Comments
Description
Transcript
品質工学による射出成形製品の充填性評価に関する研究
品質工学による射出成形製品の充填性評価に関する研究 -荷重押し込み曲線による解析日大生産工(院) ○水鳥 貴之 日大生産工 大澤 紘一 日大生産工 矢野 耕也 1.はじめに プラスチック製品は身の回りに多く存在し, その種類や用途は多種多様である。そしてそれ らのプラスチック製品の殆どが射出成形という 技術によって造られているが、射出成形技術に おいて,金型寸法と成形品が同じにならないと いう問題がある。その原因の一つとして,金型 内に樹脂が均一に充填されないことがある。 ところで,プラスチック製品の充填性につい て,成形品の寸法精度や透過性1)により評価した 例はあるが,樹脂の密度で評価した例はない。 樹脂の密度が硬さ試験機を用いた荷重-押し込 み曲線の押し込み深さと密接に関係すると考え, この特性値による充填性の評価を試み,透過性1) との比較も併せて行った。 2.実験方法 2.1.実験機器 本研究では耐久性や衝撃,そして温度変化の 耐性が必要とされる樹脂製品を想定し,それら に対して強いといわれているポリカーボネート を用いて,実際に射出成形機(図 1)を使用し, S字型の金型(図 2)を用いて製品を成形した。 なお,実験条件は先行研究1)と同じとした。 図2 図1 S 字型金型 射出成形機 2.2.パラメータ設計 射出成形は多くのパラメータの組合せから得 られる最適条件で行うことが望ましい。 製品の成形条件には制御できる因子が多いが, 一つずつ条件選択を行なうと時間がかかるので, 直交表L18を用いて,4,374 通りの実験を 18 回 で済ませることを可能とするパラメータ設計 2) という手法を用いた。 2.3.制御因子 制御因子とは技術者が選択できるパラメータ のことであり,本研究では射出成形に最も深く 関わるとされる,A:スクリュー形状,B:金型 温度,C:加熱筒温度,D:スクリュー速度,E: 射出圧力,F:射出速度,G:取出し時間を用い た。それらの実験条件を表 1 に示す。 表1 制御因子 2.4.誤差因子 誤差因子の割りつけとは,製品の使用環境や 使用条件を考慮して,意図的に制御が困難で悪 影響な条件を与えることで,ロバストな製品を 造るという考えである。本研究では成形後 1 分 間自然乾燥させたものを誤差因子N1,成形後 1 分間急冷したものを誤差因子N2とする。 2.5.計測特性 評価に用いた試験機は,工業界で最も多く使 用されているロックウェル試験機を使用した。 ロックウェル試験機とは,試料に対して圧子を 押し込むとき,押し込み深さの測定の基準点を 決めるための基準荷重W₂(深さ h₁)を負荷し, 一定時間保持した後(深さ h₂),再びW₁(深さ h₃)に戻す過程をとり,図 3 のように示される。 本研究では荷重に対する押し込み深さの関係を みるため,実際に得られた硬さの数値を押し込 A Study on Evaluation of Filling for Injection Molding Products by Quality Engineering -Analysis by Load Indentation CurveTakayuki MIZUTORI, Kouichi OSAWA and Koya YANO み深さ h(mm)に変換した。以下に押し込み深さ h(mm)の変換式を示す。 HR(読み取られる硬さ)= 130 − 500h より h(mm) = の場合に使う SN 比である。荷重-押し込み深さ の入出力関係をみたとき,図 6 のように,ある 荷重値から急に曲線を描く場合がある。 ( 130 − HR ) 500 図6 図3 荷重-押し込み曲線 測定に関しては,図 4 に示した成形品を 2mm (P1),3mm(P2),4mm(P3)部に切断し,その 寸法を計測した上で冷却速度の違いなどをあら かじめ考慮して,測定位置を決めた。計測シー トの上に成形品を乗せ,計測位置をチェックし ておき,荷重-押し込み試験を行った。充填性の 違いをみるため,成形品の横軸方向を Q,縦軸方 向 を R と し ,Q1.R1 の ま わ り に 荷 重 を 60.70.80.90kg と変えた計測を行った。これを Q1.R2,Q1.R3,Q2.R1,Q2.R2.Q2.R3 についても 同様に行った。計測位置を図 5 に示す。 押し込み抵抗による変位 これは材料における押し込み抵抗による影響 のために起こる現象である。そのため,曲線の 場合に用いる標準 SN 比を用いた解析を行った。 3.2.実験データの解析 表 2 に 2mm 部の実験 No.1 の押し込み深さのデ ータを示す。 表2 2mm 部,実験 No.1 のデータ Q1.R1 から Q2.R3 までの測定箇所ごとの荷重押し込み曲線のバラツキをみるために,SN 比η と感度β₁,β₂を求めた。例として 2mm 部(P1) 実験 No.1 の Q1.R1 の算出式を以下に示す。 全 2 乗和ST=0.1662+0.1502+0.1452+0.154 2 +・・・+0.10762 図4 成形品 N1,N2の平均 y01= 0 . 166 + 0 . 167 2 y02,y03,y04も同様に求める。 有効除数 r=y012+y022+y032+y042=0.081 線形式L1=y01×0.166+y02×0.150・・・ +y04×0.154=0.087,L2=0.074 比例項の変動 図5 計測位置 3.実験結果 3.1.標準 SN 比を用いた解析 標準 SN 比とは製品の機能を入力-出力関係で 考えた時,目的となる機能が直線ではなく曲線 Sβ= ( L1 + L 2 )2 2 r =0.162 比例項の差の変動 = ( 0 . 087 + 0 . 074 ) 2 2 × 0 . 081 SN×β= = 4mm(P3)の Q1.R1 から Q2.R3 までの測定箇所ご との SN 比の最適条件を表 3 に示す。 ( L1 − L 2 )2 2 r ( 0 . 087 − 0 . 074 ) 2 2 × 0 . 081 =0.001 表3 厚みと測定箇所の異なる SN 比の最適条件 誤差変動 Se=ST-Sβ-SN×β=0.00017 誤差分散 Ve= Se 6 =0.00016 プールした誤差分散 Vn= S N ×β+S e =0.00029 7 SN 比 η= 10 log ( Sβ − Ve ) Vn =27.47(db) 2次項の線形式Lq1=(y01×M1)+(y02×M 2)+(y03×M3)+(y04×M4)=41.74 比例項の係数 β1= Lq1 2( 60 2 + 70 2 + 80 2 + 90 2 ) =0.00091 定数 1 4 K2= ( M 12 + M 2 2 + M 32 + M 4 2 ) 1 4 = ( 60 2 + 70 2 + 80 2 + 90 2 ) =5750 1 4 K3= ( 60 3 + 70 3 + 80 3 + 90 3 ) =450000 2次項の係数 ω1=y01- ( K 3 × y 01 K 2 ) 表 3 の結果から,全体的にスクリュー形状は A2 のほうがいいと言える。A2 の形状はA1 の 形状に比べ,ペレット(樹脂)をより細かく溶 融する形状となっているため妥当な結果である。 また, 図 8 に示すゲートとランナーの関係から, 冷却速度としては,2mm 部のほうが 4mm 部に比べ, 速く冷却してしまうことから,因子 G について 2mm 部は G3(取出し時間長い),4mm 部は G1(取出 し時間短い)という結果も妥当であるといえる。 表 3 より,測定箇所によって最適条件の因子が 異なることもわかる。 同様にω2,ω3,ω4 を求める 2次項の線形式Lq2=ω1×M1+ω2×M2+ω 3×M3+ω4×M4 =-3260.731 2次項の変動 β2= Lq 2 ω12 ω 22 ω 32 ω 42 =-6.61 L18 実験の SN 比とβ1,β2の算出データから 全ての厚みの測定箇所ごとに要因効果図を求め, 図 7 に 2mm 部,実験 No.1 の Q1.R1 についての要 因効果図を示す。 図 7 実験 NO.1,2mm 部,Q1.R1 の SN 比要因効果図 また,要因効果図から求めた 2mm(P1)3mm(P2) 図8 ゲートとランナー ここで,制御因子 A~G のどの因子が Q と R の 影響で制御を難しくしているかを求めるために, 分散分析により制御因子 A~G と Q,R という二次 の交互作用および三次の交互作用を求めた。例 として 2mm 部の SN 比における結果を表 4 に示す。 また三次の交互作用の例として,交互作用の大 きい C×Q×R の SN 比の要因効果図を図 9 に示し, 比較するため,同様に交互作用の小さい G×Q×R を図 10 に示す。 表 4 の結果から,B,C,D,E,F,G という主効果が 大きいのは当然として,二次及び三次の交互作 用をみると,特に C×Q×R の交互作用が大きい ことがわかる。成形条件 C は加熱筒温度であり, 成形品の縦,横軸の両方向の充填性に悪影響を 及ぼし,調整が困難であることが考えられる。 表4 2mm 部 分散分析結果 用いた研究結果 1)との比較を行った。両者のSN 比の最適条件を表 6 に示す。 表6 SN 比の最適条件の比較 本研究の荷重-押し込みの関係と透過性を用 いた評価は,双方共に樹脂の充填性を評価した ものである。因子の水準から,2mm 部に関しては 金型温度,射出速度が,3mm 部に関しては射出速 度,取出し時間の水準が一致している。また 4mm 部に関してはスクリュー形状,金型温度,スク リュー速度の水準が一致している。また,この厚 みの相違による SN 比の利得は,荷重-押し込み 曲線を用いた解析の方が大きい。これは透過性 の 1 点のみの評価に対し,荷重と押し込み深さ の動的な関係を考慮していることが理由と考え られる。 図9 2mm 部の C×Q×R における SN 比要因効果図 図 10 2mm 部の G×Q×R における SN 比要因効果図 同様に 3mm,4mm 部の分散分析を行い,位置差 Q,R が大きい因子を表 5 に示した。 表5 位置差が大きい因子 2mm,3mm,4mm 部をそれぞれ比較すると,位置 差の影響が大きい 4mm 部の制御は最も困難であ り,また成形品の厚み,縦,横軸方向ごとの位 置差の影響は異なるため,主効果の成形条件だ けではバラツキ低減に限度があるといえる。 3.3.透過性による評価との比較 本研究と同様の実験環境で行われた透過性を 4.まとめ 今回は成形品を厚みごとに評価し,測定箇所 ごとに SN 比,感度を求めることで成形品のどの 部分が制御を困難にしているかを求めた。厚み や成形品の測定箇所によって制御が困難である 因子は異なり,主効果である成形条件だけでの 制御は難しい。また,成形品の厚みごとに SN 比 を比較した結果,2mm 部が最も良く,3mm 部が最 も悪いという結果になった。一方,透過性の SN 比を比較すると同様の結果となっており,双方 ともに SN 比は 2mm 部が最も良く,3mm 部が悪い という結果が得られた。SN 比の順位性に関して は同様の結果となり,厚みについては同一の傾 向が得られたといえる。 5.今後の研究 今後の研究としては,比重(密度)の計測を 行い,SN 比・感度を求め, ①荷重-押し込み深さ, ②透過性,③比重(密度)の 3 点の特性値を比 較し,結果の違いを検討していきたい。 参考文献 1)櫻井 基樹他, 「MT システムによる射出成形品の均 一充填性評価」 (平成 19 年度),日本大学生産 工学部学術講演会講演概要 p9~p12 2)田口 玄一他, 「オフライン品質工学」(2007) 日本規格協会 P28~p29