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1 クリティカル領域(救命センター)における実習環境作りに関する活動

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1 クリティカル領域(救命センター)における実習環境作りに関する活動
クリティカル領域(救命センター)における実習環境作りに関する活動
中堅~若手スタッフが学生指導にプラスイメージを持つための取り組み
広島大学病院
野上 輝美
Ⅰ.背景・動機
私が所属している高度救命救急センターでは、常に生命の危機的状況にある患者への看護を実
践している。そのため、2~8年目の若手スタッフは自己研鑽や自己学習へ関心が向けられる傾
向がある。また、スタッフは日々の業務をこなすことで精一杯で余裕がなく、逆に自分の業務は
確実に行うが、他のことには関心がないといった、一部のスタッフもおり、病棟全体で実習指導
に取り組めているとは言い難い。また学生指導には、臨地実習担当者が学生指導に適していると
判断される一部のスタッフに割り振られる傾向があるため、学生指導に関わるスタッフには全体
としては偏りが生じている状況がある。これらの現状においては、若手~中堅スタッフの中には
学生指導をすることに負担を感じる傾向が強いと考えられた。そこで、スタッフが学生指導をす
ることにより日々の看護や看護観の振り返りとなり、教えることで自己の知識や技術の習得や再
確認の機会になるなどの効果を認識できれば、スタッフの学生指導への負担感をプラスイメージ
へと変えることが可能になるのではないかと考えた。またそのことが結果的にスタッフの学生指
導への関心を高め、実習環境が整うことに繋がるのではないかと考えた。
Ⅱ.意義
実習指導に関する意識調査を行うことによりスタッフがこれまでの学生指導に対する自己の関
わりを振り返ることができる。また、実習指導に関する知識を得ることで自己の役割を理解し、
実習指導への関心が高まるとともに、実習指導に対するスタッフの意識改革が図れる。また、中
堅~若手スタッフが学生指導を通して自己の役割を遂行していくことが自己成長にも繋がると認
識することで個々のスキルアップへの動機づけとなり、結果的に良い実習環境作りへと繋がる。
Ⅲ.目的
中堅~若手スタッフが、実習指導について学び、学生への指導が自己成長にも繋がる
ことを認識し、実習を受け入れる環境が整う
Ⅳ.目標
1.中堅~若手スタッフが臨地実習における自己の役割を理解し、実習指導に関心を持つ
2.中堅~若手スタッフが学生を指導することが自己成長にもつながると認識でき、プラスイ
メージを持つことができる
1
Ⅴ.方法
1.実習指導に関する意識調査を行う。調査の時期は実習開始前の8月と全実習終了後の 12
月の2回実施。調査対象は1年目、副師長、専任実習担当者を除いた病棟スタッフとした。
2.意識調査(アンケートⅠ)の内容を踏まえて、実習開始直前と開始後にスタッフ全員が参
加できるように勉強会を2回実施。
3.実習終了後の 11 月末~12 月諸旬に再度意識調査(アンケートⅡ)を実施
Ⅵ.評価方法
アンケートⅠ、Ⅱをそれぞれ集計し、目標1と2がどの程度達成できたかを、勉強会後に実習
を受け入れした後のアンケート結果と比較して、以下の 4 項目の視点で評価を行う。また、ア
ンケートの自由記載の内容からスタッフの意識や関心がどのように変化したかを考察する。
<評価の視点>
1)学生の特徴や効果的な指導、自己の役割について理解できたか
2)実習への関心や意識がどう変化したか
3)実習指導が自己の成長に役立つと認識できたか
4)今回の取り組みが良い実習環境作りにつながったか
Ⅶ.実践内容
1.アンケートⅠの実施
実施目的は、実習指導に対する現在のスタッフの関心や認識に関する現状を知ること、ス
タッフの学習ニーズに合致した勉強会を開催することとし、アンケートⅠ(資料1)を実施
した。
2.2 回の勉強会開催
2 回のアンケートを集計した結果を検討し、勉強会資料を作成、9 月末に 1 回目の勉強会を
実施した。しかし、開催中スタッフの反応が良くなかったことや、実施後の講評で、勉強会
の内容に概論的なものが多く実践に活用しづらいなどの意見があった。そのため勉強会の内
容にアンケート結果が十分に活かされておらず、スタッフの学習ニーズに合致してないので
はないかと考えた。そこで、アンケートⅠの選択項目と、記述内容をさらに詳しく集計・分
析し直した。特に記述内容に関しては、「スタッフが実習指導に現在感じていること」につ
いての記述内容を、「指導内容の疑問・不安について」、「スタッフの実習指導における自
己の役割の認識」、「臨地担当者の役割についての認識」、「実習指導についてスタッフの
知りたい知識」、「臨地担当者への要望・その他コメント」というカテゴリーに分類して、
他のスタッフが実習指導に対してどのような認識や疑問を持っているかを紹介した。さらに
アンケート結果とカテゴリー化した内容に基づいて勉強会内容を再度検討し、計画に挙げて
いた 5 項目の講義内容を全て自部署の現状に即した内容に変更することで、スタッフが共通
2
認識を持てるよう工夫した。その後 11 月に修正した内容で 2 回目の勉強会を実施した。内
容を変更したこともあり、参加できなかったスタッフにも勉強会資料を読んでもらえるよう
資料を提示し、
さらに、
いつでも閲覧できるように共有のパソコンに勉強会資料を搭載した。
3.アンケートⅡの実施
実習終了後の 12 月初旬にアンケートⅡ(資料2)を実施した。
Ⅷ.結果
アンケートの対象人数は 31 名、アンケート回収数は 26 名で 81%であった。看護師経験年数
は 2~5 年目スタッフが 51%で半数以上を占め、年齢は 22~25 歳が約 40%、救命センター経験
年数では 1 年未満~2 年目で約 40%であり、年齢が若く、救命センターでの経験年数の比較的浅
いスタッフが多いという特徴を持つ職場であった。またアンケートⅠの結果を分析した結果、経
験年数・年齢から、「指導することに不安がある」の項目にのみ有意差があったが、アンケート
Ⅱでは同条件での優位差はなかった。次に、実習指導に対するスタッフの認識と関心の程度につ
いては「看護系大学の基礎看護教育に関心がある」、「実習要項を読んだことがある」、「実習
要項の内容は理解している」、「学生の実習目標を理解している」、の全ての項目で勉強会後に
は「はい」と回答したスタッフが増加していた(図 1 参照)
図1
次に、学生担当となった時の印象については、「うれしい」と答えた人が 3%から 16%に、
「学生指導は自分の学びにつながると思う」との回答が 34%から 58%、「自己の振り返りとな
り自己成長につながる」との回答が 34%から 50%にそれぞれ増加した。また、「ちょっと面倒
だと感じる」が 23%から 16%に、「指導するのは忙しくて負担になる」が 15%から 12%と若
干減少し、「将来ここに就職してもらいたい」が 0%から 12%に増えた(図 2 参照)。
図2
3
また、勉強会の効果については、「学生指導に関する理解が深まったか」、「学生指導に対
する不安や疑問はある程度解決したか」、「学生の特徴や効果的な指導についてある程度理解
できたか」、「学生指導における自己の役割について理解が深まったか」、「専任担当者の役
割について理解が深まったか」、「学生指導に対する負担感の軽減につながったか」、の全て
の項目において「はい」と回答した人がほぼ 8 割を超えた(図 3 参照)。
図3
臨地実習に対するイメージについては、
「以前と比較してプラスイメージとなった」が 35%、
プラスイメージとまではいかないがマイナスイメージは軽減した」が 43%、「あまり変わらな
い」が 22%という結果となった。
Ⅸ.評価
1)「学生の特徴や効果的な指導、自己の役割について理解できたか」について
勉強会の効果については「学生の特徴や効果的な指導についてある程度理解できたか」、「学
生指導における自己の役割について理解が深まったか」の質問に「はい」と答えた人がそれぞれ
87%(21 名)であった。また、学生担当となった時の印象について「何をどこまで指導すればよ
いか解らない」と答えた人が 65%から 54%に減少していた。これらは、アンケートの結果より
スタッフが実習指導について知りたい知識として挙げていた、自部署における実習要項や今年度
のカリキュラム、救命センターで実際に学生に経験してもらうケアやそのポイントについて詳細
に説明した効果であると考えられた。さらに学生の学習過程がイメージしやすくなるよう、学生
が実習中にどのように学んでいくかを実際の学生の実習記録から抜粋したものを用いて説明する
ことで学生の特徴が理解でき、効果的な指導をするために必要な知識を得られたことにより実習
指導における自己の役割についての理解が深まったと考えられる。
2)実習への関心や意識がどのように変化したかについて
実習への関心・認識についての項目で「看護系大学の基礎看護教育に関心がある」が 46%から
60%、「実習要項を読んだことがある」が 80%から 95%、「実習要項の内容は理解している」
が 42%から 62%、
「学生の実習目標を理解している」が 65%から 83%に増加していることから、
臨地実習を受け入れる病棟スタッフとして、学生が実習で何をどの程度学ぼうとしているか、ま
たスタッフ自身がどのように指導すればよいかを自ら情報を収集し準備することの必要性を自覚
した結果であると推察され、実習への関心が高まったと言えるのではないかと考える。
4
3)実習指導が自己の成長に役立つと認識できたかについて
学生担当となった時の印象についての項目のうち、「自己の振り返りとなり自己成長につなが
る」が 34%から 50%に、「学生指導は自分の学びにつながると思う」が 34%から 58%に増加し
ていた。重症患者を担当しながら学生を担当となった場合、スタッフの業務的な負担はかなり増
大することになり、特に若手スタッフには過大な負担となる。しかし、逆に考えると、そのよう
な状況の中で実際に学生を任され、看護ケアの技術や知識を指導することで業務と指導の多重な
課題をこなせるという自身の実践能力アップにもつながり、さらに看護の振り返りや新たな知識
を得る機会となるなどの自己成長を実感できる体験ができたのではないかと考えられる。
4)今回の取り組みが良い実習環境作りにつながったかについて
1)~3)の視点による評価から、学生の特徴や効果的な指導についてある程度理解でき、学生
指導における自己の役割について理解が深まり、事前に実習要項を読み実習目標などの把握を試
みるようになったなどの点で、スタッフの実習指導への関心が高まったと考えられた。さらに実
習指導が自己の成長に役立つと認識できたスタッフが増加していたことより、実習を受け入れる
環境が整うことにつながったと考えられる。また以前と比較してプラスイメージとなったが 35%、
プラスイメージまでとはいかないがマイナスイメージは軽減したが 43%という結果より、スタッ
フが学生指導は自己成長にもつながると認識でき、プラスイメージを持てるようになり良い実習
環境作りへつながる実践となったと考えられる。
Ⅹ.まとめ・今後の課題
今回の実践ではある程度の目的達成ができたと評価できたが、中堅~若手スタッフには実習指
導に対する負担感や不安感、実践能力の未熟さなどの問題がある。そのため、スタッフの意識改
革を図っていくためには、今後も継続して活動を行っていくことが重要であると考える。
5
<参考文献>
1)青木きよ子,吉田澄恵,高谷真由美,桑子嘉美,野田里美,益田美津美,岡田綾,山本育子:
看護実践能力を育むために体験型実習を取り入れた成人看護実習の取り組み,順天堂大学医療
看護学部,医療看護研究,第 3 巻 1 号,p.76,2007
2)文部科学省:大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会最終報告,2011 年 3 月
11 日
3)松永有紀,室谷和子:成人看護実習(急性期)における学生の看護技術の実態,J UOEH
(産業医科大学雑誌)30(3):359-372,2008
4)深田順子,熊澤友紀,吹田麻耶,鎌倉やよい,竹内麻純,鈴木さおり,兵頭千草:看護基礎
教育における周術期の臨床判断力の向上を目指した教育実践,愛知県立大学看護学部紀要 Vol.
16,31‐39,2010
5)舟島なをみ編集:院内教育プログラムの立案・実施・評価,日本型キャリア・ディベロップ
メント支援システムの活用,医学書院,2007
6)山上美恵子:後輩のモデルとなる中堅ナースの育成を試みて,ポートフォリオ研修の導入と
主任会の活性化,看護実践の科学,Vol.36,No.4,2011‐4
7)大池美也子,末次典恵:集中治療室の見学実習における看護学生の学び,看護学生によるレ
ポートの分析から,九州大学医学部保健学科紀要,2004,第 3 号,77-84
8)落合幸子,紙谷克子,マイマイティパリダ,落合亮太,本多陽子,藤井恭子:エキスパート・
モデルが看護学生の職業的アイデンティティに及ぼす影響,自己 効力感・評価懸念との関連
からみた効果,茨城県立医療大学紀要,第 11 巻
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(資料1)
学生指導に関するアンケート
平成 23 年 8 月
野上輝美
先日お伝えしました臨地実習指導に関する現状把握のため、スタッフの皆さまに実習指
導に関する意識調査をお願いしたいと思います。お忙しいと思いますが、後輩育成のため
よい実習環境となるよう参考とさせて頂きたいと思いますのでご協力お願いします。
※なお、アンケートの結果は、個人を特定するものではなく、今回の目的以外には一切使
用しないことをお約束します。
1.経験年数(
2.年齢(
年目)
歳)
3.自部署での経験年数(
年)
4.現在の看護系大学の基礎看護教育について関心がありますか?(ある・ない)
5.実習要綱を読んだことがありますか?(ある・ない)
6.実習要綱の内容は理解していますか?(はい・いいえ)
7.実習要綱の内容は分かりやすいですか?(分かりやすい・分かりにくい)
8.学生の実習目標・学習目標を理解していますか?(はい・いいえ)
9.学生実習が始まると通達があった時どう感じますか?自由にお書きください。
(
)
10.実習指導で学生担当をしたことがありますか?(ある・ない)
11.学生担当となった時どう感じますか?(複数回答可)
①うれしい
②ちょっと、面倒だと感じる
③学生指導は自分の学びにつながると思う
④学生指導をすると初心に戻れて刺激となる
⑤自己の振り返りとなり自己成長につながる
⑥より自己学習が必要だと思う
⑦何をどこまで指導すればよいか分からない
⑧学生にいろんな知識を教えたい
⑨指導する事に不安がある
⑩将来ここに就職してもらいたい
⑪指導するのは忙しくて負担になる
⑫その他(自由にお書きください)
(
)
12.現在の指導体制についてお答えください
①臨地指導担当者の体制は問題ない(はい・いいえ )
②患者を担当しながら学生を指導するのは大変だ(はい・いいえ)
③学生には良い学びになっていると思う(はい・いいえ)
④学生にゆっくり関わる時間がない(はい・いいえ)
※ウラ面もあります
⑤継続した指導ができている(はい・いいえ)
⑥実習修理料後、学生の評価をするのに十分な情報を得ることができている
⑦教員と臨地担当者と病棟スタッフの連携が取れている(はい・いいえ)
13.学生を担当していて問題だと思う事、気になる事はありますか?
14.臨地担当者の役割をどのように考えているかお書きください
15.実習での自己の役割と考えていることを教えてください
16.臨地実習について学びたいこと、知りたいことについて教えてください
17.その他、実習体制についてご意見・感想などがありましたら、お聞かせください
ご協力、誠にありがとうございました
(資料2)
実習指導に関するアンケートⅡ
平成23年12月
担当:野上
 スタッフのみなさまのご協力により無事に学生実習が終了しました。お手数ですが再度、アンケートにご協力下さい
※アンケートの結果は3月2日千葉大学院看護学研究科で行われる臨地実習指導者研修報告会の資料とさせて頂きます。個人が特定されることはありません
1.経験年数(
年目)
2.年齢( 歳)
3.自部署での経験年数( 年)
4.現在の看護系大学の基礎看護教育について関心があり
ますか?
(ある・ない)
5.実習要項を読んだことがありますか?(ある・ない)
6.実習要項の内容は理解していますか?
(はい・いいえ)
7.実習要項の内容は分かりやすいですか?
(分かりやすい・分かりにくい)
8.学生の実習目標・学習目標を理解していますか?
(はい・いいえ)
9.実習指導で学生担当をしたことがありますか?
(ある・ない)
11.学生担当となった時どう感じますか?(複数回答可)
①うれしい
②ちょっと、面倒だと感じる
③学生指導は自分の学びにつながると思う
④学生指導をすると初心に戻れて刺激となる
⑤自己の振り返りとなり自己成長につながる
⑥より自己学習が必要だと思う
⑦何をどこまで指導すればよいか分からない
⑧学生にいろんな知識を教えたい
⑨指導する事に不安がある
⑩将来ここに就職してもらいたい
⑪指導するのは忙しくて負担になる
⑫その他(自由にお書きください
12.現在の指導体制についてお答えください
①臨地実習指導の体制は問題ない
(はい・いいえ)
②患者を担当しながら学生を指導するのは大変だ
(はい・いいえ)
③専任者の実習中のサポートは適切だと思う
(はい・いいえ)
④その日の実習終了後、専任担当者より指導についての
フィードバックがある
(はい・いいえ)
13.「臨地実習指導の勉強会」に参加した方、または勉
強会資料を読んだ方に質問します
①学生指導に関する理解が深まりましたか(はい・いいえ)
②学生指導に対する不安や疑問はある程度解決しましたか
(はい・いいえ)
③学生の特徴や効果的な指導についてある程度理解できま
したか?
(はい・いいえ)
④学生指導における自己の役割について理解が深まりまし
たか?
(はい・いいえ)
⑤専任担当者の役割について理解が深まりましたか?
(はい・いいえ)
※ウラ面もあります※
⑥学生指導に対する負担感の軽減につながりましたか?
(はい・いいえ)
⑦その他勉強会に関する意見や感想をお聞かせ下さい
⑧臨地実習に対するイメージについてお聞きします
1)以前と比較してプラスのイメージとなった
(はい・いいえ)
2)プラスイメージまでにはならないが、マイナスイメージは
軽減した
(はい・いいえ)
3)あまり変わらない
(はい・いいえ)
15.その他、実習体制についてご意見・感想などがありまし
たら、お聞かせください
ご協力ありがとう
ございました
担当:野上
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