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ローラント・アイゼン - 国立社会保障・人口問題研究所
国立社会保障・人口問題研究所 第11回厚生政策セミナー 講演資料(2006年11月) www.wiwi.uni-frankfurt.de 人口の高齢化と不確実性 -社会保障の給付と負担が 企業行動と家族や社会ネットワークの リスクシェアリングに及ぼす影響- 教授・博士 ローラント・アイゼン 1 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de I. 問題の所在:高齢化の進展 II. 年金、健康保険、介護保険のための給与税 III. 社会保障の負担と給付 IV.経済の変化と高齢化の進展の不確実性 V. 医療給付と社会保障における変革 VI.むすび 2 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit I. 問題の所在 (1) www.wiwi.uni-frankfurt.de 工業国の人口は「二重の高齢化」(少子化&高齢化)をおこし、その帰結として二 つのシナリオが想定される • 悲観的シナリオ:貯蓄の増額が必要であるにもかかわらず成長率は低い、ある いはマイナス •原因は以下のような福祉国家の柱が全て「崩壊し始めている」から – 「通常の労働関係」 – 「働き手が一人の家族」 – 「生活基準保障」の原則 – 完全雇用の前提 3 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit I. 問題の所在 (2) www.wiwi.uni-frankfurt.de • 楽観的シナリオ: 人口の減少にもかかわらず、資本労働比率と技術発展(発明 、改革、模倣)により経済成長は加速。 ところが、これには第三のシナリオが-- • 社会変革シナリオ: – 知恵: 教育と研究開発への支出増加が有効になるために重要なのは 肉体ではなく頭脳 – 富: 蓄積パターン変化の必要性 – 健康: 世代間の公平性 悲観的シナリオと楽観的シナリオ→→ 問題の所在(3) 4 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit II. 年金、健康保険、介護保険のための給与税 www.wiwi.uni-frankfurt.de (給与に課す社会保障のための税または保険料負担) (社会保障の税率) b ⋅ wt −1 Rt −1 τ= × − ci wt Lt b ⋅ yt −1 Lt −1 τ = × − ci yt Lt ∗ ↑ IRR ↑ RQ t = 今, t-1 =1期前(例えば先月、前年) R = 退職者数, Lt = 就労人口 ci = 資本所得 (資本ストック調整を含む) w=賃金(給与) y=収入 IRR = 賃金所得代替率, RQ= 退職者割当 5 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de 1) IRR(賃金所得代替率)、RQ(退職者割り当)、τの間には厳密な関係がある と 想定: IRR IRR(2) IRR* τ(2) τ * RQ* RQ RQ(2) 2) しかしこれらの係数 (IRR, RQ)とポリシーパラメータ(τ, b)は内生的である (すなわち、モデル内において説明されなければならない)! 6 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de そこで私達は以下の点について結論を出さなければならない • Lt or Lt-1 : 誰がどれだけの期間、労働するか、労働できるか、労働すべきか? • Rt or Rt-1 : 平均寿命の伸びを鑑みるとき、退職が許される(あるいは強制される)のは何 歳か? wt(yt) or wt-1(yt-1) : 人口の変化は賃金率(w)や収入にどのような影響を及ぼすか? これ • は以下の点について複雑に関連している a) 資本ストック (資本集約度あるいは労働集約度、k) b) c) 技術的進歩 人的資源! y y = a*f(k) y = f(k) y* y w 7 凡例) α は金利を、AB は賃 α 金所得を示す。 α * Copyright R.Eisen / IPSS Seminar k* 2006 k Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de τ E ×N +E ×N = m m r r W ×N +R ×N m SHI m r r 凡例) τ = 健康保険と介護保険の (給与支払)税率 Ei = i に対する支出 = m, r (m=就労者、 r= 退職者) Wm = 就労者一人当たりの賃金 (所得) Rr = 退職者一人当たりの退職後の所得 Nm = 就労者数 Nr= 退職者数、 8 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de ドイツにおける社会保険としての健康 保険制度(SHI)の例 (DM:ドイツマルク) 支出 (SHI) Ø 支出 3,700 DM Ø 支出 6,960 DM Ø 税金 5,340 DM Ø 税金 2,750 DM Ø 黒字 1,640 DM Ø 赤字 4,210 DM C B A 20 9 50 平均寿命78 80 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 年齢 100 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de 社会保険としての介護保険制度 (DM:ドイツマルク) (SLTCI)の例 支出 (SLTCI) Ø 支出 (60歳未満) 180 DM Ø 税金 670 DM Ø 黒字 490 DM Ø 支出 (60歳未満) 1,520 DM Ø 税金 320 DM Ø 赤字 1,200 DM 平均寿命78 20 10 50 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 80 年齢 100 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de 人口統計学が示していること • 「就労者」あるいは現役の納税者の数は減少する • 高齢者あるいは退職者は増加する => (SHIとSLTCIの双方において) τは上昇する 11 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit 社会保険としての介護保険制度(SLTCI) www.wiwi.uni-frankfurt.de 3 -平均寿命と健康のための支出の関係- 2 健康のための 支出 4 1 50 20 12 平均寿命 100 80 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 年齢 平均寿命(の伸び) Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de 医療技術の革新的進歩 a) 平均寿命は伸びるが b) 支出も増加 (平均寿命と健康のための支出の関係のグラフの ライン 4 ではなくライン 3) 13 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit III. 社会保障の負担と給付 (1) www.wiwi.uni-frankfurt.de 「退職者の健康保険の給付費用・債務は(確定給付型)年金 の場合よりも速いペースで増大することが予想される」 (Schieber, 2004, p.75) => これらのリスクを回避するために、雇用主は退職者向 けの健康保険プランを縮小あるいは撤廃することを望むとい う可能性がある! 14 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit III. 社会保障の負担と給付 (2) www.wiwi.uni-frankfurt.de => 給与税(給与に課す社会保障負担)の税率を上昇させながら、退職年 齢を引き上げるか、あるいは普遍的給付を削減する(「個人の責任」に任 せる割合を増やす) => 給付の削減あるいは税金の引き上げを行わない限り、演算法則に従えば社会保障制 度に別の財源をつぎ込まなければならなくなる ⇒例) PSA (Personal Savings Account) (個人年金勘定や個人医療勘定など、個人保障勘定制度) => 税制優遇措置 国がこれらの別の制度に財源をつぎ込む(優遇税制する分だけ税収が減るという代償を払 う)その理由は、低賃金労働者が任意の貯蓄プラン(年金、健康保険)に加入しないという「 自然の傾向」が存在するから。 15 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit III. 社会保障の負担と給付 (3) www.wiwi.uni-frankfurt.de しかしながら、別の調査によると人口の伸び(人口の「二重の加齢/高齢 化」)が工業化諸国の潜在的成長を抑えるという結果が出されている。 例)旧EU加盟国15カ国の成長率は2004~2010年の2.2から2011~ 2030年では1.8に、さらに2031~2050年では1.3にまで落ち込むと予想 されている。 新規EU加盟国については4.3 (2004~2010年)から 3 (2011~2030年) そして 0.9 % (2031~2050年)に下落。 16 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit III. 社会保障の負担と給付 (4) www.wiwi.uni-frankfurt.de ・通常、理論上は人口の減少によって一人当たり投資資本が増加すると 論じるが、これらの投資がどのようになされるかは企業の利益予測に左 右され、主にそのマーケットの需要の伸びによって決定される。 ・人口減少によって需要構造の変化が起こるが、同様に総需要合計も縮 小する可能性がある! ・しかし、資本集約度(一人当たり資本ストック)の増加は、生産性向上の 可能性を増大させるため、生産と消費が拡大する! 17 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit Ⅳ.経済と高齢化の進展の不確実性 www.wiwi.uni-frankfurt.de ・生産性の成長、およびこれに伴う賃金の伸びは、過去を振り返ると大きな変動 を示してきた。(p.19のスライドの図) ・合計特殊出生率は、過去、2回大きな転換期を経て変化してきた。(p.20のス ライドの図) ・生産性の成長と合計特殊出生率のいずれについても、推計期間(2000年以降) には、いくつかの想定の下の推計値が示され、その結果には幅があることが分 かる。このことは、生産性の成長や人口変動にはそれぞれ不確実性があることを 示している。 ・不確実性のもとでのリスク・シェアリングのための対処法は、経済成長の問題と 人口問題とは個別になされることが好ましい。 18 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de 生産性上昇率の変動:2000年より前は実際の値、 2000年以降はいくつかの想定の下の推計値(推計結果には幅がある) 19 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit www.wiwi.uni-frankfurt.de とはいうものの、人口統計学的な結論それ自体には不確実性がある。 例)合計特殊出生率 (TFR)の変動 (推計期間に見られる上位、中位、低位の変動幅の例) 20 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit IV. 社会の変革 (1) www.wiwi.uni-frankfurt.de 変革 a) 生産セクターにおいて -> Hicks流に言えば誘発的技術進歩(参照: Drandakis/Phelps, EJ 1996 / d. Acemoglu, RES 2002)、稀少要素の生 産性 b) 健康保険制度の運用において: 医療技術の進歩、医薬品の進歩 問い: 製品変革か、それとも工程改革か? ただし、それらによって平均寿命は延びるが、同時に支出も増大する。なぜな ら、それらは付加的、相互補完的であり、互いに代替できるものではないから である。 21 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit IV. 社会の変革 (2) www.wiwi.uni-frankfurt.de それゆえ-- c) 社会的領域の変革 ここで議論は三つの方向に進む: (1) 中央集権型 vs. 分散型と関連費用 (2) 小規模なソーシャルネットワークの創出または自己組織 (3) 小規模なネットーワーク内における、かつまたネットワーク全体を通 じた社会的正義 22 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit IV. 社会の変革 (3) www.wiwi.uni-frankfurt.de ad 1) グローバリゼーションの流れは中央政府の政策を弱体化する が、地方自治体を強化?する(「造語:グローカリゼーション (“glocalization 」) ad 2) 健康保険と介護保険制度にとってこれらのプロセスは、保険管 理機構(HMO)、優先医療給付機構(PPO)等さまざまなマネージドケ アの形態を生み出すとともに、証票を使って雇用主やその他の社会 団体によって運営される個人保障勘定(PSA)の創設あるいはこれ に類似的な仕組みの創設につながっていく可能性がある。 (ただし、一部の先進諸国で始まったり、議論されている段階で、一般的 になっている訳ではない点に留意が必要) ad 3) John Rawlsによる「正義論」や儒教的倫理観がこれらの発展 に寄与する。 23 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit Ⅴ.むすび www.wiwi.uni-frankfurt.de ○ ○ ○ 24 Copyright R.Eisen / IPSS Seminar 2006 Hier wird Wissen Wirklichkeit