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技術資料 自発光式路面表示装置に関する研究 吾田洋一* 浅野基樹** 近江隆洋*** た自発光式路面表示装置を増毛バイパスに適用す 1.はじめに 北海道の交通事故の特徴は、走行億台キロに対 ることで、その効果を判定した。 する事故率は全国の水準よりも低い傾向にあるに もかかわらず、事故件数の占める死亡事故の発生 注) ここで致死率とは人身事故100件当たりの死 割合(致死率)が高く、かつ死者数が常に全国の 者数である。 都道府県に比べて高水準にあることである。特に 平成3∼7年での北海道の国道の交通事故のうち、 2.自発光式路面表示装置の見え方の検討 その全体の致死率とカーブ区間の致死率ではそれ 自発光式路面表示装置が路面に対してフラット ぞれ3.7、11.0とカーブ区間の致死率 注) が非常に高 である場合、道路上の白線以上に視認性を高めド くなっている。従って、北海道の幹線道路にお ライバーに適切な運転挙動を誘導するためには、 けるカーブ事故対策は、重要な課題の一つとなっ 発光能力を高めることと、表示部分の面積を広げ ており、そのためドライバーに適切な運転挙動を ることの2つが考えられる。 誘導するための交通安全施設整備が求められる。 これらの内前者つまり発光能力から、道路上の その方策の一つとして、高視認陸区画線やチャッ 白線を評価すると、白線は天候などの条件が良け ターバーなどの路面表示装置の設置が有効と考え ればその視認性は大変良好であるが、夜間ではヘ られるが、これらの施設は運転者が路面を見通し ッドライトの範囲(近目では40m)しか視認が出 たときの垂直角度が小さいため、反射材や発光部 来ない。特に、積雪時では白線を視認するのは困 が路面から突出しているほど視認性に対する効果 難である。これらのことから路面表示を自発光と があり、また、実際に路面から大きく突出したも することで、夜間の視認性を向上させて、光を透 のが多い。しかし、北海道のような積雪地では、 過させることによる積雪時の視認性の向上は、ド このような路面から大きく突出している路面表示 ライバーの運転挙動の誘導という意味においては 施設は、除雪作業時の除雪車の切り刃による強烈 非常に大きな威力を発揮すると考えられる。 な衝撃により簡単に破壊されてしまうため、冬期 には撤去せざるを得ない場合が多い。 次に後者、表示装置の面積を広げることによる 対応を考察してみる。図−1は視認距離と視認角 そこで本研究は、路面表示施設を路面に対して 度についての概念図である。この図より視認角度 フラットな自発光式とすることにより、運転者が が小さくなると路面表示が見えにくくなる様子が 路面を見通したときの角度が小さくともはっきり 分かる。視認角度が0度では理論的に視認は得ら 認識でき、かつ、除雪車にも対応可能な自発光式 れないが、表−1はこの関係を数値的に表したも 路面表示装置を考案し開発した。さらに、開発し のである。この表によると視認距離が70mでは小 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 22 図−1 視認距離と視認角度の関係図 表−1 視認距離と視認角度の関係表 図−2 視認距離と視認角の関係図 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 23 表−2 視認距離と視野角の関係表 由は、白線は5m毎に点線に敷設されており(場合 型 車 か ら の視 認 角 度 は1 度 と す でに 大 変 小 さく な による)、視認角度が小さい場合それが連続して見 る。 えてしまうためであると考えられる。 図 − 2 は路 面 表 示 の横 断 方 向 と縦 断 方 向 に対 す る 視 認 距 離と 視 野 角 の関 係 に つ いて 説 明 し たも の で あ る 。 物体 を 視 認 する 場 合 、 横断 縦 断 両 方の 値 が あ る 一 定値 以 上 な けれ ば 視 認 でき な い 。 表− 2 3.発光色に関する検討 かん 図−3は各種光波長における 桿 体視覚、錐体視 覚の相対視度を示したものである。 は こ の 関 係を 数 値 化 した も の で ある 。 こ の 表に よ こ こ で 、桿 体 視 覚 とは 桿 体 細 胞に よ る 視 覚で あ る と 横 断 方向 の 視 野 角を 考 え る と路 面 表 示 の幅 が る 。 こ れ らは 人 間 の 目の 網 膜 に 存在 し 、 桿 体細 胞 5cmの場合、視認距離150m程度で視野角1分を は グ レ イ スケ ー ル で は光 を 認 識 する が 、 色 を判 別 確 保 で き ると 考 え ら れる 。 次 に 、縦 断 方 向 の視 野 す る こ と は出 来 な い 。し か し 、 わず か な 光 でも 認 角を考えると、乗用車で路面表示の長さが500cm 識 す る こ とが 可 能 で 、網 膜 の 周 辺部 に 多 く 存在 す の場合、視認距離150mで視野角1分を切ることが る。 分 か る 。 実際 に は 、 道路 上 の 白 線は 天 候 な どの 条 一方、錐体視覚とは錐体細胞による視覚である。 件が良くかつそれが新しい場合200m以上は視認 錐 体 細 胞 は色 を 認 識 する こ と が でき る が 、 暗い と 可 能 で あ るが 、 こ の 表に よ る と その 視 認 距 離は 約 こ ろ で は 光を 認 識 で きに く い 、 網膜 の 中 心 部に 主 120m∼150mということになり少々短い。この理 に存在し周辺部にはほとんど存在しない。 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 24 ス ト が 取 りに く い こ とや 、 緑 は 舗装 路 面 と のコ ン ト ラ ス ト が取 り に く いと い う こ とか ら 、 路 面と コ ン ト ラ ス トの 少 な い 青緑 系 を 避 けオ レ ン ジ 系が 望 ましいと考えられる。 4.自発光式路面表示装置の製作 以 上 の 検討 よ り 、 路面 に 対 し フラ ッ ト な 自発 光 式 路 面 表 示装 置 は 幅 が比 較 的 小 さく て も 長 さを 十 分 確 保 す れば よ い と 考え ら れ た 。し か し 、 この よ う な 装 置 が長 く な れ ばな る ほ ど 取り 扱 い が 困難 に な る こ と 、価 格 が 高 くな る こ と から 、 装 置 の長 さ は30cm程度に押さえ、点線状に配置することで見 か け 上 の 長さ を 確 保 する こ と と した 。 こ れ は道 路 上 の 白 線 は点 線 な の にも 拘 わ ら ず連 続 し て 見え る 図−3 各種光波長における桿体視覚、錐体視 覚の相対視度 視認距離が長いということから判断した。 図 − 4 はこ れ ら の 検討 に よ り 開発 し た 自 発光 式 路 面 表 示 装置 で あ る 。図 − 5 は 積雪 状 態 に おい て ま た 、 相対 視 度 と はそ れ ぞ れ の視 覚 の 最 も高 い の視認性を確認したものである。この図より2cm 視 認 感 度 を1 0 0 と した 場 合 の 視度 ( 視 細 胞の 光 程 度 の 積 雪に お い て も、 発 光 部 の光 が 雪 を 透過 し 感受性)を示すものである。 視 認 可 能 であ る こ と を確 認 し た 。ま た 、 除 雪実 験 こ れ ら のこ と か ら 、本 装 置 の 発光 色 に 関 して 考 を 行 っ た 結果 、 除 雪 車の グ レ ー ダー が 本 装 置に 当 察 す る 。 周辺 光 が 全 くな い 夜 間 では 現 在 一 般的 に た っ た 場 合は 当 た っ た部 分 が 削 れる が ( 削 れ量 は 使 用 さ れ てい る 発 光 ダイ オ ー ド の明 る さ を 想定 す 3cm以内までは機能する)、装置は破壊されず発 る と 数 カ ンデ ラ と な る。 こ の 程 度の 明 る さ のL E 光 機 能 は 失わ れ る こ とは な い こ とが 確 認 で きた 。 D は 周 辺 光が な い 全 くな い と 非 常に 眩 し く 感じ ら れ る 。 そ のた め 、 明 るさ を 認 識 する 桿 体 視 覚は 低 く 押 さ え た方 が よ い と考 え ら れ る。 逆 に 、 昼間 は 数 カ ン デ ラ程 度 の 光 では 周 辺 光 に比 べ る と 非常 に 小 さ い た め認 識 は 難 しい 。 以 上 のこ と か ら 、本 装 置 は 色 を 認識 す る 錐 体視 覚 に よ る視 覚 を 高 める 色 を選択する方が望ましいと考えられる。 従 っ て 、図 − 3 に よる と 発 光 色と し て 理 想的 な 色 は 黄 ∼ 緑と 言 う こ とに な る が 、黄 色 は 車 種に よ っ て は ヘ ッド ラ イ ト に黄 色 の 成 分が 多 く コ ント ラ 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 図−4 制作した自発光式路面表示装置 25 図−5 圧雪状態での視認性 5.増毛バイパスによる自発光式路面表示装置の く 見 え る こと が わ か る。 こ れ は 、本 装 置 が 夜間 眩 検証 し く な ら ない 程 度 の 輝度 で あ る ため 、 薄 暮 など で 製 作 し た自 発 光 式 路面 表 示 装 置を 増 毛 バ イパ ス は 太 陽 の 光に 負 け て 見え に く く なる た め で ある と に 設 置 す るこ と で 、 その 効 果 を 検証 し た 。 図− 6 思 わ れ る 。そ の た め 、今 後 は 本 装置 を 輝 度 計な ど は 設 置 状 況を 示 す 。 この 図 よ り 15 0 m の 範囲 に と 連 動 さ せる こ と で 、昼 は 強 い 輝度 で 、 夜 間は 弱 1 0 m 間 隔で 1 5 箇 所、 図 − 7 のよ う に 1 箇所 当 い 輝 度 で 発光 さ せ る 方式 に つ い て検 討 す る 必要 が たり4個、計60個敷設した。図−8は圧雪1cm あ る 。 図 −1 2 は フ ラッ シ ュ を 焚か ず に 撮 影し た の 状 態 で 、薄 暮 の 状 態で 撮 影 し たも の で あ る。 図 写 真 で あ る。 こ の 図 より 視 認 距 離が 遠 く な るほ ど −8は圧雪1cmの状態での発光状況を撮影したも に 光 が 1 つに 集 ま っ てい る 様 が 分か る 。 こ のこ と の で あ る 。こ の 図 よ り、 白 線 が まっ た く 見 えな い は 、 本 装 置を 制 作 す るに 際 し て 検討 し た 効 果、 つ 圧 雪 状 況 でも 本 装 置 は雪 に 光 を 透過 さ せ 良 好な 視 ま り 、 点 線上 に 敷 設 して も 視 認 距離 が 離 れ てい る 認性を確保しているのが分かる。図−10,11は ほ ど 光 が 凝集 し 、 見 かけ 上 1 つ に見 え る こ とで よ 夜 間 と 薄 暮の 状 態 を それ ぞ れ 示 した も の で ある 。 り 長 い 視 認距 離 で も 良好 な 視 認 性を 発 揮 す るこ と こ れ ら の 写真 か ら 本 装置 は 薄 暮 より 夜 間 の 方が よ を示している。 図−6 自発光式路面表示装置の配置図(全体) 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 26 図−7 自発光式路面表示装置の配置図(詳細) 図−8 自発光式路面表示装置の全体写真 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 27 図−12 夜間圧雪1cmでの 図−11 薄暮圧雪1cmでの自発光式路面表示装置写真 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 自発光式路面表示装置写真 28 6.アンケート調査 これは90%以上の人が普通であると答えてい 本装置の効果をアンケート調査により検証した。 る。一般的に公共性の高い沢山の人が何度も見る アンケートは平成11年2月1日∼2月28日に、延べ51 ようなものは、奇抜なものは飽きやすいので避け、 の回答を得た。調査時刻は除雪作業の行われる 周りの風景にとけ込みやすいものがよいとされて 4:00∼6:00(夜間)と10:00∼14:00(昼間)の間で いる。そういう意味では、普通が多いという答え あり、それぞれ41、10の回答を得た。 は望ましいものといえる。 図−13はアンケート調査結果である。この図 によると以下のことが分かる。 5)走行時の状況 1)視認性 走行がしやすかったというのが過半数を超える。 本装置の輝度(約2-3cd/mm 2 )では、路面の昼間 通常の路面であれば白線でも十分であるので普通 の反射輝度(約6,000cd/mm 2 、太陽の状態にもよ という回答が多くなるのもうなずけるが、特に積 る)に遠く及ばないので、明るさについてはちょう 雪時では白線が見えなくなるため、走行がよりし ど良いとの回答が80%であるにもかかわらず、 やすくなると考えられる。 アンケート結果の昼間でも80%が見えなかった、 となっている(道路の反射輝度は天候などに大き 6)設置について 2 特に、夜間で100%の人が設置した方がよい の本装置が昼間でも十分視認可能な場合も考えら と答えている。これは、本装置が大変効果がある れる)。しかし、夜間では91%がよく見えたとなっ ことを示しているものと考えられる。 く 左右される ため、場合 によっては 約2 - 3 c d / ㎜ ており、これは路面の反射輝度が非常に小さいた め本装置がとてもよく見えたものと考えられる。 7.結論 本研究では、除雪作業に耐えられるよう、路面 2)明るさ に対しフラットな自発光式路面表示装置のあるべ 昼間では80%、夜間では98%の人が共に明 き形態を理論的に考察し開発、設置、検討した。 るいという回答であった。しかし、明るすぎると その結果、開発した自発光式路面表示装置は積雪 いう答えはなく、逆に暗すぎるという答えが特に 寒冷地において十分その効果を発揮することがわ 昼間で多かったことから、今後は本装置に輝度計 かった。特に積雪寒冷地においては降雪や除雪 を組み込み、昼間、輝度によって光をより明るく 作業時に白線が削られるためにラインが見えなく する工夫も必要と考えられる。 なり走行が困難になるため、一年を通してライン を認識可能とすることは車両の安全走行に大きく 3)設置間隔 寄与するものと考えられる。本研究を以下にまと 全ての人が妥当と答えている。今後は経費をよ めると、 り減らす方策として、現在一箇所当たり4本設置 しているのを2本にして検討することも考えられ る。 1)自発光式路面表示装置の見え方の検討 路面に対してフラットな路面表示装置が、ドラ イバーに十分視認されるためにはどのような形態 が望ましいのかを視認角度の面から理論的に考察 4)発光色 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 29 図−12 昼夜別アンケート結果 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 30 今回の開発では視程障害時の検討がなされてい した。 な い 。 今 後は 、 霧 や 吹雪 な ど の 視程 障 害 に 対し て 2)発光色の検討 人 間 の 目の 構 造 、 路面 と の コ ント ラ ス ト 、対 向 も 効 果 を 発揮 す る 自 発光 式 路 面 表示 装 置 の 検討 を 車 の ヘ ッ ドラ イ ト な どの 様 々 な 要因 か ら 、 路面 表 し て い く 必要 が あ る 。次 に 、 本 装置 は 夜 間 のぎ ら 示装置の最も適した発光色に関して検討した。 つ き に 配 慮し た 結 果 、昼 間 は 輝 度差 が 逆 転 し視 認 3)自発光式路面表示装置の製作 性 が 悪 く なる と 言 う 問題 点 が 生 じた 。 今 後 は、 輝 先の検討から、自発光式路面表示装置を製作し、 度 計 な ど を本 装 置 に 組み 込 み 、 昼間 で も 視 認可 能 積雪時の発光状況を確認した。 なものにしていく必要がある。 4)現道での効果を検証した <参考文献> 増 毛 バ イパ ス に 本 装置 を 敷 設 する こ と で その 効 1 ) 吾 田 、高 木 : 自 発光 式 路 面 表示 装 置 の 評価 に 果 を 検 証 した 。 そ の 結果 、 開 発 した 自 発 光 式路 面 関 す る 研 究− 積 雪 寒 冷地 型 の 開 発に 向 け て −、 開 表示装置は大変良い視認性があることが分かった。 発土木研究所月報、No.539,pp.3-14,1998.4 5)アンケート調査 2)F.H.ホーキンズ:ヒューマンファクター、成山 現 道 に おい て 効 果 に関 す る ア ンケ ー ト 調 査を 行 っ た 。 そ の結 果 、 非 常に 良 好 な 結果 が 得 ら れた 。 堂書店、p.405,1992.1 3)関重広:照明工学講義、東京電機大学出版局、 p.199,1987.4 8.今後の課題 吾田 洋一* 浅野 基樹** AZUTA Youiti ASANO Motoki 近江 隆洋*** OUMI Takahiro 開発土木研究所 開発土木研究所 開発土木研究所 道路部 道路部 道路部 交通研究室 交通研究室 交通研究室 研究員 室長 室員 開発土木研究所月報 №570 2000 年 11 月 31