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Title 新興国におけるインフラ事業戦略
Title Author Publisher Jtitle Abstract Genre URL Powered by TCPDF (www.tcpdf.org) 新興国におけるインフラ事業戦略 : 日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略 戸谷, 好孝(Totani, Yoshitaka) 小林, 喜一郎(Kobayashi, Kiichiro) 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 修士論文 (2015. 3) Thesis or Dissertation http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-00002014 -2976 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程 学位論文( 2014 年度) 論文題名 新興国におけるインフラ事業戦略 -日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略- 主 査 小林喜一郎 教授 副 査 中村洋 教授 副 査 浅川和宏 教授 副 査 学籍番号 81330927 氏 名 戸谷 好孝 論 文 要 旨 所属ゼミ 小林喜一郎研究会 学籍番号 81330927 氏名 戸谷 好孝 (論文題名) 新興国におけるインフラ事業戦略 -日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略- (内容の要旨) <研究の目的> 本研究の目的は、国内エネルギー事業会社の新興国進出における成功要因を見つけることである。 ここに至る背景として、国内エネルギー事業会社における国内市場での成長性への懸念と海外成長 市場における進出の遅れの二つの懸念がある。国内市場での成長性への懸念については、少子高齢 化により生産年齢人口に比例するエネルギー市場が長期的に縮小傾向であること、また、規制緩和 による国内エネルギー市場の競争激化などが挙げられる。加えて、海外成長市場における日本のエ ネルギー事業会社の進出の遅れについては、新興国においてはエネルギーインフラ整備への需要が 旺盛である中、欧米のエネルギー企業は本国市場の自由化を契機としてグローバル化を進めている 一方、国内エネルギー企業は本国市場の規制に守られていた過去から続く無リスク経営体質により 海外進出に消極的であることが挙げられる。 以上から、国内エネルギー企業が今後長期的な成長を達成するには、エネルギー需要旺盛な新興 国への進出が不可欠であり、その成功要因を分析し、自社及び国内エネルギー企業への提言を行う。 <研究のプロセス> 先行研究及び先行事例である水ビジネスから、「本国と進出との距離(CAGE)」を考慮した地域 選定、進出に際して「自社以外の企業との協業要否」、自社が保有しているべき「内部資源」、参入 形態や進出事業領域など「自社の取り得る戦略」、という観点から新興国進出への成功要因のフレー ムワークを形成し、そのフレームワークから仮説を導出した。 仮説の検証方法としては、事例研究を実施した。事例研究では、現在時点で新興国市場に進出経 験のある企業をタイプ別に、日系エネルギー事業会社(5 社)、日系商社(4 社) 、欧米系エネルギー 事業会社(6 社)の計 15 社を選定した上で、文献研究により、導出した仮説の検証及び、戦略のタ イプ分けを実施した。 <主な結論> 進出地域の選定に際しては、CAGE を考慮した地域選定をしており、特に進出国の規制緩和(A) が前提条件となっている。また、協業に関しては、本国関連・支援産業とは自社がエネルギーバリ ューチェーン全ての機能を持っているかどうかが協業要否を決め、進出国同業企業とは現地でのタ ーゲット顧客の設定により協業要否が決まる。なお、自社の内部資源に関しては、新興国進出への 「トップのコミットメント」が必須であり、現地ネットワークやリスクマネジメント力は自社保有 が望ましいが、協業先からの獲得により進出も可能である。参入形態は「合弁」もしくは現地企業 の「買収」により進出するが、現地での進出事業領域によって参入形態が異なる。加えて、進出事 業領域は、本国で享受する法規制有無によって決まる。 また、新興国進出戦略は、自社の「事業運営ノウハウの幅」から本国での協業要否、進出地域で の「参入事業領域の幅」によって参入形態が決まり、大きく 4 つの戦略パターンに分けられ、企業 グループ毎に異なる戦略を採用している。日系エネルギー事業会社は「本国協業型合弁」戦略、日 系商社は本国協業有無を問わない「合弁」戦略、欧米系エネルギー事業会社は参入形態を問わない 「本国非協業型」戦略を採用している。 なお、海外進出は売上、利益ともの上昇させることのできる有効な手段である一方、本国での事 業運営と比較してリスクが高いため、トップのコミットメントと海外事業を行うための専従組織の 形成、国内市場での安定的なキャッシュの創出が上記戦略を遂行する上で前提条件となる。 目次 1. テーマ設定理由および問題意識…………………………………………… 1 2. 先行研究・事例……………………………………………………………… 3 2-1.先行研究……………………………………………………………….. 3 2-1-1.国の距離 2-1-2.国の競争優位 2-1-3.新興国ビジネス 2-1-4.インフラ・ビジネス 2-2.先行事例………………………………………………………………… 8 2-2-1.水メジャー企業 2-2-2.水メジャー企業の新興国戦略 3. フレームワーク……………………………………………………………….. 10 3-1.フレームワークの分析の観点 3-2.フレームワークの関連図 4. 仮説…………………………………………………………………………… 12 4-1.本国と進出との距離 4-2.本国・進出国の状況 4-3.自社保有資源・戦略 5. 研究方法……………………………………………………………………… 14 5-1.事例研究概要 5-2.仮説の検証方法 5-3.事例研究対象企業 6. 事例研究……………………………………………………………………… 16 6-1.日系エネルギー事業会社……………………………………………… 16 6-1-1.東京ガス…………………………………………………………… 16 6-1-2.大阪ガス…………………………………………………………… 25 6-1-3.東京電力…………………………………………………………… 37 6-1-4.関西電力…………………………………………………………… 51 6-1-5.中部電力…………………………………………………………… 64 6-2.日系商社………………………………………………………………… 74 6-2-1.三菱商事…………………………………………………………… 74 6-2-2.三井物産…………………………………………………………… 86 6-2-3.丸紅………………………………………………………………… 95 6-2-4.豊田通商…………………………………………………………… 108 6-3.欧米系エネルギー事業会社…………………………………………… 120 6-3-1.GDF Suez…………………………………………………………... 120 6-3-2.EDF………………………………………………………………… 125 6-3-3.Enel………………………………………………………………… 135 6-3-4.E.ON……………………………………………………………….. 140 6-3-5.RWE……………………………………………………………….. 146 6-3-6.Duke Energy……………………………………………………… 151 7. 仮説検証まとめ………………………………………………………………. 156 7-1.本国・進出国との距離 7-2.本国・進出国での状況 7-3.自社保有資源・戦略 7-4.仮説検証まとめ 8. 本研究の結論…………………………………………………………………. 164 8-1.全体の結論 8-2.企業グループ別の結論 9. 自社への提言…………………………………………………………………. 170 9-1.海外および新興国へ進出する意義 9-2.新興国における自社の競争優位 9-3.新興国進出にむけた自社への提言 10. 本研究の限界…………………………………………………………………. 175 11. 参考文献………………………………………………………………………. 176 謝辞…………………………………………………………………………………. 186 1.テーマ選択理由および問題意識 私は派遣元である東邦ガスをはじめとした国内のエネルギー業界の今後の成 長性に対して問題意識を持っており、今後成長していくためには事業ドメイン の拡張か地域ドメインの拡張が必要であると考えている。このような考えに至 った要因は大きく分けて二つある。 一つ目は、マクロ環境的な観点として国内市場の縮小、エネルギー事業の規 制緩和による需要の減少である。国内の人口構造の変化に目を向けてみると 2010 年の 1 億 2,806 万人をピークとして総人口が減少しており、人口構造に ついても少子高齢化により老年人口比率 23%と年々上昇(老年人口は 2010 年 で 2,948 万人)している。また、国立社会保障・人口問題研究所による将来人 口推計では、2030 年には総人口 1 億 1,4167 万人、老年人口は 3,685 万人、老 齢人口比率が 32.3%、2060 年には総人口 7,997 万人、老齢人口は 3,464 万人、 老齢人口比率が 43.3%と、年々人口減少とともに老齢人口比率の上昇が避けら れない状況となっている。エネルギー使用は総人口や生産年齢人口の増減に比 例することから、将来的に見込まれる高齢化の進展により国内エネルギー市場 が縮小することは容易に想像することができる。 また、国内エネルギー事業は、これまで法規制により、電力事業者とガス事 業者の棲み分けされており、それぞれの事業において単一の事業者が地域を独 占して供給することで、安定供給と安定的な収益を維持してきたが、エネルギ ー事業の規制改革が議論されており、2016 年度には小売において完全自由化 となる見込みとなっている。小売自由化はこれまでの競争環境を一変させ、地 域(関東や関西など)や熱源(電力とガス)での棲み分けがなくなり、また、 新規事業者の進出により、縮小する国内市場にて既存のパイを奪い合うため、 価格競争に陥り収益性の悪化が懸念される。さらには収益の悪化した事業者が 淘汰されるなど業界再編成の可能性もあり、既存のエネルギー事業者が成長を 遂げるためには事業ドメインもしくは、地域ドメインを拡張するなど戦略転換 が求められていると考えられる。 二つ目は、業界特性の観点として国内エネルギー事業者の海外進出が極めて 少なく、新興国市場をはじめとした成長市場を取り込めていないことである。 世界に目を向けると、欧米のインフラ企業は積極的に海外進出を行っている一 方、国内エネルギー事業者の海外進出事例は数えるほどしかない。これは、こ れまで国内市場において規制によって安定的な収益を保証されていたため、リ スクをとって海外進出など、事業領域を拡張する必要性を感じていなかったこ とが考えられる。 一方、経済成長の著しい新興国市場は、社会インフラが未整備な地域も多く、 インフラ需要が旺盛であることから日本のエネルギー事業者にとっても新たな 1 ビジネスチャンスになる可能性がある。 以上から、国内エネルギー事業者が今後成長の見込める新興国市場へ進出す る際の成功要因を導き出し、国内エネルギー事業者、ひいては派遣元である東 邦ガスの成長・発展に貢献すべく、本テーマを設定した。 なお、ここでいう成功の定義は、現地市場にてエネルギー事業での進出を果 たすこととする。 2 2.先行研究・事例 ここでは、上記テーマに関連する理論、及び先行事例のレビューを行うこと で、エネルギー事業会社が新興国進出する際に、考えるべきフレームワークの 構築に役立てる。 2-1.先行研究 新興国進出における成功要因を考える際に、本国と進出国との関係(「国の 距離」)、また当該事業における各々の「国の競争優位」、「新興国ビジネス」 の特徴や「インフラ・ビジネス」の特徴が重要なファクターとなり得ると考 えられるため、上記に関連する先行研究・文献について下記にまとめる。 2-1-1.国の距離 ・ゲマワット(2009)によれば、セミ・グローバリゼーションの現状の中、 世界では国境が依然として重要であり、その理由は、国境を越えると大 きな差異が生じるからであると指摘している。そこで、その国ごとの差 異を、文化的(Cultural)、制度的/政治的(Administrative/Political)、 地理的(Geographical)、経済的(Economic)という四つの側面(総称 して CAGE と呼ぶ)における隔たりという観点からモデル化している。 ・ 「文化」とは、法治国家としての国よりむしろ人々の間の相互作用で形成 される属性に関するものを指しており、この隔たりは一般的に両国間の 経済活動を減少させる傾向にある。ただし、中長期的には価値観や規範 などの差異の影響は緩和することができる。 ・制度的属性とは、法律、政治的背景からできた制度などであり、政府に より組織され、政府により執行されるものであり、国と国との国際関係 も含まれる。また、進出先の制度インフラが弱いことも経済的活動を妨 げうる。 ・地理的な属性でクロスボーダーでの経済活動に影響を及ぼすのは、通常 は自然現象であるが、人的介入も含まれ、物理的な輸送に関わる地理に 加えて、「情報の地理」も考慮すべきである。 ・経済的な隔たりは、経済メカニズムを通じてクロスボーダーでの経済活 動に影響を及ぼす差異を指しており、経済規模だけでなく、一人当たり の所得にも着目している。また、経済的隔たりは、全体的にはクロスボ ーダーでの経済活動を抑える傾向にあるが、特定の条件の下では促進す ることもある。 ・また、CAGE の枠組みを使えば、それぞれの状況で鍵となる差異を特定 でき、ある側面において類似している国か異なる国かを識別する目安が 3 手に入り、さらに、差異の大きさが国によってどれくらい違うのかを考 えることができると主張している。 <図表 2-1:国レベルでの CAGE の枠組み> 二か国間 文化的隔たり 制度的隔たり 地理的隔たり 経済的隔たり 異なる言語 植民地関係 物理的隔たり 貧富の差 民族の差異 共通の地域貿易 国境接していな 天然資源 宗教の差異 ブロック い 経済 価値観の差異 共通の通貨 時差 人的資源 規範の差異 政治的対立 気候・衛生状態 インフラ 情報・知識を得 る費用や質 (出典:コークの味は国ごとに違うべきか) 2-1-2.国の競争優位 ・ポーター(1992)によれば、ある国が特定産業において、国際的に成功 するのは、その国の企業が競争する環境を形成し、競争優位の創造を促 進または阻害する四つの特性で説明できるとしている。 ・要素条件は、ある任意の産業で競争するのに必要な熟練労働またはイン フラストラクチャーといった生産要素における国の優位である。 ・需要条件は、製品またはサービスに対する本国市場の需要の性質である。 ・関連・支援産業は、国の中に、国際競争力を持つ供給産業と関連産業が 存在するかしないかを指している。 ・企業の戦略・構造およびライバル間競争は、企業の設立、組織、管理方 法を支配する国内条件および国内のライバル間競争の性質を指している。 <図表 2-2:国の競争優位の決定要因> (出典:国の競争優位) 4 ・ポーター(1992)は、システムとしての四つの決定要因を呼ぶ際に、国 の「ダイヤモンド」と表現しており、この「ダイヤモンド」は相互強化 システムであると指摘しており、一つの決定要因の効果は、他の要因の 状態に付随して動き、一つの要因での優位は、他の要因の優位を創造ま たはグレードアップするとしている。 ・また、全体像を完成させるのに必要であり、企業のコントロール外であ る最後の要因は政府であり、国の優位を向上させることも、また下落さ せることもできる。つまり、決定要因の全システムにどういう影響を与 えるかを考えずに実施された政策は、国の優位を高めると同時に失わせ る可能性もあると指摘されている。 2-1-3.新興国ビジネス ①伝統的な国際化モデルが通用しない ・天野(2010)によれば、伝統的な国際化モデルは、漸進性(gradualism)、 経路依存性(path dependence)、内部完結性(internal completeness) などの特徴があるが、従来の多国籍企業論は主に先進国から先進国への 進出を中心に議論されていること、国際化プロセス論では国際化の進展 とともに企業も漸進的に国際化を進めるモデルを想定していること、新 興国市場ではビジネスに必要な資源や能力、諸制度が未開発であり、チ ャネルや資源開発に長期的取り組む必要があることなど、従来の理論の 前提と今日の新興国市場環境が異なるため、戦略分析を行うに当たり留 意が必要と主張している。 ・加えて、新興国市場参入には特に資源開発が決定的に重要であり、従来 の国際化戦略が論じてきた以上のアテンションが必要とされ、これまで のトランスナショナルモデルを超えるステークホルダーアプローチが必 要であるとも主張されている。 ②「新興国市場のジレンマ」の存在 ・天野(2010)によれば、新興国市場参入時の企業の課題は、新興国にお ける中間層市場形成のスピードと規模が先進国企業の想定以上に速く、 対応が困難であることや、製品が既存先進国市場の修正に留まり、中位 以下の市場に大きく浸透しないこと、また、先進国市場で経営資源を割 いてしまい、新興国市場で十分な経営資源を割けないことが挙げられ、 これらの課題が解決されず後発国企業に市場シェアを奪われてしまうこ とを「新興国市場のジレンマ」 (天野ほか,2009)と定義づけており、この 5 現象は「イノベーターのジレンマ」 (Christensen,1997)に本質が似てい る。 ・新興国市場戦略は、既存研究で触れられている成長モデルの延長線上で の議論が難しく、またマネジメントの実務や実証研究の難しさが存在し ているため、従来の多国籍企業論の範疇を超えた議論が必要であり、市 場へのアプローチを下記5つの観点で整理すべきと主張している。 1. 資源再配分と組織調整…市場や資源の条件が先進国と異なる場合、 現地事業体を本国のメインストリームと切り離し、そこに権限を委 譲する必要があり、また現地で実験・探索活動を進め、実地経験上 の知識を蓄積する。 2. 市場志向とコミットメント…新興国市場において、外国企業がその 国に対して市場志向を高めること、親会社からの資源のコミットメ ントや権限移譲を図ることで、現地市場における子会社の環境適応 を促進する。 3. 製品戦略と市場開発…「市場適応(market adaptation)」と「市場 開発(market development)」の2つの視点を持って市場を総合的 に開発する。 4. 供給システムのボトルネックと資源開発の戦略…供給システムの 革新や資源・能力開発を行うことで新興国市場でのプレゼンスを向 上させる。 5. 新しいステークホルダー像と能力概念…中核ステークホルダーの みではなく、周辺ステークホルダーとも関係を持ち、それらの対立 やコンフリクトを熟知し、成長の方向性を探る。 <図表 2-3:中核ステークホルダーと周辺ステークホルダー> 中 核 ス テ ー 投資家、顧客、政府、競争相手、従業員、NGO、サ クホルダー プライヤー、コミュニティ 周 辺 ス テ ー 貧困者・弱者、孤立・分離した人々、敵対的・正当 クホルダー 性のない集団 (出典:新興国市場戦略の諸観点と国際経営論) 2-1-4.インフラ・ビジネス ①インフラ・ビジネスの特徴とスキーム ・加賀(2013)よれば、インフラ・ビジネスとは、コンサル・機器輸 出・建設工事・出資・操業までを行い、事業権・運営権(コンセッショ ン)を取得、または事業会社に出資して運営することを指しており、特 6 徴として、長期的には安定した事業収入インフレヘッジが可能であるこ と、また市場商品と関連性がなくトレンドがないこと、短期的には大規 模な初期投資が必要であること、為替変動リスク(収入は現地通貨建、 投下資本は自国通貨もしくはドル通貨建のため)があること、また資産 の分割・移動が困難であること、短・長期的には規制産業であり当局の 規制に守られることもあれば、規制によって潰される可能性があること があげられる。 ・ビジネスの形態は、PPP(Public Private Partnership=官民連携)の スキームをとっており、民間企業を活用し公的機関の財政負担を減らす こと、また民間企業による効率的な事業運営により CS 向上を図ること を狙いとしており、PPP の中には、業務委託レベルから事業権を得て 民間企業がプロジェクトを主導するレベルまであり、多くの場合、民間 企業がプロジェクトの EPC と OM を扱い、資金調達に責任を負ってい るスキームも存在している。 ②日本のインフラ・ビジネスの海外進出の特徴 ・井川(2011)によれば、これまで日本企業のインフラ事業への関与は EPC (設計、調達、建設)が主であったが、これからはシステム輸出、インフ ラ事業の運営が求められているものの、日本企業は欧米メジャーに比較 して後発であるといわれている。 ・そこで井川(2011)は、インフラ事業の海外進出の成功の必須条件とし て、進出国のインフラ事業の特性の認識を挙げており、その特性を反映 したリスクマネジメントが鍵であり、特に開発効果(貧困削減に資する 効果)を十分に斟酌することが必要であると主張している。 ・なお、リスクマネジメントにおいては、事業実施後のリスクマネジメン ト能力獲得が通常のビジネスの成功要因にみられる技術力、価格競争力、 グローバル人材管理能力に優って重要な成功要因であり、明確なコミッ トメントと適度なリスクテイキングを必要としている。 ・また、江崎(2013)は、社会インフラ事業は占有が比較的可能であり、 日本企業の持つ技術力がそのまま競争力になるが、非常に広範囲な事業 から構成される総合産業であるものの、これまで日本ではインフラ事業 が事業会社(電力・ガス、鉄道会社など)を筆頭としてバリューチェーン に分けて企業が構成されていたため、総合的にサービスを提供できる会 社が存在しないと主張している。 ・そこで、日本企業が社会インフラ事業で欧州企業に立ち向かうためには 「オールジャパン(産官学連携、LLP から SPC まで)のスキーム構築」 7 が必要と主張しており、具体的には、成長に見込まれる O&M の分野や エンジニアリングまで包括した「トータルなインフラ・ビジネスの海外 展開実行のためのプラットフォームをつくり、ノウハウを結集」させる こと、 「国内の社会インフラ事業の民営化の推進による非効率な官営運営 の是正と海外事業を推進」させること、 「コンサルティングファームの育 成による国際入札に対するシナリオ作り」をすべきと主張している。 ・また、加賀(2013)は、政府はパッケージ型インフラ事業の海外展開を 推進しているが、個々の設備受注・技術の輸出ではなく、事業権の獲得 を狙っているものの、日本企業の特有の四つの課題を克服する必要があ ると主張しており、一つは先行する欧米企業と安さ勝負の中国・韓国へ の対策(ニーズをくみ取れるか)、二つ目はノウハウを獲得できるか (M&A を活用)、三つ目は金融ソリューション能力を高める(プロジ ェクト・ファイナンスなど)、四つ目は意思決定の迅速化への対応が必 要としている。 2-2.先行事例(水ビジネスにおける水メジャー企業の新興国進出事例) ・水ビジネスは、エネルギー事業と同様にインフラ事業であるが、現在水メ ジャーと呼ばれる数社が世界市場を席巻しており、エネルギー事業への示 唆が多い業種であると考えられる。そこで、水ビジネスにおける文献(日 本の水ビジネス(中村吉明,2010)、ウォータービジネス(モード・バーロ ウ,2008))調査から水メジャー企業の水ビジネスにおける新興国進出戦略 を紐解くと下記のとおり整理できる。 2-2-1.水メジャー企業 ・世界の水道を支配しようとするグローバル企業は、スエズ(仏)、ヴェオ リア(仏)、テムズ(独,英)が大手 3 社であり、水メジャー企業と呼ば れている。その他の企業も存在しているが、グローバル展開している多 くの企業は欧州企業である。 2-2-2.水メジャー企業の新興国戦略 ・二つの文献調査から、水メジャー企業の新興国進出戦略をまとめると下 記の 4 つに整理される。 ①事業の民営化 ・国際機関、自国・進出国政府との太いパイプを活用し、進出国での 水ビジネスの民営化を実現した上で進出している。 8 ②事業の垂直統合化 ・水ビジネスにおける川上~川下の事業を持っており、トータルソリ ューション力を保有することで、新興国が必要とするインフラ計画 から事業運営までのノウハウを内部保有が可能となり、これが新興 国進出のコアコンピタンスとなっている。 ③現地企業との合弁による参入 ・外資企業参入に対するネガティブイメージを回避するため、また現 地企業が保有していない技術・ノウハウの移転を移転するため、現 地企業と合弁による進出を行っている。 ④リスクマネジメント ・長期契約や単価固定の契約を締結することで、リスクヘッジを行い、 長期間・安定的な収益を確保している。 ・プロジェクト・ファイナンスを活用するなど、リスクを取らず、かつ 低金利での資金調達を実施して事業投資を行っている。 9 3.フレームワーク 以上の先行研究ならびに、水ビジネスにおける新興国進出事例を踏まえ、日 本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略の成功要因について、①本国と進出 国の距離(CAGE)、②本国と進出国における協業(ダイヤモンドフレームワ ーク)、③自社保有資源・戦略の要素をフレームワークとして分析する。 3-1.フレームワークの分析の観点 以下の表には、今回活用する分析のフレームワークと、分析に観点をまとめ ている。 <図表 3-1:フレームワークの分析の観点> フレームワーク ① 文化(C) 本国と進出 国の距離 分析の観点 言語、価値観、規範、宗教、民族、気質な どの違い 制度(A) 法律、政策、政治的背景からできた制度な どの違い 地理(G) 本国と進出先の国の間の物理的な距離 経済(E) 購買力、労働コスト、資本の規模などの違 い ② 関連・支援産業 本国における関連・支援産業の有無 本国と進出 国における ライバル間競争 協業 ③ トップのコミッ 自社保有資 トメント 源・戦略 ネットワーク 現地市場での競合企業(同業他社)の有無 進出に際してのトップのコミットメントの 度合い 現地市場とのネットワークの有無、獲得方 法 リスクマネジメ 現地特有のリスクマネジメント力の保有有 ント 無、獲得方法 参入形態 買収、提携、自前進出か 参入事業領域 本国における事業領域と比較して同等か、 縮小か、拡大か 10 3-2.フレームワークの関連図 上記分析のフレームワークの関係性を示すと下図の通りとなる。 <図表 3-2:フレームワークの関連図> 11 4. 仮説 上記フレームワークに基づいて導き出した日本のインフラ事業会社の新興国 進出戦略の成功要因の仮説と、当該仮説を構築するに至った根拠は下記のとお りである。 4-1.本国と進出国との距離 ・進出国選定にあたり、本国と進出国との 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的 距離(G)、経済的距離(E)を考慮する。 インフラが未整備な新興国にとっては、インフラの充実が目的で あり、文化的な違いによって進出国企業の選別は行わない。 法制度にて外資参入規制が緩和されて国や、元植民地であるため 制度的な隔たりが少ない国への進出は、他の国と比較して参入障 壁が低い。 事業運営上、本国からの定期的な物資の輸送などはないものの、 既存インフラの活用が見込める本国近隣国から徐々に事業エリア を拡張していくと考えられ、進出する新興国の選定においても物 理的距離が考慮される。 経済水準の高い国から低い国へ進出することとなり、人件費の高 い本国従業員の派遣が限定されるため、事業領域も、本国従業員 の人員を多く必要としない事業に限定される。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 進出国における法制備が整っており、かつ外国企業の参入に関す る規制が緩和されていることが、進出の前提条件となる。 4-2.本国・進出国の状況 ・新興国エネルギー事業に進出する際、 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 新興国にてインフラを一から整備する際、事業計画のコンサルテ ィングから事業運営手法まで幅広く技術とノウハウを移転するこ とが必要となるため、一エネルギー事業者だけではなく、本国の インフラ整備に関連する産業と協業することが重要である。 特に日本においては、エネルギー事業の川上~川下までのバリュ ーチェーンが分散されているため協業することが重要な成功要因 となる。 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 12 新興国のエネルギー企業(同業企業)は、先進国にて実績のある 企業からの技術やノウハウの移転を求めており、また進出企業は 現地ネットワークやリスクマネジメント力を求めており、補完関 係にある新興国企業の存在が進出を後押しする。 4-3.自社保有資源・戦略 ・新興国エネルギー事業に進出する際、 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメ ント力を自社で保有していることが、進出を後押しする 今まで日本のインフラ事業のみ運営してきたエネルギー事業者に とって、新興国進出は未知の領域に踏み込む戦略である。 トップの明確なコミットメントがなければ、本国事業よりはるか にリスクの高い新興国市場へ進出し、事業を継続することは困難 である。 また、現地の商慣習や、ニーズなどが本国とは大幅に異なるた め、現地市場にアクセスできるネットワークを保有していること が重要である。 加えて、新興国市場への進出は一般的に高リスクと考えられるた め、進出企業においてその新興国特有のリスクをマネジメントす る能力を保有していることが重要である。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する インフラ事業は公共性の高い事業であるため、現地政府はできる 限り現地企業にて事業運営を行うことを考えている。 そこで、自前や M&A での参入は現地政府から規制を受ける可能 性が大きいと考えられ、現地への資本提供及び技術支援・運営ノ ウハウの供与などを名目として現地のエネルギー企業との合弁が 現実的な参入形態となる。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 進出する事業領域は、自社が本国にて実績があり、競争優位のある 事業から進出すると考えられ、全ての事業もしくは、本国で行って いない事業での進出は困難である。 13 5.研究方法 先行研究および水ビジネスにおける先行事例研究によって得られた仮説につ いて、エネルギー事業での事例研究を通じて検証し、結論を導きたい。 5-1.事例研究概要 ・既に新興国に進出し、事業運営を行っている国内外のエネルギー事業会社 の取り組みを詳細に調査することで、仮説を検証する。 ・対象とする企業体は、これまでエネルギー事業の領域に特化して事業運営 してきた電力・ガス会社(日系、欧米系エネルギー事業会社)と、他の事 業体からエネルギー事業に参入してきた日系商社とし、フレームワークに 基づき新興国進出戦略を分析、各企業体の戦略の特徴(違い)や共通点を 抽出する。 5-2.仮説の検証方法 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的 距離(G)、経済的距離(E)を考慮する。 ・文化的距離は、進出国が本国と類似する文化を持っているか、また親密 国かどうかを調査し、文化的距離の観点から進出国が限定されている かを確認する。 ・制度的距離は、進出国が本国の元植民地であったかどうかを調査し、元 植民地だけでなく、それ以外の国にも進出しているか、もしくは、進出 国にてエネルギー事業を行う際の外資参入規制があるかを確認する。 ・物理的距離は、進出国が本国近隣国に集中しているか、また、大陸をま たいで進出している国があるか。 ・経済的距離は、本国と進出国との経済水準に差があるかどうか。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する ・CAGE 全てを検証し、その中で、進出国選定にあたりどの要素が一番 影響を与えているか(どの項目が絶対条件となっているか)。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする ・進出する際に、一社単独ではなく、本国の関連・支援産業と共に進出 しているか、もしくは本国の関連・支援産業と協力関係にあるか。 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする ・進出国での事業運営を行う際に、現地競合企業と提携して事業運営し ているかどうか、そのような体制での進出が他の事例(自前、外資との 提携)と比較して多いか。 14 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメン ト力を自社で保有していることが、進出を後押しする ・トップのコミットメントは、事業計画及び、中期計画、または社長イン タビューにて、新興国でのエネルギー事業への進出が明確化されてい るか。 ・進出に際して、自社にて保有している資源にて現地ネットワークや、リ スクマネジメント力を構築しているか。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する ・現地の実働会社が、自前ではなく、現地エネルギー企業との合弁によ るものか。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される ・本国で展開している事業と、進出国で展開している事業を比較する。 5-3.事例研究対象企業 本研究にて事例研究の対象とする企業は合計 15 社である。 ①日系エネルギー事業会社:5 社 東京ガス、大阪ガス、東京電力、関西電力、中部電力 ②日系商社:4 社 三菱商事、三井物産、丸紅、豊田通商 ③欧米系エネルギー事業会社:6 社 GDF Suez(仏) 、・Electricite de France(仏)、Enel(伊)、 E.ON(独)、RWE(独)、Duke Energy(米) 15 6.事例研究 6-1.日系エネルギー事業会社 6-1-1.東京ガス ■会社概要 東京ガスは、1885 年に創立され、供給区域として東京都および神奈川、埼玉、 千葉、茨城、栃木、群馬各県の主要都市を持つ国内第一位のガス事業会社であ る。主な事業内容は、ガスの製造・供給および販売、ガス機器の製作・販売お よびこれに関連する工事、ガス工事などガス事業における下流事業全般に加え、 ガス上流権益事業やエネルギーサービス事業、電力事業などエネルギー全般の 事業を展開している。 2013 年度末現在、従業員は単体 8,002 名、連結で 17,076 名在籍しており、 顧客数は約 1,111 万件、売上高は約 2.1 兆円、当期純利益は約 1,085 億円(い ずれも連結)となっている。 ■長期計画 東京ガスは、2011 年 11 月に発表した「チャレンジ 2020 ビジョン」にて、 目指す姿として「LNG バリューチェーンの高度化」を掲げている。 「LNG バリ ューチェーン」とは、LNG の調達から、輸送、都市ガスの製造、供給、エネル ギーソリューションの提供と続く、一連の事業活動のことであり、 「高度化」と はこの LNG バリューチェーンの確立・強化に努め、そこから生み出される価 値を提供することと定義しており、具体的な姿として①原料価格の低減と海外 事業の拡大、②エネルギーの安全かつ安定的な供給、③さまざまなニーズに合 わせたエネルギーソリューションの提供、④次世代を見据えた技術開発・IT 活 用の推進を掲げ、それを実現するために「付加価値の増大」、「エリアの拡大」 に取組むことを明確化している。 <図表 6-1-1:2020 年の事業構成比率> (出典:東京ガス HP) 16 また、特に海外事業においては、 「原料調達および海外上流事業の多様化・拡 大」、「海外での LNG バリューチェーン構築」、「エネルギーサービスとエンジ ニアリング事業の海外展開」の 3 つのアクションプランが示されており、2020 年時点での海外売上比率を、現状の 10%から 25%まで拡大する方針であるな ど、長期計画における海外事業拡大に対するコミットメントの高さが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 東京ガスの上流権益事業を除いた海外事業は、現在、マレーシア、ブラジル、 メキシコの 3 か国に進出している。また、事業内容については、マレーシアで はガス事業、ブラジルとメキシコでは発電事業となっている。ブラジルとマレ ーシアではエネルギーサービス事業も展開している。 なお、今後の海外事業の対象としている市場の条件は、①天然ガス利用が伸 びていく市場、②省エネ・環境ビジネスや分散型エネルギーシステム・スマー トビジネスの成長が見込める市場、③日本企業の海外展開のサポートに繋がる 市場としている。また、事業内容については、自社の強みを活かせる天然ガス をコアとした「エネルギーサービスやエンジニアリング事業」、また日本政府の 政策の後押しを見据え、旺盛な経済成長が見込まれ日本企業の進出が多い新興 国での「LNG・天然ガスインフラ整備事業」での参入を計画しており、これら により新興国のインフラ整備、省エネ・省 CO2 ニーズや、日本企業の海外展開 におけるエネルギーに関するニーズに応えることを新興国市場戦略の柱として いる。 <図表 6-1-2:東京ガスグループの海外展開> (出典:東京ガス HP) 17 ■組織体制 <図表 6-1-3:組織図(2014 年 11 月 1 日現在)> (出典:東京ガス HP) 上図のとおり、本社の管理部門を除き、事業部制の組織構造となっている。 その構成をみると、 「導管ネットワーク本部」、 「エネルギー生産本部」、 「資源事 業本部」、 「技術開発本部」は機能別に事業が分割され、営業部門は顧客別及び 地域別に「リビング本部」、 「エネルギーソリューション本部」、 「広域営業本部」 に分割されている。 なお、海外エネルギー事業は、資源事業本部の「海外事業部」が統括してお り、ガス田の開発・権益獲得などの上流事業と海外発電・ガス事業を担当して いる。 18 <図表 6-1-4:海外事業関連子会社> (出典:東京ガス CSR・会社案内 2014) 19 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①マレーシアにおけるガス事業及びエネルギーサービス事業 東京ガスは、1992 年にマレーシアのガス事業運営に進出し、現在まで携わ っている。 マレーシアは、日本が LNG の輸入を行っている産ガス国であり、親日的で あり、政治的にも安定しており、当時のマレーシア政府は民営化に積極的であ り、技術・ノウハウ移転を目的とした外資の参入を歓迎していた。 また、現地の国営企業ペトロナス社は敷設されたガスパイプラインを使い、 需要家へ届けることが課題となっていたが、その課題を解決するためにマレー シア政府は当該国営企業を純民間企業化し、技術・ノウハウを獲得するために 運営会社であるガス・マレーシア社の国際入札を実施した。 東京ガスの当時の社長であった安西氏は、マレーシアでの事業展開は LNG を輸入している東京ガスにとって、天然ガスを受ける補完事業となること、こ れまで日本国内で蓄積した都市ガス事業のノウハウが生かせること、会社の国 際化に向けた人材育成に役立つことなどからこのプロジェクトを「社運を賭し て取り組む」ものと位置づけ、国際入札に参加することを決めた。 国際入札に際して、イスラム事情に詳しい社内の人材である大橋氏をチーム リーダーに登用、また調査部隊として、英国シェル社や米国ガス会社で研修経 験のある人材を登用するなど、海外の知見がある人材をチームに登用、加え て、入札時のリスクの洗出しや、需要予測などを精緻に実施し、採算性のある 事業計画案を立案することで、落札に至り、事業権を獲得した。加えて、既に 現地に進出していた三井物産と協業することで現地のネットワークを獲得、さ らに現地実働会社の出資構成についても、現地の民間企業に資本参加を募り、 現地政府の政治的圧力がかからないようリスクマネジメントを行った出資構成 とした。なお、パイプライン建設など莫大な初期投資に関する資金調達は、プ ロジェクト・ファイナンス融資を取り付け、財務的なリスクに対してのマネジ メントを行った。 1992 年から進出したマレーシアでのガス事業は現在まで継続されており、 最近では、2014 年 2 月に、ガス事業だけでなく、コージェネレーションシス テムを活用した熱電併給事業へ参入するため、ガス・マレーシア社(66%) と東京ガスエネルギーアドバンス社(34%)とで資本金 400 万リンギット (約 1 億 2000 万円)の合弁企業 GAS MALAYSIA-ENERGY ADVANCE Sdn. Bhd.(ガスマレーシア・エネルギーアドバンス社)を設立することを発 表した。今後は日系工場だけでなく、ガス・マレーシアの既存顧客である現地 企業にも売り込み、それに加えて、停電が多く、ガス供給網の整備が進むタイ でも合弁事業を検討するなど、東南アジアでの事業拡大に積極的とである。 20 なお、海外でのコージェネを活用した熱電併給事業は、2012 年に東京ガス の子会社であるエネルギーアドバンスが三井物産と共同でブラジル企業を買収 し、参入した事例が最初であり、マレーシアは同事業にとって 2 つめの海外 拠点となる。 <図表 6-1-5:ガス・マレーシア社(設立当時)の概要> ・会社名:ガス・マレーシア社 ・設立 :1992 年 5 月設立 ・資本金:260 万リンギット(当時のレートで約 11 億円) ・資本構成:国営石油会社ペトロナス(20%)、マレーシア企業(55%)、 東京ガス(12.5%)、三井物産(12.5%) ・事業内容:ガス事業 ・従業員構成:計 170 名(うち、日本人は 20 名) <図表 6-1-6:ガス・マレーシア エネルギーアドバンス社の概要> ・会社名:GAS MALAYSIA-ENERGY ADVANCE Sdn. Bhd. ・設立 :2014 年 3 月 ・本社所在地:マレーシア国セランゴール州 ・資本金:400 万リンギット(約 1 億 2000 万円) ・資本構成:東京ガスエネルギーアドバンス 34% ガス・マレーシア 66% ・事業内容:エネルギーサービス事業 21 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)及び発電事業(中流)においては、ガス田やシェールガ スのあるオーストラリア・カナダ、電力事業の規制緩和が進んでいる メキシコ、ブラジルに分布しており、ガス販売など下流事業において も、規制緩和されているマレーシアとブラジルにて進出するなど、制 度上規制がない地域に進出している。 よって、制度(A)が最も考慮されているものの、上流事業はガス田 などを保有する地域に限定されるため物理的距離の考慮は難しい一 方、下流の事業に関しては事業に地域性はないものの、親日国かつ物 理的距離の近いマレーシアを選定していることから、文化(C)も物 理的距離(G)もある程度、考慮されていることが分かる。 一方、メキシコ、ブラジルでも発電事業にて実績があるが、こちらは 三井物産との協業によりネットワークを獲得し、進出しているものと 考えられる。 なお、経済的距離に関しては、現地エネルギー企業へ卸す発電事業や、 工業用もしくは商業用用途の顧客を対象としたガス販売への参入し ているものの、家庭用用途での小売への進出はされていない。よって、 家庭用用途での参入については、制度的規制に加えて、本国と進出国 との経済的格差が影響していると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業については、マレーシアの事例では三井 物産と協業しており、三井物産は現地ネットワークとプロジェクトの オペレーター、東京ガスは事業運営ノウハウの提供という補完関係に あり、このような補完関係にある日系企業との協業は進出を後押しす るものと考えられる。 また、現地同業企業との協業については、現地の国営企業や現地民間 企業にも共同出資という形で事業参画してもらうことで、現地のリス クマネジメント力及び外資規制の回避をしており、東京ガスは安定供 給ノウハウなどの技術・ノウハウを提供することで互いに補完関係と 22 なっている。よって、お互いの強みと弱みを補完する関係にある現地 同業企業との協業は進出を後押しするものと考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、マレーシアの事例からも分かる とおり、1990 年代当時から社長が海外進出に対してコミットメント が高く、最近でも 2011 年に発表された「チャレンジ 2020 ビジョン」 において海外事業の拡大が言及されるなど、過去から将来にかけて海 外事業に対するコミットメントが非常に高いと考えられる。 現地ネットワークは、マレーシアの事例においては産出国であり、あ る程度の現地ネットワークは保有しているものの、他の海外事業進出 事例と同様に、三井物産と共同出資の形で進出していることから、三 井物産が保有するネットワークを活用して進出していると考えられ る。 リスクマネジメント力については、マレーシアでのガス事業に参入す る際、イスラム文化に詳しい社内人材を登用するなど、社内人材にて リスクマネジメント力を保有していると考えられるが、現地国営・民 間企業と共同出資にて参入していることから、現地同業企業からリス クマネジメント力を獲得して参入していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、マレーシアの事例では商社及び現地企業と共同 出資にて合弁会社を設立することで参入しており、自社単独での進出 は行っていない。これは、メキシコやブラジルでの事業運営でも同様 である。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 現地での事業領域は、発電事業や、ガス事業など、進出国内では単体 の事業体として進出しており、本国にて実施している事業領域より限 定されている。これは、進出国が外資企業に対してどのような事業で の進出を求めているかにも強く影響するものと考えられ、自社単独に て進出事業領域を決めることができないことに起因するものと考え られる。 23 ■仮説検証以外の得られた考察 東京ガスの事例から分かる通り、現地ネットワークやリスクマネジメント力 などについては自社が必ず保有していることが進出の条件ではなく、進出に際 して必要なノウハウは補完関係にある他社と協業することで獲得することがで きることが分かった。 ただし、これはあくまで協業する他社と補完関係にあることが条件であり、 自社にて保有するコアコンピタンスがあり、それが協業相手にとって魅力的な 資源でなくてはならず、それがない場合、協業という選択肢をとることが難し くなると考えられる。 よって、海外進出する際には、まず、自社が海外事業をする上で、どのよう な点にコアコンピタンスがあるかを明確にして、他社に売り込む必要があると 考える。 また、進出国での事業領域については、自社にて決められるものではなく、 進出国が何を外資企業に求めているかによって、進出事業領域が決まることが 分かった。よって、自社のコアコンピタンスと進出国が求めている事業領域が 合致する地域を探し出し、当該地域への進出戦略を具体的に考えることが必要 であり、自社のコアコンピタンスが必ずしもどの進出国でも通用するわけでは ないということが言える。 つまり、進出国の選定及び、進出事業領域については、進出国における外部 環境に起因するものであり、自社が保有する内部資源に優先すると言える。 24 6-1-2.大阪ガス ■会社概要 大阪ガスは、1897 年に設立された国内第二位のガス事業会社であり、主な事 業内容は、ガスの製造・供給および販売、LPG の供給および販売、ガス機器の 販売、ガス工事の受注などガス関連の事業をメインとしている一方、電力の発 電・供給および販売も手掛けるなど、エネルギー事業の中で幅広い事業展開を 行っている。 また、ガス事業以外にもライフ&ビジネスソリューション事業にて情報シス テム事業、ケミカル事業、スポーツジムや老人福祉施設など様々な事業を展開 しており、他の日系エネルギー事業会社と比較して事業構成が多岐にわたって いるのが特徴である。 2013 年度末現在、従業員は単体 5,861 名、連結で 21,250 名在籍しており、 資本金は約 1,322 億円、売上は約 1.5 兆円、当期純利益は約 417 億円(いずれ も連結)となっている。 ■長期戦略 大阪ガスの長期戦略は、2009 年 3 月にプレスリリースされた長期経営ビジ ョン「Field of Dreams 2020」から読み解くことができる。 ここでは、国内外のフィールドで持続的に発展・成長していくことを決意表 明しており、2020 年あり姿として①国内エネルギーサービス事業、②海外エネ ルギーバリューチェーン事業、③環境・非エネルギー事業の 3 つの事業領域を 柱とし、これら 3 つの事業の事業規模比率を、現在の①:②:③=5:1:2 から、2020 年には①:②:③=2:1:1とするとすることが明記されている。 ここから、大阪ガスは長期的に海外でのエネルギー事業を拡大していく戦略が みてとれる。 さらに、具体的な取り組みとして「ビジネスフィールドの拡大」と「強靭な 事業構造の確立」が掲げられている。 「ビジネスフィールドの拡大」においては、既存事業を深化させることはも ちろん、それに加えて「新規事業分野・拠点の拡大」を掲げ、ビジネスフィー ルド拡大のため 2009 年度から 2020 年度の 12 年間で総額 1.5 兆円の投資計画 を予定するなど、新規事業分野への投資にも積極的な姿勢が伺われる。 また、 「強靭な事業構造の確立」では、 「国内エネルギーサービス事業」 「海外 エネルギーバリューチェーン事業」 「環境・非エネルギー事業」の 3 つの事業領 域間のシナジー発揮を追求し、各事業を成長させることが言及されており、海 外エネルギー事業へのコミットメントが非常に高いことが伺われる。 25 <図表 6-1-7:ビジネスフィールドの拡大> (出典:大阪ガス長期経営ビジョン「Field of Dreams 2020」) <図表 6-1-8:強靭な事業構造の確立> (出典:大阪ガス長期経営ビジョン「Field of Dreams 2020」) また、中期経営計画「Catalyze Our Dreams」では、長期経営ビジョン「Field of Dreams 2020」で示した(1)ビジネスフィールドの拡大と、 (2)強靭な事 業ポートフォリオの確立の実現に向け、より具体的な戦略として「近畿圏エネ ルギー事業の強化」「事業エリアの拡大」「新しい『事業の柱』の確立」が掲げ られている。 26 特に海外エネルギー事業については、大阪ガスグループの持つ事業ノウハウ を活用、また成長市場での事業拡大に挑戦するという記載からも積極的な姿勢 が見てとれる。また、新規事業投資の計画をみても、当初長期経営ビジョンに て計画していた 2014 年から 2020 年までの投資計画 4,000 億円を増額させ、 総額 7,700 億円に投資規模を拡大することが予定されており、特に国内・海外 エネルギー事業への投資を拡大させることが明記されていることから、会社と して海外エネルギー事業へのコミットメントが強いことが伺える。 <図表 6-1-9:新規投資計画> (出典:大阪ガスグループ 新中期計画(2014-2016)Catalyze Our Dreams) ■現在の海外エネルギー事業 大阪ガスは、現在、現地市場で売上を立てている事業として、発電事業と、 エネルギーサービス事業を含めたガス事業があり、計 5 か国に進出している。 発電事業は規制緩和されているアメリカ、オーストラリア、UAE、ガス事業は 東南アジアのシンガポール、タイに事業展開を行っている。 <図表 6-1-10:海外エネルギー関連事業の分布> (出典:大阪ガス HP) 27 ■組織体制 組織図は下図のとおり。 <図表 6-1-11:組織図> (出典:大阪ガス HP(一部抜粋) 本社の管理部門を除き、事業部制の組織構造となっている。その構成をみる と、 「資源・海外事業部」、 「ガス製造・発電事業部」、 「導管事業部」は機能別に 事業が分割され、営業部門である「リビング事業部」、「エネルギー事業部」は 業種によって事業が分割されている。 海外エネルギー事業については、 「資源・海外事業部」がガス田の権益獲得及 びガス田開発などの上流(アップストリーム)事業と、電力事業(発電事業) を主に担当している。また、海外でのガス販売やエネルギーサービス事業など の下流(ダウンストリーム)事業においてはエネルギー事業部が担当している。 それぞれの事業部が抱えている子会社の地域については、資源・海外事業部 28 は、天然ガスの産油国であるオーストラリアや、シェールガスの産出国である アメリカ・カナダなどに多くの子会社を有している一方、エネルギー事業部は 今後ガスの需要が高まると予想される東南アジア(タイ・シンガポール)に子 会社を構えているが、数は上流事業の子会社に比較して少ない。ただし、今後 海外ダウンストリーム事業を強化していく方針もあることから、徐々に事業を 拡大していくものと推測される。 <図表 6-1-12:海外インフラ関連子会社一覧 ※日本法人以外> ①資源海外事業部 会社名 事業内容 所在地 Osaka Gas Australia Pty. 石油、天然ガス等に関する オ ー ス ト ラ 開発、投資等 リア Ltd. Osaka Gas Resources Canada 石油、天然ガス等に関する カナダ 開発、投資等 Ltd. Osaka Gas USA Corporation 石油・天然ガス開発、エネ アメリカ ルギー供給事業等に関す る投資、調査等 Marianas Energy Company 電気供給事業 アメリカ LLC Osaka Gas UK, Ltd. エネルギー供給事業に関 イギリス する調査、投資等 Osaka Gas Energy Oceania エネルギー供給事業に関 オ ー ス ト ラ する調査、投資等 リア Pty. Ltd. (出典:大阪ガス HP より筆者作成) ②エネルギー事業部 会社名 事業内容 所在地 OSAKA GAS (THAILAND) エネルギー関連事業に関 タイ する調査・開発・投資等 CO.,LTD. OSAKA GAS SINGAPORE エネルギー関連事業に関 シ ン ガ ポ ー する調査・開発・投資等 ル PTE. LTD. (出典:大阪ガス HP より筆者作成) 29 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①シンガポールにおける産業用ガス販売事業 2013 年 3 月 10 日、大阪ガスとシティガス社は、シンガポールの産業用市場 で天然ガス販売事業を共同で行うことに合意し、シティガス社が新たに設立し た産業用天然ガス販売会社である共同ガス販売会社の株式売買契約を締結した。 シンガポールでの天然ガス販売事業への参画は、大阪ガスにとってガスの小売 分野で海外進出する初めてケースである。 両社は、2012 年 4 月に基本合意書(Heads of Agreement)を締結し、シン ガポールの産業用市場における天然ガス需要の開発などを目的とする合弁会社 の設立について、共同で検討していた。その後、シティガス社が既存顧客の契 約も含めて共同ガス販売会社に産業用天然ガス事業を譲渡することなどの事業 内容について合意に至ったため、シティガス社が新たに設立した共同ガス販売 会社の株式を、大阪ガスが 49%取得(取得額 約 30 億円)し、共同ガス販売会 社のガス販売業ライセンスを取得する株式売買契約を締結した。 共同ガス販売会社は、大阪ガスのコージェネ・工業炉に関する技術力をベー スとしたエネルギーソリューションノウハウとシティガス社の持つ天然ガス販 売事業インフラを活用し、化学業・食品業を中心に産業用市場での天然ガスの 需要開発から販売までを行う。加えて、シンガポールの工場設備の多くは燃焼 効率に改善の余地があり、新たなガス活用技術への関心も高いため、排熱の有 効活用・高効率バーナーの利用などにより天然ガスの高度利用を促進する。 同社は 2013 年 5 月をメドに事業を開始し、2020 年度に販売量で約1億立方 メートル、売上高で約 80 億円を目指している。 <図表 6-1-13:Osaka Gas Singapore Pte. Ltd.の概要> ・所在 シンガポール共和国 ・設立 2013 年 3 月 ・従業員 4名 ・株主 大阪ガス ・事業 ガス事業、エネルギーサービス事業など東南アジアを中心とし 100% たエネルギー関連企業グループの管理・運営 <図表 6-1-14:シティガス社の概要> ・会社名 City Gas Pte Ltd ・所在地 シンガポール ・株主 City Spring Infrastructure Management Pte Ltd 100% ・設立 2002 年 1 月 30 (前身 Singapore Gas Company によるガス供給開始は 1861 年) ・事業 シンガポール国内におけるタウンガスの製造およびタウンガ ス・天然ガスの小売 ・顧客数 約 65 万戸 ・販売量 約 1.7 億 m3 (家庭用・業務用:約 1.3 億 m3、産業用:約 0.4 億 m3) <図表 6-1-15 共同ガス販売会社の概要> ・所在地 シンガポール ・株主 City Gas Pte Ltd 51% Osaka Gas Singapore Pte Ltd 49% ※シンガポールにおける大阪ガスの 100 %持ち株会社 ・設立 2013 年 3 月 ・事業 シンガポール国内産業用顧客への天然ガスの販売 ②タイにおけるエネルギーサービス事業 2013 年 12 月、大阪ガスは、現地の金融機関など4社との合弁会社である新 会社 OSAKA GAS (THAILAND) CO., LTD.(以下、OGT)を設立した。資本 金は約 3,000 億円、大阪ガスグループの出資比率は 49%となっている。タイの 産業用市場で、大阪ガスの天然ガスの利用に関するエンジニアリング力をベー スとしたエネルギーソリューションノウハウを活用し、エネルギーサービス事 業を展開している。 これまで大阪ガスは、2012 年 7 月からタイに駐在員事務所を設立し、現地に おける市場調査を通じエネルギーサービス事業の可能性を探ってきたが、当該 事業の事業性が確認できたため、2013 年 10 月に新会社の登記登録を行い、各 種許可申請が整う 2014 年 1 月から、営業活動を開始することとした。大阪ガ スにとっては既に事業を開始しているシンガポールでの産業用ガス販売事業に 引き続いて、2 カ国目の当社における東南アジアでの事業展開となる。 なお、タイで提供するエネルギーサービスは、顧客が初期投資を行わず、使 用エネルギー量に応じた料金を支払うだけで、天然ガス設備などを導入できる サービスである。OGT がお客さまの省エネニーズに合わせて、リース会社を介 して三浦工業や川重冷熱工業などから調達したガス設備を顧客工場に設置し、 蒸気などのエネルギーを供給する。設置後のエネルギー利用状況の管理・メン テナンスについても OGT がワンストップでサービスを提供することで、省エ ネルギー化の促進および、安定したエネルギー供給を実現する。 タイの産業用天然ガス価格は液化石油ガス(LPG)や重油より3~4割安 く、ガスへの燃料転換を促しやすい環境にあり、特にエネルギー使用量の多い 31 金属や繊維関連企業への売り込みを強化し、2020 年度には売上高 80 億円を目 指している。 さらに、2014 年 7 月に、大阪ガスは新日鉄住金エンジと、タイ国における天 然ガスコージェネレーションシステム(以下「コージェネ」)を活用したオンサ イト事業※において業務提携することに合意した。 OGS が、新日鉄住金エンジ 100%出資でタイ国におけるコージェネ・オンサ イ ト 事 業 を 推 進 し て い る Nippon Steel Engineering Energy Solutions (Thailand) Ltd.(以下「NSET」)の株式を 30%取得(取得額 5 千万円)、それ に伴い、NSET の正式名を NS‐OG Energy Solutions (Thailand) Ltd.と変 更した。 本業務提携により、大阪ガスの持つ高効率コージェネをはじめとする天然ガ スの高度利用に関するノウハウと、新日鉄住金エンジの省エネ技術並びに高効 率コージェネに関する設備エンジニアリング技術を組み合わせ、コージェネを 活用したオンサイト事業を共同で推進し、顧客に多様なソリューションを提供 することが可能となった。 なお、既に NSET は Honda Automobile(Thailand)社 プラチンブリ工場向 け、アマタシティ工業団地内の Yokohama Tire Manufacturing (Thailand)社 向けのコージェネ・オンサイトプロジェクトを受注しており、今後、大阪ガス のノウハウや設計技術も生かしながら、タイの日系企業の工場や工業団地を対 象に営業を仕掛けていく。 ※お客さまの敷地内又は近傍にコージェネなどを設置・保有し、スタッフを 配置して、コージェネの運転・維持管理を行い、電気・熱などを供給する エネルギーサービス。 <図表 6-1-16:OSAKA GAS (THAILAND) CO., LTD.の概要> ・所在地 タイ王国バンコク ・設立 2013 年 10 月 ・資本金 10 百万タイバーツ(約:30 百万円) ・従業員 6名 ・株主 Osaka Gas Singapore Pte. Ltd. 49% SBCS Co., Ltd. 19%(SMBC 系列) SMBC MANAGEMENT SERVICE CO., LTD. 12%(SMBC 系列) MHCB Consulting (Thailand) Co., Ltd. Bangkok BTMU Limited ・事業 10%(みずほ系列) 10%(MUFG 系列) タイ王国の産業用顧客への燃料転換エネルギーサービス、エ 32 ネルギー関連事業の実施及び、それに付随する各種調査、開 発、投資等の実施 <図表 6-1-17:NS‐OG Energy Solutions (Thailand) Ltd.の概要> ・所在地 タイ国バンコク ・登記変更 2014 年 7 月 ・資本金 55.1 百万タイバーツ(約:171 百万円(為替 3.1 円/THB)) ・従業員 5名 ・株主 新日鉄住金エンジニアリング株式会社 70% ・事業 Osaka Gas Singapore Pte. Ltd. 30% タイ国内におけるお客さまの敷地内又は近傍に、コージェネ レーションなどを設置・保有し、お客さまに対して電力、熱 及びその他必要と認める用役などを供給する事業 <図表 6-1-18:大阪ガスの東南アジアにおける事業> (出典:大阪ガスプレスリリース) 33 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)及び発電事業(中流)においては、ガス田でシェールガ スのあるオーストラリア・カナダ、電力事業の規制緩和が進んでいる アメリカなど北米と豪州を中心に分布しており、ガスの販売など下流 事業においては、シンガポールとタイの二か国であり、制度上規制が ないかつ地域は東南アジアに限定されている。 よって、制度(A)が最も考慮されているものの、上流事業はガス田 などを保有する地域に限定されるため物理的距離の考慮は難しい一 方、下流の事業に関しては事業に地域性はないものの、親日国かつ物 理的距離の近い東南アジアの二か国を選んでいることから、文化(C) も物理的距離(G)も考慮されていることが分かる。 なお、経済的距離に関しては、下流事業が上流や中流の事業より、展 開地域が少ないことを踏まえると、小売への参入には何らかの障壁が あると考えられ、その一部に日本人や日本企業での事業運営において コストが合わず、日本で実施しているようなきめ細かいサービスがで きないことが要因となっていることも推察される。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業については、タイのエネルギーサービス 事業の事例でもあったように、事業運営においては新日鉄住金エンジ の現地法人と協業、出資においては現地の日系メガバンク各社と協業 することで成り立っており、日系企業との協業によって進出が進んで いるものと考えられる。 また、シンガポールの事例においてはシンガポールのシティガスとの 協業により進出しており、大阪ガスが技術力をベースとしたエネルギ ーソリューションノウハウを、シティガスが天然ガス販売事業インフ ラを保有しており、お互いの強みと弱みを補完する関係にあることが 進出をより推し進めていると考えられる。よって、現地同業企業との 協業は進出を後押ししていると考えられる。 34 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、長期経営ビジョンや中期経営計 画において海外エネルギーバリューチェーン事業の拡大が言及され ており、今後の投資計画をみると本事業へ最も多額の投資を予定して いることから、海外エネルギー事業拡大へのトップのコミットメント は非常に高いと推測される。 現地ネットワークは、タイでの事例にあるとおり事業化する前に現地 に社員を派遣し、顧客である現地日系法人のネットワークに入り込む ことで、事業可能性を把握でき、進出を後押ししたと考えられる。 リスクマネジメント力については、タイでの事業展開をみると、事業 検討のために現地へ社員を派遣して現地の環境やニーズの収集し、そ の後、事業化していることから、自社で蓄積した現地リスクマネジメ ント力が進出を後押しする要素となっていると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、シンガポールでは現地企業と、タイでは現地の 日系企業と合弁会社を設立することで参入しており、自社単独での進 出は行っていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 現地での事業領域は、発電事業と、ガス事業のみであり、本国にて実 施している熱供給事業や、その他の事業への参入は行っていないこと から、本の事業領域より限定されている。 35 ■仮説検証以外の得られた考察 今回の事例をみると大阪ガスは商社使わず、新興国への進出を達成している ことが分かる。これを可能にしている理由として下記が考えられる。 ①長期ビジョンや中期経営計画にて明確に海外エネルギー事業の拡大が謳わ れており、それらが対外的にも認識されていること ②事業検討するための子会社を現地に用意することで、事業の可能性の検証 だけでなく、現地企業とのコンタクトも図れ、現地ニーズの吸い上げがで きること ③タイにおいては子会社の出資者に日系銀行の子会社も名を連ねていること から、本国で取引のある現地の日系企業からも情報を入手できること ④既に進出している日系企業の事業拡大を助ける形で、進出もしていること から、現地が必要としている自社保有の技術・ノウハウを認識していて、 それをうまくアピールすることで進出機会を得ていること つまり、ネットワークやリスクマネジメントの観点から、必ずしも商社が必 要というわけではなく、海外での事業展開へのコミットメントを示し、事業が 立ち上がる前に現地へ人材を派遣するなど自ら積極的に現地の情報収集を行う ことで、現地ネットワークを構築でき、商社なしでも現地の生の情報を収集し、 それを自身の事業拡大の機会に活用していることが推測できる。 また、タイでのエネルギーサービス事業での進出事例から分かることとして は、進出国地域のどの顧客をターゲットにするかによって、事業領域や戦略も 異なることが分かる。本事例では、日系企業を対象としたサービスとなってい ることから、顧客がタイ人ではないため、現地独自のネットワークやリスクマ ネジメント力も必要でないため出資構成は全て日系企業にて構成されている。 つまり、現地人を顧客として進出する場合と比較して、新たなネットワークや ビジネスモデルが必要でないため、容易に参入が可能となると考えられる。 これらの事業は、地域が新興国になっただけであり、営業対象は日本人であ るため、本国での事業展開方法を特別に変えることなく進出が可能であること から、現地ネットワークやリスクマネジメント力がない初期段階でも海外展開 が可能な進出方法であると考えられる。 36 6-1-3.東京電力 ■会社概要 東京電力は東京を中心とする関東地域全体を供給区域に持つ日本最大のエネ ルギー事業会社であり、LNG の輸入量についても世界最大の企業である。事業 については、国内の電力事業を基盤とし、ガス事業、熱供給事業を展開し、海 外エネルギー事業にも早くから進出している。しかし、2011 年に東日本大震災 による福島原子力発電所の事故の発生、またそれに伴う全原子力発電所の停止 により、2010 年度から 2012 年度までの 3 年間は赤字に転落した。その間、事 業展開も縮小傾向であったが、直近の 2013 年度の売上高は約 6.6 兆円、当期 純利益は約 4,400 億円と回復の兆しを見せ、福島の事故責任の対応ため、収益 力強化に取り組んでいる。 ■長期計画 東京電力は、2014 年 3 月に東京電力グループアクション・プランを策定し た。そこでは、東京電力グループの使命として、福島原子力事故の責任を全う すること、その責任を全うするために経営基盤の強化を図ることを掲げ、責任 と競争に関する目標を設定している。 特に競争に関する目標では、事業競争力の強化に続いて、地域・業種を超え た事業拡大について言及しており、地域独占を守るのではなく、他地域での電 力事業を本格的に開始し、ガス事業など電力事業以外にも積極的に進出をはか ることを掲げていることから、海外エネルギー事業へのコミットメントが高い ことが推察される。 なお、東京電力は 2013 年 3 月から、社内カンパニー制を導入しているが、 2016 年には HD カンパニー制の導入し、①組織の再構築、機能・権限の分配、 ②人事改革による組織のフラット化などに着手していくことを検討している。 また、現在の社内カンパニー制の中でもコーポレート部門、その他バリュー チェーン毎に分けられた社内カンパニー別の戦略においても、海外エネルギー 事業の推進が明文化されており、投資の拡大が検討されていることが分かる。 ■現在の海外エネルギー事業 東京電力は、国内で蓄積した経営資源や専門的知識・技術を活用し、これま でにコンサルティング事業や投資事業、また海外事務所を通じた国際交流を推 進している。各事業の概要は以下のとおり。 ①コンサルティング 世界の各地域で、電力に関する質の高いインフラ整備へのニーズの高まりを 37 受けて、国内での経験を生かした電力分野のコンサルティングを展開している。 主に東南アジア、中東、北米、オセアニアを中心に事業を展開している。 ②海外投資 発電事業をはじめとして環境関連、燃料関連の事業に関する海外でのプロジ ェクトに積極的に投資を実施している。下図や表からも分かる通り、展開地域 は、東南アジア、中東、欧米に集中している。 <図表 6-1-19:主な海外エネルギー事業展開図> (出典:東京電力 HP) <図表 6-1-20:海外発電事業のプロジェクト概要> プロジェクト 進出地域 事業概要 (会社名) 彰 濱 豊 徳 星 元 プ 台湾 ・台湾における 3 つの IPP 事業(ガス火力) であり、彰濱・豊徳は 2004 年 3 月、星元 ロジェクト は 2009 年 6 月に運転開始 ・出資割合 25%、発電出力 196 万 kW ユ ー ラ ス エ ナ ジ 米 国 、 欧 ・世界各地に風力発電を中心とした再生可 ーグループ 州、韓国、 能エネルギー事業を展開し、各地で単独ま 豪州、日 たはローカルパートナーと共同で所有・稼 本 働 ・出資割合 40%、発電出力 227.5 万 kW 38 フ ー ミ ー 第 二 火 ベトナム ・ベトナム初 100%外資による BOT 方式民 力発電所第二期 活発電プロジェクトであり、天然ガス火力 プロジェクト 発電所を建設 ・2005 年 2 月に運転開始、出資割合 16%、 発電所出力 71.5 万 kW ウム・アル・ナー UAE ル発電・海水淡水 化プロジェクト ・アラビアンパワー社(APC)によるガス火 力発電・海水淡水化プロジェクト(ガス火 力)であり、既存の火力発電設備と海水淡 水化プラントを買収し、火力発電設備と海 水淡水化プラントを新設 ・2007 年 7 月運転開始、出資割合 35%、発 電所出力 220 万 kW パイトンⅠ・パイ イ ン ド ネ ・インドネシアにおける IPP 事業(石炭火 ト ン Ⅲ プ ロ ジ ェ シア 力)であり、2005 年 11 月にⅠプロジェク クト トの権益 14%を獲得、2012 年 3 月にはⅢ プロジェクトが営業運転を開始 ・インドネシア国有電力会社と長期売電契 約を締結 ・出資割合 14%、発電所出力 204.5 万 kW テ ィ ー ム エ ナ ジ フ ィ リ ピ ・フィリピンにおける IPP 事業(石炭・ガス ー・プロジェクト ン 火力)であり、ミラント・アジア・パシフィ ック社から事業を継承 ・子会社のティームエナジー・コーポレーシ ョンを通じて国営フィリピン電力公社へ 卸供給(ルソン地域の全発電資産の約 20% を占める) ・事業参画 2007 年 6 月、出資比率 50%、発 電所出力 320.4 万 kW (出典:東京電力 HP をもとに筆者作成) ③国際交流 世界各国の電力・送電会社などと国際交流を推進し、意見交換やコミュニケ ーションの向上を図り、新たなネットワーク作りを行っている。例えば、アジ ア地域の電力会社(中国の国家電網公司やマレーシアのテナガ・ナショナル社 など)に対する効率的な電力ネットワークの構築などにて協力している。 39 ■組織体制 <図表 6-1-21:組織図(2014 年 7 月 17 日現在)> (出典:東京電力 HP) 40 上の組織図より、一般管理部門を除き事業別にカンパニー制となっている こと、また地域を担当する支店が独立した組織であることから、事業と地域 とのマトリックス構造となっていると推測される。 海外エネルギー事業については、国際部が担当しており、事業について海 外投資事業(発電・上流権益など)、海外コンサルティング事業を行っている。 事業エリアは、海外発電事業のうち火力発電は、アジア(フィリピン、タイ、 インドネシア、台湾)に集中しているものの、再生可能エネルギー発電は、 北米・欧州・アジアなど広範囲に事業を展開している。また、海外コンサル ティング事業はエネルギーインフラ整備に遅れている東南アジアを中心とし つつ、北米・欧州・オーストラリア地域でも実績を有している。また、上流 権益事業においては、カナダ・オーストラリアで展開している。子会社や関 係会社もそのように構成されている。 これらから、事業によって海外展開地域に偏りがあることが分かり、イン フラが未整備の地域ではコンサルティング事業、エネルギー需要の旺盛な地 域では発電事業、原料が採掘される地域では上流権益事業を行っていること から、外部環境に適応する形で、海外事業展開を行っていることが読み取れ る。 <図表 6-1-22:海外事業関連連結子会社(2014 年 4 月 1 日現在)> 2014年4月1日現在 会社名 テプコ・リソーシズ社 トウキョウ・エレクトリッ ク・パワー・カンパニー・イ テプコ・オーストラリア社 東京ティモール・シー・リ ソーシズ(米)社 トウキョウ・エレクトリッ ク・パワー・カンパニー・イ テプコ・ダーウィン・エルエ ヌジー社 東京ティモール・シー・リ ソーシズ(豪)社 トウキョウ・エレクトリッ ク・パワー・カンパニー・イ 住所 カナダ オランダ オーストラリア アメリカ オランダ オーストラリア オーストラリア オランダ シピー・ジーピー社 オランダ シピー・シーブイ オランダ 資本金 主な事業内容 (百万円) 20,293万 カナダドル 24,000万 ユーロ 7,283万 豪ドル 100.00% 海外事業への投資 100.00% 海外プロジェクト会社への出資・融資 100.00% 米ドル 株式保有 ユーロ インドネシアにおけるIPP事業会社への投資 6,248万 バユ・ウンダン・ガス田開発プロジェクトの 豪ドル プラント・パイプライン事業への投資 31,666万 豪ドル 1万8千 ユーロ 1万2千 米ドル - 所有割合 ウランの採掘および精錬 3,900万 東京ティモール・シー・リソーシズ(豪)社の 3万4千 議決権の 66.67% 100.00% 100.00% ガス田開発プロジェクトへの参画 100.00% インドネシアにおけるIPP事業会社への投資 100.00% インドネシアにおけるIPP事業会社への投資 100.00% インドネシアにおけるIPP事業会社への投資 100.00% (出典:東京電力 HP) 41 <図表 6-1-23:海外事業持分法適用関連会社(2014 年 4 月 1 2014年4月1日現在 日現在)> 会社名 (株)ユーラスエナジーホール ディングス ティームエナジー社 テプディア・ジェネレーティ ング社 アイティーエム・インベスト メント社 住所 東京都港区 フィリピン オランダ イギリス 資本金 主な事業内容 (百万円) 18,199 国内外風力発電事業等の統轄・管理 1,216万 米ドル 1万8千 ユーロ 議決権の 所有割合 40.00% フィリピンにおけるIPP事業 50.00% タイ・IPP持株会社への投資 50.00% 1万6千 ウム・アル・ナール発電・造水プロジェクト 米ドル への投資 35.00% (出典:東京電力 HP ) 42 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①インドネシアにおける火力発電事業 2005 年 6 月 29 日、東京電力は、インドネシア・ジャワ島東部において IPP 事業を行う「パイトン I・プロジェクト」に出資参画することとし、売主となる カナダのトランス・カナダ社および米国の GE コマーシャル・ファイナンス・ エナジー・ファイナンシャル・サービス社との間で、両社が共同保有する同プ ロジェクトの権益取得に関する売買契約書に調印した。なお、インドネシアに おける IPP 事業への出資参画は、日本の電力会社として初の事例である。 事業内容は、インドネシアのパイトンで石炭火力発電所(出力 123 万 kW) を運転し、2001 年から 2040 年までの長期売電契約に基づき、インドネシア国 有電力会社(PLN)に電力を販売するもの。これまで事業運営は、上記二社以 外に英国のインターナショナル・パワー社と三井物産株式会社の合弁会社であ る IPM イーグル社、三井物産株式会社、ならびに現地企業のバツ・ヒタム・ペ ルカサ社が共同で出資する、パイトン・エナジー社(1999 年設立)が行ってお り、東京電力は同二社が保有する権益 14%を 1 億 3,700 万米ドル(150 億円) で取得。加えて、東京電力は、発電所の運転保守にも参画することとし、IPM イーグル社が 100%出資する運転保守会社の権益 15%を取得した。 その後、プロジェクト事業会社であるパイトン・エナジー社は、2008 年 8 月 4 日にインドネシア国有電力会社との間で、総事業費 14 億米ドル(1,400 億円) のパイトン石炭火力発電所・増設プロジェクト(パイトンⅢ・プロジェクト) に係る電力長期販売契約を締結し、2012 年から営業運転を開始している。増設 した発電所は、出力 81.5 万 kW で、「超臨界」方式を採用、三菱重工がボイラ ーや蒸気タービンなどの機器を供給した。また、パイトン・エナジー社は、30 年間の長期売電契約に基づき、PLN に電力を販売している。なお、本プロジェ クトは、国際協力銀行や三菱東京 UFJ 銀行、みずほコーポレート銀行、三井住 友銀行などの協調融資を取り付け、プロジェクト・ファイナンス契約により 12 億 1,500 万米ドルの資金を調達している。 東京電力によるこれらのプロジェクトへの参画の目的は、インドネシアは電 力の需要が拡大しており、また PLN との長期売電契約により、投資内容に見 合う安定した収益が期待できることや、事業会社や運転保守会社への参画を通 じて、東京電力が電気事業で培った技術力やノウハウを活用することにある。 一方、インドネシアは人口の過半数が集中するジャワ島の電力需要が年率 7%で成長しているため、慢性的な電力不足に陥り、停電が頻発している。加え て、需要拡大に対応するためインドネシア政府は発電所を次々建設する計画を 立てているものの、PLN が原油コスト増で経営不振に陥っているため、インド ネシア政府は外資の資金を導入し、発電所を建設する考えを示しており、独立 43 系発電事業者(IPP)への出資に積極的な日本とニーズが合致している。 <図表 6-1-24:パイトン・エナジー社の概要> ・会社名: PT Paiton Energy ・所在地: インドネシア・ジャカルタ ・設立: 1994 年 2 月 ・事業内容:国営電力会社 PLN 向け長期電力販売事業 ・出資者: 三井物産株式会社:50%、IPM Eagle LLP(*):31%、 東京電力株式会社:14% PT Batu Hitam Perkasa(現地企業):5% * IPM Eagle LLP:International Power 70%及び三井物産 30%出資の合弁 <図表 6-1-25:パイトンⅠ・Ⅲプロジェクトの発電事業概要> パイトンⅠ発電所 出力 パイトンⅢ発電所 123 万 kW(61.5 万 kW×2 81.5 万 kW(1 基) 基) 発電方式 石炭火力 超臨界石炭火力 売電先 インドネシア国有電力会社 インドネシア国有電力会社 売電期間 2001 年から 40 年間 2012 年から 30 年間 運転開始 1999 年 5 月 2012 年 発電設備 - 三菱重工業株式会社製 <図表 6-1-26:プロジェクトスキーム> 東京電力 約31% 約50% (出典:東京電力プレスリリース、三井物産アニュアルレポート) 44 ②フィリピンにおける火力発電事業 2006 年 12 月 11 日、東京電力は丸紅とのコンソーシアムにて、米国大手卸 発電事業者(IPP)のミラント社が実施した、同社グループ会社でフィリピン最 大の IPP 事業持株会社である「ミラント・アジア・パシフィック社(MAPL 社)」 の売却に関する国際入札を落札、MAPL 社を保有するミラント・アジア・パシ フィック・ホールディングス社およびミラント・アジア・パシフィック・ベン チャーズ社との間で株式買取契約を締結した。 MAPL 社は、子会社を通じて、首都マニラを含むルソン地域の全発電資産の 約 20%を保有するフィリピン最大の IPP 事業持株会社であり、2007 年 6 月 22 日に、ルソン地域で運転中のパグビラオ石炭火力発電所(出力 73.5 万 kW)お よびスアル石炭火力発電所(出力 121.8 万 kW)の全ての権益、ならびにイリ ハンガス火力発電所(出力 125.1 万 kW)の MAPL 社の持分権益(持分比率 20%:25 万 kW)が移行、両者折半出資のプロジェクト事業会社「TeaM Energy Corporation(TEC)」※が、国営フィリピン電力公社への卸供給を行う。 ミラント社は米国の事業に集中するために国際入札を行い、東電―丸紅、関 西電力―住友商事、中部電力―双日の各連合のほか、三井物産、三菱商事、海 外企業など複数のグループが入札に参加していたが、36 億ドル(約 4,400 億 円)で東電―丸紅が落札、日本企業が参加する海外の発電所買収では最大級の 金額となった。 買収資金は国際協力銀行(JBIC) (60%)と三井住友銀行(20%) 、みずほコ ーポレート銀行(20%)の銀行団からの協調で 27 億ドル(約 3,300 億円)を 調達、残りを東電と丸紅で折半出資した。融資期間は JBIC が 17 年間で、他 2 行が 15 年間。なお、東電―丸紅の財務アドバイザーは三井住友銀行とオラン ダの ING 銀行が務めた。 さらに、2014 年 5 月 30 日、TEC はパグビラオ石炭火力発電所の増設を発 表、現地のエネルギー会社 Aboitiz Power Corporation(Aboitiz)と合弁会社 を設立した。総事業費は 1,000 億円であり、東電・丸紅側と現地企業がそれぞ れ 125 億円を出資、残りの 750 億円は現地の金融機関からプロジェクト・ファ イナンスで借り入れる。主要設備は三菱日立パワーシステムズ株式会社(三菱 日立)-Daelim Industrial Co., Ltd.(韓)(Daelim)コンソーシアムが納め、発 電容量は 388MW、2017 年 11 月頃の完工、商業運転開始を予定している。 フィリピンは強い個人消費をけん引役に急速に経済成長しており、2013 年 の国内総生産(GDP)伸び率は 7.2%と高いものの、経済成長にインフラ整備 が追いついていないため、発電所の整備が急務となっている。フィリピン政府 の試算では、2030 年に現在の 2 倍近い約 3,000 万 kW の発電能力が必要とし ており、今後も日本を含めた外資を活用していく方針としている。 45 ※東京電力と丸紅は、2006 年 12 月に、MAPL 社の株式取得を目的に「クリ ムゾンパワー・ホールディングス」を設立。2007 年に、同社を本プロジェ クトの事業会社として「TeaM Energy Corporation」へ改編 <図表 6-1-27:ミラント・アジア・パシフィック社保有発電資産の概要> (出典:東京電力プレスリリースより) <図表 6-1-28:プロジェクトスキーム> (出典:東京電力プレスリリースより) <図表 6-1-29:ティームエナジー・コーポレーションの概要> ・名称: ティームエナジー・コーポレーション (TeaM Energy Corporation) ・設立: 2006 年 12 月 ・資本金: 700 百万米ドル 46 ・株主構成: テプコインターナショナル社(50%)、丸紅(50%) ・社長兼 CEO:フェデリコ・E・プノ(元国営フィリピン電力公社社長) ・保有資産: 220.3kW ・従業員数: 約 1,000 名(傘下の子会社含む) <図表 6-1-30:パグビラオ石炭火力発電所増設計画概要> ・発電容量: 38.8 万 kW ・事業会社: Pagbilao Energy Corporation ・出資比率: TeaM Energy Corporation(50%)、Aboitiz(50%) ・建設一括請負契約者:三菱日立-Daelim コンソーシアム ・完工予定: 2017 年 11 月頃 47 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)事業は、資源のあるオーストラリア・カナダに限定され ており、発電事業(中流)においては化石燃料系については市場が開 放されている台湾から始まり、その後電力需要が旺盛なベトナム・イ ンドネシア・フィリピン・UAE の順に進出している。よって、化石 燃料系の発電事業に関しては、親日国かつ物理的距離の近いアジアか ら進出していることから、文化(C)も物理的距離(G)も考慮され ていると判断できる。 また、再生可能エネルギー事業について、ユーラスエナジーを活用し て世界各国に参入しているが、再生可能エネルギー発電に対して外資 参入の規制のない米国・ヨーロッパ・オセアニア地域にも積極的に参 入していること、またインドネシアにおいては送電・配電事業は国営 で、発電のみ外資参入を受け入れている状況から、現地の法制度や規 制の緩和が進出に強い影響を与えていると考えられる。 経済的格差については、東京電力はどの事例でも進出事業は発電のみ であり、小売などの下流事業での参入はされていない。よって、他の 商社や日系エネルギー企業での検証と同様に、BtoC を含む小売参入 に対しては規制に加えて、コスト面などの経済的な格差によって進出 に障壁があると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業は、インドネシアの事例では三井物産が 他の企業と共同出資していたプロジェクト会社に出資参画し、かつ国 際協力銀行をはじめとした日系銀行団がプロジェクト会社の融資に より事業参画できており、また、フィリピンの事例ではプロジェクト 会社の共同出資社として丸紅がおり、こちらも融資について国際協力 銀行をはじめとした日系銀行団の存在により事業参画が可能となっ ており、本国の関連・支援産業との協業が、より進出を後押ししてい ると考えられる。 現地同業企業の協業は、インドネシアの事例では売電先としてインド 48 ネシア国有電力公社おり、お互いの企業が保有する資産を補完する形 での進出をしていること、また、フィリピンの事例では既に現地で事 業運営していた MAPL 社が存在していたことにより、事業を継承す る形で進出が可能となり、加えて燃料調達先かつ売電先として同業の フィリピン電力公社があり、インドネシアの事例同様、お互いの企業 が保有する資産を補完する形で進出できていることから、現地同業企 業との協業は進出を後押ししていると考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、グループアクション・プランにもあった とおり、海外での事業拡大を掲げており、発電事業以外の送配電事業 など多事業において海外進出を図り収益拡大を図ろうとしているこ とから、海外エネルギー事業拡大へのトップのコミットメントは非常 に高いと推測される。 現地ネットワークは、これまでの海外コンサルティング事業の経験や 燃料調達国(インドネシア・UAE など)である国を選定することに より、それらの事業にて培ってきた現地政府や現地企業とのネットワ ークを活用、または商社と協業することにより、商社が保有する現地 ネットワークを活用することで、現地企業及び政府の信頼を獲得して 事業化を実現していると考えられる。 リスクマネジメント力は、これまで海外コンサルティング事業の経験 を保有していること、またフィリピンの事例では、現地実働会社の社 長にフィリピン電力公社の元 CEO を登用していることから、現地の 事業環境を理解したリーダー人材を登用することでリスクマネジメ ント力を獲得していると考えらえる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、インドネシアでは現地のプロジェクト会社の株 の買取により参入、フィリピンの事例では現地実働会社を丸紅との共 同出資会社が落札することで参入など、既に事業運営している会社を 買い取る形で参入している。 しかし、単独での参入は行っておらず、どの事例でも日系企業及び現 地企業との共同出資の形で参入している。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 現地での事業領域をみると、全て発電事業を中心とした電力事業進出 49 しており、本国にて展開している熱供給事業及びガス事業での進出は できていない。これは、本国での事業蓄積が乏しい事業または、海外 エネルギー事業においてコーディネーターの役割を担っておらず、コ ーディネーターである商社の機能を補完する役割にて進出している ことから、事業領域を自分で選択できず、結果的に本国より限定され た領域での進出に留まっていると考えられる。 ■仮説検証以外の得られた考察 二つの事例は、双方とも外資企業が保有していた現地実働企業に対して、国 際競争入札での落札と、権益の一部を保有している会社のから一部買取する形 で参入しており、一から現地に合弁会社を設立せずとも参入するチャンスがあ ることを示すものとなっている。 既にある事業会社に国際入札や一部の権益の買取により参入するメリットは、 合弁会社を一から新設する場合と比較して、既存設備など経営資本の活用が可 能なため、現地市場での事業運営(収益化)までの時間が短くて済み、また、 現地市場で既に顧客を抱えているため、特湯の事業運営ノウハウなどを保有し ていると考えられ、新規に参入する際に有効な手段の一つといえる。 ただし、途中から参入する場合は、既に進出している様々な企業の経営戦略 や地域戦略に注視し、事業を獲得するチャンスを常に伺っている必要があり、 かつ自社が海外事業に対してコミットメントが強いことを、対外的にも発信し 続ける必要がある。 そのためにも、自社が新興国市場へ進出する場合、まずは自社のどのような 点が(他社と比較して)コアコンピタンスとなるか、また、どのような企業と 合弁・アライアンスすべきかを事前に検討するなど、海外市場進出に際して自 社の経営戦略を整理しておくことが必要不可欠な要素だと考えられる。 50 6-1-4.関西電力 ■会社概要 関西電力は文字通り関西地方を供給区域に持つ、エネルギー事業会社であり、 事業内容は、電気事業、熱供給事業、電気通信事業、ガス供給事業等、エネル ギー関連の事業を展開している。 関西電力も東京電力と同様、原子力発電の比率が高く、2011 年の東日本大震 災を契機として、原子力発電所が停止したことに伴い、収益が悪化、2011 年度 から 3 か年連続で最終利益が赤字に転落している。直近 2013 年度の売上高は 約 3.3 兆円、最終利益は約▲970 億円となっている。 ■長期計画 関西電力は、2010 年 3 月に、 「関西電力グループ長期成長戦略 2030」を策定 し、2030 年にありたい姿として、①低炭素社会のメインプレーヤー、②新時代 のエネルギー安定供給のパイオニア、③エネルギーと暮らしのベストパートナ ーという 3 点を打ち出した。 <図表 6-1-31:2030 年にありたい姿> (出典:関西電力 HP) 特に、②新時代のエネルギー安定供給のパイオニアにおいて、燃料上流投資 の拡大による燃料の安定調達や、日本、世界のエネルギー安定供給に貢献する ことを掲げ、明確に海外でのエネルギー事業を強化していくことを言及してい る。 加えて、そのありたい姿の実現に向けた具体的な取り組みとして、燃料上流 投資の拡大による燃料の安定調達を図ること、また、グループ事業、国際事業 の飛躍的な成長のためにグループ事業が、電力事業とのシナジーを高め、さら 51 に発展すること、国際事業が、国内で培った強みを活かして、さらに発展する ことが明文化されており、海外エネルギー事業への高いコミットメントを示し ている。 ■現在の海外エネルギー事業 関西電力は、海外エネルギー事業を国際事業と呼んでおり、国際事業の成長 コンセプトを以下の 3 点と位置付けている。 一点目は、 「経営資源の活用とフィードバック」であり、海外において、国内 電気事業で培ってきた経営資源を積極的に活用するとともに、国際事業を通じ て得られた技術・知見などを国内事業にフィードバックし、事業基盤のさらな る盤石化を図るものと位置づけている。 二点目は、 「相手国の電力安定供給への貢献」であり、海外発電事業(IPP 事 業)を主軸とし、グループの技術力を活かして、相手国における電力インフラ 整備と安定運用に資するとともに、送配電や電力利用分野でのコンサルティン グにも取り組む。また、原子力分野については、国をはじめ、メーカー等と協 調し、技術支援などを行い貢献するものと位置づけている。 三点目は、 「地球環境問題への貢献」であり、新興国への環境技術移転を積極 的に進めるとともに、新エネルギー事業への取組みも推進し、低炭素社会の実 現に向け、グローバルな活動を展開することを目的としている。 また、国際事業と国内事業との関連を以下のように考えている。 <図表 6-1-32:国際事業と国内事業との関連> (出典:関西電力 HP) 以上のコンセプトのもと、現在の関西電力が行っている国際事業は、①海外 発電事業、②コンサルティング事業、③国際協力・貢献事業の 3 つである。 52 ①海外発電事業 海外発電事業は、1998 年にフィリピンのサンロケ水力プロジェクトにて 日本の電力会社で初めて進出、現在は、フィリピン、タイ、台湾、シンガポ ール、オーストラリアと 5 ヶ国 6 件の事業を展開中で、出資割合分の発電 容量は約 117 万 kW となっている。 <図表 6-1-33:進出国とプロジェクト概要> 進出国 プロジェクト名 事業概要 フィリピ サンロケ水力プ ・サンロケ・パワー社による、水力発電所の ン ロジェクト 建設、運営事業。フィリピン電力公社と 25 年 間 の 売 電 契 約 を 持 つ BOT ( BuildOperate-Transfer)事業 ・サンロケダムは発電、灌漑、洪水処理、水 質改善を目的としており、サンロケ・パワ ー社が建設、完成後、フィリピン電力公社 に引き渡しされた(保守はサンロケ・パワ ー社が実施) ・事業参画:1998 年 12 月、出資割合 50%、 発電所出力 34.5 万 kW(商業運転開始: 2003 年 5 月) タイ ロジャナ火力プ ・ロジャナ・パワー社(1996 年 9 月設立) ロジェクト による、ロジャナ工業団地内のコンバイ ンドサイクル・コジェネプラント(天然ガ ス焚)による電力・熱供給事業 ・電力はエネルギー有効利用法に基づきタ イ電力公社と発電所周辺の工業団地進出 顧客に売電、一部顧客に蒸気も販売 ・事業参画:2003 年 3 月、出資割合 39%、 発電所出力 44.8 万 kW 台湾 名間水力プロジ ・名間電力有限公司による、水力発電所の建 ェクト 設・運営事業 ・台湾電力公司と 15 年間の売電契約を持つ BOT 事業 ・事業参画:2005 年 3 月、出資割合 25%、 53 発電所出力 1.7 万 kW(商業運転開始: 2007 年 9 月) 台湾 国光火力プロジ ・国光電力股份公司による、コンバインドサ ェクト イクルプラント(液化天然ガス焚)による 発電事業 ・台湾電力公司と 25 年間の売電契約を持つ BOO(Build-Own-Operate)事業 ・事業参画:2006 年 12 月、出資割合 20%、 発電所出力 48.0 万 kW シンガポ セノコ火力プロ ・セノコ・エナジー社によるガス焚・重油焚 ール ジェクト 火力発電所での発電・売電事業(シンガポ ールの国営発電企業セノコパワー社を 2008 年 9 月に民営化に伴う入札で落札) ・事業参画:2008 年 9 月、出資割合 15%、 発電所出力 330 万 kW オースト ブルーウォータ ・長期売電契約をベースとした電力供給事 ラリア ーズ火力プロジ 業(火力発電)、グリフィン・パワーホー ェクト ルディング社から 50.01%の株式を取得 することで西豪州最大級の石炭火力発電 所を買収したもの ・事業参画:2013 年 2 月、出資割合 50%、 発電所出力 45.9 万 kW (出典:関西電力 HP から筆者作成) ②海外コンサルティング事業 過去から関電グループ会社の NEWJEC が取り組んで来たが、1996 年以 降は、関西電力自体でも、実施している。 これまでの実績は、火力・水力・送変電分野を中心に、13 年間で約 70 件 を受注となっている。 ③国際協力・貢献活動 国際協力・貢献活動として、インフラ整備が不十分なアジア諸国などを 対象とした技術協力、各種研修受入などを実施している。 54 ■組織体制 <図表 6-1-34:組織図(2014 年 4 月 1 日現在)> (出典:関西電力 HP) 55 上の組織図より、一般管理部門を除き事業別に本部制となっていること、 また地域を担当する支店が独立した組織であることから、事業と地域とのマ トリックス構造となっていると推測される。 海外エネルギー事業については、国際室が担当しており、事業について海 外発電事業、海外コンサルティング事業の他に、燃料の上流権益を保有して いる。事業エリアは、海外発電事業はアジア・オセアニアの 5 か国(フィリ ピン、タイ、台湾、シンガポール、オーストラリア)、海外コンサルティング 事業はエネルギーインフラ整備に遅れている東南アジアを中心としつつ、ヨ ーロッパ・オセアニア地域でも実績を有している。また、上流権益事業にお いては、原子燃料はカナダ・オーストラリア・カザフスタン・ニジェール、 火力燃料はオーストラリアにて展開している。 これらから、事業によって海外展開地域に偏りがあることが分かり、イン フラが未整備の地域ではコンサルティング事業、エネルギー需要の旺盛な地 域では発電事業、原料が採掘される地域では上流権益事業を行っていること から、外部環境に適応する形で、海外事業展開を行っていることが読み取れ る。 56 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①タイにおける火力発電事業 2003 年 2 月 26 日、関西電力はドイツの電力会社 EnBW 社が保有するタイ 国のロジャナ・パワー社株 39%の全株式を、100%子会社である関電インター ナショナル(現ケーピック・ネザーランド)を通じて取得した。 ロジャナ・パワー社は、ロジャナ工業団地会社(出資比率 41%)、 EnBW (39%)、 住金物産(現日鉄住金物産) (20%)が 1996 年に設立した発電事業会社であり、 タイ国アユタヤ県において天然ガス火力発電所(出力 12.2 万 kW(2003 年現 在))を所有しており、タイ国の SPP プログラム(小規模発電事業者買取保証 制度)に基づき、タイ電力公社(EGAT)に電力を卸販売するとともに、日系企 業約 70 社が進出するロジャナ工業団地へ電力と蒸気を販売している。 関西電力のロジャナ・パワー社への株式取得による経営参画の狙いは二点あ り、一点目は事業領域の拡大と収益の確保である。これまでに培った電気事業、 火力発電に関する技術・ノウハウを活かした発電・配電設備の改善により更な る収益の向上を目指している。二点目はタイ国を中心とした東南アジアでのエ ネルギービジネスの更なる展開に向けた基盤の構築を狙いとしている。 人員は、当初関電インターナショナルより 2 名がロジャナ・パワー社の取締 役として就任し、将来的には関西電力社員をタイ駐在させるなど事業運営にも 積極的に関与する方針としている。 その後も、ロジャナ・パワー社はタイの旺盛なエネルギー需要を契機として 発電所を建設し出力を上げている。2003 年 8 月と 2006 年末に発電設備を増設 し、さらに、2009 年にも新たに火力発電所を建設、現在の発電出力は 42.2 万 kW となっている。 2009 年には新たな発電所を建設するとともに、タイ国における小規模熱電 併給事業(SPP 事業)※の売電契約を EGAT と新たに締結し、2013 年から 25 年間にわたって EGAT に 9 万 kW の電力を卸販売するとともに、今後、同団地 内に新たに進出する企業の電力・蒸気需要に対応する。 なお、これらの長期売買契約は EGAT とロジャナ・パワー社の双方にとって メリットがある。EGAT にとっては旺盛なエネルギー需要に対して発電量を確 保する上で必要不可欠なものであり、ロジャナ・パワー社にとっては供給先を 長期に確保することにより安定した収益が期待できる。さらに発電所建設、運 転・保守における関西電力の技術ノウハウの伝承は、タイ国における環境に配 慮した電力インフラ整備にも貢献している。 ※小規模熱電併給事業(SPP 事業) :1992 年に制定された法律に基づき、再生 可能エネルギー等で発電された電気を EGAT が長期で買電する事業のこと 57 タイ国では、環境負荷低減や国内景気(中小規模事業者(9 万 kW 以下)の 事業参画の促進)対策として、同事業を推奨しており、対象となるのは、再 生可能エネルギー、バイオマス等による小規模な発電事業や熱電併給事業 <図表 6-1-35:ロジャナ・パワー社の会社概要> ・設立 :1997 年 5 月 ・代表者 :ジラポン・ヴィニチュブル(ロジャナ工業団地社 ・出資構成:ロジャナ工業団地社 社長) 41% ケーピック・ネザーランド社(関電 100 子会社) 39% 20% 日鉄住金物産株式会社 <図表 6-1-36:ロジャナ・パワー社の発電事業概要> ・発電所所在地:タイ王国アユタヤ県ロジャナ工業団地 ・発電方式 :ガスコンバイトサイクル発電 ・出力 :第一発電所 第二発電所 ・運転開始 31.6 万 kW 10.5 万 kW(2009 年新設) :1999 年 5 月 <図表 6-1-37:ロジャナ・パワー社の事業スキーム> (出典:関西電力プレスリリース 58 2009 年 11 月 16 日付) ②シンガポールにおける発電事業 2008 年 9 月 5 日、関西電力は、丸紅、九州電力、国際協力銀行及び GDF ス エズと共に構成するコンソーシアムにて、シンガポール財務省傘下の国際投資 会社テマセック・ホールディングス(テマセック)が実施した、同社 100%保有 の電力会社であるセノコ・パワー・リミテッド社(現セノコ・エナジー社)の 100%株式売却に関する国際入札を落札し、コンソーシアムとテマセックとの間 で株式売買契約を締結した。入札にはインドやマレーシアなどの四グループも 参加したが、本コンソーシアムが買収価格の高さや運営の信頼性などから選ば れた。買収額はセノコの抱える負債を含めて約 40 億シンガポールドル(約 3,000 億円)でコンソーシアムが全株式を取得した。 セノコ・エナジー社はシンガポールの北部に位置し、同国の発電設備容量の 約 32%にあたる 330 万 kW の発電資産を保有するシンガポール国内最大の電 力会社であり、発電した電気は主に同社傘下の電力小売事業会社を通じて、顧 客への販売を行っている。同電力会社の 2008 年 3 月通期の売上高は 24 億 9,500 万シンガポールドルで、EBITDA(利払い、税引き、償却前利益)は 2 億 4,500 万シンガポールドルとなっている。 買収後は、石油火力の一部を環境負荷の小さい天然ガス火力へ切り替えを行 うため、三菱商事、三菱重工業、日立アジアの日系重電 3 社に大型発電設備の 更新とメンテナンスを委託し、関西電力からは無償で火力発電設備の配管腐食 抑制技術の移転を行うなど、日本の電力会社が持つ効率的な運営ノウハウを持 ち込み、収益を高めている。 なお、シンガポールにおいて、関西電力は以前よりコンサルティング事業を 通じて進出していた。2001 年にパワーセラヤのセラヤ第一発電所の設備改造 に関するコンサルタント業務の入札にて、関電はシンガポールのコンサルタン ト会社 DRPL と共同で入札し、設備設計、環境対策、運転保守などの技術力が 評価され落札した経験を有している。これらの海外コンサルティング事業にて 培った経験がシンガポールでの事業運営権獲得に際してプラスの影響を与えた 可能性がある。 59 <図表 6-1-38:テマセック保有の三電力会社の分布> (出典:関西電力プレスリリース 2008 年 9 月 5 日付) ※チュアス:チュアスパワー社 2008 年 3 月に中国最大の電力会社である中国華能電力集団に 42 億 3,500 万シンガポールドルで売却、出力は 267 万 kW ※セラヤ :パワーセラヤ社 2008 年 12 月にマレーシアの公益事業会社YTLパワーに約 36 億シン ガポールドル(約 2198 億円)、出力は 290.8 万 kW <図表 6-1-39:セノコ・エナジー社の概要> ・所在地 :111 Somerset Road Singapore 238164 ・設立 :1995 年 10 月 ・代表 :Mr. Brendan Wauters (President & CEO) ・事業内容 :発電事業 ・発電設備容量:330 万 kW 天然ガス火力(280 万 kW)、石油火力(39.5 万 kW)、 ガスタービン(10.5 万 kW) ・出資構成 :丸紅(30%)、GDF スエズ社(30%)、関西電力(15%)、 九州電力(15%)、国際協力銀行(10%) 60 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)事業は、資源のある地域に限定されており、発電事業(中 流)においては電力需要の旺盛な東南アジア(タイ、フィリピン、シ ンガポール)と、市場が開放されている台湾・オーストラリアに分布 している。よって、発電事業に関しては事業に地域性はないものの、 親日国かつ物理的距離の近い東南アジアから進出、その後日本や東南 アジアから物理的距離の近い台湾・オーストラリアへ進出しているこ とから、文化(C)も物理的距離(G)も考慮されていると判断でき る。 また、シンガポールにおいては、国営企業からの事業売却により進出 しており、現地の法制度や規制の緩和が進出に強い影響を与えている と考えられる。 ただし、シンガポールでは現地企業を売却したため小売などの下流事 業を展開している一方、その他の国では小売への参入はされていない。 よって、BtoC を含む小売参入に対しては規制に加えてコスト面など の経済的な格差によって進出に障壁があると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業は、タイの火力発電事業では住金物産と の共同出資により参入、またロジャナ工業団地社も住金物産の出資が 入っている。またシンガポールの事例では出資企業に丸紅、九州電力、 国際協力銀行など日系企業が存在しており、火力発電所の設備建設や メンテナンスを日系重電3社に委託するなど、本国の関連・支援産業 との協業が、より進出を後押ししていると考えられる。 現地同業企業の協業は、タイの事例では同業企業であるタイ発送電公 社(EGAT)へ電力供給するなど、お互いの企業が保有する資産を補 完する形での進出をしていること、シンガポールの事例では既に現地 で事業運営していたテマセックが存在していたことにより、事業を継 承する形で進出が可能となったことから、現地同業企業の存在は進出 を後押しする要素となっていると考えられる。 61 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、経営ビジョンにあったとおり、国際事業 の成長を図ろうとしており、特に海外発電事業において東南アジア・ 中東・北中米で拡大するとの言及がされていることから、海外エネル ギー事業拡大へのトップのコミットメントは非常に高いと考えられ る。 現地ネットワークは、これまでの海外コンサルティング事業の経験に より現地政府や現地企業とのネットワークを構築していること、また タイの事例では現地ネットワークを保有しているロジャナ工業団地 社の社長を実働会社に兼任させることで現地ネットワークに入り込 み、現地企業及び政府の信頼を獲得して事業化を実現していると考え られる。 リスクマネジメント力は、これまで海外コンサルティング事業の経験 などによって、内部で保有していること、またタイとシンガポールの 事例から、実働会社の社長に現地での事業経験のある人材を登用させ、 リスクマネジメント力を養っていると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する タイの発電事業では日系企業及び現地企業との合弁により参入して おり、自社単独での進出は行っていない。一方、シンガポールの事例 では現地企業を買収する形で参入しているものの、多くの海外事業を 展開している GDF スエズや丸紅との共同出資にて参入しており、こ ちらも単独での進出は行っていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 現地での事業領域をみると、全て発電事業を中心とした電力事業進出 しており、本国にて展開している熱供給事業及びガス事業での進出は できていない。これは、東京電力と同様、本国での事業蓄積が乏しい 事業または、海外エネルギー事業においてコーディネーターの役割を 担っておらず、コーディネーターである商社の機能を補完する役割に て進出していることから、事業領域を自分で選択できず、結果的に本 国より限定された領域での進出に留まっていると考えられる。 62 ■仮説検証以外の得られた考察 今回のシンガポールの事例から、現地エネルギー企業を買収することで現地 市場に進出する手法もあることが分かった。ただし、新しく現地に合弁企業を 設立する時と同様に、単独ではなく、現地のネットワークや事業運営ノウハウ をもっている企業と共同で買収しており、事業運営についても合弁を新設した 場合と同様と推測される。 ただし、現地企業を買収する場合、買収企業の傘下にある様々な事業の子会 社も手に入れることができ、バリューチェーンの広範囲での参入が可能である ことが分かる。今回であれば、発電のみではなく、以前より買収先が保有して いた送電、配電、小売など下流事業への展開も一気に可能となった好事例と言 える。 一方、今回の事例は国営の親会社が子会社のエネルギー企業を売却するとい う、極めて稀な事例であり、かつ現地の制度や規制、政策に強く影響を受ける など、受動的なものであると考えらえる。しかし、このようなチャンスを手に 入れるためには、やはりトップが海外エネルギー事業に対してコミットし、か つ対外的にもその方針を示すことで、事業参入の貴重な機会を得られると考え られる。 しかし、自社が能動的にかつ積極的に現地市場で進出しようとする場合は、 やはり現地に合弁会社を設立して進出する戦略となると考えられる。 加えて、シンガポールの事例では、海外進出に先行している仏の GDF スエ ズと合弁で参入しているが、GDF スエズにとっては東南アジアに地理的・文化 的に近い日本を活用して、エネルギー需要の旺盛な地域へのドメイン拡張を図 っているとも考えられる。つまり、ネットワークのない地域については、その 地域に親密な国の企業と協業することで触手を伸ばすことができるとも言える。 63 6-1-5.中部電力 ■会社概要 中部電力は愛知県を中心とする中部地域全体を供給区域に持つエネルギー事 業会社であり、電源構成は主に火力発電を中心としており、LNG の輸入量は東 京電力に次ぐ世界第二位である。事業については、他の電力会社と同様、国内 の電力事業を基盤とし、ガス事業、熱供給事業を展開し、海外エネルギー事業 にも進出している。収益については、2011 年に発生した東日本大震災による福 島原子力発電所の事故の影響により、浜岡電子力発電所の稼働停止の影響によ り、2011 年度から 2013 年度まで最終利益が赤字となっている。直近の 2013 年度の売上高は約 2.8 兆円、最終利益は約▲653 億円となっている。 ■長期計画 中部電力は、2011 年 2 月に「中部電力グループ 経営ビジョン 2030」を発 表し、2030 年の目指す姿として、「エネルギーに関するあらゆるニーズにお応 えし、成長し続ける企業グループ」を掲げ、 「エネルギーサービス NO.1 企業グ ループを目指すとともに、これまで国内電気事業で培ってきた経営資源・ノウ ハウを活用し、海外での事業展開に挑戦することを明示している。 <図表 6-1-40:経営ビジョン 2030 成長イメージ> (出典:中部電力 HP) また、その目指す姿に向けて、①低炭素で良質なエネルギーの安価で安定的 なお届け、②「エネルギーサービス No.1 企業グループ」の実現、③積極的な 海外展開による収益の拡大、④成長を実現する事業基盤の確立という 4 つの ミッションを掲げている。 中でも、③積極的な海外展開による収益の拡大においては、火力発電事業と、 エネルギー関連インフラ事業、燃料調達に関する上流権益事業を推進、拡大し ていくことが明記されており、人材についてもダイバーシティを推進し、海外 64 事業を推進する人材を確保する方針も示されているなど、長期ビジョンにおい て、海外でのエネルギー事業へのコミットメントが高いことが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 中部電力の海外事業は、これまでアジア・アフリカなどの新興国を対象とし た電力開発計画の策定及び電力設備の設計・施工管理などの技術やノウハウ提 供を行う「コンサルティング事業」を主として展開しており、2014 年 3 月現在 で、37 か国 149 件の実績を有している。 一方、先述の経営ビジョンや最新のアニュアルレポートには、 「火力発電事業 への参画」、「再生可能エネルギー発電事業への参画」、「コンサルティング事業 の展開」という三つの事業に取り組むことが明記されおり、発電事業を強化す ることで海外事業を拡大していく方針がみてとれる。また、事業展開エリアに ついては、アニュアルレポートに添付されている下図及び、国際事業部長のイ ンタビューからアジア、北中米、中東を重点地域としていることが分かる。電 力需要の増加が見込まれる地域という表現はあったが、それに加えて、インフ ラ整備が不十分である地域、もしくは法規制が緩和され外資の参入障壁が低い 地域を狙っていることが伺われる。これは後述の海外子会社の構成と事業内容 からも推測される。 <図表 6-1-41:海外で参画している主なプロジェクト> (出典:中部電力グループアニュアルレポート 2014) 65 ■組織体制 下表の組織図より、本社の管理部門を除き、事業部制の組織構造となってい る。ただし、営業については事業エリア内で地域別に組織されている。 海外エネルギー事業については、 「国際事業部」が担当している。事業エリア は、重点地域として示されていたアジア(特にタイ)、北中米(アメリカ、カナ ダ、メキシコ)、中東(オマーン)に多くの現地子会社を有している。また、事 業内容については、権益獲得から、調達、発電及び販売(小売)までというエ ネルギー事業におけるバリューチェーン全てをカバーしているが、事業展開に ついては、地域によって傾向が異なっている。例えば、タイにおいては、発電 事業をメインに事業展開を行っているが、アメリカにおいては、発電事業から 販売事業まで行っており、オーストラリアにおいては、ガス田の権益及び運営 事業のみを行うなどとなっている。 <図表 6-1-42:組織図(2014 年 7 月 1 日現在)> (出典:中部電力 HP) 66 <図表 6-1-43:海外事業関連子会社・関係会社の事業内容と所在地> 国 タイ シンガポール オマーン メキシコ アメリカ カナダ オーストラリア 日本 事業内容 出資・融資・債務保証 発電 運転保守 コジェネ トレーディング 出資・融資・債務保証 発電 運転保守 出資・融資・債務保証 運転保守 発電 出資・融資・債務保証 発電 LNG 調達・販売 出資・融資・債務保証 上流管理 発電 トレーディング 上流投資 上流管理 出資・融資・債務保証 上流投資 会社数 3 4 2 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 6 1 1 (出典:中部電力 HP より筆者作成) 67 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①タイにおける太陽光発電事業(メガソーラー発電事業) 中部電力は、2013 年 2 月 26 日にタイ国中部および北部において、タイ国で 送配電および変電機器の製造販売を行っている電気機器製造販売事業者である Gunkul Engineering Public Company Limited(以下「GUNKUL」)※1 が保 有する合計 6 ケ所のメガソーラー発電所(契約容量 30.9MW)の開発・運営を 行う事業会社(Gunkul Powergen Company Limited)※2 の株式 49%を取得 した。中部電力にとって海外の太陽光発電事業に参画する初めての事例である。 事業スキームは、タイ国 VSPP プログラム※3 に基づいて、タイ地方配電公 社(以下「PEA」)が全量を買い取る長期売買契約により、電力の卸販売を行う ものである。(下記事業スキーム参照) 当初は、6 ヶ所あるメガソーラー発電所のうち 2 ヶ所(7.4MW)で商業運転 をスタートさせ、2013 年 6 月 21 日にスリチュラ発電所の建設工事が完了し、 6 ヶ所全てで商業運転を行っている。 中部電力にとって、タイ国は、2001 年に当社初の海外投資案件へ参画して以 降、アジア地域における拠点として位置付けている国であり、本事業は、当社 にとって同国における 5 件目の参画案件となる。中でも、タイ国における再生 可能エネルギー事業は既に籾殻発電事業、東南アジア最大のホアイボン風力発 電所の二つの事業を行っており、メガソーラー発電事業は 3 件目となる。 経営資源を活用して海外での事業展開を進め、収益の拡大を目指すとともに、 海外事業を通じて技術力やブランド力などの向上を図ることにより経営基盤を 強化し、国内のエネルギーサービスのさらなる充実を目指している。 タイでは経済成長や内需の拡大、高速鉄道の敷設などを受けて電力需要が年 率 4%で成長していくと予想されており、政府は 2030 年までには国内の発電 能力を 7,068 万キロワットと、2010 年の2倍以上に増やすことが必要とみて いる。 一方で環境対策やリスク回避の観点から天然ガスへの依存度(約 70%)を下 げる方針で、エネルギー省は 2021 年には再生可能エネルギーを現状の 303 万 キロワット・約 10%から 920 万キロワット・25%に増やす計画をしている。 特に太陽光発電は発電事業者からの買い取り価格を、他の再生可能エネルギー より高く設定しているため普及が拡大している。 ※1 Gunkul Engineering Public Company Limited タイ国で送配電および変電機器の製造販売を行っている電気機器製造販 売事業者。1982 年に設立され 2010 年にタイ証券取引所に上場。 ※2 Gunkul Powergen Company Limited GUNKUL が 2009 年に設立した本事業を推進するための事業会社。当社 68 の事業参画により社名を Gunkul Chubu Powergen Company Limited 変 更する予定。 ※3 VSPP プログラム Very Small Power Producer(極小発電事業者)と呼ばれる 10MW 未満 の発電事業者に対して、タイ国政府は PEA を通じて、エネルギーの全量 買い取りを行うもの。申請により、再生可能エネルギーの促進を目的とし たインセンティブ制度(補助金支給)の適用を受けられる。 <図表 6-1-44:メガソーラー発電所概要> 中部電力 中部電力 (出典:中部電力プレスリリース) <図表 6-1-45:事業スキーム> 中部電力 中部電力 (出典:中部電力プレスリリース) 69 ②オマーンにおける発電事業 丸紅と中部電力は、カタール発電水道会社 (Qatar Electricity and Water Company Q.S.C、以下:QEWC、カタール) およびマルチテック社 (Multitech LLC、オマーン) と共同で、オマーン国では最大規模となるスール発電事業に 関わる事業権を獲得した。総事業費は 15 億ドル(約 1,200 億円)超で、総事業 費の 25%前後に当たる 4 億ドル弱(約 300 億円)は上記 4 社の出資金で確保、 残りは国際協力銀行と、三菱東京UFJ銀行など民間金融機関との協調融資を 受ける。なお、融資のうち約 140 億円分には日本貿易保険(NEXI)が保険を 約 18 年間適用する。設立する事業会社の出資比率は、丸紅が 50%、中部電力 が 30%、QEWC が 15%、マルチテック社が 5%となっている。 オマーン国は 1990 年代から電力事業の民営化を積極的に推進しており、こ れまでに 10 件の I(W)PP 案件が開発されている。丸紅および中部電力にとっ て、本件は同国の IPP 案件に対する初めての出資参画事業である。事業内容は マスカット市から南東約 150km のオマーン湾沿いに位置するスール工業地帯 にて、同国の既存能力の約半分に相当する出力 200 万 kW の天然ガス焚き複合 火力 (コンバインドサイクル) 発電プラントを建設し、オマーン電力水道会社 (Oman Power and Water Procurement Company SAOC) との 15 年に亘る長 期売電契約に基づいてプラントの操業・運転、および売電を行うものであり、 長期的に安定的な収益の確保が見込まれる。燃料はオマーン産の天然ガスを使 う。 また、事業パートナーとしてカタール国の政府系企業を迎え入れることによ り、丸紅および中部電力がカタール国との間で構築してきた友好な関係を更に 深化させ、以前にも増して必要とされているエネルギー資源の安定的な確保を 目指す。 <図表 6-1-46:事業スキーム> (出典:中部電力プレスリリース) 70 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)事業は、ガス田やシェールガスのあるオーストラリア・ カナダ、発電事業(中流)は電力需要の旺盛な東南アジア(特にタイ)、 中東(オマーン)、北中米(アメリカ、メキシコ)に分布しており、 ガスの販売など下流事業は制度上規制のないアメリカでの事業展開 に限定されている。 よって、進出国選定にあたり、制度(A)が最も考慮されているもの の、上流事業はガス田などを保有する地域に限定されるため物理的距 離の考慮は難しい一方、発電事業に関しては事業に地域性はないもの の、親日国かつ物理的距離の近いタイを中心に事業展開していること から、文化(C)も物理的距離(G)も考慮されている。 なお、経済的距離に関しては、下流事業が上流・中流事業より、展開 地域が少ないことを踏まえると、法規制に加えて BtoC を含む小売へ の参入にはコスト面など経済的格差が影響していると考えられる。 なお、コンサルティング事業については、アジア・アフリカなどの新 興国を中心に、37 か国へ進出していることから、インフラ整備が不 十分である新興国へ経済的格差を利用して、裁定取引的に参入してい ることが伺われる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業は、オマーンでの発電事業の事例では丸 紅の共同出資での参画であり、日系金融機関を活用して融資を取り付 けるなど、出資や融資において日系企業との協業が進出を後押しして いると考えられる。 現地同業企業との協業は、タイの事例において、発電事業に特化する ことで電力卸業者として地元の配電公社である PEA へ電力を卸す形 で協業しており、電力需要増を補う丸紅・中電の太陽光発電事業者と、 配電インフラを保有している PEA とが、お互いの強みと弱みを補完 する関係にあることが分かる。よって、補完関係にある現地同業企業 との協業は進出を後押しするものとなっている。 71 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、経営ビジョンやアニュアルレポートにお いて海外エネルギー事業の拡大が言及されていることから、海外エネ ルギー事業拡大へのトップのコミットメントは非常に高い。 現地ネットワークは、タイではこれまでの事業展開の実績によって政 府系企業とのネットワークを保有、オマーンで燃料の調達先である政 府系企業とのネットワークを活用することで、現地ネットワークに入 り込み、現地企業及び政府の信頼を獲得して事業化を実現している。 リスクマネジメント力は、これまで海外コンサルティング事業にて新 興国を中心に 37 か国 149 件の実績を有しており、当該コンサルティ ング事業を通じて新興国での業務経験を有した人材が多く、新興国で の事業展開の際には、当該社員を登用していることが推測され、現地 リーダー人材に現地特有のリスクマネジメント力を内部で保有して いる。また、経営ビジョンにも海外事業を担当できる人材の確保、育 成が掲げられており、中途でもリスクマネジメント力のある人材を採 用し、現地リーダーへ登用していることも推測される。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態は、タイとオマーンの事例にあるとおり、現地企業や商社と の合弁会社を設立することで参入しており、自社単独での進出は行っ ていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 現地での事業領域をみると、全て発電事業を中心とした電力事業進出 しており、本国にて展開している熱供給事業及びガス事業での進出は できていない。これは、他電力会社と同様、本国での事業蓄積が乏し い事業または、海外エネルギー事業においてコーディネーターの役割 を担っておらず、コーディネーターである商社の機能を補完する役割 にて進出していることから、事業領域を自分で選択できず、結果的に 本国より限定された領域での進出に留まっていると考えられる。 また、本国においては規制に守られた市場にて事業運営を行っており、 規制緩和された市場とでは、事業運営の方法やリスクの考え方が異な るため、本国と同様の事業運営が難しいことも、全ての事業にて海外 展開することが難しい要因となっていると考えられる。 72 ■仮説検証以外の得られた考察 中部電力の事例では、海外エネルギー事業の展開において、まずリスクの少 ない海外コンサルティング事業を多く経験し、その後に現地での実業(発電及 び小売り)にて進出していることがわかる。この低リスクのコンサルティング 事業により現地での業務経験を蓄積し、結果的に、現地政府の政策や、現地市 場を理解することに繋がり、リスクの少ない事業や市場の選定を可能とし、当 該市場での事業運営の参入を可能としたと考えられる。 また、オマーンの事例では、自社の原料調達と密接に関係する国や地域で事 業運営の手助けをするような海外展開も行っており、自社全体の事業において シナジーを産む方法にて参入を行っているなど、海外エネルギー事業単体での 拡大ではなく、経営戦略の一部として海外事業展開を捉えて、長期的な視点で の経営を行っていることが伺える。 加えて、タイにおける再生可能エネルギー事業は商社を使わず事業展開して いる。タイでの事業展開の歴史を辿ると、2001 年から火力発電事業にて進出し ており、参入時は豊田通商との合弁会社により参入している。その後、現地で の事業運営の経験を積むことにより、さまざまな発電ノウハウや事業運営ノウ ハウのある中部電力が現地企業の信頼とネットワークを獲得することで、タイ で新事業を行う際に商社を介さず、直接現地企業と協業する形での参入を可能 としたものと考えられる。 つまり、現地市場を知らず、またネットワークもない日系エネルギー事業者 が海外展開をする際、当該国への参入初期には、現地とのパイプのある商社を 「水先案内人」として活用することで参入障壁を下げることができ、その後、 現地での事業運営ノウハウが溜まり、現地政府や現地企業とのパイプが自社に できた段階で、商社を介さず事業展開をするも可能であると考えられる。 73 6-2.日系商社 6-2-1.三菱商事 ■会社概要 三菱商事は、1950 年に設立された国内最大の総合商社であり、主な事業内容 は、地球環境・インフラ事業、新産業金融事業、エネルギー事業、金属、機械、 化学品、生活産業など各種事業を多角的に展開している。 2013 年度末現在、国内 29、海外 193 の計 222 の事業所を有し、連結対象の 会社は、子会社 400 社、関連会社等で 215 社、従業員は単体 5,651 名、連結で 68,383 名在籍している。資本金は約 2,044 億円、売上は約 22 兆円、当期純利 益は約 4,448 億円(いずれも連結)となっている。なお、売上のうち、資源と 非資源の比率はそれぞれ 40%、60%の構成比となっており、資源と非資源の事 業をバランスよく構成している。 ■長期計画 三菱商事は、2013 年 5 月に 「経営戦略 2015 ~2020 年を見据えて~」を 策定、その中で 2020 年頃の成長イメージとして資源・非資源事業に分けて「事 業規模の倍増」を掲げている。資源事業においては、2012 年度比で持分生産量 の倍増、非資源事業においては、2012 年度比で収益水準倍増を計画している。 また、2020 年頃のポートフォリオのイメージは、「適度な分散」と「複数の 強い事業」であり、『より強い事業』『強くなる事業』への集中するため、現在 47 ある事業領域を 35~40 に絞り込むこと、また 200 億円以上の利益をあげる 事業を 10 事業以上、100 億円以上 200 億円未満の利益をあげる事業を 10~15 事業育成し、資源と非資源の投資残高は 50:50 にすることを目標としている。 <図表 6-2-1:事業戦略及び市場戦略> (出典:三菱商事 HP) 74 その中で、具体的な事業戦略・市場戦略を構築しており非資源分野の事業戦 略にて電力事業の拡張を掲げており、市場戦略においては、成長するアジアの 消費市場を基軸としたグローバル展開を加速させ成長を図ることが明記されて おり、新興国におけるエネルギー事業に対してのコミットメントが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 三菱商事は、アメリカで始まった電力事業の規制緩和の波を捉え、海外での 電力事業に進出した。その際に進出条件として電力事業の規制緩和された市場 かつ、既に発電プラント取引など電力事業に携わっていた経験のある市場を選 定し、電力事業を拡大していった。1998 年のアメリカ進出後、メキシコ、東南 アジアを重点地域と定め、重点的に進出を図っていき、現在発電事業と送電事 業にて計 12 か国に進出している。 一方、本国におけるエネルギー事業は主に上流事業以外には発電事業と小売 事業であり、本国と比較して海外での事業展開の幅が広いことが分かる。 <図表 6-2-2:地球環境・インフラ事業グループの投資先・プロジェクト> (出典:三菱商事 HP) 75 ■組織体制 <図表 6-2-3:組織図(2014 年 10 月 1 日現在)> (出典:三菱商事 HP) 上の組織図より、一般管理部門を除き事業制となっている。 海外エネルギー事業については、エネルギー事業グループが担当している。 事業について主にエネルギー事業グループが海外資源上流権益事業、地球環 境・インフラ事業グループの中の新エネルギー・電力事業本部と、地球環境・ 76 インフラ事業グループの中の新エネルギー・電力事業本部が海外発電事業を 担当している。 また、子会社や関係会社の所在国から事業によって海外展開地域に偏りが あることが分かる。エネルギー需要の旺盛な地域では発電事業、原料が採掘 される地域では上流権益事業を行っていることから、外部環境に適応する形 で、海外事業展開を行っていることが読み取れる。 <図表 6-2-4:連結子会社(2014 年 3 月 31 日現在)> 〇地球環境・インフラ事業グループ 会社名 Diamond Generating Corporation Diamond Generating Asia, Limited Diamond Generating Europe Limited 所在国 新エネルギー・電力事業本部 議決割合 事業内容 アメリカ 100.00 米国電力事業の拠点、同国での発電事業の推進 香港 100.00 イギリス 100.00 Diamond Transmission Corporation Limited イギリス 100.00 DGA HO PING DGA ILUAN オランダ オランダ 100.00 100.00 東南アジア・台湾における電力事業の拠点、同地域での発 電事業の拡大を推進 欧州・中東・アフリカにおける電力事業の拠点、同地域での 発電事業の拡大を推進 欧州送電事業の拠点、洋上風力発電で作られた電力を陸 上に送電する海底送電事業を推進し、今後は系統安定化に 資する事業への展開も検討 発電事業 発電事業 (出典:三菱商事 HP) 〇エネルギー事業グループ 会社名 アンゴラ石油 CORDOVA GAS RESOURCES LTD. CUTBANK DAWSON GAS RESOURCES DIAMOND GAS HOLDINGS DIAMOND GAS NETHERLANDS DIAMOND GAD NIUGINI ダイヤモンド・ガス・オペ レーション DIAMOND GAS SAKHALIN DIAMOND LNG CANADA DIAMOND RESOURCES (CANNIG) DIAMOND RESOURCES (FITZROY) MCX DUNLIN MCX EXPLORATION MCX OSPREY MI BERAU 三菱商事石油開発 所在国 日本 カナダ 議決割合 事業内容 51.00 アンゴラにおける石油開発及び生産 67.50 カナダにおけるシェールガスの開発・生産 カナダ 100.00 カナダにおけるシェールガス事業への投資会社 マレーシア 100.00 マレーシアにおけるGTL事業(SMDS)への投資会社 オランダ 100.00 マレーシアⅢプロジェクトへの投資会社 オランダ 100.00 パプアニューギニアにおける原油・ガス探鉱開発事業 日本 100.00 貿易実務代行・天然ガス関連情報提供 オランダ カナダ 100.00 サハリンⅡプロジェクトへの投資会社 100.00 カナダ西海岸におけるLNG事業 オーストラリア 100.00 オーストラリアにおける原油・ガス探鉱開発事業 オーストラリア 100.00 オーストラリアにおける原油・ガス探鉱開発事業 イギリス アメリカ イギリス オランダ 日本 100.00 100.00 100.00 56.00 100.00 イギリス領北海地域における石油開発・生産・販売事業 米国メキシコ湾における原油・ガスの探鉱・開発・生産事業 イギリス領北海地域における石油開発・生産・販売事業 インドネシアにおけるタングープロジェクトへの投資会社 権益を保有する石油・ガス探鉱開発全般の推進・運営・管理 (出典:三菱商事 HP) 77 <図表 6-2-5:持分法適用関連会社(2014 年 3 月 31 日現在)> 〇地球環境・インフラ事業グループ 会社名 千代田化工建設 ELECTRICIDAD SOL DE TYPAN 所在国 日本 メキシコ 新エネルギー・電力事業本部 議決割合 事業内容 33.73 プラントエンジニアリング事業 50.00 発電事業 (出典:三菱商事 HP) 〇エネルギー事業グループ 会社名 BRUNEI LNG SENDIRIAN BERHAD ENCORE ENERGY JAPAN AUSTRALIA LNG (MIMI) 所在国 議決割合 事業内容 ブルネイ 25.00 液化天然ガス製造・販売 シンガポール 39.40 Medco社(インドネシア)の株式保有会社 オーストラリア 50.00 石油・ガス・コンデンセート開発・販売 (出典:三菱商事 HP) 78 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①メキシコにおける発電事業 メキシコにおいて三菱商事は以前よりメキシコ電力庁への設備納入で高いシ ェアを確保しており、現地政府と良好な関係にあったが、1990 年代にメキシコ 政府は米国に倣って電力民営化に乗り出し、発電事業が民間に開放されるよう になり、独立発電事業者(IPP)が進出する契機となった。 民営化の流れの中で、三菱商事は 1999 年 4 月に、メキシコ電力庁が海外企 業に発注する IPP 案件の事業権を獲得した。総事業費は 3 億ドル、事業内容は メキシコ市から北東約五百キロにあるトゥクスパン地区に、出力 49.5 万 kW の 火力発電所(「トゥクスパン 2 号」)を建設し、メキシコ電力庁と 25 年間の長 期売買契約を締結し、電力を供給するものであった。なお、発電方式は燃焼効 率に優れたコンバインドサイクル方式を採用、米国などから送られる天然ガス を熱源とし、設備は三菱重工業が主要プラントのガスタービン二基を製造・納 入した。また、同年 6 月に九州電力が海外事業のノウハウの修得を目的として 三菱商事が現地に設立した事業会社に 30%出資することで参画し、両社は資本 金 1 億ドルで現地プロジェクト会社である ETA 社を設立、残りの 2 億ドルは 日本輸出入銀行(現国際協力銀行)を中心とした国際金融団の協調融資で賄い、 2002 年 1 月 7 日に営業運転を開始した。 さらに、2003 年 12 月、三菱商事と九州電力はメキシコで IPP の事業権を共 同で落札し獲得した。 「トゥクスパン 2 号」の火力発電所と同様、3 億ドルの事 業費で天然ガスを使った出力 49.5 万 kW の火力発電所(「トゥクスパン 5 号」) を建設し、メキシコ電力庁と 25 年の長期売電契約を締結結び、同庁に販卸供 給する。事業運営は三菱商事と九州電力が折半出資する現地プロジェクト会社 の EST 社が行い、残りの資金は国際協力銀行などの協調融資にて調達、設備は 三菱重工業が設計から建設まで一括受注した。2006 年 9 月に営業運転を開始 した。 三菱商事がメキシコで手掛けた IPP 事業は、いずれもオール・ニッポンでの 取り組みとなっている。共同出資者として、九州電力に参画してもらった意図 は、事業権入札で競合する欧州の電力会社に対抗するために、技術力のある日 本の電力会社とのタイアップが不可欠であったためである。加えて、九州電力 が参加したことで、国際協力銀行を中心とする融資組成にもはずみがついた。 また、こちらのプロジェクトも設備は、三菱重工が納入した。 IPP 事業参入には様々な形態があり、主に運転中の発電所に部分出資して持 分容量を積み増す『資産買収』と、整地して発電所を造るところから始める『新 規開発』があるが、今回のメキシコの案件(トゥクスパン・プロジェクト)は、 新規開発の典型例であった。本プロジェクトにて、三菱商事は、役所の許認可 79 を取得する手続きに始まり、地元のコミュニティとの対話、資金を借り入れる ための銀行団との協議、機器メーカーとの交渉など、IPP 事業の A から Z まで 主体となって実施することで、その後の他の地域での IPP 事業展開に必要なノ ウハウを蓄積した。 また、2012 年 2 月には、オーストラリアの銀行系ファンドなどから事業持ち 分の約 34%を取得しメキシコにて中南米最大規模の風力発電事業に参画する と発表した。総事業費は 800 億円で、三菱商事の投資額は約 80 億円。総事業 費の 7 割はプロジェクト・ファイナンスで賄い、2013 年 7 月に稼働開始して いる。 ※2006 年 3 月 1 日、九州電力が現地プロジェクト会社 2 社(ETA 社、EST 社)への出資持分 20%分を追加的に取得し、出資比率を各々50%に引き上 げ、折半出資となった <図表 6-2-6:トゥクスパン 2 号・5 号プロジェクトの概要> (出典:九州電力プレスリリース) <図表 6-2-7:プロジェクトスキーム(九州電力出資追加後)> (出典:九州電力プレスリリース) 80 ②Diamond Generating Asia による東南アジアでの電力事業 アジアは、成長性が高く電力需要も旺盛な市場であるが、その中でも東南ア ジアと台湾は、三菱商事が伝統的に発電プラント取引を手掛けてきた市場であ る。三菱商事は東南アジアでの電力事業を推進するために、 「最適なパートナー との提携」を模索し、香港の CLP 社と組むこととした。 香港に本社を持つ CLP 社は、香港国内の市場が小さいことから早くから海 外事業に注力しており、東南アジア・台湾はもとより中国・オーストラリア・ インドなどで IPP 事業を展開の実績がある。特に中国での実績を保有しており、 中国メーカーから機器設備をバラ買い(分割発注)して発電プラントに仕立て る技術管理のノウハウを蓄積しており、三菱商事にとって IPP 事業でコスト競 争力が問われる東南アジアでの事業展開において CLP 社との提携が大きな強 みとなると判断してのものであった。また、CLP 社にとって、三菱商事は、重 電機メーカーとして東南アジアに進出していた実績があり、その実績による各 国の顧客とのネットワーク力を保有していること、また豊富な資金力を活用で きることから、三菱商事と CLP 社の双方にメリットがあると判断され提携に 至った。 2006 年 3 月、東南アジアと台湾での電力事業のための新会社「ワンエナジ ー」※を、三菱商事と CLP 社の子会社の折半出資(約 780 億円)で設立した。 その後、2008 年に、ワンエナジー社はベトナム電力公社(EVN)と合弁会社を 設立し、石炭火力発電所の建設・運営や電力の卸売り・小売りに参入すること を発表。本プロジェクトは、ENV が外資と取り組む初の IPP 事業であり、の 総事業費は約 2000 億円、合弁会社の株式の過半数をワンエナジー側が持つこ ととなった。EVN はこれまで自己資金や海外からの援助を利用して発電事業 を展開してきたが、需要増に資金が追いつかなくなったため、外資と組むこと でプロジェクト・ファイナンスを呼び込むなど、資金面の負担軽減を意図した ものと考えられる。 2009 年には、米国の地域拠点として DGC 社を設立したように、東南アジ ア・台湾の IPP 事業に取り組む地域拠点として、香港にダイアモンド・ジェネ レーティング・アジア社(Diamond Generating Asia, Limited. 以下、DGA 社) を設立し、事業運営を行っている。2010 年現在、三菱商事から DGA 社へは 9 名が出向、うち 3 名がハノイ、1 名がジャカルタに常駐している。 また、DGA 社はタイ政府が再生可能エネルギー利用への支援策を打ち出し たタイミングを逃さず、太陽光発電事業に進出した。CLP 社や現地企業と共同 出資でプロジェクト会社である NED 社を設立し、アジア開発銀行をはじめと した銀行団から資金を借りる融資契約も取り付け、建設はシャープ及び現地の エンジニアリング会社とのコンソーシアムへ発注し、2010 年 8 月に着工、2012 81 年 3 月に最大出力 7.3 万 kW の発電所が完工した。供給先はタイ電力公社 (EGAT)であり、長期売電契約を結び、電力供給を行っている。その後も、 2012 年 9 月に増設分を着工し、2013 年 5 月に完工、現在総発電容量は 8.35 万 kW となっている。 その他、アジアでの事業展開として台湾でも発電事業(和平(ホーピン)発 電所(発電容量 132 万 kW))展開している。出資の 60%は現地のセメント会 社、20%は香港の電力会社である CLP 社、残り 20%が三菱商事で、発電所の 運転・保守は、CLP 社の技術スタッフを中心とした専門子会社に委託し、運営 している。 ※2011 年 2 月 23 日、CLP 社が三菱商事の保有するワンエナジー株を引取り完 全子会社化した。それと引き換えに、三菱商事はワンエナジー社の子会社で あったワンエナジー・タイランド社及び、CLP 社の子会社が保有していたタ イの発電会社エレクトリシティ・ジェネレーティング・パブリック・カンパ ニー(EGCO)の株式 13.4%を買い取ることとなった <図表 6-2-8:東南アジア IPP 事業の取り組み(2010 年現在)> (出典:日経ビジネスオンライン) <図表 6-2-9:タイの太陽光発電事業(NED 社)の概要> ・会社名: Natural Energy Development Co., Ltd.(NED 社) ・所在地: タイ王国ロッブリ県 ・設立: 2008 年 ・事業内容:太陽光発電所事業 全発電量をタイの電力公社(EGAT)へ 25 年間売電 ・出資社: DGA 社、CLP 社、EGCO 社がそれぞれ 33.3%出資 82 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 三菱商事の海外事業のうち、権益(上流)事業は、世界各国の資源の 存在する地域に分布しており、発電事業(中流)においては市場が自 由化されているアメリカから始まり、アメリカに倣って規制緩和をし たメキシコや東南アジアへの進出という順序で事業展開しているこ とから、進出地域の選定にあたり制度的距離(A)を最も考慮してい ると考えられる。 ただし、メキシコや東南アジアについてはこれまで三菱商事の発電設 備納入シェアが高い地域であり、そのような地域を重点的に選定して いるため、エネルギー事業の進出に際して文化的距離(C)が考慮さ れているとは言いづらい。これは、商社という業種の特性上、エネル ギー事業に参入する前に、他事業にて海外拠点を多く保有しており、 そこでのネットワークを有していることに起因すると推測できる。 また、物理的距離(G)については、展開している地域が東南アジア に集中していることから、ある程度距離は考慮されていると考えられ る。一方、エネルギー需要が旺盛な地域が東南アジアに集中している 証拠とも言えるが、エネルギー需要が旺盛と思われる他の地域(アフ リカ)と比較して、明らかに進出度合いが高いため、やはり物理的距 離が進出に影響を与えていると考えられる。 経済的距離については、国内では発電だけでなく、下流の小売まで実 施している一方、新興国では主に発電事業に特化している。よって、 他の商社や日系エネルギー企業での検証と同様に、BtoC を含む小売 参入に関しては、法規制に加えてコスト面などの経済的な格差が進出 の障壁となっていると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業については、メキシコではオールジャパ ンでのプロジェクト遂行を実施し、事業運営では九州電力、設備は三 菱重工業、融資は国際協力銀行をはじめとした日系銀行団が行うこと により事業参画が可能となっていることから、本国の関連・支援産業 83 との協業が、進出を後押ししていると考えられる。 現地同業企業の協業については、東南アジアでは、インドネシアでも タイでも発電した電力の供給先として、国営の電力会社の存在があり、 お互いの企業が保有する資産を補完する形での進出をしていること から、補完関係にある現地同業企業との協業が進出を後押ししている と考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、経営戦略 2015 にもあったとおり、海外 での事業拡大を掲げており、事業戦略では非資源分野の電力事業拡大、 地域戦略ではアジア市場に重点を置いていることから、新興国でのエ ネルギーインフラ事業拡大へのトップのコミットメントは非常に高 いと推測される。 現地ネットワークは、これまで三菱商事が行っていた発電設備の納入 にて培ったネットワークを活用し、現地企業及び政府の信頼を獲得し て事業化を実現していると考えられる。 リスクマネジメント力は、商社という特性上、新興国経験を有した人 材を多く保有していると推測され、かつ、メキシコでの先行事例を糧 に、東南アジアなどでの事業拡大を図っていることから、新興国特有 のリスクマネジメント能力を内部で保有していると考えらえる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、メキシコでは当初単独であったが、九州電力と の合弁にて進出、東南アジアでの発電事業では、香港の CLP 社と提 携し、進出地域の現地企業を含めた合弁会社を設立することで進出し ており、自社単独での進出は行っていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 本国では、発電と小売の事業は行っているものの、送電事業に関して は行っていない一方、進出国では、発電事業、送電事業、小売事業を 行っており、日系エネルギー事業会社とは違い、本国事業領域より、 広範に事業展開を行っている。 84 ■仮説検証以外に得られた考察 三菱商事については、各国の法規制の状況をみて、エネルギー市場の規制が 緩和されたタイミングで当該国に進出していることを見ると、差別化しづらい エネルギーという業種における海外進出する際は、先発優位が働く可能性があ るのではと感じた。 先に進出することで、エネルギー供給を求めている現地エネルギー企業のニー ズにいち早く応えることとなり、長期的なエネルギー供給を求める現地エネル ギー企業と長期契約を取り付けやすく、長期契約を取り付けることによって、 その期間内の契約が担保されるため、安定的かつ長期的な収益性の担保が可能 となっている。 つまり、各国に拠点を持つ商社は、当該拠点が蓄積したネットワークにより いち早く、現地の需要、また現地の法規制の情報をキャッチし、進出するタイ ミングを計れる点において、ネットワークのない企業と比較して、事業展開の スピードが早い傾向があると考える。 85 6-2-2.三井物産 ■会社概要 三井物産は、1947 年に設立された国内有数の総合商社であり、主な事業内容 は、鉄鋼製品、金属資源、プロジェクト、機械・輸送システム、化学品、エネ ルギー、食糧、食品事業、コンシューマーサービス、次世代・機能推進など多 岐にわたり、当該分野にて、全世界に広がる営業拠点とネットワーク、情報力 を活かし、多種多様な商品販売とそれを支えるロジスティクス、ファイナンス、 国際的なプロジェクト案件の構築など、各種事業を多角的に展開している。 2013 年度末現在、国内 12、海外 133 の計 145 の事業所を有し、従業員は単 体 6,097 名、連結で 48,090 名在籍、資本金は約 3,419 億円、売上は約 11.2 兆 円、当期純利益は約 4,222 億円(いずれも連結)となっている。 ■長期計画 三井物産は、2009 年 3 月に「長期業態 VISION」を策定、その中で 10 年後 目指す姿として、実業に根ざすこと、グローバル経営志向、業態の柔軟な組み 換えなどを掲げている。その目指す姿を実現するために、業態の進化に向けた 視点を示しており、エネルギー・環境総合戦略の確立と、グローバル戦略の深 化を掲げるなど、海外エネルギー事業へのコミットメントを示している。 また、長期業態 VISION を実現すべく、2014 年 5 月には、中期経営計画 『Challenge & Innovation for 2020 ~三井物産プレミアムの実現~』を発表、 強みを生かした 7 つの「攻め筋」、つまり新規事業の確立と、4 つの重点施策が 掲げられ、その中で、 「攻め筋」としてエネルギー事業の上流~下流、及びエネ ルギー関連事業、電力・水道・港湾などのインフラ事業を挙げ、また重点施策 としてグローバル展開力の深化、特に重点地域として中国、インド、インドネ シア、ロシア、メキシコ、ミャンマーなどの新興国を挙げるなど、新興国にお ける海外エネルギー事業展開を検討していることが伺われる。 <図表 6-2-10:7 つの「攻め筋」(一部抜粋)> (出典:三井物産 HP) 86 <図表 6-2-11:4 つの重点施策> (出典:三井物産 HP) ■現在の海外エネルギー事業 上流権益の事業を除き、プロジェクト本部が管轄している発電事業及びガス 事業など、現地での事業運営を行っている国は現在計 19 か国である。 発電事業においては、北中米・南米地域にてアメリカ、カナダ、メキシコ、 プエルトリコ、ブラジル、ヨーロッパではイギリス、ポーランド、スペイン、 イタリア、アフリカではモロッコ、南アフリカ、中東ではヨルダン、カタール、 UAE、アジア・オセアニア地域では中国、ラオス、タイ、インドネシア、オー ストラリアとなっている。 また、ガス事業については、メキシコ、ブラジルの 2 か国となっている。 一方、国内においては、電力事業(発電、小売事業)のみであり、ガス事業 は行っておらず、海外の事業領域が本国の事業領域より広いことが分かる。 <図表 6-2-12:発電事業> (出典:三井物産 プロジェクト本部事業概要説明資料) 87 <図表 6-2-13:発電事業以外の主要インフラ・プロジェクト> (出典:三井物産 プロジェクト本部事業概要説明資料) 88 ■組織体制 下表の組織図のとおり、主に機能別の組織体制であり、営業本部内は事業部 制の体制となっている。国内や海外の拠点についても、特定の事業の傘下では なく、独立した組織となっている。 エネルギー事業については、権益の獲得などの日本への原料の輸入を目的と した事業については、エネルギー第一事業本部とエネルギー第二事業本部が担 当しており、現地での発電やエネルギー供給や、現地の保守管理業務などの事 業運営については、プロジェクト本部が行っている。 また、海外拠点及び、各本部傘下の主要な子会社については、世界各地に点 在しており、エネルギー事業関連においては、主に欧米(イギリス、カナダ)、 中南米(メキシコ、ブラジル)、東南アジア(インドネシア)などに子会社を設 立し、発電事業を行い、一部の地域では現地での電力供給及びガス供給事業な ど小売りにも参入している。 <図表 6-2-14:組織図(2014 年 7 月 1 日現在)> (出典:三井物産 HP) 89 <図表 6-2-15:プロジェクト事業本部の主要子会社> (出典:三井物産 HP) 90 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①ブラジルにおけるガス事業(三井ガス・イ・エネルジア・ド・ブラジル) 三井物産グループのブラジルにおけるガス事業は、不正経理問題で姿を消し た米エンロンと入れ替わる形で参画し、2006 年に三井物産 100%出資の「三井 ガス・イ・エネルジア・ド・ブラジル」 (三井ガス)を発足させ、ガス供給事業 を行っている。同社は州政府、エネルギー企業ペトロブラスとともに、バイー アガスなど 7 州の地域ガス配給会社を傘下に収めており、ガスはペトロブラス から調達し、その配給会社 7 社の経営管理や事業拡大などを主に担当する。ま た、三井ガスには、日本のガス会社同様に各州内において 30~50 年の独占事 業権(地域独占)が認められている。そのため、利益の急拡大は難しい代わり に、毎年 40 億~60 億円の利益をコンスタントに稼ぐことが可能となっている。 日本の商社である三井物産及び三井ガスがブラジルのガス事業に参画できた 理由は、日本のエネルギー、交通など社会インフラの安定運営の実績が評価さ れたためである。三井ガスの社長である佐藤龍浩氏は、IT(情報技術)を活用 した供給状況の管理、ガス漏れ発生時の対応、道路工事によるガス管損傷を避 ける埋設方法など、 「早くから都市ガスが普及した日本には、ノウハウが蓄積さ れている」点に目をつけ、三井ガスでは東京ガスに当該業務を依頼し、同社の 技術者が駐在することで運営・保守管理を行っている。このように他の日本企 業との協業をすることで、ブラジル国内にある傘下のガス配給会社に日本の安 定した運営手法を移植し事業領域を拡大することに成功している。 現在では、ブラジル国内の傘下 7 社の合計で、発足時に 800 万 m3 だった 1 日当たり供給量は、今では 1,000 万 m3 に増加し、日本で言うと国内 3 位の東 邦ガスの供給量に相当する規模となっている。現状、企業へのガス供給が中心 であり、家庭用用途への拡大の余地も残されている。ブラジルの家庭はプロパ ンガスが主流となっているが、今後は住宅向けの需要拡大をテーマとして掲げ、 使用量をどう測り、どう料金回収するかなど、課金システム構築の面でも日本 の知見が活用する方針である。家庭用の先行事例として、2013 年から傘下のガ ス配給会社であるバイーアガス※がガス供給をしているブラジル北部、バイー ア州の州都サルバドールにおいて、政府が貧困対策で建設した集合住宅 2,500 棟向けにガス供給が開始されている。 社長の佐藤氏は、 「ブラジルで経験を積めば、ほかの国での展開にも生かせる」 との考えを持っている。世界にはまだガスの普及が進んでいない新興市場はた くさんあるため、ブラジルでの事例が将来のモデルを作る先兵の役割も担って いると認識している。佐藤氏の三井物産での経歴は、化学プラントの営業が長 く、ガスビジネスに携わった経験はない。しかし、商社マンとして長く営業畑 を歩んできた佐藤氏は「現場に行けば必ず新たな発見がある」という信条のも 91 と、2 人の部下と手分けして、本社のあるリオデジャネイロから傘下のガス配 給会社がある各州を飛び回り事業拡大・収益拡大を行っている。どのような企 業が工場を建設するのか、有力な顧客候補はどこか。収益拡大のヒントを自分 の足で探る。住居向けを拡大するのも机上で考えるだけではなく、ブラジル各 地を訪れて感じた肌感覚がベースになっている。 ブラジルでは環境意識が高まりつつあり、ほかの化石燃料に比べ CO2(二酸 化炭素)排出の少ないガスは、エネルギー源の現実解として有望視されている。 そのため、三井物産は今後も重油からガスへの燃料転換が続くとみており、さ らに供給先の拡大を図っている。一方、化石燃料のほかにエタノールというブ ラジル特有のライバルもあり、日本のインフラ運営に対する信頼感を武器とし て、競合に対抗していく必要がある。 ※バイーアガスの出資比率は、三井物産子会社の三井ガスとペトロブラスが 24.5%ずつ、同国東部バイーア州政府が 51%出資 ②メキシコにおけるガス事業(ガスナチュラル・メヒコ) 三井物産は、2012 年 9 月 19 日に、メキシコ最大のガス配給会社ガスナチュ ラル・メヒコ(GNM、メキシコ市)に 15%出資することを発表、三井物産が 新たに設立したミット・ガス・メキシコ社とイベルドローラ社子会社のイベル ドローラ・エネルヒア社との間で、2012 年 9 月 18 日に株式売買契約を締結し ました。買収額は 8,200 万米ドル(約 65 億円)で、関連当局の許認可を取得 後、ミット・ガス・メキシコ社は GNM 社株式の 13.25%を取得した。さらに、 その後、GNM 社の他の株主から GNM 社株式の 1.75%を約 1080 万米ドル(約 9 億円)で追加取得し、出資総額は 9280 万ドル(約 74 億円)で合計 15%の株 式取得を行った。 GNM 社は、メキシコシティー、モンテレーといったメキシコ国内の主要都 市や、トルーカ、バヒオといった今後の成長が期待される都市を含む国内 6 地 域で、民生・商業・産業向けにガス配給サービスを提供し、約 130 万の顧客を 有する顧客数およびガス配給量の双方においてメキシコ最大のガス配給事業会 社である。 三井物産による GNM への出資の狙いは、メキシコから新型ガス「シェール ガス」が産出する北米からパイプライン経由で安価なガスが調達を可能とする ことに加え、メキシコ政府も国内での天然ガスの使用を推進しており、ガス配 給事業の収益が見込めるためである。 これまで三井物産はメキシコ国内で液化天然ガス(LNG)の受け入れ設備 やガス火力発電所を運営、今後市場拡大が期待できる中南米でガス関連事業を 幅広く展開し、収益基盤を強化する考えを持っている。 92 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 商社のエネルギー事業という性質から、今回の事例の進出国であるメ キシコやブラジルや既に海外拠点を有しているため、物理的距離(G) はもちろん、文化的距離(C)や経済的距離(E)においても、現地の 事情を理解しているため、これらの距離が特別な障壁となっていない と考えられる。 しかし、制度的距離(A)については、現地の生活環境を向上させる ことを目的として法制度(規制)が緩和され、外資系企業がエネルギ ーインフラの事業運営を行うことが可能になったため進出できてお り、やはり制度的距離は進出に際して最も障壁となり得ると考えられ る。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする ブラジルでのガス供給事業の運営に際して、本国にて事業運営ノウハ ウを持っている東京ガスが協業相手となったことで、顧客対応及び顧 客開拓の面でプラスの影響を与えたと考えられる。 また、現地の同業企業であるペトロブラスからは、原料を調達するな ど、バリューチェーンの足りない部分を現地の同業企業と協業するこ とで補完していることから、補完関係にある現地同業企業との協業は 進出を後押ししていると考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、中期経営計画において世界においてエネ ルギー事業の上流から下流まで、また関連事業への進出する方針が示 されていることから、新興国でのエネルギー事業へのトップのコミッ トメントが非常に高いと推測される。 リスクマネジメント力は、ブラジルの事例では社長が当該事業への深 い知識はないものの、これまで営業畑を歩んできた経歴や、三井物産 93 の人材育成方針から、新興国での業務経験を有していることが推測さ れ、また三井物産そのものが他事業において新興国での事業運営経験 を多く有していることから、現地特有のリスクマネジメント能力を保 有していると考えらえる。 加えて、その関連から、進出国政府とのネットワークも有しており、 ブラジルでの事例でも現地州政府と連携して(株を持ち合って)合弁 という形で、事業運営を行っていることからも、ネットワーク力を活 かして進出していることが考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する ブラジル、メキシコの事例とも、現地エネルギー企業の株式を買収す ることで参入しているが、全ての株式を買収するのではなく、現地企 業と共同出資にて進出しており、単独での進出が行っていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 本国では、発電事業は行っているものの、ガス事業に関しては行って いない一方、進出国では、発電事業、ガス事業、また水道事業など、 多方面のインフラ事業にて進出しており、日系エネルギー事業会社と は違い、本国事業領域より、広範に事業展開を行っている。 ■仮説検証以外に得られた示唆 三井物産においては、事例からも分かる通り、必ずしも、本国企業との協業 を行っていないことが分かる。これは、恐らく、自身で保有しているネットワ ークを駆使して、新興国でのエネルギー事業を推進する際に、どの企業を協業 すべきかという点について、世界各地から協業相手を探すことができているた めと考える。 一方、日系エネルギー事業会社は、これまで海外事業の経験が乏しく、その 乏しい経験を補うために、商社のネットワークが有効であり、その点において 商社が最適な協業相手となっていたと考えられる。 つまり、商社は状況に応じて、その時点における最適なパートナーと協業し 進出しており、日系エネルギー事業会社は、協業相手として、商社が必要とな るコア・コンピタンスを蓄積していくことが必要であると考える。 94 6-2-3.丸紅 ■会社概要 丸紅は、1949 年に設立された国内 5 大商社の一つであり、主な事業内容は、 食料、繊維、資材、紙パルプ、化学品、エネルギー、金属、機械、金融、物流、 情報関連、開発建設などの分野において、輸出入及び国内取引の他、各種サー ビス業務、内外事業投資や資源開発等の事業活動を多角的に展開している。 2013 年度末現在、国内 10 か所と世界 64 か国 117 か所の事業所を有し、従 業員は単体 4,289 名在籍している。資本金は約 2,627 億円、売上は約 13.6 兆 円、当期純利益は約 2,109 億円となっている。なお、売上のうち、資源と非資 源の比率はそれぞれ 20%、80%の構成比となっており、三菱商事や三井物産と 比較して非資源の事業の構成比が高いことが特徴である。 ■長期計画 丸紅は、2013 年 5 月に、中期経営計画「Global Challenge 2015」を策定、 世界経済の中長期的成長を積極的に取り込み、特にグループが強みや知見を有 し、競争力のあるビジネス分野で、主導的役割を発揮できる事業を拡大するこ とを基本方針とし、①経営資源の最大効率化、②海外事業の強化・拡大、③経 営主導による人材戦略の更なる推進の 3 つの重点施策を明示している。 その中で、②海外事業の強化・拡大においては、中長期的に高成長が期待で きる地域でグループのプレゼンスを高め、海外事業の強化・拡大を図ることを 明文化しており、これまで「重点地域」としていた北米、南米、アセアン、中 国、インド、その他中東、豪州に加え、資源、インフラ、産業開発需要の拡大 が見込まれ、丸紅グループのプレゼンスの確立が可能なサブサハラ、メコンを 新たに「注力地域」に設定するなど、新興国における資源・インフラ事業への コミットメントの高さが伺われる。 <図表 6-2-16:サブサハラ、メコン地域> (出典:丸紅 HP) 95 また、新規投融資計画についても今後 3 年間で約 1.1 兆円を予定しており、 その投資枠の中で、電力・ガスインフラへの投資が明記されていることからも、 インフラ事業に対するトップのコミットメントの高さが伺われる。 <図表 6-2-17:新規投融資計画(3 か年)の配分割合と注力分野> (出典:丸紅 HP) ■現在の海外エネルギー事業 丸紅は海外にて、主に電力事業を行っており、中でも発電事業がメインとな っている。その他に送電事業や、熱電併給事業なども行っている。 展開地域については、現在計 10 か国に進出しており、北米ではアメリカ、ヨ ーロッパではイギリス、ポルトガル、中東ではオマーン、サウジアラビア、東 南アジアではフィリピン、タイ、カンボジア、ベトナム、ミャンマーに進出し ている。 一方国内のエネルギー事業では発電事業と小売事業を展開しており、海外で のエネルギー事業と比較して事業領域の幅が狭いことが分かる。これは、本国 におけるエネルギー事業の法規制も少なからず影響しているものと考えられる。 96 ■組織体制 <図表 6-2-18:組織図> (出典:丸紅 HP) 組織図のとおり、主に機能別の組織体制であり、営業本部内は事業部制の体 制となっている。国内や海外の拠点についても、三井物産と同様、特定の事業 の傘下ではなく、独立した組織となっている。 エネルギー関連の事業については、権益の獲得などの日本への原料の輸入を 目的とした事業は、エネルギー第一事業部門とエネルギー第二事業部門が担当 しており、現地での発電やエネルギー供給や、現地の保守管理業務などの事業 運営は、電力インフラ部門が行っている。 また、海外拠点及び、各部門傘下の主要な子会社については、世界各地に点 在しており、電力インフラ部門においては、主にアジア(中国、東南アジア)、 中東(UAE、サウジアラビア)、欧米(イギリス、アメリカ)、中南米(ペルー、) 97 などに子会社を設立し、事業構成は発電事業を主として、その他発電事業から 派生した送配電、熱電供給などを一部の地域で展開している。ただし、基本的 にエネルギーインフラは電力のみでガス事業は行っておらす、事業構成につい てもバリューチェーンの下流にある小売事業については国内で事業展開してい るものの、海外では積極的に事業展開していないことが、子会社の事業構成か らも推測される。 加えて、その他のインフラ事業として上下水道関連の事業についても一部の 地域で行っている。 <図表 6-2-19:電力・インフラ事業部門主要子会社の地域及び事業構成> 地域別 社数 アジア(中国除く) 中国 中東 南米 アフリカ 北米 欧州 オセアニア 総計 16 4 8 4 1 7 4 2 46 事業別 発電 発電,送電 送配電 電力資産管理 電力プロジェクト開発 電力コンソリデーション 熱供給 熱電供給 発電オペレーション、維持管理 発電所メンテナンス 上下水道 上水道プラント建設 下水処理 浄水場BTO 淡水化 総計 社数 24 1 1 5 4 1 1 1 1 1 2 1 1 1 1 46 ※日本法人以外 (出典:丸紅 HP より筆者作成) 98 ■社長インタビュー記事(一部修正・抜粋) 朝田前社長(現会長)及び、国分社長のインタビュー記事の抜粋から、資源 ビジネス及び、新興国(特に東南アジア)ビジネスの展開について、会社の方 針を確認する。 ①朝田前社長(現会長) 【引用元】日経ビジネスオンライン 丸紅・朝田照男社長に聞く(2013 年 3 月 25 日) 日本経済新聞 成長期の東南アジアどう攻める-丸紅社長 朝田照 男氏(2013 年 1 月 20 日) 〇商社が資源を手掛けなければいけない理由とは。 新興諸国が経済発展していく過程において、当然資源は必要であり、何をや るにしても設備投資には鉄が必要になる。鉄が必要になれば原料炭や鉄鉱石が 必要になる。同じように銅のようなベースメタルや石炭は、レアメタル(希少 金属)と比較した時に、今後とも永続的に需要が高まっていく。 ただし、商社であるため、資源一極集中はダメ。逆に言えば、資源一極集中 してしまうと商社の強みが出ない。当社では資源・エネルギー、インフラ、生 活産業、もう 1 つは環境その他に分け、こうした 4 つか 5 つの分野を均等に攻 めていく。そしてそれぞれの分野で強みを発揮することが極めて重要。 商社のコンピタンスが何かを考えると、やはりそれだけ多くの事業を抱えて、 あらゆる方面に投資をしながらトレードしていくこと。 〇一方で丸紅はこの数年間、電力インフラや食料といった部門に重点投資して きた印象もあるが。 やはり業界随一という分野がいくつかあることが必要。ほかの商社がどうや っても追いかけられない、追いつけない、そういう分野をできるだけ多く持ち たかった。それが丸紅の企業力の強みの部分になっていく。 強いところをますます強くし、弱い部分を補う。弱い部分というのは、結局 丸紅としても競争力がないため、そこに一気に多額の投資をすることは冒険に なる。知見がないからリスクが高い。そういう意味からすれば、我々が大型投 資をするところは自信のある分野。 こうした強みがあるところを、どんどん強くしていって、他商社との間の差 別化を図っていくということが極めて重要。そのためにこれらの分野への投資 を加速した。 99 〇「中国+1」の受け皿として距離的にも近い東南アジアに期待が集まる。 6 億人の域内人口は 13 億人の中国の半分だが、中国の発展初期に比べると経 済水準が高く、消費拡大のスピードは中国を上回っている。ただ賃金上昇は恐 らくあっという間。労働集約型の縫製品などで中国に取って代わる輸出基地に なるのは簡単ではない。 〇タイの大洪水、インドネシアの労働ストなど、東南アにもリスクはある。 政情、宗教、災害などどこでもリスクは付きものだが、東南アジアは多様な 国家の集合体。バランスを考えて投資すれば域内でリスク分散が可能。共産党 一党独裁の中国のリスクとは別次元と考えていい。何よりも中国との最大の違 いは大半が親日国なこと。 〇丸紅はどう攻める。 タイの発電分野で同国の能力全体の 25%分の建設を手掛けるなど、特にイン フラ分野に強みがある。昨年末にフィリピンの世界最大規模の民間水道会社に 出資し、東南アジアでは未参入だった水処理事業でも足掛かりを得た。そこで の運営実績をてこにインドネシアなどへも参入したい。 東南アジアには海外駐在員の 2 割強の 180 人を配置し、北米を上回るが、ヒ トやカネといった経営資源の配分に利益が追いついていない。一因は三菱商事 におけるブルネイの液化天然ガス(LNG)、三井物産のタイの石油のようなド ル箱となる資源権益がないこと。焦って高値づかみはしないが、ミャンマーな どで権益獲得を狙っていく。 ②国分文也社長 【引用元】日本経済新聞 東南ア市場の今後は―丸紅社長国分文也氏、食料や 医療にも成長性(2014 年 8 月 3 日) 〇東南アジア市場の今後の成長を、どのように予想しているか。 国ごとに違いはあるが、全体では相当伸びる。特にタイやフィリピン、イン ドネシアが期待できる。都市鉄道や電力などインフラ需要はもちろん、食料や 医療分野の成長性も無視できない。エネルギーでは今後需要が拡大する液化天 然ガス(LNG)事業に注目している。ガスの搬出から搬入という一連の流れ のなかで、様々な商機がある。 〇東南アジア諸国連合(ASEAN)経済共同体の創設や、東アジア地域包括的経 済連携(RCEP)などは市場にどんな影響を与えますか。 100 ASEAN 共同体は単一市場の誕生といえば画期的だが、実際は国ごとに文化 や法制度が違い、一筋縄ではいかない。一方で RCEP のように地域を越えた国 際分業はビジネスチャンスの拡大につながる。 〇丸紅は東南アジア市場をどう攻めますか。 東南アジアには海外駐在員の 2 割強に当たる約 200 人を配置しているが、見 合うだけの利益をあげられていない。電力や交通は強いが、食品や自動車の分 野はまだ手薄だ。ここで事業の核をつくりたい。インドネシアの二輪車販売金 融やシンガポールの保険事業など、芽は出つつある。 101 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①カンボジアにおける発電事業 丸紅は、マレーシアの HNG Capital Sdn Bhd(以下「HNG Capital」)傘下 で、カンボジア・シアヌークビルにて石炭火力発電所(100MW)を保有・運営 する Cambodian Energy Limited(以下「CEL」)ならびにコンポンチャム- ノースプノンペン間の送変電設備を保有・運営する Cambodian Transmission Limited(以下「CTL」 )双方の持株会社の株式 20%を取得することで合意し、 株式売買契約を締結した。 HNG Capital を持株会社とする Leader グループは、マレーシア及び東南ア ジアに於ける大手送電ケーブルメーカーであり、カンボジアでは 1990 年代よ り発電事業を手掛けた外資 IPP の草分けであり、南部のリゾート地、シアヌー クビルで石炭火力2基(総出力 10 万キロワット)を運営する電力会社を傘下 に持ち、中部には約 100 キロメートルの送電線と変電設備も抱えている。 Leader グループは、2000 年代後半より CEL、CTL 開発を実施し、両案件 とも 2013 年に商業運転を開始したが、操業能力強化のためパートナーの引き 入れを検討しており、カンボジア電力市場への進出を目指していた丸紅との間 で協業方針が合致し、日本企業にとってカンボジアにおける初めての電力事業 案件への出資参画に至った。 カンボジアでの丸紅としてのミッションは、これまでの全世界で展開してき た電力事業の知見・経験を活かし、CEL、CTL の安定操業に努め、カンボジア における電力の安定供給を実現すること、また、発電所の効率向上やコスト削 減などの運営を支援するほか、送電線や変電所の増設投資を進めていくことで ある。 カンボジアは経済成長で電力供給量が 2020 年まで毎年 12%ずつ増える見通 しだが、供給量の半分以上を周辺国からの輸入に頼っており、マレーシアや中 国の企業が電力事業に参入しているものの、電力インフラの整備は遅れている ため事業拡大の余地がある。 加えて、カンボジア進出を契機に発電所の建設や電力インフラの構築が急務 となっているメコン川流域のタイ・ラオス・ミャンマーにおける電力インフラ 市場の開拓を目指していく。 <図表 6-2-20:HNG Capital 社概要> ・会社名 :HNG Capital Sdn Bhd ・設立 :2001 年 ・所在地 :マレーシア、ペナン ・事業内容 :送電線ケーブル事業、発電・不動産等の事業投資 102 <図表 6-2-21:Cambodian Energy 社概要> ・会社名 :Cambodian Energy Limited(CEL) ・設立 :2009 年 ・所在地 : カンボジア、プノンペン ・事業内容 : 発電所運営・ 売電事業 ・発電所出力:100MW ・発電方式 :石炭火力 <図表 6-2-22:Cambodian Transmission 社概要> ・会社名 :Cambodian Transmission Limited(CTL) ・設立 :2009 年 ・所在地 : カンボジア、プノンペン ・事業内容 : 送変電事業 103 ②フィリピンにおける発電事業 丸紅と東京電力がフィリピン共和国において共同で事業運営している TeaM Energy Coporation(TEC)は、パグビラオ石炭火力発電所を増設フィリピン に出力 40 万キロワットの石炭火力発電所を新設することを発表、総事業費は 1 千億円で 2017 年に稼働を目指している。 これまで、丸紅と東電は 2006 年にフィリピンで3つの発電所を共同買収し、 現地での発電事業では実績があり、今回新設する発電所は既存の発電所の1つ があるルソン島南部のパグビラオ火力発電所の敷地内につくる。 現地の組織形態は TEC と現地のエネルギー会社である地場大手発電事業者 である Aboitiz Power Corporation(Aboitiz)との合弁会社を新たに設立、資 本は TEC と Aboitiz がそれぞれ 125 億円を出資、残りの 750 億円は現地の金 融機関からプロジェクト・ファイナンスで借り入れる。主要設備は建設一括請 負契約を締結した三菱重工業と日立製作所の共同出資会社である三菱日立パワ ーシステムズ株式会社-Daelim Industrial Co.,Ltd(韓)(Daelim)コンソー シアムが納める。 丸紅は、フィリピンにおいて、これまで TEC 及び別事業体を通じて4発電 所への出資・運営を行っているが、今回の増設により、総発電容量はフィリピ ン全体の4分の1に相当する約 4,000MW に達することとなる。堅調な経済成 長を背景にフィリピンの社会インフラ需要は益々高まるとみられ、丸紅はフィ リピンにおける発電事業を重点事業と位置づけ、今後も積極的な事業展開を模 索している。 <図表 6-2-23:案件概要> (出典:丸紅プレスリリース) 104 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 商社のエネルギー事業という性質から、様々な地域で電力事業(主に 発電事業)を行っているが、子会社の数が他地域に比較してアジアに 多いことから物理的距離(G)もある程度影響していると考えられる。 また、社長のインタビューでもあるように東南アジアなどの親日国へ の進出はそうでない地域と比較して参入しやすいことが推察される ため、海外進出に際して文化的距離(C)と物理的距離(G)を考慮 していると考えられる。 加えて、制度的距離(A)について、外資参入に関する法規制が緩和 されている市場への進出に限定されていることから、制度的距離は他 の距離に比較して重要であると考えられる。 なお、経済的距離(E)に関しては、事業そのものが直接のユーザー ではなく、電力卸や送電など BtoB の事業に留まっていることから、 BtoC を含む小売事業への参入には法規制に加え経済的距離が関係し ていると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業については、フィリピンでの発電事業の 事例でもあったように、事業運営においては東京電力と協業、また発 電所及び発電設備の建設・納入においては三菱日立パワーシステムズ 株式会社を含めたコンソーシアムへ発注するなど、本国関連支援産業 との協業は、進出を後押しするものと考えられる。 現地同業企業との協業については、カンボジアの事例にてマレーシア の Leader グループ、フィリピンの事例にて Aboitiz という現地及び 近隣の同業企業との協業により進出していることから、お互いの強み と弱みを補完する関係にある現地同業企業との協業は進出を後押し するものと考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 105 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、中期経営計画においてもインタ ビューにおいても新興国における電力インフラ事業の拡大について 言及されており、今後三年間の新規投融資計画についてもエネルギー、 電力インフラ部門への投融資を積極的に行うことが明文化されてい ることから、新興国における電力インフラ事業へのトップのコミット メントは非常に高いと考えられる。 現地ネットワークについては、商社という性質上、様々な事業にて 様々な国へ進出し、拠点を保有している都合上、進出国政府とのネッ トワークも有していると考えられる。 リスクマネジメント力については、トップのインタビューでもあると おり、新興国(東南アジア)への駐在比率が全体の 20%強となって おり、新興国を経験する社員の比率が高いことが推測され、若い人材 の海外経験を重要視する人材育成方針から社員が新興国での業務経 験を有していることが推測され、現地リーダー人材に現地特有のリス クマネジメント能力を保有していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、カンボジアでは現地企業への出資、フィリピン では現地企業と合弁会社を設立することで参入しており、自社単独で の進出は行っていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 本国では、発電事業と小売事業を展開している一方、海外では、発電 事業、送電事業、熱電併給事業など多方面のインフラ事業にて進出し ており、日系エネルギー事業会社とは違い、本国事業領域より、広範 に事業展開を行っている。 ■仮説検証以外の得られた考察 商社のエネルギービジネスをバリューチェーンで整理すると、上流から進出 して、その後その土地で下流にかけて事業展開しており、いきなり下流の小売 や保守・運営管理から入っていないことがわかる。これは、もともとトレード を主に行ってきた商社ならではの事業展開方法かもしれないが、欧州のエネル ギー企業の海外展開についても、日本の商社と同様に上流から進出し、その後 下流へ事業展開する手法をとっているように見受けられる。 よって、これまでの事例から新興国を中心としたインフラ事業の海外展開に おいては、バリューチェーン上の上流から下流という順序に従って参入すると いう段階論が存在すると考えられる。つまり、その国や地域がどのような段階 106 にいるかによって、参入できる事業が異なるともいえる。そのような中で、日 本のエネルギー事業者がいかに新興国進出を実現していくかを考えていく必要 がある。 以上を踏まえると、下流の保守・運営管理及び小売を国内で事業展開してお り、当該事業に強みを持つ国内のエネルギー事業者にとって、新興国を含めた 国際展開を行う際には、上流に強みを持つ企業(商社もしくは海外エネルギー 企業など)とのアライアンスが進出に際して重要な要素となると考えられる。 また、原料調達の必要性のない産油国(原料調達不要な国)においては、下流 のノウハウ・技術供与という形で、当該国の有力企業とのアライアンスが進出 に際して重要な要素となると考えられ、当該国とのネットワークを有している 商社などの企業との協業が進出に際しての必須条件となり得ると考えられる。 107 6-2-4.豊田通商 ■会社概要 豊田通商は、1948 年に設立された名古屋を地盤とするトヨタグループの総 合商社である。主な事業内容は、各種物品の国内取引、輸出入取引、外国間取 引、建設工事請負、各種保険代理業務等多岐にわたるが、トヨタグループであ ることから特にモビリティ分野に強みを有している。 2013 年度末現在、世界 60 か国以上にネットワークを有しており、従業員は単 体 3,683 名、連結で 50,423 名在籍している。資本金は約 649 億円、売上は約 7.7 兆円、当期純利益は約 730 億円となっている。 ■長期計画 豊田通商は、2011 年 8 月に長期ビジョン「GLOBAL 2020 VISION」を策定、 その中で従来の自動車:非自動車=50:50 のポートフォリオを進化させ、「モ ビリティ分野」の拡大、 「ライフ&コミュニティ分野」、 「アース&リソース分野」 とのシナジーを創出し、 「1:1:1」の事業ポートフォリオの実現を掲げている。 また、グローバル展開についても言及されており、加えて「アース&リソース 分野」では、資源・エネルギー事業の推進が挙げられており、海外におけるエ ネルギー事業へのコミットメントの高さが伺われる。 <図表 6-2-24:GLOBAL 2020 VISION のあり姿> (出典:豊田通商 HP) 108 ■組織体制 下表の組織図より、一般管理部門であるコーポレート本部を除き、8つの事 業統括する本部が組織され、組織図に記載はないものの、各地域に拠点がある ため、事業本部と地域拠点とのマトリックス構造となっていると推測される。 海外エネルギー事業については、 「機械・エネルギー・プラントプロジェクト 本部」が担当している。事業エリアは、重点地域として示されていた北米(ア メリカ、カナダ)、欧州、アジア・オセアニアにて発電事業を行っている。また、 事業内容については、権益獲得から、調達、発電及び販売(小売)までという エネルギー事業におけるバリューチェーン全てをカバーしているが、事業展開 は、地域によって傾向が異なっている。例えば、電力需要の多い東南アジアに おいては電力卸売事業をメインに事業展開を行い、北米においては電力卸から 販売まで、欧州においては再生可能エネルギー(風力)での発電事業、オース トラリアにおいては、ガス田の権益及び運営事業のみを行うなどとなっている。 <図表 6-2-25:組織図(2014 年 4 月 1 日現在)> (出典:豊田通商 HP) 109 <図表 6-2-26:エネルギー関連事業の海外関連会社の所在地と事業内容> 所在地 アメリカ 事業内容 発電(ガス) ガス生産・販売 オーストラリア ガス探鉱・開発・生産 石炭採掘事業への投資と運営 オランダ 発電(ガス) カナダ ガス開発・生産・販売 発電事業統括 シンガポール 石油製品販売 パナマ 資産管理(豪州石炭) 日本 発電事業統括(再生可能エネルギー) 会社数 1 1 2 1 1 1 1 1 1 1 (出典:豊田通商 HP より筆者作成) 110 ■現在の海外エネルギー事業 豊田通商は海外にて、主に電力事業を行っており、中でもユーラスエナジー グループによる再生可能エネルギー発電がメインとなっている。その他に小売 り事業も一部の地域で展開している。 展開地域については、現在計 13 か国に進出しており、北中米ではアメリカ、 カナダ、ウルグアイ、ヨーロッパではイギリス、ノルウェー、スペイン、イタ リア、アフリカではエジプト、パキスタン、アジア・オセアニア地域ではフィ リピン、タイ、インドネシア、オーストラリアに進出している。 一方国内のエネルギー事業では発電事業と小売事業を展開しており、海外で のエネルギー事業と同じ事業領域にて展開している。 <図表 6-2-27:操業中の発電事業エリア> (出典:豊田通商 HP) ①ユーラスエナジーグループによる海外展開 ユーラスエナジーは、1986 年 10 月に合併前の株式会社トーメン (現 豊 田通商株式会社)グループの電力事業としてスタートし、その後、1987 年 に アメリカ、1993 年 イギリス、1996 年 イタリア、1998 年 スペインで事業 開始した。事業内容は、太陽光及び風力の再生可能エネルギー発電事業に特 化している。 元々、トーメンの 100%子会社であったが、2001 年 11 月株式会社トーメ ンの電力事業部を分社化し、2002 年 10 月株式会社ユーラスエナジーホール ディングスに商号を変更と同時に東京電力株式会社が 50%の株主として資 本参加することとなった。その後、株主構成は 2004 年 3 月に変更され、東 111 京電力 60% ・トーメン 40%とし、トーメンが豊田通商と合併した 2006 年 4 月に再度変更(東京電力 60% ・豊田通商 40%)を行っている。 現在、世界の3つの地域・8か国で展開、操業中の設備容量は 2,275MW と なっている。 <図表 6-2-28:ユーラスエナジーグループの事業スキーム> (出典:ユーラスエナジーHP) <図表 6-2-29:発電事業エリア・発電容量> 地域 設備容量 国名(発電内容) 日本 597MW (太陽光・風力) 北中米、南米 619MW アメリカ(太陽光・風力)、ウルグアイ(風力) ヨーロッパ 865MW イギリス、イタリア、スペイン、ノルウェー (全て風力) アジア、 194MW 韓国(太陽光)、オーストラリア(風力) オセアニア 合計 2,275MW (出典:ユーラスエネジーHP から筆者作成) 112 ■新興国におけるインフラ事業の事例 ①タイにおける火力発電事業 2001 年 8 月 16 日、トーメン(現豊田通商)、豊田通商、中部電力の三社は、 タイで発電プロジェクトを共同展開すると発表した。 当初の計画では、同国南西部で独立発電事業者(IPP)としては世界最大規模 になる石炭火力発電所を建設、運営する予定であり、トーメンは 1997 年、欧 米企業や現地財閥と共同で同事業の運営会社を設立したが、アジア通貨危機や パートナーの離脱で中断していたプロジェクトに中電と豊通の参画することで プロジェクトを立て直し、2005 年 10 月の稼働を目指していた。 なお、当初の出資の比率については、豊通と中電は撤退する欧米企業から事 業運営会社の株式を譲り受ける形で出資を予定しており、トーメン 34%、中電 と豊通が各 15%、タイの大手財閥サハユニオンなどが 36%であった。 しかし、立地を予定したヒンクリットで住民の反対運動が起きたことに加え、 環境問題も指摘され、さらに政権交代もあり、計画延期及び変更が余儀なくさ れ、燃料が石炭から天然ガスに、場所もラチャブリへと変更となった。さらに、 事業の有望性を見込んだタイ側は出資比率引き上げを要求したため、日本側は ヒンクルート石炭火力発電所計画において、露骨な住民分断工作を厳しく批判 された筆頭株主のトーメンが、石炭輸入の必要性がなくなったことを理由にラ チャブリ発電事業からの完全撤退することを決め、トーメンの保有株などを譲 渡し、サハユニオン財閥などタイ側が五割を握ることで基本合意に達した。 紆余曲折を経て、変更されたプロジェクトは、タイの首都バンコクの西約 150km にあるラチャブリ県において、発電容量 140 万 kW の天然ガス焚き複 合火力発電所を建設・操業し、同国の電力会社である EGAT Public Company に対して 25 年間に亘る売電事業を行い、外資とタイ資本との折半出資からな るラチャブリパワー社(Ratchaburi Power Company Limited)が事業運営を行 うこととなった。 また、資金についてはプロジェクト・ファイナンスのスキームを活用し、国 際協力銀行、三井住友銀行、カリヨン銀行、香港上海銀行、バンコック銀行及 びクルン・タイ銀行からなる協調融資にて調達し、発電所の建設は三菱重工業 が受注し、2008 年に運転開始に至った。 <図表 6-2-30:ラチャブリパワー社概要> ・事業会社名:Ratchaburi Power Company Limited) ・出資構成 :外資 50% (香港電燈 25%、中部電力 15%、豊田通商 10%) タイ資本 50% 113 (Ratchaburi Electricity Generating Holding 25%、 石油・ガス会社 PTT 15%、大手財閥 Saha Union 10%) ・発電設備 :140 万 kW(天然ガスコンバインドサイクル) ・運転開始 :2008 年 3 月(1号機) ・売電先 2008 年 6 月(2 号機) :タイ発送電公社(EGAT)(25 年間) 114 ②ケニアにおける地熱発電建設プロジェクト 2011 年 11 月 7 日、豊田通商は、韓国の現代エンジニアリングと共に、ケニ ア電力公社から、オルカリア地熱発電所建設プロジェクトを受注したことを発 表した。 契約内容は、豊田通商と現代エンジニアリングが地熱発電設備の納入や据え 付け工事を一括受注するもので、主要機器は、東芝が現代エンジから7万キロ ワットの地熱蒸気タービンと発電機を4組受注している。 本地熱発電プロジェクトは、ケニアの首都ナイロビから北西約 100km に位 置するオルカリア地域に 14 万キロワットの地熱発電所を2箇所建設するもの で、総発電出力で 28 万キロワットと現在のケニアの総発電容量の約 25%を占 めるケニア最大の地熱発電プロジェクトであり、豊田通商として初めての地熱 発電プロジェクトとなる。 なお、建設資金は、2 カ所ある受注案件のうち1カ所は日本政府が国際協力 機構(JICA)を通じて供与する円借款などにより支援され、総受注額は約 300 億円となる。 ケニアの総発電設備容量は、現在 110 万キロワットで、そのうち水力発電が 約 44%の 49 万キロワットを占めており、近年、発電設備の供給力不足に加え、 干ばつによる水不足から稼働率が下がり、水力発電に代わる安定的な電源の確 保が急務となっている。一方、ケニアの地熱発電容量は、同国の総発電容量の 約 10%に留まっているものの、天候に左右されない安定的な電源として地熱発 電が期待されている。 豊田通商はこれまでアフリカで自動車事業を展開しており、各国の政府と接 点を有しており、エジプトでは複数の発電プロジェクトの受注経験もある。今 後は資源・エネルギー事業を重点分野の1つと位置づけ、現地のニーズを捉え た電力・エネルギー等のインフラ案件に幅広く取り組んでいく。 また、2012 年 10 月に、東アフリカを営業地域とするアフリカで 2 社目の現 地法人をケニアのナイロビ市に設立し、これまで手掛けてきた自動車販売や発 電事業のほか、農業の機械化や天然品加工といった新規事業の開拓を進めてい く予定としている。 <図表 6-2-31:契約概要> 契約先 ケニア電力公社 (Kenya Electricity Generating Company Ltd.) 事業内容 1)オルカリア I 号地熱発電所建設 ※国際協力機構(JICA)による政府開発援助(ODA)案件 115 2)オルカリア IV 号地熱発電所建設 ※欧州投資銀行(EIB)およびフランス開発庁(AFD)によ る協調融資 契約金額 約 300 億円 供給品目 発電設備一式納入および土木据付工事を含むフル・ターン キー契約 引渡し予定 2014 年 4 月(予定) (出典:豊田通商プレスリリース) <図表 6-2-32:プロジェクトスキーム> (出典:豊田通商プレスリリース) 116 ■仮説の検証 ①本国と進出国との距離 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 権益(上流)事業においては、ガス田やシェールガスのあるオースト ラリア・カナダ、発電事業(中流)においては電力需要の旺盛な東南 アジア(タイ、フィリピン、インドネシア)と、市場が開放されてい る北中米(アメリカ、カナダ)と欧州(イギリス、イタリア、スペイ ンなど)に分布していることから、発電事業に関しては事業に地域性 はないものの、親日国かつ物理的距離の近いタイなどの東南アジアで の発電容量が大きく、東南アジアを中心に事業展開していることから、 制度的距離(A)を考慮して規制緩和されている市場を選定し、かつ 文化的距離(C)も物理的距離(G)も考慮されていると考えられる。 経済的距離(E)については、新興国での下流事業での展開地域が少 ないことを踏まえると、他の商社や日系エネルギー企業での検証と同 様に、BtoC を含む小売参入には法規制に加え、経済格差も障壁とな っていると考えられる。 ②本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業については、タイの火力発電事業におい ては、事業運営で中部電力、資金調達で国際協力銀行をはじめとした 日系銀行団、発電所建設において三菱重工業など、関連産業での日系 企業との協業が進出を後押ししていると考えられる。また、ケニアで の発電所建設においては設備を持っている東芝、またユーラスエナジ ーによる再生可能エネルギー発電事業においては東京電力との共同 出資にて運営していることから、自社が持っていない技術・ノウハウ や設備などを日系企業との協業により補完することで進出を後押し していると考えられる。 現地同業企業との協業については、タイの事例では同業企業であるタ イ発送電公社(EGAT)へ電力供給するなど、お互いの企業が保有す る資産を補完する形での進出をしていること、ケニアの事例において は現地の発電事業者であるケニア電力公社から発電所建設を受注す ることで、アフリカにおけるインフラ事業の足掛かりとしていること 117 から、補完関係にある現地同業企業との協業は進出を後押しする要素 となっていると考えられる。 ③自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、経営ビジョンにもあったとおり、 モビリティ事業一本からの脱却を図ろうとしており、その中で海外で のエネルギー事業の強化についても言及していることから、海外エネ ルギー事業拡大へのトップのコミットメントは非常に高いと考えら れる。 現地ネットワークについては、タイの発電事業の事例でもあったとお り、当初現地をなおざりにして進出を計画すると、現地政府や現地住 民からの反発を招き、進出が難しくなると考えられ、また豊田通商自 身もこれまでのモビリティ分野での世界展開に際に獲得とした各地 域の政府とのネットワークを保有しており、それらを活用することで、 現地ネットワークに入り込み、現地企業及び政府の信頼を獲得して事 業化を実現していると考えられる。 リスクマネジメント力については、商社の特性上、各地域に海外拠点 を持っており、現地で雇用された人材も多いため、現地特有のリスク マネジメント力を内部で保有していると考えらえる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、タイの発電事業では、日系企業及び現地企業と の合弁により参入しており、自社単独での進出は行っていない。ケニ アの事例ではあくまで発電所建設受注であるため、韓国のエンジニア リング会社とのコンソーシアムに留まっている。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 本国では発電事業と小売事業を展開している一方、海外でも発電事業 と小売事業を展開しており、日系エネルギー事業会社や他の商社とは 異なり、本国事業領域と同一の事業領域にて展開している。 118 ■仮説検証以外の得られた考察 自身の有力な子会社にてエネルギー事業者との共同出資会社が存在すると、 他のエネルギー事業者との協業が難しくなるのではと感じた。 これは、豊田通商はトーメンと合併したタイミングで中部電力との海外展開 での協業がなくなったことから推測される。トーメンが東京電力と共同出資し たユーラスエナジーは、豊田通商と中部電力が協業して進めていた海外展開と、 事業領域が重複するため、トーメンとの合併と同時に子会社として有すことと なったユーラスエナジーによる再生可能エネルギー事業の海外展開に注力する こととなり、結果的に中部電力とその後再生可能エネルギー事業にて協業する 案件は出てこなくなったと推測される。 119 6-3.欧米系エネルギー事業会社 6-3-1.GDF Suez ■会社概要 GDF Suez は、フランスに基盤を置く世界有数の電気事業者・ガス事業者で あり、事業内容は、ガス探鉱・生産、輸送、発電事業、電力・ガス販売、イン フラ設備の建設、エネルギーサービス事業などエネルギー事業の上流から下流 まで全ての事業を網羅している。 2006 年、当時の首相であるド・ヴィルパン首相が、世界最大の天然ガス供給 事業者を作ることを目的に、フランスガス公社(GDF)と同業の Suez 社の合 併を発表し、2008 年 7 月に合併が成立したことで GDF Suez 社が誕生した。 なお、2013 年の売上は約 813 億ユーロ、EBITDA は約 134 億ユーロ、当期 純利益は約▲97 億ユーロ※となっており、事業収益割合は、電力販売:ガス販 売:発電=4:2:4 となっている。また、独立発電事業者(IPP)として世界最 大の企業である。 ※今年はリストラクチャリング費用などで約 150 億ユーロ(昨年は約 23 億 ユーロ)計上しており、その影響が大きい ■長期計画 GDF Suez は長期ビジョンにて新興国進出に対する戦略を明確化している。 特にガス需要が高まっているアジア(インド、中国、インドネシア)、中南米(メ キシコ、ブラジル、ペルー)、中東・アフリカ(トルコ、モロッコ)をターゲッ トとし、ガスインフラ整備事業での進出を模索している。 また、当該市場でのビジネスモデルについても明確化しており、長期契約を 締結することで安定的なキャッシュフローを確保し、プロジェクト・ファイナ ンスのスキームで資金調達を行うとしている。 加えて、補完関係にある進出先の同業企業との協業を行うとし、インドネシ アでは PGN 、中国では北京ガス・ペトロチャイナなどの具体的な協業企業ま で挙げている。 GDF Suez 自身が保有している能力としては、①大規模な産業プロジェクト を管理する能力、②ガスインフラのための優れたマーケティングスキルを挙げ ており、それと引き換えに地元の同業企業が保有しているネットワークやリス クマネジメント力を補完することを考えている。 以上から、長期計画にて新興国でのエネルギー事業進出に対しての具体的な 地域やそこでの戦略及び協業相手を示していることから、トップの新興国エネ ルギー事業に対するコミットメントは非常に高いと考えられる。 120 ■組織体制 GDF の組織体制は、電力・ガス事業、ガス田開発・生産、ガス輸送、エネル ギーサービスの事業によって分けられており、事業別の組織構造となっている。 しかし、電力・ガス事業においては、地域別にヨーロッパとそれ以外の地域と で分社化されており、ヨーロッパについては Energy Europe が、それ以外の地 域は Energy International がそれぞれ統括している。 ■現在の海外エネルギー事業 Energy Europe はガス供給、発電、及び小売を展開、発電容量 39GW を保有 しており、ヨーロッパ域内で 14 か国、2,200 万件の顧客にエネルギーを提供し ている。 一方、Energy International は独立発電事業者(IPP)の世界的リーダーで あり、発電容量は 73.2GW を保有している。展開地域は、世界の 5 大陸すべて に進出しており、現在 20 か国以上で展開している。 今回、調査できる範囲で現地市場にてエネルギー事業を行っている地域を確 認したところ、世界各地で計 38 か国に進出している。 <図表 6-3-1:GDF の進出国※> 地域(進出国数) 国名 ヨーロッパ フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、ド (14 か国) イツ、イギリス、イタリア、スペイン、トルコ、ポー ランド、ルーマニア、ハンガリー、ギリシャ、ポルト ガル 北米(4 か国) アメリカ、カナダ、プエルトリコ、メキシコ 南米(5 か国) ブラジル、チリ、ペルー、パナマ、コスタリカ アジア・オセアニア シンガポール、タイ、インドネシア、ラオス、パキス (7 か国) タン、インド、オーストラリア 中東(6 か国) UAE、サウジアラビア、カタール、オマーン、クエ ート、バーレーン アフリカ(2 か国) モロッコ、南アフリカ 計 38 か国 ※進出国は、現地市場向けに発電、ガス供給などを行っている国で算出 (出典:GDF HP より筆者作成) 121 なお、ヨーロッパとそれ以外に地域で参入形態に違いがある。 ヨーロッパにおいては、主に現地企業の買収により参入している。EU 圏内 のエネルギー事業の自由化を契機として、EU 圏内のエネルギー事業者間での 合併買収など業界再編が起こり、GDF もその波に乗り、2006 年にベルギーの 電力会社である Electrabel を買収、2010 年にはグローバルに発電事業を行っ ていたイギリスの International Power を買収し事業を拡張させるなど、買収 により EU 圏内の他国に進出することで企業規模の拡大を図ってきた。 一方、その他の地域では、買収という手段に加えて、他のエネルギー企業と 提携し合弁会社(プロジェクト会社)を設立することにより進出するケースが 見てとれる。例えば、前述の関西電力の事例でもあったが、2008 年にシンガポ ールの発電事業者であるセノコ・エナジー社を買収する際には、丸紅・関西電 力などどコンソーシアムを形成するなど、地域によって事業展開の方法を変え ている。 EU 圏内とそれ以外の地域で、進出方法が異なる理由は、自社にて現地ネッ トワークを保有しているか、また、現地の事業運営に際して、新規に設備投資 必要であるかどうかという観点で戦略を変えているためである。 つまり、ネットワークについては、現地の事業環境及びインフラの状況など が現状の保有しているネットワークにて把握できるかどうかであり、EU 圏内 については、電力の系統も繋がっており、本国の事業運営と同様の事業展開が 可能である一方、それ以外の地域では、事業環境もインフラ状況も EU 圏内と は異なり、本国の事業運営手法をそのまま移植できない場合があるため、EU 圏 内の進出と比較してリスクが高いと言える。また、EU 圏内においては既に現 地で事業運営しているエネルギー事業会社が存在しており、新規での設備投資 がほぼ不要である一方、それ以外の地域においては、エネルギー需要が旺盛か つ未整備である場合が多く、新規の設備投資が大きく、その点においてもリス クが高いため、リスク分散の観点からも他社との提携が必要となっている。 122 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 進出地域を見ると、ヨーロッパを中心に北米、中南米地域が多いこと が分かる。これは、エネルギー事業の規制が緩和されている(制度的 距離(A)が近い)地域であり、かつ文化的距離(C)や地理的距離 (E)が近い地域に集中しているといえる。 また、経済的距離(E)についても、ヨーロッパ地域から進出してい ることから、経済水準が同等もしくは近しい地域の方が進出しやすい ことを示していると考えられる。加えて、インフラ未整備の地域につ いては、インフラ設備の新規投資が必要であり、経済水準が同等であ り、インフラが整った地域より、投資リスクが高い分、参入障壁も高 いと考えられる。 なお、進出地域の選定おいて、進出国が規制緩和されていることが前 提にあると考えられる。なぜなら、アジア地域に目を向けて見ると、 インフラ整備されている日本には進出しておらず、未整備な地域のみ 進出していることが分かる。これは、経済水準が同等であるにも関わ らず、法規制により参入そのものが困難であるため、進出していない と考えられる。よって、制度的距離が進出に際して一番考慮されてい るものと考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業はしていない。これは、自社にてエネル ギーバリューチェーン全ての事業運営ノウハウを保有しており、また 買収によって新たに進出した国のネットワークやリスクマネジメン ト力を獲得しているため、本国関連・支援産業との協業をする必要が ないためと考えられる。 一方、現地同業企業との協業は行っている。これは、特に EU 圏外へ の進出に際して、自身が保有していないネットワークの獲得と、リス クの高い新興国におけるリスク分散またはリスクマネジメント力の 獲得することを目的としていると考えられる。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする 123 トップのコミットメントは、長期計画にて新興国でのエネルギー事業 の戦略を具体的に示していることから分かるとおり、非常にコミット メントが高いことと考えられる。 また、現地ネットワークとリスクマネジメント力については、これま で買収によって進出してきた EU 圏内においては、双方の能力を保有 していると考えられるが、新たに進出を検討している新興国において は保有しておらず、その能力を保有している現地及び近隣の協業企業 から獲得していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、買収と合弁を使い分けていると考えられる。本 国近隣の EU 圏内においては、進出国で展開する事業領域が広く、か つネットワークやリスクマネジメント力を保有していることから買 収により参入している一方、EU 圏外においては、進出国で展開する 事業領域が限定されており、現地のネットワークやリスクマネジメン ト力も保有していないことから合弁により参入していると考えられ る。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される EU 圏内においては、本国と同等の事業領域を展開している。これは EU 圏内で電力の系統が繋がっており、事業内容も国ごとに異なるも のではないため、結果的に事業領域についても限定する必要がなく進 出できている。一方、EU 圏外においては、合弁にて進出するケース が多いため、進出国での事業領域が限定されていると考えられる。 ■仮説検証以外で得られた示唆 GDF Suez は、EU 圏内と EU 圏外で進出方法が異なることが分かった。海 外エネルギー事業のところでも触れたが、EU 圏内は買収、EU 圏外は合弁な ど現地市場の近隣エネルギー企業との協業により進出する傾向があることが分 かった。これは、EU 圏内への進出に比較して EU 圏外では進出したい市場へ のネットワークや独自のリスクマネジメント力が乏しく、その補完を行うため であると考えられる。また、陸続きかつ電力系統も同様である EU 圏内はほぼ 本国と同様の事業形態であるため、進出に際して金銭面以外の障壁がないとも 考えられる。 124 6-3-2.EDF ■会社概要 フランス電力会社(EDF)は、1946 年に設立された電気、ガスの生産、送配 および供給を行う総合エネルギー会社であり、フランス最大の電力会社である。 EDF の国内における市場占有率は、発電量、配電電力量、小売供給量の約 9 割 となっており、自由化の後も強固な営業基盤を有している。 また、国内に限らず、イギリス、ドイツ、イタリア、中国等でも電力事業を 展開、世界中で水力、火力、原子力、風力、太陽光、地熱による発電事業を行 っており、総発電容量は 140.4GW であり、欧州第 1 位の発電事業会社である。 発電比率については、原子力発電の比率が高いことが特徴※であり、2013 年 現在でも 74.5%程度を占めており、ガス火力(9.1%)や、水力など再生可能エ ネルギー(10.6%)、熱電併給(5.8%)とは大きな差がある。 ※発電設備の容量も総発電容量 140.4GW のうち、原子力が 74.8GW、火力 37.7GW、水力及び再生可能エネルギー27.9GW となっており、原子力発電 設備の保有比率が高い なお、顧客数は全世界に約 39.1 百万件、従業員はグループ会社も含めて約 160,000 名を有しており、2013 年の売上高は約 756 億ユーロ、EBITDA は約 168 億ユーロ、当期純利益は約 41 億ユーロとなっている。また、過去 5 年間 の純利益の推移をみても安定的に推移している。 ■長期計画 EDF は、経営戦略の現状認識として発電分野について言及している。特に得 意分野である原子力においては世界的なリーダーであり、福島原子力発電所の 事故後もフランス国内の既存の原子力発電は重要なベースロード電源と位置付 けている。加えて、再生可能エネルギーについてはヨーロッパでのリーダー的 存在にあり、中でも水力発電においてヨーロッパ一の発電容量を保有している ことを示している。 そのような現状認識から、2018 年までの経営ビジョン・戦略にて、「世界的 な電力サービスのサプライヤーになる」ために優先的に達成する事項として、 ①ヨーロッパでの地位強化、②主要国での活動深化、③需要に応じた特定国へ の進出の 3 つを掲げている。 ①ヨーロッパでの地位強化については、重点地域として、フランス、イギリ ス、イタリア、ポーランド、ベルギーを挙げ、当該地域でのプレゼンスを挙げ ること、また②主要国での活動深化では、主に再生可能エネルギーの研究開発 を重点的に行うため、新技術が開発され得る地域を特定し、その地域での活動 を強化すること、③需要に応じた特定国への進出については、②にて獲得した 125 再生可能エネルギー技術を活用できる地域へ進出することがそれぞれ示されて いる。 よって、EDF の海外エネルギー事業への進出については、特に再生可能エネ ルギーにより需要を開拓する方針が示されており、その点においてトップのコ ミットメントが高いことが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 EDF の海外事業は、1999 年から段階的に始まったフランス市場の規制緩和 を契機として本格化し、ドイツ(2001)とイタリア(2005)へと進出した。 また、BtoB 市場が完全開放された 2004 年に株式会社化し、2005 年に上場 以降、2009 年にイギリスのエネルギー会社ブリティッシュ・エナジーを買収、 2012 年にアメリカのエネルギー会社 Edison を買収するなど、買収により海外 進出することで規模拡大を図ってきた。 2013 年末現在、計 18 か国に進出、特に規制緩和が早かったヨーロッパ、北 米を中心に進出しており、中南米、中東、アジアなど、エネルギー需要が旺盛 な地域への進出は一部に留まり限定的となっている。 ここから成熟市場でも規制緩和されている市場や、本国と文化的距離や地理 的距離の近い近隣国への進出が多いことが分かる。 <図表 6-3-2:EDF のグローバル展開> (出典:EDF 2013Facts&Figures) 126 <図表 6-3-3:EDF の進出国(2013 年末現在)> 地域(進出国数) 国名 ヨーロッパ フランス、ドイツ、ベルギー、ハンガリー、イタリ (12 か国) ア、ポーランド、イギリス、ロシア、スイス、スロバ キア、オーストリア、スペイン 北米(2 か国) アメリカ、カナダ 南米(1 か国) ブラジル アジア(3 か国) 中国、ベトナム、ラオス 計 18 か国 (出典:EDF HP より筆者作成) また、事業領域については、フランス国内においては電力事業の川上から川 下まで及び、ガス供給事業に従事している一方、他国においては発電及び供給 事業に特化して運営している。例えば、イギリス・イタリア・ベルギーにおい ては、送電・配電事業は行っておらず、発電・小売のみとなっており、ヨーロ ッパ以外に地域では発電事業のみなど、地域によっても事業領域が異なること が分かる。代表的な進出国における事業内容は下図のとおり。 <図表 6-3-4:EDF の地域別バリューチェーン> (出典:EDF 2013Facts&Figures) 加えて、EDF は他国への進出に際して現地企業及び近隣企業との協業を通じ て進出している事例もある。例えば、ロシアでは 現地企業である Rosseti 社と 提携したネットワーク事業、ラオスでは現地エネルギー事業会社及びタイのエ ネルギー企業と協業した発電事業なども行っている。 127 ■組織体制 EDF の組織体制は、地域別に分社化されている。例えば、イギリスにおいて は EDF Energy が、イタリアにおいては Edison と Fenice、ベルギーにおいて は EDF Luminus と EDF Belgium が事業運営している。 一方、本国フランスでは、バリューチェーン上の事業別に分社化されている。 例えば、発電部門と小売部門(ガス含む)は EDF SA が事業運営しているが、 送電では RDE、配電では ERDF と部門ごとに分社化されている。一方、他の 地域では送電や配電にて事業運営している国が少なく、ほぼ配電と小売事業の みであるため、地域の中で分社はされていない。 <図表 6-3-5:フランス国内の子会社関係図> (出典:EDF HP) また、フランス国外における EDF グループの連結対象海外子会社及び関係 会社から、国外(英国、ドイツ、イタリア、オーストリア、スイス、ベルギー、 ブラジル、米国、ハンガリー、ポーランド、オランダ、中国、ラオス、ベトナ ム、スロベニア)への展開していることがわかる。フランス国外の子会社一覧 は下図とおり。 128 <図表 6-3-6:フランス国外の子会社関係図> (出典:EDF HP) 129 ■トピックス及び新興国への進出事例 ①R&D での近隣国関連支援産業との協業 EDF は、競争力のある低炭素発電を強化、開発するため、将来の電力システ ムを開発するため、また新たなエネルギー·サービスを開発し顧客の利便性を 向上させるために、本国または、ヨーロッパ域内及びその他地域の企業と R&D における協業を行っている。EDF は、2013 年に R&D 費として 543 百万ユー ロの予算があり、そのうち 70%が既存の活動の支援に、30%が将来の事業に対 して活用されている。 具体的な研究領域は、 「発電」、 「エネルギー管理」、 「顧客管理と小売」、 「再生 可能エネルギー」、「電気ネットワーク」、「情報技術&シミュレーション」であ る。例えば、フランス国内では、大学、研究機関、および学術機関との 320 以 上のパートナーシップを結んでおり、大学のキャンパス内に EDF LAB という 高度な研究施設を持っている。また、ヨーロッパにおいては、欧州連合(EU) の 74 個のプロジェクトに参画している。その他、他国の一流のエネルギー事 業や、有名な大学や研究機関(米の MIT、英のマンチェスター大学など)と共 同で研究を行っている。 これらの協業については、直接的に新興国進出を目的としたものではないも のの、改善目的以外に将来の需要を見越した開発への協業を行っていることが 分かる。 <図表 6-3-7:主な R&D パートナー> (出典:EDF 2013Facts&Figures) 130 ②東南アジアにおける発電プロジェクト ナムトゥン 2 水力発電所は、東南アジアの内陸国ラオスの中部に建設された 水力発電ダムであり、出資構成及び比率は、EDF(40%)、ラオス電力公社(25%)、 タイ発電公社(EGAT)の子会社 EGCO 社(35%)となっている。 総事業費は約 13 億ドルで、2002 年のラオスの GDP(20 億ドル)の 70%に 匹敵するラオス最大の公共事業である。 <図表 6-3-8:ラオスナムトゥン 2 水力発電所の事業スキーム> (出典:EDF HP) また、ベトナムにおいてはフーミー第二火力発電所二期のプロジェクトに参 画している。出資構成及び比率は、EDF の子会社である EDF International が 56.25%、住友商事の子会社が 28.125%、東京電力の子会社が 15.625%と外資 100%出資にて運営している。 EDF が火力発電所の設計から建設まで、東京電力がオペレーションとマネジ メント、住友商事がプロジェクトのコーディネートと資金調達、サービス提供 は EDF と東京電力が行うという分担となっており、20 年間、ベトナム政府は 国営電力公社による発電電力の購入、および国営石油会社を通じた燃料供給を 全面的に保証することとなっている。 なお、2005 年 2 月から商業運転が開始しており、プロジェクト設立から 20 年間は、EDF や住友商事などの 100%外資系資本を元手に商業運転を行うが、 その後、ベトナム政府が発電所を買い取る仕組みとなっている。 また、本件は銀行が開発計画の調査・立案段階から参画するプロジェクト・ ファイナンスとしては、同国における実質的な第一号案件である。 EDF は本件にて、産業パートナーシップの道が開け、地元企業への独自のノ ウハウに触れることでき、アジアにおける重要な足場を確立するに至った。 131 <図表 6-3-9:ベトナム MECONG の事業スキーム> (出典:MECONG Energy HP) 132 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 進出地域を見ると、ヨーロッパと北米が中心であり、エネルギー事業 の規制が緩和されている(制度的距離(A)が近い)地域であり、か つ文化的距離(C)や地理的距離(E)が近い地域に集中しているとい える。 また、経済的距離(E)についても、欧米地域への進出が中心である ことが、GDF Suez 同様、経済水準が同等もしくは近しい地域の方が 進出しやすいことを示していると考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業はしていない。これも GDF Suez と同 様、自社にてエネルギーバリューチェーン全ての事業運営ノウハウを 保有しており、また買収によって新たに進出した国のネットワークや リスクマネジメント力を獲得しているため、本国関連・支援産業との 協業をする必要がないためと考えられる。 一方、現地同業企業との協業は行っている。これは、特に EU 圏外へ の進出に際して、自身が保有していないネットワークの獲得と、リス クの高い新興国におけるリスク分散またはリスクマネジメント力の 獲得することを目的としていると考えられる。この点についても GDF Suez と同様である。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、経営ビジョンにて明確な記載が ないことから、現状は新興国進出より、既に進出した地域においての プレゼンス向上への執着が強いと考えられる。しかし、新たな需要が あるところへ進出について言及しているため、一定のコミットメント はあると考えられる。 また、現地ネットワークとリスクマネジメント力については、これも GDF Suez と同様、買収によって進出してきた EU 圏内では、双方の 能力を保有していると考えられるが、新たに進出を検討している EU 圏外の新興国においては保有しておらず、その能力を保有している現 133 地及び近隣の協業企業から獲得していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 参入形態については、GDF Suez と同様、買収と合弁を使い分けてい ると考えられる。本国近隣の EU 圏内においては、進出国で展開する 事業領域が広く、かつネットワークやリスクマネジメント力を保有し ていることから買収により参入している。 一方、本国から距離のある EU 圏外に地域への進出においては現地及 び近隣大手電力会社との合弁による参入が多いと推測される。例えば、 ラオスの電力会社の NTPC は、EGCO(タイ発電会社)とラオス政 府と、ベトナムの子会社メコンエナジーカンパニー(MECO)は、住 友商事と東京電力との合弁にて参入しているなど、自社資源のみでの 参入はしていない。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される フランス本国での事業領域と比較して、EU 圏内、EU 圏外問わず、 事業領域が限定されている。しかし、EU 圏内では送配電事業以外の 事業にて参入している一方、EU 圏外については発電事業のみであり、 より事業領域が限定されている。これは、参入形態が合弁である影響 もあると考えられる。 ■仮説検証以外に得られた示唆 EDF 及び GDF Suez の事例から分かることとして、参入形態や進出国のエ ネルギー需要動向によって、現地での事業領域が決まることが分かる。例えば、 EU 圏内での買収であれば、買収対象は現地のエネルギー企業であり、買収す ることによって当該企業が既に実施している事業領域全てを獲得することがで きる。また、現地市場のエネルギー需要も比較的安定していることが特徴とい える。一方、合弁の場合、現地エネルギー企業が有していない、またはカバー しきれていない事業を補完することを目的としているため、事業領域が限定さ れることが分かる。例えば、ラオスやベトナムの事例では、発電事業のみ行っ ているが、これはエネルギー需要が旺盛な現地市場において、既存のエネルギ ー企業がまかないきれない発電量を補う役割を担っていることが分かる。 以上から、参入形態や現地のエネルギー需要動向によって、事業領域は決ま ることが分かる。 134 6-3-3.Enel ■会社概要 Enel は、1962 年に設立されたイタリア最大手のエネルギー会社であり、設 立時は国営であったが、イタリアでの電力自由化を契機として 1999 年に民営 化された。その後も発電・送電・配電においては、イタリアにて独占的なシェ アを持っており、電力事業以外にガス事業や通信事業なども行っている。 なお、民営化後は買収により事業領域拡大し、ヨーロッパ、ラテンアメリカ を中心として多国籍エネルギー会社となった。現在、世界で 6,100 万件と、ヨ ーロッパで最大の顧客基盤を有しており、2013 年の売上は約 805 億ユーロ、 EBITDA は約 170 億ユーロ、当期純利益は約 32.4 億ユーロとなっている。 ■長期計画 Enel は、2014-2018 Strategic update にて長期計画を示しており、その中 で、成長市場として位置づけている新興国でのエネルギー事業を優先事項とし て掲げている。事業領域については、再生可能エネルギーやトレーディング及 び小売事業での進出を模索するなど、トップのコミットメントの高さが伺われ る。 <図表 6-3-10:成熟市場と新興市場の位置づけと Enel のポジショニング> (出典:Enel IR 資料 2014-2018 Plan) また、Enel の最高経営責任者(CEO)であるフランチェスコ・スタラーチェ 氏は、2014 年 6 月のフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューにて、設備投 資については欧州のエネルギー市場が需要低迷や不安定な政情で不透明になる 135 なか、設備投資を新興国へシフトする計画を語っている。具体的にはアフリカ、 南北アメリカ、中東地域を対象としてガス火力発電所や、風力や太陽光などに よる再生可能エネルギーへの投資を拡張広げることを検討している。 ■現在の海外エネルギー事業 Enel はイタリア国内のエネルギー自由化による民営化を契機として、国外へ の進出を加速させている。参入形態についてはこれまでは現地及び国外に進出 している既存のエネルギー会社の買収により進出している。具体的な事例とし ては、2007 年のスペインの大手エネルギー企業である Endesa 社の買収であ る。スペイン国内だけでなく、ラテンアメリカへの進出をしている Endesa 社 を買収することで、成長市場であるラテンアメリカの需要を取り込むことを狙 いとしたものであった。 現在、進出国での事業運営を行っているのは、計 25 か国となっており、ヨー ロッパ、北米、ラテンアメリカが中心となっている。 また、事業内容については、イタリア本国では、電力・ガス事業に従事して おり、電力事業では発電、送電、配電、小売事業、またガス事業では・生産、 供給、販売(小売)事業を行っており、各々の事業でバリューチェーン全てを 行っている。一方、海外では、発電事業、特に再生可能エネルギー事業がメイ ンであるものの、EU 圏内においては電力・ガスにおける小売事業にも進出し ており、地域によって事業領域が異なる。 <図表 6-3-11:Enel の進出国※> 地域(進出国数) 国名 ヨーロッパ イタリア、スペイン、ポルトガル、オランダ、ベルギ (10 か国) ー、スロバキア、フランス、ルーマニア、ギリシャ、 ロシア 北米(2 か国) アメリカ、カナダ 中南米(10 か国) アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、ペル ー、コスタリカ、グアテマラ、パナマ、エルサルバド ル、メキシコ アフリカ(3 か国) アルジェリア、エジプト、モロッコ 計 25 か国 ※進出国は、現地市場向けに発電、ガス供給などを行っている国で算出 (出典:Enel HP より筆者作成) 136 ■組織体制 Enel の組織は、地域部門と事業部門が並列の組織構造となっている。地域に ついては、イタリア、イベリア、ラテンアメリカ、東ヨーロッパの 4 つの部門 が あ り 、 事 業 に つ い て は 、 Global Infrastructure&Networks 、 Global Generation、Global Trading、Renewable Energies、Upstream Gas の 5 つの 部門があり、エネルギー事業の全てのバリューチェーンを掌握していることが 分かる。 地域部門にて設定されているエリアについては、既に M&A にて獲得した地 域を担当していると考えられ、今後進出する地域については、事業別の各部門 がそれぞれの強みを活かして進出地域を選定し、具体的な進出戦略を検討する ものと考えられる。ただし、長期戦略にて、新興国については再生可能エネル ギーにて進出する方針が掲げられていたことから、主として Renewable Energies 部門が担当していると考えられる。 137 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 進出地域を見ると、ヨーロッパと北中米南米が中心となっている。こ の地域はエネルギー事業の規制が緩和されている(制度的距離(A) が近い)ことが特徴であり、かつ本国からの文化的距離(C)や地理 的距離(E)が近い地域であると言える。よって、規制緩和されかつ 法整備が整っている地域であることが進出に際して必須条件であり、 それに加えて、文化的距離と地理的距離の近い地域を選定して進出し ているものと考えられる。また、中南米においては、エネルギー需要 が旺盛な地域であるともいえる。 また、経済的距離(E)は、欧米地域への進出が中心であることから、 他の欧米エネルギー事業会社同様、経済水準が同等もしくは近しい地 域の方が進出しやすいことを示していると考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業はしていない。これは他の欧米エネルギ ー事業会社と同様、自社にてエネルギーバリューチェーン全ての事業 運営ノウハウを保有しており、また買収によって新たに進出した国の ネットワークやリスクマネジメント力を獲得しているため、本国関 連・支援産業との協業をする必要がないためと考えられる。 一方、現地同業企業との協業は行っている。スペインの Endesa 買収 においては、スペインの建設大手 Acciona 社と協業して買収してい る。一方、再生可能エネルギーにて進出している地域の協業状況につ いては不明である。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントについては、長期計画で新興国市場の拡大が 言及されいる。また具体的な戦略についても、成熟市場と、新興国市 場での戦略を明確に分けており、トップが新興国市場を重要なターゲ ットとしていることから、コミットメントが高いと考えられる。 現地ネットワーク及びリスクマネジメント力については、スペインの Endesa 社を買収した事例からも分かるとおり、現地市場に進出して 138 いるエネルギー事業会社を買収することにより獲得しており、内部で 保有していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する スペイン Endesa 社の買収による、ラテンアメリカ市場参入など、当 該市場に強い国際的なエネルギー企業を買収し参入している。また、 再生可能エネルギーを中心に他国へ進出しているものの、こちらの参 入形態は不明である。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される イタリア本国での事業領域と比較して、EU 圏内、EU 圏外問わず、 事業領域が限定されている。しかし、EDF と同様、EU 圏内では送配 電事業以外の事業にて参入している一方、EU 圏外については発電事 業のみであり、より事業領域が限定されている。これは、参入形態が 合弁である影響もあると考えられる。 ■仮説検証以外に得られた示唆 Enel はスペインの Endesa を買収し、ラテンアメリカ市場へ参入するなど、 買収企業を活用して進出国との文化的距離(C)や地理的距離(G)を縮めてい ると考えられる。 よって、Enel にとって他国エネルギー事業会社の買収は進出したい、または 進出すべき地域のネットワーク及びノウハウ獲得の手段の一つと位置付けられ ていると考えられる。 139 6-3-4.E.ON ■会社概要 E.ON はドイツ・デュッセルドルフに本社を置くヨーロッパ有数のエネルギ ー事業会社である。1998 年のドイツの電力自由化をきっかけにドイツ国内で にて業界再編が起こり、E.ON、RWE 、HEW、EnBW からなる 4 大電力会社 に集約され、E.ON は 2000 年に、国内の 2 つの電力会社(VEBA、VIAG)が 合併することで誕生した。その後、2003 年にドイツのガス会社である Ruhrgas 社を買収してガス市場に参入するなど、買収により事業を拡大している。 2013 年の経営指標は、売上が約 1,225 億ユーロ、EBITDA は約 93 億ユー ロ、当期純利益は約 25 億ユーロとなっており、2013 年度末時点で全世界に 62,239 名の社員を有している。 ■長期計画 E.ON は経営戦略において、 「ヨーロッパ以外の地域で新たな成長を達成しな がら、ヨーロッパで大きな存在感を維持する」ことをコンセプトとして掲げて おり、ヨーロッパとヨーロッパ以外の地域とで地域戦略を明確に分けている。 まず、ヨーロッパ地域での戦略は、ヨーロッパという集中した市場における 事業全体のシナジー効果を活用するため、事業や地域および全体での最大かつ 最適なポートフォリオを形成することを掲げており、効率的な経営に主軸が置 かれているように見受けられる。一方、ヨーロッパ以外の地域戦略は、新しい 高成長市場への進出を掲げており、具体的な地域は北米とロシアに加え、経済 的、人口統計学的動向、エネルギー需要と政治的および規制上の条件を総合的 に分析して、ブラジルとトルコを挙げており、それに加えて、再生可能エネル ギーの需要がある地域の開発に着手することが明文化されている。 これらの経営方針から、新興国におけるエネルギー事業に対してコミットメ ントが高いことが伺われる。 また、投資戦略については、これまで 100%の所有権を中心とした資本集約 的なアプローチから、パートナーとの共同投資の実施など、投資戦略の変換を 掲げている。 以上を踏まえると、E.ON はこれまで買収により拡大してきたヨーロッパ市 場で稼いだキャッシュを活用して、パートナーとの協業による新興国市場(ロ シア、ブラジル、トルコなど)への投資を行うなど、欧州と欧州以外での地域 ポートフォリオを形成していると考えられる。ただし、新市場への投資である ことからリスクマネジメントの観点からもパートナーとの協業を図り、必要最 低限の投資に抑えていることが分かる。 140 なお、新興国市場進出に向けたより具体的な戦略として、①現地ニーズを満 たすこと、②補完的な機能を兼ね備えること、③周辺のプレーヤーとのパート ナーシップを築くこと、という戦略の 3 原則が示されている。 「①現地ニーズを満たすこと」では、ターゲット市場によって資源のミック ス、インフラ、エネルギー政策の優先順位、規制制度、文化が非常に異なって いるため、ヨーロッパ以外に地域においては、ヨーロッパのエネルギーシステ ムを移植するのではなく、より地域に合ったエネルギーシステムを作ることで、 これらの市場の特定のニーズを満たす方針であり、CAGE への考慮とそれを踏 まえた現地適応が見てとれる。 「②補完的な機能を兼ね備えること」では、パートナーとの間で、ジョイン トベンチャーを形成し、各々の機能のベストミックスを図ることや、自社とパ ートナー企業各々が最も得意とする領域を組み合わせることにより、価値創造 と知識の共有の最大化を図ることを掲げており、補完関係にある企業との協業 の必要性を認識している。 「③周辺のプレーヤーとのパートナーシップを築くこと」では、パートナー の強力な地元の知識や関係の活用と、パートナーシップにより、少ない資本で より多くの価値創造を図ることを掲げており、現地企業との協業によるネット ワークやリスクマネジメント力の獲得の必要性を認識している。 それに加えて、進出する新興国の選定基準として、①堅調な市場の成長性と それを満たす巨大なエネルギー需要が存在していること、②安定した規制環境 があり市場開放されていること、を挙げるなど、具体的に新興国エネルギー市 場戦略が記載されており、トップのコミットメントの高さが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 E.ON は設立後、これまでにヨーロッパ内で他国の同業企業を買収すること により地域ドメイン、事業ドメインの双方を拡張してきた。例えば、スウェー デンの Sydkraft 社やイギリスの Powergen 社などの買収事例が好例であり、 その他にも、ば周した VEBA 社、VIAG 社、Ruhrgas 社が中欧および東欧に持 っていた電力・ガスの子会社を引き継いで運営している。加えて、またロシア にも進出し、天然ガス大手ガスプロムの株も保有している。 また、北米においては、アメリカにてケンタッキー州ルイビルの発電事業者 である LG&E Energy 社を買収することで進出するなど、ヨーロッパ以外の地 域への進出もしており、現在、世界有数のエネルギー供給事業会社となった。 加えて、買収した企業は、E.ON ブランドに名称変更し、事業統合を図って いることも特徴と言える。 なお、現在はヨーロッパ中心に 20 か国進出しており、長期計画でもあった 141 とおり今後は新興国への進出を拡大していくものと考えられる。 事業内容については、地域毎に異なり、ロシアを抜いたヨーロッパでは、発 電、配電、小売、分散型発電、ガス小売など、バリューチェーン全ての事業領 域を持っており、ロシア・ブラジル・アメリカでは発電事業のみとなっている。 また、アメリカでは再生可能エネルギーのみ進出しているなど、地域が本国か ら離れると、事業領域が限定されていることが分かる。 <図表 6-3-12:E.ON の進出国※(2013 年末)> 地域(進出国数) 国名 ヨーロッパ ドイツ、イギリス、スウェーデン、ノルウェー、ベル (18 か国) ギー、イタリア、スペイン、フランス、オランダ、ハ ンガリー、チェコ、スロバキア、ルーマニア、ロシ ア、ポルトガル、デンマーク、ポーランド、トルコ 北米(1 か国) アメリカ 南米(1 か国) ブラジル 計 20 か国 ※進出国は、現地市場向けに発電、ガス供給などを行っている国で算出 (出典:E.ON HP より筆者作成) なお、経営戦略にて重点地域に挙げられているトルコでは、トルコの大手金 融グループの一つであるサバンジュグループとの提携し、50:50 の比率で合弁 会社である ENEJISA を設立し、トルコ国内にて発電、送配電、小売事業にて 進出している。また、トルコの子会社 ENEJISA の CEO はトルコ人の Selahattin Hakman 氏を登用し、現地ネットワークやリスクマネジメント力を 担保している。加えて、Selahattin Hakman 氏は、シーメンスにてトルコの発 電 事 業 のディレクタ -にて従事した後、 E.ON に入社し、子会社である ENEJISA の CEO に就任するなど、現地市場かつ関連産業での業務経験を有 している。 142 ■組織体制 E.ON の組織体制は、事業軸と地域軸のマトリックス構造となっている。具 体的には、事業軸では、発電、再生可能、グローバルコモディティ(原料調達、 一般管理)、原料探査/生産の 4 事業に分かれており、地域軸では、ドイツ本 国、ドイツ以外のヨーロッパ、ヨーロッパ以外の 3 つに大きく分けられ、ドイ ツ本国以外は国別に 11 のユニットに分けられている。また、それぞれに地域に 子会社があり、その子会社が当該市場に対して権限を有している。 ただし、現状は欧州ヨーロッパ内の展開地域が多いため、組織構造も欧州地 域を中心としたものとなっている。また、前述の通り、事業展開については、 地域によって異なり、展開する事業領域はヨーロッパとそれ以外の地域に大別 できる。 <図表 6-3-13:組織図> (出典:E.ON HP) 143 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 経営戦略にて新興国進出を掲げているものの、現状の進出地域を見る と、ヨーロッパが大部分を占めており、その他の地域はアメリカとブ ラジルなど単発で進出している。これらの地域の特徴はエネルギー事 業の規制が緩和されている(制度的距離(A)が近い)ことであり、 かつ本国からの文化的距離(C)や地理的距離(E)が近い地域である と言える。これは、新興国進出戦略でもトップが触れている条件でも ある。よって、他の欧米エネルギー事業会社と同様、進出国を選定す るにあたり、規制緩和されかつ法整備が整っている地域であることが 必須条件であり、それに加えて、文化的距離と地理的距離の近い地域 を選定しているものと考えられる。 また、経済的距離(E)は、欧米地域への進出が中心であることから、 他の欧米エネルギー事業会社同様、経済水準が同等もしくは近しい地 域の方が進出しやすいことを示していると考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 本国関連・支援産業との協業は行われていない。理由は、E.ON は M&A を経て本国においてエネルギーバリューチェーン全体を掌握し ており、自社のリソースのみで海外進出が可能であるため、本国の関 連支援産業との協業は不要である。 現地同業企業との協業については、現地エネルギー企業を買収もしく は、現地企業との合弁などにより進出しており、現地同業企業との競 合を避け、協業することにより現地市場特有の知識・ノウハウ習得を 図っていると考えられる。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは高いと考えられる。経営戦略の中で、成長 市場への進出と具体的な戦略が明示されており、ターゲットとして、 ロシア、ブラジル、トルコへの進出を強化することを明確化している。 それに加えて、投資戦略にて現地パートナーと協業することを掲げる など、具体的な新興国進出戦略を提示していることから、新興国での 144 エネルギー事業への進出に対するトップのコミットメントは高いと 考えられる。 現地ネットワーク及びリスクマネジメント力については、トルコの電 力事業の事例でもあったとおり、現地子会社の CEO に現地市場出身 かつ関連産業での業務経験を有している人材を登用していることか ら、内部にてネットワーク・リスクマネジメント力を保有していると 考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する これまでは、買収による参入がメインであったが、新興国進出におい て、現地企業との協業により参入していく方針をを明確化しており、 本国近隣国で実施していた買収のみの戦略を転換し、ネットワークや リスクマネジメント力を獲得するために合弁などの戦略を活用して いくと想定される。 なお、トルコでは、大手トルコの大手金融グループの一つであるサバ ン ジ ュ グ ル ー プ と の 提 携 し 、 50:50 の 比 率 で 合 弁 会 社 で あ る ENEJISA を設立しており、今後も合弁による参入形態をとっていく ものと考えられる。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される E.ON は本国と近隣のヨーロッパにおいては同じ事業領域であるも のの、物理的距離が離れたアメリカやブラジルにおいては、発電事業 のみでの進出をしており、本国での事業領域と比較して、事業領域が 限定されている。 よって、ヨーロッパ等電力系統が同じ地域とそうでない地域によって 事業領域の幅に差があることが分かる。 145 6-3-5.RWE ■会社概要 RWE はドイツのエッセンに本社を置くヨーロッパ有数のエネルギー事業会 社である。E.ON と同様、1998 年のドイツの電力自由化をきっかけにしたドイ ツ国内での業界再編により、M&A を進め、ドイツの 4 大電力会社の一つとな った。その後も、ヨーロッパにて M&A により地域及び事業領域を拡張し、ド イツ、オランダ、イギリスで多くの市場シェアを有している。また、チェコ共 和国におけるガス事業のパイオニアであり、東欧での他の市場で主導的な地位 を持っていることが特徴として挙げられる。 2013 年現在、電力 1,600 万件、ガス 700 万件の顧客基盤を有し、売上は約 540 億ユーロ、EBITDA は約 88 億ユーロ、当期純利益は約 23 億ユーロとなっ ており、2013 年度末時点で全世界に約 66,000 名の社員を有している。 ■長期計画 RWE は経営戦略にて、ヨーロッパで最も信頼され、最も高性能なエネルギ ー事業者としてプレゼンスを上げることを将来像として描いている。 最も信頼される事業者となるために、社会と調和した安全なエネルギー供給 を行うことを掲げ、最も高性能な事業者となるために、競合他社と比較して、 パフォーマンスとコスト効率の面で主導的な地位を占めること掲げている。 これらを達成するために、重点的に取り組む事業として再生可能エネルギー を挙げており、ヨーロッパでの実績を基にヨーロッパ以外の地域への進出も検 討している。 これらのことから戦略の優先順位として、ヨーロッパが最優先であり、それ 以外の地域での事業展開については、他の欧米エネルギー事業会社と比較して 優先順位が低いことが伺われる。 ■現在の海外エネルギー事業 現在 RWE を行っている事業領域は、ドイツ本国では、電力・ガス事業にお けるバリューチェーン全ての事業を掌握しているが、本国以外の地域の事業内 容は、進出地域によって事業内容が限定されている。ドイツの近隣諸国及び、 イギリス・東ヨーロッパ各国では、電力事業のサプライチェーン全てをまかな っている一方、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなどの西ヨーロッ パにおいては、再生可能エネルギーのみで進出している。 また、今後の成長市場として進出地域に挙げているトルコとクロアチアについ ては、発電所建設などの重点的な投資を画策しているものの、事業領域につい ては、西ヨーロッパと同様限定的になるものと考えられる。 146 また、ヨーロッパ以外での事業については、主に消費地域であるヨーロッパ 向けのガス田開発・生産、原料調達、トレーディング事業を行っているのみで あり、現地市場向けの発電・送配電、小売(電力&ガス)は行っていない。た だし、アメリカにおいては、ジョージア州にてバイオマス発電(再生可能エネ ルギー)のための木質ペレット製造工場を所有しており、またテキサス州の LNG の会社である ExcelerateEnergy50%の株式を保持している。 <図表 6-3-14:各国での事業内容> (出典:RWE HP) <図表 6-3-15:RWE の進出国※(2013 年末)> 地域(進出国数) 国名 ヨーロッパ ドイツ、ベルギー、デンマーク、フランス、イギリ (20 か国) ス、アイルランド、イタリア、クロアチア、ルクセン ブルク、オランダ、ノルウェー、オーストリア、ポー ランド、ポルトガル、スイス、スペイン、スロバキ ア、トルコ、チェコ、ハンガリー 北米(1 か国) アメリカ 計 21 か国 ※進出国は、現地市場向けに発電、ガス供給などを行っている国で算出 (出典:RWE HP より筆者作成) 147 ■組織体制 RWE においても、地域軸と事業軸が並列に並んだ組織構造をしていること が分かる。地域軸はドイツ、ベルギー、イギリス、東ヨーロッパの 4 つに分か れており、事業軸はガス・石油の上流権益、トレーディング、発電、小売の 4 つに分かれている。 <図表 6-3-16:組織図> (出典:RWE HP) 148 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 現状の進出地域を見ると、ほぼヨーロッパであり、進出地域の特徴は エネルギー事業の規制が緩和されている(制度的距離(A)が近い) ことであり、かつ本国からの文化的距離(C)や地理的距離(E)が近 い地域であると言える。 よって、他の欧米エネルギー事業会社と同様、進出国を選定するにあ たり、規制緩和されかつ法整備が整っている地域であることが必須条 件であり、それに加えて、文化的距離と地理的距離の近い地域を選定 しているものと考えられる。 また、経済的距離(E)は、欧米地域への進出が中心であることから、 他の欧米エネルギー事業会社同様、経済水準が同等もしくは近しい地 域の方が進出しやすいことを示していると考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 進出に際して、本国関連・支援産業との協業は見られなかった。理由 は、他の欧米エネルギー事業会社と同様、本国においてエネルギーバ リューチェーン全体を掌握しており、自社のリソースのみで海外進出 が可能であるためと考えられる。 現地同業企業との協業については、欧州地域の進出においては協業し ていない。また新興国への進出事例がないため、新興国での協業状況 については不明である。今後検討していくものと考えられる。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする 新興国進出に対するトップのコミットメントは、現在は新興国市場で の売上・利益目標もなく、地域を越えた新興国市場への進出事例がな いものの、成長市場としてトルコとクロアチアを挙げており、今後進 出していく方針を示していることから、他の欧米エネルギー事業会社 と比較して新興国エネルギー市場への進出へのコミットメントは低 いものの、コミットメントを有していると考えられる。 現地ネットワーク及びリスクマネジメント力については、現在時点で 新興国進出事例がないため不明である。 149 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 欧州以外の地域では、現地市場に参入しておらず、参入形態は不明で ある。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 本国と近隣のヨーロッパにおいては同じ事業領域であるものの、物理 的距離が離れたアメリカでは、発電事業のみでの進出をしており、本 国での事業領域と比較して、事業領域が限定されている。 よって、他の欧米エネルギー事業会社同様、ヨーロッパ等電力系統が 同じ地域とそうでない地域によって事業領域の幅に差があることが 分かる。 ■仮説検証以外に得られた示唆 RWE は現状の新興国進出の目的は現地での事業展開ではなく、欧州の事業 展開を行う際の資源開発や資源の調達におけるポートフォリオの一部という認 識が強いように感じる。よって、新興国進出に対して他の欧米エネルギー事業 者よりはコミットメントが低いと考えられる。 その要因としては考えられるのは、ボードメンバーのダイバーシティがなく、 現状は、全てがヨーロッパ(オランダやドイツ)国籍のメンバーで構成されて いることが挙げられる。 つまり、ボードメンバーにダイバーシティがないと、新興国など他国での事 業拡大のスピード感が遅くなる傾向があると考えられる。これは、現地市場へ のネットワークがないことと同義であり、新たな市場に進出する際に当該ネッ トワークを他社との協業により獲得する必要があると考えられる。その点につ いては、日系エネルギー事業会社も同様の傾向があると思われる。 150 6-3-6.Duke Energy ■会社概要 Duke Energy は、アメリカのノースカロライナ州シャーロットの本社を置く アメリカ有数のエネルギー事業会社である。事業内容は、アメリカ中西部やフ ロリダを中心としたエリアにて約 57.5GW の発電容量を持ち、発電、送電、配 電、小売など電力事業全般を行っており、オハイオ州とケンタッキー州におい ては天然ガスの輸送及び販売を行っている。現在、電力事業の顧客数は約 720 万件であり、アメリカ最大の顧客数を有している。 また、再生可能エネルギー事業にも積極的であり、国際事業は、北米だけで なく、ラテンアメリカにも進出し、多様な発電資産を有している。 2013 年の売上は約 246 億ドル、当期純利益は 26.65 億ドルとなっている。 ■長期計画 Duke Energy は会社のプロフィールにて、再生可能エネルギーの推進及びラ テンアメリカへの進出について言及しており、新興国進出へのコミットメント の高さが伺われる。 ここから、アメリカ本国にて行っている事業全てで進出するのではなく、再 生可能エネルギー事業に限定しており、かつ地域もエネルギー需要の旺盛な全 地域への進出ではなく、アメリカ本国から距離の近いラテンアメリカに限定し た進出を図っていくことが読み取れる。 ■現在の海外エネルギー事業 Duke Energy は国際事業を統括する子会社 Duke Energy International (DEI)を通じて海外でのエネルギー事業を展開している。 展開地域としては、主にラテンアメリカを中心としており、その他にサウジ アラビアにも進出するなど、計 9 か国となっている。 事業内容としては、ラテンアメリカでは発電事業を行っており、発電容量は 約 4.9GW を保有している。その中でも、再生可能エネルギーに力を入れてお り、DEI の発電能力の約 3 分の 2 が水力発電となっている。 サウジアラビアにおいては、ガソリンの原料となる MTBE を製造するナシ ョナル・メタノール社に 25%出資している。 なお、DEI は、現地の小売販売業者、電力会社、独立系発電事業、現地の商 業及び産業企業を対象として電力を販売している。 進出方法は、主に現地企業の買収にて進出している。例えば、2012 年にはチ リにて 240MW のディーゼル発電設備をもつユンガイ発電所を買収し、また、 140MW の水力発電設備を持つ CGE グループの Iberoamericana de Energía 151 Ibener(Ibener)の子会社を買収し、進出している。 また、 進出事業領域はラテンアメリカの中でも地域によって異なる。例えば、 ブラジルでは水力発電事業のみで進出しているものの、ペルー・エクアドル・ 中央アメリカの地域では石油など化石燃料による発電事業が主となっている。 <図表 6-3-17:ラテンアメリカにおける展開地域と発電所の分布> (出典:Duke Energy HP) <図表 6-3-18:Duke Energy の進出国※(2013 年末)> 地域(進出国数) 国名 北米(1 か国) アメリカ ラテンアメリカ アルゼンチン、ブラジル、チリ、エクアドル、エルサ (7 か国) ルバトル、グアテマラ、ペルー 中東(1 か国) サウジアラビア 計 9 か国 ※進出国は、現地市場向けに発電、ガス供給などを行っている国で算出 (出典:Duke Energy HP より筆者作成) 152 <図表 6-3-19:Duke Energy International の概要> ・本社 :テキサス州ヒューストン ・発電容量 :4,992 MW ・建設中発電容量:16 MW (ブラジル) ・売上(2012) :約 15 億ドル ・最終利益(2012):約 4.4 億ドル ■組織体制 Duke Energy の組織体制は、詳細な組織図はないものの、HP やアニュアル レポートの記載からアメリカ国内は地域別部門制に分かれており、事業部門は、 商用電力部門、国際部門に分かれていることが分かる。海外エネルギー事業に ついては、前述のとおり、子会社である Duke Energy International(通称 DEI: 本社テキサス・ヒューストン)が統括し、進出各国に DEI が子会社を配置して いる。 153 ■仮説の検証 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離 (G)、経済的距離(E)を考慮する。 【1-2】CAGE のうち制度的距離(A)を最も考慮する 現状の進出地域を見ると、ほぼラテンアメリカであり、エネルギー事 業の規制が緩和されている(制度的距離(A)が近い)かつ、本国か らの文化的距離(C)や地理的距離(E)が近い地域であると言える。 よって、他の欧米エネルギー事業会社と同様、進出国を選定するにあ たり、規制緩和されかつ法整備が整っている地域であることが必須条 件であり、それに加えて、文化的距離と地理的距離の近い地域を選定 しているものと考えられる。 また、経済的距離(E)は、本国と比較して経済水準の低い地域への 進出が中心であるものの、再生可能エネルギーを中心とした事業領域 に限定されており、経済格差によって進出事業領域が限定されている ものと考えられる。 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業(ライバル企業)との協業が、進出を後押しする 進出に際して、本国関連・支援産業との協業は見られなかった。これ は、本国において上流権益事業以外のエネルギーバリューチェーン全 体を掌握しており、自社のリソースのみで海外進出が可能であるため と考えられる。 現地同業企業との協業については、買収によって進出しているものの、 現地の電力会社へ売電するなど、現地企業との補完関係にある事業に て進出しており、現地同業企業と協業していると言える。 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント 力を自社で保有していることが、進出を後押しする トップのコミットメントは、再生可能エネルギーを中心としてラテン アメリカへ進出することが言及されており、また進出している国での 発電状況及び、収益についても明確化していることから、新興国進出 に対するコミットメントは高いと考えられる。 現地ネットワーク及びリスクマネジメント力については、現地企業を 買収することにより参入しており、買収企業が保有しているネットワ ークやリスクマネジメント力を獲得していると考えられる。 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 154 基本的には現地企業を買収することで参入している。ただし、共同出 資者の存在有無については不明である。 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される ラテンアメリカでの事業領域は発電事業であり、中でも主に再生可能 エネルギー発電に集中していることから、本国にて事業展開している 送電、配電、及びガス販売などでの参入はしていない。 よって、本国での事業領域と比較して、事業領域が限定されている。 155 7.仮説検証まとめ これまで、一企業単位に行ってきた仮説検証について、日系エネルギー事業 会社、日系商社、欧米系エネルギー事業会社の 3 つのタイプに分けて検証する。 7-1.本国・進出国との距離 【1-1】CAGE の考慮有無 【1-2】CAGE のうち最も考慮しているもの ここでは、ゲマワットの CAGE の枠組みを使って、企業の海外進出している 地域に傾向があるかどうかを確認した。 まず、文化的距離(C)、地理的距離(G)についてであるが、日系エネルギ ー、欧米系エネルギーについては、本国と文化の類似した国、かつ物理的に距 離の近い国への進出国として選定する傾向があることが分かった。例えば、日 系エネルギー事業会社では、下図のとおり親日国であり、かつ新興国の中で物 理的距離が比較的近い東南アジアを中心に進出している。また、欧米系エネル ギー事業会社でも、下図をみると本国のあるヨーロッパや北米を中心に進出し ている。加えて、新興国の中でも元々植民地であり、物理的に距離も近い中南 米、北アフリカへの進出が多く、同じ新興国でも、東南アジアや南アジアなど、 アジア地域への進出が少ないことが分かる。よって日系エネルギー、欧米系エ ネルギー事業会社は、文化的距離や地理的距離を考慮した進出地域の選定を行 っていると考えられる。 一方、商社については、東南アジアへの進出数が比較的多いものの、それ以 外にもヨーロッパ、北中米、南米、アフリカなどにも複数の企業が進出してお り、全地域を網羅的に進出していることが分かる。これは、商社という事業の 特性上、エネルギー事業以外にも様々な事業を展開しており、海外に多くの拠 点をもっていることから、全世界でのネットワークを保有しており、事業展開 する地域を限定することなく進出できているためと考えられる。ここからも、 現地での事業展開を行うためには、現地ネットワークを保有していることが必 要であることも言える。 次に、制度的距離(A)についてであるが、これは事例対象とした全ての企業 に言えることとして、エネルギー市場の規制緩和された市場に進出しているこ とが分かる。例えば、いち早く規制緩和を実施したアメリカや、それに追従し て規制緩和したメキシコ、ブラジルなどの新興国においては、日系エネルギー、 商社、欧米系エネルギー全てで進出実績がある。また、ヨーロッパでは自由化 以降、様々なエネルギー会社が国の境界を越えて進出している一方、規制緩和 が限定的な日本においては他国エネルギー会社の進出は限定的である。よって、 制度的距離(規制緩和の有無)は進出国選定に際して、最も考慮されていると 156 考えられる。しかし、エネルギー需要が旺盛であるが、制度が整っていない国 への進出は、制度の未整備や急な外資規制を懸念して進出を躊躇する企業も多 く、制度が未整備であることもまた進出を妨げる要素となっている。東南アジ なのミャンマーなどはその典型例といえる。 また、参入する際の事業領域についても、進出国の規制に影響を受けること となり、発電事業のみなど、新興国エネルギー企業を補完するような事業に限 定して参入する事例が多いことも分かる。 続いて、経済的距離については、本国と同等水準の地域への進出とインフラ 未整備である新興国市場への進出方法に差があることから、進出国の経済水準 を考慮して進出事業領域を決めていると考えられる。同等水準の地域へ進出す る際は、進出国のエネルギー企業を買収するか、もしくは再生可能エネルギー のような当該地域で行っていない事業や、省エネ意識から重点的に取り組もう としている事業にて進出している。一方、新興国においては旺盛なエネルギー 需要に対応するために発電事業での進出が多く、小売など下流事業での参入は 限定的である。よって、進出国を選定するにあたり、全ての企業が経済的距離 も考慮していると考えられる。 <図表 7-1:日系エネルギー企業進出国プロット(母数 5)> (出典:日系各エネルギー事業会社 HP より筆者作成) 157 <図表 7-3 商社進出国プロット(母数 4)> (出典:各商社 HP より筆者作成) <図表 7-3:欧米系エネルギー企業進出国プロット(母数 6)> (出典:欧米系各エネルギー事業会社 HP より筆者作成) 158 7-2.本国・進出国での協業 【2-1】本国関連・支援産業との協業 本国関連・支援産業との協業有無についてであるが、これは日系エネルギー 事業会社、商社、欧米系エネルギー事業会社のそれぞれのタイプによって協業 状況が異なることが分かった。 まず、日系エネルギー事業会社の場合、本国関連・支援産業との協業をする ことで海外市場特に新興国市場へ進出している。中でも、事例研究にて取り上 げた事例から分かるとおり、日系エネルギーは商社と協業している。理由は、 進出に際して必要となる互いの能力を補完するためである。日系エネルギーは、 エネルギー事業のバリューチェーンのうち、中下流の事業である発電から小売 事業の運営ノウハウは持っているものの、ガス田権益や輸送などの上流事業運 営ノウハウや、進出地域における現地ネットワークやリスクマネジメント力を 自社にて保有しておらず、本国関連・支援産業である商社を水先案内人として 協業することにより、バリューチェーンの上流事業や、進出先の現地ネットワ ークやリスクマネジメント力を補完して進出を図っている。 一方、商社の場合、本国に限らず、関連・支援産業との協業をすることで新 興国市場へ進出している。基本的に商社はエネルギー事業会社が保有している 事業運営ノウハウを持っていないものの、様々な事業にて海外展開し拠点を有 しているため、欧米系エネルギー事業会社とのネットワークを保有しているこ とから、必ずしも日系エネルギー事業会社と協業する必要がなく、自社が事業 を展開する上で最適な協業先を選んで進出を図っている。 また、欧米系エネルギー事業会社は、本国関連・支援産業との協業が行って いない。理由は、欧米系エネルギー事業会社は合併を繰り返すことによって自 社にてエネルギー事業の全てのバリューチェーンを保有しており、事業運営ノ ウハウを他社から獲得する必要がなく、また本国内には競合企業はあるものの、 補完関係にある企業が存在しないため、事業運営ノウハウやネットワーク、リ スクマネジメント力が必要な場合は他国のエネルギー事業会社と協業すること によって獲得し、進出を図っている。 つまり、本国関連・支援産業との協業をするかしないかの決定要因は、自社 の内部資源にてエネルギー事業のバリューチェーンすべてにおける「事業運営 ノウハウ」を保有しているか、また、それに付随する、「現地ネットワーク」、 「リスクマネジメント力」を保有しているか、加えて、それらの能力を補完で きる企業が国内に存在しているかどうかが影響していると言える。 【2-2】現地同業企業との協業 続いて、現地同業企業との協業についてであるが、どのタイプの企業も進出 159 時には現地同業企業との協業を行っていることが分かった。ただし、協業の仕 方は複数パターンがあり、合弁企業や現地エネルギー企業買収の際に共同で出 資、現地のバリューチェーンを補完する形での協業、現地の既存インフラを活 用するための協業などがある。どれも、「現地の資産獲得」、現地ネットワーク や外資規制回避も含めた「リスクマネジメント力の獲得」など、現地での効率 的な事業運営を目的としたものと考えられる。 その中でも、現地のバリューチェーンを補完するために現地同業企業と協業 するケースが多い。具体的には独立発電事業者(IPP)として合弁会社を設立 し、現地のエネルギー企業(主に国営)と長期契約を締結し、電力供給を行う ものである。本事業での進出により、合弁会社の共同出資にて現地企業との協 業を行い、また、現地の旺盛なエネルギー需要に対応するために現地エネルギ ー企業の発電能力だけでは足りない電力をまかなう点において、現地エネルギ ー企業とも協業を行っている。 現地同業企業と協業する最大の目的は、現地市場、特に、現地人の市場を獲 得することである。上記の例にも挙げた発電事業は現地市場をターゲットとし た進出事例であるため、現地市場を知っているかつ、資産を持っている現地同 業企業との協業は必須である。 一方、ターゲットを現地の日系企業と設定した場合、必ずしも現地同業企業 との協業が必要でない場合もある。大阪ガスのタイにおけるエネルギーサービ スでの事例では、出資構成が大阪ガス及び日系銀行団で占められており、日系 の現地工場を対象としたエネルギーサービス事業を展開しており、現地同業企 業との協業は行われていないことが分かる。エネルギー事業でも事業領域とタ ーゲットを限定した進出の場合は必ずしも現地同業企業との協業が必須でない と言える。 7-3.自社保有資源・戦略 【3-1】トップのコミットメント、ネットワーク、リスクマネジメント力 まず、新興国に対するトップのコミットメントについては、どのタイプの企 業も経営ビジョンや経営戦略などの長期計画にて記載があり、社長のインタビ ューにおいても言及されるなど、総じて全ての企業においてトップのコミット メントが高いと言える。 これは、成熟期にある先進国エネルギー市場のパイが減少傾向にあり、成長 の手段としてインフラ未整備の新興国市場に進出しているものと考えられる。 また、新興国市場進出に際して現地同業企業やとの協業が必須であり、また場 合によっては他国の同業企業との協業も必要となる場合もある。それらの企業 との協業を取り付けるためにも、自社がどの点にコアコンピタンスがあるか、 160 またどの地域での事業展開を検討しているかについて、トップがコミットメン トし、対外的に PR することが進出に際して重要な成功要因となると考えられ る。 現地ネットワークやリスクマネジメント力については、日系エネルギー事業 会社は自社で一部保有しているものの、他社との協業により獲得しており、商 社と欧米系エネルギー事業会社は自社にて保有している能力を活用して新興国 進出を行っている。商社については、先述のとおり、既存の別事業にて海外拠 点を有しており、その関連から現地政府及び現地企業とのネットワークを保有 し、現地市場での事業経験もあることからリスクマネジメント力を内部で保有 していると考えられる。また、欧米エネルギー事業会社については、本国やヨ ーロッパにおいて早くから規制緩和がされており、ヨーロッパ近隣においては 現地同業企業を買収することにより参入していたため、外部にあった現地ネッ トワークやリスクマネジメント力を内部に取り込んでいると考えられる。一方、 欧米や中南米以外の地域では、ネットワークやリスクマネジメント力を保有し ていないため、現地及び現地近隣の同業企業と協業することで獲得している。 特に、欧米エネルギー事業会社が東南アジア地域に進出する際は、この形態に より進出するケースが多い。 【3-2】参入形態 参入形態については、大きく分けて「合弁」と現地同業企業の「買収」の二 種類あり、どちらの参入形態をとるかによって現地での事業領域の幅が決まる。 まず、合弁についてであるが、現地市場において特定の事業を行う場合に活 用される傾向がある。特に、発電事業においては、現地にて合弁企業を設立し 参入するケースが多い。一方、現地同業企業の買収による参入の場合、現地に て事業運営していた会社を買収するため、当該企業が行っていた事業全てを継 承することとなるため、合弁と比較して事業領域が広いと言える。 なお、どちらの戦略をとるかについては、現地市場におけるエネルギー需給 バランスに影響を受けると考えられる。新興国のような成長市場では、エネル ギー需要が旺盛であり、現地同業企業の発電能力だけでは供給が追い付かない 場合も多いため、一般的には発電事業の合弁会社を設立し、現地同業企業に電 力供給するケースが多く、日系エネルギー事業会社や商社はこの形態をとるこ とが多い。ただし、進出国の政策などによっては、ノウハウ獲得などを目的と して、現地国営企業の民営化に伴い外資企業の出資参画を要請することもあり、 現地企業の出資参画による進出のケースもある。この場合は、既存企業の事業 を引き継ぐため事業領域は広範となる。 一方、ヨーロッパ周辺などの成熟市場では、エネルギー受給バランスが比較 161 的安定であるため、現地同業企業の補完事業は存在しないため、現地市場へ参 入する際は買収の形態をとると考えられ、欧米系エネルギー企業は一般的にこ ちらの参入形態をとる傾向にある。 以上から、参入形態は合弁と買収の二種類の方法があり、合弁による参入は 既存の現地同業企業の事業を補完する役割での進出のため事業領域が限定的に なり、買収による参入は既存同業企業の事業領域全てを獲得することができる と言える。 【3-3】進出事業領域 進出事業領域については、日系エネルギー事業会社は主に発電事業に特化し ており、本国より限定された事業展開となっているが、商社や欧米系エネルギ ー事業会社は本国と比較して事業領域が限定されていないことが言える。特に 商社については、本国より広範な事業を進出国にて展開している。例えば、三 井物産はブラジルやメキシコにて日本では行っていないガス事業を運営してい おり、海外事業を広範に行っている典型例と言える。 では、なぜ企業のタイプによって進出事業領域が異なるのかということであ るが、これには本国での法規制の有無が影響していると考えられる。日本では、 エネルギー事業は現状、法規制の対象であり、そのため、安定的な収益が期待 できることからリスクを伴う海外でのエネルギー事業に対して積極的ではなか ったため、進出が商社や欧米系エネルギーと比較して遅く、かつトップのコミ ットメントも高くなかった。そのため、リスクを抱えない手段により進出を模 索したため、現地の同業企業の補完的な役割を行う合弁による発電事業の形態 が多かったと考えられる。一方、商社については、法規制により本国では日系 エネルギー事業会社が守られており、本国でのエネルギー事業に進出が他国で 進出する場合と比較して参入障壁が高かったため、海外でのエネルギー事業へ のコミットメントが高く、多くの事例をこなすことによってノウハウを蓄積し、 事業領域を広げていったものと考えられる。また、欧米系エネルギー事業会社 については、ヨーロッパやアメリカ本国において規制緩和され、そのため既存 市場を防衛するだけでなく、買収などによって事業規模を拡大していった過程 で、本国以外での事業運営ノウハウを蓄積することができ、結果的に本国以外 でも本国同等の事業領域を展開することができていると考えられる。 162 7-4.仮説検証まとめ 以上の仮説検証内容を企業グループ別にまとめると下表の通りとなる。 <図表 7-4:グループ別の仮説検証と考察> 163 8.本研究の結論 事例研究による仮説検証から、エネルギー事業会社の新興国進出戦略の結論 を、共通して言える全体の結論と、各企業グループに言える個々の結論に分け てまとめる。 8-1.全体の結論 仮説検証によって導いた結論として以下のことが言える。 ■進出国の選定条件 ・進出国選定にあたり、CAGE 全てを考慮し、特に進出国の規制緩和(A) が進出の前提条件である。 ・また、上記を踏まえて、インフラ未整備の市場(E)かつ、文化的距離(C) ・ 地理的距離(G)の近い国を選定する。 ■本国・進出国におけるアライアンス ・本国関連・支援産業との協業要否は、エネルギー事業のバリューチェーン の保有状況によって決まる。 エネルギー事業のバリューチェーン全てを保有する企業は本国関連・支 援産業との協業が不要である。 一方、エネルギー事業のバリューチェーンを一部保有する企業は、本国 関連支援産業との協業が必須である。 ・現地同業企業との協業要否は、進出国市場におけるターゲット顧客によっ て決まる。 現地でターゲットとする顧客が現地企業(政府系含)の場合、現地エネル ギー企業との協業が必須である。 現地でターゲットとする顧客が現地日系企業に限定される場合、現地企 業との協業は不要である。 ■自社保有資源 ・新興国進出に際して、トップのコミットメントは必須であるが、現地ネッ トワーク・リスクマネジメントについては内部で保有していない場合、協 業先から獲得して進出する。 ■参入形態 ・現地バリューチェーン全て獲得する場合、参入形態は現地エネ企業の「買 収」、現地バリューチェーンの一部にて進出する場合、参入形態は「合弁」 にて進出する。 ■進出事業領域 ・本国で法規制を受けている企業は、事業領域が限定して進出する。 164 ・また、主に小売事業など下流事業のみでの進出はせず、発電事業単体もし くは、発電事業と下流事業を包括した事業体にて進出する。 また、エネルギー企業が取りうる新興国進出戦略は、エネルギー事業のバリ ューチェーン全体における「事業運営ノウハウの有無」と現地市場にて運営す る「バリューチェーンの範囲」の 2 軸を組み合わせた、4 つの戦略パターンに 分けられる。 <図表 8-1:新興国市場進出戦略のパターン分け> ■エネルギー事業のバリューチェーン全体における「事業運営ノウハウの有無」 ①一部保有の場合:「本国協業型」戦略 特に、日系エネルギー事業会社と商社との間で採用される戦略パターンであ り、事業運営ノウハウとそれに付随するネットワーク、リスクマネジメントを 補完する相手と協業し、現地法人に共同出資で参画するものである。 新興国進出に際して、自社に上記内部資源がない場合、もしくは、進出初期 段階で、他企業と現地事業運営のリスク分散を図る場合に用いられる。また、 自社にないノウハウを協業により獲得するため、非協業型と比較して企業戦略 としての難易度は低いと言える。 ②全部保有の場合:「本国非協業型」戦略 特に、欧米エネルギー企業、一部の商社が採用する戦略パターンであり、現 地に進出する上で必要となる事業運営ノウハウとそれに付随するネットワーク、 リスクマネジメントの要素を自社にて保有しており、本国関連・支援産業との 協業が不要な場合に用いられる。 必要とされる自社内部資源が多いため、協業型と比較して戦略の難易度は高 165 いと言える。 ■参入事業領域の幅 ①一部で進出する場合:「合弁」戦略 特に日系エネルギー企業や商社が進出時に採用する戦略パターンであり、参 入形態は合弁会社を設立、もしくは既存の事業特化した合弁会社へ出資参画に より進出する。 現地での事業領域は主に発電事業など、現地エネ企業のエネルギーバリュー チェーンを補完する事業に限定される。 進出国内で、エネルギー需給バランスが不均衡(需要>供給)な成長市場に 適応する戦略であり、現地エネルギー企業との長期契約により安定的な収益確 保が可能でき、また、新興国企業を設立する合弁企業の共同出資者に入れ、外 資規制を回避することも可能である。 成長市場でない場合、ヨーロッパ、北米での再生可能エネルギー発電など当 該市場において新たな価値を創出する事業においては、合弁による進出も可能 である。 なお、資金調達については、安定収益期待を利用した低金利のプロジェクト・ ファイナンス融資によりリスクヘッジをした資金調達を行う。 進出国にて全事業領域を運営する場合に比較して、参入障壁は低く、戦略の 難易度は低いと言える。 ②全部で進出する場合:「買収」戦略 特に、欧米エネルギー企業が本国近隣諸国へ進出する際に採用する戦略パタ ーンであり、参入形態は、現地国営エネルギー企業の民営化譲渡による国際入 札及び、現地民間エネルギー企業の買収もしくは出資参画の形態をとる。 買収戦略は合弁戦略と異なり、エネルギー需要への対応に限らないため成長・ 成熟どちらの市場でも参入が可能である。 この戦略を取る場合の条件として、エネルギーバリューチェーン全てにおけ る事業運営ノウハウを保有していることが必要であり、長期契約が締結されて いる発電事業の合弁戦略と比較して収益が不確定であり、広範な事業運営ノウ ハウ、クロスボーダーM&A 実行能力を保有していることが必要なため、参入 障壁が高く、戦略難易度も高いと言える。 なお、上記で説明した戦略パターンの事業スキームは下図の通りとなる。 166 <図表 8-2:新興国進出戦略の事業スキーム> ①本国協業型合弁戦略 ③本国協業型買収戦略 ②本国非協業型合弁戦略 ④本国非協業型買収戦略 167 8-2.企業グループ別の結論 日系エネルギー事業会社、商社、欧米系エネルギー事業会社それぞれの企業 グループの新興国進出戦略を上記のフレームに当てはめると下図のように分布 しており、それぞれ異なる戦略をとっていることが分かる。以下にそれぞれの 企業グループの戦略の特徴をまとめる。 <図表 8-3:企業グループの現状の新興国進出戦略の分布> ①日系エネルギー事業会社:「本国協業型」合弁戦略 現地市場での事業経験がないもしくは少なく、自社にて保有するネットワー ク力が乏しいため、ネットワーク力を持つ商社を水先案内人とし、比較的リス クの低い発電事業で進出している。そのため、進出国では本国と比較して狭い 事業領域となっている。 進出地域は、主に法規制が緩和されており、文化的・地理的距離の近い東南 アジア中心に進出しているが、海外コンサルティング事業、燃料調達国など、 別事業にてネットワークを保有している市場に進出するケースもある。 組織体制は、本社組織内の海外事業を統括する部門により管理されている一 方、進出事例が少ないためグローバルに地域を分割した組織はない。 今後の展開としては、運営する合弁会社にて現地での事業運営ノウハウ、ネ ットワークを蓄積し、商社をはじめとした本国関連・支援産業との協業を行わ ず、現地での事業領域を下流へ拡大していくと考えられる。 ②商社:(本国協業有無を問わない)「合弁」戦略 自社が保有しているネットワーク力に加え、事業運営ノウハウ獲得のために 本国エネルギー企業もしくは、進出国にゆかりのある近隣エネルギー企業との 協業にて進出している。 168 事業領域は、上流事業及び発電事業が中心だが、本国内は規制により参入事 業領域が限定的なため、本国以外にて事業領域を広く展開している 進出地域は規制緩和されている地域全てに進出している。ただし、日系エネ ルギー企業と合弁が多いため、東南アジアに多く進出しており、その他中東、 北中米、南米などにも進出している。 本社組織は世界各地の地域を統括する拠点と事業のマトリックス構造であり、 各事業部が収益管理を行っている。 今後は、各エネルギー企業との協業により獲得したノウハウを活かし、エネ ルギーバリューチェーン全体を網羅するため下流事業への進出を図っていくと 考えられる。 (既に、進出国においてエネルギー企業を買収・買取し、下流事業 へ領域を拡張している事例あり) ③欧米系エネルギー事業会社:「本国非協業型」戦略 ヨーロッパや北米におけるエネルギー自由化を契機として、特にヨーロッパ においては近隣地域のエネルギー企業を買収することで拡大してきた経緯から、 エネルギーバリューチェーン全ての事業領域を保有しており、本国関連・支援 産業との協業は不要であり、自社及び自社が買収した企業のネットワークを活 用して既存企業買収により進出している。 海外事業においては、主に地域別に統括する子会社を設置し収益管理してお り、進出地域は、主に地理的・文化的距離の近い欧米近隣諸国、中南米が中心 となっている。一方、ネットワークのないアジア地域において、当該地域のネ ットワークや事業運営ノウハウを持っているアジアのエネルギー企業との協業 により進出するなど、買収だけでなく、合弁による進出戦略も活用しており、 進出地域によって、非協業型で合弁と買収戦略を使い分けている。 169 9.自社への提言 ここまで、日系エネルギー事業会社、商社、欧米系エネルギー事業会社の新 興国進出事例及び、そこから抽出された進出戦略について述べてきたが、最後 に派遣元である東邦ガスの海外進出、中でも新興国進出にむけた提言をする。 9-1.海外および新興国へ進出する意義 まず、提言に入る前に、そもそも海外進出、新興国進出をする意義を明確化 したい。下図は、今回事例研究対象とした日系エネルギー事業会社 5 社と欧米 系エネルギー事業会社 6 社に東邦ガスを入れた 12 社で、海外進出数と売上や 利益率がどう関係しているかをグラフ化したものである。これを見て分かると おり、売上は進出国が増えれば増えるほど、増加することが分かる。これは、 売上は主に対象市場の大きさに比例することからもある程度想定されると思わ れる。加えて、売上高当期純利益率を見ると、進出国が増えるほど、微増傾向 にあることが分かる。 ここから、エネルギー事業は国ごとでのオペレーションに大きな違いがない ため、肌感覚と比較して新興国進出リスクは大きくないと言え、また、規模を 大きくすればするほどオペレーションが効率化され、固定費の大部分を占める 原料調達価格は、購入する買主としての交渉力が高まるなど規模の経済が働く 業種であることが分かる。 つまり、今後東邦ガスがエネルギー事業の中で成長していくためには、東海 地方でのガス単体事業に留まるのではなく、LNG を基軸としつつ、事業軸とし て電力事業を含めた事業ドメインの拡張、機能軸として同一事業内でのバリュ ーチェーンの拡大、地域軸として国内外を含めた地域ドメインを拡張すること が大変重要な要素となり、そのための手段として海外、特にエネルギー需要旺 盛な新興国市場に進出する意義は大きいと考えられる。 <図表 9-1:進出国数と売上高の関係> 単位:百万円 16,000,000 14,000,000 12,000,000 売 10,000,000 上 高 8,000,000 6,000,000 4,000,000 2,000,000 0 0 5 10 15 20 進出国数 170 25 30 35 40 <図表 9-2:進出国数と当期純利益率の関係> 15.00% 10.00% 売 上 5.00% 高 純 利 0.00% 0 益 率 -5.00% 5 10 15 -10.00% 20 25 30 35 40 進出国数 ※算出条件:売上高、利益ともに直近 5 か年平均値を採用、 欧米系エネルギーについては売上、利益とも円換算して算出 9-2.新興国における自社の競争優位 また、新興国に進出するにおいて、自社が保有している競争優位を明確化す ることにより、協業相手や、事業領域が決まる。そこで、ライバル企業及び、 協業する進出国同業企業や他国の同業企業、また商社など本国関連・支援産業 からみて自国内の他企業からみて自社の競争優位は何かを定義する。 まず、一つ目として、 「安定的に莫大な LNG を調達する能力」である。これ は、世界最大の LNG 輸入国である日本のエネルギー事業会社各社にいえるこ とであるが、多少価格の問題はあるものの、長期契約にて安定的に LNG を購 入するスキームを持っている点において、調達力があると言える。タイなど、 資源消費国でありエネルギー需要が旺盛な地域では、安定的に LNG が購入で きることがとても重要な課題となっている。そこで、LNG の購入に関するアラ イアンスなども有効な提携手段であり、それを足がかりに現地市場への進出も 図れる可能性があると考えられる。 二つ目としては、 「国内有数の LPG 事業規模を持っていること」である。通 常、国内のガス事業会社は LNG を気化し、パイプラインで都市ガスを供給す る事業を行っているが、国内でも比較的、人口密度が低い地域を都市ガス網周 辺に多く持つ東邦ガスにおいては、都市ガス事業に加えて、LPG 事業が収益の 柱となっており、他のエネルギー企業と比較して事業規模も顧客基盤も大きい。 新興国での事業展開においては、発展途上の地域も多く、都市ガス事業と LPG 事業の運営ノウハウを双方保有していることが強みとなり、本国で培った事業 運営ノウハウ、及び事業規模に裏打ちされた LPG の調達力についても新興国 にとっては魅力的な内部資源となり得ると考えられる。 171 9-3.新興国進出にむけた自社への提言 これまで海外事業を行う意義、また自社の競争優位について触れてきたが、 最後に、新興国進出にむけ、①社内の体制、②進出地域、③とるべき戦略パタ ーンの観点から自社へ提言を行う。 ①社内の体制:トップの明確なコミットメントと組織体制の変革を行うべき これまでは国内市場の成長とともに売上・利益を向上させてきたが、今後は 国内市場の頭打ち、ガス事業の規制緩和による新規参入者の増加による競争激 化により、これまでのビジネスモデルのみでの成長は困難であると言わざるを 得ない。 また、エネルギー業界というのは規模の経済が働く業界であり、その中で既 存事業を防衛するためにも規模を追求せざるを得ず、成長のためには事業及び 機能、地域ドメインの拡張を図る必要に迫られている。 そこで、インフラ未整備または、脆弱でありエネルギー需要が旺盛な新興国 市場への進出というのは、自社を成長させるために必要な戦略であると考えら れる。 一方で、新興国市場に出れば必ずしも成長できるかと言われると、不確実性 も高く、簡単なものではなく、また、短期的な利益も望める市場ではないため、 長期的な視野を持って、新興国進出戦略を考える必要があると考える。 そのような中で新興国市場進出を推進していくためには、まずトップが新興 国進出を長期的な利益を向上させる成長戦略に必須な要素と位置づけ、長期ビ ジョンに明文化するなど、長期的にかつ強固にコミットメントすることが重要 であると考える。そうすることで、社内の意識も変わり、対外的にも新興国で の事業に必要なアライアンスパートナーへ PR ができ、パートナー探しもスム ーズに行うことができると考える。 組織体制については、海外事業の専従組織を構成し、既存事業と異なるロジ ックを採用できる組織体制にすべきである。海外、特に新興国市場においては、 同じエネルギー事業にて進出するものの、本国での既存のエネルギー事業とは リスクの大きさや種類が異なるため、新興国市場での事業に合ったリスクテイ クを行える体制、具体的には本社からスピンアウトした海外事業専従組織を整 備することが必要であると考える。また、人材については自社内に当該事業を 行える人材は多くないため、中途採用市場にて人材を確保すべきであり、海外 事業にマインドセットしている人材を社内に増やし、コミットメントを維持す べきと考える。 172 ②進出地域:エネルギー需要旺盛な東南アジア地域に進出すべき 進出地域については、規制緩和されており、日本と地理的・文化的距離の近 い東南アジアに進出すべきである。具体的には、インフラ未整備地域、かつ原 料調達しておりネットワークのあるマレーシア、インドネシア等の国や、産油 国でない場合は経済発展によりエネルギー需要が増え、LNG の調達に苦慮し ているタイなどが進出地域の候補となり得る。 ただし、現地市場において顧客のターゲットをどこに位置付けるかによって 戦略が大きく異なると考えられる。ターゲットを現地エネルギー企業とするの であれば、旺盛なエネルギー需要に対応するための現地企業の補完的役割での 進出になる。例えば、LNG 輸入国であるタイであれば、現地エネルギー企業に 対する LNG の共同購入事業もしくは、自社調達 LNG の融通による卸売事業、 LPG 及び都市ガス事業のノウハウを梃とした現地同業企業へのコンサルティ ング、もしくは事業参画なども考えられる。一方、ターゲットを現地日系企業 とするのであれば、現地工場における省エネコンサル及びエネルギーサービス 事業などが考えられる。 よって、進出に際して地域だけでなく、当該地域でどの顧客にターゲットを 置くかについて、進出前に明確化すべきである。 ③戦略パターン:「本国協業型合弁」戦略を採用すべき 海外進出経験がなく、進出地域の現地ネットワークに乏しい当社にとって、 ネットワークを持っている商社など国内の関連・支援産業との協業は必須であ るため、結論で述べた戦略パターンの中で、 「本国協業型」戦略をとるべきであ ると考える。 また、参入事業領域については、新興国市場のどこをターゲットとするかに よって異なるものの、リスクマネジメントの観点から参入事業領域を限定し、 現地エネルギー企業も含めた合弁企業を設立するなど、他の戦略と比較して難 易度が低い進出戦略をまずは採用すべきである。その後、参入市場に慣れてき たところで、既存企業の買収により、事業領域を拡張すべきである。 以上、3 つの提言を行ったが、新興国進出戦略を遂行する条件として、国内 市場にて安定的にキャッシュフローを得ることが必要である。 新興国市場への進出は、多大な投資が必要であり、収益の不確実性(リスク) がある市場であるため、安定的に新興国への投資原資を稼ぐことのできる国内 市場を維持、もしくは拡大してこそ成立するため、成長のために事業ポートフ ォリオを管理することも新興国進出戦略を維持する重要な要素となる。 ただし、国内市場においては、自由化に伴う業界再編が起こる可能性が高く、 173 自社がその再編に対してリードする立場になることがより望ましい。 つまり、国内エネルギー市場においても、海外エネルギー市場と同様、自社 を成長させるための手段として提携及び M&A 戦略が重要になってくると考え られる。その相手として、電力会社やガス会社だけでなく、それ以外の補完関 係にある関連・支援産業との緊密な連携が今後より重要となってくると考えら れる。 174 10.本研究の限界 本論文の限界として、第一にエネルギー会社における新興国進出戦略を一般 化したものであるため、エネルギー業界の特性に強く影響を受けているため、 他業種の汎用性がないことが挙げられる。 第二に、本論文は国際事業戦略の一部であり、特に参入初期の戦略にフォー カスしたものであるため、参入後の現地のマネジメントや、現地市場でのシェ ア拡大などの戦略について議論の対象外であることが挙げられる。 第三に、事例研究においては、公表資料をベースに研究を進めているものの、 アンケート調査など対象企業内部人材からのインタビューをとっていないため、 企業の戦略の解釈に際して、筆者の恣意性が含まれている可能性があることが 挙げられる。 175 11.参考文献 【先行研究・先行事例】 ・グローバル経営入門(浅川和宏,2003) ・コークの味は国ごとに違うべきか(パンカジ・ゲマワット,2009) ・国の競争優位 上・下(M.E.ポーター,1992) ・ウォータービジネス(モード・バーロウ,2008) ・日本の水ビジネス(中村吉明,2010) ・実践アジアのインフラ・ビジネス-最前線の現場から見た制度・市場・企 業とファイナンス-(加賀隆一,2013) ・新興国市場戦略の諸観点と国際経営論-非連続な市場への適応と想像- (天野倫文,2010) ・新興国市場戦略における資源の連続性と非連続性の問題(臼井哲也、内 田康郎,2012) ・日本企業の新興国インフラ事業の成功要因の一考察(井川紀道,2011) ・日本企業の国際化と社会インフラ事業(江崎康弘,2013) ・インパクト・インベストメント~新興国市場を勝ち抜くための新しい智慧 ~(菅野文美,2013) ・国際競争力のあるパッケージ型インフラ事業の展開を目指して-PPP に おける課題の考察-(荻原朗,2013) ・企業と非営利組織の連携(Cross-Sector Collaboration)-開発途上国市 場への参入―(星野裕志,2013) ・総合商社の IPP 事業(三宅真也,2013) ・中国市場における生産財企業の活動についての一考察(KBS 修士論文:小 林祐太,2005) ・日本企業のフランス市場進出成功要因(KBS 修士論文:永嶋順子,2006) ・国立社会保障・人口問題研究所 HP 176 【事例研究】 ■東京ガス ・東京ガス HP ・東京ガスグループ 2020 ビジョン(2011 年 11 月 15 日) ・東京ガス アニュアルレポート 2013 ・東京ガス アニュアルレポート 2014 ・東京ガス CSR・会社案内 2014 ・東京ガス「国家ビジョン研究会第 6 回ガスエネルギー小委員会説明資料 東京ガスの事業概要と今後のインフラ形成」(2012 年 11 月 8 日) ・東京ガスプレスリリース「ブラジルで産業・商業向けエネルギーサービス 事業に参画」(2012 年 11 月 15 日) ・東京ガスプレスリリース「マレーシアにおけるエネルギーサービス事業を 展開するための合弁会社を設立」(2014 年 2 月 24 日) ・財界「特別レポート マレーシアで都市ガス事業に踏み切った東京ガス・ 安西邦夫」(1994 年) ・経済界「海外特集ガス・マレーシア(東京ガス)」(1994 年) ・日本経済新聞「熱電併給、東南アで合弁、東京ガス、まず日系工場向け」 (2014 年 2 月 24 日) ・日本経済新聞「東京ガス、マレーシアで合弁発表」(2014 年 2 月 25 日) ■大阪ガス ・大阪ガス決算短信平成 26 年 3 月期 ・大阪ガス HP ・大阪ガスプレスリリース 「大阪ガスグループ 長期経営ビジョン・中期経 営計画「Field of Dreams 2020」(2009 年 3 月 13 日) ・大阪ガスプレスリリース 「大阪ガスグループ 中期経営計画「Catalyze Our Dreams」(2014 年 3 月 13 日) ・大阪ガス HP プレスリリース 「シンガポールにおける産業用天然ガス販 売事業への参画について」(2013 年 3 月 11 日) ・大阪ガス HP プレスリリース 「タイにおけるエネルギーサービス事業の 開始について」(2013 年 12 月 24 日) ・大阪ガス HP プレスリリース 「タイ国におけるコージェネ・オンサイト 事業に関する新日鉄住金エンジニアリング株式会社との業務提携について」 (2014 年 7 月 2 日) ・日本経済新聞 「シンガポールでガス販売、大ガス、化学・食品工場に的」 (2013 年 3 月 12 日) 177 ・日本経済新聞 「大阪ガス、タイでガス設備合弁」(2013 年 12 月 25 日) ・日経産業新聞 「大ガス、産業用天然ガス、シンガポールで販売、現地企 業に資本参加」(2013 年 3 月 12 日) ・日経産業新聞 「ボイラーや焼却炉、大ガス、タイで貸し出し、日系企業 に、保守・管理も」(2014 年 1 月 8 日) ・日経産業新聞 「新日鉄住金エンジ、大ガスとコージェネ提携、タイの日 系工場に提案強化」(2014 年 7 月 3 日) ■東京電力 ・東京電力決算短信平成 26 年 3 月期 ・東京電力 HP ・東京電力プレスリリース「インドネシア「パイトンI・プロジェクト」へ の参画について」(2005 年 6 月 29 日) ・東京電力プレスリリース「インドネシア「パイトン石炭火力発電所・増設 プロジェクト(パイトンⅢ・プロジェクト)」に関する電力長期販売契約の 締結について」(2008 年 8 月 4 日) ・東京電力プレスリリース「「ミラント・アジア・パシフィック社」の株式買 取契約の締結について~フィリピン最大のIPP事業持株会社の株式取得 ~」(2006 年 12 月 11 日) ・東京電力プレスリリース「「ミラント・アジア・パシフィック社」の事業移 行の完了について〜フィリピン最大のIPP事業を継承、マニラ首都圏の 安定供給を担う〜」(2007 年 6 月 22 日) ・東京電力プレスリリース「フィリピン共和国 パグビラオ石炭火力発電 所の増設について」(2014 年 5 月 30 日) ・三井物産プレスリリース「インドネシアパイトン火力発電所増設プロジェ クト・ファイナンス契約調印」(2010 年 3 月 8 日) ・三井物産「アニュアルレポート 2014 Business Strategy」 ・日本経済新聞「インドネシアの火力発電に出資―東電、150 億円」 (2005 年 6 月 30 日) ・日本経済新聞「三井物産・東電、インドネシアで発電事業を拡大」 (2008 年 8 月 5 日) ・日本経済新聞「インドネシア発電所に融資、国際協力銀など 1600 億円」 (2010 年 3 月 9 日) ・日本経済新聞「フィリピン3発電所買収、東電・丸紅など5陣営応札、ア ジア事業強化」(2006 年 11 月 10 日) ・日本経済新聞「東電・丸紅、フィリピンで、3 発電所 4000 億円で買収」 178 (2006 年 12 月 12 日) ・日本経済新聞「東電・丸紅の比発電所買収、国際協力銀など 3300 億円、邦 銀 2 行と協調融資」(2007 年 6 月 7 日) ・日本経済新聞「東電、海外投資を再開、フィリピンで丸紅と火力、事業費 1000 億円」(2014 年 5 月 30 日) ・日経産業新聞「インドネシア火力発電所、東電が14%出資―運営権益 150 億円で買収」(2005 年 6 月 30 日) ・日経産業新聞「インドネシア国営電力PLN、石炭火力の建設、中国が安 値攻勢―日欧と競争激しく」(2006 年 5 月 23 日) ・日経産業新聞「三井物産と丸紅、インドネシア、発電事業、1600 億円調達、 協調融資で」(2010 年 3 月 10 日) ・日経産業新聞「三菱重、インドネシアで受注、火力発電所、出力 81.5 万キ ロワット」(2010 年 4 月 15 日) ・日経産業新聞「石炭火力発電引き渡し、三菱重、インドネシアに」 (2012 年 6 月 6 日) ・日経産業新聞「東電と丸紅、フィリピンの火力発電所、共同買収を完了」 (2007 年 6 月 26 日) ・日経産業新聞「フィリピンで火力発電増設、日本企業、強まる存在感、東 電・丸紅、成長支える」(2014 年 9 月 18 日) ■関西電力 ・関西電力決算短信平成 26 年 3 月期 ・関西電力 HP ・関西電力プレスリリース 「タイ国ロジャナ・パワー社への経営参画につ いて」(2003 年 2 月 26 日) ・関西電力プレスリリース 「タイ国における新規小規模熱電併給事業の売 電契約の締結について」(2009 年 11 月 16 日) ・関西電力プレスリリース 「「セノコ・パワー・リミテッド社」の株式売買 契約の締結について~シンガポール最大の電力会社の株式取得~」(2008 年 9 月 5 日) ・関西電力プレスリリース 「セノコ・エナジー社への配管腐食抑制技術の 移転について」(2011 年 7 月 27 日) ・日本経済新聞 「関西電力、電力小売り、タイで拡大」 (2005 年 7 月 2 日) ・日本経済新聞 「大ガス、海外投資を加速―関電はアジアで発電所、大型 水力など、技術の伝承図る」(2005 年 10 月 21 日) ・日本経済新聞 「タイ発電会社、能力6割増強、関電など出資」(2013 年 179 2 月 15 日) ・日本経済新聞 「関電、高効率火力、タイに完成」(2013 年 10 月 22 日) ・日本経済新聞 「シンガポール電力最大手、丸紅・関電などが買収、5社 連合2730億円」 (2008 年 9 月 6 日) ・日本経済新聞 「九電、海外拡大へ情報拠点、シンガポール社共同買収」 (2008 年 9 月 6 日) ・日本経済新聞 「三菱商事など3社、発電設備560億円受注、シンガポ ール社から」(2008 年 9 月 30 日) ・日経産業新聞 「関電、タイ電力会社に出資」(2003 年 2 月 27 日) ・日経産業新聞 「関電、シンガポールで、発電所コンサル受注」(2001 年 11 月 20 日) ・日経産業新聞 「シンガポール電力会社、丸紅などへ売却、テマセクが3 000億円で」(2008 年 9 月 8 日) ・日経産業新聞 「丸紅、海外発電を加速、安定収益に期待、資源依存から 脱却の武器に」(2008 年 12 月 12 日) ・日経産業新聞 「シンガポールの電力に技術供与、関電、配管の腐食防止」 (2011 年 8 月 3 日) ・国際協力銀行 広報誌「JBIC Today」(2011 年 11 月号) ・bloomberg.net 「マレーシアのYTL、シンガポールのパワーセラヤを買 収-2198 億円で」(2008 年 12 月 2 日) ■中部電力 ・中部電力決算短信平成 26 年 3 月期 ・中部電力 HP ・中部電力グループ アニュアルレポート 2014 ・中部電力プレスリリース 「中部電力グループ 経営ビジョン 2030」の策 定について」(2011 年 2 月 24 日) ・中部電力プレスリリース 「タイ国・太陽光発電事業への参画」(2013 年 2 月 26 日) ・中部電力プレスリリース 「タイ国・メガソーラー発電所のすべての商業 運転を開始」(2013 年 6 月 21 日) ・中部電力プレスリリース 「オマーン国・スール発電事業の事業権獲得に ついて」(2011 年 7 月 14 日) ・日本経済新聞 「タイで太陽光に出資、中部電、数十億円規模」(2013 年 2 月 27 日) 180 ・日本経済新聞 「タイ、太陽光発電広がる、政府買い取り優遇、中部電な ど稼働」(2013 年 7 月 16 日) ・日本経済新聞 「オマーンの電力事業、国際協力銀など、960億円協調 融資」(2011 年 11 月 22 日) ・日本経済新聞 「オマーンでガス発電、丸紅と中部電、事業費1200億 円、カタール政府系と」 (2011 年 6 月 14 日) ・日経産業新聞 「メガソーラー、タイで全て稼働、中部電が出資の6カ所」 (2013 年 6 月 25 日) ■三菱商事 ・三菱商事決算短信平成 26 年 3 月期 ・三菱商事 HP ・三菱商事 「統合報告書 2014」 ・三菱商事プレスリリース「世界最大級の太陽光発電事業をタイで開発」 (2010 年 7 月 1 日) ・九州電力株式会社プレスリリース「海外 IPP 事業 メキシコ・トゥクスパ ン 2 号・5 号プロジェクトの出資持分の追加取得について」(2006 年 3 月 1 日) ・シャーププレスリリース「約 84MW の大規模太陽光発電所が完成」 (2013 年 5 月 29 日) ・日経ビジネスオンライン「世界のインフラ・ビジネスで輝く日本力電力編」 http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/a00h/106149/p1.html ・日経ビジネスオンライン「世界のインフラ・ビジネスで輝く日本力電力編 ④積み上げた信頼と実績を IPP 事業に活かす」 http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/a00h/106149/p4.html ・日経ビジネスオンライン「世界のインフラ・ビジネスで輝く日本力電力編 ③成長する東南アジア市場へ」 http://special.nikkeibp.co.jp/ts/article/a00h/106149/p3.html ・日本経済新聞「三菱商事、メキシコで発電事業、25 年の売電計画―総事業 費 3 億ドル」(1999 年 5 月 13 日) ・日本経済新聞「九州電力、メキシコで火力発電―三菱商事の事業に出資」 (1999 年 6 月 30 日) ・日本経済新聞「三菱商事と九州電力、メキシコで天然ガス発電」(2003 年 12 月 19 日) ・日本経済新聞「メキシコの発電所、九電の出資 5 割に」 (2006 年 3 月 2 日) ・日本経済新聞「九州電力、メキシコの発電所が稼働」(2006 年 9 月 5 日) 181 ・日本経済新聞「三菱重工、新型火力発電所、メキシコで受注」(2006 年 2 月 8 日) ・日本経済新聞「メキシコで風力発電、三菱商事、事業費 800 億円、中南米 で最大規模」(2012 年 2 月 25 日) ・日本経済新聞「三菱商事、東南アで発電事業、780 億円投資、香港社と合 弁」(2006 年 3 月 23 日) ・日本経済新聞「三菱商事、ベトナムで電力合弁、現地公社などと、総事業 費 2000 億円」(2008 年 10 月 9 日) ・日本経済新聞「三菱商事、ベトナムで電力合弁発表」 (2008 年 10 月 10 日) ・日経産業新聞「九電、メキシコで発電事業参加」(1999 年 7 月 1 日) ・日経産業新聞「九電、メキシコの発電事業、三菱商事と共同出資」 (2001 年 3 月 13 日) ・日経産業新聞「九電、メキシコ火力、営業運転開始」(2002 年 1 月 7 日) ・日経産業新聞「三菱重工、メキシコで受注―最新発電プラント 300 億円で」 (2004 年 8 月 20 日) ・日経産業新聞「メキシコ発電所事業、出資 5 割に引き上げ―九電、三菱商 事から取得」(2006 年 3 月 3 日) ・日経産業新聞「天然ガス発電所、営業運転を開始―九電出資、メキシコで」 (2006 年 9 月 6 日) ・bloomberg.net「三菱商事と香港のCLP、資産交換へ-合弁企業ワンエナ ジーを再編」(2011 年 2 月 23 日) ■三井物産 ・三井物産決算短信平成 26 年 3 月期 ・三井物産 HP ・三井物産アニュアルレポート 2014 ・三井物産アニュアルレポート 2013 ・三井物産会社案内 ・三井物産プロジェクト本部事業説明会資料 ・日経ビジネス 者 コラム「特集 -ゼロからの挑戦 ・日本経済新聞 経済新聞 「ニッポン」を売り込め 海外営業の先駆 武器は手の内にあり-」(2012 年 06 月 25 日号) 「三井物産、ブラジル製紙にガス供給」(2011/09/13 日本 朝刊 15 ページ) ・日本経済新聞 「三井物産、15%出資、メキシコ、ガス配給最大手に」 (2012/09/20 日本経済新聞 朝刊 9 ページ) 182 ■丸紅 ・丸紅決算短信平成 26 年 3 月期 ・丸紅 HP ・丸紅 HP プレスリリース 「カンボジア・100MW 石炭火力発電事業及び 送電事業への出資参画について」(2014 年 6 月 2 日) ・丸紅 HP プレスリリース 「フィリピン共和国 パグビラオ石炭発電所の 増設について」(2014 年 5 月 30 日) ・日経ビジネスオンライン ・日本経済新聞 丸紅・朝田照男社長に聞く(2013 年 3 月 25 日) 成長期の東南アジアどう攻める-丸紅社長 朝田照男氏 (2013 年 1 月 20 日) ・日本経済新聞 「カンボジアで電力参入、丸紅、現地大手に2割出資」 (2014 年 5 月 31 日) ・日本経済新聞 「東電、海外投資を再開、フィリピンで丸紅と火力、事業 費1000億円」(2014 年 5 月 30 日) ■豊田通商 ・豊田通商決算短信平成 26 年 3 月期 ・豊田通商 HP ・ユーラスエナジーHP ・豊田通商プレスリリース 「豊田通商 ケニア最大の地熱発電プロジェク ト受注~豊田通商初の地熱発電プロジェクト~」(2011 年 11 月 7 日) ・中部電力プレスリリース 「タイにおける火力発電事業への参画について ~当社初の海外発電事業~」(2001 年 8 月 16 日) ・三菱重工業プレスリリース 「タイ向け 1,400MW コンバインドサイクル 発電所建設を受注」(2005 年 5 月) ・国際協力銀行プレスリリース 「タイにおける民活型天然ガス焚き複合火 力発電事業に対するプロジェクト・ファイナンスの供与」(2005 年 12 月 14 日) ・日本経済新聞 「ケニアの地熱発電受注、豊田通商、300 億円、韓国社と」 (2011 年 11 月 8 日) ・日本経済新聞 「豊田通商、ナイロビ事務所を現法化」(2012 年 10 月 26 日) ・日経産業新聞 「トーメン、タイで発電事業、豊通・中電も出資――20 05年メド稼働」(2001 年 8 月 17 日) ・日経産業新聞 「中部電、海外事業に本腰、自由化で積極姿勢」(2004 年 2 月 20 日) 183 ・日経産業新聞 「豊田通商、ケニアの地熱発電受注」 (2011 年 11 月 8 日) ■GDF Suez ・GDF Suez Annual Report2013 ・GDF Suez Annual Result2013 ・Why GDF Suez CEO Gérard Mestrallet Likes Emerging Market (Institutional Investor. Sep2011) ・GDF HP ・石油天然ガス・金属鉱物資源機構「欧州:GdF による Suez の買収-外 資・ファンドからの買収防衛-」(2008 年 1 月 24 日) ■EDF ・EDF 2013Facts&Figures ・EDF プレスリリース ・EDF Annual Report2013 ・EDF HP ・MECONG Energy HP ・経済産業省 平成 23 年度政策評価調査事業:「諸外国における国営企業・ 特殊会社形態の企業体のあり方に関する調査」(2012) ・日経金融新聞「三井住友銀、3億ドル、対ベトナム融資拡大―発電向けと りまとめ」(2003 年 1 月 21 日) ・東京電力 HP ■Enel ・Enel IR 資料 2014-2018 Plan ・Enel Annual Report2013 ・Enel プレスリリース ・Enel HP ・bloomburg.net「伊エネルとスペインのアクシオナ:エンデサめぐる買収合 戦に勝利へ」(2007 年 4 月 3 日) ・日本経済新聞「伊電力エネル、設備投資を新興国へシフト」(2014 年 6 月 10 日) ■E.ON ・E.ON HP ・E.ON Facts and Figures2014 184 ・E.ON プレスリリース ・E.ON Annual Report2013 ・ENEJISA HP ・bloomburg.net ・日本経済新聞「欧州エネ大手、域外攻勢、収益源広げる―独エーオン、仏 GDF スエズ」(2013 年 5 月 18 日) ■RWE ・RWE HP ・RWE Facts and Figures2014 ・RWE プレスリリース ・RWE Annual Report2013 ・Excelerate Energy HP ■Duke Energy ・Duke Energy HP ・Duke Energy プレスリリース ・Duke Energy Annual Report2013 ・Duke Energy Sustainability Report2013 185 謝辞 本研究を完成させるにあたり、ご指導、ご助言をいただいた多くの皆さまに 感謝の意を表したい。 指導教授である小林喜一郎教授には、研究を進める上で適切なスケジュール 管理をいただき、また、私の問題意識に対して研究のアプローチ方法を示して いただき、研究と名の付くものをこれまで行ったことない私でも、その正確な レールに乗ることで研究を滞りなく進めることができた。毎週ゼミの時間にて いただく論文の進捗報告に対するご指導、ご助言について行くことに必死であ ったが、その適度な緊張感によって研究を継続でき、KBS の二年目を充実した ものにできたと考えている。また、副査をお願いした中村洋教授には、論文の ご指導、ご助言に加え、タイでのフィールドスタディにて、実際に新興国で働 いている日系エネルギー会社へのインタビューをする機会を頂戴し、また経営 環境の観点から新興国の経営環境についてご助言いただくなど、多くの学びを いただいた。もう一人の副査である浅川和宏教授には、国際経営の観点からや、 ご自身が造詣の深い欧州のエネルギー企業の直近の動向や、それを踏まえた多 くのアドバイスをいただいた。 また、本研究を進めるにあたり、M36 小林研究室の同期 4 名には、一年間大 変お世話になった。4 名全員が自身の論文だけでなく、メンバーの論文に対し ても深くコミットしており、そのいい刺激を頂戴することで自身のモチベーシ ョンを維持できたと考えている。菅原氏は、定量・定性双方の分析を行うなど、 他のメンバーより研究の負荷が高いも関わらず常に先行して研究を進め、論文 作成のペースメーカーとしていい刺激を頂戴した。松石氏は、自身の研究が忙 しい中でも私の研究内容を把握した上で、鋭い質問を頂戴し、私の研究に新た な示唆を与えていただいた。久保氏は、自身の研究が新興国企業ということも あり、新興国側の立場から多くの学びを頂戴した。齊藤氏は、ゼミでの鋭い質 問はもちろんのこと、タイでのフィールドスタディにて企業訪問を取り付けて いただき、その貴重な機会から新たな気付きを得ることができた。 加えて、会社で初めての企業派遣という身であったが、学業に集中できるよ う環境を整えていただき、慶應ビジネススクールでの二年間という貴重な時間 を頂戴した派遣元の東邦ガス株式会社に深く感謝をしたい。 最後に、初めて名古屋から離れ、不慣れな横浜での生活となったにも関わら ず二年間のビジネススクールの生活を支えてくれた妻・依里子、一年目の年度 末に産まれ、いつも笑顔をくれる娘・莉麻に本書を捧げる。 186 修士論文 『新興国におけるインフラ事業戦略~日本のエネルギー事業会社の新興国進出戦略~』 1. 問題意識/研究目的 問題意識 ■国内市場での成長性への懸念 ・国内市場の縮小:少子高齢化により総人口の減少と老齢人口比率の上昇 ・規制緩和による競争激化:独占市場の開放による新規参入企業の流入 ■海外成長市場における日本のエネルギー企業の進出の遅れ ・新興国市場での需要増:エネルギーインフラ整備への需要が旺盛 ・海外企業の積極的な進出:本国市場の自由化を契機とした欧米企業の世界進出 ・国内企業の無リスク経営体質:国内市場独占によりリスクを執った海外進出に消極的 研究目的 ■国内エネルギー企業の新興国進出における成功要因を見つけること 2. 先行研究/先行事例 先行研究 ■国の距離(ゲマワット(2009)) ・国ごとの差異を、文化的(Cultural)、制度的/政治的(Administrative/Political)、 地理的(Geographical)、経済的(Economic)という四つの側面(総称してCAGEと呼ぶ)に おける隔たりという観点からモデル化(CAGE) ・CAGEにより、それぞれの状況で鍵となる差異の特定が可能、類似している国か 異なる国かを識別する目安になり、国による差異の大きさの違いを考えることができる ■国の競争優位(ポーター(1992)) ・ある特定産業の国際的な成功要因は、四つの特性(要素条件、需要条件、関連支援産業、 ライバル間競争)で説明でき、一つの決定要因の効果は、他の要因の状態に付随して 動き、一つの要因での優位は、他の要因の優位を創造またはグレードアップさせる (=「ダイヤモンド・フレームワーク」) ■新興国ビジネスの特徴(天野(2010)) ・新興国市場参入時の企業の課題は、中間層市場形成のスピードと規模が先進国企業の 想定以上に速く対応が困難、既存先進国市場の修正に留まり中位以下の市場に大きく 浸透しない、新興国市場で十分な経営資源を割けない、これらの課題が解決されず後発国 企業にシェアを奪われる(=「新興国市場のジレンマ」(天野ほか,2009) ■インフラ・ビジネス(加賀(2013)、井川(2011)、江崎(2013)) ・長期的に安定した事業収入が可能、トレンドがない、大規模な初期投資が必要、為替変動 リスクがある、資産の分割・移動が困難、当局の規制左右されることが特報 ・日本企業はEPC(設計、調達、建設)が主であり、システム輸出、インフラ事業の運営を 行っている欧米メジャーに比較して後発 先行事例 ■水ビジネスの新興国進出戦略(バーロウ(2008)、中村(2010)) ・欧州の水メジャー企業の新興国進出事例からみた成功要因 ①ネットワークを活用した事業の民営化 ②事業の垂直統合化とトータルソリューション力 ③現地企業との合弁 ④長期契約などのリスクマネジメント 3. 分析のフレームワーク/関連図 分析のフレームワーク ■本国と進出国との距離 ・進出する新興国を選定する際に、CAGEが考慮がされているか、またどの要素を重視するか ■本国・進出国における協業 ・進出にあたり、本国及び進出国にてどのような企業と協業しているか また協業する/しない要因は何か ■自社保有資源・戦略 ・進出にあたり、どのよう内部資源を保有が必要か、どのような参入形態をとっているか、 また本国の事業領域と比較してどうか 関連図 4. 仮説 ■本国と進出国との距離 ・進出国選定にあたり、本国と進出国との、 【1-1】文化的距離(C)は考慮しないものの、制度的距離(A)、物理的距離(G)、 経済的距離(E)を考慮する 【1-2】CAGEのうち制度的距離(A)を最も考慮する ■本国・進出国での協業 ・新興国エネルギー事業に進出する際、 【2-1】本国関連・支援産業との協業が、進出を後押しする 【2-2】現地同業企業との協業が、進出を後押しする ■自社保有資源・戦略 ・新興国エネルギー事業に進出する際、 【3-1】トップのコミットメントや、現地ネットワークとリスクマネジメント能力を自社で 保有していることが進出を後押しする 【3-2】参入形態は、現地インフラ企業との合弁により参入する 【3-3】現地での事業領域は、本国の事業領域より限定される 5. 研究内容 研究方法 ・①日系エネルギー企業(5社)、②商社(4社)、③欧米系エネルギー企業(6社)の新興国 進出事例を調査(計15社)し、フレームワークに則り分析し、仮説検証を実施 事例研究 ■大阪ガス ・中期経営計画:海外エネルギー事業の強化を明記 ・現在の海外エネ事業:欧米、東南アジア中心に6か国にて発電・ガス供給・ES事業を展開 ・協業状況:本国及び現地企業と協業、ただしターゲット顧客によって協業相手を組換え ・参入形態:主に協業相手と合弁企業を設立し参入 <海外エネ関連事業の分布> <東南アジアにおける事業スキーム> ■三菱商事 ・中期経営計画:アジアにおける発電事業の強化を明記 ・現状の海外エネ事業:欧米・中南米・東南アジア中心に12か国にて主に発電事業を展開 ・協業状況:本国に限らずエネ企業と協業、現地企業と必ず協業 ・参入形態:協業企業と合弁企業を設立して参入 <メキシコでの発電事業スキーム> <東南アジアでの発電事業スキーム> ■EDF ・中期経営計画:欧州でのプレゼンス強化と新市場進出を明記 ・現在の海外エネ事業:欧米を中心に17か国へ進出、事業領域は欧州では電力事業全体、 欧州外では発電事業のみ ・協業状況:欧州では協業なし、欧州外では現地及び近隣エネ企業と協業 ・参入形態:欧州では現地エネ企業買収、欧州外では協業企業と合弁企業を設立して参入 <地域別バリューチェーン 小林喜一郎研究室 戸谷好孝 5. 研究内容(続き) まとめ 6. 結論 新興国進出戦略の成功要因 ①進出地域の選定(どの国・地域へ進出すべきか?) •CAGE全てを考慮するものの、Aを最も考慮した地域選定をする •本国と進出国とでCAGは近い国を、Eは差のある国(格差のある国)を選定する ②本国・進出国での協業(協業要否の決定要因は?) ・本国企業との協業要否は、自社エネルギーバリューチェーンの保有状況による ・進出国企業との協業要否は、進出国市場におけるターゲット顧客による ③自社保有資源(保有すべき内部資源は何か?) •自社トップのコメットメントは必須 •事業運営ノウハウ、現地ネットワーク、リスクマネジメント力は、協業企業から獲得可 •ただし、協業相手と補完関係にあることが必要(自社コアコンピタンスの保有要) ④参入形態(どのように参入すべきか?) ・参入形態は、「合弁」、「買収」の二種類 ・どちらを参入形態を選択するかは、現地での進出事業領域の幅による ⑤進出事業領域 ・発電事業など中流事業を基軸として進出 新興国進出戦略 ・「本国でのアライアンスの有無」と、「現地でのエネルギーバリューチェーンの範囲」 によって、4つの戦略にパターン分けされる ・各企業グループは、各々の特徴から4つの戦略パターンを各々使い分けて進出 日系エネ企業は、「本国協業型合弁戦略」 商社は、「合弁戦略」(本国協業有無を問わない) 欧米系エネ企業は、「本国非協業型戦略」(地域によって合弁/買収を使い分け) 7. 日本企業(自社)への提言 早期に新興国へ進出すべき ・エネルギー事業は、差別化困難であり、大規模な投資が必要 ・進出地域における参入企業は少数かつ、先行企業は市場のルールを形成 ⇒進出国市場における差別化が図れ、先行者利益を享受できる 現地エネ企業を補完する事業にて進出すべき ・新興国はエネルギー需給が逼迫し調達に苦慮しているため、それを支援する事業 ⇒LNG調達及びLNG基地運営事業で進出(参入形態は現地企業と合弁) トップの明確なコミットメントと組織体制の変革を行うべき ・高リスクな新興国進出だからこそ、トップの長期的かつ強固がコミットメントが必要 ・既存国内事業と異なるロジックを採用できる体制にするため、海外事業の専従組織を構成 ⇒意思決定の迅速化が図れる ■前提条件:本国市場における潤沢なキャッシュの創出 ・高リスクかつ多大な投資が必要な新興国進出は、本国市場にて投資原資の獲得が必須 ⇒ポートフォリオ管理の徹底により戦略的優先事項に対して重点的な投資が可能 8. 本論文の限界 ・エネルギー事業特有のものであり、他業種への汎用性はない ・国際事業戦略のうち初期進出戦略に特化しており、その後事業展開手法への言及がない