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スーパーV TFT-LCD 技術
スーパー V TFT-LCD 技術 スーパー V TFT-LCD 技術 “Super-V” TFT-LCD Technology 平 田 貢 祥 * Mitsuaki Hirata 渡 辺 典 子 * Noriko Watanabe 要 旨 “スーパー V 液晶”は,シャープ独自の超開口率技 術“スーパー HA(High Aperture) ” ・超広視野角技術 “スーパー VA(Viewing Angle) ” ・インタフェース技術 等の相乗効果による高表示品位 TFT 液晶ディスプレ イである。本稿では超広視野角技術“スーパー VA”に ついて述べる。 “スーパー VA”はコンピュータシミュ レーションを用いた光学パラメータの最適化と新しい 液晶配向制御技術により,高輝度・高コントラスト・低 消費電力といった重要な特性を損なうことなく広視野 角特性を実現した技術である。 The“Super-V LCD”(Super View LCD) is a high performance TFT-LCD using high aperture ratio technology“Super-HA(High Aperture)”, wide viewing angle technology“Super-VA(Viewing Angle)”, interface technology and so on. Super-VA technology has optimized optical parameters and has employed a new technique of alignment control structure of liquid crystal molecules. Super-VA technology obtained wide viewing angle without sacrificing the other important characteristics of conventional TFT-LCDs, such as high brightness, high contrast, and low electrical power consumption. まえがき TFT 液晶ディスプレイは,高輝度,高コントラス ト,低消費電力性等の優れた特性を持ち,デスクトッ プパソコンモニタ,ノートパソコン,TV,車載 TV・ ナビゲーション, ムービー等広範な分野において活用 されている。近年,マルチメディア時代に対応して, * 液晶天理開発本部 液晶研究所 第2開発部 山 原 基 裕 * Motohiro Yamahara 水 嶋 繁 光 * Shigeaki Mizushima これら液晶ディスプレイもより高い性能を求められて いる。デスクトップパソコンはもとより,ノートパソ コンにおいても,CPU 処理速度の高速化,メモリの大 容量化等が進み,フルカラー化,高速動画表示等が必 須となってきた。 このため液晶ディスプレイに対して も,輝度・コントラスト・視野角・色再現性等すべての 特性において高次元にバランスのとれた表示品位が望 まれている。 我々は高表示品位液晶ディスプレイの要求に対し “スーパー VA”技術を開発した。いくつかの広視野角 技術がすでに報告されているが, これらは開口率の低 下による消費電力の増加,正面の表示品位の低下,生 産プロセスへの影響などのトレードオフを伴った。 し かし本技術はトレードオフ無く高輝度・高コントラス ト・低消費電力・広視野角特性を実現した。 本報告では超広視野角技術“スーパー VA”に関し て報告する。 1.光学補償層の最適化 1) TN (ツイストネマティック)液晶を用いた液晶表 示装置は,液晶分子構造の異方性によって,見る方向 によって透過率が変化するため, 使用できる視野角範 囲が制限される。図3(左)に示すように上方向はコ ントラストが低下し約 30°まで,左右方向および下方 向は中間調の階調反転が起こり左右方向は 40°程度, 下方向は 15° 程度の視野角範囲しかない。我々はこの 液晶分子構造の異方性を光学補償層を用いて補償すべ く, コンピュータシミュレーションを用いて種々の光 学パラメータの最適化を行った。まず,通常の TN 液 晶セルに対し光学補償層の最適化を行った。シミュ レーションは Flank の連続体理論を用いて,液晶分子 のダイレクションを計算し,次に Berreman の4×4 マトリクスを用いて透過率を求めた。 図1に各々の計 算に用いたパラメータとフローを記載する。 この結果 次の2つのポイントを見いだした。 ― 29 ― シャープ技報 第69号・1997年12月 このため, 我々は従来の光学補償層の屈折率楕円体 がパネル平面に平行であるのに対し, 補償層の屈折率 楕円体とパネル平面が角度θを持った今までとは異 なった構造の光学補償層を考えた。 すなわち光学補償 層の屈折率楕円体の3つの主屈折率, 屈折率楕円体と 層表面の法線との角度θ, および層の厚みをパラメー タとしてシミュレーションを行った。 図2に光学補償 層の屈折率楕円体の軸方向図を示す。 このシミュレー ションの結果,左右方向の階調反転は無くなり,左右 方向および上方向のコントラストが大きくできる事が 判明した。 また下方向の階調反転も抑制できる結果が 得られた。 この結果に基づいて実際に液晶パネルを作製した。 図3に本パネルの視野角特性を示す。 左右方向および 上方向において広い視野角が得られ本シミュレーショ ンの妥当性が確認された。下方向に関しても,階調反 転は従来の TN 液晶パネルが 15°程度であるのに対し て 35° 程度まで大きく改善され,目的とした広視野角 特性を得ることができた。 図1 シミュレーションフロー Fig. 1 Simulation flow. (1)正の光学異方性を持った光学補償層の場合, 上下方向の階調反転は抑制できるが, 左右方向の透 過率が非対称となりディスプレイとして不適である。 (2)負の光学異方性を持った光学補償層の場合, 左右方向の階調反転は抑制できるが, 上下方向の階 調反転は抑制できず, 十分な視野角特性が得られない。 図3 光学補償層による視野角特性の改善効果 Fig. 3 The effect of optical compensating layer to the viewing angle. 2.液晶セルの最適化 2) 次のステップとして, 我々は更なる表示品位の向上 に着目した。 前記広視野角ディスプレイは下方向の視 野角特性において,図4(左)に見られるように中間 調の階調が黒つぶれとなる現象が起こっていた。 この 点を次の課題として取り組んだ。 図2 光学補償層の屈折率楕円体の軸方向図 Fig. 2 The image of the refractive index ellipsoid of optical compensating layer. 我々は液晶分子の分子配向構造に着目し, 1絵素内 に異なった構造の領域を持つマルチドメインセルにつ いて,液晶の構造のパラメータとしてツイスト角・プ レチルト角・配向方向・屈折率・セルギャップを考慮し, シミュレーションを行った。この結果,配向方向によ ― 30 ― スーパー V TFT-LCD 技術 図4 下方向の視野角特性(8段調) Fig. 4 Viewing angle properties at lower direction. るマルチドメイン構造が有効であることを見いだした。 図5に配向方向によるマルチドメイン構造の概念図 を示す。 平面図に示すように1絵素内に6時視角領域 と 12 時視角領域を形成する。我々はこの2つの領域 の面積をパラメータとして視野角特性をシミュレート した。図6に6時視角領域の面積比が 100% から 50% (すなわち1:1)まで変化したときの視野角を示す。 12 時視角領域が大きくなるにつれて,下方向の階調 反転が抑制されるが, コントラストは低下する事が解 る。この結果6時視角領域85%,12時視角領域15%の 分割比に最適ポイントを見いだした。 本結果に基づいて液晶パネルを試作した。 マルチド メイン構造は, 図5に示すように1絵素内に高低2つ のプレチルト角を持った基板(TFT 基板および CF 基 板)を,片方の基板を6時視角もう一方を 12 時視角と なるように組み合わせた。 視角方向は高プレチルト角 の領域によって決まるため, 1つの絵素内に6時視角 と 12 時視角の両方の領域を持ったパネルが作製でき る。 1絵素内に高低2つのプレチルト角を得る方法と しては,後述するプレチルト角制御技術を用いた。6 時視角と 12 時視角の領域の境界は,一方はゲートバ スライン,他方は Cs バスライン上に形成し,分割ラ インからの光漏れを遮蔽した。 図4(右)に本液晶ディスプレイの8階調表示にお ける下方向の輝度の視野角依存性を示す。 階調反転が 抑制されているばかりではなく, 中間調階調が黒つぶ れせずに階調特性が得られている事が解る。表1に 15 型 XGA スーパー V モジュールの特性を示す。高 輝度・高コントラスト・高速応答性・低消費電力特性 を維持しつつ,広視野角を実現した。 図5 マルチドメイン構造 図6 シミュレーション結果(下方向) Fig. 5 Two-domain LCD structure. Fig. 6 The simulation result at lower direction. ― 31 ― シャープ技報 第69号・1997年12月 表1 スーパー V 液晶モジュールの特性 Properties of the Super-V TFT-LCDS. Contrast 300 Brightness 200cd/m2 Response Time 32msec Power Consumption 12W pretilt angle (degree) Table 1 Viewing Angle right, left, upper lower 70degrees 40degrees no gray scale inversion mean roughness [mm] 3.プレチルト角制御技術 3) 図7 配向膜表面の粗さとプレチルト角の関係 Fig. 7 我々はかねてより液晶パネルのプレチルト角発現に 対して, プレチルト角を低下させる要因に着目し検討 を行ってきた。そして,配向膜表面の表面粗さとプレ チルト角の間に相関関係があることを見いだした。 図7に下地 ITO 膜,ラビング条件および光照射に よって,表面粗さを異ならせた配向膜の表面粗さと, プレチルト角の関係を示した。 表面粗さが粗くなるほ どプレチルト角が減少する相関が見られた。 これを応 用して我々はマルチドメイン構造の作製方法を開発し た。 すなわち1つの絵素の任意の部分の表面粗さを異 ならせる事によって, 高低2種類のプレチルト角を持 つことが可能となった。 実際に表面粗さを異ならせるために,ITO 表面に フォトリソグラフィにてレジストをパターニングし, 37% 濃塩酸にて 10 分間浸漬処理を行うことによっ て,ITO表面の粗さを大きくし、この粗さを反映させ て,その上に形成するポリイミド配向膜の表面粗さ を 0.4 ∼ 1.9 nm まで変化させた。この時プレチルト 角は未処理部分の8°から浸漬処理を行った0°ま で変化した。同様の効果は配向膜表面に露光を行う ことによっても得られた。この場合従来の工程に露 光工程が付加されるのみで,プロセスの増加は最小 限に抑えられる。 Relation between mean roughness and pretilt angle. むすび スーパー V 液晶は,光学補償層と液晶セルの光学 パラメータの最適化によるスーパー VA 技術によっ て,正面輝度 200 cd/m2,正面コントラスト 300 以上, 消費電力 12 W (15 型 XGA) ,応答速度 32 msec,等 の重要な液晶ディスプレイの特性にトレードオフな く,左右および斜め方向の視野角± 70°以上,上方向 70° ,下方向 40° の広視野角を実現した。 また,スーパー V 液晶は応答速度や材料による使 用温度範囲へのトレードオフが無いことから, デスク トップパソコンモニタのみならず,ノートパソコン, 車載用 TV・ナビゲーション,TV,ムービー等あらゆ る分野において高表示品位ディスプレイを提供できる バランスの取れた特性を実現した。 参考文献 1) M. Hirata et al. AM-LCD’ 96 pp193-196 (1996) 2) N. Watanabe et al. AM-LCD’ 97 pp45-46 (1997) 3) 水嶋, 第23回液晶討論会予稿集 pp246-247 (1997) ― 32 ― (1 9 9 7年1 0月2 8日受理)