はそれぞれ (0.458, 0.414) と 2,750 K であっ た. この色度座標は, 日本工業規格 (Japanese Industrial Standard, JIS) Z 9112[15] に規 定された蛍光ランプの光源色の色度範囲区分のうち「電球色」の範囲にちょうどはいって いる. また, さらに, 米国規格協会 (American National Standard Institute, ANSI) の規 格 C78.376[16] に規定された 2,700 K ランプの色度範囲にも入っている. 図 3.5 は, この LED ランプの発光スペクトルである. 投入電力に対する視感効率は 25.9 lm/W であり, 既存光源の白熱電球の効率 16–18 lm/W と比較して大変高効率である. 図 3.6 に, 試作し た砲弾型 LED ランプの写真を示す. なお, この型の LED ランプの発光効率は, 青色 LED 素子の発光効率の改善及び蛍光体の発光効率の改善によって改善可能である. また, 蛍光 体分を散させた透明樹脂の実装構造を工夫し散乱光による損失を低減することも重要であ る. 平均演色評価数 Ra は 57 であり, 一般的な蛍光灯の Ra の値である 60 より若干低い程 度であった. これは, 寝室用照明, 足元灯などの用途には十分な値である. 3.3 結果と考察 71 Total Spectral Flux [mW/nm] 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 3.5 温かみのある白色で発光する電球色 LED の発光スペクトル. 投入電力に対す る視感効率は 25.9 lm/W である. 図 3.6 試作した砲弾型電球色 LED の写真. 72 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 3.3.3 発光色度の精密制御 一般照明用途では, 様々な相関色温度の光源が求められるので, 白色 LED 用蛍光体の 発光波長を精密に制御できる技術を開発することが重要である. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体 は, 組成を変化させることで制御可能であることが示唆されている [10][17][23]. R.-J. Xie らは, Ca-α-SiAlON:Eu の発光波長が 583 nm と 603 nm の間で変化すること, またこれ が白色 LED ランプの相関色温度の 1,900 K から 3,300 K に相当することを報告してい る [14][18]. Ca-α-SiAlON:Eu の一般式は, Cax Euy (Si,Al)12 (O,N)16 と記述される. 色度の組成依 存性を検討するために, Ca-α-SiAlON:Eu の組成を x = 0.875 で y = 0.02–0.11 の範囲 で 0.01 刻みで変化させたものを合成した. 図 3.7 に示すように, Eu 元素濃度の y 値が増 加するにつれて蛍光体の発光主波長は 578 nm から 583 nm まで変化した. 効率は y = 0.03–0.08 の範囲で高かった. y > 0.08 の範囲では濃度消光がみられた. 一方, y = 0.02 では Eu 濃度が低すぎて十分な発光が得られなかった. この発光主波長範囲は, これら蛍 光体を用いて温かみのある白色を発する白色 LED ランプを製作した際に, ちょうど電球 色 (class L) として定義された相関色温度範囲のほとんどに対応している. 上 記 11 組 成 の 中 か ら, y = 0.04 及 び 0.07 の 2 組 成 を 選 択 し, 蛍 光 体 Dominant Wavelength [nm] 584 583 582 581 580 579 578 577 0.01 0.03 0.05 0.07 0.09 0.11 Europium Concentration (y value) 図 3.7 ユーロピウム濃度に対する Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光主波長の変化. 3.3 結果と考察 73 Intensity [a.u.] (a) 300 400 500 600 700 Wavelength [nm] Intensity [a.u.] (b) 300 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 3.8 試料 CE04 及び CE07 の励起・発光スペクトル. を 追 加 で 合 成 し こ れ を 用 い て 白 色 LED ラ ン プ を 製 作 し た. 組成はそれぞれ Ca0.875 Si9.195 Al2.805 O0.935 N15.065 :Eu0.04 及び Ca0.875 Si9.06 Al2.94 O0.98 N15.02 :Eu0.07 で あり, これを試料 CE04 及び試料 CE07 とした. 図 3.8 はこの試料 CE04 及び CE07 の励 起・発光スペクトルである. 図 3.9 に, 青色 LED 素子と試料 CE04 及び CE07 を用いて製作した 2 系列の LED ラ ンプの CIE1931 色度図上の色度座標を示す. それぞれの系列の LED ランプの色度座標 は, 青色 LED 素子の色度座標から用いた蛍光体の色度座標を結ぶ線上で変化している. こ れらの中で, その色度がちょうど黒体輻射軌跡上にのるものが蛍光体塗布量が適切なもの であり, 各 1 個を選択した. 図 3.10 は黒体輻射軌跡付近の拡大図である. 各蛍光体, 選択 した各 LED ランプの色度座標を記載した. 2 本の線は, 450 nm の青色 LED 素子の色度 と各蛍光体の色度とを結ぶ線であり, 各 LED ランプの色度座標はそれぞれの線上にある. 図 3.11 に各 LED ランプの発光スペクトルを示す. 色度座標 (x, y), 相関色温度, 投入電力 に対する発光効率はそれぞれ試料 CE04 を用いた LED ランプが (0.438, 0.409), 3,020 K, 29.6 lm/W, 試料 CE07 を用いた LED ランプが (0.469, 0.418), 2,640 K, 29.1 lm/W で あった. ほぼ 30 lm/W の高い発光効率を維持したままで, 相関色温度にして 400 K 近い 74 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 広い色度範囲で色度の制御が可能であることがわかった. 0.9 SiAlON phosphor (CE04) SiAlON phosphor (CE07) Fabricated LEDs (CE04) Fabricated LEDs (CE07) Blue LED 0.8 0.7 0.6 y 0.5 Blackbody locus 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 x 図 3.9 2 種の Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いて製作した LED ランプの色度変化の軌跡. 0.50 SiAlON Eu 0.04 SiAlON Eu 0.07 Spectrum locus 0.45 y Class L LED 2640 K LED 3020 K Blackbody locus 0.40 0.35 0.35 0.40 0.45 0.50 0.55 0.60 x 図 3.10 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の組成を変化させた電球色 LED ランプで観測され た相関色温度の範囲. 3.3 結果と考察 75 Total Spectral Flux [mW/nm] (a) 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] Total Spectral Flux [mW/nm] (b) 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 3.11 相関色温度 3,020 K(a) 及び 2,640 K(b) の LED ランプの発光スペクトル. 3.3.4 発光効率の向上 さらなる発光効率の向上を目指し, 蛍光体の改善と LED ランプパッケージの検討とを 継続した. 蛍光体については, 組成及び焼結条件の見直しと, 焼結前処理及び酸による表 面処理を含む焼結後処理の検討により効率の向上をはかった. 図 3.12 に, 改善した試料の 一例として, 蛍光体試料 FY10 の励起スペクトルと発光スペクトルを示す. 比較のために, 市販の (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce 蛍光体の励起スペクトルと発光スペクトルとを合わせて記載 した. Ca-α-SiAlON:Eu の発光ピーク強度は, この従来市販の蛍光体と比較して 135% で あり大変強い. 効率が向上した試料を用いた結果, 砲弾型 LED ランプでは, 36.3 lm/W の高い発光効 率を達成することができた [20]. LED パッケージについては, SMD 型パッケージによる試作を実施した. LED ランプの 光の取り出し効率を低下させる一つの要因として, 青色 LED 素子を被覆する蛍光体粉末 分散樹脂層での光散乱による損失の問題がある. 多重散乱により光がパッケージ外部に出 ていかないうちに各種部材に吸収される確率が上がり, 損失となる. これに対する対策の 一つとして, 樹脂に分散させる蛍光体粉末の濃度を低下させることによって透過率を向上 76 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 1200 Ca-α-SiAlON:Eu Excitation Ca-α-SiAlON:Eu Emission (λmon=585nm) (λexc=450nm) Intensity [a.u.] 1000 800 (Y,Gd)3Al5O12:Ce Excitation 600 (λmon=562nm) (Y,Gd)3Al5O12:Ce Emission 400 (λexc=460nm) 200 0 300 400 500 600 700 800 Wavelength [nm] 図 3.12 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体試料 FY10 及び市販の (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce 蛍光体 の励起・発光スペクトル させることが考えられ, 凹部の容積が大きい SMD 型パッケージはリード先端のカップの 小さい砲弾型と比較して有利である. (ただし, 容積が大きければ大きいほど良いというわ けではなく, 透明樹脂の透過率の問題もあるため, 最適なバランスが存在する.) 図 3.13 は, SMD 型 LED ランプの模式図である. 蛍光体粉末を分散させた透明シリ コーン樹脂が青色 LED 素子を被覆している. 図 3.14 は, 製作した SMD 型 LED ランプ を上方から見た写真である. 図 3.15 に, 製作した SMD 型 LED ランプの発光スペクトルの一例を示す [21]. CIE1931 色度図上の色度座標 (x, y) は (0.453, 0.398), 相関色温度は 2,700 K, 投入電力に対する発 光効率は 41.7 lm/W である. この色度座標は, JIS Z 9112[15] に規定された電球色 (class L) の色度範囲にちょうど入っている. 平均演色評価数 Ra は 57 であり, 一般的な蛍光灯 の Ra 60 よりも若干低い程度である. なお, 平均演色評価数は, 演色評価数 R1–R8 の平 均値である [22]. SMD 型 LED ランプについては, 蛍光体分散樹脂の塗布条件などについてさらなる検討 を行った結果, 最終的に 55 lm/W を達成した [25]. 3.3 結果と考察 77 α-SiAlON phosphor Transparent resin Blue LED chip Package Lead wires 図 3.13 表面実装型白色 LED ランプの構造. 図 3.14 表面実装型白色 LED ランプの上方から撮影した写真. Total Spectral Flux [mW/nm] 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 3.15 表面実装型白色 LED ランプの発光スペクトル. 78 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 3.3.5 発光色度の温度安定性 アルファサイアロンは高温用構造材料の一つであり, 高い温度安定性を有している [9]. サイアロン蛍光体の光学特性も同様に温度安定性に優れる. これまでに, サイアロン蛍光 体の量子効率が 80◦ C まで低下せず保たれることが報告されている [17]. 本研究において, 我々は, サイアロン蛍光体を用いた LED の色度の安定性について室温から 200◦ C の範 囲で検討を実施した. サイアロン蛍光体を用いた LED は, 青色 LED 素子に故意に多量 のサイアロン蛍光体 (組成 Ca0.75 Si9.37515 Al2.62485 O0.87495 N15.12505 :Eu2+ 0.0833 ) を塗布し たものを用意しこれを用いた. 色度座標は室温の (0.503, 0.463) から 200◦ C では (0.509, 0.464) まで変化した. CIE1931 色度図上での色度座標の変化距離はわずか 0.006 にすぎ なかった. 比較のため, P46-Y3 蛍光体を用いた LED も用意した. その色度座標は室温 の (0.393, 0.461) から 200◦ C では (0.383, 0.443) まで変化し, 変化距離は 0.021 と大き かった. この実験結果は, サイアロン蛍光体が従来の酸化物蛍光体と比較して非常に優れ た温度安定性を有することを示している. また, 別の実験として, 3 個の LED ランプの色度座標の 25◦ C から 100◦ C の間の温度 安定性について検討した. 図 3.16 に, これら LED ランプの色度座標を示す. 矩形マー ク (■及び□) は市販の昼光色 (class D)LED ランプを, 三角マーク (▲及び△) は市販の 電球色 (class L)LED ランプを表す. Ca-α-SiAlON:Eu を用いて製作した電球色 (class L)LED ランプを円マーク (●及び○) で表す. それぞれ黒塗りが 25◦ C, 白抜きが 100◦ C での色度座標である. 市販の昼光色 LED ランプは (0.317,0.312) から (0.307,0.305) に, 電球色 LED ランプ は (0.453,0.398) から (0.445,0.395) にその色度座標が変化した. CIE1931 色度図上の変 化距離はそれぞれ 0.012 及び 0.008 である. 一方, Ca-α-SiAlON:Eu 電球色 LED ラン プの色度座標は (0.438,0.396) から (0.437,0.398) まで変化し, その変化距離はわずかに 0.002 であったに過ぎない. Ca-α-SiAlON:Eu LED ランプの色度の温度安定性は, 従来 市販の白色 LED ランプと比較して非常に安定している. 温度が上昇すると, 2 つの現象が観測される. 一つは青色 LED 素子の発光の赤方偏移 であり, もう一つは蛍光体の温度消光である. (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce 黄色蛍光体の温度消光 は比較的大きく, 従来の白色 LED ランプではこの種の YAG:Ce 系蛍光体が用いられてい る. また, (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce の励起帯域は, 図 3.12 に示すように, 十分広いとは言えず, 励起光源の青色光が赤方偏移することにより最適励起波長からずれて励起効率の低下が生 じるためさらなる消光が発生することとなる. これら現象の結果として, 従来の白色 LED ランプの色度は青色側に大きくずれることとなる. 反対に, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の温度消光は大変小さく, また励起帯域も非常に広い. 3.3 結果と考察 79 よって, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体では, 例え Ca-α-SiAlON:Eu 電球色 LED ランプの温 度が 100◦ C にまで上昇したとしても, 問題となるほど大きな消光は起きない. これによ り, Ca-α-SiAlON:Eu 電球色 LED ランプの色度変化の軌跡が青色領域のスペクトル軌跡 (すなわち青色 LED 素子の赤方偏移の軌跡) とほぼ平行であり, また変化量が非常に小さ いことの説明が可能である. 0.35 Class N 0.34 Class D y 0.33 0.32 0.31 0.30 (a) 0.30 0.31 0.32 0.33 0.34 0.35 x 0.43 0.42 Class L y 0.41 Class WW 0.40 0.39 0.38 (b) 0.42 0.43 0.44 0.45 0.46 0.47 x 図 3.16 白色 LED ランプの色度座標の温度安定性. 80 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 3.3.6 発光効率の理論限界の検討 近年, 白色 LED ランプの発光効率は急速に向上している. 固体照明の研究において, 主 たる興味の一つは発光効率の向上にあり, その理論限界を検討することは開発目標を策定 する上で重要なことである. ここでは, SiAlON 蛍光体を用いた白色 LED ランプの発光効 率の理論上限について検討する. 一般に, 白色 LED ランプの効率は視感効率で表すが, 視 感効率には放射光パワーに対する視感効率 (Luminous Efficiency, 以下 LEopt と略す) と Blue 1.0 0.8 Intensity [a.u.] YAG:Ce #5 0.6 YAG:Ce #4 0.4 YAG:Ce #3 0.2 YAG:Ce #1 YAG:Ce #2 0.0 380 430 480 (a) 530 580 Wavelength [nm] 630 680 730 Blue 1.0 YAG:Ce YAG:Ce Intensity [a.u.] 0.8 YAG:Ce 0.6 0.4 SiAlON #4 SiAlON #3 0.2 SiAlON #2 SiAlON #1 0.0 380 (b) 430 480 530 580 Wavelength [nm] 630 680 730 図 3.17 青黄 2 色混色型白色 LED ランプの発光スペクトル形状シミュレーション結 果. (a) YAG:Ce LED ランプ, (b) SiAlON LED ランプ. 3.3 結果と考察 81 Luminous Efficiency [lm/W] 380 340 Correlated Color Temperature [K] 4000 10000 8000 6000 2000 Luminous Efficiency SiAlON Luminous Efficiency YAG Theoretical Limit SiAlON Theoretical Limit YAG 300 260 220 0.25 0.30 0.35 0.40 CIE x 0.45 0.50 0.55 0.35 0.40 CIE x 0.45 0.50 0.55 Stokes Loss 30% 25% SiALON YAG 20% 15% 10% 0.25 0.30 90 SiAlON YAG CRI Ra 80 70 60 50 40 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 0.55 CIE x 図 3.18 青黄 2 色混色型白色 LED ランプの光学特性シミュレーション結果. (a) 放射 光パワーに対する視感効率, (b) ストークスシフト損失, (c) 平均演色評価数 Ra. 投入電力に対する視感効率 (Luminous Efficacy, 以下 LEele と略す) とがある. 投入電力 のうち何 % を最終的に白色光として得られたかを表す白色 LED ランプのエネルギー変換 効率を CE とした時, LEele = LEopt × CE である. 蛍光体変換型白色 LED ランプでは, 蛍光体により短波長のエネルギーレベルの高い光子がより長波長のエネルギーレベルの低 い光子に変換されるストークスシフト損失が理論損失ということになる. ストークスシフ ト損失のみを考慮した場合の変換効率を CEss とすると, LEele の理論限界 (Theoretical Limit of Luminous Efficacy, TLLE) は TLLE = LEopt × CEss となる. LEopt は蛍光 82 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 表 3.1 Sample CCT 青黄 2 色混色型白色 LED ランプの光学特性計算結果 Cromaticity Coordinates Luminous Efficiency Stokes Loss Theoretical Limit of Luminous Efficacy [lm/W] CRI Ra [K] CIE x CIE y [lm/W] YAG #1 9,900 0.283 0.284 284 14.5% 243 78 YAG #2 7,700 0.300 0.304 299 15.5% 253 76 YAG #3 4,700 0.357 0.361 324 19.4% 261 72 YAG #4 4,400 0.370 0.370 325 20.1% 260 72 YAG #5 3,100 0.434 0.405 317 23.7% 242 69 SiAlON #1 3,500 0.406 0.392 347 21.4% 273 60 SiAlON #2 3,100 0.437 0.407 352 22.5% 273 59 SiAlON #3 2,600 0.472 0.416 366 23.2% 281 54 SiAlON #4 2,200 0.510 0.419 354 24.6% 267 51 体の発光スペクトル形状により決まるため, 蛍光体の選択及び光学特性設計が大変重要で ある. 蛍光体変換型白色 LED ランプの投入電力に対する視感効率を最大化するためには, 青黄 2 色混色型とすることが最適である. 蛍光体として黄色 1 種類のみを用いる. 図 3.17 に, 青色 LED ランプの発光スペクトルと, 計算によって求めた白色 LED ランプの発光ス ペクトルとを示す. 後者は, 黄緑色, 黄色, 橙色の蛍光体の発光スペクトルを用いてシミュ レーションを行った. 市販の YAG:Ce 酸化物蛍光体を 5 色, Ca-α-SiAlON:Eu 酸窒化物 蛍光体を 4 色用意し検討した. 図 3.17 に示した白色 LED ランプの各スペクトルの発光 強度は, 正規化するのではなく, 代わりにストークスシフト損失を考慮した相対値となる ように調整している. これら白色 LED ランプの光学特性を計算によって求めた結果を 表 3.1 及び図 3.18 に示す. これらの蛍光体を用いた場合, YAG:Ce 蛍光体は相関色温度 が 3,000 K より高い範囲をカバーし, SiAlON 蛍光体は 3,000 K 付近の温かみのある白色 を実現する. 放射光パワーに対する視感効率 LEopt は, SiAlON #3 を用いた時相関色温 度 2,600 K で最高値 366 lm/W となる. 参考として, LEopt の実測値は, 前項 3.3.4 に記 載した LEele が 36.3 lm/W の砲弾型 LED ランプでは 374 lm/W, 41.7 lm/W の SMD 型 LED ランプでは 362 lm/W である. このような低い相関色温度ではストークスシフ ト損失が増加し変換効率が低下することになり, ストークスシフト損失のみを損失として 考慮した理論変換効率 CEss は 76.8 % まで低下しているが, LEopt と CEss とから決ま る理論限界視感効率 TLLE も最高値であり 281 lm/W である. これはつまり, ストーク スシフト損失以外のトータルの損失が 50 % であるとしても 140 lm/W が達成可能であ 3.4 結言 るという意味であり, 例えば 投入電力の 70 % が青色光に変換され, その青色光の光子 の 70 % が青色成分または黄色成分として白色発光に寄与するとした場合がこれに相当す る. 図 3.18 (a) は YAG:Ce 蛍光体及び SiAlON 蛍光体を用いた 2 系列のランプそれぞれ の LEopt と TLLE である. 相関色温度が同一の場合も含め, 明らかに SiAlON 蛍光体を 用いたランプの方が YAG:Ce 蛍光体を用いたランプよりも高い値を示している. ストー クスシフト損失量は相関色温度の低下とともに単調増加しており, 蛍光体の種類による違 いはほとんど無いことから, SiAlON 蛍光体のこの利点はその発光スペクトルの分光分布 形状に由来するものである. SiAlON 蛍光体の半値全幅 (Full-width of half maximum, FWHM) が YAG:Ce 蛍光体よりも狭く, また発光色が適度であるからと考えられる. 一 方, SiAlON 蛍光体を用いたランプの平均演色評価数 Ra は図 3.18 の (c) に示したように YAG:Ce 蛍光体を用いたランプよりも若干低く, これは半値全幅が狭いからであると考え られる. なお, SiAlON 蛍光体を用いた白色 LED ランプの Ra は 55 程度であり, これは 一般的な蛍光灯の 60 より若干低い程度であって, 寝室照明あるいは足元灯などに使用す るには十分である. 3.4 結言 本章では, 新規開発した Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた高効率電球色発光ダイオー ドランプについて検討した. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体は青色で励起され高効率で橙色に 発光する蛍光体であり, この蛍光体と InGaN 系青色 LED 素子とを用いた白色発光ダイ オードランプは相関色温度の低い温かみのある電球色と呼ばれる白色で発光する. 従来こ の色合いの白色 LED ランプは複数の蛍光体を混合した効率の低いものしかなかったが, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いることにより初めて相関色温度が低く発光効率の高い白 色 LED を実現することが可能となった. 一例として, 相関色温度 2,750 K, CIE1931 色 度図上の色度座標 (0.458, 0.414), 投入電力に対する視感効率 25.9 lm/W の砲弾型 LED ランプと, 2,700 K, (0.453, 0.398), 41.7 lm/W の SMD 型 LED ランプとについて報告 した. 効率は, 砲弾型で 36 lm/W, SMD 型で 55 lm/W まで改善出来た. 平均演色評価数 Ra は 57 程度であり, 一般的な蛍光灯より若干低い程度であった. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の Eu 濃度を変更することで, 効率を損なうことなく LED ラ ンプの相関色温度を 2,600–3,000 K 前後の範囲で精密に制御可能であることを確認した. 一般照明用途では様々な相関色温度のランプが要望されるが, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を 用いたランプはこれに対応することが可能である. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた白色 LED ランプと, YAG:Ce 蛍光体を用いた白色 LED ランプとについて, 色度の温度安定性を検討した. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用い た白色 LED ランプの発光色度の CIE1931 色度図上の変化距離は, 過剰な蛍光体を塗布 83 84 第 3 章 高効率電球色発光ダイオードランプへの応用 して試作した LED ランプを室温から 200◦ C まで加熱した場合には YAG:Ce 蛍光体を用 いて試作したものの 1/3 程度, ちょうど電球色となるように試作した LED ランプを室温 から 100◦ C に加熱した場合には市販の YAG:Ce 蛍光体を用いた昼光色あるいは電球色 LED ランプの 1/4–1/6 程度に過ぎず, その色度は大変安定したものであった. これは, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の温度消光が小さいからであると考えられる. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた白色 LED ランプと, YAG:Ce 蛍光体を用いた白色 LED ランプとについて, 各蛍光体の発光スペクトルを元に, 損失をストークスシフト損失 のみと仮定した視感効率の理論限界を計算し評価した. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた 白色 LED ランプは, YAG:Ce 蛍光体を用いた白色 LED ランプと比較して高い理論効率 を示し, 3,000 K 付近の低い相関色温度でストークスシフト損失が大きいにもかかわらず 281 lm/W の最高値を示した. 以上のように, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた高効率電球色発光ダイオードランプは 一般照明用途の固体照明器具として大変有望であることが明らかとなった. 85 参考文献 [1] The Japan Research and Development Center of Metals’ National Project on Light for the 21st Century: Year 2000 Report of Results [2] D. Malakoff, “Lighting Initiative Flickers to Life,” Science, vol. 296, p. 1782, 7 June (2002) [3] S. Nakamura, “Present performance of InGaN based blue/green/yellow LEDs,” Proc. SPIE 3002, pp. 26–35 (1997) [4] K. Bando, K. Sakano, Y. Noguchi and Y. Shimizu, “Development of High-bright and Pure-white LED Lamps,” J. Light & Vis. Env., vol. 22, no. 1, pp. 2–5 (1998) [5] P. Schlotter, R. Schmidt, J. Schneider, “Luminescence conversion of blue light emitting diodes,” Appl. Phys. A, 64, p. 417 (1997) [6] P. Schlotter, J. Baur, Ch. Hielscher, M. Kunzer, H. Obloh, R. Schmidt, J. 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Sakuma, “α-SiAlON-based Oxynitride/Nitride Phosphors: Synthesis, Properties and Applications,” Proceedings of The 11th International Display Workshops (IDW’04), PH4-1 (Invited), Niigata, Japan, pp. 1105–1108 (2004) [24] K. Sakuma, N. Hirosaki, N. Kimura, Y. Yamamoto, R.-J. Xie, T. Suehiro, K. 87 Omichi, M. Ohashi, and D. Tanaka, “High Brightness Warm-White LED Lamps Using Ca-α-SiAlON Phosphors,” Proceedings of The 11th International Display Workshops (IDW’04), PHp-1, Niigata, Japan, pp. 1115–1118 (2004) [25] 瀧ヶ平将人, 木村直樹, 佐久間健, 浅野健一郎, 田中大一郎, “高効率電球色 LED の開 発,” 電子情報通信学会 2005 年ソサイエティ大会, C-9-2 (2005) 88 第4章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体 の Y 置換の影響 4.1 緒言 近年, 白色発光ダイオード用の, 青色光で励起可能な蛍光体の研究が盛んである. 一例と して, YAG:Ce 蛍光体 [1], SrGa2 S4 :Eu と SrS:Eu の混合蛍光体 [2], Sr3 SiO5 :Eu 蛍光体 [3] などを用いた白色発光ダイオードランプの光学特性が報告されている. また, 我々はこ れまでに 2 価のユーロピウムで付活した Ca-α-SiAlON 黄色蛍光体について検討し, これ を用いた高効率電球色発光ダイオードランプを試作し報告した [4][5]. 白色発光ダイオードランプを一般照明に適用する場合, 様々な相関色温度のランプが求 められる. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた白色発光ダイオードランプでは, 相関色温度 にして 1,900–3,300 K の範囲のものが実現可能である [4]. 相関色温度の範囲を拡張する ためには, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光波長の制御が重要である. 蛍光体の光学特性を 調整する方法としては, 部分的な元素置換が一般的である. 例えば, 通常用いられている YAG:Ce 蛍光体の Y を Gd に, Al を Ga に置換し発光色を変化させた事例について報告 されている [1]. Y3+ イオンをよりイオン半径の大きな Gd3+ に置換することで発光波長 帯は赤方偏移し, また Ga3+ イオンを小さな Al3+ に置換することで青方偏移する [10]. 適切な置換の結果, 白色発光ダイオードランプ用として好適な (Y,Gd)3 (Al,Ga)5 O12 :Ce 蛍光体が得られる. また, 蛍光体を波長変換材料として白色発光ダイオードランプに適用するに際して, 発光特性と励起スペクトル特性の両方が重要である. 白色発光ダイオードランプでは, 450–470 nm の青色光または 400–410 nm の青紫色光を発する InGaN 系半導体素子が一 次光源として用いられる. 従って, これらの波長帯域をカバーする広い励起帯域を有する ことが望ましい. 励起スペクトルの形状が平坦であることも重要である. これにより, 白 4.2 実験方法 色発光ダイオードランプの色度ばらつきを低減し, また色度の安定性を高めることができ る. 市販の青色発光ダイオード素子の発光波長ばらつきは小さくは無い. さらに, 半導体 素子の温度, あるいは駆動電流に依存しても発光波長がシフトする. 蛍光体の励起スペク トル形状が平坦であれば, これら励起波長のばらつきやずれに起因する影響を低減するこ とが可能である. α-SiAlON 蛍光体の研究においては, これまで固溶元素とその濃度, 及びサイアロン母 相の組成が発光特性に及ぼす影響がその興味の中心であった [4][6][7][8][9]. α-SiAlON 蛍 光体は, 付活元素を含む多種の金属元素を侵入型固溶させることができる独特の構造を しており, これら固溶元素を変更することでその特性を調整可能である. Eu2+ を付活 元素として用いる場合, Eu2+ のイオン半径が大きいことから単独で固溶させることは 困難であり, Ca, Y あるいは Li などの共添加固溶元素を必要とする. 一例として, 我々 はこれまでに Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の Ca 濃度及び Eu 濃度の影響について報告し た [6]. ここで, 共添加固溶元素 M を変更することによってもまた, M-α-SiAlON:Eu 蛍 光体の特性を調整することが可能である. 例えば, Li-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光波長が Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体よりも短くなることを我々は別途報告している [14]. 本章では, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の Ca を Y に置換した事例について検討した結果を 報告する. 発光スペクトル, 励起スペクトルの測定を実施した. 組成による発光波長の変 化と励起スペクトル形状の変化について報告する. また, 粉末 X 線回折パターンの測定結 果についても述べる. 4.2 実験方法 4.2.1 蛍光体の合成 一般式 (Ca1−p ,Yp )0.88 Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Eu0.05 (p = 0–1) で表される設計 組成の一連の (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体試料を合成した. 出発原料として, Si3 N4 (SN-E10, 宇部興産株式会社製), AlN (Type F, 株式会社トクヤマ製), CaCO3 (株式会社 高純度化学研究所製) 及び Eu2 O3 (信越化学工業株式会社製) の微細粉末を用いた. 表 4.1 に, 設計組成と, 混合組成とを示す. m 値と n 値とは, 固溶元素である Ca, Y 及び Eu の 量に応じて決まる値であり, ここでは Ca から Y への置換割合を示す p 値に従って m = 1.91 + 0.88p, n = 0.5m の関係にある. p 値の増加に従い, Y/Ca 比のみならず Al/Si 比 及び O/N 比も増加する. α サイアロンは, 固溶元素を M, 固溶元素 M の固溶量及び価 数をそれぞれ x, v とした時に一般式 Mx Si12−(m+n) Alm+n On N16−n で表され, x = m/v である. α-Si3 N4 から, m+n 個の Si–N 結合が, m 個の Al–N 結合と n 個の Al–O 結合に 置き換えられている. よって, Mv+ として Ca2+ , Y3+ 及び Eu3+ を導入している本実験 89 90 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 Si3N4 AlN CaCO3 Y2O3 Eu2O3 Mixing / Granulation Gas Pressure Sintering Crushing (Ca,Y)- -SiAlON:Eu phosphor 図 4.1 蛍光体の合成手順. 表 4.1 設計組成と混合組成 試料名 混合組成 (単位:質量 %) 設計組成 p m n Si3 N4 AlN CaCO3 Eu2 O3 Y2 O3 試料 CYE1 0.0 1.910 0.955 66.59 18.30 13.73 1.37 0.00 試料 CYE2 0.1 1.998 0.999 65.59 19.14 12.35 1.37 1.55 試料 CYE3 0.2 2.086 1.043 64.59 19.97 10.97 1.37 3.09 試料 CYE4 0.3 2.174 1.087 63.60 20.81 9.59 1.37 4.64 試料 CYE5 0.4 2.262 1.131 62.60 21.63 8.22 1.37 6.18 試料 CYE6 0.6 2.438 1.219 60.61 23.29 5.47 1.37 9.26 試料 CYE7 0.8 2.614 1.307 58.62 24.94 2.73 1.36 12.34 試料 CYE8 1.0 2.790 1.395 56.65 26.59 0.00 1.36 15.40 の一連の試料では, p = 0 の時に m = 1.91 及び n = 0.955, p = 1 の時に m = 2.79 及 び n = 1.395 である. 図 4.1 に, 合成手順を示す. 実際の合成にあたっては, これら出発原料を 1 バッチあた り 30 g になるように秤量し, 溶媒として n-ヘキサンを加えて遊星ボールミルを用いて 150 rpm で 2 h 混練した. 真空エバポレータを用いて乾燥させ, 試験用篩を用いて適度に 造粒し, 窒化ホウ素製ルツボに収めた. これをガス加圧焼結炉を用いて 0.5 MPa の加圧窒 素雰囲気下で 24 h 保持して焼結した. 焼結温度は, 各組成について 1,700◦ C, 1,800◦ C 及 4.3 結果と考察 び 1,900◦ C とした. 焼結後の試料を粉末に崩し, 蛍光体試料とした. 4.2.2 蛍光体の測定 粉末 X 線回折パターン測定を実施し, 生成相の確認を行った. 測定には, 株式会社リガ ク製 RINT-2200/PC を用いた. 次に, 分光蛍光光度計を用いて, 合成した蛍光体の励起 スペクトルと発光スペクトルとを測定した. 測定には, 日立製作所製 F-4500 を用い, 光学 濃度 1.0 の Neutral Density (N.D.) フィルタで減光した. 分光蛍光光度計の校正は, 最初 にローダミン B の吸収を基準として装置関数を求め, 波長範囲 200–600 nm での励起ス ペクトルの補正を実施した. 続いて, ラブスフィア社製の標準白板を用い, スペクトル補正 済みの励起光を基準として装置関数を求め, 波長範囲 200–600 nm での発光スペクトルの 補正を実施した. 最後に, メーカ提供の副標準光源を基準として装置関数を求め, 波長範 囲 600–900 nm での発光スペクトルの補正を実施した. この副標準光源は, NIST 標準に 基づいて値付けされたものである. 発光スペクトル測定では励起波長を 450 nm とした. また, 励起スペクトル測定では発光モニタ波長を 585 nm とした. 4.3 結果と考察 4.3.1 粉末 X 線回折パターン 図 4.2(a) に, 1,800◦ C で焼結した (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の粉末 X 線回折パター ンを示す. p ≤ 0.6 では, 単相の α-SiAlON が生成できている. p = 0.8 及び 1 の試料 では, AlN-polytype と考えられる第 2 相の生成がみられる. Y-α-SiAlON の固溶範囲 が Ca-α-SiAlON よりも狭いことが知られており [11], これにより p 値が高い範囲では 第 2 相が生成されるものと考えられる. ユーロピウムで付活した Y-α-SiAlON 蛍光体を 単相で得るためには, イットリウムとユーロピウムの固溶範囲についてさらに検討する 必要がある. 我々の知見では, ここで生成している第 2 相は発光に寄与しないので, 以下 では p = 0.8 及び 1 の試料についてもその光学特性を議論の対象とする. 図 4.2(b) は, (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の粉末 X 線回折パターンのうちから (102) 面を示す. ピー ク角度は p = 0.4 で最も低角側にシフトしており, p = 0 及び p = 1 では高角側にシフト している. このことは, 格子定数が p = 0.4 の試料で最大となっていることを示している. 4.3.2 発光スペクトル 図 4.3 に, 1,800◦ C で焼結した各蛍光体の励起・発光スペクトルを示す. パーセントで 示した数値は, Ca から Y への元素置換割合 p を表している. 市販の (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce 91 92 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 p=1 p = 0.8 Intensity p = 0.6 p = 0.4 p = 0.2 20 30 220 212 310 103 301 211 112 300 202 210 002 102 201 200 No.33-0261 110 101 p=0 40 50 2θ [degree] 102 (a) 210 p=1 Intensity p = 0.8 p = 0.6 p = 0.4 p = 0.2 p=0 33 34 2θ [degree] 35 (b) 図 4.2 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の粉末 X 線回折パターン. 蛍光体を 460 nm で励起した際の発光強度を参考のため図 4.3 中に青い水平線で示した. Ca から Y への置換割合が増加するに伴い, 発光波長の赤方偏移と発光強度の低下とが見 られる. 図 4.4 に, 正規化した (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光スペクトルを示す. いずれ も 2 価の Eu の 4f 6 5d → 4f 7 遷移に帰属される幅広い単峰型の発光ピークを有してい る. 図 4.4 (a) は, 1,800◦ C で焼結した p 値の異なる各組成の試料の発光スペクトルであ る. 発光ピーク波長は置換割合を示す p 値の増加に伴って 585.4 nm から 601.4 nm まで 4.3 結果と考察 93 Intensity [a.u.] 1000 Excitation 0% 10% 20% 30% 40% 800 600 Emission P46-Y3 YAG:Ce (λexc=460nm) 60% 400 80% 200 60% 80% 100% 100% 0 300 400 500 600 Wavelength [nm] 700 図 4.3 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の励起・発光スペクトル. シフトしている. この発光ピーク波長の単調増加は, さきほど示した粉末 X 線回折パター ンと比較して考えると, 発光ピーク波長は格子定数と直接的な関係は無いということを示 していると考えられる. 図 4.4 (b) に示すように, 焼結温度の増加によっても発光波長の赤方偏移が起こる. 最 長の発光ピーク波長は p = 1 で 1,900◦ C で焼結した試料の 608 nm であった. これまで に報告されている Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光ピーク波長の範囲は 583–603 nm であ り [4], これは α-SiAlON 蛍光体の発光ピーク波長として最も長波長のものである. 発光 スペクトルの半値全幅 (Full widths at half-maximum, FWHM) はいずれの試料もほぼ 同程度であり, 91–94 nm であった. 発光波長の赤方偏移は, Eu2+ イオンの局所的な配位状態が変化することに起因する, Eu2+ イオンに作用する結晶場の変化に由来すると考えられる. 一般的に, 結晶場の強さ あるいは局所的な配位状態は, 格子定数の変化あるいは Si–N 結合から Al–N 結合 (また は Al–O 結合) への置換の影響を受けるものである. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体については, これまでに, 化学組成のパラメータ m 値と格子定数との間に線形関係があることが報告 されていた [6] ため, 発光波長の赤方偏移は格子定数の増大に伴うものと考えられていた. しかしながら, 前述したように本試料では p = 0.4 の試料で格子定数が最大となることか ら, 格子定数と発光波長との間に相関が無いことが判明した. Ca2+ から Y3+ への置換に 伴う O/N 比の変化についても, O 割合が高い試料で赤方偏移しており従来の知見とは逆 の傾向を示している. このことについて, 実際にはホスト材料の化学組成と発光イオンの 局所的な配位状態との間に直接的な関係が存在するとは限らず, 例えば, メリライト型の 酸窒化物化合物 Y2 Si3−x Alx O3+x N4−x :Ce3+ においては, Al–O 結合の導入によって光 学特性の制御を行おうとしてもうまくいかないとの報告がある. この事例では, Si–N 結 94 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 表 4.2 試料名 p 光学特性 焼結温度 発光ピーク波長 発光主波長 色度座標 [◦ C] [nm] [nm] x y 試料 CYE1-17 0.0 1700 584.6 580.24 0.5085 0.4803 試料 CYE2-17 0.1 1700 585.6 581.22 0.5153 0.4746 試料 CYE3-17 0.2 1700 587.2 581.99 0.5215 0.4707 試料 CYE4-17 0.3 1700 590.6 582.82 0.5268 0.4654 試料 CYE5-17 0.4 1700 591.4 583.14 0.5288 0.4634 試料 CYE6-17 0.6 1700 592.6 584.03 0.5343 0.4578 試料 CYE7-17 0.8 1700 594.4 584.33 0.5344 0.4549 試料 CYE8-17 1.0 1700 593.2 584.66 0.5354 0.4523 試料 CYE1-18 0.0 1800 585.4 582.54 0.5261 0.4680 試料 CYE2-18 0.1 1800 590.8 583.09 0.5295 0.4644 試料 CYE3-18 0.2 1800 591.0 583.65 0.5334 0.4612 試料 CYE4-18 0.3 1800 593.2 584.68 0.5396 0.4546 試料 CYE5-18 0.4 1800 591.6 585.13 0.5427 0.4520 試料 CYE6-18 0.6 1800 592.8 585.36 0.5430 0.4500 試料 CYE7-18 0.8 1800 598.6 586.39 0.5491 0.4436 試料 CYE8-18 1.0 1800 601.4 587.53 0.5563 0.4370 試料 CYE1-19 0.0 1900 593.2 585.21 0.5439 0.4519 試料 CYE2-19 0.1 1900 597.6 585.76 0.5470 0.4484 試料 CYE3-19 0.2 1900 598.4 586.43 0.5508 0.4441 試料 CYE4-19 0.3 1900 597.8 587.42 0.5569 0.4382 試料 CYE5-19 0.4 1900 601.2 587.99 0.5596 0.4345 試料 CYE6-19 0.6 1900 604.4 589.39 0.5660 0.4256 試料 CYE7-19 0.8 1900 605.6 590.68 0.5719 0.4178 試料 CYE8-19 1.0 1900 608.0 590.38 0.5681 0.4187 合を Al–O 結合に置換することにより材料全体としての組成を操作操作しても, Ce3+ イ オン周囲の局所的な配位状態には影響がなかったとされている [13]. 3 元素を固溶させた (Y,Ca)-α-SiAlON:Eu においても, これと同様の複雑な現象となっている可能性が考えら れる. 蛍光体材料の発光色を評価するにあたっては, ピーク発光波長ではなく発光主波長 (発 4.3 結果と考察 95 Normalized Intensity 585.4nm 601.4nm p=1 p = 0.8 p = 0.6 p = 0.4 p = 0.2 p=0 500 550 600 650 Wavelength [nm] 700 (a) Normalized Intensity [a.u.] 608.0nm 601.4nm 593.2nm p=1 1900°C 1800°C 593.2nm 1700°C p=0 1900°C 1800°C 585.4nm 584.6nm 1700°C 500 550 600 650 Wavelength [nm] 700 (b) 図 4.4 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の正規化発光スペクトル. 励起波長は 450 nm であり, p 値は各試料の Ca から Y への置換割合を示している. (a) 1,800◦ C で焼結し た p = 0, 0.2, 0.4, 0.6, 0.8 及び 1 の試料. (b) p = 0 及び 1 の,1,700◦ C, 1,800◦ C 及 び 1,900◦ C の各温度で焼結した試料. 光ドミナント波長) を用いることが適切である. 蛍光体がシャープな発光スペクトルを 有する場合には, 発光ピーク波長が直接的に発光色を表しているといえる. しかし, 蛍光 体の発光スペクトルがブロードなものであった場合には, 発光色, すなわち発光色度座標 は, 発光スペクトル分布から計算する必要がある. CIE1931 色度図上で, 白色点 (0.3333, 96 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 Dominant wavelength [nm] 592 590 588 586 584 1900 °C 1800 °C 1700 °C 582 580 578 0 20 40 60 80 100 Yttrium / ( Calcium + Yttrium ) [at.%] 図 4.5 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光主波長. 0.3333) と色度座標 (x, y) とを結ぶ直線を外挿したものが単色スペクトル軌跡と交差する 点が発光主波長である. 各蛍光体の発光スペクトルから CIE1931 色度図上の発光色度座標を計算し, これを元 にして対応する発光主波長を計算した結果を図 4.5 に示す. 同一焼結温度において, Ca か ら Y への置換割合が増加するにつれて, 赤方偏移が起きている. また, 焼結温度の上昇に 伴っても, 赤方偏移が起きている. 蛍光体の発光強度は, Y への置換割合が増加するに従って減少している. 焼結温度もま た発光強度に影響しており, 焼結温度 1,800◦ C において発光強度は最高となっている. 図 4.6 に, 本章に記載した全蛍光体の CIE1931 色度座標を示す. 色度座標 (x, y) は, 組成 p = 0, 焼結温度 1,700◦ C の試料が (0.509, 0.480), 組成 p = 1, 焼結温度 1,900◦ C の試料が (0.568, 0.419) である. これら蛍光体の色度範囲は, 発光波長 450 nm の青色発 光ダイオード素子と結合させて白色発光ダイオードランプとした場合, 相関色温度にして 1,700–2,900 K に相当する. この結果から, α-SiAlON 蛍光体を用いた白色発光ダイオー ドランプの相関色温度は, 従来報告されている範囲よりもさらに低温側に拡張可能である といえる [4][7][8][9]. 4.3.3 励起スペクトル 図 4.7 に, 正規化した励起スペクトルを示す. なお, 293 nm に見られるピークは, 励 起光カットフィルタを用いなかったため発光モニタ波長 585 nm の 2 倍高調波に対応 する波長の励起光の影響が観測されているものである. これら励起スペクトルは紫外 (Ultraviolet, UV) 光領域から可視光領域までブロードな励起帯域となっている. よって, 4.3 結果と考察 97 0.9 0.8 spectral locus 0.7 0.6 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu y 0.5 2900K 0.4 blackbody locus 1700K 0.3 0.2 0.1 0.0 450nm 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 x 図 4.6 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の発光色度座標. 発光波長 450 nm の青色発光 ダイオード素子と組み合わせることによって, 相対色温度にして 1,700 K から 2,900 K に相当する白色発光ダイオードランプが実現可能である. 表 4.3 1,800◦ C で焼結した (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体のピーク発光波長 (EM), ピーク励起波長 (EX), ストークスシフト量 (SS), 及び相対発光強度 (Irel ). p EM EX SS Irel [%] nm/x103 cm−1 nm/x103 cm−1 x103 cm−1 1 601.4/16.6 438.6/22.8 6.17 30% 0.8 598.6/16.7 449.0/22.3 5.57 32% 0.6 592.8/16.9 448.4/22.3 5.43 39% 0.4 591.6/16.9 447.6/22.3 5.44 52% 0.2 591.0/16.9 449.0/22.3 5.35 71% 0 585.4/17.1 449.6/22.2 5.16 100% これら蛍光体は UV 発光ダイオード素子, 青色発光ダイオード素子のいずれを用いても励 起可能である. ピーク発光波長, ピーク励起波長, ストークスシフト量及び相対発光強度を表 4.3 にま とめる. ここで, ストークスシフト量は発光スペクトルと励起スペクトルとから計算した. 98 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 p=1 Normalized Intensity p = 0.8 p = 0.6 p = 0.4 p = 0.2 p=0 200 250 300 350 400 450 Wavelength [nm] 500 550 図 4.7 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の正規化励起スペクトル. 発光モニタ波長は 585 nm であり, p 値は Ca から Y への置換割合を示している. Normalized Intensity [a.u.] 1.2 p=0 1.2 Excitation Peak 449.6 nm 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 p=1 Excitation Peak 438.6 nm 0.6 97% Excitation Band 95% Excitation Band 0.4 0.4 λ97%min λ97%max λ97%min 0.2 0.2 λ95%min λ95%max λ95%min 0.0 λ95%max 0.0 350 (a) λ97%max 400 450 Wavelength [nm] 500 (b) 350 400 450 Wavelength [nm] 500 図 4.8 (Ca1−p Yp )-α-SiAlON:Eu 蛍光体のピーク例波長周辺の拡大図. (a) p = 0, Ca-α-SiAlON:Eu (b) p = 1, Y-α-SiAlON:Eu. 励起ピーク波長は, p = 1 の試料を除くほとんどの試料において 449 nm 付近に位置して いる. 発光波長の赤方偏移とともに, ストークスシフトが増大し相対発光強度が減少して いる. 励起スペクトルに複数のピークが観測される場合には, 結晶場の分裂と重心位置とが計 算できる [12]. 例えば, p = 0 の試料については, 300 nm と 450 nm の 2 つのピークが観 99 Excitation wavelength [nm] 4.3 結果と考察 480 460 440 420 ♦ Peak Excitation Wavelength 97% Excitation Band 95% Excitation Band 400 0 20 40 60 80 100 Yttrium / ( Calcium + Yttrium ) [at.%] 図 4.9 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体のピーク発光波長及び励起帯域. 2.0 Symmetry of Excitation Band 97% Excitation Band 95% Excitation Band 1.5 1.0 0.5 0.0 0% 20% 40% 60% 80% 100% Yttrium / ( Calcium + Yttrium ) [at.%] 図 4.10 (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 蛍光体の励起帯域の対称性. 測されている. しかし, 他の試料については, ピークの分離は明確とは言えず, それらの計 算は困難である. 表 4.3 では, p = 1 の試料のみが短波長側に寄ったピーク励起波長を有 している. このピーク励起波長のシフトは, 単相 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体において時折観 測されるものであり, その範囲は 390–450 nm である. この波長シフトの起源は未だ明ら かではない. 励起スペクトル形状に注目してみると, 紫外域から可視域まで大変広い励起帯域がすべ ての試料について観測されており, 白色発光ダイオードランプの一次光源として用いられ ている紫外または青色の半導体発光ダイオード素子で励起するのに適していると言える. 図 4.8 の (a) 及び (b) に, 組成 p = 0 及び p = 1 の 2 つの試料について, 青紫色から青 色にかけての領域の励起スペクトルの拡大図を示す. 図 4.8 中で, 97%min と 97%max と 100 第 4 章 Eu 付活 Ca 固溶αサイアロン蛍光体の Y 置換の影響 は, それぞれ励起スペクトルの強度がピーク強度の 97% に低下する波長を示している. 添 え字 min と max とはそれぞれ短波長側と長波長側を示している. 95%min と 95%max とは, それぞれ, 同様にして 95% に低下する波長を示している. 励起帯域の平坦性を議論 するにあたり, 我々は, 有効な励起帯域である波長幅 97%max–97%min を「97% 励起帯 域」と定義した. また, 同様にして, 「95% 励起帯域」を定義した. 明らかに p = 1 である Y-α-SiAlON:Eu の試料において極端に広く平坦な励起帯域が実現されていることがわか る. 言い換えれば, Ca-α-SiAlON:Eu がそもそも YAG:Ce など他の白色発光ダイオード ランプ用蛍光体と比較すると大変広い励起帯域を有しているわけだが, Ca から Y への原 子置換によりさらに励起帯域の平坦度が改善されたと言える. 図 4.9 に, 各蛍光体試料のピーク励起波長, 97% 励起帯域及び 95% 励起帯域を示す. 励起帯域幅は p = 0–0.3 の試料ではほぼ同程度であり, p ≥ 0.4 の試料では広くなる. 97% 励起帯域は p = 0, 0.4 及び 1 の試料でそれぞれ 17 nm, 25 nm 及び 46 nm である. さらに, 図 4.10 に, 励起帯域の対称性を検討した結果を示す. 我々は, ピーク励起強度の短 波長側と長波長側の励起強度のバランスを示すものとして ( 97%max − peak ) / ( peak − 97%min ) を対称性の度合いとして定義した. 前式で, peak はピーク励起波長である. 対称性の度合いは, p = 0.2 及び p = 0.3 の試料において良い. p = 0 や p = 1 では, ピー ク励起波長の長波長側の傾きが急峻である. なお, 上記の議論は, Y 軸の発光強度が任意単位であり, 蛍光分光光度計の励起スペクト ル測定及び発光スペクトル測定についての装置関数を用いて計算されたものであることに 由来する一定の不正確さがあることに注意が必要である. 粉末蛍光体の励起スペクトル及 び発光スペクトルを絶対値で精度良く測定することは大変難しいことである. 現在は, 蛍 光分光光度計はローダミン B, 白色拡散板, NIST 標準に基づいて値付けされた標準光源 などを用いてスペクトル分布の波長平坦性について校正されている. 励起スペクトル形状 について定量的な議論をするためには, より精密な蛍光分光光度計のスペクトル分布校正 方法を確立する必要がある. 4.4 結言 一般式 (Ca1−p ,Yp )0.88 Si12−(m+n) Alm+n On N16−n :Eu0.05 (p = 0–1) であらわされる 一連の (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu 酸窒化物蛍光体試料をガス加圧焼結により合成し, その発 光特性について蛍光分光光度計により検討した. 各試料の励起帯域は紫外域から青色まで 広がる大変広いものであり, そのため紫外光または青色光発光ダイオード素子と組み合わ せて白色発光ダイオードランプに用いるのに適している. ピーク発光波長は 585 nm から 608 nm の範囲で変化する. Ca から Y への置換割合を増加すると発光波長の赤方偏移が 見られる. 608 nm という最長発光波長は, α-SiAlON 蛍光体では初めて達成されたもの 4.4 結言 である. これらの結果は, 2 価のユーロピウムで付活した α-SiAlON 蛍光体の発光波長を 部分的な原子置換により制御可能であることを示すものである. 発光波長の赤方偏移は, Eu2+ イオン周囲の結晶場の変化によるものと考えられる. しかし, X 線回折パターンに よれば格子定数は置換割合が半々の試料で最大となっており, 発光波長と格子定数には相 関が無いことが判明した. また, O/N 比の影響についても, O 割合の高い試料で赤方偏移 しており従来の知見とは逆の傾向を示している. よって, 発光波長の赤方偏移の由来につ いては未だ定かではない. 青色発光ダイオード素子と当該蛍光体とからなる白色発光ダイ オードランプの, 対応する相関色温度の範囲は, これにより 1,700 K まで低色温度側に拡 張することが可能となった. また, 励起スペクトル形状の平坦度と対称性について検討し た. 帯域幅は, Ca から Y への原子置換割合 p が増加するに従って広くなった. 97% 励起 帯域は p = 1 の試料では 46 nm にも達した. 一方, 励起帯域の対称性に優れたのは p = 0.2 の試料であった. 固溶金属元素の置換は α-SiAlON 蛍光体の光学特性を制御する手段 の一つとして有効なものである. 101 102 参考文献 [1] K. Bando, K. Sakano, Y. Noguchi, and Y. Shimizu, “Development of High-bright and Pure-white LED Lamps,” J. Light & Vis. Env., vol. 22, pp. 2–5 (1998) [2] R.Mueller-Mach, G.O.Mueller, M.R.Krames and T.Trottier, “High-Power Phosphor-Converted Light-Emitting Diodes Based on III-Nitrides,” IEEE J. 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Lett., vol. 88, 101104 (2006) 104 第5章 Eu 原子の再吸収機構による発光波 長の赤方偏移 5.1 緒言 近年, 一般照明用の白色発光ダイオード (Light-Emitting Diode, LED) の改善に大き な進展が見られている [1][2]. 白色 LED などの固体照明には, 長寿命であること, 環境負 荷の高い物質である水銀が用いられていないこと, 熱線 (赤外線) を含まない冷たい光であ ること, エネルギー効率が高いことなど多くの優れた特徴がある. 今日, 白色 LED ランプの主流は青色半導体 LED 素子と 3 価のセリウムで付活し たイットリウム・アルミニウム・ガーネット系 (YAG:Ce) 黄色蛍光体とを組み合わせ たものである [3]. 黄色は青色の補色であることから, 青色と黄色との混色は白色とな る. 近年, YAG:Ce に代わる黄色蛍光体を開発しようとする多くの試みが成されている [4][5][6][7][8]. α-SiAlON ベースの酸窒化物黄色蛍光体と, これを用いた温かみのある白 色の白色 LED ランプはその一例である [9][10][11]. この 2 価のユーロピウムで付活した Ca-α-SiAlON 蛍光体は, 紫外 (ultra-violet, UV) 光及び青色光で効率良く励起可能であり, 橙色に明るく発光する. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍 光体の発光波長は固溶元素である Ca あるいは Eu の濃度を変化させること, あるいは SiAlON 母相の組成を変化させることによって調整可能である. 我々はこれまでに, α-SiAlON 黄色蛍光体の Eu 濃度を制御することで, 発光強度を保っ たままでの精密な発光波長制御が可能であることを報告し, これにより温かみのある白色 を発する白色発光ダイオードランプの相関色温度を調整した事例を示した. 合成した蛍光 体の発光主波長は 578 nm と 583 nm である. 我々はこれらを用いて, 投入電力に対する 視感効率が 30 lm/W と高効率である白色発光ダイオードランプを相関色温度 2,640 K 及 び 3,020 K について実現した [12]. 5.2 実験方法 長い波長での可視光発光は, 窒化物蛍光体の特徴である [13][14][15]. この発光波長の赤 方偏移は, 窒素原子と発光中心として機能する希土類元素との間の共有結合性の高さに由 来している [9][10][16]. 配位子場の分裂が大きいことにより希土類元素の d 軌道のエネル ギーレベルが低下する. 結果として, d − f 遷移による発光波長は, 酸化物などの他の蛍光 体と比較して長くなる. 配位子場の分裂の大きさは, 希土類イオンの局所的な配位状態に 依存する. 例えば, CaAlSiN3 :Eu2+ の発光波長は, Eu 濃度を 20 mol% 以下の範囲で変更 することにより, 640 nm を下回る波長から 690 nm を超える波長まで変化する [14]. この とき, CaAlSiN3 :Eu2+ の単位格子体積が Eu 濃度に応じて直線的に変化することが報告 されている. Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体について言えば, 格子定数や発光ピーク波長の付活元素濃 度あるいは母相の全体的な組成に対する依存性が検討されている [17]. ここでは, 母相の 組成を Cax Euy Si12−m Alm N16 とした時の仕込み組成の m 値に対する依存性が議論され ている. 特に, Ca 濃度あるいは Eu 濃度を振った一連の試料について, 格子定数は仕込み 組成の m 値に対応している. しかしながら, 格子定数が Eu 濃度あるいは Ca 濃度ではなく SiAlON 母相の仕込み組 成に関連しているとしても, 一方で我々は Ca 濃度の変化よりも Eu 濃度の変化の方が発 光波長への影響が大きいという事実に遭遇した. さらに, 同一の蛍光体を用いているにも かかわらず, その蛍光体の実装方法によって白色発光ダイオードランプの発光波長が変化 するという事例を観測した. 本章では, Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体において, 共添加固 溶元素である Ca イオンの濃度と比較して, 付活元素である Eu イオンの濃度の方が発光 波長の変化に対する影響が大きいということについて報告する. また, 白色発光ダイオー ドランプの蛍光体の実装量の変化が発光波長に対して与える影響についても報告する. こ れらの現象は, 蛍光体の発光波長は Eu2+ イオン周囲の局所的配位状態のみによって決ま るものではなく, 一次光源から観察者の目までの光路中に存在する Eu2+ イオンの総数量 に依存する発光波長の赤方偏移からも影響を受けるのであるということを示唆している. この赤方偏移は, Eu2+ イオンの 4f 7 –4f 6 5d 遷移による再吸収・再発光機構によって説明 することが可能である. この蛍光体の励起機構についても言及する. 5.2 実験方法 出発原料として, Si3 N4 , AlN, CaCO3 及び Eu2 O3 を用いた. 仕込み組成を計算す るにあたっては, Eu イオンは 3 価であると仮定した. 金属陽イオン Mv+ を固溶さ せた α-SiAlON の組成は一般式 Mv+ x Si12−(m+n) Alm+n On N16−n によって表される. Si12−(m+n) Alm+n On N16−n の単位格子は 28 原子からなり, 2 つの空隙を擁する. Mv+ は, この空隙のサイトに侵入型固溶することができる. 従って, 前式で x は x ≤ 2 である. 105 106 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 仕込み組成の m 値は m = xv と計算される. 陽イオン Mv+ の導入により, Si から Al へ の置換及び N から O への置換により引き起こされた電荷の不整合を補償するとともに, α 構造を安定化させる役割を果たす. 仕込み組成の n 値は, 今回の実験では出発原料の関係 から n = m / 2 となる. (仕込み組成の n 値を減少させるためには, CaCO3 と Eu2 O3 の代わりに Ca3 N2 と EuN を出発原料として用いる必要がある. 一方, 仕込み組成の n 値を増加させるためには, SiO2 または Al2 O3 が必要となる.) 結局, 一般式は m のみを 用いて Mv+ m/v Si12−1.5m Al1.5m O0.5m N16−0.5m と表記することができる. 2 価の Ca と 3 価の Eu の場合, 一般式は Cax Euy Si12−1.5m Al1.5m O0.5m N16−0.5m となる. 出発原料に Eu2 O3 を用いていることから, 仕込み組成の組成設計をする段階では Eu イオンは 3 価で あると仮定している. m 値は x と y とに依存し, m = 2x + 3y である. しかし, Eu イオ ンは焼結中に Eu2+ に還元されていることから, m 値及び n 値は仕込み組成とは若干異な る値になっているものと考えられる. 出発原料粉末を遊星ボールミルを用いて混練し, ルツボに収容した. ガス加圧焼結 (Gas-Pressure Sintering, GPS) 工程により 1,700◦ C で焼結した. 焼結時間とガス圧力 は, 5.3.1 章に示した試料については 8 h 及び 1 MPa, 5.3.2 章及び 5.3.3 章に示した試料 については 24 h 及び 0.5 MPa とした. 焼結後の試料の粉末 X 線回折パターンを測定し, 生成相の確認を実施した. 測定には CuKα 線を用いる粉末 X 線回折装置 (RINT-2200V/PC, 株式会社リガク) を使用した. 測定条件は連続スキャンで走査速度 1◦ at 2θ/min, 走査ステップ 0.02◦ , 走査範囲 20–50◦ とした. 化学組成定量分析も実施した. Ca, Eu, Si 及び Al の濃度を, 高周波誘導結合プラズマ (Inductively Coupled Plasma, ICP) 発光分光分析装置 (IRIS Advantage, Jarrell Ash) にて分析した. N と O の量を, ガス融解法により酸素・窒素分析装置 (TC-436, LECO) で測定した. C の混入量を, 炭素・硫黄分析装置 (CS-444LS, LECO) で確認した. 合成した α-SiAlON 蛍光体の励起・発光スペクトルを蛍光分光光度計 (F-4500, 日立製 作所) で測定した. ローダミン B, 拡散板及び標準光源を用いてスペクトル分布の校正を 実施した. 発光主波長は発光スペクトルから算出した. 外部量子効率と吸収率を, 分光光度計 (MCPD-7000, 大塚電子株式会社) と積分球とを 用いて測定した. 外部量子効率及び吸収率の測定結果から, 内部量子効率を算出した. InGaN 半導体青色発光ダイオード素子 (450 nm) と蛍光体粉末とを用いて, ダイボン ディング工程, ワイヤボンディング工程, 蛍光体塗布工程及びパッケージ実装工程により 白色発光ダイオードランプを製作した. 白色発光ダイオードランプの発光スペクトルは, 発光ダイオード用高速測定分光放射計 (OL-770, Optronic Laboratories) を用いて順電流 20mA にて測定した. 5.3 結果 107 表 5.1 合成した試料の設計組成. composition parameter composition (wt%) No. x y m n Si3 N4 AlN CaCO3 Eu2 O3 EU002 0.875 0.02 1.81 0.905 68.20 17.48 13.76 0.55 EU003 0.875 0.03 1.84 0.920 67.71 17.73 13.73 0.83 EU004 0.875 0.04 1.87 0.935 67.23 17.98 13.69 1.10 EU005 0.875 0.05 1.90 0.950 66.75 18.23 13.66 1.37 EU006 0.875 0.06 1.93 0.965 66.26 18.47 13.62 1.65 EU007 0.875 0.07 1.96 0.980 65.78 18.71 13.59 1.91 EU008 0.875 0.08 1.99 0.995 65.30 18.96 13.56 2.18 EU009 0.875 0.09 2.02 1.010 64.83 19.20 13.53 2.45 EU010 0.875 0.10 2.05 1.025 64.36 19.44 13.50 2.71 EU011 0.875 0.11 2.08 1.040 63.88 19.67 13.47 2.98 CA082 0.820 0.07 1.85 0.925 67.46 17.79 12.83 1.92 CA084 0.840 0.07 1.89 0.945 66.84 18.12 13.12 1.92 CA086 0.860 0.07 1.93 0.965 66.23 18.46 13.39 1.92 CA088 0.880 0.07 1.97 0.985 65.62 18.80 13.67 1.91 CA090 0.900 0.07 2.01 1.005 65.02 19.13 13.94 1.91 CA092 0.920 0.07 2.05 1.025 64.42 19.46 14.22 1.90 CA094 0.940 0.07 2.09 1.045 63.83 19.78 14.49 1.90 CA096 0.960 0.07 2.13 1.065 63.24 20.12 14.76 1.89 5.3 結果 5.3.1 蛍光体の Eu 濃度 第 1 の実験は, 共添加元素である Ca イオンと, 付活元素である Eu イオンとの濃度が 発光波長に与える影響について検討するためのものである. 2 つの系列の試料の仕込み組成と出発原料の混合比を表 5.1 に示す. x 値は Ca 濃度を, y 値は Eu 濃度をそれぞれ表しており, 仕込み組成 Cax Euy Si12−1.5m Al1.5m O0.5m N16−0.5m においてそれぞれ独立に変化させている. EUXXX 系列の試料では, x 値を 0.875 に固定 し y 値を 0.02 から 0.11 まで変化させている. 一方, CAXXX 系列の試料では, y 値を 0.07 に固定し x 値を 0.82 から 0.96 まで変化させている. 108 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 50% Ca, nominal Eu, nominal Si, nominal Al, nominal O, nominal N, nominal Ca, measured Eu, measured Si, measured Al, measured O, measured N, measured Si 40% N 30% 20% Al 10% 0% 1.75 Ca O Eu 1.80 1.85 1.90 1.95 2.00 2.05 2.10 2.05 2.10 2.15 m value (a) 50% Si 40% N 30% 20% 10% 0% 1.80 Al Ca O Eu 1.85 1.90 1.95 2.00 m value (b) 図 5.1 重量比による仕込み組成及び合成後の化学組成定量分析結果. (a) EUXXX 系 列試料, (b) CAXXX 系列試料. 焼結後, すべての試料について粉末 X 線回折パターンを測定し, ICDD-JCPDS カード の No. 33-0261 と比較した結果, いずれも α-SiAlON 単相となっていることが確認さ れた. β-SiAlON, CaAlSiN3 や AlN-polytype といった第 2 相の生成はみられなかった [17][18]. 格子定数 a 及び c を算出したところ, m 値の増加に従ってほぼ直線的に増加し ており, EUXXX 系列と CAXXX 系列とで差異は認められなかった. 図 5.1 の (a) 及び (b) は, EUXXX 系列及び CAXXX 系列の各試料の, 重量比による 仕込み組成及び合成後の化学組成定量分析結果である. EUXXX 系列試料の陽イオンにつ いては, 分析結果は仕込み組成と良く一致している. 分析結果の仕込み組成に対するずれ の平均値は, Ca, Eu, Si 及び Al のそれぞれについて 0.01 wt%, 0.00 wt%, −0.87 wt% 及び −0.39 wt% にすぎない. 一方, 陰イオンについては, 酸素/窒素比の測定結果は仕込 5.3 結果 109 Emission (λexc=450nm) Normalized Intensity [a.u.] y = 0.11 y = 0.07 y = 0.02 250 図 5.2 Excitation (λmon=585nm) 350 450 550 Wavelength [nm] 650 試料 EU002, EU007 及び EU011 の励起・発光スペクトル. 励起スペクトル 測定時の発光モニタ波長は 585 nm, 発光スペクトル測定時の励起波長は 450 nm であ る. y 値は仕込み組成の Eu 濃度を表す. み組成と若干異なる結果となった. 平均での濃度のずれは O について 2.01 wt%, N につ いて −1.86 wt% であった. 酸素濃度がほぼ 2 倍になっている. 実験の章で述べたように, Eu イオンは高圧窒素環境下での焼結中に 3 価から 2 価に還元されていることから, む しろ 酸素/窒素比は減少しているものと考えられた. しかし, 実際には結果は反対であっ た. これに似た結果は, これまでに Eu 添加 Y–Si–Al–O–N ガラスについての報告がある [19]. 6Eu3+ が 2N3− との反応により 6Eu2+ に還元され, N2 が気体として放出されると いうものである. このメカニズムによれば, 窒素成分の減少は説明できそうである. また, Eu イオン周囲の局所的な酸素/窒素比は, 平均値と比較して低くなっているであろうと思 われる. CAXXX 系列の試料についてもほぼ同様の結果が得られた. 分析結果の仕込み 組成に対するずれの平均値は, Ca, Eu, Si, Al, O 及び N のそれぞれについて 0.03 wt%, −0.01 wt%, −0.94 wt%, −0.06 wt%, 2.07 wt% 及び −1.60 wt% であった. C の混入量 は, EUXXX 系列と CAXXX 系列のいずれの試料においても平均で 0.06 wt% と十分低 い値であった. 発光モニタ波長を 585 nm に設定して励起スペクトルを, また励起波長を 450 nm に 設定して発光スペクトルを測定した. すべての試料において, これまでに報告された Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体と同様に, 紫外域 (ultraviolet, UV) から青色域にかけて双峰性 110 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 Dominant Wavelength [nm] 584 583 582 581 580 579 578 577 1.80 1.90 2.00 2.10 m value 図 5.3 仕込み組成 (m 値) に対する発光主波長. 黒点は試料 EU002–EU011 を, 白点 は CA082–CA096 を示す. m value Normalized Intensity [a.u.] 1.78 1.2 1.84 1.90 1.96 2.02 2.08 0.05 0.07 0.09 0.11 1.1 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.01 0.03 Eu concentration (y value) 図 5.4 仕込み組成に対する規格化発光強度. EUXXX 系列の試料のピーク発光波長に おける規格化発光強度の平均値, 最大値及び最小値. 各組成について 4 バッチを測定し た. 励起波長は 450 nm である. の大変広い励起帯域と, 橙色の幅の広い発光ピークとが観測された. 図 5.2 に, EU002, EU007 及び EU011 の 3 試料について励起スペクトルと発光スペクトルを示す. 仕込み組 成の Eu 濃度が増加するのに伴って発光波長の赤方偏移が見られるが, ピーク励起波長に ついてはほとんど変動が無く, このことはすなわちストークスシフト量の増大を同時に示 唆している. なお, 293 nm に見られる狭いピークは, 励起光カットフィルタを用いなかっ たために発光モニタ波長の 585 nm に対応して励起光の影響が測定されたものである. 図 5.3 に, EUXXX 系列と CAXXX 系列の試料それぞれの発光主波長を示す. 線幅の 5.3 結果 111 100% QEint Absoption QEext 80% 60% 40% 20% 0% 0.01 0.03 0.05 0.07 0.09 Eu concentration (y value) 0.11 図 5.5 EUXXX 系列の試料の仕込み組成に対する内部量子効率 (•), 吸収率 (△) 及び 外部量子効率 (◦). 励起波長は 450 nm である. 広い発光スペクトルを有する蛍光材料においては, 発光色を評価するのにピーク発光波 長よりも発光主波長を用いることが適している. CIE1931 色度図上で, 白色点 (0.3333, 0.3333) から当該色度座標 (x, y) に引いた直線を外挿した線と単色スペクトル軌跡とが交 差した点の単色光波長が発光主波長であると定義される. ある意味では, 発光主波長は (x, y) に一番近い色の単色光を示していると言える. 色度座標 (x, y) は発光スペクトルの分 布から計算される. 図 5.3 より, この蛍光体の発光主波長は m 値の増加に従って増加して いる. 興味深いのは, EUXXX 系列の試料の傾斜は CAXXX 系列の試料に対して 11 倍 にもなることである. 基本的には, 発光波長は Eu2+ の局所的な配位構造に依存し, それ は m 値に依存しているものと考えられるが, しかし Eu2+ 濃度が明らかに更なる影響を 与えている. 見方を変えれば, 同一の m 値に対して, 高い Eu イオン濃度が発光波長の赤 方偏移を引き起こしていると見ることができる. EUXXX 系列の試料のピーク発光波長における発光強度の平均値, 最大値及び最小値を 図 5.4 に示す. 各組成について 4 バッチずつ測定した. 混合した出発原料はルツボに収容 する前に試験用篩を用いて造粒したが, この時開口径 63 µm と 125 µm の 2 種類の篩を 用いた. 発光強度は粒径の影響を受けるものであるが, この場合にはバッチ間のばらつき の方が大きかった. 焼結後の粉砕工程における外力に起因する劣化がばらつきの一因と考 えている. 発光強度は仕込み組成の Eu 濃度の y 値が 0.03 から 0.08 の試料で大変高かっ た. y ≥ 0.09 の試料では濃度消光が見られた. y = 0.02 の試料でも, Eu イオン量が少な いことから発光強度は低かった. これまでに報告された Eu 濃度の最適値は y = 0.075 で あり [10], 今回の実験結果とほぼ同等である. 112 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 0.50 Spectrum locus Thin Thick 0.45 y JIS Chromaticity Limits Blackbody locus 0.40 0.35 0.30 0.35 0.40 0.45 x 0.50 0.55 図 5.6 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた発光ダイオードランプの色度軌跡. 同一の 蛍光体を用い, 透明樹脂中の蛍光体濃度を変えて 2 系列発光ダイオードランプを製作し た. 各発光ダイオードランプの蛍光体含有樹脂の塗布量を変化させ, それぞれの系列に ついて CIE1931 色度図上の色度軌跡を描画した. 図 5.5 に, 励起波長 450 nm に置ける EUXXX 系列の試料の内部量子効率, 吸収率及び 外部量子効率を示す. 各組成について 1 バッチを測定した. 内部量子効率は y = 0.02 で 一番高く, Eu 濃度の増加に伴って単調に減少する. 反対に, 吸収率については Eu 濃度の 増加に伴って増加する傾向が見られる. 5.3.2 樹脂中の蛍光体濃度 第 2 の話題は, 蛍光体を波長変換材料として用いる白色発光ダイオードランプの発光特 性についてである. 蛍光体の塗布状態によって, 蛍光体から発せられる黄色光の発光波長 シフトが観測された. この種類の白色発光ダイオードランプは, InGaN 半導体青色発光ダイオード素子と蛍光 体被覆とからなる. 蛍光体を透明な樹脂に分散させ, それを青色発光ダイオード素子を被 覆するように塗布する. この白色発光ダイオードランプからの発光色は, 青色光と, 黄色な ど蛍光体からの発光色との混色となる. CIE1931 色度図上の色度座標 (x, y) は, 青色点か ら蛍光体の発光色までを結ぶ軌跡を描く. 図 5.6 に, 発光ダイオードランプの色度座標軌 跡, 単色スペクトル軌跡, 黒体輻射軌跡及び日本工業規格 (Japanese Industrial Standard, 5.3 結果 113 0.50 LED Phosphor 580.0 nm 584.5 nm 0.45 y Spectrum locus Blackbody locus 0.40 JIS Chromaticity Limits 0.35 0.30 0.40 0.45 0.50 x 0.55 0.60 図 5.7 過剰な量の蛍光体を塗布した発光ダイオードランプの色度軌跡. 蛍光体含有樹 脂の塗布量を変化させて発光ダイオードランプを製作し, さらに過剰な量の塗布を実施 した. JIS) Z 9112[20] に定められた蛍光ランプの色度範囲を表す四角形とを示す. 蛍光体の塗 布総量を精密に制御できた場合, 発光ダイオードランプの色度座標をちょうど黒体輻射軌 跡上に載せることあるいは JIS の色度範囲内におめさることが可能であり, この場合に 「白色」発光ダイオードランプということになる. 制御すべきパラメータとしては, 樹脂中 の蛍光体の濃度と, 発光ダイオード素子を被覆するように塗布する樹脂の量との 2 つがあ る. 図 5.6 には 2 系列の発光ダイオードランプの色度座標軌跡を示した. これらは, 樹脂 中の蛍光体濃度を 2 種類としたものであり, それぞれについて蛍光体含有樹脂の塗布量を 変化させた複数の発光ダイオードランプを製作して色度変化の軌跡を描画した. 両方の系 列には同一の蛍光体を用いたにもかかわらず, 濃度の濃いものの軌跡は薄いものと比較し て明らかに右側にシフトしている. これは, 樹脂中の蛍光体濃度の上昇により発光波長の 赤方偏移が引き起こされているものと考えられる. 結果として, 蛍光体濃度の薄い樹脂を 用いた白色発光ダイオードランプと比較して濃い樹脂を用いたものでは相関色温度が低い 白色発光ダイオードランプが得られることとなる. 114 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 5.3.3 蛍光体被覆層の量 第 3 の実験は, 第 2 の実験に対する付加的検討である. 白色発光ダイオードランプに対 して, さらに過剰な量の蛍光体を意図的に塗布した. 通常であれば, 前述したように, 発光 ダイオードランプの色度座標 (x, y) は青色発光ダイオード素子の色度座標と黄色蛍光体 の色度座標とを結ぶ線上で変化するはずである. しかし, この事例では, 発光ダイオードラ ンプの発光色は過剰な量の蛍光体塗布により長波長側にシフトした. 図 5.7 に示したよう に, 発光ダイオードランプの発光主波長は蛍光体の発光主波長に対して 4.5 nm も長波長 であった. 5.4 考察 2 価のユーロピウムのエネルギー準位は既知である [21][22]. G.H. Dieke によれば, Eu2+ イオン (と Gd3+ イオン) の準位の数は 4f 7 電子配置では 327, 4f 6 5d 電子配置では 2,665 である. Eu2+ の基底状態は 4f 7 (8 S7/2 ) 電子配置である. 図 5.8 の左側に示したよ うに, フリーイオンの場合, 4f 7 (6 P7/2 ) 準位が約 28,000 cm−1 に, 4f 6 5d 準位が上方の約 41,000 cm−1 にある. 多くの結晶では, 4f 6 5d の低い準位は 4f 7 (6 P7/2 ) 準位よりも低く なる. 以前我々が白色発光ダイオードランプ用の青色励起黄色発光蛍光体として報告した Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体 [11] の励起・発光スペクトルを, 図 5.8 の中央部及び右側にそれ ぞれ示す. この蛍光体の仕込み組成は Ca0.875 Si9.06 Al2.94 O0.98 N15.02 :Eu0.07 である. 窒 素ガス加圧 0.5 MPa, 焼結温度 1,700◦ C で 50 h 保持し合成した. 励起スペクトルは発光 モニタ波長 585 nm で, また 発光スペクトルは励起波長 450 nm で測定したものである. 発光スペクトルは 585 nm(17,100 cm−1 ) に半値全幅 (FWHM)93 nm の線幅の広い単 峰性のピークが見られた. 励起帯域は紫外域から青色域まで大変広いものであった. これ らの通常よりも長波長である励起帯域及び発光帯域は, α-SiAlON 中の窒素原子リッチな Eu2+ イオン周囲の配位状態により引き起こされた nephelauxetic 効果と 5d 軌道の配位 子場分裂が大きいことに由来すると考えられる [9][16]. 配位子は主に窒素原子であるが, 一部酸素原子に入れ替わる場合があり, 結合性の変化から nephelauxetic 効果の大きさや d 軌道全体のエネルギーが変化し, また対称性や電場の変化から配位子場効果も変化する. 励起スペクトルは, 約 300 nm(33,500 cm−1 ) と 450 nm(22,300 cm−1 ) との 2 波長に線 幅の広いピークを有する. これらの帯域は 4f 7 → 4f 6 5d 遷移による吸収に帰属できる. 5 重に縮退した 5d 軌道は, 立方対称場においては t2 軌道と e 軌道とに分裂する. α-SiAlON 母相中の Eu2+ は, Ca2+ と同じく空隙サイトを占め, 周囲に 7 つの (N, O) 原子が 3 種類 の結晶学的に異なるサイトを占める配位状態となっている [16][23] こと, またこの蛍光体 5.4 考察 115 50000 (a) Free ion levels 4f65d (b) Excitation spectrum and corresponding levels 40000 5d 4f6 -1 Energy level [cm ] e 30000 7 7 6 Fj (j=0-6) 4f ( P7/2) t2 (c) Emission spectrum 20000 10000 0 4f7 (8S7/2) Ground level 図 5.8 2 価のユーロピウムのエネルギー準位. フリー Eu2+ イオンのエネルギー準位, Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の励起・発光スペクトル及び励起スペクトルに対応する準位 を示す. の励起スペクトルには「肩」が見られる場合があることから, 厳密には 2 よりも多くの準 位に分裂しているものと考えられるが, 簡単のために, ここでは 2 つの軌道に分裂するも のと仮定して以下の議論をすすめる. この試料の励起スペクトルには, 青色光領域の 449 nm に明確なピークが見られる [11]. ユーロピウムで付活した SiAlON 蛍光体では, 多くの試料でこの波長にピークまたは肩が 観測される. 他の窒化物蛍光体について言えば, 例えば CaAlSiN3 :Eu2+ も同様に 450 nm にピーク励起波長を有している [14]. このピーク (または肩) は 4f 6 5d(t2 ) 励起準位の中 の 4f 6 電子配置の 7 つの 7 FJ 準位への分裂に帰属される微細構造による影響である可 能性が考えられる [24][25]. X. Zhang らによれば, 励起波長 449 nm(22,282 cm−1 ) は Ca8 Mg(SiO4 )4 Cl2 母相中の Eu2+ の 8 S7/2 → 4f 6 (7 F3 )5d(t2 ) 遷移に対応する. Ca-α- SiAlON:Eu の励起ピーク波長 449 nm も, 7 FJ 電子配置のうちの一つに対応しているこ とが考えられる. 励起・発光機構に関するさらなる知見を得るために, 様々な励起波長でこの蛍光体の発 116 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 Peak emission intensity [a.u.] 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 Peak emission wavelength [nm] 0.0 620 610 600 590 580 Range 1 Range 2 Range 3 570 240 280 320 360 400 440 480 520 560 Excitation wavelength [nm] 図 5.9 Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体の様々な励起波長に対するピーク発光強度及び波長. 光スペクトルを測定してみた. 図 5.9 は, 励起波長 240 nm から 560 nm におけるそれぞ れのピーク発光波長と, その時の発光強度である. 図 5.8 に示した試料と同一のものを用 いた. 発光ピーク強度のグラフは, 励起スペクトルに類似した 2 つの線幅の広いピークを 有する. しかし, 発光ピーク波長のグラフは, 励起から発光までのエネルギー遷移経路に 3 種類の機構があることを示唆している. グラフの傾きは, 360 nm まで, 360–500 nm と 500 nm 以上の 3 つの波長領域で劇的に変化している. 図 5.9 の range 1 の波長域では, 励起波長が増加すると発光波長が減少するという奇妙 な現象が観測された. このレネルギーレベルの逆転は, 非輻射遷移過程と発光過程との組 み合わせにより生じたものと考えられる. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体研究の初期の段階で は, 励起スペクトルの青色光領域のピークが 4f 7 → 4f 6 5d 遷移に帰属されるのに対し, 紫 外光領域のピークは母相の吸収に帰属されるものと考えられていた [9][10][17]. 拡散反射 スペクトルを測定すると母相の吸収端が 300 nm より若干短波長側にあらわれるので, 励 起スペクトルの 300 nm 付近のピークはこの吸収端と深く関係しているとする仮説が受 5.4 考察 117 E e Total Energy B 6 4f 5d C Excited State t2 D excitation 240-360 nm emission 580-590 nm 4f7 Ground State E A R0 (a) Configurational Cooridate Case Case R Case e e e 5d t2 t2 t2 Ground State (b) 図 5.10 紫外光の吸収から黄色光の発光までの経路にかかわる (a) 配位座標モデルの 模式図と (b)5d 軌道の分裂の大小による準位の逆転の模式図. け入れられていた. しかしながら, 図 5.9 において range 1 の長波長側の境界は 360 nm であることから, 前述した励起スペクトルの 2 つのピークはいずれも 4f 7 → 4f 6 5d に帰 属するものと解すべきであると考えられる. また, 参考文献 [10] の図 2 を見る限りでは, 母相の吸収端は 280 nm 付近であるが, 図 5.9 ではその波長における変化は見られない. この系の機構を理解するためには, 配位座標モデルが好適である. この機構の配位座標 モデルによる模式図を図 5.10(a) に示す. 紫外光による励起が A → B の過程に対応し, こ れにより 4f 6 5d(e) に励起される. エネルギーレベルの逆転は, 4f 6 5d(e) から 4f 6 5d(t2 ) への C → D の過程の非輻射遷移によって起きるものと考えられる. Eu2+ の占めるサイ 118 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 E Total Energy 4f65d Excited State F D emission 580-590 nm excitation 360-490 nm 4f7 Ground State A R0 E Configurational Cooridate R 図 5.11 青色光による励起にかかわる配位座標モデルの模式図. 2 本の垂直の矢印はそ れぞれ青色光の吸収と黄色光の発光を表す. トは Ca2+ と同様の空隙サイトの 1 種類のみであるが, 周囲の (N,O) 原子の組み合わせに より配位子場の状態が若干異なる多くのバリエーションが生じる. これらの違いが 5d 軌 道の t2 軌道と e 軌道への分裂の大小に影響すると考えることにより, エネルギーレベル の逆転について説明することが可能である. 模式図を図 5.10(b) に示す. 分裂の大きさが 大・中・小であるバリエーション α, β 及び γ の存在を仮定する. α では, 4f 6 5d(eα) への 励起 A → Bα が β における 4f 6 5d(eβ) への励起 A → Bβ や γ における 4f 6 5d(eγ) への 励起 A → Bγ に比して短波長となる. 一方で α における発光は Cα → Dα の過程による 4f 6 5d(eα) から 4f 6 5d(t2 α) への非輻射遷移を経て, Dα → Eα の過程で発光するが, この 時の発光波長は β における 4f 6 5d(t2 β) からの発光や γ における 4f 6 5d(t2 γ) からの発光 と比較して長波長となる. なお, 4f 6 5d(t2 ) 励起状態から 4f 7 基底状態への遷移による発 光は, 図 5.9 の range 2 で観測されるのとほぼ同様である. 図 5.9 で range 1 と range 2 のピーク発光波長は 360 nm を中心にほぼ対称となっているが, この 360 nm という波長 が 5d 軌道の重心位置に対応するものと考えられる. 図 5.9 に range 2 として示した 360 nm から 500 nm までの波長範囲では, 発光ピーク 波長は励起波長の増加に伴って単調に増加している. 多くの場合, この蛍光体は, この波 長範囲の発光ダイオード素子とともに白色発光ダイオード用として用いられる. 例えば, 405 nm あるいは 450 nm の発光ダイオード素子が一次光源として用いられる. 図 5.11 に, 図 5.9 の range 2 に対応する配位座標モデルの模式図を示す. 低い方のポテ ンシャル曲線は基底状態 4f 7 (8 S7/2 ) の, 高い方は励起準位 4f 6 5d の総エネルギー量をそ 5.4 考察 れぞれ表す. 2 つの状態のそれぞれの平衡点は, 電子軌道の空間分布の違いから異なる位 置となる. A から F への矢印は, 4f 7 電子配置から 4f 6 5d 電子配置への遷移に対応する青 色 (もしくは青紫色) 光の吸収を示す. 続いて F から平衡点 D へ緩和が起き, D → E の発 光過程を経て E → A の緩和過程となる. 白色発光ダイオードランプでは, 450 nm 周辺の 青色光による励起が A → F の過程に対応し, 585 nm 周辺の黄色光の発光が D → E の過 程に対応する. 発光スペクトルは FWHM が 93 nm と線幅の広いものである. 発光のス ペクトル幅は, どの局在中心も等しくもっているフォノン遷移によるスペクトル線の広が りである均一広がりによる均一幅と, 局在中心によって遷移エネルギーにばらつきがある ことから統計的な広がりが生じる不均一広がりによる不均一幅とから決まる [26] が, 周囲 の (N,O) 原子の組み合わせのバリエーションが不均一広がりの起源になると考えられる. 図 5.9 に range 3 として示した励起帯域は, 明らかにこの蛍光体の発光域とオーバー ラップしている. よって, この波長域では, 発光に対する再吸収が発生することになる. 図 5.12(a)(b) に, この長波長域における再吸収・再発光の模式図に関する 2 通りの仮説を 示す. (a) は, 不均一広がりにより range 3 に相当するエネルギーレベルの低い準位もまた 存在すると考えた場合の模式図である. この場合, range 2 と同様の機構であって, A → F’ の励起過程, G → H の発光過程がそれぞれ range 2 の場合よりも長波長となる. (b) は range 3 がいわゆるフォノンサイドバンドであると考えた場合の模式図である. 図 5.11 には D → E の経路が発光過程として描かれているが, しかし, 基底状態にある電子のう ち一定の数量が室温においても熱的ゆらぎによって E’ の位置になることから, 一定の確 率で E’ → D’ の経路での吸収が発生する. E’ の位置から再吸収過程により D’ のエネル ギー準位まで励起された電子は, 熱的ゆらぎなどに由来する非輻射遷移によって, G’ の位 置に到達し, G’ → H’ の経路で発光する. なお, 図 5.9 の range 3 として示した波長域の ピーク発光波長の傾きは range 2 と比較して急であることから, いずれの仮説を採用した 場合であっても図 5.12(a)(b) に示すように range 2 とは若干分布の異なる軌道群の存在 が示唆されているものと考えられる. 発光強度は range 3 では低下しており, 再吸収確率 はそれほど高くは無いと言える. A → B 及び A → F に加えて, D と E とのエネルギーレベル差に相当する A → F’ ま たは E’ → D’ を「仮想準位」として扱うことが可能である. これにより, 複数の Eu2+ イ オン間でのエネルギー伝達は図 5.13 に示した模式図のように表すことができる. 蛍光体 の測定及び発光ダイオードランプの測定において得られた全ての発光スペクトル測定結果 は, いずれも D → E 遷移過程による発光と G → H 遷移過程 (または G’ → H’ 遷移過程) による発光との和であると理解すべきものである. 第 1 の実験において, 発光波長の赤方 偏移の度合いは, α-SiAlON 結晶中の Eu 濃度の増加に伴って増加していたが, これは単 位体積当たりの (あるいはトータルの)Eu イオン数の増大により再吸収確率が増加したた めと考えられる. ここで, Ca-α-SiAlON 中の Eu2+ イオンの, 再吸収による発光を除いた 119 120 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 E Total Energy 4f65d Excited State F D F' G reabsorption 490-590 nm emission 590-620 nm 4f7 Ground State H A R0 (a) Configurational Cooridate R E Total Energy 4f65d Excited State F D D' 4f7 Ground State reabsorption 490-590 nm E' (b) R0 G' emission 590-620 nm H' Configurational Cooridate R 図 5.12 黄色光の再吸収からより長波長での再発光までの経路にかかわる配位座標モ デルの模式図. 本来の発光スペクトルについて考察してみることにする. 図 5.3 で, EUXXX 系列の試料 について, 発光主波長の近似直線を外挿して Eu 濃度 0 に対応する m = 1.75 における切 片を求めると, 577.2 nm となる. 第 2 の実験の場合には, 蛍光体には同一のものを用いた ため蛍光体材料中の Eu 濃度は同一であったが, 透明樹脂中の蛍光体濃度を変化させた. その結果, 青色発光ダイオード素子から白色発光ダイオードランプのパッケージの外部に 至るまでの光路中において再吸収確率が増加したこととなった. 外側に配置された蛍光体 5.4 考察 121 50000 Pseudolevel of 1st Eu2+ 220 nm 2nd Eu2+ 40000 -1 Energy level [cm ] Range 1 30000 360 nm Range 2 20000 500 nm Range 3 Reemission (red-shift) Energy Transfer Reabsorption 10000 Yellow light emission Blue light excitation 700 nm Ground level 0 図 5.13 Eu2+ の仮想準位と Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体中の 2 つのイオン間でのエネ ルギー伝達にかかわる模式図. 粉末粒子は, 青色発光ダイオード素子付近の内側に配置された粒子からの発光を吸収する. その結果として, 和として得られる全体としての発光は長波長化する傾向を示す. 第 3 の 実験は, 同一の蛍光体を用い, 樹脂中の蛍光体濃度も同一にして, 蛍光体分散樹脂の塗布量 を変化させて実施した. その結果, 塗布量を多くした試料では, 第 2 の実験で樹脂中の蛍 光体濃度を濃くした場合と同様, 光路中での再吸収確率が増加したわけである. 最後に, 発光強度について議論する. 希土類イオンで付活した蛍光体に関する多くの論 文では, 最高の発光強度を得るために最適付活元素濃度について議論している. 再吸収に よるエネルギー伝達が発光強度に多大な影響を与えることは良く知られており, そのため 付活イオンの濃度消光が議論される際には 2 つの付活イオン間の距離が議論の対象とされ る. α-SiAlON 蛍光体について言えば, 付活イオンは空隙サイトに侵入型固溶するので, 付 活イオン間距離は必然的に遠くなるものと期待されていた. しかしながら, 本章に示した 種々の実験結果によって, 再吸収による発光波長の赤方偏移は, 蛍光材料中の付活イオン 濃度のみに依存するものではなく, 光部品の構造, 言い換えれば, 一次光源から受光器 (ま たは観察者) までのトータルの光路中に存在する付活イオンの量にも依存するものである 122 第 5 章 Eu 原子の再吸収機構による発光波長の赤方偏移 ことが明らかとなった. よって, 発光ピーク波長, 発光主波長あるいは発光スペクトルから 決定される付活イオンの最適濃度といった蛍光分光光度計によって測定される数々の蛍光 体の光学特性は, 蛍光体粉末の粒径・形状や測定系の構成によっても影響されるものであ るということが考慮される必要がある. 以上の結果から, 蛍光体の要求仕様を議論するにあたっては, パッケージ構造まで注意 深く考慮して蛍光体の光学特性を評価することが推奨される. 当該蛍光材料が実際に使用 される環境に類似した測定系を用意することが望ましいと言える. 5.5 結言 2 価のユーロピウムで付活した Ca-α-SiAlON の光学特性について検討し, その励起・発 光スペクトルについて議論した. 発光波長は, 同一の母相組成 Si12−(m+n) Alm+n On N16−n に対して, 共添加固溶元素 Ca の濃度を振った場合よりも付活元素である Eu の濃度を 振った場合の方が影響が大きかった. Eu 濃度の増大に伴い発光波長の赤方偏移が大きく なった. さらに, 発光波長の赤方偏移は光部品のパッケージ構造によっても引き起こされること が明らかとなった. Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体を用いた白色発光ダイオードランプは, 一次 光源である青色発光ダイオード素子を被覆する透明樹脂中の蛍光体粉末濃度が濃くなる と, 赤方偏移によって相関色温度が低くなった. 白色発光ダイオードランプに意図的に過 剰な量の蛍光体を塗布した場合には, さらなる赤方偏移が観測された. 波長 360 nm から 500 nm の青紫色及び青色の励起帯域では, ピーク発光波長は励起波 長の増加とともに単調に増加した. 励起波長が 500 nm よりも長い場合には, その増加率 の傾斜は急激なものとなった. この長波長側の励起帯域はこの蛍光体の黄色の発光波長域 とオーバーラップしており, そのせいで発光の再吸収が発生しているものと考えられる. これらの, 高い Eu 濃度あるいは多量の蛍光体塗布により引き起こされる発光波長の赤方 偏移は, 古典的な配位座標モデルによって説明が可能である. 励起帯域が自身の発光帯域とオーバーラップしている蛍光体においては, 再吸収により 赤方偏移が起きることから, その光学特性は蛍光体粉末の組成や粒径・形状に依存するの みならずその蛍光体を用いた光部品のパッケージ構造にも依存している. 123 参考文献 [1] The Japan Research and Development Center of Metals’ National Project on Light for the 21st Century: Year 2000 Report of Results [2] T. Taguchi, “Present Status of White LED Lighting Technologies in Japan,” J. Light & Vis. Env., vol. 27, no. 3, pp. 131–139 (2003) [3] K. Bando, K. Sakano, Y. Noguchi, and Y. Shimizu, “Development of High-bright and Pure-white LED Lamps,” J. 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Soc., vol. 139, pp. 622– 625 (1992) [26] 櫛田孝司, “光物性物理学,” p. 103, 朝倉書店 (1991) 126 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへ の応用 6.1 緒言 青色発光ダイオード (Light-Emitting Diode, LED) は, 長年に渡ってその実現が待ち 望まれた技術であった. すでに赤色 LED と緑色 LED は実現されており, 青色 LED が実 現されればフルカラー LED ディスプレイが実現可能だったからである. 最初の p-n ジャ ンクション型青色 LED が動作したのは 1989 年のことであり, 1993 年には最初のカンデ ラ級高輝度窒化物青色 LED が商用化された [1][2][3]. 今日, フルカラー LED ディスプレ イは, ビル壁面などに設置され広く普及している [4]. 青色 LED 開発の成功は, 固体照明 の時代への幕開けでもあった. 旧来の電球を半導体光源に置き換えていくことによる一般 照明用途で消費される電力の削減に大きな期待が寄せられている. 長寿命であり, 水銀を 使用しないという特徴もまた環境負荷の低減に貢献するものである [5][6]. 白色 LED ラン プの発光効率はすでに白熱電球を凌駕している. 現時点で, 我々はデスクランプ, 懐中電灯 など様々な白色 LED ランプが日常生活の中で使用されているのを見ることができる. 白 色 LED ランプの発光効率は近い将来蛍光体を超えると予想されており, 従来の照明器具 を置き換える存在になるものと考えられている. 半導体 LED 素子から白色光を得るには, いくつかの方式がある. 基本となる方式は 赤, 緑及び青の 3 個の半導体 LED 素子を用いて白色 LED ランプを構成することである. この方式ならば, 白色のみならず任意の色が出せる. この方式の LED ランプは, 前述し たフルカラー LED ディスプレイ装置に加えて, 大型液晶ディスプレイ (Liquid Crystal Display, LCD) 装置のバックライトユニットや, 携帯電話のイルミネーションランプなど に用いられている. この方式の欠点は高コストになることである. 赤, 緑及び青の LED そ れぞれの駆動電圧は異なっている. 温度特性や劣化傾向もまたそれぞれ違っている. この 6.2 酸窒化物・窒化物蛍光体 127 ため, この方式によって安定して白色光を得るためには, 受光器とフィードバック回路と が必要となり, 駆動回路は複雑なものになりがちである. 固定色度の白色 LED ランプを低コストで実現する大変優れた方法として, 青色 LED 素子と青色光で励起可能な黄色蛍光体とを組み合わせる方法がある. 黄色光は青色 光の補色であることから, この 2 色混色型の LED ランプは白色を呈する. 現在は (Y,Gd)3 (Al,Ga)5 O12 :Ce 黄色蛍光体 (YAG:Ce と略す) が主に使用されている [4][7]. ほ とんどの携帯電話用の小型 LCD 用バックライトユニットがこの方式の白色 LED ランプ を採用している. これまでに, 蛍光体を混合した 3 色混色型あるいは 4 色混色型の LED ランプについて も報告がある. 一例として, 青色 LED 素子, SrGa2 S4 :Eu2+ 緑色蛍光体と SrS:Eu2+ 赤色 蛍光体の組み合わせが提案されている [8]. 白色 LED ランプ用の励起光源としては, 近紫 外 (ultraviolet, UV) LED 素子もまた使用可能である. 近紫外 LED 素子, 橙色, 黄色, 緑 色と青色の蛍光体を用いた 4 色混色型の白色 LED ランプも提案されている [9]. ここ 10 年の間に, 白色 LED ランプ用として適した新規蛍光体を開発しようという多く の試みがあった. 検討対象となった蛍光体の多くは硫化物か酸化物であった. それらは目 的に応じた光学特性を示す場合もあったが, しかしながら長期信頼性あるいは高温での特 性安定性という観点では問題があることが少なくなかった. 蛍光体研究の分野においては, 近年酸窒化物及び窒化物蛍光体が注目を集めている. こ れら新規蛍光材料のうちのいくつかは, 白色 LED ランプ用途に適した特性を有している. 長期信頼性及び高温安定性においても従来の蛍光体よりも優れている. 本章では, 新たに開発された白色 LED ランプ用の酸窒化物・窒化物蛍光体を紹介する とともに, これを用いた様々な相関色温度の高演色型白色 LED ランプについての試作・ 検討結果を報告する. これら酸窒化物・窒化物蛍光体を用いた LED ランプは既存の問題 を解決し電子ディスプレイや一般照明分野への LED ランプの普及を牽引するものと期待 される. 6.2 酸窒化物・窒化物蛍光体 図 6.1 は, 波長 365 nm のブラックライトで励起した酸窒化物・窒化物蛍光体の写真で ある. いずれも UV 光励起下で強い発光を放っていることがわかる. 赤色蛍光体は, K. Uheda らが 2003 年に報告した CaAlSiN3 :Eu(通称「カズン」) であ る [10][11]. 励起帯域は UV 域から可視の緑色領域まで極端に広い. 発光ピーク波長は約 650 nm であり既存の赤色蛍光体と比較して発光強度も大変高い. 黄色蛍光体は, 2002 年に R.-J. Xie らと J.W.H. van Krevel らがそれぞれ独立に報告 した Ca-α-SiAlON:Eu 蛍光体である [12][13]. これの励起帯域もまた UV 域から可視の青 128 第6章 図 6.1 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 ブラックライト (365 nm) 照射によって励起された酸窒化物・窒化物蛍光体. 色領域までと広い. 発光ピーク波長は約 585 nm であり, 黄色から橙色までの広い範囲で 調整可能である. 青色 LED 素子と共に使用することで, 温かみのある白色の白色 LED ラ ンプを実現可能である [14][15]. 発光強度は, 市販されている既存の黄色蛍光体を凌駕して いる. 緑 色 蛍 光 体 は, N. Hirosaki ら が 2005 年 に 報 告 し た β-SiAlON:Eu 蛍 光 体 で あ る [16][17]. これもまた UV 光に加え青色光でも励起可能である. 発光ピーク波長は約 540 nm である. これら 3 種の蛍光体は, 450 nm の青色光による励起で十分な発光強度を有しており, 白 色 LED ランプ用蛍光体として最適である. UV 光で励起可能な青色蛍光体も開発されている. これは, UV LED 素子を用いた白色 LED ランプ用に用いることができる. これら酸窒化物・窒化物蛍光体の合成手順を図 6.2 に示す. 例えば Ca-α-SiAlON:Eu は, Si3 N4 , AlN, CaCO3 及び Eu2 O3 の微細粉末を出発原料に用いることで合成でき る. 酸素と窒素の比率は Ca3 N2 と EuN を用いることで調節可能であるが, その場合 には窒素雰囲気のグローブボックス内で作業する必要がある [18]. 混合には遊星ボール ミルを用いる. 焼結はガス加圧焼結 (Gas Pressure Sintering, GPS) によって焼結温度 1,700–2,000◦ C, 0.5–1 MPa の N2 ガス加圧雰囲気で実施する. ホットプレス法により合 成することも可能である [12]. また, T. Suehiro らは, Ca-α-SiAlON:Eu が還元窒化法に より 1,400–1,500◦ C の比較的低温で酸化物原料から合成可能であることを報告している [19]. これら酸窒化物・窒化物蛍光体は焼結後粉砕・分級され, LED ランプの実装に適し た粒径の粉末に整えられる. 6.3 高演色 4 色混色型白色 LED ランプ Si3N4 129 AlN CaCO3 Ca3N2 Eu2O3 EuN Mixing Sintering Crushing Classifying Oxynitride / Nitride phosphor 図 6.2 酸窒化物・窒化物蛍光体の合成手順. Normalized Intensity [a.u.] 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 400 500 600 700 800 Wavelength [nm] 図 6.3 青色 LED 素子と緑色・黄色・赤色蛍光体の正規化した発光スペクトル. 6.3 高演色 4 色混色型白色 LED ランプ 近年, 様々な屋内業務環境用照明装置として平均演色評価数 Ra が 80 以上の高演色型 のものが推奨されるようになった [18][19]. 平均演色評価数 Ra は, 従来の YAG:Ce を使 用した相関色温度の高い白色あるいは温かみのある白色の白色 LED ランプでは 70–75 程度であり, Ca-α-SiAlON:Eu を使用した温かみのある白色の白色 LED ランプでは 60 130 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 0.08 6,840K (Class D) 5,210K (Class N) 4,390K (Class W) 3,520K (Class WW) 2,840K (Class L) Total Spectral Flux [mW/nm] 0.07 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 6.4 様々な相関色温度の白色 LED ランプの発光スペクトル. 0.45 Class WW Class L Class W 0.40 y Class N 0.35 0.30 0.25 Class D 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 x 図 6.5 様々な相関色温度の白色 LED ランプの色度座標. を下回っていた. 発光スペクトルの半値全幅 (FWHM) は (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce について 127 nm, Ca-α-SiAlON:Eu について 92 nm である. 図 3.12 からわかるように, 問題点 は赤色光と緑色光の不足にある. 演色性を向上させるため, CaAlSiN3 :Eu 赤色蛍光体と β-SiAlON:Eu 緑色蛍光体とを追加した [20]. 青色 LED 素子と, 3 色の蛍光体それぞれの 正規化発光スペクトルを図 6.3 に示した. これらを組み合わせることにより, 高い演色性 を有する 4 色混色型白色 LED ランプを実現した. これら 3 種の酸窒化物及び窒化物蛍 光体を用いて, 様々な相関色温度を有する 5 種類の白色 LED ランプを製作した. 昼光色 (classD), 昼白色 (class N), 白色 (class W), 温白色 (class WW) 及び 電球色 (class L) の このようにしてできた 5 つの色度区分 [21] の 4 色混色型白色 LED ランプの発光スペク 6.3 高演色 4 色混色型白色 LED ランプ 131 トルを図 6.4 に, 色度座標を図 6.5 に示す. これら LED ランプの相関色温度は, 蛍光体の混合比を変えることで調整可能であり, さ らに青色 LED 素子を被覆する際の混合済み蛍光体の塗布量を最適化することで色度座標 が黒体輻射軌跡に一致するようにした. 試作した各 LED ランプの特性を表 6.1 に示す. 項目は色度座標, 相関色温度, 平均演 色評価数 Ra, 特殊演色評価数 R9, R13 及び R15, 投入電力に対する視感効率 (luminous efficacy), 放射光に対する視感効率 (luminous efficiency) である. 平均演色評価数 Ra は いずれも 80 を超えている. 特殊演色評価数 R9, R13 と R15 は著しく高い. R9 は赤 (strong red) に対応しており, 従来の白色 LED ランプではこの値が低かった [22]. R13 は西洋人女性の顔の肌の色, R15 は日本人女性の顔の肌の色にそれぞれ対応しており, 屋 内照明装置においては重要な項目である. 投入電力に対する視感効率は, 一般に演色性に 優れるランプでは効率は低めになるものであるが, 25–33 lm/W と白色 LED ランプとし ては十分高い効率であった. Class D と class L の LED ランプの発光スペクトルを図 6.6 と図 6.7 にそれぞれ示す. また, あわせて CIE 標準光源のスペクトル分布を示す [23]. 表 6.8 に, 各白色 LED ランプの演色評価数の一覧を示す. 残念ながら R3, R6, R10 及 び R12 の値が若干低めとなっていることを除けば, いずれも大変高い値となっている. な お, 演色評価数が 80 以上の欄を太字で示した. 図 6.9 は, 図 3.13 及び図 3.14 に示したものと同様の形状の表面実装 (Surface Mount Device, SMD) 型白色 LED ランプ 9 個を 3 行 3 列で基板上に配置した白色 LED ランプ 表 6.1 高演色性白色 LED の光学特性. D N W WW L CIE x 0.308 0.339 0.366 0.406 0.449 y 0.319 0.344 0.374 0.395 0.408 CCT [K] 6,840 5,210 4,390 3,520 2,840 CRI Ra 82 83 83 85 88 R9 87 96 97 98 96 R13 86 90 88 90 95 R15 95 99 96 98 98 Luminous Efficacy [lm/W] 32 33 27 29 25 Luminous Efficiency [lm/W] 272 269 275 269 254 132 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 Total Spectral Flux [mW/nm] 0.08 0.07 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 6.6 昼光色 (class D) LED ランプと CIE 昼光標準光源 D65 の発光スペクトル. Total Spectral Flux [mW/nm] 0.06 0.05 0.04 0.03 0.02 0.01 0.00 400 500 600 700 Wavelength [nm] 図 6.7 電球色 (class L) LED ランプと CIE 標準光源 A の発光スペクトル. モジュールである. 相関色温度は左から昼光色, 昼白色, 白色, 温白色, 電球色に対応して いる. 図 6.10 は, 放熱性に優れるホーロー基板を用いて形成した線型白色 LED ランプモ ジュールである. 凹部を形成し, さらに凹部内斜面・底面にも電極を印刷した特殊なホー ロー基板を用い, 凹部底面の印刷電極上に直接青色 LED 素子をダイボンディングすると いう Chip On Borad(COB) 技術を用いて実現した. 相関色温度は上から電球色, 温白色, 白色, 昼白色, 昼光色に対応している. 図 6.11 は, 多数の SMD 型白色 LED ランプを用いて, 一般家屋用の照明器具を試作し た事例である. 中央は, 丸形蛍光灯を用いたペンダントライト型照明器具を代替すること を想定したものである. 壁面に設置したものは, ウォールウォッシャー型と呼ばれる間接 照明器具である. いずれも相関色温度は白色の色度範囲とした. 現在一般的に用いられ る蛍光灯との比較を試みたところ, これら白色 LED ランプを照明として用いた場合には 6.3 高演色 4 色混色型白色 LED ランプ 133 Class D N W WW L CCT 6,840 5,210 4,390 3,520 2,840 Ra 82 83 83 85 88 Average of from R1 to R8 R1 88 92 91 93 97 Light grayish red R2 82 85 84 86 90 Dark grayish yellow R3 67 68 69 70 73 Strong yellow green R4 85 86 87 89 92 Moderate yellowish green R5 83 87 84 86 91 Light bluish green R6 70 73 72 74 80 Light blue R7 87 85 87 87 89 Light violet R8 92 89 91 91 91 Light reddish purple R9 87 96 97 98 96 Strong red R10 48 54 54 58 67 Strong yellow R11 78 81 80 82 87 Strong green R12 39 44 38 43 49 Strong blue R13 86 90 88 90 95 Light yellowish pink (human complexion) R14 80 80 81 81 82 Moderate olive green R15 95 99 96 98 98 Japanese complexion (JIS only) 図 6.8 様々な相関色温度の白色 LED ランプの演色評価数の一覧. 図 6.9 3x3 白色 LED ランプモジュール. 表面実装 (Surface Mount Device, SMD) 型白色 LED ランプ 9 個を基板上に配置した. 相関色温度は左から昼光色, 昼白色, 白 色, 温白色, 電球色に対応している. 図 6.11 に記載した赤色の自動車模型あるいは色鉛筆セットの発色が大変鮮やかなものと なった. 特に照明器具の近傍に手のひらをかざした時の差は顕著であり, これら白色 LED ランプを用いると, 赤みが強調され血色の良い健康な肌に見え, 演色性に優れると言われ る 3 波長型の蛍光灯と比較してもその優位性は顕著であった. 134 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 図 6.10 線型白色 LED ランプモジュール. ホーロー基板上に Chip On Board (COB) 技術を用いて実装した. 相関色温度は上から電球色, 温白色, 白色, 昼白色, 昼光色に対 応している. 図 6.11 一般家屋での使用を想定して試作した照明器具. 中央がペンダントライト型, 壁面に設置したものがウォールウォッシャー型である. 相関色温度はいずれも白色の色 度範囲とした. 6.4 高演色型白色 LED ランプの温度特性 135 6.4 高演色型白色 LED ランプの温度特性 図 6.12 に, β-SiAlON:Eu 緑色酸窒化物蛍光体, Ca-α-SiAlON:Eu 黄色酸窒化物蛍光 体, CaAlSiN3 :Eu 赤色窒化物蛍光体と市販の (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce 黄色酸化物蛍光体の発 光ピーク強度の温度依存性を示す. なお, 励起波長は (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce についてのみ 460 nm とし, 3 種の酸窒化物・窒化物蛍光体は 450 nm とした. 蛍光体には高温で発光 強度が低下する温度消光と呼ばれる現象が見られるが, 白色 LED ランプでは蛍光体の温 度消光が大きいとデバイスの温度上昇に伴いランプの発光色度がずれてしまうという色 ずれの問題が発生する. 図 6.12 で, それぞれの蛍光体の室温でのピーク発光強度を基準 Relative intensity [a.u.] 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 Yellow alpha-SiAlON Green beta-SiAlON Red CASN YAG:Ce 0.2 0.0 0 50 100 150 200 Temperature [oC] 250 300 図 6.12 酸窒化物・窒化物蛍光体及び YAG:Ce 蛍光体の発光強度の温度依存性. 470 (c) (b) (a) 520 570 620 470 520 570 620 670 550 600 650 700 図 6.13 酸窒化物・窒化物蛍光体の発光スペクトルの温度依存性. (a)β-SiAlON:Eu, (b)Ca-α-SiAlON:Eu, (c)CaAlSiN3 :Eu. 750 136 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 として, 200◦ C まで加熱した時に, (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce は 61 % まで強度が劣化したが, β-SiAlON:Eu は 73 %, Ca-α-SiAlON:Eu 及び CaAlSiN3 :Eu は 81 % であり酸窒化物・ 窒化物蛍光体は強度低下が少なかった. また, 図 6.13 に 3 種の酸窒化物・窒化物蛍光体の 各温度における発光スペクトルを示すが, 高温でも発光波長, 発光スペクトル形状にほと んど変化は見られず, 強度低下以外は安定した光学特性を示している. 温度消光について, 配位座標モデルでは, 温度が高くなることにより格子振動の振幅が 大きくなって, 電子励起状態と基底状態の配位座標曲線の交点を経由した状態の乗り移り すなわち無輻射遷移の確率が増すためであると説明される [24]. 一方で, CaAlSiN3 :Eu に ついてはこれまでに熱励起準位の存在が示唆されており [25][26], その寄与により見かけ 上温度消光が小さくなっている可能性も考えられる. なお, 発光強度が安定していることが求められる温度範囲としては, 近年一部の LED ラ ンプメーカから蛍光体を用いる白色 LED ランプでは 150◦ C, 白色ではない LED ランプ では 185◦ C にまで LED 素子の温度が高くなっているパッケージ構造の事例 [27] が報告 されており, やはり 200◦ C 程度までは良好な特性を示すことが必要と考えられる. また, 応用物理学会などでは, 材料の特性確認としては 250◦ C あるいは 300◦ C までの温度消光 を測定すべきであるとの意見が提出されている. これら酸窒化物・窒化物蛍光体を用いた 4 色混色型白色 LED ランプの CIE1931 色度 図上の発光色度座標を室温 (25◦ C) と 100◦ C に加熱した状態とで測定したところ, その色 度座標の変化距離は昼光色で 0.0074, 昼白色で 0.0072, 白色で 0.0034, 温白色で 0.0039, 電球色で 0.0030 であった. これは, (Y,Gd)3 Al5 O12 :Ce を用いた市販の白色 LED ランプ の変化距離 0.0216 を 100 % とした時, それぞれ 34 %, 33 %, 16 %, 18 %, 14 % に過ぎ ず, 発光色度の温度安定性は非常に高いと言える. 6.5 高演色型白色 LED ランプの視感効率 3.3.6 では, 青黄 2 色混色型白色 LED ランプの発光効率の理論限界について検討した. ここでは, 高演色型白色 LED ランプについて同様の検討を試みる. 演色性は, ランプの発光スペクトル分布を標準光源と類似したものにすることによって 高めることができる. 図 6.14 で, 点は様々な CCT の標準光源の LEopt をあらわしてい る. 実線は, 標準光源の発光に含まれる光子数とピーク発光波長 450 nm の青色 LED 素子 からの青色発光に含まれる光子数との比較に基づいて算出した, 様々な CCT の TLLE を 計算したものである. 6,500 K の CCT では, LEopt は 203 lm/W で TLLE は 163 lm/W である. CCT が 3,000 K の場合には, それぞれ 161 lm/W と 113 lm/W になる. これら の結果から, 仮に将来ストークスシフト損失を除くトータルの変換効率が 50 % に達する とした場合に, 6,500 K では 82 lm/W, 3,000 K では 57 lm/W ということになる. 高演 6.5 高演色型白色 LED ランプの視感効率 137 Correlated Color Temperature 10000 8000 6000 5000 4000 2000 Luminous Efficiency [lm/W] 240 200 160 120 CIE daylight illuminant (D) 80 40 Blackbody radiation (P) Luminous efficiency of Standard Light Source (D) Luminous efficiency of Standard Light Source (P) Theoretical Limit with consideration of Stokes' shift loss 0 0.25 0.30 0.35 0.40 CIE x 0.45 0.50 0.55 図 6.14 標準光源の放射光パワーに対する視感効率と, 青色 LED 素子を一次光源とし ストークスシフト損失のみを考慮した場合の白色 LED ランプの投入電力に対する視感 効率の理論限界. 400 Bi-LEopt Quad-LEopt Bi-TLLE Quad-TLLE Bi-LEele Quad-LEele Luminous Efficiency [lm/W] 350 300 250 200 150 100 50 0 0.30 0.35 0.40 CIE x 0.45 0.50 図 6.15 試作した白色 LED ランプの放射光パワーに対する視感効率, 投入電力に対す る視感効率と, 視感効率の理論限界. 色型白色 LED ランプの開発ロードマップは, 青黄 2 色混色型の高輝度白色 LED ランプ の開発ロードマップとは別に議論すべきであると言える. 高演色型白色 LED ランプを製 作するためには, 青色 LED 素子ではなく UV LED 素子を用いる必要があるとする報告が 散見されるが, 必ずしもそのようなことは無い. 青色光励起型の白色 LED ランプであっ ても, 十分に高い演色性を引き出すことが可能である. 我々は, 青色 LED 素子と 4 色の 蛍光体を用いた, 平均演色評価数 Ra が 98 と非常に高い白色 LED ランプも報告している 138 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 [28]. もちろん, ストークスシフト損失を考えた場合, 青色光励起型の白色 LED ランプの 方が紫外光励起型のものよりも発光効率の面で有利である. 試作した青色励起型白色 LED ランプの LEopt , TLLE 及び LEele を図 6.15 に, 光 学特性を表 6.2 に示す. 4 色混色型の試料 (Quad を付して示す) は, 青色 LED 素子と Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体, CaAlSiN3 :Eu 赤色蛍光体, β-SiAlON:Eu 緑色蛍光体を用 いた高演色型の白色 LED ランプである. 比較のため, Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体を用 いた青黄 2 色型の白色 LED ランプ (Bi を付して示す) をあわせて示した. Class D (昼光 色), class N (昼白色), class W (白色), class WW (温白色) 及び class L (電球色) は, 各 ランプの相関色温度 (色度座標) をあらわしている. ここに示した 4 色混色型の各ランプ は, 図 6.14 に示した結果よりも LEopt 及び TLLE が高い数値となっている. これは, 平 均演色評価数 Ra が 82–88 と若干低めになっており, 発光スペクトル形状が標準光源の それとは異なっていて, その分が視感効率の向上に寄与しているからであると考えられる. 屋内一般照明としては, 平均演色評価数 Ra が 80 以上であることが求められている. 高演 色型白色 LED ランプの開発において, Ra 100 を目標とするのではなしに許容される範囲 で若干低めの仕様とすることで, かわりに効率を向上させることが可能であることが示さ れた. なお, 現段階の試料の LEele は青黄 2 色型のものも 4 色混色型のものも TLLE の 13–19 % 程度であるに過ぎない. これらはまだ開発途上の段階にあり, さらなる改良が求 められている. 表 6.2 高演色型白色 LED ランプの発光効率の理論限界 LED Sample CCT CIE CIE Luminous Theoretical Limit of Luminous CRI ( Type & [K] x y Efficiency Luminous Efficacy Efficacy Ra [lm/W] [lm/W] [lm/W] Class ) Bi-W 3990 0.381 0.377 367 298 58 60 Bi-L 3010 0.441 0.415 388 305 55 55 Quad-D 6840 0.308 0.319 273 222 32 82 Quad-N 5210 0.339 0.344 270 213 33 83 Quad-W 4390 0.366 0.374 276 214 27 85 Quad-WW 3520 0.406 0.395 270 205 29 85 Quad-L 2840 0.438 0.404 256 190 25 88 6.6 装飾用中間色ランプ 139 0.9 0.8 0.7 Green β -SiAlON:Eu NTSC sRGB 0.6 Yellow Ca-α-SiAlON:Eu y 0.5 0.4 Red CaAlSiN3:Eu 0.3 0.2 0.1 Blue LED 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 x 図 6.16 CIE1931 色度図上での酸窒化物・窒化物蛍光体 4 色混色型 LED ランプ, NTSC 及び s-RGB の色空間. 6.6 装飾用中間色ランプ これら酸窒化物・窒化物蛍光体 4 色混色型 LED ランプにより, 黒体輻射軌跡に一致し た白色のランプのみならず, 様々な中間色の装飾用ランプもまた実現可能である. 図 6.16 に, 青色 LED 素子, CaAlSiN3 :Eu 赤色蛍光体, Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体 及び β-SiAlON:Eu 緑色蛍光体を用いて実現可能な色度範囲を CIE1931 色度図上の四角 形として示す. 表現可能な色度範囲の広さは, NTSC 比 82 %, s-RGB 比 116 % である [29][30]. 図 6.17 は, 同様にして CIE1976 色度図上に示したものである. 表現可能な色度 範囲の広さは, NTSC 比 109 %, s-RGB 比 125 % である. 試作した様々な色度のカラー LED ランプの写真を図 6.18 に示す. 各 LED ランプは CIE1976 色度図上の対応する色 度座標に配置されている. これらカラー LED ランプは装飾用イルミネーションランプな どの用途において有用である. また, 従来のネオンサインなどを代替するデザイン固定の 電子ディスプレイサイン装置なども用途として期待できる. 140 第6章 高演色白色発光ダイオードランプへの応用 0.7 Green β-SiAlON:Eu 0.6 Yellow α-SiAlON:Eu Red CaAlSiN3:Eu 0.5 v' 0.4 0.3 0.2 0.1 LED Lamps NTSC (Television) sRGB (PC etc.) Blue LED 0.0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 u' 図 6.17 CIE1976 色度図上での酸窒化物・窒化物蛍光体 4 色混色型 LED ランプ, NTSC 及び s-RGB の色空間. 図 6.18 CIE1976 色度図上に配置した装飾性の高い有色 LED ランプ. 6.7 結言 6.7 結言 新規開発された, 青色の可視光で励起可能な 3 種の酸窒化物及び窒化物蛍光体を合成 した. 青色 LED 素子と, これら酸窒化物・窒化物蛍光体である CaAlSiN3 :Eu 赤色蛍光 体, Ca-α-SiAlON:Eu 黄色蛍光体及び β-SiAlON:Eu 緑色蛍光体を用いた演色性の高い 4 色混色型白色 LED ランプを様々な相関色温度で製作し, その特性を示した. 相関色温度 6,800 K の昼光色から 2,800 K の電球色まで, いずれの白色 LED ランプにおいても平均 演色評価数 Ra は 80 よりも高く, 屋内一般照明用光源として十分な性能を有するもので あった. また, 投入電力に対する視感効率も 25–33 lm/W であり, 白色 LED ランプとし ては十分に高い効率を示した. 温度変化に対する色度の安定性にも優れていた. ストークスシフト損失を考慮した視感効率の理論限界について検討した. 青黄 2 色混色 型白色 LED ランプでは 300 lm/W 前後であったのに対し, これら高演色型白色 LED ラ ンプでは 190–220 lm/W 程度が理論限界であることを明らかにした. 青色 LED 素子と前記酸窒化物・窒化物蛍光体を用いて, 白色以外の装飾用中間色ラン プを試作した. 表現可能な色度範囲は NTSC や s-RGB 規格の色度範囲と比較して十分に 広いものであり, 試作した LED ランプは装飾用イルミネーションランプやディスプレイ サイン装置に好適なものであった. 酸窒化物・窒化物蛍光体を用いた LED ランプは, 来る固体照明の時代において重要な 役割を果たすものと期待される. 141 142 参考文献 [1] H. 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Eu 元素の付活量は組成式 Cax Euy (Si,Al)12 (O,N)16 に対して y = 0.075 が最適値でありそれ以上では濃度消光が起 きた. 拡散反射スペクトルから求めた励起波長域である青色波長域の吸収は Eu 濃度の増 加とともに増大し, Eu2+ の直接吸収に帰属された. 発光特性は組成に系統的に依存して おり, Eu 濃度の増大により発光波長が赤方偏移すること, さらに Ca 濃度の増加によって も赤方偏移が生じることを明らかにした. XRD パターンから求めた格子定数と発光波長 との関係を示し, 発光波長の赤方偏移は結晶場の変化に起因する Eu2+ の 5d 軌道の分裂 146 第 7 章 総括 に起因すると考えられることを報告した. また, Ca 及び Eu の供給源として安価な酸化物 を用いる組成についても最適組成範囲や粉末化手順, 酸処理, 微細粉末の除去によるミー 散乱の低減等の検討を実施し, 白色 LED ランプ用途に適した黄色蛍光体を得た. 第 3 章では, 光学特性を改善したユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロ ン黄色蛍光体を用いて一般照明用白色 LED ランプを製作し, その光学特性を評価した. InGaN 系青色 LED 素子と組み合わせることで, 従来の白色 LED ランプでは成し得な かった相関色温度が低く発光効率の高い白色 LED ランプを初めて実現することに成功 した. 発光色度は温かみのある白色である電球色であり, 相関色温度 2,600–3,000 K 前 後の範囲で精密に制御が可能である. 発光効率については, 投入電力に対する視感効率で 55 lm/W を達成した. アルファサイアロン黄色蛍光体の温度消光が小さいことに起因し て, 得られた白色 LED ランプの発光色度の温度依存性も小さく安定したものであること を報告した. 第 4 章では, 発光色度の制御を目的とし, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサ イアロン黄色蛍光体のカルシウム元素の一部をイットリウム元素に置換したものを合成 し, その光学特性を評価した. 発光ピーク波長は 585 nm から 608 nm の範囲で変化し, α-SiAlON 蛍光体の最長発光波長を更新した. 発光波長の赤方偏移は, Eu2+ イオン周囲 の結晶場の変化によるものと考えられ, α-SiAlON 蛍光体の発光波長を部分的な原子置換 により制御可能であることを示すものである. 青色発光ダイオード素子と当該蛍光体とか らなる白色発光ダイオードランプの, 対応する相関色温度の範囲は, これにより 1,700 K まで低色温度側に拡張することが可能となった. また, 励起スペクトル形状についても検 討し, Ca から Y への原子置換割合が増加するに従って平坦域が広くなることなどを報告 した. 固溶金属元素の置換は α-SiAlON 蛍光体の光学特性を制御する手段の一つとして有 効なものである. 第 5 章では, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体と, これを 用いた LED ランプとの発光波長について検討し, 再吸収機構による Eu2+ イオンの発光波 長の赤方偏移について研究した. 発光波長は, 同一の母相組成 Si12−(m+n) Alm+n On N16−n に対して, 共添加固溶元素 Ca の濃度を振った場合よりも付活元素である Eu の濃度を 振った場合の方が影響が大きかった. Eu 濃度の増大に伴い発光波長の赤方偏移が大きく なった. さらに, 光部品のパッケージ構造によっても発光波長の赤方偏移が引き起こされ, 白色発光ダイオードランプの透明樹脂中の蛍光体粉末濃度が濃くなった場合や過剰な塗布 がなされた場合には, 赤方偏移によって相関色温度が低くなることを明らかにした. 発光 ピーク波長と励起波長との相関について報告し, 励起波長が 500 nm よりも長い場合の発 光波長の急激な赤方偏移は発光の再吸収に由来すると考えられることを配位座標モデルに 147 よって説明した. 第 6 章では, ユーロピウム付活カルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体に加えて ユーロピウム付活ベータサイアロン緑色蛍光体とカズン赤色蛍光体とを用いて, 発光効率 と演色性に優れた様々な相関色温度の白色 LED ランプを製作し, その光学特性を評価し た. 相関色温度 6,800 K の昼光色から 2,800 K の電球色まで, いずれの白色 LED ランプ においても平均演色評価数 Ra は 80 よりも高く, 屋内一般照明用光源として十分な性能を 有するものであった. また, 投入電力に対する視感効率も 25–33 lm/W であり, 白色 LED ランプとしては十分に高い効率を示した. 温度変化に対する色度の安定性にも優れていた. ストークスシフト損失を考慮した視感効率の理論限界について検討した. 青黄 2 色混色型 白色 LED ランプでは 300 lm/W 前後であったのに対し, これら高演色型白色 LED ラン プでは 190–220 lm/W 程度が理論限界であることを明らかにした. 白色以外の装飾用中 間色ランプも試作し, 色域の広い良好なランプを得た. 第 1 章序論で述べたように, 永続的な社会の実現のために使用電力量を削減する固体照 明の開発が要望されていたが, YAG:Ce 系蛍光体以外の白色 LED ランプ用蛍光体の研究 はいずれもその途上にあり, 特に酸窒化物・窒化物蛍光体にあっては研究の端緒についた ばかりであると言っても過言ではない状況であった. 本研究により, ユーロピウム付活カ ルシウム固溶アルファサイアロン黄色蛍光体について多くの知見が得られ, これを用いる ことで相関色温度の低い温かみのある白色 LED 照明器具の実用化の見通しが立った. さ らに, ユーロピウム付活ベータサイアロン緑色蛍光体とカズン赤色蛍光体をあわせ用いる ことにより, 温度安定性に優れた高演色型白色 LED ランプの開発にも成功した. 来る固体照明の時代に備え, その礎となる多くの研究がこれからも必要とされる. 本研 究は, その過程における一つのマイルストーンを成すものであり, これを足がかりとして 酸窒化物・窒化物蛍光体とこれを用いた固体照明器具の研究がさらなる発展を遂げていく ものと考えている. 148 国際会議論文 原著論文 [1] R.-J. Xie, N. Hirosaki, K. Sakuma, Y. Yamamoto, M. Mitomo, “Eu2+ -doped Ca-α-SiAlON: A yellow phosphor for white light-emitting diodes,” Applied Physics Letters, vol. 84, pp. 5404–5406 (2004) (第 2 章) [2] R.-J. Xie, N. Hirosaki, M. Mitomo, Y. Yamamoto, T. Suehiro, K. Sakuma, “Optical Properties of Eu2+ in α-SiAlON,” The Journal of Physical Chemistry B, vol. 108, pp. 12027–12031 (2004) (第 2 章) [3] K. Sakuma, K. Omichi, N. Kimura, M. Ohashi, D. Tanaka, N. Hirosaki, Y. Yamamoto, R.-J. Xie, T. Suehiro, “Warm-white light-emittig diode with yellowish orange SiAlON ceramic phosphor,” Optics Letters, vol. 29, pp. 2001–2003 (2004) (第 3 章) [4] K. Sakuma, N. Hirosaki, R.-J. Xie, Y. Yamamoto, T. Suehiro, “Luminescence properties of (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu phosphors,” Materials Letters, vol. 61, pp. 547– 550 (2007) (第 4 章) [5] Ken Sakuma, Naoto Hirosaki, Rong-Jun Xie, Yoshinobu Yamamoto, and Takayuki Suehiro, “Optical properties of excitation spectra of (Ca,Y)-αSiAlON:Eu yellow phosphors,” physica status solidi c, vol. 3, no. 8, pp. 2701–2704 (2006) (第 4 章) [6] K. Sakuma, Naoto Hirosaki, Rong-Jun Xie, “Red-shift of emission wavelength caused by reabsorption mechanism of Europium activated Ca-α-SiAlON ceramic phosphors,” Journal of Luminescence, vol. 126, pp. 843–852 (2007) (第 5 章) [7] Ken SAKUMA, Naoto HIROSAKI, Naoki KIMURA, Masakazu OHASHI, Rong-Jun XIE, Yoshinobu YAMAMOTO, Takayuki SUEHIRO, Kenichiro ASANO, and Daiichiro TANAKA, “White Light-Emitting Diode Lamps Using Oxynitride and Nitride Phosphor Materials,” Invited Paper, IEICE Transactions on Electronics, vol. E88-C, no. 11, pp. 2057–2064 (2005) (第 3 章, 第 6 章) 国際会議論文 [1] K.Sakuma, N.Hirosaki, N.Kimura, Y.Yamamoto, R.-J.Xie, T.Suehiro, K.Omichi, M.Ohashi, D.Tanaka, “High Brightness Warm-White LED Lamps Using Ca-αSiAlON Phosphors,” Proceedings of The 11th International Display Workshops 149 (IDW’04), PHp-1, pp. 1115–1118, Niigata, Japan (2004) (第 3 章) [2] K. Sakuma, N. Hirosaki, N. Kimura, R.-J. Xie, S. Hirafune, Y. Yamamoto and T. Suehiro, “Nitride and Oxynitride Phosphors and their application to White LightEmitting Diode Lamps,” Proceedings of The 12th International Display Workshops in conjunction with Asia Display 2005 (IDW/AD’05), PH2-1 (Invited), pp. 1589– 1592, Takamatsu, Japan (2005) (第 3 章, 第 6 章) [3] K. Sakuma, N. Hirosaki, R.-J. Xie, N. Kimura, S. Hirafune, “Efficiency Investigations of Blue Light Excitation Type for White LEDs,” Proceedings of The 13th International Display Workshops (IDW’06), PH2-3, pp. 1221–1224, Otsu, Japan (2006) (第 3 章, 第 6 章) 受賞歴 [1] Outstanding Poster Paper Award, The 11th International Display Workshops, K. Sakuma, N. Hirosaki, N. Kimura, Y. Yamamoto, R.-J. Xie, T. Suehiro, K. Omichi, M. Ohashi, D. Tanaka, “High Brightness Warm-White LED Lamps Using Ca-α-SiAlON Phosphors” [2] 電子情報通信学会平成 17 年度 (第 68 回) 学術奨励賞, 木村直樹, 広崎尚登, 佐久間健, 浅野健一郎, 田中大一郎, “α-サイアロンを用いた高効率電球色 LED” [3] 応用物理学会第 21 回 (2006 年秋季) 講演奨励賞, 木村直樹, 広崎尚登, 佐久間健, 解栄 軍, 平船俊一郎, “青色励起型高演色白色発光ダイオードランプ” 関連原著論文 [1] Rong-Jun XIE, Naoto HIROSAKI, Yoshinobu YAMAMOTO, Takayuki SUEHIRO, Mamoru MITOMO and Ken SAKUMA, “Fluorescence of Eu2+ in Strontium Oxonitridoaluminosilicates (SiAlONS),” J. Cer. Soc. Japan, vol. 113[7], pp. 462–465 (2005) [2] Rong-Jun Xie, Naoto Hirosaki, Mamoru Mitomo, Kosei Takahashi, and Ken Sakuma, “Highly efficient white-light-emitting diodes fabricated with shortwavelength yellow oxynitride phosphors,” Appl. Phys. Lett., vol. 88, 101104 (2006) [3] Rong-Jun Xie, Naoto Hirosaki, Mamoru Mitomo, Ken Sakuma, and Naoki Kimura, “Wavelength-tunable and thermally stable Li-α-sialon:Eu2+ oxynitride phosphors for white light-emitting diodes,” Appl. Phys. Lett., vol. 89, 241103 150 関連国際会議・学会発表 (2006) [4] Naoki Kimura, Ken Sakuma, Syunichiro Hirafune, Kenichiro Asano, Naoto Hirosaki, and Rong-Jun Xie, “Extrahigh color rendering white light-emitting diode lamps using oxynitride and nitride phosphors excited by blue light-emitting diode,” Appl. Phys. Lett., vol. 90, 051109 (2007) [5] Rong-Jun Xie, Naoto Hirosaki, Naoki Kimura, Ken Sakuma, and Mamoru Mitomo, “2-phosphor converted white light-emitting diodes using oxynitride/nitride phosphors,” Appl. Phys. Lett., vol. 90, 191101 (2007) 関連国際会議・学会発表 [1] 解栄軍, 広崎尚登, 三友護, 山本吉信, 佐久間健, 上田恭太, “黄色 α-サイアロン蛍光体 の合成と発光特性,” 第 65 回応用物理学会学術講演会講演予稿集, p.1283, 2p-ZL-14 (2004.9 東北学院大学) [2] 佐久間健, 広崎尚登, 木村直樹, 大道浩児, 山本吉信, 解栄軍, 末廣隆之, 大橋正和, 田 中大一郎, “α サイアロン蛍光体高効率電球色発光ダイオードランプ,” 第 65 回応用物 理学会学術講演会講演予稿集, p.1284, 2p-ZL-15 (2004.9 東北学院大学) [3] R.-J.Xie, N.Hirosaki, K.Sakuma, Y.Yamamoto, M.Mitomo, “A Novel Yellow Oxynitride Phosphor: Eu2+ -doped α-SiAlON,” BOOK OF ABSTRACTS 1, p.191, FP-72, Rare Earths ’04, Nara, JAPAN, Nov. 7–12 (2004) [4] K.Sakuma, N.Hirosaki, K.Omichi, N.Kimura, Y.Yamamoto, R.J.Xie, T.Suehiro, M.Ohashi, and D.Tanaka, “Warm-white Light-emitting Diode Using Divalent Europium Activated Ca-α-SiAlON Ceramic Phosphor,” BOOK OF ABSTRACTS 1, p.193, FP-76, Rare Earths ’04, Nara, JAPAN, Nov. 7–12 (2004) [5] R.-J.Xie, N.Hirosaki, M.Mitomo, Y.Yamamoto, T.Suehiro, K.Saumka, “αSiAlON-based Oxynitride/Nitride Phosphors: Synthesis, Properties and Applications,” Proceedings of The 11th International Display Workshops (IDW’04), Niigata, Japan, invited (2004) [6] K.Sakuma, N.Hirosaki, N.Kimura, Y.Yamamoto, R.-J.Xie, T.Suehiro, K.Omichi, M.Ohashi, D.Tanaka, “High Brightness Warm-White LED Lamps Using Ca-α-SiAlON Phosphors,” Proceedings of The 11th International Display Workshops (IDW’04), Niigata, Japan, PHp-1 (2004) [7] 木村直樹, 広崎尚登, 佐久間健, 浅野健一郎, 田中大一郎, “α-サイアロンを用いた高効 率電球色 LED,” 学術奨励賞受賞, 電子情報通信学会 2005 年総合大会 C-9-1 (2005.3 151 大阪大学) [8] 解栄軍, 広崎尚登, 上田恭太, 末廣隆之, 山本吉信, 佐久間健, 三友護, “α −サイアロ ン蛍光体の発光特性,” 日本セラミックス協会 2005 年年会, p. 229, 3F06 (2005.3 岡 山大学) [9] 解栄軍, 広崎尚登, 三友護, 末廣隆之, 山本吉信, 佐久間健, 上田恭太, “緑色 α −サイ アロン蛍光体の蛍光特性,” 第 52 回応用物理学関係連合講演会, p. 1615, 30a-YH-6 (2005.3 埼玉大学) [10] 佐久間健, 広崎尚登, 木村直樹, 増子幸一郎, 山本吉信, 解栄軍, 末廣隆之, 浅野健一郎, 田中大一郎, “酸窒化物蛍光体高演色性白色発光ダイオードランプ,” 第 52 回応用物 理学関係連合講演会, p. 1615, 30a-YH-8 (2005.3 埼玉大学) [11] 佐久間健, 広崎尚登, 解栄軍, 木村直樹, “酸窒化物・窒化物蛍光体を用いた白色 LED,” 第 308 回蛍光体同学会講演予稿, pp. 37–46 (2005.6.24 化学会館) [12] 解栄軍, 広崎尚登, 三友護, 末廣隆之, 山本吉信, 佐久間健, “α-サイアロン蛍光体の組 成による発光波長制御,” 第 66 回応用物理学会学術講演会, p. 1265, 7a-K-6 (2005.9 徳島大学) [13] 佐久間健, 広崎尚登, 木村直樹, 平船俊一郎, 解栄軍, “蛍光体被覆型発光ダイオードの 光学特性,” 第 66 回応用物理学会学術講演会, p. 1266, 7a-K-9 (2005.9 徳島大学) [14] 佐久間健, 広崎尚登, 平船俊一郎, 増子幸一郎, 木村直樹, “白色 LED の光学特性設 計,” 電子情報通信学会 2005 年ソサイエティ大会, C-9-1 (2005.9 北海道大学) [15] 瀧ヶ平将人, 木村直樹, 佐久間健, 浅野健一郎, 田中大一郎, “高効率電球色 LED の開 発,” 電子情報通信学会 2005 年ソサイエティ大会, C-9-2 (2005.9 北海道大学) [16] Naoki Kimura, Naoto Hirosaki, Ken Sakuma, Syunichiro Hirafune, Kenichiro Asano and Daiichiro Tanaka, “Improvement of luminous efficacy of phosphorconverted white LED lamps,” 11th Microoptics Conference (MOC’05), N5, Tokyo, Japan, Oct.30–Nov.2 (2005) [17] K. Sakuma, N. Hirosaki, N. Kimura, R.-J. Xie, S. Hirafune, Y. Yamamoto and T. Suehiro, “Nitride and Oxynitride Phosphors and their application to White Light-Emitting Diode Lamps,” Proceedings of The 12th International Display Workshops in conjunction with Asia Display 2005, PH2-1 (Invited), pp. 15891592, Takamatsu, Japan (2005) [18] R.-J. Xie, N. Hirosaki, M. Mitomo, K. Sakuma, Y. Yamamoto, T. Suehiro, “Novel quarternary nitride phosphors for white light-emitting diodes (LEDs),” The 2nd International Symposium on Display Phosphor Materials 2005 [19] R.-J. Xie, N. Hirosaki, M. Mitomo, K. Takahashi, and K. Sakuma, “Synthesis and optical properties of greenish yellow α-SiAlON:Eu2+ phosphors,” Book of 152 関連解説記事/講演/雑誌掲載 Abstracts, 15th International Conference on Ternary and Multinary Compounds, Thu-O-3B, Kyoto, Japan, March 6–10 (2006) [20] K. Sakuma, N. Hirosaki, R.-J. Xie, Y. Yamamoto and T. Suehiro, “Luminescent properties of (Ca,Y)-α-SiAlON:Eu yellow phosphors,” Book of Abstracts, 15th International Conference on Ternary and Multinary Compounds, Tue-P-20B, Kyoto, Japan, March 6–10 (2006) [21] 木村直樹, 広崎尚登, 鈴木龍次, 佐久間健, 解栄軍, 山本吉信, 平船俊一郎, “白色発光 ダイオード用酸窒化物・窒化物蛍光体の温度依存性,” 第 53 回応用物理学関係連合講 演会, p.1558, 25p-ZR-12 (2006.3 武蔵工業大学) [22] 解栄軍, 広崎尚登, 三友護, 高橋向星, 佐久間健, 木村直樹, “短波長黄色サイアロン蛍 光体の蛍光特性と白色発光ダイオードへの応用,” 第 53 回応用物理学関係連合講演 会, p.1558, 25p-ZR-13 (2006.3 武蔵工業大学) [23] 木村直樹, 広崎尚登, 佐久間健, 解栄軍, 平船俊一郎, “青色励起型高演色白色 LED ラ ンプ,” 電子情報通信学会 2006 年総合大会, C-4-22 (2006.3 国士舘大学) [24] Rong-Jun Xie, Naoto Hirosaki, Mamoru Mitomo, and Ken Sakuma, “Novel SiAlON-based Oxynitride Phosphors and their Applications in White Lightemitting Diodes,” Programs of Materials Research Society SPRING MEETING, p.208, San Francisco, April 17-21, 2006 [25] 木村直樹, 広崎尚登, 佐久間健, 解栄軍, 平船俊一郎, “青色励起型高演色白色発光ダイ オードランプ,” 講演奨励賞受賞, 第 67 回応用物理学会学術講演会, p.1318, 30a-H-10 (2006.9 立命館大学) [26] K. Sakuma, N. Hirosaki, R.-J. Xie, N. Kimura, S. Hirafune, “Efficiency Investigations of Blue Light Excitation Type for White LEDs,” Proceedings of The 13th International Display Workshops, PH2-3, pp.1221-1224, Otsu, Japan (2006) [27] 解栄軍, 広崎尚登, 木村直樹, 佐久間健, “サイアロン蛍光体を用いた高演色性白色 LED,” 第 54 回応用物理学関係連合講演会, p.1529, 29a-ZN-4 (2007.3 青山学院大学) 関連解説記事/講演/雑誌掲載 [1] “Yellow-orange phosphos mimic incandescent lamp,” COMPOUND SEMICONDUCTOR, Oct. 2004 [2] 広崎尚登, 佐久間健, 木村直樹, 大道浩児, 大橋正和, 田中大一郎, “サイアロン蛍光体 を用いた白色 LED”, フジクラ技報第 108 号, 2005 年 4 月発行 [3] 広崎尚登, 解栄軍, 佐久間健, “固体照明のための新蛍光体とそれを用いた高演色性白 153 色 LED の開発,” 応用物理学会応用電子物性分科会誌, 第 11 巻, 第 3 号, pp. 118–123 (2005.7.21 機械振興会館) [4] 広崎尚登, 木村直樹, 佐久間健, 平船俊一郎, 浅野健一郎, 田中大一郎, “照明用白色 LED,” フジクラ技報第 109 号, 2005 年 10 月発行 [5] 広崎尚登, 解栄軍, 佐久間健, “サイアロン系蛍光体とそれを用いた白色 LED の開 発,” 応用物理, 第 74 巻, 第 11 号, pp. 1449–1452 (2005) [6] 佐久間健, 広崎尚登, 解栄軍, “固体照明のための新蛍光体とそれを用いた高演色白色 LED の開発,” 独立行政法人日本学術振興会ワイドギャップ半導体光・電子デバイス 第 162 委員会第 42 回研究会 (2005.5.13 科学技術振興機構 (JST) 研究成果活用プラ ザ京都) [7] “フジクラが高輝度白色 LED 開発電球色で 55lm/W を達成,” EE Times Japan, 2005.10, p. 20 [8] Naoto Hirosaki, Naoki Kimura, Ken Sakuma, Syunichiro Hirafune, Kenichiro Asano and Daiichiro Tanaka, “White Light-emitting Diode Lamps for Lighting Applications,” Fujikura Technical Review, No.35, JANUARY 2006 [9] “製品化のタイミングを探る SiAlON ベース白色 LED,” Laser Focus World Japan, 2006.2, pp. 46–48 [10] 広崎尚登, 解栄軍, 佐久間健, “サイアロン蛍光体の合成と発光特性,” 独立行政法人日 本学術振興会先進セラミックス第 124 委員会第 122 回会議 (2006.4.25 東工大) [11] “White LEDs Approximate Daylight,” PHOTONICS SPECTRA, June 2006 [12] 広崎尚登, 解栄軍, 佐久間健, “白色 LED 用新規窒化物蛍光体の開発,” セラミックス, vol. 41, no.8, pp. 602–606 (2006) [13] 佐久間健, “固体照明用新蛍光体とそれを用いた白色 LED”, 財団法人光産業技術振興 協会, 2005FY-003-1 光技術動向調査報告書, 9.3.2, pp. 499–502 (2006) [14] 広崎尚登, 解栄軍, 佐久間健, 木村直樹, “窒化物蛍光体の開発,” Materials Integration, Vol.20, No.02, pp. 17–22 (2007) 154 謝辞 本論文の作成及び審査に関しまして, 東京大学生産技術研究所井上博之教授には, 暖かい ご指導とご鞭撻とともに大変なご尽力を賜りました. ここに, 心より感謝いたします. また, 本論文の作成, 審査に関しましてご助言, ご尽力くださいました東京大学大学院工学系研 究科マテリアル工学専攻鈴木俊夫教授, 和田一実教授, 近藤高志准教授, 同総合研究機構幾 原雄一教授, 同新領域創成科学研究科物質系専攻山本剛久准教授に心より感謝いたします. 本研究は, 独立行政法人物質・材料研究機構と株式会社フジクラとの共同研究として行 われたものであり, 蛍光体材料の研究は主に独立行政法人物質・材料研究機構ナノセラ ミックスセンター窒化物粒子グループ (旧物質研究所非酸化物焼結体グループ) において, 応用デバイスである白色発光ダイオードランプの試作及び評価は主に株式会社フジクラ光 電子技術研究所において実施されました. 物質・材料研究機構グループリーダー廣崎尚登 博士には, 研究の課題設定, 進め方, 実験手法をご教授いただき, また共同研究者として常 に有益な議論をしていただきました. 長期間に亘る暖かいご指導とご鞭撻に対しまして深 く感謝いたします. 同主任研究員解栄軍博士には, 共同研究者の中でも特に多くのご助力 を賜りました. また, 多くの有益な議論におつきあいいただきました. 同特別研究員山本吉 信博士及び同元特別研究員末廣隆之博士 (現東北大学多元物質化学研究所助教) には, 共同 研究者として有益な議論をしていただきますとともに, 合成技術及び測定技術の面では装 置の使用方法や各種実験ノウハウなど大変多くのことをご教授いただきました. 感謝いた します. フジクラ元専務取締役稲田浩一博士 (現常任顧問), 常務執行役員・フェロー山内良三博 士, 元光電子技術研究所長和田朗博士 (現電子電装開発センター長), 光電子技術研究所長 兼応用電子技術研究部長細谷英行様, 元開発企画部長藤本郁夫様, 元開発企画部長秋山道 夫様, 元開発企画部主席部員伊藤達也様 (現電子デバイス研究所長) には, このような大変 貴重な研究の機会を与えていただきましたこと, またその成果を本論文にまとめる機会を いただきましたことを感謝いたします. 共同研究者として研究成果の発表にご協力いただきました当時フジクラ光電子技術研究 所応用電子技術研究部 (旧光通信研究部) 光実装グループ所属の皆様, 元光実装グループ 長田中大一郎様 (現 America Fujikura Ltd., R&D Center, General Manager), 光実装グ 155 ループ長浅野健一郎様, 元主管部員大橋正和様 (現サーマルテック事業部開発部グループ 長), 元主管部員平船俊一郎様 (現同部基盤技術グループ長), 係長木村直樹様, 大道浩児様, 増子幸一郎様, 鈴木龍次様, 瀧ヶ平将人様に感謝いたします. 物質・材料研究機構ナノセラミックスセンター非酸化物焼結体グループグループリー ダー (旧物質研究所非酸化物焼結体グループアソシエートディレクター) 田中英彦博士, 同 主幹研究員西村聡之博士には, 実験装置の便宜をはかっていただき, 実験方法についてご教 授いただくとともに, 研究に関して多くの有益なアドバイスをいただきました. 物質・材料 研究機構名誉研究員三友護博士にも多くのご助言をいただきました. 村上千代子様, 岡室 葉子様, 中島一子様, 矢口千恵子様には実験その他において様々なご助力をいただきまし た. 物質・材料研究機構ナノスケール物質センター主幹研究員三留正則博士には FE-SEM 装置の利用について, 同分析支援ステーション和田壽璋様, 佐藤晃様には, 粉末 X 線回折パ ターン測定装置の利用について, それぞれ多大なる便宜をはかっていただきました. 同分 析支援ステーション矢島祥行様には, 化学組成分析においてご尽力いただきました. フジクラ材料研究所材料評価センターの皆様には研究初期における粉末 X 線回折パ ターン測定と, 合成試料の化学組成分析でご協力頂きました. また, 試作した白色 LED ラ ンプや照明器具は, フジクラ光電子技術研究所応用電子技術研究部 (旧光通信研究部) 光実 装グループの大勢の皆様のご協力により実現されました. それぞれに様々な創意工夫をし ていただき, 皆様のアイデアとご努力の積み重ねによって, 大変に優れた特性の試作品が 多数出来上がりました. ありがとうございました. 元物質・材料研究機構客員研究員・元東京工科大学助手上田恭太博士 (現株式会社三菱 化学科学技術研究センター) には, 窒化物蛍光体の研究に関して非常に多くのことをご教 授いただきました. また, 実験への有益なアドバイスもいただきました. 東京工科大学山 元明教授, 東北大学山根久典教授には, 幾度となく蛍光体の研究に関し議論のお相手をし ていただきました. 東京理科大学曽我公平准教授には, 希土類原子間のエネルギー移動に ついてご教授いただきました. 静岡大学助教小南裕子博士と東京工科大学宮本快暢助教に は d 軌道の電子準位についてご教授いただきました. 物質・材料研究機構外来研究員高橋 向星様 (シャープ株式会社) には, 日頃の実験のみならず学会発表に際してもご助力を賜 り, 大変助かりました. 最後に, 長期間に亘り休日でも論文を書いている夫に嫌な顔をすることなく温かく見守 り協力してくれた妻の道子に感謝します. 皆様, 本当にありがとうございました. 2008 年 1 月