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1 平成26年1月14日宣告 裁判所書記官 平成25年 第82号 判 決 主 文

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1 平成26年1月14日宣告 裁判所書記官 平成25年 第82号 判 決 主 文
平成26年 1月14 日宣告
裁判所書 記 官
平成25年  第82 号
判
決
主
文
被 告人を懲 役7年に 処する。
訴 訟費用は 被告人に 負担させ る 。
理
由
(犯罪事実 )
被告人は, 神戸市 a 区b町c 丁目d番 e 号にあるA 所有のレ ストラン 「B」( 木
造瓦葺2階 建,延床 面積約3 34.6 ㎡ )を焼損し ようと企 て,平成 24年2 月 1
4日午前4 時30分 頃,同所 で,同店 北 西側外壁周 辺に火を 放ち,そ の火を同 店 の
壁面,床面 及び天井 等に燃え 移らせ, よ って,現に 人が住居 に使用せ ず,かつ , 現
に人がいない建造物である同店を全焼させて焼損(焼損面積約204.6㎡)し
た。
(証拠の標 目)
省略
(争点に対 する判断 )
1
争点
判示の日( 以下「本 件当日」 という。 ) の未明頃( その時刻 の特定に ついては
次項のとお り)に判 示のレス トラン( 以 下「本件建 物」とも いう。) の北西側 外
壁周辺から出火し,その後本件建物が全焼したことは証拠上明らかであるとこ
ろ,その原 因が放火 (以下「 本件放火 」 という。) によるも のである ことも, 関
係証拠から 十分に認 定でき, 弁護人ら も これを特に 争ってい ない。し かし,被 告
人は,捜査 段階から 一貫して 本件放火 と は関係がな い旨供述 しており ,弁護人 ら
もこれと同 旨の主張 をするの で,以下 , 被告人の犯 人性につ いて検討 する。
2
本件放 火の犯行 時刻
本件放火に ついては ,本件建 物の北西 側 に隣接する アパート の住人が ,本件当
日の午前5 時10分 頃(以下 ,時刻の み をいう場合 は,原則 として本 件当日の そ
れである。 ),焦げ くさい臭 いがする こ とに気付き ,その後 何度も外 を確認し て
いて,本件 建物1階 北西側窓 付近から 炎 が出ている のを認め ,午前5 時33分 頃
に119番通報をしたものであるところ,次項で詳しく述べるとおり,被告人
は,午前4 時30分 前後頃の 約10分 間 ,本件建物 の周囲付 近にいた ことが認 め
られる。
そして,当 時本件建 物から北 側に十数 m 離れた東西 道路付近 を新聞配 達のため
通りかかっ たCは, 午前4時 45分前 後 頃に上記道 路付近で 火事独特 の臭いを か
いだと証言 している 。これに ついて, 弁 護人らは, 上記11 9番通報 の経緯等 か
らすれば,本件放火の犯行時刻は午前5時前後頃と考えるのが最も自然である
(これを前 提とすれ ば,被告 人は本件 放 火の犯人で はないこ とになる 。)と主 張
して,Cが 火事独特 の臭いを かいだと す る時刻の正 確性を争 っている 。
そこで,C 証言の信 用性につ いて検討 す ると,まず ,Cが火 事独特の 臭いをか
いだとする 点につい ては,C の消防団 で の長年の活 動経験等 に照らせ ば,その 信
用性に疑い はないし ,当時本 件建物の 周 辺地域で他 に火災が 発生した 事実が認 め
られないこ となども あわせ考 えれば, C がかいだの は本件放 火による 火災の臭 い
であったと 認められ る。そし て,Cは , その臭いを かいだと する時刻 の根拠と し
て,本件建 物の南東 側に配達 先のある マ ンションが あり,そ のエント ランスの ド
アが午前5 時になら ないと開 かないと こ ろ,いつも はそこの 配達を後 回しにし て
いるが,こ れまでに 何度か, 先に上記 マ ンション内 の配達が できない かと思っ て
上記の臭い をかいだ 道路付近 で時刻を 確 認したこと があり, それが午 前4時4 5
分前後頃で あったこ とが多い からであ る 旨証言して いる。と ころで, Cは,本 件
までに約6 年間,雨 の日を除 き毎日決 ま ったルート で新聞配 達をして おり,新 聞
販売所を出 る時刻と 同所に戻 る時刻も 順 に午前4時 頃と午前 6時頃に 決まって い
たこと,本 件当日は ,雨が降 っておら ず ,いつもの ルートで 新聞を配 達し,販 売
所における出入りも概ね上記各時刻頃であったと認められることなどからする
と,Cが火 事独特の 臭いをか いだとす る 時刻の点に ついても ,その証 言を信用 す
ることがで きる。
したがって ,弁護人 らの本件 放火の犯 行 時刻につい ての主張 は採用で きない。
そして,本 件建物の 北西側外 壁周辺の 状 況を再現す るなどし て実施さ れた燃焼 実
験の結果等 にも照ら せば,そ の犯行時 刻 が午前4時 30分頃 であった とみるこ と
も十分に可 能である といえる から,被 告 人が本件放 火の犯人 である可 能性は何 ら
排斥されな いという べきであ る。
3
本件当 日の被告 人の行動
そこで ,更に進 んで,本 件当日の 被 告人の行動 について 検討する と,以下 の

各事実が, 多数の防 犯カメラ による画 像 等の客観的 証拠等か ら明らか に認めら
れる。
被告人は, 本件当時 ,神戸市 f区内に 居 住していた が,午前 3時56 分頃,
その所有車両(以下単に「車」という。)を運転し第二神明道路g料金所を
通過した後,午前4時18分頃,本件建物のすぐ南側の道路から更に2本南
の道路上(同所から本件建物南側の正門前まで最短のルートを通った場合,
道路距離にして約129m,徒歩での所要時間1分半前後の場所)に車を停
めて降車した。そして,車の後背部のドアを開け,約53秒間そのドア付近
にとどまった後,運転席側のドアを開けるなどしてから,西側方向へ歩き出
した。
午前4時22分頃,被告人は,普段寝る際に着用するジャージ上下の格好
で,本件建物の南東側にあり上記正門前まで道路距離にして約25mの南北
道路上を,南から本件建物がある北に向かって歩いて通り過ぎた後,午前4
時34分頃,同道路上を逆に本件建物がある北から南に向かって歩いて通り
過ぎた。そ して,午 前5時1 6分頃, 上 記g料金所 を車で通 過した。

被告人の上記一連の行動に加え,被告人が,捜査段階の途中から,平成2
4年1月から本件当日までのいずれかの日の,上記と同じ時間帯の頃に,
当時の勤務先であった判示のレストランに行こうと考え,車で同店前まで来
て,そこに暫くいたことがあるなどと供述していたこと(なお,この供述
は,その中で述べる行動の時間帯等に照らして,被告人が前記防犯カメラに
よる画像等の客観的証拠の存在を取調官から知らされるなどしたことに対応
したものであることが認められる。)にも照らせば,被告人は,午前4時2
2分頃のすぐ後から同34分頃のすぐ前までの約10分間,少なくとも本件
建物の周囲付近にいたこと,そしてその行動の目的(以下「被告人の行動の
目的」という。)が,判示のレストランに関係するものであったことは明ら
かというべきである。また,被告人がそれまでに車で同店に来るときには,
本件建物北側の同店専用駐車場か本件建物のすぐ南側の道路にしか駐車をし
たことがなかったのに,上記のとおりわざわざ本件建物から100m以上
も離れた場所に車を停めたことからすれば,被告人の行動の目的が,何らか
の人に知ら れたくな いやまし いもので あ った疑いが 強い。

しかるに,被告人は,本件放火の嫌疑で逮捕・勾留された後も,当初,本
件放火のあった頃は自宅で寝ていたなどと,任意での取調べの時と同じ虚偽
の供述をしていただけでなく,その後,取調官から前記客観的証拠の存在を
知らされるなどしたのに,上記のとおりのあいまいな供述に終始し,本件
建物の周囲付近まで行った理由についても,その行動が真冬の未明頃に寝る
ときの格好のままで歩いて行きそこに暫くいたという極めて印象的なもので
あったはずであるのに,記憶がないなどと明らかに不自然な供述をしてい
た。
被告人のこ のような 供述態度 にも照ら せ ば,なおさ ら,被告 人の行動 の目的
としては,正に本件放火か,その他判示のレストランに関する何らかの犯罪
行為あるいはこれに類する相当後ろ暗い行為くらいしか想定し難いといわな
ければなら ない。

そこで,更に被告人の行動の目的として,本件放火以外にどのような犯罪
行為等が具体的に考えられるかについて検討すると,まず,本件建物への侵
入盗等の,建物内に侵入する態様での犯罪行為については,本件建物には警
備会社による防犯センサーが設置されていて,被告人もこのことを知ってい
たと考えられる上,実際にも,本件当日の本件建物内への侵入は消防隊員に
よるものまでなかったと認められるから,その可能性は否定される。また,
本件建物に対する外からの損壊行為や門扉等に対する破損行為なども証拠上
うかがわれない。そしてこのことは,判示のレストランの専用駐車場に停め
られていた同店の従業員らの車に対する車上荒らし等の犯罪行為についても
同様であるし,その他同レストランに関する他の犯罪行為等が目的であった
ことをうか がわせる 証拠は認 められな い 。
上記の考察に加え,前記2項のとおり,被告人は,Cが火事独特の臭いを
かいだ時刻から遡って約15分程度の近接した時刻頃に本件建物の周囲付近
に約10分間いたところ,本件建物北西側外壁周辺まで向かうための時間を
考慮しても,この約10分間の滞在中に本件放火を行うことは十分可能であ
ること等にも照らせば,結局,被告人の行動の目的として,本件放火以外の
ものは考え 難いとい うべきで ある。
4
被告人 以外の者 による犯 行の可能 性
なお,弁護 人らは, 本件放火 について , 被告人以外 の者によ る犯行の 可能性を
指摘すると ころ,そ の犯行場 所である 本 件建物北西 側外壁周 辺まで向 かうため に
は,同建物 南側から ,その西 側にある 長 さ約9mで かつ奥の 方で幅約 74cm 程
度の狭い敷 地部分を 通らなけ ればなら な いが,同所 には照明 がなく夜 間は真っ 暗
である上, エアコン の室外機 が3台と そ のホース等 が設置さ れている ため,こ れ
らを乗り越 えるなど しなけれ ばならな い ことからす ると,犯 人は,こ れらの状 況
をよく知っ ている判 示のレス トランの 従 業員等の同 店関係者 であると みるのが 自
然であり, 本件頃他 に本件建 物の周辺 地 域で発生し た放火事 件がなか ったこと に
も照らせば ,本件放 火が行き ずりの者 に よる犯行と みること は到底で きない。 ま
た,被告人 以外の上 記従業員 や一部の 元 従業員につ いては本 件当日の アリバイ が
あったこと などにか んがみる と,本件 放 火が被告人 以外の判 示のレス トラン関 係
者による犯 行である 具体的可 能性も認 め られない。
5
動機
さらに,弁 護人らは ,被告人 には本件 放 火に及ぶだ けの動機 はない旨 主張する
ところ,確 かに被告 人は,平 成23年 5 月頃から判 示のレス トランの 副料理長 候
補として同 店で働き 始めたD に対し, 平 成24年1 月以降, 投げやり な態度で 不
満等をぶつ けるなど したこと が何度か あ った反面, Dとは同 人が被告 人の自宅 に
泊まること もある間 柄であり ,同月に 被 告人が将来 同レスト ランを退 職したい 旨
の話をして いた際に は,Dが 半ばその 相 談に乗るよ うなこと もあった ことなど か
らすると, Dに対す る不満等 が上記動 機 となったと は考えに くい。
しかし,一 方,被告 人は,同 月24日 , 妻に対し自 身の仕事 について 「もうむ
りみたい… 」とのメ ールを送 ったり, 同 月又は翌2 月頃,右 手の拳で 血が出る ほ
ど同レスト ランの壁 を殴った こともあ る など,被告 人が遅く とも同年 1月末頃 ま
でには同レストランでの仕事に関して不満を抱くなどしていた事実が認められ
る。そして ,上記の 事実は, かえって , 被告人が本 件放火の 動機を有 すること を
うかがわせ るものと いえるか ら,弁護 人 らの上記主 張は採用 できない 。
6
結論
以上のとおり,被告人の行動の目的としては,本件放火以外のものは考え難
く,また, 上記4項 及び5項 の各事情 も 被告人が本 件放火の 犯人であ ることに 符
合する事情 であると いえる。
ところで, 本件のよ うに情況 証拠によ っ て有罪の認 定をする に当たっ ては,情
況証拠によ って認め られる間 接事実中 に ,被告人が 犯人でな いとした ならば合 理
的に説明す ることが できない (あるい は ,少なくと も説明が 極めて困 難である )
事実関係が 含まれて いること を要する と されている (最判平 成22年 4月27 日
刑集64巻 3号23 3頁)と ころ,既 に 見たように ,被告人 が,本件 放火の犯 行
時刻と考え ることが 十分可能 で,かつ 真 冬の未明頃 という時 刻に,わ ざわざ本 件
建物からか なり離れ た場所に 車を停め た 後,本件建 物まで歩 いて接近 し,その 周
囲付近に約 10分間 いた上, 被告人の こ のような行 動の目的 として, 本件放火 以
外のものは 考え難い という事 実関係は , 正に被告人 が本件放 火の犯人 でなけれ ば
説明するこ とができ ない(少 なくとも 説 明が極めて 困難であ る)事実 関係に該 当
するという べきであ るから, 被告人が 本 件放火の犯 人である ことは, 合理的な 疑
いを差し挟 む余地が ない程度 に立証さ れ ているとい える。
よって,被 告人は本 件放火の 犯人であ る と認められ る。
(法令の適 用)
省略
(量刑の理 由)
被告人は,本件放火により,神戸市の伝統的建造物で築100年以上の歴史を
有する本件建物を全焼させ,その所有者に約1億8000万円もの財産的損害を
与えるとともに,神戸市の象徴的な存在であり重要な観光資源でもある異人館の
一つを焼失させるという重大な結果を生じさせた。また,被告人は,未明頃を選
んで本件放火に及んでおり,偶々起きていて火災に気付いた隣家の住人が119
番通報をしていなければ,近隣の多数の住宅に延焼する可能性が高かったもので
あり,実際,大きく燃え上がるなどした炎はその後の消火活動によっても容易に
収まらず,近隣住民らにも相当額の延焼被害等を被らせており,その発生させた
公共の危険 の大きさ を軽視す ることは 許 されない。
これらの犯情に照らすと,本件は同種事案の中でも重い部類に属するというべ
きであるところ,更に一般情状について見ると,被告人が捜査段階から一貫して
犯人性を否認しており,本件放火に対する反省が全くうかがえない一方,被告人
に前科前歴がないことや2人の幼い子どもがいることなどの諸事情も認められる
ので,これ らをあわ せ考慮し て,主文 の 刑を科する のが相当 であると 判断した 。
(求刑
懲 役10年 )
平成26年1月14日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官
細
井
正
弘
裁判官
西
森
英
司
裁判官
尾
島
祐 太 郎
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